Contract
第2章 働くとき、雇うときのルール
1 労働契約
(1) 就職する = 労働契約を結ぶ
働く上でまず重要なことは、賃金や労働時間をはじめとする労働条件です。就職するときは、労働条件を確認し、使用者と労働者の間で、
「この条件で雇います」「この条件で雇われます」という約束を結ぶことになります。この約束を「労働契約」といいます。
労働契約は使用者と労働者の双方の合意により結ばれますが、労働者が不当に低い賃金で働かされたり、長時間労働を強いられたりすることがないように、労働条件の最低基準が労働基準法で定められています。
労働基準法は、「正社員」だけでなく、「パートタイム労働者」、「派遣労働者」、「有期雇用労働者」、「アルバイト」など名称や雇用形態に関係なく、すべての労働者に適用されます。
■「適用除外」 同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人は、適用除外となります。(労働基準法116条)
※未成年者であっても、労働契約は本人が行います。親権者等が代理で行うことはできません(労働基準法58条)。
(2) 労働基準法と労働契約法
労働契約(労働条件、契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する主な法令は、労働基準法と労働契約法です。労働者として働く場合、これらの法律の主な内容を知っておくことは、とても重要なことです。
ア 労働基準法
労働基準法は、労働法(「労働者の保護」や「労使関係の安定」等を目的とする労働に関する様々な法律の総称)の中核となるものであり、使用者が守らなければならない労働条件の最低基準を定めています。労働基準法に違反した使用者には罰則が科せられます。また、労働基準法では、国の機関である労働基準監督署に、臨検、報告徴収、司法警察権限を与えています。
イ 労働契約法
労働者の保護を図りつつ、労使間のトラブルを防止するため、労働契約法では、労働契約の締結、労働条件の変更、解雇等についての基本的なルールを定めています。
ウ 労働者とは
労働基準法及びその関連法や労働契約法等の適用を受けるには、「労働基準法上の労働者」であることが必要です。「労働者」であることの判断基準は、雇用上の「使用従属関係」(指揮命令関係)が存在すること、及び労働の対価として賃金の支払いを受けていることです(労働基準法9条、労働契約法2条1項)。
「労働者」に該当するか否かは、職種や職名によって画一的に判断することは不可能です。個別事案毎に精査し判断することとなります。
なお、「労働組合法上の労働者」の場合は、上記の「労働者」の範囲に加えて、雇用契約下にない場合や個人事業主でも該当する場合があります。
(3)労働契約法のルール
ア 労働契約の内容の決定及び変更に関するルール
① 労使対等の原則
労働者と使用者は対等な立場で契約を締結しなければなりません。労働基準法に違反するような契約部分は無効になります。また、労働契約の締結・変更に当たっては就業の実態に応じて均衡を考慮すること、そして仕事と生活の調和に配慮することが重要です。なお、労働契約の内容については、労働者の理解を深めるため、できる限り、書面にすることなどが求められています。
② 労働契約の成立
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこ れに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することで成立します。契約書の交付がなくとも労働契約は成立し、又、労働条件を詳細に定めてなくとも、労働契約は成立し得ます。
③ 法令、労働協約、就業規則と労働契約の関係
我が国においては、個別に締結された労働契約では詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的な労働条件を設定されることが広く行われています。労働契約を締結する場合において、使用者が労働者に、合理的な労働条件が定められている就業規則を周知していた場合には、就業規則で定める労働条件が、労働者の労働条件になります。労働契約において、労働者及び使用者が就業規則と異なる労働条件で合意していた部分については、その合意が優先しますが、就業規則に定められている労働条件より労働者に不利な部分は無効となり、その部分は就業規則の定めによることとなります。
就業規則が法令や労働協約に反する場合、その反する部分はその法令や労働協約の適用を受ける労働者には適用されません。
④ 労働契約の変更
労働契約の変更は労使合意によることが原則です。使用者は労働者の合意がないまま、一方的に就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。
■就業規則による労働契約の不利益変更禁止の例外
労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の事業に照らして合理的なものであり、かつ、変更後の就業規則を労働者に周知していた場合には労働条件は当該変更後の就業規則の定めるところとなり、労働条件の不利益変更も可能となります。
イ 労働契約の継続・終了に関するルール
① 出向
必要性、対象労働者の選定などにおいて、権利を濫用したものと認められる場合は、出向命令は無効になります。
(P14参照)
② 懲戒・解雇
客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として、懲戒や解雇は無効となります。
(P101参照)
③ 有期労働契約
やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中の解雇はできません。また、使用者は有期労働契約によって労働者を雇い入れる目的に照らして、契約期間を必要以上に細切れにしないよう、配慮しなければなりません。
なお、同一の使用者との間で有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換されます。(P64参照)
◆主な関係条文:労働契約法3条、4条2項、6~10条、12~18条
(4)契約の期間
ア 有期労働契約と無期労働契約
労働契約には期間を定める契約(有期労働契約)と定めない契約
(無期労働契約)があります。有期労働契約の契約期間の上限は原則
3年とされています。(契約期間の3つの特例については、P63参照)
※ 有期労働契約については、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間において、労使は共に労働契約を解除することはできません(P63参照)。
イ 有期労働契約の更新と雇止め
有期労働契約において、使用者が期間満了を理由として労働契約を終了させる(更新しない)ことを雇止めと言います。通常、有期労働契約は期間満了とともに雇用関係が終了するものですが、何度も契約を更新し、雇用期間が長期化している際に、トラブルが起こる場合があります。
労働契約法では、「反復して更新されたことにより、雇止めをすることが無期労働契約の解雇と実質的に異ならないと認められる場合」や「期間満了後の雇用継続につき、合理的期待が認められる場合」には、契約が更新(締結)されたとみなされる場合もあります(P64参照)。
ウ 定年制
一般に定年制とは、労働者が一定の年齢に達したとき、労働契約が当然にかつ自動的に終了する制度とされています。解雇でも自己都合退職でもありません。会社が定年制を導入する場合には必ず就業規則に定める必要がありますが、原則60歳を下回る定年の定めは認められません。(P112参照)
<参考> 改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月から施行され、65歳までの雇用確保(義 務)に加え、70歳までの就業機会の確保が努力義務となっています。
(5) 契約時に使用者が明らかにしなければならない条件
ア 労働条件の明示(労働基準法 15 条)
労働契約を結ぶ場合には、労働契約書の作成までは義務づけられていませんが、労働基準法では、使用者は、労働者に対して労働条件を明確に示さなければならず、一定の事項については書面(労働条件通知書)によって明示しなければならないとされています。
① 必ず明示しなければならないこと
下記の項目は原則、書面の交付が必要です。ただし、労働者が希望する場合は、FAX、電子メール、SNSのメッセージ機能等でも明示することができます(出力して書面作成できるものに限る)。
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※ | |
※1 期間の定めがある場合はその期間、期間の定めのない場合はその旨を明示しなければなりません。
※2 有期労働契約の更新をしないことが明らかな場合は、更新の基準の明示義務はありません。更新の上限を設けている場合は、更新回数の上限又は通算契約期間の明示が必要です。
また、「無期転換申込権」が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件の明示が必要になります。
※3 「昇給」に関する事項も絶対的明示事項ですが、「昇給」は、書面での明示ではなくてもよいとされています。(労働基準法施行規則5条3項)
※ パート・有期雇用労働者は、上記事項に加えて、昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口についても明示しなければなりません(P70参照)。
② 制度がある場合には、口頭又は書面で明示しなければならないこと
使用者は労働条件を口頭で示して、書面にしない例が多いようです。このため、後になって賃金や労働条件などについてトラブルが発生する場合もあります。
そのようなトラブルを未然に防ぐためにも、法令で定められた労働条件を明らかにした書面(労働条件通知書)を、使用者に交付してもらうようにしましょう。
イ 明示された労働条件が実際と違う場合
労働者は使用者に約束を実行するよう要求できますし、すぐに労働契約を解除することができます。この場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷するときは、使用者は必要な旅費を負担しなければなりません。
ウ 契約の内容が労働基準法に違反している場合
労働基準法で定められた基準より低い労働条件を定めた労働契約は、その部分だけ無効になります。無効になった部分は労働基準法で定められた基準になり、労働契約自体は有効です。
労働条件通知書
(一般労働者用;常用、有期雇用型)
〇〇 〇〇 殿
〇 年 〇 月 〇 日
事業場名称・所在地 〇〇株式会社 福岡市博多区☓-☓-☓使 用 者 職 氏 名 代表取締役 〇〇 〇〇 印
契約期間
期間の定めがある場合は、契約更新の有無、更新する場合の判断基準まで明確にしましょう。使用期間を設ける場合は、その旨を明示しましょう。
特例の適用を受けることは本社・本店を管轄する都道府県労働局へ申請し、認定を受けることが必要です。
就業の場所
従事すべき業務の内容
始業、終業の時刻、休憩時間、就業時転換((1)~(5)
期間の定めなし、期間の定めあり( 〇 年 4 月 1 日~ 〇 年 3 月 31 日)
※以下は、「契約期間」について「期間の定めあり」とした場合に記入
1 契約の更新の有無
[自動的に更新する・更新する場合があり得る・契約の更新はしない・その他( )]
2 契約の更新は次により判断する。
・契約期間満了時の業務量 ・勤務成績、態度 ・能力
・会社の経営状況 ・従事している業務の進捗状況
・その他( )
3 更新上限の有無(無・有(更新 回まで/通算契約期間 年まで))
【労働契約法に定める同一の企業との間での通算契約期間が5年を超える有期労働契約の締結の場合】 本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすること
により、本契約期間の末日の翌日( 年 月 日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・ 有(別紙のとおり) )
【有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合】
無期転換申込権が発生しない期間: Ⅰ(高度専門)・Ⅱ(定年後の高齢者)
Ⅰ 特定有期業務の開始から完了までの期間( 年 か月(上限 10 年))
Ⅱ 定年後引き続いて雇用されている期間
(雇入れ直後)営業所 (変更の範囲)福岡市内の営業所
(雇入れ直後)経理事務 (変更の範囲)総務課の業務すべて
【有期雇用特別措置法による特例の対象者(高度専門)の場合】
・特定有期業務( 開始日: 完了日: )
1 始業・終業の時刻等
(1) 始業( 8 時 30 分) 終業( 17 時 30 分)
【以下のような制度が労働者に適用される場合】
(2) 変形労働時間制等;( )単位の変形労働時間制・交替制として、次の勤務時間
のうち該当するもの一つに
○を付けること。)、所定時間外労働の有無に関する事項
の組み合わせによる。
始業( 時 分) 終業( 時 分) (適用日 )始業( 時 分) 終業( 時 分) (適用日 )始業( 時 分) 終業( 時 分) (適用日 )
(ただし、フレキシブルタイム(始業) | 時 | 分から | 時 | 分、 |
(終業) | 時 | 分から | 時 | 分、 |
コアタイム | 時 | 分から | 時 | 分) |
(3) フレックスタイム制;始業及び終業の時刻は労働者の決定に委ねる。
交代制や変則的な場合でも、原則的な時間を明記しましょう。
(4) 事業場外みなし労働時間制;始業( 時 分)終業( 時 分)
(5) 裁量労働制;始業( 時 分) 終業( 時 分)を基本とし、労働者の決定に委ねる。
○詳細は、就業規則第〇条~第〇条、第 条~第 条、第 条~第 条
2 休憩時間( 60 )分
3 所定時間外労働の有無( 有 , 無 )
休 日 ・定例日;毎週 土・日 曜日、国民の祝日、その他( )
・非定例日;週・月当たり 日、その他( )
・1年単位の変形労働時間制の場合-年間 日
○詳細は、就業規則第〇条~第〇条、第 条~第 条
休 暇 1 年次有給休暇 6か月継続勤務した場合→ 10 日
継続勤務6か月以内の年次有給休暇 (有・無)
→ か月経過で 日 時間単位年休(有・無)
2 代替休暇(有・無)
3 その他の休暇 有給( )
無給( )
○詳細は、就業規則第〇条~第〇条、第 条~第 条
(次頁に続く)
賃 金 1 基本賃金 イ 月給( 185,000 円)、ロ 日給( 円)ハ 時間給( 円)、
ニ 出来高給(基本単価 円、保障給 円)ホ その他( 円)
ヘ 就業規則に規定されている賃金等級等
賃金はしっかりと明示
しましょう。
手当は次項に記載してください。
2 諸手当の額又は計算方法
イ(通勤手当 4,100 円 /計算方法: 距離に応じて支給 )ロ(職務手当 10,000 円 /計算方法: 職務遂行能力に応じて支給)ハ( 手当 円 /計算方法: )
ニ( 手当 円 /計算方法: )
3 所定時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金率イ 所定時間外、法定超 月60時間以内( 25 )%
月60時間超 ( 50 )%所定超 ( 25 )%
基本給以外の手当や変
動する賃金等も明記しましょう。
ロ 休日 法定休日( 35 )%、法定外休日( 25 | )% | |
ハ 深夜( 25 )% | ||
4 | 賃金締切日( 毎月 )-毎月 日、( 末日 )-毎月 | 日 |
5 | 賃金支払日( 翌月 )-毎月 日、( 10日 )-毎月 | 日 |
6 | 賃金の支払方法( 本人が指定する口座に振り込む | ) |
7 | 労使協定に基づく賃金支払時の控除(無 ,有( 親睦会費 | )) | |
8 | 昇給( 有(時期、金額等 毎年4月業績等を勘案して | ) , | 無 ) |
9 賞与( 有(時期、金額等 業績等を勘案して年2回(7月・12月), 10 退職金( 有(時期、金額等 ) , 無 ) | 無 ) |
退職に関する事項
1 定年制 ( 有 (60歳) , 無 )
2 継続雇用制度( 有(65歳まで) , 無 )
退職に関する事項
3 創業支援等措置( 有( 歳まで業務委託・社会貢献事業) , 無 ) は、採用時にはっき
りと明示しましょ
4 自己都合退職の手続(退職する14日以上前に届け出ること)
5 解雇の事由及び手続 1.天災その他やむを得ない場合 2.事業縮小等当社の都合 3.職務命令に対する重大違反行為
4.業務上の不正行為があった場合は、30日前に予告するか予告手当を支払って解雇する
そ の 他
○詳細は、就業規則第○条~第○条、第 条~第 条
・社会保険の加入状況( 厚生年金 健康保険 厚生年金基金 その他( ))
・雇用保険の適用( 有 , 無 )
・中小企業退職金共済制度
福利厚生はどうなっているのかなども明示しましょう。
パートタイム労働法の改正により、相談窓口の明示が義務付けられました
(H27.4.1~)
(加入している , 加入していない) (※中小企業の場合)
・企業年金制度( 有(制度名 ) , 無 )
・雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
部署名 総務部総務課 担当者職氏名 課長 〇〇 〇〇(連絡先〇〇〇-〇〇〇〇)
※以下は、「契約期間」について「期間の定めあり」とした場合についての説明です。
労働契約法第18条の規定により、有期労働契約(平成25年4月1日以降に開始するもの)の契約期間が通算5年を超える場合には、労働契約の期間の末日までに労働者から申込みをすることにより、当該労働契約の期間の末日の翌日から期間の定めのない労働契約に転換されます。ただし、有期雇用特別措置法による特例の対象となる場合は、無期転換申込権の発生については、特例的に本通知書の「契約期間」の「有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合」欄に明示したとおりとなります。
・その他( )
以上のほかは、当社就業規則による。就業規則を確認できる場所や方法(社内イントラに格納し閲覧可)
※ 本通知書の交付は、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示及び短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第6条に基づく文書の交付を兼ねるものであること。
※ 労働条件通知書については、労使間の紛争の未然防止のため、保存しておくことをお勧めします。
2 就業規則(会社のきまり)
就職するときは、労働者と使用者が対等の立場で労働契約を結ぶのが原則です。しかし、従業員の数が増えると、労働契約を結ぶたびに労働条件を新たに決定するのでは煩雑になるため、職場で働く者に一律に適用する労働条件や服務規律を定めることが広く行われており、そのきまりを就業規則といいます。
使用者が就業規則を定め、労使が遵守することで、従業員が安心して働くことができ、また労使間の無用なトラブルを未然に防ぐことができます。
(1)作成届出義務
常時10人以上の労働者を使用する事業場の使用者は、必ず就業規則を作成し、管轄の労働基準監督署長に届け出(同じ内容なら本社一括届出で可。ただし各事業所代表の意見は要。)なければなりません。この人数には、パートタイム労働者なども含まれます。もちろん10人未満の事業場でも作成しておくことが望ましいでしょう。
■パートタイム労働者の就業規則
パートタイム労働者の労働条件が正社員と異なるときは、パートタイム労働者に適用される就業規則を別途作成する必要があります。別に作成されず、正社員の就業規則にも特別の規定がない場合、正社員の就業規則がパートタイム労働者にも適用されます。
(2)周知義務
使用者は就業規則を労働者一人ひとりに渡す、職場の見やすい場所に常時掲示するなど、労働者がいつでも見ることができるようにしておかなければなりません(周知がなければ無効)。
(3)就業規則に定めておくべきこと
就業規則に書いておかなければならない事項は、労働契約を結ぶときに使用者が明らかにしなければならない労働条件とほぼ同じですが、労働基準法を下回る条件や、その職場に適用される労働協約に反した内容のものは効力が認められませんし、その内容が合法的なものであることが求られます。
ア 就業規則と懲戒処分
職場規律に違反した労働者に対する制裁として懲戒処分(例:けん責、減給、出勤停止、解雇など)を行うことがあります。懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分の事由とこれに対する懲戒処分の種類・程度を定めていなければなりません。
※ 懲戒処分として減給の規程を設けた場合の減給額の制限についてはP21参照。
イ 就業規則と労働条件の変更 - 配置転換・出向・転籍
就業規則と労働条件の変更には密接な関係があります。以下の点に留意してください。
①配置転換(勤務地又は職務内容の長期間にわたる変更)
就業規則に、業務上の都合により転勤や配置転換を命じることができる旨が定められており、実際にこれに基づき転勤が頻繁に行われ、労働契約で勤務地や職種が限定されていない場合には、使用者は個々の労働者の同意なしに転勤や配置転換を命じることができます。ただし、配転の必要性に比べて、配転により労働者の被る不利益が非常に大きい場合には、権利の濫用として無効とされることがあります。
②出向
出向とは、今までの会社との雇用関係を維持したまま、別の会社の指揮命令下に労務を提供する人事異動をいいます。
使用者は、就業規則や労働協約に出向に関する根拠規定(社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金などその処遇等に関して出向者の利益に配慮した詳細な規定)がある場合には、労働者の同意なしに出向を命じることができます。
ただし、出向の必要性に比べて、人選に合理性を欠く場合や出向により労働者の被る不利益が非常に大きい場合などには、権利の濫用として無効とされることがあります。また、会社には労働者の不利益を軽減、回避するため、代償措置をとるなどの配慮が求められます。
③転籍
転籍とは、今までの会社との雇用関係を終了させ、新たに別の会社と雇用関係を結ぶことをいいます。
転籍命令には、出向と同様、就業規則や労働協約に根拠規定があるだけではなく、さらに労働者の個別の同意が必要とされています。したがって、転籍命令を会社が一方的に行うことはできず、労働者がこれを拒否しても処分はできません。
(4)就業規則の作成・変更の手続き
使用者は、就業規則を作成又は変更するときは、当該事業場の労働者の過半数で組織している労働組合か、そのような労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者の意見を聴き(聴取義務)その意見書をつけて管轄の労働基準監督署に届け出なければなりません(届出義務)。
また、パートタイム労働者に関わる就業規則の作成・変更にあたっては、先に述べた手続に加えて、当該事業場のパートタイム労働者の過半数を代表すると認められる者の意見を聴くよう努めなければなりません。
※就業規則の変更による労働条件の不利益変更の例外はP7参照。
◆主な関係条文:労働基準法89条、90条、106条
パートタイム・有期雇用労働法7条
3 秘密保持義務と競業避止義務
(1)秘密保持義務
労使はお互いに信義誠実の原則に基づいて行動することが要請されますので、労働者はその点において、職務上の秘密を保持する義務を負います。
■秘密保持の対象となるもの
①営業秘密 企業の経営戦略など企業の秘密としてきちんと管理されていて、一般的には入手できないもの
②個人情報 顧客情報など個人の人格権を守るために、企業が管理しているもの
(2)競業避止義務
「競業避止義務」とは、労働者が在職中や退職後の一定期間、同業他社に勤務することや自分で同一事業を開業してはならないというものです。労働者は労使相互の信義誠実の原則により、「秘密保持義務」と同様にこの義務を負うといわれています。
また、退職後についても就業規則や誓約書で義務づけられている場合は、その効力が続くというのが一般的な考え方ですが、その場合、労働者の「職業選択の自由を制約することに対する合理的な範囲」に限定されます。
「合理的な範囲」の判断要素としては、ア 競業を禁止する期間
イ 競業を禁止する職種及び地域的な範囲ウ 使用者が被る損害の程度
エ 職業選択を制約することへの代償措置の有無オ 競業行為の手段及び顕著な背信性の有無
などがあげられます。
(3)実際上の留意点
「秘密保持義務」及び「競業避止義務」については、就業規則や誓約書で具体的に明示されることが多く見受けられます。その場合、企業の営利目的と労働者の兼職・転職の自由と考え合わせて合理的なものなら有効とされています。
誓約書の提出規定があり、また業務指示があった場合には誓約書の提出を断ることは難しいかもしれません。しかし、就業規則や誓約書の内容に不適切な部分や行き過ぎた部分があれば、訂正を求め一時的に提出を保留することは合理性があると考えられます。
4 副業・兼業
既に会社で働いている人が、副業・兼業を行うことが可能かどうかは会社によって異なります。
副業・兼業を始めたいと思ったら、まずは既に働いている会社の就業規則や自身の労働契約の内容を確認し、副業・兼業を行うことが可能かどうかや、副業・兼業を始めるためにどのような手続きが必要になるかを確認しましょう。
副業、兼業に関する判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされており、判例を踏まえれば、企業は、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当とされています。就業規則などで禁止している場合は、その見直しを含めて、労働者が副業・兼業を行える環境を整備しましょう。
なお、労働者が雇用される形で、副業・兼業を行う場合、原則として、その労働者を使用する全ての使用者が、自社と副業・兼業先の労働時間を通算して管理する必要があります。
※ 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン (わかりやすい解説) (2020.11)」参照
<参考> 雇用保険マルチジョブホルダー制度(P87参照)