Contract
令和3年7月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成27年(行ウ)第238号,同第381号 南xx避難解除取消等請求事件(以下,順に「第1事件」,「第2事件」という。)
口頭弁論終結日 令和2年8月27日
5 判 決
主 文
1 本件各訴えのうち,特定避難勧奨地点の設定の解除の取消し及び特定避難勧奨地点に設定されている地位にあることの確認を求める部分をいずれも却下する。
10 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 | 第1事件 | |
15 | (1) | 特定避難勧奨地点の設定の解除に係る請求 |
ア | 主位的請求 | |
原子力災害現地対策本部長(以下「現地対策本部長」という。)が,平 | ||
成26年12月24日に南xx市を通じてした,第1事件原告①の本件事 | ||
故時住所に係る特定避難勧奨地点の設定を同月28日に解除する旨の処分 | ||
20 | を取り消す。 | |
イ | 予備的請求 | |
第1事件原告①が,本件事故時住所につき特定避難勧奨地点に設定され |
ている地位にあることを確認する。
(2) 国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償請求
25 被告は,第1事件原告らに対し,それぞれ10万円及びこれに対する平成
26年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(1) 特定避難勧奨地点の設定の解除に係る請求ア 主位的請求
現地対策本部長が,平成26年12月24日に南xx市を通じてした,
5 第2事件原告①の本件事故時住所に係る特定避難勧奨地点の設定を同月2
8日に解除する旨の処分を取り消す。イ 予備的請求
第2事件原告①が,本件事故時住所につき特定避難勧奨地点に設定されている地位にあることを確認する。
10 | (2) 国賠法1条1項に基づく損害賠償請求 | |
被告は,第2事件原告らに対し,それぞれ10万円及びこれに対する平成 | ||
26年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 | ||
第2 | 事案の概要等 | |
1 | 事案の概要 | |
15 | 本件は,平成23年3月11日,東京電力福島第一原子力発電所(以下「福 | |
島第一原発」という。)において発生した放射性物質が放出される事故(以下 | ||
「本件事故」という。)に関して,福島県南xx市(以下「南xx市」という。) | ||
の合計142地点152世帯の住居についてされた特定避難勧奨地点の設定(以 | ||
下「本件設定」という。)が平成26年12月24日に解除されたこと(以下, | ||
20 | 当該解除を「本件解除」という。)について,原告らが次の各請求をする事案 | |
である。 | ||
(1) 本件事故当時,特定避難勧奨地点に設定された住居に居住していた原告ら |
(第1事件原告①及び第2事件原告①。合計366名。以下「指定原告」という。)が,主位的に,本件解除は抗告訴訟の対象である処分に当たると主
25 張して,その取消しを求め(以下「本件取消しの訴え」という。),予備的に,
本件解除は抗告訴訟の対象である処分に当たらないとしても無効であると主
張して,指定原告の住居が特定避難勧奨地点に設定されている地位にあることの確認を求める(以下「本件確認の訴え」という。)旨の請求
(2) 指定原告及び本件事故当時,特定避難勧奨地点に設定された住居がある地域(本件地域〔後記3(1)参照〕。ただし,特定避難勧奨地点に設定された住
5 居を除く。)に居住していた原告ら(第1事件原告②及び第2事件原告②。
合計442名。以下「非指定原告」という。)が,本件解除により精神的損害を被ったと主張して,国賠法1条1項に基づき,それぞれ損害賠償金10万円及びこれに対する本件解除の日である平成26年12月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める旨の請求(以下「本
10 件国賠請求」という。)
2 関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは,別紙2(関係法令の定め)記載のとおりである(同別紙で使用した略語は本文でも用いることがある。)。
3 前提事実
15 以下の各事実については,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠又は弁論
の全趣旨等により,容易に認められる。
(1) 原告らについて
原告らは,本件事故当時,南xx市a区のc,d,e,f,g,h,南xx市b区のj,kの各行政区(以下「本件地域」という。)に居住していた
20 もので,それぞれ,別表1~4「本件事故時住所」欄記載の住所に居住して
おり,本件事故後に避難していた者である(弁論の全趣旨)。
このうち,指定原告の本件事故当時の住所は,後記(2)エのとおり特定避難勧奨地点の設定(本件設定)を受けていた(争いのない事実)。
(2) 事実経過について
25 ア 本件事故の発生
平成23年3月11日,xx県双葉郡xx町及び双葉町所在の福島第一
原発において,本件事故が発生した(顕著な事実)。イ 本件事故による原子力緊急事態宣言
(ア) 内閣総理大臣は,平成23年3月11日,原災法15条2項に基づく原子力緊急事態宣言として,福島第一原発から半径3km圏内の住民の
5 避難及び半径10km圏内の住民の屋内退避を公示し,同条3項に基づ
き,xx県知事らに対し,区域内の居住者等に対する周知等を指示した
(乙36,37)。
また,内閣総理大臣は,原災法16条1項に基づき,原災本部を設置し,平成24年法律第47号による改正前の原災法17条8項に基づき,
10 原災本部に現地対策本部が置かれた(弁論の全趣旨)。
(イ) 内閣総理大臣は,同月12日(午前5時44分),原災法15条2項に基づく原子力緊急事態宣言として,福島第一原発から半径10km圏内の住民の避難を公示し,同条3項に基づき,xx県知事らに対し,区域内の居住者等に対する周知等を指示した(乙38,39)。
15 (ウ) 内閣総理大臣は,同月12日(午後6時25分),原災法15条2項
に基づく原子力緊急事態宣言として,福島第一原発から半径20km圏内の住民の避難を公示し,同条3項に基づき,xx県知事らに対し,区域内の居住者等に対する周知等を指示した(乙40,41)。
(エ) 内閣総理大臣は,同月15日(午前11時00分),原災法15条2
20 項に基づく原子力緊急事態宣言として,福島第一原発から半径20km
圏内の住民の退避(ママ)及び半径20~30km圏内の住民の屋内待機(ママ)を公示し,同条3項に基づき,xx県知事らに対し,区域内の居住者等に対する周知等を指示した(乙42,43)。
ウ 警戒区域,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域の設定等の経緯
25 (ア) 原災本部長は,平成23年4月10日,改正xx災法20条5項に基
づき,原子力安全委員会に対し,緊急事態応急対策を実施すべき区域や,
区域内の居住者等に対し周知させるべき事項についての意見を求めた(乙
44)。
これに対し,原子力安全委員会は,同日,福島第一原発から半径20 km以遠の周辺地域について,①国際放射線防護委員会(以下「ICR
5 P」という。)と国際原子力機関(以下「IAEA」という。)の緊急
時被ばく状況における放射線防護の基準値(年間20~100mSv〔m Svはミリシーベルトである。以下同じ。〕)を考慮して,本件事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域とし,同区域の住民等には,別の場所に計画的に避難
10 してもらうことが求められるものとすること,②半径20~30kmの
区域で,計画的避難区域に該当する区域以外の区域を緊急時避難準備区域とし,同区域の住民等には,常に緊急時に屋内退避や避難が可能な準備をしておくことが必要で,引き続き自主的避難をすることが求められ
(特に子供,妊婦,要介護者,入院患者等は,同区域に入らないように
15 することが強く求められる。),勤務等のやむを得ない用務等を果たす
ために同区域内に入ることは妨げられないが,その場合も常に屋内退避や自力での避難ができるようにすることが求められるものとすることを提案した(乙45)。
(イ) 原災本部長は,同月21日,改正xx災法20条5項に基づき,xx
20 第一原発から半径20km圏内を警戒区域(原災法28条2項により読
み替えて適用される災対法63条1項参照)に設定し,市町村長が一時的な立ち入りを認める場合を除き,当該区域への立ち入りを禁止し,又は当該区域からの退去を命ずることを公示し,平成24年法律第47号による改正前の原災法20条3項に基づき,xx県知事らに対し,区域
25 内の居住者等に対する周知等を指示した(乙28,29)。
(ウ) 原災本部長は,同月22日,改正xx災法20条5項に基づき,福島
第一原発から半径20~30km圏内の居住者等に対する屋内退避の指示を解除するとともに,福島第一原発から半径20km以遠について,計画的避難区域と緊急時避難準備区域を設定し,計画的避難区域の居住者等については,原則としておおむね1月程度の間にxx当該区域外へ
5 の避難のための立ち退きを行うこと,緊急時避難準備区域の居住者等に
ついては,常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと等を公示し,平成24年法律第47号による改正前の原災法20条3項に基づき,xx県知事らに対し,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域内の居住者等に対する指示等を指示した(乙31,
10 32)。
(エ) 原災本部長は,同年9月30日,改正xx災法20条5項に基づき,緊急時避難準備区域の解除を公示し,平成24年法律第47号による改正前の原災法20条3項に基づき,xx県知事らに対し,区域内の居住者等に対する周知等を指示した(乙46,47)。
15 エ 特定避難勧奨地点の設定の経緯
(ア) 原災本部は,平成23年6月16日,原子力安全委員会に対し,計画的避難区域及び警戒区域外の一部の地域で,本件事故後1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される空間線量率が続いている地点(以下「当該地点」ともいう。)が複数存在することについて,地域的な広
20 がりは見られず一律に避難を指示する状況ではないため,対策として,
当該地点を「特定避難勧奨地点(仮称)」とし,居住する住民に対し注意喚起,情報提供,避難支援等を行うことについて,助言を求めた(乙
49)。
これに対し,原子力安全委員会は,同日,上記対策は住民の被ばく低
25 減を図る観点から行われるものであることから差支えないとした上で,
次のとおり留意するよう回答した(乙50)。
① 当該地点の周辺環境についてきめ細かいモニタリングを行い,線量率の場所による相違とその理由を明確にし,それらを踏まえた線量低減方法を検討,実施すること。
② これに基づいて,住民が無用の被ばくを受けることのないよう配慮
5 するなど,被ばくを低減するために住民にとって実行可能な方策を示
すこと。
③ 各地点における線量率は時間とともに変化する可能性があることから,モニタリングを継続的に実施するとともに,可能であれば個人に線量計の携帯を求め,実際の生活において予想される被ばく量を評価
10 すること。
④ 上記①~③について,住民に対して適切な情報提供に努めること。 (イ) 原災本部は,同日,「事故発生後1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される特定の地点への対応について」(以下「本件対応方針
(原災本部)」という。)を発表し,その中で,当該地点については,
15 安全性の観点から政府として一律に避難を指示したり,産業活動を規制
すべき状況にはないが,他方で,生活形態によっては,年間20mSvを超える可能性も否定できないことから,当該地点を「特定避難勧奨地点」とし,そこに居住する住民に対して,注意を喚起し,避難を支援,促進する必要があるとした上で,次のような仕組みを設けることとし,
20 当該地点は一律に避難を求めるほどの危険性はなく,これらの対応は,
住民に対する注意喚起と支援表明であるが,他方で,当該地点近辺の住民の安全・安心の確保に万全を期す観点から,政府として対応を行う地点を特定した上で,この地点に対してしっかりと対策を講じていくことを対外的にも明確にしていく旨を明らかにした(甲13)。
25 ① 文部科学省は,当該地点近傍のより詳細なモニタリングを行い,そ
の結果年間20mSvを超えると推定される空間線量率が測定されれ
ば,現地対策本部を通じ,速やかにxx県知事及び関係市町村長に連絡する。
② 現地対策本部,xx県及び関係市町村の協議によって,除染が容易でない年間20mSvを超える地点を「特定避難勧奨地点」として住
5 居単位で特定し,現地対策本部長が,当該市町村に,文書で通知する。
③ 当該市町村は,「特定避難勧奨地点」に該当する住居に対し,例えば,モニタリングの結果,放射線の影響,活用できる支援措置,説明会の日程等についての説明資料を添付して個別に通知し,また,避難した世帯に被災証明を発行し,特に妊婦や子供のいる家庭等の避難を
10 促すように自治体と相談していく。
④ 定期的にモニタリングを実施し,その結果に基づき,現地対策本部,xx県及び関係市町村で協議をし,解除は柔軟に行うこととする。
(ウ) 現地対策本部らは,南xx市内で,平成23年6月27日に111地点の宅地等につき環境放射線モニタリング詳細調査を実施した(乙52)。
15 現地対策本部は,上記調査結果を踏まえ,xx県及び南xx市と協議
の上,本件事故後の年間積算線量が20mSvを超えると推定される世帯及びその近傍の子どもや妊婦がいる世帯を特定避難勧奨地点に設定することとし,同年7月21日,南xx市a区f,g,hの各一部,南xx市b区jの一部である57地点59世帯の住居を特定避難勧奨地点に
20 設定し(以下「本件設定①」という。),これを南xx市に通知すると
ともに,特定避難勧奨地点に設定された住居に対して避難等に関する支援を行い,当該地区のモニタリングを継続的に行っていく旨を発表した
(甲17,弁論の全趣旨)。
(エ) 現地対策本部らは,南xx市内で,同年7月13日,18日及び21
25 日に681地点の宅地等につき環境放射線モニタリング詳細調査を実施
した(乙53)。
現地対策本部は,上記調査結果を踏まえ,xx県及び南xx市と協議の上,本件事故後の年間積算線量が20mSvを超えるという基準を厳密には満たさない地点であっても,このような地点の近傍の地点で,事故発生時に居住実態があること,妊婦又は高校生以下の子供がいること,
5 地上50cmの空間線量率が毎時2.0μSv(μSvはマイクロシー
ベルトである。以下同じ。)以上であることの全てを満たす地点を特定避難勧奨地点に設定することとし,同年8月3日,南xx市a区のc, d,e,f,g,hの各一部,南xx市b区jの一部である65地点7
2世帯の住居を特定避難勧奨地点に設定し(以下「本件設定②」という。),
10 これを南xx市に通知するとともに,特定避難勧奨地点に設定された住
居に対して避難等に関する支援を行い,当該地区のモニタリングを継続的に行っていく旨を発表した(甲19,弁論の全趣旨)。
(オ) 現地対策本部らは,南xx市内で,同年9月4~9日に817地点の宅地等につき環境放射線モニタリング詳細調査を実施した(乙54)。
15 現地対策本部は,上記調査結果を踏まえ,xx県及び南xx市と協議
の上,本件設定②と同様に,同年11月25日,南xx市a区d,f, hの各一部,南xx市b区jの一部である20地点22世帯の住居を特定避難勧奨地点に設定し(以下「本件設定③」という。なお,本件設定は本件設定①ないし本件設定③を併せたものである。),これを南xx
20 市に通知するとともに,特定避難勧奨地点に設定された住居に対して避
難等に関する支援を行い,当該地区のモニタリングを継続的に行っていく旨を発表した(甲22の1,弁論の全趣旨)。
(カ) 現地対策本部らは,南xx市内で,平成24年1月27日~2月3日に819地点の宅地等につき環境放射線モニタリング詳細調査を実施し
25 たところ,当該地域の線量は全体として低減しており,また,新たに特
定避難勧奨地点の設定要件を満たす地点は確認されなかったことから,
新たな特定避難勧奨地点の設定はせず,今後,特定避難勧奨地点の見直しを検討することとした(乙55)。
オ 避難指示区域等についての見直し
(ア) 原子力安全委員会は,平成23年7月19日,同委員会が同年5月1
5 9日に「放射線防護に関する助言に関する基本的考え方について」を公
表した後の経緯を踏まえた各種放射線防護に関する取組の必要性に鑑み,今後の避難解除や復興に向けた段階における放射線防護に関する基本的な考え方として,「今後の避難解除,復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」(以下「基本的な考え方(原安委)」という。)
10 を発表した(甲54)。
(イ) 原災本部長は,同年8月4日,改正xx災法20条5項に基づき,原子力安全委員会に対し,福島第一原発の状況が改善しつつあることを踏まえ,緊急時避難準備区域,計画的避難区域及び警戒区域において,その見直しを含めた緊急事態応急対策を実施すべき区域の在り方及びその
15 区域内の居住者等に対し周知させるべき事項についての意見を求めた(甲
107)。
これに対し,原子力安全委員会は,同日,「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故における緊急防護措置の解除に関する考え方について」(以下「解除に関する考え方(原安委)」という。)のとおり意見
20 を述べ,基本的な考え方(原安委)も併せて参照するよう述べた。解除
に関する考え方(原安委)においては,基本的考え方として,①各種の緊急防護措置(避難,屋内退避等の緊急時等に実施すべき放射線防護のための措置)の解除に当たっては,緊急防護措置の目的を踏まえ,当該措置を継続する必要性,正当性がないと判断されること(具体的には,
25 当該措置が設定された際の基準,又は当該措置を解除する際の状況を踏
まえて策定される新たな基準を下回ることが確実であること)を満たす
ことが基本になるとされた上で,②緊急防護措置の解除に当たって行うべき新たな防護措置の実施時期,方法,内容等を定め,必要な準備を行った上で,適切に解除することに留意する必要があるとともに,③緊急防護措置を解除し,適切な管理や除染・改善措置等の新たな防護措置の
5 計画を立案する際には,関連する地元の自治体・住民等が関与できる枠
組みを構築し,適切に運用することに留意する必要があるとされ,また,現在実施されている主な緊急防護措置の解除に関する考え方として,緊急時避難準備区域における解除の考え方,避難区域(半径20km内)における一部解除の考え方及び計画的避難区域における解除の考え方が
10 示された(甲57)。
(ウ) また,内閣官房の放射性物質汚染対策顧問会議の下に設置された低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(以下「低線量WG」という。)は,同年11月9日から同年12月15日までの間,合計8回の検討会を開催し,その後,同月22日に議論の結果を公表した(甲
15 56。以下「低線量WG報告書」という。)。
(エ) 原災本部は,同月26日,解除に関する考え方(原安委)及び低線量 WG報告書の各内容を踏まえ,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」(以下「見直しに関する考え方等(原災本部)」という。)を発
20 表し,その中で,警戒区域は基本的には解除の手続に入るのが妥当とし
た上で,避難指示区域(福島第一原発から半径20km圏内の区域と計画的避難区域)を一体として見直すこととし,年間積算線量が20mS v以下となることが確実であると確認された地域を避難指示解除準備区域,年間積算線量が20mSvを超えるおそれがある地域を居住制限区
25 域又は帰還困難区域に設定することとし,また,避難指示区域外におい
て現在設定されている特定避難勧奨地点についても,その解除に向けた
検討を開始することとした(乙30の2)。
(オ) 原災本部は,平成24年3月30日,「警戒区域,避難指示区域等の見直しについて」(以下「見直しについて(原災本部)」という。) を発表し,その中で,見直しに関する考え方等(原災本部)に基づき,南
5 xx市を含む一部の市町村について,警戒区域及び避難指示区域の見直
しを行うことを決定するとともに,特定避難勧奨地点については,解除後1年間の積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された場合には,解除することとした(乙56)。
原災本部長は,同日以降,改正xx災法20条5項に基づき,南xx
10 | 市を含む一部の市町村の警戒区域及び避難指示区域の見直しについて公 | |
示し,平成24年法律第47号による改正前の原災法20条3項に基づ | ||
き,南xx市長らに対し,区域内の居住者等に対する周知等を指示した | ||
(乙33の1~7,34の1~13)。 | ||
カ | 本件設定の解除 | |
15 | (ア) 現地対策本部らは,平成26年7月7日~15日頃,本件対応方針(原 | |
災本部)に基づき,南xx市の特定避難勧奨地点に設定された宅地等の | ||
環境放射線モニタリング詳細調査を実施したところ(乙58の1・2。 | ||
以下「本件解除前調査」という。),高さ1mの空間線量率の平均値が | ||
本件設定時の毎時2.4μSvから毎時0.40μSvに,最高値が本 | ||
20 | 件設定時の毎時4.7μSvから毎時1.08μSvにまでそれぞれ低 | |
減しており,すべての特定避難勧奨地点で年間積算線量が20mSvを | ||
下回ることが確実と認められた(乙61の1)。 | ||
(イ) 現地対策本部は,上記調査結果を踏まえ,本件設定をいずれも解除す | ||
ることとし,同年12月24日,xx県及び南xx市に対し,本件設定 | ||
25 | を同月28日に解除することを通知し,同日,本件設定を解除した(甲 | |
61,乙62。本件解除)。 |
キ 本件訴訟の提起
第1事件原告らは,平成27年4月17日に第1事件に係る訴えを提起し,第2事件原告らは,同年6月22日に第2事件に係る訴えを提起した。
4 争点
5 (1) 本案前の争点
ア 本件解除の処分性(争点1)
イ 本件確認の訴えの確認の利益(争点2)
(2) 本案の争点
ア 本件解除の違法性(争点3)
10 イ 本件解除の国賠法1条1項の違法性(争点4)
ウ 原告らの損害の有無及びその金額(争点5)第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1(本件解除の処分性)について
(原告らの主張)
15 (1) 本件設定の処分性について
ア 本件設定は作用法上の根拠を有すること
原災法は,国民の生命,身体及び財産を保護することを目的として,原災本部に対し,原子力緊急事態宣言下におけるxxな権限を付与している。特定避難勧奨地点の設定は,このようなxxな権限の一環としての性質を
20 持つもので,平成24年法律第41号による改正前の原災法20条8項に
基づき原災本部長から委任を受けた現地対策本部長が,平成24年法律第
47号による改正前の原災法20条3項に基づく南xx市長に対する指示として行った緊急事態応急対策であり,現地対策本部長は,南xx市長に対し,特定避難勧奨地点の設定を受けた住居を特定して通知し,これを受
25 けた南xx市長は,設定を受けた世帯(以下,特定避難勧奨地点の設定を
受けた住居に居住する世帯又は住民を,設定を受けた世帯又は住民と表記
することがある。)に対し,「原子力災害現地対策本部長より下記の地点が
『特定避難勧奨地点』に設定されたとの通知が参りました。」(甲59)と通知している。
このような仕組み及び通知を全体として観察すれば,本件設定は, 現地
5 対策本部長が,その権限に基づき,南xx市長に対し,設定を受けた世帯
に本件設定の旨を通知するよう指示する方法により行ったもので,作用法上の根拠を有する。
イ 本件設定は設定を受けた住民の法的地位を変動させること
本件設定を受けた住民は,①国民健康保険法44条1項2号に基づく一
10 部負担金の免除,②国民年金法90条1項5号に基づく国民年金保険料の
免除,③介護保険法50条又は60条に基づく利用者負担の免除,④障害者総合支援法31条に基づく利用者負担の免除を受けることができることとなり,また,⑤日本放送協会放送受信料免除基準の要件に該当して放送受信料の免除を受け,さらに,⑥南xx市原子力災害による被災者に対す
15 る市税の減免に関する条例の制定と相まって,固定資産税の免除を受ける
ことができることとなる(以下,これらの措置を「本件各種支援措置」という。なお,本件各種支援措置に係る関係法令等については,別紙3(本件各種支援措置について)のとおりである〔同別紙で使用した略語は本文でも用いることがある。〕。)。
20 したがって,本件設定は,設定を受けた住民に対し,本件各種支援措置
等又はこれらを受けることができる地位を付与するものであり,設定を受けた住民の法的地位を変動させるものである。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,本件設定は情報提供や避難の勧奨にとどまると主張する。
25 しかしながら,本件対応方針(原災本部)は,政府及び自治体が,特
定避難勧奨地点の設定を受けた住民に具体的な支援措置をとることを前
提としており,現地対策本部が平成23年8月に実施した住民説明会の資料(甲60)でも,特定避難勧奨地点に対する支援策として,①医療保険加入者の医療機関や薬局における窓口負担分の免除,②国民年金保険料の申請免除,③介護保険の被保険者に対する利用料免除,④障害福
5 祉サービスの利用者負担の徴収の猶予,⑤NHKの放送受信料の免除の
5項目が列挙されていた。したがって,本件設定は,設定を受けた住民の支援を目的とするものであって,情報提供や避難の勧奨にとどまるものではない。仮に本件設定が単なる情報提供等にとどまるのであれば,線量を測定した結果を住民に通知すれば足りるところ,年間積算線量2
10 0mSvという基準を設け,測定方法も厳格に指定した上で,設定を受
ける住民と受けない住民を切り分けてまで本件設定をしていることからすると,その理由は,設定を受けた住民の支援措置を実施するため以外には考えられない。
(イ) 被告は,本件各種支援措置は,本件設定の後に各関係者の裁量判断を
15 経て実施されたものであって,本件設定の直接の法的効果ではないと主
張する。
しかしながら,本件各種支援措置は,本件設定によって法令等の定める減免事由に該当するに至ったことを理由に実施されるのであるから,本件設定は,設定を受けた住民に対し,法令等の定める減免を受け得る
20 地位を付与するものといえる(本件各種支援措置に係る局長通知等は,
法の解釈適用を確認し,市町村による免除措置が速やかに行われることを確保するための技術的助言にすぎない。)。また,本件設定では,避難のための支援措置を講じることとされ,実際に予算措置もされているところ,このような状況において,国の行政機関や市町村等に支援措置
25 を講じるか否かの裁量があるとは考えられない。
エ 小括
したがって,本件設定は,作用法上の根拠を有し,これを受けた住民の法的地位を変動させるものであることから,処分性が認められる。
(2) 本件解除の処分性について
前記(1)のとおり,本件設定には処分性が認められるところ,本件解除は,
5 本件各種支援措置を受けることができる地位を奪うものであって,処分性が
認められる。その具体的な理由は次のとおりである。
ア 本件解除も作用法上の根拠を有し,これを受けた住民の法的地位を変動させること
(ア) 本件解除は,原災法20条9項に基づき原災本部長から委任を受けた
10 現地対策本部長が,同条2項に基づく緊急事態応急対策を的確かつ迅速
に実施するための指示として地方公共団体の長に対して行ったもので,現地対策本部長は,xx県知事及び南xx市長にその旨通知しており,本件解除は,作用法上の根拠を有する。
(イ) 本件解除は,本件設定を受けた住民から本件各種支援措置を受けるこ
15 とができる地位を奪うものであり,例えば,NHKの放送受信料の免除
については,「解除の属する月の翌月まで」に限定されていたことから,本件解除によって免除を受けることができなくなるという法的地位の変動が生じており,また,国民健康保険の一部負担金や介護保険の利用者負担の免除については,一部の所得層について打ち切られ,具体的な法
20 的効果が生じている。
なお,本件各種支援措置の中には,本件解除後に継続されたものもあるが,これは,避難支援目的ではなく,裁量に基づく激変緩和策として実施されたもので,いつ打ち切られるかも分からないものであることから,本件設定に基づく本件各種支援措置とは内容や性質が異なっている。
25 (ウ) このように,本件解除についても,作用法上の根拠を有し,これを受
けた住民の法的地位を変動させるものである。
イ 本件解除に処分性を認めることが紛争解決手段として合理的であることまた,特定避難勧奨地点の設定を受けた住民にとって,これに伴う支援 措置の継続を個別に争うことは迂遠であり,判決が個別にされ,その適法性判断が区々になると,行政に混乱をもたらす可能性もある。特定避難勧
5 奨地点の制度は,その設定と支援措置の実施を結び付けることによって,
設定を受けた住民に対する総合的な支援を実施し,避難の促進を図ることを目的とするものであり,解除による支援措置の打切りを個別に争うよりも,解除自体に処分性を認め,その違法性を争うことを可能にすることが,紛争解決の手段として合理的である。
10 ウ 小括
したがって,本件解除についても,処分性が認められる。
(3) 応急仮設住宅の供与の終了について
福島県は,本件事故後,南xx市全域からの避難者に対し,災害救助法に基づく応急仮設住宅として,建設型仮設住宅やみなし仮設住宅の提供を無償
15 で実施してきたところ,国と協議の上,平成27年6月15日,避難指示区
域以外については,平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了する旨発表した。仮に本件解除がなかったとすれば,同年4月以降も応急仮設住宅の供与が続いていたことからすると,応急仮設住宅の供与の終了は,本件解除によって生じる不利益の一つで,その処分性を基礎付ける事情といえ
20 る。
(4) 小括
以上によると,本件解除には,処分性が認められる。
(被告の主張)
(1) 特定避難勧奨地点の設定・解除は,作用法上の根拠に基づかず,法的効果
25 を持たない行為であること
特定避難勧奨地点の設定・解除(本件設定・本件解除)は,現地対策本部
が,原災法18条所定の原災本部の所掌事務の一環として実施した事務であるところ,これらは,本件対応方針(原災本部)において,現地対策本部は,生活形態によっては積算線量が年間20mSvを超えると推定され,除染が容易でない地点であることを基準として,xx県・関係市町村と協議の上で
5 このような地点を特定し,当該地点が属する市町村の長に通知し,また,放
射線モニタリングを定期的に実施し,その結果に基づき,xx県・関係市町村と協議の上で柔軟にその解除を行い,当該地点が属する市町村の長に通知するとされたことに基づくものであって,いずれも,それ自体いわゆる作用法上の根拠を直接には持たない事務である(特定避難勧奨地点の設定は,設
10 定を受けた住民の法的地位に影響を与えるものではなく,侵害留保の原則か
ら求められる作用法上の根拠を必要としない。このことは,例えば,原災法
28条1項により読み替えて適用される災対法63条1項に基づく警戒区域の設定では,原災法28条1項により読み替えて適用される災対法116条
2号所定の刑事罰が定められていること等と明らかに異なる仕組みとなって
15 いる。)。
(2) 特定避難勧奨地点の設定・解除は,国民の権利義務ないし法律上の地位に直接具体的な影響を及ぼすものではないこと
ア 特定避難勧奨地点の設定は,設定された地点の積算線量が年間20mS vを超えると推定され,除染が容易でない旨の事実を通知し,情報を提供
20 する行為の一環であり,そこに居住する住民に注意を喚起し,避難の支援,
促進を表明する趣旨のもので,避難の勧奨,促進という行政指導的色彩を帯びるものであるが,当該地点に居住する住民に避難する義務を生じさせるものではない。このように,特定避難勧奨地点の設定は,法的効果を持たない事実上の行為にすぎないのであって,そうである以上,特定避難勧
25 奨地点の解除も,当該地点が特定避難勧奨地点として設定すべき実体を有
しなくなった旨の事実の通知又は情報の提供に相当する事実上の行為とい
える。
イ 行政処分といい得るためには,当該処分がそれ自体で直接の法的効果を生ずるものでなければならないところ,本件各種支援措置は,特定避難勧奨地点に設定された世帯が避難したことに伴う経済的な支援措置ではある
5 ものの,原災法等により設定から直ちに利益が生ずるように定められてい
るわけではなく,次のとおり,各関係者の裁量判断を経て事後的に実施されていることからすると,特定避難勧奨地点の設定自体により生じる直接の法的効果ではなく,これらをもって処分性を認めるべきとはいえない。 (ア) 国民健康保険の一部負担金の免除について
10 特定避難勧奨地点に居住していた避難者について,原災法に国民健康
保険の一部負担金を免除する旨の規定はなく,飽くまで,国民健康保険法上の免除の要件に該当すると取り扱って免除する措置を採っているにすぎない。また,このような措置は,別紙3(本件各種支援措置について)記載第1の2(1)及び(3)の厚生労働省保険局長の通知を受けた各市
15 町村が要綱等を定めて実施するものであるところ,上記各通知は厚生労
働省保険局長による技術的助言で,そのような技術的助言を行うかにつき裁量の余地がある上,各市町村にも技術的助言を踏まえた取扱いにつき裁量の余地がある。
したがって,国民健康保険の一部負担金の免除は,特定避難勧奨地点
20 の設定により直ちにその効果が発生するものではなく,上記各通知及び
これを受けた各市町村の要綱等の取扱基準の制定といった裁量判断を介在して実施されるものにすぎず,特定避難勧奨地点の設定自体で生じる直接の法的効果ではない。
(イ) 国民年金保険料の免除について
25 特定避難勧奨地点に居住していた避難者について,原災法に国民年金
保険料を免除する旨の規定はなく,飽くまで,厚生労働省年金局におい
て,国民年金法上の申請免除の要件に該当すると取り扱って免除する措置を採っているにすぎない。
したがって,国民年金保険料の申請免除は,特定避難勧奨地点の設定により直ちにその効果が発生するものではなく,特定避難勧奨地点の設
5 定自体で生じる直接の法的効果ではない。
(ウ) 介護保険の利用者負担の免除について
特定避難勧奨地点に居住していた避難者について,原災法に介護保険法の介護サービス等の利用料を免除する旨の規定があるわけではなく,飽くまで,介護保険法上の免除の要件に該当すると取り扱って免除する
10 措置を採っているにすぎない。また,このような取扱いは,別紙3(本
件各種支援措置について)第3の2(1)及び(2)の厚生労働省老健局介護保険計画課長の通知を受けた各市町村が要綱等を定めて実施するものであるところ,上記各通知は厚生労働省老健局介護保険計画課長による技術的助言で,そのような技術的助言を行うかにつき裁量の余地がある上,
15 各市町村にも技術的助言を踏まえた取扱いにつき裁量の余地がある。な
お,南xx市においては,別紙3(本件各種支援措置について)第3の
3(1)の要綱上,同利用料を「免除することができる」旨定めており,要綱上の免除の基準に該当したとしても,なお免除しない余地を残している。
20 したがって,介護保険の利用料の免除は,特定避難勧奨地点の設定に
より直ちにその効果が発生するものではなく,上記各通知及びこれを受けた各市町村の要綱等の取扱基準の制定又は実際の免除措置の実施の可否といった裁量判断を介在して実施されるものにすぎず,特定避難勧奨地点の設定自体で生じる直接の法的効果ではない。
25 (エ) 障害福祉サービスの利用者負担の免除について
特定避難勧奨地点に居住していた避難者について,原災法に障害者総
合支援法の利用者負担を免除する旨の規定があるわけではなく,飽くまで,障害者総合支援法上の免除の要件に該当すると取り扱って免除する措置を採っているにすぎない。また,このような取扱いは,別紙3(本件各種支援措置について)第4の2(1)及び(2)の厚生労働省社会・援護
5 局障害保健福祉部の事務連絡を受けた各都道府県又は市町村が要綱等を
定めて実施するものであるところ,上記各事務連絡は厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部による技術的助言で,そのような技術的助言を行うかにつき裁量の余地がある上,各都道府県又は市町村にも技術的助言を踏まえた取扱いにつき裁量の余地がある。
10 したがって,障害福祉サービスの利用者負担の免除は,特定避難勧奨
地点の設定により直ちにその効果が発生するものではなく,上記各事務連絡及びこれを受けた各都道府県又は市町村の裁量判断を介在して実施されるものにすぎず,特定避難勧奨地点の設定自体で生じる直接の法的効果ではない。
15 (オ) NHKの放送受信料の免除について
特定避難勧奨地点の設定を受けた地域に居住している世帯について,原災法にNHKの放送受信料を免除する旨の規定があるわけではなく, NHKが,実態としてテレビの視聴ができず,災害救助法に係る半壊等に準じた被害を受けているとみなせることから,放送受信料を免除すべ
20 きと判断し,総務大臣宛てにその旨申請し,承認を得たものである。
したがって,NHKの放送受信料の免除は,特定避難勧奨地点の設定により直ちにその効果が発生するものではなく,NHKや総務大臣の裁量判断を介在して実施されるものにすぎず,特定避難勧奨地点の設定自体で生じる直接の法的効果ではない。
25 (カ) 固定資産税の免除について
固定資産税の免除は,特定避難勧奨地点の設定により直ちにその効果
が発生するものではなく,市町村の条例制定という裁量判断を介在して実施されるものにすぎず,特定避難勧奨地点の設定自体で生じる直接の法的効果ではない。
(3) 応急仮設住宅の供与の終了について
5 原告らは,応急仮設住宅の供与の終了は,本件解除による不利益の一つで
その処分性を基礎付ける事情であると主張するが,応急仮設住宅の供与は,xx県によって,本件解除から2年3か月にわたって延長された後,平成2
9年4月以降,避難指示区域以外の避難者について新たな支援策に移行することとされたのであり,特定避難勧奨地点の解除とは無関係に,xx県の判
10 断でその期間や支援の内容が取り決められたのであるから,応急仮設住宅の
供与の終了と特定避難勧奨地点の解除は直接結び付くものではない。
(4) 小括
以上のとおり,特定避難勧奨地点の設定・解除は,直接の作用法上の根拠を持たず,それ自体に法的拘束力のない本件対応方針(原災本部)に基づい
15 て実施された事務であって,特定避難勧奨地点の設定は,これによる法的効
果を持たない事実上の行為であって,行政庁の法令に基づく公権力的行為に当たらず,処分性は否定されるのであり,そうである以上,本件解除についても処分性が否定される。
2 争点2(本件確認の訴えの確認の利益)について
20 (原告らの主張)
仮に本件解除に処分性が認められないとしても,指定原告は,特定避難勧奨地点に設定されている地位にあることが確認されれば,本件各種支援措置及び応急仮設住宅の供与を受けることができる地位にあることになることから,指定原告には,その確認の利益がある。
25 (被告の主張)
公法上の法律関係に関する確認の訴えは,原則として,自己の,現在の公法
上の法律関係の存否に係る積極的確認を求めるものでなければ,確認の利益(対象選択の適否)を欠くのであり,確認の対象が事実である場合は,証書真否確認の訴えのようにxxの規定がない限り,不適法となる。
特定避難勧奨地点の設定は,事実の通知又は情報の提供の一環で,行政指導
5 的色彩を帯びるものにすぎないから,特定避難勧奨地点に設定されている地位
にあることの確認というのは,結局のところ事実の確認にすぎず,確認の利益を欠き不適法である。
3 争点3(本件解除の違法性)について
(原告らの主張)
10 (1) 本件解除は原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下とする法的義務に
違反すること
ア 被告の法的義務について
(ア) 憲法25条及び経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)2条1項,12条1項の規定は,本件事故
15 後の放射能汚染の状況下において,人々に被ばくを避け健康な生活を営
む権利を保障しており,被告は原告らのこのような権利を実現する義務を負っている。
(イ) 被ばくによる健康影響については,本件事故以前から,政府が参照するICRPの2007年勧告(以下「ICRP2007年勧告」という。)
20 が,公衆被ばくの線量限度を年間1mSvと定めている。また,規制法
及び放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(平成29年法律第15号により「放射性同位元素等の規制に関する法律」に題名改正。以下「放射線障害防止法」という。)等は,公衆が実効線量年間1 mSvを超えて被ばくしないように厳格な法的担保を講じている。
25 (ウ) このような国際基準及び国内法令における一連の規制によると,原告
らは,年間1mSvを超える被ばくを避ける権利を有しており,被告は,
本件解除をする際には,万が一にもこのような公衆被ばくの線量限度を超えることがないようにすることを義務付けられており,少なくとも,公衆被ばくの線量限度に関する国内法令を重要な考慮要素として検討すべきであった。
5 これについては,国連人権理事会の「すべての者の到達可能な最高水
準の身体及び精神の健康の享受の権利(健康の権利)」特別報告者であるアナンド・グローバーも,本件事故に関して,関係省庁,自治体その他関係機関との意見交換,市民との対話を経た上で,平成25年5月に国連人権理事会に提出した報告書(以下「グローバー報告」という。)にお
10 いて,低線量放射線の健康影響の可能性に鑑み,放射線量ができるだけ
低下し,年間1mSvを下回った場合にのみ避難者に帰還が推奨されるべきであると述べ,年間1mSvを超える被ばくをしたすべての影響地域において健康管理調査を行うこと,放射線被ばくに関する政策について,現在の科学的知見に基づきリスク・便益分析をするのではなく,人
15 権の観点から避難区域及び被ばく限度に関する国家計画を立案し,被ば
く線量を年間1mSv以下に減じることを勧告している。イ 本件解除は被告の法的義務に違反するものであること
(ア) 航空機モニタリングの結果によると,本件地域の平成26年11月1
7日時点での放射線量率は毎時0.2~1.0μSvであり,被告が採
20 用する換算式(年間1mSvの追加被ばくは毎時0.23μSvに相当
する。)によると,年間1mSvの基準を優に超える放射線量を記録している。なお,被告が採用する上記換算式は,遮蔽係数(屋外の空間線量率に対する屋内の空間線量率の割合。以下同じ。)を0.4とするものであるところ,ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト(以
25 下「ふくいちプロジェクト」という。)が原告らのうち120世帯の本
件事故時住所につき屋外・屋内の双方で空間線量率(地表又は床から1
m高)を測定したところ,平均遮蔽係数は0.81であり,被告が採用する上記換算式は住民の被ばく線量を過小評価するものである(その原因は,本件事故後の時間の経過によって,屋内にも放射性物質が入り込み,その除染がされていないことを考慮していないためと考えられる。)。
5 (イ) また,ふくいちプロジェクトが本件地域を南北約100m×東西約7
5mの区画に区切り,各区画内の1地点の空間線量率(地表1m高)を測定したところ(以下「本件地域メッシュモニタリング①」という。), k行政区の2地点を除いて毎時0.15μSv(1年xxx場所に滞在した場合に追加被ばく線量が年間1mSvに達する値)を超えただけで
10 なく,ほとんどの地点で毎時0.23μSv(除染の目標値)を超えて
おり,特にc,e,f,h及びjの各行政区では,毎時0.6μSv(1年xxx場所に滞在すると仮定した場合に管理区域〔実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則2条2項4号〕の設定基準〔3月当たり1.
3mSv〕に達する値)を超える地点が過半数に達している。このよう
15 に,本件地域は広く面的に放射能に汚染され,本来であれば区画を区切
り不要な者の立ち入りを制限しなければならない管理区域の基準を超える地点が広がっているといえる。
さらに,ふくいちプロジェクトが原告ら(205世帯)の本件事故時住所の空間線量率(屋外又は屋内の1m高)を測定し,これを基に本件
20 事故時住所に居住した場合の年間追加被ばく線量を推計したところ,1
96世帯で1mSvを超え,最も高い世帯で5mSvを超えている。 (ウ) 原告らは,本件解除及びこれに伴う本件各種支援措置の終了,応急仮
設住宅の供与の終了,東京電力による賠償金支払の打ち切りによって,経済的・精神的に本件事故時住所への帰還を余儀なくされ(その後実際
25 に帰還を余儀なくされた。),放射線量が高い本件地域で,被ばくによ
る健康影響を受けながら生活することを強いられることとなる。
したがって,本件解除は,原告らに年間1mSvを超える被ばくを強いるもので,人々の追加被ばく線量を年間1mSv以下とすることを確保すべき法的義務に違反し,違法である。
ウ 低線量WG報告書の問題点
5 (ア) 被告は,特定避難勧奨地点の解除の基準を年間積算線量20mSvと
しているところ,これは低線量WG報告書に記載された放射線の健康影響に関する認識を前提としている。
(イ) しかしながら,低線量WGには,構成人員の偏り,検討期間の短さ,被災者などのステークホルダーの関与の欠如という問題がある。
10 (ウ) また,低線量WG報告書では,100mSv以下の被ばく線量で放射
線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされているが,国際的には,放射線の健康影響にはしきい値が存在せず,がんなどの影響の発生率は被ばく量の増加に正比例するとする直線しきい値なしモデル(以下「LNTモデル」という。)が科学的にもっともらし
15 いとして支持されているのであって,低線量WG報告書の考え方は,疫
学上有意な結果が得られていないことと放射線の健康影響の有無とを混同するもので,100mSvをxxxに下回る低線量被ばくであっても,がん発生率の有意な増加を報告する研究が相次いで発表されていることを考慮していないという問題がある。
20 また,放射線の健康影響を明らかにする科学的知見を得るためには多
くの年数を要することから,その防護策の立案に当たっては,現在の科学的知見のみに基づくのは危険であって,未解明の部分があり,今後さらなる科学的知見によって明らかになる蓋然性を踏まえた対応が求められるところ,低線量WG報告書ではこのことが考慮されていない。
25 (エ) 低線量WG報告書では,年間20mSvの被ばくの影響は,他の発が
ん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても低く,避難
や運動不足等の放射線防護措置に伴うリスクと比べられる程度であるとの認識が示されている。
しかしながら,これは年間20mSvの被ばくによるリスクを他のリスク要因による生涯のリスクと比較するものであるが,これは,年間2
5 0mSvの被ばくは5年間で100mSvの被ばくになることを適切に
考慮しないものであるし,喫煙,肥満,野菜不足等の要因は,個人の選択によって減少可能であり,健康上のリスクの上昇と引き換えに何らかの便益がもたらされることからすると,比較すること自体が不適切である。また,ICRP2007年勧告では,主に原爆被爆者の生存者に対
10 する追跡調査の結果に基づき,低線量率の放射線被ばくによる人口当た
りのがん致死率(生涯がん致死率)の増加は1Sv(Svはシーベルトである。)当たり5.5%(1mSv当たり0.0055%〔5.5×
10のマイナス5乗〕)と推計されており,これは他のがん致死リスクをもたらす行為と比較しても,決して低いとはいえない。
15 (オ) 以上のとおり,低線量WG報告書における放射線の健康影響に関する
認識は誤りである。エ 小括
したがって,本件解除は原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下とする法的義務に違反する。
20 (2) 本件解除は放射性物質の表面密度限界の考慮義務に違反すること
ア 被告の放射性物質の表面密度限界の考慮義務について
(ア) 本件地域に滞在又は居住した場合,空間線量を通じた外部被ばくのほかに,土壌中の放射性物質が体内に取り込まれることによる内部被ばく等の可能性もあり,放射性物質による土壌汚染の検討は,空間線量とは
25 別の被ばく経路として独自の意義を有する(実際に,特定非営利法人市
民放射能監視センターが実施した尿中の放射性セシウムの濃度の計測結
果の分析によると,本件地域では,粉じん等により環境中の放射性セシウムの取り込みが日常的に発生していることが推測される。)。
(イ) 規制法及びその関係法令においては,管理区域における密度の基準は,アルファ線を放出しない放射性物質の場合は4Bq/㎠(Bqはベクレ
5 ルである。以下同じ。)を超えるおそれのあるものとされており,管理
区域では,その設定及び解除につき国の認可を受けて関係部署に周知し,解除の場合には外部放射線に関わる線量や物の表面の放射性物質の密度の測定を行い,基準以下であることを確認しなければならないなどとされ,また,管理区域では,立ち入りが厳しく管理され,管理区域に立ち
10 入る放射線業務従事者は,6か月以内に1回,定期健康診断を行うもの
とされ,電気事業者は,管理区域に立ち入る放射線業務従事者に対して,定期に,被ばく歴の有無の調査及びその評価,白血球数及び白血球百分率の検査,赤血球数の検査及び血色素量又はヘマトクリット値の検査,白内障に関する眼の検査等の項目について,医師による健康診断を行わ
15 なければならないとされている。
また,放射線障害防止法及びその関係法令においても,管理区域における密度の基準は,アルファ線を放出しない放射性同位元素の場合は4 Bq/㎠を超えるおそれのある場所とされており,管理区域では,立ち入りが制限され,また,放射性汚染物の持ち出しが禁止されており,そ
20 の境界では放射線量の測定が行われ,立ち入った者の外部被ばく線量の
測定が行われるほか,管理区域に立ち入る者は放射線業務従事者とされ,被ばく量(実効線量)が年間50mSv及び5年間100mSvを超えてはならない実効線量限度が設けられ,立ち入り前及び立ち入り後一定期間ごとに,放射線障害の防止に関する教育訓練や健康診断が行われる
25 こととされている
このように,管理区域は,規制法や放射線障害防止法に従って厳重に
管理され,人がみだりに放射線の脅威にさらされないよう厳格な配慮がされているが,これに対し,原告ら住民の住居では,そのような管理はされておらず,極めて簡単に放射線の脅威にさらされる状況となっている。
5 (ウ) このような状況に照らせば,被告は,本件解除にあたり,原告ら住民
の住居について管理区域に比肩する土壌汚染が発生していることを慎重に考慮する義務があったといえる。
イ 本件解除は放射性物質の表面密度限界の考慮義務に違反すること
(ア) ふくいちプロジェクトが原告らの本件事故時住所の土壌を採取・分析
10 したところ,171世帯で40000Bq/㎡(4Bq/㎠)を超える
密度のアルファ線を放出しない放射性同位体(セシウム137を含む。)が検出されており,原告らの本件事故時住所の土壌は,管理区域の指定基準に照らして深刻に汚染されている。
また,ふくいちプロジェクトが本件地域を南北約500m×東西約3
15 75mの区画に区切り,各区画内の1地点の土壌を採取し,土壌汚染密
度を算定したところ(以下「本件地域メッシュモニタリング②」という。),
194地点のうち192地点で管理区域の指定基準である40000B q/㎡(4Bq/㎠),48地点で表面密度限度(作業室又は汚染検査室内の人が触れる物の表面の放射性同位元素の密度の基準)である40
20 0000Bq/㎡を超えており,本件地域は,広範囲に管理区域に該当
する程度の汚染が残存し,人が作業する際に触れることがないよう規制される程度の汚染が相当の範囲で広がっているといえる。
(イ) また,本件事故によって不溶性放射性微粒子が放出しており,福島県内の土壌に含まれる放射性セシウムの98%が不溶性放射性微粒子であ
25 るところ,不溶性放射性微粒子による内部被ばくは,体内に長期にわた
って蓄積し,局所的な箇所に従来想定されていなかった影響をもたらす
可能性が高いとされている。
被告は,本件解除に当たって,このような不溶性放射性微粒子の存在及びリスクを認識し得たにもかかわらず考慮していない。
ウ 小括
5 以上のとおり,被告は,本件解除に当たって,空間線量ばかりを重視し,
このような土壌汚染の有無,程度を十分に考慮しておらず,本件解除は,放射性物質の表面密度限界の考慮義務に違反した裁量の逸脱・濫用があるといえることから,本件解除は違法である。
(3) 本件解除はICRPの勧告する放射線防護の原則に違反すること
10 ア ICRPの勧告する放射線防護の原則が本件解除の裁量基準を構成する
こと
(ア) ICRP2007年勧告は,緊急事態後の長期被ばく状況である現存被ばく状況での放射線防護の原則として,LNTモデルを基礎として,
①正当化の原則(放射線被ばくの状況を変化させるようなあらゆる決定
15 は,害より便益が大となるべきである。),②最適化の原則(被ばくの
生じる可能性,被ばくする人数及び個人の線量の大きさは,すべての経済的及び社会的要因を考慮に入れながら,合理的に達成できる限り低く保つべきである。)を適用し,また,③参考レベル(これを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切と判断される線量のレベル)を定め
20 ることを勧告しており,ICRPの「原子力事故または放射線緊急事態
後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用(」以下「ICRP勧告の適用」という。)は,汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは,1~20mSvのバンドの下方部分から選択すべきであり,過去に用いられた代表的な値は年間1mSvで
25 あるとしている(以下,ICRP2007年勧告とICRP勧告の適用
を併せて「ICRP勧告」という。)。
(イ) 原災法は,国民の生命・身体の保護を目的とし(1条),緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するために必要な指示をする権限を原災本部長に付与している(20条2項)。本件解除は,このような原災本部長(実際には,その権限を委任された現地対策本部長)の指示権限に基
5 づくものであるところ,本件事故の緊急事態応急対策に係る指示につい
ては,ICRPがICRP勧告の放射線防護の原則を採用するように提言していること,被告自身もICRP勧告に基づいて緊急事態応急対策を実施していること,原子力安全委員会もICRP勧告の放射線防護の原則を基礎とするように助言していることから,その権限行使に当たっ
10 て,ICRP勧告の放射線防護の原則が裁量基準を構成する。
すなわち,ICRPのクレア・カズンズ委員長及びxxxxxxx・xxxxx科学事務局長は,本件事故後,政府に宛てて送付した書簡(以下「カズンズ・クレメント書簡」という。)において,最適化の原則と参考レベルの利用,具体的には,緊急時においては,参考レベルを20
15 ~100mSvのバンドから選択すること,線源が管理されているもの
の汚染が残存している状況下においては,参考レベルを年間1~20m Svから選択し,長期的に参考レベルを年間1mSvとすることを提言している。
また,文部科学省は,ICRP勧告に基づく原子力安全委員会の意見
20 を踏まえた原災本部の見解を受けて,平成23年4月19日,「福島県内
の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」と題する文書を発出し,そこでは,学校の校庭等の利用判断の暫定的な目安が年間1~20mSvとされ,できる限り児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であるとされている。本件事故に起因する放射線
25 防護のための各種施策は,各行政機関において,原子力安全委員会の意
見を踏まえた原災本部の見解に基づいて実施されていたのであり,原子
力安全委員会の意見とこれが依拠するICRP勧告は,各行政機関の裁量権行使の恣意性を排除し,予測可能性を確保するための裁量基準といえる。
さらに,原子力安全委員会は,基本的な考え方(原安委)において,
5 ICRP2007年勧告の現存被ばく状況の概念を適用することが適切
とした上で,現存被ばく状況に適用されるバンドである年間1~20m Svの下方の線量を参考レベルとして選定することを求めており,解除に関する考え方(原安委)においても,年間1~20mSvの範囲で長期的には参考レベルとして年間1mSvを目指して,住民が受ける被ば
10 く線量を合理的に達成可能な限り低減する努力を求め,その基礎となっ
た国際基準としてICRP2007年勧告を掲載している。
(ウ) 以上のとおり,ICRP勧告の放射線防護の原則は,原災本部長による原災法20条2項に基づく権限の行使にあたっての裁量基準を構成するのであり,本件解除は,ICRP勧告の放射線防護の原則に照らして
15 その違法性が判断されなければならない。
イ 本件解除はICRP勧告の放射線防護の原則に反すること (ア) 正当化の原則に反すること
本件解除によって,原告らは,本件各種支援措置,応急仮設住宅の供与及び東京電力による避難費用や慰謝料の賠償を打ち切られ,帰還を余
20 儀なくされることとなるところ,このように,本件解除は,原告らに帰
還とこれに伴う被ばくという重大な害をもたらす一方,便益はまったく存在せず,正当化の原則に反する。
被告は,被災した地域での生活の復興や継続に便益が見出される旨主張するが,特定避難勧奨地点の設定は避難を強制するものではないため,
25 被災した地域での生活は,特定避難勧奨地点の解除がなくても実現可能
であり,避難した住民にとって,避難先で生活を再建するか,被災した
地域に帰還を希望するかは区々であることからすると,被災した地域に帰還することや被災した地域の復興をもって,本件解除を正当化する便益とはいえない。
また,被告は,避難先でのストレスや屋外活動を避けることによる運
5 動不足等の弊害を考慮したなどとも主張するが,本件解除の時点では避
難した住民の生活は一定程度安定しており,被告が主張する事情は,むしろ帰還した場合に懸念されるものであることからすると,これをもって本件解除が正当化されるともいえない。
(イ) 最適化の原則に反すること
10 本件解除によって,原告らは帰還を余儀なくされることとなり,原告
らの個人線量や被ばくの可能性は増大することになるが,それにもかかわらず,被告は,特定避難勧奨地点の設定を継続することができない理由(経済的要因及び社会的要因)を説明しておらず,本件解除は,最適化の原則に反する。
15 (ウ) 参考レベルの考え方に反すること
本件解除は,年間20mSvを下回ることが確実であることを理由としており,参考レベルとして1~20mSvの最も高い値を採用するものであることから,ICRP勧告の参考レベルの考え方に反する。
被告は,参考レベルは帰還促進に当たっての基準ではないと主張する
20 が,原告らは避難先で一定の生活環境を構築し,被災した地域への帰還
は被ばくの増大を意味することからすると,避難への支援を打ち切る基準となる放射線量は参考レベルと一致しなければならないのであり,このことは,ICRPのクリストファー・クレメント科学事務局長が,帰還の促進に当たって用いられるべき線量は,現存被ばく状況の参考レベ
25 ルに合致する旨述べているとおりである(甲137)。
被告が避難指示の基準となる空間線量を年間20mSvのまま維持し
ていることについては,国際社会から批判が加えられており,国連人権理事会のUPR(普遍的・定期的レビュー)において,ドイツから許容放射線量を年間1mSv以下に戻すように勧告され(甲154),また,有害物質及び廃棄物の環境面での適切な管理及び廃棄の人権への影響に
5 関する国連特別報告者であるバスクト・トゥンジャクが国連総会に提出
した報告書(甲156)でも,年間1mSvから20mSvに引き上げた基準の引き下げに応じず,子ども及び妊娠可能な年齢の女性を含むxx県の住民をあるべき許容量を超える放射線にさらしていることに懸念が示されている。
10 被告は,本件解除に当たって,長期目標として個人が受ける追加被ば
く線量が年間1mSv以下になるように取り組むとしているが,参考レベルとはそれを上回る被ばくの発生を許す計画の策定自体が不適切と判断される線量のことであり,前記(1)イ(イ)のとおり,本件地域に居住した場合の被ばく線量は,ほとんどの世帯で年間1mSvを上回ると推計
15 されており,長期目標とされる年間1mSv以下の追加被ばく線量がい
つまでに達成されるかも明確でないことからすると,被告は参考レベルを設定していないと解するほかない。
ウ 小括
以上のとおり,本件解除は,被告が本件事故後の放射線防護の基準とし
20 て採用するICRP勧告に違反するもので,違法である。
(4) 本件解除は基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)の定める手続上の要件を満たしていないこと
ア 基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)が本件解除の裁量基準を構成すること
25 (ア) 改正xx災法20条5項の意見,改正xx災法20条6項の助言の趣
旨は,原災本部には原発事故に起因する放射線による生命・身体への障
害の防止に関する専門技術的知見がないことを前提に,かかる専門技術的知見と合議体による意思決定の仕組みを有し,調査審議を行うことができる学識経験者からなる緊急事態応急対策調査委員が置かれた原子力安全委員会が専門的技術的観点から意見等を行うことで,放射線による
5 生命・身体への障害の防止に関する知見に基づいた緊急事態応急対策を
実施することにあると解され,原災本部は,放射線による障害の防止について必要な専門技術的知見を有する原子力安全委員会による意見等を裁量基準とした上で判断するからこそ,適法な裁量権の行使が可能となる。これに加えて,原子力安全委員会による意見及び助言は公表されて
10 おり,行政法の一般原則である平等原則,信頼保護の原則から,国民と
の間において統一的な取扱いが求められることからすると,原子力安全委員会による意見及び助言は,原災本部長が緊急事態応急対策を実施する際の裁量基準を構成するものと解され,原災本部長が合理的な理由なくこれらに従わない場合,当該緊急事態応急対策の実施は,裁量権を逸
15 脱・濫用するものとして違法となる。
(イ) 解除に関する考え方(原安委)は,原災本部長が,緊急時避難準備区域,計画的避難区域及び警戒区域において,その見直しを含めた緊急事態応急対策を実施すべき区域の在り方及びその区域内の居住者等に対し周知させるべき事項に関する意見を求めたのを受けて,原子力安全委員
20 会が,主な緊急防護措置の解除について述べた意見であり,改正xx災
法20条5項に基づく意見に当たる。また,基本的な考え方(原安委)は,原子力安全委員会がその後の避難解除,復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方を取りまとめたものであり,解除に関する考え方
(原安委)の冒頭で併せて参照することとされていることから,同項に
25 基づく意見の一部を構成し,また,改正xx災法20条6項に基づく助
言に当たるものである。
特定避難勧奨地点の設定は,同地点近辺の住民の安全,安心の確保に万全を期す観点から,一定の線量を超える地点を住居単位で特定し,住民に避難を勧奨し,避難を可能とするための支援策を講じるものであって,緊急事態応急対策に該当し,緊急防護措置(緊急時等に実施すべき
5 放射線防護のための措置)に該当する。
したがって,原災本部長が,特定避難勧奨地点の設定を解除するに当たっては,基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)に基づく必要があり,これらに定められた①解除後の新たな防護措置の実施時期,方法,内容等を定め,必要な準備を行った上で適切に解除す
10 ること,②解除の意思決定及び解除後の新たな防護措置の計画の立案に
当たって,関連する地元の自治体・住民等が関与できる枠組みを構築し,適切に運用されることという手続的要件を満たす必要がある(なお,改正xx災法20条5項及び改正xx災法20条6項に基づく原子力安全委員会の意見及び助言の制度は,平成24年法律第47号による改正に
15 よって廃止されたものの,解除に関する考え方(原安委)及び基本的な
考え方(原安委)は,同改正前に裁量基準として確立し,その後特段の変更等はされていないことから,同改正後も引き続き裁量基準を構成している。)。
イ 本件解除は,解除後の新たな防護措置を定め,必要な準備を行った上で
20 適切にされたものとはいえないこと
本件解除は,避難の勧奨を中止し,本件設定に伴う本件各種支援措置を打ち切るものであり,本来であれば,解除後に取られるべき新たな防護措置について,実施時期,方法,内容等が定められ,必要な準備が行われた上で解除されるべきであった。しかしながら,実際には,新たな防護措置
25 は準備されておらず,また,原災本部は,本件解除に至る住民説明会等に
おいて,住民から再度の除染を実施すること,農地等の除染を実施するこ
とを求められていたにもかかわらず,再度の除染を実施することなく,放射線量の下がらない清掃のみをして本件解除をしており,農地等の除染は平成29年3月の時点でも終わっていない。これに加えて,本件解除の際に実施された環境放射線モニタリング詳細調査では,庭先と玄関先以外の
5 場所の放射線量の測定はされておらず,測定方法にも問題があった。
このように,本件解除は,解除後の新たな防護措置を定め,必要な準備を行った上で適切にされたとはいえず,違法である。
被告は,本件解除の際に,線量不安に関する相談窓口の設置,追加の線量測定,清掃活動,健康不安への対応等を実施したと主張するが,新たな
10 防護措置といえるためには,放射線量そのものに関する防護措置が必須で
あるところ,これらは新たな防護措置とはいえず,又は新たな防護措置として不十分なものである。
ウ 本件解除は,関連する地元の自治体・住民等が関与できる枠組みを構築し,適切に運用されたとはいえないこと
15 (ア) 本件解除及び新たな防護措置の立案に当たっては,関連する地元の自
治体・住民等が関与できる枠組みが構築され,適切に運用される必要があった。しかしながら,現地対策本部は,南xx市議会の全員協議会で特定避難勧奨地点を解除する旨の方針を一方的に示し,そこで出された平成26年中の解除を避けるよう求める意向も考慮せず,また,同年1
20 0月の住民説明会でも,一方的な説明をするのみで住民の反対意見を考
慮することなく本件解除に至っている。
(イ) 本件解除に至る過程で,本件地域の住民や行政区長らは,一貫して反対の意向を表明していた。
本件地域の住民は,再度のモニタリング及び除染の必要性を訴え続け
25 ており,宅地の再汚染や子どもの健康に与える影響を懸念して,山林,
農地及び道路の除染の必要性を訴えていたほか,室内や敷地内の雨xx
のホットスポットの線量測定や除染の必要性も訴え,特定避難勧奨地点の解除に反対していたが,本件解除では,これらの正当な訴えが考慮されていない。原災本部,現地対策本部又は被災者生活支援チームは,本件解除に当たって,住民の反対もやむを得ず,住民との協議は必要不可
5 欠ではなく,説明会は協議の場ではないなどと考えていたのであり,実
際に,住民説明会が初めて開催された日(平成26年10月8日)は,当初予定されていた解除時期のわずか3週間前であったし,本件解除までに開催された4回の住民説明会及び区長説明会では反対意見しか出なかったにもかかわらず,本件解除が強行されている。
10 被告は住民の要望を受けて戸別訪問を実施したと主張するが,戸別訪
問に関する記録は平成26年10月17日の現地視察の資料しかなく,しかも,そこでは,ほとんどの住民が,本件解除及び被告の説明に納得せず,除染等の防護措置を要望していたとされている。また,戸別訪問の際に敷地内の雨xxの線量が毎時20μSvであったところがあり,
15 現地対策本部長らは,このように未だに線量が高い場所があることを認
識していたはずであるにもかかわらず,そのような場所の除染をすることなく本件解除がされている。
このように,本件では,解除及び解除後の新たな防護措置の立案に当たって,住民の意見・要望が反映されたとはいえない。
20 (ウ) また,本件解除に至る過程で,南xx市も,山林除染や室内モニタリ
ングの必要性を指摘していたが,被告は,山林除染を検討対象から外し,室内モニタリングについても,室内に放射線が入っていない前提でやっているので室内の除染はできないと述べるなど,誤った事実に基づく対応をしている。また,南xx市は,被告にモニタリング結果を提供した
25 が,被告は,本件解除に当たっては本件設定と同じ方法で再度モニタリ
ングをした結果を使用するとして,南xx市が提供したモニタリング結
果を考慮しておらず,モニタリングの方法や解除の考え方について南xx市との間で詳細を詰める様子はみられなかった。
さらに,南xx市の市長や市議会議長は,進学や就職等の生活の節目の考慮,賠償への配慮,生活圏の再除染等を要望していたが,これらに
5 ついて考慮等がされることはなく,本件解除に至っている。被告は,目
指すべき数値を年間1mSvとしながら本件解除をしているが,これは地方自治体及び住民の意向を考慮しないものである。
被告は,本件解除について,平成26年9月4日に市長,同月26日に全員協議会に対して説明すれば,協議は終了すると考えていたのであ
10 り,このことからすると,被告には,南xx市や住民と協議して,その
意見を取り入れる意図がなかったといえる。
(エ) このように,本件解除は,その決定に至る過程で南xx市や住民が関与することができる枠組みは何ら存在せず,実際にも住民との協議が実施されたとはいえず,住民が納得する説明もされておらず,政府が決定
15 した方針を一方的に伝達するという非民主的な方法で強行されたもので
ある。
エ 以上のとおり,本件解除は,新たな防護措置が計画されることもなく,また,地元の自治体や住民が関与できる枠組みが構築されることもないままに強行されたものであって,基本的な考え方(原安委)及び解除に関す
20 る考え方(原安委)に定められた手続的要件を満たさない違法がある。
(被告の主張)
(1) 本件設定及び本件解除の実施は行政庁のxxな裁量に委ねられており,本件解除が違法となるのは極めて例外的な場合に限られること
本件設定及びその通知は,設定を受けた特定避難勧奨地点に居住する住民
25 に対し,その地点が,生活の状況によっては積算線量が年間20mSvを超
える可能性も否定できない地点であることを注意喚起するための事実の通知
又は情報提供で,本件解除及びその通知は,積算線量が年間20mSvを下回ることが確実であることが確認されたことをもって,避難の促進等の必要性がなくなったことに関する事実の通知又は情報提供である。これらは,いずれも,現地対策本部が原災法18条所定の原災本部の所掌事務の一環とし
5 て実施する事実上の行為で,直接の作用法上の根拠を持たないものであり,
法律上,注意喚起,支援等を行う場合やそれを解除する場合の基準,方法,手続等も定められておらず,その実施はxxな裁量に委ねられている。
したがって,本件設定及び本件解除は,違法とされる場合がそもそも想定し難く,仮にそのような場合があり得るとしても,それは,xxな裁量を前
10 提に,その逸脱又は濫用が認められるような,極めて例外的な場合に限られ
る。
(2) 本件解除に裁量の逸脱又は濫用は認められないこと
ア 特定避難勧奨地点の設定の基準を年間積算線量20mSv超とした理由とその合理性
15 (ア) 特定避難勧奨地点の設定は,計画的避難区域の設定の際に参考にされ
たICRP2007年勧告の緊急時被ばく状況における参考レベルの範囲(年間20~100mSv)の最下限値を基準として,面的,地域的ではなくスポット的にみて,年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり,除染が容易でない地点を基準として,生活形態によっては年間
20 20mSvを超える可能性も否定できないため,注意喚起の観点から選
択的な避難を支援,促進したものである。
(イ) ICRPは,公衆の利益のために科学としての放射線防護を推進し,放射線防護に関する勧告と指針を提供することを目的に,放射線影響に関する科学的データや放射線防護・安全に関する技術的水準,社会の価
25 値基準等を考慮して,放射線防護の理念や概念に関する基本的考え方,
線量限度等の基準値を含めた規制の考え方等を検討し,その結果を勧告
又は委員会報告書として公表しており,これらは,世界各国の放射線安全基準を作成するための基礎として取り扱われている。したがって,特定避難勧奨地点の設定に当たって,ICRP2007年勧告の基準を参考にすることは合理的であり,また,政府は,住民の安心を最優先して,
5 最大限安全サイドに立ち,ICRP2007年勧告の緊急時被ばく状況
における参考レベルの範囲のうち最下限値である年間20mSvを参考レベルとして採用したものであるから,特定避難勧奨地点の設定の基準を年間積算線量20mSv超としたのは合理的である。
イ 特定避難勧奨地点の解除の基準を年間積算線量20mSv以下とした理
10 由とその合理性
(ア) 特定避難勧奨地点の解除は,設定の基準である年間積算線量20mS vの基準を満たさなくなることを条件とするものであるところ,特定避難勧奨地点の設定は,年間積算線量20mSvを超える可能性も否定できないことの通知又は情報提供という事実上の行為であり,このような
15 性質及び内容を前提とすれば,特定避難勧奨地点の設定の基準を満たさ
なくなった場合に,その解除がされることは自然である。
また,南xx市の状況は,緊急時被ばく状況から現存被ばく状況に移行しているところ,ICRP勧告の適用では,現存被ばく状況においては,居住や労働を続けながら,個人線量を把握し,総合的な対策によっ
20 て放射線被ばくを低減することとされ,過去の経験から,年間追加被ば
く線量1mSvが長期的に目指す参考レベルとして選ばれる代表的な値であるとされ,空間線量が年間1~20mSvの範囲内である場合に避難指示を実施すべきとはされておらず,むしろ,ICRP2007年勧告では,個人の生活面での要因等,経済的及び社会的要因を考慮して,
25 被ばくの発生確率,被ばくする人の数,及び個人線量の大きさのいずれ
をも合理的に達成できる限り低く抑えることによって,追加被ばく線量
を低減していくべきとされている。
さらに,国内外の幅広い有識者が集まった低線量WGは,年間20m Svは,他の発がん要因によるリスクと比べても十分低い水準であり,また,放射線防護の観点からは生活圏を中心とした除染や食品の安全管
5 理等の放射線防護措置を継続して実施すべきであるところ,これら放射
線防護措置を通じて十分にリスクを回避できる水準であって,今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると考えられる旨報告している。
(イ) これらを踏まえると,特定避難勧奨地点の解除の基準を年間積算線量
10 20mSvとした上で,解除後も長期的に年間追加被ばく線量1mSv
を目指すこととし,除染の推進等を柱とした総合的・重層的な防護措置を講じていることは,ICRPの考え方と整合的で,その他の国内外の有識者の国際的・科学的知見にも裏付けられるものであり,妥当である。
ウ 本件解除が年間積算線量20mSvを基準としたことは,国際機関等に
15 おける本件事故による被ばく線量と健康影響の評価,放射線防護の考え方
とも整合すること
世界保健機関(以下「WHO」という。)は,2013年(平成25年)
2月の報告において,本件事故後 1 年間の福島県内の実効線量を,住民の被ばくによる健康リスクを見積もる目的で保守的に(注;より安全側に立
20 って)評価した上で最大50mSvと推計し,その実効線量を前提にした
としても,xx県のいくつかの地域以外では,リスク増加は無視できる基準であると述べている。また,原子放射線の影響に関する国連科学委員会
(以下「UNSCEAR」という。)は,2013年(平成25年)の報告書において,福島県内の避難区域外等の地域(特定避難勧奨地点を含む。)
25 について,本件事故の放射線被ばくによる疾患発生率の全体的な上昇は,
日本人の基準生涯リスクに対して検出するには小さすぎるなどとし,全体
として,本件事故により日本人が生涯に受ける被ばく線量は少なく,その結果として今後日本人について放射線による健康影響が確認される可能性は小さいと結論付けている。さらに,ICRPは,2011年(平成23年)3月21日,2007年勧告で示した放射線防護の考え方について,
5 本件事故を踏まえて変更するのではなく,本件事故後の状況にも適用され
ることを明らかにし,緊急時に公衆の防護のために,国の機関が,最も高い計画的な被ばく線量として20~100mSvの範囲で参考レベルを設定すること,長期間の後には放射線レベルを年間1mSvに低減することとして,現時点での参考レベル年間1~20mSvの範囲で設定すること
10 を勧告している。また,IAEAは,2013(平成25年)10月,除
染を実施している状況では年間1~20mSvという範囲内のいかなるレベルの個人放射線量も許容し得るものであり,国際基準及び関連する国際組織(例えば,ICRP,IAEA,UNSCEAR,WHO)の勧告等に整合したものであることについて,コミュニケーションの取組を強化す
15 ることが日本の諸機関に推奨されると述べるとともに,政府は,人々に年
間1mSvの追加個人線量が長期の目標であり,例えば,除染活動のみによって,短期間に達成し得るものではないことを説明するさらなる努力をなすべきであると述べ,年間1mSvを長期の目標として実現していく方針にも理解を示している。
20 このように,科学的知見を踏まえた放射線防護の施策としてみても,本
件解除の基準とされた年間積算線量20mSvという数値は,国際機関の基準等に整合的であると評価されているのであって,行政庁の合理的裁量を逸脱・濫用したとは到底いえない。
エ 本件解除について裁量権の逸脱・濫用は認められないこと
25 本件解除は,被告による環境放射線モニタリング詳細調査の結果,高さ
1mの測定値が平均毎時0.40μSv(最高毎時1.08μSv),高
さ50cmの測定値が平均毎時0.41μSv(最高毎時1.8μSv)で,年間積算線量が20mSv(毎時3.8μSvに相当)を下回ることが確実となったことを踏まえて実施されたものである(なお,原告らは,空間線量率の測定において遮蔽係数を0.4としたことが誤りであると主
5 張するが,当該数値は,IAEAの「放射線緊急事態時の評価および対応
のための一般的手順」において,人が屋内にいる場合の遮蔽係数として最も高く安全側の数値である,「一階および二階建ての木造の家(地下室なし)」の屋内にいる場合のものを採用したもので,原子力安全委員会が取りまとめた「原子力施設等の防災対策について」で採用されているものと
10 同様であり,国内外において従来から用いられている合理的な数値である。
また,仮に遮蔽係数を原告らの主張する0.81として年間積算線量を算出したとしても,特定避難勧奨地点の解除の基準である年間20mSvを超えるものではない。)。
したがって,本件解除は,合理的基準に基づいて実施されたものであっ
15 て,原災本部等にその裁量権の逸脱又は濫用は認められない。
オ 原告らの主張について
(ア) 原告らは,被告は,原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下とする法的義務を負っていたところ,本件解除はかかる義務に違反する旨主張する。
20 (イ) しかしながら,憲法や社会権規約には,上記程度の被ばくを避け健康
な生活を営むという具体的権利を保障する規定や,そのような権利の実現を締約国に義務付ける規定は存在せず,国内法令においても,一般公衆の被ばく限度を年間1mSvとする規制は設けられていない。また,原告らが依拠するグローバー報告に法的拘束力はなく,また,その内容
25 はICRP2007年勧告における考え方とも整合しない。
(ウ) そもそも,行政庁の判断及びその評価で参考にされるべき科学的知見
は,一部の専門家から論文等で提唱された学説というだけでは足りず,議論を経て,専門的研究者の間で通説的見解といえる程度に形成,確立されたものであること,確かさを十分に検証されたものであることを要するというべきであり,本件解除が,専門的研究者間で通説的見解とい
5 える程度に形成,確立され,確かさを十分に検証された科学的知見に基
づいて行われたものである限り,本件解除が事実上の行為で,xxな裁量権が認められるという性質にも照らして,その判断に裁量の逸脱・濫用があるとして違法の評価を受けることは考え難い。
これを放射線被ばくの健康影響に関してみると,国際的な合意に基づ
10 く科学的な知見によれば,臓器の機能障害等の確定的影響は,特定の臓
器に関するしきい値を超える被ばくがあった場合や少なくとも100m Svを超えた場合でない限り,認められないと考えられており,がん発症の確率的影響についても,少なくとも100mSvを超えない限り,がん発症のリスクが高まるとの確立した知見は得られておらず,LNT
15 モデルについても,明確に実証する生物学的,疫学的根拠はいまだ得ら
れていない(ICRP2007年勧告は,LNTモデルについて,科学的に証明されたxxとしてではなく,確率的影響を考慮するに当たり,放射線被ばくのリスク管理における実用的なアプローチ,すなわち慎重な政策判断のための手段として取り入れ,その上で,放射線防護政策の
20 社会的・経済的側面をも考慮して,防護の方針や個人線量の基準を勧告
するものであって,科学的知見として,100mSv以下の低線量被ばくによる具体的な健康影響を認めるものではない。)。
このように100mSv以下の放射線被ばくによって健康影響リスクが高まるとはいえないとする知見は,国際的に,放射線の人体影響に関
25 する研究結果を集約した科学的知見として合意され,尊重されていると
いえる。
(エ) したがって,被告が原告らの追加被ばく線量を1mSv以下とする法的義務を負っているとの原告らの主張には理由がない。
(3) 放射性物質の表面密度限界の考慮義務違反の主張についてア 原告らの主張
5 原告らは,被告は本件解除に当たり土壌汚染を慎重に考慮する義務があ
りながら,土壌汚染の有無,放射性物質の密度について十分な考慮をしていないと主張する。
イ 放射性物質の表面密度限界を考慮しなければならない理由がないこと (ア) 本件解除に当たり,原告らの指摘する規制法や放射線障害防止法等の
10 国内法令を考慮しなければならない理由はなく,土壌中の放射能から放
出された放射線の影響は,空間線量を測定することにより,これに含まれて考慮されていることになるから,これと別に土壌汚染を考慮しなければならない義務があるとはいえない。
(イ) 原告らは,空間線量を通じた外部被ばくだけで全てが把握できるわけ
15 ではないと主張するが,空間線量率から年間積算線量を推定する際,物
理減衰やウェザリング効果などによって被ばく線量が減少する分と,空間線量率では捕捉されない内部被ばくによる被ばく線量分を相殺する形で,内部被ばく線量が考慮されている。したがって,空間線量率から推定された年間積算線量20mSvの基準は,十分に安全性に配慮した仮
20 定をおいた基準であり,当時の原子力安全委員会の意見を踏まえて内部
被ばくによる健康影響についても考慮した上で設定したものであるから,このような基準の設定及びそれに基づく本件解除が違法となることはない。
(ウ) 原告らは,本件事故により放出されたセシウムボールの存在が判明し
25 ており,生命・健康に対してxxのリスクが存在するにもかかわらず,
これらの事実を考慮することなく行った本件解除は違法であると主張す
る。
しかしながら,原告らが指摘する論文等は,そのほとんどが本件解除後に公表されたものであるし,セシウムボールを吸入した場合の健康影響については,十分に解明されていないことを述べるにとどまるもので
5 あり,UNSCEAR報告書やICRPに関わる国内の専門家等から,
本件事故により排出された不溶性の放射性微粒子の存在により,内部被ばくに基づく健康影響評価に大きな変更が必要であるといった見解が示されているわけでもない。したがって,セシウムボールによる内部被ばくによって人の生命・身体に重大な影響を与え得るとは認められず,本
10 件事故により放出されたセシウムボールの健康影響に関してxxのリス
クを考慮しないことにより,本件解除が違法となることはない。ウ 小括
以上のとおり,本件解除が放射性物質の表面密度限界の考慮義務に違反する旨の原告らの主張には理由がない。
15 (4) ICRPの勧告する放射線防護の原則に違反するとの主張について
ア 原告らの主張
原告らは,本件解除が,ICRPの勧告する放射線防護の原則(正当化原則,最適化原則,参考レベルの考え方)に違反すると主張する。
イ ICRP勧告の放射線防護の原則は本件解除の裁量基準を構成するもの
20 ではないこと
ICRPは英国の独立公認慈善事業団体で,その勧告は,我が国を含む世界各国の各種放射線被ばくの安全基準作成等の際に尊重され,参考にされる性質のものといえるが,法的拘束力を有するものではなく,その勧告内容が直ちに本件解除という裁量判断の基準に何らかの効力を持つものと
25 は解されない。このことは,ICRP2007年勧告でも,規制のための
線量限度は,国際的な勧告を考慮に入れて,規制当局によって定められ,
計画被ばく状況における作業者と公衆の構成員に対して適用されるとされているとおりである。
ウ 本件解除はICRP勧告の放射線防護の原則に反するものではないこと (ア) 正当化の原則に反しないこと
5 本件解除及びその通知は,事実の通知又は情報提供という事実上の行
為であって法的効果を有するものではなく,これによって特定避難勧奨地点の居住の可否に違いはないことから,本件解除は,原告らに帰還を強制するものではない。また,本件各種支援措置は本件設定の直接的な効果ではなく,本件各種支援措置の打ち切りも本件解除の直接的な効果
10 ではないことから,この点においても,本件解除は,原告らに帰還を強
制するものとはいえず,帰還による被ばくの増大という害をもたらすものとはいえない。一方で,本件解除及びその通知は,放射線量に関する正確な情報をもたらすという便益を与えるものであることから,便益より害が大きい状況にはない。
15 したがって,本件解除は,正当化の原則に反しない。
(イ) 最適化の原則及び参考レベルの考え方に反しないこと
最適化の原則は,被ばくする可能性,被ばくする人の数,及びその人たちの個人線量の大きさは,全て,経済的及び社会的要因を考慮して,合理的に達成できる限り低く保たれるべきであるとの原則であり,いか
20 なる手段を講じてでも個人線量の大きさ等をできる限り低く保たれるべ
きとの原則ではない。また,現存被ばく状況における参考レベルは,長期的に居住者の防護の最適化を図るための目安とする線量で,居住をしながら線量低減の取組を行う際の当面の目標とすることが想定される被ばく線量値であって,避難をするか否かの基準ではない。
25 本件解除は,年間積算線量20mSvを下回ることが確実となり,現
存被ばく状況に移行したと評価できることを確認した上で,個人が受け
る追加被ばく線量が長期目標として年間1mSv以下になるよう,除染の推進等を柱とした総合的・重層的な防護措置を講じながら行われたもので,最適化の原則及び参考レベルの考え方に反するものではない。
政府は,本件事故後の防護対策において,住民及び社会が被災した地
5 域における生活を復興あるいは継続させることに便益が見出されると考
えられる中で,被ばく線量が高いと考えられる地域の防護措置に注力するなど,住民の安全・安心を最優先として本件解除を含む防護措置を実施しているところ,放射線防護措置の実施に当たっては,それを採用することによるリスク(避難先でのストレスや屋外活動を避けることによ
10 る運動不足等の生活環境の変化に伴う肉体的,精神的,経済的弊害等)
を考慮しており,こうした取組は最適化の原則に反するものではない。エ 小括
以上のとおり,本件解除がICRP勧告の放射線防護の原則に反する旨の原告らの主張には理由がない。
15 (5) 基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)の定める手
続上の要件を満たしていないとの主張についてア 原告らの主張
原告らは,本件解除が,基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)の定める手続上の要件を満たしておらず,違法であると主
20 張する。
イ 基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)は本件解除の裁量基準を構成するものではないこと
(ア) 原子力安全委員会の意見に法的拘束力は認められないこと
原子力安全委員会は,国家行政組織法3条に基づく行政機関と異なっ
25 て自らの名義で外部に対して国家意思を表示することはできず,その意
見は諮問機関としてのもので法的拘束力は認められないのであり,基本
的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)が本件解除に係る裁量を拘束するものとはなり得ない。
(イ) 特定避難勧奨地点の設定は緊急事態応急対策に当たらないこと
緊急事態応急対策は,既に住民に被害が生じているおそれのある切迫
5 した状況において,生命・身体・財産の保護の観点から一刻も早く迅速
に行うべき対策を指していると解されるところ,特定避難勧奨地点は,線量の高い地域が面的に広がる避難指示区域とは異なり,一律に避難指示や産業活動の規制をすべき状況にはなかった地点であって,その設定は,生命・身体・財産の保護の観点から一刻も早く迅速に行うべき対策
10 としてされたものではない。また,本件設定が初めてされた平成23年
7月21日までの間,原子力安全委員会からも,地域的な広がりはみられないが一定程度の線量が続いている地点について緊急事態応急対策を実施すべきといった意見は出されておらず,原災本部は,同年4月22日に緊急事態応急対策として計画的避難区域,緊急時避難準備区域の設
15 定をし,同月10日に原子力安全委員会に対して緊急事態応急対策を実
施すべき区域等についての意見を求めた際の回答にも,特定避難勧奨地点の設定は含まれていない。
このように,特定避難勧奨地点の設定は,生命・身体・財産の保護の観点から一刻も早く迅速に行うべき対策としてされたものではなく,緊
20 急事態応急対策には当たらない(なお,特定避難勧奨地点の設定につい
ては,改正xx災法20条5項に基づく公示もされていない。)。
(ウ) 基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)は本件解除の裁量基準を構成するものではないこと
基本的な考え方(原安委)は,原子力安全委員会が,助言活動の指標
25 となる考え方を提示するという活動の一環として提示されたもので,改
正xx災法20条5項の意見又は改正xx災法20条6項の助言には当
たらない。
また,解除に関する考え方(原安委)は,改正xx災法20条5項の意見として,緊急時避難準備区域,避難区域(警戒区域)及び計画的避難区域の各設定の解除について述べたものであるが,特定避難勧奨地点
5 の解除は緊急事態応急対策に当たらず,特定避難勧奨地点の解除につい
て述べたものではないことから,解除に関する考え方(原安委)が本件解除に適用される余地はない。
原告らは,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域の設定は,当該区域の住民に退去すべき義務を負わせるわけではない点で特定避難勧奨地
10 点の設定と法的に異ならないと主張するが,計画的避難区域及び緊急時
避難準備区域の設定は,原災法28条2項の規定により読み替えて適用される災対法60条1項に基づき,居住者等に対する法的義務を課す,あるいは,その権利を制限するなどの法的効果ないし法的強制力を伴うものであって,特定避難勧奨地点の設定は,計画的避難区域及び緊急時
15 避難準備区域の設定とは,法的性質を異にするものである。
(エ) 小括
以上によると,基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)が本件解除の手続に係る裁量の中で考慮され得る要素の一つであることは否定されないものの,これらが本件解除に係る裁量を拘束する
20 ということはできないのであり,本件解除が手続上の要件を満たしてい
ない旨の原告らの主張は失当である。
ウ 原告らの自治体・住民等の関与に関する主張について
仮に本件解除について解除に関する考え方(原安委)が適用されるとしても,行政庁(原災本部又は現地対策本部。以下同じ。)は,関係各自治
25 体及び関係住民に対し,本件解除をするために適正な手続を履践しており,
本件解除は,その手続的要件を満たしている。
(ア) 行政庁は,本件解除に当たり,平成26年1月29日から同年12月
9日までの約11か月間,関係各自治体であるxx県及び南xx市との間で合計16回にわたって打合せ及び意見交換を実施しており,その中で,本件解除に関する事項について幅広く議論ないし検討し,本件解除
5 までの段取りやスケジュールについても協議している。また,行政庁は,
南xx市等に対し,打合せで議論ないし検討された事項の実施状況や進捗状況について速やかに報告して認識の正確な共有に努めているほか,南xx市から受領した要求書を精査し,行政庁内部での検討,南xx市等との打合せを行った上で,南xx市に回答書を手交しており,行政庁
10 は,南xx市の要望を真摯に受け止めた上で誠実な対応をしている。
さらに,行政庁は,南xx市から住民の理解が十分に得られていないとの指摘を受けたことを踏まえ,本件解除の時期を遅らせた上で,南xx市から住民の放射線不安やその対策の必要性について指摘されたことを踏まえて,線量不安に関する相談窓口の設置,追加の線量測定及び清
15 掃活動の実施,並びに健康不安への対応等を行っている。
これらの事情に照らせば,行政庁は,関係各自治体に対し,本件解除をするために適正な手続を履践したことは明らかである。
(イ) 行政庁は,行政区の住民の意見を取りまとめる行政区長に対する説明会を3回にわたって開催し,本件解除の趣旨や内容につき理解を得ると
20 ともに住民の不安を軽減するために丁寧に説明を行い,各行政区長から
の意見を聴取し,その後の本件解除に至るまでの手続に反映させている。また,行政庁は,本件設定を受けた住民に対する説明会を4回にわたって開催し,同住民に対し,本件解除の趣旨や内容につき理解を得るとともに不安を軽減するために丁寧に説明を行い,住民からの意見を聴取し,
25 その後の手続に反映させている。加えて,行政庁は,住民に対する説明
会で,「国等の担当者は,線量不安等について住民の言っていることを
現地に来て直に確認すべき」旨の意見が出されたことを受けて,平成2
6年10月中旬より,特定避難勧奨地点が設定された世帯に対する戸別訪問を開始し,可能な限り多くの住民に対する戸別訪問をして,住民一人一人に対し,本件解除や各種施策について直接口頭で説明し又は相談
5 を受けることで,きめ細やかな対応を行い,住民の理解を求めるととも
に不安を軽減するように努めてきたといえる。
さらに,行政庁は,線量不安に関する相談窓口の設置,追加の線量測定及び清掃活動の実施,並びに健康不安への対応等を行っている。
これらの事情に照らせば,行政庁は,関係住民に対しても,本件解除
10 をするために適正な手続を履践したことは明らかである。
エ 新たな防護措置に関する主張について
(ア) 解除に関する考え方(原安委)でも,新たな防護措置が本件各種支援措置に代わるものであることは何ら求められておらず,本件各種支援措置に代わる措置が準備されていないことをもって手続的要件を満たさな
15 いとする原告らの主張は失当である。
(イ) また,新たな防護措置は,被ばく線量の低減に関する措置のみを指すものではなく,このことは,原子力安全委員会の廃止に伴い必要な機能を統合した原子力規制委員会による平成25年11月20日付け「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護
20 措置の具体化のために)」(乙185。以下「基本的考え方(xx委)」
という。)において,避難指示解除後の放射線防護について,「放射線防護の面については,国は,住民の被ばく線量を低減し,健康を確保し,放射線に対する不安に可能な限り応える対策をきめ細かに示すことが必要である」として,被ばく線量の低減だけでなく放射線に対する不安に
25 応える対策も含まれるという考え方が示されていることからも明らかで
ある。
(ウ) 原災本部は,避難指示の解除に際して,基本的考え方(xx委)を踏まえ,①「国が率先して行う個人線量水準の情報提供,測定の結果等の丁寧な説明なども含めた個人線量の把握・管理」,②「個人の行動による被ばく低減に資する線量マップの策定や復興の動きと連携した除染の
5 推進などの被ばく低減対策の展開」,③「保健師等による身近な健康相
談等の保健活動の充実や健康診断等の着実な実施などの健康不安対策の推進」,④「住民の方々にとって分かりやすく正確なリスクコミュニケーションの実施」,⑤「帰還する住民の方々の被ばく低減に向けた努力等を身近で支える相談員制度の創設,その支援拠点の整備」を柱とした
10 総合的・重層的な防護措置を講じることで,個人が受ける追加被ばく線
量が,長期目標として年間1mSv以下になるよう取り組むこととしているところ,本件解除は,避難指示の解除とは異なるものの,基本的考え方(xx委)の趣旨を踏まえ,解除前後にわたって,次のとおり様々な取組を行っていることから,仮に本件解除について解除に関する考え
15 方(原安委)が適用されるとしても,本件解除はその手続的要件を満た
している。
a 「個人の行動による被ばく低減に資する線量マップの策定や復興の動きと連携した除染の推進などの被ばく低減対策の展開」(上記②)に関して
20 被告は,予算措置を通じて,南xx市が実施する除染につき,財政
面からの支援をしており,これによって,農地の除染(平成29年3月完了),道路の除染(平成28年11月完了),宅地の除染(道路も含めて特定避難勧奨地点を含む行政区の生活圏除染は平成25年度末までに完了,市除染区域は99.9%完了),フォローアップ除染
25 (特定避難勧奨地点を含む7行政区について平成29年4月までに完
了)が行われた。また,南xx市は,継続的な各モニタリング(空間
線量,水,土壌,食品等)の結果を市のウェブサイトや広報誌等に公表しているところ,被告は,空間線量のモニタリングポストの一部を設置,測定し,その測定データを南xx市に提供しているほか,その他の各モニタリング(井戸水,土壌,食品)に対しては南xx市に財
5 政的支援を行っており,個人の被ばく低減のための情報提供に取り組
んでいる。
b 「国が率先して行う個人線量水準の情報提供,測定の結果等の丁寧な説明なども含めた個人線量の把握・管理」(上記①)に関して
南xx市は,被告の財政的支援(福島再生加速化交付金等)を活用
10 して,個人線量の把握,管理等を行うための各種施策,具体的には,
ホールボディカウンター(WBC)による継続的な内部被ばく検査,個人線量計(ガラスバッジやDシャトル)の希望者への貸し出しを行ったほか,「放射線と健康に関する講演会及び相談会」の開催及び継続的な各モニタリング(空間線量,水,土壌,食品等)を実施してお
15 り,被告は,きめ細かな個人線量の把握や丁寧な相談体制の整備等を
支援している。
c 「保健師等による身近な健康相談等の保健活動の充実や健康診断等の着実な実施などの健康不安対策の推進」(上記③)及び「住民の方々にとって分かりやすく正確なリスクコミュニケーションの実施」(上
20 記④)に関して
南xx市では,被告の財政支援を受けて,専門家による健康相談を実施し,南xx市に設置された放射線健康相談員と放射線の専門家が戸別訪問を行い,敷地内のモニタリングを行ってその結果を説明したり,放射線が人体に及ぼす影響等の情報提供や相談等を行ったりして
25 いる。また,xx県は,被告等の財政支援を受けて,県民の健康を見
守り,県民の安全・安心の確保を図る目的で県民健康調査を実施して
おり,被告は,公立大学法人福島県立医科大学による南xx市の職員を対象とした県民健康調査や放射線の健康影響に係る研修会を実施した。さらに,個人の継続的な内部被ばく検査,ガラスバッジやDシャトルなどの希望者への貸し出し,個人の外部被ばく線量の測定,「放
5 射線と健康に関する講演会及び相談会」の開催,継続的なモニタリン
グ(空間線量,水,土壌,食品等),敷地内の線量の追加測定等の機会を捉えて住民の理解を醸成しているほか,被告は,特定避難勧奨地点に設定された世帯に対する住民説明会での要望を受けて,必要に応じた堆積物の除去等の清掃活動,設定世帯への戸別訪問や,敷地内の
10 地点の追加測定を実施し,敷地内の「モニタリングマップ」を作成し,
測定結果の説明を行った(なお,清掃活動では,敷地内の落葉等の除去,庭石・犬走り等の汚れの拭き掃除,蓋なし側溝・土側溝の目詰まり等の改善,除草等を実施したものであるところ,これらの作業内容は,除染等の措置とも一部共通するものである。)。
15 d 「帰還する住民の方々の被ばく低減に向けた努力等を身近で支える
相談員制度の創設,その支援拠点の整備」(上記⑤)に関して
被告は,南xx市が行う「放射線健康相談員」事業に対して,財政面(放射線相談員9名を加速化交付金等で雇用)に加え,支援拠点を整備し,その取組を支援している。
20 オ 小括
以上のとおり,本件解除が基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)の定める手続上の要件を満たしていない旨の原告らの主張には理由がない。
(6) 小括
25 このように,本件解除は,合理的基準に基づき,十分な手続を経て実施さ
れた合理的なもので,事後的手当もされていることから,原災本部等にその
裁量権の逸脱又は濫用は認められない。
4 争点4(本件解除の国賠法1条1項の違法性)について
(原告らの主張)
(1) 本件解除が国賠法上違法であることについて
5 本件解除は,公務員の職務として行われた公権力の行使であり,これが国
賠法上違法であることは,前記3(原告らの主張)のとおりである。
(2) 本件解除が非指定原告との関係においても国賠法上違法であることについて
ア 前記3(原告らの主張)(1)(2)のとおり,本件地域は広く面的に汚染さ
10 れ,放射線管理区域の基準を超える地点が相当範囲で広がっており,本件
設定を受けていない世帯の中には,本件設定を受けた世帯よりも空間線量が高い世帯も数多く存在した(推定年間被ばく線量が1~3.5mSvとなる世帯数は,特定避難勧奨地点の設定の有無によって大差なく,特定避難勧奨地点の設定の有無は,原告らの推定被ばく線量を反映したものとは
15 いえない。)。このような状況において,本件設定を受けていない世帯で
あっても,当初混乱していた状況で,避難せずに滞在し続けることの影響を知る方法はなく,山林やxxが汚染され,商店も営業していなかったこと等から避難を余儀なくされたのであり,本件解除によって,東京電力による賠償は打ち切られ,避難先での生活の継続が困難となったことから帰
20 還を余儀なくされ,年間1mSv以上の被ばくを強いられることとなった。
前記3(原告らの主張)(1)~(4)のとおり,被告は,追加被ばく線量を年間1mSv以下とする法的義務等を負っているところ,このような義務は国民全体に対するものであることから,本件解除は,非指定原告との関係においても,これらの法的義務に違反するものである。
25 イ また,前記3(原告らの主張)(4)のとおり,被告は,本件解除に当た
って基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)の定め
る手続上の要件を満たす必要があったところ,本件解除は,政府が決定した方針を一方的に伝達するという非民主的な方法で強行されたものであり,本件設定を受けていない世帯が関与することができる枠組みは存在せず,住民説明会への参加も認められていなかったのであるから,本件解除は,
5 非指定原告との関係においても,上記手続的要件を満たさない。
ウ 以上のとおり,本件解除は,非指定原告との関係でも,追加被ばく線量を年間1mSv以下とする法的義務等に違反し,基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)の定める手続上の要件を満たさないことから,国賠法上違法である。
10 (被告の主張)
(1) 国賠法1条1項の違法性について
国又は公共団体の公務員の職務行為について違法性を判断するに当たっては,その職務行為時を基準として,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背していると
15 認められる場合に限って,国賠法上「違法」と評価されるというべきであり
(最高裁昭和60年11月21日第xx法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁等参照),その職務上の法的義務違反の評価は,国民の被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,損害の程度等の諸般の事情を総合的に判
20 断して決すべきものであり,当該公務員が職務上尽くすべき注意義務を尽く
すことなく,漫然と行為をしたと認め得るような事情がある場合に限り,国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものと解される。
また,国賠法1条1項の「違法」は,国家賠償制度が法益侵害を受けた個別の国民を救済するものであることの当然の帰結として,当該個別の国民の
25 法益侵害があることを前提としており,そもそも個別の国民の権利ないし法
益の侵害が認められない場合には,国賠法上の違法性を認める余地はないと
解するのが相当である(最高裁昭和43年7月9日第三小法廷判決・裁判集民事91号639頁,最高裁平成2年2月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号161頁参照)。
(2) 本件解除は事実上の行為であって,国民の権利又は法益を侵害するもので
5 はないこと
特定避難勧奨地点の設定は,避難を注意喚起し,支援を表明する趣旨でされた事実の通知又は情報提供という事実上の行為であって,何らの法的効果を持たず,その設定又は解除により,原告らの権利又は法律上の利益が侵害されることなど,およそ考え難い。また,法律上,特定避難勧奨地点の設定
10 と直接的に結びついた形の支援策は存在せず,本件各種支援措置は,特定避
難勧奨地点の制度創設を受けて,南xx市などの裁量判断を介在してxx実施されたものであって,特定避難勧奨地点の設定により,国民個々人に具体的権利ないし法律上の利益として生じたものではないことから,その解除により,原告らの権利ないし法律上の利益が消滅することにもならない。
15 したがって,原告らは,特定避難勧奨地点の解除によって権利ないし法律
上の利益を侵害されるものではないから,本件解除が原告らとの関係で職務上の注意義務違反を構成する余地はないというべきであり,原告らの国賠法
1条1項に基づく請求は失当である。
(3) 本件解除が非指定原告との関係において国賠法上違法となる余地はないこ
20 と
非指定原告の住居は,特定避難勧奨地点の設定がされていないため,本件解除に当たり,公務員が非指定原告との関係で何らかの職務上の法的義務を負うことはあり得ない。また,特定避難勧奨地点の解除は,指定原告との関係においてすら何らの権利ないし法益を侵害するものではなく,特定避難勧
25 奨地点に設定された地点に居住していなかった非指定原告らに対して,権利
又は法益の侵害を生じさせる余地はない。
したがって,本件解除が,非指定原告との関係において国賠法上違法となる余地はない。
5 争点5(原告らの損害の有無及びその金額)について
(原告らの主張)
5 原告らは,本件設定によって,本件事故の発生から特定避難勧奨地点の解除
後3か月を経過する月まで,東京電力による月額10万円又は12万円の賠償がされ,また,指定原告は,本件各種支援措置等の支援を受けることができたところ,これらの支援及び賠償は,原告らが避難及び生活を継続していくために重要な役割を果たしていたが,本件解除によって,これらの支援及び賠償が
10 打ち切られたことに加え,原告らは,避難先の住居の確保も困難となり,一定
の範囲の者に本件地域が安全であるとの認識がもたらされたことから,避難先で周囲からの精神的な圧迫を感じるなどして,本件地域への帰還を余儀なくされた。これらによって,原告らは,年間1mSv以上の被ばくを強いられることとなり,放射線による健康影響を懸念し続けるという多大な損害を被ったほ
15 か,店舗,病院,役所,学校,保育所,交通機関等といった社会的インフラが
整備されていない環境での生活を強いられ,また,中には,家族と別居することとなり,大切な人間関係を分断されたり,高齢者のみでの生活を強いられたりするなどして,多大な精神的苦痛を被っている。
また,原告らは,本件解除に至る過程において,原告らの手続保障は尽くさ
20 れておらず(非指定原告については,意見を述べ,説明を受ける機会さえ与え
られていない。),このことによっても,多大な精神的苦痛を被っている。 このような精神的苦痛を損害額として換算するならば,原告らそれぞれにつ
き10万円を下るものではない。
(被告の主張)
25 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件解除の処分性)について
(1) 行政処分性について
行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行
5 為によって,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが
法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年10月29日第xx法廷判決・民集18巻8号1809頁)。
(2) 本件設定及び本件解除の内容及び性質に係る事実関係ア 本件設定について
10 本件設定については,前提事実(2)エに加えて,次の事実も認められる。
(ア) 政府の原子力被災者生活支援チームは,平成23年6月16日,特定避難勧奨地点について内閣官房長官に対する説明を実施したが,その説明資料には,計画的避難区域等については,一律に避難等を求める必要があると判断したことから,原災法に基づく避難等の指示をしたが,特
15 定避難勧奨地点の設定は,一律に避難を求めるほどの危険性はなく,住
民に対する注意の喚起と政府としての支援表明であることが記載されていた(甲14)。
(イ) 内閣総理大臣は,平成23年7月15日の参議院本会議において,特定避難勧奨地点についての説明を求める質問に対し,特定避難勧奨地点
20 は,一方的な指示ではなく,県と市町村との十分な協議の上で設定して
おり,安全よりも安心の観点から,生活の仕方等に関する注意喚起や,避難を希望する方々への支援表明など,原災法に基づく行政的な対応として行っているものである旨の答弁をした(乙73・9頁)。
(ウ) 現地対策本部長は,平成23年7月15日,南xx市長に対し,協議
25 期間の目途を同月21日として特定避難勧奨地点案の協議を行い,その
後の住民に対する通知に際して,国と南xx市が,環境放射線モニタリ
ング詳細調査を実施した全住民を対象とする説明会を開催する旨の提案をした(甲58)。
(エ) 現地対策本部長は,平成23年7月21日,8月3日及び11月25日に本件設定をし,その際,xx県知事及び南xx市長に対して,特定
5 避難勧奨地点を設定した旨の通知をしたが,同通知文には,特定避難勧
奨地点の設定が本件対応方針(原災本部)に基づくものであることが記載されていた(甲58,乙74の1の1~3)。
(オ) 南xx市長は,現地対策本部長の通知を受けて,特定避難勧奨地点の設定を受けた住居に対して,その旨を通知したが,同通知文には,①本
10 件対応方針(原災本部)(なお,同通知文に添付されている。)に基づ
き,現地対策本部長から当該地点が特定避難勧奨地点に設定されたとの通知が来たため,お知らせすること,②居住する住居やその近傍において空間線量率が比較的高い地点が存在するため,生活形態によっては年間20mSvを超える可能性も否定できない状況にあること,③事故発
15 生後1年間の積算線量が20mSvを超えると予測されない場合であっ
ても,妊婦や子供のいる家庭等であって市内の他の地域に比べて比較的高い空間線量が観測された地点については,特定避難勧奨地点として設定し,このような家庭が,より放射線量が低い環境に避難することを支援できるように配慮をしていることについて記載された上で,このお知
20 らせにより即時に避難を求めるものではなく,設定を受けた住民の意向
を尊重してできるだけ柔軟に対応するとして,特定避難勧奨地点からの避難を希望するか否かについて回答を求める旨記載されていた(甲59,乙74の2,弁論の全趣旨)。
(カ) 現地対策本部は,平成23年8月,南xx市において住民説明会を実
25 施したところ,その際の資料には,①「特定避難勧奨地点の考え方」と
して,当該地点に居住しても仕事や用事等で家を離れる時間がある通常
の生活形態であれば,年間20mSvを超える懸念は少なく,年間20 mSvを超える地点が生活圏内全般に広がっている計画的避難区域とは異なり,安全性の観点から,政府が一律の避難を指示する状況ではないが,一方で,住民の心配も当然であり,また,線量の高い地点から離れ
5 る時間が短い生活形態の場合には,年間20mSvを超える可能性も否
定できないことから,「特定避難勧奨地点」を設定し,住民に対する注意喚起や情報の提供等を行う旨等が記載され,②「特定避難勧奨地点に対する支援策について」として,基本は特定されて避難した場合に支援するとした上で,ⅰ)医療保険加入者の医療機関や薬局における窓口負
10 担分の免除,ⅱ)国民年金保険料の申請免除,ⅲ)介護保険の被保険者
に対する利用料免除,ⅳ)障害福祉サービスの利用者負担の徴収の猶予,
ⅴ)NHKの放送受信料の免除が掲げられ,③「特定避難勧奨地点に対する賠償について」として,原子力損害賠償紛争審査会がとりまとめた中間指針で,特定避難勧奨地点の避難等に伴う損害の対象について示さ
15 れた旨等が記載されていた(甲60)。
イ 本件解除について
本件解除については,前提事実(2)オ(エ)(オ),カに加えて,次の事実も認められる。
(ア) 現地対策本部は,遅くとも平成26年1月以降,本件設定の解除につ
20 いて,南xx市と協議を開始した(甲65,66)。
(イ) 現地対策本部は,同年6月2日,南xx市における特定避難勧奨地点の今後について,本件設定を受けた地点がある行政区の行政区長に対する説明会を実施し,その際,①南xx市の特定避難勧奨地点については,宅地の除染が終了したため,同月中下旬頃から,指定世帯を対象に環境
25 放射線モニタリング詳細調査を実施する予定であること,②同調査では,
庭先と玄関先のそれぞれ地上1m,50cmの高さの空間線量率を計測
することとし,データの継続性を重視して,過去の測定と同じ地点,同じ手法,同じ計測機器で測定すること,③特定避難勧奨地点は,設定を行った際の要件を満たさなくなれば解除することを基本的な考え方としていること,④特定避難勧奨地点の設定の解除は,地域の復興を本格的
5 に進めていくためにも実施するもので,そのような考え方に基づき,x
x市及びm村でも特定避難勧奨地点の設定の解除を実施したこと,⑤仮に特定避難勧奨地点が解除となったとしても,避難を支援するために実施してきた施策等が解除後すぐに終了するわけではなく,ⅰ)本件事故による避難者に対する高速道路の無料措置,固定資産税の減免は,平成
10 27年3月末までは継続し,ⅱ)医療保険・介護保険・障害福祉サービ
ス等に係る窓口負担等の免除措置も少なくとも平成26年度中は平成2
5年度と同様に継続し,ⅲ)東北電力によれば,電気料金の免除も解除後6か月間継続すること,⑥仮設住宅・借り上げ住宅については,平成
28年3月末まで継続すること,⑦賠償については,ⅰ)精神的損害と
15 避難費用の賠償は解除後3か月間継続すること,ⅱ)就労不能に伴う賠
償は就労の意思があれば平成27年2月末までは継続すること,ⅲ) 住宅等の補修・清掃に要した費用の賠償については,30万円の定額の賠償に加え,実際に補修・清掃に要した費用がこれを超過する場合には,事故前価値を上限に追加請求が可能であること等について説明した(甲
20 89,乙57。なお,同内容は,同日,南xx市長らに対しても説明さ
れた。甲72)。
(ウ) 現地対策本部は,平成26年9月26日,南xx市全員協議会において,特定避難勧奨地点について,環境放射線モニタリング詳細調査の結果が年間20mSvを下回った場合に,その設定を解除する方針である
25 旨説明した(甲80,弁論の全趣旨)
(エ) 現地対策本部は,同年10月8日,10日及び11日,南xx市の特
定避難勧奨地点の設定を受けた世帯に対する住民説明会を実施し,その際,上記(イ)の説明内容に加え,①南xx市における特定避難勧奨地点について,本件解除前調査によって,解除後の積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認されたこと,②特定避難勧奨地点が
5 解除された場合,国による様々な支援策が終了するのではないかとの懸
念の声も聞かれるが,国としては,解除後も政府xxとなって支援をしていくこと,③特定避難勧奨地点の設定の解除後も,住民の多様な声に耳を傾け,南xx市の復興を一層推し進めていくこと等について説明した(乙61の1・4頁,乙61の3)。
10 (オ) 現地対策本部は,同年12月21日,特定避難勧奨地点の設定を受け
た世帯に対する住民説明会を実施し,その際,上記(エ)の説明内容に加え,
①南xx市における特定避難勧奨地点については,見直しについて(原災本部)の定める解除の要件を満たしていること,②南xx市の特定避難勧奨地点については,同月28日に解除すること等について説明した
15 (乙61の1・2)。
(3) 検討
ア 本件設定の内容及び性質について
(ア) 前提事実のとおり,本件設定当時,本件事故に係る避難に関する指示として,①福島第一原発から半径20km圏内について,警戒区域の設
20 定がされ,これにより,市町村長が一時的な立ち入りを認める場合を除
き,当該区域への立ち入りを禁止され,又は当該区域からの退去を命ぜられるものとされていたこと,②福島第一原発から半径20km以遠の周辺地域で,本件事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれがあると判断された区域について,計画的避難区域の設定
25 がされ,これにより,原則としておおむね1月程度の間にxx当該区域
外への避難のための立ち退きを行うものとされていたこと,③福島第一
原発から半径20~30kmの区域で,計画的避難区域に該当する区域以外の区域について,緊急時避難準備区域の設定がされ,これにより,常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うもの等とされていたことが認められる。
5 これら警戒区域,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域の設定に関
しては,いずれも,原災法15条2項1号に基づく緊急事態応急対策実施区域について,改正xx災法20条5項に基づき,原災法15条2項
1号及び3号に掲げる事項を変更する旨の公示がされるとともに,緊急事態応急対策実施区域における緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施
10 するため特に必要があるとして,平成24年法律第47号による改正前
の原災法20条3項に基づき関係市町村長に対してその旨の指示が行われており,警戒区域の設定については,市町村長の禁止若しくは制限又は退去命令に従わなかった者には,罰則が設けられている(原災法28条2項により読み替えて適用される災対法63条1項,116条2号参
15 照)。
(イ) これに対し,本件設定(特定避難勧奨地点の設定)は,緊急事態応急対策実施区域の定めに関わらず行われたものであって,平成24年法律第47号による改正前の原災法20条3項に基づくものではなく,その他に原災法上の根拠規定は見当たらないこと,改正xx災法20条5項
20 に基づく公示もされていないことからすれば,本件設定は,本件対応方
針(原災本部)に基づき,現地対策本部によって事実上実施されたものにすぎないといえる(原告らは,本件設定は,平成24年法律第47号による改正前の原災法20条3項に基づく指示として実施されたと主張するが,前記(2)アの事実経過に照らして採用することはできない。)。
25 また,前記(2)アの政府による検討や説明を踏まえると,本件設定(特
定避難勧奨地点の設定)は,警戒区域,計画的避難区域の設定がされた
後,これらの区域外の一部地域で,計画的避難区域の設定の基準である本件事故後1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される空間線量率が続いている地点が複数存在していたところ,これらの地点について,地域的な広がりは見られないことから一律に避難を指示する状況で
5 はないものの,当該地点に居住する場合には,生活形態によっては本件
事故後1年間の積算線量が20mSvを超える可能性は否定できず,また,本件事故後1年間の積算線量が20mSvを超えるとまでは予測されないものの,妊婦や子供が居住しており,かつ,南xx市内の他の地域に比べて比較的高い空間線量率が測定された地点もあることから,こ
10 れらの地点に居住する住民への注意喚起を図ろうとしたものであると認
められる。このような内容に照らすと,本件設定(特定避難勧奨地点の設定)は,これを受けた住民に上記の旨の情報提供をするとともに,各自の状況に応じた避難の検討を促し,避難をする場合にその支援をする旨を表明する措置であったと認められるのであり,これを受けた住民に
15 対し,避難を強制するものであったとは認められない。
イ 本件解除の内容及び性質について
(ア) 前提事実のとおり,警戒区域及び計画的避難区域については,本件設定の後,警戒区域の設定を解除することとした上で,避難指示区域を一体として見直し,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区
20 域の設定がされ,緊急時避難準備区域については,本件設定の後に解除
がされているところ,これらは,いずれも,改正xx災法20条5項に基づき,原災法15条2項1号及び3号に掲げる事項を変更する旨の公示がされるとともに,緊急事態応急対策実施区域における緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するため特に必要があるとして,平成24年
25 法律第47号による改正前の原災法20条3項(又は原災法20条2項)
に基づき関係市町村長に対してその旨の指示が行われている。
(イ) これに対し,本件解除(特定避難勧奨地点の設定の解除)については,平成24年法律第47号による改正前の原災法20条3項に基づくものではなく,その他に原災法上の根拠規定は見当たらないこと,改正xx災法20条5項に基づく公示もされていないことからすれば,本件解除
5 についても,本件設定と同様に,本件対応方針(原災本部)に基づき現
地対策本部によって事実上実施されたものにすぎないといえる。
また,前記(2)イの政府による検討や説明を踏まえると,本件解除は,本件対応方針(原災本部)に基づき,本件解除前調査においてすべての特定避難勧奨地点で年間積算線量20mSvを下回ることが確実と認め
10 られたことを受けて実施されたものと認められ,前記アの本件設定の内
容及び性質も踏まえると,本件解除は,本件設定を受けた住民に解除後
1年間の積算線量が20mSvを下回ることが確実であることが確認された旨の情報提供をするものであったと認められるのであり,帰還を強制するものであったとは認められない。
15 したがって,本件解除は,これによって,直接国民の権利義務を形成
し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできないのであって,行政処分に当たらない。
ウ 原告らの主張について
(ア) 原告らは,本件設定は,これを受けた住民に対して,本件各種支援措
20 置等又はこれらを受けることができる地位を付与するものであり,設定
を受けた住民の法的地位を変動させるものであると主張する。
しかしながら,本件各種支援措置に関する法令等の定めは,別紙3(本件各種支援措置について)のとおりであるところ,①国民健康保険の一部負担金の免除,③介護保険の利用者負担の免除,④障害福祉サービス
25 の利用者負担の免除は,いずれも南xx市の判断で,②国民年金(第1
号被保険者)の保険料の免除は厚生労働省の判断で,特定避難勧奨地点
から避難した者を対象にしたこと,⑥固定資産税の免除は南xx市の条例で,特定避難勧奨地点において居住の用に供する家屋及びその敷地について当該世帯の全員が避難した場合を対象にしたことが認められるほか,⑤NHKの放送受信料の免除については,NHK会長による放送受
5 信料の免除申請を受けて,総務省が,平成23年6月24日,居住して
いる地域が特定避難勧奨地点の設定を受け,その設定が1か月以上継続しているものの放送受信契約について,同年3月から同年8月まで(ただし,同年9月1日時点で引き続き特定避難勧奨地点に設定されている場合は,解除の日の属する月の翌月まで)の期間,放送受信料を免除す
10 ることを承認したもので(乙25),総務大臣の承認により,居住してい
る地域が特定避難勧奨地点の設定を受けた地域である場合を対象にしたことが認められるところ,本件各種支援措置は,現地対策本部によってされたものではなく,飽くまで本件設定を受けて,上記各関係機関等の判断でされたものであることから,本件設定を受けたことによって,直
15 接,本件各種支援措置を受けることができる地位が法律上付与されたと
みるのは困難といわざるを得ない。特定避難勧奨地点の設定は,前記ア(イ)のとおり設定を受けた住民が避難をする場合にその支援をする旨の表明を含むものではあったものの,それを受けて行われた本件各種支援措置の具体的な内容が,特定避難勧奨地点から避難した者の法律上の地位と
20 して確立されたものではなかったことは,上記のとおりであって,この
ことからしても,結局,特定避難勧奨地点の設定は,避難を支援する旨の表明にとどまるものであったといわざるを得ない。
したがって,本件設定が,これを受けた住民に対して,本件各種支援措置又はこれらを受けることができる地位を付与するものであると認め
25 ることはできず,原告らの主張には理由がない。
(イ) 原告らは,本件解除は,本件設定を受けた住民から本件各種支援措置
や応急仮設住宅の供与を受けることができる地位を奪うものであり,具体的な法的効果が生じていると主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,本件設定を受けたことによって,直接,本件各種支援措置を受けることができる地位が法律上付与されたと
5 みるのは困難であることに加え,別紙3(本件各種支援措置について)
のとおり,本件各種支援措置は,本件解除後も継続しているものが認められるとおり,本件解除によって直ちに終了したわけでもないこと,応急仮設住宅の供与についても,xx県は,本件解除後の平成27年6月に「東日本大震災に係る応急仮設住宅の供与期間の延長について」を発
10 表し,その中で,xx県の避難者に係る応急仮設住宅の供与期間を全県
一律で平成29年3月末までとし,避難指示区域以外からの避難者に対する同月以降の取扱いについては,災害救助法に基づく応急救助から新たな支援策へ移行するものとしたことからすると(甲142),本件解除によって,直接,本件各種支援措置や応急仮設住宅の供与を受けること
15 ができる地位が法律上奪われたとみることは困難である。
また,原告らは,本件解除を行政処分として認めることが紛争解決手段として合理的であると主張するが,前記イのとおり,本件解除について,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものといえず,これをもって行政処分に当たるという
20 ことはできない。
したがって,原告らの主張にはいずれも理由がない。
(4) 小括
以上のとおり,本件解除に処分性を認めることはできないのであって,本件取消しの訴えは,その余について検討するまでもなく不適法であり,却下
25 されるべきである。
2 争点2(本件確認の訴えの確認の利益)について
(1) 確認の利益について
確認の訴えは,原則として,現在の権利又は法律関係の存在又は不存在の確認を求める限りにおいて許容され,特定の事実の確認を求める訴えは,民訴法134条のような別段の定めがある場合を除き,確認の対象としての適
5 格を欠くものとして,不適法になるものと解される(最高裁昭和36年5月
2日第三小法廷判決・裁判集民事51号1頁,最高裁昭和39年3月24日第三小法廷判決・裁判集民事72号597頁等参照)。
(2) 検討
ア 原告らは,本件において,指定原告の住居が特定避難勧奨地点に設定さ
10 れていることの確認を求めているところ,前記1(3)アのとおり,特定避難
勧奨地点の設定は,当該住居に居住し続けた場合に,当該住居又はその近傍の空間線量率が比較的高いことから,生活形態によっては本件事故後1年間の積算線量が20mSvを超える可能性が否定できないとされた住居,又は,本件事故後1年間の積算線量が20mSvを超えるとまでは予測さ
15 れないものの,妊婦や子供が居住しており,かつ,南xx市内の他の地域
に比べて比較的高い空間線量率が測定された住居について,当該住民にその旨の情報提供をするとともに,各自の状況に応じた避難の検討を促し,避難をする場合にその支援をする旨を表明する措置であって,設定を受けた住民の権利又は法律関係に直ちに影響を及ぼすものとはいえない。
20 そうすると,本件確認の訴えは,現在の権利又は法律関係の存在又は不
存在の確認を求めるものであるとはいえず,指定原告の住居が生活形態によっては年間積算線量が20mSvを超える可能性があること等の事実の確認を求めるものであるといわざるを得ないから,本件確認の訴えについて,確認の利益を認めることはできない。
25 イ 原告らは,指定原告は,特定避難勧奨地点に設定されている地位にある
ことが確認されれば,本件各種支援措置及び応急仮設住宅の供与を受ける
ことができる地位にあることになることから,指定原告には,その確認の利益があると主張する。
しかしながら,前記1(3)ウで説示したとおり,本件各種支援措置及び応急仮設住宅の供与は,いずれも実施主体である各関係機関等の判断でされ
5 たものであり,本件設定を受けたことによって,直接,本件各種支援措置
及び応急仮設住宅の供与を受けることができる地位が法律上付与されたものとみることはできないのであるから,指定原告の住居が特定避難勧奨地点に設定されていることが確認されたとしても,そのことから当然に,指定原告が本件各種支援措置及び応急仮設住宅の供与を受けることができる
10 地位にあることになるとはいえない。原告らの上記主張は,前提を欠き,
採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,指定原告の住居が特定避難勧奨地点に設定されていることについて,確認の利益を認めることはできないのであって,本件確認の訴え
15 は,その余について検討するまでもなく不適法であり,却下されるべきであ
る。
3 争点4(本件解除の国賠法1条1項の違法性)について
(1) 国賠法1条1項の違法性
ア 国又は公共団体の公務員の職務行為について違法性を判断するに当たっ
20 ては,その職務行為時を基準として,国又は公共団体の公権力の行使にあ
たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反していると認められる場合に限って,国賠法上,違法と評価されるというべきである(最高裁昭和60年11月21日第xx法廷判決・民集39巻7号
1512頁,最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2
25 087頁参照)。そして,公務員が職務上の法的義務に違反したか否かの
評価は,国民の被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,
損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断して決すべきものであり,当該公務員が職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と行為をしたと認め得るような事情がある場合に限り,国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものと解される(最高裁平成5年3月11日第xx
5 法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。
イ また,国賠法1条1項の違法は,国家賠償制度が法益侵害を受けた個別の国民を救済するものであることの当然の帰結として,当該個別の国民の法益侵害があることを前提としており,そもそも個別の国民の権利ないし法益の侵害が認められない場合には,国賠法上の違法性を認める余地はな
10 いと解するのが相当である(最高裁昭和43年7月9日第三小法廷判決・
裁判集民事91号639頁,最高裁平成2年2月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号161頁等)。
(2) 検討
ア 前記1のとおり,本件解除は,本件設定を受けた住民に解除後1年間の
15 積算線量が20mSvを下回ることが確実であることが確認された旨の情
報提供をするものであったと認められ,帰還を強制するものであったとは認められない。
イ 原告らは,本件解除によって,本件各種支援措置や東京電力による損害賠償が打ち切られることとなり,避難先での住宅支援も打ち切られること
20 になること,また,避難者が避難先で周囲から精神的な圧迫により帰還を
xられることになることから,事実上帰還が強要されることとなる旨主張し,また,避難先から帰還した原告らの多くが,その理由について,放射線の影響や不安が少なくなったため,地域の除染が完了したため,避難元の復興が進んだため等の積極的理由よりも,特定避難勧奨地点が解除され
25 たため,避難先での生活の継続が金銭的に困難であるため,賠償が打ち切
られたため,住宅支援が終了したため等の消極的理由を述べている(甲1
60)。
しかしながら,このような事情があるとしても,前記1(3)のとおり,本件各種支援措置は,本件解除後も継続しているものが認められることから明らかなとおり,本件解除の法的効果として終了したわけではなく,避難
5 先での住宅支援についても本件解除によって直ちに終了したと認めるに足
りる証拠はない。また,本件解除によって,避難者が避難先で周囲から精神的な圧迫により帰還を迫られるようなことがあったとしても,これをもって,本件解除が実質的に帰還を強制するものであったということはできず,本件解除によって,本件設定を受けた住民の帰還が強制されるに至っ
10 たとはいえない。
したがって,本件解除によって,指定原告が帰還を強制されたとはいえず,また,非指定原告についても帰還を強制されたということはできないから,原告らの権利ないし法益の侵害があったと認めることはできず,本件解除について国賠法上の違法性を認める余地はない。
15 (3) 本件解除は原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下にする法的義務,
放射性物質の表面密度限界の考慮義務,ICRPの勧告する放射線防護の原則に違反する旨の原告らの主張について
ア 原告らの主張について
原告らは,本件解除は,①原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下
20 にする法的義務に違反する,②放射性物質の表面密度限界の考慮義務に違
反する,③ICRPの勧告する放射線防護の原則に違反する旨主張する。しかしながら,前記(2)のとおり,本件解除について国賠法上の違法性を 認める余地はない。また,原告らの上記各主張は,いずれも本件解除によって原告らが帰還を強制されることを前提として,本件解除が違法である
25 と主張するものであるところ,前記(2)のとおり,本件解除は,本件設定を
受けた住民に解除後1年間の積算線量が20mSvを下回ることが確実で
あることが確認された旨の情報提供をするものであったと認められるのであり,帰還を強制するものであったとは認められないことからすると,原告らの上記各主張は,前提を欠くものであって理由がない。
したがって,原告らの上記各主張について検討するまでもなく,本件国
5 賠請求には理由がないといえるが,以下,本件の事案に鑑み,原告らの上
記各主張について検討する。
イ 本件解除は原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下にする法的義務に違反する旨の主張について
(ア) 原告らは,①ICRP2007年勧告において「計画的被ばく状況に
10 おける公衆被ばくに対しては,限度は実効線量で年1mSvとして表さ
れるべきであると委員会は引き続き勧告する」(甲51及び乙63・6
0頁)とされていること,②規制法が原子炉施設の周辺監視区域の外側の線量限度が実効線量で年間1mSvを超えないこと,放射線障害防止法が工場又は事業所の境界の外の線量限度が実効線量で年間1mSvを
15 超えないことをそれぞれ要求していることをもって,被告は,原告らの
追加被ばく線量を年間1mSv以下にする法的義務を負っている旨主張する。
(イ) そこで検討するに,ICRPは,科学的見地に立って,電離放射線の被ばくによるがん等の疾病の発生を低減し,また,放射線による自然環
20 境への影響を低減し,公益に資することを目的として設立された英国の
独立公認慈善事業団体であり,その勧告は,我が国を含む世界各国の放射線被ばくの安全基準作成の際に尊重されているものと認められるものの(甲51及び乙63「論説」,弁論の全趣旨),ICRP勧告が直ちに被告に対して法的義務を課すると解すべき根拠はない。また,ICR
25 P勧告では,現存被ばく状況において,ある与えられた状況を管理する
ために履行される参考レベル(引用者注:それを上回る被ばくの発生を
許す計画の策定は不適切であると判断され,またそれより下では防護の最適化を履行すべき,線量又はリスクのレベル)の法的位置付けを決めるのは規制当局の責任であるとされているところ(甲51及び乙63・
71頁),本件事故後の本件地域の状況は,ICRP2007年勧告に
5 おける緊急時被ばく状況(引用者注:ある行為を実施中に発生し,至急
の対策を要する不測の状況。同「用語解説」参照)又は現存被ばく状況
(引用者注:自然バックグラウンド放射線やICRP勧告の範囲外で実施されていた過去の行為の残留物などを含む,管理に関する決定をしなければならない時点で既に存在する状況。同「用語解説」参照)であっ
10 たといえ,ICRP勧告は,現存被ばく状況の参考レベルは,予測線量
1~20mSvのバンドに通常設定すべきとし,また,緊急時被ばく状況に続く現存被ばく状況の場合,適切な参考レベルは,できればICR Pによって提案された1~20mSvのバンドで選ばれるべきであると示唆され,長期の事故後の状況における最適化プロセスを拘束するため
15 に用いられる代表的な値が1mSv/年であることを示しており(甲5
1及び乙63・57~59頁,甲55及び乙64・16,17頁),追加被ばく線量が年間1mSvを超えるおそれのある地点における居住を許容していないとまでは解されないことを踏まえると,被告が原告らに対し,追加被ばく線量を年間1mSv以下にする(本件に即していうと,
20 原告らの追加被ばく線量が年間1mSvを超えるおそれのある地点にお
ける居住を許容してはならない旨の)法的義務を負っていると解することはできない。また,原告らが指摘するグローバー報告についても,本件事故に関して,年間1mSvを下回った場合にのみ避難者に帰還が推奨されるべきであると述べるものの(甲52・22頁),その内容及び
25 性質に照らし,直ちに被告に対して法的義務を課すると解すべき根拠は
ないといえる。
したがって,ICRP勧告を根拠として,緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況において,被告が原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下にする法的義務を負っていると解することはできない。
(ウ) また,規制法や放射線障害防止法及びそれらの関係法令における線量
5 限度は,ICRP勧告における計画的被ばく状況における公衆被ばくに
対する線量限度についての内容を踏まえて定められたもので(弁論の全趣旨),このことは,規制法及び放射線障害防止法が,平時において事業者を管理・規制することにより,放射線障害を防止することを目的としていることからも明らかであり(規制法1条,放射線障害防止法1条
10 参照),また,ICRPの1990年勧告の国内制度への取り入れの検
討の際に,放射線緊急時における公衆の防護のための介入については,介入レベルは法令で規定する性格のものではなく,防災指針で定めるのが適当とされていたことにも照らすと(甲139・8頁,弁論の全趣旨),これを根拠として,緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況において,被
15 告が原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下にする法的義務を負っ
ていると解することはできない。
(エ) 以上のとおり,本件解除によって原告らに権利ないし法益の侵害があるということはできず,また,被告が原告らの追加被ばく線量を年間1 mSv以下にする法的義務を負っていると解することもできないことか
20 ら,本件解除は原告らの追加被ばく線量を年間1mSv以下にする法的
義務に違反する旨の主張には理由がない。
ウ 本件解除は放射性物質の表面密度限界の考慮義務に違反する旨の主張について
(ア) 原告らは,規制法及び放射線障害防止法並びにその関係法令の内容に
25 照らせば,被告は,本件解除に当たり,住民の住居について管理区域に
比肩する土壌汚染が発生していることを慎重に考慮する義務を負ってお
り,本件解除はかかる法的義務に違反する旨主張する。
(イ) しかしながら,前記イのとおり,規制法や放射線障害防止法及びそれらの関係法令については,ICRP勧告における計画的被ばく状況における公衆被ばくに対する線量限度についての内容を踏まえて定められた
5 ものであることからすると,原告らの主張する関係法令の内容に照らし
て,緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況において,被告が,住民の住居について管理区域に比肩する土壌汚染が発生していることを慎重に考慮する義務を負っていると解すべき法的根拠はない。
(ウ) 以上のとおり,本件解除によって原告らに権利ないし法益の侵害があ
10 るということはできず,また,被告が住民の住居について管理区域に比
肩する土壌汚染が発生していることを慎重に考慮する義務を負っていると解すべき法的根拠もないことから,本件解除は放射性物質の表面密度限界の考慮義務に違反する旨の主張には理由がない。
エ 本件解除はICRPの勧告する放射線防護の原則に違反する旨の主張に
15 ついて
(ア) 原告らは,ICRP2007年勧告が,現存被ばく状況での放射線防護の原則として,正当化の原則及び最適化の原則を適用するとともに,参考レベルを定めることを勧告し,ICRP勧告の適用が,汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは1~20mSvの
20 下方から選択すべきで,過去に用いられた代表的な値は年間1mSvで
あるとしているところ,①カズンズ・クレメント書簡において,最適化の原則と参考レベルの利用が提言されていること,②文部科学省が,I CRP勧告に基づく原子力安全委員会の意見を踏まえた原災本部の見解を受けて,学校の校庭等の利用判断の暫定的な目安を年間1~20mS
25 vとし,その後,学校において児童生徒等が受ける線量について,当面
は年間1mSv以下を目指すこととしていること,③原子力安全委員会
が,基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)において,ICRP2007年勧告の内容を基礎にしていることからすると, ICRPの勧告する放射線防護の原則は本件解除の裁量基準を構成するものであり,被告は,本件解除において,ICRP勧告の正当化の原則
5 及び最適化の原則を適用するとともに,参考レベルを定めること,並び
に,汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは1
~20mSvの下方から選択する旨の法的義務を負っていると主張する。 (イ) そこで検討するに,前記イ(イ)のとおり,ICRP勧告が直ちに被告に対して法的義務を課すると解すべき根拠はないことに加え, カズンズ・
10 クレメント書簡は,ICRPのクレア・カズンズ委員長及びクリストフ
ァー・クレメント科学事務局長が,本件事故後の平成23年3月21日, ICRPを代表して政府に送った書簡であって,ICRPは,緊急時及び現存被ばく状況における電離放射線への被ばくについて,十分な防護を確保するために,最適化と参考レベルの利用を勧告し続けていること,
15 緊急時における公衆の保護については,20~100mSvのバンドの
中から,計画上最大の被ばく量となる参考レベルを設定するよう国家当局に勧告してきたこと,放射線源がコントロール下に置かれた後も,汚染地域が残存することがあるが,当局は,これら地域を放棄するよりも人々の居住継続が可能となるようあらゆる必要な防護のための措置を実
20 施しており,このケースでは,ICRPは参考レベルを1mSvに減ず
るという長期目標のもと,1~20mSvのバンドから参考レベルを選択するよう勧告してきたこと等が記載されているが(甲133の1・2),これについても,その内容及び性質に照らし,直ちに被告に対して,原告らが主張する内容の法的義務を課すると解すべき根拠はない。
25 また,文部科学省は,ICRP勧告に基づく原子力安全委員会の意見
を踏まえた原災本部の見解を受けて,学校の校庭等の利用判断の暫定的
な目安を年間1~20mSvとし(平成23年4月19日付け「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な考え方について」,甲134),その後,学校において児童生徒等が受ける線量について,当面は年間1mSv以下を目指すこととしたことが認められるが(同年
5 5月27日付け「福島県内における児童生徒等が学校等において受ける
線量低減に向けた当面の対応について」,甲151),本件解除はこのような文部科学省の対応とは内容及び性質を異にする行政作用であることから,これをもって,直ちに被告に対して,原告らが主張する内容の法的義務を課すると解すべき根拠はなく,原子力安全委員会による基本
10 的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)についても,
後記(4)のとおり,これらが,本件解除の裁量基準を構成するものといえない。
(ウ) 以上のとおり,ICRPの勧告する放射線防護の原則が本件解除の裁量基準を構成するとはいえないことから,本件解除はICRPの勧告す
15 る放射線防護の原則に違反するため違法である旨の主張には理由がない。
(4) 本件解除は基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)の定める手続上の要件を満たさない旨の原告らの主張について
ア 原告らは,基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)は,改正xx災法20条5項に基づく意見,改正xx災法20条6項に基
20 づく助言として本件解除の裁量基準を構成することから,本件解除は,こ
れらに定められた,①解除後の新たな防護措置の実施時期,方法,内容等を定め,必要な準備を行った上で適切に解除すること,②解除の意思決定及び解除後の新たな防護措置の計画の立案に当たって,関連する地元の自治体・住民等が関与できる枠組みを構築し,適切に運用されることという
25 手続的要件を満たす必要があるとした上で,本件解除はこれらの手続的要
件を満たさないため,違法である旨主張する。
イ しかしながら,原告らが手続上の要件として主張する内容は,解除に関する考え方(原安委)において,緊急防護措置の解除の際の留意点として示されたものであるところ,解除に関する考え方(原安委)は,原災法1
5条2項1号に基づく緊急事態応急対策実施区域について,同号に掲げる
5 区域内の居住者等に対し周知されるべき事項として公示されていた緊急時
避難準備区域,計画的避難区域及び警戒区域について,その見直しを含めた緊急事態応急対策を実施すべき区域の在り方及びその区域内の居住者等に対し周知させるべき事項について意見を述べたものであるのに対し,本件解除は,本件設定を受けた住民に対する解除後1年間の積算線量が20
10 mSvを下回ることが確実であることが確認された旨の情報提供であり,
警戒区域,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域とは異なり,緊急事態応急対策実施区域についてのものではない上,公示もされていないことからすると,本件解除に当たって,解除に関する考え方(原安委)における留意点が直ちに当てはまると解することは困難であって,本件解除の手続
15 上の要件になると解することはできない。
ウ したがって,基本的な考え方(原安委)及び解除に関する考え方(原安委)が本件解除の手続上の要件になると解すべき根拠はなく,本件解除はこれらの手続上の要件に違反するため違法である旨の主張には理由がない。
(5) 小括
20 以上によれば,本件解除に国賠法1条1項の違法があるとは認められない
のであって,本件国賠請求は,その余について検討するまでもなく理由がない。
第5 結論
以上のとおり,本件取消しの訴え及び本件確認の訴えは,いずれも不適法で
25 あることから却下することとし,本件国賠請求は,理由がないことから棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
5 裁判長裁判官 x x x x
x判官 x x x x
00
裁判官 野 x x x
(別紙2)
関係法令の定め
1 原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」という。)
5 (1) 原災法1条(目的)
原災法1条は,原災法は,原子力災害(引用者注:原子力緊急事態により,国民の生命,身体又は財産に生ずる被害をいう。原災法2条1号参照)の特殊性にかんがみ,原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務等,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実
10 施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,核
原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「規制法」という。),災害対策基本法(以下「災対法」という。)その他原子力災害の防止に関する法律と相まって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害から国民の生命,身体及び財産を保護することを目的とする旨定める。
15 (2) 原災法15条(原子力緊急事態宣言等)
ア 原災法15条1項は,原子力規制委員会(平成24年法律第47号による改正前は主務大臣。以下同じ。)は,同項各号のいずれかに該当する場合において,原子力緊急事態(引用者注:原子力事業者の原子炉の運転等〔括弧内省略〕により放射性物質又は放射線が異常な水準で当該原子力事業者の原
20 子力事業所外〔括弧内省略〕へ放出された事態をいう。原災法2条2号参照)
が発生したと認めるときは,直ちに,内閣総理大臣に対し,その状況に関する必要な情報の報告を行うとともに,原災法15条2項の規定による公示及び同条3項の規定による指示の案を提出しなければならない旨定め,同条1項1号は,同法10条(原子力防災管理者の通報義務等)1項前段の規定に
25 より内閣総理大臣及び原子力規制委員会が受けた通報に係る検出された放射
線量又は政令で定める放射線測定設備及び測定方法により検出された放射線
量が,異常な水準の放射線量の基準として政令で定めるもの以上である場合,原災法15条1項2号は,同項1号に掲げるもののほか,原子力緊急事態の発生を示す事象として政令で定めるものが生じた場合を掲げる。
イ 原災法15条2項は,内閣総理大臣は,同条1項の規定による報告及び提
5 出があったときは,直ちに,原子力緊急事態が発生した旨及び同条2項各号
に掲げる事項の公示(以下「原子力緊急事態宣言」という。)をする旨定め,同項1号は,緊急事態応急対策(引用者注:同項の規定による原子力緊急事態宣言があった時から同条4項の規定による原子力緊急事態解除宣言があるまでの間において,原子力災害〔原子力災害が生ずる蓋然性を含む。〕の拡
10 大の防止を図るため実施すべき応急の対策をいう。同法2条5号参照)を実
施すべき区域,同項2号は,原子力緊急事態の概要,同項3号は,同項1号及び2号に掲げるもののほか,同項1号に掲げる区域内の居住者,滞在者その他の者及び公私の団体(以下「居住者等」という。)に対し周知させるべき事項を掲げる。
15 ウ 原災法15条3項は,内閣総理大臣は,同条1項の規定による報告及び提
出があったときは,直ちに,同条2項1号に掲げる区域を管轄する市町村長及び都道府県知事に対し,同法28条2項の規定により読み替えて適用される災害対策基本法60条1項及び6項(平成25年法律第54号による改正前は5項)の規定による避難のための立退き又は屋内への退避の勧告又は指
20 示を行うべきことその他の緊急事態応急対策に関する事項を指示するものと
する旨定める。
(3) 原災法16条(原子力災害対策本部の設置)
原災法16条1項は,内閣総理大臣は,原子力緊急事態宣言をしたときは,当該原子力緊急事態に係る緊急事態応急対策を推進するため,内閣府設置法4
25 0条2項の規定にかかわらず,閣議にかけて,臨時に内閣府に原子力災害対策
本部(以下「原災本部」という。)を設置するものとする旨定める。
(4) 原災法17条(原子力災害対策本部の組織)
ア 原災法17条1項は,原災本部の長は,原子力災害対策本部長(以下「原災本部長」という。)とし,内閣総理大臣(括弧内省略)をもって充てる旨定め,同条2項は,原災本部長は,原災本部の事務を総括し,所部の職員を
5 指揮監督する旨定める。
イ 原災法17条9項(平成24年法律第47号による改正前は8項)は,原災本部に,原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間においては緊急事態応急対策実施区域(同法15条2項1号に掲げる区域〔同法20条6項〔平成24年法律第41号による改正前は5項〕
10 の規定により当該区域が変更された場合にあっては,当該変更後の区域〕を
いう。以下同じ。)において当該原災本部長の定めるところにより当該原災本部の事務の一部を行う組織として,原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という。)を置く旨定め,原災法17条12項(平成24年法律第47号による改正前は11項)は,現地対策本部に,原子力災害現地対策
15 本部長(現地対策本部長)及び原子力災害現地対策本部員その他の職員を置
く旨定め,同条13項(平成24年法律第47号による改正前は12項)は,現地対策本部長は,原災本部長の命を受け,現地対策本部の事務を掌理する旨定める。
(5) 原災法18条(原子力災害対策本部の所掌事務)
20 原災法18条は,原災本部は,同条各号に掲げる事務をつかさどる旨定め,
同条1号(平成24年法律第41号による改正前は規定がない。)は,緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するための方針の作成に関すること,同条2号(平成24年法律第41号による改正前は1号)は,緊急事態応急対策実施区域において指定行政機関の長,指定地方行政機関の長,地方公共団体の長そ
25 の他の執行機関,指定公共機関,指定地方公共機関及び原子力事業者の原子力
防災組織が防災計画,原子力災害対策指針(なお,原子力災害対策指針につい
ては,平成24年法律第47号による改正前は規定がない。)又は原子力事業者防災業務計画に基づいて実施する緊急事態応急対策の総合調整に関すること,同条4号(平成24年法律第41号による改正前は2号,同年法律第47号による改正前は3号)は,原災法の規定により原災本部長の権限に属する事務を
5 掲げる。
(6) 原災法20条(原子力災害対策本部長の権限)
ア 原災法20条1項は,原災本部長は,原災法19条の規定により権限を委任された職員の当該原災本部の緊急事態応急対策実施区域における権限の行使について調整をすることができる旨定める。
10 イ 原災法20条2項(平成24年法律第47号による改正前は3項)は,原
災本部長は,当該原災本部の緊急事態応急対策実施区域における緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するため特に必要があると認めるときは,その必要な限度において,関係指定行政機関の長及び関係指定地方行政機関の長並びに原災法19条の規定により権限を委任された当該指定行政機関の職員
15 及び当該指定地方行政機関の職員,地方公共団体の長その他の執行機関,指
定公共機関及び指定地方公共機関並びに原子力事業者に対し,必要な指示をすることができる旨定める。
ウ 原災法20条5項(平成24年法律第41号による改正前は規定がない。)は,原災本部長は,当該原災本部の緊急事態応急対策実施区域における緊急
20 事態応急対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは,関
係行政機関の長及び関係地方行政機関の長,地方公共団体の長その他の執行機関,指定公共機関及び指定地方公共機関,原子力事業者並びにその他の関係者に対し,資料又は情報の提供,意見の表明その他必要な協力を求めることができる旨定める。
25 エ(ア) 平成24年法律第47号による改正前の原災法20条6項(平成24年
法律第41号による改正前は5項。以下「改正xx災法20条5項」とも
いう。)は,原災本部長は,原子力緊急事態の推移に応じ,原子力安全委員会の意見を聴いて,当該原災本部に係る原子力緊急事態宣言において公示された原災法15条2項1号及び3号に掲げる事項について,公示することにより変更することができる旨定めていたが,平成24年法律第47
5 号による改正で,「原子力安全委員会の意見を聴いて」という部分は削除
された。
(イ) 平成24年法律第47号による改正前の原災法20条7項(平成24年法律第41号による改正前は6項。以下「改正xx災法20条6項」ともいう。)は,原災本部長は,当該原災本部の緊急事態応急対策実施区域に
10 おける緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認め
るときは,原子力安全委員会に対し,緊急事態応急対策の実施に関する技術的事項について必要な助言を求めることができる旨定めていたが,平成
24年法律第47号による改正で,削除された。
オ 原災法20条9項(平成24年法律第41号による改正前は8項)は,原
15 災本部長は,同条1項,2項(平成24年法律第47号による改正前は3項)
及び5項(平成24年法律第41号による改正前は規定がない。)の規定による権限(なお,平成24年法律第47号による改正前は,同改正前の原災法20条7項〔平成24年法律第41号による改正前は6項〕の規定による権限も掲げられていたが,同改正で同項が削除されたことに伴い,削除され
20 た。)(括弧内省略)の一部を現地対策本部長に委任することができる旨定
める。
(7) 原災法26条(緊急事態応急対策及びその実施責任)
ア 原災法26条1項は,緊急事態応急対策は,同項各号の事項について行う旨定め,同項1号は,原子力緊急事態宣言その他原子力災害に関する情報の
25 伝達及び避難の勧告又は指示に関する事項,同項2号は,放射線量の測定そ
の他原子力災害に関する情報の収集に関する事項,同項7号は,食糧,医薬
品その他の物資の確保,居住者等の被ばく放射線量の測定,放射性物質による汚染の除去その他の応急措置の実施に関する事項,同項8号は,同項1~
7号に掲げるもののほか,原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止を図るための措置に関する事項を掲げる。
5 イ 原災法26条2項は,原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態
解除宣言があるまでの間においては,指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長,地方公共団体の長その他の執行機関,指定公共機関及び指定地方公共機関,原子力事業者その他法令の規定により緊急事態応急対策の実施の責任を有する者は,法令,防災計画,原子力災害対策指針(なお,原子力災害
10 対策指針については,平成24年法律第47号による改正前は規定がない。)
又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより,緊急事態応急対策を実施しなければならない旨定める。
2 災害対策基本法(以下「災対法」という。)
(1) 災対法60条(市町村長の避難の指示等)
15 ア 原災法28条2項の規定により読み替えた後の災対法60条1項は,原子
力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間において,人の生命又は身体を原子力災害から保護し,その他原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは,市町村長は,必要と認める地域の居住者,滞在者その他の者に
20 対し,避難のための立退き又は屋内への退避を勧告し,及び急を要すると認
めるときは,これらの者に対し,避難のための立退き又は屋内への退避を指示することができる旨定める。
イ 原災法28条2項の規定により読み替えた後の災対法60条6項(平成2
5年法律第54号による改正前は5項)は,都道府県知事は,当該都道府県
25 の地域に係る原子力緊急事態宣言があった場合において,当該原子力緊急事
態宣言に係る原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の発生によ
り市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなったときは,当該市町村の市町村長が災対法60条1項から3項まで(平成25年法律第
54号による改正前は災対法60条1項,2項)及び同条5項前段(同改正前は同条4項前段)の規定により実施すべき措置の全部又は一部を当該市町
5 村長に代わって実施しなければならない旨定める。
(2) 災対法63条(市町村長の警戒区域設定xx)
原災法28条2項の規定により読み替えた後の災対法63条1項は,原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間において,人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認めるときは,
10 市町村長は,警戒区域を設定し,緊急事態応急対策に従事する者以外の者に対
して当該区域への立入りを制限し,若しくは禁止し,又は当該区域からの退去を命ずることができる旨定める。
(3) 災対法116条2号
原災法28条2項の規定により読み替えた後の災対法116条は,同条各号
15 のいずれかに該当する者は,10万円以下の罰金又は拘留に処する旨定め,同
条2号は,原災法28条2項の規定により読み替えた後の災対法63条1項の規定による市町村長(括弧内省略)らの禁止若しくは制限又は退去命令に従わなかった者を掲げる。
以 上
20
(別紙3)
本件各種支援措置について
第1 国民健康保険の一部負担金の免除に関するもの
5 1 法令の定め
(1) 国民健康保険法(平成27年法律第31号による改正前のもの。以下同じ。)ア 国民健康保険法3条1項は,市町村は,国民健康保険を行うものとする
旨定める。
イ 国民健康保険法44条1項柱書及び同項2号は,保険者は,特別の理由
10 がある被保険者で,保健医療機関等に療養の給付を受ける場合の一部負担
金を支払うことが困難であると認められるものに対し,一部負担金の支払を免除する措置を採ることができる旨定める。
(2) 東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律(以下「財政援助助成法」という。)
15 財政援助助成法72条2項は,同条1項の場合(引用者注:東日本大震災
に際し国民健康保険法44条1項2号〔中略〕が適用される場合)において,国は,同号の措置を採る国民健康保険の保険者に対し,予算の範囲内において,当該被災国保被保険者に係る療養の給付(中略)の額から免除前給付費用額を控除した額を補助する旨定める。
20 2 国の行政機関
(1) 厚生労働省保険局長「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律等における医療保険関係の特例措置について」( 保発05
02第3号,平成23年5月2日,都道府県知事宛て)(乙1の1)
同通知は,国民健康保険の保険者は,原災法15条3項の規定による,避
25 難のための立ち退き又は屋内への退避に係る内閣総理大臣の指示の対象地域
であるため避難又は退避を行っているものに該当する被保険者等については,
国民健康保険法44条1項2号の規定により,一部負担金を免除して差し支えないとする。
(2) 厚生労働省保険局国民健康保険課長「東日本大震災により被災した被保険者に対する一部負担金等の免除等の取扱いについて」(保国発0502第1
5 号,平成23年5月2日,都道府県xx主管部(局)国民健康保険主管課(部)
長宛て)(乙1の2)
同通知は,国民健康保険の一部負担金の免除に要する費用等に対する財政支援を講じるとする。
(3) 厚生労働省保険局長「『東日本大震災に対処するための特別の財政援助及
10 び助成に関する法律等における医療保険関係の特例措置について』の一部改
正について」(保発0621第5号,平成23年6月21日,都道府県知事宛て)(乙3)
同通知は,国民健康保険の保険者は,特定避難勧奨地点に居住しているため,避難を行っているものに該当する被保険者等については,国民健康保険
15 法44条1項2号の規定により,一部負担金を免除して差し支えないとする。
(4) 厚生労働省保険局保険課など「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示区域等における被保険者等の一部負担金及び保険料(税)の免除措置等に対する財政支援の延長について」(平成27年2月23日,地方厚生(支)局保険主管課・医療課など宛て)(乙6)
20 同事務連絡は,上位所得層(国民健康保険については,世帯に属する国民
健康保険の被保険者について,平成26年〔平成27年7月までの場合にあっては,平成25年〕の国民健康保険法施行令29条の3第2項に規定する基準所得額を合算した額が600万円を超える世帯。以下同じ。)を除く特定避難勧奨地点の被保険者等の一部負担金であって,平成28年2月29日ま
25 での間に係るもの,特定避難勧奨地点の上位所得層の被保険者等の一部負担
金であって,平成27年9月30日までの間に係るものについて行う免除措
置に対し,平成27年度において,平成27年2月28日までと同様の財政支援を予定しているとする。
3 南xx市
(1) 東日本大震災に係る南xx市国民健康保険一部負担金等の免除取扱要綱
5 (平成23年6月17日南xx市告示第58号。平成23年8月10日南x
x市告示71号による改正後のもの)(乙2,4,弁論の全趣旨)
同要綱1条は,この告示は,国民健康保険法44条1項2号等の規定に基づく国民健康保険一部負担金等の免除について必要な事項を定めるものである旨定め,同要綱2条8号は,一部負担金等の免除の対象者として,平成2
10 3年3月11日に特定被災区域(引用者注:南xx市を含む。財政援助助成
法2条3項。以下同じ。)に住所を有し,特定避難勧奨地点に居住しているため,避難を行っているものを掲げる。
(2) 東日本大震災に係る南xx市国民健康保険一部負担金等の免除取扱要綱
(平成23年6月17日南xx市告示第58号。平成27年2月13日南相
15 馬市告示11号による改正後のもの)(乙2)
同要綱2条7号及び3条3号は,一部負担金等の免除の対象者として,平成23年3月11日に特定被災区域に住所を有し,特定避難勧奨地点に居住しているため,避難を行っているもの(特定避難勧奨地点が解除となり,避難を行っていた場合を含む。ただし,特定避難勧奨地点が解除されたものの
20 うち,世帯に属する国民健康保険の被保険者に係る平成25年の国民健康保
険法施行令29条の3第2項に規定する基準所得額を合算した額が600万円を超える世帯に属するものを除く。)を掲げ,その一部負担金等の免除の期間を,特定避難勧奨地点設定の通知があった日から平成28年2月29日までの期間とする旨定め,同要綱2条9号及び3条5号は,一部負担金等の免
25 除の対象者として,平成26年度中に指定が解除された特定避難勧奨地点の
世帯に属するもののうち,世帯に属する国民健康保険の被保険者に係る平成
26年の国民健康保険法施行令29条の3第2項に規定する基準所得額を合算した額が600万円を超える世帯に属するものを掲げ,その一部負担金等の免除の期間を,特定避難勧奨地点設定の通知があった日から平成27年9月30日までの期間とする旨定める。
5 第2 国民年金の保険料の免除
1 法令の定め(国民年金法)
国民年金法90条1項柱書及び同項5号(平成24年法律第62号による改正前のもの。以下同じ。)は,「保険料を納付することが著しく困難である場合として天災その他の厚生労働省令で定める事由があるとき」に該当する被保険
10 者等から申請があったときは,厚生労働大臣は,その指定する期間に係る保険
料につき,既に納付されたもの及び同法93条1項の規定により前納されたものを除き,これを納付することを要しないものとすることができる旨定め,国民年金法施行規則(平成24年厚生労働省令第101号による改正前のもの)
77条の7は,上記厚生労働省令で定める事由として,①申請のあった日の属
15 する年度又はその前年度における震災,風水害,火災その他これらに類する災
害により,被保険者,世帯主,配偶者又はこれらの者の属する世帯の他の世帯員の所有に係る住宅,家財その他の財産につき被害金額(保険金,損害賠償金等による補充された金額を除く。)が,その価格のおおむね2分の1以上である損害を受けたとき(1号),②申請のあった日の属する年度又はその前年度
20 において,失業により保険料を納付することが困難と認められるとき(2号),
③その他1号及び2号に掲げる事由に準ずる事由により保険料を納付することが困難と認められるとき(3号)を掲げる。
2 国の行政機関
(1) 厚生労働省年金局事業管理課長「東日本大震災に伴い発生した福島第一原
25 子力発電所の事故に係る国民年金保険料の申請免除等の取扱いについて」( 年
管xx0420第2号,平成23年4月20日,日本年金機構本部事業管理
部門担当理事宛て)(乙7)
同通知は,原災法15条3項の規定により,東日本大震災発生日以降,内閣総理大臣により住民の避難のための立ち退き又は屋内への退避の指示を受けた区域を管内に有する市町村(南xx市を含む。)に,平成23年3月11
5 日時点で住所を有していた国民年金第1号被保険者からの免除等の申請につ
いては,国民年金法施行規則77条の7第3号に規定された事由に該当するものとして取り扱うこととする。
(2) 厚生労働省年金局事業管理課長「東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故に係る国民年金保険料の申請免除等の取扱いの変
10 更について」(年管xx0624第6号,平成23年6月24日,日本年金機
構本部事業管理部門担当理事宛て)(乙8)
同通知は,特定避難勧奨地点に居住する住民であって,避難を行った国民年金第1号被保険者からの免除等の申請については,特定避難勧奨地点として特定した旨の通知がされた日の属する月の前月分から,国民年金法施行規
15 則77条の7第3号に規定された事由に該当するものとして取り扱うことと
する。
(3) 厚生労働省年金局事業管理課長「東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故に係る国民年金保険料の申請免除等の取扱いについて」(年管xx0529第2号,平成25年5月29日,日本年金機構本
20 部事業管理部門担当理事宛て)(乙9の1)
同通知は,東日本大震災の発生日である平成23年3月11日時点で南xx市に住所を有していた国民年金第1号被保険者からの国民年金保険料の免除等の申請については,平成26年6月分まで,平成25年厚生労働省令1
36号による改正前の国民年金法施行規則77条の7第4号に規定された事
25 由に該当するものとして取り扱うこととする。
(4) 厚生労働省年金局事業管理課長「東日本大震災に伴い発生した東京電力福
島第一原子力発電所の事故に係る国民年金保険料の申請免除等の取扱いについて」(年管xx0318第3号,平成26年3月18日,日本年金機構本部事業管理部門担当理事宛て)(乙9の2)
同通知は,上記(3)の通知による国民年金保険料の免除申請の取扱いを,平
5 成27年6月分まで延長することとする。
(5) 厚生労働省年金局事業管理課長「東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故に係る国民年金保険料の申請免除等の取扱いについて」(年管xx0323第2号,平成27年3月23日,日本年金機構本部事業管理部門担当理事宛て)(乙9の3)
10 同通知は,上記(3)の通知による国民年金保険料の免除申請の取扱いを,平
成28年6月分まで延長することとする。第3 介護保険の利用者負担の免除
1 法令の定め
(1) 介護保険法(平成23年法律第37号による改正前のもの。以下同じ。)
15 介護保険法50条は,市町村が,災害その他の厚生労働省令で定める特別
の事情があることにより,居宅サービス(括弧内省略),地域密着型サービス
(括弧内省略)若しくは施設サービス又は住宅改修に必要な費用を負担することが困難であると認めた要介護被保険者が受ける同条各号に掲げる介護給付について,同条各号に定める規定(引用者注:介護給付の額を定める旨の
20 規定)を適用する場合においては,これらの規定中「100分の90」とあ
るのは,「100分の90を超え100分の100以下の範囲内において市町村が定めた割合」とする旨定める(これにより,介護給付の額の割合が増加し,要介護被保険者の利用者負担は減免されることとなる。)。
また,介護保険法60条は,市町村が,災害その他の厚生労働省令で定め
25 る特別の事情があることにより,介護予防サービス(括弧内省略),地域密着
型介護予防サービス(括弧内省略)又は住宅改修に必要な費用を負担するこ
とが困難であると認めた居宅要支援被保険者が受ける同条各号に掲げる予防給付について,同条各号に定める規定(引用者注:予防給付の額を定める旨の規定)を適用する場合においては,これらの規定中「100分の90」とあるのは,「100分の90を超え100分の100以下の範囲内において市
5 町村が定めた割合」とする旨定める(これにより,予防給付の額の割合が増
加し,居宅要支援被保険者の利用者負担は減免されることとなる。)。
(2) 財政援助助成法
財政援助助成法89条2項は,同条1項の場合(引用者注:東日本大震災による被害を受けた介護保険の被保険者が受ける介護給付〔括弧内省略〕又
10 は予防給付〔括弧内省略〕について介護保険法50条又は60条の規定が適
用される場合〔括弧内省略〕)において,国は市町村に対し,予算の範囲内において,当該介護保険の被保険者に係る介護給付及び予防給付に要する費用の額から免除前給付費用額を控除した額を補助する旨定める。
2 国の行政機関
15 (1) 厚生労働省老健局介護保険計画課長「東日本大震災により被災した介護保
険の被保険者に対する利用料の免除等の運用について」( 老介発0516第1号,平成23年5月16日,各都道府県介護保険主管部(局)長宛て)(乙1
0)
同通知は,原災法15条3項の規定による,避難のための立ち退き又は屋
20 内への退避に係る内閣総理大臣の指示の対象地域であるため避難又は退避を
行っている者に該当する被保険者等は,介護保険法50条又は60条の規定による利用料免除の対象者として差し支えないとする。
(2) 厚生労働省老健局介護保険計画課長「『東日本大震災により被災した介護保険の被保険者に対する利用料の免除等の運用について』の一部改正について」
25 (老介発0627第1号,平成23年6月27日,各都道府県介護保険主管
部(局)長宛て)(乙12)
同通知は,特定避難勧奨地点に居住しているため,避難を行っているものに該当する被保険者等は,介護保険法50条又は60条の規定による利用料免除の対象者として差し支えないとする。
(3) 厚生労働省老健局介護保険計画課「東日本大震災により被災した被保険者
5 の利用者負担等の減免措置に対する財政支援の延長等について」(平成24年
2月9日,各都道府県介護保険主管部(局)宛て)(乙14)
同事務連絡は,特定避難勧奨地点に居住しているため避難を行っている被保険者の利用者負担免除措置に対する財政支援を平成25年2月28日まで延長することとする。
10 (4) 厚生労働省老健局介護保険計画課「東日本大震災により被災した被保険者
の利用者負担等の減免措置に対する財政支援の延長等について」(平成27年
2月18日,各都道府県介護保険主管部(局)宛て)(乙16)
同事務連絡は,南xx市の特定避難勧奨地点における被保険者の利用者負
担免除措置に対する財政支援の期間を平成28年2月29日まで延長(ただ | ||
15 | し,上位所得層〔被保険者個人の合計所得金額633万円以上を基準とする。〕 | |
については,平成27年9月30日まで)とする予定であるとする。 | ||
3 | 南xx市 | |
(1) 東日本大震災で被災した介護保険の被保険者に対する介護サービス等利用 | ||
者負担額の免除等に関する要綱(平成23年6月17日南xx市告示第59 | ||
20 | 号。平成23年8月10日南xx市告示第72号による改正後のもの)(乙1 | |
1,13) |
同要綱1条は,この告示は,東日本大震災で被災した介護保険の被保険者で介護給付等及び特定介護サービス等に係る利用者負担額(以下「利用者負担額」という。)の納付義務のあるものに対する利用者負担額の支払を免除等
25 することに関し必要な事項を定めるものである旨定め,同要綱3条1項8号
は,市長が,その申請により利用者負担額の支払の免除等をすることができ
る場合として,平成23年3月11日に特定被災区域に住所を有する要介護被保険者等又は要介護被保険者等の属する世帯の生計を主として維持する者が,特定避難勧奨地点に居住しているため,避難を行っているものに該当したことにより生活が困難となった場合を掲げる。
5 (2) 南xx市原子力災害による被災者に対する介護サービス利用者負担額軽減
支援事業実施要綱(平成24年5月28日南xx市告示第58号。平成27年3月27日南xx市告示第39号による改正後のもの)(乙15)
同要綱1条は,南xx市は,原子力災害により設定された旧警戒区域等に住所を有する介護保険の被保険者が,居住していた住家での生活ができず,
10 不自由な生活を余儀なくされている等の状況に鑑み,介護サービスを利用し
た際の利用者負担額を軽減することで経済的支援を図り,もって福祉の向上に資することを目的とする旨定め,同要綱3条は,利用者負担の軽減の対象となる者として,東日本大震災により被災した介護保険の被保険者であって,
①原子力災害に伴い設定された特定避難勧奨地点の住居に居住していたため,
15 避難を行っているもの(ただし,特定避難勧奨地点が解除された被保険者の
うち,個人の合計所得金額が633万円以上の被保険者を除く。)(4号),②平成26年度中に特定避難勧奨地点が解除された被保険者のうち,個人の合計所得金額が633万円以上のもの(6号)を掲げ,同要綱4条1項は,この事業は,軽減対象被保険者(引用者注:同要綱3条に規定される対象者)
20 が介護サービスを利用した場合の利用者負担額について,軽減対象被保険者
の属する保険者たる市が,介護サービスを利用した軽減対象被保険者に代わって,負担限度額の範囲において,当該利用者負担額相当額を負担するものとし,平成24年4月から平成28年3月までの間に審査の対象となる介護サービスに係る利用者負担額を対象とする旨定め,同要綱4条3項は,同条
25 1項の規定にかかわらず,同要綱3条6号(中略)に規定するものについて
は,平成24年4月から平成27年10月までの間に審査の対象となる介護
サービスに係る利用者負担額を対象とする旨定める。第4 障害福祉サービスの利用者負担の免除
1 法令の定め
(1) 障害者自立支援法(平成24年法律第51号により「障害者の日常生活及
5 び社会生活を総合的に支援するための法律」に題名改正。平成22年法律第
71号による改正前のもの。以下「障害者総合支援法」という。)
障害者総合支援法31条は,市町村が,災害その他の厚生労働省令で定める特別の事情があることにより,障害福祉サービスに要する費用を負担することが困難であると認めた支給決定障害者等が受ける同条各号に掲げる介護
10 給付費等の支給について同条各号に定める規定(引用者注:介護給付費等の
額を定める旨の規定)を適用する場合においては,これらの規定中「100分の90」とあるのは,「100分の90を超え100分の100以下の範囲内において市町村が定めた割合」とする旨定める(これにより,介護給付費等の額の割合は増加し,支給決定障害者等の利用者負担は減免されることと
15 なる。)。
(2) 障害者自立支援法施行規則(平成25年厚生労働省令第4号により「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則」に題名改正。平成24年厚生労働省令第40号による改正前のもの。以下「障害者総合支援法施行規則」という。)
20 障害者総合支援法施行規則32条1号は,支給決定障害者等又はその属す
る世帯の生計を主として維持する者が,震災,風水害,火災その他これらに類する災害により,住宅,家財又はその財産について著しい損害を受けたことを,障害者総合支援法31条に規定する厚生労働省令で定める特別の事情として定める。
25 (3) 財政援助助成法
財政援助助成法87条2項は,同条1項の場合(引用者注:東日本大震災