情報化の進展は,金融商品の多様化・複雑化を急速に進めるとと もに,インターネットの普及に象徴されるように,取引の手法や情 報の媒介手段に大きな影響を及ぼすものである。こういった状況に 対応するため,監視委員会においては, 平成5年以降,証券総合シ ステム(SC AN - System )を導入し, 証券会社検査や取引審査に おける分析・ 検索機能の充実を図っている。さらに,平成11 年4月 から,インターネットによる情報収集を可能とするため,監視委員 会のホームページに情報受付コーナーを開設している。
1 証券取引等監視委員会とは
証券取引等監視委員会(以下「監視委員会」という)は,証券取引 及び金融先物取引の公正を図り,証券市場及び金融先物市場に対する投資者の信頼を保持する目的で,平成4 年7月20 日に発足した機関で ある。
当時,いわゆる証券不祥事の発生を契機に,証券行政について, ①裁量を排した,より透明なルールに基づく事後監視型の行政への転換と, ② 証券会社等の監督とルールの遵守を監視する役割との分離が求 められることとなった。その中で監視委員会は,監督行政部門から独立したルール遵守の監視役として,証券会社等に対する検査,日常的な市場監視及び取引の公正を害する犯則事件の調査を通じて,公正・公平かつ透明で健全な市場構築のため中核的役割を果たしていくことが責務とされた。
その後,金融行政の在り方全般の見直しの中で,平成10 年6月22 日 に金融監督庁が発足したが,監視委員会の果たす中立的・客観的な役 割が引き続き重要であるとの観点から, 従来の体制のまま金融監督庁 に移管された。さらに,同年12 月15 日の金融再生委員会の発足に伴い, 金融監督庁及び監視委員会は金融再生委員会に移管され,今日に至っ ている。
現在,金融システムの抜本的な改革が進行中であり,証券分野にお いても,平成10 年12 月1日には, 証券会社の免許制から登録制への移 行,取引所集中義務の撤廃等が実施され,本年10 月には,株式売買委 託手数料が完全自由化され,銀行の証券子会社の業務範囲の制限も撤廃される。また,世界的規模で,情報技術の進展等を背景に,金融商
品の多様化, 取引のグローバル化が急速に進展している。こういった状況下,監視委員会が市場のルールの一層の徹底のために果たすべき役割はますます大きくなるとともに,その対象とすべき取引は複雑化
・広域化している。本公表の対象期間( 平成10 年7月1日から平成11 年6月30 日まで。以下同じ)における活動の詳細は各章で詳述するが, 監視委員会が現在の環境下で,どういった問題意識の下,何を重点に 対処してきたかについて,以下概説する。
2 活動の重点事項
霸 ルール違反への厳正な対応
公正・公平な市場を維持していくためには,ルールの違反者に対 して厳正なペナルティーを課すことにより,投資者間に,市場が適 切に監視されているという信頼感を醸成することが重要である。し たがって,犯則事件の徹底した調査は, 監視委員会の最も重要な任 務の一つである。
本公表の対象期間には,日本エム・アイ・シー株式に係る内部者 取引(インサイダー取引)の嫌疑,昭和化学工業株式に係る相場操 縦の嫌疑及び日本長期信用銀行に係る有価証券報告書の虚偽記載の 嫌疑で強制調査(関係箇所の捜索及び証拠物等の差押え)を実施す るとともに, 内部者取引の事実につき4 件,相場操縦の事実につき
1件,有価証券報告書の虚偽記載の事実につき1件,計6件につい て,証取法違反の罪に該当するとして検察官に対して告発を行った。この結果,監視委員会発足以来7年間に行った告発は,内部者取引 10 件,損失補てん7件,風説の流布2件, 相場操縦2件及び有価証 券報告書の虚偽記載3件,合計24 件にのぼっている。
なお,本公表の対象期間外ではあるが, 日本債券信用銀行に係る 有価証券報告書の虚偽記載の嫌疑についても,強制調査を実施する
とともに,平成11 年8月,検察官に対して告発を行った。
霸 証券会社等の適切な検査
取引ルール遵守の徹底を図っていくためには,証券市場の担い手 である証券会社等が取引ルールに従って行動することが,まずもっ て要求される。そのため,監視委員会は,証券会社等の取引ルール 遵守状況等について検査を行っており, 本公表の対象期間には,国 内証券会社及び外国証券会社80 社に対して検査に着手し,検査が終 了した78 社・機関のうち70 社・機関に対して問題点を指摘した。
検査結果をみると,従来同様,取引一任勘定取引の契約を締結す る行為,投機的利益の追求を目的とした役職員の有価証券売買など が多く認められたほか,有価証券を有しないで行った自己の計算に よる有価証券の売付け,虚偽の記載をした取引報告書を顧客に交付 する行為や, 向い呑み及び呑行為などの法令違反行為も認められて いる。また, 証券会社の営業姿勢や内部管理体制に関する問題点も 多数認められた。これは,役職員の法令遵守意識の欠如や証券会社 の内部管理体制の不備が原因と考えられる。証券会社の役職員は法 令遵守の重要性を強く認識し,公正な業務遂行に向けて一層努力す るとともに, 証券会社は効果的な内部管理体制作りに努める必要が ある。
検査の結果, 証券会社及びその役職員に重大な法令違反が認めら れた34 件, 11 社, 67 人については,行政処分等を講ずるよう金融再 生委員会(平成10 年12 月14 日までは内閣総理大臣)及び金融監督庁 長官に対して勧告を行った。
霸 効果的な市場監視
証券市場では日々膨大な数量の取引が行われている。この中から 不公正な取引を時機を失せずに発見していくためには,情報の効果 的な収集と的確な分析が不可欠である。 このため,監視委員会では,
自ら株価動向等のチェックを行うほか, 自主規制機関との緊密な連 携や一般からの情報収集にも力を入れている。
本公表の対象期間には,価格形成に関する審査104 件,内部者取 引に関する審査165 件,風説の流布等の観点からの審査6件の合計 275 件につき審査を行った。
霸 情報化・国際化への対応
情報化の進展は,金融商品の多様化・複雑化を急速に進めるとと もに,インターネットの普及に象徴されるように,取引の手法や情 報の媒介手段に大きな影響を及ぼすものである。こういった状況に 対応するため,監視委員会においては, 平成5年以降,証券総合シ ステム(SC AN - System )を導入し, 証券会社検査や取引審査に おける分析・ 検索機能の充実を図っている。さらに,平成11 年4月 から,インターネットによる情報収集を可能とするため,監視委員 会のホームページに情報受付コーナーを開設している。
また,各国市場の一体化により,取引の全容を把握するためには, 他国の市場との情報交換が不可欠となる場合も少なくない。このた め,証券監督者国際機構(IOSCO) 等の場を通じて,多国間で の各国監督・ 監視当局との連携強化を図るとともに,非公開情報の 交換など二国間ベースの連携強化を目的として覚書(MOU :Memo- randum of Understanding) の締結への努力も続けている。
3 信頼される市場のために
日本の証券市場や金融先物市場が市場参加者の信頼を確保するため には,監視委員会が適切にその責務を果たしていくとともに,その活 動が正確に関係者に理解されていくことが重要である。監視委員会は, 告発や勧告に際し,報道機関を通じて監視委員会の活動内容や法令違 反の実態の説明に努めるほか,監視委員会のホームページを通じ, 告
発事案や勧告事案についての情報提供を行っている。本公表は,これら日常の情報提供に加え,1年間の活動状況についての公表を行うものであり,監視委員会の活動の全体像を幅広く一般に説明する貴重な機会であるので,できるだけ分かりやすく,具体的な記述に努めたつもりである。
市場の透明性向上のためには,監視委員会の活動もまた,透明であ ることが必要であると考える。市場構造が急速に変貌していく今日,監視委員会の活動について,監視委員会への率直なご意見や,各種の情報等をお寄せいただければ幸いである。
《ご意見,情報等の連絡先》
郵 送 : 霸100- 0013 東京都千代田区霞が関 3 - 1 - 1
証券取引等監視委員会事務局 総務検査課情報処理係 電 話 : 03 - 3581- 7868
FAX : 03 - 5251- 2136
インターネット : http://www. fsa. go. jp/sesc/watch
Ⅰ 監視委員会の活動状況
第1 監視委員会
監視委員会は,委員長及び2人の委員で構成される合議制の機関であ り,その事務を処理するため事務局が置かれている。
1 委員会
監視委員会の議事は,2人以上の賛成をもって決せられ,委員長及 び委員は,独立してその職権を行使する。委員長及び委員は,衆・参 両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命する。その任期は,3年で あり,再任されることができる。また,限られた法定の事由がある場 合を除き,在任中その意に反して罷免されることはない。
平成10 年7月20 日以降3期目に入っており,委員長に佐藤ギン子, 委員には高橋武生及び川岸近衛がそれぞれ就任している。
2 事務局
事務局は,事務局長及び次長の下に総務検査課及び特別調査課の2 課で構成されており,定員は,平成11 年度予算において証券取引検査 官2人,証券取引審査官4人及び証券取引特別調査官2人の増員が認 められ,計106 人となっている。
㐰 総務検査課は,検査,取引審査及び総括の3部門に分かれる。
① 検査部門は,証券取引等の公正確保の観点から証券会社等の検 査を行う。
② 取引審査部門は,証券取引等の公正確保のために日常的な市場 監視を行う。
③ 総括部門は,監視委員会全体の調整部門であり,監視委員会の 会議の運営や金融監督庁長官等に対する勧告・建議に係る事務な どを行う。
㐰 特別調査課は,取引の公正を害する犯則事件の調査を行う。
第2 地方の事務処理組織
地方においては,大蔵省財務局長, 財務支局長, 沖縄総合事務局長(以 下「財務局長等」という)の下に,監視委員会が所掌する事務を専門に 担当する組織が設置されている。定員は,平成11 年度予算において証券 取引検査官4人,証券取引審査官等2人の増員が認められ,計132 人と なっている。
検査及び取引審査については監視委員会の委任を受けて(注),犯則 事件の調査については監視委員会の指揮監督を受けて,財務局長等がそ れぞれこれを行っている。
( 注 ) 監 視 委 員 会 は , 検 査 権 限 及 び 報 告 ・ 資 料 の 徴 取 権 限 の 一 部 を 財 務 局 長 等 に 委 任 し て い る ( た だ し , 必 要 が あ れ ば , 監 視 委 員 会 が 自 ら そ の 権 限 を 行 使 す る こ と が で き る ) 。
第1 概 説
1 犯則事件の調査の目的及び権限
犯則事件の調査は,証券取引等の公正を害する悪質な行為の真相 を解明し,告発により刑事訴追を求めることによって,市場の公正 性・健全性を確保し,投資者保護を図る目的で,監視委員会の設置 に伴い設けられた権限である。
犯則事件の調査については,金融再生委員会及び金融監督庁長官 からの権限の委任に基づいて行う証券会社等の検査とは異なり,監 視委員会職員の固有の権限として,証取法,外証法及び金先法に規 定されており,また,権限行使の対象も証券会社等に限定されず, 投資者を含め広く証券取引等に関与するすべての者に対し,権限を 行使することができる。
具体的な権限としては,犯則嫌疑者又は参考人(以下「犯則嫌疑 者等」という)に対する質問,犯則嫌疑者等が所持し又は置き去っ た物件の検査,犯則嫌疑者等が任意に提出し又は置き去った物件の 領置等の任意調査権限(証取法第210 条,外証法第53 条,金先法第 106 条)と,裁判官の発する許可状により行う臨検,捜索及び差押 えの強制調査権限( 証取法第211 条, 外証法第53 条, 金先法第107 条) がある。
2 犯則事件の範囲及び告発
犯則事件の範囲は,取引の公正を害するものとして政令(証取法 施行令第45 条,外証法施行令第23 条,金先法施行令第14 条)で定め られている。主なものとしては,証券会社による損失補てんのほか,
市場ルールとして何人をも対象とする風説の流布,相場操縦,内部 者取引,発行会社を対象とする有価証券報告書の虚偽記載などがあ る。
監視委員会職員は,犯則事件の調査を終えたときは,調査結果を 監視委員会に報告し(証取法第223 条,外証法第53 条,金先法第119条), 監視委員会は,その調査によって犯則の心証を得たときは,告 発し,領置・差押物件を告発先へ引き継ぐこととなっている(証取 法第226 条,外証法第53 条,金先法第122 条)。
第2 犯則事件の調査・告発実績
1 犯則事件の調査の実施状況
本公表の対象期間においては,日本エム・アイ・シー株式に係る 内部者取引の嫌疑, 昭和化学工業株式に係る相場操縦の嫌疑,日本 長期信用銀行に係る有価証券報告書の虚偽記載の嫌疑により,それ ぞれ犯則嫌疑者等の居宅及び関係事務所等に対し強制調査を実施し たほか,任意調査権限に基づき所要の調査を行った。
2 告発の状況
監視委員会は,犯則事件の調査の結果に基づき,内部者取引の事 実につき4件,相場操縦の事実につき1件,有価証券報告書の虚偽 記載の事実につき1件,計6件を証取法違反の罪に該当するとして 告発を行った。その概要は,以下のとおりである。
弐 大都工業事件(内部者取引)
監視委員会は, 大都工業株式に係る内部者取引の事実につき, 平成10 年7月6日,証取法違反の罪(第166 条第3項, 会社関係者等
の禁止行為)に該当するとして,犯則嫌疑者2人を東京地方検察庁 検察官に対して告発した。
〔告発の対象となった犯則事実〕
大都工業株式会社の関連会社の役員であったA は ,平成9年8 月,大都工業の社員から,同社が会社更生法に基づく更生手続開 始の申立てをすることを決定したことを聞き,自己所有の大都工 業株式を売り付けて損失の発生を回避するとともに,信用取引を 利用して同株式を売り付けた上で株価下落後に買付けを行って利 益を得ようと企て,上記重要事実の公表の前に同株式を売り付け た。
また,大都工業の関連会社の社員の父であるB は,同社員か ら,同社員が大都工業の業務に関与して知った上記重要事実を 聞き,自己所有の大都工業株式を売り付けて損失の発生を回避 しようと企て,上記重要事実の公表の前に同株式を売り付けた。
〔取引の概要〕
A は,合計 2000 株を売り付けて,約2 0万円(手数料等控除 前。以下同じ)の損失を回避すると同時に,信用取引を利用し て合計12万株を売り付け,公表後,すべての信用売り建てを決 済して,約 1280 万円の実現益を得た。 B は,合計11万株を売り 付けて,約 1150 万円の損失を回避した。
〔告発後の経緯〕
平成10年7月17日,被告発人2 人について公訴の提起が行わ れた。 B に対しては,同日,東京簡易裁判所において罰金50万 円の略式命令が出され, 同裁判は確定した。 A に対しては,平成
1 0年11月10日,東京地方裁判所において懲役6月,執行猶予3 年,罰金50万円の判決が宣告され,同裁判は確定した。
弐 日本エム・アイ・シー事件(内部者取引)
監視委員会は,日本エム・アイ・シー株式に係る内部者取引の 事実につき,平成10 年10 月30 日,証取法違反の罪(第166 条第1 項, 会社関係者の禁止行為)に該当するとして,犯則嫌疑者2人 を東京地方検察庁検察官に対して告発した。
〔告発の対象となった犯則事実〕
インテック株式会社の代表取締役専務であったA は,平成7年 11月,自ら関与したインテックと日本エム・アイ・シー株式会 社の業務提携等の交渉において日本エム・アイ・シーがインテッ クを吸収合併することとなったところ,今後の有望分野である非 接触型ICカード事業に絡む企業合併に伴い日本エム・アイ ・シーの株価が高騰することを予想し,あらかじめ日本エム・ア イ・シー株式を買い付けた上で株価高騰後に売付けを行って利益 を得ようと企て,日栄証券の職員であったB と共謀の上,3つの 仮名口座を用いて,上記重要事実の公表の前に同株式を買い付け た。
〔取引の概要〕
合計10 万5000 株を買い付け,公表後,すべての株式を売り付け て,約1億6600 万円の実現益を得た。
〔告発後の経緯〕
平成10 年11 月2日,被告発人2人について公訴の提起が行われ
た。 B に対しては,平成11年3月19日,東京地方裁判所におい て懲役6月,執行猶予3年,罰金50万円の判決が宣告され,同 裁判は確定した。 A については,東京地方裁判所において公判 係属中。
弐 トーア・スチール事件(内部者取引 その1)
監視委員会は,トーア・スチール株式に係る内部者取引の事実 につき,平成10 年12 月17 日,証取法違反の罪( 第166 条第1項, 会社関係者の禁止行為)に該当するとして,犯則嫌疑者2人を東京 地方検察庁検察官に対して告発した。
〔告発の対象となった犯則事実〕
丸紅株式会社の常務取締役として金属部門の業務を統括して いたA は,平成10年8月,丸紅の売買契約先であるトーア・ス チール株式会社が解散することを決定したとの通知を受け,信用 取引を利用してトーア・スチール株式を売り付けた上で株価下 落後に買付けを行って利益を得ようと企て,部下職員のB と共 謀の上,部下の親族名義口座を用いて,上記重要事実の公表の 前に同株式を売り付けた。
〔取引の概要〕
信用取引を利用して合計10 万株を売り付け,公表後,すべての 信用売り建てを決済して,約640 万円の実現益を得た。
〔告発後の経緯〕
平成11年2月10日,被告発人2 人について公訴の提起が行わ れた。 B に対しては,同日,東京簡易裁判所において罰金50万
円の略式命令が出され,同裁判は確定した。 A については,東 京高等裁判所において公判係属中(平成11年4月14日,東京地 方裁判所において, 後記弐の事実とともに懲役1年,罰金200万 円の判決が宣告されたが,控訴)。
弐 トーア・スチール事件(内部者取引 その2)
監視委員会は,トーア・スチール株式に係る内部者取引の事実 につき,平成11 年2月10 日,証取法違反の罪( 第166 条第3項, 会社関係者等の禁止行為)に該当するとして,犯則嫌疑者2人を東 京地方検察庁検察官に対して告発した。
〔告発の対象となった犯則事実〕
鋼材卸会社社長であったC は,丸紅株式会社の常務取締役と して金属部門の業務を統括していたA とかねてより懇意な間柄 にあった。平成10年8月,トーア・スチール株式会社の解散の 決定の通知を受けたA から同事実を知らされ,同時に内部者取 引により利益を得るよう勧められたC は,信用取引を利用して トーア・スチール株式を売り付けた上で株価下落後に買付けを 行って利益を得ようと企て,上記重要事実の公表の前に同株式 を売り付けた( A については,内部者取引の教唆) 。
〔取引の概要〕
信用取引を利用して合計76 万株を売り付け,公表後,すべての 信用売り建てを決済して,約4960 万円の実現益を得た。
〔告発後の経緯〕
平成11 年2月10 日,被告発人2人について公訴の提起が行われ
た。東京高等裁判所において公判係属中( C については,平成
1 1年4月14日,東京地方裁判所において懲役10月,罰金200 万円の判決が宣告されたが,控訴。 A については,前記(3)参照)。
弐 昭和化学工業事件(相場操縦)
監視委員会は,昭和化学工業株式に係る相場操縦の事実につき, 平成11 年3月4日,証取法違反の罪( 第159 条第1項,第2項,相 場操縦行為の禁止)に該当するとして,犯則嫌疑者2人及び犯則 嫌疑法人1社を大阪地方検察庁検察官に対して告発した。
〔告発の対象となった犯則事実〕
株式会社フレックスは証券担保金融業を営むものであるが, 同社の実質的な代表者であった専務取締役A ことB 及び同社職 員は,共謀の上,同社の業務に関し,東京証券取引所第2部に 上場されている昭和化学工業株式につき,平成9年6月から同 年8月までの間,仮名口座を含む15名義口座を用いて,
① 売買取引が繁盛に行われていると誤解させるなど同株式の 売買取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的で,仮装 売買を反復継続し,
② 同株式の売買取引を誘引する目的で,同株式の売買取引が 繁盛であると誤解させ,かつ,同株式の相場を変動させるべ き一連の売買取引( ① の売買を含む)を行い,株価を 860 円 前後から1150 円まで高騰させるなどして,相場操縦を行った。
〔告発後の経緯〕
平成11年3月5日, A 及び株式会社フレックスについて公訴
の提起が行われた。平成11年6月24日,大阪地方裁判所にお いて, A に対して懲役1年6月,執行猶予3年,フレックスに 対して罰金400万円の判決が宣告され,同裁判は確定した。
弐 日本長期信用銀行事件(有価証券報告書虚偽記載)
監視委員会は,日本長期信用銀行に係る有価証券報告書の虚偽 記載の事実につき,平成11 年6月30 日, 証取法違反の罪(第197条第1号,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を 提出する行為)に該当するとして,犯則嫌疑者3人及び犯則嫌疑 法人1社を東京地方検察庁検察官に対して告発した。
〔告発の対象となった犯則事実〕
株式会社日本長期信用銀行は銀行業を営むものであるが,同社 の代表取締役頭取であったA ,代表取締役副頭取であったB 及び C は,共謀の上,同社の業務に関し,平成10年3月期の当期未 処理損失について,真実は約 5847 億円であったのに,関連親密企 業への融資の回収不能部分に対して適正な引当・償却を行わな いことにより,約 3131 億円過少の約 2716 億円に圧縮して計上する など,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出 した。
〔告発後の経緯〕
平成11 年6月30 日,被告発人3人について公訴の提起が行われ た。東京地方裁判所において公判係属中。
第1 概 説
1 検査の意義及び対象
監視委員会は,証取法,外証法及び金先法により金融再生委員会 及び金融監督庁長官から委任された権限に基づき,証券取引等の公 正の確保に係る規定の遵守状況を監視するため,証券会社等に対し て臨店等により検査を行う。
監視委員会の検査は,公益及び投資者の保護を図ることを目的と し,金融再生委員会及び金融監督庁長官の証券会社等に対する必要 な措置及び施策に資するものである。
なお,監視委員会は,検査権限及び報告・資料の徴取権限の一部 を財務局長等に委任している(ただし,必要があれば,監視委員会 は,自らその権限を行使することができる)。
具体的な検査の対象は,以下のとおりである。
① 証券会社及び証券会社の持株会社等 (証取法 第194 条の6 )
② 登録金融機関 (証取法 第194 条の6 )
③ 証券業協会 (証取法 第194 条の6 )
④ 証券取引所 (証取法 第194 条の6 )
⑤ 外国証券会社国内支店及び特定金融機関(外証法 第42 条)
⑥ 金融先物取引所及びその会員 (金先法 第92 条)
⑦ 金融先物取引業者 (金先法 第92 条)
⑧ 金融先物取引業協会 (金先法 第92 条)
(注)( )内の法律条項は,金融監督庁長官から監視委員会へ の検査権限の委任規定である。
検査の範囲は,政令(証取法施行令第38 条,外証法施行令第20 条) 及び金融再生委員会規則(第27 条。金先法関係)で定められている。 例えば,証券会社については,証券会社とその役員又は使用人の禁 止行為(取引一任勘定取引の契約の締結,断定的判断を提供した勧 誘,特別の利益提供を約した勧誘等),損失保証・損失補てんの禁 止,相場操縦の禁止,内部者取引の禁止等についての規定に関する ものを検査することとされている。
第2 検査基本方針及び検査基本計画
検査に係る事務の運営は,毎年7月1日に始まり翌年6月30日に終 わる1年間を検査事務年度として行われる。
監視委員会は,検査事務年度ごとに,自らが行う検査及び財務局長等 が行う検査を計画的に管理・実施するため,検査基本方針及び検査基本 計画を策定する。
検査基本方針においては,その検査事務年度の検査の重点事項,その 他検査の基本となる事項を定め,検査基本計画においては,国内証券会 社,外国証券会社,登録金融機関等のうちその検査事務年度の検査の対 象とするものの種類,数等を定めている。
平成10 検査事務年度(以下「本事務年度」という)については,平成 10 年6月19 日,検査基本方針及び検査基本計画を以下のとおり定めた。
平成10 検査事務年度検査基本方針及び検査基本計画
1 検査基本方針
我が国の証券市場は,自由化・国際化の進展を背景とした金融 システム改革の流れのなかで,大きく変容しつつある。今後,よ り自由な,利便性の高い市場,国際化した市場を目指していくう えで,公正で信頼感のある市場の構築が必要不可欠であり,この ため,取引ルールの整備とそれを実効あらしめる市場監視体制の 充実及びルール違反に対する厳格な対応が要請されている。
一方,市場改革の進展に伴って証券会社の市場仲介者としての 役割・責任が一段と高まっており,市場ルールに則った適正な営 業の確保及び内部管理体制の充実・強化が従来にも増して必要と なっている。
平成9検査事務年度(平成9年7月~平成10 年6月)の検査結 果をみると,依然として一部の証券会社において重大な法令違反 が認められている。また,転換社債,投資信託等の販売時におけ る顧客利益等を軽視した投資勧誘や誠実かつ公正な業務遂行の観 点から問題のある投資勧誘といった営業姿勢上の問題や,管理シ ステムは整備されてきてはいるものの形式的なチェックによるル ール違反の看過等の内部管理上の不備が認められている。
こうした問題の発生は,基本的には,証券会社役職員個々の法 令等ルール遵守意識が未だ不徹底であることに起因するものであ る。
以上のような状況を踏まえ,平成10 検査事務年度(平成10 年7 月~平成11 年6月)における証券会社等検査は,下記により実施 することとする。
Ꝡ 運営要領
証券市場等における取引の公正の確保を図るために,検査部 等と連携しつつ厳正かつ的確な検査を実施することとする。
このため,深度ある検査の実施に向けて,検査体制の拡充・
強化に努めるとともに過去の検査結果の分析等を通じた検査手 法の向上・開発を図ることとする。
また,検査対象会社は,前回検査の結果,前回検査からの経 過期間,各種情報等を総合的に勘案して弾力的に選定すること とし,個別会社の状況に応じた的確かつ効率的な検査の実施に 努めるとともに,別途,機動的な検査を実施する等,より実効 性のある検査運営に努める。
Ꝡ 証券会社検査重点事項
証券会社検査では,次の諸点を重点事項とする。
① 証券取引の公正確保の観点から,法令を中心とした各種 市場ルールの遵守状況を多角的に点検する。
② 証券会社の健全な営業姿勢を確保する観点から,投資勧 誘の実情等を的確に点検する。
③ 証券業務の信頼性確保の観点から,各証券会社における 内部管理体制の整備・運用状況及びその実効性を十分に点 検する。
Ꝡ 金融先物取引業者等検査重点事項
金融先物取引業者等検査では,先物取引の公正確保の観点か ら,市場ルールの遵守状況を重点的に点検するとともに,投資 勧誘の実情等営業姿勢の実態把握に努める。
2 検査基本計画
Ꝡ 証券会社検査
・国内証券会社 73 社
・外国証券会社 6 社
(注1)上記検査以外に, 別途, 機動的な検査等を実施する
(注2)国内証券会社については,上記のほかに,支店のみ
(注3)検査の実施に当たっては,原則として,検査部等と 同時検査を行う。
Ꝡ 金融先物取引業者等検査
・金融先物取引業者 原則として,証券検査の際併せて実
施する。
第3 検査実績
1 検査の実施状況
本事務年度における監視委員会及び財務局長等の検査の実施状況 は,以下のとおりである。
Ꝡ 証券会社等検査
監視委員会及び財務局長等が,本事務年度において検査に着手 した件数は,証券会社80 社である。
これらの内訳は,監視委員会が検査に着手したものが国内証券 会社6社,外国証券会社12 社,財務局長等が検査に着手したもの が国内証券会社62 社である。
本事務年度において着手したもののうち,国内証券会社53 社, 外国証券会社10 社について,本事務年度中に被検査会社に対し検 査結果通知書を交付し,検査が終了している(別表参照)。なお, 前事務年度(平成9検査事務年度)において着手し,前事務年度 末(平成10 年6月30 日)までに検査が終了していなかった国内証 券会社13 社,自主規制機関1機関,金融先物取引業者1機関につ いては,本事務年度中にすべて検査が終了している。
本事務年度中に検査が終了したもの(前事務年度着手分を含む) のうち,重大な法令違反が認められた証券会社11 社,証券会社の 役員又は使用人67 人については,金融再生委員会(平成10 年12 月 14 日までは内閣総理大臣)及び金融監督庁長官に対し勧告を行い, これを受けて業務停止の行政処分等が実施されている(第4章参 照)。
なお,検査において認められた問題点については,行政担当部 局にも連絡し,行政担当部局から被検査会社に対して改善策等の 報告を求めている。
Ꝡ 金融先物取引業者等検査
本事務年度においては,証券検査の際,併せて実施している。
別 表 検 査 実 施 状 況
区 分 | 検 査 計 画 | 検 査 着 手 | 検 査 終 了 |
証券会社 国内証券会社 監視委員会 財務局長等 外国証券会社 | 73 社 73社 6社 | 80 社 68 社 6社 62 社 12 社 | 63 社 53 社 4社 49 社 10 社 |
( 注 1 ) 外 国 証 券 会 社 は , す べ て 監 視 委 員 会 が 検 査 を 実 施 し て い る 。
( 注 2 ) 上 記 の ほ か , 財 務 局 長 等 が 単 独 で 支 店 の 検 査 を 実 施 し た も の が 2 7 支 店 ( う ち , 検 査 を 終 了 し た も の は 2 4 支 店 ) あ る 。
( 注 3 ) 検 査 終 了 欄 は , 本 事 務 年 度 末 ま で に 被 検 査 会 社 に 対 し 検 査 結 果 通 知 書 を 交 付 し , 検 査 が 終 了 し た も の で あ る 。
2 1検査対象当たりの延べ検査投入人員
本事務年度における1検査対象当たりの延べ検査投入人員(臨店 期間分)は,国内証券会社120 人・日,外国証券会社 50 人・日とな っている。
1 検査において認められた問題点
本事務年度の証券会社に対する検査は,取引ルールの遵守状況,投資勧誘の実情等の営業姿勢, 内部管理体制の点検のほか,前回検 査における問題点の改善状況の点検を重点事項として実施した。
本事務年度中に検査が終了した78 社・機関のうち, 70 社・機関に 問題点が認められた。70 社・機関中, 63 社・機関において取引ルー ル違反の問題が認められたほか,証券会社の営業姿勢や内部管理体 制に関する問題点も多数認められた。また,前回検査で指摘した問 題点については,各社ともおおむね改善されてはいるが,同一の問 題が再度発生しているものや,近年,証券事故が多発している状況 にあるものも一部に見受けられた。
本事務年度においても,前事務年度と同様に,金融再生委員会及 び金融監督庁長官に対する勧告事案となる重大な法令違反行為が多 数把握されているが,役職員の法令遵守意識の欠如や証券会社の内 部管理体制の不備が原因と考えられる。証券会社の役職員は法令遵 守の重要性を強く認識し,公正な業務遂行に向けて一層努力すると ともに,証券会社は効果的な内部管理体制作りに努める必要がある。
取引ルールの遵守状況についてみると,従来同様,取引一任勘定 取引の契約を締結する行為,役職員の投機的利益の追求を目的とし た有価証券売買などの法令違反行為や,仮名取引の受託などの自主 規制ルール違反の行為が多数認められているほか,本事務年度にお いては,政令に違反して有価証券を有しないで行った自己の計算に よる有価証券の売付け,虚偽の記載をした取引報告書を顧客に交付 する行為や,向い呑み及び呑行為なども多く認められている。また, 引受証券会社による募集有価証券の販売時における顧客への信用供
与が新たに認められている。
次に, 営業姿勢の状況についてみると, 外国株式等の販売に際し企 業業績や為替リスク等の説明を十分に行わないまま勧誘を行ってい た事例, 同一外貨建て商品間の乗換えにおいて為替コストの負担の ない外貨乗換えについて説明せずに勧誘を行っていた事例, 投資信 託の償還乗換えにおいて乗換優遇措置の適用について説明せずに勧 誘を行っていた事例など, 顧客の利益を軽視した投資勧誘や, 誠実か つ公正な業務遂行の観点から問題のある投資勧誘が認められている。
内部管理体制の状況についてみると,各社ともその体制強化のた めの諸施策を講じてはいるものの,例えば,顧客面談の結果につい ての対応が不十分であったことから証券事故が早期に発見できなか った事例,法令違反行為の全容を把握しながら長期間事故顛末書の 提出を放置していた事例などが認められている。これらの事例の発 生は,管理システムの運用が的確でなく内部管理の実効性が十分に 確保されていないこと,また,実際の運用に携わる管理担当者に法 令・ルールの遵守精神が欠けていることに起因するものと認められ る。
本事務年度中に終了した検査(前事務年度着手分を含む)の結果 認められた問題点を整理すると,以下のとおりである。
篤 取引ルールの遵守状況については,一部の証券会社において, 次のような問題点が認められた。
○ 法令違反で勧告したもの
① 向い呑み及び呑行為
② 虚偽の記載をした取引報告書を顧客に交付する行為
③ 有価証券の価格が騰貴するとの断定的判断を提供して勧誘す る行為
④ 取引一任勘定取引の契約を締結する行為
⑤ 有価証券の売買に関する虚偽報告
⑥ 実勢を反映しない作為的相場を形成させるべき一連の有価証 券の売買をする行為
⑦ 実勢を反映しない作為的相場が形成されることとなることを 知りながら一連の有価証券の売買の受託をする行為
⑧ 役職員の投機的利益の追求を目的とした有価証券の売買
⑨ 損失を負担することを約して勧誘する行為
⑩ 損失の補てんを事後に約束する行為
⑪ 損失を補てんするため財産上の利益を提供する行為
⑫ 有価証券を有しないで行った自己の計算による有価証券の売 付け(空売り)
○ 法令違反であるが勧告に至らなかったもの
⑬ 向い呑み及び呑行為
⑭ 取引一任勘定取引の契約を締結する行為
⑮ 元引受証券会社による安定操作期間内の自己の計算による買 付け
⑯ 顧客の要請なくして親銀行の役職員と共同訪問する行為
⑰ 引受証券会社による募集有価証券の販売時における顧客への 信用供与
○ 自主規制ルール違反
⑱ 不適正な過誤訂正処理
⑲ 立会外分売の公表前の買付勧誘
⑳ 外国株式受注時の証取法による企業内容未開示の未説明
篤 営業員による無断売買
篤 営業員による信用取引及び名義借り
篤 営業員による名義貸し
篤 営業員による仮名取引の受託
篤 営業員による名義借り及び顧客との金銭貸借
篤 従業員限りの広告
篤 営業姿勢については,一部の証券会社において,外国株式,転 換社債等の営業における顧客の利益を軽視した投資勧誘といった 問題点が認められた。
篤 内部管理体制については,一部の証券会社において,次のよう な問題点が認められた。
① 社内管理システムの不備及び不十分な活用
② 役職員の法令遵守意識の不足
なお,検査において指摘した事案のうち「虚偽の記載をした取 引報告書の交付」「向い呑み」「作為的相場を形成させるべき一 連の有価証券の売買等」「空売り規制違反」「取引一任勘定取引 の契約の締結」などの法令違反行為については,その具体的な事 例及び法令違反の該当性についての基本的な考え方を,監視委員 会において整理するとともに,今後の検査の参考となるよう,財 務局長等及び日本証券業協会会長あてに通知した。
2 問題点の事例
検査において認められた上記問題点に関する事例は,以下のとお りである。
篤 取引ルールの遵守状況関係
① ~ ⑫ については,第4章で記述する。
⑬ 向い呑み及び呑行為〔証取法第39 条, 第129 条第1項違反〕
顧客の指値注文を取引所有価証券市場に発注する際,誤発注に より委託注文の価格条件を充足していない価格(例えば,買い注 文であれば指値より高い価格)での取引を行った場合,又は誤発
注により売買相違,銘柄相違での取引を行い,誤発注に気付いた 時点では相場の変動により顧客の本旨に基づく売買が行えず,そ の変動した相場により売買を行った場合において,事務処理上の 過誤がなかったならば成立したであろうと考えられる価格で,自 己が相手方となって顧客との売買を成立させていたものが認めら れた。
( 注 ) 誤 発 注 等 の 事 務 処 理 上 の 過 誤 に つ い て は , 証 券 事 故 と し て 処 理 す る こ と が 適 正 な 取 扱 い で あ る 。
⑭ 取引一任勘定取引の契約を締結する行為〔証取法第42 条第1項 第5号違反〕
国内大口顧客の注文形態であるCD注文,VWAP注文(注) について,証券会社が具体的な執行価格や執行のタイミングを決 定していたが,その受託時において,顧客から指値又は成行注文 の別といった価格についての同意を得ていないものが認められた。
( 注 ) 「 C D ( Careful Discretion ) 注 文 」 と は , 顧 客 が 最 良 執 行 を 要 請 し た 上 で 価 格 に つ い て 証 券 会 社 の 裁 量 に 任 せ る 注 文 形 態 で あ り , 「 V W A P ( Value Weighted Average Price )注 文 」 と は , 約 定 平 均 価 格 に つ い て 当 日 の そ の 銘 柄 の 市 場 に お け る 加 重 平 均 価 格 を 目 標 と す る と の 条 件 を 付 し た C D 注 文 で あ る 。
⑮ 元引受証券会社による安定操作期間内の自己の計算による買付 け〔証取法第42 条第1項第9号に基づく行為規制命令第4条第6 号イ違反〕
元引受契約を締結している転換社債の安定操作期間内において, その発行者が発行する株券及び転換社債につき,法令で認められ ている「安定操作取引」又は「注文の過誤訂正等のための取引」 のいずれにも該当しない自己の計算による買付けを行っていたも のが認められた。
( 注 ) 企 業 が 新 株 等 を 発 行 し て 資 金 調 達 を 行 う 場 合 の , い わ ゆ る 時 価 フ ァ イ ナ ン ス に あ っ て は , ① 流 通 市 場 に お け る 時 価 を 基 に 発 行 価 格 ( 権 利 行 使 価 格 , 転 換 価 格 ) が 決 定 さ れ , そ の 価 格 を も っ て 不 特 定 多 数 の 投 資 者 へ の 募 集 ・ 売 出 し が 行 わ れ る こ と , ② そ の 発 行 価 格 と 時 価 と の 関 係 が 募 集 等 に 応 ず る か ど う か の 投 資 者 の 判 断 に 大 き く 影 響 す る も の で あ る こ と か ら , フ ァ イ ナ ン ス 期 間 に お け る 流 通 市 場 の 価 格 形 成 が 極 め て 重 要 な 意 味 を 持 つ こ と と な る 。
「 安 定 操 作 取 引 」 と は , 有 価 証 券 の 相 場 を く ぎ 付 け し , 固 定 し , 又 は 安 定 さ せ る 目 的 を も っ て , 有 価 証 券 市 場 に お い て 行 う 一 連 の 売 買 取 引 を い い , 証 取 法 に よ り 原 則 と し て 禁 止 さ れ て い る が , 証 取 法 施 行 令 に お い て , 有 価 証 券 の 募 集 ・ 売 出 し を 容 易 に す る た め に 行 う 場 合 に 限 っ て , 一 定 の 条 件 の 下 に 許 容 さ れ て い る 。 さ ら に , 行 為 規 制 命 令 で は , こ の よ う な 許 容 さ れ た 安 定 操 作 取 引 で な い 限 り は , 市 場 の 価 格 形 成 を ゆ が め る お そ れ が あ る た め , 安 定 操 作 期 間 ( 発 行 価 格 決 定 後 で あ っ て , か つ , 申 込 終 了 日 の 2 0 日 前 か ら そ の 終 了 日 ま で , 又 は 申 込 終 了 日 の 2 週 間 前 の 日 か ら 払 込 期 日 ま で の 期 間 を い う ) 内 に お い て 元 引 受 証 券 会 社 が 自 己 買 付 け を 行 う こ と 自 体 が 禁 止 さ れ て い る 。
⑯ 顧客の要請なくして親銀行の役職員と共同訪問する行為〔証取 法第45 条第3号に基づく平成11 年4月1日改正前の行為規制命令 第12 条第4号違反〕
支店の営業員等が,親銀行の使用人とともに訪問すべき旨の要 請を顧客から受けていないにもかかわらず,親銀行の使用人とと もに顧客を頻繁に訪問していたものが認められた。
⑰ 引受証券会社による募集有価証券の販売時における顧客への信 用供与〔証取法第46 条違反〕
自社が引受人となっている有価証券の募集に際して,顧客が買 付代金の入金を文書扱いの振り込みで行った等の事情から,払込 日までに入金されないこととなったため,その買付代金について 当社が立替えをすることにより,顧客に対し信用の供与を行って いたものが認められた。
⑱ 不適正な過誤訂正処理〔東京証券取引所業務規程第41 条第1項
違反〕
過誤訂正等のための売買立会いによらない売買取引の承認申請 について,営業員段階での注文出し忘れ等の事務処理ミスを,取 引所の業務規程で認められている「売買担当の過誤(委託注文の 出し忘れ等)」として承認申請したり,また,顧客に約定価格の 連絡間違いをしたものについて,虚偽の理由や内容を記載して承 認申請し,取引所の承認を得ていたものが認められた。
⑲ 立会外分売の公表前の買付勧誘〔東京証券取引所業務規程第46条第2項, 名古屋証券取引所業務規程第45 条第2項違反〕
複数の支店において,地元銘柄の立会外分売(注)に際して, 支店の法人担当者が発行会社から入手した分売予定の情報を支店 長等に報告したところ,支店長等が顧客に勧誘するようにという ことで事前に分売情報を支店内に流し,その情報を受けた営業員 が取引所の発表前に多数の顧客に対し買付勧誘を行っていたもの が認められた。
( 注 ) 「 立 会 外 分 売 」 と は , 顧 客 が 大 量 の 売 り 注 文 を 委 託 し た 場 合 , 立 会 外 で 広 く 一 般 投 資 者 に 分 売 へ の 参 加 を 求 め る こ と に よ り , そ の 大 量 注 文 の 換 金 性 を 確 保 す る と と も に , 売 買 立 会 場 内 で の 混 乱 及 び 相 場 の 激 変 を 回 避 す る 趣 旨 で 設 け ら れ た 市 場 内 取 引 の 一 種 で あ る 。
⑳ 外国株式受注時の証取法による企業内容未開示の未説明〔日本 証券業協会公正慣習規則(以下「日証協公慣規」という)第4号
「外国証券の取引に関する規則」第12 条第3項違反〕
外国株式については,顧客から銘柄の照会があった場合,業績 内容等の情報を顧客に提供するなどして注文を得る営業が主にな っていたが, 顧客からの受注に際し, 営業員が「その外国証券につ いては,わが国の証取法に基づく企業内容の開示は行われていな い」旨の説明を行っていないものが多数認められた。
篤 営業員による無断売買〔日証協公慣規第8号「証券従業員に関 する規則」第9条第3項第4号違反〕
営業員が,保護預りになっていた顧客の株式について,その株 価に動きがなかったことから,他の銘柄を買うために,顧客の同 意を得ずに株式の売却を行ったものが認められた。
篤 営業員による信用取引及び名義借り〔日証協公慣規第8号「証 券従業員に関する規則」第9条第3項第7号, 第13 号違反〕
営業員が,営業成績向上等のため,知人の口座を使用し,自己 の計算による信用取引を行っていたものが認められた。
篤 営業員による名義貸し〔日証協公慣規第8号「証券従業員に関 する規則」第9条第3項第11 号違反〕
営業員が,株式の売出しに際して勧誘した顧客に対し,他の扱 い顧客の名義を使用させて株式を買い付けさせていたものが認め られた。
篤 営業員による仮名取引の受託〔日証協公慣規第8号「証券従業 員に関する規則」第9条第3項第12 号違反〕
営業員が,前任者からの引継ぎの際,口座が仮名口座であるこ とを告げられたものの,その顧客が古くからの大口顧客であった ことから安易に取引を継続させ,仮名口座による取引を受託して いたものが認められた。
篤 営業員による名義借り及び顧客との金銭貸借〔日証協公慣規第
8号「証券従業員に関する規則」第9条第3項第13 号, 第17号違反〕
営業員が,顧客から「資金と自分の口座を貸すので,株式取引 を行ってはどうか」と言われ,その顧客の損失の補てん原資を捻 出するために,借用した資金と口座を使用して株式取引を行って いたものが認められた。
篤 従業員限りの広告〔日証協公慣規第8号「証券従業員に関する 規則」第9条第3項第20 号違反〕
営業員が,社内限りの資料等を利用してパンフレットを作成し, 内部管理者の審査を受けないままに,顧客の要請に応じて,これ を多数の顧客に対し持参又は提示して,広告をしていたものが認 められた。
篤 営業姿勢関係
○ 証券会社による顧客の利益を軽視した投資勧誘
イ アジアの高利回りの短期債を主たる投資対象とし,アジア 各国通貨と連動性が高い米国ドルでリスク・ヘッジを行う追 加型株式投資信託について,その商品の性格の理解や商品知 識が十分でない顧客に対して,為替リスクの説明が不十分な まま,当初の決算以来の運用実績を強調した商品説明を行っ て販売していた事例が認められた。
ロ 自社が引き受けた新発転換社債について,転換社債の知識 が十分でない顧客に対して,当時の新発転換社債の市況が悪 化していること等を十分説明せずに,従来みられた新発転換 社債の上場後の短期の値上がり期待を強調して勧誘を行い, 購入後に短期の損切り売却が多数発生している事例が認めら れた。
ハ 外貨建債券に関しては,経過利息に対する課税相当額が買 手から売手へ転嫁されないため,利払日直前の一定期間内に 外債を購入すると,前利払日からの保有期間に応じて日割計 算で買手が売手へ支払う経過利息の額のほうが,利払日に買 手が受け取る税引後の経過利息の額よりも大きくなる逆ざや が生じることがあるが,このような逆ざや期間中の外貨建債
券の販売に際し,証券知識が十分でない顧客に対して,逆ざ やになる旨の十分な説明をしていない事例が認められた。
ニ 外国株式の買付勧誘に際して,その企業業績について十分 な説明を行わずに,外国株式の投資経験が十分でない顧客に 対して,積極的な投資勧誘を行っている事例が認められた。 ホ 同一外貨建商品間の乗換えにおいて,外国証券取引の知識 や経験が十分でない顧客に対して,円貨換算した取引は外貨 乗換えに比べて為替コストが余分な負担となることを説明し て理解させることなく,円貨換算した乗換売買を勧誘してい
る事例が認められた。
ヘ スイッチング(注)が可能な選択型投資信託内のファンド 間の乗換えについて,顧客に対してスイッチングの説明を十 分に行わず,不要な手数料を負担させることとなる乗換売買 を勧誘している事例が認められた。
( 注 ) グ ル ー プ 内 の 各 フ ァ ン ド 間 の 乗 換 え を 手 数 料 を 要 せ ず に 可 能 と す る 制 度 。
ト 投資信託の償還乗換えの際の優遇措置(注)を顧客に説明 せず,その優遇措置を利用しないまま投資信託を新たに購入 させている事例が多数認められた。
( 注 ) 投 資 信 託 の 償 還 ( 信 託 期 間 を 延 長 し た フ ァ ン ド を 解 約 し た 場 合 を 含 む ) を 受 け た 顧 客 が , そ の 支 払 を 行 っ た 証 券 会 社 で 再 度 投 資 信 託 を 購 入 す る 場 合 に は , そ の 償 還 金 額 に 対 応 す る 購 入 口 数 に つ い て 手 数 料 な し で 購 入 で き る 制 度 。
篤 内部管理体制関係
① 社内管理システムの不備及び不十分な活用
イ 自己売買の管理について,売買執行者と管理担当者が同一 人となっていて,日常の売買チェックが実質行われていなか
ったほか,売買審査も執行者が役員であることから内部牽制 が機能していなかったために,作為的相場を形成させるべき 一連の有価証券の売買を執行する行為が繰り返し行われてい る事例が認められた。
ロ 日本証券業協会の規則の改正により,打刻機の適正な運用
・管理について社内規則の整備が義務付けられたにもかかわ らず,未作成である事例や,打刻機の鍵が常時差し込まれ, 日時の操作も安易に行われているなど,打刻機の不適正な取 扱いが行われている事例が認められた。
ハ 顧客の発注ミスに基づき市場で成立した売買取引について, 本来顧客の自己責任で処理すべきであるにもかかわらず,顧 客の計算で反対売買させることなく,自己勘定で引き取って いる事例で,内部管理部門による訂正理由等のチェックが十 分に行われていなかったことに起因するものが認められた。
ニ ファイナンス銘柄の転換社債の安定操作期間内における自 己買付けの事例において,自己買付け規制期間の確認を売買 執行部門の発注者のみが行っており,その他のチェック体制 がなかったこと,また,株式については売買監査部が「ファ イナンス銘柄売買状況表」を出力して事後チェックを行って いたものの,転換社債については,売買量が少ないことから 事後チェックが行われていなかったことに起因するものが認 められた。
ホ 外国株式受注時の企業内容開示に係る未説明の事例におい て,数年前に社内通知を出した後,何ら営業員にルールを十 分に理解させる措置がとられていないことや,わが国では企 業内容が未開示であることを記載した投資確認書の受入状況 の確認が部店の管理部門において徹底されていなかったこと
に起因するものが認められた。
ヘ アテンション指摘口座(注1)や「信用・先物・オプショ ン取引改善勧告」(注2)に該当する顧客について,営業員 の担当上司が顧客面談を行いその結果を業務管理部に報告す ることになっていたが,面談結果による対応が不十分であっ たり,的確な面談が行われていないことから,証券事故の早 期発見ができなかった事例のほか,面談内容について虚偽の 報告書を提出したり,面談を実施していないにもかかわらず, 実施したとして虚偽の面談報告を行っている事例や,本来の 面談者である営業員の担当上司や部店長が面談を行わず,営 業員自身が面談を実施している事例が認められた。
( 注 1 ) 証 券 会 社 で は , 顧 客 の 売 買 頻 度 や 損 益 状 況 等 の 取 引 状 況 に つ い て 一 定 の 基 準 を 設 け , こ の 基 準 を 超 え る 取 引 を 行 っ て い る 顧 客 に つ い て は , 営 業 員 以 外 の 社 員 に よ る 面 談 結 果 を 報 告 さ せ る な ど し て , 不 適 切 な 投 資 勧 誘 の 未 然 防 止 に 努 め て お り ( ア テ ン シ ョ ン シ ス テ ム ) , こ の ア テ ン シ ョ ン シ ス テ ム に よ り 抽 出 さ れ た 取 引 口 座 を い う 。
( 注 2 ) 信 用 取 引 , 先 物 取 引 , オ プ シ ョ ン 取 引 に お い て , 委 託 保 証 金 や 必 要 証 拠 金 が 維 持 率 を 下 回 っ た 場 合 ( 追 い 証 が 必 要 な 場 合 ) に , 取 引 内 容 の 改 善 を 指 示 す る も の 。
ト 顧客に送付した取引報告書があて先不明等により返戻とな ったものを「戻り便調査票(管理簿)」により管理し,営業 員及び総務課において住民票調査等を行って,居所が判明し た場合には遅滞なく顧客に再送付することとしていたが,戻 り便発生後の営業現場における調査や社内監査における戻り 便処理状況に係る監査が不十分であったことから,戻り便が 社内において多数滞留している事例が認められた。
チ 投資信託の償還乗換優遇枠を利用しないで約定した場合,
翌日,投信償還乗換優遇枠チェックリストが各部店に配信さ れてチェックできる体制になっていたが,内部管理責任者が チェックリストの配信理由及び利用方法を理解していなかっ たため,これを活用することができず,償還乗換優遇として 処理しないで,顧客に不要な手数料を負担させている取引が 多数発生している事例が認められた。
リ 向い呑みや虚偽の記載をした取引報告書の交付の事例にお いて,これらの取引が約定日の翌日に社内のアンマッチリス トに記載されていたほか,営業部門から受渡部門に対して社 内指示書が発出されていたり,あるいはエラーレポートが提 出されていたが,いずれも監査部においてチェックされてい ないために見過ごされていたものが認められた。
② 役職員の法令遵守意識の不足
イ 自己売買担当者が,当日中に買い戻す日計りは空売り規制 の適用除外となると誤認していたため,長期間にわたり空売 り規制違反となる行為が行われている事例が認められた。
ロ 約定連絡ミスを取り繕うために事実と異なる内容の取引報 告書を顧客に交付することについて,内部管理責任者がこれ を了解し,さらに,内部管理統括責任者である支店長も,ミ スの発生とその処理方法について報告を受け,これを安易に 了解している事例が認められた。
ハ 内部管理統括責任者等の日本証券業協会規則に対する認識 が不十分であったことから,退職した広告責任者の後任の任 命が行われず,広告等の作成資料について広告責任者による 事前審査が行われていない事例が認められた。
ニ 営業員が顧客からCD注文やVWAP注文を受託した場合 には,注文伝票の価格欄に「CD」と記載していたが,注文
伝票を営業責任者や内部管理部門がチェックしていなかった ことや法令の認識が欠如していたことから,これら一部一任 とみられる注文伝票が見過ごされており,法令違反となる行 為について営業員に対する指導が行われていない事例が認め られた。
ホ 日本証券業協会に提出した証券事故の事故顛末報告書の処 分欄に,実際には自主退職が行われているにもかかわらず,
「諭旨解雇を決定」との記載がされ,事実と異なる報告が行 われた事例が認められた。
ヘ 横領事件に係る証券事故について,事故調査担当部門に事 案の全容を解明しようとする意識が欠けていたことから,横 領資金が他の顧客へ支払われている事実を把握しながら,損 失補てん等の法令違反行為についての事実関係の解明を行わ なかった事例が認められた。
ト 社内調査により法令違反行為を認定するに足る事実関係を 把握していて,事故顛末書を提出することが可能な状況であ ったにもかかわらず,担当者の異動に伴う十分な事務引継ぎ がなされていなかったことから,長期間事故顛末書の提出を 放置していた事例が認められた。
チ 顧客から苦情の申立てがあった場合,各営業部店長が経緯 書を作成して営業考査部顧客室に報告することとなっており, 報告及び事実関係の調査等によって同室が営業員の法令違反 行為等の証券事故を把握していたにもかかわらず,また,監 査部が社内検査において営業員の禁止行為を指摘していたに もかかわらず,行政当局及び日本証券業協会に対し事故連絡 書等の提出を行っていない事例が認められた。
金融先物取引業者に対する検査については,証券会社に対する検査と 同様,取引ルールの遵守状況の点検等を重点項目として実施した。
検査の結果,1機関に取引一任勘定取引の契約の締結(法令違反)が 認められ,勧告を行った(その事例については,第4章第2 - 1 - ③ で記述する)。
第6 自主規制機関に対する検査
平成4年7月の改正証券取引法(いわゆる公正確保法)の施行により, 日本証券業協会及び証券取引所の自主規制機関としての性格が明確化さ れ,併せてその体制整備が図られた。今後,金融システム改革が進展す る中で,証券市場の透明性・公正性の確保への要請はより一層増大する ものと予想されるところであり,自主規制機関は有価証券取引等の公正 の確保に係る業務(監査,処分等)をより充実・強化し,監視委員会と 協力・協調しつつ市場監視の中核的役割を果たす必要がある。
こうした観点から,平成10 年4月から同年7月にかけて,日本証券業 協会が行う公正確保業務の執行状況について検査を実施した。
検査の結果,協会の公正確保業務については,その実施面,体制面に おいていまだ十分な状況にあるとはいえず,次のような改善措置を講ず る必要があるものと認められた。
鐰 監査の効率化を図り,かつ,深度ある監査を実施するため,以下 のような監査実施面の見直しを行う。
① 網羅的・形式的な点検に終始することなく,監査項目の絞り込 み等により法令遵守の監査を実施するなど,その重点化を図る。
② 監査対象会員に係る情報の収集,分析・検討を監査に先立って
行うなど,事前準備を充実する。
③ 本店監査にとどまることなく臨店数を増やすとともに,監査項 目等に応じて,原則6か月となっている監査対象期間を拡大する。
④ 実地検査を基本としつつ,監査対象・監査目的に応じて書類監 査等を活用する。
篤 監査能力の向上を図るため,監査結果を総合的に分析し審査する 機能を強化するとともに,複雑化する証券取引に対応するための監 査手法の開発等を行う。
篤 会員の法令・諸規則違反等に対する自主規制機関としての処分業 務を適切に遂行するため,役職員の法令違反等に係る会員の責任を 認定する際の考え方及び処分基準を整備する。
篤 会員に対して法令遵守の徹底や内部管理体制の改善を求めるため の勧告は,これまで専ら会員処分に伴い行われてきているが,会員 処分を行わない場合でも,証券事故の多発等会員の法令等の遵守状 況が適当でないものについては是正を求めるなど,勧告等の積極的 な活用を図る。
篤 上記の諸施策を実施するための体制整備等を行うとともに,より 一層の監査要員等の増員に努める。
第1 概 説
監視委員会は,検査又は犯則事件の調査を行った場合において,必要 があると認めるときは,その結果に基づき,証券取引等の公正を確保す るため行うべき行政処分その他の措置(以下「行政処分等」という)に ついて金融再生委員会及び金融監督庁長官又は大蔵大臣に勧告すること ができる(設置法第29 条第1項)。
具体的には,証券会社等の法令違反行為が把握された場合に行政処分 等を求める勧告,証券会社等の法令違反行為に対して自主規制機関が必 要な処分等を行っていない場合に,自主規制機関に処分等を行わせるこ とを求める勧告などが挙げられる。
監視委員会から勧告を受けた金融再生委員会及び金融監督庁長官並び に大蔵大臣は,これを尊重しなければならず(同条第2項),また, 監視委員会は,金融再生委員会及び金融監督庁長官又は大蔵大臣に対し, 勧告に基づいて執った措置について報告を求めることができる(同条第
3項)。
監視委員会から行政処分等を求める勧告を受けた金融再生委員会及び 金融監督庁長官又は大蔵大臣は,監視委員会の検査結果等を踏まえ,改 めて当事者に対する聴聞を行った上,相当と認められる場合には業務停 止等の行政処分等を命じることとなる。
なお,証券会社の外務員に対する行政処分等を含めた外務員の登録に 関する事務については,金融再生委員会から日本証券業協会に委任され ていることから(証取法第64 条の7第1項),日本証券業協会は,監視 委員会の検査結果等を踏まえ,改めて当事者に対する聴聞を行った上, 相当と認められる場合には,外務員登録の取消処分又は外務員の職務の
第2 勧告の実施状況及び勧告に基づいて執られた措置
監視委員会は,本公表の対象期間において,証券会社に対する検査及 び犯則事件の調査の結果に基づき,金融再生委員会(平成10 年12 月14 日以前は内閣総理大臣)及び金融監督庁長官に対し,法令違反等の事実が 認められた証券会社及び証券会社の役職員に対して行政処分等を行うこ とを求める勧告を36 件実施している。このうち検査結果に基づくものが 34 件(財務局長等の検査結果に基づくもの30 件を含む),犯則事件の調 査結果に基づくものが2件となっている。
また,勧告のうち,証券会社(役職員の行為を含む)について行政処 分を求める勧告を行ったものが12 件,証券会社の役職員について勧告を 行ったものが24 件で,勧告の対象になった役職員は71 人となっている。 勧告の対象となった法令違反等の行為者別・内容別の事実関係及び金
融監督庁長官が行った主な処分の事例は,以下のとおりである。
1 会社の法令違反行為
① 向い呑み及び呑行為〔証取法第39 条, 第129 条第1項違反〕
○ 神栄石野証券は,債券部長等の関与により,平成7年4 月11 日から平成10 年8月27 日までの間,営業部店の営業推進のため, あらかじめ転換社債を自己で買い付け,顧客の買付委託注文が ないにもかかわらず,一定の数量を自己売り委託買いの形で市 場クロス取引を執行した上で,芦屋支店ほか15 部店に情報提供 して買付勧誘を行った。その後,多数の顧客から受託した転換 社債の買付委託注文を市場に発注することなく,あらかじめ手 当てしていた転換社債を委託注文のあった顧客に付け替えるこ
とにより,実質的に当社が相手方となって売買を成立させた。 これは,価格変動等の理由で市場クロス取引を執行できなかっ た場合には付替え処理を行うこともやむを得ないと考えていた ことによるものであった。
また,平成10 年8月27 日,東京支店第一営業部長の関与によ り,特定の顧客からの買付委託注文に基づく一定数量の転換社 債の売買が成立していたが,この転換社債の一部を他の顧客に 販売することにより取引の拡大を図るため,複数の顧客から買 付委託注文を受託した上,これを市場に発注することなく,上 記の特定の顧客が市場で買い付けていた転換社債の一部を付け 替えることにより,当社が相手方となって売買を成立させた。
・勧告年月日 平成11 年5月19 日
・行政処分の内容 ① 転換社債の自己売買に係る業務の停
止1週間
② 市場商品部の転換社債の売買に係る 市場への取次業務の停止3日
③ 本店,東京支店(東京西営業所を除 く),芦屋支店の転換社債の売買に係 る受託業務の停止1週間
④ 本店,東京支店(東京西営業所を除 く),芦屋支店を除く営業所の転換社 債の売買に係る受託業務の停止3日
( 注 ) 上 記 の 処 分 内 容 は , 上 記 法 令 違 反 と と も に 勧 告 を し た 「 虚 偽 の 記 載 を し た 取 引 報 告 書 を 顧 客 に 交 付 す る 行 為 」 の 事 実 ( 後 記
② 参 照 ) に 係 る 処 分 を 含 む 。
② 虚偽の記載をした取引報告書を顧客に交付する行為〔証取法第 41 条違反。外証法第51 条第3号, 第14 条第1項で準用する場合を 含む〕
○ インスティネット証券東京支店は,平成10 年5月18 日に顧客 から店頭株式の売付委託注文を受託し,取次母店に発注した。 その委託注文を執行したトレーディング部課長は,取次母店か らの約定連絡を取引時間中に顧客に連絡していたが,取引時間 終了後確認したところ,既に顧客に連絡した約定内容と実際の 約定内容とが異なっていることに気付いた。しかし,自分の誤 りを顧客に知られたくない等の理由から,上司のトレーディン グ部長の了承を得た上で,顧客に訂正のための連絡を行うこと なく,実際の約定内容と異なる内容で入力処理を行い,虚偽の 記載をした取引報告書を作成して,顧客に交付した。
・勧告年月日 平成10 年10 月12 日
・行政の執った措置 東京支店長に対する口頭注意
○ ドレスナー・クラインオート ベンソン証券東京支店の国内 営業部等の営業員は,平成9年8月から平成10 年7月までの間, 顧客の委託注文に基づく取引のうち18 取引について,取引所で 成立した約定価格を誤って顧客に連絡した。
同支店は,約定連絡後,取引所からの約定報告等により約定 内容の確認を行い,誤りに気付いたにもかかわらず,既に連絡 した約定内容の誤りを顧客に連絡すると支店の評価が落ち,今 後の取引に影響があると考えたこと等の理由から,顧客に訂正 のための連絡を行うといった正当な処理をすることなく,市場 で成立した取引を自己勘定に付け替えるとともに,顧客に誤っ て連絡した価格による取引を成立させるため,取引所に対し虚 偽の理由により過誤訂正取引の申請を行い,取引所の承認を得 て,立会外での取引を成立させ,これを顧客の取引として売買 約定処理を行い,虚偽の記載をした取引報告書を作成して,顧 客に交付した。
・勧告年月日 平成10 年11 月13 日
・行政処分の内容 株式部,国内営業部及び外国法人部の業
務のうち株式の売買に係る受託業務の停 止2日
○ 神栄石野証券は,平成10 年8月27 日における前記① の向い呑 み及び呑行為に際し,東京支店第一営業部長の関与により,買 付けを受託した特定の顧客の転換社債について,取引所で実際 に成立した数量の一部を他の複数の顧客に付け替え,特定の顧 客には一部が不出来であるとの報告を行い,実際の約定内容と 異なる過少の数量を記載した虚偽の取引報告書を作成して,そ の顧客に交付した。
・勧告年月日 平成11 年5月19 日
・行政処分の内容 神栄石野証券の行った前記① 「向い呑み
及び呑行為」の事実に係る処分を参照。
③ 取引一任勘定取引の契約を締結する行為〔金先法第74 条第3号 違反〕
○ 南都銀行は,平成4年2月から平成6年11 月にかけて,資金 証券部の行員の関与により,6顧客の金融先物取引の受託につ き,種類(日本円短期金利先物) ,件数(取引枚数)等につい ては事前に同意を得ているものの,期限(取引対象の限月), 約定数値(価格),売買の別及び期限前に決済すること(転売
・買戻し)について,顧客の同意を得ないで定めることができ ることを内容とする契約をそれぞれ締結した上で,平成4年2 月から平成9年8月までの間,取引を受託,執行した(売買回 数1133 回, 売買数量 9 万8718 枚) 。
・勧告年月日 平成10 年8月27 日
・行政処分の内容 資金証券部の金融先物取引に係る受託業
務の停止1日
④ 実勢を反映しない作為的相場を形成させるべき一連の有価証券 の売買をする行為〔証取法第42 条第1項第9号に基づく行為規制 命令第4条第3号違反〕
○ 三田証券は,自己が保有する株式のうち,多額の評価損が生 じていた2銘柄の株式について,自社の決算期末及び中間期末 の評価損の縮小を図るため,その株価を引き上げる目的をもっ て,自己の計算による一連の成行又は高い指値の買付けを行う 方法により,平成9年3月31 日,専務取締役の関与により,一 方の銘柄については午後1時23 分から2時56 分までの間,他方 の銘柄については午前10 時40 分から午後2時32 分までの間,そ れぞれ一連の買付けを行った。
また,平成9年9月30 日,代表取締役の関与により,一方の 銘柄については午前10 時44 分から午後2時23 分までの間,他方 の銘柄については午前10 時43 分から午後2時56 分までの間,そ れぞれ一連の買付けを行った。
・勧告年月日 平成10 年9月25 日
・行政処分の内容 株式の自己売買に係る業務の停止2週間
○ 東海丸万証券は,平成9年5月16 日,株式部長の関与により, 顧客が決算対策のために行った,当社との対当取引による株価 指数オプション取引の売建てを買い戻す際,当社と顧客との双 方に損益を発生させずに,当社の売付けと顧客の買付けを一定 の価格で対当させるため,オプションの価格を一定の価格まで 引き上げる目的をもって,自己の計算による一連の高い指値の 売付け及び買付けの対当取引を行う方法により,午前9時33 分 から10 時57 分までの間,一連の取引を行った。
・勧告年月日 平成10 年12 月21 日
・行政処分の内容 ① 株価指数オプション取引の自己売買
に係る業務の停止1週間
② 責任の所在の明確化,内部管理体制 の充実・強化及び役職員の法令・諸規 則の遵守の徹底に係る業務改善命令
( 注 ) 上 記 の 処 分 内 容 は , 上 記 法 令 違 反 と と も に 勧 告 を し た 「 損 失 を 補 て ん す る た め 財 産 上 の 利 益 を 提 供 す る 行 為 」 の 事 実 ( 後 記
⑥ 参 照 ) に 係 る 処 分 を 含 む 。
⑤ 実勢を反映しない作為的相場が形成されることとなることを知 りながら一連の有価証券の売買の受託をする行為〔証取法第42 条第1項第9号に基づく行為規制命令第4条第3号違反〕
○ 丸金証券第三営業部歩合外務員は,特定の顧客が,特定の株 式の信用取引売り建玉に係る決済損を回避するため,成行売り 注文を連続して発注する方法により株価を引き下げ,引き下げ た価格により売り建玉の信用買戻し注文と新たな信用売り注文 の対当売買を成立させようとしていることを知りながら,平成 10 年3月25 日,午前10 時43 分から10 時58 分までの間,一連の売 り注文を受託,執行した。
・勧告年月日 平成10 年12 月9日
・行政処分の内容 本店第三営業部の株式の売買に係る受託
業務の停止2日
○ 都証券は,常務取締役の関与により, 昭和化学工業株式に係 る相場操縦(第2章第2 - 2 - 䱘参照)において,犯則嫌疑者 が高指値注文の連続発注による買上り買付け等の方法により株 価の引上げを意図していることを知りながら,平成9年6 月11日から同年8月12 日までの間,犯則嫌疑者からの一連の売買注
文を受託,執行した。
・勧告年月日 平成11 年3月19 日
・行政処分の内容 本店の株式の売買に係る受託業務の停止
5日
○ 新和証券は,取締役大阪支店長の関与により,上記都証券と 同様に, 平成9年6月23 日から同年8月15 日までの間,犯則嫌 疑者から株式の一連の売買注文を受託,執行した。
・勧告年月日 平成11 年3月19 日
・行政処分の内容 大阪支店の株式の売買に係る受託業務の
停止2日
⑥ 損失を補てんするため財産上の利益を提供する行為〔証取法第 42 条の2第1項第3号違反〕
○ 東海丸万証券東京支店営業部一課営業員は,投資信託の元本 割れによる損失について顧客から損失補てんの要求があったた め,平成8年4月3日,生じた損失の全部を補てんするため, 営業員が親族から借り入れた資金をその顧客の口座に入金する 方法により,財産上の利益を提供した(補てん額約37 万円)。
・勧告年月日 平成10 年12 月21 日
・行政処分の内容 東海丸万証券の行った前記④ の「実勢を
反映しない作為的相場を形成させるべき 一連の有価証券の売買をする行為」の事 実に係る処分を参照。
○ 日の出証券三田支店(兵庫県)の支店長(平成4年2月3日 からは延岡支店長)及び営業課長は,売買損失が増大した顧客 から損失補てんを強く要求され,会社に知られることを恐れた こと等から,平成4年1月31 日から同年7月31 日にかけて,株 式の売買により生じた顧客の損失の一部を補てんするため,共
同して,自己の資金を現金で支払う方法により,財産上の利益 を提供した(補てん額2700 万円)。
また,同支店長は,信用取引に係る損失について他の顧客か ら苦情を受けたことに対しても責任を感じたため,平成4年4 月27 日,顧客の損失の一部を補てんするため,自己の資金を現 金で支払う方法により,財産上の利益を提供した(補てん額約 356 万円)。
・勧告年月日 平成11 年4月7日
・行政処分の内容 三田支店の株式の売買に係る受託業務の
停止3日
⑦ 有価証券を有しないで行った自己の計算による有価証券の売付 け〔証取法第162 条第1項第1号違反〕
○ 十字屋証券は,平成7年8月から平成10 年5月までの間,
䱘 有価証券市場において,有価証券を有しないで売付けを行 うこと(以下「空売り」という)を明らかにしないまま,自 己の計算による株式及び転換社債の空売りを多数回行った。 䱘 有価証券市場において,売付けの直近の市場価格に満たな い価格で,自己の計算による株式及び転換社債の空売りを多
数回行った。
・勧告年月日 平成10 年12 月21 日
・行政処分の内容 株式及び転換社債の自己売買に係る業務
の停止10 日
○ 中央証券は,平成7年4月から平成10 年8月までの間,
䱘 有価証券市場において,空売りを行うことを明らかにしな いまま,自己の計算による株式の空売りを多数回行った。
䱘 有価証券市場において,売付けの直近の市場価格に満たな い価格で,自己の計算による株式の空売りを多数回行った。
・勧告年月日 平成11 年3月3日
・行政処分の内容 株式の自己売買に係る業務の停止10 日
○ 公共証券は,平成10 年10 月から平成11 年1月までの間,
䱘 取引所有価証券市場において自己の計算により多数回行っ た空売りについて,証券取引所に対し,空売りであることを 明らかにしなかった。
䱘 取引所有価証券市場において,証券取引所が直近に公表し た市場価格に満たない価格で,自己の計算による空売りを多 数回行った。
・勧告年月日 平成11 年6月2日
・行政処分の内容 株式の自己売買に係る業務の停止10 日
2 役職員の法令違反行為
証券会社の役職員に係る勧告ついては,以下の法令違反行為が認 められた。
① 取引一任勘定取引の契約を締結する行為〔証取法第42 条第1項 第5号違反〕
外務員は,顧客から依頼を受け,自らの営業成績の向上を図るた め,株式等の売買取引の受託につき,売買の別,銘柄, 数及び価格 の全部又は一部について,顧客の個別の取引ごとの同意を得ないで 定めることができることを内容とする契約を多数回にわたり締結し た上で,取引を受託,執行した(勧告対象17 社28 人)。
② 有価証券の価格が騰貴するとの断定的判断を提供して勧誘する 行為〔証取法第42 条第1項第1号違反〕
外務員は,特定の顧客に対し,特定銘柄の株価が高騰するとの断 定的判断を提供して買付け勧誘を行った(勧告対象1社1人)。
③ 有価証券の売買に関する虚偽報告〔証取法第42 条第1項第9号 に基づく行為規制命令第4条第1号違反〕
外務員は,顧客から預り資産の内訳と評価額の照会を受けたこと に対し,今後の取引の継続を図るため,顧客が保有する有価証券の 評価額を実際の評価額よりも過大なものとして,メモを作成し,顧 客に交付又は口頭により伝達した(勧告対象1社2人)。
④ 役職員の投機的利益の追求を目的とした有価証券の売買〔証取 法第42 条第1項第9号に基づく行為規制命令第4条第5号違反〕 外務員は,自己の利益追求と手数料収入の増加を図るため,顧客 の口座を使用して,自己の計算に基づく株式等の売買を多数回にわ
たり行った(勧告対象14 社19 人)。
⑤ 損失を補てんすることを約して勧誘する行為, 損失の補てんを 事後に約束する行為及び損失を補てんするため財産上の利益を提 供する行為〔証取法第42 条の2第1項第1号, 第2号及び第3号 違反〕
外務員は,投資信託の勧誘に際し,顧客から元本保証を要求され たため,元本を保証することを約束した。
外務員は,株式の評価損について顧客から苦情を受けたことから, 損失分を返す旨の念書を差し入れ,発生した評価損の全部を補てん するため財産上の利益を提供することを約束した。
また,外務員は,株式取引に係る損失について顧客に虚偽の報告 を行っていたため,顧客から報告通りの金額を強く要求されたこと 等の理由から,多数の顧客の有価証券の売買その他の取引につき, 生じた顧客の損失の全部又は一部を補てんするため,自己の資金, 他の顧客の口座から流用した資金等を現金で支払い,又は顧客の口 座に入金する方法により,財産上の利益を提供した(勧告対象5社
7人)。
⑥ 会社関係者の禁止行為〔証取法第166 条第1項第4号違反〕
外務員は,顧客と共謀して,内部者取引規制の対象となる重要事 実を知り,その重要事実の公表前に,仮名口座を使用して株式を買 い付けた(勧告対象1社1人)。
そのほか,向い呑み及び呑行為(勧告対象1社13 人),作為的相 場を形成させるべき一連の有価証券の売買等をする行為(勧告対象
2社2人),作為的相場が形成されることとなることを知りながら 一連の有価証券の売買等を受託する行為(勧告対象2社4人),虚 偽の記載をした取引報告書を顧客に交付する行為(勧告対象1社1 人),外務員の職務に関する著しく不適当な行為(勧告対象2社4 人)が認められた。
第1 概 説
1 取引審査の意義及び報告・資料徴取の対象
監視委員会は,犯則事件の調査,証券会社等の検査のほか,日常 的な市場監視活動として取引審査を行っている。これは,証券取引 等の公正を確保し,投資者の保護を図ることを目的として,証取法, 外証法及び金先法により金融再生委員会及び金融監督庁長官から委 任された権限に基づき,証券会社等から有価証券の売買取引等に関 する詳細な報告を求め,又は資料を徴取するなどして,証券取引等 を審査するものである。
なお,検査権限と同様,監視委員会に委任された報告・資料の徴 取権限についても,その一部を財務局長等に委任している(ただし, 必要があれば,監視委員会は,自らその権限を行使することができ る)。
報告・資料徴取の対象は,以下のとおりである。
① | 証券会社及び証券会社の持株会社 | (証取法 | 第194 条の6 ) |
② | 登録金融機関 | ( 証取法 | 第194 条の6 ) |
③ | 証券業協会 | ( 証取法 | 第194 条の6 ) |
④ | 証券取引所 | ( 証取法 | 第194 条の6 ) |
⑤ | 外国証券会社国内支店及び特定金融機関 ( 外証法 | 第42条) | |
⑥ | 金融先物取引所及びその会員 ( 金先法 | 第92条) | |
⑦ | 金融先物取引業者 ( 金先法 | 第92条) | |
⑧ | 金融先物取引業協会 ( 金先法 | 第92条) |
( 注 ) ( ) 内 の 法 律 条 項 は , 金 融 監 督 庁 長 官 か ら 監 視 委 員 会 へ の 報 告 ・ 資 料 の 徴 取 権 限 の 委 任 規 定 で あ る 。
2 取引審査の範囲
取引審査の範囲は,政令(証取法施行令第38 条,外証法施行令第 20 条)及び金融再生委員会規則(第27 条。金先法関係)で定められ ている。例えば,相場操縦の禁止,風説の流布の禁止,内部者取引 の禁止,証券会社とその役員又は使用人の禁止行為等についての規 定に関するものを審査することとされている。
3 取引審査の着眼点及び視点
取引審査は,
株価が急騰・急落した銘柄
株価が一定期間,固定的に推移している銘柄
対当売買執行前後の株価動向
投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実が発生した銘柄
一般から寄せられる様々な情報 などに着目し,
市場仲介者として一般の投資者より重い責務を負う証券会社 等がどのように関与していたか
それらの取引の中に証取法等の法令に触れるものはなかった か
証券取引所等の自主規制機関が有効に市場監視の機能を果た しているか
などを重要なポイントとして,実施している。
また,自主規制機関である証券取引所,証券業協会等の市場監視 部門とは,定期的又は随時に必要な情報交換を行うとともに,事実 関係に関する照会を行うなど緊密な連携を図っている。
1 審査の実施状況
取引審査を実施するに当たっては,市場情報,企業情報の収集に 努めるとともに,証券会社等から資料を徴取し,あるいは事情聴取 を行い,一定期間,一定範囲の市場取引について詳細な分析を行っ ている。
本公表の対象期間における審査の実施状況は,以下のとおりであ る。
| 価格形成に関して審査を行ったもの 着眼点別の主な内訳 ・株価が急騰したもの | 104 70 | 件 件 |
・株価が固定的に推移したもの | 11 | 件 | |
| 内部者取引に関して審査を行ったもの 重要事実別の主な内訳 | 165 | 件 |
・新株等の発行 | 29 | 件 | |
・合併 | 23 | 件 | |
・会社更生手続開始等の申立て | 15 | 件 | |
| その他風説の流布等の観点から審査を行ったもの | 6 | 件 |
また,監視委員会,財務局長等のそれぞれの審査件数は,以下の とおりである。
監視委員会 171 件
財務局長等 104 件
2 審査結果の概要
本公表の対象期間において審査した銘柄について,その審査内容 を概観すれば,以下のとおりである。
株価形成に関しては,株価が急騰・急落するなど不自然な動きを したもの,株価が一定水準に固定されていると認められたものなど, 様々な株価形態について審査を行った。審査の対象とした株価が急 騰した銘柄の中には,特定委託者グループにより株価が引き上げら れたのではないかと疑われる売買が認められた。
内部者取引に関しては,投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす と思われる情報を公開することにより株価が大きく変動したものを 中心に,幅広く審査を行った。審査の対象とした銘柄には,発行会 社の新株等の発行,合併など株価の上昇要因と考えられる情報と, 会社更生手続開始の申立てなど株価の下落要因と考えられる情報を 公開したものが多かった。審査の結果,内部者取引の疑いが認めら れた者には,発行会社の役職員のほか,発行会社の取引先及びその 役職員も含まれていた。
その他風説の流布等に関しては,各種の情報により株価が大きく 変動したと思われる銘柄を中心に審査を行った。
審査の結果,問題が把握され,更に深度ある調査を必要とする事 案については,臨店等による検査を実施するなど,一層の問題の究 明に努めている。
これらの審査活動を通じて,証券市場に対する日常監視は,不公 正な取引を未然に防止するための直接的又は間接的な抑止力として も機能していると考えられる。
本公表の対象期間に行った主な審査事案は,以下のとおりである。
株価形成に関して審査を行った事案
① A銘柄の株価が出来高を伴い急騰したが,その期間中に,特定委 託者は,直近約定値より高い買い指値注文や成行買い注文を連続し て発注し,また,受託証券会社を分散して対当売買を行っていた。
② B銘柄の株価が出来高を伴い急騰したが,その期間中に,特定委 託者グループは,安値圏で大量に買い集めた後,対当売買を交えな がら買い上がり,終値を引き上げるとともに,投資顧問業者のダイ ヤルQ2による銘柄推奨により,株価が一段高となった時点で,買 い集めた株式を売り抜けていた。
③ C発行会社は株式の売出しについて公表したが,その直後から売 出価格決定日に向けて,特定委託者は,大引けにかけて,複数の証 券会社に分散して,直近約定値より高い買い注文を大量に発注して いた。
④ D銘柄の株価が下落してきたことから,D発行会社は,その取引 先であり関係の深い特定委託者グループに依頼し,同グループが継 続して終値に関与することにより,株価を下落前の水準まで戻し, 株価の維持を図ったとの疑いがもたれた。
内部者取引に関して審査を行った事案
① E発行会社は他社と合併して解散することを公表したが,その公 表前に,合併相手方の取引先の役員による買付けが認められた。
② F発行会社は株式の分割を公表したが,その公表前に,F発行会 社の職員による買付けが認められた。
③ G発行会社は業務に起因する損害の発生を公表したが,その公表 前に,G発行会社の関係会社の役員による売付けが認められた。
④ H発行会社は無配転落を公表したが,その公表前に,H発行会社 の関係会社による売付けが認められた。
⑤ 複数の発行会社が会社更生手続開始の申立てを行うことを公表し
たが,その公表前に,発行会社の役員の親族,大株主,取引先又は 取引先の役員による大量の売付けが認められた。
その他の観点から審査を行った事案
① 「資金ショートする」「業務提携を解消する」等のうわさが流れ たことにより,株価が急落したと思われたもの。
② 「会社更生法の適用申請を決定した」との文書を送付されたこと により,株価が急落したと思われたもの。
平成10 年9月から10 月にかけて,銀行株等の特定の銘柄に関して種々 の情報が市場に流れ,その株価に大きな変動が見られたことから,風説 の流布が話題になった。
これに対し監視委員会は,平成10 年10 月7日付で各証券取引所理事長, 日本証券業協会会長あてに「監視体制の徹底について」と題する文書を 発出して,市場の価格形成機能をゆがめる疑いのある事例に関する情報 収集についての協力依頼を行い,また,同日付で,財務局長等に対して,
① 積極的な情報収集に努めること, ② 価格形成機能をゆがめる疑いのあ る事例が認められた場合には,直ちに情報収集及び手口の分析を行うな ど速やかな対応を行うこと,③ 証券会社の検査においては, 市場の価格形 成機能をゆがめることとなる法令違反行為等を重点的に行うこと等を徹 底するよう通知を行った。
第2 一般からの情報の受付
1 情報の受付体制
一般から監視委員会に寄せられる電話,来訪又は文書(ファクシ ミリを含む)等による情報は,検査,取引審査及び犯則事件の調査 を行う場合の端緒としての有用性が高いことから,発足以来,情報 受付体制の整備を図り,積極的にこれらの情報を受け付けている。 平成11 年4月1日からは,監視委員会のホームページに情報受付 コーナーを設け,インターネットによる情報収集が可能になった。
2 情報の受付状況
監視委員会が本公表の対象期間において投資者等から受け付けた 情報は241 件で,内訳は, 電話77 件,来訪21 件,文書55 件,インター ネット49 件,金融監督庁監督部・財務局等から回付を受けたものが 39 件となっている。情報の内容は,個別銘柄に関するものが145 件,証券会社の営業姿勢に関するものが68 件, 監視委員会に対する意見 等が28 件となっている。
個別銘柄に関するものでは, 相場操縦の疑いが最も多く,次いで 内部者取引の疑い, 有価証券報告書の虚偽記載の疑いとなっている。 また, 証券会社の営業姿勢に関するものでは, 無断売買についての ものが最も多く,次いで取引一任勘定取引や断定的判断を提供した 勧誘についてのものが多くなっている(別表参照)。
受け付けた情報は,検査,取引審査,犯則事件の調査の各部門又 は財務局長等に回付して,それぞれの業務において活用しており, 証券会社に対する検査における指摘事項の端緒となったものや,取 引審査における有効な情報となったものがある。
なお,寄せられた情報のうち,証券会社と投資者との間のトラブ ルに関するもので具体的な紛争解決を求めているものについては, 日本証券業協会において苦情処理体制が敷かれていることから,適 宜,同協会の証券苦情相談室を紹介するなどの対応を行っている。
別表 情報の受付状況(過去3年分)
区 | 分 | 8/7 ~ 9/6 | 9/7 ~ 10/6 | 10/7 ~ 11/6 | |||||
受 | 付 | 件 | 数 | 255 | 341 | 241 | |||
受 | 電 話 | 120 | 145 | 77 | |||||
付 | 来 訪 | 18 | 45 | 21 | |||||
形 | 文 書 | 82 | 107 | 55 | |||||
態 | インターネット | 49 | |||||||
監督部・財務局等からの回付 | 35 | 44 | 39 | ||||||
情 報 の 内 容 | 個 | 別 | 銘 | 柄 | 111 | 181 | 145 | ||
相場操縦 | 34 | 63 | 51 | ||||||
内部者取引 | 27 | 32 | 31 | ||||||
損失保証・損失補てん | 20 | 15 | 10 | ||||||
有価証券報告書の虚偽記載 | 8 | 15 | 11 | ||||||
その他(風説の流布等) | 22 | 56 | 42 | ||||||
証券会社の営業姿勢 | 113 | 109 | 68 | ||||||
無断売買 | 27 | 29 | 15 | ||||||
断定的判断を提供した勧誘 | 15 | 10 | 5 | ||||||
顧客の知識に照らし不当な勧誘 | 6 | 3 | 3 | ||||||
取引一任勘定取引契約の締結 | 6 | 4 | 7 | ||||||
大量推奨販売 | 4 | 1 | 2 | ||||||
その他 | 55 | 62 | 36 | ||||||
委員会に対する意見等 | 31 | 51 | 28 |
( 注 ) イ ン タ ー ネ ッ ト に よ る 受 付 は , 平 成 1 1 年 4 月 以 降 分 。 受 付 ア ド レ ス は , http://www . fsa . go . jp/sesc/watch
第3 海外の証券規制当局との連携
証券取引の国際化の進展に伴い,国境を越えたレベルで,各国市場の 公正を害する行為も発生することが考えられる。このため,国内市場の 公正性確保の上でも,法務執行分野における国際的な協力及び連携強化
がますます重要な課題となっている。
このような状況を踏まえ,監視委員会は,本公表の対象期間において も,以下のようにさまざまな機会をとらえて各国証券規制当局との間で 法務執行に関する意見交換を積極的に行ってきており,金融システム改 革の進展に伴う証券市場の国際化を視野に入れつつ,今後とも国際間の 相互協力促進に向けた活動を重視していく予定である。
1 証券監督者国際機構(IOSCO)
証券監督者国際機構( IOSCO: International Organization of Securities Commissions) は, 証券規制の国際的な調和や規制当局間 の相互協力をめざして活動している国際的組織であり,世界の94 の国・州・地域から159 機関(平成11 年3月現在) が加盟している。監 視委員会は, 平成5年10 月, 同機構に加盟して,毎年同機構の年次総 会に参加しており,平成10 年は9月にケニア・ナイロビで開催され た第23 回総会に,平成11 年は5月にポルトガル・リスボンで開催さ れた第24 回総会に参加した。
同機構には,国際市場が直面する主要な規制上の問題を検討し実 務的な解決を提案することを目的として,専門委員会及びその下に
5つの部会が設置されている。監視委員会は, そのうち法務執行及 び情報交換に関する部会に属し,国際化する市場への対応のため積 極的に討議に参加している。最近では,国際間にわたる証券犯罪に 対応するための各国当局間の協力,情報提供などが主要議題の一つ となっている。
2 海外規制当局との交流・協調
わが国の証券市場の改革,監視体制の充実を図っていくためには, 諸外国における先例,進め方等を常に把握しておくことが必要であ
る。このため,監視委員会は,海外規制当局とは,毎年定期的に行 われるIOSCOの種々の会合の場を通じて交流を行っているほか, 機会あるごとにそれぞれのレベルにおいて個別に面談する機会を持 ち,直面する課題についての意見交換に努めているところである。 特に, 米国証券取引委員会( SEC) 等の主要国の当局とは,コンタクト
・パーソンを置き,日常の一般的な情報収集や照会を行っている。
3 法務執行情報の交換
平成9年4月,北京で開催されたIOSCOアジア太平洋地域委 員会( APRC : Asia- Pacific Regional Committee )において,アジ ア太平洋地域内の法務執行当局間の連絡を緊密にし協力を進めるこ とが重要であるとの認識から,APRC会員は他の会員に関連する 可能性のある証券法違反の事実を公表した場合,その情報を交換す ることが決議された。本決議の趣旨を踏まえ,監視委員会は,勧告 のプレス・リリース(英訳) をインターネット上の金融監督庁のホ ームページに掲載している。
4 海外規制当局との覚書の締結
金融監督当局間の情報交換については,先進7か国蔵相等会議
(G7)においてその促進が図られているところであり,監視委員 会が行う不公正取引の調査においても,証券取引の国際化から,海 外規制当局との情報交換の必要性は高まっている。海外規制当局と の非公開情報の交換を行うためには,日本では規制当局として金融 監督庁が主体となった覚書(MOU: Memorandum of Understand- ing) の締結が必要とされる。監視委員会としては, 米国を始めとす る海外規制当局との覚書の締結について,積極的に進めていくよう 関係当局に働きかけているところである。
1 組織の充実
組織面については,深度ある検査・調査等を実施するため,監視 委員会発足以来,その充実・強化に努めてきている。
政府としては全体で厳しい人員削減が図られているところ,平成 11 年度においては,金融システム改革が具体化する中,風説の流布 等の市場に極めて大きな影響を与える事案へ対応するため証券取引 審査官6人,検査の頻度を高め,より深度ある検査を確立するため, 証券取引検査官6人,犯則事件調査の体制を整備するため,証券取 引特別調査官2人,計14 人の増員が認められ,監視体制の充実・強 化が図られた。部局別では,監視委員会事務局に8人,財務局等の 下に6人の増員となっている。
2 研修
監視委員会は,平成4年7月に設立された組織であり,これまで 研修やオン・ザ・ジョブ・トレーニングを通じて職員の資質の向上 に努めるとともに,ノウハウの蓄積等を図ってきている。
また,近年,金融の自由化・国際化の一層の進展,通信・情報処 理技術の急速な向上等を背景に,わが国の証券市場を取り巻く環境 が著しい変化を示していることから,デリバティブ研修,電算機の システム開発研修等,職員がより高度な専門知識を習得することが できる研修も実施している。
3 証券総合システム(SCAN- System)
証券総合システムは,証券会社等に対する検査業務や証券取引審 査業務等の充実・強化を図るため,平成5年以降,証券会社検査,
市場監視,犯則事件調査等に幅広く利用できる総合的なシステムと して開発を行っているものである。
主な機能として,「証券会社検査系システム」と「取引審査系シ ステム」の2つがある。
① 証券会社検査系システム
証券会社の各種財務データ,検査結果概要データ等を取りま とめ,証券会社検査に対する分析を行う機能であり,平成7年 度から稼動している。
② 取引審査系システム
内部者取引,株価操縦等の審査の基礎資料作成の過程におい て,上場銘柄・店頭銘柄で株価が不自然な動きをした銘柄の網 羅的な検索,重要事実に関する公表内容や取引内容の検索を可 能としている。また,個別銘柄の取引状況を自動的に再現する 機能,個別銘柄に係る内部者取引審査のための分析機能等があ り,平成9年4月から稼動している。
平成10 年度以降においても,より機能を充実したものにするため,引き続き開発を進めており,平成11 年度からは,有価証券報告書等 を分析する企業財務分析機能の開発,審査対象市場の拡大(市場外 取引等),売買成立状況・注文状況データの電子媒体化対応等を行 うこととしている。
平成10 年10 月には,関東,近畿,東海の各財務局に証券総合シス テムの導入を行い,財務局長等による検査及び市場監視業務の効率 化を図っている。
また,平成12 年度には,残り6財務局,1財務支局と沖縄総合事 務局にも導入することとし,平成11 年度から,全財務局等の検査結 果概要データや地方取引所単独上場銘柄等のデータを取りまとめて
いるところである。
Ⅱ 関係機関の活動状況
第7章 金融監督庁長官の行う金融機関等の検査第1 概 説
金融監督庁長官は,その行う金融機関等の検査に関し,毎年,検査の 実施方針その他の基本的事項について監視委員会に諮り,その意見を聴 かなければならない(設置法第31 条第1項)。
この規定は,金融監督庁長官が行う検査が適切に実施されるよう,検 査の際の視点などについて,行政部内だけでなく,中立的な立場にある 者の意見を徴することが有益であるとの観点から,金融機関等検査,証 券会社等検査(財務の健全性を中心とする検査)及び保険会社等検査に 関し,検査の基本方針や検査の基本計画について,監視委員会から意見 を聴くことを金融監督庁長官に義務付け,監視委員会が必要な提言を行 い得ることとしたものである。
また,金融監督庁長官は,四半期ごとに,金融機関等の検査の実施状 況を監視委員会に報告しなければならず,監視委員会は,必要があると 認めるときは,金融機関等の検査に係る事務の運営その他の施策につい て金融監督庁長官に建議することができる(設置法第31 条第2項,第3 項)。
なお, 平成10 検査事務年度においては,検査に係る事務の運営等に関 し,建議を必要とする問題点は認められなかった。
第2 検査基本方針及び検査基本計画に関する提言
監視委員会は,金融監督庁長官から,金融機関等の検査に係る「平成 10 検査事務年度検査基本方針及び検査基本計画」について意見を求めら れたのを受け,監視委員会としての意見を述べた。
1 「平成10検査事務年度検査基本方針及び検査基本計画」の内容
平成10 年7月14 日付で,金融監督庁長官から示された「平成10 検査 事務年度検査基本方針及び検査基本計画」は,以下のとおりである。
平成10 検査事務年度検査基本方針及び検査基本計画
Ⅰ はじめに
金融監督庁は,金融機関等の自己責任原則の徹底と市場規律を 前提に,事前指導的な行政から事後チェック重視型の行政への転 換を図り,公正で透明な金融行政を実現するために,去る6月22日に設立された。金融監督庁は,金融機関等に対する検査・監督 を専門的に行うことを通じ,預金者保護,信用秩序維持等,国民 生活や経済活動の安定にとって極めて重要な責務を担うものであ る。
このような金融監督庁としての責務を果たすためには,厳正で 実効性ある検査を実施することにより,金融機関等の実態を的確 に把握することが極めて重要である。
金融監督庁としての初めての検査事務年度である,平成10 検査 事務年度(平成10 年7月~平成11 年6月)においては,以下のと おり,検査基本方針及び検査基本計画を定めることとする。
Ⅱ 検査基本方針
1.基本的考え方
現下の金融情勢における最重要かつ喫緊の課題は,金融機関 等の不良債権の処理である。金融検査においては,金融機関等 の不良債権の実態を的確に把握し,不良債権の処理の促進に資
することが重要である。
本年4月には,明確なルールを前提とした透明性の高い金融 行政という方向に即応した新しい監督上の仕組みとして,金融 機関等の自己査定及び外部監査の活用を前提とする早期是正措 置制度が導入されたのを契機に,検査の基本的な在り方を転換 し,新検査方式を去る3月31 日付けで定めたところである。新 検査方式においては,金融機関等の資産の内容の健全性につい ての実態把握と金融機関等が遵守すべきルールの遵守状況等に ついての実態把握に主眼を置いて,厳正で実効性ある検査を実 施することとされている。
また,不良債権問題の解決のためには,総合的な取り組みが 必要であり,政府・与党においては,先般2度に亘る金融再生 トータルプランをとりまとめたところである。とりわけ,トー タルプランの第2次取りまとめ(7月2日)においては,金融 機関等に対し,不良債権の抜本的処理を促していく中で,金融 の安定と再生を図り,内外の信認を確保していくことが極めて 重要であるとの問題意識の下, ⅰ )不良債権の積極的な処理,
ⅱ )金融機関の迅速なリストラ, ⅲ )透明性及びディスクロー ジャーの向上, ⅳ )銀行監督と健全性原則の強化が盛り込まれ たところである。
さらに,今後ビッグバンが本格化するに伴い,金融機関等の 競争が激しくなることにより,金融機関等を取り巻く環境は一 層厳しくなる面もあると予想される。
このような状況を踏まえ,平成10 検査事務年度における金融 機関等検査,証券会社等検査(証券取引等監視委員会の所掌に 属するものを除く),保険会社等検査の実施に当たっては,以 下の点に重点を置きつつ,厳正で実効性ある検査の的確な実施
に努めるものとする。
2.検査の重点事項
♌ 金融機関等検査
① 財務内容の健全性に係る実態把握
金融機関等の財務内容の健全性については,早期是正措 置制度の下で自己資本比率に基づいて必要な行政上の措置 が適時に講じられることを確保するため,金融機関等の自 己査定と公認会計士等による外部監査を前提に,自己査定 の正確性,償却・引当の適切性について早急に実態把握す ることが必要である。
このような観点から,緊急的対応として,主要19 行に対 しては,本年3月期における自己査定及びそれに基づく償 却・引当の実施状況について,日銀と連携しつつ,本年7 月半ば以降,早急に実態把握することとする。また,地銀, 第二地銀等その他の金融機関についても,自己査定の正確 性及び償却・引当の実施状況について,平成10 検査事務年 度において,可能な限り幅広く実態把握する。
なお,その際, Ⅱ 分類債権の実態把握に特に注力すると ともに,中長期的にはⅡ 分類債権をより精緻に実態把握す るための基準の策定及びⅡ 分類債権を含め分類債権の引当 の適切性について判断するための考え方の確立に向けた資 料の収集を行う。
また,資産内容の実態把握に際しては,関連会社向けの 貸付等や昨年来のアジア経済危機が金融機関等の資産内容 に与える影響にも留意する。
② ルール遵守状況,リスク管理状況等に係る実態把握
近年における金融機関等を取り巻く環境の大きな変化,
金融取引の著しい高度化,国際化,金融機関等を巡る不祥 事の増加を踏まえ,金融機関等における自己責任原則の徹 底を前提に,ルール遵守体制,リスク管理体制の整備状況
(外国為替業務に係るものを含む)及びその機能発揮状況 等について,的確に実態把握する。
その際,海外拠点のリスク管理態勢等に重点を置くとと もに,ビッグバンの本格化に伴い外国金融機関等の我が国 への進出が増加していることから,外国金融機関等の在日 拠点のルール遵守状況,リスク管理状況等に重点を置いた 検査を実施する。
また, コンピュータ2000 年問題については, その対応のた めに残された時間が少なくなりつつあることから,金融機 関等における本問題への対応状況,とりわけ,関連システ ム等の修正, 修正後のテスト, コンティンジェンシー・プラ ンの策定に重点をおいた検査を行う(この点については, 証券会社等検査, 保険会社等検査においても, 同様とする)
囤 証券会社等検査
① 財務内容の健全性に係る実態把握
証券会社等の設立が本年12 月に免許制から登録制に移行 することから,検査を通じた財務内容の事後的な実態把握 が,従前にもまして重要になる。また,昨年における三洋 証券,山一証券等の経営破綻の影響や,本年4月から5千 万円超の取引に係る株式委託手数料が自由化されたこと等 に伴う競争の促進が証券会社等の経営に与える影響にも留 意する必要がある。
このような観点から,引き続き証券会社等の財務内容の 的確な実態把握に努めるとともに,経営破綻した証券会社
等についても,破綻の原因の究明を含め,適時,的確な実 態把握に努める。特に,山一証券の経営破綻の原因となっ た簿外債務について過去の検査で把握できなかったこと等 の反省に立ち,財務内容を厳正に把握する。
② リスク管理状況等に係る実態把握
証券会社等の自己責任原則の徹底を前提に,リスク管理 状況等の的確な実態把握に努める。その際,ビッグバンの 本格化に伴い我が国への進出が増加している外国証券会社 等の内部管理態勢及びリスク管理状況等に重点を置いた検 査を実施する。
また,金融システム改革によって証券会社の業務が大幅 に自由化されるに伴い,新しく行われる業務について,的 確にリスクの把握・管理が行われているか,実態把握する。 さらに,平成11 年4月から証券会社等は顧客から預託を受 けた有価証券等を自己の固有財産と分別して保管すること が義務づけられる予定であることから,早期是正措置制度 の基盤となる自己資本規制比率のチェックと合わせ,分別 管理状況に重点を置いた検査を実施する。
③ その他
金融機関の証券子会社,証券投資信託委託業者,投資顧 問業者の業務運営について,特に利益相反行為の有無に重 点を置きつつ,的確な実態把握に努める。
♌ 保険会社等検査
① 財務内容の健全性に係る実態把握
保険会社等の資産内容については,自己査定と公認会計 士等による外部監査を前提に,自己査定の正確性,引当・ 償却の適切性について実態把握することが必要である。
また,平成11 年度から早期是正措置制度が導入され,ソ ルベンシー・マージン比率に基づいて,必要な措置が適時 に講じられることになるが,本制度が効果的に機能するこ とを確保するため,ソルベンシー・マージン比率の正確性 等についても実態把握に努める。
② ルール遵守状況,リスク管理状況等に係る実態把握
保険会社等の自己責任原則の徹底を前提に,リスク管理 状況等の的確な実態把握に努めるとともに,内部管理体制, 募集管理体制の整備状況及びその機能発揮状況等を的確に 実態把握する。
3.機動的な検査の実施等
金融機関等を取り巻く現下の厳しい状況において,金融機関 等の資産内容の急激な悪化等の問題が生じた場合には,適時の 実態把握に的確に対応することが重要である。このような観点 から,検査計画の策定及び検査班の編成に当たっては,機動的
・弾力的な対応が可能となるよう努める。
Ⅲ 検査基本計画
1.金融機関等検査の実施予定数
銀 行 115 行
信 用 金 庫 110 金庫計 225
2.証券会社等検査の実施予定数
証 券 会 社 105 社
証券投資信託委託会社 3社
投 資 顧 問 業 者 67 社計 175
3.保険会社検査の実施予定数
保
険
会
社
10 社
(注)上記検査実施予定数は,当初計画として設定しているもの であり,金融機関等を取り巻く現下の厳しい経営環境下にお いて適時の実態把握に的確に対応するため,弾力的な運用を 行うこととしていることから,実施予定数は変動することが あり得る。
2 監視委員会が述べた意見の内容
上記の基本方針及び基本計画に関し,監視委員会が平成10 年7月17日付で述べた意見は,以下のとおりである。
平成10 検査事務年度検査基本方針 及び検査基本計画について
我が国の金融をとりまく環境は,自由化の進展,利用者ニーズの 多様化・高度化,金融技術の革新,国際化の進展等により著しく変 化している。一方,金融行政は,一連の不祥事により大きく損なわ れた信頼を一刻も早く回復するために,真に厳正で実効性ある金融 検査を早急に確立し実施することが急務となっている。
こうした中,本年6月22 日に金融監督庁が発足し,金融行政は, 事前指導に重点を置いたものから,市場規律を前提とした事後監視 型への転換が図られることとなった。また,金融検査においては, 本年4月から早期是正措置の導入に先立ち,従来の事前指導を中心 とする行政に即応したこれまでの検査体制・手法について抜本的な 見直しを行い,検査の基本的な在り方を転換することとし,「新し い金融検査に関する基本事項について」と題する,新たな金融検査 の在り方が示されたところである。
今般,貴職の示された平成10 検査事務年度検査基本方針及び検査 基本計画は,こうした状況を十分踏まえた上で策定されたものと認 められ,概ね適切なものと考えるが,以下の諸点に特に配意してそ の実施に当たられたい。
1.当委員会においては,金融検査・監督における重要かつ緊急の 課題として,損なわれた信頼を一刻も早く回復することが肝要で あると考えている。従来の金融検査は,『事前指導型行政の補完』 という意識が見受けられたが,今後は,金融監督庁の発足した主 旨及び3月に策定した「新しい金融検査に関する基本事項につい て」を十分踏まえ,検査の位置付けを,『事後監視型行政の中核』 へと意識の転換を図り,厳正な検査を進めることにより信頼の回 復に努められたい。
2.現下の金融情勢において重要かつ緊急の課題は,金融機関の不 良債権の処理であると考えている。自己責任原則の観点からも金 融機関の財務内容の健全性については,早期是正措置制度の下で, 金融機関の行う資産の自己査定が適正であることが重要であり, その点検に万全を期されたい。
3.今後,金融システム改革の本格的実施により,金融機関等の扱 う商品,業務内容が一層多様化・高度化し,金融機関を取り巻く リスクが格段に増大していくことが予想されることから,潜在化 しているリスクも含め,リスク管理体制の整備状況及びその機能 発揮状況等について的確な実態把握に努められたい。
4.ルールの遵守状況については,金融機関の不祥事の増大に鑑み, その点検に当たり,役職員のルール遵守意識を含め,その原因ま で踏み込んだ実態把握に努められるとともに,違法行為に対して は厳正に対処されたい。
5.今後の複雑多様化する金融情勢に対処するため,保有する権限
を最大限に発揮し,効率的な検査に努めるとともに,検査要員の 充実を含めた体制整備を進められたい。
第8章 自主規制機関の行う公正確保業務第1 監視委員会と自主規制機関との関係
自主規制機関(証券業協会,証券取引所,金融先物取引業協会,金融 先物取引所)は,市場の公正性・透明性を確保するため,自主規制ルー ルを制定するとともに,それぞれの機関に所属する会員等が法令や自主 規制ルールに基づいて適正な業務を行っているかどうかの監査を行うこ とになっており,監視委員会と自主規制機関とは,市場の監視について, いわば「車の両輪」としての役割を担っていると言える。
一方,監視委員会は,自主規制機関の監査の業務が適切に執行されて いるかどうか,あるいは,自主規制機関が法令・自主規制ルール等に違 反した会員等の処分を厳正に行っているかどうかについて,検査する立 場にもある(平成10 年4月に実施した日本証券業協会に対する検査につ いては,第3章第6「自主規制機関に対する検査」を参照)。自主規制 機関は,仲介者を会員としつつ,適切な行為規範を確立し,会員にその 遵守を求めること等を通じて,市場と仲介者に対する利用者の信頼を高 める立場にある。そうした努力が,長期的には仲介者自身の利益を増進 することになるものであり,今後,金融システム改革が進展する中で, 法律に裏付けられた自主規制機関がその役割を適切に発揮していくこと がますます重要となってきており,その活動の一層の充実が期待されて いる。
監視委員会としては,このような関係にある自主規制機関と常に緊密 な連絡・連携を図っており,監査の活動状況のヒアリングを行っている。 各自主規制機関からの報告等によれば, 平成10 年4月~平成11 年3月( 以 下「平成10 年度」という)における活動状況は,以下のとおりである。
日本証券業協会の平成10 年度における活動状況は,以下のとおりであ る。
1 会員に対する監査の実施状況
砬 主な監査項目
会員(注1)に対する監査は, ① 適合性の原則(注2)の遵守 状況, ② 有価証券の売買取引等の禁止行為に関する規則等の遵守 状況, ③ 有価証券の売買取引等及び受渡決済の管理状況, ④ 「証 券会社の顧客管理等に関する行為規準」(理事会決議)及びこれ に基づく社内ガイドラインの整備,遵守及び点検に関する事項を 監査項目として実施している。
( 注 1 ) 協 会 員 は , 権 利 義 務 の 違 い に よ り 次 の 2 種 類 に 区 分 さ れ る 。
① 会 員 証 券 会 社 及 び 外 国 証 券 会 社
② 特 別 会 員 登 録 を 受 け た 金 融 機 関 ( 平 成 1 0 年 1 2 月 ,
認 可 制 か ら 登 録 制 へ 移 行 )
( 注 2 ) 「 適 合 性 の 原 則 」 と は , 証 券 会 社 の 投 資 勧 誘 は , 投 資 者 の 投 資 判 断 に 対 し て 大 き な 影 響 を 与 え る こ と か ら , 投 資 者 の 実 情 に 適 合 し た も の で な け れ ば な ら な い と い う 考 え 方 で あ り , 証 券 会 社 は , 顧 客 の 投 資 目 的 や 財 産 状 況 等 に つ い て , 積 極 的 に 相 当 の 調 査 を し な け れ ば な ら な い 。
砬 監査の実施状況
平成10 年度は85 社(国内証券会社72 社,外国証券会社13 社)の 監査を実施している。
砬 監査結果の概要
平成10 年度における監査の結果をみると, ① 適合性の原則の遵 守状況に関して,顧客カードの未作成・記載不備,取引報告書等
の不適正な交付等, ② 有価証券の売買取引等の禁止行為に関する 規則等の遵守状況に関して,顧客との金銭等の貸借,仮名取引の 受託,未登録者による外務行為等, ③ 有価証券の売買取引等及び 受渡決済の管理状況に関して,内部者登録カードの未作成・記載 不備,有価証券預り証の未交付等, ④ 「証券会社の顧客管理等に 関する行為規準」及び社内ガイドラインの整備,遵守及び点検に 関して,社内ガイドラインの未整備といった規則違反が認められ た。このほか,注文伝票の記載不備等が認められている。
これら規則違反のうち,特に改善を図る必要があると認められ た定例監査実施会員28 社(平成9年度33 社)及び特別監査実施会 員3社(平成9年度2社)については,改善状況報告書の提出を 求め,必要な改善指導を行っている。
2 特別会員に対する監査の実施状況
砬 主な監査項目
特別会員に対する監査は, ① 有価証券の売買取引等の注文の受 託に関する管理状況, ② 有価証券の売買取引等の禁止行為に関す る規則の遵守状況, ③ 有価証券の売買取引等の注文の執行・受渡
・保管の管理状況等を監査項目として実施している。
砬 監査の実施状況
特別会員に対する監査は,主に日本証券業協会から業務委託を 受けた全国銀行協会などの特別会員の組織する団体(6団体)が, 日本証券業協会から監査員に任命された職員をもって実施してお り,平成10 年度は83 機関(銀行54 ,信用金庫15 ,保険会社12 ,短 資会社2)の監査を実施している。
砬 監査結果の概要
監査の結果,有価証券の売買取引等の注文の執行・受渡・保管 の管理状況に関して,取引報告書の交付方法の不備が認められた。
3 売買審査の実施状況
砬 店頭売買有価証券の売買管理
売買審査の業務を行う店頭売買管理部は,店頭登録株式につい て,市場情報を自ら収集し,株価・出来高や協会員(会員,特別 会員)の売買取引に係る関与状況の把握を行って,その内容に異 常性を認めた銘柄のほか,業務部店頭市場課から法令違反の事実 や,店頭登録会社等の運営,業務又は財産に関する重要な事実で あって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実が発生したこ とについて連絡を受けた銘柄の売買内容を調査し,必要がある場 合にはさらに詳細な審査を行っている。
審査の結果,必要があれば監査部による監査を要請するなど, 相互に緊密な連携を図りつつ市場監視を行っている。
また,不適正な売買取引が認められた場合には,その売買取引 に関与した協会員に対して,再発防止の観点から定款に基づく措 置を講じており,不適正な売買取引とは認められないものの,そ の疑いが持たれる売買取引が認められた場合には,不公正取引の 未然防止の観点から,協会員に対し注意を行っている。
砬 取引所有価証券市場外における上場有価証券の売買管理
平成10 年12 月1日から開始された上場有価証券の取引所有価証 券市場外売買に関し,売買価格の適合状況についての適切な管理 を行っている。
4 協会員に対する処分等の概要
日本証券業協会は,協会員が法令又は協会の規則等に違反したと き,取引の信義則に反する行為をしたときなど定款第25 条に定める 事項に該当すると認めるときは,その協会員に弁明の機会を与えた 上,理事会の決議により,譴責,1億円以下の過怠金の賦課(平成 10 年2月から,重大な法令違反等の場合は上限5億円),6か月以 内の会員権の停止・制限又は除名の処分を行うことができる。
平成10 年度に行った定款第25 条に基づく処分は,譴責が2件,過 怠金の賦課が9件,総額5000 万円となっている。
また,日本証券業協会においては,監視委員会検査で指摘された 法令違反行為のうち,特に注意を喚起する必要があると認められる 事例について,会員に対し文書で通知し,再発防止を図っているが, 一部の会員会社においては,こうした指導にもかかわらず,その後 も法令違反行為が認められるなど法令遵守意識が欠如している例も 見受けられる。こうした点については,今後とも自主規制機関に期 待される役割を適切に発揮していくことが望まれる。
5 公正確保業務の改善状況の概要
監視委員会の検査結果(第3章第6「自主規制機関に対する検査」 参照)を受けて実施した公正確保業務に係る主な改善措置は,以下 のとおりである。
砬 監査実施面の見直しに関して,平成11 年度の監査計画において, 平成10 年度までの監査計画を抜本的に変更した。
主な変更点は,以下のとおりである。
① 監査の重点事項を4本の柱にまとめ,「法令・諸規則の遵守 状況」を1つの柱とした。
② 書類監査を実施することとした。
③ 過去の監査結果及び業務内容を勘案して,弾力的に監査対象 会員を選定することとした。
④ 実地監査3週間前に事前通知を行い,監査のための事前資料 を監査実施1週間前までに徴求し,監査項目を選択することに より,深度ある効率的な監査を図ることとした。
砬 監査に係るバックアップ体制の整備に関して,平成10 年10 月か ら内部審査担当者を配置し,さらに,平成11 年4月,審査体制の 強化を図るため, ① 監査結果の審査,分析及び評価と, ② 監査結 果に関する行政官庁との連絡・調整を行う審査課(課長ほか2人) を監査部に設置した。
砬 監査要員の充実に関して,平成10 年10 月以降,専任監査員を2 人増員(平成11 年5月末現在)した。
砬 勧告等の有効活用に関して,平成11 年4月2日に会員通知「法 令・諸規則等に違反した会員に対する処置について」を発出して 会員に対し周知徹底を図り,「定款第26 条に基づく勧告」等を実 施した。
第3 証券取引所の活動状況
証券取引所の平成10 年度における活動状況は,以下のとおりである。
1 会員及び特別参加者に対する検査の実施状況
砬 主な検査項目
会員及び特別参加者(注)に対する検査は,法令及び証券取引 所の定める自主ルールの遵守状況等を検査項目として実施してい る。主な項目としては, ① 損失補てん・利益提供の禁止行為関係,
② 違法な取引一任勘定取引関係, ③ 空売り関係, ④ 委託保証金・
証拠金関係,約定成立後の訂正処理関係などである。
( 注 ) 「 特 別 参 加 者 」 と は , 会 員 以 外 の 者 で 証 券 取 引 所 に 上 場 さ れ て い る 証 券 先 物 取 引 等 に 直 接 参 加 す る 資 格 を 有 す る 者 を い う 。
砬 検査の実施状況
平成10 年度は,東京証券取引所においては32 社(国内証券会社 25 社,外国証券会社7社)について,また,大阪証券取引所にお いては17 社(国内証券会社)について検査を実施している。
砬 検査結果の概要
東京証券取引所及び大阪証券取引所の平成10 年度における検査 結果をみると, ① 空売りを行ったにもかかわらず,取引所に対し 上場有価証券空売報告書が未提出になっていたもの, ② 事実と異 なる理由により過誤訂正のための売買を申請し, 成立させたもの,
③ 信用取引委託保証金の引出し等の制限に関する不備や,追加保 証金・委託保証金の預託不足があるもの, ④ 取引所有価証券市場 における売買の委託を受けたにもかかわらず,市場で取引を行わ ず,自己がその相手方となって売買を成立させた向い呑み及び呑 行為に該当するもの, ⑤ 国内顧客の売買の受託につき,価格につ いて顧客の取引ごとの同意を得ないで定めることができることを 内容とする違法な取引一任勘定取引契約を締結したものなどが認 められている。
なお,検査の結果,改善を図る必要があると認めた場合は,そ の会員又は特別参加者に対して改善報告書の提出を求め,必要な 指導を行っている(平成10 年度は,東京証券取引所で信用取引委 託保証金に関する管理の不備等により18 社,大阪証券取引所で不 十分な顧客口座管理により1社)。
2 売買審査の実施状況
東京証券取引所を例にとると,売買審査の業務を行う売買審査部 は,集積した市場データ等から抽出した銘柄,株式部・債券部等か ら売買取引の状況に異常性があると連絡を受けた銘柄や,上場部か ら有価証券の投資判断に重要な影響を与える情報が生じたと連絡を 受けた銘柄について調査・審査を行い,各部門と相互に緊密な連携 を図りつつ市場監視を行っている。
売買審査の結果,不適正な売買取引が認められた場合には,その 売買取引に関与した会員及び特別参加者に対して,再発防止の観点 から,処分を含め内容に応じた措置を講じている。
また,不適正な売買取引とは認められないまでも,その疑いが持 たれる売買取引が認められた場合には,不公正取引の未然防止の観 点から,今後の取引に関して慎重を期すよう注意を喚起している。 なお,監視委員会から各証券取引所理事長あてに発出した,風説 の流布に対する前記の「監視体制の徹底について」(第6章第1) に関して,東京証券取引所は,株価下落の著しい銘柄について会員 証券会社からの聞き取り調査を強化するなどの措置をとっており, また,大阪証券取引所は,売買管理担当責任者会議において証券会
社の売買管理担当者に対し周知を図っている。
3 会員及び特別参加者に対する処分の概要
証券取引所は,会員及び特別参加者が法令又は定款等の諸規則に 違反したとき,取引の信義則に反する行為をしたときなど定款第50条に定める事項に該当することとなったと認める場合は,その会員 及び特別参加者を審問の上,1億円以下の過怠金の賦課(平成10 年
2月から重大な法令違反等の場合は上限5億円),戒告,市場にお
ける有価証券の売買取引等の停止若しくは制限,6か月以内の会員 権の停止又は除名(特別参加者の場合は取引資格の停止又は取消し) の処分を行うことができる。
また,会員及び特別参加者が法令により業務の全部若しくは一部 の停止又は免許の取消しの処分を受けた場合には,定款第55 条の規 定により,その処分の内容に応じ,市場における有価証券の売買取 引等の停止若しくは制限又は除名を行う。
平成10 年度に東京証券取引所が行った処分は,定款第50 条の規定 に基づく過怠金の賦課が9件, 4600 万円となっており,定款第55 条の規定に基づく売買等の制限を課したものが13 件となっている。ま た,大阪証券取引所においては,定款第55 条の規定に基づく売買等 の制限を課したものが10 件となっている。
第4 金融先物取引業協会の活動状況
金融先物取引業協会の平成10 年度における会員に対する監査は,金融 先物取引の受託管理の状況,証拠金の管理状況,金融先物取引に係る行 為規制の遵守状況を主な監査項目として実施している。
監査の結果をみると,口座設定約諾書の管理不十分,顧客カードや注 文伝票の記載不備,事業報告書の記載不備等が認められており,これら について是正を指導している。
第5 金融先物取引所の活動状況
金融先物取引所の平成10 年度における会員に対する考査は,金融先物 取引に係る禁止行為等に関する諸規則の遵守状況,社内管理体制の整備
状況, 金融先物取引の受託管理の状況を主な考査項目として実施してい る。
考査の結果をみると,注文時における自己・受託の区分管理の不備, 過誤取引や異例処理に関して適正な事後処理が行われていなかった事例, 本所への報告及び建て玉申告等の不備, フロント・バックの事務体制が 十分でない事例, 証拠金等の取扱いの不備等が認められたため, これら について是正を指導している。