Contract
第Ⅲ編 債務およびそれに対応する権利第 5 章 当事者の変更
第 1 節 債権の譲渡第 1 款 総則
Ⅲ. - 5:101 条 この節の適用範囲
(1) この節の規定は、債権を契約その他の法律行為によって譲渡する場合に適用する。
(2) この節の規定は、金融商品又は投資証券の移転であって、その移転を発行者により、若しくは発行者のために管理される登録簿に登録することによって行わなければならない場合又は移転のためのその他の要件若しくは移転に対するその他の制限が存在する場合には、適用しない。
コメント
A. 本章が適用される問題
本章は3つの問題に適用される。すなわち、新債権者となる者[=譲受人]への債権の譲渡、現債務者に新債務者が入れ替わることによる債務者の変更、および契約の一方当事者の全部の地位すなわち[全部の]権利義務の他人への移転である。これら3つの問題は相互に関係しており、いずれも法律関係の一方当事者の変更を含んでいる。しかし、これらには重要な点で違いもある。
金銭の支払請求権であることが多い債権の譲渡は、譲渡人の債務の移転を含まない。債務者自身の権利は、引き続き譲渡人に対してのみ存在する。債権譲渡は契約当事者のいずれをも免責するものではないから、譲渡債権発生の原因となる契約に別段の定めがなければ、債務者の同意を要しない。それゆえ債権譲渡は、第三者が債務者に代わり、債務者が完全に又は不完全に免責されるという状況、すなわち、約定が三当事者全員の同意を要する状況(本章第2節を参照[訳注:閉じ括弧が脱落])とは区別できる。また、債権譲渡は、第三者が契約当事者の一方に完全に代わり、権利義務のすべてを引き継ぐ場合とも区別できる。この場合にも、三当事者全員の同意が必要である(本章第3節を参照)。
B. 第1節が適用される問題
第1節は、契約その他の法律行為による債権譲渡にのみ適用される。法定的な権利の
移転──たとえば、相続や破産による場合──には適用されない。一定の組織や団体の合併若しくは再編、又は事業譲渡に基づき、権利義務が法定的に[p.1012]新しい主体に移転する旨の制定法規定はふつうに見られる。本節はそのような場合には適用されない。権原証書又はそれに類する証書の単なる引渡しによる権利移転にも、本節は適用されない。
本節が適用されるのは、債権の譲渡に対してのみである。そこには、契約上の債権及び契約によらない債権が含まれる。例えば、一方的な約束による支払請求権、契約不履行を理由とする損害賠償請求権、あるいは、金銭の支払や財産の移転によって利得を返還させ
る不当利得返還請求権などである。実際上、多様な類型の権利が入り混じることが多いため、契約上の債権の譲渡にある一連の規律を適用し、他方で、密接な関係のあるその他の債権の譲渡に別の規律を適用することは、不便であり正当化もされないであろう。
債権には、すでに弁済期が到来し、又は将来に到来する金銭債務の支払請求権、並びに、建物の建築、動産の引渡し及び役務の提供などの非金銭的給付を求める請求権が含まれる。一定の地域内で一定期間は競業しないという債務のような不作為債務の履行請求権も、債権に含まれる。しかしながら、このモデル準則が意図する射程について、一般的な制限にも留意しなければならない。このモデル準則は、公法上の権利義務への適用を意図していない。例えば、一定の社会保障給付請求権を与える法は、おそらく当該支払請求権は譲渡することができないと規定するだろう。また本節は、家族法上の権利義務への適用も意図していない。
C. 金融商品と投資証券
登録された金融商品または投資証券の性質を持つ債券又は株式の保有者は、発行者に対する支払請求権を有することになるけれども、そのような証券[instruments or securities]は、重要な点で、債務法の規定する普通の権利とは異なる。その移転には、一般に発行者の登録簿への登録を含め、特別規定が適用される。それゆえ、そうした証券は、本章の適用範囲から除かれる。
D. 流通証券[negotiable instruments]
このモデル準則の適用範囲に関する一般規定(I.-1:101条(想定されている適用範囲))によると、為替手形その他の流通証券は適用外である。このことは、ここでの説明において特に重要である。為替手形その他の流通証券は一連の契約関係を生じさせるかもしれないが、流通証券上の権利の移転は、通常、一般の債権譲渡によってではなく、必要な裏書きを伴う引渡しによって行われる。証券に基づいて責任を負う関係者の債務は、元の受取人ではないかもしれない現在の[証券の]所持人に支払うことであるから、債権譲渡であれば存在するであろう移転の通知の要件は存在しない。そして、証券の所持人でない譲受人に支払った債務者は、なお所持人に対して支払義務を負う。さらに、流通証券は、その性質上、別個の規定によって規律されるが、その規定は多くの点で、債権譲渡に適用される規定とは明白に異なっている。たとえば、譲渡人の権原の瑕疵について知らずに流通証券を有償で取得した者は、そのような瑕疵や譲渡人に対抗できたはずの抗弁により影響を受けない。他方、債権譲渡の譲受人はこうした瑕疵や抗弁に服する。
流通証券それ自体がこのモデル準則の適用外にあるとしても、このことは、必ずしも基礎にある支払請求権の譲渡を妨げるものではない。このことが生じる可能性が最も高いのは、流通証券の引渡しを伴わない、資産の包括的譲渡の場合である。流通証券に化体されている支払請求権が譲渡された場合、流通証券法は、通常、証券の所持人に、債権譲渡の
譲受人に対する優先権を与えるであろう。このことも、本章の適用がない問題である。
[p.1013]
E. 債権譲渡の重要性
金銭の支払いその他の債務の履行請求権[債権]は、主要な譲渡可能資産である。これらの権利は、典型的なファクタリング取引の場合のように、完全に売却することもできるし[真正売買]、消費貸借その他の債務の担保のために譲渡することもできる。本章第1節の目的は、個別的な譲渡であれ集合的な譲渡であれ、債権譲渡の促進を意図した原則及び規定を置き、他方で同時に、債務者の権利が債権譲渡によって害されないことを保証することである。
ノート
1. 本節は金銭債権・非金銭債権のいずれの譲渡にも適用される。したがって、その適用範囲は、国際取引における債権譲渡に関する国際連合条約(以下、「国連条約」という)よりも、いくぶん後半である。というのも、国連条約の適用範囲は、その性質上、一定の金銭債権に限定されているからである(国連条約2条)。
2. 一般に、金融商品及び流通証券の移転は、特別の規律に服する。たとえば、スロヴァキ アでは、金銭債権・非金銭債権の契約による譲渡は民法 524 条以下で規律されているが、金融商品及び流通証券の移転は別に規律されている(証券法 19 条以下(2001 年法律 566 号。 その後も改正されている)。同様に、スペイン法では、金融商品の移転に関する規定は、民 法における一般の債権譲渡の規定から除外され、[p.1014]証券xxxおよび種々の会社法 に含まれている。ドイツ法は、そのような移転への補充的な適用を定めている(民法 413 条を参照)。
Ⅲ. - 5:102 条 定義
(1) 債権の「譲渡」とは、ある者(「譲渡人」)から他の者(「譲受人」)への債権の移転をいう。
(2) 「譲渡行為」とは、債権の移転を生じさせることを意図した契約その他の法律行為をいう。
(3) 債権の一部が譲渡された場合には、この節において債権とあるのは、当該債権の譲渡された部分とする。
コメント
定義
x条は、「譲渡 assignment」、「譲渡行為 act of assignment」、「譲渡人 assignor」および「譲受人 assignee」という鍵となる用語を紹介している。
債権の「譲渡 assignment」は、ある者から他の者への債権の移転と定義される。ただし
、前条の規定がすでに明確にしているように、本節の規定は意思に基づく移転 ── すなわち、契約その他の法律行為による移転 ── にのみ適用される。本節の規定は、法定的な債権の移転(たとえば、法定代位によるもの)には適用されない。移転の目的は、重要ではない
。移転は、[債権の]売買の合意を実行するためであるかもしれない。移転は、たとえば制定法など、何らかの他の原因から生じる法的な譲渡義務を果たすためであるかもしれない。移転は、無償であるかもしれない。移転は、担保目的であるかもしれないし、信託のためかもしれない。もっとも、最後の2つの場合には[担保および信託]、このモデル準則の別の箇所に、優先する特別規定が存在する。本節は、そうした特別規定により問題が規律されていない限りで、補充的にのみ適用されることになる。[この点につき]次条を参照。
「譲渡人 assignor」とは、債権を移転する債権者である。「譲受人 assignee」とは、債権の移転を受ける者である。
「譲渡行為 act of assignment」は、債権の移転を生じさせることを意図した契約その他の法律行為と定義される。多くの場合、契約その他の法律行為は、実際に移転の効果を生じさせる。しかし、何らかの理由により、契約その他の法律行為がその目的を達成できないという状況が存在し得る。たとえば、債権が、法律により譲渡できないという場合がある。あるいは、債権を譲渡しようとする者が、債権者ではないこともある。このようなわけで、何が達成されるかという観点ではなく、むしろ何が意図されているかという観点から、譲渡行為が定義されている。
「譲渡行為 act of assignment」(すなわち、[債権の]移転を生じさせることを意図し、かつ、実際に移転の効果を生じさせるかもしれない契約その他の法律行為)は、譲渡 assignmentそれ自体
── 譲渡人から譲受人への債権の移転 ──、すなわち有効な譲渡行為の結果から、区別されなければならない。また、譲渡行為は、その基礎となる譲渡義務が存在するときは、それとも区別されなければならない。譲渡行為は、譲渡合意 agreement to assignに由来することが多い。時として、譲渡合意は、譲渡行為とは独立してそれに先行して存在し、そして、債権譲渡を構成部分とするよりxxな商事取引や商取引関係を規律することがある。そのような場合における譲渡行為は、明示の約束や補充的な条項を全く含まないきわめて単純な単独行為でありうる。また、時には、譲渡合意および譲渡行為が、単一の契約書面に具体化されることもある。譲渡行為の成立および有効性は、[p.1015]この章によってではなく、契約その他の法律行為に関する総則によって規律される。
このモデル準則においては、即時に譲渡するとの有効な合意(あるいはそれと同等の法律行為)があり、Ⅲ.-5:104条(基本的要件)のその他の要件が充たされていれば、譲渡の効果を生じさせるのに足りる。また、(いくつかの構成国の法におけるのとは異なり)無因性の原則は存在しない。それゆえ、譲渡合意(又はその他の法律行為)が無効であれば、有効な譲渡は生じないこととなる。
「債権 Right」は、債権の一部を含む。すべての場合においてではないが、債権は、その一部を譲渡できることがある(Ⅲ.-5:107条(一部の譲渡の可能性)を参照)。3項は、純粋に起草上の目的で ── 「債権又は債権の一部」と常時反復する必要を避けるため ── 挿入されたものである。
ノート
1. 大部分のヨーロッパの法体系においては、合意に基づく consensual 債権譲渡は[原因行為の]合意を基礎とすると看做されており、当該合意の有効性に依存する。しかしながら、ドイツ法、ギリシア法、エストニア法及びスイス法は無因原則を採用している。無因原則によると、債権譲渡は[原因行為である]譲渡合意から独立したものと看做される。その結果、[原因行為である]譲渡合意の瑕疵は、必ずしも債権譲渡の有効性に影響しない。もっとも、ほとんどの場合には、債権譲渡の有効性にも影響が及ぶのではあるが(ドイツについて、BGH NJW 1959, 498, 499を参照)。スコットランド法は一般的に無因原則に従っているので、直接的な先例 authority は存在しないものの、無因原則は債権譲渡にも妥当すると考えられている(Xxxx, The Law of Property in Scotland, no. 612。さらに ibid, nos. 652-658 も参照。スコットランドにおいては、「assignation」という用語が用いられるが、本
書のノートにおいては一貫性を保つために、これを「assignment」と呼ぶこととする。スコットランド法に関する最近の単行書については、Xxxxxxxx, Assignationを参照)。比較法的な問題の処理については、Kötz, Rights of Third Parties, no.67, Zweigert and Kötz, An Introduction to Comparative law3, 446に再録。フランスとドイツの比較については、Xxxxxx-Ritain;、ドイツ法については
、Staudinger (-Busche), BGB [2005], Pref. to §§ 398 ff, nos. 20-25、ギリシャ法については、A.
P. 000/0000, XxX 0000, 000; 000/0000 XxxXX X/0000, 000; EllDik 44 (2003) 1355; 826/2001 EllDik
43 (2002) 731; CA Athens 459/1993 NoB 42 (1994), 206 を参照。イングランド法においては、現存する債権の完全な譲渡は、単なる譲渡合意のみの場合や将来債権の譲渡の場合とは対照的に、財産の移転として扱われ、それゆえ約因といった契約の有効性要件を満たす必要はない(Holt v. Heatherfield Trust Ltd. [1942] 2 KB 1, 5; Chitty on Contracts I29, nos. 2
0-018, 20-027; Goode, Commercial Law3, 680-681)。
2. オーストリア民法1392条は、債権譲渡を新債権者との入れ替えによる更改の一形態として説明している。しかし、[債権の]移転は債務者に義務を課すものではなく、かつ
、債務者の地位を害してはならない1(1395条)。ベルギー民法、ルクセンブルク民法及びフランス民法においては、合意に基づく債権譲渡に関係する規定は売買の章に含まれており[p.1016]、その他の関係に基づく債権譲渡にも及ぶ。しかしながら、学説は、まず第一に、債権譲渡を物権法の問題として取り扱う。それに加えて、フランス民法及びベルギー民法の4編2章2075条以下には、債権の質入れに適用される規定が含まれている。同様に、ドイツ法は、契約に関する総則によって規律される債権譲渡(398条以下)と、
1 「nonsen」は何かの単語の誤記のようである。
物権法上の準則によって規律される質入れ(1273条以下)とを区別している。エストニア法も、同様である(それぞれ、債務法164条以下及び物権法314条以下)。合意に基づく債権譲渡(cessioni di crediti)を規律するイタリア法の規定は、民法1260条から1267条まで、及び 1991年2月21日の法律52号に置かれており、証券化に関しては、1999年4月30日の法律13
0号にも規定が置かれている。ルクセンブルク民法は、1689条~1691条及び1295条において債権譲渡を取り扱う。元々の規定は、法定の要件を緩和するため、1994年12月21日の法律によって重要な点で改正された。スロヴェニア債務法は、417条から426条までにおいて債権譲渡を取り扱う。債務法に規定されてはいるけれども、債権譲渡は、債権契約(たとえば債権の売買契約)と有因関係にある物権契約であると考えられている。債権譲渡に関するチェコ法の規定は、主として民法524条から530条までに見出される(Švestka/J ehlicka/Xxxxxxx, OZ9, 663-672による解説も参照。債権譲渡に適用される特別の商事ルールが、商法477
条に見出される)。
3. オランダにおいては、民法3編94条中の債権譲渡に関する規定が、所有権の移転に関する一般準則の一部を形成する(民法3編83条以下[訳注:民法3編83条~98条までが、「財産の移転及び制限的権利の放棄」という節を構成する])。オランダ法は、所有権の完全な信託的移転を無効と考えているが(HR 19 May 1995, Nedjur 1996,119が解釈する民法3編84条3項に基づく)、2つの形式の債権の質入れを認めている。第一は通常の質入れである。これは性質上占有移転を伴うと考えられており、かつ、これを行うためには譲渡人が書面により質入れ契約を締結すること、及び、債務者に対する通知が必要である(民法3編236条2項、3編94条及び3編98条参照)。第二は、いわゆる「隠れた silent」(あるいは占有を伴わない)質入れである。これは債務者への通知を基礎としないが、正当な権限を有する者(例えば公証人)によって認証された書面、又は、税務当局による署名の日付の証明を受け、かつ、その証明の事実が非公開の登録簿に登録された書面によらなければならない。ポルトガル法は
、債権譲渡を債務法の領域に含まれるものとして取り扱い、移転(民法577条以下)と質入れ(民法679条以下)とを区別する。真正譲渡及び担保のための譲渡のいずれにも、北欧統一約束手形法(1938年のデンマーク約束手形法、1947年のフィンランド約束手形法、1936年のスウェーデン約束手形法)が適用され、その一部は、証券化されていない流通性のない債権の譲渡にすら適用される:Björn, 107. デンマーク法については、Gomard, Obligationsret Ⅲ, chap. 18 a nd von Xxxxx a. o. chap. 12 を参照。
4. ポーランド法では、債権譲渡は債務法に含まれている。債権譲渡は、債権者と第三者
(譲受人)との間の契約と考えられている。債権譲渡は、原因 causa に基づく合意として形作られている。民法510条(「売買、交換、贈与その他債権移転の義務を生じさせる契約は、その債権を譲受人に移転する。ただし、これと異なる特別の規定又は当事者の別段の合意があるときは、
この限りでない。前もって締結された債権移転の義務を生じさせる契約、遺贈、不当利得その他の事件から生じる債務の履行として債権譲渡契約が締結されたときは、債権譲渡契約の有効性はその債務の存在に依存する。」)を参照。
[p.1017]
5. スペイン法では、債権譲渡は売買契約の一形態として、規律されている。それにもかかわらず、他の契約類型によっても債権譲渡を行い得ることが、広く認められている。債権譲渡は、その原因に依存し(無因の処分ではない)、特別の方式を必要とせず、さらに何らの形式も債務者への通知も要せずに[合意の]完成2の日から財産移転の効果を生じる
。TS 6 October 2004, XXX 2004/5986 and Paz-Ares/Díez-Picazo/Bercovitz/Salvador (-Pantaleón), Código Civil I, 1019 ff.を参照。
6. スロヴァキアでは、債務関係の主体の変更に関する規定の一部である民法524条に従い
、債権者(譲渡人)と第三者との間の契約により、債務者の同意を要することなく、債権を異なる主体に譲渡することができる。このことは、商事の法律関係にもあてはまる。債務関係に関する総則規定(民法495条)に基づき、債権譲渡は有因契約であるとの主義がとられている。担保のための債権譲渡は、独立に規律されている(民法554条)。しかし、債権譲渡の要件に関しては、債権譲渡に関する一般規定が適用される(とくに、書面要件)。
Ⅲ. - 5:103 条 物的担保及び信託に関する規定の優先
(1) 担保の目的でされる譲渡に関しては、第 IX 編の規定を、この章の規定に優先して適用する。
(2) 信託の目的でされる譲渡、信託財産に対する譲渡又は信託財産からの譲渡に関しては、第X 編の規定を、この章の規定に優先して適用する。
コメント
本条は、他の編に物的担保及び信託に関する特別規定が存在すること、並びに、規定が抵触するときは当該特別規定が本章の規定に優先することとなることを示す注意規定である。そのような優先順位に従った上で、本章の規定は、いかなる目的でなされる債権譲渡にも適用される。
ノート
1. スロヴァキアでは、債権譲渡に関する規定は、担保目的の債権譲渡に対しても適用される。信託に関する規定はないけれども、担保目的でなされる権利の信託的移転に関する詳細な規定が、民法 553 条~553e 条に置かれている。規定の抵触が存在するときは、これらの規定が優先するであろう。同じことは、ドイツ法にも当てはまる。しかし、ドイ
2 原文は「perfection」。ただし、何らの形式も債務者への通知も要しないとする文脈からして、米法において第三者対抗力の具備を意味するいわゆる perfection の意味ではないと思われる。ここでの意味は、「契約の完成日」=「契約の締結日」という意味と解されるため、「[合意の]完成」とした。
ツにおいては、いくつかの特別規定が設けられ、担保目的の債権譲渡に関する準則が修正された。2 つの類型の債権譲渡[担保目的の譲渡とそうでない譲渡]の取扱いは、倒産時において異なっている。倒産法 47 条、51 条 1 号を参照。信託については、倒産法 47 条の特別規定を参照せよ(「人的権利 personal rights」という文言に基づく。これは、ほとんどの信託関係を含むであろう)。
2. スペインでは、物的担保に関する基本準則は、民法 1857 条以下に存在している[訳注:スペイン民法 1857 条から、第 15 編第 1 章「質及び抵当に共通する規定」が開始する]。適用の優先関係の問題は議論を引き起こしたけれども、債権譲渡規定と担保規定のいずれが優先するべきかは、両当事者の意思及び具体的な契約条項3に依存するようである。[p.1018]形式的な問題解決方法には限界があるため、機能的な問題解決方法をとるべきである。したがって、潜在的に競合する法規定の適用は、担保を授受する際に当事者が追求した意図目的により決定される。信託に関しては、スペイン民法は、遺言制度において規律するのみである(民法 781 条~786 条)。
第 2 款 債権の譲渡の要件
Ⅲ. - 5:104 条 基本的要件
(1) 債権の譲渡は、次に掲げる要件のすべてを満たさなければならない。
(a) その債権が存在すること
(b) その債権が譲渡可能なものであること
(c) その債権を譲渡しようとする者が、その債権を移転する権利又は権限を有すること
(d) 譲受人が、譲渡人に対して、契約その他の法律行為、裁判所の命令又は法規定に基づき債権の移転を求める権利を有すること
(e) 債権の有効な譲渡行為が存在すること
(2) 前項 d 号に定める債権の移転を求める権利は、譲渡行為よりも前に存在することを要しない。
(3) 債権の移転を求める権利の授与と債権の譲渡行為は、同一の契約その他の法律行為によってすることができる 。
(4) 債務者に対する通知及び債務者の承諾は、債権の譲渡の要件ではない。
コメント
A. 基本的要件
1 項は、債権の譲渡 ―― すなわち、[債権の]現実の移転 ―― に関する基本的要件を規定する。譲渡行為の範囲の方が広い場合がある[注:現実の移転が未だ生じない段階で譲渡行為がされる場合があるということ]。譲渡行為は、まだ存在していない債権、まだ譲渡する
3 原文は、「the terms of the specific obligation」。「obligation」には、一応「契約」という意味もある。
ことができない債権(例えば、債務者の同意が必要な場面でまだ同意がなされていないため)、又は譲渡人がまだ取得していない債権に関係することがある。本条は、何を対象として譲渡行為を行いうるかではなく、現実の移転のための要件に関連する。[本条所定の要件のうちの]幾つかの構成要素は、次条以下で敷衍される。譲渡[債権の現実の移転]が生じる時点は、Ⅲ.-5:114(債権の譲渡の効力発生時期)において扱われる。
B. 債権の存在
債権は、存在しなければ譲渡することができない。このことは、自明である。このことが 1 項 a 号において述べられているのは、単に、現実の譲渡 ――[債権の]移転 ―― と譲渡行為との間の差異を際立たせるためであるに過ぎない。Ⅲ.-5:106 条(将来の債権及び不特定の債権)及びⅢ.-5:114 条(債権の譲渡の効力発生時期)を参照せよ。
[p.1019]
C. 債権の譲渡可能性
移転が生ずべき時点において、債権は譲渡可能でなければならない。譲渡可能性については、Ⅲ.-5:105 条(譲渡可能性に関する一般規定)を参照せよ。譲渡行為は、譲渡できない債権を対象とすることも可能である。この場合においては、他の全ての要件が満たされているならば、債権が譲渡可能となった時に[債権の]移転が生じる。Ⅲ.-5:114 条(債権の譲渡の効力発生時期)を参照せよ。
D. 譲渡の権利又は権限
債権を譲渡しようとする者は、債権を譲渡する権利又は権限を有していなければならない。この要件もまた、移転が生ずべき時点において満たされていなければならない。通常は、債権者が譲渡を行う者であろう。しかし、1 項 c 号が用いる表現は、債権者が代理人を通じて行動する場面、及び、それ以外の人物[代理人以外の人物]が法により譲渡の権限を与えられている場面をも含んでいる。例えば、離婚の財産的効果に関する法律が、裁判所は一方の配偶者に対し一定の権利を他方の配偶者に譲渡することを命じることができると定めていることがある。命令を受けた配偶者が譲渡を拒絶したときは、裁判所書記官に、抵抗する当該配偶者に代わり譲渡を行う権限が与えられることがある。さらに、Ⅲ.- 5:111(債権譲渡の権利又は権限)を参照せよ。
E. 譲受人の権利
1 項 d 号は、ヨーロッパ契約法原則で未回答のまま残されていた問題に回答するものである。この規定は、有体動産の移転に関してⅧ編が採用したのと同じ解決を採用する。譲受人は、譲渡人に対して、契約その他の法律行為、裁判所の命令又は法規定に基づき、問題の債権の移転を求める権利を有していなければならない。このことが特に重要であるのは、そのような権利を付与する契約(例えば、債権の売買契約)が無効であり、又は取り消さ
れた場合である。この場合には、譲渡(債権の移転)は生じない。Ⅲ.-5:118 条(無効、取消し、撤回、及び贈与の撤回の効果)を参照せよ。
F. 有効な譲渡行為
[譲受人の]権利だけでは、十分でない。ある者は、将来、例えば契約又は裁判所の命令に基づき、譲渡を求める権利を有するに至るかもしれない。しかし、それだけでは移転は生じない。そのような状況の下で、移転をもたらす独立の譲渡行為が存在していなければならない。もちろん、既に指摘したように、[譲受人の]権利を付与する法律行為それ自体が、即時の譲渡行為として働くこともある。この場合、別個の譲渡行為を行う必要はなくなる。
[p.1020]
G. 原因関係上の債務又は権利が先だって存在することは要求されない
ほとんどの場合、譲渡は、それを行う原因関係上の債務を根拠として行われるだろう。しかし、このことは本条における不可欠の要件ではない。たとえ債務を負っていなかったとしても、債権を他人に移転することは可能である。また、債務が全く存在しなかったのか、それとも存在した債務が譲渡前に消滅したのかも、重要ではない。2 項は、同じ考えを別の観点 ―― 権利の観点 ―― から表現することで、このことを明確にしている
[注:譲受人の権利が譲渡行為以前に存在している必要がないということは、当該権利に対応する譲渡人の義務も譲渡行為以前に存在している必要がないことを意味する]。譲受人は[債権の]移転を求める権利を有していなければならないが、この権利は譲渡行為自体からも生じ得る:すなわち、先行する権利である必要はない。
原因関係上の債務関係(それが存在しているならば)の無効又は解消の効果は、Ⅲ.-5:118 条
(無効、取消し、撤回、及び贈与の撤回の効果)により規律される。
H. 独立の譲渡行為は不要である
3 項は、独立の譲渡行為 ―― すなわち、譲渡行為が、譲受人の権利を生じさせる契約 その他の法律行為から分離していること ―― は不要であることを明確にしている。移転 を求める権利を創出する契約その他の法律行為そのものが、譲渡行為として働いてもよく、実際そのように働くことが非常に多いであろう。この方針は、Ⅷ編に基づく商品の移転に 関するのと同じである。例えば売買契約について、その債務関係上の側面と移転に関する 側面とを明確に区別する「無因」制度は、採用されていない。譲渡の約束を含んだ契約が、譲渡行為として働くものとして解釈され得るか、それとも事後の独立の譲渡行為を要求す るものとして解釈され得るかは、解釈問題となるだろう。
I. 債務者への通知は成立要件ではない
4 項は、譲渡人から譲受人への債権の移転をもたらすために債務者への通知は要求され
ないことを、明確にしている。しかし、後に見るように、債務者への通知は、債務者が譲渡人への支払いによっては免責されなくなる時点を特定する際に、重要な役割を果たす。
法体系によっては、債務者への債権譲渡の通知が行われ、又は、例えば譲渡人の会計帳簿への債権譲渡の記入のような、その他何らかの公示行為が履践されるまでは、債権譲渡は有効に成立しないとするものがある。そのような通知又はそれと同等の行為を怠ると、債権譲渡(すなわち、債権の移転)は効力を生じない。債権の譲渡を試みた者が、債権者のままである。
本条が採用した問題解決方法に関しては、それを支持する 2 つの理由がある。第一の理 由は、通知要件が何か有用な目的に役立つのかという疑問に関係する。債務者への通知は、
(例えば、登記による)公示と同等ではない。なぜなら、それは債務者しか認識できないからである。通知要件は、例えば偏頗行為を規律する倒産法上の規定を潜脱するために行われる、共謀による債権譲渡の日付の遡及を防止するのに役立つかもしれない一方で、[p.1021]債権譲渡の日付が問題となることは稀であり、しかも通常は他の手段により証明することができる。成立要件としての通知を省く第二のより重要な理由は、現在及び将来の契約から継続的に生じる一連の債権を対象とする債権譲渡行為を含む現代の債権ファイナンス
[注:債権を利用した資金調達]にとって、そのような通知は有害であることである。事の性質上、将来の債務者は、普通は譲渡行為の時点で特定することができない。さらに、近年は、特にファクタリング取引において、供給者(譲渡人)とその顧客(債務者)との間の関係を攪乱することを回避し、かつ、譲受人に代わってする債権の取立てを譲渡人に許すため、通知型ファイナンスから非通知型ファイナンス(これはインボイスディスカウント invoice discounting としても知られている)へと向かう急激な動きが存在している。非通知型ファイナンスの利用は、譲渡人から譲受人への債権の移転の有効性に大きく左右される。したがって、債権譲渡の成立要件として債務者への通知を要求するとすれば、債権ファイナンス一般を、また、とりわけ非通知型ファイナンスを深刻に阻害しかねない。
J. 債務者の同意は通常は要求されない
4 項は、債権譲渡に債務者の同意が要求されないことも、明確にしている。しかし、債務者の同意が債権譲渡の結果に影響を及ぼす幾つかの場面が存在する。一つの例は、債権譲渡が契約上禁止されている場面である。これにより、債権の譲渡が不可能となるわけではない。しかし、債務者が同意しない限り、譲渡人に支払うことにより免責を得る債務者の権利が維持される(Ⅲ-5:108 条(債権の譲渡可能性と契約による譲渡禁止の効果)2 項及び 3 項 a号4を参照せよ)。
ノート
1. 各国の法制度は債権譲渡に関する問題解決方法において異なっているため、その要件に
4 原文は(4)(a)となっているが、誤植と思われる。
関しても差異がある。例えばドイツのように、物権法 property law が無因原則により特 徴付けられている国々においては、同じことが債権譲渡にも当てはまる。他の国々では、財産の移転は通常「有因」であり、同じことが債権譲渡に当てはまる(例えばオーストリ アについて、Xxxxxx and Xxxxxx, Bürgerliches Recht II13, 116 ff を参照)。Ⅲ.-5:102 条(定義)のノー トを参照せよ。
2. 譲渡行為に関する方式要件については、Ⅲ.-5:110 条(譲渡行為の成立及び有効性)のノートを参照せよ。
3. フランス及びベルギーにおいては、財産の移転は原則として有因、諾成で、しかも債権 譲渡の原因契約に含意されさえする(本条 3 項のモデルを参照)。フランス及びベルギーで は、債権譲渡は、もっとも頻繁にその基礎となる契約、すなわち売買と関連付けて民法 に規定されている。ベルギーにおいて、現代の学説は、民法による取り扱いを拒絶し、 今ではどの類型でもあり得る原因契約から物権的側面を明確に区別している。とはいえ、
①譲渡行為は合意のみで行うことができ(民法 1690 条 1 項)、②譲渡契約を締結した当事
者は譲渡行為をも行ったものと推定する(民法 1138 条中の財産移転に関する一般規定)、という規範は変わっていない。債務者への通知は、財産移転のためには必要でないが、債務者[p.1022](民法 1690 条 2 項)や善意の取得者(民法 1690 条 3 項及び 4 項。後述のⅢ.-5:121 条
(複数の譲受人の競合)を参照)との関係で拘束的効果を及ぼすためには必要である。このように一般の債権譲渡に関するベルギー法は、Ⅲ.-5:104 条(基本的要件)にぴったり一致する。ベルギー法は、金融証券以外の債権につき、「担保目的での保有 security ownership」を認めていない。債権が金融証券でないときは、真正譲渡か(信託的であるか否かを問わない)か質入れ(担保 charge)のいずれかである(Xxxx. 17 October 1996, Foyer culturel de Sart-Tilman, RW 1997-97, 1395 obs M. E. Storme)。フランスにおいても、債権の譲渡は債権の売買として扱われており、単に異なる用語が用いられているにすぎない(民法 1689 条~ 1695 条は「債権の移転 transport de la créance」という」。契約その他の法律行為についての一般規定は、債権譲渡が何らかの特別規定の適用を受ける類型のものでない限り、債権譲渡にも適用される。これらの一般規定から、譲渡行為が同意、能力、対象及び原因 causaという一般要件に服することが導かれる。普通は、譲渡行為が書面でなされる必要はなく、方式に関するその他のいかなる要件にも服さない(民法 1865 条により書面が必要とされる、組合持分 capital shares の移転を除く)。譲渡行為は証拠の一般規定によって規律され、当該規定によると、xxx decree によって定められた額を超える価値の債権の移転については書面が要求される(民法 1341 条)。しかし、譲渡行為は、法律関係(lien de droit)の創設をも行う点、及び、債務者が通知により債権譲渡について知らされなければならない点で(民法 1690 条参照)、財産を移転する他の契約と異なる。債務者の同意が有効性の要件ではないことは、特筆すべきである。さらに、通知(signification)を要しない譲渡行為が、流通可能な債権の譲渡、単なる一覧表 bordereau による銀行及び信用機関に対する職業上の債権の譲渡(Loi Dailly of 2 January 1981: CMF art. L. 313-33)、及び担保目的の譲渡
(Law of 23 December 1988: CMF arts. L. 214-1 f)のような場面で著しく発達した、ということにも注意すべきである。
4. オランダにおいては、債権譲渡が効力を生ずるためには、債務者への通知が必要である
(民法 3:94 条)。もっとも、この規定に対する継続的な批判が、法改正に結びつきそうで
ある。イタリア民法 1262 条 1 項も参照せよ。ギリシア法において(Stathopoulos, nos. 203-
206 を参照)、有効な譲渡の要件は次の通りである:①譲渡人と譲受人との間の契約(民 法 455 条)、および、②債権の譲渡可能性(民法 464 条~466 条は、債権が譲渡できないのはど のような場合かを規定する)。譲渡契約は、当事者間においては、それ以上の形式を要する ことなく有効であるが、債務者及び第三者との関係で譲受人が債権を取得するためには、債務者に対して譲渡を通知しなければならない(民法 460 条)。スコットランドにおいて は、債務者への通知がなければ、債権の移転という譲渡の効果は生じない(Xxxxxxx, Law
of Contract in Scotland, nos. 12.83-12.100)。チェコの実定法は、大体において、本条の内容と一致する。Švestka/Xxxxxxxx/Škárová, OZ9, 663-666 による注釈と民法 524 条を参照。諾成モデ
ルが採用され、原因 causa が要求されている(民法 524 条 2 項及び 495 条を参照)。しかし、譲渡が債務者に対して影響を及ぼすためには、債務者への通知が要求される。通知は、遅滞なく行われなければならない(Švestka/Jehlička/Xxxxxxx, OZ9, 664 による解説及び民法 526 条 1項を参照)。スロヴァキアおよびポーランドにおいては、債務者の同意も、債務者への通知も、有効な譲渡のための要件ではない(それぞれスロヴァキア民法 524 条 1 項およびポーラン
ド民法 509 条 1 項)。しかし、譲渡人は、債務者に対し譲渡について通知する義務を負う。スロヴァキア法の下では、譲渡人も譲受人も債務者に通知しないときは、譲渡は債務者 に対して影響を及ぼさない(民法 526 条を参照)。ポーランド法では、譲渡人が債務者に 対し譲渡について通知するまでは、債務者は、譲渡人に対して履行することにより免責 される。[p.1023]ただし、債務者が、履行の時点で譲渡について知っていたときは、この 限りでない(民法 512 条)。
5. エストニア法及びその学説は、有効な譲渡のための要件について、本条と類似の立場をとることで一致している(債務法 164 条。Varul/Kull/Kõve/Käerdi (-Käerdi), Võlaõigusseadus I, § 164, no. 4.2)。一般的に、債務者への通知も、債務者の同意も要求されていない。債務者を保護するために、次のような規定が置かれている。すなわち、譲渡人に対する債務の履行の時点で、債務者が譲渡を知らず、かつ、知る必要もなかったときは、債務者は真正な債権者のために債務を履行したものと看做される(債務法 169 条 1 項)。
6. スペイン民法においては、債権譲渡は、売買契約の枠内でのみ規定されている(民法
1526 条~ 1536 条)。しかし、これらの規定は、全ての譲渡可能な権利に適用される
(Lacruz Berdejo and Rivero Hernández, Elementos II3, 217)。スペイン法において、債権者による有効な譲渡のための要件は、本条が表現するところと同じである。民法 1112 条は、当事者の別段の合意があるとき、又は、譲渡が法律に違反するときを除き、全ての債権は移転することができる、と規定する。たとえば、民法においては、扶養料請求権(民法
151 条 1 項)や将来の遺産に対する権利(民法 1271 条 2 項)が、譲渡できない権利である。移転される債権が存在していなければならないこと、及び、譲渡人がそれを移転するための権原を有していなければならないことは、明白である(民法 1529 条:売主は、譲渡の名義の真正 veritas nomini5について責任を負う)。債務者への通知要件は存在せず、債務者の同意も必要とされない(Bercovitz, Comentarios: 民法 1527 条)。
7. イングランド法においては、エクイティ上の譲渡を行うためには、単純な譲渡行為で足りる。それは、債権を譲渡する旨の債務者[訳注:原文の assignee は debtor の誤記]に対する略式の通知に過ぎないこともあれば、譲受人に支払うべき旨の債務者への指図であることもある(Chitty on Contracts I29, no.19-021 を参照)。譲渡が将来債権に関するものであるときは、約因により支えられた合意が要求されることもある(Chitty loc. Cit., nos. 19-027 et seq.)。コモンロー上の譲渡のためには、1925 年の財産法に基づく方式が必要である
(136 条を参照)。そのような譲渡により、譲受人が、自己の名において訴えることが可能となる(Chitty loc. cit., nos. 19-006 et seq. 全体として、Chitty loc. cit., chap. 19 を参照)。
8. ハンガリーにおいて、民法 328 条は次のように規定する。(1) 債権者は、契約により、 他人に債権を移転する権利を有する(債権譲渡)。(2) 一身専属的性質を持つ債権及び法 律の規定により譲渡が禁止されている債権は、譲渡することができない。(3) 債務者は、譲渡について通知されなければならない。債務者は、通知前は譲渡人に対して履行を行 う権利を有する。(4) 債務者が譲渡人から通知を受けたときは、その通知後は、債務者 は新債権者(譲受人)に対してのみ履行を行うことが許される。譲受人による通知の場合 においては、債務者は譲渡の証明を要求する権利を有する。その証明がないときは、債 務者は、債務者自身の危険においてのみ、譲受人と称する者に対して履行を行う権利を 有する。民法 329 条 1 項によると、譲受人は債権譲渡を通して原債権者に代わり、かつ、担保権も譲受人に移転する。民法 329 条 2 項よると、債権譲渡に関する債務者への通知 は、消滅時効を中断させる。民法 329 条 3 項によると、債務者は、通知時において存在 する法律上の原因に基づく抗弁及び相殺権を、譲受人に対して主張する権利を有する。 民法 330 条 1 項によると、譲渡人は、担保提供者として、譲渡と引き換えに受領した対 価の価額を上限に、譲受人に対する債務者の債務の履行について責任を負う。ただし、 譲渡人が、明示的に保証されない債権として譲受人に債権を譲渡したとき、又はその他 責任を排除したときは、この限りでない。民法 330 条 2 項は、前項の規定が適用されな い場合には[p.1024]売買契約に関する規定が有償の債権譲渡に適用され、贈与に関する規 定が無償の債権譲渡に適用されると規定する。民法 331 条によれば、法律の規定又は公 的な命令に基づき債権が他人に移転されたときは、別段の規定がない限り、債権譲渡に 関する規定が適用される。そのような場合においては、従前の債権者の担保提供者とし ての責任は、特別規定の定めがあるときに限り、維持される。
5 民法 1529 条は、売主が債権の存在と適法性について責任を負うことを規定している。
Ⅲ. - 5:105 条 譲渡可能性に関する一般規定
(1) 債権は、法律に別段の定めがある場合を除き、譲渡することができる。
(2) 債権が法律により他の権利に従属しているときは、当該債権は、その権利から分離して譲渡することができない。
コメント
A. 譲渡可能性の一般規定
一般原則として、全ての債権は譲渡することができる。しかし、このことは、譲渡を制限し、又は禁止する法律の規定に従う。例えば、Ⅲ. -5:109 条(債権者の一身専属権)は、一身専属的性質を持つ一定の債権は譲渡することができないと規定する。各国の法律において、制限が存することもある。
設例1
私人である H は、自己の全ての将来の収入及び資産を、貸付金の担保として A に譲渡することを意図していた。イングランドにおいて、支払いを強制するために訴訟が提起された。イングランド法において、上記の譲渡は、その効果が譲渡人から全ての生計の手段を奪うことであるという点で公序 public policy に反するものとして、無効である。こうしたイングランド法の優先する規範が、譲渡可能性の一般規定に置き換わることとなる。
一定の類型の従たる権利は、主たる権利と別個に移転することができず、主たる権利と同時にのみ移転することができるという趣旨の強行規定が、しばしば存在する。
B. 譲渡の契約上の禁止の効果
譲渡の契約上の禁止の効果は、Ⅲ. -5:108 条(債権の譲渡可能性と契約による譲渡禁止の効果)において取り扱われる。
C. 将来の履行を目的とする存在する債権
譲渡することができる債権は、即時に請求可能である必要はない。将来のある時点での支払いを求める権利も譲渡することができ、[反対給付債務の]弁済がまだされていないときも同様である。
[p.1025]
設例2
会社である C は、E との間で工場を建設する契約を締結し、支払いは建築家の認証と引き換えの段階でなされることとされた。C は、将来の支払いを目的とする自己の
債権を、それが契約上の仕事の遂行に係っているにもかかわらず、有効に譲渡することができる。
D. 条件付債権
条件付債権は、譲渡することができる。譲受人は、条件に従って債権を取得する。
E. 従たる権利
従たる権利は、主たる権利と別個に譲渡することができない。従たる権利の典型例は、主たる権利に従属するタイプの担保権である。どの権利が従たる権利であり、どの権利がそうでないかを決定するのは、他の法領域である。
ノート
1. ヨーロッパの全ての法体系が、存在する契約に基づく債権の譲渡可能性を認めている。もっとも、いくつかの例外が存在する。例えば、譲渡が公序に反することとなる場合、又は、債権が債権者の一身に専属するものである場合である:Kötz, Rights of Third Parties, nos. 68ff. 個人による将来債権の包括的譲渡は、ほとんどの体系において、譲渡人から将来の生計手段を奪うという点において公序に反すると看做されるであろう。さらに、多くの法圏において、裁判官のような公務員の給料の譲渡や係争中の債権の譲渡は、公序に反するものと看做される。本条は、あらゆる優先する強行規定に対してその効果を認めている。
2. チェコ法において、第一の準則は[本条と]まったく同一である。民事債権も商事債権も、譲渡人と債務者間で別段の合意がされていないときは、なお譲渡することが可能である(民法 525 条 2 項)。法律上他の権利に従属する債権の独立の譲渡に関しては、本条のような明示の規定が存在しない。しかし、適用される実際上の規範は同じである。なぜなら、債権の譲渡により、従物及び全ての従たる権利が、法律上 ex lege 譲受人へと移転されるからである(民法 524 条 2 項)。
3. エストニア法においては、扶養料請求権、身体侵害又は人の死亡から生じる損害賠償請求権は、同等の経済的価値を持つ反対給付が譲渡と引き換えに受領されるときに限り、譲渡することができる(債務法 166 条 1 項)。
4. オランダ民法は、(本条)1 項の規律を表現しているが、履行請求権の譲渡可能性は債務者・債権者間で締結された契約によっても排除され得ることを付け加えている(民法 3 編 83 条)。ドイツ法の下でも同じ準則が当てはまり、このことは民法 398 条から導かれる
(Staudinger (-Busche), BGB [2005], §398, nos. 34 et seq.参照)。幾つかの例外については、次条以下のノートを参照。
5. スコットランドでは、債務の履行を求めるいかなる権利も譲渡することができるというのが、一般原則である。ただし、本条 1 項と同様、別段の定めがあるときは、この限り
ではない。[p.1026]社会保障給付金のような事項に関する制定法規定のほかに、譲渡可能性の原則に対する主な例外は、差押禁止財産 alimentary provision 及び債権者の一身専属権である。McBryde, Law of Contract in Scotland, nos. 12.14-12.39; Xxxxx and Xxxxxxxxx, The Law of Scotland11, nos. 8.16 and 33:01 を参照.
6. スロヴァキア法における譲渡可能性の一般原則に対する例外については、特に民法 525条及び民事訴訟法 317 条、319 条を参照(すなわち、遅くとも債務者の死亡により消滅することになる履行請求権、譲渡によりその内容が変更されてしまう権利、又は、執行の対象となり得ない権利)。従たる権利の独立の譲渡に関する規制は欠けているけれども、担保権はその性質
上譲渡することができない。しかし、従たる権利から切り離して履行請求権を譲渡する
ことは、可能であるようである(Judgment of the Supreme Court 4 Obo 210/01; Supreme Court’s declaratory judgment Obpj 2/99 を参照)。
7. スペイン民法 1112 条は、当事者が定めた反対の条項が存在するとき、又は、譲渡が法に違反するときを除き、全ての債権が譲渡可能であると規定している。従たる権利の独立の譲渡に関するxxの規定は存在しない。しかし、民法 1528 条は、主たる権利が譲渡されたときは従たる権利も同様に譲渡される(これらの権利を分離することが不可能であるため)ことを考慮しているので、スペイン法において従たる権利の独立の譲渡は不可能であるとするのが論理的である(Xxxxxxx Xxxxx, La cession de créditos, 114)。権利が代位により移転するときも、同じ規範が妥当する(民法 1212 条)。
8. フランス法及びベルギー法においては、一般原則として、金銭債務及び非金銭債務並びに条件付権利及び係争中の権利を含め、全ての債務の履行請求権を譲渡することができる。しかし、債権の譲渡可能性は、たとえば扶養請求権、社会保障給付請求権、又は給料債権に関するものや、倒産法におけるものなどの法律上の例外に服する。債権譲渡の契約上の禁止の効果は、フランスにおいては制定法により、明示的に承認されている
(2001 年 5 月 15 日のNRE 法)。Xxxxx/Xxxxxx/Xxxxxxxx, Xxx xxxxxxxxxxx, 0000, no. 1278 を参照。
9. イングランド法においては、一般に、債権が一身専属的なものであるとき、制定法によって債権譲渡が禁じられているとき、又は、債権を発生させる契約において債権が譲渡できないとされているときを除き、債権を譲渡することができる。もっとも、最後の場合[債権譲渡禁止特約がある場合]には、債権譲渡は、譲渡人と譲受人との間ではなお有効である。Chitty on Contracts, nos. 19-042-19-056 を参照.
10. ポーランド法のもとでは、債権の譲渡可能性は、制定法、契約又は債務の性質によって排除される場合がある(民法 509 条 1 項)。
11. ギリシア法においては(Stathopoulos, no.206 参照)、次の場合には債権を譲渡することができない。すなわち、(1) 債権が差し押さえの対象とならない場合(民法 464 条)、(2) 債権が、給付の性質上、特定の債権者の一身に専属する場合(民法 465 条)。例えば、(内密の役務の提供など)個人的色彩の強い一定の仕事の履行を求める権利の場合である。そ
して、(3) 債権者と債務者が債権の譲渡禁止について合意した場合(民法 466 条)も譲渡ができない場合である。
[p.1027]
Ⅲ. - 5:106 条 将来の債権及び不特定の債権
(1) 将来の債権は、譲渡行為の対象とすることができるが、その債権が発生し、かつ、譲渡行為の対象となる債権として識別することができるまでは、移転しない 。
(2) 多数の債権は、譲渡の効果が発生するべき時に譲渡行為の対象となる債権として識別することができるときは、個別に特定することなく譲渡することができる。
コメント
A. 将来の債権
将来の債権(すなわち、存在しているが期限又は条件に服している債権とは異なり、未だ存在してい ない債権)の譲渡に関しては、これまで困難があった。例えば、将来の債権は、未だ締結さ れていない契約に基づく債権であるかもしれない。一方では、将来の資産及び生計の手段 となるかもしれないものを手放すことが及ぼす譲渡人への経済的影響についての懸念があ り、他方では、譲渡行為のためにはその実行時に対象が特定されていることが必要であり、かつ、債務者への通知又は債務者による承諾が伴っていなければならないという認識があ る(しかし、将来の債権の場合には、しばしばそのような通知承諾を得ることは不可能である)6。しか し、債権を利用した資金調達が商業上重要であること(すなわち、金銭債権その他の債権の買取 り又はそれを担保とする貸付けを通じた融資の提供)、及び、譲渡行為の時点で債権が個々に特 定され、又は特定可能であることを要求することが実情に合わないことから、次第に、譲 渡行為は将来の債権をも対象とすることができ、かつ、この場合に債権は何らの新たな移 転行為を要することなく発生とともに移転するということが一般に承認されるに至った。 国際的レベルにおいて、このことは、1988 年の国際ファクタリングに関するユニドロワ条 約及び国際取引における債権譲渡に関する国際連合条約によって明らかにされている。前 者の 5 条によれば、債権はその発生時において譲渡のため識別可能であれば足りるとされ る。
x条は、将来の債権を譲渡行為の対象としてもよいことを明らかにしている。しかし、現実の移転は、債権が発生し、かつ、譲渡行為の対象である債権として識別することができるまでは生じない。新たな譲渡行為は、要求されない。識別可能性の基準は債権の発生時に満たされている必要はないが、それが満たされなければ債権は移転しない。
6 訳注:この文は分かりにくいが、この段落のxx目にある将来債権譲渡に関する
「困難」の内容を説明している。すなわち、譲渡人への経済的効果を懸念するのであれば将来債権譲渡は抑制されるべきであるし、また、譲渡行為時における債権の厳密な特定や通知・承諾を要求するならば、現実的に将来債権譲渡は難しくなる。
設例1
クレジットカードの発行者である C は、銀行 B から多額の貸付けを受け、カード保 有者に対する自己の将来債権を、B に対し、貸付金額の限度で譲渡することを合意し た。この合意は契約としては完全に有効であるが、[債権の]移転を生じさせ得ない。なぜなら、この合意は、譲渡された債権を識別することができる手段を示していない からである。
[p.1027]
B. 個別に特定されていない債権
本条 2 項は、個々の債権が個別に特定されていなくても、多数の債権の譲渡を行い得ることを明らかにしている。このような便宜は、実際上重要である。しかし、債権は、当該債権に関する譲渡の効果が生ずべき時点において、譲渡行為の対象として識別できなければならない。
設例2
商人に木材を供給する会社である S は、ファクタリング会社である F との間で、ファクタリング契約を締結した。それによると、S は、F に対し、売買の形式で、イギリスで事業を営む S の顧客との間で締結される売買契約に基づく現在及び将来の全ての金銭債権を譲渡するとされた。この契約は、有効に譲渡の効果を生じさせることができる。なぜなら、どの将来の債権に関しても、それが発生した時点において、S のイギリスの顧客から支払われるべき債権としてファクタリング契約の範囲内にあるかどうかを確定することができるからである。
設例3
家具の製造業者である S は、小売店及び百貨店に家具を供給していた。S は、ファクタリング会社である F に対し、現在及び将来の金銭債権のうち、その都度 S から Fに送付される目録に記載されたものを売却することを合意した。この場合、目録に記載された全ての債権について、有効な譲渡が生じる。
ノート
1. 将来の契約に基づく債権の譲渡は、既に長らく、イングランド法及びアイルランド法において承認されてきた。これらの法は、特定性ではなく識別可能性を要求している
(Goode, Commercial Law3, 676-677)。スコットランド法においても同様に、将来の債権は譲渡することができる。ただし、その範囲が明確に定められていなければならない
(McBryde, Law of Contract in Scotland, no. 12.31 を参照)。同じ立場が、ユニドロワ条約 9 条 1 項
b 号7においても採用されている。しかし、イングランド法の下では、制定法上の譲渡
7 このユニドロワ条約は、国際ファクタリングに関するユニドロワ条約を指してい
(それにより譲受人が自己の名において訴えることが可能となる)は、存在する債権の譲渡であ って、債務者に通知がなされたものに限定されている。多くの法圏が、将来の契約に基 づく債権の譲渡を敵視する傾向にあった。それは、一部では、特定性が欠如しているこ と及び譲渡の時点で債権を「確定」できないという事実に基づいており、また一部では、通知が債務者になされるか、あるいは譲渡が債務者により承諾されるまでは(それらは当 然債務者が特定可能であることを必要とする)、債権譲渡は完成しないという法規範に起因し ていた。現在では多くの法体系が将来の契約に基づく債権の譲渡可能性の原則を承認し ているけれども、債権の確定可能性が満たされなければならない時点に関しては争いが ある。幾つかの法体系においては、債権がその発生時において確定可能であれば足りる とされる。
2. これは、オーストリア法における立場である(OGH EvBl 1969/15; JBl 1984, 85; SZ 61/74; 18 April 1974, JBl 1975, 654; OGH 4 March 1982, SZ 55/32 170。個々の債務が特定可能であれば有効である多数の債権の譲渡に関しては、OGH 26 June 2001, ecolex 2001, 907)。また、同じことが、[債権の]移転に関してドイツ法にも当てはまる(Kötz, Rights of Third Parties, no. 82; Staudinger (-Busche), BGB [2005], §398, nos. 53 and 63)。移転が担保目的で行われたとしても同様であるが(Xxxxxx,
loc. cit., nos. 60 et seq.)、[p.1029]質入れに関しては、上記のことは当てはまらない(民法
1280 条を参照)。同じことが、ポルトガル法にも当てはまる(Birto, Factoring, 54; Cristas, Transmissão Contratual do Direito de Crédito, 313 f; Leitão, Cessão de Créditos (2005), 428 f を参照)。他 の法体系においては、譲渡時において債権が確定可能でなければならないという原則が、明示的に、又は、債務者への通知要件若しくは譲渡の有効性要件としての債務者の特定 可能性を通じて、維持されている。これは、スコットランド法(McBryde, Law of Contract in Scotland, nos. 12.30-12.31)、オランダ法(民法 3 編 84 条 2 項)、そしておそらく通常の質入れ に関してはルクセンブルク法の立場である。ベルギー法においては、将来の債権の譲渡 は可能であるが、債権が発生したときに初めて効力を生じる。①基礎にある契約[原因契 約]、②譲渡行為、及び③効果、が区別されなければならない。契約は特定できるいか なる将来の債権をも対象とすることができ、譲渡行為も特定できるいかなる債権をも対 象とすることができるが、効果は存在する債権にのみ結びつくことができる。しかし、 契約関係又は非契約関係から既に発生した債権は将来の債権ではなく存在する債権と見 なされ(例えば、リース契約に基づき支払われるべき将来賃料)、したがって譲渡は即時に効果を生ずることとなる。 チェコの学説の立場ははっきりと固まっておらず
(Švestka/Xxxxxxxx/Xxxxxxx, OZ9, 663-664 を参照)、現在のところこの問題に関してはそれほど確立した判決がない。エストニア債務法 165 条は、債権の範囲が「譲渡の時点において」十分に明確にされていることを要求している。現実の移転すなわち譲渡は債権の発生に係るので、このことは、債権の発生時に債権の範囲が十分に特定されていなければなら
ると思われるが、そうだとすると 9 条 1 項 b 号は存在しない。8 条 1 項 b 号の誤りであろう。
ないという要件と理解される(Varul/Kull/Kõve/Käerdi (-Käerdi), Võlaõigusseadus I § 165, nos. 3.2, 3.3.)。
3. フランス法は、原則として、将来の契約に基づく債権の譲渡を承認していない
(Terré/Simler/Lequette, Les obligations, no. 1178)。しかし、銀行その他の金融機関に対する譲渡 の場面において、1981 年 1 月 2 日のダイイ法(Loi Dailly)は、移転する債権を特定する 明細書(bordereau)の引渡しを認めており、そこで特定される債権には、債権額及び債務 者が未だ特定されていない将来の取引に基づく債権をも含めることができる(1 条)。 オランダ法においても、同様の規定が、「隠れた」質入れに関して存在する(民法 3:239 条 1 項。Xxxxxxxx and Rongen, chap. 4 参照)。しかし、通常の質入れについては、債務者への 通知要件が、将来の債権の譲渡可能性を制限している。イタリアにおける通説は、存在 する契約に基づき発生する債権(将来支払われるべき債権を含む)のみが譲渡できるという ものである(Bianca, Diritto civile IV, 589; Perlingieri, Cessione dei crediti, 7 ff. Cass. 90/4040 も参照)。 しかし、ファクタリングに関しては特別の制度があり(1991 年 2 月 21 日第 52 号法律 3 条)、将来の契約に基づく債権をファクターに譲渡することが許されている(Xxxxx, Factoring をx x)。ポーランド法においては、将来の債権の譲渡に関する制定法上の規定は存在しな い。しかし、そのような可能性は、学説及び判例によって認められている(例えば、
Supreme Court 2 July 2004, II CK 409/03, Pr. Bankowe 2005/6/5; Supreme Court 30 January 2003, V CKN 345/01, OSNC 2004/4/65)。将来の債権の譲渡契約は、将来の債権の発生原因となる関係を特定しなければならない。将来の賃金支払請求権、身体障害や扶養の喪失を理由とする
未払いの損害賠償請求権の譲渡についてのデンマーク法に関しては、Ⅲ. – 5:109 条(債権
者の一身専属権)のノートを参照。
4. スペイン法においては、物権的効果が生じる時点に関して以前は若干の疑いがあった
(その概略に関して、Xxxxxx Xxxxxxx, CCJC 2005, 1099 ff を参照)。しかし、TS 6 November 2006
は最終的に、物権的効力を持つ将来の債権の包括的譲渡を承認した。
5. スロヴァキアにおいても、将来の債権の譲渡に関するxxの法規定は存在しない。しか し、将来の債権の譲渡は、学説及び実務によって承認されている。民法 151c 条 2 項8は、 [p.1030]当事者が将来の債権又は条件付債権を質入れすることを可能としており、この規 定を類推適用することができる。同様の仕組みは、商事関係における保証契約において も定められている(商法 304 条 2 項)。
6. ギリシアの学説及び判決における通説によると、債権譲渡の対象は将来の履行請求権でもよい。ただし、債権の移転は、債権の発生時においてその目的及び範囲が特定されていることを要件とする( Georgiades and Stathopoulos (-Kritikos), art. 455, no. 49; Karakostas, Interpretation of Civil Code, art. 455, § 1599.24; A. P. 1471/2000 EllDni 2001, 701. 最近の単行書である
8 xxxx://xxx.xxxxxxxxxx.xx/xxxxxx/xxxx.xxx?xxxxxxxx_xxxx にあるデータによると、削除されたとある。ただし、チェコのデータなので、スロヴァキアでは規定が残っている可能性がある。
Georgiades, The assignment of future receivables も参照)。
Ⅲ. - 5:107 条 一部の譲渡の可能性
(1) 金銭債権は、その一部を譲渡することができる。
(2) 非金銭債権は、次の各号のいずれかに該当する場合に限り、その一部を譲渡することができる。
(a) 債務者が譲渡を承諾している場合
(b) その債権を分割することができ、かつ、譲渡によって当該債務が著しく負担の重いものとならない場合
(3) 債権の一部を譲渡したことによって債務者の費用が増加したときは、譲渡人はこの増加費用について債務者に対し責任を負う 。
コメント
A. 総論
債権者は、債権全部を譲渡することを望まず、債権譲渡の商業上の目的を達成するため必要な部分だけを譲渡することを望む場合もある。例えば、第三者に対する 2 億ユーロの
債権を担保として銀行から 3000 万ユーロを借り入れることを望む企業は、銀行にとって貸付金の十分な担保となるような債権の一部のみを譲渡することを望むだろう。同様に、別個の支払いの対象となる 2 つの独立の委託において引渡されるべき代替可能物を一定量買い入れる契約を締結し、かつ、2 人の転買人から注文を受けた卸売商人は、それぞれ全体の量の半分につき、第一の委託に関する債権を一方の転買人に譲渡し、第二の委託に関する債権を他方の転買人に譲渡することを望むだろう。
債権の一部が譲渡できるかどうかは、それが金銭債権であるか、非金銭債権であるかに幾分か左右される。
(i)金銭債権
1 項は、金銭債権の一部の譲渡が可能であることを規定している。金銭債権の一部譲渡は、通常、実務上の問題を引き起こすことがない。もっとも、それにより債務者が費用の増加に曝されることはあり、債務者は 3 項に基づき増加した費用の償還を求める権利を有することとなる(コメントB を参照)。
[p.1031]
設例1
L は B に 1 万ユーロを貸した。L は、A に対して、1 万ユーロの一部をなす 4 千ユ ーロ分の債権を譲渡することができる。B が、2 つの別々の弁済をしなければならな い結果として、追加の銀行手数料を負担したときは、B は当該手数料を L から回復す るか、又は[自己の L に対する費用償還請求権を]L に対する債務と相殺することができる。
(ii)非金銭債権
債権が非金銭債務の履行を目的とする場合には、考慮すべきことはかなり異なる。非金銭債権の事例においては、給付の分割を求めることは、しばしば債務者にとって不xxとなるだろう。というのも、それにより給付と反対給付との間の関係が変更され、仮に譲渡人9が重大な不履行を理由に[契約の]解消を望むならば、債務者に不利となったり、問題が生じるかもしれないからである。そのため、本条 2 項は、債務者が譲渡を承諾している場合を除き、債権を分割することができ、かつ、譲渡によって債務が著しく負担の重いものとならない場合に限って、非金銭債権の一部を譲渡することができると規定している。
設例2
S は B にコンピュータ 100 台を売却し、4 分割で各回 25 台ずつのコンピュータをハ ンブルクの B へと引渡す契約を締結した。B は A に対し、上記分割分のうち 1 回分、 2 回分又は 3 回分のハンブルクにおける引渡請求権を譲渡することができるが、1 回 の分割分の引渡請求権のさらに一部を譲渡することはできない。というのも、それを 認めると、S に対し、契約条項によると各分割分について不可分である債務の履行を、分割するよう求めることになるからである。また、事実関係によっては、債務が S に とって著しく負担の重いものとなるかもしれない。
設例3
F は C との間で、代金 2000 万ユーロ、建築家の認証と引き換えの出来高払いという条件で、工具収納庫を備えた工場の建設契約を締結した。F が A に対して、工場の他の部分を留保しつつ、5 万ユーロで工具収納庫のみを売却する場合、F は契約に基づく工具収納庫に関する債権を譲渡することはできない。なぜなら、本契約は C の給付が不可分であるような一体の契約であるからである。
設例4
契約において工具収納庫に対する代金が個別に規定されており、その代金が工具収納庫の建設の完了時に支払われるべきとされていることを除き、事実関係は設例3と同じであるとする。F は、工具収納庫を売却する際に、工具収納庫の建設に関する自
9 この「assignee 譲受人」という記述は、誤植の可能性がある。なぜなら、債権の一部を譲渡した場合に、契約上の権能である解除権(の一部)までも譲受人に移転するかは疑わしいからである。また、ここの記述が「債務者」であるとすると、契約当事者である債務者が解消権を有するのは当然であるが、債務者が解消を望むときに生じ得る負担は、金銭債権と非金銭債権の場合で変わらないし、何より債務者
の行為によって債務者自身に不利益が生じることに配慮する必要はない。それゆえ、ここは、譲渡人に残った債権について、不履行を理由に譲渡人が解除を主張する場 合を指すと解し、assignor の誤記と判断した。
己の債権を譲渡することができる。
B. 担保権その他の従たる権利
本条に従った債権の一部譲渡は、債務者の債務の履行を担保する担保権その他の従たる権利の比例的持分の移転をもたらす(Ⅲ. -5:115 条(譲受人に移転する権利))。また、そのような一部譲渡により、譲渡人は、移転可能な全ての独立的権利の比例的持分を譲受人に移転する義務を負う(Ⅲ.- 5:112 条(譲渡人による保証)6 項)。
[p.1032]
C. 債務者の保護
債務者の観点からは、一部譲渡には、債権が複数存在することによる費用や不便さに債務者が曝されるというデメリットがある。債務者は、分割可能な性質を持つ非金銭債権でも、譲渡により債務者にとって債務の負担が著しく重くなるときは、債務者の承諾がなければ譲渡することができないという趣旨の本条 2 項により、既にある程度は保護されてい
る。本条 3 項は、債権の一部が譲渡された場合には、それにより債務者が負担するいかなる増加費用についても譲渡人が責任を負うと規定することにより、さらなる保護を提供している。
債権が全体として係争中であるときは、一つのリスクが生じる。そのような場合、一つの訴訟で抗弁を行いかつ証拠を挙げた債務者は、その後の訴訟でもう一度同じことをする負担を負うこととなり、一方の訴訟では債務者の抗弁が容れられ、他方の訴訟では否定されるという判決の抵触の危険も伴う。こうした事案類型における債務者の保護は、適用される手続法で見出されなければならない。
ノート
1. ほとんどの EU 加盟国の法において、分割可能な債権は譲渡することができる。イタ リア民法において、債権の一部譲渡は、民法 1260 条 2 項に規定されている。オランダ 法においては、一部譲渡に関する特別の制定法規定は存在しないが、一部譲渡は判例法 において明示的に承認されている(HR 19 December 1997, XxxXxx 1998, 690 (Zuidgeest/Furness)及び Verhagen and Rongen chap. 8 を参照)。チェコ法及びポーランド法においても、状況は同じで ある。これらの国では、本条と比較し得るようなxxの規定は存在しない。しかし、一 部譲渡の可能性が認められることに争いはない(それぞれの国につき、Švestka/Jehlička/Xxxxxxx, OZ9, 664 and Mojak, 1038 を参照)。ギリシア法においては、一部譲渡を認めるxxの制定法 規定は存在しない。しかし、その可能性は、債権を証明する証書の交付に関する譲渡人 の義務を規定する民法 456 条から推論される。民法 456 条 2 項によると、債権の一部が 譲渡されたときは、上記証書の原本に代えて、その謄本が譲受人に交付されなければな らない。また、学者も、債権が分割可能であるときは一部譲渡も可能であると述べてい る(Stathopoulos, Law of Obligations4, § 27, no. 9; Xxxxxx, Enochiko Dikaio, § 88A.)。オーストリアでは、
債権が金銭債権であるとき(OGH 17 March 1987, SZ 60/46)、又はその他の分割可能な債権であるときは(Schwimann (-Xxxxxxxxx), ABGB VI3, § 1393, no. 3)、債権の一部譲渡の可能性が承認されている。これらの諸国のいずれも、本条が定めるような債務者保護に関する特別の規定を有していないように見える。もっとも、ドイツの学者は、xxxxの原則から導かれるものとして、そのような規範の存在を主張しており(Staudinger (-Busche), BGB [2005], § 398, no. 46)、ギリシア法は、譲渡が債務者に不利益をもたらすべきではないことを要求していると理解されている(Georgiades, 409, no. 16; Georgiades and Stathopoulos (-Kritikos), art. 455, nos. 44-45.) 。ポルトガルにおいても、同様の議論が行われている( Cristas, Transmissão Contratual do Direito de Crédito, 219)。スロヴァキア法においては、一部の譲渡可能性に関する規定は存在しない。議論の余地はあるけれども、一部譲渡は裁判所によって広く承認されている( 例えば、Judgement of the Supreme Court 4 Obo 210/01; Supreme Court’s declaratory judgement Obpj 2/99―債権に付随する従たる権利の譲渡―を参照)。[p.1033]スコットランド法では、債権の分割可能な一部の譲渡性が承認されている(McBryde, Law of Contract in Scotland, no. 12.33)。イングランド法では、債権の一部のコモンロー上の譲渡は不可能であるが、エクイティ上の譲渡であれば可能である(Chitty on Contracts I29, no. 19-014 を参照)。
2. スペイン民法には、債権の一部の譲渡性に関して、特別の規定は置かれていない。しかし、金銭債権は性質上譲渡可能であるから、常に一部譲渡が可能である。債権が非金銭的なものであるときは、債権の目的を分割することができないために、又は、債務者の承諾を得ない一部譲渡は債務者にとって債務の負担をより重くすることとなるために、債権の一部の譲渡はできないと、通例は考えられている(議論については、Xxxxxxx Xxxxx, La cession de créditos, 352)。
3. フランスにおいては、債権の移転は一部であってもよい。この場合においては、譲渡人及び譲受人(又は複数の譲受人)は、事情に応じて、かつ、当事者による別段の合意が無い限りは譲渡人のためのいかなる優先権も存在することなく、弁済を受領することができる(Terré/Simler/Lequette, Les obligations9, 1128, no. 1290)。
Ⅲ. - 5:108 条 債権の譲渡可能性と契約による譲渡禁止の効果
(1) 契約による譲渡の禁止又は制限は、債権の譲渡可能性に影響を及ぼさない。
(2) 契約による禁止又は制限に反して債権が譲渡されたときは、次の各号の定めるところによる。
(a) 債務者は、譲渡人に対して履行することができ、これにより債務を免れることができる。
(b) 債務者は、その債権が譲渡されなかったときと同様に、譲渡人に対する相殺権を有する。
(3) (2)の定めは、次の各号のいずれかに該当する場合には、適用しない。
(a) 債務者が譲渡を承諾した場合
(b) 債務者が、契約による禁止又は制限が存在しないとの合理的な理由による信頼を譲受人に生じさせた場合
(c) 譲渡された債権が、物品又は役務の提供に対する支払を目的とする債権である場合
(4) 契約による禁止又は制限が存在する場合でも債権が譲渡性を失うことはないが、譲受人は、当該禁止又は制限に対する違反について債務者に対する責任を免れない。
コメント
A. 対立する利益
契約が債権者による債権の譲渡を禁止する条項を含んでいる場合には、即座に 2 つの対立する利益が関わってくる。
1 つの利益は、契約自由及び当事者自治の尊重である。契約上の禁止は、原則として尊重されるべきである。債務者は、譲渡禁止条項を挿入することに十分な商取引上の理由を有することがある。第一に、債務者は、譲渡人より容赦がないかもしれない見も知らぬ債権者との取引を望まないことがある。第二に、債務者が、譲渡の通知を見落とし、譲渡人に支払ってしまう危険の回避を望むことがある。[p.1034]この場合[通知を見落として譲渡人に支払った場合]、譲受人に対してもう一度、支払いその他の履行をしなければならないという危険が生じるからである。第三に、債権者と継続的な相互取引を行うつもりである債務者は、相殺権を保持することを望むだろう。しかし、その権利は、譲渡通知の受領後に生じる反対債権に関しては、切断されることとなる。第四に、法制又は税制が取引にとって不都合な司法制度の下で、譲受人が設立され、又は主たる営業所を有していることがある。したがって、契約が[譲渡の]完全な禁止を含んでいるときであれ、例えば債務者の承諾を要求することによって、債権者の譲渡の権利を制限しているときであれ、譲渡禁止条項に違反する譲渡は無効とすべきとの主張を指示する論拠がある。
他方の関連する利益は、資産の自由譲渡性である。債務の履行請求権、とりわけ金銭債務の履行請求権は、重要な資産である。金銭債権の市場性には、巨大な実際上かつ経済上の重要性がある。動産の移転に関しては、契約上の禁止又は制限はその譲渡性に影響しないというのが広く受け容れられた原則であり、このモデル準則でも同原則が採用されている。今日では、金銭債権の市場は、有体動産の市場に劣らぬ重要性を持つ。
譲渡禁止条項に認められる効果に関して、構成国の法律は異なっている。
B. 利益の調和
契約自由の利益と資産の譲渡性の利益は、様々な方法で調和させることができる。ユニドロワ原則において採用され(第 9.1.9 条)、より限定的にではあるが PECL においても採用されている(第 11:301 条)1 つの方法は、金銭債権(あるいは一定の金銭債権)とそれ以外の債権とを区別し、かつ、契約上の禁止にもかかわらず前者に後者よりも自由な譲渡性を認めるというものである。しかし、そのような区別は、とりわけ一定の類型の金銭債権に限
定されるならば(例えば PECL の「将来の金銭債権」のように)、譲渡性の利益を軽視するとい う危険を冒している。譲渡性の利益は、一定の類型の金銭債権に限定されるものではなく、それどころか金銭債権のみに限定されるものでもないからである。
本条は、利益を調和させるために 2 つの手法を採用している。その一方は債権譲渡一般 に適用され、他方は取引上の債権にのみ適用される(本条 3 項 c 号及び後述コメント C を参照)。一般的手法は、債権が移転可能であることを認める(したがって譲渡性の利益を完全に承認する)一方で、(譲渡人はもはや債権者ではないにもかかわらず)債務者は譲渡人に履行することによ り有効な免責を得ることができると規定するというものである。債務者はまた、あたかも 債権が譲渡されなかったかのように、譲渡人に対する完全な相殺権を保持する。このこと は、債務者が譲渡人ではなく譲受人に支払うことを選択したときに、譲受人に対して一定 の抗弁及び相殺権を援用する、Ⅲ. -5:116 条(抗弁及び相殺権に対する効果)による債務者のx xに影響を及ぼさない。さらに、債務者は、[譲渡の]禁止又は制限の違反により引き起こ された損害につき、譲渡人から賠償を受けることができる。もっとも、実際には、債務者 が引き続き譲渡人のために履行することが許されるならば、そのような損害は最低限のも のとなるであろう。したがって、債務者の利益は保護されており、契約自由の原則は譲渡 性を制限しないことと調和する限りで尊重される。債務者保護の規定は、債務者が望むの であれば、(明示又は黙示に)譲渡を承諾すること、[p.1035]及び、譲受人に弁済することを 妨げない。債務者は、譲渡人への弁済を許されているが、それを義務付けられてはいない。債権者でない者に弁済することによって債務者が有効な免責を得ることができるという考 えは、xxすると奇妙であるかもしれない。しかし、そのような考えは、ここでの文脈に おいて馴染みのないものではない。例えば、譲渡について知らされておらず、譲渡を知ら ない債務者が、譲渡人への弁済によって有効な免責を得ることができることは、広く承認 されている。これは、このモデル準則の立場でもある(Ⅲ. -5:119 条(債権者でない者に対する 履行))。
本条で採用された解決の実際上の利点は、債権譲渡が効力を生じると直ちに譲受人が債
権者となり、その結果、債権が存在し続ける間は、譲受人は譲渡人の債権者から保護され るということである。債務者が譲渡人に支払うことによって免責されたときは、譲受人は、不当利得を根拠として譲渡人から弁済金(プロシーズ)を取り戻すことができる。譲渡人は 債務者が免責される支払いの受領により利得し、その結果、譲受人に対応する損失を被ら せた。債権が履行により消滅した後の弁済金(プロシーズ)に対する優先権の問題は、後の 条文において(Ⅲ. -5:122 条(譲受人と利益を受領した譲渡人の競合))、国際取引における債権
譲渡に関する国際連合条約 24 条で採用されたのと類似した方法で処理される。弁済金(プロシーズ)に対する譲受人の請求権は、弁済金(プロシーズ)が譲渡人の資産において分離されて識別可能である間は、譲渡人の債権者の請求権のような競合する請求権に対して優先する。この状況においては、特に譲受人を保護する必要性が認められる。なぜなら、譲受人は、債務者に通知するという通常の方法では、保護を得ることができないからである。
譲受人は、債務者が譲渡人に対して支払うことを防止することができない。債務者が譲渡人に支払うことを許されており、それゆえ契約上の[債権譲渡の]禁止から一定の利益を得るという事実は、譲渡人及び譲渡人の債権者との関係での譲受人の地位を必要以上に害するべきではない。
C. 債務者は譲渡人に対して履行することができるという原則の例外
本条 2 項で述べられている一般準則は、債務者保護のためのものである。したがって、債務者が債権譲渡に同意したときはそのような保護の必要性が存在せず、また、債務者が
(債権譲渡の)禁止又は制限は存在しないと譲受人に誤信させたときはそのような保護は正当化されない。本条 3 項a 号及び b 号は、これらの状況に関する例外を規定する。
本条 3 項 c 号は、さらに例外を規定する。これは、「取引上の債権 trade receivables」に 関して特則を適用するものである。このような特則は、構成国の法律では見られないもの であるが、しかし、幾つかの国際条約及び北アメリカの多くの国々で採用されている。こ の特則は、[本条 3 項の他の例外とは]異なる考慮 ――「取引上の債権」を資金調達の源と して利用できるようにすることの利益 ―― によって、正当化される。このような場面に おいても、債権譲渡は完全に有効であり、債権譲渡の通知を受けた債務者は譲受人に支払 わなければならない。例えば、ファクタリングの合意に基づく供給業者からファクターへ の債権譲渡のように、債権譲渡が継続的に生じる多数の将来債権を対象とする場合には、 とくにこの例外が必要となる。この種の合意において、債権譲渡を禁止する条項が含まれ ているか否かを確認するため、数百に及ぶかもしれない個々の契約を調査することをファ クターに期待することは、明らかに不可能である。[譲渡人の締結する]契約がそのような 条項[譲渡禁止条項]を含まない標準的条件による契約[つまり約款による契約]である場合で すら(普通はそのような契約が行われるであろう)、[p.1036]そのような契約を調査した譲受人は、譲渡人が将来に渡り譲受人への通知なく契約条件を変更することはないと確信することは できない。そのため、本条 3 項 c 号は、物品又は役務の提供に対する支払いを目的とする 債権が譲渡された場合には、債権譲渡が効力を生じることを認めている。通常の規定に従 い、債務者は譲受人に対して、Ⅲ. - 5:116 条(抗弁及び相殺権に対する効果)により許される抗 弁及び相殺権を主張することができる。この例外は、物品又は役務の提供に対する金銭の 支払いを目的とする債権の譲渡に制限される。というのは、債権譲渡禁止条項が典型的に 問題を生じさせるのは、債権による資金調達の分野においてであるからである。本条 3 項
c 号の例外は、着実に支持を受けつつある商業上の需要に応えるものである。例えば、改 正後のアメリカ統一商事法典 9-406 条 d 号、1988 年の国際ファクタリングに関するユニド ロワ条約 6 条 1 項、2001 年の国際取引における債権譲渡に関する国際連合条約 9 条を参照。
D. 債権はその他の理由のために譲渡できない場合がある
本条は、債権譲渡に対する契約上の禁止又は制限の効果のみを取り扱う。本条 1 項によ
り効果を否定されるのは、そのような禁止又は制限のみである。債権がその他の理由から法律上譲渡できないときは、債権は譲渡できないままである。例えば、債権は、次条のゆえに、合理的にみて債権者以外の者に対して履行することを債務者に期待し得ないほどに給付が債権者の一身に専属するものであることに基づき、譲渡できない場合がある。本条
1 項の規定は、重ねて契約上の禁止がなされていたことのみを理由に、そのような譲渡できない債権を譲渡可能とするものではない。
E. 譲渡人は債務不履行を理由に債務者に対してなお責任を負う
契約上の禁止又は制限への違反は、債権を譲渡しないという債務の不履行を理由とする債務者に対する譲渡人の責任に影響しない。この点を 4 項が明確にしている。
F. 担保のための債権譲渡
本条 2 項及び 3 項は、金銭債権の担保のための債権譲渡には適用されない。IX.-2:301 条
(金銭債権を目的とする担保)を参照。
ノート
1. 債務者に対する譲受人の権利についての譲渡禁止条項の効力は、国によって異なる。イタリア民法 1260 条 2 項によれば、譲渡禁止条項は、譲渡時に譲受人がその条項を知っていたことが証明されない限り、譲受人と債務者との間では無効である。(立証責任の配分が異なるものの)ギリシア民法 466 条 2 項でも、また[p.1037]ポルトガル民法 577 条 2 項でも、同様の立場が採られている。エストニア債務法 166 条 2 項・3 項は、譲渡禁止条項は当事者以外には効力がない旨を明記している。スペイン法においては、債権譲渡の禁止は、一般的に、譲受人が悪意である場合を除いて、譲受人に対して効力がないと考えられているが(Díez-Picazo, Fundamentos II, 813)、譲渡禁止条項を知らずに権利を取得した譲受人であっても、債務者が譲渡に同意しない限り、債務者に対してその権利を主張することができないと考える学者もいる(Xxxxxxxón, Comentario, 1023)。唯一の先例としてTS
26 September 2002 が判例法となっているが、それは暗に譲渡禁止に効力を認めている
(Veiga Copo, RDBB 2003, 281 ff および Xxxx Xxxxxx, CCJC 2003,915 ff による評釈)。イングランド法の立場は、債権譲渡は譲渡禁止にもかかわらず譲渡人と譲受人の間では有効であるとするものと考えられている(Chitty on Contracts, no.19-045 を参照)。ある事件では、譲渡禁止に反する譲渡は完全に無効であると判示されたが(Helstan Securities Ltd. v. Hertfordshire County Council [1978] 3 All ER 262)、この事件は譲受人が債務者から支払を受けることができるかどうかという問題のみに関するものであったため、その判断は判決に必要な範囲を超えていた。そして、譲渡人が自己に支払われる金額を処分することを債務者は有効に禁じることができなかったと指摘した、 同事件についての後の評釈は
(Goode,“Inalienable Rights?”)、Linden Gardens Trust Ltd. v. Lenesta Sludge Disposals Ltd.
[1994] 1 AC 85, 104 において、貴族院により好意的に評価された(ただし、その点の判断が 必要であるとはされなかったのであるが)。後の裁判では、譲渡禁止条項は、譲渡人が譲受人 のための信託に基づき債務者から受領した利益を保持することを妨げず、債務者が弁済 しなければ、譲受人は自らの代わりに訴えを提起することを譲渡人に強制することがで きる場合があると、判示された。Don King Productions Inc v. Xxxxxx [2001] Chap. 291; Barbados Trust Co. v. Bank of Zambia [2007] EWCA Civ 148,[2007] 1 Xxxxx's Rep 495 をx x。しかしながら、債務者は、禁止された譲渡を承認することを拒絶し、譲渡を知らさ れた後に生じた相殺にすら依拠することができそうである。イングランド法においては、債権についての例外がない。しかし、会社の担保権に関する法律委員会の報告書(Lax Xxx 000, 0000, xxxx. 6.73)では、例外が推奨された。スコットランドでは、譲渡禁止条項は 有効とされている(Xxxxx Xxxxx Ltd. v. Apollo Engineering Ltd. 2000 SC 228; XxXxxxx, Law of Contract in Scotland, no. 12.38.)。 北欧法は、オランダと同様に(民法 3 編 83 条 2 項)、譲渡禁止条項の 債務者に対する有効性を完全に承認している(Ussing, Aftaler3, 229)。ただし、債権が譲渡 できると債務者が譲受人に誤信させ、譲受人が善意かつ合理的に債務者の意思表明その 他の行動を信頼した稀な場合は、例外である(民法 3 編 36 条)。フランスにおいては、譲 受人は譲渡禁止条項を含む契約の当事者ではないから、譲受人はそのような条項に拘束 されず、債務者から弁済を受けることができると判示された(Xxxx.xxx. 21 November 2000, D.
2001, p. 123, obs. Valérie Avena-Robardet)。しかし、譲渡禁止条項の有効性の原則及び契約上の譲渡禁止の効果は、2001 年 5 月 15 日制定の制定法(Law NRE “sur les nouvelles regulations économiques”)において、明示的に承認されている(Terré/Simler/Lequette, Les obligations9, 1218, no. 1278 を参照)。ルクセンブルク法は、本条に対応するxxの規定を有していない。ポーランドにおいては、譲渡禁止条項は当事者以外の善意で行動した者に対しても有効である、と主張する学者もいる(Xxxxxxxxxx, Zobowiązania, 360 を参照)。書面で立証された債権に関して民法 514 条に規定があるように、譲渡禁止が悪意で行動した譲受人に対して効力を持つことには疑いが無い。スロヴェニアにおいては、譲渡禁止条項は、民事関係における譲渡を、第三者との関係でも妨げる。[p.1038]商事関係においては、そのような条項は効果を有しない(債務法 417 条 2 項参照)。ドイツ法における基本原則は、譲渡禁止条項の有効性である(民法 399 条参照)。しかし、商法 354a 条は商事契約上の金銭債権についての特別規定を創設しており、当該債権はなお譲渡可能である。しかし、債務者は、
Ⅲ.-5:108 条 2 項と同様に、保護される。スロヴァキアにおいては、譲渡の契約上の禁止は、民法 525 条 1 項により債権の有効な譲渡を妨げる(「契約上の禁止に反して債権を譲渡することができない」)。このことは、善意の譲受人にも影響を及ぼすだろう。
2. オーストリアでは、譲渡の契約上の禁止に関する規定は、最近変更された。新しい民法 1396a 条は、消費者でない当事者間の金銭債権について、譲渡の契約上の禁止は、それが個別に交渉して取り決められ、かつ、債権者の地位を著しく悪化させないときに限り有効であると規定している。また、この禁止は、相対的効力しか有しない:禁止にかか
わらず債権が譲渡されたときは、譲受人が禁止を知っていたときであっても移転はなお有効であり、譲受人が債務者に対して責任を負うこともない(民法 1396a 条 2 項10)。しかし、民法 1396a 条は、債権が非金銭債権であるとき、又は、消費者が関与しているときは、適用されない。そのような場合には、譲渡の契約上の禁止は絶対的効力を持つということが、一部でなお主張されている(Xxxxxx and Xxxxxx, Bürgerliches Recht II13, 119)。オーストリア法には、譲渡の制定法上の禁止も存在する(例えば、民法 1070 条、1074 条、消費者保護法 12 条、強制xxx 293 条 2 項)。チェコ法においては、債務者との合意に違反するとき
は債権譲渡ができない旨のxxの法規定がある(民法 525 条 2 項)。
3. 本条は、債権譲渡における譲渡禁止条項の効果を否定する限りでは、現在のアメリカ統 一商事法典 9-401 条 1 項 b 号11に相当する規定及び国際ファクタリングに関するユニド ロワ条約 6 条 1 項において初めてとられた問題解決方法に従っている。同様の問題解決 方法は、多くのカナダ動産担保法[PPSA]12においても見出すことができる(たとえば、 1993 年のサスケッチュワン州動産担保法 41 条 9 項)。ベルギーの学説は、現在では、債務法の 下での譲渡禁止条項の有効性の問題と、物権法の下での債務者13との関係における条項 の効力とを明確に区別している。履行請求権は債権者・債務者間の「無形的な」存在で あるに過ぎないから、債権者・債務者間で有効に締結された制限はすべて、自動的かつ 必然的に万人に対して erga omnes 効力を持つこととなる。しかし、譲渡禁止条項は、そ れを約定した当事者が正当な利益を有しないときは、当事者間においても単純に無効と なる。会社の株式に関するそのような条項の有効性には、より厳格な規定が適用される。したがって、本条 4 項の規定は、ベルギー法においては不可能である。すなわち、条項 が当事者間においても無効であるか、あるいは、万人に対して有効であって本条 2 項14a 号及び b 号のような譲受人の保護だけが行われるかの、いずれかであるからである15。
10 原文は 3 項とあるが、おそらく誤植。
11 債権譲渡禁止特約に関する条文はUCC9-406 条 d 号なので、この条文引用は疑わしい。
12 「多くの」とされているのは、おそらくこの法律が州ごとに定められているため。
13 原文通り訳したが、債務法上の条項の効力(=当事者間の効力)と物権法上の条項の効力(=条項の第三者効)が区別されているという趣旨からすれば、「譲受人との 関係における条項の効力」と考えるのが自然ではないか?
14 原文の通り訳したが、譲受人の保護を定めているのは 3 項であるので、3 項 a 号及び b 号の誤植であるように思う。
15 補足:前者の場合には、当事者間でも条項が無効である以上、その違反を理由とする譲渡人の責任も問題となりえない。後者の場合には、禁止特約の対世効が認められるため、特約の対世効を原則として認めない本条とは出発点が異なり、4 項はそのままの形では当てはまらない。