Contract
(要約)
中国契約法における売主の瑕疵担保責任
夏 xx
第xx はじめに-本稿の検討課題と構成
瑕疵担保責任について、ドイツ法系の国では、法定責任説から契約責任説へと転換しているのに対して、中国の瑕疵担保責任法では、当初から法定責任説がしりぞけられ、契約責任説が採用されてきたものの、その前提となる契約内容や契約責任の理解について、経済体制の転換に伴い変遷がある。そこで、本論文では、中国における瑕疵担保責任に関する立法の変遷と学説の展開の分析を通じて、次の四つの点について検討している。
第一に、当初の集権的計画経済体制の下でどのような取引モデルが想定されていたか、現在の市場経済体制の下でどのような取引モデルが想定されているかを明らかにした上で、一定の経済体制の下で想定された取引モデルが瑕疵担保責任法にどのような影響を及ぼしているかということを検討する。
第二に、当初の私的自治を基礎としない契約法制において契約内容がどのようにとらえられていたか、現在の私的自治を基礎とする契約法制において契約内容がどのようにとらえられているかを明らかにした上で、契約内容のとらえ方が瑕疵担保責任の内実にどのような影響をもたらすかについて検討する。
第三に、瑕疵担保責任の前提問題として、私的自治を基礎としない当初の契約法制において債務不履行責任(違約責任)がどのようにとらえられていたか、そして、私的自治を基礎とする現在の契約法制において債務不履行責任(違約責任)がどのようにとらえられているかということを明らかにした上で、債務不履行責任(違約責任)に関する理解が瑕疵担保責任の内実にどのような影響を与えるかについて検討する。
第四に、以上の中国法の展開と法定責任説から契約責任説への転換に向けて進められている現在の日本法上の議論を比較することを通じて、契約責任説を採用することの意味と契約内容の理解および債務不履行責任(違約責任)の理解が瑕疵担保責任の内実に及ぼす影響について検討する。
第二章 集権的計画経済期の法状況
本章では、集権的計画経済期における立法草案等を概観することにより、この時期の法状況の特徴を明らかにしている。
一 前提とされる取引モデル
まず、この時期の立法は、契約の定めに適合する目的物を引き渡す義務を売主に課し、この品質適合義務の違反による責任を債務不履行責任としてとらえていたこと等から、目的物の性質が契約内容になるという契約責任説の考え方を前提としていたことがわかる。
この時期の契約は、主として計画を実現するための手段であった。そうした計画を基礎とする契約は、主として、種類物(工業製品)を対象とするものである。こうした契約では、国は、通常、計画、法令等を通じて、目的物が一定の性質を備えることを命ずる。そのような性質が契約内容にならなければ、計画ないし国の意思の実現が妨げられることになるため、目的物の性質が契約内容になることは、集権的計画経済体制下の当然の要請だったということができる。
次に、この時期の立法は、目的物の引渡しを受ける際に検査義務を買主に課した上で、買主が検査によって瑕疵を発見したときは、売主に通知しなければ失権することを定めていた。
この時期の立法は、計画を基礎とする事業者間契約を想定していた。そのような契約では、一方で、目的物の性質に関する紛争を減少させ、迅速に解決する必要があり、他方で、買主が一定の専門知識をもつ事業者であれば、瑕疵を容易に発見することができることから、直ちにまたは一定の期間内に瑕疵
を主張しなければ失権させてもよいと考えられていた。この時期の立法が検査義務・瑕疵通知義務を買主に課していたのは、このような考慮によると考えられる。
二 契約内容の他律性
集権的計画経済期では、契約内容は、原則として他律的により決められていた。これは、計画を基礎とする契約において、①品質不適合(瑕疵)の判断基準が他律的に決められていたこと、②契約解除が買主の救済手段として否定されていたこと、③代金減額が他律的に決められていたこと、④法定違約金制度が確立していたことに表れていた。
三 瑕疵担保責任と債務不履行責任の関係
この時期の立法は、瑕疵担保責任とその他の不履行形態を区別せず規定していたことから、瑕疵担保責任を債務不履行責任とは異なるものとしてとらえていないとみることができる。
第三章 「三者並立」期の法状況
本章では、「三者並立」期の立法の内容と学説の展開を概観することにより、この時期の法状況の特徴を明らかにしている。
一 立法
1.前提とされるモデル
まず、この時期の立法は、目的物に瑕疵がある場合に、契約上の利益を実現するための救済手段を買主に認めていた。それによると、この時期の立法は、目的物の性質が契約内容になりうることを前提としていたことがわかる。
この時期の立法は、新たな市場経済体制の下で制定された法律であるが、そこでも、種類物売買が取引の中心を占める点に変わりはないことから、目的物の性質が契約内容になりうることが前提とされ、法定責任説の考え方は適当ではないと考えられた。
次に、この時期の立法は、目的物の引渡しを受ける際に瑕疵検査・通知義務を買主に課すかどうかについて、立場が分かれていた。一部の立法は、集権的計画経済期の立法と同様に、計画を基礎とする事業者間契約を想定していたことから、それと同様の考慮にもとづき、瑕疵検査・通知義務を買主に課していた。それに対して、民事契約ないし消費者契約を想定していた立法は、瑕疵検査・通知義務を買主に課していなかった。民事契約ないし消費者契約では、取引関係を迅速に処理する必要はなく、買主が瑕疵を容易に発見することができるという前提が欠けることが、その理由と考えられる。
2.契約内容の決定に関する他律的規範から自律的規範への転換
経済体制の転換に伴い、契約の内容が自律的に決められるものへと転換したことが、「三者並立」期の立法の特徴である。これは、特に①品質不適合(瑕疵)の判断基準、②買主の救済手段としての契約解除制度、③代金減額の基準、④違約金制度の中に現れている。
3.売主の瑕疵担保責任に関する規定と違約責任一般に関する規定の分離
さらに、「三者並立」期の立法は、瑕疵担保責任に関する規定と違約責任一般に関する規定が分離していたところに特徴がある。
まず、違約責任一般について、民法通則と経済契約三法は、異なる立場を採用しているが、学説では、過失責任原則を違約責任の帰責原則としてとらえる見解が支配的だった。それに対して、品質不適合(瑕疵)による責任を規定する立法は、一種の無過失責任としての品質責任を定めていた。
次に、民法通則および経済契約三法は、損害賠償のほかに、修理・交換・再製作といった追完請求を違約責任の内容として定めているが、売主の違約責任について規定していなかった。それに対して、品質不適合(瑕疵)による責任を規定する立法は、品質不適合による責任について、損害賠償と追完請求のほか、「返品」および代金減額も責任の内容として定めていた。
以上によると、民法通則および経済契約三法に定められた違約責任と、その他の立法に定められた品
質不適合による責任がどのような関係にあるかが問題となる。両者は、要件-売主(債務者)の過失 を要件とするかどうか-と責任内容-契約上の利益を実現するための救済手段のほか、契約を解消 するための救済手段が認められるかどうか-において、異なるものとしてとらえられる可能性がある。二 学説
1.前提とされる取引モデル
「三者並立」期の学説は、法定責任説をしりぞけ、目的物の性質が契約内容になることを前提としていた。現代社会では、種類物売買が取引の多数を占めていることから、目的物の性質が契約内容に入らないという法定責任説の考え方は、こうした現状にふさわしくないと考えられたためである。
また、この時期の学説は、当時の立法における品質異議制度をもとに、買主の瑕疵検査・通知義務を認めていた。もっとも、当時の立法は、計画を基礎とする事業者間契約を想定するものであった。また、買主の瑕疵検査・通知義務を認める外国法と国際条約の多くは、商事契約を対象とする。しかし、中国の学説は、この点を意識しないまま、外国法を継受し、この買主の瑕疵検査・通知義務を当然のものとしてとらえていた。
2.瑕疵担保責任と違約責任の関係
以上のように、目的物の性質が契約内容になりうることが前提とされれば、売主が瑕疵のある目的物を引き渡したときは、違約責任が成立するはずである。しかし、「三者並立」期の学説の一部は、違約責任を過失責任としてとらえ、当時の立法における品質保証責任(瑕疵担保責任)を、買主の過失を要件としない法定責任としてとらえた上で、違約責任の枠外でこうした無過失責任としての瑕疵担保責任を認めるべきであると主張していた。
1980 年代から 90 年代に入り、製品の品質問題がますます深刻になった。そうした現実の中で、買主により厚い保護を与える必要があるにもかかわらず、伝統的理論にしたがって違約責任を過失責任ととらえるならば、そのような違約責任だけでは、中国社会における現実の必要に応えることができない。
「三者並立」期の学説は、このような問題意識を共通の前提として、瑕疵担保責任をめぐる議論を行っていたと考えられる。
第四章 統一契約法の制定過程
本章では、統一契約法の制定過程で作成された立法方針および3つの草案(試擬稿、意見徴求稿、統一契約法草案)を概観し、その異同を明らかにしている。
一 諸草案の共通点-前提とされる取引モデル
まず、この時期の諸草案は、目的物の品質不適合(瑕疵)に対して、契約上の利益を実現するための救済手段を認めている。それによると、法定責任説をしりぞけ、目的物の性質が契約内容になりうることを前提にしているとみることができる。現代社会では、種類物が取引の多数を占めることから、目的物の性質が契約内容にならないという法定責任説の考え方は、こうした現代社会の取引の状況にふさわしくないと考えられたからである。
次に、この時期の諸草案は、各則の「売買契約」の部分で、買主の瑕疵検査・通知義務を定めている。諸草案は、従来の学説の影響を受け、買主の瑕疵検査・通知義務が認められる理由を明らかにしないまま、買主の瑕疵検査・通知義務を当然のものとして認めている。
二 諸草案の相違点
1.瑕疵担保責任と違約責任一般の関係
当時の諸草案は、売主の瑕疵担保責任(品質不適合による責任)と総則における違約責任の関係について、立場が分かれている。
試擬稿は、総則の部分で、違約責任を過失責任ととらえた上で、契約上の利益を実現するための救済
手段のみを認めているが、各則の「売買契約」の部分で、売主の瑕疵担保責任について、代金減額と契約解除という契約を解消するための救済手段を認めている。これによると、試擬稿は、各則における売主の瑕疵担保責任を、違約責任の枠外で認められる法定無過失責任としてとらえている可能性がある。それに対して、意見徴求稿と統一契約法草案は、総則の部分で、違約責任を厳格責任ととらえた上で、 契約上の利益を実現するための救済手段だけでなく、代金減額、契約解除(返品)という契約を解消するための救済手段も違約責任の内容として定めている。これにより、売主の瑕疵担保責任が違約責任に
収斂する可能性が出てくることになった。
2.品質不適合(瑕疵)の判断基準に関する他律と自律の関係
また、当時の諸草案は、品質不適合(瑕疵)を判断する際に、当事者の合意を第一の基準とした上で、当事者の合意がない場面、または明確でない場面を想定し、目的物の品質に関する補充的基準を定めている。しかし、具体的内容については、試擬稿は、当事者の合意を「契約条項」に限ってとらえた上で、こうした合意がないとされるときは、直ちに任意法規による補充を認めるのに対して、意見徴求稿と統一契約法草案は、任意法規による補充を行う前に、まず、補足合意と契約の関係条項の規定または取引慣習を基準としなければならない-補充的契約解釈に相当する-とする。
このように、意見徴求稿と統一契約法草案は、任意法規という他律的規範による補充を認める前に、まず、補足合意、補充的契約解釈という自律的な基準を採用することにより、自律により決められる契約内容を拡張したとみることができる。
第五章 統一契約法の制定とその後の展開
本章では、統一契約法の規定を確認した後に、統一契約法制定後の学説の展開を概観し、さらに、最高人民法院が 2012 年に公布した売買契約司法解釈に関する規定をみた上で、現在の法状況の特徴を明らかにしている。
一 前提とされる取引モデル
まず、統一契約法は、売主に品質適合義務を課した上で、契約上の利益を実現するための救済手段を買主に認め、目的物の性質が契約内容になりうるという考え方を前提としている。統一契約法制定後の学説も、法定責任説をしりぞけ、目的物の性質が契約内容になりうることを当然の前提としている。これは、現代社会では、種類物売買が取引の中心となっていることから、目的物の性質が契約内容に入らないという法定責任説の考え方では、このような現代社会の要請に応えられないと考えられたことによる。
次に、統一契約法は、買主の瑕疵検査・通知義務の履行を瑕疵担保責任の特別な要件として認めている。また、統一契約法制定後の学説は、こうした統一契約法の規定にしたがい、買主の瑕疵検査・通知義務の履行を瑕疵担保責任の要件としている。統一契約法の起草者は、従来の学説の影響を受け、さらに商事契約を想定しているCISG を参照した結果、一般の民事契約ないし消費者契約では、①買主を失権させてまで、目的物の品質に関する紛争を迅速に解決する必要があるかどうか、②買主が消費者である場合に、瑕疵を容易に発見することができるかどうかを検討しないまま、事業者間契約についての規範を民事契約一般ないし消費者契約まで適用した。このことは、統一契約法制定後の学説にも当てはまる。
以上に対し、最近になって公布された売買契約司法解釈は、瑕疵検査・通知の「合理的期間」等について、買主が消費者である場合と事業者である場合の区別を重要な考慮要素として提示している。これは、消費者契約についてまで買主の瑕疵検査・通知義務を認める点に問題があることを意識し、民法の商法化現象を是正する方向に動き出したものと考えられる。
二 契約内容の決定に関する自律と他律の関係
契約内容決定に関する自律と他律の関係は、品質不適合の判断基準に関する議論の中に現れている。
1.統一契約法における自律的規範の射程の拡張
まず、統一契約法も、目的物の品質不適合(瑕疵)を判断する際に、当事者の合意を第一の基準とした上で、当事者の合意がない場面、または明確でない場面を想定し、目的物の品質に関する補充的基準を定めているが、当事者の合意が明示されたことを要求せず、任意法規による補充を行う前に、自律的規範による補充を行う点で、合意にもとづく自律的規範の射程を拡張したとみることができる。
2.学説における「合意」の理解の限定性
それに対して、「凶宅」または一家心中があった家の売買に関する議論によると、統一契約法制定後の学説は、上述した統一契約法の立場を貫徹せず、他律的規範により契約内容が決められることを重視し、契約条項として明確に定められる場合に限って当事者の合意を認める傾向にある。
このような考え方は、瑕疵担保責任に関する大陸法の伝統的な考え方の影響を受けたほか、中国の契約制度の歴史的な経緯に由来するものとみることもできる。すなわち、集権的計画経済体制の下での契約制度は、私的自治を基盤とするものではなく、完全に他律的に決められたものであった。もちろん、その後、経済体制の改革が行われ、私的自治を基軸とする契約制度への転換が図られた。しかし、その後も、契約内容は他律的規範により形成されるという従来の考え方が根強く存在し続けきたため、私的自治の思想が十分に浸透しているとは言い難い。契約内容を確定する際に、合意の趣旨を汲み取るのではなく、特約がある場合に限って合意があるとし、他律的規範による補充を広く認めるという考え方が当然の前提とされているのは、そのためではないかと考えられる。
三 瑕疵担保責任と違約責任一般の関係
統一契約法は、瑕疵担保責任と違約責任をともに厳格責任としてとらえた上で、瑕疵担保責任にもとづく救済手段であった「返品」と代金減額を違約責任の内容として定めていることから、瑕疵担保責任を違約責任に収斂させようとしたものとみることができる。
それに対して、統一契約法制定後の学説では、瑕疵担保責任を違約責任の枠外でとらえる見解がなお強く主張されている。こうした見解は、違約責任を限定的に理解した上で、そのような違約責任を補うためのものとして瑕疵担保責任をとらえる点で共通している。
第六章 おわりに
本章では、中国における瑕疵担保責任法の比較法的特徴をまとめた上で、日本法、特に現在進行中の民法(債権関係)改正との比較を行っている。
一 中国における瑕疵担保責任法の比較法的特徴
中国における瑕疵担保責任法の比較法的特徴は、次のようにまとめられる。
1.前提とされる取引モデル
まず、前提とされる取引モデルに由来する特徴として、次の2点があげられる。
第一に、中国の瑕疵担保責任法は、終始一貫して、目的物の性質が契約内容になりうるという契約責任説の考え方を前提としてきた。そのxx的な原因は、当初から種類物売買を取引モデルとして想定していたことにある。
第二に、中国の瑕疵担保責任法は、当初から、買主に瑕疵検査・通知義務を課してきた。その原因は、当初から、事業者間契約が主要なモデルとして想定されていたことにある。しかし、中国の学説は、この点を意識していないまま、この買主の瑕疵検査・通知義務を瑕疵担保責任制度の当然の一部としてとらえていた。統一契約法も、このような学説の影響を受け、十分な検討を経ないまま、買主の瑕疵検査・通知義務を当然のものとして規定している。それに対して、近時の売買契約司法解釈が、買主が消費者である場合と事業者である場合の区別を重要な考慮要素として提示しているのは、消費者契約について
まで買主の瑕疵検査・通知義務を認める点に問題があることを意識し、民法の商法化現象を是正する方向に動き出したものと考えられる。
2.契約内容の決定における自律と他律
以上のように、中国の瑕疵担保責任法は、契約責任説を終始一貫して採用してきたが、契約内容の決定における自律と他律の関係については、考え方が変遷してきた。
まず、集権的計画経済体制の下では、契約内容は、原則として他律的規範により決められた。それに対して、市場経済体制に転換した後は、他律的規範が後退し、合意の射程が拡張してきた。しかし、「凶宅」または一家心中があった家の売買に関する議論によると、統一契約法制定後の学説は、契約内容を確定する際に、国家基準・業界基準のような他律的規範により契約内容が決められることを重視し、契約条項として明確に定められる場合に限って当事者の合意を認める傾向にある。これによると、市場経済体制に移行した後も、他律的規範を重視し、私的自治を排除ないし軽視するという従前の考え方がなお根強く残り続けており、また、特定物売買に関して学説継受をした結果、大陸法の伝統的な考え方の影響が残っていることから、私的自治の思想は、現在でも十分に浸透していないとみることができる。以上のことから、目的物の性質が契約内容になりうるかどうかという問題と、契約内容の決定につい て自律と他律の関係をどのようにとらえるかという問題は、異なる問題であることがわかる。自律と他律の関係をどのようにとらえるかという問題は、契約責任説を採用するかどうかにより決まるのではなく、私的自治の思想をどのようなものとして理解し、それがどこまで重視されるかによって決まるとい
うことができる。
3.違約責任(債務不履行責任)のとらえ方
さらに、中国の瑕疵担保責任法の展開からすると、目的物の性質が契約内容になりうることが前提とされても、違約責任(債務不履行責任)をどのようにとらえるかによって、瑕疵担保責任制度の理解が異なってくる可能性があることがわかる。例えば、集権的経済体制に即した考え方(契約解除を原則として認めない)や、当事者の行動の自由を保障するための過失責任の原則等、一定の考え方にもとづいて違約責任を限定的にとらえるのであれば、買主の保護を図るために、その枠外で瑕疵担保責任を認める余地が出てくる。さらに、そもそも、契約そのものに依拠する違約責任だけで、買主に十分な救済を提供することができるかどうかが問題となる。十分な救済を提供できないと考えるのであれば、瑕疵担保責任の名を借りて、契約外在的な原理にもとづく救済が認められる可能性が出てくることになる。 二 日本法との比較
以上の分析から明らかになった中国契約法の特徴と同様の方向は、日本法にも見て取ることができる。
1.前提とされる取引モデル
日本の民法(債権関係)改正は、法定責任説から契約責任説への転換に向けて進められている。その理由は、現代社会では、種類物ないし工業製品が取引の中心となっていることから、目的物の性質が契約内容にならないという法定責任説の考え方は、こうした現代社会に適合しないからであるとされている。この点において、上述した中国契約法と同様の方向を見て取ることができる。
さらに、短期期間制限に関する見直しをめぐる議論では、買主に瑕疵通知義務を課すことが提案されている。そこには、商事契約にとどまるか、事業者間契約にまで拡張するかにかかわりなく、一定の契約モデルの下では、取引関係を迅速に処理し、または履行が終了したことに対する売主の期待を保護する必要があり、それにより買主に瑕疵の検査・通知義務を課すことが正当化される可能性があるという考え方を見て取ることができる。しかし、一般の民事契約では、このような必要があるとは考えられない。そのため、日本の改正提案は、契約一般について買主に瑕疵の通知義務を課している点で、統一契約法と同様の問題を抱えていると考えられる。
2.契約内容の決定における自律と他律
日本の民法(債権関係)改正における議論では、目的物の性質が契約内容になりうることが前提とさ
れても、契約内容を確定する際に、すべて当事者の自律的な合意によることが不可能であり、他律的な規範-例えば、取引上の社会通念または契約の性質に照らして目的物が備えるべき性質-による補充も考慮すべきであるという考え方が示されている。契約内容の決定における自律と他律の関係をどのようにとらえるかは、契約責任説へと転換するだけで決まることではなく、私的自治の思想をどのようなものとして理解し、それがどこまで重視されるかによって左右される。この点においても、上述した中国法に関する分析と同様の方向を見て取ることができる。
3.債務不履行責任のとらえ方
また、契約責任説を採用するとしても、その前提として債務不履行責任をどのようにとらえるかにより、瑕疵担保責任の理解が違ってくる可能性がある。例えば、伝統的理論のように、行為者の行動の自由の保障を核とする過失責任の原則から債務不履行責任を理解するのであれば、買主が債務不履行責任により救済されない場面が生じることから、このような債務不履行責任の不備を補うために、債務不履行責任の枠外で瑕疵担保責任を認める余地があった。
それに対して、契約の拘束力にもとづいて債務不履行責任をとらえるのであれば、債務不履行責任の保護範囲が拡張する。しかし、このような債務不履行責任によっても、買主がなお十分な保護を受けることができないと考えるのであれば、契約の拘束力とは異なる別の原理-例えば有償契約の等価性原理-に依拠して、瑕疵担保責任制度を債務不履行責任以上の効果を備えるものとしてとらえる可能性が出てくる。日本の改正提案で代金減額請求権を認めることとされているのは、その一つの表れとみることもできる。この点においても、上述した中国法に関する分析と同様の方向を見て取ることができる。