Contract
PFI事業契約に際しての諸問題に関する基本的考え方
目 次
ま え が き 3
第 1 章 状 況 変 化 に 対 応 し た 柔 軟 な サ ー ビ ス x x ・ サ ー ビ ス 対 価 の 変 更 8
第 1 節 変 更 メ カ ニ ズ ム に 関 す る 基 本 的 な 考 え 方 . 8
1. 長 期 間 継 続 す る 契 約 に 関 す る 基 本 的 な 考 え 方 8
2. 契 約 条 件 の 見 直 x x 方 法 9
3.変更に伴う価格変更の方法・サービス対価調整規定における調整額決定方法 10
第 2 節 サ ー ビ ス x x の 変 更 に 関 す る 規 定 11
1. 概 要 11
2. 問 題 状 況 11
3. 基 本 的 な 考 え 方 11
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 12
5. 留 意 点 16
第 3 節 建 設 費 に 係 る 物 価 変 動 リ ス ク へ の 対 応 18
1. 概 要 18
2. 問 題 状 況 18
3. 基 本 的 な 考 え 方 18
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 19
5. 留 意 点 19
第 4 節 ソ フ ト サ ー ビ ス 等 の 価 格 変 更 に 関 す る 規 定 21
1. 概 要 21
2. 問 題 状 況 21
3. 基 本 的 な 考 え 方 21
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 21
5. 留 意 点 23
第 2 章 任 意 解 除 25
1. 概 要 25
2. 問 題 状 況 25
3. 基 本 的 な 考 え 方 25
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 26
5. 留 意 点 28
第 3 章 情 報 共 有 及 び 情 報 公 開 29
1. 概 要 29
2. 問 題 状 況 29
3. 基 本 的 な 考 え 方 30
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 30
5. 留 意 点 32
第 4 章 紛 争 解 決 手 続 34
1. 概 要 34
2. 問 題 状 況 34
3. 基 本 的 な 考 え 方 34
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 35
5. 留 意 点 37
第 5 章 法 令 変 更 39
1. 概 要 39
2. 問 題 状 況 39
3. 基 本 的 な 考 え 方 39
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 41
5. 留 意 点 43
第 6 章 モ ニ タ リ ン グ ・ 支 払 メ カ ニ ズ ム 44
1. 概 要 44
2. 問 題 状 況 44
3. 基 本 的 な 考 え 方 44
4. 具 体 的 な 規 定 の x x 47
5. 留 意 点 52
まえがき
1.PFI事業契約に際しての諸問題に関する基本的考え方の作成の経緯
平成 11 年にPFI法が施行されてから9年以上が経過した。実施方針の公表件数は 300 件を超え、 PFIは公共施設等の整備等に関する事業を行う場合の一手法として定着しつつある。
一方、運営段階に入ったPFI事業において、PFI法第 10 条第1項に定める協定(以下、「PFI事業契約」という。)の運用や解釈等をめぐっていくつかの問題点が顕在化している。例えば、事業の前提条件である事業環境が変化しても契約に定められた各種条件の変更ができなかったり、モニタリングが適切に機能しなかったりといった問題がある。また、当事者間で事業契約の解釈等をめぐって対立が生じた場合に、紛争解決が円滑に進まないという事態も一部に生じている。
PFI事業契約に関しては、平成 15 年に「契約に関するガイドライン」(以下、「契約ガイドライン」という。)が公表され、PFI事業契約における留意事項が示されているところである。契約ガイドラインは、施設の設計・施工、維持管理業務を主たる内容とした事業を想定している。そのため、これら以外の業務を含むPFI事業において生じている諸課題に対する考え方は十分に示されているとはいえない。
民間資金等活用事業推進委員会(以下、「本委員会」という。)は、平成 19 年 11 月に「PFI推進委員会報告―真の意味の官民のパートナーシップ(官民連携)実現に向けて―」を取りまとめた。同報告では、公共施設等の管理者等(以下、「管理者等」という。)や経済界の喫緊のニーズに対応するため「重点的に検討し速やかに措置を講ずべき課題」が整理されたが、その中で、事業環境変化への対応やモニタリングの在り方等が「個別具体のプロセスごとの課題」として位置付けられた。さらに、同課題に対しては、横断的な受皿となる「標準契約書モデル及びその解説」等の検討を行うことが指摘されたところである。
そこで、PFI事業契約に関する重点検討課題として以下6項目を取り上げ、PFI事業契約での規定の考え方につき整理を行い、「PFI事業契約に際しての諸問題に関する基本的考え方」(以下、「本書」という。)として取りまとめることとした。
① 状況変化に対応した柔軟なサービス内容・サービス対価の変更
② 管理者等による契約の任意解除
③ 情報共有及び情報公開
④ 中立的な第三者の関与を含む紛争調整メカニズム
⑤ 法 令 変 更
⑥ モニタリング・支払メカニズムの充実
2.本書作成に当たっての基本的な考え方
契約ガイドラインは、サービス提供業務(本書では、設計・施工が完了し、当該施設の供用が開始された後のすべての業務を指す意味で用いる。)の比重が軽い事業を念頭に置いて作成したが、本書では、サービス提供業務の比重が重い事業についても配慮している1。サービス提供業務の比重が軽い場合、長
1 一般に「運営業務の比重が重い」といわれる事業でも、事業の核となる業務は管理者等によって行われ、選定事業者に委託されるのは周辺業務のみである場合も多い。このような場合に「運営業務の比重が重い」
期契約であっても社会、経済情勢の変化や法令変更等が事業に与える影響が比較的小さいため、あらかじめ決定した諸条件が著しく合理性を欠く事態になる可能性は、サービス提供業務の比重が重い事業に比べて小さかった。本書では、サービス提供業務の比重が重い事業についても扱うこととしたため、これらに対応することを重視した。なお、本書で主に想定しているのはサービス購入型であり、需要リスクを選定事業者に移転しない事業であるが、需要リスクを選定事業者に移転する事業についても、今後本委員会で十分議論をした上で対象範囲に含めていくことを想定している。そして、双方の本質的な違いを含め理解した上で、それぞれの条項の在り方を検討する必要がある。
本書作成に当たっては、以下を基本的な考え方としている。
(1) 国民・市民のためのサービスの価値の最大化
PFIの本質は、国民・市民にとってより利便性の高いサービスをより低廉な費用で提供するには何をするべきかを考えることである。したがってPFI事業契約の作成に当たっては、財政等の制約の下で、国民・市民のためのサービスの価値を最大化することを基本的な視点とすべきである。PF I事業契約は、管理者等と選定事業者との間の契約であるが、以下に示す(2)から(8)について検討する際には、あくまで管理者等の政策目的に基づく国民・市民のためのサービスの価値を最大化することがPFIの本質であることに常に立ち戻る必要がある。
(2) 官民のコミュニケーションの必要性
PFIは官民の協働事業であるため、お互いに協力し合うことが何より重要であり、それが担保されるような仕組み(具体的な契約条項を含む。)を作成することが必要である。選定事業者は自ら(究極的には構成企業の株主)の利益を最大にすることを目指し、管理者等は少ない税負担で良質のサービスを得ることを目指しており、官と民では価値観が大きく異なるのが現実である。また、メンタリティや行動原理にも相当の隔たりがある2。
しかしながら、財政等の制約の下で国民・市民のためのサービスの価値を最大化するためには、民間事業者の資金、経営能力及び技術的能力と管理者等の有する公共事業に関するノウハウ等を結びつけ、その相乗効果を最大限発揮させる必要がある。このため、官民の双方がお互いの相違点を理解した上で積極的にコミュニケーションを図り、連携して両者の間にある障壁を乗り越え、国民・市民のためのサービスの価値の最大化を目指していくことが重要である。
さらに、管理者等の内部での意思の不統一により混乱が生じているとの指摘もあるところであり、管理者等の中で十分にコミュニケーションをとることも重要である。
(3) 真の意味の官民のパートナーシップの形成
PFIでは、VFMの最大化のために官民が良好なパートナーシップを形成することが前提となる。そのためには、官民が対等な立場で事業の実施に当たる必要がある。
契約とは契約当事者間の「利害の調整」がその本来の目的の一つでもあり、契約締結時点までに両
と表現すると、選定事業者が対象施設の運営を主体的に行っているかのように誤解を招く可能性がある。したがって、本書では、「サービス提供業務の比重が重い」という表現を用いることとした。
2 管理者等の職員は基本的に民側の論理について理解が乏しいという指摘もある。このギャップを埋めるためには、例えばヒヤリング等を重ねて理解を深めたり、民間企業の経営手法に精通した人間を確保するなど、工夫をする必要がある。
当事者の利害の調整が完了していなければならない。ただし、必ずしも契約が完璧ではなかったり、時間の経過とともに大きな環境変化があったりした場合、双方の理解や認識にギャップが生まれる。このギャップを埋め、問題を克服するための手法としてコミュニケーション、協力、連携が重要となり、このようなことが可能となるような契約条項が求められる。
良好なパートナーシップの形成のためには、お互いの情報を共有することが必要である。特に共有されるべき重要な情報は、管理者等の情報に関しては、管理者等が目指す事業のアウトカム(管理者等の政策目的や求める成果)やアウトカム実現に向けて選定事業者に期待する役割であり、これらは事業者選定の段階で業務要求水準書等に明確に示されるべきほか、事業の運営段階においても適宜情報の共有と議論がなされることが財政等の制約の下でVFMを最大化するために有効である。
また、対等な立場という観点からは、例えば、両者に重大な影響を与えるような意思決定をどちらか一方が行うこと等をできる限り避けることが望ましい。公共サービスの性格上、管理者等の意思が重視される場面も必要となるが、その場合は、選定事業者に対する金銭面での補償の明確化等により、選定事業者の契約上の地位を守る観点から規定を入れる必要がある。
さらに、中立的な第三者を紛争解決に関与させることにより、事業を継続したままxxな解決を図る仕組みを工夫することも効果がある。
(4) 契約の柔軟性の確保及び当初の契約内容の明確化
PFIでは、長期にわたる運営期間中に当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合などの状況変化に応じて、契約条件の変更が必要になることがある。変更が必要となった場合のルールをあらかじめ決めず当事者間の協議にゆだねることは、合意できなかった場合に困難が生じることに加え、透明性の確保という観点からも望ましいとはいえない。したがって、状況が変化した場合に具体的にどのように契約を変更していくのか、またどのように価格を決定していくのかという変更メカニズムの規定を充実させることが必要である。この際、将来変化が予想される事態をできるだけ多く想定し、変化により影響を受ける業務領域、業務内容、並びに契約上合意された指標及び基準について、事情変更事由に基づく変更の手順と要件を明確に規定しておくことが重要である。
契約の柔軟性は、長期にわたる状況変化に的確にかつ速やかに対応することが目的であり、業務要求水準等が不明確なまま入札を行って後に協議で変更するということを容認するためのものではない。当初の業務要求水準を明確に作成しなければ、変更の際の価格算定の際に計算根拠も示せなくなるため変更も困難になること、透明性の確保、xxな入札手続の確保(すなわち、落札できなかった応札者との関係でも不xxが生じないこと)という点でも問題が生じることに留意する必要がある。
また、PFIの本質は、設計・施工・維持管理・運営を一体として発注することにあることについても留意すべきである。したがって、入札価格についても一体として発注することを前提に決定しているのであり、一部分のみ切り離して市場価格と比較することは本来的に難しいことになる。よって、この観点からも、あくまでも原則はできるだけ条件を変更しなくても済むよう当初の段階で条件を決定することが重要である。
一方、契約の柔軟性が高くても、契約変更に伴うサービス対価の増加分について管理者等に負担能 力がなければ機能しないことから、必要に応じて予算についても一定程度余裕をみておくべきである。なお、PFIでは、性能発注により民間事業者の有するノウハウを効果的に発揮させ、民間の創意
工夫を最大限引き出すことを意図しているため、提案段階では詳細な内容が詰まっておらず、事業者
選定後に管理者等と選定事業者の間の協議を経て設計書や業務仕様が最終的に確定することもある。この際、選定事業者が想定していなかった様々な要求が管理者等からなされ、対応を求められる場合が見られる。しかし、原則として、契約締結時に業務要求水準を満足する選定事業者の提案内容に基づく仕様を確定し、その後は価格改定を伴うサービス内容の変更(本書第1章参照)として対応する必要がある。
(5) リスクの特定と評価・分担
契約作成までのプロセスについては、まずは事業ごとにどのようなリスクがあるのかを洗い出すことが必要である。その上で、各リスクをどちらが管理するのが適切であるかを検討し、リスクを価格で評価(プライシング)するなどの方法によりリスクを評価する。その後、どちらがどのようなリスクを負担するのか、xxxが顕在化した場合にどのような手続により処理するのかなどを検討する。検討結果は実施方針やそれに添付されるPFI事業契約書(案)に盛り込まれることになる。
(6) リスク分担に係る曖昧さの排除
PFIでは、官民のリスク分担を契約で明確に定め、リスクが顕在化した場合の責任の所在を明確化することで、事業全体のリスクを最小化する考え方をとっている。しかし、リスク分担の基本的な考え方が決まっていても、具体的な判断基準やプロセスが明確に規定されていないために官民の認識の齟齬が生じ、紛争に発展する場合もある。その観点から、可能な限りリスク分担が明確になるよう規定する必要がある。例えば、「著しい」「過分の」「主要な」といった抽象的・主観的要件もできるだけ使用しないようにすることが望ましい。
(7) 選定事業者の在り方と統括管理機能
PFIでは、入札説明書において、落札した民間事業者にPFI事業の実施のみを目的とする株式会社の設立を義務付けていることが多い。このように特別の目的のみのために設立された会社は、特別目的会社(SPC。「特定目的会社」と異なり、法令上の概念ではない。)と呼ばれ、このSPCが選定事業者となる。
PFIでは選定事業者としてのSPCは、資産を保有するのみならず、複数の委託先を通じて業務を行うこと、これら契約を統括的に管理し、そして各業務間で調整の必要が生じた場合にはSPCが責任を担い、委託先との間で問題を解決することなどが期待されている。すなわち公共サービスの提供に必要となる設計、施工、維持管理等の業務を選定事業者に包括的に委託することで、選定事業者が総合的に関係者を管理することが期待されている。したがって、証券化等で使用されているSPCとは性格が異なる。
こうした観点から、選定事業者の業務内容に、統括管理機能(設計、施工、維持管理等の業務の調達を総合的に管理する機能)を明確に位置付ける取組が一部の分野で進んでいるが、それ以外の分野の事業においてもこのような業務を含めることによりVFMの向上に寄与できる可能性がないかを検討すべきである。ただし、統括管理業務を明確に位置付ける試みは比較的最近始まったものであり、本業務の有効性及び在り方については、今後検討する必要がある。
(8) 国民・市民の利益の観点からの事業の監視
PFIは、選定事業者が主体的に取り組む事業であると同時に、整備対象とする施設は公共・公用・公益的施設であり、サービス購入型であれば納税者の負担により実施される事業である。
この観点からは、納税者たる国民・市民に対して、事業の成果を積極的に公表し、その視点を取り入れることが必要である。具体的には、管理者等はモニタリングを責任もって主体的に行うことに加え、選定事業者の機密に属する事項を除き、モニタリング結果をホームページ等により公表し、国民・市民から意見を求めることが考えられる。
(9)最後に
今後も本委員会で十分な議論を経た上で、条項例、さらにはPFI標準契約を作成していくことを想定している。さらに、今後、事業分野ごとに、それぞれの事業にふさわしい事業契約書例を作成していくことが望まれる。
本書は、契約書を作成する際の重要な留意点の一部を示したものであって、本書のみで契約を作成できるようにすることを意図したものではない。個々のPFI事業において用いられる契約書の規定は、管理者等と選定事業者双方が、それぞれの責任において、本書を参考にしながらも、それぞれの事業に即した適切な内容となるように検討を加えた上で取り決めて頂きたい。
本書では、重点検討課題について、現在生じている課題、基本的な考え方、PFI事業契約に規定すべき内容、留意点等を示しているが、中でも重要な点は太字で記載し、より詳しい解説は小さめの文字で記載している。すなわち、太字部分及び各検討課題の最後に枠囲みで示した「実務上のポイント」を確認することで、PFI事業契約の実務的事項を押さえることが可能なように構成しているので、読者のニーズに応じて活用されたい。
第1章 状況変化に対応した柔軟なサービス内容・サービス対価の変更第1節 変更メカニズムに関する基本的な考え方
1.長期間継続する契約に関する基本的な考え方
PFI事業契約の事業期間は長期にわたるものである。したがってPFI事業契約は、契約期間を通じてお互いの権利義務を固定することが本来の目的となる。しかし、当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合もあることから、これに備えて柔軟に対応できる内容である必要がある。そのためには、業務要求水準が明確に記載されていること、事業の性質に応じてxxで透明性の高い変更手続が規定されることが必要である。この場合、どのような変更メカニズムが必要となるかは、事業類型、サービス内容により異なる。また、どのような変更でも許されるわけではなく、契約の目的から大きく乖離することがないようにすることに留意する必要がある。さらに、変更に関する合意を、契約条件変更として文書化しておくことが重要である。
(1) PFIの特徴との関係
PFIの特徴の一つとして、設計、施工、維持管理等、事業のライフサイクルを一括して選定事業者に発注することがある。これにより、選定事業者への適切なリスク移転を可能とし、またこれを通じて民間の創意工夫及び合理的なリスク管理を促しているものであり、PFI事業契約は、このような期間中を通じた権利義務関係(リスク分担)についての両当事者の合意を示しているものである。しかしながら、P FIの事業期間は長期にわたることから、契約上の権利義務関係を修正することがより合理的と判断される場合に備えて、変更を行うメカニズムを設ける必要がある。また変更メカニズムは、適切に運用されれば、サービス内容や支払条件をより実態に即したものとし、VFMの向上に資するものと考えられる。ただし、官民の適切なリスク分担を図るという目的から逸脱しないようにすること、契約の目的から大きく離れないようにすることについて留意する必要がある。
なお、選定事業者に対する委託範囲が広ければ常にVFMが向上するとは限らず、「PFI事業契約への過剰な業務の盛り込み」は、リスクの質が異なる複数の業務を同一のPFI事業の中へ取り込むことを意味し、VFMが低下しうる(分離して発注し、異なる企業に委託するほうがVFMが高くなることもあるため)ことに留意する必要がある。
(2) 変更メカニズムの基本的な考え方
以上のような点を考慮すると、変更メカニズムは特に以下の点に配慮して作成することが必要となる。
① 業務要求水準を明確に規定する必要性
契約締結時点で業務要求水準の内容が曖昧であると、変更する場合にも何を基準に変更価格を算定すればよいのかが曖昧になり、変更も困難になることに留意する必要がある(すなわち、変更前に何が求められているかが不明確であると、変更後の業務要求水準が決定されても変更に要する価格の算定が困難になる。)。
② x x 性 ・ 透 明 性 の 確 保 PFI 事 業 契 約 上 の 変 更 メ カ ニ ズ ム の 規 定 に お い て は x x 性 、 透 明 性 を 確 保 す る 必 要 が あ り 、 ま た 実
際の変更の適用に際しても、xx性、透明性が求められる。したがって、どのような場合にどの変更・調整手続が適用されるのか、そして各変更・調整手続の内容を明確に規定する必要がある。また、サービス内容を変更する場合には、変更の前後で、管理者等、選定事業者双方とも有利にも不利にもならないようにすることが重要である。ただし、変更の実施に関して、選定事業者が創意工夫・努力により付加価値を創出できる場合には、そのメリットを選定事業者が享受できるインセンティブを保持することは許容されるべきであろう。
③ リスク管理との関係
変更メカニズムを規定する目的は、リスクを回避することではなく、リスクを管理することである。したがって、合理的に選定事業者が一定のリスクを取ることができ、そして、これを管理できる場合は、選定事業者がリスクを負担することが原則となる。ただし、この場合には金融機関の観点からも、リスク管理の妥当性に関する評価・検討があり得ることに留意する必要がある。
④ 事業類型・サービス内容との関係
どのような変更メカニズムが必要となるかは、事業類型、サービス内容等により異なる。例えば、専ら施設整備を中心としたPFI案件の場合にはサービス提供業務の全体に対する影響は限定され、単純な物価連動方式や簡素化された調整メカニズムで足りる場合もある。
⑤ 合意を文書化する必要性
変更に関する合意を契約条件変更として文書化しておくことにより、選定事業者が義務を負う範囲が不明確になりその結果モニタリングも困難になるということが生じないようにする必要がある。
2.契約条件の見直しの方法
契約条件の見直しの方法は、様々な考え方があり、それぞれの特性を理解した上で、事業内容に応じて、変更規定を組み合せていくことが考えられる。
① 価格の自動調整メカニズムの組込み
一定の指標(インデックス)等をあらかじめ定め、これらに基づき、対価を定期的に調整する方法である。ただし、指標の変化が時間の経過とともに対象となるサービスの市場実勢価格の変化とずれるというリスクはあるとともに、指標を使って連動させても、現実に増減する費用の連動とは一定の差異が生じることも多い。この場合、下記④などと組み合わせることが考えられる。
② 一定の時点での見直し、調整
初期段階で現実と契約規定の間に大きな乖離が生じることが予想される場合などに、一定の時点でサービス内容などを見直し、これに応じて調整する方法である。これは、先例が少ない分野の案件や、入札から実際のサービスが提供されるまでに長期の時間を要するため契約締結時点でできる限り明確に業務要求水準を規定したとしてもサービス提供時点で調整が必要になるような案件に適用されるもので、すべてのPFI案件で必要というわけではない。この方法を採用する場合には、リスク及び価格をどの段階でどう固定することが合理的か等を考慮した上で、採否及び条件を決定すべきである。
③ 変更、調整手続を開始する事由を規定する方法
法令変更、不可抗力事由など一定の事由が生じた場合の手続・効果(リスク分担)を規定する方法である。
④ 一定期間経過後の価格の見直し
例えば供用開始後5年目など、一定の期間経過後に価格等の条件を見直す方法である。資本的支出を伴わず、資本的投資との関連性も低いサービス(ソフトサービス。第4節参照)については、4~5年の期間は前述(①)の指標等による調整のみで十分である可能性が高いが、これ以上長い期間となると、市場価格から乖離する可能性が高くなる。そこで、4~5年ごとに価格等の条件を改定することを前提に、適用される手法等をあらかじめ契約で定める。
⑤ 契約の部分解除、サービス変更等
時間の経過に伴い、サービス自体が不要になったり、サービス提供の在り方にxx的な修正が必要になったりする可能性が高いサービスについて、契約の一部解除や変更規定で対処するものである。
3.変更に伴う価格変更の方法・サービス対価調整規定における調整額決定方法
価格決定の方法としては価格算定のために必要な要素及び算定式をあらかじめ合意しておく方法、ベンチマーキング、マーケットテスティング、中立的な専門家による判断などが考えられるが、これについては第2節5(3)、第4節4を参照されたい。
また、サービス内容変更に伴うサービス対価の変更額、サービスの一部解除の際のサービス対価 の変更額及び補償額の算定を客観的に行うための情報の共有については、第3章4を参照されたい。
第2節 サービス内容の変更に関する規定
1.概要
将来の状況の変化に応じてサービス内容を変更することが必要となることがある。また、事業によっては、初期段階(例えば、運営の開始前後)で現実と当初の想定との乖離が判明することも多い。このような場合に備え、変更のための手続及び価格決定の方法が規定される。
2.問題状況
現在のPFI事業契約においては、複雑な事業の場合は、サービス内容の変更について、管理者等による変更要求通知、選定事業者からの回答書の提出、これらに基づく協議を軸として比較的細かい規定が定められていることが多い。一方、比較的単純な事業では具体的な手続規定がないことも多い。いずれの場合も、①手続の明確化(特に規定がない場合)、②特に価格算定プロセスにおける双方の手続負担軽減及び透明性の向上、③曖昧な事実上の業務要求水準等の変更の防止、特に十分な予算を確保しないまま追加の負担を強いるなど不適切なサービス内容の変更、書面の欠如などによるモニタリング基準の不明確化の防止、④競争性の確保などの課題に対応していく必要がある3。
3.基本的な考え方
(1) 第1節1(1)記載のとおり、当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合などにサービス内容を変更できる仕組みを作ることが重要であることを認識する。すなわち、変更の必要性が生じることが常に問題というわけではなく、変更の必要性が生じているのに放置することが問題であるという発想の転換が必要である。
(2) PFIは、官民の対等なパートナーシップが基本となっている。その観点からは、不合理な変更を官が民に強いるようなことは厳に慎まなければならない。一方、管理者等が変更に係る費用を負担する場合、納税者に対して説明できる必要がある。そこで、透明性及びxx性の高いサービス内容の変更手続を規定する必要がある。
(3) 管理者等からの要請によるサービス内容の変更によって増加する費用は管理者等が負担する。一方、費用が減少した場合には、サービス対価についても変更がなされるべきである。
(4) 現実に変更手続が適切に活用されるためには、特に小規模の変更については当事者の負担が少ない合理的な手続が必要である。この場合透明性が高くかつ迅速に対応可能な価格決定メカニズムを盛り込むことが重要である。
3 選定事業者は、業務要求水準等に違反しない限り、その都合により仕様の変更を行うことができる(業務仕様書の変更手続)。この場合には、対価の変更はない。
(5) 変更への心理的抵抗により必要なサービス内容の変更手続が行われないという状況を避ける よう、例えば、開業直前、開業1年後等、当初想定したサービス水準と実態とのギャップが顕在 化しやすいタイミングでサービス内容の見直しを確実に行い(業務要求水準書に記載されていな い内容で、両当事者が合意する必要のある事項への対応を含む。)、必要に応じてサービス内容の 変更及びそれに伴う価格の変更が実施できるような仕組みを盛り込むことも考えられる。ただし、このような規定の趣旨は、契約締結時までに決定することができるサービス等の内容を曖昧にし たまま変更手続により対応することを認めるものではない。すなわち、このような規定を挿入す る場合でも、「後で決めればよい」といった考え方によって、契約条件が曖昧なまま契約を締結 することは厳に慎むべきである。
(6) プロジェクトファイナンスは、契約初期条件を変更しない(そうしないと想定したキャッシュフローが実現しない。)という前提を基本としているので、契約変更が及ぼす事業キャッシュフローへの影響など金融機関の立場も考えて、契約条項を作成していく必要がある。
(7) 選定事業者から変更を提案する手続についても規定することが望ましい4。
4.具体的な規定の内容
(1) 通常変更
具体的規定内容は、事業の性質に応じて決まるべきものであるが、サービス提供業務の比重が重い事業の手続の一例として、以下のようなものがある。
① 管理者等による変更要求通知
② 選定事業者による仮見積りの提出(管理者等に概算を伝えることにより、変更を中止したり、変更内容を見直したりする機会を与える。選定事業者が必要と考えるときに提出。)5
③ 選定事業者による仮対案の提出(選定事業者の創意工夫により、よりよい変更にしたり、より安価な方法を提案したりすることが想定されている。選定事業者が必要と考えるときに提出。)
④ 拒否事由(後述)
⑤ 選定事業者による回答書の提出
⑥ 協 議
⑦ 変更の実施
⑧ 対価の支払(後述)
4 例えば、BPR(Business Process Reengineering)を考慮した合理的なサービス内容変更や費用縮減などの民間提案もあり得るため、このような民間提案は考慮されるべきであろう。
5 ②③については、管理者等の側からも仮見積り、仮対案を求めることができるような規定にすることも考えられ、この点についてはさらに検討を要する。
(2) 簡易変更(一定の規模以下の変更について、価格算定のための算定式をあらかじめ合意する方法)
3.(4)に示されたとおり、特に小規模の変更については当事者の負担が少ない価格決定メカニズムを盛り込んだ現実的な手続が必要である。そこで、価格算定のために必要な要素及び算定式をあらかじめ合意しておく方法、すなわちサービス内容の変更に伴う価格についてあらかじめ
(調整可能な)単価/量等の必要要素と算定式を合意しておくことにより、できるだけ機械的に算定できるメカニズムを導入することが考えられる。ただし、あらかじめ合意した調整可能な単価と算定式を用いることで市場価格と大きく乖離しないことが見込まれる事項に限り利用すべきであり、すべてのPFI事業で必要というわけではない。また、このような規定が機能するかは状況によって異なると考えられ、我が国の実情に即した実践を重ねていく必要がある。
(3) 定期的な見直し規定
特に複雑な案件で契約時点に選定事業者が履行義務を負うサービスの内容の詳細を決定することが困難である事業については、例えば開業直前、開業の約1年後に見直す旨の規定を挿入することなどが考えられる。ただし、このような規定を挿入する場合でも、「後で決めればよい」といった考え方によって、契約条件が曖昧なまま契約を締結することは厳に慎むべきである。
① その後も調整の必要性が高いと予想される案件については、定期的に業務要求水準を見直す旨の規定を設けることも考えられる。見直しの頻度については、個別のサービスの属性やリスク分担の合理性、費用への影響の度合い等も勘案して決定する必要がある。
② 上記の方法に類似するものとして、開始後1年間の実績をベンチマークとする考え方もあるが、これは選定事業者が故意に1年目のサービス水準を下げる行動に出る可能性があるので安易な導入は紛争のもとであるとの指摘もある。
③ 業務要求水準、サービス内容を見直す場合は、対価等の調整を伴うことについて、更に極めて早い段階でこれがなされるとなると、xx性、透明性の観点から適切か否かについて、留意する必要がある。
(4) 対価の支払
① 資本的支出等相当分(調整、変更が資本的支出増を伴う場合)
変更を実施するために資本的支出や初期投資を伴う場合、必要となる資金調達を誰が、どう実施するかという点とともに、管理者等から選定事業者への対価及びその支払時期を併せて検討する必要がある。選定事業者が資金調達等を担うことになると、追加的に金利等の調達費用を必要とし、全体費用や支払対価を調整せざるを得ないため、追加的資本支出を一括して、サービス対価とは別途、支払うことが手続上簡易になる。しかし、ある程度の大きさの資金が必須な場合には、選定事業者が資金調達を担い、サービス内容の変更後に当該資金調達にかかるコストも勘案した上で定期的に支払う対価を変更するという方法もあり得る。
※ 後者の方法による場合、金融機関の合意を取得することが前提となる。一方、既存のファイナンスの枠組みに大きな影響をもたらさない手法(例えば、資金調達を金融機関からの貸付等に劣後するロ
ーンとして構成株主企業から調達するなど6)を用いることにより、既存のファイナンスへの影響をできるだけ少なくすることも考えられる7。勿論この場合でも、当該費用は対価に転嫁され、管理者等の負担になる。
② 資本的支出相当分以外(調整、変更が資本的支出増を伴わない場合)
この場合、一括払いはなく将来のサービスの対価の調整のみとなり、維持管理、運営費相当分のサービス対価に反映させる。
(5) 手続に要する費用
変更手続に要する費用(手続に当たり必要となる専門家や弁護士の費用等8)についても規定を設けておくことが望ましい。
※ 管理者等からの要求に基づく場合は当該費用を管理者等が負担することが原則ではあるが、事前に具体的金額や予算上の上限等について合意することなどにより、手順と費用を適切に管理することが望ましい。
(6) 拒否事由
① 拒 否 事 由
管理者等によるサービス内容の変更要求に対しては、拒否事由に該当する場合を除き、費用を管理者等が負担することを前提に、選定事業者はこれに応じなければならないとすることが考えられる。ただし、このような方法が合理的か否かは、案件によることに留意する必要がある。
1) このような規定を入れるかは将来において管理者等が変更を要求せざるを得なくなる状況が生じる可能性と、かかる規定が存在することによって選定事業者が負うことになるリスク等を考慮して決定すべきである。拒否事由を検討する際には、経済的合理性のない変更を選定事業者に強いることのないようにする必要がある9。
2) プロジェクトファイナンスの貸付人(金融機関)が変更に伴う影響を許容できるかという問題があ
6 ただし、サービス内容変更による追加資金調達は、金融機関・構成企業のいずれにて調達を行うかにかかわらず、追加の与信検討となるため、ファイナンス条件が当初の条件とは異なる可能性がある点に留意する必要がある。
7 案件によっては、対価を増やすことなく、(債務負担行為の変更等必要な手続を経た上で)契約期間を延長して、事業者による収益機会を増やすことで対価を回収させる方法もある(この場合、将来の収入を現在価値へ割引く方法も考慮する必要がある)。
8 どのような費用が生じるかについては、変更の内容によって異なる。
9 選定事業者が受託しているのはあくまでも当初の業務要求水準書に記載されている内容であるので、管理者等によるサービス内容の変更要請は、一定の理由がある場合に限定すべきであるという考え方もある。
(限定するのであれば、「一定の理由」について、どのような基準が適切かも検討する必要)。また、入札時と大きく異なることになる、サービス内容の変更、中止等は一定期間制限されるべきである(落札者決定後3年間は事業費ベースで総事業費の一定割合を超える業務の中止、変更は認めない等)という考え方もある。
り、金融機関が判断するためには技術コンサルタント等によるデューデリジェンス(変更による影響を精査する。)を必要とする場合(時間、コストがかかる。)もある。この評価や協議の内容次第では、事業への影響があり得ることを認識すべきであろう。また、管理者等の要求により変更を行う場合には、これに要する合理的費用を管理者等が負担することになることに留意する必要がある。
サービス内容変更要求と選定事業者による拒否の流れ
Ⅲ.変更の拒否
Ⅱ.仮見積り、仮対案の提出
Ⅳ.回答書の提出(見積りを含む)
管理者等及び選定事業者による協議
契約の一部解約
変更の実施
管理者等によるサービス内容変更要求通知
合意
不合意
変更の拒否への回答
契約の一部解約
② 拒否事由がある場合の一部解除及び一部解除時の補償
拒否事由に該当する場合、管理者等に契約を一部解除する権利を与えることが考えられる。この場合、適切な額の補償についても規定すべきである(第2章参照)。
1) 一部解除ができる場合:これが可能であるのは、選定事業者に重大な悪影響を与えず、かつ、原則として、①管理者等に自らサービスを提供する能力がある場合、②当該業務を第三者に委託することができる(かつ、競争的価格での委託が可能である)場合、又は③業務そのものが不要となった場合に限られる10。また、①②については、業務の承継が円滑に遂行できるよう配慮することが望ましい。
2) 損失補償の内容:一部解除時の損失補償については、一律に決めることは困難ではあるものの、x x者等による変更の理由に応じて判断することが考えられる。すなわち、やむを得ない事由による変 更要求通知であれば、選定事業者に実際に生じる損害につき損失補償する考え方となるが、管理者等 の自己都合に近い事由による変更要求通知であれば、管理者等の任意解除と同様の考え方が適用され、解除に伴う逸失利益も一部含めて損失補償することが考えられる。
3) 損失補償算定のための情報共有:第3章参照。
10 いかなる場合に選定事業者に「重大な悪影響を与える」といえるかについては、管理者等は選定事業者の利益の源泉や利益水準を把握しているわけではないために、一部解除を行った場合の適正な損失補償額を客観的に示すことは困難であるという問題がある。情報の共有に加え、複数の業務を一括して請け負うことによる費用が削減されている場合の効果との関係も含めて、更に検討を要する。
(7) 紛争解決
対価の支払、手続費用、拒否事由に該当するか否かなどについて合意ができなかった場合は、紛争解決手続(第4章参照)を利用することが考えられる。
(8) 選定事業者からの提案
選定事業者による提案の手続について規定する。
5.留意点
(1) 議会の議決との関係
サービス内容の変更が管理者等の支払額の増加につながる場合、予算がないと契約上の規定があっても実行できないなど、議会の議決との関係について配慮する必要がある1112。
(2) 拒否事由に該当せず、選定事業者が価格見積りを提出したにもかかわらず価格を合意できなかった場合の一部解除規定
3、4に示す変更の規定を盛り込んでも、両当事者にとって納得のできる条件を見いだすことができないことも考えられるため、合意できない場合の業務の一部解除の規定を盛り込むことが考えられる。
※ 解除は両当事者に与える影響が大きいことから、双方ができる限り妥協することを通じて、協議により合意し、問題を解決することが望ましい。これができない場合でも、別途定める紛争解決手続を介在させることにより解決を図ることが望ましく、一部解除の規定が濫用されないように配慮すべきである。
(3) 通常変更の場合の価格決定
通常変更についても、価格の決定手続を盛り込むことが望ましいが、どのような方法を採用するのかについては慎重な検討が必要である。①ベンチマーキング(市場価格を調査し、それに応じて対価を決定する方法)、②マーケットテスティング(特定のサービスの市場価格を確認するために、選定事業者が対象のサービスを入札にかける方法)、③中立的な専門家の活用(適格性を有する独立した技術アドバイザーに、参考価格の作成(への助言)や選定事業者の見積りの精査をゆだねる方法)などが考えられる。ただし、これらの方法は確立したものではなく、あらかじめ詳細な検討が必要である(第4節4参照)。
11 変更に必要な予算が確保できない場合に、事実上契約に規定された変更手続を無視するようなことは厳に慎むべきである。曖昧なサービス内容の変更は、後日紛争を生じさせるリスクが高いことを認識する必要がある。
12 地方自治法第 180 条第1項は「普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。」と規定している。なお、PFI法第9条は「地方公共団体は、特定事業に係る契約でその種類及び金額について政令で定める基準に該当するものを締結する場合には、あらかじめ、議会の議決を経なければならない。」と規定している。
【サービス内容の変更に関する実務上のポイント】
PFIは長期契約であるため、将来の事業環境の変化に対応するために、サービス内容の変更及びそれに伴うサービス対価の変更手続を規定する。変更規定のポイントは以下のとおり。
① 変更手続が機能するためには、まずは当初の条件が明確である必要がある。当初の条件が曖昧である場合、変更手続も機能しない。
② 変更額や補償額の算定を客観的に行うためには、情報の共有が必要である(第3章参照)。
③ 管理者等が要請してサービス内容等を変更する場合、増加コストは管理者等が負担する。
④ 小規模な変更に関しては、あらかじめ(契約締結時等)価格改定のための要素及び算定式を合意しておくことが考えられる。
⑤ 運営開始の直前や、運営開始1年後など、定期的に事業契約に定められたサービス内容と実態を見直す規定を設けることも考えられる。
第3節 建設費に係る物価変動リスクへの対応
1.概要
インフレ・デフレや特定の材料の価格変動などによって、建設に要する費用が増減する場合のサービス対価の調整が規定される。
2.問題状況
昨今の建設関連資材の高騰により、建設費が著しく増大しているケースが見られるが、現在のP FI事業契約においては建設費に係る物価変動リスクは選定事業者の負担とされていることが多い。これらの物価変動リスクについては、PFI事業では、施設整備費を早い段階で確定し、価格の枠組みを固定する仕組みを前提とすること、また、契約締結日から竣工までの期間が長期であることから、通常の公共事業よりも問題が深刻であり、選定事業者にとって大きな負担となっている。一方、経済状況の変動次第では、逆に特定の材料の価格が大きく下落することもあり得、固定された高い価格の枠組みを調整すべきという事象もおこりうる。
3.基本的な考え方
(1) PFIの基本はリスクを最も良く管理することができる者が当該リスクを分担するというものである。通常の請負工事と異なり、性能発注であるPFIの場合は、民間の創意工夫により物価変動による影響を緩和していくことが期待されている。すなわち、施設整備費の総額をいかに管理し、あらかじめ固定し、かつその費用超過を防止するかは、PFI事業契約の中でも最も重要なリスク分担事項を構成する。よって、コスト管理は選定事業者のリスクとなることが原則であり、通常の範囲内での物価変動は選定事業者のリスクとなる。しかし、応札時点において選定事業者にとって想定できなかった急激な物価上昇が生じた場合については、事業構造が脆弱になったり、この結果として管理者等が損失を被るおそれがある。逆に、急激な物価下落が生じる一方で、PFI事業契約の対価が高止まりする場合には、管理者等にとりVFMが損なわれるというおそれも生じかねない。
(2) 急激で著しく、かつ通常予測不能な物価変動による建設費の変動を選定事業者のリスクとしてしまうと問題がある。そこで、事業のリスク管理の在り方に留意しつつ、通常の範囲内のインフレ(経済成長、通貨供給拡大等)・デフレについては選定事業者のリスクとし、一方、急激で著しくかつ通常予測不能な物価変動については管理者等及び選定事業者双方でリスクを分担すべきである。
(3) いずれにせよ、官にとって有利な契約を作るか、民にとって有利な契約を作るかというよりむしろ、民にとってリスクが大きい契約は応札価格も高くなる可能性が高いということを踏まえ、リスクを選定事業者に移転するメリットと応札価格の上昇というデメリットのどちらが大きいかという観点を軸に判断すべきである。
4.具体的な規定の内容
我が国の公共工事標準請負契約約款では、①1年を超える契約における請負代金額の 1.5%以上の賃金及び物価変動、②主要な工事材料の著しい物価変動、③急激なインフレまたはデフレによる物価変動の場合について、発注者、受注者双方から工事請負代金額の変更を求めることができる旨規定されている。
しかし、PFIは、通常の公共工事と比較すると、選定事業者へのリスク移転のほか、応札段階で設計が終わっていないため使用する材料等の数量が確定できないこと、単なる請負工事ではなく選定事業者との契約はサービスに対する対価の支払であり、その構成要素である施設整備費をあらかじめ固定する仕組みであること、また、契約締結から建設開始まで長期にわたることなどが異なっている。そこで、PFIに即した基準を作成する必要がある。
変更のための基準を作成する際は、以下の点に留意すべきである。
① 急激で著しく、かつ通常は予測不能な物価変動を対象とすること。
② サービス対価を変更する場合でも、すべてを管理者等がリスクを分担するのではなく、双方がリスクを分担することにより、選定事業者によるリスク管理の努力を促すこと。
③ 民間事業者が適切にリスクを評価できるよう、変更額の具体的算定方法及び変更手続をあらかじめ規定すること。この際、PFIは性能発注であるため、単純ではない点に留意する必要がある。各種指標(インデックス)を使用することも考えられる。
※ 管理者等が選定事業者との契約によりサービスを購入する前提に立った場合、あるいはユニタリーペイメント13の前提にたつ場合、管理者等と選定事業者の関係は、SPCと工事請負事業者の関係と 1 対 1で対応しないこともあることに留意すべきである。この場合、何を、いかに調整するかに関し、明確な判断基準を定義しない限り、問題が生じることもある。また、資本的支出(施設整備)の一部が機械や機材等である場合、選定事業者が担うべき投資の一部を選定事業者が協力会社に担わせ、投資リスクを分担している場合もある。かかる場合には、利害関係が複雑になるが、実態に即して調整の在り方を考えることが適切であろう。
5.留意点
(1) 支払方法
物価上昇により建設費を増額変更する場合、増加分のコストを管理者等が一括支払することは難しい場合があると考えられる一方、一括払いとすれば資金調達に与える影響を最小限にすることができるため、一概に分割、一括のどちらが適切とはいえない。
(2) 対象期間
どの時点の物価を基準とするかについては、契約締結時が適切であると考えられる。
13 ユニタリーペイメントは、施設の設計・施工・維持管理・運営にかかわる支払対価を要素ごとに峻別せず、不可分一体のものとしてとらえ、サービス提供の在り方次第で、この全体を減額の対象とする規律を設ける支払方法で、英国のPFIでかつてから採用されている。ただし、我が国においてもユニタリーペイメントを採用すべきかどうかについては、異論のあるところである(注 51 参照)。
【建設費の改定に関する実務上のポイント】
建設資材等の物価変動に対しては、PFI事業におけるリスク分担の考え方に従い、以下のとおり整理することが考えられる。
① 急激で著しく、かつ通常は予測不能な物価変動を対象として、建設費の改定を行う規定を設ける。
② 上記規定においては、用いる指標や改定の判断基準等を明確化することが望ましい。
③ 通常の範囲内での物価変動リスクは選定事業者が負担する。
第4節 ソフトサービス等の価格変更に関する規定
1.概要
ソフトサービス(資本的支出を伴わず、資本的投資との関連性も低いサービス)に関しては、例えば5年ごとに市場実勢価格に合わせてサービス対価を改定する調整規定について、具体的な方法を含めて規定する。
2.問題状況
PFI事業契約においては、事業契約期間中のサービス対価を固定することが原則であるが、対価を構成する価格要素は変動するため、物価変動に伴い、一定の指標による価格調整が定期的に(例えば年1回)行われる。さらに、時間の経過とともに物価変動による調整のみでは市場価格と乖離が生じてしまうため、例えば5年ごとに市場実勢価格との乖離を防ぐためのサービス対価の調整規定が設けられる。この際の具体的規定方法(内容の妥当性、透明性、迅速性を確保するための方法)が課題となっている。
3.基本的な考え方
(1) 指標による調整のみでは一定期間以上の価格増減リスクを選定事業者が取ることができない業務については、別の調整メカニズムが存在しない場合、民間事業者が提案の際に予備費として価格を上乗せすることにつながり、VFMの最大化を妨げることになる。そこで、市場実勢価格に応じたソフトサービスの対価の増減額の規定を入れることが望ましい。
(2) ハードサービス(資本的支出を伴う、又は資本的投資との関連性が高いサービスで、主に施設の維持管理)は、当該サービスのみを取り出して市場価格と比較することはできないため、原則として対象外とする。
※ 対価の見直し規定は、柔軟性のない価格設定が官民の双方にとって高いリスクとなるため規定されるものである。どちらかに有利な結果になることを意図するものではない。また、そもそもPFIの業務の範囲は常に広ければ広いほどよいというものではなく、民間事業者が負担することの困難なリスクを含む業務については、はじめからPFIの対象外とすることも考えられる。ここで規定するサービス対価の改定方法は、あくまでもその業務のみ切り離して市場実勢価格と比較する(あるいは入札にかける)ことができるような場合を想定しており、対象となる業務は限定される。
4.具体的な規定の内容
(1) 価格変更の対象としてのサービス
価格変更の対象としてのサービスについては、基本的にはソフトサービスとすべきであるが、
ソフトサービスに該当するか否かのみで一律に割り切ることは適切でなく、多額の初期投資を伴うものであるか否か、建物等の建設・大規模修繕と分離して発注することが合理的であるか否か、競争市場があるか、代替性があるか等も考慮した上で決定すべきである。
① 多額の初期投資を伴うものであるか否か。すなわち、見直しのタイミングまでに、初期投資(人材のトレーニングに要する費用などが想定される。)を回収することが可能であるか。また、コストのうち変動費と固定費の割合はどのようになると想定されるか(固定費部分が多いと、価格調整が難しくなる。)。
② 建物等の建設、大規模修繕と分離して発注することが合理的であるか否か。例えば、施設の維持管理のうち、コストが建物の状態により非常に左右されるものについては、分離して発注することはPFIのメリットを失わせることになる。
③ 競争市場があるか、代替性があるか。存在しない場合、市場実勢価格の情報の入手も、マーケットテスティングも困難になる。
(2) 価格改定方法
見直しの方法としては、ベンチマーキング、マーケットテスティング、中立的な専門家の活用、一部業務の契約期間短縮、契約の一部解除権の行使などが考えられ、それぞれの方法を理解した上で、サービスの性質に応じて適切なものを選定する。なお、これらの方法は確立したものではなく、いずれの方法を採用する場合でも、実際に機能するかについて詳細に検討する必要がある。
① ベンチマーキング(市場価格を調査し、それに応じて対価を調整する方法)
1) 選定事業者の委託先の変更に伴う問題が生じない(現行の業者が引き続き行う。)というメリットがあるが、適切なデータの入手及びその客観性の判断が困難というデメリットがある。
2) 十分なデータが得られず合意できない場合に備えて、合意できない場合は管理者等が最終価格を呈示する(ただし、選定事業者はこれを拒否し契約の一部解除を行うことができるものとする。)方法など他の手法を使うことができる旨規定しておくことが望ましい。
② マーケットテスティング(特定のサービスについて、選定事業者が入札にかける方法。入札の結果、選定事業者は委託先を落札者と交代させることもあり得る。)
1) 競争による価格低下が期待されるというメリットがあるが、既に選定事業者の委託先となっている企業の参加意欲の減退、競争市場の有無(当該サービスについて競争市場が存在しないと逆に価格が高くなるリスクがあり、競争的な市場が期待できない場合、マーケットテスティングは適切でない。)、新しい委託先の不履行リスクの選定事業者による評価と入札参加者の範囲の関係についても留意する必要がある。
2) 見直しが合理的であるように、対象業務の選択、見直しまでの期間等を決定する必要がある14。
③ 中立的な専門家の活用(適格性を有する独立した技術アドバイザーに、参考価格の作成やそのための
14 業務体制(選定事業者からの委託先)の変更は、選定事業者に融資をしている金融機関等にも影響を与える可能性がある点に留意する必要がある。
助言、選定事業者の見積りの精査をゆだねる方法)
④ 一部契約期間短縮又は一部解除権の行使
1) 当該サービスについての契約期間の短縮(ソフトサービスの契約期間をPFI事業期間よりあらかじめ短く設定する。)又は一部解除権の行使(ソフトサービスの価格変更に合意できない場合に当該ソフトサービスを業務範囲から除外する。)という方法を採用した場合、競争による価格低下が期待されるというメリットがある。ただし、これにふさわしいサービスは、基本的には、サービスの一時的・短期的な欠落が生じることにより致命的な影響をもたらさないことが必要であり、さらに原則として、 (i)管理者等自らがサービスを提供し、代替できる能力がある場合、(ii)競争市場において常に代替事業者が存在している場合、(iii)サービスの提供そのものが管理者等にとり必要性がなくなった場合、のいずれかに該当する場合に限り適切な方法となると考えられる。
2) 一部のソフトサービスをはじめからPFI事業契約の対象外とすることも考えられるが、ソフトサービスをPFIの一部とすることにより、ソフトサービスを念頭において施設の設計をするというメリットがあることに留意する。
3) 一部契約解除や契約期間短縮は、選定事業者や融資金融機関に対する影響度も大きいため、その妥当性、手順、効果等に関しては、慎重な判断を必要とすることに留意する。
5.留意点
(1) 初回の見直しまでの期間
価格の見直しの対象とした場合でも、ある程度初期投資がある場合には、その程度に応じて対象から除外したりすることにより、あるいは1回目の見直しまでの期間を長くしたりすることにより(例えば7年から 10 年など)、選定事業者に不当な不利益を及ぼさないように工夫すべきである。
※ 初回の見直しまでの期間は業務ごとに個別の事情に応じて判断すべきである。例えば、変化が激しい分野では、短めに設定する方が現実的である。
(2) 創意工夫との関係
選定事業者や委託先の創意工夫がコスト削減に寄与できる分野において管理者等が選定事業者の努力の結果をすべて奪ってしまうことがないよう工夫する必要がある。このような分野については、見直しの対象外とすることや、テストの結果をすべて管理者等による選定事業者に対する支払に連動させるのではなく一部のみ連動させること等も考えられる。
【ソフトサービス等の価格変更に関する実務上のポイント】
資本的支出を伴わず、資本的投資との関連性も低い、いわゆる「ソフトサービス」については、市場実勢価格との乖離を防ぐための調整を規定する。調整規定のポイントは以下のとおり。
① ソフトサービスの各々について、市場実勢価格との比較を行うタイミングを規定する(例え
ば、5年程度が考えられるが、サービスの属性に応じて決定する必要がある。)。
② 調整のための方法としては、ベンチマーキングのほか、マーケットテスティング(選定事業者による入札の実施)、ソフトサービスの契約期間の短縮・契約の一部解除等があるが、それぞれの方法の特徴を理解した上で、業務の性質に応じて適切に組み合わせていくことが必要である。
第2章 任意解除
1.概要
管理者等の政策変更や住民要請の変化等により、選定事業を実施する必要がなくなった場合や施設の転用が必要となった場合には、管理者等は一定期間前にPFI事業契約を解除する旨選定事業者に通知することにより、任意にPFI事業契約を解除できる旨規定されることが多い。これは、選定事業が公共サービスを提供するものであり、不必要なものを提供することが社会的に無駄であるという特殊性から、管理者等の解除権の要件を約定により追加するものである。ただし、PFI事業契約は、その継続性、有効性に依拠して、民間主体が投融資を実現するものである以上、管理者等による任意解除権の行使は、本来想定外の事象になり、選定事業者側に、大きな負担を強いることを認識することが必要である。
任意解除時の選定事業者に対する損失補償額は、実際に生じた損失については原則すべて補償する15。一方、逸失利益16についても補償の対象とするが、範囲は限定される。
2.問題状況
現在締結済みの契約においては、任意解除規定の有無は事業によって異なる。任意解除規定がある場合、通常損失補償の規定もあるが、具体的算定方法までは書かれていないことが多い。そこで、
①政策変更の公共的な必要性と選定事業者の保護に配慮されているか、②補償の対象と範囲、算定方法をいかに明確化し、補償額を確定していくかという課題が生じている。
3.基本的な考え方
(1) 契約をすべて履行する意図を持って契約を締結する必要性
そもそもPFI事業契約のすべての当事者は、期間満了まで契約を解除することなく、契約上の義務をすべて履行する意図をもって契約締結を行い、契約関係に入るべきである。
(2) 任意解除規定の必要性
上記のとおり、政策変更、住民ニーズの変化などの合理的な理由に基づき、管理者等による解除が必要になることがある。一方、官民の対等なパートナーシップというPFIの本来の関係から、官民双方の権利義務は明確に契約上に規定されることが望まれる。したがって、任意解除の規定を設け、その場合の権利義務関係を明確にすることにより、選定事業者及び融資機関の立場が不安定になることを防止するとともに、透明性のある手続により住民に対する説明責任を果たすべきである。
15 PFI事業契約の定めるところにより、建設工事費元本の未払総額及びその未払利息、解除日までの維持管理・運営に関する維持管理・運営費についても別途支払う必要がある。
16 ここで「逸失利益」は、解除されなければ選定事業者が得たであろう利益を想定している。既に支出した費用や解除に伴い発生する費用は含まれない。
(3) 損失補償額
官民のリスク分担を明確にすることによりVFMを最大化するというPFIの基本理念に照らせば、損失補償の内容もできる限り明確化すべきである17。任意解除時の選定事業者に対する損失補償額は、実際に生じた損失については原則すべて補償する。一方、逸失利益についても補償の対象とするが、範囲は限定される。
4.具体的な規定の内容
(1) 任意解除規定及び損失補償の明確性18
管理者等の任意解除権及び損失補償の支払義務を規定する。この場合、補償内容を明確にするため、何を補償すべきかの規範のあり方を慎重に検討した上で、補償の対象項目及び算定方法を明確に規定することが望ましい。
補償額が不明確であると、管理者等が解除をするか否かを判断することが困難になることに加え、管理者等と選定事業者の間で紛争が生じる可能性がある。
なお、補償額算定に必要な情報の共有については第 3 章参照。
(2) 実際に生じた損失
実際に生じた損失で合理的な額については、PFI事業契約締結後に生じた各種支出で回収できていない部分も含め適切に補償されるべきである。
1) 優先貸付人への期限前弁済に伴い支払う補償に相当する分
マーケットプラクティスに従ったものである限り、期限前弁済に伴い優先貸付人に実際に生じた損失を填補するために選定事業者が優先貸付人に支払う違約金相当額を支払うべきである(金利スワップ解約コスト等を含む。)。
2) 委託先への補償相当分
選定事業者が委託先に対して支払う補償額相当分については、一定の期間(例えば半年以上)前に管理者等が選定事業者に通知した場合には補償しない旨あらかじめ入札条件として示すことも考えられる
19。ただし、業務の性質上、委託先による初期投資が必要となるものについては、選定事業者が解除に
17 特に管理者等が自治体である場合には、損失補償額が不明確であると住民訴訟を起こされる可能性につながるため、補償額を明確化することは重要である。
18 「損失補償」は、もともと憲法上の概念であるが、通常の法律でも「損失補償」が規定されていることが少なくない。例えば、憲法上の損失補償と、特定の法律上の損失補償の内容が異なることを前提とする判例があるなど、「損失補償」といってもxx的に決定されるわけではない。したがって、PFI事業契約書において「損失補償」という用語を使用したとしても、それによって直ちに支払額が決まるわけではない。ただし、例えば、特定の業者に不利益を与える目的で解除権が行使された場合など、行政に与えられた裁量の範囲を逸脱に該当するような場合は、むしろ「違法」な解除がなされたとみるべきである。この場合には、国家賠償法(同法第1条第1項の「公権力の行使」は非常に広く解釈されているので、解除権の行使について故意又は過失があれば、これに該当する可能性がある。)により損害賠償を負うことになるとも考えられる。国家賠償法の場合には、一般論としては損失補償よりも支払額が多くなる可能性が高いと思われる。
19 委託先への補償相当分に関する補償額算定は、あくまでも管理者等と選定事業者の間の権利義務関係に関するものである。したがって、選定事業者が、自らのリスクにおいて、個々の委託先との契約において別の取決めをすることを禁止するものではない。
より初期投資が回収できなくなったことを証明した場合、当該初期投資が合理的である限り、これを補償すべきである。
(3) 逸失利益
解除の公共的な必要性、解除の時期及び手続、選定事業者が実施する公共サービスの内容等を個別の案件に即して勘案し、適切で合理的な範囲の逸失利益を考慮して補償額を算定することが必要となる。この際は、もともと選定事業者は将来においてリターンを得られることが保証されているものではなく、リターンに見合うリスクをとっていることに留意する必要がある。また、逸失利益への配慮は必要となるが、残存契約期間のすべてにわたり、補償があり得ると考えるべきではなく、解除の公共的な必要性や個別案件の事情を斟酌し、その範囲は限定されることを前提とすべきである20。なお、逸失利益の取扱いについては、諸外国の例等を踏まえ、更なる検討が必要である。
(4) 株主、株主劣後貸付人21の利益相当分
株主、株主劣後貸付人(以下、「株主等」という。)の利益相当分については、以下の点に考慮して補償の有無及び算定方法を定めるべきである。具体的な算定方法としては解除時期に応じて具体的補償額を決めておく方法等22がある。
① 株主等は解除後はリスクを取らないのであるから、基本的には将来の利益相当分をすべて支払う必要はなく、その範囲は限定されるものと考えられる。
② ただし、株主等が取るリスクは、時期によって異なっていることへの配慮も必要である。例えば、事業によっては、建設期間に株主が負うリスクは、運営期間に株主等が負うリスクよりも高いものと考えられる。このような事業でこの点を考慮しないで算定方法を決定すると、管理者等にとっては完工後に直ちに解除することが最も有利ということになってしまいxxではない。また、株主がリスク・キャピタルを拠出し、事業をまとめ上げ実現した努力と価値はある程度認めるべきという見解もある。したがって、事業の性質に応じて、以上のような点に配慮した上で、合理的な算定方法を定める必要がある。
20 受益者負担型PFIもしくは受益者負担部分を持つPFI(公共側の債務負担行為の金額の枠外にて、選定事業者の逸失利益が生じる可能性がある。)については、あらかじめ債務負担行為が取られているサービス購入型のPFIに比べ、事業性が高くなっており、その分逸失利益等の範囲・期間につき、見解が相違する余地が大きいと思われる。実務上、事前に補償ルールをよく協議することが重要である。
21 株主(又は株主と経済利害関係を同一にする第三者)が劣後融資をしている場合には、基本的には株式と同様の扱いをすべきである。劣後融資は、優先貸付より返済が劣後するxxxxx・xxリターンが前提である以上、優先貸付人と同様の基準で支払うことはリスクを無視することになるからである。株主以外の者が劣後融資をしている場合、劣後融資・優先融資の間にメザニン融資がある場合などは、それぞれの融資の性質(リスク、リターン)に応じて扱いを決定する必要がある。
22 将来的には、解除時の株主の逸失利益を算定するために、当事者間であらかじめ合意した財務モデルにおいて想定されている将来の収支等をもとに算定する方法も考えられる。この方法は、もともとユニタリーペイメント(注 13 参照)を前提としており、株主の利益の部分のみをサービス対価から取り出して計算するのではなく、施設整備費相当分も含めた将来のキャッシュフローをもとに株主の利益となるべき額の現在価値を算定する。あくまで補償額算定のための基準であって、必ずしも選定事業者が財務モデルに従って支払等を行わなければならないということではない。この方法は、我が国ではまだ実践されていないため、採用するとしても、あらかじめ慎重かつ詳細な検討を行う必要がある。
5.留意点
(1) 入札での明示
いずれの方法によるにせよ、入札説明書において補償の条件、選定事業者が提出すべき資料等を明示しておく必要がある。
(2) 契約未実現リスク
本章の対象は、管理者等が解除した場合であるが、逆に例えばPFI事業契約締結後に、選定 事業者が融資契約を締結できなかったり、融資の実行に必要な条件を満たすことができなかった りすることなどにより契約が中途解除されることもあり得る。この場合の解除の効果についても、 PFI事業契約の解除に至った責任が管理者等と選定事業者のいずれかにあるかも含め、今後検 討されることが望まれる。
【任意解除に関する実務上のポイント】
① PFI事業契約には、管理者等による契約の任意解除権及びその際の選定事業者への損失補償について明確に規定する。
② 任意解除時の選定事業者に対する損失補償額は、実際に生じた損失については原則すべて補償する。一方、逸失利益についても補償の対象とするが、範囲は限定される。
第3章 情報共有及び情報公開
1.概要
選定事業者が管理者等に開示すべき情報の範囲、さらに管理者等が公開することができる情報の範囲が規定される。
2.問題状況
サービス内容の変更(第1章第2節)の際のサービス対価変更額の算定の際や、管理者等の解除
(第2章等)の場合の補償額の算定の際、管理者等としては議会、住民に説明できるよう、客観的な基準を必要としているが、現段階では必ずしも客観的算定に必要な情報が共有されているとはいえない状況にある。さらに、管理者等の側から、契約管理を適切に進めるために情報の開示を求めても守秘義務を根拠に拒まれてしまうことがあることが指摘されている。一方、選定事業者側からは、ノウハウに関する部分まで開示を義務付けられてしまうとすると、そのノウハウによって創意工夫をするインセンティブがなくなってしまうと指摘されている。
※ ガイドライン及び実際の公表の状況
① 契約ガイドライン(「6―6 守秘義務」)では、情報公開に関し、次のとおり記述されている。
・ 管理者等は、PFI事業契約の履行過程で知り得た選定事業者の秘密を漏らしてはならないことが規定される。
・ しかしながら、選定事業者にかかる情報が情報公開の関連法令等の対象となる場合、その対象となる事項について、守秘義務の対象の例外となる。但し、選定事業者の企業秘密に関する情報については開示の対象とならない場合が多い。
・ PFI事業契約書の開示請求があったときは、管理者等は、原則としてPFI事業契約書を開示請求者に対して開示しなければならない。
② PFI法第9条及びPFI法施行令では、地方公共団体は、PFI事業に係る契約で、都道府県では
5億円以上、政令市では3億円以上、政令市以外の市では1億5千万円以上、町村では5千万円以上の契約を締結する場合には、あらかじめ、議会の議決を経なければならないこととされている。
③ モニタリングに関するガイドライン(以下、「モニタリングガイドライン」という。)では、「管理者等は、当該選定事業の実施に係る透明性を確保するため、PFI事業契約等に定めるモニタリング等の結果について、住民等に対し公表することが必要である。ただし、公表することにより民間事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある事項については、あらかじめPFI事業契約等で合意の上、これを除いて公表することが必要である」としている。
④ PFI事業に関連して、管理者等が把握し、又は把握が求められる事項は、次のとおりである。イ 管理者等と選定事業者とのPFI事業契約
ロ モニタリング等の結果
ハ 管理者等と金融機関との直接協定ニ 選定事業者と委託先との契約
ホ 選定事業者と金融機関との融資契約等
⑤ ④に掲げた事項の公表の状況は、おおむね次のとおりである23。
イ PFI事業契約については、管理者等が実施方針の公表又は入札公告の段階で契約(案)を公表しているが、締結された契約は公表されていない場合が多い。
ロ モニタリング結果については、平成 19 年度の内閣府調査によれば、PFI事業 100 事業のうち、「モニタリング結果を公表している」との回答は2割弱となっている。
ハ 管理者等と金融機関との直接協定、選定事業者と委託先との契約及び選定事業者と金融機関との融資契約等については、通常、公表されていない。
3.基本的な考え方
サービス対価の見直し(第1章第4節)、サービス内容の変更、管理者等による解除などの際のサービス対価の変更額を客観的に算定すること、また選定事業者の義務履行を適切にモニタリングし、事業の円滑な継続を確認するに必要な情報を早期に把握するためには、管理者等と選定事業者の間で情報共有が必要である。管理者等が入手した情報については、住民に対して説明責任を果たすこと、広くノウハウの共有を図ることという観点から見れば、原則として公開すべきである。ただし、民間のノウハウを守るような仕組みがなければ創意工夫を阻害する可能性があるので、民間事業者の地位を不当に害しないような配慮が必要である。
4.具体的な規定の内容
(1) 情報共有
サービス対価変更額、補償額の算定の際に必要な情報及び選定事業者の義務履行を適切にモニタリングするために必要な情報は、あらかじめ管理者等が把握することが望ましい。この対象となる項目としては、費用内訳、融資契約の内容、選定事業者と委託先との契約の内容等が想定される。
1) 費用内訳24
費用内訳は実態に即した合理的なものとすべきである25。しかし情報提供の目的は、サービス対価の
23 xxxテストの制度では、民間事業者がどのようなサービスを実施することとなったかをサービスの受益者となる国民に周知することを主たる目的として、契約の内容に関する事項のうち一定のものについて、公表する旨が定められている(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律第 20 条第2項)。
24 契約時点での費用内訳を開示したり、取り決めたりすることは恣意的な側面が入りうることに留意する必要がある。費用内訳の項目として何を対象とする必要があるか、さらにこれにどのような効果を持たせるかについては議論が分かれ得るところである。また、内訳を構成する際に、「費用」と「利益」を分けることは慣行上も、実務上も単純にはいかないことも理解する必要があろう。すなわち、コストプラスフィー方式ならば可能だが、PFIは本来サービス対価を一括して算定するため、「費用」と「収益」の線引きが確実に恣意的になると想定される。本当にかかる内訳が必要となる場合には、公認会計士などの中立的な第三者を関与させ、発注額や協力企業との関係が確定した段階でデューデリジェンスで評価をさせることが考えられ、諸外国でもかかる事例はないことはない。
25 現在選定事業者が開示している各業務の費用については、市場価格を反映していない場合もある(例えばひとつの事業者が複数のサービスを提供して、それぞれのサービスコストに乗せる利益の幅を意図的に変
変更額の算定の際の基準として用いることにあり、よって選定事業者が将来にわたって費用内訳どおりに構成企業等への支払を行う義務を負うわけではない26。
費用内訳を作成する際には、基本的には費用の部分と構成企業(選定事業者の株主)に配当できる利益の部分を明確に区別すべきである27。
2) 融 資 契 約
いかなる事象の場合に期限の利益の喪失事由が生じるのか、何が事前通告や融資銀行団との協議の対象となるかを理解するため28、さらに契約の中途解除をする事情が管理者等に生じた場合、これがいかなる効果と費用をもたらすかを把握するために、コストに見合う場合にはあらかじめ融資契約や関連諸契約のデューデリジェンスを行うことが考えられ、そのほかの場合であっても少なくとも選定事業者が優先貸付人に対する債務の期限前弁済を行う場合について、当該弁済について行う補償の額に影響を与えるような条項の内容等を把握することが望ましい。現在の実務では、通常、PFI事業契約後に融資契約等をドラフトしており、PFI事業契約締結までに合意しているのは主要な融資条件レベルである。この場合、管理者等が融資契約締結前に特に期限前弁済時の補償の額に大きく影響を与える条件をあらかじめ把握するとともに、融資契約締結に際しては、あらかじめその内容をレビューしておくことが好ましい。あるいは、PFI事業契約締結時点で合意した主要な融資条件が、その後に管理者等の同意を経ずに変更されても補償額は変更前のものをもとに算定するという考え方も採ることができる(ただし、この場合、補償額算定方法は確定できるが、期限の利益の喪失事由の詳細は理解することができない。)。
2930
3) 選定事業者と委託先との契約
管理者等の意思等により契約解除に至る場合、選定事業者と委託先が取り決める権利義務関係が、いかなる効果をもたらすかをあらかじめ把握しておくとともに、権利義務履行の実態を把握しておくこと
えて、総体として利益を確保している場合など)が、このような状況は合理的算定を困難にするものであり、できるだけ実態に近い価格が提出されるようになることが望まれる。
26 費用の内訳と現実の乖離をどこまで認めるかなどについては別途検討を要する。
27 例えば、株主が劣後貸付をしている場合、劣後貸付けは準資本(Quasi-Equity)とも呼ばれ、補償額の算定の際に資本(Equity)としての投資と同様に扱う考え方があるなど(第2章4参照)、会計上費用として扱われるか否かとは必ずしも一致しないことにも留意する必要がある。
28 融資契約を管理者等に開示すべきなのは、事業者がPFI事業契約上担う権利義務関係よりも、融資契約上の権利義務関係の方が上位になる(優先的に適用される)ことがあるからである。例えば、財務制限条項等は、PFI事業契約には規定されていないが、融資契約上は事業の存続の可否を決めかねない重要事項になる。すなわち事業契約上は何ら問題はなくとも、融資契約上、財務制限条項に違反する状況が生じた場合、期限の利益喪失事由は起こりうる。融資契約を見なければ、これらを管理者等は理解することはできない。よって選定事業者に課される規律を正確に把握することが、効果的なモニタリングにつながることになる。
29 一方、管理者等が後刻、直接契約により融資金融機関と直接的な契約関係に入り、融資契約上の権利義務関係が管理者等と選定事業者の権利義務関係に重要な影響をもたらすことを前提とする場合、融資契約、直接契約締結の時点で、選定事業者に融資契約の写しを管理者等に提出することとすれば、管理者等は補償の額に影響を与えるすべての条項の内容や、適切なモニタリングに必要となる条項の内容を正確に把握することができる。融資契約締結前にPFI事業契約が解除に至る事象は極めて限定されるため、拙速に条件を固めるよりも、正確を期すことが適切という意見もある。また、これら契約書に重要な変更事由が生じた場合も、同様の情報の共有に関する規定を設けることが好ましい。
30 具体的に管理者等が理解すべき内容としては、融資契約の中では、①期限の利益の喪失事由(特に財務制限条項、例えばDSCR(Debt Service Coverage Ratio: VFM(Value for Money)に関するガイドラインの一部改定及びその解説 三2解説参照)やデット・エクイティ・レシオ(株主資本に対するxxx負債の比率)等の数値基準や誓約条項等)②中途解約時の関連規定等が考えられる。これらの点を中心に管理者等が融資金融機関を交え説明を受け、正確な理解を得ることが望ましい。
が、事業者との関係においても有用となる。そこで、管理者等は、委託先との契約の写し、またその後の重要な変更の写しの交付を受けるべきことが考えられる。
(2) 情報の公表
あらかじめ関連法令の規定との整合性も含めて整理した上で、どのような情報を公表するかを、明確に規定することが望ましい。
① PFI事業契約及びモニタリング等の結果については、次の理由から、公表を基本とすべきと考えられる。
イ PFI事業は公共サービスを提供するものであって、財政資金が投入され、又は公的な支援が行われるものであり、透明性を確保し、公共サービスの実施内容及び結果をサービスの受益者である国民・住民に周知することが求められること。
ロ 契約内容やモニタリングの内容には民間事業者のノウハウである部分もあるが、PFI事業契約締結やモニタリングの実践を通じて蓄積されたノウハウは、財政資金の投入等の結果でもあり、基本的には国民が広く共有することが求められること。
② なお、モニタリングは、日常的に行うもの、定期的に行うもの、随時の抜き打ち等非定期に行うもの等様々な形態があり、公表に際しては、一定の期間を定めてモニタリング結果の概要を公表することが考えられる。また、PFI事業契約のうち、例えばサービス対価の支払の項目については、民間事業者の権利、競争上の地位等に係る事項が含まれていないかどうか配慮が必要になる。
③ 一方、選定事業者と委託先との契約及び選定事業者と金融機関との融資契約等については、民間事業者が自らのリスクとノウハウに基づいて実施するものであるほか、民間事業者独自のノウハウも含まれるものであり、民間事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることに留意する必要がある。
④ 直接協定のうち事業の継続が困難となった場合における措置に関する事項については、事業の継続の可否に重大な影響を及ぼすことから、公表を基本とすべきと考えられる。この場合、直接協定上の一部規定は融資契約の規定と関連しており、これら両方を把握しないと理解できないことがあることにも留意すべきである。
⑤ 情報公開に関しては、民間事業者の地位を不当に害しないようにするため、管理者等は、事前に定めた明確な基準に基づき実施することが必要である。
5.留意点
① 費用内訳等については、入札公告において、必要に応じて、応札者の提案すべき事項、提案内容が満たすべき条件、評価方法等を明示すべきである。
② 選定事業者の財務の状況を管理者等が定期的に適切に把握しなければ、事業の継続に困難が生じた場合に管理者等の対応が遅れる可能性があり、財務モニタリングについて今後の検討が望まれる。
③ リスクの顕在化、その要因の分析、さらにそれに対してどのような対策を講じたかについて
も、情報を公開することが望まれる。これらは当該事業のみならず、広く PFI 事業全般に対しての有益な情報となることが期待される。
【情報共有及び情報公開に関する実務上のポイント】
① サービス対価の見直し(第1章第4節)、サービス内容の変更(第1章第2節)、管理者等による解除(第2章)などの際のサービス対価の変更額を客観的に算定すること、また事業の円滑な継続のために必要な情報を早期に把握、履行状況のモニタリングによる成果の確認といった観点から、選定事業者が管理者等に開示すべき情報の範囲を官民協議の上決定すべきである。
② 開示を受けた情報については、住民に対して公表されるべきである。
第4章 紛争解決手続
1.概要
PFI事業契約締結時には想定し得ないリスクの顕在化などPFI事業契約に定めのない事項、その他PFI事業契約の実施に当たって生じた疑義について解決しなければならないことも起こ り得る。こうした場合に備えて、当事者間の協議の在り方について規定し、さらに当事者間での協議が整わないこともあるため、紛争が生じる場合に備え、中立的第三者が関与した紛争の処理方法を規定する。
2.問題状況
(1) 現行のPFI事業契約においては、両当事者間の協議、関係者協議会の規定及び裁判管轄の規定のみとしている場合が多い。さらに、関係者協議会の構成については、紛争解決のための仕組みとして十分ではないことも少なくない。したがって、実効的な協議を行う仕組みを構築する必要がある31。
(2) 協議によって解決しなかった場合でも、良好な関係を継続したまま、迅速に解決することが必要である。さらにPFIをめぐる紛争は高度な専門知識を要求されることが多いと予想される。したがって、紛争が生じた場合に、裁判よりも迅速かつ専門的事項に十分対応できる紛争解決の枠組みを迅速に設定できるような契約条項が求められる。
3.基本的な考え方
(1) コミュニケーションの場の設定:両当事者間の不断のコミュニケーションをとっておくことにより、相互の信頼関係を醸成しておくことが、紛争を予防する観点からは重要である。そこで、両当事者の間のコミュニケーションの場を設定し、フェイストゥフェイスでコミュニケーションを行う機会を設けて信頼関係の構築に当たるべきである。
なお、当事者のコミュニケーションを図るためには、以下の点に留意することが必要である32。
・官民双方の見解を理解し、また尊重すること
・知識と目的を共有すること
・契約及び契約関係書類を正確に理解すること
・情報の相互提供をスムーズに行い、またコミュニケーションのチャンネルをオープンにしておくこと
・両方の組織内に存在する課題を解決する意欲を有すること
31 この点に関し、現実には、多くの場合、「紛争」に至る以前に、日常的に公共側によって物事が決められるところに問題があるので、場合によっては、中立的第三者が監視機能も含めた調整役を担う措置が必要であるとの意見もあるので留意が必要である。
32 英国では両当事者の継続的コミュニケーションの重要性が強調されており、定期的なコミュニケーションの場を確保するべきとされ、ここに記載した留意点はこれを参考に作成している(英国財務省 Operational Taskforce Note2: Project transition guidance(2007 年 3 月)参照)。
・効果的な意思決定プロセスが設定されていること
・事業を成功させようという強い意欲を有すること
(2) 紛争調整会議:紛争が生じた際には、まずは両当事者間で協議することが考えられる。そこで、紛争が生じた際に、いずれかの当事者の要求により会議を招集し、解決を図る紛争調整会議について規定する。
(3) 中立的第三者の関与:官民が対等の立場というPFIの基本原理からすれば、協議が整わない場合に一方が他方に結論を押しつけることは厳に慎まなければならない。そこで中立的な専門家が関与して、紛争を迅速に解決する仕組みが有効となる。
4.具体的な規定の内容
(1) 紛争調整会議
紛争解決のための場として紛争調整会議(仮称)を設ける。なお、このような機能を果たす場 が既に存在している場合には、いたずらに屋上屋を架す趣旨ではないことに留意する必要がある。メンバーについては両当事者により構成することとする。
(2) 中立的専門家による裁定手続創設
紛争調整会議と、裁判による解決の中間に、中立的専門家(裁定人)による紛争解決手続を規定することが考えられる。この際、裁定手続になじまない紛争も想定されるため、この手続の利用を義務付けない形としたり、あらかじめ裁定手続の対象となる事項(又は対象とならない事項)を契約書で特定したりしておくことなども考えられる。中立的専門家の判断に拘束力を持たせるか否かについては、拘束力があるとすると中立的専門家の選任が困難になり手続自体が使用されなくなる可能性があるため、当面は、中立的専門家の判断に拘束力を持たせない手続(一種の調停手続)とすることが考えられる。中立的専門家の選任方法は、両当事者の合意によることとし、選任時点については、紛争が生じた際に選任することが考えられる。
調停に関する規定を設ける場合において、調停の場で合意できなかったとき、又は調停の対象外の事項に関する紛争が生じたときについては、裁判又は仲裁(調停と異なり裁定人の判断が両当事者を拘束する。)によって解決されることになる。
① 裁定人の人数:仲裁として行う場合(すなわち裁定人の判断に拘束力を持たせる場合)については、他分野の国際的な契約では3名と規定されることが多い(UNCITRAL国際商事仲裁モデル法では、別途当事者間で合意がない限り3名とされている。)。また、仲裁法第 16 条第2項においても、当事者の数が2名である場合において、当事者に合意がないときは、仲裁人の数は3名とする旨が定められている。一方、調停の場合は、UNCITRAL国際商事調停モデル法では、別途当事者間で合意がない限り1名とされているが、場合により3名とすることも考えられる。
② 裁定人選定方法
1) 選定時点:裁定人の選定方法について、裁定人(又は裁定人を選任するためのパネル)は、①内容に応じて、事業契約締結後にあらかじめ両当事者で合意しておき、欠員が出た場合には、速やかに共同で選任する方法33、②紛争が生じた際に両当事者間の合意により裁定人を選定する方法がある34。我が国では、中立的な専門家を関与させる枠組みが定着していないこと等を考慮すると、②の方法が当面は現実的であると考えられる。これらの方法のメリット、デメリットを整理すると以下のようになる。
イ 紛争が生じた際に裁定人を選定する方法:人選について合意できないリスクが高まる(実際に紛争が生じている場合両当事者がより慎重になる。)。人選について合意できない場合、迅速な解決は期待できない。しかし、紛争となっている分野に合わせて専門家を選ぶことができるというメリットがある。
ロ 裁定人をあらかじめ決める方法:事業契約締結後の手続負担は重いこと、また選任した段階から裁定人に報酬を払わなければならなくなること、利益相反の問題がより複雑になることなどの問題がある。しかし、実際に裁定人による紛争解決が必要になった場合は、迅速な解決が期待できるというメリットがある。なお、この方法でも複数の分野の専門家を選任することは可能であるが、当初段階での両当事者の手続的な負担が更に重くなる。この方法は、現時点では課題も多いため、当面はイの方法が現実的であると考えられる。
2) 中立的第三者の候補者:中立的第三者の候補者としては、受任することについて利益相反がないことに加えて、紛争の分野に応じて必要な専門的知識を有していること、両当事者が納得できるだけの中立性を有していることなどが必要になる35。裁定人が両当事者との間で信頼関係を築けることが重要であるため、選任に関する規定はあくまでも両当事者が平等である必要がある。したがって、一方の当事者のみが「中立的」裁定人を選ぶ権利を有するという規定は適切でない。あくまで、両当事者が了解した方法で裁定人を選定することが重要である。
3) 選任について合意できない場合:選任について意見が一致しない場合の手続の規定が必要である。
※ 例えば英国では両者が合意できない場合には、「公認仲裁人協会長」(the President for the time being of the Chartered Institute of Arbitrators)への選任の依頼が挙げられている。今後PF Iの専門家を選任できる体制が整うことが前提であるが、例えば、日本商事仲裁協会、国際商工会議所などに選任を依頼することが考えられる。この点については、実務的に問題になる可能性が高い部分であるので、選任候補者のリストの作成方法・手続なども含めて、今後議論が必要である。
③ 裁定手続の内容:両当事者の意見及び証拠の提出期限、聴聞、裁定人の判断の期限等の手続を定める。
④ 裁定人の判断の拘束力:以下の案が考えられる。
1) 完全に両当事者を拘束する(裁判所は覆すことはできない。)。
2) 裁判所が覆さない限り両当事者を拘束する(裁判所により覆される可能性がある。)。
3) 判断がなされた後、不服のある当事者が一定期間内に裁判を提起しなかった場合、両当事者を拘束
33 この場合は、複数の分野の専門家について合意しておき、紛争の内容に応じて適切な専門家を選任できるようにすることが望ましい。
34 3名とした場合には、各当事者が1名ずつを選任し、選任された2人の裁定人が第三の裁定人を選任するという方法が考えられる。1人とした場合は、両当事者が共同で選任する。
35 人材の確保、紛争解決事例の集積、共有化、手続きの迅速化の観点から、PFI全体を対象にした国レベルの紛争解決機関の創設を検討すべきであるとの意見もあることに留意する必要がある。
する(裁判が提起された場合は両当事者を拘束しない。)。
4) 参考意見として取り扱う(調停)。
※ 我が国のPFIでは中立的第三者に関与させて紛争を解決するという慣行は存在していないため選任が困難になる可能性があり、その結果中立的第三者を関与させる手続が実務から敬遠されてしまう可能性があることから、当面は「調停」(調停人の判断に拘束力を持たせない。)が最も現実的であると考えられる。今後、第三者を用いる手法に対する信頼の向上、中立的な第三者機関の設立(又は既存の機関の活用)、紛争解決のための基準の明確化などによって、徐々に拘束力を持たせる方法が採用されるようになることが期待される。
⑤ 調 停
紛争解決に当たる第三者の判断に拘束力がある場合は仲裁、拘束力がない場合は調停になる。調停には、簡易裁判所等で行われる法定の調停と、民間機関(又は民間人)によって行われる任意の調停がある。
なお、民間機関によって行われる調停については、ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)による認証制度がある。この認証制度については弁護士以外の調停人の活用、時効の中断等でメリットがある。PFI事業契約に中立的な専門家による判断を盛り込む場合も、弁護士法との関係で問題が生じないようにするため、認証された調停機関・手続を利用することも考えられる。仲裁には適用されない。
⑥ 費用分担:紛争解決に要する費用分担は、あらかじめxxにこれを取り決めておく必要がある。
5.留意点
(1) 議会との関係
議会、予算との関係などについても配慮が必要である。特に、和解、調停、仲裁などについては、地方自治法第 96 条第1項第 12 号に定める地方公共団体の議会の議決事項に含まれている点その他地方自治法等との関係について整理する必要がある。
(2) 費 用
裁定人の報酬水準及び負担者についてもあらかじめ合意しておくことが必要である。現実的には、両当事者が共同で裁定人を探し、三者間で報酬水準について合意しておくことが考えられる。
36
調停人や弁護士への報酬などについて必要な予算を確保できるようにすることも重要である。
(3) サービスの継続
紛争解決の手続の期間中、建設やサービスの提供が中断されることのないよう、原則として37建設及びサービスの提供を中断してはならない旨を規定する必要がある。
36 なお、裁定人の報酬は、組織などの場合には、一定の水準が決まっていることが多く、自由な交渉の対象とはなりにくい事情もあることに留意する必要がある。
37 不可抗力事由等により義務履行ができない場合は例外となる。
(4) 契約に携わった弁護士の関与の有効性
第三者が入る手続に先立ち、当事者のアドバイザーとして弁護士又はこの分野に知見を有する者を関与させ、問題を整理しながら、協議を行うことがまずあるべき基本的な手順となる。その際、契約締結の際と同じ弁護士を起用することも有効な手法となる。
※ 特に契約締結に携わった弁護士の場合、契約の交渉過程、文言の変更、覚書の締結など、一貫して担当している場合が多いため、契約書の条項と当該紛争の関係が整理され、当事者が納得して紛争が解決する場合もあり得る。ただし、この場合弁護士は当事者のアドバイザーとして関与するのであり、中立的な第三者とは役割が異なる点に留意する必要がある。
【紛争解決に関する実務上のポイント】
管理者等と選定事業者間の紛争に対しては、当事者間での協議、中立的第三者の判断、仲裁・裁判と段階的に解決のための枠組みを規定する必要がある。本規定及びその背景となる考え方のポイントは以下のとおり。
① 紛争を防止するために通常時からのコミュニケーションを密に行い、相互の信頼関係の醸成を図ることが必要である。
② 紛争が生じた場合は、紛争調整会議により、まず両当事者の間で紛争の解決を図る。
③ 紛争調整会議による協議が整わなかった場合は、紛争の内容に応じて中立的専門家を両当事者間の合意により選任し、調停する手続(中立的専門家の判断に拘束力を持たせない手続)を規定することも一つの選択肢として考えられる。
第5章 法令変更
1.概要
PFI事業期間中に生じる法令変更に伴う費用の増加等の負担者、効果及び手続について規定される。この際、基本となる考え方は、リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担するということであり、これに従って様々な規定がなされることになる。ただし、将来の法令変更は様々なものがあり得るため、あらかじめ完全に決めることは不可能である点にも留意する必要がある。
2.問題状況
現在、PFIで用いられている事業契約においては、「本事業に直接影響を与える法令の変更」(特に本事業及び本事業類似のサービスを提供する事業に関する事項を直接的に規定することを目的とした法令で事業者の費用に影響があるもの)についてのみ管理者等の負担と規定されていることが多い。この基準は基本的には維持されるべきものと考えられるが、具体的に適用する際に明確な基準といえるのか、一方の当事者に酷となる結論が生じることがないかなどの課題があり、基準を明確かつxxなものとするよう工夫をする必要がある。
例:入札段階では、建築基準法の改正が具体化されていなかったが、事業契約締結後、改正に基づく基準が施行され、例えば建築物の満たすべき基準が変化したことによる増加費用(例:基準の変更に伴い、より多くの鋼材が必要となった場合などの費用)の位置付けなど、明確に「本事業に直接影響を与える法令の変更」と位置付けていない限り、どちらに該当するのかが不明確となる場合があり、これについて適切に対応する必要がある。この際、たとえ法令変更事由が生じたとしても、その対象、適用範囲に関しては、あらかじめ、費用の明細などを了解しておかない限り、単純に評価、判断できない側面があることにも注意が必要である。
3.基本的な考え方
(1) 法令変更への対処の困難性
法令変更に関する対処の方法については、法令の属性に着目し、因果関係の明確性や影響に応じて類型化することや、法令への効果に着目して、定義を詳細化していくことなどが考えられる。ただし、法令変更に関する規定については、その対象、範囲、影響度をあらかじめ定義することが難しいという側面があり、具体的な条項の在り方については、様々な考え方があるところであるため、容易に標準化できる部分ではない。以下で示す考え方は、現実のPFI事業契約をベースにしつつ修正を加えたものであるが、法令変更への対処の方法については様々な考え方があることに留意する必要がある38。
38 後述する一般的法令変更の場合や、民間収益事業の場合でも、民間では対応できるリスクではないのではないかとの考えもあることに留意する必要がある。
(2) リスク分担の明確化の必要性
リスク分担の明確化というPFIの基本理念からは、法令変更の際の増加費用の負担の規定についても、基準をできる限り明確化すべきである。そこで、それぞれの事業の特性に応じて、将来行われる可能性のある変更で重要なものについては、あらかじめ取扱いを明記することが望ましい。ただし、実際には予想できない変更が生じる可能性が高く、明記できる場合は限定される。
(3) リスク分担に関する考え方
リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担する、というPFIの基本理念からは、法令変更規定は選定事業者に管理できないリスクを負わせないようにする必要がある。法令変更は選定事業者がリスクを管理できないという考え方を前提にすれば、基本的には管理者等がリスクを取るべきであると考えられる。ただし、①法令変更の対象者が広く一般的である場合、②選定事業者の創意工夫により費用の増加の影響を抑えることができる場合、③(民間収益事業など)法令変更によるコストの増加を一般利用者等に転嫁しうる場合は、例外として選定事業者がリスクを取るべきである。
① 一般的法令変更:法令変更のうち、その影響がxxに及ぶものについては(一般的法令変更)、法令変更の対象者が広く一般的であり、選定事業者もその効果を受忍すべきである。この場合、間接的には物価指数等に影響を与え、サービス対価の物価スライド条項その他指標に応じた調整条項、ベンチマーキングの規定、マーケットテスティングの規定など、価格調整に関する条項により最終的には一定部分費用の増加を吸収できるため、この観点からも選定事業者の負担とすべきである(例えば法人税率の変更があった場合、全国のすべての企業にとって内部コスト増になるので、コスト増が各企業の商品の価格に上乗せされ、物価指数に反映される等)。
② 選定事業者の努力により軽減できる場合:(後述4(3)参照)。
③ 利用者に転嫁できる場合:利用料金の値上げ等によって、法令変更によるコストの増加を一般利用者等に転嫁しうる場合は、選定事業者の負担とする。
④ 通常の民間の事業との差異:民間企業においては、法令変更による事業の増加費用を、その分野において事業活動を行わないとすることにより影響を一定の範囲内に抑えることができる。これに対して、選定事業者の場合は、公目的達成のために契約xxx行動が制限されるという選定事業者の義務の特異性から、一般の企業活動に比べて収益や支出の枠組みが固定している。したがって、法令変更に伴う費用増を、収益を増大して吸収できる手段が限定される場合もあることに配慮する必要がある。
(4) 軽減義務
選定事業者は、法令変更によって費用の増加が見込まれる場合、その影響を軽減するために合理的な努力を行うものとする。
(5) コミュニケーションの重要性
法令変更への対処法(費用の増加を抑える方法など)について、早い段階(法令変更についての具体的情報を入手した段階)から官民のコミュニケーションを密に図ることにより、可能な限
り、円滑に解決することが望ましい。
4.具体的な規定の内容
(1) プロセス
法令変更については、早い段階から当事者間の密度の高いコミュニケーションを行うことにより、増加費用等を軽減できる場合も少なくない。そこで、法令変更が予想される場合には、早い段階で他方の当事者に通知をした上で協議を開始し十分な時間をかけて議論することにより、双方で情報を共有して、協力しながら、正確な影響を評価し、増加費用の軽減に努力することが重要である。これによっても軽減できなかった増加費用については、(2)以降の原則に従ってどちらが費用を分担するかを決定することになる。
(2) 費用の分担方法
① 直接法令変更及び一般法令変更
「本事業に直接影響を与える法令の変更」(特に本事業及び本事業類似のサービスを提供する事業に関する事項を直接的に規定することを目的とした法令で事業者の費用に影響があるもの)とそれ以外の法令変更(一般的法令変更)に分類し、選定事業者に管理できないリスクを負わせないことに留意しつつ、後者については基本的には選定事業者とする(理由については3(3)①参照)。
② 資本的支出
資本的支出については、個別性が高く物価スライド等で吸収することは困難と考えられることから、法令の種類にかかわらず管理者等の負担とすることが原則と考えられる。
資本的支出の内容:建設費の増額や、運営開始以降の新たな設備の導入、大規模修繕等が該当する。解体費についても、これと同様に扱うことも考えられる。
③ 民間収益事業等の場合
上記3(3)③記載のとおり、民間収益事業等選定事業者が利用者からの利用料金を収受するスキームの場合は、費用の増加を利用料等に反映させることができること、また、他の民間事業者とのxxを図ることから、原則として選定事業者の負担とする。ただし、費用の利用料への転嫁については、一定の限界があることに留意すべきである。39
費用の利用料への転嫁の限界
1) 選定事業者が利用者からの利用料金を収受するスキームの場合でも、例えば指定管理者制度が採用されている場合のように、利用料金の設定について制約がある場合が多い。この場合、法令変更の場
39 選定事業者に事業継続義務があるのであれば、むしろ管理者等がリスクを負担すべきではないかという考え方もあり、この点については更に検討を要する。
合は利用料金の変更に管理者等が同意する旨規定するか、管理者等が増加費用を負担するなどの方法により、選定事業者に過大なリスクを負わせないようにすべきである。
2) 利用料金の値上げが可能である場合でも、値上げにより利用者が減少し、リスクプロファイルが変わる可能性がある。したがって、利用料金値上げが可能である場合でも、利用者にこれを転嫁することを前提に選定事業者が増加費用を負担することが常に妥当であるとは限らない点に留意する必要がある。
④ 税 制 変 更
税制の変更に起因する増加費用の負担割合については、「サービス対価」の外税とした消費税率の変更による増加費用を管理者等の負担とすることが通例である。加えて、資産所有に係る税率の変更及び新税設立による増加費用を管理者等の負担とすることもあり得る。なお、法人税率の変更等、選定事業者の利益に課される税制度の変更による増加費用は、選定事業者の負担とすることが通例である。
(3) 軽減義務
選定事業者の努力により法令変更による影響を抑えることができる部分については、管理者等は増加費用を負担すべきではない。したがって、管理者等が法令変更リスクを負担する場合については、選定事業者に費用の増加を抑える努力を促すために合理的な範囲内でかかる義務を負わせることが適切である。
軽減義務の規定方法
1) 包括的に軽減義務を規定する方法:事業者は増加費用を軽減するために合理的な範囲内で努力を行うものとする旨規定する40。
2) 軽減のための協議内容を規定する方法:軽減するための努力を行ったことを示す証拠や類似の事業に与えた影響に関する証拠の提出など、協議の内容をあらかじめ規定する。
(4) 例示による明確化
特に当該事業において将来問題になる可能性があると予想される変更については、「本事業に直接影響を与える法令の変更」「一般的法令変更」のどちらに分類するか、あるいは両者とも別の扱いにするかについて契約書に明記すること、さらにそれぞれに該当する代表的かつ具体的な法令を例示することによって扱いを明確化することが望ましい41。
1) 法令変更とはいえないが法令の運用が変わった場合についても(例えば、建築確認の運用手続が変更になった結果、費用が増加した場合)、予測可能であるものがあれば特定の上対処方針を規定しておくことが望ましい。
40 実際には、何をもって「合理的努力」を行ったといえるかについては、判断が難しい点に留意する必要がある。
41 既存の案件においても、管理者等が「予想していなかった」法令の変更により事業コストが影響を受けることはよくあるが、区分けの判断基準が示されないため、結局、一般的法令変更となってしまうケースがあるとの指摘があることに留意すべきである。
2) 一つの法令の中でも、規定によって、管理者等のリスクとすべきところ、選定事業者のリスクとすべきところが分かれる可能性もあるため、必要があれば規定ごとにリスク分担を記載するものとする。
3) 費用の増加については、選定事業者が立証責任を負うべきである。
5.留意点
(1) 費用を両当事者で分担する方法
資本的支出相当分の費用負担に関しては、管理者等が増加費用を負担することを原則としつつ、選定事業者の努力により増加費用を抑えることができる場合が考えられることや、手続負担の観 点(比較的少額の変更について対価の変更のための手続を行うことは煩雑である。)から、選定 事業者も一部負担することが考えられる。
例:○○万円までは選定事業者負担42、○○万円以上○○万円までは管理者等○%、選定事業者○%を負担、○万円以上は全額管理者等の負担とするなどの方法が考えられる43。これにより、選定事業者が負担する最大額を示すことができ、その結果金融機関も法令変更についてどの程度のリスクを見ればよいのかが明確になるというメリットもある。
(2) 費用の減少への対処
運営段階において、規制緩和によって業務要求水準を変更し選定事業者の義務を軽減できる場合のサービス対価の変更についても、可能である限り対応方法を規定しておくことが望ましい。
【法令変更に関する実務上のポイント】
法令変更の取扱いについては、変更対象となる法令の属性や事業に与える影響等に応じて類型化して規定することが望ましいが、あらかじめすべてを明確に規定することは難しい。事業契約への規定のみならず、その背景にある以下の考え方を理解した上で運用することが必要である。
① 法令変更は選定事業者に管理できないリスクであるから原則として管理者等の負担とする。
② ただし、法令変更の影響がxxに及ぶものについては、法令変更の対象者が広く一般的であり、選定事業者もその効果を受忍すべきであること、また物価スライド等により最終的にサービス対価に反映され得ることから、選定事業者の負担とする。
③ 資本的支出については、個別性が高く物価スライド等で吸収することは困難と考えられることから、法令の種類にかかわらず管理者等の負担とする。
④ いずれの場合も選定事業者に費用の軽減義務を負わせることが妥当である。
⑤ 法令変更に関する通知、協議(費用の軽減方法を含む。)等の手順についても、契約書に規定する必要がある。
42 民間が負担する金額の設定方法としては、契約金額の一定割合として示す方法もあり得る。
43 選定事業者の努力により抑えることのできる増加費用の範囲については慎重に検討する必要がある。また、金額の設定方法によっては、民間が入札の際に予備費を積むことによりVFMを逆に低下させる可能性があることに留意すべきである。
第6章 モニタリング・支払メカニズム
1.概要
モニタリング及び支払メカニズムについては、モニタリングガイドラインにおいてその基本的考え方が示されているところであるが、運営段階に至った事業が半数を超え、また、サービス提供業務の比重が重い事業が増加している今日、モニタリングと支払メカニズムについて様々な課題が判明してきている。本章では、モニタリングガイドラインで記載が少ない部分を中心にいくつかの課題を取り上げた。
2.問題状況
モニタリングは、業務要求水準書に従ってPFI事業契約書上の選定事業者の義務が適切に履行されているかを確認するものである。モニタリングの結果、その義務が適切に履行されていないことが判明した場合には、その重要度、影響度、深刻度に応じてサービス対価が減額されるというメカニズムを採用することにより、選定事業者に適切な義務の履行を促すことが想定されている。しかしながら、我が国においては運営段階の契約管理に関する実務的なノウハウの蓄積がいまだ十分でないことから、モニタリング・支払メカニズムは必ずしも機能していないと指摘されているところであり、これに対する対応の在り方を示す必要がある。
3.基本的な考え方
(1) 業務要求水準、モニタリング、支払メカニズムの三位一体の検討
モニタリングは業務要求水準に従って適切に履行がなされているかを確認するものであり、支払メカニズムは適切に履行がなされていない場合にサービス対価を減額するもので、これにより業務要求水準に従った履行を確保することが想定されている。したがって、業務要求水準、モニタリング、支払メカニズムは連動している必要があり、一体的に作成される必要がある。
この際、事業目的に従って、モニタリング指標の優先順位付けや絞り込みを行うとともに、これらの優先順位が選定事業者に伝わり機能するような支払メカニズムを構築することが必要である44(詳細は、モニタリングガイドライン 一「モニタリングの基本的考え方」2「公共サービスの適正かつ確実な実施を確保するための枠組みの構築」参照)。
業務要求水準書作成段階において、モニタリング、支払メカニズムも同時に検討し、少なくとも重要な部分、すなわち、リスクと費用を応札者が評価し、価格決定に織り込むために必要かつ十分な情報については、入札段階で応札者に開示すべきである。
44 具体的な重み付けの手順としては、例えば①対象、範囲を特定する、②一定の範囲の中で(業務要素を区分けできる場合には、これを区分けし)、重要度、影響度の在り方をレベル分けする、③この区分けごとにペナルティ等の重み付けを行う、ことが考えられる。
(2) 実効的なモニタリングの仕組みの構築
① モニタリングの内容確定までの手順
(1)を踏まえて、入札段階でモニタリングの基本となる計画(基本計画)を入札時に示すこととし、これに基づき運営開始までに具体的なモニタリング実施計画を作成することが有効である。
サービス提供業務の比重の重い事業や複数の機能から構成される事業等においては、供用を開始した後にモニタリングの対象とすべき項目が新たに判明することも多く、供用開始後1年程度かけてモニタリングの項目、手法等につき、実情に合わせて柔軟性をもって適合させていく仕組みを導入することが有効である。ただしあらかじめ規定された基本の権利義務関係から大きく逸脱する場合、モニタリングに伴う追加費用などが係争の対象になり得る可能性が大きいため、調整の対象となる部分は限定される。
② 選定事業者による管理能力の強化、管理者等の契約管理体制の充実
サービス提供業務の比重の重い事業や複数の機能から構成される事業等においては、選定事業者(SPC)による各業務の管理能力の強化に加え、管理者等の契約管理体制の充実を図ることも重要である。
③ 第三者機関の活用
サービスの質の改善によるVFMの向上を当初見込んだ場合、これが達成できているかどうかを確認するため、サービス水準の向上について検証する必要がある。そのための方法として、利用者に対する満足度調査もあるが、例えば指定管理者制度では、住民利用施設に関して第三者機関による評価を行っている事例があり、事業の性質によっては、こうした事例を参考にすることも考えられる。
(3) 建設モニタリング
① 建設モニタリングの必要性
設計・施工段階のモニタリング(いわゆる建設モニタリング)については、実際にPFI施設において事故が起きた教訓を踏まえ、安全性や環境への配慮等の観点から、その重要性が指摘されている。また、完工検査において瑕疵が発見される事例もある。
② セルフモニタリング及び管理者等によるモニタリング
PFIにおいては、設計・施工・維持管理・運営は、選定事業者により行われるものであり、xx的には選定事業者によるモニタリング(以下、「セルフモニタリング」という。)により、サービスの質の管理に対応できる枠組みとする必要がある。ただし、管理者等の技術的ノウハウの活用や、重要な部分については管理者等が自らモニタリングを行うことによりモニタリングの実効性を高めることが考えられる。
③ 業務要求水準未達が判明した場合の措置
建設モニタリング実施の結果、PFIの対象である施設自体に業務要求水準が未達である部分が存在することが判明した場合、管理者等は選定事業者に対し当該箇所の修復を求め、業務要求水準を満たした状態でのPFI施設の引渡しを求めることになる。業務要求水準を満たした施設をPFI事業契約上の引渡期日(猶予期間がある場合には猶予期間の満了日)までに引渡しが完了した場合、施設整備費は減額されない。
(4) 適切な支払メカニズムの構築
① 減額規定の設定方法
選定事業者に、適切なサービス提供に関するインセンティブを与えることができるよう以下の点に配慮して、減額規定を作成すべきである。
1) 減額幅、是正期間等を決定する際には、管理者等にとっての重要度に応じて適切に決定する。
2) ペナルティが、選定事業者の業務要求水準未達を是正するための動機付けとして十分な内容であるかを検討する。BOT方式においてはユニタリーペイメントを積極的に採用する。
② 利用量に応じた適切な調整の必要性
サービス購入型で、かつ利用者数など利用量によって選定事業者のコストが大幅に増額する場合、支払メカニズムが有効に機能するためには、一定の計算式に従ってサービス対価を増額する仕組みを盛り込むなど、サービス提供量(例:入場者数等)の増大によるコストの増加をサービス対価により適切にカバーする枠組みを構築する必要がある。
(5) セルフモニタリング
モニタリングには、選定事業者自らが行うモニタリング(セルフモニタリング) と管理者側が行うモニタリングがあるが45、両者の区別が曖昧になり混乱が生じているとの指摘がある。これらを明確に区別した上で、選定事業者がどのようなセルフモニタリングを行う義務を負うのか
(又は提案する義務を負うのか)を公募段階で明示すべきである。
セルフモニタリングの内容を検討する場合は、以下の点に留意する必要がある。
1) セルフモニタリングの意義は、もともと管理者等から義務付けられなくても選定事業者側で行う必要があるモニタリングを活用することにより、費用を実質的に上昇させることなくモニタリングの実効性を高めることにある。例えば、これまで施工会社のコントロールの下にあった設計会社が施工監理を行っていたのを、できる限り独立性を持たせることにより、コストを上げずにより効果的にモニタリングすることができる。
2) セルフモニタリングを活用する場合であっても、モニタリングを実施する最終責任はあくまで管理者等にある。
45 モニタリングガイドライン 二「モニタリングの実施方法」1「モニタリングの実施」参照
3) セルフモニタリングの内容に関しては、全面的に選定事業者にゆだねるのではなく、上記のセルフモニタリングの意義を踏まえ、かつ、管理者等が自ら有する履行確認に関するノウハウも生かして、どのようなセルフモニタリングが必要であるのかの基本的な考え方を、選定事業者の提案との関係をも考慮しつつ、明確に示すべきである。
4) セルフモニタリングと管理者等によるモニタリングを区別する必要があるとしても、これらは有機的に組み合わせて使用すべきものであり、セルフモニタリングが前提となって管理者等のモニタリングがあるという関係にある。
4.具体的な規定の内容
(1) モニタリング内容確定までの手続46
特にサービス提供業務の比重が重い事業については、以下の例のように、早い段階でモニタリングの内容を示し、かつ一定の調整期間を設けるなどして、実効的なモニタリングの仕組みを構築できるよう工夫する必要がある場合も多い(一般的な考え方については、モニタリングガイドライン 一「モニタリングの基本的考え方」2「公共サービスの適正かつ確実な実施を確保するための枠組みの構築」参照)。
1) モニタリング基本計画の策定
業務要求水準書で提示した性能規定47に対して、それらの達成状況を計測するためのモニタリング指標をあらかじめ検討し、業務要求水準書の作成と一体的に作成することが必要である。公募段階において、業務要求水準書の提示とあわせて、性能規定ごとに、達成状況を見るためのモニタリング指標と、計測の方法、計測の頻度を示すモニタリング基本計画を管理者等が作成し、提示する。なお、モニタリング基本計画の策定は、サービス提供業務の比重の高い案件のみならず、PFI事業一般において行われることが望まれる。
2) モニタリング実施計画書の策定
モニタリング基本計画書、業務要求水準書、事業者提案、業務仕様書及び契約書に規定されたサービス対価の算定及び支払方法に従い、サービス提供業務開始予定日の一定期間前までにモニタリング実施計画書を両当事者の協議により策定する。
3) 定期的な評価のための協議
3(2)に示したとおり、サービス提供業務の比重が重い事業や複数の機能から構成される事業等については、管理者等及び選定事業者により、定期モニタリングにおける事実認定及び評価の確定行為をする場として、協議を行う場を整えること(例えば定期モニタリング委員会の設置あるいは既存の関係者協議会の活用)が有効である。協議においては、セルフモニタリングの結果及び管理者等の評価を対照さ
46 業務要求水準書、モニタリング、支払メカニズムの三位一体の検討の具体的な検討の在り方については、
「PFI事業契約との関連における業務要求水準書の基本的考え方」参照。
47 インプット仕様、アウトプット仕様という場合の「仕様」と、仕様発注、性能発注という場合の「仕様」では意味が異なり混乱を招くおそれがあるため、本書及び「PFI事業契約との関連における業務要求水準書の基本的考え方」では「インプット仕様」「アウトプット仕様」という用語は使用せず、「仕様規定」
(=形状・寸法・材料等の具体的な仕様を規定する方法)、「性能規定」(=事業者が満たすべき性能を規定する方法)という用語を用いることにした。
せながら、両者の認識を一致させ、モニタリングの基準を調整していくことが想定されている。また、例えば初めの1年間は一定の範囲内の業務要求水準未達については原則ペナルティを課さないとすることも考えられる。協議・定期モニタリング委員会等は、定期的に開催される他、必要に応じて随時開催される。
4) モニタリングの実施
モニタリング実施計画書に基づき、モニタリングを実施する。
5) 業務改善のための手続
モニタリングガイドライン 三「適正な公共サービスの提供がなされない場合の対応方法」参照。この点については、引き続き検討をする必要があるが、その際には、例えば①モニタリングによる問題の察知、②お互いの認識、③影響度・深刻度・重要度に応じた対応措置、④治癒・修復に向けての選定事業者による努力、⑤これら結果を反映したペナルテイ・ポイントの付与、猶予などの事前段階における関係当事者の努力といった初期段階のプロセスが重要であることについて考慮する必要がある。
※ また、サービス水準の向上について検証するため、事業の性格に応じて第三者機関による評価を導入することが適切である事例もあると考えられる。
(2) 建設モニタリング
設計・施工段階のモニタリングについても、明確に位置付けることが必要である。建設モニタリングについても、選定事業者が行うセルフモニタリングと管理者等による直接のモニタリングに分けられる。
① 設 計 段 階
選定事業者はセルフモニタリングの一環として必要な確認を行う。管理者等も、設計図書が業務要求水準書等に合致しているかどうかについて確認する。
※ この際、過去の教訓等を踏まえ、専門職員や外部専門家等の助言・支援を受けるなど、必要に応じて設計内容を評価できる体制を整えることが必要である。
② x x 段 階
1) セルフモニタリング
管理者等は、どのような基準を用いるべきか等について、入札段階で管理者等の意図を示すことなどにより、実効的なモニタリングの仕組みを構築することが適切である。セルフモニタリングの基本的な考え方については、3(5)参照。
イ セルフモニタリングに用いられる基準
管理者等の技術的ノウハウを反映させることによりセルフモニタリングをより効果的なものとするため、公募段階で管理者等がどのようなセルフモニタリングを期待しているかを示し、これに合わせてセルフモニタリングの方法を提案させ、それを実施することにより効果的なものとすることが考えられる。具体的には、設計業務・工事監理業務・工事業務のモニタリングの手続や特に重点的に工事監理を行う必要がある工種・工程等を業務要求水準書で示した上で、事業者選定において
工事監理計画書の概要の提案等の提出を求めることが考えられる。ロ 独立性
選定事業者が行う施工モニタリングについては、施工会社の影響下に行われるとなると実効性は確保されない可能性がある。したがって、施工会社から独立して施工を管理する責任者を確保し、施工会社から一定程度の独立性を確保した上でモニタリングを行うことも考えられる48。さらに、より独立性を高くするため、施工モニタリングを行う者について設計会社からの独立性も要求すべきとの考え方もあるが、これが必要かは事業の規模や設計会社・建設会社の関係など様々な事情にも影響されると考えられ、今後更に検討を要する。
ハ 一般的な基準の利用
ISO9000に従った管理を施工者に行わせることによって、工事監理業務の負担を減らす方法もある。
2) 管理者等によるモニタリング
PFIの場合は、セルフモニタリングが基本となるものの、管理者等が特に重要と考える点については、管理者等が自らモニタリングを行うべきである。この際、①事業者及び管理者等によるダブル・ワークは原則として避けること、②選定事業者に過度に介入することは好ましくないこと、③したがって、焦点を絞った上で、メリハリをつけて効率的、効果的な仕組みを作成する必要があることに留意すべきである。
イ モニタリングの対象
モニタリングの対象としては、以下のものが考えられるが、どれを対象とするか、あるいはその他の内容も含めるかについては、事案の性質に応じて決定すべきである。
・完工後の瑕疵発見が困難かつ重要な事項(躯体状況等)等
・瑕疵があった場合の手戻りの影響が大きい事項(重要な機械設備の出荷検査等)
・施設の安全性に直接かかわる事項(天井の振れ止め等)
・地域の環境保全に大きな影響を与える事項(アスベストを含む旧施設の解体等)
モニタリングの内容に関して具体的な工種・工程等をあらかじめ例示しておくことが望ましい。ロ 中間確認
管理者等は、建設が適切に行われていることを確認するため、完工検査だけでなく、建設期間中の一定のタイミングで中間確認を行うことができること、また、必要と判断した場合に出来形部分を最小限度破壊して検査することができることが規定することが考えられる49。
48 例えば英国で行われている慣行も踏まえ、管理者等、選定事業者、工事監理会社の三者間契約とし、費用は選定事業者が最終的な責任を担うが、管理者等が工事監理会社を指揮するというスキームも考えられる。工事監理会社に対する支払行為を利害関係者となる設計会社や選定事業者とせず、管理者等とする、あるいは管理者に代わって融資金融機関が選定事業者の費用負担でこの任を担う等も考えられる(資金の流れと契約上の作業命令権が利害関係者に集中していれば、いかなる独立性も保持できないことから、これを切り離す)。ただし、設計を担当した事業者が工事監理を行う場合でも、社内では別の部署が担当することが一般であり、工事監理の担当者はプロフェッショナルとしてサービスを提供するものであるから、設計をした事業者が工事監理をしても直ちに問題であるわけではないとの意見もあり、引き続き検討を要する。
49 公共工事標準請負契約約款では、破壊検査については、以下のような内容になっている。
・工事の施工部分が設計図書に適合しないと認められる相当の理由がある場合において、必要があると認められるときは、工事の施工部分を最小限度破壊して検査することができると規定されている。また、
ハ モニタリングを行う権利
特に契約書等で明示されたもの以外でも、管理者等が必要と判断した場合にはモニタリングを行うことができる旨事業契約書に規定することが望ましい。ただし、選定事業者の費用に影響する事項(例えば破壊検査について選定事業者の費用負担で実施する等)はPFI事業契約で定めておくことが必要である。
※ 管理者等によるモニタリングが過剰であると、コストの増加を招き、逆にVFMが減少してしまうことにも留意すべきである。
ニ その他の留意点
1) 上述した仕組みを機能させるに当たり、管理者等、選定事業者、建設会社等の関係者が一同に会する場を設置することが必要である。
2) 設計段階・施工段階、運営段階を問わず、モニタリングに必要となる費用の負担者については、明確に規定しておく必要がある。
3) 専門的な知識を有する第三者を活用することも考慮すべきである。
(3) 適切な支払メカニズムの構築
① サービス水準を維持するための実効性のある動機付けの確保
適切な支払メカニズムを構築するためには、事業目的等に従って重み付けを行うこと(場合によっては、施設整備費相当分の減額も含む。)、各指標間の関係を整理することが必要である。
1) 重み付け
ペナルティを考える際には、事業目的等に沿った重み付け(減額までの期間や減額幅の設定)を行い、管理者等の考える重要度が選定事業者に伝わり、機能するような支払メカニズムとすることが必要である。
2) 各指標間の関係
一つの事由(違反)が複数の指標に関連する場合、二重に減額するのかなど各指標間の関係を明確にする必要がある。例えば、アベイラビリティ(施設を利用することができる状態に置かれていない場合アベイラビリティなしとされる。)とパフォーマンス(施設を利用することができるが業務要求水準が満たされていない場合で、アベイラビリティ違反に比べてペナルティは小さいのが一般である。)という概念を用いる場合、同じ事項について二重に減額されることがないように、どのような場合にアベイラビリティに基づく減額のみがなされ、どのような場合にアベイラビリティとパフォーマンスの双方に基づくが減額がなされるのかを明確に規定しておくことが望ましい(例:エレベーターが利用できなくなった場合の「アベイラビリティ」に基づく減額が、周辺施設のパフォ
この場合の破壊検査にかかる費用及び復旧にかかる費用は請負人が負担するものとされている。これに対して、以下のように規定すべきとの考え方もある。
・監督員は、工事の施工部分が設計図書に適合しないと認められる相当の理由がある場合は、工事の施工部分を最小限度破壊して検査することができる。そして、設計図書に適合しない事象が確認された場合には、破壊検査にかかる費用及び復旧にかかる費用は選定事業者が負担し、しかも、そのために延びる工期についても選定事業者の責任となる。一方、設計図書に適合しない事象が確認されない場合には、破壊検査にかかる費用及び復旧にかかる費用は、管理者等が負担し、並びに、それらの検査によって、影響を及ぼされた工期の延長も認められるものである。
ーマンスの低下を考慮した上で決定されているのであれば、周辺施設でパフォーマンスについての違反があっても減額の対象としない。)。また、選定事業者の債務不履行との関係、瑕疵担保責任との関係についても明確に記載しておくことが望ましい。
3) 施設整備費部分の扱い
業務要求水準を達成しない事象が起きたときのサービス対価の減額幅を検討するに当たっては、施設整備費部分も減額の対象となりえるような仕組み(いわゆるユニタリーペイメント)を導入するかどうかが問題となる。BTOについては確定債権として減額の対象とはならないと考えるのが通常であるが50、BOT方式については、サービス水準維持への強い動機付けを図るため、ユニタリーペイメントについて積極的に導入を図る必要がある51。なお、この場合、事業の性格に応じ、減額幅を一定の限度に留める等の条件を付すことを併せて検討する必要がある。
4) リカバリーポイント
いわゆるポイント制(業務要求水準未達に対して減額ポイントを付与し、一定の点数以上になったときに実際に減額する仕組み)を利用する場合は、業務要求水準に規定されたサービス水準を越えた場合にリカバリーポイントを付すことによって、より柔軟なサービスに対するインセンティブシステムを構築することも考えられる。さらに、事業の性質によっては、相殺のみならずサービス対価の増額につながるボーナスポイントを付与することも考えられる52。
② 利用量に基づく調整
サービス購入型で、かつ利用者数など利用量によって選定事業者の費用が増加する場合には、原則として利用状況に応じてサービス対価が増加する仕組みとする。
※ 具体的には、入場者数が増えることによる選定事業者のコスト増加をカバーできるレベルで、サービス対価の増額規定を設ける。この際、施設の収容能力に見合った上限金額を設定するとともに、利
50 確定債権となるBTOの場合にも、選定事業者の適切な業務の履行のためのインセンティブとして、選定事業者の債務不履行時における管理者等の選定事業者に対する損害賠償権や施設に関する選定事業者の瑕疵担保責任の規定等を活用することで、より強い動機付けを働かせることが可能となる(なお、BTOの場合でもこれらとサービス購入料を相殺することが禁止されているわけではない。)。
51 ただし、これには反対もあるところである。施設整備費相当分については減額すべきではないとする意見は、①維持管理費相当分を超えて減額された分については、施設整備担当企業が維持管理担当企業に対して損害賠償請求をすることになり、維持管理担当企業は、このようなリスクを織り込んで価格を提案することになるためVFMが低下すること、②施設整備費相当分を確定債権と扱うことができなくなるため、ファイナンスの仕組みが異なってくること、③株主にとってもリスクが高くなるため、その分高いリターンを要求するようになり、その結果VFMが低下すること、④民間企業のPFI参入意欲が失われること、
⑤提案価格を高くせざるを得ないため、予定価格の範囲内で提案することができず、その結果応札者がいないということも生じ得ることなどをその根拠として挙げる。これに対して施設整備費相当分についても減額すべきであるという意見は、①選定事業者が減額リスクをいかに管理し、内部で分担するかは管理者等は正確に把握しているわけではなく、維持管理担当企業にしわ寄せすることなく、全体の予備費の範囲内で管理できうれば、必ずしも単純に価格増につながらない可能性もあること、②特にBOTの場合には所有権は管理者等に移転しておらず、したがって建設工事業務に相当する「サービス対価」を確定債権として扱う理由はないこと、③日本でも採用している例があり、実現可能であること、④多少追加でコストが高くなったとしても、選定事業者に厳しいペナルティを課す可能性を残すことによって、安全な施設を建設するインセンティブとすべきであることなどを根拠として挙げている。
52 ただし、安易にこのようなポイントを付与すべきでないという考え方もあり、付与する場合には慎重に検討する必要がある。
用者数の制限を認めるなど、選定事業者が取れないリスクを負うことのないような仕組みを設けることが必要である。このメカニズムが当初意図したとおりに機能するためには、利用量に応じたサービス対価の増減額の大きさについて、選定事業者のコスト構造の変化を踏まえた設計が必要である。そのためには、支払メカニズムの検討段階において、選定事業者のコスト構造について十分なシミュレーションを行っておく必要がある。
5.留意点
(1) 選定事業者(SPC)によるマネジメント
サービス提供業務の比重が重い事業など、選定事業者の業務範囲がxxに及び、委託先が多岐にわたる場合等においては、各種サービス提供業務を横断的に統括する機能が求められる。
(2) 管理者等の側の契約管理体制
契約管理を実効的に行う観点からは、管理者等においても、契約管理を継続的に行う体制(スタッフ、組織、マニュアルの作成等)を確保していく必要がある。
(3) モニタリングのフォーム
モニタリングの手段として例えば管理者等による日報の閲覧があるが、必ずしも管理者等のモニタリングにとって有用な形に整理されておらず、しかも膨大な量の情報が含まれるため、管理者等によるモニタリングの手段として実効性に疑問があるなど、モニタリングのための有効なフォームが作成されていない場合がある。両者にとって効果的、効率的なモニタリングが行えるような形でレポートが作成されるよう、定期的な評価のための協議の場で、効率的、効果的にモニタリングを行うフォームを作成していくことが考えられる。ただし、この際は、フォームを作ること自体が目的ではなく、内容こそが重要であることについて留意すべきである。
※ 例えば、日報の閲覧などはコンピュータ化し、自動的にスキャンし、問題点のみをピックアップするといったように、①作業手順や、やり方、アプローチを変えてみる、合理化する、②毎日同じ定性的な文章の羅列されることがないような仕組みや工夫を取り入れ、実態を把握できるようにするなど、様々な工夫を行うことも考えられる。
(4) 報告の質を担保する仕組み
選定事業者に緊張感を与えることにより、管理者等への報告の質を担保するため、定期的検査及び抜き打ち検査、ヘルプデスク、顧客満足度調査等の複合的な手法を組み合わせて質を維持することが必要である。報告内容に事実と異なる部分が発見された場合には、それ自体をペナルティの対象とすべきである。
※ ペナルティを考慮する際には、故意によるものと過失によるものに分け、前者については特に厳しいペナルティを課すべきである53。
53 報告が虚偽であるか、また虚偽が故意によるものか、過失によるものか等の判断には適切な事実確認が必要となるので、虚偽報告と思われる事態が発生した場合の対応についてのマニュアルの整備と調査を含めた対応体制を構築しておくことが望ましい。
※ 管理者等が行う各種検査においては、技術的なノウハウのある専門家を活用することも考えられる。
【モニタリング・支払メカニズムに関する実務上のポイント】
PFI事業では、業務要求水準を満たすサービスの履行を促す実効性のある仕組みを構築する必要がある。そのためのポイントは以下のとおり。
① 業務要求水準、モニタリング、支払メカニズムを一体的に検討し、入札段階でモニタリングの基本的な計画を示す。
② 管理者等にとっての重要度、事象の影響度、深刻度に応じて、支払メカニズムを構築する。
③ サービス提供業務の比重が重い事業等では、一定の調整期間を設けたり、協議の場において認識のすり合わせを行ったりすることが望ましい場合もある。
④ モニタリング結果は公表するとともに、事業の性格に応じて第三者機関による評価を行うことも考えられる。
⑤ 建設モニタリングについても、選定事業者によるセルフモニタリングの明確化や、重要な点について管理者等が直接関与することで、質を確保することが必要である。