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令和4年1月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成31年(行ウ)第32号(以下「第32号事件」という。),同第33号(以下「第33号事件」という。),同第34号(以下「第34号事件」という。)課徴金納付命令処分取消請求事件
5 口頭弁論終結日 令和3年9月17日
判 決
主 文
1 金融庁長官が平成30年12月20日付けで原告aに対してした課徴金5万円を国庫に納付することを命ずる旨の処分を取り消す。
10 2 金融庁長官が平成30年12月20日付けで原告bに対してした課徴金2万
円を国庫に納付することを命ずる旨の処分を取り消す。
3 金融庁長官が平成30年12月20日付けで原告cに対してした課徴金9万円を国庫に納付することを命ずる旨の処分を取り消す。
4 | 訴訟費用は被告の負担とする。 | |
15 | 事 実 及 び 理 由 | |
第1 | 請求 | |
1 | 第32号事件 | |
主文第1項に同旨 | ||
2 | 第33号事件 | |
20 | 主文第2項に同旨 | |
3 | 第34号事件 | |
主文第3項に同旨 | ||
第2 | 事案の概要 | |
1 | 本件は,株式会社モルフォ(以下「モルフォ」という。)の従業員であった | |
25 | 原告らが,xxxxの「業務執行を決定する機関」が株式会社デンソー(以下 | |
「デンソー」という。)との「業務上の提携」を「行うことについての決定」 |
をした旨の重要事実(以下「本件重要事実」という。)を知りながら,法定の 除外事由がないのに,本件重要事実の公表(以下「本件公表」という。)がさ れた平成27年12月11日より前にしたモルフォの株式の取引が金融商品取 引法(平成30年法律第41号による改正前のもの。以下「金商法」という。)
5 166条1項1号,同条2項1号ヨの内部者取引(以下,「インサイダー取引」
といい,インサイダー取引に係る情報を「インサイダー情報」というときがある。)に当たるとして,内閣総理大臣から権限の委任を受けた金融庁長官から平成30年12月20日付けでそれぞれ課徴金納付命令を受けたため,各課徴金納付命令の取消しを求める事案である。
10 2 法令の定め
⑴ 内部者取引(インサイダー取引)の禁止
金商法166条1項1号は,上場会社等の使用人その他の従業者であって,上場会社等に係る業務等に関する重要事実をその者の職務に関し知ったもの は,当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ,当該上場会
15 社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない旨を定める。
⑵ 重要事実
金商法166条2項1号ヨは,同条1項に規定する業務等に関する重要事実として,上場会社等の業務執行を決定する機関が,業務上の提携その他の同号イからカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項を行う
20 ことについての決定をしたこと(投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なも
のとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。)を掲げる。
金融商品取引法施行令(平成31年政令第162号による改正前のもの。以下「施行令」という。)28条1号は,金商法166条2項1号ヨに規定する政令で定める事項として,業務上の提携又は業務上の提携の解消を掲げ
25 る。
課徴金納付命令
金商法175条1項2号は,金商法166条1項の規定に違反して,自己の計算において有価証券の買付け等(同項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた日以前6月以内に行われたものに限る。)をした者があるときは,内閣総理大臣は,その者に対し,当該有価証券の買付け等について
5 業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当
該有価証券の買付け等の数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付け等について当該有価証券の買付け等をした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨を定める。
10 権限の委任
金商法194条の7は,内閣総理大臣は,金商法による権限を金融庁長官に委任する旨を定める。
3 前提事実(掲記の証拠(証拠の表記は,xxを含む場合がある。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実。なお,証拠を挙げ
15 ていない事実は,当事者間に争いがない。)
⑴ モルフォについて
ア モルフォは,平成16年5月に設立された画像処理技術の研究開発等を目的とする株式会社であり,平成23年7月に東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場した。(乙A5)
20 イ fは,モルフォの創業者であり,その設立以降代表取締役を務めており,
平成27年当時もモルフォの唯一の代表取締役であって,後述するCTO室室長を兼任していた。(甲A6,乙A5)
モルフォには,他の取締役として,平成27年当時,常務取締役である g,取締役であるhらがいた。(乙A15・資料1・31,32頁)
25 なお,平成26年10月31日時点のモルフォの発行済株式総数は,1
62万4600株であったが,fは,このうち16万4600株(発行済
株式総数の10.13%)を保有しており,fを除くモルフォの取締役及 び監査役の保有株式数の合計は,1万5000株に満たないものであった。
(乙A15・資料1・26,27,31,32頁,乙A18)
ウ モルフォには,平成27年当時,ディープラーニング(人間の脳の仕組
5 xx模した機械学習の新たな手法。以下「DL」と表記することがある。)
の研究開発を担当するCTO室,スマートフォン等の組込機器において画像処理を行うソフトウェアの開発やライセンス販売等を行うエンベデッド IP事業部(以下「EIP事業部」という。),サーバ等において画像処理や画像認識を行うソフトウェアの開発やライセンス販売及びディープ
10 ラーニングを用いた画像認識技術の営業等を行うネットワークサービス事
業部,その他の技術開発を行うプロダクト開発部等の部署が設置されていた。(甲A6,乙A5,7)
エ EIP事業部においては,毎週月曜日にEIP事業部定例会議が開催されており,この定例会議では,EIP事業部の出席者が,担当案件の進捗
15 状況について,同部の営業担当部員が作成する「エンベデッドIP事業部
定例会議週報」と題する週報(以下「営業週報」という。)及び同部の技術担当部員が作成する「エンデベッドIP事業部進捗報告」と題する週報
(以下「技術週報」という。)を,会議室のスクリーンにプロジェクターで投影するなどし,これを読み上げて報告を行っていた。
20 プロダクト開発部においては,毎週月曜日にプロダクト開発部定例会議
(以下,EIP事業部定例会議と併せて単に「定例会議」というときがある。)が開催されており,この定例会議では,EIP事業部の出席者が担当案件の進捗状況について,技術週報を読み上げて報告を行っていた。
(乙A7・5~8頁)
25 ⑵ 原告らについて
ア 原告aは,大韓民国(以下「韓国」という。)出身の外国人であり,平
成25年に来日し,平成26年5月にモルフォに入社した。原告aは,同年11月以降,EIP事業部に所属し,韓国のスマートフォンメーカーへの営業を担当していた。(甲2の1,乙C2,原告a本人調書3頁)
イ | 原告bは,中華人民共和国(以下「中国」という。)出身の外国人であ | |
5 | り,平成19年12月に来日し,平成27年7月にモルフォに入社した。 | |
原告bは,同月以降,プロダクト開発部に所属し,システムエンジニアと | ||
して業務に従事していた。(乙D2) | ||
ウ | 原告cは,中国出身の外国人であり,平成20年2月に来日し,平成2 | |
5年6月にモルフォに入社した。原告cは,平成26年11月以降,EI | ||
10 | P事業部に所属し,中国の取引先との対応や中国での新規取引先開拓等の | |
営業活動を担当していた。(甲2の3,乙E2) | ||
⑶ | デンソーについて | |
デンソーは,自動車部品の研究・開発・製造・販売等の事業を国内外で展 |
開する株式会社である。平成27年当時,xxxxは,自動車部品世界トッ
15 プシェアクラスの地位を確立していた。(乙A5・資料5,乙A30,弁論
の全趣旨) 本件公表
モルフォは,平成27年12月11日,TDnetにより,「株式会社デ ンソーとの資本業務提携及び第三者割当による新株式発行に関するお知らせ」
20 を公表した(本件公表)。
本件公表では,xxxxが,同日の取締役会において,デンソーとの間で,共同研究開発を目的とした下記アからウまでの業務提携(以下「本件業務x x」という。)を行うとともに,モルフォがデンソーに普通株式26万18
00株の第三者割当増資を行うこと(以下,本件業務提携部分と併せて「本
25 件資本業務提携」という。)を決定した旨の公表がされた。(甲1)。
ア ディープラーニングによる画像認識技術の車載機器への適用に関する基
礎的研究
イ 画像認識技術を始めとする各種画像処理技術を応用した,電子ミラー等の車載機器に関する研究開発・製品化
ウ 上記研究開発の成果に基づく製品・サービスのマーケティングにおける
5 連携
本件公表に至る事実経過
ア デンソーは,平成27年5月26日(以下,平成27年の出来事については,年の表記を省略することがある。)に半導体チップメーカーである NVIDA Japan(以下「NVIDA」という。)が主催したイベ
10 ントにおいて,モルフォのCTO室シニアリサーチャーであるiが行った
ディープラーニングに関する講演に興味を持ち,モルフォに対し,ディープラーニングに関する話を聞きたいなどと依頼した。
イ 6月15日の打合せ
モルフォとxxxxは,6月15日,xxxxの会議室において打合せ
15 を行い(以下「6月15日の打合せ」という。),モルフォからは,fの
ほか,i,ネットワークサービス事業部部長であるjが出席し,デンソーからは走行安全技術企画室担当次長のkらが出席した。
この6月15日の打合せ以降,モルフォとxxxxとの間では,モル フォの画像処理技術及びディープラーニングを用いた画像認識技術(以下,
20 これらの技術を「本件技術」という。)をデンソーが開発する車載カメラ
等に活用することについての可能性の検討が行われるようになった(以下,このモルフォとデンソーの本件技術の活用に関する検討・交渉等を広く
「本件協業」という。ただし,本件協業の内容がどの時点で「業務上の提
携」に該当するに至ったかについては,後述のとおり争いがある。)。
25 ウ 本件秘密保持契約
モルフォとxxxxは,本件協業により相互に提供する情報が第三者に
漏えいすることを防ぐ目的で,7月29日付けで秘密保持契約(以下「本件秘密保持契約」という。)を締結した。
エ 8月4日の打合せ
モルフォとxxxxは,8月4日,xxxxの会議室において打合せを
5 行い(以下「8月4日の打合せ」という。),モルフォからは,i,jら
のほかEIP事業部副部長であるl,同事業部担当マネージャーであるxが出席し,デンソーからはkらが出席した。
オ 本件回答
xは,8月4日の打合せの後すぐに,fに対し,本件秘密保持契約の締
10 結手続が完了したこと,次回から具体的な技術に関する協議に進むことな
ど,8月4日の打合せの内容を報告した。
その際,xは,jの報告に対し,「分かりました。」と答えた(以下
「本件回答」という。)とされている。(乙A5・10頁)カ 8月26日の打合せ
15 モルフォとデンソーは,8月26日,愛知県xx市に所在するデンソー
本社において打合せを行い(以下「8月26日の打合せ」という。),モルフォからは,i,l及びmが出席した。
その際,i,l及びmは,デンソーから提供された画像にノイズ除去処
理や明るさ補正処理を施したサンプル画像(以下「本件サンプル画像」と | ||
20 | いう。)を持参し,xxxxとの打合せに臨んだ。 | |
キ | 9月11日の打合せ | |
モルフォとxxxxは,9月11日,モルフォの会議室において打合せ | ||
を行い(以下「9月11日の打合せ」という。),モルフォからは,l及 | ||
びmが出席し,デンソーからは,走行安全企画室長であるn及びkが出席 | ||
25 | した。 | |
ク | 本件会食 |
l及びmは,9月11日の打合せ後,n及びkと会食を行った(以下
「本件会食」という。)。この席上で,nから,xxxxがモルフォに対し資本提携や出資の意向も有している旨の申出を受けた(以下「本件資本提携の申出」という。)。
5 ケ 9月18日の打合せ
fは,9月14日以降,gから,xxxxが資本提携や出資の意向を有している旨の報告を受けた。
fは,9月18日,h,l及びmを集めて打合せを行った(以下「9月
18日の打合せ」という。)。
10 コ 9月24日の打合せ
モルフォとxxxxは,9月24日,モルフォの会議室において打合せを行い(以下「9月24日の打合せ」という。),モルフォからは,f, g,h,l及びmが出席し,デンソーからは,走行安全事業部長で常務執行役員のo,n及びkが出席した。
15 サ 本件公表の合意
モルフォとデンソーは,10月15日,第三者割当増資の方法で本件資本業務提携を行うことに合意し,11月5日頃,本件資本業務提携を12月11日に公表すること,デンソーが取得するモルフォの株式数を第三者割当増資後の発行済株式総数の5%となる26万1800株とすることな
20 どを合意した。(甲1,乙A5・17頁) 原告らによる本件各取引
ア 原告aは,モルフォ従業員持株会(以下「本件持株会」という。)にお
いて拠出口数(月例。以下同じ。)を30口3万円としていたところ,1
0月8日,拠出口数を80口8万円に増加させた。
25 本件持株会は,SMBC日興証券株式会社(以下「SMBC日興証券」
という。)を通じ,モルフォの株式を,本件公表前の10月26日に20
0株,11月26日に200株それぞれ買い付けた。
これにより,原告aは,インサイダー取引から除外される従前の拠出口数30口に対応する買付けを除き,増加させた拠出口数50口分に対応する買付けとして,モルフォの株式20.625株を買付価額合計9万20
5 36円で買い付けたこととなった(以下「本件a取引」という。)。(乙
C2~乙C3の5)
イ 原告bは,10月7日,本件持株会に拠出口数を22口2万2000円として入会した。
本件持株会は,SMBC日興証券を通じ,モルフォの株式を,本件公表
10 前の10月26日に200株,11月26日に200株それぞれ買い付け,
これにより,原告bは,モルフォの株式9.074株を買付価額合計4万
0491円で買い付けたこととなった(以下「本件b取引」という。)。
(乙D2~乙D3の5)
ウ 原告cは,本件持株会において拠出口数を一口1000円としていたと
15 ころ,10月8日,拠出口数を80口8万円に増加させた。
本件持株会は,SMBC日興証券を通じ,モルフォの株式を,本件公表前の10月26日に200株,11月26日に200株それぞれ買い付けた。
これにより,原告cは,インサイダー取引から除外される従前の拠出口
20 数一口に対応する買付けを除き,増加させた拠出口数79口分に対応する
買付けとして,モルフォの株式32.588株を買付価額合計14万54
20円で買い付けたこととなった(以下,「本件c取引」といい,本件a取引及び本件b取引と併せて「本件各取引」という。)。
(乙E2~乙E3の5)
25 エ モルフォの株式の,本件公表がされた12月11日の後2週間における
最も高い価格は,7320円であった。(乙C1,乙D1,乙E1)
審判手続の開始
金融庁長官は,原告aについては遅くとも9月28日までに,原告bにつ
いては遅くとも10月5日までに,原告cについては遅くとも9月14日までに,原告らがその職務に関し本件重要事実を知りながら,法定の除外事由
5 がないのに,本件公表がされた12月11日より前に自己の計算において本
件各取引をしたとして,原告らに対し,平成29年2月27日付けで,金商法178条1項に基づき,同項16号に該当する事実に係る審判手続開始決定をした。(乙C1,乙D1,乙E1)
本件各納付命令等
10 金融庁長官は,平成30年12月20日付けで,原告aに対し課徴金5万
円を国庫に納付することを命ずる旨の処分(甲3の1。以下「原告a納付命令」という。)を,原告bに対し課徴金2万円を国庫に納付することを命ずる旨の処分(甲3の2。以下「原告b納付命令」という。)を,原告cに対し課徴金9万円を国庫に納付することを命ずる旨の処分(甲3の3。以下,
15 「原告c納付命令」といい,原告a納付命令及び原告b納付命令と併せて
「本件各納付命令」という。)をそれぞれした。 本件各訴え
原告らは,平成31年1月23日,本件各訴えを提起した。(顕著な事実)
4 争点
20 fが「業務執行を決定する機関」に該当するか(争点1)
本件回答が「業務執行を決定する機関」がした「業務上の提携」を「行うことについての決定」に該当するか(争点2)
原告らが本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」といえるか(争点3)
5 争点に関する当事者の主張
25 ⑴ fが「業務執行を決定する機関」に該当するか(争点1)
(被告の主張)
ア 金商法166条2項1号の「業務執行を決定する機関」とは,会社法所定の決定権限のある機関には限られず,実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことの機関であれば足り,具体的にいかなる機関を「業務執行を決定する機関」に捉えるかについては,会社により,ま
5 た決定の対象となる事項によって異なるため,その実情に照らして個別に
判断されるべきである。
イ ①fは,モルフォの創始者であり,モルフォの設立以降,代表取締役社長を務めており,モルフォの最高責任者として,その経営方針及び事業戦略等の意思決定をしていた。②モルフォの第11期有価証券報告書(平成
10 25年11月1日から平成26年10月31日まで)において,fはモル
フォグループの最高責任者として,経営方針及び事業戦略等を決定すると記載されており,モルフォにおいては,fが多大な影響力を持ち,重要事項を単独で決定し得る存在であることや,そのようなfによる決定が,投資者の投資判断に影響を及ぼし得る性質のものであることが対外的に表明
15 されていた。③当時,モルフォがデンソーに対してエクスクルーシブの権
利を付与することは,いずれもモルフォの事業・経営方針に大きな影響を 及ぼす事項であり,今後のモルフォの方針を決定する上で,極めて重要な ものであったといえるところ,fは,8月までに,自らの判断に基づいて,デンソーに対してエクスクルーシブの権利を付与することが可能である旨
20 回答した。
これらの事情からすれば,fが単独でモルフォの「業務執行を決定する機関」であったことは明らかである。
ウ これに対し,原告らは,xxxxの「業務執行を決定する機関」は,fとhの合議体である旨主張するが,hがfと同一の立場にあることを示す
25 客観的な資料はない。また,原告らの主張のとおりfとhが経営方針につ
いて合議したことがあったとしても,いかなる経営判断の場面におけるも
のなのか明らかではなく,原告らの主張は抽象的なものにとどまる。
仮に,デンソーからの本件資本提携の申出を受けて,xが打合せにおいてhの意見を改めて聞くなどしていたとしても,そのことだけで,hが実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行う機関に含まれる
5 ということはできない。
(原告らの主張)
ア 金商法166条2項1号の「業務執行を決定する機関」に該当するか否かの判断は,実質的に行われるべきものであり,当該企業における普段の意思決定の実情に即した判断がされるべきである。
10 イ 本件では,以下の事情からして,xxxxの「業務執行を決定する機関」
は,fとhの合議体である。
すなわち,①hは,1月にモルフォの取締役に就任したが,これはfが hの企業経営手腕を高く評価し,モルフォの事業部門の責任者として取締役就任を打診したことがきっかけであった。このようにhは,企業経営の
15 経験を買われ,xxxxの経営判断に参画するために事業部門の責任者に
就いたという経緯がある。②また,hがモルフォの取締役に就任した以降, fとhは,事業面の重要な業務方針について合議をしてモルフォの方針を 決定していた。しかも,合議では,xの発案についてhが相談に乗ってた だ是認するというものでは決してなく,むしろhが提案をしたり,fの考
20 えと異なる意見をhが述べたりしてhの意見どおりの方針に決まったこと
や,hの反対で契約締結に至らなかったこともあったのであり,実質的な合議がされていた。③デンソーから本件資本提携の申出がされた9月11日の本件会食では,モルフォのlは,デンソーのkらに対し,「社長は技術面,hは経営面を見ている」などと発言し,そのためxxxxとの交渉
25 にはhを同席させる旨述べた。このことは,モルフォ社内でも事業面につ
いては,fとhの合議体で決めているという認識がされていたことを表し
ている。④そして,デンソーとの交渉でも,xxxxの社員からhに報告と相談がされ,その後,fが加わって方針についてhと合議した。
このような①から④までの経緯及びモルフォ社内での報告・意思決定の手順等に照らせば,モルフォにおいて,事業面の「業務執行を決定する機
5 関」がfとhの合議体であったことは明白である。
ウ 被告は,モルフォの第11期有価証券報告書のうち,fがモルフォグループの最高責任者として経営方針及び事業戦略等を決定する旨の記載のみを取り上げて主張しているが,被告の引用は恣意的であるばかりか,その内容を曲解したものである。
10 上記有価証券報告書の記載の趣旨は,モルフォが技術的専門性を極めた
xによって創業され,その土台の上に成り立つ企業であることを示した上で,そのために,xが最後はモルフォの経営方針や事業戦略について決断し,かじ取りを行って全責任を負うことを明示し,特に研究開発分野では fの持つ技術的知見に依存する側面が大きいことを明らかにしたもので
15 あって,xが個々の業務執行について一人で決めていることを示したもの
ではないし,そのように読む投資家はいない。
なお,被告が依拠する上記有価証券報告書では,取締役会がモルフォの重要事項の意思決定を行っていることや,xxxxの執行会議では取締役会の決議事項以外の経営に関する重要な事項について審議・決定すること
20 が明らかにされており,fが単独で個々の業務執行を決定しているわけで
はないことを明示している。
⑵ 本件回答が「業務執行を決定する機関」がした「業務上の提携」を「行うことについての決定」に該当するか(争点2)
(被告の主張)
25 本件では,xxxxの「業務執行を決定する機関」であるfが本件回答を
したことで,遅くとも8月4日までに金商法166条2項1号ヨ及び施行令
28条1号の「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした。ア 「業務上の提携」について
金商法166条2項1号ヨ及び施行令28条1号の「業務上の提携」とは,会社が他の企業と一定の業務を遂行することをいい,協力して行う業
5 務の内容について限定はなく,また,協力の形式も問わないとされ,いわ
ゆる技術提携,開発提携等がその典型例であるとされる。「業務上の提携」の意義の主眼は,会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することに あるのであり,一般的な呼称にとらわれることなく,会社が他の企業と協 力して行う技術活用等は全て「業務上の提携」に含まれる。
10 本件において,デンソーは,ディープラーニングによる画像認識技術を
車載カメラに組み込み搭載することによる車載危険検知ユニットの新機種
(以下「新規車載カメラ等」という。)を,ディープラーニングについての研究が進んでいる企業と共同開発すること(以下「本件共同開発」という。)を最終的に計画していた。
15 そして,xxxxは,モルフォに対し,8月4日の打合せにおいて,本
件技術の活用等をした画像処理及び画像認識の分野で技術的に本件共同開発を実現することができるか否かを平成27年末までに判断したい旨の要望(以下「本件共同開発可否の判断に関する要望」という。)をした。一般に,共同開発の合意の可否についての交渉において,交渉当事者は,当
20 該開発の成果を十分なものにする又は最大化するために,互いに相手方が
共同開発を行うに足りるだけの技術力があるか否かに最大の関心があることから,それを確認するための作業が交渉における中心的な事項になる。そうすると,この本件共同開発可否の判断に関する要望について検討・
交渉することは,モルフォにおいて,デンソーとの間で,「業務上の提携」
25 の一つである技術提携等の可否についての交渉を行うことにほかならない
ものであった。
イ 「行うことについての決定」をしたことについて
金商法166条2項1号柱書きの「行うことについての決定」をしたとは,「業務執行を決定する機関」において,①同号に掲げる事項そのものを会社の業務として行う旨の決定に限らず,②同号に掲げる事項の実現を
5 意図して,当該事項に向けた作業等(調査や準備,交渉等の諸活動)を会
社の業務として行うことも含まれる。
xは,以下のとおり,8月4日の打合せ後に本件回答をしたことで,デンソーからの本件共同開発可否の判断に関する要望に対し,本件共同開発可否についての交渉をするために必要不可欠な作業(以下「本件共同開発
10 に関する作業」という。)を,モルフォの業務として行っていくことを明
示的に了承し,もって「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした。
すなわち,モルフォは,平成27年当時,車載組込分野を戦略的に重要なターゲットと位置付けた上で,新規ハードウエアへの対応に向けた
15 事業者等との連携強化による技術開発を検討していた。一方,デンソー
は,新規車載カメラ等にディープラーニングの技術を利用することができないかとの考えを有しており,モルフォの技術に対し興味を持った。このような状況において6月15日の打合せが行われたところ,その 際,xxxxとxxxxは,本件秘密保持契約締結後に,デンソーの新
20 規車載カメラ等にモルフォの本件技術を活用することの可否に関する初
期検討を協力して進めていくことを内容とする本件協業に合意した。この本件協業は,正にモルフォの平成27年当時の上記経営方針に合致するものであり,かつ,モルフォの企業価値を高めるものであった。
以上からすると,fを含むモルフォの役員は,6月15日の打合せ後
25 において,モルフォの経営方針に合致する相手方としてデンソーを適切
と考え,デンソーとの本件協業に強い関心を持ち,その実現を意図して
いた。
その後,xxxxのjとxxxxのkとの間で,本件秘密保持契約の 内容について交渉を重ねた上で,本件秘密保持契約が締結された。fも,
6月15日の打合せ以降のjとkの間でやり取りされたメールを受信し
5 ており,本件秘密保持契約の締結に係る進捗状況や今後の打合せ内容を
x知していた。
そして,8月4日の打合せ前の時点において,xxxxのjとxxxxのkは,xxxxが8月4日の打合せで提示する課題や希望のほかに,8月26日の打合せにおいて実務者を交えて具体案の議論を進
10 めていくことをメールでやり取りしており,前記のとおりfもこのこ
とを了知していた。
8月4日の打合せでは,デンソーから①本件共同開発可否の判断に関する要望,②車載カメラの高画質化に関して,前方カメラによる先端運転支援システムの認識向上のためのノイズ除去・ブレ除去・ダイナミッ
15 クレンジ補正により画像処理を行うこと及び周辺カメラの画質向上のた
め,歪み補正・ダイナミックレンジ補正・合成などによる画像処理を行う旨の要望,③ディープラーニング関連として,車載カメラの映像から場面や起こり得るリスクの認識の可否及び安全運転指導のためのドライブレコーダーの自動分析化などについて開発の検討を進めたい旨の要望
20 (以下,②及び③を併せて「車載カメラの高画質化・ディープラーニン
グに関する要望」という。)がされた。
このうち,車載カメラの高画質化・ディープラーニングに関する要望については,6月15日の打合せにおいて,モルフォとデンソーが合意した本件協業を進めていくことについてのデンソーとしての課題や希望
25 に当たるものであり,これに関し実務者も交えた具体案の議論を8月2
6日の打合せにおいて行うことが確認された。
他方で,本件共同開発可否の判断に関する要望については,打合せに出席したモルフォの担当者の一存で決められる事項ではなかったため, xは,fに対し,本件共同開発可否の判断に関する要望を報告し,xにその実施の可否の判断を仰いだ。
5 このデンソーからの本件共同開発可否の判断に関する要望では,モル
フォとデンソーが,平成27年末までに,2,3か月で終了するような小プロジェクトを複数行うことが予定されており,この小プロジェクトが成功した場合には,モルフォは,デンソーから本件共同開発の実現が技術的に可能であると判断され,その結果,両社の間で本件共同開発の
10 実施について合意が成立することになると考えられた。すなわち,8月
4日の打合せにおいて,デンソーは,モルフォに対して「協業を進める場合には,自動車分野に関してはDN(デンソーの意味)だけと行うようなエクスクルーシブを結ぶことが可能か」と聞いたところ,モルフォからは,「規模感等にもよるが可能であるという返答」があった。デン
15 xxが,上記のとおりエクスクルーシブの権利に言及したということは,
小プロジェクトが成功した場合には,モルフォとデンソーとの間で,本件技術の活用等のための画像処理と画像処理技術の分野での共同開発に関する合意が成立することを当然に視野に入れていたことを裏付けている。
20 このため,モルフォとデンソーが平成27年末までに行う予定の小プ
ロジェクトの実施並びにその実施方法及びその成果等に関する実務者を交えた具体的な議論は,本件共同開発に関する合意の可否についての交渉のために必要不可欠な作業(本件共同開発に関する作業)に当たるものであった。
25 以上からすると,xは,前記のとおり6月15日の打合せ以降デン
ソーとの本件協業に強い関心を持っていたところ,8月4日の打合せ後
のjの報告に対し,本件共同開発に関する合意の成立を意図して本件回答をすることで,本件共同開発可否の判断に関する要望を了承したものである。
したがって,デンソーからの本件共同開発可否の判断に関する要望に
5 対し,xが本件回答をしたことによって,fは,本件共同開発に関する
作業をモルフォの業務として行っていくことを明示的に了承し,もって
「業務上の提携」の一つである技術提携等を「行うことについての決定」をしたものである。
この結果,8月4日の打合せ後において,xがxxxxとの交渉を進
10 めることを了承した本件共同開発に関する事項は,9月24日の打合せ
によりデンソーとの間で事実上合意され,12月11日に本件資本業務提携の内容として公表(本件公表)がされるに至ったものである。
ウ これに対し,原告らは,xxxxが「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした時期に関しるる指摘し,被告の主張を論難するが,以
15 上の経過からすれば,これらの原告らの主張に理由がないことは明らかで
ある。
(原告らの主張)
xが8月4日に本件回答をしたことをもって,「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたとする被告の主張は誤っている。モルフォの
20 「業務執行を決定する機関」は,fとhの合議体であり,モルフォにおいて
「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされたのは,9月18日の打合せの時である。
ア 「業務上の提携」について
金商法166条2項1号ヨ及び施行令28条1号の「業務上の提携」に
25 ついては,十分な理由付けがないまま,企業が他企業と協力して一定の業
務を遂行することであり,協力の内容に限定はなくその形式も問わないと
一般的に解されているが,このような解釈は,企業活動の社会的実態及び経済界の常識からかけ離れた定義である。そして,インサイダー取引については,刑罰規定の構成要件にもなっていることからすれば,このような定義は,明らかに限定性を欠いた漠然不明確なものであり,法令解釈とし
5 て不当である。
「業務上の提携」については,証券市場のxx性を確保しつつ,規制範囲を明確化するために,投資家の投資判断に影響を及ぼし得るものとして重要な事項を客観的に明らかに類型化したものの一つである以上,このような観点からの分析と定義付けが不可欠である。企業は,通常,あらゆる
10 場面であらゆる企業とのあらゆる協力形態の下で事業を遂行しているとこ
ろ,それら全てが投資家の投資判断に影響を及ぼすものであるとは考え難い。金商法166条2項1号ヨ及び施行令28条1号の「業務上の提携」は,あらゆる企業取引形態の中で投資家の投資判断に影響を及ぼすものと考えられ,かつ,それが客観的・外形的にみて「業務上の提携」といえる
15 だけの強い結び付き(協力関係)とその継続性があることが最低限不可欠
であると解するべきである。
本件においては,xxxxは,9月11日の打合せ後の本件会食において,デンソーから本件共同開発のための本件資本提携の申出を初めて明示的に提案され,その検討を求められた。このデンソーからの提案内容は,
20 投資家の投資判断に影響を及ぼすものであるかという観点から見ても,ま
た,原告らが主張する継続性や両者の結び付きとしての協力関係という観点からも,「業務上の提携」と呼ぶにふさわしい提案であったが,それ以前にモルフォとデンソーとの間で「業務上の提携」と呼ぶにふさわしい提案がされたことはなかった。
25 イ 「行うことについての決定」をしたことについて
上記のとおり9月11日の打合せ後の本件会食時に,デンソーからモル
フォに対し「業務上の提携」と呼ぶにふさわしい本件資本提携の申出がされたのであるが,同申出に対し,モルフォが業務として「行うことについての決定」をしたのは,9月18日の打合せにおいて,fとhが合議して方針を決めた時である。
5 これに対し,被告は,8月4日の打合せ後に,xがjに対し本件回答を
したことをもって,「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたと主張するが,以下の理由から誤っている。
モルフォの営業活動は,顧客となる営業先企業に自社技術の紹介を行い,営業先企業の要望に応じてその提供する試作機(以下,デモ機も含
10 めて「試作機等」という。)に,モルフォの技術をカスタマイズして組
み込むなどしてデモンストレーションを行いその評価を得て,営業先企業が要望する形態にして受注することができるように努力する形で行われている。
このため,モルフォでは,通常のビジネスモデルであるライセンス提
15 供又は受託開発に限らず,日々の営業先企業との活動を広く「協業」と
呼び,こうした協業に向けた営業活動を行うに当たっては,fの判断は要しない。
被告は,モルフォとxxxxが初めて顔合わせをした6月15日の打合せにおいて,大企業であるデンソーとの「業務上の提携」に向けた作
20 業を行うことになれば,モルフォの企業価値が高まるものであったから,
xがデンソーとの本件協業に強い関心と興味をもっていたと主張し,これをもってfが本件回答をしたことにより「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされた旨主張するが誤っている。
モルフォでは,6月15日の打合せ以前の営業活動として,車載分野
25 において複数の企業との間で営業活動又は交渉を行っていたものであり,
ディープラーニングに関する本件技術の活用についても,秘密保持契約
を締結した営業先企業との間で協議を行うなどしていた。つまり,6月
15日の打合せにfが出席したのは,特別な事情があったからではなく,単にNVIDAの担当者からfに対し,デンソーからの依頼が伝えられ たからであり,他の企業に対して行うのと同様にモルフォの紹介をする
5 ためにすぎなかった。
被告は,xが6月15日の打合せ後に本件秘密保持契約を締結することに了承したこと,その後,xがデンソーのkとの間で本件秘密保持契約の締結に関する協議を進めるなどし,fがこうした経緯をメールで把握していたこと,7月29日付けでモルフォとデンソーとの間で本件秘
10 密保持契約が締結されたことなどの事情をもって,xが本件回答をした
ことにより「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされた旨主張する。
しかし,xxxxの営業活動では,自社の技術力を評価してもらい顧客となる営業先企業との取引につなげていくために,自社の技術を一定
15 程度開示せざるを得ないことから,秘密保持契約を締結することが常に
必要となるのであり,秘密保持契約を締結したことは,モルフォでは営業活動を始めるための取り掛かりという意味合いしかない。秘密保持契約の締結に当たっては,モルフォにおいて定型書式を用意し,各部門長の権限と裁量で締結手続を進めていたのであり,普段からfが関与する
20 ことはなかった。
現に,xxxxがデンソーとの打合せを始めた6月以降の5か月間だけでも,モルフォは,営業活動を始めるに当たり31社と秘密保持契約を取り交わしているが,fは,そのいずれにも関与していない。また,モルフォの社員からfに対し交渉状況がメールで送信されていたとして
25 も,fがそれを逐一確認・把握することはない。
このようなモルフォにおける秘密保持契約締結の意義,契約締結の実
情等を踏まえれば,モルフォがデンソーとの間で本件秘密保持契約を締結したことが,「業務上の提携」に向けた交渉を始めたことの根拠となるものではないし,f個人が「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたことの根拠となるものでもない。
5 被告は,8月4日の打合せ後,xがjからデンソーと具体的な技術に
関する協議に進むことの報告を受けて,xが「分かりました」と本件回答をしたことにより「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした旨主張するが誤っている。
すなわち,被告は,8月4日の打合せにおいて,デンソーからモル
10 フォに対し,本件共同開発可否の判断に関する要望を含む提案がされた
とし,jの報告は,fに対し,本件共同開発可否の判断を仰いだもので あり,これに対するfの本件回答は,xxxxとの共同開発に関する具 体的な検討に不可欠な作業を,モルフォの業務として行っていくことを 明示的に了承し,もって「業務上の提携」を「行うことについての決定」
15 をした旨主張する。
しかし,8月4日の打合せは,xxxxがモルフォの本件技術を自社製品に活用することに関する願望を述べた上で,モルフォの技術レベルを見定めるために幾つかの課題を与えることとなっただけで終了したものであり,モルフォがデンソーから受注すべき業務の具体的な手順や内
20 容が決められることはなく,また,今後のモルフォとxxxxの取引形
態に関する何らの提案や協議もなかった。
また,8月4日の打合せの時点で,xxxxは,本件共同開発の相手方をモルフォに絞り込むどころか,モルフォを含む複数の企業に対し同じような働きかけを行い,それらの企業の対応と実力を見極めようとし
25 て課題を出していた状況であった。このように,8月4日の打合せ時点
では,デンソーが複数の企業の素性や技術の基礎力を見るため課題を出
し競わせる一環として,モルフォにも課題を出してデモンストレーションを求めていたのであって,「業務上の提携」に関する具体的な準備・検討の議論がされたのでもなければ,その議論を進める合意をしたものでもない。
5 そして,xxxxがデンソーからの上記課題に対応して行う活動は,
モルフォの初期の営業活動として自社技術を開示し,営業先企業が開発を考える製品の仕様や機能に応えられる技術力があるか否かを評価してもらうためのものであって,「業務上の提携」に向けた作業というものではない。
10 また,被告は,xがfに対し8月4日の打合せの結果を報告した際,
xがjに対し「分かりました」と本件回答をしたことをもって,「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした旨主張する。
しかし,xが「分かりました」と明確に発言したとされること自体がそもそも不自然であり,xが上記発言をした旨供述したのは,証券取引
15 等監視委員会の調査官が誘導的に質問した結果によるものと考えられる
から,その言葉尻を捉えて「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされたとするのは不適切である。
仮に,fがjに対し本件回答のような発言をしたとしても,xは,xxxxとの交渉に関し,モルフォ側の暫定的な対応をしていた人物であ
20 り,8月4日の打合せには,今後新しくモルフォ側の担当となるlとm
をデンソーに紹介するために,いわば顔つなぎ役として出席したにすぎない。そして,xが報告した内容は,①デンソーとの案件をlらに引き継いだこと,②本件秘密保持契約を締結したこと,③今後,デンソーとの間では技術に関する話合いに進むこと,という簡素で表層的なもので
25 あり,その報告はモルフォ社内で他の社員がいる中で行われたものであ
る。
これらの事情からすると,xがfに対し上記報告をした際,xがモルフォの業務執行について会社の機関として決断を求められていなかったことは明らかである。また,xが「分かりました」と発言したからといって,それがjの現状報告を理解したという意味にとどまらず,「業
5 務上の提携」を「行うことについての決定」をしたと解する余地はない
し,次回のデンソーとの8月26日の打合せに出席しなくなる一社員の jに対し,会社の機関としての決定を表明することは考え難い。
被告は,8月26日の打合せにおいて,事前にデンソーからモルフォに対して出された課題に対し,モルフォの本件技術を施した本件サンプ
10 ル画像に関するデモンストレーションが行われたことをもって,fが本
件回答をしたことにより「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされた旨主張する。
しかし,xxxxが行った上記デモンストレーションは,xxxxの担当者らが,社内決裁も不要な範囲で無償で本件技術を用いてデンソー
15 から与えられた課題をこなしたというだけのものであり,モルフォが普
段からどの営業先企業に対しても行っている通常の営業活動にとどまるものであり,およそ「業務上の提携」に向けた作業とはいえない。
他方で,xxxxは,9月11日の本件会食において,デンソーから本件共同開発のための本件資本提携の申出がされたものであるが,これ
20 は前記のとおり「業務上の提携」と呼ぶにふさわしい内容を持った提案
であった。そして,xxxxからの本件資本提携の申出について,モル フォの業務として検討を開始することの決定,すなわち「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされたのは,9月18日の打合せにお いて,fとhが合議した時であった。このことは,その後,xとhが,
25 デンソーからの本件資本提携の申出を受け入れるため,①エンジニアの
採用計画,②専任社員の在り方,③デンソーに求める対価の額,④エク
スクルーシブの権利の在り方という課題の検討を行ったことによって裏付けられている。
⑶ 原告らが本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」といえるか(争点3)
(被告の主張)
5 ア 金商法166条1項1号にいう重要事実をその者の職務に関し「知つた」
とは,投資者の投資判断に影響を及ぼすべき当該事実の内容の一部を知った場合も含まれ,当該事実が金商法所定のインサイダー取引の構成要件に当てはまるとの認識までは必要がない。
原告aは,少なくとも8月10日,同月24日,同月31日,9月7日
10 及び同月28日のEIP事業部定例会議に出席し,原告bは,8月24日,
同月31日,9月7日,同月14日,同月28日及び10月5日のプロダクト開発部定例会議に出席し,原告cは,少なくとも8月10日,同月2
4日,9月7日及び同月14日のEIP事業部定例会議に出席し,それぞれ営業週報又は技術週報に基づく報告を受けた。
15 原告らは,当該営業週報又は技術週報に基づく報告によって,モルフォ
がデンソーとの間で,モルフォの本件技術をデンソーの新規車載カメラ等に搭載するという業務(本件協業)につき,日程や内容も含め具体性を増す方向で協議が進行しており,特に9月24日の打合せにおいて,デンソーのoが来社の上,f及びhと会合することになったことを認識してい
20 た。
仮に,技術週報又は営業週報に9月11日の打合せにおけるデンソーの提案内容やその後のfとhの合議の状況等が記載されていなかったため,原告らにおいて,その詳細を理解するには至っていなかったとしても,原告らは,EIP事業部定例会議で読み上げられた営業週報及び技術週報並
25 びにプロダクト開発部定例会議で読み上げられた技術週報から,モルフォ
とデンソーが,モルフォの本件技術をデンソーの新規車載カメラ等に搭載
する形で協力を行う業務につき,xが了承していることを前提に,具体性を増す方向で協議が進んでいることを未必的に認識していた。
以上によれば,原告aは遅くとも9月28日までに,原告bは遅くとも
10月5日までに,原告cは遅くとも同月8日までに,fが「業務上の提
5 携」を「行うことについての決定」をしたこと(本件重要事実)を,自ら
の職務に関し「知つた」といえる。
イ 仮に原告らが主張するとおり,モルフォにおいて「業務上の提携」を
「行うことについての決定」がされたのが9月18日であったとしても,原告aは同月28日のEIP事業部定例会議に,原告bは同日及び10月
10 5日のプロダクト開発部定例会議にそれぞれ出席して本件協業に関する報
告を受けているのであるから,原告aが遅くとも9月28日までに,原告 bが遅くとも10月5日までにその事実を自己の職務に関し「知つた」ことに変わりはない。原告cも,EIP事業部部長のpがEIP事業部定例会議を欠席した部員に対し,欠席した定例会議の日の営業週報及び技術週
15 報を確認するよう指示していたのであるから,原告cが欠席した9月28
日及び10月5日のEIP事業部定例会議の内容を,遅くとも本件持株会への拠出口数を増加させた同月8日までに把握していたといえ,同日までには本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」といえる。
ウ 原告らは,日本語能力に問題があるため,定例会議において日本語で行
20 われる他人の報告内容を聞いても十分に理解することができなかった旨の
供述・主張をする。しかし,原告らの日本語能力に日本人と比較して何らかの制約があることは否定することができないとしても,モルフォの他の社員と日本語を用いて会話をしたりメールのやり取りをしたりするなどしていることからすれば,定例会議の内容を日本語で理解し,業務を的確に
25 遂行する能力には何らの不足もなかった。
また,原告らが,日本語能力に問題を感じていたのであれば,本件に関
する証券取引等監視委員会の調査官による聴取時に,通訳が不要とされるとともに,質問調書中に日本語能力について何らの留保も付さない旨の供述をしていることと整合しない。原告らが日本語能力の問題を理由に質問調書の信用性を争うようになったのは,本件訴訟の本人尋問等の申出をす
5 る段階になってからであり不自然である。
さらに,原告らは,xxxxの定例会議の目的は各担当者が上司に自己の業務の内容を報告することであり,自らの担当分野以外の報告を聞くことはなかった旨主張する。しかしながら,xxxxの定例会議は,定例会議の構成員全員が出席することとされているのであり,当該会議における
10 報告内容は,業務上必要な情報として直接の担当分野であるか否かにかか
わらず,出席者全員に共有されることが意図されていた。定例会議における報告が,単に報告者から上司に報告するのみで他の出席者が自己の担当分野以外の報告内容を聞くことが想定されず,現に聞いていなかったなどという原告らの主張は,強弁にすぎるものであり不自然である。そして,
15 定例会議において,mやlは営業週報又は技術週報のデンソーとの交渉の
内容が記載された当該箇所の内容を読み上げるなどして説明したのであるから,業務として定例会議に出席していた原告らが,営業週報又は技術週報に記載されている内容やその説明を全く認識しなかったなどということは,およそ考え難い。
20 したがって,原告らの主張は,関係証拠と整合しない不自然,不合理な
ものであり信用することができない。
(原告らの主張)
ア 「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたことを自己の職務に関し「知つた」とは,投資家の投資判断に重要な影響を及ぼすもので
25 あり,内部者として特権的立場にあるか否かという観点から,通常取引で
はなし得ない事業上の共同での取組を行うことについて決定したことを認
識することができる程度に知ったことをいうと解すべきである。
x 被告は,原告aについては遅くとも9月28日までに,原告bについては遅くとも10月5日までに,原告cについては遅くとも10月8日までに,それぞれ行われた定例会議に出席したことにより,本件重要事実を自
5 己の職務に関し「知つた」旨主張するが,原告らは,上記各時点でこれを
知ることはできなかった。
すなわち,モルフォがデンソーから9月11日に本件資本提携の申出を受けたことや,f及びhがデンソーとの本件資本提携の申出に係る内容を了承しこれを行う方向で準備検討を始めることを決めたことは,モルフォ
10 社内でも伏せられており,定例会議の報告資料である営業週報及び技術週
報にもそのことを推知させる記載はなかった。
また,被告が引用する営業週報及び技術週報の記述並びにこれに基づいた説明は,いずれもモルフォがどの営業先企業が相手でも通常行う普段の営業活動に関する報告をしたにとどまるのであって,本件重要事実を示す
15 ものではなく,また推知させるものでもない。むしろ,デンソーに関する
営業週報及び技術週報の記載内容は,普段からモルフォが行っている営業先企業に対する営業活動と異なるものではなく,他の投資家との間で情報の偏在や情報量の格差を伴わない内容であった。原告らがモルフォに入社してから,デンソー以外に一件も「業務上の提携」に関する案件がなかっ
20 たことからすれば,原告らにおいて,本件各取引をする前に本件重要事実
を知ることはできなかった。
ウ このほか原告らの立場,職務経験,語学力,入社後の働き方,所属部署,担当分野,担当業務,モルフォでの業務経験の程度,定例会議の趣旨,進 行方法,資料の量,内容等の原告らの個別事情を加味してみても,原告ら
25 には,被告の主張する時期において,xxxxが「業務上の提携」を「行
うことについての決定」をしたとの認識など持ち得なかった 。
エ これに対し,被告は,原告らがインサイダー情報を知って,それを理由
(動機)に本件持株会に入会し又は拠出口数を増加させたかのような主張をするが,そもそも,本件は,個別の事情を問う以前の問題として,本件持株会への入会や拠出口数の増加をインサイダー取引と捉えることの不自
5 然さがまず理解されるべきである。すなわち,一般的に従業員持株会は,
投資口数を細分化し,継続的,定期的に自社株式を買い続けることで,従業員らをして少額でも自社に投資することができるようにし,リスクを分散して自社株式を買い付けることができるように設計されており,本件持株会もそのように設計されている。こうした従業員持株会の仕組みである
10 がゆえに,仮にインサイダー情報を知ったとしても,従業員持株会に入会
した従業員は,その後,間もない時期に公表され,それにより影響を受け た株価の自社株式を買い続けることになる側面を併せ持つこととなる。こ の結果,従業員持株会への入会や拠出口数の増加は,「早耳情報を利用し,他の投資家よりも先んじて売買をして得をする」という典型的なインサイ
15 ダー取引とそもそも整合しない行為である。
したがって,原告らの本件持株会への入会や拠出口数の増加について,被告が主張するように,原告らが本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」ことで,それを動機としてインサイダー取引を行ったものであると捉えること自体が不自然,不合理である。
20 なお,原告らの個別事情をみても,原告らが本件持株会への入会や拠出
口数の増加をしたことについて,その動機や態様に不自然な点はない。第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認める
25 ことができる。なお,この認定に反する証拠は,その限度で採用することがで
きない。
平成27年当時のモルフォとデンソーの状況等
アモルフォは,平成27年当時,国内外のスマートフォン分野を中心と した技術開発及び製品開発を行っていたところ,新事業領域への展開に 関し,画像データから得られる各種情報を活用した新たな分野を創出し,
5 積極的に事業領域の拡大を図っていく方針を採用していた。その方針に
おいて「中長期的な新たな事業ドメインとして検討している領域」の一 つとして,「その他組込分野(車載,監視カメラなど)」を挙げていた。
(乙A15・資料1・11頁,乙A18)
モルフォのビジネスモデルは,主として,①ソフトウェアを開発して
10 製品化し,これを顧客とライセンス契約を締結して提供することで,ラ
イセンス料を得る製品提供型の事業,②顧客からのテーマや規模・時間 等の進め方の指定を受け,当該顧客のために研究開発を行って収入を得 る受託研究・開発型の事業,③顧客とテーマ等や人的リソースを提供し 合うなどして共同で新たな研究・開発をする共同研究型の事業があった。
15 (甲A5・22~24頁,甲A6・3頁,乙A15・資料1・6頁)
イ 他方で,xxxxは,平成25年頃から,ディープラーニングを用いた画像認識技術等を組み込んだ新規車載カメラ等の研究開発を企画していたがその研究が遅れていたところ,平成27xx頃の時点では,kを中心として,ディープラーニングを用いた画像認識技術の研究が進んでいる企業
20 を共同開発相手として選び,ディープラーニングを用いた画像認識技術等
を組み込んだ新規車載カメラ等の製品を共同開発すること(本件共同開発)を検討していた。(甲A9,乙A14・1,2頁・資料1)
デンソーからの依頼
ア モルフォは,平成27年3月頃,半導体チップメーカーであるNVID
25 Aから,NVIDAが主催するディープラーニングのイベントにおける講
演の依頼を受けた。xは,上記依頼を受けて,モルフォのCTO室シニア
リサーチャーであるiに指示し,5月26日,ディープラーニングに関する講演を行わせた。
このイベントには,モルフォのほか,株式会社Preferred N etworks(以下「プリファードネットワークス」という。),株式
5 会社クロスコンパスインテリジェンス(以下「クロスコンパス」という。)
及び株式会社システム計画研究所(以下「システム計画研究所」という。)も参加して,講演を行った。
イ 上記イベントにはデンソーのkも出席しており,kはiが行った講演内容に興味を持ち,モルフォからディープラーニングに関する話を詳しく聞
10 きたいなどとNVIDAに依頼した。NVIDAの担当者q,モルフォの
fに対し,xxxxの上記依頼をメールで直接打診し,これに応じたfは,自らデンソーとの6月15日の打合せの日を調整した。
ウ 他方で,xは,6月15日の打合せに臨むに際し,デンソー社内の担当部署にモルフォの調査を依頼し,モルフォの経営状況等を確認した。
15 また,kは,モルフォ以外のプリファードネットワークス,クロスコン
パス及びシステム計画研究所の担当者とも個別に会って,ディープラーニングに関する話を聞いてみることにした。
(甲A9,10,11,22,23,乙A5・3,4頁,乙A6・2頁,乙 A14・資料1~3,乙A17・資料1,3)
20 6月15日の打合せ
xxxxxとxxxxは,6月15日,モルフォの会議室において打合せを行い(6月15日の打合せ),モルフォからは,fのほか,i及び jが出席し,デンソーからはkらが出席した。
打合せに際し,xxxxとxxxxはこれまで取引関係がなかったこ
25 とから,お互いの会社の紹介等をすることになり,デンソーからは,
ディープラーニングを用いた画像認識技術等を組み込んだ新規車載カメ
ラ等について,3年後をめどとした開発を検討しているとの説明がされ,これに対し,fは,モルフォのディープラーニングを利用した画像認識 技術及び画像処理技術(本件技術)について紹介するなどした。
デンソーは,fから紹介された本件技術に興味を持ち,一般的な車載
5 カメラについてもこの技術を活用することができるのではないかとの見
解を示した。
このほか打合せの中で,fは,車両分野でライセンス契約を締結する場合は,仮に年間200から300万台を販売したとして,1台当たり
100円のライセンス料の支払を受けることが望ましいことなどについ
10 ても言及したが,エクスクルーシブの権利の付与については言及しな
かった(甲A12)。
6月15日の打合せの結果,モルフォとデンソーは,本件協業として,本件技術の新規車載カメラ等への活用についての可能性を検討していく こととし,またその検討のために相互に提供する情報が第三者に漏えい
15 することを防ぐため,本件秘密保持契約を締結することに合意した。
(甲A5・12,13頁,甲A6・資料5,甲A9,12,乙A5・4~
6頁・資料1,乙A6・2,3頁,乙A14・資料5)
イfは,6月15日の打合せ後,xxxxとの交渉を担当する者を選任する必要があると考え,事業部門を管掌する取締役であるhにその人選
20 を委ねた。hは,jから6月15日の打合せの報告を受け,xに対し,
デンソーとの協議や交渉は,jのネットワークサービス事業部ではなく EIP事業部に担当させる旨指示した。
この指示を受けて,xは,EIP事業部部長であったpに対し,6月
15日の打合せでモルフォとデンソーが話し合った内容等を記載した客
25 先議事録(件名:20150615 デンソー 車載危険検知ユニット
向け初回協議。甲A20・資料1)を引用した上で,xxxxとの交渉
担当をEIP事業部から選ぶよう依頼するメールを送信した。そして, xは,6月17日,EIP事業部副部長のl及び同事業部マネージャーのmを担当者に選出し,xに対し,その旨記載したメールを送信した。なお,上記客先議事録は,6月15日の打合せ後にxが作成したもの
5 であり,同議事録には,6月15日の打合せの目的・背景について「N
VIDAq氏の紹介で初対面。先方の要望を聞いた上でNDA(秘密保持契約のこと。)締結に進める。」との記載があり,打合せの結果として「先方のアプリケーションは車載危険検知ユニット。3年後の新機種に向けてモルフォDL(ディープラーニングのこと。)認識エンジン及
10 び,Movie Solid(手ブレ補正の画像処理ソフトのこと。)
の初期検討に進める事で合意」した旨の記載がある。
このようなjからpに対するメール,pからjに対するメール等については,メールの「CC」欄の宛先にf,h並びに原告a及び原告cが所属するEIP事業部部員が含まれていた。
15 (甲A20・資料1,乙A5・7頁,乙A6・5,6頁,乙A7・3頁,
乙A8・3~5頁・資料1,乙A11) 本件秘密保持契約の締結等
ア前記のとおり,jは,デンソーとの本件協業に関する交渉をl及びmに引き継ぐことになったが,デンソーとの本件秘密保持契約の締結手続
20 については,既にkとの間で作業を始めていたことから,引き続きkと
の間でメール等を用いて協議や交渉を行った。
jとkは,6月16日から同月22日までの間,xxxxが提示した 本件秘密保持契約に係る契約書(以下「本件秘密保持契約書」という。)案をベースとして内容の検討を行っていくことを確認し,その後数度の
25 修正等が行われた。
これらの修正経過を経て,xxxxとxxxxは,7月29日付けで
本件秘密保持契約書に調印し,本件秘密保持契約を締結した。
この本件秘密保持契約書においては,「本件検討」に関連して相手方から開示された一切の情報(本件秘密保持契約期間前に開示された情報も含む。)について秘密保持義務が定められており,ここでいう「本件
5 検討」とは,xxxx又はデンソーが保有する画像処理技術その他の技
術に関する,モルフォとデンソーとの間の事業提携,共同開発及び研究並びに使用許諾等の可能性の評価・検討をいうと定義されている。
なお,モルフォでは,一般的に秘密保持契約を締結する際には「契約決裁兼押印申請書」を使用し,部門長に決裁を仰ぐことになっており,
10 本件秘密保持契約についても,部門長であるx自身が起案し自ら決裁す
ることで,本件秘密保持契約締結に係るモルフォ社内の処理を完了させた。
(甲A9,乙A6・6,7頁,乙A13,乙A14・資料7)
イこのように,xは,kとの間で,本件秘密保持契約書案の協議・交渉
15 を進めていたところ,7月20日,kから,本件秘密保持契約締結に係
る社内手続がもうすぐ完了するため,「今後の件のざっくりとした相談」を行いたい旨の申入れを受けた。
この申入れを受けて,xは,日程調整を行い,7月21日,kに対し,
8月4日及び同月26日に打合せが可能である旨の回答をした。(乙A
20 13・資料16,17)
日程調整後,kは,jに対し,8月4日の打合せでは,調印済みの本件秘密保持契約書の授受と,「今後の委託・共同開発案件に関する具体的なご相談」として「御社携帯組み込みソフトウェアの車載への転用の可能性 プロセッサ(ISP)依存性が懸念事項になります」,「深層
25 学習の車載応用に関して 動画像への応用に関してお話を伺えればと思
います」とのデンソーの課題や希望を相談事項として伝え,8月26日
の打合せでは,愛知県xx市に所在するデンソー本社において,上記相 談事項について実務者を交えた具体案の議論を行いたい旨の打診をした。
xは,kに対し,提案された日程及び内容で打合せを行うことを了承する旨の回答をした。(乙A13・資料18,19)
5 なお,xは,6月16日以降,jとkとのやり取りに係るメールの
「CC」欄の宛先に入っていたため,本件秘密保持契約締結に関する協議・交渉や今後の打合せに関するメールを受信していた。(乙A13・資料1~21)
デンソー内での検討状況
10 ア デンソーは,前記のとおりモルフォとの本件秘密保持契約の締結手続を
進める一方で,6月15日の打合せ後も,モルフォ以外の企業との本件共同開発の可能性について検討し,株式会社三井住友銀行(以下「三井住友銀行」という。)の担当者に依頼して,ディープラーニングを用いた画像認識技術が進んでいる企業を調査するなどした結果,三井住友銀行の担当
15 者からNVIDAのイベントに参加していたクロスコンパス及びシステム
計画研究所を教示された。
イ デンソーは,6,7月頃,NVIDAのイベントに参加していたプリファードネットワークスと打合せをしたところ,プリファードネットワークスがデンソーの関連会社であるトヨタ自動車株式会社と共同開発を行う
20 ことを検討していると聞き,プリファードネットワークスを本件共同開発
の候補から外した。
ウ デンソーは,7月29日,システム計画研究所及びクロスコンパスとそれぞれ打合せを行った。その結果,システム計画研究所は,ディープラーニングについて試行を始めたばかりの段階であることが判明したものの,
25 一般技術開発のパートナーとしてはxxであると感じ,一般的なソフト開
発請負会社として活用することを検討することにした。
他方で,クロスコンパスについては,平成24年からディープラーニングの研究開発を開始しているとのことであったことから,その実力と対応を見定めるために,8月末から小プロジェクトの検討を行い本件共同開発の可能性について検討することにした。
5 これらの方針・所感については,7月末から8月6日頃までにデンソー
走行安全事業部内で開かれた定例会において,議論し共有されたものであった。
(甲A9,13,14,乙A14・資料8,9) 8月4日の打合せ
10 ア モルフォとxxxxは,8月4日,モルフォの会議室において打合せ
を行い(8月4日の打合せ),モルフォからは,i,jのほか,新たに担当となったl及びmが出席し,デンソーからはkらが出席した。この日の打合せにおいては,まず,xxxxとxxxxとの間で,本件秘密保持契約書の授受が行われた。
15 その後,デンソーから,モルフォに対し,今後の進め方について打合
せ資料を提示しながら,車載カメラ用の画像処理及び画像認識の2分野での協業の検討を進めたいとの意向が示された。また,xxxxは,
「まずは技術的な成立性を早急に見極め」たいとのことで,デンソー提供の画像に対しモルフォの技術を試行することを提案し,スケジュール
20 に関し,8月26日の打合せ時にこの試行結果に対する技術面での協議
を実施した後,2,3か月程度で完結する複数の小プロジェクトを始め,その結果を踏まえて平成27年末までに本件共同開発へ移行するか否か について判断したいとの意向を示した(以下,8月4日の打合せ時のデ ンソーからの上記提示内容を「本件提示」という。)。
25 イ 本件提示に際し,xxxxがモルフォに提示した画像処理分野及び画
像認識分野の要望内容は,以下のとおりである。
画像処理 車載カメラ映像の高画質化
① ADAS(アドバンスド・ドライビング・アシスト・システム=事故などの可能性を事前に検知し回避する先端運転支援システムのこと。)の認識を向上させるために,ノイズ除去,ブレ除去,ダイナ
5 ミックレンジ補正(明るい部分の白飛びや暗い部分の黒潰れなどを補
正すること。)による前方カメラの画像処理を行うこと。
② ゆがみ補正,ダイナミックレンジ補正,合成などにより周辺カメラの画質を向上させること。
画像認識 ディープラーニング関連
10 ① 車載カメラの映像からの場面や起こり得るリスクを推定・認識する
こと(危険予知)。
② 現状では人が実施しているドライブレコーダーの動画解析を自動化すること。
ウ デンソーからの本件提示を受けて,xxxxは,xxxxに対し,デン
15 ソーから提供を受けたサンプル画像に,モルフォのソフトウェアによる画
像処理を試行した結果を,8月26日の打合せ時に提示することを約束す るとともに,デンソーの上記要望内容に対する提案を行う旨の回答をした。
なお,デンソーからの上記試行に係る依頼内容は,「車載カメラ映像
(VGA)の超解像など高画質化。動画像生成対応。リアビューカメラ映
20 像などを高画質化して,高精細で見やすい映像をリアルタイム生成。夜間
や拡大画像を綺麗に見せる技術の検討」であるとされ,「車載プロセッサでのリアルタイム動作」が試行段階の目標とされていた。
(甲A6・資料6,甲A9,15,24,乙A5・8~10頁・資料2,乙 A7・4頁,乙A8・6~9頁・資料2,3,乙A14・資料10,11,
25 乙A29) 本件回答
ア jは,8月4日の打合せの後すぐに,fに対し,「秘密保持契約の締結が終わりました。」,「今度は,刈谷に行って技術者同士での技術に関する話に進むそうです。」などと述べて打合せ内容を報告した。
その際,xは,モルフォ社内の自席におり,他の社員もいる中で,jか
5 らの上記報告に「分かりました。」と答えた(本件回答)にとどまり,そ
れ以上に自らの意見を述べることなどはしなかった。
その後,xは,hにも同様の内容の報告をしたが,hからも格別意見を述べられることはなかった。jは,l及びmに,xxxxとの交渉が引き継がれたことから,j自身はxxxxとの交渉から外れることとなった。
10 (甲A5・15,16頁,乙A5・10,11頁,乙A6・8頁,弁論の
全趣旨)
x xは,8月10日,g及びEIP事業部部員が出席したEIP事業部定例会議において,8月4日の打合せの内容を営業週報に基づき報告した。また,xは,同打合せの概要を記載した客先議事録(件名:デンソー議事
15 録20150804。甲A20・資料2)を作成し,これを同月11日に
モルフォ社内で使用されている客先議事録掲示板と呼ばれる共有フォルダ
(以下単に「客先議事録掲示板」という。)に投稿し,その内容はfを含むモルフォの技術者全員等にメールで送信された。
上記営業週報には,「その他活動④」の一つとして「デンソー(Ne
20 w)」という赤字の記載と共に以下の概括的な記載があり,客先議事録に
も同様の記載がある。(甲A6・資料6,乙A5,乙A8・6~11頁・資料3,4)
「Morphoと画像処理・画像認識(DL)での協業を検討したい
2~3か月完結程度の小プロジェクトをスタートし,結果をもって年末
25 までの協業の判断を行いたい」
8月26日の打合せ
ア モルフォは,8月4日の打合せ後にデンソーから提供を受けたサンプル画像にモルフォのソフトウェアによる画像処理を試行する作業を進めることとし,期限までに当該作業を行い本件サンプル画像を作成した。
x xxxxのi,l及びmは,8月26日,本件サンプル画像を持参して,
5 愛知県xx市に所在するデンソー本社を訪れ,xxxxと打合せを行った
(8月26日の打合せ)。
ウ この打合せでは,モルフォからデンソーに対し,モルフォの有する画像処理技術についての説明・提案と共に,本件サンプル画像に係る画像処理結果の説明がされたところ,本件サンプル画像を見たデンソーは,モル
10 フォがデンソーの要望に応えたこととその技術を高く評価した。
その後,デンソーから,モルフォに対し,デンソーの新規車載カメラ等を構成する前方カメラ,サラウンドビューカメラ及び電子ミラー等が有するそれぞれの技術的な課題についての説明がされ,これを踏まえて協議が行われた結果,デンソー内部でモルフォの本件技術をどのように活用して
15 いくかなどについて検討し方向性を固めた上で,xxxxと改めて協議す
ることとなった。
8月26日の打合せの結果,xxxxは,本件協業に関しモルフォとの具体的な検討や協議を速めていく必要があると認識するとともに,モルフォもデンソーが本件協業に前向きであるとの認識を持った。(甲A9,
20 20・資料3,乙A5・12,13頁・資料3,乙A7・9~11頁・資
料1-2,乙A8・資料6・1,2枚目,乙A14・資料12)
エ mは,8月26日の打合せの概要を記載した客先議事録(件名:デンソー議事録20150826。甲A20・資料3)を作成し,これを8月
31日に客先議事録掲示板に投稿し,その内容はfを含むモルフォの技術
25 者全員等にメールでも送信された。また,mは,同日,g及びEIP事業
部部員が出席した定例会議において,営業週報に基づき8月26日の打合
せの内容を報告した。
なお,上記営業週報には,下記の記載があり,上記客先議事録にも同旨の記載がある。(甲A6・資料7,乙A7・8~10頁・資料1-2,乙 A8・13頁・資料6)
5 「8/26打合せ。サンプル画像にWDR/Dehazer/Movie
Solid処理画像の紹介・説明」「前方カメラ・周辺カメラ・電子ミラーの各事業グループでの検討に向けた方向性を纏めてもらい,今後の進め方を協議していく」
本件活動計画
10 アhとEIP事業部は,9月8日付けで,モルフォの13期売上/活動
計画及び中期売上/活動計画(本件活動計画)を作成し,これに基づき,モルフォは,同月上旬頃,第13期事業年度(平成27年11月1日か ら平成28年10月末日まで)の予算策定をした。
本件活動計画では,車載機器関連について51頁から55頁までにま
15 とめられて記載されているが,デンソーについては本件秘密保持契約を
締結したばかりで受注につながる確度も低いと考えられたため,何ら言及されていなかった。また,本件活動計画の68頁に記載された「13期活動計画まとめ」表では,モルフォの各顧客との案件を,売上高や受注可能性等に応じて,S(前期売上上位7社又は売上拡大が強く見込ま
20 れる戦略顧客),A(売上拡大が見込まれる),B(継続取引,協業の
可能性がある),C(取引の潜在的可能性がある),といったようにランク付けがされていたが,モルフォが13期において車載機器関連でメインターゲットと捉えていたアルプス電気はCランクに位置付けられていたものの,デンソーについてはランク付けがされておらず,本件活動
25 計画上に社名も記載されていなかった。(甲A5・17,20頁,甲A
6・16,17頁・資料8)
イ | 他方で,lは,11月に新設する事業企画部部長に就任予定であったところ,9月11日の打合せ後の9月24日までに事業企画部の事業計画を作成し,h及びpにメールで送信した。lは,上記事業計画に,「中期目 標」として「13期の数値目標に対して 14期は約3倍⇒3.50億, | |
5 | 15期は約6倍⇒6.00億」などと記載し,「中期活動計画」として | |
「デンソーとの業務資本提携,協業関係強化」などと記載し,デンソーと | ||
の本件資本業務提携に係る契約の締結ができ,これを継続していけば,事 | ||
業企画部の売上げとして,第15期事業年度(平成29年11月1日から | ||
平成30年10月末日まで)には6億円を計上することができると見込ん | ||
10 | でいた。(乙A7・18,19頁・資料3) | |
9月11日の打合せ | ||
ア | デンソーは,9月8日,nやkら出席の上で本社会議室において打合せ | |
を行い,本件共同開発の相手方としてモルフォを選択することとし,モル |
フォとの資本提携の可能性の協議に向けた進め方を検討した。
15 なお,上記の検討に先立ち,デンソー走行安全技術企画室が8月31日
付けで作成した「マル秘」資料である「画像認識・知能化技術開発の全体 像とアライアンスに関して」には,モルフォとの交渉経緯を整理した上で,モルフォについて「DNに足りない先端分野,View系の2分野を備え た稀有なベンチャーであり,技術的にも申し分無い感触。年内は小プロ
20 ジェクトで技術力とパートナーシップの見極めを行うが,並行して“協業”
の形に関して事業G,経営企画等全社の力を借りながら,探って行きたい。」との評価が記載されており,「技術以外のQ&A」の欄に「自動車分野に関してのエクスクルーシブを結ぶことができるか→Yes(f)」との記載がある。(甲A9,乙A14・16頁・資料4,乙A23)
25 イ モルフォとデンソーは,9月11日,モルフォの会議室において打合せ
を行い(9月11日の打合せ),xxxxからは,l及びmが出席し,デ
ンソーからは,n及びkが出席した。
この日の技術的な打合せでは,デンソーからモルフォに対し,モルフォの明るさ補正のソフトウェア等を組み込んだ画像処理の結果を評価する機材を開発し,これらのソフトウェアを組み込んだ装置を自動車に搭載して
5 実際に走行させた結果を,社内で確認するなどのテストを行いたいとの要
望が提案された。(甲A5・9~10頁,甲A9,乙A5・13~14頁・資料4,乙A7・12~13頁・資料1-4,乙A8・資料6,乙A
14)
ウ l及びmは,9月11日の打合せ後,n及びkと会食を行った(本件会
10 食)。
この席上で,l及びmは,nから,xxxxがモルフォとの業務面の提携だけではなく,資本提携や出資の意向も有している旨の申出を受けた
(本件資本提携の申出)。これに対し,l及びmは,驚きながらも,出資規模については検討する必要があるが,出資を受け入れることで基本的に
15 問題はない旨の回答をした。
また,nは,l及びmに対し,xxxxが出資を行うに際し,デンソーに対し自動車分野に関してエクスクルーシブの権利を付与することの可否やモルフォの社員のうち2,3人程度をデンソーとの業務に専従させることの可否についても打診し,スケジュールについても,9月24日の打合
20 せにoを同行させ,モルフォと合意することができれば,すぐにでも資本
業務提携に係る契約締結に向けた準備をしたいとの意向を示した。
これについて,l及びmは,nの上記打診は基本的に受入れが可能であると回答するとともに,9月24日の打合せには,hが同席すること,モルフォでは,fが技術面を,hが経営面を見ていることなどを話した。
25 (甲A9,16,乙A7・15~17頁・資料2,乙A14・資料13)
エ lは,9月14日午後0時51分,hに宛てて,本件会食においてデン
ソーからされた本件資本提携の申出の内容を報告するメールを作成し,
「CC」欄の宛先にgも入れて送信した。
上記メールには,nからlらが聞いた内容をまとめたものとして「来年
1月から日本橋に東京オフィスを開設,設計開発を行う予定」,「前回の
5 訪問で,モルフォの技術(カメラ技術及びDL,両方)及び会社に対して
先方事業部が大きな興味と期待を持っている。」,「今まで色々な会社に命題を与えてきたが,即,処理結果や返答した会社はモルフォ以外無かった点も大きな評価」,「DENSOとしては協業と出資を考えている(既にfさんの持分や時価総額等の調べられている様子で具体的に話を先方か
10 らされました)」,「中長期目線での協業提案であり,真剣である。とい
うお話を戴きました。」との記載があり,lは,自分の考えとして「モルフォとしてはDENSOを抑える=自動車業界をほぼ抑える=新規事業分野の開拓であり,DENSO一社で国内外の自動車メーカーと同サプライヤーを押さえられるため,会社としてDENSO事業部を作っても良いく
15 らいのお話かと考えております。(DENSO様とのお付き合いは今回が
最初で最後の機会であると感じてます。)」と記載し,エンジニアの増員も必要となることから「13期採用計画の見直し,相談をさせていただければ幸いです。」と記載した。(甲A18・資料1,乙A7)
オ 9月14日のEIP事業部定例会議の営業週報には,9月11日の打合
20 せ内容について,以下のような記載がされている。
「9/11(金)具体的なアクションについて打ち合わせ:画像処理IPの個別案件及びDeep Learningについて社内の実機評価用の車載カメラシステム(前方・後方・サイド・電子ミラー)向けで動画ブレ補正・霞除去・WDR・ノイズ除去・超解像を検討したいとのこと」,
25 「12月から走行評価したい」,「上記提案に対して,モルフォ側で技術
面・ビジネス面での取り組みを方を纏め,9月末or10月頭に提案」,
「9/24(木)走行安全事業部 o来社予定」(甲A6・資料3) 9月18日の打合せ
ア fは,9月14日以降,gを含めたxxの社員と打合せをした後,gから「ちょっと話をしたい。相談したいことがある。」と言われてgと二人
5 だけになったところ,「デンソーが何かすごいことになってるらしいよ。」
と言われ,xxxxからの本件資本提携の申出等について報告を受けた。 xは,gに対し,「本当なの。」と聞き返し,デンソーほどの大きな会 社が短期間で出資を検討するほどまでにモルフォの技術に興味を持ったこ
とに驚いた。
10 fは,gに対し,gが資本政策を含む管理部門を管掌する常務取締役で
あったことから,本件資本提携の申出に係る条件について検討したい旨を述べた。(甲A5・1~3,45頁,甲A6・13,14頁,乙A5・1
4,15頁)
x xは,9月18日,h,l及びmを集めて打合せを行った(9月18日
15 の打合せ)。なお,この9月18日の打合せは,正式な取締役会を招集し
たり,取締役全員を集めたりして開催したものではなかった。
この打合せにおいて,xは,xxxxとの本件資本提携の申出を了承することで進めたいとの意向を示す一方で,CTO室室長も兼務していたことから,これによりモルフォのエンジニアのうち何名かをデンソーとの業
20 務に専従させることで,他の業務に影響が出ないかを懸念した。
これに対し,hは,他の業務に影響が出る可能性はあるものの,車載組込分野の事業はモルフォにとって新しい事業領域に進出するきっかけとなることを指摘し,増員等の対応を責任を持って行うので事業部門としては推進していきたいとの意見を述べた。
25 ウ fも,hの上記意見を聞きそのとおりであると考えて同意し,xxxx
の方針としてデンソーとの本件資本提携の申出を了承することとした。
エ そして,fは,h,l及びmに対し,デンソーがモルフォの株式を保有することに賛成するが,デンソーに対しては,株式保有の条件として,第三者割当増資ではなく,まず市場での買付けを打診するとともに,fの持株比率であった約10%を超えないようにすることを提示するように伝え
5 た。
(甲A5・4~7頁,甲A8,乙A5・15,16頁,乙A7・17頁,弁論の全趣旨)
9月24日の打合せ等
ア モルフォとxxxxは,9月24日,モルフォの会議室において打合せ
10 を行い(9月24日の打合せ),モルフォからは,f,g,h,l及びm
が出席し,xxxxからは,走行安全事業部長のo,n及びkが出席した。イ この打合せにおいて,モルフォとxxxxは,本件技術を活用した新規
車載カメラ等について本件共同開発を行うこと,デンソーとの資本提携を進めることを承諾し,もって,本件資本業務提携について口頭で合意する
15 とともに,モルフォからデンソーに対し,後日,株式保有に関し市場買付
けの打診及び持株比率に関する条件を伝えることとなった。
(甲A5・10~11頁,甲A6・14~15頁,甲A8,9,17,乙A
5・16頁,乙A7・資料1-5,乙A8・資料6,乙A14・資料14) 本件公表に至る経緯
20 ア モルフォは,10月1日,デンソーに対し,同日付け作成の「資本提携
のご提案」を提示し,具体的な持株比率として5~10%(金額規模10 億円程度),市場での買付けを希望する旨を伝えた。(甲A6・資料10,甲A18・資料2,乙A25)
なお,上記「資本提携のご提案」の「ラフスケジュール」の項目には,
25 「【前提】技術提携検討自体がインサイダー情報となるため,株式取得は
必然的に技術提携開示後となる。
技術提携の検討/出資規模他資本面の検討(10~11月)
技術提携に係る契約を締結し,資本提携に同契約内で言及するか別途覚書等締結。(11月~12月)
技術提携を開示後,買付開始。10~20営業日で完了。(12月中)
5 ※弊社の決算発表日である12月11日以降の買付がインサイダー取引
回避の観点から望ましいと考えます。」との記載がある。
x これと並行してモルフォでは,10月5日,xxxxとの本件資本業務提携の内容についてどのような提案をすべきか話し合うため,打合せを行った。同打合せには,f,g,h,l及びmが出席し,xxxxとの本
10 件資本業務提携の内容,対価,期間等の詳細について検討を行った。その
際,xからは,ライセンス契約の在り方に関し,積極的に意見が示された。 mは,上記打合せの結果について,「デンソー協業の件 打ち合わせ備
忘録」と題するメールを作成し,出席者に送信した。同メールには,「協業の金額 5億/年⇒単月赤字が脱却できる観点からもベスト」,「協業
15 | の年間契約とは別に,製品化後は,商用ライセンス料を徴収する契約とす | |
ること。-商用ライセンス化できないと,モルフォにはメリットなし」, | ||
「今回の協業は,必ずプレスリリースへ」との記載がある。(甲A6・1 | ||
7,18頁・資料9,甲A18・資料3,乙A27) | ||
ウ | その後,デンソーから,10月9日,モルフォに出資する意義が薄れる | |
20 | ため,市場買付けではなく第三者割当増資の方法によりモルフォの株式を | |
取得したい旨の回答がされた。 |
これに対し,xxxxは,株式の取得について改めて市場買付けの方法を打診したものの,デンソーが飽くまで第三者割当増資の方法にこだわったことから,結局,デンソーの申出を了承した。
25 その結果,モルフォとデンソーは,10月15日,第三者割当増資の方
法で本件資本業務提携を行うことを合意し,11月5日頃,本件資本業務
提携を12月11日に公表すること,11月25日頃,デンソーが取得するモルフォの株式数を第三者割当増資後の発行済株式総数の5%となる2
6万1800株とすることなどを合意した。(乙A5・16,17頁) エ モルフォとデンソーは,12月11日付けで,本件資本業務提携に係る
5 契約書に調印した。(乙A24)本件公表
モルフォは,12月11日,TDnetにより,「株式会社デンソーとの資本業務提携及び第三者割当による新株式発行に関するお知らせ」を公表した(本件公表)。
10 2 fが「業務執行を決定する機関」に該当するか(争点1)について
金商法166条2項1号柱書きにいう「業務執行を決定する機関」とは,会社法所定の決定権限のある機関には限られず,実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りると解するのが相当である(最高裁平成10年(あ)第1146号,第1229号同1
15 1年6月10日第xx法廷判決・刑集53巻5号415頁参照)。
本件においては,以下の理由から,fは,実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であったと認められる。
ア すなわち,前記前提事実 イのとおり,xがモルフォの創業者であり,xxxxの設立以降,代表取締役を務めていたこと,fがモルフォの発行
20 済株式総数のうち約1割を保有する筆頭株主であり,その持株割合は他の
株主及び取締役の持株数と比較しても圧倒的に多い(乙A15・資料1・
27,31頁)ことからすれば,fは,モルフォの意思決定において大きな影響力を有していたということができる(乙A9・11,12頁)。
これを裏付けるように,モルフォが金融庁に対して金商法24条に基づ
25 き提出した第11期有価証券報告書(平成27年1月29日提出)及び第
12期有価証券報告書(平成28年1月28日提出)には,「特定人物へ
の依存について」の項目において,「fは,当社グループの最高責任者と して,経営方針及び事業戦略等を決定するとともに新規技術のアイデア創 出から当該技術の製品化にわたり重要な役割を果たしております。」と記 載されているものである(乙A15・資料1・13頁,資料2・13頁)。
5 この記載は,モルフォとデンソーとの本件協業に関しインサイダー取引が
問題となる前に作成されたものであり,かつ,上記各有価証券報告書が金 商法の上記規定に基づき公的機関に提出されたものであることに鑑みると,上記「特定人物への依存について」の項目に記載された内容は,当時のモ ルフォ社内での意思決定手続の実情を如実に表したものとして,信用する
10 ことができる。
イ また,前記認定事実 イ のとおり,モルフォの担当者は,デンソーとの間の交渉経過等をメール等で逐一fに報告しているほか,fは,デンソーからの本件資本提携の申出を検討するに当たり,9月18日の打合せを行ったが,これは正式な取締役会を招集したり,取締役全員を集めたり
15 して開催したものではなかった(認定事実 イ)。そして,9月18日の
打合せでは,hから意見が述べられたものの,最終的には,f自身において,hの意見を踏まえてデンソーからの本件資本提携の申出を了承する旨決定したと認められる(認定事実 ウ)。他方で,本件証拠上,xxxxの内部規定等によってfの権限が限定されていたことをうかがわせる事情
20 はない。
ウ 以上からすれば,モルフォにおいては,fが,実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であったといえ,金商法166条2項1号柱書きにいう「業務執行を決定する機関」に該当するというべきである。
25 ⑶ア これに対し,原告らは,モルフォにおいては,事業政策に関してはfと
hが合議して判断を行っていたものであり,f単独では「業務執行を決定
する機関」に該当しない旨主張する。
イ 前記認定事実 ウによれば,本件会食において,デンソーからモルフォに対して本件資本提携の申出がされた際,xxxxのl及びmは,本件資本提携の申出に対する回答をすることになる9月24日の打合せにhが同
5 席すること,モルフォではfが技術面を,hが経営面を見ていると話した
ことが認められるのであり,この事実は,原告らの上記主張に沿うものであるといえる。
しかしながら,前記説示したとおり,xは,hやgら他の取締役と比較してモルフォの意思決定について大きな影響力を有しており,本件資本提
10 携の申出に対しても,正式な取締役会を招集したり,取締役全員を集めた
りすることなく,hの意見を聞いた上で,f自身の判断として本件資本提携の申出を了承するという重要な意思決定を行っていることからすれば,前記認定事実 ウによっても前記 ウの認定判断は左右されない。原告らが主張する事情は,xが,業務執行に関しhと適宜相談をし,その助言を
15 踏まえ,意思決定をしていたことを示す事情にとどまると評価すべきであ
る。
ウ 以上からすれば,原告らの前記主張は採用することができない。
3 本件回答が「業務執行を決定する機関」がした「業務上の提携」を「行うことについての決定」に該当するか(争点2)について
20 判断の枠組み
金商法166条2項1号ヨ及び施行令28条1号にいう「業務上の提携」とは,会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することをいい,協力して行う業務の内容に限定はなく,協力の形式も問わないと解され,いわゆる仕入・販売提携,生産提携,技術提携及び開発提携等がこれに当たると解さ
25 れる(乙A2)。
そして,金商法166条2項1号柱書きにいう当該「業務上の提携」を
「行うことについての決定をした」とは,「業務執行を決定する機関」において当該「業務上の提携」それ自体や当該「業務上の提携」に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいうものであり,当該決定をしたというためには,当該機関において当該「業務上の提携」の実現を意図し
5 て行ったことを要するが,当該「業務上の提携」が確実に実行されるとの予
測が成り立つことを要せず(前掲最高裁平成11年6月10日第xx法廷判決参照),当該「業務上の提携」の実現可能性があることが具体的に認められることも要しないと解される(最高裁平成21年(あ)第375号同23年6月6日第xx法廷決定・刑集65巻4号385頁参照)。
10 他方で,金商法166条1項が,インサイダー取引を規制しているのは,
上場会社等の会社関係者は,一般に,当該上場会社等の内部情報を一般投資家より早く,よりよく知ることができる立場にあるところ,これらの者が一般投資家の知り得ない内部情報を不当に利用して当該上場会社等の特定有価証券等の売買取引をすることは,証券取引市場におけるxx性,xx性を著
15 しく害し,一般投資家の利益と証券取引市場に対する信頼を著しく損なうも
のであることから,このような不当な行為を防止することを目的としていると解される。上記趣旨に鑑みると,同条2項1号柱書きにいう当該「業務上の提携」を「行うことについての決定」は,それが一般投資家の投資判断に影響を及ぼすべきものであるという観点から,ある程度具体的な内容を持つ
20 ものでなければならないと解するのが相当である。このことは,「業務上の
提携」の内容が,前記のとおり広く解釈されていることからすると,より一層妥当するというべきである。
本件資本業務提携についての決定
ア 本件において,最終的に実現し,12月11日の本件公表によって公表
25 された本件資本業務提携は,モルフォが,デンソーとの間で①ディープ
ラーニングによる画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究,
②画像認識技術を始めとする各種画像処理技術を応用した,電子ミラー等の車載機器に関する研究開発・製品化,③上記研究開発の成果に基づく製品・サービスのマーケティングにおける連携などの本件業務提携を行うとともに,④モルフォがデンソーに普通株式26万1800株の第三者割当
5 増資をすることで資本提携を行うというもので(前提事実 ),これが
「業務上の提携」に当たることは明らかである。
イ そして,本件資本業務提携は,その内容等に照らすと,9月11日の打合せ後の本件会食においてデンソーからモルフォに対しされた本件資本提携の申出が具体化したものと認められるところ,fがモルフォとして本件
10 資本提携の申出を了承する旨の決定をしたのは,前記認定事実 ウによる
と,9月18日の打合せの時であるというべきである。そうすると,モルフォにおいて,本件資本業務提携に係る「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされたのは,9月18日であると認められるのであり,原告らも同旨の主張をしているものである。
15 ウ これに対し,被告は,本件資本提携の申出に先立ち,資本提携の有無に
かかわらず,fが8月4日の打合せ後に本件回答をしたことによって,モルフォがデンソーとの「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした旨主張をするので,本件回答の時点において想定されていた本件協業の内容が,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を
20 持った「業務上の提携」といえるものであったかについて検討した上で,
更に本件回答がそのような「業務上の提携」の実現を意図して行った,当該提携に向けた作業等を会社の業務として「行うことについての決定」をしたものといえるかについて検討することとする。
⑶ 「業務上の提携」に当たるかについて
25 ア 6月15日の打合せについて
前記認定事実 ア によれば,xxxxとデンソーは,6月15日の
打合せの結果,本件協業として,モルフォの本件技術を新規車載カメラ等へ活用することについての可能性を検討していくこととし,またその検討をしていくため,相互に提供する情報が第三者に漏えいすることを防ぐために本件秘密保持契約を締結することに合意したものである。
5 このような合意がされたのは,6月15日の打合せにおいて,デン
ソーからディープラーニングを用いた画像認識技術等を組み込んだ新規 車載カメラ等の3年後をめどとした開発を検討しているとの説明がされ,これに対しモルフォが本件技術を紹介したところ,デンソーが興味を示 したからである(認定事実 ア )。
10 しかしながら,6月15日の打合せ時点においては,モルフォの本件
技術を活用してデンソーが企画している新規車載カメラ等を開発するという本件共同開発又は本件共同開発に向けた作業を行うことが決定されたのではなく,モルフォがデンソーの相手方として本件共同開発に係る作業を行う技術力等を有するか否かを見極めるための検討を行っていく
15 ことに同意したにとどまるというべきである。これを裏付けるように,
デンソーは,6月15日の打合せ時点では,モルフォ以外の3社とも個別に会ってディープラーニングに関する話を聞くこととして,本件共同開発の相手方の調査・選定をしていたものである(認定事実 )。
また,6月15日の打合せ時点では,デンソーもモルフォも,これま
20 で互いに取引関係がなく,その能力や業務に対する信用性も測りかねる
状況にあったのであり,秘密保持契約も締結されていないため,モルフォもデンソーも相互に有する技術内容・技術レベルを具体的に明らかにしていなかったものであるから(甲A6・8,9頁),本件共同開発に向けた具体的内容を持った合意をする状況になかったと認められる。
25 そうすると,6月15日の打合せにおいて,モルフォとデンソーとの
間で,本件協業の内容として,モルフォの本件技術を新規車載カメラ等
へ活用することについての可能性を検討していくことが合意されたとしても,それはモルフォが本件共同開発の相手方となり得るか否かという初期検討を行うという程度の抽象的なものにすぎず,fが供述しているとおり,この段階における本件協業は,モルフォの通常のビジネスモデ
5 ルに属する案件の交渉に入った段階にとどまるものというべきである
(甲A5・14,15頁,甲A6・8,9頁)。
したがって,6月15日の打合せの段階において, モルフォとデンソーとの間の本件協業の内容が,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持つものとして「業務上の提携」に当たるもので
10 あったとはいえない。
イ 本件秘密保持契約の締結について
前記認定事実 ア によれば,xxxxとxxxxは,本件協業に関し,
7月29日付けで本件秘密保持契約を締結したことが認められるが,モルフォにおいては,新規顧客との間で案件の検討に入るときには,通常のプ
15 ロセスとして秘密保持契約を締結しており,6月から10月までの間だけ
でも,デンソー以外に31社との間で秘密保持契約が締結されていた(甲 A5・13,14頁,甲A6・7頁,甲A21)。
このようなモルフォにおける秘密保持契約の位置付けからすると,モルフォとxxxxが本件秘密保持契約を締結したからといって,6月15日
20 の打合せの内容以上に,モルフォとデンソーとの本件協業の内容が具体化
したということもできない。本件秘密保持契約が締結されたという事実は,xxxxとxxxxがお互いに自社の技術を開示しその後の検討を行うた めの条件を整えたものにとどまると評価すべきである。
したがって,本件秘密保持契約が締結された時点で,xxxxとデン
25 ソーとの間の本件協業の内容が,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程
度の具体的な内容を持つものとして「業務上の提携」に当たるものであっ
たとはいえない。
ウ 8月4日の打合せについて
前記認定事実 ア 及びウによれば,8月4日の打合せにおいて,デンソーからモルフォに対し,画像処理・画像認識の2分野での協業の検
5 討を進めたいこと,2,3か月程度で完結する複数の小プロジェクトを
始め,その結果をもって平成27年末までに本件共同開発へ移行するか否かについて判断したいことなどの意向が示され(本件提示),これに対し,モルフォの担当者は,8月26日の打合せにおいてデンソーの本件提示に係る要望内容に対する提案を行う旨を回答したことが認められ
10 る。
この点について,被告は,デンソーからモルフォに対してされた本件提示が,本件共同開発可否の判断に関する要望を含むものであると主張しており,その趣旨はそこで提案された内容が「業務上の提携」として一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持つもので
15 あった旨主張するものと解される。
そこで検討するに,8月4日の打合せにおけるデンソーの打合せ資料
(甲A15,乙A14・資料10-2)には,今後の進め方について,
「車載カメラ用 1)画像処理 2)画像認識 の2分野での協業検討を進めたいと思います。まずは技術的な成立性を早急に見極めさせて頂
20 けないでしょうか。」と記載されており,同資料3頁目以降には,これ
らの画像処理及び画像認識に関して,デンソーの要望内容等が記載されていたものである。
上記のデンソーの打合せ資料の記載内容は,6月15日の打合せ内容よりも具体的なものとなっており,その結果,モルフォとデンソーとの
25 本件協業に関する打合せ内容も,抽象的なものから具体的,技術的内容
を含んだものとなったことが認められる。
しかしながら,上記のデンソーの打合せ資料に記載された要望内容等は,デンソー自体が新規車載カメラ等の開発に際し抱えている課題や問題意識を列記したものにとどまり,その内容が具体的であるからといって,直ちにモルフォとデンソーとの本件協業の内容自体が,一般投資家
5 の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持つものになったとい
うことはできない。
また,前記認定事実 ア のとおり,8月4日の打合せにおいて,xxxxがモルフォに対してした本件提示は,xxxxの前記資料に「まずは技術的な成立性を早急に見極め」たいと記載されていることからす
10 ると,平成27年末までに本件共同開発の相手方を選定するために,モ
ルフォの技術力等を見定めるための検討を行うことの可否について意向を確認するとともに,その検討に必要な課題を提示する趣旨のものというべきである。このことからすると,この時点でのモルフォとxxxxとの本件協業は,相手方の技術力等を見定めるための準備段階にあった
15 ものと評価すべきである。
なお,本件提示では,複数の小プロジェクトを実施することも予定されているが,これは飽くまでデンソーがモルフォの技術力等を見定めるための手段なのであり,かつ,小プロジェクトの内容も具体的に明らかとなっていなかったのであるから,このような小プロジェクトが予定さ
20 れていることのみをもって,「業務上の提携」として独自の意味を持つ
ものと評価すべきではないというべきである。
さらに,xxxxは,7月29日,ディープラーニングの研究開発を行っているシステム計画研究所及びクロスコンパスとそれぞれ打合せを行い,その結果を踏まえて,モルフォと並行して8月末からクロスコン
25 パスとも小プロジェクトの検討を行い本件共同開発の可能性について検
討することとしていたものである(認定事実 ウ)。このことは,デン
ソーとしては,8月4日の打合せの段階でも,モルフォ以外の企業も候補に入れて本件共同開発の相手方を選定している状況にあったことを示すものであり,上記 の認定判断を裏付けるものである。
そうすると,xxxxがモルフォに対してした本件提示は,本件共同
5 開発の相手方を複数の候補から選定する方法の一環にとどまるものであ
り,これに対応してモルフォが検討・作業を行うことは,通常の取引において顧客獲得に向けられた営業活動の範囲内のものと評価すべきものであったということができる。
そして,モルフォ社内においても,この段階におけるデンソーとの本
10 件協業は,8月10日のEIP事業部定例会議において,mから営業週
報に基づき「その他活動④」の一つとして概括的に報告されているにとどまっていること(認定事実 イ)からすると,他の企業に対する営業活動とほぼ同程度又はそれ以下に位置付けられ,特筆すべき内容を伴うものと認識されていなかったと認められる。
15 これらの事情からすると,本件提示がされたとしても,この段階にお
けるモルフォとデンソーとの間の本件協業は,いまだ営業活動の域を出ない成熟度の低いものであったというべきである。
なお,被告は,8月4日の打合せにおいて,xxxxがモルフォに対しエクスクルーシブの権利の付与について言及し,同日までにfがデン
20 ソーに対しエクスクルーシブの権利を付与したかのような主張をし,こ
れをもって「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされた旨主張する。
証拠(乙A14・資料11)によれば,8月4日の打合せについてデンソーのkが作成した「8月4日モルフォ打ち合わせ議事メモ」には,
25 デンソー側が「仮に協業を進める場合には,自動車分野に関してはDN
(デンソーのこと)だけと行うようなエクスクルーシブを結ぶことが可
能か」と質問したところ,モルフォ側が「規模感等にもよるが,それは可能であるという返答あり」と回答した旨の記載があることが認められる。
しかしながら,8月4日の打合せにおいて,xxxxがモルフォに対
5 しエクスクルーシブの権利の付与について言及したことをもって,モル
フォとデンソーとの本件協業が直ちに「業務上の提携」に該当するものとなったと認めることはできない。
また,xが8月4日の打合せに出席していないことは前記認定事実のとおりであり,f自身がエクスクルーシブの権利の付与について直接判
10 断したものではないし,モルフォ側がしたとされるエクスクルーシブの
権利の付与についての上記回答は,その記載内容からすると一般論としての回答の域を出ないものであったと評価するのが相当であり,何らかの意思決定を含むものであったとはいえない。
この点につき,前記認定したところによると,デンソー走行安全技術
15 企画室が8月31日付けで作成した「マル秘」資料である「画像認識・
知能化技術開発の全体像とアライアンスに関して」には,「自動車分野に関してのエクスクルーシブを結ぶことができるか→Yes(f)」との記載があることが認められる。
しかし,xがxxxxとの打合せに直接参加したのは,8月4日以前
20 では6月15日の打合せに限られるが,本件証拠上,モルフォ及びデン
ソーがそれぞれ作成した6月15日の打合せの議事の記録(甲A6・資料5,乙A9・資料2,乙A14・資料5)には,本件秘密保持契約の締結について合意した旨の記載はあるものの,エクスクルーシブの権利の付与に言及した記載はない。このことからすると,xが6月15日の
25 打合せにおいて,エクスクルーシブの権利の付与について言及したとは
認められない。また,モルフォ側の記録において,xxxxがモルフォ
に対し,エクスクルーシブの権利の付与について言及したことが認められるのは,9月11日の本件会食の時であり,それ以前にデンソーからモルフォに対しエクスクルーシブの権利の付与について言及したと認められる客観的な資料はない。
5 そうすると,デンソー走行安全技術企画室が8月31日付けで作成し
た上記資料の記載内容から直ちに,8月4日の打合せ以降8月末までに fがデンソーに対しエクスクルーシブの権利を付与したと認めることも困難である。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
10 以上によれば,8月4日の打合せの段階において,モルフォとデン
ソーとの間の本件協業の内容が,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持つものとして「業務上の提携」に当たるものであったとはいえない。
エ 8月26日の打合せについて
15 前記認定事実 xによれば,8月26日の打合せにおいて,xxxxx,
本件サンプル画像を持参した上で愛知県xx市に所在するデンソー本社を訪れ,xxxxに対し,モルフォの有する画像処理技術についての説明・提案等と共に本件サンプル画像に係る画像処理結果を説明したこと,xxxxはxxxxがデンソーの要望に応えたこととその技術力を高く評価し
20 たこと,その上で,xxxxとデンソーとの間で技術的な課題などについ
ての協議が行われたことが認められる。
しかしながら,8月26日の打合せの内容は,8月4日の打合せにおいてされた本件提示に対する回答にとどまるのであり,8月4日の打合せで想定されていたものと同程度のものにすぎず,それ以上に具体化していた
25 ものではなかったというべきである。
したがって,8月26日の打合せ段階において,モルフォとデンソーと
の間の本件協業の内容が,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持つものとして「業務上の提携」に当たるものであったとはいえない。
オ 9月11日の打合せについて
5 前記認定事実 イによれば,9月11日の打合せにおいて,xxxxは
デンソーとの間で技術的な課題などについての協議を行い,デンソーから,モルフォの明るさ補正のソフトウェア等を組み込んだ画像処理結果を評価 する機材を開発し,これらのソフトウェアを組み込んだ装置を自動車に搭 載して実際に走行させて,その結果を社内で確認するなどのテストを行い
10 たい旨の要望がされたことが認められる。
上記のデンソーからの要望は,これまで行われていたデンソーがモルフォの技術力等を見定めるためにしていた要望よりも,本件共同開発の内容に踏み込んだ格段に具体的なものであったということができる。すなわち,デンソーの上記要望は,モルフォとデンソーがそれぞれの技術を用い
15 て共同で試作装置を作成しこれを自動車に搭載した上で,実際の走行デー
タを基に検証を行うというものであって,正に,デンソーが計画していた新規車載カメラ等の本件共同開発の初期段階に当たる内容であったということができる。
そして,xxxxは,9月11日の時点までに,本件共同開発の相手方
20 としてモルフォを選択することにしたことは前記認定事実 アのとおりで
あり,その上で前記要望をしたのであるから,これらの事情からすると,
9月11日の打合せにおいて,モルフォとxxxxとの間で検討された本件協業の内容は,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持った「業務上の提携」に当たるものであったということができる。
25 カ 本件会食について
前記のとおり9月11日の打合せにおいて検討された本件協業の内容は,
「業務上の提携」に当たるところ,前記認定事実 ウのとおり,l及びmは,その後行われた本件会食において,nからデンソーが,モルフォとの業務面の提携だけでなく,資本提携や出資の意向も有している旨の申出
(本件資本提携の申出)を受けたものである。そして,本件会食では,こ
5 のほかにモルフォとデンソーとの間でエクスクルーシブの権利を付与する
ことの可否やモルフォの社員を2,3人程度デンソーとの業務に専従させ ることの可否についても話し合われ,更に9月24日の打合せにはデン ソーのoも同行してモルフォと合意することができれば,本件資本業務x xに係る契約を締結することについても話合いがされたことが認められる。
10 上記のとおり本件会食において交渉・検討された本件協業に関する内容
は,資本提携に加えて本件共同開発に係る人的・法的体制の整備に関する ものであったから,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な 内容を持った「業務上の提携」に当たるものであったということができる。
キ 小括
15 以上検討したところによれば,モルフォとデンソーとの本件協業の内容
は,9月11日の打合せ及び本件会食の時点において,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持った「業務上の提携」に当たるものとなったということができるが,それ以前には,そのような具体的な内容を持った「業務上の提携」に当たるものであったということはでき
20 ない。
そして,前記認定事実 ウのとおり,xは9月18日の打合せにおいて,本件会食でデンソーからされた本件資本提携の申出を了承する旨の決定を したと認められ,これをもって「業務執行を決定する機関」が本件資本業 務提携に係る作業をモルフォの業務として「行うことについての決定」,
25 すなわち「業務上の提携」を「行うことについての決定」をし,9月24
日の打合せにおいて,xとo出席の下,xxxxとxxxxとの間で,本
件資本業務提携が口頭で合意されたと認められる(認定事実 )。したがって,被告の前記主張は採用することができない。
本件回答が「行うことについての決定」に当たるかについて
ア 次に,本件回答が金商法166条2項1号柱書きの「行うことについて
5 の決定」に当たるかについて検討するに,被告は,8月4日の打合せに出
席したjから,デンソーからの本件共同開発可否の判断に関する要望を受けたことなどの打合せ内容の報告がされたことに対し,fが「分かりました」と本件回答をしたことをもって,デンソーとの本件共同開発に関する作業をモルフォの業務として行っていくことを明示的に了承し,もって
10 「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした旨主張する。
前記認定事実 アによれば,xは,8月4日の打合せの後すぐに,xに対し,「秘密保持契約の締結が終わりました。」,「今度は刈谷に行って技術者同士で技術に関する話に進むそうです。」などと述べて打合せ内容を報告したところ,これに対しfが「分かりました。」と答え(本件回
15 答),それ以上自らの意見を述べなかったことが認められる。
しかしながら,前記説示したとおり,8月4日の打合せの段階においては,本件協業の内容は,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持った「業務上の提携」に当たるものではなかったのであるから,本件回答をもって「業務上の提携」を「行うことについての決定」が
20 されたとは認められない。
イ この点をおくとしても,仮に8月4日の打合せにおいてデンソーから本件提示がされたことにより,本件協業の内容が「業務上の提携」に当たる余地があるとしても,前記認定したjの発言内容からすれば,jのfに対する8月4日の打合せ内容の報告は,モルフォとデンソーとの間で本件秘
25 密保持契約が無事に締結されたことと,xxxxとの今後の協議が,愛知
県xx市に所在するデンソー本社において技術者同士で技術面に関して話
し合うことになったという事実経過を報告することに主眼が置かれていたとみるのが自然である。
ウこれに対し,被告は,8月4日の打合せにおいて,デンソーから本件共同開発可否の判断に関する要望がされたが,打合せに出席したxx
5 フォの担当者らの一存で決められる事項ではなかったため,xは,fに
対して本件共同開発可否の判断に関する要望を報告して,xにその実施の可否の判断を仰いだ旨主張する。
しかしながら,xがfに対してした8月4日の打合せの報告内容は前記のとおり簡潔なものであり,被告の主張するような本件共同開発可否
10 の判断に関する要望について,xの判断を仰ぐために特にされたことを
うかがわせる内容とはなっていない。
これを裏付けるように,xxxxとの交渉は,8月4日の打合せ後, jからEIP事業部のl及びmに引き継がれ,jは外れることとなっていた(認定事実 ア 及び ア)のであるから,被告が主張するような
15 重要な判断をfに仰ぐのであれば,jのみならず後任のl及びmも同席
させて,fに判断・指示を直接仰ぐのが自然であるし,仮に同席させることが困難であったとしても,少なくともfがした判断・指示の結果について,jからl及びmに対し個別に伝達されるべきであるが,本件証拠上,そのような事実があったことは認められない。
20 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
また,被告は,xが8月4日の打合せ前の時点において,f自身が6月15日の打合せ以降デンソーとの本件協業について強い興味を示しており,jとkとの間のメールを受信していたことから,8月4日の打合せ内容を事前に認識していたかのような主張をし,これを前提に本件回
25 答程度の内容でも「業務上の提携」を「行うことについての決定」に当
たるかのような主張をする。
しかしながら,xが,前記認定事実 ア のとおりモルフォの新規事業領域の一つとして挙げていた「その他組込分野(車載,監視カメラなど)」について,大手自動車部品メーカーであるデンソーとの本件協業に興味を持っていたことは否定することができないとしても,fが,8
5 月4日の打合せ内容を事前に十分に認識していたとするには疑問がある。
すなわち,前記認定事実 イによれば,6月15日の打合せにf自身が出席したのは,NVIDAの担当者qから直接fに対しデンソーの依頼内容が打診されたといういきさつがあったからであると考えるのが自然であり,それ以降の打合せについては,本件資本提携の申出を了承する
10 こととした後の9月24日の打合せまで,xが参加したことはないので
あるから,このような事実は,被告の上記主張と相いれないものである。他方で,前記認定事実 イ によれば,xは,6月16日以降,xと
kとのメールの「CC」欄の宛先に入っていたため,本件秘密保持契約締結についての協議・検討や今後の打合せに関するメールを受信してい
15 たことは認められるものの,f自身が,これらのメールについて直接返
信したり,あるいはこれらのメールの内容についてjに問い合わせたりしたことはうかがえない。
fは,モルフォの代表取締役でありCTO室室長を兼務していたものであるから(前提事実 イ),日々大量のメールを受信していたと推認
20 されるのであり,そうだとすると,上記のとおりjとkとのメールを受
信していたことのみをもって,その内容を逐一把握していたとは考え難い。
さらに,モルフォにおいては,秘密保持契約の締結は部門長判断で決裁されており,現に本件秘密保持契約も担当部長であるxが起案し自ら
25 決裁しモルフォ社内の手続を完結させたのであり(認定事実 ア ),
f自身は本件秘密保持契約の締結手続に何ら関与していないものである。
したがって,fが8月4日の打合せ内容を事前に認識していたことを前提とする被告の上記主張は採用することができない。
エ 以上認定説示した事情に照らすと,jからfに対してされた8月4日の打合せ内容の報告は,前記のとおり本件秘密保持契約が無事に締結された
5 ことと,xxxxとの今後の協議が,愛知県xx市に所在するデンソー本
社において技術者同士で技術面に関し話し合うことになったという事実経過を報告することを主眼としたものであり,fに対し何らかの判断を仰ぐものであったとはいえないのであって,それゆえに,fも「分かりました。」と述べて,それ以上自らの意見を述べなかったものである。すなわ
10 ち,xの本件回答は,xが報告した事実経過を了承する趣旨の発言であっ
たと評価するのが相当であり,それ以上に何らかの意思決定を含むものであったと認めることはできない(甲A5・15,16頁,甲A6・12頁)。
オ このことは,①8月10日のEIP事業部定例会議において,mが8月
15 4日の打合せ内容を報告した営業週報や客先議事録に,デンソーに関する
記載が追加されたものの,その内容は概括的なものにとどまり,fが何らかの決定を行ったことをうかがわせる記載がないこと(認定事実 イ),
②9月8日付けで作成されたモルフォの本件活動計画においては,xxxxは顧客先としてランク付けされておらず,社名すら記載されていない
20 こと(認定事実 ア),③他方で,デンソーから本件資本提携の申出が
あった後の同月24日にlが作成した事業企画部の企画書には,デンソーとの本件資本業務提携が締結されたことを踏まえて,売上目標と共に具体的な記載がされていること(認定事実 イ)などの各事実によっても裏付けられているというべきである。
25 カ したがって,仮に,8月4日の打合せにおいてデンソーがモルフォに対
し本件提示をしたことをもって,本件協業の内容が「業務上の提携」に当
たるとみる余地があったとしても,fがjに対してした本件回答が,「業務上の提携」に向けた作業等を会社の業務として「行うことについての決定」をしたものであると認めることはできない。
以上によれば,被告の主張するように8月4日の打合せ後にされた本件回
5 答が,xxxxの「業務執行を決定する機関」による「業務上の提携」を
「行うことについての決定」に当たるとは認められない。 したがって,被告の前記主張は採用することができない。
4 原告らが本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」といえるか(争点3)について
10 ⑴ 被告は,原告aは遅くとも9月28日までに,原告bは遅くとも10月5
日までに,原告cは遅くとも同月8日までに,モルフォの「業務執行を決定する機関」であるfが,「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたこと(本件重要事実)を,自己の職務に関し「知つた」旨主張するところ,前記説示した金商法166条1項の趣旨に鑑みれば,同項1号にいう重
15 要事実をその者の職務に関し「知つた」についても,その認識の内容が一般
投資家の投資判断に影響を及ぼし得る性質のものであるか否かという観点から検討するのが相当である。
このような見地からすれば,金商法166条1項1号にいう重要事実をそ の者の職務に関し「知つた」といえるためには,「業務執行を決定する機関」
20 により重要事実に係る決定がされたことについての少なくとも未必的な認識
があれば足り,当該決定に係る事項が確実に実行されることが予測されるとの認識や,当該決定が金商法166条1項1号,同条2項1号ヨ,施行令8条1号の構成要件に当てはまるとの認識までは要しないと解するのが相当であるが,その場合であっても,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の
25 内容であることの認識を要すると解すべきである。
⑵ そして,「業務執行を決定する機関」であるfが,「業務上の提携」を
「行うことについての決定」をした(本件重要事実)のは,9月18日の打合せの時であり,それ以前にモルフォにおいて「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされたと認められないことは,前記認定説示のとおりである。
5 そうすると,原告らが金商法166条1項1号にいう重要事実を自己の職
務に関し「知つた」といえるか否かについては,9月18日の打合せ以降の原告らの認識を問題にすれば足りる。
このような前提に基づき検討するに,前記前提事実,前記認定事実,掲記 の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。なお,
10 この認定に反する証拠は,その限度で採用することができない。
ア 定例会議での報告内容
モルフォにおいては,毎週月曜日午前11時から 1 時間程度,プロダクト開発部部員及びEIP事業部の技術担当部員によるプロダクト開発部定例会議を,毎週月曜日午後2時から1時間半程度,EIP事業部部員,h
15 及びgによるEIP事業部定例会議を開催していた。
EIP事業部定例会議においては,EIP事業部の営業担当部員が作成する営業週報及び同部の技術担当部員が作成する技術週報の二つの資料に基づき,基本的には,営業週報及び技術週報を会議室のプロジェクターに投影した上で,担当者が一人当たり3分程度で該当箇所を読み上げる形で
20 報告が行われていた。プロダクト開発部定例会議においては,技術週報に
基づいて同様の方法で報告が行われていた。
営業週報及び技術週報は,モルフォ社内の共有フォルダに保存され,E IP事業部部員であれば営業週報及び技術週報の双方を,プロダクト開発部部員であれば技術週報を,いつでも閲覧することが可能であった。平成
25 27年当時のEIP事業部部長であったpは,原告aや原告cを含むEI
P事業部部員に対し,EIP事業部定例会議を欠席した場合には,その日
の営業週報及び技術週報を確認しておくよう指示していた。(前提事実
エ,xX0,乙A8,乙H1,原告a本人調書15頁)イ 9月24日の打合せ等
fは,9月18日の打合せにおいて,xxxxとの「業務上の提携」
5 を「行うことについての決定」をし,これを踏まえて,モルフォとデン
ソーは,9月24日の打合せを行った。9月24日の打合せには,モルフォからは,fらが出席し,デンソーからは,走行安全事業部長のoらが出席した上で,xxxxとデンソーは,本件技術を活用した新規車載カメラ等について本件共同開発を行うこと,デンソーとの資本提携を進
10 めることを承諾し,もって,本件資本業務提携について口頭で合意した。 gは,デンソーとの本件協業に関わっているf,h,l,m,j,i
ほか2名に対し,9月28日,「デンソーとの資本提携に関する注意事項」と題するメール(以下「gメール」という。)を送信した。
gメールには,①モルフォの全社会などで「モルフォは来期以降のス
15 テップとして市場変更を検討している」という情報(以下「市場変更情
報」という。)が周知されているが,デンソーとの接触に際し市場変更 情報を伝えないようにすること,②デンソーとは,本件資本業務提携の 受入条件等を検討しているところ,市場変更情報がデンソーに伝わると,市場変更情報の実現度の高低にもよるが,デンソーがインサイダー情報
20 を保持しているとみなされるおそれがあること,③その結果,モルフォ
とデンソーとの本件資本業務提携のスケジュールに重大な悪影響を及ぼす可能性があること,④デンソーとの今後のやり取りの中で,市場変更情報を始めとするモルフォのインサイダー情報をデンソーに伝えないよう情報管理に留意すること,⑤gメールの宛先以外で社内関係者が漏れ
25 ている場合や今後関係者が増加する場合には,その者にも周知・共有す
ること,などが記載されていた。(乙A26)
lは,EIP事業部のマネージャーであるrに対し,9月29日,gメールを添付した上で,9月24日の打合せにおいてデンソーと本件資本業務提携を締結することがほぼ合意されたことなどを記載したメールを送信した。なお,lは,rに対する同メールの末尾に「持ち株会の口
5 数増とか個人的なものは目を瞑ります」などと記載した。(乙A7,2
6)
ウ 9月28日の定例会議
モルフォでは,9月28日にEIP事業部定例会議が開かれた。
9月28日のEIP事業部定例会議において,mは「2015092
10 8EIP週報 m」と題する営業週報(以下「9月28日の営業週報」
という。)に基づき,xは「エンベデッドIP事業部進捗報告 EIP
-P 2015/9/28」と題する技術週報(以下「9月28日の技術週報」という。)に基づき,それぞれ9月24日の打合せの内容を報告した。
15 デンソーに関し,9月28日の営業週報には,「9/24(木)走行
安全事業部 oが来社。」などの記載があり,9月28日の技術週報には,「9/24 o(常務役員)様来社打合せ 協業を口頭合意,契約等の手続を進めていく 第一弾として,カメラ性能の向上としてVid eo Refiner,Dehazer,WDR,Super-zoo
20 mのデモ機開発 1.システム構成案を提示 2.本件試作開発の見積
り提示」などの記載がある。(乙A7・資料1-5,乙A8・資料6)原告aは,9月28日のEIP事業部定例会議に出席したが,原告c
は,同定例会議に出席していない。(甲A37,乙C2)
モルフォでは,9月28日にプロダクト開発部定例会議が開かれ,原
25 告bは,これに出席した。lは,同定例会議において,9月28日の技
術週報に基づき9月24日の打合せの内容を報告した。(乙A7,乙D
2)
エ 10月5日の定例会義
モルフォでは,10月5日にEIP事業部定例会議が開かれた。
10月5日のEIP事業部定例会議において,mは「2015100
5 5EIP週報 m」と題する営業週報(以下「10月5日の営業週報」
という。)に基づき,xは「エンベデッドIP事業部進捗報告 EIP
-P 2015/10/5」と題する技術週報(以下「10月5日の技術週報」という。)に基づき,xxxxの案件についての進捗状況を報告した。
10 デンソーに関し,10月5日の営業週報には,「9/30(水)画像
処理5IPの評価プロジェクトと,DLについて,ディスカッション」との記載があり,10月5日の技術週報には,「10/9(fri)D ENSOkさまと打合せ。案件第一弾として VideoRefine r,De-hazer,Super-Zoom,WDRの統合PCツール
15 の開発を受託することに成りました。この件に関しては単純な人月単価
で見積りを出しています。(同社他プロジェクトに先立って実施するプロジェクト) 600万円ほどを想定(人月単価200M×3) 後ほどEIPよりアプリケーション仕様を提出します。」「納期は12/M位,当該ツールをインストールしたPCを実車に乗せて評価するという
20 目的です。」との記載がある。(乙A7・資料1-6,乙A8・資料6)なお,原告a及び原告cは,10月5日のEIP事業部定例会議に出
席していない。(甲A37,原告a本人調書28頁,弁論の全趣旨) モルフォでは,10月5日にプロダクト開発部定例会議が開かれ,原
告bは,これに出席した。同定例会議では,欠席したlに代わりEIP
25 事業部の技術担当部員が,10月5日の技術週報を読み上げて,デン
ソーの案件について進捗状況を報告した。(乙A7・8,14,15頁,
弁論の全趣旨)
オ 本件持株会における入会及び拠出口数の変更等について
本件持株会は,本件持株会の会員(以下,単に「会員」という。)が継続的にモルフォの株式を取得することにより,会員の経営への参画意
5 識の向上及び財産形成の一助とすることを目的として組織された民法上
の組合である(モルフォ従業員持株会規約(以下「規約」という。)2条,3条)。
本件持株会の会員は,モルフォの従業員に限られ(規約4条),モルフォの従業員は,本件持株会の理事長に申し出て,原則として毎年4月
10 及び10月に本件持株会に入会することができる。退会はいつでもする
ことができるが,一度退会した者は,原則として再入会することができない(規約5条1項)。
会員は,毎月の給与受領時に本件持株会への出資として月例拠出を行い(規約7条1項),月例拠出については一口を1000円とし,会員
15 一人につき100口を限度とする(モルフォ従業員持株会運営細則(以
下「細則」という。)8条1項)。拠出口数の変更を希望する会員は, 原則として毎年4月及び10月の7日までに届出を行う(細則11条)。
入会を希望する従業員又は会員は,会社(モルフォ)及び子会社に係る未発表の重要事実を知得していない場合に限り,入会,退会及び拠出
20 口数の変更等の申出を行うことができ,理事長は,同申出に係る従業員
又は会員の未発表の重要事実の知得について,厳正に審査する(規約6条)。(乙C3の4,乙D3の4,乙E3の4)
カ 本件a取引に至る経過
原告aは,平成26年5月にモルフォに入社した。原告aは,モル
25 フォでは退職金が支給されないとのことであったため,その代わりに本
件持株会に入会し,拠出口数30口3万円を拠出していた。
原告aは,平成27年10月までに,給与が月額2万円昇給したこと及び不要となった医療保険を解約し月額5万円程度の余裕ができたことから,同月8日,本件持株会の拠出口数を80口8万円に増加させた。その結果,原告aは,本件公表前に増加させた拠出口数50口分に対応
5 する買付けとして,モルフォの株式20.625株を買付価額合計9万
2036円で買い付けたこととなった(本件a取引)。(前提事実 ア,甲2の1,乙C2,原告a本人調書19頁)
キ 本件b取引に至る経過
原告bは,平成27年7月にモルフォに入社したところ,9月頃,本
10 件持株会の事務担当者であるsから,本件持株会への入会希望の有無に
ついてメールで照会を受けた。
原告bは,モルフォでの自分の教育担当であったtに他の従業員の本件持株会への入会状況を聞くなどし,モルフォから福利厚生の一環として従業員が拠出する金額に対し1割の奨励金が補助されることやモル
15 フォの将来性などを考慮して,本件持株会に入会することとした。(甲
2の2,乙D2,原告b本人調書18頁)
原告bは,10月7日,本件持株会に拠出口数を22口2万2000円として入会した。その結果,原告bは,本件公表前にモルフォの株式
9.074株を買付価額合計4万0491円で買い付けたこととなった
20 (本件b取引)。(前提事実 イ,乙D2~乙D3の5)
ク 本件c取引に至る経過
原告cは,平成25年6月にモルフォに入社したところ,本件持株会において拠出口数一口1000円を拠出していた。
原告cは,本件持株会への拠出を資産形成のための貯蓄に変わるもの
25 と考えて日常生活に支障のない範囲で拠出口数を増加させることとした。
原告cは,10月8日,本件持株会の拠出口数を80口8万円に増加さ
せた。その結果,原告cは,本件公表前に増加させた拠出口数79口分に対応する買付けとして,モルフォの株式32.588株を買付価額合計14万5420円で買い付けたこととなった(本件c取引)。
原告cは,本件公表によりモルフォとxxxxが本件資本業務提携を
5 締結したことを知り,その内容を確認して驚いた。原告cは,本件公表
後の平成28年4月,本件持株会の拠出口数を80口8万円から,10
0口10万円に増加させた。(前提事実 ウ,乙E2) 原告aについての検討
ア 被告は,原告aは遅くとも9月28日までに本件重要事実を自己の職務
10 に関し「知つた」旨主張するところ,前記認定したとおり,モルフォとデ
ンソーとの9月24日の打合せにおいては,モルフォからはxxが,デンソーからはoらが出席した上で,モルフォとデンソーは,本件技術を活用した新規車載カメラ等について本件共同開発を行うとともに,デンソーとの資本提携を進めることを承諾し,もって,本件資本業務提携について口
15 頭で合意したものである。そして,原告aも出席した9月28日のEIP
事業部定例会議において,mは9月28日の営業週報に基づき,lは9月
28日の技術週報に基づき,それぞれ9月24日の打合せの内容を報告したものである。
mが報告した9月28日の営業週報には,デンソーに関して,「9/2
20 4(木)走行安全事業部 oが来社。」などの記載があり,lが報告した
9月28日の技術週報には,「9/24 o(常務役員)様来社打合せ協業を口頭合意,契約等の手続を進めていく」などの記載があることからすると,これらの報告により,原告aは,9月24日の打合せにおいて,モルフォとデンソーが「協業を口頭合意」したことを認識したと認められ
25 る。
そして,前記3 オに説示したところによれば,9月11日の打合せ以
降,モルフォとデンソーとの本件協業の内容は,客観的には,本件共同開発の内容に踏み込んだ格段に具体的なものとなっており,デンソーが計画していた新規車載カメラ等の本件共同開発の初期段階に当たる内容の検討を行っていたものである。
5 イ しかしながら,デンソーからモルフォに対し本件資本提携の申出がされ
たのは,9月11日の本件会食時であったところ,lは,同月14日午後
0時51分,hに宛てて,本件会食においてデンソーからされた本件資本提携の申出の内容を報告するメールを作成し,「CC」欄の宛先にgも入れて送信しているが(前記認定事実 エ),同メールには「ちなみに本内
10 容は,暫く限られた範囲のみで展開させていただきます。」と記載し情報
の管理を願い出ていたことが認められる(乙A7・資料2)。
さらに,lは,デンソーからの本件資本提携の申出に係る情報を広くモルフォ社内の社員に共有するのは適切ではないと考え,これ以降,lが作成した技術週報では,xxxxがデンソーと本件資本提携の申出を受け入
15 れる方針を決めたことやそれに向けた作業を行っていることを,モルフォ
の他の社員に知られないようにするために,デンソーとの本件協業に関する内容については抽象的に記載するようにしていたことが認められる(甲 A24・23頁,乙A7・資料2)。これを裏付けるように,lが作成した9月14日のEIP事業部定例会議に係る技術週報には,9月11日の
20 打合せ後の本件会食において,デンソーから本件資本提携の申出があった
ことをうかがわせる記載はない(乙A7・資料1-3)。
また,gメールによれば,9月24日の打合せにおいて,モルフォとxxxxが本件資本業務提携について口頭で合意したことを踏まえて,モルフォの関係者に対し,デンソーとの今後のやり取りの中で,市場変更情報
25 を始めとするモルフォのインサイダー情報をデンソーに伝えないようにし,
デンソーとの本件資本業務提携に支障が生ずることがないように情報管理
に留意するよう周知していることが認められる(前記 イ )。
これらの事情からすると,モルフォ社内においては,デンソーとの本件資本業務提携を含む本件協業については,インサイダー取引に該当する可能性があることを踏まえて情報管理が行われていたと認められるから,モ
5 ルフォの幹部職員はおくとしても,原告aのようなEIP事業部の一般部
員が,9月24日の打合せにおいて,xxxxとデンソーとの間で,本件資本業務提携について口頭で合意がされたことを具体的に認識していたとは認め難い。
ウ このように原告aは,9月24日の打合せにおいて,xxxxとデン
10 ソーとの間で本件資本業務提携について口頭で合意がされたことを具体的
に認識していなかったというべきであるが,他方で,9月28日の技術週報によって,fがデンソーとの間で「協業を口頭合意」したこと自体は認識したと認められるから,これにより原告aにおいて,fが「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたこと(本件重要事実)を,自己
15 の職務に関し「知つた」といえるか否かを検討する必要がある。
そこで検討するに,9月28日の技術週報には,9月24日の打合せ内容として,「協業を口頭合意,契約等の手続を進めていく」の後に「第一弾として,カメラ性能の向上としてVideo Refiner,Deh azer,WDR,Super-zoomのデモ機開発 1.システム構
20 成案を提示 2.本件試作開発の見積り提示」との記載がされているもの
である(前記 ウ )。この9月28日の技術週報の記載内容からすれば,デンソーとの「協業」は,モルフォの本件技術を活用してカメラ性能を向 上させた試作機等を開発し,システム構成案の提示と試作開発に係る見積 りを提示することを内容とするものであったと理解することができる。
25 しかしながら,モルフォにおいては,モルフォの技術に関心を持った営
業先企業の要望に応じて,秘密保持契約を締結した上で,簡易なデモンス
トレーションを無料で行い,更にこのような営業先企業から自社製品にモルフォの技術を搭載して機能を確かめたいとの要望が出された場合には,原則として予算500万円程度の有償契約を締結し,おおむね2,3か月程度の期間で試作機を開発したり,その機能評価を行ったりすることのな
5 どの営業活動を一般的に行っていることが認められる(甲A5・13~1
6頁,甲A27・6~8頁,甲A39・1,2頁,原告a本人調書4,5頁,原告b本人調書4~7頁)。
このことを裏付けるように,8月10日のEIP事業部定例会議に係る営業週報には,mが担当する案件だけを概観してみても,
10 「クリューシステムズ ■搭載製品:監視カメラ ・年末までに試作。
2015年2~3月に量産⇒2016年12月量産予定に変更」,
「Casio(New) ■モルフォ製品:歪み補正,その他各種製品
■搭載製品:魚眼レンズ搭載カメラ(新製品)連動のスマホアプリ ■特徴:魚眼レンズ搭載カメラで撮影された動画をスマホアプリに転送。■開
15 発スケジュール:2016年1月 カメラH/W構成Fix 2016年
5月カメラ&アプリリリース予定 ■今後アクション:8月末にアプリ向け提案IPと概算価格の提案 ■その他:顔検出は,カシオからソースコードを開示してもらい,モルフォで実装することに」, 「ルネサス
□6/25打ち合わせ。OIS+EISの協調動作の評価結果の説明 □
20 ルネサスOIS+モルフォEISでの,市場開拓を目的に協業を検討。
NDA締結へ」,
「住友三井オートサービス □7/6に弊社にて打ち合わせ □車載用のドライブカメラの動画解析プロジェクトの件で,相談依頼。車内インカメラで撮影したドライバーの姿勢・動作解析にDeep Learnin
25 gを活用したい □7/29に打ち合わせ実施。実現化のための諸条件
(学習データ・有償評価金額・年間利用料など)を先方で検討すること
に」,
「トヨタ自動車 □NWS部にトーメン経由で問合わせのあったDee p Learningの開発案件 □EIP事業部のビジネスへの展開を目指す □7/23に東富士研究所を訪問 □DL開発に向け,現地調査
5 及び打ち合わせ □EIP事業として,各種画像処理S/Wのデモ □ト
ヨタ側から,当社画像処理IPを,どのような技術や課題,システムに検討・応用できそうかの検討内容を提示頂くことに。Movie Soli d, Dehazer,超解像に興味ありの様子」,
「東京ウェルズ □半導体外観検査装置向けに,画像処理IPとDLを
10 検討 □良品・不良品をDLによる自動認識の合同プロジェクトに向け,
8/5に当社にて打ち合わせ □東京ウェルズより,2~3名のエンジニアをアサイン予定 □PCツール(13製品)を有償提供予定」
「KTシステム □富士通ゼネラルエレクトロニクスのNシステム向けナンバープレート読み取りの画像処理案件 □7月末にKTシステムの画
15 像処理の開発受託についての結果が出る予定 □富士通ゼネラルから頂い
た画像を,補正(Dehaser⇒Denoiser⇒WDR)し,8/
7に提出」などの記載があることが認められる(甲A31・45枚目以降 )。
これらの記載からすると,xxxxは,xxxxとの交渉と並行しなが
20 ら,複数の営業先企業を相手方に一般的な営業活動として試作機等の開発
及びその有効性の評価などの交渉・検討を行うとともに,その開発のために有償契約の交渉・締結等をしていたということができる。
そして,モルフォにおいては,このような営業先企業との単なる営業活動にも「協業」という用語を使用していたものであり,これらの活動が必
25 ずしも「業務上の提携」を意味するものではなかったことが認められる
(甲2の1,甲2の3,甲A5・10,49~51頁,甲A6・4~6頁,
甲A7,8・6頁,甲A19,24)。
上記のようなモルフォの営業活動の実態や原告aがEIP事業部において一般部員として営業活動に従事していた事実を併せ考慮すると,原告aとしては,9月28日の技術週報に記載された「協業を口頭合意」の内容
5 について,xxxxが通常の営業活動として行う試作機等の開発及びその
見積りを提示することに合意したという程度の内容を認識したにとどまるものであったというべきである。
このほか前提事実 エ,前記 アの認定事実によれば,EIP事業部定例会議においては1時間半程度という限られた時間の中で,各担当者が大
10 部の営業週報及び技術週報(甲A31,32参照)のうち各担当部分を3
分程度で読み上げて報告が行われていることからすると,その報告内容は簡潔なものにとどまると考えられること,デンソーに関する9月28日の営業週報及び技術週報の記載内容も上記の程度にとどまり,他の案件と比較して強調されているものでもなく,その記載内容に照らし上記「協業」
15 の内容が「業務上の提携」に該当するものであったことをうかがわせる記
載もないことなどの事情が認められる。
これらの事情からすると,原告aにおいて,9月28日の営業週報及び技術週報による報告を受けて,モルフォとデンソーとの間で「協業を口頭合意」したことを知ったとしても,上記のとおり通常の営業活動の範囲内
20 のものであると認識したにとどまるものであったというべきであり,これ
が「業務上の提携」に該当するものであるとの未必的な認識や,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の内容のものであるとの認識を有していたと認めることは困難である。
エ そうすると,原告aが,遅くとも9月28日までに,本件重要事実を自
25 己の職務に関し「知つた」とまでは認められない。原告bについての検討
ア 被告は,原告bが,遅くとも10月5日までに,本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」旨主張するところ,前記認定したところによれば,原告bが出席した9月28日のプロダクト開発部定例会議においては,lから9月28日の技術週報に基づき,9月24日の打合せの内容が報告さ
5 れ,これにより,原告bもfがデンソーとの「協業を口頭合意」したこと
を認識したと認めることができる。
しかしながら,原告aについて前記認定説示したことは,プロダクト開発部の一般部員にとどまる原告bについても同様に当てはまるというべきであるから,これによれば,原告bとしては,9月28日の技術週報に記
10 載された「協業を口頭合意」の内容について,モルフォが通常の営業活動
として行う試作機等の開発及びその見積りを提示することを合意したという程度の内容を認識したにとどまるというべきである。
したがって,原告bが,9月28日の時点で,本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」と認めることは困難である。
15 イ 次に,原告bは,10月5日のプロダクト開発部定例会議に出席してい
ることが認められるところ,同定例会議においては,欠席したlに代わり EIP事業部の技術担当部員が,10月5日の技術週報を読み上げてデンソーとの案件の進捗について報告したこと,10月5日の技術週報には,
「10/9( fri)DENSOkさまと打合せ。案件第一弾として
20 VideoRefiner, De-hazer,Super-Zoom,
WDRの統合PCツールの開発を受託することに成りました。この件に関しては単純な人月単価で見積りを出しています。(同社他プロジェクトに先立って実施するプロジェクト) 600万円ほどを想定(人月単価20
0M×3) 後ほどEIPよりアプリケーション仕様を提出します。」
25 「納期は12/M位,当該ツールをインストールしたPCを実車に乗せて
評価するという目的です。」との記載がされていたことが認められる(前
記 エ)。
この10月5日の技術週報の記載内容によれば,デンソーの案件につい ては,①10月9日金曜日にkと打合せが予定されていること,②モル フォの本件技術を統合したPCツールの受託開発を行うことになったこと,
5 ③その予算については600万円と見積りをしていること,④納期は12
月中旬であり受託開発したPCツールを実車に搭載しその機能評価を行うことを目的としていることなどの進捗があったことが認められ,原告bにおいてもこれらの進捗状況を認識したことが認められる。
しかしながら,上記のとおり報告された内容は,9月28日の技術週報
10 に「デモ機開発 1.システム構成案を提示 2.本件試作開発の見積り
提示」と記載されたデンソーとの「協業」に関する続報であると認められ,原告bが,同日の時点でこれが「業務上の提携」に当たるものであること を「知つた」といえないことは前記説示のとおりである。
10月5日の技術週報において追加された内容についても,xxxxが
15 行うこととなった本件技術を統合したPCツールの受託開発は,これを実
車に搭載して機能評価を行うといった試作段階のものであり,その予算も
600万円にとどまるものであって,その記載内容のみからすれば,依然としてモルフォの一般的な営業活動の範囲内である試作機等の受託開発にとどまるものであったということができる。
20 そして,前記認定したモルフォの営業活動の実態や原告bがプロダクト
開発部において一般部員であるシステムエンジニアとして業務に従事していた事実(乙D2)を併せ考慮すると,原告bとしては,10月5日の技術週報に記載された内容について,モルフォがデンソーに対する通常の営業活動として試作機等の受託開発を600万円で行うことになったという
25 程度の内容を認識したにとどまるというべきである。
このほか前記前提事実 エ,前記 アの認定事実によれば,プロダクト
開発部定例会議においては1時間程度という限られた時間の中でxxの技術週報を読み上げて報告が行われているものであり,特に10月5日の定例会議においては,欠席したlに代わりEIP事業部の他の技術担当部員が報告を行ったことからすると,その報告内容は普段よりも簡潔なもので
5 あった可能性が高かったと考えられること,デンソーに関する10月5日
の技術週報の記載内容も上記の程度にとどまり,他の案件と比較して強調されているものでもなく,その記載内容に照らし,上記報告内容が「業務上の提携」に該当するものであったことをうかがわせる記載もないことなどの事情が認められる。
10 ウ これらの事情によれば,原告bにおいて,10月5日の技術週報による
報告を受けて,モルフォがデンソーに対し試作機等の受託開発を600万円で行うこととなったことを知ったとしても,通常の営業活動の範囲内のものであると認識したにとどまるものであったというべきであり,これが
「業務上の提携」に該当するものであるとの未必的な認識や,一般投資家
15 の投資判断に影響を及ぼす程度の内容のものであるとの認識を有していた
と認めることは困難である。
エ そうすると,原告bが,遅くとも10月5日までに,本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」とまでは認められない。
原告cについての検討
20 ア 被告は,原告cが,遅くとも10月8日までに,本件重要事実を自己の
職務に関し「知つた」旨主張するが,前記 ウ 及びエ に認定したとおり,原告cは,9月28日及び10月5日のEIP事業部定例会議を欠席したものであり,これらの定例会議の報告内容によって,本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」と認めることはできない。
25 イ また,原告cが9月28日及び10月5日の営業週報及び技術週報を確
認したことをうかがわせる証拠はない。この点につき,モルフォ社内にお
いて一般的に営業週報及び技術週報が社内の共有フォルダに保存され,x xcが閲覧することが可能であり,かつ,EIP事業部部長であるpから,定例会議に欠席した場合にはその日の営業週報及び技術週報を確認してお くよう指示されていたことは前記認定のとおりであるが,そうであるとし
5 ても,営業週報及び技術週報の内容がxxにわたるものであり,原告c自
身が担当していない案件の内容が多く含まれていたことに照らせば(甲2の3),原告cが9月28日及び10月5日の営業週報及び技術週報を確認し,デンソーとの「業務上の提携」に関する内容を認識したとは認められない。
10 ウ このほか,原告cにおいて,本件持株会の拠出口数を増加させた10月
8日までに,fがデンソーとの「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたことを「知つた」と認めるに足りる証拠はない。
エ したがって,原告cが,遅くとも10月8日までに,本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」と認めることはできない。
15 その他
ア これに対し,被告は,原告らが本件重要事実を自己の職務に関し「知つ た」上で,本件各取引を行った旨主張するが,前記前提事実 及び前記
に認定したところによれば,原告らはいずれも本件持株会への入会や拠出口数の増加により,本件各取引を行ったものである。本件持株会において
20 は,毎年4月と10月にこれらの申込みをしなければ,入会や拠出口数の
増加が原則としてできないこととされており,本件との関係では10月9日がその申込期限とされていたところ(甲2の2),原告らはいずれもその直前である同月7日又は8日に当該申込みをし,本件各取引を行ったものである。
25 このような本件持株会の制度やその申込期限からすると,原告らがfが
「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした9月18日の打合
せ後に本件各取引を行ったからといって,本件重要事実を自己の職務に関し「知つた」と推認することはできない。なお,gメールによれば,9月末の時点で,モルフォ社内において市場変更情報が共有されていたと認められることからすると,この実現を見込んで,原告らを含む複数のモル
5 フォの従業員が,10月の申込時期に本件持株会への入会や拠出口数の増
加をしたとしても不自然とはいえない。
イ むしろ,本件持株会の仕組みからすると,モルフォの従業員が,インサイダー取引により利益を得ることを目的としながら,本件持株会の制度を利用して株式の売買を行うことには何らの合理性もないのであり,これを
10 もってインサイダー取引に該当するとして,原告らに課徴金を課すという
被告の論理構成には無理があるといわざるを得ない。
すなわち,本件持株会においては,会社関係者がインサイダー情報に接したとしても,前記認定のとおり本件持株会への入会及び拠出口数の変更を行うことのできる時期が年2回に限られ,また,一度退会した者は原則
15 として再入会することができないとされている上に,株式の買付けについ
ては,本件持株会が一括購入し会員の拠出口数等の割合に応じて当該株式 の持分が算出され(規約10条,11条),株式の途中引出しについても,持分株式数が100株以上になったとき100株を単位としてその交付を 受けることができる(規約17条)とされているものである。
20 このような本件持株会の仕組みからすると,インサイダー情報に接した
会社関係者が,インサイダー取引により利益を得ることを目的としながら,本件持株会の制度を利用して株式の売買を行う場合には,インサイダー情 報が公表される前に株式を購入したり拠出口数を増加させたりしようとし ても,これを適宜のタイミングで自由に行うことができない上に,インサ
25 イダー情報の公開後は,本件持株会を退会しない限り,公開された情報に
より影響を受け高値となった株価で株式の購入を強いられることとなり,
その目的を達することが困難となる。また,上記のとおり,株式の途中引出しについても制限がある以上,適宜のタイミングで持分株式を売却することができず,高値で株式を売却し利益を確定させることも困難である。
したがって,被告の主張はこの点からも失当である。
5 5 小括
よって,原告らが被告主張の時期までに本件重要事実を自己の職務に関し
「知つた」と認めることはできないから,本件各納付命令は,処分要件を欠き違法でありいずれも取消しを免れない。
第4 結論
10 以上によれば,原告らの請求には理由があるから,いずれも認容することと
して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 x x x x
裁判官 x x x x
15 裁判官 x x x x
別紙指定代理人目録省略