Contract
論文式試験問題集
[法律実務基礎科目(民事・刑事)]
[民 事](〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,14:10:18:8)司法試験予備試験用xxを適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
なお,別紙の不動産売買契約書「不動産の表示」記載の土地を以下「本件土地」といい,解答においても,「本件土地」の表記を使用してよい。
【Xの相談内容】
「私は,平成26年9月1日,Yが所有し,占有していた本件土地を,Yから,代金250万円で買い,同月30日限り,代金の支払と引き換えに,本件土地の所有権移転登記を行うことを合意しました。
この合意に至るまでの経緯についてお話しすると,私は,平成26年8月中旬頃,かねてからの知り合いであったAからYが所有する本件土地を買わないかと持ちかけられました。当初,私は代金額として200万円を提示し,Yの代理人であったAは350万円を希望したのですが,同年9月1日のAとの交渉の結果,代金額を250万円とする話がまとまったので,別紙のとおりの不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を作成しました。Aは,その交渉の際に,Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していましたが,本件売買契約書の金額欄と日付欄(別紙の斜体部分)は空欄でした。Aは,その場で,交渉の結果を踏まえて,金額欄と日付欄に手書きで記入をし,その後で,私が自分の記名右横に実印を押印しました。
平成26年9月30日の朝,Aが自宅を訪れ,登記関係書類は夕方までに交付するので,代金を先に支払ってほしいと懇願されました。私は,旧友であるAを信用して,Yの代理人であるAに対し,本件土地の売買代金額250万円全額を支払いました。ところが,Aは登記関係書類を持ってこなかったので,何度か催促をしたのですが,そのうちに連絡が取れなくなってしまいました。そこで,私は,同年10月10日,改めてYに対し,所有権移転登記を行うように求めましたが,Yはこれに応じませんでした。
このようなことから,私は,Yに対し,本件土地の所有権移転登記と引渡しを請求したいと考えています。」
上記【Xの相談内容】を前提に,弁護士Pは,平成27年1月20日,Xの訴訟代理人として, Yに対し,本件土地の売買契約に基づく所有権移転登記請求権及び引渡請求権を訴訟物として,本件土地の所有権移転登記及び引渡しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起することにした。
弁護士Pは,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)を作成し,その請求の原因欄に,次の①から④までのとおり記載した。なお,①から③までの記載は,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として必要かつ十分であることを前提として考えてよい。
① Aは,平成26年9月1日,Xに対し,本件土地を代金250万円で売った(以下「本件売買契約」という。)。
② Aは,本件売買契約の際,Yのためにすることを示した。
③ Yは,本件売買契約に先立って,Aに対し,本件売買契約締結に係る代理権を授与した。
④ よって,Xは,Yに対し,本件売買契約に基づき,(以下記載省略)を求める。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 本件訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい(付随的申立てを記載する必要はない。)。
(2) 弁護士Pが,本件訴状の請求を理由づける事実として,上記①から③までのとおり記載したのはなぜか,理由を答えなさい。
〔設問2〕
弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】
Ⅰ 「私は,Aに対し,私が所有し,占有している本件土地の売買に関する交渉を任せましたが,当初希望していた代金額は350万円であり,Xの希望額である200万円とは隔たりがありました。その後,Aから交渉の経過を聞いたところ,Xは代金額を上げてくれそうだということでした。そこで,私は,Aに対し,280万円以上であれば本件土地を売却してよいと依頼しました。しかし,私が,平成26年9月1日までに,Aに対して本件土地を2
50万円で売却することを承諾したことはありません。ですから,Xが主張している本件売買契約は,Aの無権代理行為によるものであって,私が本件売買契約に基づく責任を負うことはないと思います。」
Ⅱ 「Xは,平成26年10月10日に本件売買契約に基づいて,代金250万円を支払ったので,所有権移転登記を行うように求めてきました。しかし,私は,Xから本件土地の売買代金の支払を受けていません。そこで,私は,念のため,Xに対し,同年11月1日到着の書面で,1週間以内にXの主張する本件売買契約の代金全額を支払うように催促した上で,同月15日到着の書面で,本件売買契約を解除すると通知しました。ですから,私が本件売買契約に基づく責任を負うことはないと思います。」
上記【Yの相談内容】を前提に,弁護士Qは,本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。なお,各問いにおいて抗弁に該当する具体的事実を記載する必要はない。
(1) 弁護士Qが前記Ⅰの事実を主張した場合,裁判所は,その事実のみをもって,本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて,結論と理由を述べなさい。
(2) 弁護士Qが前記Ⅱの事実を主張した場合,裁判所は,その事実のみをもって,本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて,結論と理由を述べなさい。
〔設問3〕
本件訴訟の第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述された。また,その口頭弁論期日において,弁護士Pは,XとAが作成した文書として本件売買契約書を書証として提出し,これが取り調べられたところ,弁護士Qは,本件売買契約書の成立を認める旨を陳述し,その旨の陳述が口頭弁論調書に記載された。
そして,本件訴訟の弁論準備手続が行われた後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され,Xは,【Xの供述内容】のとおり,Yは,【Yの供述内容】のとおり,それぞれ供述した(Aの証人尋問は実施されていない。)。
その後,弁護士Xと弁護士Qは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することになった。
【Xの供述内容】
「私は,本件売買契約に関する交渉を始めた際に,Aから,Aが本件土地の売買に関するすべてをYから任されていると聞きました。また,Aから,それ以前にも,Yの土地取引の代理人となったことがあったと聞きました。ただし,Aから代理人であるという委任状を見せられたことはありません。
当初,私は代金額として200万円を提示し,Yの代理人であったAは350万円を希望しており,双方の希望額には隔たりがありました。その後,Aは,Xの希望額を300万円に引き下げると伝えてきたので,私は,250万円でないと資金繰りが困難であると返答しました。私とAは,平成26年9月1日に交渉したところ,Aは,何とか280万円にしてほしいと要求してきました。しかし,私が,それでは購入を諦めると述べたところ,最終的には,本件土地の代金額を250万円とする話がまとまりました。
Aは,その交渉の際に,Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していましたが,本件売買契約書の金額欄と日付欄(別紙の斜体部分)は空欄でした。Aは,Yが実印を押印したのは250万円で本件土地を売却することを承諾した証であると述べていたので,Aが委任状を提示していないことを気にすることはありませんでした。そして,Aは,その場で,金額欄と日付欄に手書きで記入をし,その後で,私が自分の記名右横に実印を押印しました。」
【Yの供述内容】
「私は,Aに本件土地の売買に関する交渉を任せましたが,当初希望していた代金額は35
0万円であり,Xの希望額である200万円とは隔たりがありました。私は,それ以前に,Aを私の所有する土地取引の代理人としたことがありましたが,その際はAを代理人に選任する旨の委任状を作成していました。しかし,本件売買契約については,そのような委任状を作成したことはありません。
その後,私が希望額を300万円に値下げしたところ,Aから,Xは代金額を増額してくれそうだと聞きました。たしか,250万円を希望しており,資金繰りの関係で,それ以上の増額は難しいという話でした。
そこで,私は,Aに対し,280万円以上であれば本件土地を売却してよいと依頼しました。しかし,私が,本件土地を250万円で売却することを承諾したことは一度もありません。
Aから,平成26年9月1日よりも前に,完成前の本件売買契約書を見せられましたが,金額欄と日付欄は空欄であり,売主欄と買主欄の押印はいずれもありませんでした。本件売買契約書の売主欄には私の実印が押印されていることは認めますが,私が押印したものではありません。私は,実印を自宅の鍵付きの金庫に保管しており,Aが持ち出すことは不可能です。ただ,同年8月頃,別の取引のために実印をAに預けたことがあったので,その際に,Aが勝手に本件売買契約書に押印したに違いありません。もっとも,その別の取引は,交渉が決裂してしまったので,その取引に関する契約書を裁判所に提出することはできません。Aは,現在行方不明になっており,連絡が付きません。」
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 裁判所が,本件売買契約書をAが作成したと認めることができるか否かについて,結論と理由を記載しなさい。
(2) 弁護士Pは,第3回口頭弁論期日までに提出予定の準備書面において,前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のXYの本人尋問における供述,並びに本件売買契約書に基づいて,次の【事実】が認められると主張したいと考えている。弁護士Pが,上記準備書面に記載すべき内容を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい(なお,解答において,〔設問2〕の【Y
の相談内容】については考慮しないこと。)。
【事実】
「Yが,Aに対し,平成26年9月1日までに,本件土地を250万円で売却することを承諾した事実」
〔設問4〕
弁護士Pは,訴え提起前の平成26年12月1日,Xに相談することなく,Yに対し,差出人を
「弁護士P」とする要旨以下の内容の「通知書」と題する文書を,内容証明郵便により,Yが勤務するZ社に対し,送付した。
通知書
平成26年12月1日
被通知人Y
弁護士P
当職は,X(以下「通知人」という。)の依頼を受けて,以下のとおり通知する。通知人は, 平成26年9月1日, 貴殿の代理人であるAを通じて, 本件土地を代金
250万円で買い受け, 同月30日, Aに対し, 売買代金250万円全額を支払い,同年10月10日,貴殿に対し,本件土地の所有権移転登記を求めた。
ところが, 貴殿は,「売買代金を受領していない。」などと虚偽の弁解をして,不当に移転登記を拒否している。その不遜極まりない態度は到底許されるものではなく,貴殿はAと共謀して上記代金をだまし取ったとも考えられる。
以上より, 当職は, 本書面において, 改めて本件土地の所有権移転登記に応ずるよう要求する。
なお, 貴殿が上記要求に応じない場合は, 貴殿に対し, 所有権移転登記請求訴訟を提起するとともに,刑事告訴を行う所存である。
以 上
以上を前提に,以下の問いに答えなさい。
弁護士Pの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して答えなさい。
別紙
(注) 斜体部分は手書きである。
売主Yと買主Xは,後記不動産の表示記載のとおりの土地(本件土地)に関して,下記条項のとおり,売買契約を締結した。
記
第1条 Yは本件土地をXに売り渡し,Xはこれを買い受けることとする。第2条 本件土地の売買代金額は 250 万円とする。
第3条 Xは,平成 26 年 9 月 30 日限り,Yに対し,本件土地の所有権移転登記と引き換えに,売買代金全額を支払う。
第4条 Yは,平成 26 年 9 月 30 日限り,Xに対し,売買代金全額の支払と引き換えに,本件土地の所有権移転登記を行う。
(以下記載省略)
以上のとおり契約を締結したので,本契約書を弐通作成の上,後の証としてYXが各壱通を所持する。
平成 26 年 9 月 1 日
売 | 主 | 住 | 所 | ○○県○○市○○ | |
氏 | 名 | Y | Y印 | ||
買 | 主 | 住 | 所 | ○○県○○市○○ | |
氏 | 名 | X | X印 |
不動産の表示
所 | 在 | ○○市○○ |
地 | 番 | ○○番 |
地 | 目 | 宅地 |
地 | 積 | ○○○.○○㎡ |
[刑 事]
次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。
【事 例】
1 A(男性,24歳)は,平成27年3月14日,V(男性,19歳)を被害者とする傷害罪の被疑事実で逮捕され,翌15日から勾留された後,同年4月3日にI地方裁判所に同罪で公判請求された。
上記公判請求に係る起訴状の公訴事実には「被告人は,平成27年2月1日午後11時頃, H県I市J町1丁目1番3号所在のK駐車場において,V(当時19歳)に対し,拳骨でその左顔面を殴打し,持っていた飛び出しナイフでその左腹部を突き刺し,よって,同人に加療約1か月間を要する左腹部刺創の傷害を負わせた。」旨記載されている。
2 受訴裁判所は,平成27年4月10日,Aに対する傷害被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。検察官は,同月24日,証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁護人に提出・送付するとともに,同裁判所に証拠の取調べを請求し,Aの弁護人に当該証拠を開示した。検察官が請求した証拠の概要は,次のとおりであった。
(1) 甲第1号証 診断書
「Vの診断結果は左腹部刺創であり,平成27年2月2日午前零時頃,Xが救急搬送され,直ちに緊急手術をした。加療期間は約1か月間である。」
(2) 甲第2号証 Vの検察官調書
「私は,平成27年2月1日の夜,交際中のB子に呼び出され,同日午後11時頃,K駐車場に行ったところ,黒色の目出し帽を被った男が車の陰から現れ,①『お前か。人の 女に手を出すんじゃねー。』と言って,いきなり私の左顔面を1回拳骨で殴った。私は,いきなり殴られてカッとなり,『何すんだ。』と怒鳴ったところ,その男は,どこからかナイフを取り出したようで,右手にナイフを持っていた。私が刺されると思うや否や,その男は,『この野郎。』と言いながら,私に向かってナイフを持った右手を伸ばし,私の左脇腹にナイフを突き刺した。その後,その男は駐車場から走って逃げていったが,私は,意識がもうろうとしてしまい,気付いたら病院で寝ていた。
私を刺した犯人の顔は見ていないが,Aが犯人ではないかと思う。私は,アルバイト先の喫茶店でアルバイト仲間だったB子を好きになり,平成26年12月初旬頃から,3,
4回B子とデートをした。平成27年1月中旬頃,B子に,きちんと付き合ってほしいと言ったところ,B子も承諾してくれた。しかし,その後,私と一緒にいる時に,B子の携帯電話に頻繁にメールや電話が来るので,不審に思ってB子に尋ねると,B子は,『実は,前の彼氏であるAからよりを戻そうとしつこく言われている。Aとは,以前数箇月間同棲していたことがあるが,異常なほど焼き餅焼きで,私が男友達とメールのやり取りをしていても怒り,私を殴ったりするので,付いていけないと思い,同棲していたA方から飛び出して1人暮らしを始め,電話番号もメールアドレスも変えた。ところが,Aが私の友人から新しい電話番号やメールアドレスを聞き出したようで,頻繁に電話を掛けてくるようになった。新しい彼氏ができたと話したが,お前は俺のものだと言って聞く耳を持たない。どうやら新しい住所も知られているようで怖い。』と言っていた。その際,XxはAの写真を見せてくれたので,B子の前の彼氏が逮捕されたAであることに間違いない。私は, B子のことは好きだったが,前の彼氏とのトラブルに巻き込まれたくないと思い,B子からデートに誘われても最近は断りがちで,中途半端な付き合いになっていた。そのような状況だった平成27年2月1日の午後8時頃,私は,B子から,相談したいことがあるの
で,どうしても会ってほしいという内容のメールをもらい,B子に会うことにし,B子に指定されたとおり,同日午後11時頃,K駐車場に行った。ところが,現れたのはB子ではなく,先ほど話した黒色目出し帽の男だった。X子が私と会う約束をしたことを知って, Aが私を待ち伏せしていたのではないかと思う。他に恨みを買うような相手に心当たりはない。」
(3) 甲第3号証 捜査報告書
「平成27年2月1日午後11時10分頃,氏名不詳の女性から『黒色目出し帽の男が K駐車場で人を刺した。』旨の110番通報があり,同日午後11時25分頃,K駐車場に司法警察員が臨場し,付近の検索を行ったところ,同駐車場出入口からxx約10メートルの地点の歩道脇に,飛び出しナイフ1丁が落ちており,犯人の遺留品の可能性があると思料されたため,同日,これを領置した。」
(4) 甲第4号証 飛び出しナイフ1丁(平成27年2月1日領置のもの)
(5) 甲第5号証 捜査報告書
「平成27年2月1日に領置した飛び出しナイフ1丁の柄から採取された指紋1個が, Aの右手母指の指紋と一致した。」
(6) 甲第6号証 捜査報告書
「平成27年2月1日に領置した飛び出しナイフ1丁の刃に人血が付着しており,その DNA型が,Vから採取した血液のDNA型と一致した。」
(7) 甲第7号証 B子の検察官調書
「私は,以前AとA方で同棲していたが,Aの束縛が激しい上,私が男友達とxxxのやり取りをしているだけでも嫉妬して私を殴るなどするので嫌になり,平成26年9月頃, A方から逃げ出して,電話番号やメールアドレスを変え,1人暮らしを始めた。その後, Xと知り合い,平成27年1月頃,Xとの交際を始めた。ところが,Aは,私の電話番号,メールアドレスを探り出し,私に何度も電話やメールを寄越して復縁を迫るようになった。私が更に電話番号やメールアドレスを変えると,今度は私の自宅を突き止めたようで,私の自宅に頻繁に来るようになった。私は,Aに,他に好きな人ができたので復縁するつもりはないと言ったが,Aは納得せず,『そいつと会わせろ。』と言っていた。私は,AがVに暴力を振るうかもしれないと思ったので,AにはVの詳しい情報を教えなかった。私は, Aから逃げられないという恐ろしさを感じ,VにAとの関係やAに付きまとわれている状況を全部打ち明けた。しかし,Xは,次第に私との距離を置くようになってしまった。私は,私から距離を置こうとするVに腹が立ち,どうしていいのか分からなくなった。私は,
2人を引き合わせればVの態度もはっきりするだろう,Vが私を捨てるなら私も覚悟を決めようと思った。そこで,私は,平成27年2月1日午後8時頃,Xに『今日の午後11時頃にK駐車場に来てほしい。』という内容のメールを送ってVを呼び出し,その後,Aに,電話で,私がVを呼び出したことを伝えた。Aは,『俺が行って話を付けてくるから,お前は家にいろ。』と言っていた。しかし,私は,Vの態度を見たかったので,同日午後
11時前頃,K駐車場付近に行き,2人が現れるのをこっそり待っていた。すると,Aが現れてK駐車場に入っていき,しばらくするとVが現れてK駐車場に入っていった。私は, K駐車場のフェンス脇まで近付き,K駐車場内の様子を見ると,Vが黒色の目出し帽を被った男に顔を殴られているところだった。私は,目出し帽を被った男の服装が先ほど駐車場に入っていったAの服装と同じだったので,Aだと分かった。Aは,右手にナイフを持ち,Vのお腹の辺りに右手を突き出した。私は,Xが刺されたと思い,怖くなってその場から走って逃げ出し,200メートルくらい離れた場所から匿名で110番通報をした。私は,そのまま自宅に帰ったので,その後2人がどうなったのか見ていない。
翌日の2月2日,Aから私に電話があり,Aは,②『Vをナイフで刺した。走って逃げ
ている時に,そのナイフを落としてしまった。』と言っていた。
平成27年2月1日に警察官が領置したという飛び出しナイフを見せてもらったが,そのナイフは,Aと同棲していた時に,A方で見たことがある。ナイフの柄にある傷に見覚えがあるので,Aが持っていたナイフに間違いない。
私は,Aに自宅を知られているが,引っ越し費用を工面する余裕がなく,転居できる見込みがない。だから,怖くて仕方がない。」
(8) 乙第1号証 Aの司法警察員調書
「私は,現在,H県I市内で母と2人で暮らしている。両親は,私が中学生の時に離婚し,私は母に引き取られた。それ以降,父とは一度も会っていない。私には兄弟はいない。私は,21歳の時から1人暮らしをしていたが,平成26年5月頃から私の家でB子と同棲していた。しかし,同年9月頃にXxが家を出ていき,それから2週間くらい後の同年
10月頃,母が交通事故に遭って,脳挫傷の傷害を負い,左手と左足に麻痺が残ったため,私は母が退院した同年12月上旬から実家に戻り,母と同居している。
私は,高校卒業後,建設作業員として建築会社を転々としたが,現場で塗装工をしているCさんと知り合い,1年半くらい前からCさんの下で働いている。Cさんの下で働いているのは私だけなので,私が長期間不在にすると,受注していた現場の仕事を工期内に終わらせることができなくなる。母は1人では日常生活に支障があり,私の手助けが必要だし,Cさんにも迷惑を掛けたくないので,早く家に戻りたい。
私には,前科前歴はなく,暴力団関係者との付き合いもない。」
3 Aの弁護人は,前記の検察官請求証拠を閲覧・謄写した後,平成27年5月3日,Aと接見したところ,Aは,「B子からVをK駐車場に呼び出したことは聞いたが,私は,K駐車場には行っていない。B子には未練があったので,Xxの友達からB子の新しい電話番号などを聞き,連絡をしたことは事実だが,B子がVと付き合っていたのでB子のことは諦めた。むしろ,最近は,B子から『Vが自分から距離を置こうとしているように感じる。』などと相談を持ち掛けられていた。B子の家を知っているが,それはB子から相談を持ち掛けられて話をした後, B子を家まで送っていったからで,B子に付きまとって家を突き止めたわけではない。飛び出しナイフについては,全く身に覚えがなく,飛び出しナイフの柄になぜ私の指紋が付いていたのか分からない。VとB子が私を陥れようとしているのではないか。」と述べた。
4 Aの弁護人は,平成27年5月7日,検察官に類型証拠の開示請求をし,検察官は,同月1
3日,同証拠を開示した。Aの弁護人は,Aと犯人との同一性(犯人性)を争う方針を固め,同月20日の公判前整理手続期日において,③甲第2号証,甲第5号証及び甲第7号証につい ては「不同意。」,甲第4号証については「異議あり。関連性なし。」,その他の甲号証及び乙号証については「同意。」との意見を述べた。
その後,Aの弁護人は,Aと接見を重ねた結果,飛び出しナイフにAの指紋が付着していた事実自体は争わない方針に決め,同年6月1日の公判前整理手続期日において,甲第5号証については「同意。」,甲第4号証については「異議なし。」との意見に変更した。
そして,受訴裁判所は,同月15日に公判前整理手続を終了するに当たり,検察官及びAの弁護人との間で,争点は犯人性であり,証拠については,甲第2号証及び甲第7号証を除く甲号証,乙号証並びにV及びB子の各証人尋問が採用決定されたことを確認した。
Aの弁護人は,公判前整理手続終了直後に,X及びB子とは接触しない旨のAの誓約書,Aを引き続き雇用する旨のCの上申書及びAの母親の身柄引受書を保釈請求書に添付して,④A の保釈を請求したが,検察官はこれに反対意見を述べた。
なお,検察官は,証拠開示に当たり,Aの弁護人に,Vの住所,電話番号をAに秘匿するよう要請し,Aの弁護人もこれに応じて,Aにそれらを教えなかった。
〔設問1〕
(1) 下線部③に関し,Aの弁護人が,検察官請求証拠について意見を述べる法令上の義務はあるか,簡潔に答えなさい。
(2) 下線部③に関し,Aの弁護人が,甲第4号証の飛び出しナイフ1丁について「異議あり。関連性なし。」との意見を述べたため,裁判官は,検察官に関連性に関する釈明を求めた。検察官は,関連性についてどのように釈明すべきか,論じなさい。
(3) 甲第5号証の捜査報告書は,Aの犯人性を立証する上で,直接証拠又は間接証拠のいずれとなるか,理由を付して論じなさい。
〔設問2〕
下線部④に関し,Aの弁護人が保釈を請求するに当たり,検討すべき事項及びその検討結果を論じなさい。
〔設問3〕
(1) 公判期日に実施されたVの証人尋問において,検察官は,甲第2号証の下線部①のとおり Vに証言させようと考え,同人に対し,「そのとき,犯人は,何と言っていましたか。」という質問をしたところ,Vは,下線部①のとおり証言し始めた。Aの弁護人が,「異議あり。伝聞供述を求める質問である。」と述べたため,裁判官は,検察官に弁護人の異議に対する意見を求めた。検察官は,どのような意見を述べるべきか,理由を付して論じなさい。
(2) 公判期日に実施されたB子の証人尋問において,検察官は,甲第7号証の下線部②のとおりB子に証言させようと考え,同人に対し,「Aは,電話でどのような話をしていましたか。」という質問をしたところ,B子は,下線部②のとおり証言し始めた。Aの弁護人が,「異議あり。伝聞供述を求める質問である。」と述べたため,裁判官は,検察官に弁護人の異議に対する意見を求めた。検察官は,どのような意見を述べるべきか,理由を付して論じなさい。
〔設問4〕
Aの弁護人は,弁論が予定されていた公判期日の前日,Aから「先生にだけは本当のことを話します。本当は,私がVを刺した犯人です。しかし,母を悲しませたくないので,明日の弁論はよろしくお願いします。どうか無罪を勝ち取ってください。」と言われ,同期日に,Aは無罪である旨の弁論を行った。このAの弁護人の行為は,弁護士倫理上どのような問題があるか,司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。