Contract
ライセンス認証と プログラム使用許諾契約
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目次
1 はじめに
2 商品プログラムの複製・利用と制限
3 ライセンス認証の仕組みと回避・違反
4 商品プログラムの取引
5 権利侵害と損害と損害評価
6 おわりに参照文献
1 はじめに
コンピュータ・プログラムの複製物商品(以下「商品プログラム」という。)の違法複製技術の進歩は、その回避技術の進歩でもある。
商品プログラムの販売は、オンラインでのダウンロードによるものが主流となり、違法複製からの複製権保護技術も従来のコピー・コントロールから、ライセンス認証システムなどアクセス・コントロールに移る。商品プログラムが DVDなどの有体物媒体に格納される場合には、違法複製への対処は、その複製を物理的に制限するコピープロテクトの技術に依存していた。しかし、この技術では商品プログラムがオンラインで提供される場合の違法複製に対処できない。そのため、商品プログラムの複製後の実行を制限するライセンス認証(アクティベーション)システムが導入される。しかしその技術の回避事例も後を絶たない。商品プログラムの販売・流通方法の変化は違法複製技術とその回避技術の進歩を伴うが、これは同時に、商品プログラムの取引方法にも影響を及ぼす。
商品プログラムの違法複製による損害について著作xx(以下「法」)は推定
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規定を置く。侵害行為がなければ著作権者に見込めた販売利益(法 114 ①)、侵
害により侵害者の得た利益(法 114 ②)、著作権の行使につき受けるべき金銭の
額(法 114 ③)であり、ライセンス料がこれにあたる。ライセンス料は、使用料相当額を意味し、損害額の最低限を画する趣旨とされる。しかし、その理解について、学説・裁判例は分かれる。
商品プログラムには、使用に著作権者等の許諾を求めないタイプもあるが、本稿では、使用許諾契約を求めるタイプの商品プログラムの違法複製・利用を阻止するためのライセンス認証技術と認証プロセスの仕組みを概観した上で、商品プログラム取引における使用許諾契約、使用利益、著作権侵害の場合の「著作権者が受けるべき利益」の意義が商品プログラム取引の理解により異なるか否かについてそれぞれ検討する。
2 商品プログラムの複製・利用と制限
2. 1 複製
商品プログラムの複製には、物理的な複製と、複製先である電子機器(以下
「PC」)での商品プログラムの実行に必要な環境の整備を含めた複製を意味する
「インストール」がある。インストールには、商品プログラムに同梱される「インストーラ」が用いられる。インストーラは、複製後に商品プログラムの実行
(アクティベーション)を可能化するためのライセンス認証の申請や取得、記録プロセスの差配も自動的に行う。
商品プログラムのユーザーは、プログラムを PC に複製する際、シリアルナンバーの入力が求められることが多い。シリルナンバーは英数字の文字列で、この配列はメーカー毎の特有のアルゴリズムにより作成される。これにより商品の種類、バージョン、エディション、試用版か否か、サブスクリプション版か永久版かなどの種別が分かる。
シリアルナンバーは、従前は、商品プログラムのパッケージに同梱されて提供されていた。商品プログラムが複製された PC(プレインストール PC)では、シリアルナンバーが PC と一体として提供される。
しかし、商品プログラムがオンライン上で提供されるようになるとプログラム
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商品の販売方法も変化する。オフラインの小売店やオンラインショップを通じた
「商品プログラム」の販売は、シリアルナンバーが記載された紙等の媒体の売買により行なわれる。ユーザーがメーカーのウェブサイトから商品プログラムの試用版を取得する場合、シリアルナンバーは、試用期間の終了後に継続使用を求めるための情報となる。
使用可能期間や機能が制限される試用版(以下「試用版プログラム」という。)は、シリアルナンバーの入力を不要とするものが多い。但し、使用期間や機能に制限のない完全なプログラム(以下「製品版プログラム」という。)を実行しようとすれば、製品版プログラム用のシリアルナンバーの入力が求められる。
取引の対象がプログラムの複製物からシリアルナンバーに移行することで、今度はシリアルナンバーの複製が蔓延するようになる。xxxxxxxxは著作物に当たらず、その複製は旧著作権法上で複製権侵害とはならなかった。また、プログラムのインストール時に入力が求められる入力者の ID・パスワード等や回避マニュアル類の譲渡等の行為は、2018 年の改正前の旧不正競争防止法(以下
「不競法」という。)の技術的制限手段に対する不正競争には該当しない。
2. 2 複製の制限
著作xxは、複製権は著作者が専有すると定める(法 21)。ただし、利用者による個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内での私的使用目的での複製(法 30)、バックアップなど PC でのプログラムの実行に必要な限度での複製(法 47 の 3 ①)は、適法とされる。
これに対し商品プログラムが、自動複製機器を用いて行われる複製される場合
(法 30 ①Ⅰ)、プログラムの実行を制限する技術的保護手段を回避する仕組みが
施されることを知悉して行う複製(法 30 ①Ⅱ)、著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(法 30 ①Ⅳ)は、私的使用目的での複製とは扱われず、違法となる。
商品プログラムが媒体に格納されて提供される場合、複製の物理的制限として、 SCMS、CGMS、擬似シンクパルス方式(マクロビジョン方式)などのコピー・ コントロール技術が用いられる。また商品プログラムの違法複製を防止するため に、従来は、プログラムが格納された CD 等への信号の埋め込むコピープロテク
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ト技術が用いられていた。しかし、商品プログラムの販売が、格納媒体の移転か ら、ウェブサイトからのオンラインによるダウンロードに移行するようになると、商品プログラムの PC への複製を物理的に制限する手法の意義は次第に薄れ、商 品プログラムの違法利用規制は、複製制限から、後掲のアクティベーション制限 に軸足を移す。
2. 3 利用の制限
2. 3. 1 法的制限と物理的制限
著作xxは、利用者による著作物の利用については、著作権者等の許諾を求めない(法 30~47 の 8)。
著作権者は、商品プログラムの利用者に対し、登記・登録等の公示なしに、他者に対し、著作xxに定められた著作権(支分権)を行使できる。利用者は、著作権者との間の使用許諾による以外は、家庭での利用など私的使用(法 30)、バックアップの取得など、商品プログラムを PC で実行するに必要な限度(法 47の 3)での複製・利用ができるに止まる。
私的使用目的での複製が適法とされるのは、いかなる場合でも著作物等を利用するたびに、著作権者等の許諾を受け、使用料を支払わなければならないとすると、文化的所産である著作物等のxxで円滑な利用が妨げられ、文化の発展に寄与することを目的とする著作権制度の趣旨に反することにもなりかねないこと、著作権者が複製や貸与についての権利を有していれば、通常は、その行使により利益が確保でき、それを超えてさらに実行についての権利を認める実益は少ないと考えられたことによる。
2. 3. 2 契約上の制限
著作xxは、著作権者は、著作物の利用を他人に許諾することができる旨定める(法 63 ①)。著作権者は、PC にインストールされた商品プログラムの利用に先立ち、使用許諾契約の締結を求め、ユーザーがこれに応じない場合に、その後のプログラムを実行できない仕組みとする例が多い。著作権者が利用者に対し、商品プログラムの使用許諾契約の締結を求め、これに応じない利用者の商品プログラムの利用を物理的に制限することは適法とされる。
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商品プログラムの利用者は、私的使用目的の範囲で、著作権者の許諾を得ることなく自由に複製ができる、しかし、私的使用目的の範囲内の複製に当たるかどうかの判断は容易でない。プログラムメーカーは、使用許諾契約上で、商品プログラムの複製を 1 台の PC(CPU)に限る。例外として 2 台までの複製を認める場合でも、同一利用者が同時使用をしない環境下にある PC への複製に限る例が多い。
これに対しいわゆるボリュームライセンス(サイトライセンス)は、1 つのシリアルナンバーにより、許諾された本数の複製を許諾する商品である。また、プログラム開発者用の商品プログラムは、許諾された利用者に対し、複製本数は制限されないが、被許諾者以外の PC への複製と利用は制限される。
試用版プログラムの複製は製品の評価目的での使用に限られ、事業者が業務用途で保有する PC への複製を制限する例が多い。学校の教職員用に販売される、いわゆるアカデミックライセンスは、利用者にその取得時に身分証の提示が求められ、当該身分を保有するもの以外の者による複製は禁止される。
商品プログラムの取得者は、プログラムの使用は制限されない。しかし、上記のとおり商品プログラムの複製・利用について使用許諾契約が締結されれば、これに従い商品プログラムの使用が制限されることになる。
2. 3. 3 認証制限
利用者がインストールした商品プログラムを PC で実行するために、著作権者のライセンス認証を必要とする仕組みは、一般にライセンス認証(アクティベーション)システムと呼ばれる。その目的は、主に、著作権者が複製された製品プログラムのシリアルナンバーがxx品であること、使用許諾契約に定められる条件を満たす複製であることなどを判断できるようにすることにある。
ライセンス認証を必要とする仕組みは、著作権者に対し、認証プロセス中で、使用されたシリアルナンバーの有効性、許諾された本数の複製に収まるかどうかを確認する機会を提供する。これにより著作権者は不正なシリアルナンバー保有者による認証申請とプログラムの使用許諾の申込みを排除することができる。これは他面でシリアルナンバーを販売とは別に、利用者に対し、商品プログラムの複製・利用の対価を取得する機会を確保することができる仕組みでもある。
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3 ライセンス認証の仕組みと回避・違反
3. 1 ライセンス認証
試用版プログラムのライセンス認証1)は、製品版のシリアルナンバーを入力し、製品版として認証がなされることで、使用期間や機能等の制限なく使用が可能と なる仕組みである。これは、商品プログラムの複製を制限するコピー・コントロ ール技術ではない。商品プログラムが PC にインストールされた後、ユーザーが、プログラムを実行するために必要とされるもので、アクセス・コントロール技術 である。
著作権者はユーザーからの認証申請を受けると、インストールされた商品プログラムのシリアルナンバーが有効かどうかを判断する。そして、使用許諾される範囲内の台数への PC への複製本数であるかなどを確認の上ユーザー PC に信号を送信し、ユーザー PC がその信号を記録し、検知することで商品プログラムの実行が可能化される。認証申請から、アクティベーションのプロセスは、概ね次のとおりである。
商品プログラムが PC にインストールされた時点で、PC の記憶装置に未認証 の ID が生成される。ユーザーが著作権者、小売業者から入手した製品プログラ ムのシリアルナンバーを PC に入力することで、それに対応する未認証コードが 生成される。その後ユーザーの認証申請で当該未認証コードとインストール先 PC のハードウェア情報がハッシュ化され、そのデータがメーカーに送信される。メーカーはユーザーから送信されたデータと、自身のデータベースの記録を照合 し、シリアルナンバーが適法なものであること、当該ナンバーによる複製が許容 される PC 台数に収まることを確認し、ユーザーに認証済コードを送信する。
ユーザー PC が当該データを受信し、それが未認証コードに上書きされて記録され、ユーザー PC がこの既認証 ID を検知することで、商品プログラムが実行可能となる。これら一連の処理は、上述のとおり商品プログラムに同梱されたインストーラにより、自動的に行われる。
1)この仕組みは、マイクロソフトコーポレーションが 2002 年に発売した Microsoft OfficeXP から導入したとされ、Microsoft Product Activation と呼ばれる。
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3. 2 ライセンス認証の回避
ライセンス認証を回避させるためのプログラムは、一般に、クラック・プログラムと呼ばれる。これは、商品プログラムにより異なるものの、概略次のとおりの仕組みを持つ。
試用版プログラムは、デフォルトとして使用期間や機能制限が掛けられている。インストールが完了すれば、画面上で使用期間が表示され、ユーザーはライセン ス認証申請に誘導される。PC のインターネット接続を切った状態でクラック・ プログラムを実行し、指示される手順に従った処理を行うことで、xxxxx認 証が終了した旨が表示される。当初の使用期間が制限される表示はなされず、利 用者は期間制限のない商品プログラムを実行できる。すなわち、クラック・プロ グラムにより、メーカーの認証サーバが行うと類似した処理が行われ、既認証デ ータを生成し、それがユーザー PC に記録され検知可能となることで商品プログ ラムの実行が可能化されることになる。
このようなクラック・プログラムが商品プログラムの期間や実行を制限にかかわる dll(dynamic link library)、レジストリなどのデータの改変に利用されたことの違法性が争われたものに東京地判平 19・3・16(平 17(ワ)23419 号)がある。判決は、これを翻案権侵害としつつ、更に、これを「実質的に観察すれば、使用が制限された状態でインストールされていたモジュールをアンインストールし、使用が制限されない状態のモジュールを新たにコンピュータのハードディスクにインストールしたことと同視することができる」と判示する。これは、 dll 等のデータ改変を、規範的に商品プログラムの複製権侵害と捉えるものである。アクセスコントロールは、複製物へのアクセスを制限することで、複製の意味を実質的に失わせる機能を果たす。価値的に「複製」と認められるためには、複製物へのアクセスが可能でなければならず、それが損なわれる複製は、物理的にはともかく、価値的には複製の意味をなさない。複製物へのアクセスが可能となって初めて使用価値・交換価値を備えることとなる。その意味では、物理的に複製物へのアクセス制限を外す行為は、軌範的には複製に当たると言ってよい。上記判決は、この趣旨を明らかにしたものといえるのではないか。
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3. 3 ライセンス認証回避規制
著作xxは、著作xxを侵害する行為の防止又は抑止をする手段として技術的保護手段を定める(法 2 ① XX)。「技術的保護手段」とは、電磁的方法により、著作xxを侵害する行為を防止又は抑止するもので、複製、公衆送信、送信可能化などでの著作物等の利用を抑止又は防止する手段をいうが、デジタルコンテンツの視聴やプログラムの使用を制限するアクセス・コントロールは除外される。
「技術的保護手段の回避」とは、技術的保護手段に用いられる信号の除去又は改変を行うことで、技術的保護手段によって防止される行為を可能とするか、または当該技術的保護手段によって抑止される行為の結果に障害を生じないようにする行為をいう(法 30 ①Ⅱ)。ここでは、装置とプログラムの専用品が対象となる。プログラムとは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいう(法 2
①Ⅹの 2)。ライセンス認証システムは、PC へのプログラムの複製(インストール)自体は制限しない。ライセンス認証は、プログラムへのアクセス制限するに止まり、複製制限技術ではないことから、著作権法上の技術的保護手段に該当しないことになる。
2018 年改正著作xxは、私的使用を目的とする複製であっても、技術的保護
手段の回避により可能となった複製を行うことを権利制限の例外とした(法 30
①Ⅱ)。すなわち改正法は、私的使用複製が制限される例の一つに、技術的保護手段により防止される行為が可能となるか、それにより抑止される行為の結果に障害を生じないようにする手段の利用を挙げる。このような手段は、複製制限ではなく、複製されたプログラムのアクセス制限回避のために用いられるに過ぎない。これによれば、改正法は、アクセス・プロテクトの回避が、実質的・規範的にはコピー・プロテクト回避に当たるとした前掲東京地判平 19・3・16 の趣旨を法文化したものといえるのではないか。
改正法はさらに、技術的保護手段の回避のための専用機能を有する装置・プログラムの譲渡、業とする回避行為に刑事罰を科すとともに(法 120 の 2)、「技術的利用制限手段」についても定める(法 2)。これは、技術的保護手段のコピーコントロール技術とは異なり、アクセス・コントロール技術を対象とし、要件として著作物の複製を求めない。電磁的方法で著作物等の PC での実行を制限す
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る手段で、その実行に際して PC が特定の反応をする信号を記録媒体に記録・送信等する方式である。技術的利用制限手段の回避行為は、原則として当該技術的利用制限手段に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされ、違反行為には刑事罰が科される(法 113)。また、技術的保護手段の回避若しくは技術的利用制限手段の回避を行う機能を有するプログラムの複製物の譲渡、製造、輸入、所持、公衆送信、送信可能化行為はする行為に対しても刑事罰が課される(法 120)。
次に 2018 年改正不正競争防止法(不競法)は、技術的制限手段として暗号・ 信号方式を例示し、これを回避する機器やプログラムの提供を不正競争と扱う。 認証回避プログラム提供の不競法違反性は法改正の以前から、指摘されていた。 これに対し、行政解釈上で、アクティベーション方式の技術的制限手段性につい て、技術的制限手段である「信号」に含まれるか、その記録・送信のメカニズム が明らかでないなどの疑義が出されていた。所轄庁である経産省は、クラック・ プログラム提供の不正競争性について、検討はしていたとは思われるが、「電子 商取引及び情報財取引等に関する準則」上で、この点には触れられず推移した。 そしてようやく 2017 年 6 月に至り、上記準則に、「アクティベーション方式が 技術的制限手段に当たるかは「その内容・技術に応じて、個別具体的に判断され る」との記述が現われる。信号型技術的制限手段に該当するために必要とされた、プログラム「とともに」信号が記録されるとの要件が外されたのは、2018 年 5
月 23 日の不競法改正までずれこむ(不競法 2 条 8 号、法律第 33 号)。
改正不競法は、不正に作成されたか不正に入手されたシリアルコードなどの符号提供を不正競争に含めた(法 2 ① X Ⅶ)。法改正に至るまでの間、クラック・プログラムの販売に対しては商標法の適用が検討され、その違反を認める刑事判決に宇都宮地xxx判平 26・10・15、宇都宮地判平 28・6・24、東京高判平 29・3・22(以上裁判例集未登載)などがある。
クラック・プログラムの提供を不正競争と認める刑事判決は、宇都宮地判平 26・12・5(裁判例未登載)を皮切りとし、神戸地判平 27・9・8(平 27(わ)
161 号・平 27(わ)218 号・平 27(わ)467 号.)、長崎地判平 28・1・12、秋田地判平 28・7・1、神戸地判平 29・11・17(神戸地判を除き裁判例集未登載)などが続いた。民事裁判例には大阪地裁判平 28・12・26(平 27(ワ)
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7614 号)がある。このような多数の裁判例の集積を経てようやく 2018 年に至り上述の行政解釈について記述の変更がなされた。同年の改正不競法は、映像や音などのコンテンツに施される暗号などのプロテクト技術である技術的制限手段の効果を妨げる「プロテクト破り」を可能とする装置の提供等につき、保護対象にデータを追加するとともに、妨げる行為にサービスの提供等を追加した。
3. 4 ライセンス認証の商品プログラム取引への影響
商品プログラムが有体物の媒体に格納されて取引される場合には、違法複製の物理的回避はコピープロテクト技術で足りた。しかし、商品プログラムの複製物がオンラインで提供されるようになると、コピー・プロテクト技術の意味は薄れる。
上述のライセンス認証は、商品プログラムに関する著作権者の保護を、インストールの阻止ではなく、商品プログラムへのアクセス制限により物理的に達成しようとする仕組みの一つである。
ユーザーの使用許諾への同意は、商品プログラムが有体物に格納されて移転する取引形態(シュリンクラップ契約)では、インストールの前の商品パッケージの開封によりなされる。しかし、商品プログラムがオンラインで提供され、オンライン認証が求められるようになった以降は、プログラム実行に先立ち、使用許諾への同意が求められる(クリックオン契約)。このような使用許諾条項への同意は、プログラムの実行の物理的条件となる。
このような商品プログラムの著作権保護の方法の変化は、プログラム取引や、対価支払いの対象に影響するか。
4 商品プログラムの取引
商品プログラム取引は、利用者によるシリアルナンバー・商品プログラムの複製物取得、著作権者によるライセンス認証、使用許諾権者による使用許諾のプロセスを経る。それでは、これら一連のプロセスは契約法上は、どのように捉えられるのか。
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4. 1 商品プログラム取引
商品プログラムは、PC の記憶装置に複製されて使用される。販売の対象は上述のとおり商品プログラムの複製物から、そのインストールに必要な符号であるシリアルナンバーと変化している。
シリアルナンバーは、当初は商品プログラムの複製物に同梱され、提供されていたが、現在は商品プログラムのメーカーのウェブサイトからオンラインにより提供されるのが主流となっている。小売店舗等で提供されるのは、シリアルナンバーと、商品プログラムの複製物のダウンロード先サイトのアドレスが記載されたカードに止まる。商品プログラムの複製物の内容は、試用版プログラムと異ならない、従って、意味がある提供データとしてはシリアルナンバーのみということになる。
商品プログラムの複製物は、オフラインでは、格納された CD、DVD などの有体物、あるいは、PC にプレインストールされるか同梱されて提供される。オンラインではシリアルナンバーの購入に際して指示されたウェブサイトにアクセスしダウンロードする場合と、シリアルナンバーの購入を伴わず商品プログラムメーカーのウェブサイトから試用版を無償でダウンロードする場合とがある。
法 47 の 3 は、プログラムの著作物の複製物の所有者に対し、PC で利用するに必要な範囲での複製・翻案を認める。ここで、「プログラムの著作物の複製物の所有者」とは、商品プログラムが、DVD などの有体物に格納される場合の有体物の所有者を意味する。
ここでは著作者財産権の移転は、複製物の移転の形態をとる。プログラムの著 作物が格納された DVD やハードディスクなどは、「物」であるが、それに格納 された内容「著作物」は、「物」ではない。「物」とは有体物をいい(民 85)、有 体物とは、不動産と動産をいうから(民 86)、不動産以外の「物」は動産となる。民法は「物」を有体物に限るが、プログラムは有体物ではなく動産にも当たらな いことから、括りとしては、不動産、動産以外の財産権となる。従って、プログ ラムの著作物の移転とは、このような有体物の所有権の移転を意味することにな る。
商品プログラムの著作物の譲渡者と著作権者との間で使用許諾契約が締結されていれば、譲渡者の著作権者に対する権利・義務は、譲受者に移転する。商品プ
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ログラムの所有権を取得した者は、当該著作物を複製することができるが、複製物の利用権原取得時に、当該複製物が著作権侵害によって作成されたものであることを知っていた場合には、それを PC で使用する行為は、著作権侵害行為とみなされる(法 113 ⑤)。
当該商品の譲渡者は、原則としてその他の複製物を保有 PC から削除しなければならず、これを従前どおり保存することは禁止される(法 47 の 3 ②)。削除しないまま放置すれば、不作為による複製権侵害となる。
4. 2 商品プログラムの代価
商品プログラムが PC 上で実行可能化されるまで、一般的に、シリアルナンバーの取得、商品プログラムの取得、PC へのインストールとライセンス認証の取得、使用許諾の取得が必要となる。商品プログラムの対価は、このうちのどれに対するものであるのか。
国税不服審判裁決平 15・11・19(採決事例集 66 号 200 頁)は、所得税法第
161 条第 7 号ロに定める「著作権」を著作権法上の著作権と同義に解されるとし、「著作権の使用料」とは、著作物の複製その他著作物の利用につき支払を受ける対価の一切をいうとする。
それでは、「著作物の複製その他著作物の利用につき支払を受ける対価の一切」とは具体的に何を指すのか。商品プログラムの複製から利用に至るまでに必要な処理と合意は、相互に密接に関連する。商品プログラム取引において、その利用者が著作権者に支払う代価は、何に対するもので、どの時点で著作権者に帰属するのか。これについて、シリアルナンバー取得の対価とするもの、使用許諾の対価とするものがありえる。
4. 3 シリアルナンバー取引に着目するもの
シリアルナンバーは、一般的には商品プログラムのメーカーである著作権者が販売する商品である。商品プログラムが CD、DVD などに格納されて販売される取引では、商品プログラムの PC へのインストールに先立ち、シリアルナンバーの入力が求められることから、シリアルナンバー取引は、著作権者に対し商品プログラムの「複製許諾」を得る地位の売買という意味合いを持つ。
ライセンス認証とプログラム使用許諾契約
商品プログラムが商品プログラムのメーカーなどのウェブサイトからオンライ ンで提供される場合は、そのダウンロードに先立ちシリアルナンバーの入力が求 められることはない。シリアルナンバーの入力は商品プログラムの複製ではなく、インストール後のライセンス認証申請を行うために求められるに過ぎない。この 点に着目すれば、ライセンスナンバー取引は、ライセンス認証を取得する地位の 売買と考えることができる。しかし、xxxxxxxxの取得者が商品プログラ ムを PC で「実行」するためには、ライセンス認証取得に加えて、著作権者の使 用許諾が必要となる。従って、シリアルナンバー取引は、ライセンス認証を得る 地位、及び、著作権者に対する使用許諾申込を行う地位の取引となる。
以上からすれば、シリアルナンバー取引は、利用者が著作権者に対し、商品プログラムの使用許諾を申し込む権利の売買であり、その代価はそのような申込権の売買代金に過ぎないことになる。これをもって商品プログラムの取引と考えることはできない。
4. 4 使用許諾契約に着目するもの
利用者が商品プログラムを PC 上で実行するためには、著作権者との間の使用許諾契約の締結が必要となる。
これについて、一つの考え方は、商品プログラムの利用者と著作権者との間の売買合意の履行は、シリアルナンバーの利用者への提供で終了するとするものである。この考え方は著作権者の使用許諾は、商品プログラムを PC 上で実行可能化するための停止条件に過ぎず、シリアルナンバーの売買契約とは異な別個の契約とは捉えない(「停止条件説」)。これによれば、シリアルナンバーの売買代金は、同時に使用許諾というサービス代価を含み、シリアルナンバー代金として支払われた時点でその代価は、著作権者に帰属することになる。
もう一つの考え方は、商品プログラムの使用許諾契約は、シリアルナンバーの売買契約とは別の役務提供契約と考えるものである(「別個契約説」)。これによればxxxxxxxx取引は、利用者に対して、使用許諾契約の申込者たる地位の売買と捉えることになる。これは金融商品のオプション類似の権利売買と考えるもので、利用者が支払う代価は、オプション料に当たる。
利用者による使用許諾の申込みは、このようなオプションの権利行使にあたり、
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シリアルナンバーの対価をプログラム使用料に振り替えるか、充当する趣旨を含む。著作権者に対しオプション権を行使するかどうかは利用者の自由であり、利用者の権利不行使は、オプション権の放棄となる。利用者は、xxxxxxxxを得ることでxxxxx認証を得る地位を既に取得済である。従って、利用者が使用許諾の申込みをしない場合でも、著作権者に対してxxxx・xxxxの代価の返還を求めることはできない。
4. 5 検討
使用許諾契約説中の停止条件説は簡明である。しかし、まず、xxxx・xxxx売買時に、著作権者から利用者に商品プログラムの使用許諾条件が呈示されるわけではないことから、xxxx・xxxx取引に、その後の商品プログラムの使用許諾契約が含まれ、著作権者の使用許諾は単なる停止条件とすることには無理がある。
次に、著作権者が使用許諾せず、停止条件が成就しない場合でも、代価が著作権者に帰属することの説明が困難となる。これに対しては、xxxx・xxxx売買時に条件不成就の場合の代金不返還特約が結ばれたとする説明ができなくはない。しかし、シリアルナンバーの売買時に、使用許諾条項と同様、この特約条項が呈示されることはなく、この解釈には無理がある。
そして、シリアルナンバーの売買が、著作権者との間の商品プログラムの使用許諾契約を含むとすれば、重ねて、シリアルナンバー取引とは別に著作権者との間の使用許諾契約を締結する必要はない。シリアルナンバー売買時に使用許諾条項を呈示し、その承諾を得れていれば足りるがそのような仕組みにはなっていない。
この問題の検討に際して留意なければならないのは、無効なシリアルナンバー が利用される場合でも、クラック・プログラムの使用でライセンス認証の取得が 可能となることから著作権者は使用許諾締結前に、シリアルナンバーの有効性を 確認する必要がある点である。すなわちシリアルナンバー取引と使用許諾契約は、一連一体のものではない。これがシリアルナンバーの売買と使用許諾契約の締結 が分離されるべき理由であり、シリアルナンバー売買とは異なる使用許諾契約を 別途、観念すべき必要性を示す。
ライセンス認証とプログラム使用許諾契約
それではこのような、シリアルナンバー取引と使用許諾契約の関係は、商品プログラム取引対価や著作権侵害の損害の捉え方に影響するか。
5 権利侵害と損害と損害評価
5. 1 不法行為と損害推定
著作権侵害は、民法上は不法行為(民 709)を構成する。著作権侵害がなされた場合の損害額算定について著作xxは、推定規定を置く。これにより、上述のとおり著作権侵害により著作権者が販売機会喪失利益(法 114 ①)、侵害によ
り侵害者が得た利益(法 114 ②)、その他、侵害がなければ「受けるべき金銭の
額に相当する額」(法 114 ③)の推定が働く。侵害者は、法 114 ①及び同②の適用に対し、減額事由の主張、実際の損害額の反証が可能である。しかし、114
③の適用が求められた場合はそれができない。「受けるべき金銭の額に相当する額」とは、著作物等の使用料の額であり、算定方法が複数ある場合は、そのうちの最も高い額とされる。侵害者が利益を受けていなくとも、使用料相当額を最低限の損害賠償額として保証した規定とされる。
5. 2 法 114 ③の「利用に対し受けるべき金銭の額」の意味
同項の適用が求められる場合、著作権者は、「侵害者の譲渡数量」に「権利者が単位数量当たり受けるべき金銭の額」を乗じることで損害額を算出することになる。そのうち、「権利者が単位数量当たり受けるべき金銭の額」は客観的に相当な使用料相当額をいい、損害算定の基礎を、原則として逸失利益に求めるのが裁判例の傾向である。
例えば、知財高判平 28・6・23(平 28(ネ)10026 号)は、「114 条 3 項は著作権者等が最低限の賠償額として使用料相当額(逸失利益)を請求することができる旨を定めたものであり、その額については、当該事案における個別具体的な事情をしん酌して適切な金額を認定するのが相当である」と判示する。
これに対し、法 114 ③は、元々通常受けるべき金銭の額を損害額として定めており、侵害者との間に想定される個別具体的なライセンス料額を問題としているとは読めないとし、本項が逸失利益以外の損害概念を前提としているとの主張
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がある(xx、2011. pp. 328―330)。
5. 3 商品プログラム違法複製に関する裁判例
商品プログラムの違法複製に関する訴訟において、販売利益相当額(法 114
①)の推定規定の適用を求める例も見けられないではない([東京地判平 14・ 10・31(平 13(ワ)22157 号)。しかし、同判決以降は、法 114 ③の適用を求めるものがほとんどである。
同項の「受けるべき金銭の額に相当する額」については、損害額算定の基礎を著作権者の定める標準小売価格に求めるが太宗を占める(東京地判平 13・5・ 16、大阪地判平 15・10・23(判時 1883 号 104 頁)、大阪地判平 28・3・24、
(平 27(ワ)7614 号)、公衆送信権侵害に関する前掲東京地判平 30・1・30 など)。
これに対し、東京地判平 27・2・12(平 26(ワ)33433 号)は、被告が本件ソフトウェアの違法複製版をダウンロード販売した事案である。判決は「本件ソフトウェアを複製した商品を販売する者から原告が受けるべき使用料相当額を算定すべきであるところ、本件においては、著作権者の標準小売価格を前提としてこれに相当な実施料率を乗じて使用料相当額を算定するのが相当であると解される。」とし、ソフトウェア等の技術分野における実施料率に関する統計データに加えて、被告による侵害行為の態様が本件ソフトウェアのアクティベーションを無効化して実質的に同一のプログラムを販売したという悪質なものであることなど本件に現れた一切の事情を考慮し、実施料率を 50 パーセントと認めるのが相当であるとした。
しかし、その控訴審の知財高判平 27・6・18(平 27(ネ)70339 号)は、原審判断を覆し、著作権者による直接の販売価格が標準小売価格の最高価から 10
% ディスカウントされていた事情を考慮し、これに基づいて著作得権者が受けるべき使用料相当額を算定し、原審判断を覆した。これは、著作権者が受けるべき使用料額として、標準小売価格を基準とする裁判例の傾向に沿うものである。また同判決は、著作権者のソフトウェアの一部を改変しインターネットオーク
ションサイトに出品し、そのプログラムファイルをウェブサイトにアップロード、落札者にダウンロードさせたことが著作権侵害とされたケースである。判決は、
ライセンス認証とプログラム使用許諾契約
ソフトウェアの販売方法・態様、ソフトウェアの使用許諾書の内容、定価(19万 9500 円)、ソフトウェアが定価から 10% 割引がされていること(17 万 9550 円)、著作権者がダウンロード販売をしていないこと、侵害行為の態様や違法性の高さ、市場への影響等の諸般の事情を総合考慮し、17 万 9550 円に著作権者ソフトウェアの販売数量を乗じた額を使用料相当額と認定している。
5. 4 商品プログラム取引の性質と損害
商品プログラム取引の代価を、シリアルナンバー取引時に支払われる対価と捉える考え方は、法 114 ③の「受けるべき金銭の額に相当する額」の基礎を、逸失利益に求める考え方と整合的である。
東京地判平 30・1・30(平 29(ワ)31837 号)は、「受けるべき金銭の額に相当する額」について、プログラム販売者やxx購入者に対して与える影響も考慮すべきとして、xx品の標準小売価格とする。同判決は、侵害者が、両商品の価格差等を考慮すれば、仮に被告の行為がなかったとしても原告が本件ソフトウェアを(対象本数分)販売できたとはいえない旨の主張に対し、「本件における被告の行為態様の悪質性に鑑みれば、このような理由で損害額を減額するのは相当ではない。」と判示する。
これに対し、商品プログラム取引の対価を、シリアル・ナンバー販売時の代価ではなく、使用許諾を求める地位の対価と考える立場によれば、損害をシリアル・ナンバー販売の逸失利益に限る必要も合理性もない。商品プログラムの使用許諾の対価として相応しい額かどうかが基準とされるべきことになる。使用許諾の対価は、シリアルナンバーの対価とは異なり、著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められる「権利の行使につき受けるべき金銭の額」は、通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になる。これによれば、著作権者が既に支出した複製防止対策費用などを加算して算定する余地がある。
商品プログラムの違法複製事案に関する大阪地判平 28・3・24(平 27(ワ) 7614 号.)は、法 114 ③にいう「著作権……の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」について、「利用許諾契約(ライセンス契約)を締結した場合の利用許諾料(ライセンス料)を参酌するとしても、権利者は当該侵害者との関係で必ず利用許諾契約の締結に応じなければならないわけではなく、むしろそのx
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約締結に応じるか否かの自由を有していることも踏まえて算定されるべきであ」ると判示する。
この判決は、損害の認定を商品プログラムの利用許諾の対価に引き付けて捉えるもので、従来のシリアル・ナンバーの対価を基礎とする損害認定とは、異なる立場を取るように思われる。
商品プログラムの使用許諾が、複製やシリアルナンバー売買と切り離されれば、違法複製者による利用の損害評価はより自由な観点から可能となる。すなわち、 著作権者において、複製権限を有しない侵害者との間で「使用を許諾することが できる自由」下で、遺失利益としての使用料相当額とは異なる基準で損害を評価 できる余地がある。
前掲東京地判平 30・1・30 は、「顧客に対し、本件ソフトウェア及びそのアクティベーション機能を担うプログラムのクラック版(いずれも原告の無許諾)のダウンロード先をあえて教示し、かつこれらの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供し、その結果、顧客が、本件ソフトウェア(無許諾品)を入手した上、本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避してこれを実行することができるという結果をもたらし」たと認定する。そして、「本件ソフトウェアの一部に原告の許諾なく改変し(アクティベーション機能の回避)を加え
(本件ソフトウェアの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、変更等を加えて新たな創作的表現を付加し)、同改変後のものをダウンロード販売したものと評価できる」とした。この判決は、損害評価をシリアル・ナンバー販売ではなく、使用許諾契約締結に先立つ、ライセンス認証の詐取に引き付けて捉える。
また、現実に適用されている再放送使用料の 1.5 倍の額を有線放送権侵害に基づく損害額に認定したものに知財高判令 1・10・31(平 31(ネ)10018 号)がある。判決は、法 114 ③を、著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者、著作隣接権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であるとし、2000(平 12)年の著作xx改正前の規定の文面である「通常受けるべき金銭の額」では
「侵害のし得になってしまうとして、同改正により「通常」の部分が削除された経緯があ」り、「かかる法改正の経緯に照らせば、著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべきで、これらの権利の行使につき受けるべ
ライセンス認証とプログラム使用許諾契約
き金銭の額は、通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。」と判示する。
判決は、事案に対する判断では「被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額、控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて、控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利用xx契約に関する交渉経緯など、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべきで、本件での利用に対し受けるべき金銭の額は、被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2 者契約)をベースとし、そこに定められた額を約 1.5 倍した額……を下らないものと認めるのが相当である。」と認定した。
同判決も、法 114 ③の損害を、事後的に定められるべき利用に対し受けるべき金銭の額の算定に際し、使用料のみならず、侵害者と権利者との間の使用許諾に関する基本合意を、事後的に考慮すべき事情に組み入れたものと評価できるのではないか。
6 おわりに
商品プログラムに関する著作権者と利用者間の取引は、一般に、シリアルナン バーの売買と把握されることが多い。商品プログラムの利用者がシリアル・ナン バーを取得する目的は、同プログラムを PC 上で実行することにある。その目的 は著作権者に対し使用許諾を求め、許諾が得られなければ果たすことができない。実際の取引のプロセスを精査すると、利用者によるシリアルナンバーの取得は、 その機能からすれば、著作権者からのライセンス認証と使用許諾を得るための地 位を取得するに過ぎない。ライセンス認証回避を目的とするクラック・プログラ ムの販売による著作権侵害の実体は、著作権者の使用許諾権の侵害であり、使用 許諾の詐取に他ならない。商品プログラムの違法複製に対する損害評価も、この ような商品プログラム取引の実情理解に即して行う必要がある。
以上
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