PART1
契約とは何かを知ろう
PART1
1
契約の成立
わかりました
POINT
・契約とは、「約束、合意」のことである
・原則として、契約は書面がなくても口頭で成立する
契約の拘束力は約束した人にのみ発生する
• ①と②があれば契約は成立する
この商品をください
①申し込み
②承諾
100 円
• 口頭のやり取りで契約は成立する
契約とは、簡単にいうと、「約束、合意」のことです。法律的な定義はともかくとして、「約束イコール契約」と考 えてもらえばよいでしょう。
契約はなぜ守らなければいけないかというと、「約束したからである」といえます。つまり、約束していない人にとっては何の効力も生じないのが契約
であり、契約の拘束力は、約束した人
(契約当事者)の間にのみ発生することになります。
そして、契約は、①契約を締結した いという申し込みと、②その申し込みに対する承諾という2 つがなされることによって、有効に成立します(民法 522 条1 項)。
日常的に締結している契約の例
例 1
コンビニエンスストアでジュースを買う
例2
レストランで食事をする
契約成立に契約書の締結などは不要
➡ ジュースの売買契約の締結 ➡ 食事の役務提供契約の締結
契約は、申し込みと承諾があれば成立するため、そこには契約書の締結や発注書と発注請書のやり取りといった手続きが必要なものではありません
(民法522 条2 項)。つまり、契約は書
面のやり取りなどがなされなくても、 口頭で申し込みと承諾があれば、成立します。
日常生活において、人はだいたい1
日平均10 個近くの契約を締結・履行しているといわれています。例えば朝
起きてコンビニエンスストアで飲み物を買うのは飲み物の売買契約を締結して履行していることになります。ほかにも、タクシーに乗るのは目的地まで旅客を運送するという契約を、レストランで食事をするのはお客が注文する食事という役務を提供する契約を、それぞれ締結して履行しているといえます。このような日常生活の契約の締結は、すべて口頭で行われているというのが特徴です。
例3
TAXY
タクシーに乗る
➡ 旅客運送契約の締結
Keyword
ONE 広告は、申し込みではない
広告などは、特定の相手に対する意思表示ではありません。このため、例えば、広告に応じて来店された消費者が、契約を成立させたいという意思表示を行ったとしても、それは申し込みに過ぎず、店が承諾をしない限り契約は成立しません。
申し込み 契約の内容を示して、その締結を申し入れる意思表示。
承諾 申し込みに応じて、契約を成立させるという意思表示。
契約書の日付
PART1
POINT
・書面に記載する日付は、本来は書面の作成日付である
・契約書の作成日付が誤っていても、特に問題にはならない
契約書の日付の記載例
(合意管轄裁判所)
第 14 条 本契約に関連して生ずる売主と買主間のすべての紛争、請求および反対請求については、東京地方裁判所を専属的な第
xxの管轄裁判所とする。
以上を証するため、売主及び買主は本契約書を 2 通作成し、それぞれ 1 通ずつ保有・保管するものとする。
契約書の日付は、通常、書面の最初ではなく、最後の記名押印欄のすぐ上に記載されることが多い。
令和○○年○○月○○日
その理由は、記名押印が完了した日を記載するこ
とが、本来の日付の意味であるため
売主 ・・・・・・・・・・・・・・・・
買主
・・・・・・・・・・・・・・・・
第2章
一般的な契約書の様式
本来、日付は契約書の作成日付を記載すべき
契約書の記載として、当事者が記載したいと考える日付は、右ページ下表の3 つのいずれかとなります。
本来、契約書に記載すべき日付は、Aの契約書を実際に作成・締結した日です。
もっとも、実際に契約書に記載されている日付は、Bの契約書の証する契
約が成立した日、または、Cの契約書 の証する契約の効力発生日であることが多いです。その理由は、取引開始後に契約書を作成・締結することも多いものの、取引開始時点から契約書が作成・締結された外形を残しておきたいという要請があるからと考えられます。
実務上は、実際に記名押印が完了した日とは異なる日付が記載されていることも多いです。
契約書の作成日付とは異なる日付が記載されていたら?
契約書に記載したいと考える日付
BまたはCの日付を契約書に記載している場合、実際に契約書を作成・締結した日とは異なる日付が記載されていることになります。ただし、このように誤った日付の記載がなされていたと しても、それ自体で、契約書が契約を証明する証拠能力を失ったり、この契約書が証明する契約が無効になったりはしません。単に当事者において、作成日付が間違っている契約書を作成・締結したという事実が残るに過ぎません。
実務上は、特に意識して何らかの付記等がない限り、通常は、契約書に記載された日付は、Aのみならず、Bお
よびCのいずれにも解釈され得ます。なお、契約書に記載する日付とは別 に、契約書に確定日付を付与することができます。具体的には、公証役場に請求し、公証人が締結された契約書に
ONE 契約の有効期間を定める条項との関係
契約の有効期間を定める条項として、「本契約の有効期間は、本契約締結日から●年間とする。」という条項が定められる場合があります。
このような条項を定めた場合の「本契約締結日」とは、契約書における日付を意味するものと解釈されることが一般的です。
A | 契約書を実際に作成・締結した日 |
B | 契約書の証するところの契約が成立した日 |
C | 契約書の証するところの契約の効力を発生させる日 |
確定日付印を押印することによって、契約書に確定日付が付与されます。これにより、締結された契約書が、少なくともその確定日付印が押印された日付に存在したことが公に証明されることになります。ただし、確定日付はあくまで「日付」を確定するものであって、契約書の内容等を証明するものではありません。
契約書に印鑑を押印する場面
PART1
POINT
・契約書へ押印する場面は、記名押印のみではない
・リスクヘッジのための押印は、積極的に利用すべき
印紙税の納税方法 42 ページで説明した
印紙税の納税に必須
消印
納税の場面
後日訂正印を押さなくてよいように事前に押しておく
捨て印
書き直し、書き加え、削除等がある箇所に押す
訂正印
加除修正の痕跡が残ってしまう場合の押印
同じ内容の契約書を複数作成した時に押す
割り印
契約書が複数枚になるときに両ページにまたがって押す
契印
形式を整えるための押印
第2章
一般的な契約書の様式
契約書に押印をする3 つの場面
契約書に印鑑を押印するのは、必ずしも記名押印の場面だけではありません。大きく分けると、①契約書の形式を整える場面、②契約書の記載上、加除修正の後を残してしまう場面、③納
税の場面の3 つになります。
なお、これらの場面で押印に用いる 印鑑は、必ずというわけではありませ んが、記名押印の際に用いた印鑑と同 じ印鑑を用いることが通常の実務です。
契印、割り印
●契印
袋とじ
印
印
契約書
P 1
印
印
P 2
①契約書の形式を整えるための押印
1 つ目が、契約書の形式を整えるために使われる押印です。この形式を整
けい
えるための押印としては、1 つ目が契
印という制度、2 つ目が割り印という制度になります。実際の形式は右ページに記載しているとおりですが、この 2 種類の押印は、契約書を作成・締結する際に必ずしなければならないというものではありません。
契印・割り印は、一旦作成・締結した契約書が後に偽造されることを可能な限り防ぐという観点から、利用されている制度です。例を挙げましょう。契約書が1 ページではなく複数ページにわたっている場合には、複数の紙をホチキスで留めて綴じるか、袋とじにしてテープなどで包む形で綴じることが
行われます。もっともホチキスで留めて綴じた場合には、署名または記名押印がなされるページの紙は別として、それ以外の紙についてはホチキスを外して他の紙に差し替えて契約書を偽造することが物理的にはできることになります。このような場合に、すべての紙にまたがって契印をしておけば、他の紙に差し替えることができないことになります。
このため、リスクヘッジの観点から利用したほうがよいというものです。実務上は、割り印はそれほど多く用いられていませんが、契印は多くの企業において契約書を作成・締結する際に利用されています。
●割り印
契約書
印 印
契約書
契約書における「割り印」は複数の文書にまたがって印影が残るよう、印鑑を押す方法のことです。それらの文書が同時につくられ、同じ内容であることを示すために用いられます。
約款とは何かを知ろう
PART1
①
契約書
契約書
契約書
契約書
②
POINT
・約款とは、定型的な内容の取引条項をいう
・約款の典型例として、会員規約や利用規約などがある
3
第 章
約款は、大量の同種取引を行うための重要なツール
契約を締結する場面や締結する契約内容は、さまざまです。1 対1 で締結する場合もあれば、複数の当事者で締結する場合もあります。「約款」とは、大量の同種取引を迅速かつ効率的に行うために作成された、定型的な内容の取引条項をいいます。なお、同種取引については、異なる相手であっても同一の契約内容とする場合も相手方に応じて異なる契約内容とする場合もあります。
日常生活においても、無意識に約款 を目にし、あるいは約款に基づいて取 引を行っているのではないでしょうか。例えば、昨今生活に不可欠な存在と なっているインターネット上の通信販 売サイトを利用する場合、利用にあ たって会員規約や利用規約への同意を 求められることがあると思います。こ ういった会員規約や利用規約は、一般 的に約款に該当すると考えられます。
特殊な契約書と契約の履行を強制する手段
同種取引において相手方が異なる場合、①のように同一の契約内容とするときもあれば、②のように相手方に応じて異なる契約内容とするときもあるが、①のように同一の契約内容とするときに約款を用いる
インターネット上の通信販売サイトにおける会員規約
民法改正による定型約款の登場
このように約款に基づく取引は至るところで行われてきましたが、約款については、いくつか問題点が指摘されていました。例えば、①個別の条項(契約内容)を認識していないと、合意内容にならないのではないか、②契約締結後に一方の当事者が一方的に変更した内容は契約内容にならないのではないか、という点です。
そこで、2020 年4 月施行の民法改正
において、「定型約款」の規律が新設さ れるに至りました。次節以降で詳しく
説明しますが、対象は「定型取引」に 限定されています。定型取引とは、①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、②その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいいます。①は相手方の個性を重視せずに多数の取引を行うケースを抽出するための要件であり、②は定型約款を細部まで認識していない者を拘束することが許容されるケースを抽出するための要件と考えられています。
会員規約に同意して会員登録することにより、通信販売サイトを利用することができるようになるところ、当該会員規約は約款に該当すると考えられる
契約の履行を強制するためには
PART1
①債務名義を取得する
訴訟提起
POINT
・契約を締結したとしても、それだけで履行を強制できるわけではない
・契約の履行の強制には「債務名義」が必要となるのが原則
判 決
契約の履行の強制には債務名義が原則必要
債権者
裁判所
債務者
3
第 章
特殊な契約書と契約の履行を強制する手段
裁判所の確定判決
現行の法制度を前提とする限り、原則として、単に契約を締結しただけでは、その契約の履行を強制的に実現することができるわけではありません。そして、契約書はあくまで「証拠」に過ぎず、契約書があるからといって、それだけでは「強制執行」をすることは
できません。
このため、契約の履行を強制的に実 現するためには、裁判を提起して勝訴 判決を得るなどの手続を行 い、債務名義を取得する必要があるのが原則です。
「債務名義」の代表例としては、裁判の確定した勝訴判決が挙げられます。
強制執行手続により契約の履行を強制
②債務名義をもって強制執行の申立てをする
申立て
合意内容をそのまま「債務名義」にする方法
債権者
裁判所
合意した内容をそのまま「債務名 義」にする方法としては、①xx証書の利用 ②即決和解手続の2 つが考えられます。
①は、契約の内容を「xx証書」により明らかにするという手続です。xx証書とは、公証役場で公証人に作成してもらう証書です。このうち、執行証書にあたるxx証書については、このxx証書のみをもって強制執行をすることが可能です。ただし、これは金銭の支払等を目的とする請求の場合のみとなります(次節参照)。なお、xx
証書の原本は公証役場にあるので、紛失等した場合であっても、再発行をしてもらうことができます。
②は、紛争が存在しているとき、話し合いの結果として、当事者間で紛争解決のための和解ができた場合に、その和解内容について債務名義を得る手続きです。簡易裁判所への申立てにより行うことができ、和解期日に両当事者が出頭した上、法廷で和解を成立させることになります。登記や動産引渡し、不動産明け渡しについても強制執行ができるのが特徴です(3-09)。
債務名義(民事xxx 22 条)
Keyword
①確定判決
②仮執行の宣言を付した判決
③抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあっては、確定したものに限る)
④仮執行の宣言を付した損害賠償命令
⑤仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
⑥仮執行の宣言を付した支払督促
⑦訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律第 29 条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は民事xxx第 42 条第 4 項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあっては、確定したものに限る。)
⑧執行証書
⑨確定した執行判決のある外国裁判所の判決
⑩確定した執行決定のある仲裁判断
⑪確定判決と同一の効力を有するもの(③に掲げる裁判を除く)
債務名義 強制執行を行う際に前提として必要となる債権の存在等を証明する公的機関が作成した文書のこと。
「何をするのか」についての条項のつくり方
PART2
POINT
・「何をするのか」を明確に記載するためには、5 要素に着目
・5 要素のうち、主体を選択、決定することが最重要
誰は
(主体)
1
5 要素ごとに、読点で区切った文節でつくる
5
~する
(行為内容)
5 要❹
2
誰に対して
(客体)
4
~を
(目的物)
3
~の場合に
または
~の時に
(時制)
4
第 章
契約書の内容① 履行すべき事項に関する条項
簡単なつくり方は「5 要素」でつくること
契約書の条項の「書き方」について、こう書かなければならない、という ルールがあるわけではなく、前節で説 明したように明確に記載してあれば何 も問題はありません。
ただし、明確に記載するための1 つの方法として、右ページに記載されて いるような5 要素ごとにつくっていく方法があります。
主体の選択における3 つのルール
この5 要素で条項をつくるにあたり、一番重要なことは、主体の選択です。この主体の選択にあたっては、3 つの ルールを守ることが重要です。
1 つ目は、主体は必ず契約当事者である必要があることです。契約は契約当事者の間でのみ効力を有するものですので、契約において契約当事者ではない第三者が「●●をする」と記載しても、何の効力も発生し得ないことになります。
2 つ目は、できる限り主体を単独で
条項をつくることです。例えば、売買契約の履行の場面では、通常、目的物の引渡しと代金の支払いが同時に行われます。このような場合には、売主は買主に対して目的物を引渡すという条
項と、買主は売主に対して代金を支払うという条項を、それぞれ作成することを意味します。理由は、主体を複数にして条項をつくろうとすると、その詳細についてどちらが責任をもって履行するのかを明確に記載することが困難となるからです。
3 つ目は、可能な限り義務者を主体
とすることです。言い換えれば、条項は、受け身の文章ではなく、能動態の文章で記載するということです。
なお、「~する」という文言におい て、「~しなければならない」とか「~ する義務がある」という表現にする必 要はありません。契約書の条項として、
「~する」と記載すれば、~する債務を 負担することになります。
● 5 要素で構成されている条項例
❷客体
(代金の支払条項)
🅔時制
➍目的物
❶主体
、××に対して、令和●●年◇◇月末日限り、本件業務委託の対価である金●●円を、下記銀行口座宛に振り込む方法により支払う。
❺行為内容
記
○○は
日本語の表現として、5 要素の順序が変わっても問題はありませ ん。ただし、受動態で条項をつくることは望ましくありません。
契約不適合責任に関する条項
(契約不適合責任条項や保証条項)
PART2
●契約不適合責任の内容
POINT
・契約不適合責任を行使できる期間が民法上定められている
・契約不適合に関する契約条項では民法の原則の修正を検討する
契約不適合を理由として契約を解除できる
契約不適合により生じた損害賠償を請求できる
きに、契約不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる
売主に履行の追完を請求したが履行の追完がなされないと
目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しによる履行の追完を求めることができる
①履行の追完請求
②代金減額請求
③損害賠償
④解除
契約不適合責任とは
物や権利等を供給する契約(売買契約や請負契約など)において、供給さ
5
第 章
とができます。例えば、売主が、買主に対して、ある品物を10 個売るという
※ただし、契約不適合が買主の責による場合は、契約不適合責任を売主に請求することはできない
民法と♜法で定められた契約不適合責任の行使可能期間
以下のうち、いずれか早い時点で契約不適合責任を追及する権利が消滅する
れる物や権利が、当初の契約の内容に 照らして、種類、品質、数量が十分でない場合を「契約不適合」といいます。そのとき、供給者(売主・請負人)が負うのが契約不適合責任です。
提供された目的物や権利に契約不適合がある場合、受領者(買主・注文者)は、民法上、①履行の追完、②代金減 額、③損害賠償、④解除を請求するこ
売買契約を結んだ場合に、実際に提供されたその品物が(ⅰ)契約で約束された品物と異なる品物を提供された場合、(ⅱ)契約で定められた品質に満たないものが売られた場合、(ⅲ)契約で定められた数量に不足する場合に、買主が売主に対して、契約不適合責任を追及して上記①~④の措置を請求することができます。
①目的物の「品質や種類」についての契約不適合について、「買主が契約不適合を知ったとき」から 1 年以内に通知しなかった場合に、その 1 年が経過した時点(民法上の契約不適合責任の通知期間)
②(商★間の売買の場合)商法 526条により物の引渡し時に検査が必要であり、そのときに発見できた契約不適合は直ちに通知しなければ契約不適合責任が消滅する
引渡し
検査
すぐに発見できた契約不適合を通知しない場合は消滅
引渡し
買主が
1 年
この期間に通知をしなければ契約不適合責任が消滅
契約不適合を知ったとき
権利消滅
権利消滅
民法上の契約不適合責任には期間制限がある
契約書の内容② トラブルに備える条項
③(商★間の売買の場合)商法 526
契約不適合責任には、法律上、これを行使できる期間が決まっています。まず、契約不適合責任(目的物の「品 質や種類」に関する事項)については民法上の「買主が不適合を知ったと
き」から1 年以内に通知しなければ、
権利が消滅すると規定されています。さらに、商人間の売買契約には、商
れる契約不適合は直ちに通知しなけれ ば以後責任を追及できません。その後に見つかった契約不適合も6 カ月以内に通知しないと責任を追及できなくなります。
また、上記のほか、民法上の消滅時効も適用される場合があり、「権利を行使することができることを知ったと
条により、直ちに発見できない目的物の種類または品質に関する契約不適合責任についても、引渡しから 6 カ月以内に契約不適合を通知しないと契約不適合請求権が消滅する
④権利を行使することができることを知ったとき(主に、買主が契約不適合の存在を知ったとき)から 5 年(民法上の消滅時効)
引渡し
5 年
検査 6 カ月
すぐに発見できない契約不適合は 6カ月以内に通知しない場合は消滅
引渡し
権利消滅
買主が
契約不適合を知ったとき
権利消滅
法526 条によりさらに厳しい期間制限があります。買主は受領した目的物の検査をする義務があり、そこで発見さ
きから5 年」または「権利を行使することができるときから10 年間」のいずれか早い時点で権利が消滅します。
⑤権利を行使することができるとき
(主に、引渡しを受けた時点)から 10 年間(民法上の消滅時効)
引渡し 権利消滅
10 年
準拠法は異なる国の当事者間では大切
PART2
第●条(準拠法)
本契約は、日本法に準拠して、日本法に従って解釈されるものとする。
❶
POINT
・準拠法とは、いかなる国の法律が適用されるのかという問題
・渉外的な契約では準拠法を定める条項を設けておくのがよい
準拠法とその条項を定める意味
❶ 準拠法の選択
当事者が選択した場合、選択した国の法律がその契約の法律関係における準拠法となります(「法の適用に関する通則法」 7 条)。日本の法人や個人の場合には、日
えば、日本の「法の適用に関する通則法」が適用される法律関係において、仮に日本法以外の国の法律を準拠法として選択したとしても、公法(民事訴訟法、独占
法律関係を考えるにあたっては、どの国の法律が適用されるのかが問題となり、適用される法律のことを、準拠 法といいます。
契約当事者がいずれも日本の法人や個人である契約においては、あえて準拠法の条項を定めておかなくとも、通常は日本法が適用されることを前提として法律関係が構築されます。あえて定める実益はあまりありません。
契約の相手方が異なる国の法人や個 人で、渉外的要素を含む契約の場合には、準拠法がよく問題となります。準拠法の考え方は、さまざまな国において、それぞれ法律で示されています。日
本では「法の適用に関する通則法」が定められていて、日本の裁判所が問題となる法律行為の準拠法を判断する際には、この法律に基づき検討します。例えば、この法律においても、当事者に よる選択がある場合は、それにより準拠法が決まるとされています。
この法律には、当事者による選択が ない場合の一定のルール(考え方)は 示されていますが、事案によってはx x的に決まらないことも想定されます。したがって、異なる国の当事者間で締 結する契約では、トラブルが生じた場 合に備え、前提となる準拠法を定める 条項は大切といえます。
本法を準拠法として選択することが一般的です。
契約書の内容だけでなく適用を受ける法律にも注意しましょう。
6
第 章
なお、準拠法の選択は無制限ではなく、一部の例外があるので留意が必要です。例
禁止法、金商法等)や絶対的強行法規(労働関係法規等)などとの関係では、準拠法の選択にかかわらず日本の法律が適用されると一般的に解されています。
ONE 準拠法の選択がない場合の取扱い
「法の適用に関する通則法」において、当事者による準拠法の選択がないときは、原則、問題となっている法律行為にもっとも密接な関係がある地の法が準拠法となるとされています。一方で、消費者と事業者との間で締結される契約や労働契約においては別途の特例が設けられている等、法律行為や権利の性質ごとに取扱いが定められています。
契約書の内容③ 共通する一般条項
国際的な売買取引に適用されるウィーン売買条約
ウィーン売買条約という、国境を越えて行われる物品の売買に関して契約や当事者の権利義務の基本的な原則を定めた国際条約があります。当事者の国がいずれも締結国であるか、一方だけが締結国でも、締結国の法が準拠法とされる場合には、国際私法によりこ
の条約が適用され、場合によっては準 拠法とは異なるルールが採用されます。日本は締結国であるため、国際的な売 買取引を行う際にこの条約の適用を望 まない場合には、契約上明示的に排除 する文言を規定しておく必要がありま す。
売買契約書
契約書式例集
PART3
売買契約では目的物の特定が重要
目的
当事者
合意内容
締結時期・契約期間
必要となる主なケース
・他者から物を購入し、自ら使う場合
・他者から物を購入し、これをさらに第三者へ売却する場合
・他者から原材料を購入し、製品を製造等する場合
・対価を得て物を売却する場合 など
売買取引を行う前に締結するのが一般的
売買
物を購入したい人と物を売却して対価を得たい人
(企業間や企業と個人、個人間などさまざまなパターンが考えられる)
一方が物を購入し、他方が物を売却して対価を得るため
売買契約において重要なことは、売主が買主に対して移転する財産権の内容の特定です。この財産権には原則として制限はなく、有体物にも限られま
せん。通常の所有権の移転の場合では、売買取引の対象となる物がどれか明確 にわかるように、契約上移転しようと する「物」を特定する必要があります。
不動産を目的物とする場合には特に留意が必要
売買契約とは
契約書式例集
「売買」の要素
売買契約の目的物を不動産(土地や建物)とする場合には、特にその特定方法に留意する必要があります。売買契約上、不動産の特定は、私たちが日 常で使用する住居表示(「住所」)ではなく、不動産登記簿上の表示により行うのが通常です(同じ土地や建物で
?
売買契約書
目的物の特定をしないと……
あっても、住居表示と不動産登記簿上 の表示は異なります)。これは、法律上 定められているわけではありませんが、住所表示においては不動産の範囲を画 することができないなどの事情による ものです。
売買契約とは、一方の当事者(A)が、他方の当事者(B)に対して財産 権を移転することを約束し、それに対して他方の当事者(B)が一方の当事者(A)にその代金の支払いを約束することによって効力が生じる契約をいいます(民法555 条)。この場合、A が売主、B が買主となります。
売買契約において移転する財産権は、 通常は「物」の所有権です(所有権以外の財産権の例としては、地上xxの
物権、債権、無体財産権などが挙げられます)。このため、売買代金の支払い と、財産権の移転(これに伴う引渡しや登記移転手続等が必要な場合は、これらを含みます)が、売買契約の主要な要素といえます。
なお、売買契約は典型契約であり、民法555 条以下において、売買に関する規定が置かれているほか、商人間の売買に関しては、商法524 条以下に特則が定められています。
A さん(売主)
売買の対象を具体的に特定しないと、何が目的物であるのかがわからない
B さん(買主)
Keyword
典型契約 民法や商法等の法律で名前と型が定められている契約。例えば民法においては
13 個定められている。
ケース別・変更例
例1:あらゆる♜品の売買契約を取引基本契約の対象とするケース
❷を「あらゆる売買契約(以下「個別契約」という)」とする。
例2:工事請負契約を取引基本契約の対象とする取引
❷を「●●に関する工事請負契約(以下「個別契約」という)」とする。
X製品を販売する株式会社Aが、X製品を定期的に購入する株式会社BとX製品の個々の売買契約に共通して適用される事項を定めた売買基本契約を締結する場合
売買基本契約書
株式会社A(以下「甲」という)と株式会社B(以下「乙」という)は、以下の通り基本
契約を締結する。
(基本契約)
❷
❶
第 1 条 本契約は、本契約の有効期間中に甲・乙間で締結される、X製品(以下「商 品」という)に関する個々の売買契約(以下「個別契約」という)のすべてに共通
して適用されるものである。
❸
➍
(個別契約の内容)
第 2 条 甲から乙に売買される商品の売買代金、数量、納期、その他売買に必要な条件は、本契約に定めるものを除き、個別契約をもって定める。
2 個別契約において本契約と異なる事項を定めたときは、個別契約の定めが優先
して適用されるものとする。
❸ 個別契約で定めるべき事項(2 条 1 項)
❶ 適用対象取引の特定(1 条)
取引基本契約では、適用対象取引を明確にすることが重要です。これは、個別の
象となると規定しています。そのため、甲と乙の間で、X製品とは異なるY製品の
個別契約で定めるべき事項の記載です。 1 条の規定があるため個別契約で「X製品」の売買であることが明示されれば、本基本契約が適用されます。
他方、取引基本契約上は何ら定められていないX製品の金額、数量や納入時期などは、個別契約ごとに合意するとなっています。
なお、X製品1 個あたりの単価等を定めることも可能です。ただし、物価等の変動の可能性もあるため、取引基本契約で単価までは定めないケースがほとんどです。
また、1 回の個別契約における発注数量の単位を決める条項(例えば、1 回の個別契約において100 個注文するなど)
や、個別契約締結時に紐づいて納期が決定される条項(例えば、注文から●日以内、あるいは●カ月以内に納入するなど)を加えれば、個別契約で定める必要がない建付けとすることも可能です。
契約書式例集
他方で、取引基本契約の対象が複数商品であって、どの商品を購入するのか選択する必要がある場合には、個別契約においてどの商品を何個買うかなど定めるべき事項が増えることになります。
取引基本契約書
取引基本契約において定められていない事項は、個別契約において協議されることになります。取引基本契約で定めておく事柄と、個別契約の段階で協議する事柄を取引の実態を踏まえて検討しましょう。
取引について、取引基本契約の適用があ
るかどうかがはっきりしないと、ある個
取引を行ったとしても、この売買基本契
約では適用されません。ただし、甲と乙
➍ 個別契約の定めが取引基本契約の定めに優先すること(2 条 2 項)
別の取引に適用されると思っていた取引基本契約が適用されなかったり、適用されないと思っていた取引基本契約が適用されてしまうことになり、想定しない不利益を被るおそれがあるからです。
この例では、甲が販売するX製品に関する売買契約に関する個別の取引のみが対
の間で特別に、Y製品の取引をする際に、 X製品に関する売買基本契約をY製品に ついても適用すると合意すること自体は 可能です。このほかにも、取引基本契約 の適用対象についてはさまざまなバリ エーションが考えられます。
取引基本契約を締結する際は、取引基本契約の定めと個別契約の定めが矛盾する場合に、どちらの規定が優先して適用されるかについて定めた条項を置くことがよくあります。この例のように個別契約
を優先するという規定を置くケースが多く、この場合、取引基本契約では、あくまで原則を定めておき、個別契約を締結する際に個別の事情に応じて修正できるということになります。
賃貸借契約書の具体例
○○株式会社が株式会社××に対し、事務所として使用するために、建物を賃貸する場合
❶ 契約の締結(1 条)
賃貸目的物を特定して、賃貸人が貸借人にそれを賃貸することを定める、賃貸借契約における本質的規定の1 つです。 賃貸目的物が土地の場合には、不動産登記簿上の表示方法を用いて特定することが一般的ですが、賃貸目的物が建物の場合は、住居表示上の表示方法を用いて特
定することもあります。例えばマンショ ンの一室を賃貸借するなど、建物全体で はなく一部を賃貸目的物とすることも多 いためです。その場合、この例のように、特定のために図面等を用いることもよく 行われます(図面例省略)。
ケース別・変更例
賃貸目的物が土地の場合
❷を以下のように定める。
所 在 ●●県●●市●●町●丁目地 番 ●●番
地 目 宅地
地 積 ◯◯ . ◯◯㎡
建物賃貸借契約書
○○株式会社(以下「甲」という)と株式会社××(以下「乙」という)とは、次のとおり建物賃貸借契約(以下「本契約」という)を締結するものとする。
(契約の締結)
第 1 条 甲は、乙に対し、下記の物件(以下「賃貸物件」という)を賃貸し、乙はこれを賃借する。
❶
記
❷ 所 在 東京都●●区・・・ 家屋番号 ●●番●●
種 類 事務所
構 造 鉄骨鉄筋コンクリート造地上 12 階建床 面 積 1 階 ○○ . ○○㎡
2 階 ○○ . ○○㎡
(以下省略)
賃貸物件 5 階の添付図面の赤囲み部分(○○ . ○○㎡)
(使用目的)
❸ 第 2 条 乙は、賃貸物件を事務所として使用するものとし、その他の目的で使用してはならない。
契約書式例集
❸ 使用目的(2 条)
賃貸目的物の使用目的、すなわち用法
ONE 建物所有目的
借地借家法が適用される建物所有目的の賃貸借か否かは、①土地上の工作物が
「建物」にあたるか、②土地の一部に付随的に建物所有が伴う場合に全体として建物所有目的といえるかが問題となります。
①と②のいずれについても、契約の形式や文言のみによらず、土地建物の客観的状況や当事者の合理的意思解釈によって判断されることになります。
(使用方法)を定める規定です。使用目的は必要不可欠な規定ではなく、定めなくても賃貸借契約の成立に影響はありません。もっとも、それでは賃借人がどのように賃貸目的物を使用しても、賃貸人は改❹を求めたり、制裁を加えることができません。賃貸人の意図しない方法で使われないよう使用目的を定めて、賃借人がこれに従わず目的に反する使用をした場合には、賃貸借契約の解除事由になる
旨を規定することが一般的です(ただし、賃貸人からの解除に一定の制限が課され ている点については182 ページのとお りです)。
賃貸借契約書
この規定には、借地借家法の適否の指標になる機能もあります。借地借家法が適用される土地の賃貸借契約は「建物の所有を目的とする」必要がある(183 ページ)ため、例えば、「居住用の建物を所有することのみに使用し」などと規定することが考えられます。