MWh :メガワットアワー = 1,000,000Wh = 1,000kWh GWh :ギガワットアワー = 1,000 MWh
国 | 名 | :コスタリカ | |
事 | 業 | 名 | :ミラバジェス地熱発電所建設事業 |
借 | 入 | 人 | :コスタリカ電信電力庁(保証人:コスタリカ政府) |
事業実施機関 :コスタリカ電信電力庁借款契約調印 :1985 年 12 月
貸 x x 諾 額 :13,547 百xxx 貨 単 位 :コロン
報 告 日 :1997 年 11 月
2号機増設工事
【単位】
MW :メガワット = 1,000,000W= 1,000kW
GW :ギガワット = 1,000MW
MWh :メガワットアワー = 1,000,000Wh = 1,000kWh GWh :ギガワットアワー = 1,000 MWh
Nm3 :ノルマル立法メートル(0℃、1 気圧における m3)
tonC :炭素(C)のみに換算した場合の重量(CO2 全体の重量と区別する意味で)
【略語】
ICE :コスタリカ電信電力庁(Instituto Costarrnse de Electricidad) IDB :米州開発銀行(Inter American Development Bank)
NIS :コスタリカ全国連結系統(National Interconnected System)
【用語】
熱的ブレークスルー : 還元水によって地熱貯留層が影響を受け、生産蒸気の圧力・温度低下が起きること
1.事業概要と主要計画 / 実績比較
1.1 事業地
4 0
390
380
N 310
3 0
290
Guarabo
PGM
LIBERIA
280
Fertuna
B
Guayabo
410
AGACES
NICARAGUA
Uberig Bagoces
PROYECTO GEOTERMICO MIRAVA LES
i
c
n
t
e
r
r
o
c
ra
Canas
t
s
SANJOSE
MARCARIBE
井戸
PGM ミラバジェス地熱発電所
OCEANOPACIFICO
PANAMA
ミラバジェス火山
0 50
ESCALA
1 0Km
– 68 –
1.2 生産井戸・還元井戸配置図
90
Voloan
6 0
1959
19 0
18 0
17 0
N Miravales
14 0
130
8 0
16 0
15 0
7 0
P-56
Sitio lasMesas
P-A
P-14 P-D
P-B
P-C
9 0
SECTO R LAS M ESAS
120
1 0
1 0
P-F
7 0
P- 1
P-E
1号機(本事業)/2号機
Baja
P-15
P-23
Laguna losChanchos
P- 2
P-43
P-5
6 0
P-42
P- 4
S-5
P-45
P-10
S-1 P-31 S-4 P-9
P-8
P-17 P-3
P-1
P-2
7 0
Caro losCabala
発電所 生産井戸
生産井戸(建設予定) セパレーター(1号機用)セパレーター(2号機用)運休井戸
3号機/4号機
発電所予定地
生産井戸(既設)
生産井戸(建設予定)
losChiq
Caro CabroM
P-25
60
P-24
6 0
P-46 P-49 P-47
S-6P-48
S-2
P-19
生産井戸(計画中1)生産井戸(計画中2)セパレーター
5 0
P-4
P-20
P-12 S-3
P-21
SECTO R CU IPILAPA
還元井戸(既設)
還元井戸(建設予定)
蒸気供給パイプライン(建設予定)蒸気供給パイプライン(既設)
P- 5
5 0
R
I
O
E
P
J
E
P-AA
P
5 0
LaFartuna
P-16
P-26
P-27
60
P-28
P-29
A
P
L
U
I
A
R
Culplapa
C
I
O
Caro EspirituSanta
P-51
P-52
P-50
60
SECTO R PRIO RITARIO DE REIN YECC IO N
0 0.4 0.8 1.2 1.6 2Km
7.0Km. DRA
ニカラグアへ
リベリア変電所
3.0Km.
LIB230kV
DRA
42.0Km.
DRA
32MW H SND230kV
ミラバジェス地熱発電所
GT
MIR 230kV
H 水力発電所
GT 地熱発電所
D ディーゼル発電所
G 火力発電所変圧器
70.0Km.
SRT138kV
GYB138kV 24.9kV
58.2Km.
ORI
CAN230kV
DRA
7.0Km. DRA
COR 230kV
1.0Km.
DRA
30Km.
H COR
H 157MW ARN230kV
42.0Km.
83.0Km.
2xGRO
アレナル変電所
32.0Km. CAN
138kV
25.0Km.
LIN
1.2Km. LIN
CLR138kV
CEMPA138kV
174MW
30.0Km.
2xGRO
BAR230kV
GRO
68.0Km.
CON
COS230kV
NRJ 138kV
BAR 138kV
17.3Km. ORI
127.3MW
H
1 0MVA
6.1Km.
XXX XXX
JNL 138kV
21.8Km. GRO
15.9Km. 19.2Km. GRO GRO
VGR 138kV
62.0Km. DRA
H 90MW TOR230kV
COC138kV
50.0Km.
2xGRO
LCJ230kV
7.9Km. GRO
14.0Km. CAR
4 0MVA LCJ138kV
85Km. GRO
ALT 138kV
ANS 138kV
1.6Km.
GRO
HER138kV
7.1Km. 10.0Km. GRO GRO
17.0Km. GRO
CLM 138kV
19.1Km. GRO
SMG 138kV 230kV
18.5Km. GRO
30
6.0Km. GRO
MVA
10.4Km.
DSP138kV
SBN 138kV
GRO
CNV 138kV
8.7Km.
GRO
120MW H
EST 138kV
138kV LSV
29.0Km. GRO
25.5Km.
GRO
10
56.4Km. DRA
RMC230kV MVA
DRA
14.6Km.
138kV
H
1 0MW
CAH 138kV
GRO 1.0Km.
19.2Km. GRO
GRO
SQR138kV
41.5Km.
34.4Km. GRO
3.0Km. GRO
D 32MW
G 1 4MW MOI138kV
DRA
SID230kV TRB138kV
30.0Km. DRA
RCL230kV
パナマへ
コスタリカ電力グリッド (1 97年)
1.2 事業概要と OECF 分
本事業は、コスタリカの首都サンホセの北約 220km ミラバジェス火山山麓に 55MW × 1 基の地熱発電所(ミラバジェス地熱発電所 1 号機)を建設し、ベースロードとして同発電所を運転することにより年間を通じて電力の安定供給を行うとともに、国内資源である地熱を利用することにより外貨節約を図ろうとするものである。本事業はIDBとの協調融資案件であり、 IDB融資部分は井戸の掘削工事である。OECF借款対象部分は、本事業(事業全体からI DB融資部分を除いた分)の外貨ポーション全額と、内貨の一部である。
1.3 本事業の背景
(1) 経済開発計画 OECFによるxx業の審査当時、コスタリカにおける経済開発計画は、既に下記 4 計画の
実績があった。
・ 1965 年~1968 年「国家開発計画」
・ 1969 年~1972 年「経済社会開発及び公共部門活性のための計画」
・ 1974 年~1978 年「国家開発計画」
・ 1979 年~1982 年「国家開発計画」
これらの計画は、いずれも経済社会開発の方向と政府公共部門の役割を示すものであったが、政策決定機関や実施体制の問題があり、いずれも十分な成果を上げられずに終っていた。1982 年~1986 年の「国家開発計画」については、その反省から国家経済計画省(OFIPN)が計 画の立案、各省庁間の調整、最終決定を統括担当した。計画の目的として、国内資源とサービ スを最大限に利用することと、農業・牧畜・工業の振興を挙げ、そのための重点政策として、
①国内天然資源有効活用による輸入代替、②農業開発(主要農産物の自給自足達成、輸出用農産物加工業の振興)による産業の育成及び輸出促進を掲げた。
特に重点政策①に対する行動計画として「国家エネルギー資源開発計画」(Program for the Development of National Energy Sources)がまとめられた。その基本的方針は、国内エネルギー資源の開発及び利用率を向上させ、輸入石油の代替を促進するというものであった。この行動計画に沿って、ICE等を中心とする政府機関による国家エネルギー資源に関するプロジェクトの計画・実施・相互調整(民間案件も含めた長期的視野に経った再編)が図られ、電力セクター開発計画がまとめられた。この中に、①ガリタ-ベンタナス(Garita-Ventanas)水力発電(96MW、1987 年運用開始)、②ミラバジェス地熱発電 1 号機(55MW、1990 年投入)が取上げられた。
(2) 経済的背景
輸入石油の代替が重要課題に上がった背景には、1980 年代に入ってコスタリカの経済成長が鈍る中、対外債務が増えていったことがあげられる。コスタリカのGDPは、1960 年代は年平均 5.9%、1970 年代は年平均 5.6%の伸びを記録し、順調な発展を見せていた。しかし、1980年代に入ると、xx共同市場諸国の製造部門の輸入代替が一巡し、コスタリカ製造業セクター
の域内輸出も減少した。その後、xx共同市場諸国は経済危機に陥り、農産物価格も下落したため、従来の伝統的産品輸出(バナナ、コーヒー、砂糖、牛肉)の生産は減少した。コスタリカ経済を支える農業及び製造業セクターの不況の影響で、GDP成長率は 1980 年は前年比 0.8%、1981 年は-2.3%、1982 年は-7.3%と悪化した。
1983 年に入ってGDP成長率は再びプラスに転じたが、こうした景気の回復は外国資本導入による発電プロジェクトの建設、道路の建設によって支えられたものであり、累積債務を増大させることになった。対外累積債務残高は、1980 年の 1,817 百万ドルから 1984 年の 3,532 百
万ドルへと約 2 倍に増えている。その結果、1983 年にはパリクラブで約 2 億ドルの債務繰延べ
(リスケジュール)が合意され、1985 年には、IMF、世銀を中心に経済安定プログラム(S AL I)が実施され、IMFのスタンドバイクレジット供与、世銀の 800 百万ドルの融資が行われた。なお、財政赤字は、1982 年以降モンヘ政権による各種増税処置、財政支出の削減により、1985 年には対GNP比 1.5%まで改善された。
[表 1-1] GDP成長率対・財政赤字GNP比率 (単位:%)
1980 | 1981 | 1982 | 1983 | 1984 | 1985 | |
GDP成長率対前年増加比財政赤字GNP比 | 0.8 | -2.3 14.3 | -7.3 9.0 | 2.3 3.4 | 6.6 2.5 | 0.7 1.5 |
(出所)コスタリカ中央銀行
[表 1-2] 貿易収支(商品ベース) (単位:百万ドル)
1980 | 1981 | 1982 | 1983 | 1984 | 1985 | |
輸出(伝統的産品) 輸入(消費財、石油製品等) | 1,000.9 1,527.5 | 1,008.6 1,213.3 | 869.8 894.2 | 852.5 993.2 | 997.5 1,101.2 | 939.1 1,089.2 |
貿易収支 | -526.6 | -204.7 | -24.4 | -140.7 | -103.7 | -150.1 |
(出所)世銀
[表 1-3] 対外公的債務残高 (単位:百万ドル)
1980 | 1981 | 1982 | 1983 | 1984 | |
二国間借款 | 362.7 | 453.9 | 585.9 | 895.4 | N/A |
国際機関 | 552.0 | 601.9 | 628.5 | 659.0 | N/A |
商業銀行 | 708.1 | 797.7 | 813.7 | 1287.1 | N/A |
債権 | 141.4 | 458.3 | 490.4 | 403.8 | N/A |
サプライヤーズクレジット | 53.0 | 58.0 | 59.4 | 52.2 | N/A |
合計 | 1,817.2 | 2,369.8 | 2,577.9 | 3,297.5 | 3,531.6 |
(出所)コスタリカ中央銀行
(3) 本事業の位置付け
ICEの電源開発の基本方針は、基本的には水力発電で国内電力需要に対応していくことであり、1973 年の石油危機からの教訓により、輸入エネルギーである石油による火力発電はあくまでも緊急用としている。このため、コスタリカでは水力発電が積極的に推進され、コスタリカ発電設備の約 80%が水力発電1となっており、水力に対する依存度が高い。しかし、水力発電は乾季(4 月頃)に使用水量が影響を受け、発電に著しく制約を受けるため、年間を通じてベースロードとして安定的に電力供給ができ、国内エネルギーの有効利用につながる地熱発電に高い位置付けが与えられた。
地熱発電の可能性については、IDBの協力の下、既に 1975 年からミラバジェス地区において予備調査が開始されており、140MW相当の地熱容量がミラバジェス地区に存在することが確認されていた。このため、1987 年にガリタ-ベンタナス水力発電所運用開始後、再び需給が逼迫する 1990 年にサンディジャル水力発電所(32MW)と共にミラバジェス地熱発電 1 号機を投入することが、計画に織り込まれた。雨季の余剰電力については、1982 年に完成したコスタリカ-ニカラグア-ホンジュラス-エルサルバドルを結ぶxx送電線(230kV)より輸出が可能となり、外貨獲得にも貢献することが見込まれた。
(4) コスタリカの電力事情
コスタリカの発電設備容量及び電力消費状況は、表 1-4 のとおりであった。電力消費は 1980年~1984 年の 5 年間で平均 5%以上の伸び率を示している。利用率は 40%前後であるが、発電設備容量の約 20%を占める火力発電が緊急用のスタンドバイであることを勘案すると、負荷率は約 60%程度であると考えられICEの目標値と一致する。
[表 1-4] コスタリカ発電設備容量・電力消費状況
単位 | 1980 | 1981 | 1982 | 1983 | 1984 | |
発電設備容量 | MW | 603 | 603 | 777 | 777 | 777 |
発電電力 | GWh | 2144 | 2291 | 2400 | 2855 | 3011 |
利用率 | 40.6% | 43.4% | 35.3% | 41.9% | 44.2% | |
消費電力 | GWh | 1894 | 2047 | 2079 | 2150 | 2337 |
伸び率 | 8.1% | 1.6% | 3.4% | 8.7% |
(出所)ICE
今後の需要については、ICEは電力消費種別に積上げ方式により 1985 年から 2000 年までの電力需要予測を立ており、この需要予測に対した供給計画が立てられている。この結果は表 1-5 に示すとおりであり、ICEは、「水力発電+地熱発電」の電力供給可能能力にリザーブ
(60MWもしくはピーク需要の 10%)を見込んだ発電容量を、電力のピーク需要に対応させてバランスさせている。
1 当時も今もこの比率は変っていない
[表 1-5] コスタリカ電力需給予測
単位 | 1985 | 1986 | 1987 | 1988 | 1989 | 1990 | 1991 | 1992 | 1993 | 0000 | 0000 | 0000 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 |
消費電力 GWh | 2,456 | 2,584 | 2,719 | 2,870 | 3,035 | 3,227 | 3,429 | 3,649 | 3,885 | 4,144 | 4,424 | 4,722 | 5,048 | 5,400 | 5,779 | 6,185 |
伸び率 | 5.20% | 5.20% | 5.60% | 5.70% | 6.30% | 6.30% | 6.40% | 6.50% | 6.70% | 6.80% | 6.70% | 6.90% | 7.00% | 7.00% | 7.00% | |
設備容量 MW | 777 | 767 | 854 | 854 | 854 | 941 | 941 | 941 | 1,118 | 1,118 | 1,118 | 1,173 | 1,173 | 1,446 | 1,446 | 1,831 |
(出所)ICE
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
GWh
[図 1-1] コスタリカ電力需要予測曲線(ICE)
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
1.4 本事業の経緯
本事業の経緯は次のとおりである。
1963 年 | 国連の専門家によるコスタリカ地熱帯調査実施 | |
1975 年 | ICE、グアナカステ州の地質関連データを収集。 | |
1982 年 | 2 月 | コスタリカ政府、ミラバジェス地熱発電所建設に対する円(OECF)借款の |
正式要請 | ||
1982 年 | 4 月 | ミラバジェス地熱発電所建設のF/Sを実施(ICE独自資金によりWJEC |
が実施) | ||
1983 年 | 11 月 | モンヘ大統領、xxx総理大臣宛て親書にて改めてOECF借款を要請 |
1985 年 | 5 月 | モンヘ大統領訪日の際、xxxxxxOECF審査ミッション派遣を確約 |
1985 年 | 6 月 | OECF審査ミッション派遣 |
1985 年 | 9 月 | 日本政府プレッジ |
1985 年 | 11 月 | 交換xx締結 |
1985 年 | 12 月 | 借款契約調印 |
1987 年 | 3 月 | 借款契約発効 |
1988 年 | 2 月 | コンサルタント契約承認 |
1988 年 | 10 月 | コンサルタント契約変更申請承認(1 回目) |
1989 年 7 月 本体工事入札公示
1991 年 7 月 本体工事契約
1991 年 8 月 政府保証限度額増額
1991 年 9 月 本体工事契約同意、コンサルタント契約変更申請(2 回目)
1991 年 10 月 借款契約発効限度額増額(11,372 百万円)
1991 年 11 月 本体工事に係わる入札評価結果承認、借款契約資金配分変更承認
借款契約貸付実行期限延長承認(1991 年 12 月 12 日を 1994 年 12 月 12 日まで)
1.5 IDBの協力概要
IDBの本事業に対する協力の概要は表 1-6 に示したとおりである。
[表 1-6] 本事業に対するIDBの協力概要
PHASE | IDB協力概要 | 予算 | |
PHASE | 1(1975-1976) | プレF/Sの実施 | $400,000 |
PHASE | 2(1975-1983) | 調査井戸掘削(生産用 2 本、還元用 1 本) | $4,100,000 |
PHASE | 3(1984-1985) | 調査井戸掘削(生産用 4 本、還元用 1 本、用途未定 1 本) | $8,800,000 |
PHASE | 4(1985-1990) | 発電用井戸掘削(本事業用に生産井戸、還元井戸、合計 | $60,502,000 |
20 本掘削) |
(出所)審査資料集
IDBポーションの経緯
1975 年 IDB融資によりプレF/S(地熱発電所建設の可能性先行調査)開始
1977 年 5 月 IDB融資によりラスオルニジャス地区で調査井戸 3 本の掘削開始(1983 年完成)
1980 年 12 月 IDB融資により同地区にさらに調査井戸 6 本の掘削開始(1985 年完成)
1984 年 10 月 プログラムミッション派遣
1985 年 9 月 アプレイザルミッション派遣(コスタリカ政府は日本政府のプレッジが遅れていることからIDBに対しOECF借款部分についても融資を打診)
1985 年 11 月 事務レベル最高審査委員会(CAM)審査
1986 年 3 月 借款契約調印
1.6 主要計画・実績比較
(1) 事業範囲
事業範囲 | 計 画 | 実 績 | 差 異 |
井戸(OECF借款対象外) | 20 本 | 20 本 | なし |
パイピングシステムギャザリング リインジェクション地熱発電所 タービン発電機 冷却塔 1 式送電線 発電所~アレナル変電所発電所~リベリア変電所 変電所 変電所併設 アレナル変電所拡張リベリア変電所拡張 コンサルタントサービス | 3 系統 1 式 1 式 55 MW x 1unit 1 基 1 基 1 基 230kV、36km 230kV、33km 13.8/230/4.8kV 138M/M | 計画とおり 計画とおり 計画とおり実施されず 計画とおり計画とおり実施されず 166M/M | なし なし なし 1997 年着工 なしなし 1997 年着工 +28M/M(対契約 内容+80M/M) |
(2) 工期
計 画 | 実 績 | 期間差異 | |
コンサルタント選定 | 1985 年 11 月~1987 年 1 月 | 1985 年 12 月~1988 年 2 月 | +12 ヶ月 |
コントラクター選定 | 1986 年 5 月~1988 年 4 月 | 1988 年 2 月~1990 年 7 月 | + 6 ヶ月 |
機器調達 | 1988 年 5 月~1989 年 10 月 | 1990 年 7 月~1992 年 12 月 | +12 ヶ月 |
機器輸送 | 1989 年 6 月~1989 年 11 月 | 1991 年 8 月~1993 年 11 月 | +22 ヶ月 |
土木工事 | 1989 年 1 月~1989 年 11 月 | 1992 年 1 月~1993 年 10 月 | +11 ヶ月 |
機器据付 | 1989 年 7 月~1990 年 5 月 | 1992 年 4 月~1993 年 11 月 | + 9 ヶ月 |
検査 | 1990 年 6 月~1990 年 9 月 | 1993 年 11 月~1994 年 3 月 | + 1 ヶ月 |
完成 | 1990 年 9 月 | 1994 年 3 月 | +42 ヶ月 |
(3) 事業費 (単位:百万円)
項目 | 計画*(審査時) | 実 績 | 差 額 | |||
外貨 | 内貨 | 外貨 | 内貨 | 外貨 | 内貨 | |
井戸(OECF借款対象外) | 8,088 | 50 | 5,886 | 413 | -2,202 | 363 |
パイピングシステム地熱発電所 タービン+発電機建屋 土木工事送電線 変電所 コンサルタントサービス管理費 予備費 | 1,762 6,305 462 0 765 685 359 0 1,034 | 917 615 440 476 588 203 36 0 328 | 1,574 6,638 0 0 308 0 304 0 | 445 1 632 512 454 445 924 3,879 | -188 333 -462 0 -457 -685 -55 -1,034 | -472 -614 192 36 -134 242 888 3,879 -328 |
合計(井戸除く) | 11,372 | 3,603 | 8,824 | 7,292 | -2,548 | 3,689 |
(換算レート)計画 1USD=258 円(1985 年) 実績 1USD=132.25 円(1988 年~1994 年期間平均)
(注)OECF借款対象は外貨分全額と内貨融資分 2,175 百万円分。外貨実績がOECF貸付実行額
(9,467 百万円内貨分 854 百万円)と一致しないのは、ドル円換算レートの差の影響である。
2. 分析と評価
2.1 事業実施に係わる評価
2.1.1 事業内容
(1) IDB融資対象部分
井戸は生産井戸・還元井戸合せて 39 本掘られた。この内、本事業(ミラバジェス 1 号機)
用に掘られたのは 20 本であり、実際ミラバジェス 1 号機に利用されているのは 17 本である。
これは、蒸気バランス上 17 本で十分と判断された結果であり、運用上特に問題は生じていない。
ミラバジェス 1 号機用の残り 3 本(生産井戸)については、どれも蒸気供給量に余裕があるため、それぞれの井戸に小型ユニット式発電機(ICE独自に手配)を直結し、発電(5MW
×3 基)を行っている。ただし、その熱効率が悪いため、ミラバジェス 2 号機運用開始時には運転を停止する予定になっている。
(2) OECF借款対象部分
生産井戸からタービンへ蒸気を送るパイピングシステムについては、計画どおり 3 系統(サテライト 1、2、3)が建設された。また、ミラバジェス地熱発電所本体についても、計画どおり建設された。2 系統計画されていた送電線の内、ミラバジェス~アレナル変電所間は建設されたが、もう一方のミラバジェス~リベリア変電所間は、発電所敷地内のタワーが建設さたのみで、残りの工事は予算範囲内で進められる分だけに留まった。このように、中途半端な形で工事が中断された原因は、円高対策のためドルベースで予算にシーリングが設けられ2、全ての工事が予算内に収まらなくなり、比較的優先度が低かった同工事の完成が見送られたためである。当時の電力供給量から見ると、送電線はどちらか片方だけで十分であったため、国家グリッド上にあったアレナル変電所への送電線建設が優先されることになった。その結果リベリア発電所の拡張工事も実施されなかった。発電所にとって不可欠な 1 系統確保したことは、発電所を運転する上で必要最低限の処置であり、もう1系統の建設を見送ったことは、予算にシーリングが設けられた以上やむを得ないと思われる。
なお、ミラバジェス~リベリア変電所間の工事は、資機材がIDBファイナンス、建設費が ICEの自己負担により、1997 年 2 月から工事が開始されている。工事が再開された理由は、現在IDBファイナンスにより、建設中のミラバジェス 2 号機が 1997 年末に完成し、運転が
開始されると、アレナル変電所経由の 1 系統の送電線のみでは、将来のコスタリカ北部及びニカラグア3への売電時の送電容量に不安が生じるためである。
調達については、当初ICEは全ての機器を個別に調達(バラ買い)したい意向であったが、 ICEにとって初めての地熱発電所建設事業となることを考慮したOECFの指導により、本 事業は 3 つのフォーミュラ(入札ロット)に分けての入札された。
フォーミュラ 1:発電設備(タービン・発電機)
フォーミュラ 2:パイピングシステム(井戸とタービンを結ぶ配管ネットワーク)フォーミュラ 3:送電線・変電所
2 詳細は 2.2.3 参照
3 コスタリカの北に隣接
2.1.2 工期
借款契約調印は予定どおり 1985 年 12 月に行われたものの、借款契約発効は借款契約調印後
1 年以内の予定に対し、実際 1 年 3 ヶ月後の発効となった。この結果、後の作業が全て計画より遅れてしまった。借款契約発効が遅れた主な原因は、借款契約発効の条件であるコスタリカ政府の保証がなかなか得られなかったためである。政府保証のxxのためには、コスタリカ立法議会(国会)において本事業を政府プロジェクトとして推進するための特別法 7058 号の決議が必要であった。この決議が遅れた原因は、①1985 年以降急激に円高が進行したため、円建であるOECF借款の返済が今後財政負担になることが国会において懸念材料となったことと、②借款契約の調達条件がLDCアンタイドであり、コスタリカ政府プロジェクトにおいて原則実施されるべき国際入札でなかったことである4。また、途中での政権交代があり、さらに遅れる結果を招いた。
このため、コスタリカ側から借款契約発効期間延長の要請が 2 回も出され、最終発効期限は
IDB借款と同じ 1987 年 3 月とすることをOECFは承認した。国会討論の結果、①OECF借
款部分の政府保証額をドルベースで 52.5 百万ドルとすること、②入札書類を 2 部構成とし、 OECF借款を利用した入札とサプライヤーズクレジットによる国際入札を比較可能とすることを盛込むことで特別法 7058 号が決議され、借款契約発効書類がOECFに提出された。
OECFは、借入人は 52.5 百万ドル相当円貨額までの借款契約発効に必要な法的手続を取ったことと、2 国間協力の趣旨を尊重する形で、借款契約の発効を承認した。実際には、サプライヤーズクレジットによる入札はなく、結果的には時間を費やすのみとなった。これらはいずれも、コスタリカ国会での議論に端を発しており、当初予測できるものではなかったことから、このような工程遅延はやむを得なかったと思われる。その後、円高が進んだため、政府保証額は最終的には約 80 百万ドルに増額された。
[表 2-1] 工程表
1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994
L/A調印
計画 実績
コ国会L/A承認計画
実績 コンサルタント選定計画
実績 コントラクター選定計画
実績 機器調達
計画 実績
機器輸送
計画 実績
土木工事
計画 実績
機器据付
計画 実績
検査
計画 実績
完成
計画 実績
12月
12月
12月
12月
12月
3月
11月
12月
1月
2月
5月
4月
2月
7月
5月
10月
7月
12月
6月
11月
8月
11月
1月
11月
1月
10月
7月
5月
4月
11月
6月
9月
11月
3月
9月
3月
(出所)ICE
4 OECF借款案件は現在全て完全にアンタイドとなっており、①の問題は現状では起こり得ない。
次に、コンサルタントの選定が 1 年以上遅れた。ICEからのコンサルタント業務範囲およ
び招聘状の承認申請は 1986 年 6 月、ショートリストの承認申請は 1986 年 8 月にOECFに提
出され、それぞれ同年 8 月及び 9 月に承認されたが、コンサルタントのプロポーザル評価結果
承認申請が提出されたのは 1987 年 8 月(9 月OECF承認)になってからである。これは、コ
スタリカ国会において特別法 7058 号の審議が延びたため、コンサルタント契約内容の承認が遅れたためである。さらに、契約締結にあたって外貨ポーションのコスト削減のためコンサルタントのM/Mが一部削られ、OECF側がその技術的妥当性を判断するために時間を要し、承認は 1988 年 2 月になった。
また、特別法 7058 号に基き、発電所本体の国際入札用に入札書類が作成されたため、入札プロセス全体が遅れることとなり、コントラクター選定も遅れた。その結果、機器調達、機器輸送の開始時期も全て繰り下がり、工期全体が遅延した。中には、機器輸送期間のように、計画では 6 ヶ月しか計上されていなかったにもかかわらず、実際には 28 ヶ月もかかったものも
あり、計画の一部に無理があったと言わざるを得ない5。以上の結果、完成・運転開始は 3 年半遅延した。しかし、本事業はコスタリカの電力需要バランスが崩れる直前に完成し、工期遅延がコスタリカの電力事情に大きな問題を起すまでには至らなかった。
2.1.3 事業費
事業全体の建設資金はIDB融資部分、OECF借款部分、ICE自己資金部分で構成されている。三者の資金負担合計(地熱発電所建設の総事業費)は、計画 151,043 千ドルに対して
実績 223,104 千ドルと、約 48%のコストオーバーランとなった。表 8 に示しているとおり、ID Bポーションは 22%、OECF借款部分は 51%、ICEポーションに至っては 188%も増加している。
こうしたコスト増の原因は下記のとおりである。このように大幅なコスト増が生じたにもかかわらず、ほぼ計画とおり事業が実施された理由は、早い段階に円高対策を行ったことと、十分な内貨が手配可能だったためと考えられる。本事業はドルでコスト管理されていたため、以下の説明は全てドルベースで行った。
(1) IDBポーション
IDBポーションの費用は、井戸掘削費で約 40%増、送電線建設費で約 76%増、コンサルタント費で約 45%増といったコストアップが見られた一方で、建中金利で約 7%減、検査費で約 28%減といったコストダウンも見られた。その結果、IDBポーション全体ではほぼ計画どおりの費用となった。井戸掘削費のコストアップはコスタリカ国会での契約承認の遅れによる工事遅延に伴うコスト増と思われる。また、既に 2 号機用も含めて 39 本の井戸が掘られており、どこまでが本事業用に計上されているのか明らかではない。送電線建設費のコストアップは、円高対策の一貫としてOECF借款部分の送電線用資材の半分以上がIDBポーションに振替えられたためである。
5 機器輸送計画はコントラクター入札時のスケジュールのままになっており、契約内容及びタイミングは反映されていなかった。また、コントラクターの輸送スコープはコスタリカ港 C&F のみでコスタリカ陸上輸送はコントラクターのスコープ含まれていなかった。
[表 2-2] ドルベース事業費 (単位:千㌦)
計画 | 実績 | 増減 | |||||||
IDB | OECF | ICE | 合計 | IDB | OECF | ICE | 合計 | ||
井戸掘削 | 31,347 | 0 | 192 | 31,539 | 43,864 | 0 | 3,165 | 47,029 | 49% |
発電設備 | 0 | 24,144 | 0 | 24,144 | 0 | 55,276 | 2,594 | 57,870 | 140% |
建屋 | 0 | 3,289 | 0 | 3,289 | 0 | 3,810 | 4,988 | 8,798 | 168% |
パイピングシステム | 0 | 5,669 | 0 | 5,669 | 0 | 15,007 | 3,773 | 18,779 | 231% |
送電線 | 1,819 | 5,586 | 0 | 7,405 | 3,201 | 2,424 | 2,501 | 8,126 | 10% |
その他 | 7,703 | 0 | 443 | 7,656 | 0 | 0 | 7,656 | ||
コンサルタント | 1,277 | 1,418 | 2,841 | 5,536 | 1,857 | 2,593 | 9,244 | 13,694 | 147% |
管理費 | 0 | 914 | 8,663 | 9,577 | 0 | 0 | 29,526 | 29,526 | 208% |
建設中金利 | 17,419 | 0 | 3,865 | 21,284 | 16,218 | 0 | 9,215 | 25,432 | 19% |
手数料 | 0 | 0 | 3,018 | 3,018 | 0 | 0 | 5,663 | 5,663 | 88% |
検査 | 740 | 0 | 0 | 740 | 530 | 0 | 0 | 530 | -28% |
予備費 | 4,947 | 2,168 | 1,214 | 8,329 | 0 | 0 | 0 | 0 | -100% |
価格上昇 | 8,748 | 9,312 | 4,307 | 22,367 | 0 | 0 | 0 | 0 | -100% |
合計 | 74,000 | 52,500 | 24,543 | 151,043 | 73,325 | 79,110 | 70,669 | 223,104 | 48% |
増加率比率 | 44% | 38% | 17% | 100% | -1% 35% | 51% 37% | 188% 28% | 48% 100% |
(出所)ICE
(2) OECF借款部分
本事業の融資限度額は、積算された見積りコスト(52.5 百万ドル)を審査時(1985 年)の為替レート(1 ドル=258 円)で換算した結果得られた金額(13,547 百万円)に設定された(内貨融資分 2,175 百万円含む)。しかし、外貨ポーションのほとんど(フォーミュラ 1、2、3)が円建契約であったため、その後の円高の影響を受けてドル換算ベースで大幅に上昇した。コスタリカでは、それまでOECF借款の経験がなかったため、円高による財政への影響が懸念され、OECF借款を受け入れることに対して国会で議論がなされた。その結果、1987 年 2 月に承認された特別法 7058 号に基づいて、本事業に係る国家保証は 52.5 百万ドル相当の円貨を限度とし、為替換算レートは機器契約が発効した時点のレートを適用することを条件に借款契約発効申請がコスタリカ政府から出された。これに対し、OECFは 52.5 百万ドル相当の円
(1ドル=140 円として試算すると約 74 億円)を上限とする条件付きで借款契約発効通知書を発出した。
しかし、入札額がフォーミュラ 1~3 合計で 11,400 百万円(1 ドル=140 円として試算すると約 80 百万ドル)となったため、一部機器のスプリット調達(ICE独自ファイナンスによ
り別途手配)や、還元井戸用ポンプ(約 16 億円相当)のオプション化6等により円ベースでの事業費削減策を講じた。手配先の変更が中心で、共にOECFの同意を得ており、こうした事業費削減策に特に問題はなかったと考えられる。また、「事業内容」で問題となったミラバジェス~リベリア(Liberia)変電所間送電線に関しては、緊急の必要性がなかったため予算内
6 最終的には不要となった
で可能な範囲で建設するだけに留まった7。その結果、フォーミュラ 1~3 の予定総額は約 60 億ドル(8,350 百万円)にまで下がった。その後さらに円高が進んだため、最終的8には政府保 証額は約 80 百万ドルに増額された。このように、ICEは本事業予算をドルベースで縛られ ていたため、OECF借款対象機器の一部をIDBポーションやICE独自ファイナンス手配 に切替える等、円高対策に苦労したことがうかがえる。このような状況下、ICEの内部留保 資金に比較的余裕があったことも助けとなり、ICEが本事業を完成できたことは評価できる。
なお、コンサルタントのM/Mは、計画の 138M/Mに対して実績は 166M/M9と若干増え、ドルベースでは円高の影響もあって 85%増となった10。
(3) ローカルポーション
ローカルポーションについては、ICE本社部門のオーバーヘッドコストを含めた結果、O ECF融資分に含まれている内貨分を加えると、実質的なコスト増は 200%に近かったと考えられる。本事業においては、ICEのキャッシュフローに余裕があったため内貨不足は生じなかった。しかし、今後、他の案件において配賦コスト負担の影響で内貨不足が生じ、事業実施に支障をきたす可能性がないとは言えない。OECFは、初めて円借款を供与する国、もしくは実施機関に対しては、実施能力の財務分析を行なう際に、かかる配賦コストの有無や配分方法などに十分注意する必要がある。
2.1.4 実施体制
(1) 実施機関
本事業の建設は、ICEの直営工事としてエネルギー開発本部が実施した。建設部の下に各 プロジェクト毎に設けられる建設チーム(ミラバジェス1・プロジェクトチーム)が設けられ、このチームが中心となって建設工事が進められた。ただし、各設備の詳細設計は電気装置部11
(当時はエンジニアリング部)が行い、土木設計・工事は土木技術部が担当した。また、 OECFやIDB等の援助機関との窓口は融資金計画管理部が、機器・機材の購入の窓口は管理本部調達部が担当した。なお、本事業の予算管理は、通常どおり管理本部財務部が行った。
ICEは、全ての工事を直営で実施しており、そのために必要な数の技術陣を抱えている。 本事業は、ICEにとって初の地熱発電所を建設事業であったにもかかわらず、例外に漏れず 技術陣の研修から始って全て直営で実施された。工期に遅れはあったものの、その実施体制に 問題は見られず、その実施能力は評価できる。本事業では井戸開発及び装置設計のためにそれ ぞれコンサルタント(合計 2 社)を雇用しており、ICE自らの経験不足を補うための十分な 配慮がなされたことが、本事業の建設の成功要因として高く評価できる。ICEの組織図は別 添に示すとおりである(これは現在のものであり、事業実施当時とは若干異なる部分もある)。また、本事業の実施体制は図 2-1 に示すとおりである。
7 送電線の建設費用は、同区間が未完成だったにも係らず約1割のコスト増になっている。
8 本体工事契約同意申請時(1991年8月)
9 設計80M/M、トレーニング86M/M
10 円ベースでは、コンサルタントサービスフィー借款契約アロケーションにもプライスエスカレと予備費が含まれていたため、審査時と比べるとコスト減となった(借款契約アロケーション359百万円、当初契約額 247百万円、スコープ変更後304百万円)
11 機器の使用は電気装置部機器設計課火力発電プラント室が決定した
[図 2-1] 実施体制
Advisory Board
ICE
エネルギー開発本部
管理本部
OECF IDB
融資金計画管理部
建設部
電気装置部
ミラバジェスⅠ プロジェクト チーム
土木技術部
調達部
IDB資金 イタリアのコンサルタント
全体計画、
生産井戸、還元井戸の調査、掘削技術に関するサポート
円借款本邦のコンサルタント
コントラクター
機器の詳細設計、入札書類の準備、入札契約交渉の補助、
工事監督、検査、試運転、 ICE職員の研修
IDB資金円借款
(出所)ICEヒヤリングを基に作成
(2) コンサルタント
IDB融資ポーション、OECFポーションの建設工事に対してそれぞれコンサルタントが付き、ICEにとって初めての地熱発電事業に対する経験不足を補った。IDBポーションのイタリアのコンサルタントは、全体計画及び生産井戸、還元井戸の調査並びに掘削技術に関するサポートを行い、OECFポーションの本邦のコンサルタントは、OECFポーションの機器の詳細設計及び入札のための技術書類の準備、本体入札契約交渉の補助、工事監督、検査、試運転、ICE職員の研修等を行った。なお、途中で本邦のコンサルタントのスコープ変更があり、基本設計作成により深く関与することになった。サイトの選定、発電設備等の基本設計は、2 社のコンサルタントとICEが協議しながら決めた。さらに、コンサルタント以外にもI DB融資により 6 人の第 3 者専門家のアドバイザリーボード12を設け、定期的(3 ヶ月に1回)にミーティングを開催し、ICEに対する技術的アドバイスと共に、2 社のコンサルタントの意見が対立した場合の最終的な判断を下した。アドバイザリーボード、コンサルタント、コントラクターのコーディネーションは全てICEが行った。コンサルタントの能力に対するIC Eの不満は特になく、特段問題はなかったと判断される。
(3) コントラクター
コトラクターは各フォーミュラ毎に 1 社、合計 3 社であった。コントラクターに起因する工期遅延等の問題は発生しておらず、そのパフォーマンスに特に問題は見当たらなかった。特にフォーミュラ 1(発電設備)の本邦メーカーは、ICEが初の地熱発電所を建設するに当たり十分なノウハウを提供しており、ICEエンジニアの評価・信頼は高く、現在もメーカーが作
12 アメリカの大学教授等で構成。現在はメンバーを 3 人に減らし、ミラバジェスⅡプロジェクト(IDB融資)の評議会として続いている
成したマニュアルに忠実に従って運転及びメンテナンスが行われている。
2.1.5 用地取得
発電所及び井戸は、元々荒地及び放牧地であったところに建設されたため、住民移転は伴わなかった(実施機関からは、用地取得に関して特に問題があったとは報告されていない)。また、用地取得は、発電所周辺及び、井戸周辺に限定されており、地元住民の放牧を妨げないための配慮が講じられていた。更に、道路要所には牛の進入防止用のゲートが設けられ、牛が危険地域に入るのを防いでいた。現在も発電所が地元住民と共存していることから判断しても、用地取得は概ね良好な形で実施されたものと思われる。また、同発電所建設により地元住民に雇用機会を生んだことも付け加えておきたい。
2.2 運用・維持管理に係る評価
2.2.1 運用・維持管理体制
ICEの設備の運用・維持管理体制は、運用はシステム本部オペレーション部、維持管理は同本部メンテナンス部と、大きく 2 つの組織に分かれている。オペレーション部は発電所単位の組織(各発電所に所長とスタッフを配置する)であるのに対し、メンテナンス部は地域単位の組織(地方事務所を拠点に、地域内の各発電所の維持管理を担当)になっている。また、地熱発電のエネルギー源である地熱管理・蒸気供給は、エネルギー開発本部計画部の地熱開発室が担ってる。
つまり、ミラバジェス地熱発電所の運用・維持管理には 3 つの組織がかかわっている。このため、部門を越えた手続が複雑になり、特にオペレーションスタッフとメンテナンススタッフ間の連携がスムースに行かない等の不具合が生じることもあるようで13、トラブルが生じた場合も責任の所在があいまいになる恐れがある。現在はまだ大きな問題には至ってないが、今後ミラバジェス発電所 2 号機運転開始により蒸気供給に問題が生じたり、ミラバジェス発電所 1号機の運転年数の伸びにより、メンテナンスの頻度も増し、一層タイムリーな対応が求められることを考えれば、早く発電所内の責任管理を所長に一元化し、所内の指示系統をスリム化する必要があると思われる。なお、この問題(運用と維持管理が別組織である事)はミラバジェス地熱発電所のみならず、ICEの全設備共通の問題と思われる。このような変更は、ICEの組織を大幅に変える必要があるため、十分な検討時間を確保するためにも、できるだけ早く取組むことが望ましいと思われる。
13 ミラバジェス地熱発電所長談
[図 2-2] オペレーション組織
オペレーション部
ICE本部
サイト事務所
チョロテガ地区担当課
チョロテガ地区事務所
アドミ関係 22人
化学分析 3人
運転員 16人/3シフト
ミラバジェス発電所所長
(出所)ICE
[図 2-3] メンテナンス組織
メンテナンス部
ICE本部
サイト事務所
土木関係 4人
軽装品関係 8人
電気担当 4人
機械担当 4人
チョロテガ地区担当課
チョロテガ地区事務所
(出所)ICE
[図 2-4] 地熱開発・蒸気管理組織
エネルギー開発本部
ICE本部
ミラバジェス地区事務所
計画部
チョロテガ地区事務所
井戸掘削課
地熱開発課
地熱開発室
(出所)ICE
人材面では、発電所の維持管理・運転に必要な人員は充分に配置されており、技術的にも一 定のレベルにあるものと思われる。これは本プロジェクトの計画から施工・運転を通じ、外部 コンサルタント、機器製作・据付メーカー等からの技術移転が順調に進んだためと評価できる。井戸掘削に関しては、地質・地球物理・資源工学等の大学教育を受け、その後、国連のスポン サーによるENEL(イタリア電力公社)の地熱研修コース等を終了した地質・地球物理・掘 削・貯留層工学等の専門家が約 20 名程度、ミラバジェス地熱フィールド開発プロジェクトに 従事している。当初、ほとんどの専門家は地熱に関する知識・経験がなかったと思われるが、 本事業の開発・実運転を通じて現在までに本邦のコンサルタントやイタリアのコンサルタント 等からの技術指導を受け、地熱に関する調査・解析技術について身に付けたと思われる。こう した技術は、今後の地熱開発において充分に活かされるであろう。ちなみに、運用・維持管理 費実績は下記のとおり。
[表 2-3] 本事業(ミラバジェス 1 号機)運用維持管理費
運用費 千コロン | 維持管理費 | 合計 千コロン | 為替 1ドル=コロン | 合計 ドルベース千ドル | |||
直接費 千コロン | 間接費 千コロン | 本社配賦費 千コロン | |||||
1994 | 15,485 | 169,567 | 0 | 0 | 185,052 | 165.1 | 1,121 |
1995 | 458,661 | 186,207 | 6,428 | 89,317 | 740,613 | 180.5 | 4,103 |
1996 | 101,239 | 80,238 | 196,275 | 98,478 | 476,230 | 207.8 | 2,291 |
1997 | 124,805 | 92,553 | 294,710 | 99,434 | 611,502 | 232.9 | 2,625 |
(出所)ICE
2.2.2 運用状況
(1) 井戸
生産井戸の性状を把握するために、ICEによる適切な観測・調査体制が取られている。その結果によると、ミラバジェス地熱地帯においても流体採取によって通常起きる貯留層の圧力低下が見られたが、その降下値は予想値とほぼ一致しており、時間の経過による急速な変化も示していない。
蒸気はほぼ当初予想どおりの性状を示しており、特に問題は生じていない。現在、利用済みの蒸気(排水)は還元井戸を通しての地中へ戻されているが、塩素及びシリカ濃度のモニタリングの結果、還元水の循環(還元井戸により地下に戻された水が再度蒸気として生産井戸から得られること)が確認されている。しかし、エントルピーの急激な変化は見られず、出力低下を引き起こすような熱的ブレークスルー14は起きていない。セパレータから分離された排水についてもラグーンに溜められた後、還元井戸を経て地中に戻されている。還元井戸の性状に対しても適切な観測が行われており、その結果によれば、発電開始以降、生産・還元に伴う還元指数等の還元パラメータに大きな変化は見られない。還元量は毎月変動しているが、これは利用流体量の変化によるものであり、還元井戸の能力変化によるものではない。
スケール15インヒビター16注入機器は極めて順調に稼働し、炭酸カルシウムスケール抑止に効果を上げている。水・蒸気分離やバルブ開閉に伴うフラッシュ17によるシリカスケール・トラ
14 還元水によって地熱貯留層が影響を受け、生産蒸気の圧力・温度低下が起きる事
15 管内付着物
16 溶剤(ポリアクリレート)
17 泡が発生すること
ブルが一部では起こっているが、大きな問題には至っていない。
(2) 蒸気供給
発電機への蒸気供給は、発電機において 60MWの出力を出す程、非常に安定しており、発電に支障を起こすような問題は起していない。蒸気供給量に余裕があるため、特に 3 本の生産井戸についてはそれぞれ単独でユニット式発電機(5MW×3 基)を用いて発電を行っている。このユニット式発電機は効率が悪いため、ミラバジェス発電所 1 号機と比べて 2 倍の蒸気を消費している。つまり、ミラバジェス地熱フィールドは、実質的には現在 90MW相当の蒸気を生産していると見なされ得る。
このように、ミラバジェス地熱フィールドは安定しており、ICEが継続的にモニタリング
(圧力、温度、各種化学成分、エンタルピーの測定)を行っている結果、その状況もほぼ把握されている。このようなデータの蓄積は、ミラバジェス 2 号機、3 号機を運転する上で重要であるばかりでなく、今後の他地熱フィールドの開発にも役立つものである。これら蓄積は、I CEの地熱フィールド管理能力が 3 年間で著しく向上した成果と考えれ、その努力は評価に値
すると思われる。なお、現在ある 39 本の井戸の内、17 本の井戸から 1 号機への蒸気を供給し
ているが、これらの中には 2 号機にも接続されている井戸もあり、将来の拡張を踏まえたミラバジェス地熱フィールド全体の総合的なエネルギー管理に対応できるように工夫されている。
なお、本事業は 1982 年に実施されたF/S結果に基づき、計画・実施されているが、同F
/Sでは蒸気集配方式としてダブル・フラッシュ方式が提案されていた18。この方式は蒸気量が同一の場合、シングル・フラッシュ方式に比し、高出力が得られると言う利点を有するが、還元流体が低温となり、還元ラインでスケールトラブルが生じる可能性がある。このため、I CEはF/S後の詳細設計の段階で最終的にシングル・フラッシュ方式の採用を決定した。本発電所がスケールトラブルで深刻な問題に直面していない現実を考慮すると、その選択は正しいものであったと評価できる。
(3) 発電・送電
発電設備の運転状況は表 2-4 のとおりである。発電機出力は定格 55MWに対して 60MW前後の出力を出しており、計画以上の実績を上げている19。また、発電量も安定しており高く評価できる。設備の利用率20は、3 年間を通して 90%以上と安定しており、蒸気が安定的に供給されていることがうかがえる。また、稼働率21も平均 93.5%と先進国地熱発電所と同等の成績を達成しており、全く遜色がない(表 2-5 に、日本九州電力八丁原地熱発電所との比較を示した)。このように、良好な運転成績を達成できた背景には、井戸の管理が行き届いていることと、発電設備のメンテナンスが十分行われていることが、大きく寄与していると思われる。また、通常よく見られる運転開始後の初期トラブルも発生しておらず、3 年経った今も大きなトラブルを経験していない。
18 本事業のモデルとなった九州電力の八丁原地熱発電所がダブルフラッシュ方式であった
19 事後評価ミッションが訪れた時も 58MWの出力を出していた
20 利用率 = 出力 ÷ 設備能力
21 稼働率 = 年間運転時間÷年間時間
[表 2-4] 発電設備運用状況
単位 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997(5 月迄) | |
設備定各容量 | MW | 55 | 55 | 55 | 55 |
運転最大出力 | MW | 60 | 61 | 60 | 59 |
蒸気供給量 | ton | 2,691,867 | 3,340,470 | 3,631,866 | 1,543,626 |
蒸気供給率 | kg/h | 419.45 | 432.49 | 444.97 | 543.13 |
利用率 | % | 91.3 | 90.6 | 96.2 | 101.3 |
発電量 | MWh | 341,058 | 436,548 | 464,794 | 198,681 |
自己消費 | MWh | 16,500 | 20,249 | 21,862 | 9,301 |
ネット発電量 | MWh | 324,558 | 416,299 | 442,932 | 189,380 |
蒸気消費率 | kg/kWh | 7.89 | 7.65 | 7.81 | 7.77 |
運転時間 | h | 6,418 | 7,723 | 8,162 | 2,842 |
稼働率 | % | 94.5 | 88.1 | 93.4 | 98.0 |
起動停止回数 | 回 | 50 | 37 | 26 | 3 |
計画停止回数 | 回 | 24 | 10 | 3 | 1 |
事故停止回数 | 回 | 26 | 27 | 23 | 2 |
(出所)ICE
[表 2-5] ミラバジェスと九州電力八丁原地熱発電所との比較
単位 | 1 年目 | 2 年目 | 3 年目 | 4 年目 | ||
ミ | 設備定各容量 | MW | 55 | 55 | 55 | 55 |
ラ | 発電量 | MWh | 341,058 | 436,548 | 464,794 | 198,681(5 月迄) |
バ | 稼働率 | % | 94.5 | 88.1 | 93.4 | 98.0 |
ジェ | 利用率 | % | 91.3 | 90.6 | 96.2 | 101.3 |
ス | 所内率22 | % | 4.8 | 4.6 | 4.7 | 4.7 |
九 | 設備定各容量 | MW | 55 | 55 | 55 | 55 |
州 | 発電量 | MWh | 106,713 | 190,613 | 329,356 | 411,037 |
八 | 稼働率 | % | 85.7 | 92.9 | 99.2 | 94.8 |
丁 | 利用率 | % | 73.0 | 86.3 | 87.8 | 87.6 |
原 | 所内率 | % | 10.0 | 8.0 | 6.8 | 6.7 |
(出所)ICE、九州電力
22 発電所内での電力消費比率
今まで経験した 78 回の事故停止の内、約半数は系統事故等外部事故であり、発電所所内に
起因する事故停止回数は 42 回である。ただし、事故停止一回当りの停止時間は数時間程度で あり、発電所側の迅速な対応がうかがわれる。営業運転開始以降、起動・停止に関わらないト ラブル事例としては、①電動機軸受焼き付き(当初選定潤滑油脂の選定ミス→潤滑油脂の種類 変更により対応)、②サイレンサー騒音大(設計不良→内部構造の改造実施)、③ホットウェ ル・ポンプ振動大(据付不良→エキスパンション・ジョイント再調整、再芯出しの実施)等が、発生しているが、これらに伴う改造工事等は定期点検時に計画的に実施されており、長期にわ たる供給停止には至っていない。
(4) トレーニング
運転開始に当り、運転及びメンテナンスのための各種トレーニングプログラム(運転用 6 コ
ース、メンテナンス用 14 コース)が用意された。中にはサイトで働くエンジニア全員必修のコースや、地熱先進国(日本、イタリア、メキシコ、ニカラグア等)への研修プログラムもあり、これらのトレーニングを受けた人数は、延べ 276 人に登る。内容的にはかなり充実していたと見られ、本事業が初期トラブルを経験しなかった要因の一つと考えられる。また、運転開始後最初の 2 ヶ月間はメーカーのスーパーバイザーの指導も受けている。現在も、技術的アドバイスを適時メーカーから受けており、メーカーの対応は適切であった。なお、ICE全体で見ると、1995 年度に社内外の研修を受けた延べ人数は 9,000 人にも上り、社員の教育・技術レベルアップに非常に熱心な実施機関であることがうかがえる。
2.2.3 維持管理状況
本発電所は運転開始後 3 年強を経過しているが、外観上の判断ではあるものの、機器・装置は極めて良好な状態に管理・保守されていると認められた。発電設備・坑井設備ともに現地に常駐しているエンジニア・技師により、ICE自身によりメーカーのマニュアルに従って適切な運転・保守が行われており、その方法・頻度等は日本の地熱発電所に比べて遜色がないものである。環境面への配慮、非常時への対応等も適切に行われており、全施設・設備について健全性・信頼性・安定性が維持されている。また、井戸掘削計画に関しては外部の専門家によるパネルを設置して適切なアドバイスを得ており、補充井戸や増強のための井戸掘削位置の選定は、正確かつ詳細な地熱貯留層の調査・解析に基づいて実施されている。
(1) 地熱フィールド管理
① 計画と実績
当初計画はミラバジェス地熱フィールドの中心部で生産井戸を掘削し、周辺部特に南部に還元井戸を掘削するというものであったが、現在は中心部に 1 号機と 2 号機の生産域、北部に 3
号機の生産域、南部に全体の還元域を設ける計画になっており、現在までに 39 本の井戸が掘削されている。
② 地熱貯留層管理手法
地熱貯留層の性状をモニタリングするために 4 項目が観測されている。
・ 坑内圧力モニタリング:キャピラリーチューブ23を用いて、井戸内の適切な深度の圧力モニタリングが行われている。
・ 温度・圧力測定:6 ヶ月に 1 回、テスターを用いて噴出中の温度・圧力測定が行われている。
・ 還元試験:最低年 2 回熱水及び冷水還元試験が行われている。
23 毛細管
・ 水位測定:最低 2 ヶ月に 1 回未使用井戸を用いて水位測定が行われている。
(2) 蒸気供給管理
蒸気のモニタリングは次のとおり実施されており、いずれに関しても地熱フィールドで通常行われている成分分析は全て行われている。
・生産井戸の坑口圧力での熱水・ガス採取(年 3 回)
・生産井戸からの坑口圧力を変化させた時の熱水・ガス採取(年 1 回)
・蒸気ラインからの凝縮蒸気採取(月 2 回)
・還元ラインからの熱水採取(年 2 回)
・非凝縮性ガス採取(月 1 回)
分析の結果、生産流体はほぼ中性の NaCl 型で、気液分離後の熱水中の Cl 濃度は約 4,000mg/lである。非凝縮性ガスは蒸気中の約 0.6wt%を占め、成分的には CO2 が 97%、N2 が 2.3%、H2Sが 0.6%、その他が CH4、H2、O2 である。これらの分析結果は貯留層の管理に有効に使われている。
(3) スケール・腐食問題
セパレータで分離した熱水は高温で地下に還元しており、還元井戸でのシリカスケールの付着を防いでいる。また、生産井戸に生じる炭酸カルシウムスケールについてはインヒビターを利用してスケールの付着を防止している。また、配管設備・セパレータ等の地上設備に対するスケールの問題も現在までのところ、ほとんど起こっていない。また、地熱特有の腐食問題に対しても、定期点検時にいくつかのバルブに腐食が見つかってはいるものの、全体的には良好な状態にある。今後とも計画的な点検・補修を行うことにより、充分対応可能である。
(4) 発電設備
発電設備は、メーカーのマニュアルどおり定期的に整備されており、無理な運転はなされていない。また、部品についてもメーカー指定品が基準レベルの量がストックされており、問題は見られない。運転開始後、3 年経っても特にトラブルが発生していないことを見ても、設備の維持管理状況は良好と判断される。
日常点検は発電所技術者・運転員により、定期的に実施されている。点検内容は機械・電気・計測それぞれにチェック・リストにより管理されている。定期点検は、ICEの全発電所の年間点検・補修計画の中で計画的に実施されている。実施時期は基本的には毎年 10 月ないし 11月に設定されており、定期点検の周期・内容は次のとおりである。
・初回定検 A 点検(細密点検)(期間 37 日間)
・2回定検 C 点検(簡易点検)(期間 15 日間)
・3回定検 B 点検(準細密点検)(期間 22 日間)
・4回定検 C 点検(簡易点検)(期間 15 日間)
・5回目定検以降は上記周期の繰り返し
上記定期点検周期・内容等は、機器設計・納入メーカーの推奨に基づき設定されたものである。これは、日本国内での定期点検方法に準じた分類・内容となっており、計画的な長期スパンでの点検・整備が計画・実施されていると言える。また、定期的なメンテナンス以外にオーバーホールは 2 年に 1 回予定されている。最初のオーバーホールは既に 1995 年に実施されている。
(5) 予防保全対策
通常の地熱発電所では硫化水素(H2S)による機器、特に電気品接点の腐食対策が重要となるが、本発電所では H2S 濃度が極めて低いため、特別な対策は実施されていない。実際に電気品接点を点検したところでも、腐食等の痕跡は見られなかった。また、蒸気配管等は機器設計・納入メーカーの推奨に従い、年 1 回、定期点検時に肉厚測定を実施しており、予防保全策がとられている。また、冷却水配管のエポキシ樹脂ライニング、ガスコンプレッサ等腐食性ガスと接触する機器でのステンレス・チタン等の耐食性材質の使用等、設計・保守上の十分な防食対策がとられている。
2.2.4 環境への配慮
コスタリカでは、日本の公害防止基本法等に相当する環境保全のための環境基準・規制基準・環境への影響の予測評価・環境モニタリングなど、規制・評価の指針となる法律等は未だ制定されていない。このため、ICEではアメリカのカリフォルニア州の関係法令を参考に、自主的に環境保全指針を作成している。こういったICEの環境に対する自主的な対応は高く評価できる。サイト全体の用地取得が行われた訳ではないが、ミラバジェス地区一帯は牧場に囲まれているため、井戸は民間人所有の牧場の中に点在しており、それらをつなぐパイプが牧場を横切る形で走っている。また、付近に村が 2 ヶ所存在している。従って、環境への影響の配慮が特に重要な地域である。幸い、現地を見た目にも雨水のph測定等の環境モニター結果上も、特に環境に対する懸念材料は現れておらず、住民からの苦情も報告されていない。
(1) 水質
地熱発電所の場合、井戸からの蒸気に含まれる H2S による影響が問題となるが、ほとんどの H2S は各パイピングシステムに設けられたセパレーターの後、排水と共に還元井戸を通って地下に戻されるクローズドループで運転されている。また、還元井戸の不調時に備えて排水を一時的にラグーンに溜めれるようになっている。ラグーンに溜まった水もいずれは還元井戸で地下に戻される。ラグーンの大きさは 1 号機の非常時利用に充分な容量を有しているが、2 号機用にさらに追加のラグーンが造成されている。また、地下への浸透防止用の防水ゴムシートが張られており、周辺河川への影響は出ないようになっている。
(2) 大気
蒸気に含まれる H2S は、復水器からガス抽出器により抽出される非凝縮性ガス中に濃縮されるがそれでも 0.6%24と低く、冷却塔から排出される大量の空気に混合希釈されて、大気中に拡散される。発電所周辺に H2S 特有の異臭はほとんど確認できず、周辺環境への影響は極めて少ないものと判断できる。
(3) 騒音・振動
騒音源となり得るスチームレシーバー等にはサイレンサー(消音装置)が設置されており、同装置動作時の騒音は 80dB 程度に抑えられている。また、敷地境界線での騒音も 60dB25程度であり、周辺の生活環境に与える影響は小さい。
24 非凝縮性ガスは蒸気中の約 0.6wt %を占め、成分的には CO 2 が 97%、N 2 が 2.3%、H 2S が 0.6%、その他がCH 4、H 2、O2 である
25 日本の環境基準法に基く昼間の住居、商業、工業併用地域における基準に等しい
(4) モニタリング
実際に環境への影響を調べるために、ICEは冷却塔の排気ガスの成分、透水層(shallow groundwater)の水質(32 ヶ所)、付近の気象状況(10 ヶ所)、河川の水質(10 ヶ所)、酸性雨(9 ヶ所)、地震の観測(6 ヶ所)等の環境モニタリングを行っている。連続的にモニタリングされている地震観測以外は毎月測定が行われている。気象状況、河川の水質、雨水の水質を測定するために、計器を積んだ車両(大型バス)がミラバジェス地区事務所に配備されており、各測定ポイントを巡回しながらモニタリングを行っている。これらの測定の結果、発電所から排出される非凝縮ガスに含まれる H2S の周辺環境への影響や、井戸掘削による透水層への影響は認められず、周辺住民への影響が懸念されるような結果は報告されていない。今後も環境モニタリングを継続すると共に、異常を検出した場合にはより詳細な調査と原因分析を行うべきである。
2.3 ICEの財務状況
1992 年から 1996 年までのICEの財務状況を見ると、営業利益は安定的に延びているが、
経常利益は 1995 年を底に大きく変動している。ROA、ROEも 1995 年にそれぞれ 0.3%、 0.4%まで落ちた後、1995 年にはそれぞれ 3%、5%まで回復している。各々のスプレッド幅を東京電力と比較すると、東京電力の場合各々 2.2%と 0.4%の幅しかないのに対し、ICEの場合は各々 9.2%と 4.8%の幅があり、非常に変動が大きいことがわかる。
こうした変動の原因は、1993 年~1995 年の間に営業外費用で計上された為替差損が例年より大きかったためである。ICEの長期負債の内、約 70%がIDBからの融資で占められており、為替の影響を受け易い体質にあるため、ICEは毎年為替変動による負債残高の評価見直しを行っている。その結果、為替差益もしくは差損を毎年利益/費用化あるいは資産化(キャピタライズ)しているが、その金額は各年度のドル建負債残高によるため毎年変動する。1995の落込みはドル建負債残高及び為替変動が通常より大きかったためと考えられる。
また、総資産回転率が約 0.1 と非常に低く、持っている資産が効率的に運用されているとは言い難い状況にある。この原因は固定資産が非常に高い点にあると思われるが、これはICEが毎年有形資産の評価見直しを行っているためである。しかし、このことで減価償却費は適切なレベルに引上げられ、ICEのキャッシュフローに余裕を与える点では評価できる。その結果、固定比率は 100%を越えているが、固定長期適合率はほぼ 100%と資金調達状況は安定しており、インタレスト・カバレジ・レシオも数パーセントあることから、利息の支払能力はあり、財務的安全性はある程度あると判断される。今後、ICEが財務状況の改善を図るには、遊休資産の整理縮小が必要と思われる。
[表 2-6] ICE貸借対照表・損益計算書 (単位:千コロン)
1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | |
流動資産 | 17,051,205 | 17,672,240 | 28,769,627 | 25,936,779 | 34,961,211 |
固定資産 | 248,976,790 | 302,414,996 | 367,727,671 | 481,316,387 | 572,408,346 |
減価償却 | 55,302,213 | 67,045,253 | 82,203,580 | 107,807,776 | 136,764,847 |
累計額 | |||||
その他資産 | 664,527 | 1,250,590 | 1,255,245 | 1,637,621 | 5,410,749 |
引当金 | 2,134,546 | 2,790,052 | 3,702,581 | 4,703,461 | 5,595,416 |
資産合計 | 213,524,855 | 257,082,625 | 319,251,544 | 405,786,472 | 481,610,875 |
固定負債 | 71,902,352 | 83,633,410 | 101,776,524 | 130,454,450 | 141,438,540 |
流動負債 | 30,078,070 | 34,738,813 | 42,688,654 | 50,569,291 | 55,740,920 |
自己資本 | 111,524,251 | 138,710,402 | 174,786,366 | 224,762,731 | 284,431,386 |
負債資本計 | 213,504,673 | 257,082,625 | 319,251,544 | 405,786,472 | 481,610,845 |
(出所)ICE(指標はICEの資料を基に算出)
[表 2-7] 損益計算書 (単位:千コロン)
1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | |
売上高 | 25,263,115 | 30,453,487 | 37,528,631 | 42,069,719 | 49,863,411 |
営業費用 | 12,141,986 | 14,482,255 | 20,480,845 | 23,196,417 | 27,037,084 |
営業利益 | 13,121,129 | 15,971,232 | 17,047,786 | 18,873,302 | 22,826,328 |
営業外収入 | 1,675,307 | 1,152,227 | 1,281,378 | 2,338,499 | 2,014,914 |
営業外費用 | 3,977,939 | 9,721,099 | 13,427,162 | 20,067,464 | 10,392,484 |
経常利益 | 10,818,497 | 7,402,360 | 4,902,002 | 1,144,337 | 14,448,758 |
税金 | 86,808 | 105,090 | 130,940 | 165,727 | 114,456 |
当期利益 | 10,731,689 | 7,297,270 | 4,771,062 | 978,610 | 14,334,302 |
ROA(%) | 5.1 | 2.9 | 1.5 | 0.3 | 3.0 |
ROE(%) | 9.6 | 5.3 | 2.7 | 0.4 | 5.1 |
総資産回転率 | 0.12 | 0.12 | 0.12 | 0.10 | 0.10 |
自己資本比率 | 52.2% | 54.0% | 54.7% | 55.4% | 59.1% |
流動比率 | 56.7% | 50.9% | 67.4% | 51.3% | 62.7% |
固定比率 | 173.7% | 169.7% | 163.4% | 166.2% | 153.2% |
固定長期適合率 | 105.6% | 105.9% | 103.2% | 105.1% | 102.3% |
インタレスト・カバレジ | 3.75 | 4.87 | 4.62 | 3.69 | 4.58 |
・レシオ | |||||
ROA東京電力 | 1.3% | 1.3% | 1.2% | 1.6% | 1.2% |
ROE東京電力 | 5.4% | 5.2% | 4.4% | 5.7% | 3.5% |
(出所)ICE(指標はICEの資料を基に算出)
2.4 事業効果
2.4.1 定性的効果
(1) 電力の安定供給
運用状況で説明したとおり、本事業は運転開始後、ベースロードとして安定的に発電・電力供給を行っており、コスタリカの電力需給バランス改善に貢献した。
[表 2-8] エネルギー需給構造
単位 | 1990 | 1991 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | |
設備容量 | |||||||||
地熱発電 | MW | - | - | - | - | 55 | 60 | 65 | 70 |
地熱発電比率 | % | - | - | - | - | 5.0 | 5.1 | 5.1 | 5.1 |
設備容量合計 | MW | 828 | 1008 | 1043 | 1043 | 1102 | 1166 | 1267 | 1369
|
発電量 | |||||||||
地熱発電 | GWh | - | - | - | - | 325 | 416 | 442 | 442 |
地熱発電量比率 | % | - | - | - | - | 6.9 | 8.6 | 8.9 | 8.5 |
年間発電量 | GWh | 3707 | 3828 | 4080 | 4383 | 4719 | 4843 | 4994 | 5212
|
ピーク電力需要 | MW | 682 | 718 | 764 | 814 | 859 | 872 | n/a | n/a |
負荷率 | % | 62.1 | 60.9 | 61.1 | 61.5 | 62.8 | 63.4 | n/a | n/a
|
年間消費量 | GWh | 3304 | 3411 | 3652 | 3890 | 4204 | 4343 | 4504 | 4750 |
消費比率 | % | 89.1 | 89.1 | 89.5 | 88.8 | 89.1 | 89.7 | 90.2 | 91.1 |
(出所)ICE(1997 年は計画値)
(2) 原油輸入量の節約
地熱という国産エネルギーの利用により、同等の発電量を輸入石油による火力発電で得た場合に比べて、年間 25 百万ドル以上の外貨の節約が図られた。特に非産油国においては、外貨節約効果と共にエネルギーの分散化にも貢献することになり、国家エネルギー供給戦略的な観点からも十分奨励されるべき発電方式と思われる(コスタリカでは石油及び天然ガス産出の可能性があり、幾つかのスタディーは行われているが、それらの開発を実現可能にするための法制度の整備が 1994 年に行われたばかりで、具体的なプロジェクトは未だ何もない)。
[表 2-9] 原油輸入節約額
単位 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | |
発電量 | GWh | 341 | 437 | 465 | 477 |
必要代替重油量 | kl | 78,538 | 100,527 | 107,031 | 109,804 |
重油価格 | コロン/l | 47.3 | 51.5 | 51.5 | 51.5 |
節約額 | 百万ドル | 22.5 | 26.6 | 25.0 | 25.7 |
重油総輸入額 | 百万ドル | 236 | 264 | 280 | 281 |
節約比率 | % | 9.5 | 10.1 | 8.9 | 8.9 |
(注)重油の熱量を 10,400kcal/kg、比重 0.945、火力発電所の熱効率を 38%と仮定。
(出所)コスタリカ中央銀行、ICE、IIF 等(1997 年は予想値)
2.4.2 定量的効果
(1) 財務的内部収益率FIRR
FIRRは、審査時見込 8.8%に対して実績は 8.1%となった。今回、FIRRを計算し直すに当っては、運用実績を踏まえて下記のとおり前提条件の見直しを行った。審査時においては、送電線から直接電力供給を受けるため配電ロスのかからない大口ユーザーが 27%いるとしていたが、そのような大口ユーザーは実際にはセメント会社 1 社しか存在せず、その売電量について確認できなかったため、全ての売電量に対して送電配電ロス率を掛けることとした。井戸の追加掘削費については、フィリピン南ネグロス島地熱発電建設事業26(借款契約 No. PH- P41)の実績(14 年間で 8 本掘削)を踏まえて、1998 年以降、2 年に 1 本掘るベースで費用に計上した27。
[表 2-10] FIRR計算前提条件
審査時 | 今回 | 備考 | |
設備容量 | 55MW | 55MW | |
事業費 | $115,847,000 | $223,104,000 | |
利用率 | 80% | 94% | 1994 年~1997 年 5 月実績平均 |
所内利用率 | 7% | 4.72% | 1994 年~1997 年 5 月実績平均 |
ネット年間発電量 | 358,460MWh | 404,300MWh | 1994 年~1997 年 5 月実績平均 |
送配電ロス率 | 12.9% | 11.5% | 1996 年実績 |
直売大口ユーザー | 27% | 0% | 1 社のみなので無視 |
売電料金 | $0.045/kWh | $0.07/kWh | 1997 年 1 月の全国平均 |
(1985 年 1 月) | (1997 年 1 月) | ||
運用維持管理費 | $2,786,000/年 | $2,625,000/年 | 1997 年予算値 |
追加井戸掘削費 | 上記に含む | $1,500,000/1 本 | ミラバジェス実績(3 段型) |
(出所)ICE
2.4.3 環境経済効果
地熱発電は、そのエネルギー源にマグマで熱せられた地下浸透水(蒸気)のみを使用しているため、燃料の燃焼が必要な火力発電と比べると非常にクリーンなエネルギーと言える。地球温暖化現象が危惧され、化石燃料燃焼に対する排ガス規制が世界的規模で厳しくなりつつある中、地熱発電の環境に対する優位性に注目し、その優位性を経済的に評価してみた。具体的な方法としては、火力発電所が大気に排出するガスを地熱発電と同等のレベルに下げるために必要な投資コストや運用維持管理コストを算出し、こうしたコストがFIRRにどのようなイン
26 通称パリンピノンⅠ
27 南ネグロス島の場合、蒸気供給量が 8 年間で¼減ったが、ミラバジェスの場合 4 年間の運転では蒸気供給量の減少は見られず、ミラバジェスは 1 号機用に新たな生産井戸の掘削も行われていないため、実際には 2年に 1 本掘る必要はないと思われる。
パクトを与えるのか調査した。なお、FIRRを算出するに当っては、すべてある仮定のもとに想定したキャッシュフローを用いており、非常にラフな結果しか得られないことを予め断っておきたい。
地熱発電及び火力発電(石炭焚き)が、環境に与える影響をまとめたものが表 2-11 である
(比較参考資料として水力発電についても載せた)。ここでのポイントは、地熱発電は火力発電と違って、全く煤塵、SOx、Nox を排出しない点である。CO2 に関しては地域差はあるものの、その排出量は火力発電と比べて大幅に低い(コスタリカの場合で火力発電の 1/10 以下)。従って、今回はこの 4 項目(煤塵、SOx、NOx、CO2)について比較検討することとした。
[表 2-11] 発電方法別による環境への影響
地熱発電 | 火力発電(石炭焚き) | 水力発電(参考) | |||||
影響 | 対応策 | 影響 | 対応策 | 影響 | 対応策 | ||
4 項目 | 煤塵 | ○ | × | 集塵機 | ○ | ||
SOx | ○ | × | 洗炭 | ○ | |||
重油脱硫 | |||||||
排煙脱硫 | |||||||
LNG,LPG 利 | |||||||
用 | |||||||
NOx | ○ | × | 燃焼改善 | ○ | |||
排煙脱硝 | |||||||
CO2 | △微量 | 植林 | × | 植林 | ×(森林水没) | 植林 | |
その他 | H2S | × | 還元井戸 | ○ | ○ | ||
騒音 住民移転 生態系破壊土壌侵食 | × ○ ×高温排水 ○ | 防音 冷却溜池 | × ○ ×温排水 ○ | 防音冷却 | ○ × × ×(人造湖による) | 補償植林 |
(注)×:影響あり、△:場合によっては影響あり、○:影響なし/ほぼ避けられる
各排出ガス抑制コストがFIRRに与える影響をまとめたものが表 2-12 である。火力発電
(石炭焚き)のFIRRを、排出ガスに対する環境対策を全く実施していない場合と、各排出ガス抑制設備を設置した場合で算出し、その差を比べた。FIRR試算の根拠は表 2-13 のとおりである。その結果、全 4 項目の環境対策を実施した場合FIRRの差は 5%にもなることが判明した。つまり、火力発電プロジェクト(石炭焚き)と地熱発電プロジェクトのFIRRの差が 5%以内であれば、経済的に見ても地熱発電の優位性が十分あることを意味する。しかし、最近の火力発電事業は、例えば集塵機程度は設置するのが普通になってきている。既に、そうしたコストが火力発電事業FIRRの計算に盛込み済であれば、地熱発電の優位性は 4 項
目全てではなく、残り 3 項目だけと比較しなければならない。
煤塵 | SOx | Nox | CO2 | |||
設備名称方法 | 火力発電石炭焚き | 集塵機電気式 | 排煙脱硫装置湿式石灰石膏法 | 排煙脱硝装置 アンモニア還元法 | 植物による炭素固定 | |
設備コスト算(1MW当り)拠年間運転維持 費用(1MW当り) | 24,000 万円 9.6 円/kWh | 130~1,300 万円 12~120 万円 | 700~1,500 万円 設備コストの 2% | 400~500 万円 90~900 万円 | 34,700 ドル | |
FIRRへの影響 | 約 -1% | 約 -0.5% | 約 -1.5% | 約 -1.5% |
[表 2-12] 各排出ガス抑制コストがFIRRに与える影響
試根
(注)アンモニア貯蔵タンク及びアンモニア消費コストは含まれていない。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー関係資料集」、煤煙低減技術マニュアル(日本産業機械工業会編)、
「開発途上国の大気汚染問題に係る固定発生源対策マニュアル(電力編)」1997 年地球環境センター編
(環境庁監修)等
今回、計算に用いた各設備コスト及び運転維持費用は日本ベースである。日本の各種排出ガ スの原単位(g/kWh)は他先進国と比べても、SOx 排出量が 1/20、NOx 排出量が 1/7、CO2 排 出量が-30%と低い28。必ずしも日本と同等のレベルまで排出ガスを抑制する必要性がない場合、例えば SOx、NOx 共にアメリカと同等のレベルでよしとした場合、設備コスト及び年間運転維 持費はより安く済むことになり、FIRRへのインパクトも小さくなる。CO2 に関しては、今 回の試算では 20 ドル/tonC という数値を用いたが、WRI29プロジェクトの中には 2 ドル/tonC 以下という中間報告もあり、実際はもっと安く済む可能性がある。また、今回火力発電の中で も石炭焚きと比較した理由は、他燃料(石油、LNG等)と比べてエネルギーコストが安いた め発展途上国ではまだまだ石炭焚きが主流であることと、環境への影響が最も大きいためであ る30。なお、LNGやLPG焚きの場合は、煤塵、SOx 共にほぼ排出しないため、煤塵及び SOx 対策コストはほとんど不要であるが、LNGやLPG受入基地に対する設備投資が必要なため、一概に経済的に有利とは言えない。
28 火力発電所全般(石炭、石油、LNG、LPG の区別)ベース。OECD6 ヶ国平均と日本平均との比較
29 World Resource Institute, Washington DC
30 LNGやLPG焚きの場合は煤塵、SOx はほぼ排出しない
[表 2-13] 排出ガス抑制コストの根拠
発電所 | 設備コストは資源エネルギー庁「エネルギー関係資料集」に基き 240 百万円/MWとした。これは日本で平成 4 年度に着工準備中火力発電所(石炭焚き)の平均建設コスト単価(286 百万円)から煤塵、SOx、NOx 等の環境対策設備コストを差引いた金額(253 百万円)とほぼ 一致している。利用率 80%、発電原価は 5 円/kWh、電力価格は 10 円/kWh とした。 |
煤塵 | 設備費は 4,400 円/Nm3/h、燃焼ガス量は 3,000Nm3/MW/h31とした。設備費は、圧力損失 が低く高効率の集塵が可能(微細なダストの補集も容易)で、運転及びメンテナンスが容易なため発電用ボイラーに広く利用されている電気集塵機ベースとした。 |
SOx | SOx 抑制方法には、低硫黄燃料への切替と排煙脱硫法がある。最も硫黄分が低い燃料は天然ガスである。排煙脱硫法は、排ガス中の SOx をアルカリ性物質で吸収・除去する方法で、アルカリ性の水溶液やスラリー液を吸収剤として使う湿式吸収法が主流となっている。今回の試算では、日本で主流となっている湿式石灰石膏法排煙脱硫装置の設備コストを用いて 1,500 万円/MWとした。なお、アメリカでの SOx 抑制方法は低硫黄炭への切替えが主流を占め、スクラバー等による排ガス脱硫は 30%(総脱硫量ベース)にも達しない 32。残りは SOx 排出権の売買による対応である。 |
NOx | NOx の発生は、燃料の種類より燃焼方法に依る部分が多く、燃焼温度が高いほど多く発生すると言われている。日本で行われている燃焼改善による NOx の低減対策には、2 段燃焼法、排ガス混合燃焼法、低 NOx バーナーの利用等がある。さらに排煙脱硝装置を用いて排ガス中の NOx を除去している。燃焼改善に係るコスト算出は難しいため、今回の試算には現在日本で主流となっているアンモニア接触還元法による排煙脱硝装置の標準的な仕様(脱硝率 80%ベース)、コストとして 600 万円/MWを用いた33。また運営費は 420万円/MWとした。なお、アンモニア貯蔵タンク及びアンモニア消費コストは含まれてい ない。 |
CO2 | 工業的に CO2 を抑制する方法は今のところ実用化のめどが立っていないため、CO2 抑制コストのベースとしては、植物(樹木)による CO2 固定法を選択した。森林に固定できる CO2 の量に関する調査・研究は、地球温暖化現象の認識と相まってここ数年で大きく進んできており、植林に係るコストと関連付けることにより、CO2 抑制コストが算出可能になってきた。ただし、森林のタイプ、樹木の種類等によって CO2 固定量、植林コスト共に差があり、単一的な数値が存在する訳ではない。今回は、世銀等でも概算用に用いられている 20 ドル/tonC34を利用し、CO2 排出原単位は先進国 6 ヶ国平均である 225g-C/kWhを 利用した。 |
地熱発電では一気に大型発電所を建設するのは無理で、ミラバジェスの場合のように地熱資源の性状を把握しながら段階的に増設していくのが現実的な方法と思われる。それでも 1 つの地熱地帯からの出力はせいぜい 200MW程度と思われる。従って、地熱発電は小型発電プラント(50MW程度/1 基)に限られるが、このクラスだと火力発電の効率が落ちFIRRも低くなるので、地熱発電がオプションとして存在する場合は、十分検討するべきと思われる。
また、今後 CO2 排出規制が世界的規模で本格的に導入され、アメリカで実施されている SOx排出権取引き同様、CO2 排出権取引きが可能になれば、地熱発電は例えば植林に比べて効率の高い CO2 抑制方法として、CO2 排出規制の影響を受ける事業者(特に電力事業者)にとって魅力
31 ボイラー便覧(日本ボイラー協会編)より
32 Energy Ventures Analysis, Inc., The Utility Report 1995
33 この方式は設備コストと運転費共に高いため、触媒上で還元剤なしに NOx を窒素と酸素に分解する接触分解法も開発されている
34 公式に認められた数値ではない
的なプロジェクトになると思われる。また、国連が提唱している Joint Implementation35への適応が可能であり、その場合、外資導入が実現されるプロジェクトとして、途上国側から見ても非常に魅力的なプロジェクトになり得る。
2.4.4 その他の効果
(1) 技術移転
ICEでは、井戸の試削のため、アメリカのコンサルタントを 1975 年から 1983 年までコンサルタントとして雇用した。その後、ミラバジェスの井戸の開発のためイタリアのコンサルタントを雇用し、ミラバジェス地熱発電所 2 号機運転開始準備のため、1994 年から再びアメリカのコンサルタントを雇用している。また、同時に海外の地熱発電所に研修生をほぼ毎年 1~2人派遣(9 ヶ月~1 年間)している。現在、ICE内部の地熱関係の専門家(化学、地質等)は 25~30 人おり、ミラバジェス 2 号機の立ち上げ及び 3 号機の建設開始の準備に当っている。このように、継続してコンサルタントを雇用することにより、この 10 年間で技術者がゼロからこれだけの数の育ったことは、技術移転が上手く進んだ証拠と思われる。
さらにICEは、既に自前のリグ(掘削機)を購入し、自分で井戸を掘れる体制を整えており、現在ミラバジェス地区にて 1 本を試削中である。当面は、ミラバジェス地区での井戸のメンテナンス用に使用する予定であるが、将来は他地域での井戸の試掘に活用する予定である。
また、ICE自身も本事業を実施するに当たり、技術者を積極的に他国の地熱発電所の見学等に派遣(日本にも数回派遣)しており、技術吸収意欲が高いことも評価できる。
(2) 民間資本呼水効果
地下浸透蒸気は石油と比べてわかりにくいため、地熱フィールドの規模が把握しにくく、地熱開発は難しいとされている。ミラバジェス地熱フィールドの調査が 10 年(1975 年~1985 年)もかかったことから見ても、地熱発電が可能かどうかを見極め、実際に地熱発電所建設の決定を下すまでには時間を要し、慎重に判断しなければならないことがうかがえる。そのため、地熱発電は民間企業が参入するにはリスクが高く、民活導入を図りにくいプロジェクトである。
しかし、本事業において地熱発電所を建設し運用実績を作り上げることで、新規地熱フィールド開発の不確定要素を排除し、事業リスクを軽減した効果は大きいと思われる。本事業(ミラバジェス地熱発電所 1 号機)の建設を皮切に、2 号機、3 号機の建設が決定しており(2.6.1参照)、特に 3 号機は、BOT案件として民間資本の導入が図られた点で注目される。この様に、民活導入を図るにはリスクが高すぎる事業やセクターにおいては、OECF借款等の公的資金を利用して事業運用実績を作り、開発リスクの負担を軽減することで、民間資本を動員・誘導しやすい環境整備が可能である。民活導入計画におけるOECF借款の果すべき役割の 1つとして、今後十分検討する価値はあると思われる。
35 国連がUNFCCCの中で提唱している。JIは、先進国側パートナーが技術と資金を提供し、開発途上国側パートナーが場所を提供する形でCO 2 削減プロジェクトを実施し、そのプロジェクトで削減された(浮いた)CO 2 排出量を排出権として先進国パートナーに供与するプログラム。先進国側は確実に CO 2 排出量権を得ることができ、途上国側は外資導入が図れるメリットがある。
2.5 今後の計画
2.5.1 ミラバジェス地熱フィールドの開発計画
ミラバジェスには断層が幾つもあり、その隙間からより深層部からの地熱が得られるため、地域全体が地熱に恵まれている。そのため、同地域には複数の地熱発電プロジェクトの計画がある。地区全体の地熱開発を経済的・効率的に進めるためには、貯留層の解析及び管理を十二分に行うことが必要不可欠である。この点についてICEは、貯留層数値モデルを作成し、3年間の温度・圧力・流量・地化学等の生産・観測データを用いてモデルのシミュレーションのキャリブレーション(検証)を実施してきた。その結果、貯留層の性状把握が可能となり、既に井戸の掘削位置は、シミュレーション結果を基に決められている。今後は、数値モデルの精緻化を図り、地熱貯留層賦在状況の予測に利用しようとしている。その際必要となる高度のコンピュータ技術や、地熱に関する深い経験が必要な貯留層解析技術については、今後も海外のコンサルタントの技術を充分に取り入れることが重要であろう。
また、ミラバジェス地区地熱フィールドの開発を進める際には、地熱貯留層全体を長期的観 点から評価しながら進めるべきである。現在建設中のミラバジェス 2 号機に加え、3 号機 4 号 機の開発が、1 号機の発電に何らかの影響を与えることは必至であり、その際地域全体の最適 開発規模・配置・工程等を、貯留層解析結果を用いて決定することが必要であり、むやみな拡 大・乱開発は避けるべきである。また、今後、生産井戸・還元井戸の能力低下が予想されるが、その補充のために計画的に補充井戸を掘削する必要がある。
[表 2-14] ミラバジェス地区の地熱発電プロジェクト
プロジェクト名 | 発電規模 | 状況 | ファイナンス |
ミラバジェス 1 号機(本事業) | 55MW | 1994 年運転開始 | OECF |
ミラバジェス 2 号機 | 55MW | 1998 年運転開始予定 | IDB |
ミラバジェス 3 号機 | 27.5MW | 1997 年契約調印、契約発効待ち | BOT |
ミラバジェス 4 号機 | 27.5MW | 計画中 | BOT |
ミラバジェス 5 号機 | 20MW | 2000 年運転開始(バイナリーサイクル) | BOT |
(出所)ICE
2.5.2 コスタリカの地熱発電プロジェクト
ICEは、ミラバジェスに続く次の地熱発電所建設の候補地として、ミラバジェス火山に隣接するリコンデラヴィエヤ火山地区及びテノリオ火山地区で地熱発電の可能性を調査を開始しており、良好な結果が得られている。コンデラジャヤ地区は国立公園内にあるものの、140 MW相当の容量があるとされており、テノリオ地区の蒸気温度は 230~240℃で塩度が低く 100
~120MW相当の容量があると予想されている。両地区における具体的な発電所建設計画は未 だないものの、ミラバジェス地区に次ぐ地熱地帯として今後の開発が期待されている。このよ うに、地熱発電はコスタリカにおける電力発電形態の 1 つとして定着しつつあると考えられる。
2.6 世界の地熱発電の利用
表 2-15 に示すとおり、環太平洋諸国において積極的に地熱発電が利用されているという特 徴が見られる。特に、フィリピン及びインドネシアでの開発状況が目を引く。フィリピンでは、現存する主な地熱フィールドは 5 ヶ所あるが、さらに 9 ヶ所の地熱フィールドがルソン島、レ イテ島、ミンダナオ島で確認されており、全て(754MW相当)BOT 形式での開発が予定されて いる。インドネシアにおける今後計画されている地熱開発は、国営石油企業である Pertamina が中心となりJOC(Joint Operating Contract)形式での開発が予定されており、既に Pertamina がPLN(インドネシア電力供給公社)への販売を可能にする法令も施行されてお り、今後民間企業が地熱発電開発を進められ易い状況になりつつある。インドネシアにおいて このように地熱発電が積極的に対する前向きな姿勢は、元々世銀がインドネシアにおいて幅広 い範囲における地熱発電開発プロジェクト(大、中、小様々な規模のプラント)への融資を積 極的に行ってきたとう背景が大きく影響しているものと思われる。OECFも、地熱開発の可 能性がある他国において同様な役目を果せられるものと思われる。
[表 2-15] 世界の地熱発電施設 (単位:MW)
国 | 1990 | 1995 | 2000(計画) | 備考 |
1 アメリカ | 2,775 | 2,817 | 3,395 | カルフォルニア州、ネバダ州中心 |
2 フィリピン | 891 | 1,191 | 1,945 | BOT案件多数(754MW相当) |
3 メキシコ | 700 | 753 | 960 | 地熱フィールド 3 ヶ所 |
4 イタリア | 545 | 632 | 856 | 開発は民間企業主体 |
5 日本 | 215 | 414 | 600 | 1993 年時点で発電所は 11 ヶ所 |
6 インドネシア | 145 | 310 | 1,080 | Pertamina とのJOC |
7 ニュージランド | 283 | 286 | 440 | 電力セクター民営化の対応が課題 |
8 エルサルバドル | 95 | 105 | 165 | 1975 年運転開始 |
9 コスタリカ | 0 | 55 | 170 | |
10 アイスランド | 45 | 49 | n/a | |
11 ケニヤ | 45 | 45 | n/a | |
12 ニカラグア | 35 | 35 | n/a | TGC社が105MW BOTプラン |
ト開発中 | ||||
13 中国 | 19 | 29 | 81 | |
14 トルコ | 21 | 21 | 125 | |
15 ロシア | 11 | 11 | 110 | |
その他 | 8 | 10 | n/a | |
合計 | 5,832 | 6,762 | 9,927 |
(出所)Gerald Huttrer「The Status of World Geothermal Power 1990-1994」
取締役会
エネルギー環境省
通信部門
管理本部
エネルギー開発本部
システム本部
アドバイザー
GERENCIAL
政府
[別添] ICE組織図(1997 年現在)
ジェネラルマネージャー
広報
監査
企画
総裁
調達部
技術開発
組織開発部
建設部
情報管理部
土木技術部
メンテナンス部
財務部
電気装置部
オペレーション部
総務部
融資金計画管理部
配電部
人事部
計画部
営業部
DIRECCION
SUBGEREN.
(出所)ICE
スチームセパレータ
生産井戸ヘッド