2014/10/27 Lecture on Obligation2, 2015 11
第三者のためにする契約(全)レポート課題の説明
明治学院大学法学部教授
xxx x
◼ 六法とノートを用意してください。
◼ 条文が出てきたら必ず六法で確かめましょう。
◼ 疑問点は,ノートに書きとめ,理解できたら,メモを追加しましょう。
◼ そのノートがあれば,定期試験の準備がとても楽になります。
◼ しかも,そのノートは,あなたの一生の宝になることでしょう。
1. 第三者のためにする契約の位置づけ
2. 第三者のためにする契約の適用領域
3. 第三者のためにする契約の機能
4. その機能が活用されていないのはなぜか?
契約
総則
総論
物権
債権
契約
総論
民法 債権
債権
…
各論 契約
契約の成立 契約の効力
契約の解除
贈与契約
同時履行の抗弁権
危険負担
第三者のため
にする契約
537条
538条
539条
親族
不法 各論
行為
相続
…
和解契約
◆ 典型契約と「第三者のためにする契約」とはどのような関係にあるのだろうか?
責任保険
(保険法8条)
生命保険
(保険法42
条)
受益権の取得
(信託法88
条)
運送契約
(商法
583条)
第三者のためにする契約
(民法
537条~
539条)
供託
(民法
494条~
498条)
保険法
信託法
商法
債務引受
(大判大 6・11・1民録23輯1715
頁)
契約上の地位の譲渡
(最二判昭46・4・ 23民集
25巻3号
388頁)
電信
送金 銀行
(最一判 振込
x43・ (大判昭
12・5民 9・5・25
集22x x集13
13号 巻829
2876頁) 頁)
民法
特別法
判例法
民法に規定のない制度の構築が可能
債権者・債務者間の合意による
「債権譲渡」
• 民法466条以下の債権譲渡とは異なり,債権者と債務者との間の契約で債権を譲渡できる。
債権者・債務者間の合意による
「債務引受」
• 判例・学説によって認められている債務引受とは異なり,債権者と新債務者との間の合意ではなく,債務者と新債務者との間の合意で債務引受を実現できる。
• 民法514条(債務者の交代による更改)とは異なり,新債務者は,債務者が有していた抗弁をもって,債権者に対抗できる。
銀行「振込」の基礎理論
• 振込依頼人から受益者への振込依頼に基づき,仕向銀行と被仕向銀行との合意で,依頼人名義の仕向銀行の預金債権を受益者名義の預金債権へと移転することを理論的に説明できる。
◆「第三者のためにする契約」は,様々な制度をxxに構築できる優れた制度である。しかし,現状では,その利点が活かされていない。
◼ 「振込制度」の前身である「電信送金契約」に関して,判例は「第三者のためにする契約」ではないと断定した(大判大11・9・29民集1巻557頁,最一判昭 43・12・5民集22巻13号2876頁)。
◆ これが,「第三者のためにする契約」の解釈学の悲劇の始まりである。
◼ その後,振込についても,「判例(大判昭9・5・25民集13巻829頁)は,振込契約を第三者のための制度ではないと判断している」という考え方が通説と なっている。
◆このため,「第三者のためにする契約」に基づいて振込制度の基礎理論を形成するという機会が阻害されている。
◆「誤振込」についても「第三者のためにする契約」からのアプローチが不在である。
◆「振込契約」に関する判例解釈の混乱が原因となって,「誤振込」事件に関して,最高裁は「原因関係がなくても振込は有効」という「珍説」を採用するに至っている。
◼ 最二判平8・4・26 民集50巻5号1267頁
「振込みの原因となる法律関係が存在しない場合であっても,受取人と銀行との間に,振込金額相当の普通預金契約が成立する。」
◆このため,反社会的集団による「振り込め詐欺」に対しても,「原因関係がなくても振込は有効」であるという判例法理が足枷となって,適切な対処できないという混迷状態が続いている。
◆そこで,「第三者のためにする契約」について,原点に立ち返って基礎的研究を行い,その効用を再評価をすることが必要となっている。
◼ 1.第三者のためにする契約の定義と典型例
◼ 2.民法537条(当事者と効力)
◼ 3.民法538条(変更可能時期)
◼ 4.民法539条(抗弁の対抗)
1.第三者のためにする契約の定義と典型例
1. 第三者のためにする契約は,どのように定義されているか?
2. 第三者のためにする契約の典型例とはどのような事例か?
3. 第三者のためにする契約の典型例は,他の制度で実現できないか?
4. 他の契約とは異なる第三者のためにする契約の特色とは,何か?
第三者のためにする契約とは?(1/2)→条文
◼ 契約当事者の一方(xxxx)が,第三者(受益者)に対して直接債務を負担することを契約の相手方(要約者)に約束する契約(民法537条~ 539条)。
◼ 典型例
◼ 原因(対価)関係
◼ 売主が,
その債権者に負って
売主の債権者
(受益者)
対価関係債権
当事者売主
(要約者)
補償関係
売
いる債務を弁済するため,
◼ 当事者
◼ 売主(要約者)と買主(諾約シャ)間の約束で,
◼ 効果
◼ 売買代金を買主から売主の債
権者(受益者)に直接支払わせることができる。
買
抗 代
弁 金
債
権
当事者買主
第三者のためにする契約
(諾約シャ)
典型例の検討(2/2)
◆典型例の場合というのは,実は,売主の債権者と売主とが当事者となって,債権の弁済に代えて,売買代金債権を売主の債権者に譲渡すればよい事例である。そうだとすると…
◆ 「第三者のためにする契約」をする必要は あるのか?
◼ 債権譲渡の場合
売主の債権者
(受益者)
対価関係債権
当事者売主
(要約者)
補償関係
売
には,売主の債権者と売主との合意によらなければならない。しかし,
◼ 第三者のためにする契約の場合には,売主と買主
◆ 誰が当事者になるかは,実は,大きな
買
抗 代
弁 金
債
権
当事者買主
第三者のためにする契約
の合意でよい。
問題である。
(諾約者)
2014/10/27 Lecture on Obligation2, 2015 11
2.民法537条(当事者と効力)
1. 民法537条の立法理由は何か?
2. 民法537条が旧民法に対して下している評価は正しいか?
3. フランス民法1121条とドイツ民法328条とで相違はあるか?
4. 受益の意思表示はなぜ必要か?
5. 受益の意思表示は,常に必要か?
◼ 第537条(第三者のためにする契約)
① 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約し
たときは,その第三者は,債務者に対して直接に
その給付を請求する権利を有する。
② 前項の場合において,第三
第三者
(受益者)
◆ 直接請求権
対価関係
他方当事者
(要約者)
第三者のためにする契約
(補償関係)
者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意
思を表示した時に発生する。
の発生を結果と
考えよう。
◆ 結果を生じさせる2つの原因とは何か?
一方当事者
(諾約者)
◼ 民法537条の立法理由(1/2)
◼ 立法の趣旨
◼ 本条〔現行民法536条〕乃至第536条〔現行民法539条〕は,他人の利益の為めにする契約に関する規定なり。
◼ 旧民法の考え方との相違点
◼ 此種の契約の有効なるは,近時学者の疑はざる処にして,立法例も亦漸次に其効力を認むる傾向あり〔例えば,フランス民法典1121条,ドイツ民法328条~334条〕。
◼ 之に反して,既成法典は此種の契約を無効とせり。其理由とする処は,此契約に在りては,金銭に見積ることを得可き利益なきを以て原因の存せざる契約と為すに在るなり(財323)〔旧民法財産編323条〕。
◼ 然れども,本案に於ては,原因を以て契約の要素と為さず又債権の目的は金銭に見積ることを得可きものに限らざるの主義を採りたるを以て,此契約を無効とするの理由なし。
◼ 民法537条の立法理由(2/2)
◼ 立法の必要性
◼ 今当事者間に於て,此契約の有効なるは言を俟たざるを以て,xxを掲ぐるの必要なしと雖も,第三者が此契約に依りて権利を取得す可きものなるや否やに在りては,学説及び立法例未だ一致せざるを以て,特に之に関する規定を設くるの必要あり。
◼ 従来の立法例との対比
◼ 従来の立法例に依れば,此場合に於て第三者は契約に干与せざるを以て,其利益を受くることを得ざるものとしたるも,近時 独逸民法草案〔ドイツ民法328条以下〕及び瑞西債務法〔112条〕の如きは,正反対に,第三者をして直ちに権利を取得せしめ,特に拒絶を為したる場合に於て其権利を失ふものとせり。
◼ 本条の特色
◼ 本案に於ては,右の両主義を折衷し,原則として当事者の意思を以て第三者をして権利を取得することを得せしめ,唯第三者の自ら知らざる間に権利を取得したるものと為すは其当を得ざるを以て,第二項の規定を置きたり。
◆ 両主義の折衷とは何か?
◆ フランス民法1121条(旧民法財産編323条),ドイツ民法328条は「第三者のためにする契約」について,どのように規定しているか?
◼ 旧民法では,第三者のためにする契約は,無効か?
◼旧民法財産編第323条〔第三者のためにする契約〕
◼ ①要約者が合意に付き金銭に見積ることを得べき正当の利益を有せざるときは,其合意は原因なき為め無効なり。
◼ ②第三者の利益の為めに要約を為し,且,之に過怠約款を加へざるときは其要約は,之を要約者に於て金銭に見積ることを得べき利益を有せざるものと看做す。
◼ ③然れども,第三者の利益に於ける要約〔La stipulation faite dans l’intérêt d’autrui〕は,要約者が自己の為め為したる要約の従たり又は諾約者に為したる贈与の従たる条件なるときは有効なり。
◼ ④右二箇の場合に於て,従たる条件の履行を得ざるときは,要約者は単に合意の解除訴権又は過怠約款の履行訴権を行ふことを得。
◆①,②無効と③の有効とは,どのような関係に立つか?
◆ 旧民法は,「第三者のためにする契約」の有効性を否定していない
◆ 確かに,旧民法は,原因(cause)を契約の有効要件とするフランス民法1108,
1131条の影響を受けて,原因を欠く契約は無効としていた(財産編第304条)。
◆ しかし,旧民法も,合法的な原因関係と対価要件の下に「第三者のためにする契約」を肯定している(財産編第323条第3項)。
◆ この点,現行民法の立法理由が, 「既成法典〔旧民法〕は此種の契約〔第三者のためにする契約〕を無効とせり」としているのは,誤解である。
◆ 原因(対価)関係は,xxx有用な考慮事項である
◆ このような原因(cause)の考え方は,xx法が契約の有効性について,対価関係(Consideration)を要求しているのと同じである。
◆ 原因と対価関係は,一般論としては否定しようとするのが世界の傾向であるが,具体的な事例においては,常に念頭に置くべき考慮事項である。
◆ わが国の学説が,第三者のためにする契約において,「対価関係」を要求しているのは,正当である。
3.民法538条(変更可能時期)
1. 民法538条の立法理由は何か?
2. 当事者が契約内容を変更できるのは,民法上は,いつまでか?
3. 当事者が契約内容を変更できるのは,保険法上はいつまでか?
◼ 第538条(第三者の権利の確定)
◼前条の規定により第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
対価関係
受益者
(債権者)
要約者
第三
者のためにする契約
(補償
関係)
諾約者
(債務者)
◼民法538条の立法理由
◼本条の規定なきときは,果して本条に掲げたるが如き結果を生ずるや,頗る疑なき能はず。
◼何となれば,第三者は当事者が自由に契約を変更し又は廃棄することを得る範囲内に於て,権利を取得したるものと解することを得べければなり。
◼若し当事者が随意に第三者の権利を変更し又は廃棄し得可きものとせば,第三者の権利は有名無実に帰す可きを以て,本条の規定を置くの必要あり。
第三者のためにする契約民法538条の理解(3/3)
◼ 民法538条の反対解釈
◼ 第538条(第三者の権利の確定)
◆前条の規定により第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
◼ 受益者が受益の意思表示をするまでは,受益者の権利を変更できる(大判大5・7・5民録22輯1336頁)。
◼ 保険法第43条(保険金受取人の変更)
◆①保険契約者は、保険事故が発生するまでは、保険金受取人の変更をすることができる。
◆②保険金受取人の変更は、保険者に対する意思表示によってする。
◆③前項の意思表示は、その通知が保険者に到達したときは、当該通知を発した時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、その到達前に行われた保険給付の効力を妨げない。
4.民法539条(抗弁の対抗)
1. 諾約者が受益者に対抗できる抗弁権とはどのような抗弁か?
2. 補償関係にある要約者に対する抗弁をもって対抗できるか?
3. その抗弁が,通謀虚偽表示による無効の抗弁の場合は?
4. 対価関係にある要約者に対する抗弁をもって対抗できるか?
5. その抗弁が,通謀虚偽表示による無効の抗弁の場合は?
◼ 第539条
(債務者の抗弁)
◼ 債務者は,第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって,その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
受益者
(債権者)
対価関係
要約者
第三者のためにする契約
(補償
◆ 第三者のためにする契約と,更改との違いは,諾約者が受益者に対して抗弁を有するということである。
◆ それでは,諾約者が受益者に対して有する抗弁とは,どのような抗弁なのだろうか?
関係)
抗弁
諾約者
(債務者)
◼ 民法539条の立法理由
◼ 本条は之を設くるの必要なきが如しと雖も,第三者の権利は其一旦発生したる後に在りては全く独立して存在するものと解する者なきに非らざるなり。
◼ 抑も第三者の権利は当事者間の契約に基きて生ずるものなれば,債務者をして其契約に基きたる抗弁を為すことを得せしむるは甚だ至当の事なりと信ず。
◼ 然れども債務者は契約の成立後に生じたる事由に基きて抗弁を為すことを得ざるが故に,契約成立後に於て債権者に対して取得したる債権を以て相殺の用に供すること能はざるなり。
◆「第三者のためにする契約に基づく抗弁」をもって諾約者が受益者に対抗できるとは何を意味するか?
◆この抗弁には,契約そのもの(補償関係)から生じた抗弁だけでなく,原因関係(対価関係)から生じた不成立・無効の抗弁,同時履行の抗弁,消滅の抗弁等のすべての抗弁が含まれると解すべきである。
◆受益者に直接請求を認めた上で,諾約者の不当利得返還請求へと逃避するのではなく,不当利得を未然に防止すべきだからである。
◆このような原因関係に関する抗弁をもって,諾約者が受益者に対抗できるということは,2つの意味を持つ。
◆「第三者のためにする契約」においては,「原因(対価関係)」は,契約の効力に影響を及ぼさないが,諾約者は履行拒絶の抗弁権を有する。
◆原則として,抗弁の対抗を認めない「更改契約」と, 「第三者のためにする契約」との違いが明確となる。
◼ 諾約者が援用する抗弁は,どんな抗弁でもよいか?
◼ 大判昭9・5・25民集13巻829頁(対抗できない場合もある)
◼ 甲(要約者)が銀行乙(諾約者)と通謀し,甲より丙(受益者)に支払ふべき金額を丙の預金中に受入れたる旨を,丙に対し虚偽の通知を為したる場合に於ては,丙の善意なる限り,乙銀行は該金額を丙に払戻すべき義務あるものとす。
◼ 原審(控訴院)判決(どんな抗弁でも対抗できる)
◼ 丙〔第三者〕の為にする預金契約が,其の契約上,當事者相通じて為したる虚偽の意思表示に因る無効のものなりと言ふが如き,契約自體に基因する抗辯は,假令,其の契約の利益を受くべき丙が善意なるときと雖,債務者たる乙銀行は,之を以て丙に對抗し得べきことは,民法第539條の規定に依り疑なき所にして,同法第94條第2項は適用の餘地なきものと解せざるべからず。
◼ 大判昭9・5・25民集13巻829頁の事実関係
◼ 丙の主張:丙は,昭和2年1月以来,乙銀行舞鶴支店
と当座預金勘定契約を
締結し,爾来取引の継続中,昭和2年12月31日,訴外甲が
丙(受益者)
善意か悪意か?
対価関係債権
甲(要約者)
通謀虚偽表示
丙の右当座口へ1,900円を入金したる旨,同支店より丙に通知あり。
◼ 仍て丙は,翌3年1月20日,同支店に対し,其の払戻を請求したるに,乙銀行は,之に応ぜず。
◼ 乙銀行の答弁:丙と当座預金取引ありたることは之を認むるも,其の主張に係る入金の事実は之
預預
抗 金金
弁 債債
権権
乙銀行
振込契約
補償関係なし
(虚偽表示)
を認めず。
◼ 右の如き入金通知を銀行より丙に対して為したるは,訴外甲の依頼に依り,仮装したるに過ぎず。
(諾約者)
通謀虚偽表示
◼ 諾約者が援用できる抗弁は,制限される場合もある(結論)
◼ 大判昭9・5・25の控訴審(補償関係の抗弁は,受益者に対抗できる)
◼ 丙の為にする預金契約が,其の契約上,當事者相通じて為したる虚偽の意思表示に因る無効のものなりと言ふが如き,契約自體に基因する抗辯は,假令,其の契約の利益を受くべき丙が善意なるときと雖,債務者たる乙銀行は,之を以て丙に對抗し得べきことは,民法第539條の規定に依り疑なき所にして,同法第94條第2項は適用の餘地なきものと解せざるべからず。
◼ 大判昭9・5・25民集13巻829頁の判旨(対抗できない抗弁もある)
◼ 原院は,甲は,丙に対し弁済すべき金1,900百円の調達に窮したる結果,乙銀行 舞鶴支店に至り,自分より丙の当座預金尻に1,900円の「入金を為したる如き形式を装ひて其の入金通知を為し呉れ度き旨懇請し」たるを以て,「同支店員は,之を 承引し,何等の実取引に基かずして右の如き入金通知を為し」たりと判断するの みにて,丙の善意と否とは之を確定すること無く,上告人の本訴請求を棄却したり。
◼ 甲(要約者)が銀行乙(諾約者)と通謀し,甲より丙(受益者)に支払ふべき金額を丙の預金中に受入れたる旨を丙に対し虚偽の通知を為したる場合に於ては,丙の善意なる限り,乙銀行は該金額を丙に払戻すべき義務あるものとす。
◼ 生命保険契約
◼ 債務引受(立法理由の再検討)
◼ 契約上の地位の譲渡
◼ 賃貸人の転借人に対する直接訴権
第3節 第三者のためにする契約の
代表例
第1款 生命保険契約
1. 生命保険契約の場合,受益者の意思表示は必要か?
2. 受益の意思表示を不要とする場合,その理由は何か?
3. 生命保険契約の場合,いつまで,契約内容の変更が可能か?
4. 大審院の判例(大判大5・7・5)はどのように判断していたか?
5. 現行保険法では,この問題は,どのように解決されているか?
(1)生命保険契約
◼ 保険法第42条
(第三者のためにする生命保険契約)
◼ 保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは,当該保険金受取人は,当然に当該生命保険契約の利益を享受する。
受益者
(保険金受取人)
対価関係
要約者
(被保険者)
(補償関係)
◆ ここでのポイントは,第三者のためにする契
約としての生命保険契約の場合,受益者による受益の意思表示は必要がないことである。
◆ 一般の第三者のためにする契約においても,事情によっては,受益の意思表示を必要としない場合がありうる点に注意すべきである。
抗弁
諾約者
(保険者)
第3節 第三者のためにする契約の
代表例
第2款 債務引受
(立法理由の再検討)
1. 債務引受を第三者のためにする契約で行うことを判例は認めているか?
2. 民法には,債務引受に関するxxの規定が存在しないのはなぜか?
3. 民法の立法者は,債務引受に関する旧民法の規定を十分に理解していたか?
4. 学説・判例が参照しているドイツ民法における債務引受の規定とは何か?
5. ドイツ民法の債務引受の規定と,旧民法の債務引受の規定はどこが違うか?
6. 旧民法の債務引受の規定は,現在,どのような条文として残っているか。
7. 現行民法の条文だけを使って,債務引受の構造をうまく表現できるか?
対価関係
受益者
(債権者)
債債権権
要約者
(債務者)
◼ わが国には,
債務引受に関するxxの規定は存在しない。
◼ 判例(大判大10・5・9民録 27輯899頁)は,ドイツ民 法(414条~)等を参考に判例法理を形成してきた。
◆ しかし,わが国には,条文の根拠が,本当に存在しないのであろうか。
抗弁
債務
債務 引受
引受 契約
(補償関係)
諾約シャ
(新債務者)
◼ 大判大6・11・1民録23輯1715頁
◼ 第三者給付の契約は,契約当事者が契約の目的たる給付の上に第三者をして一定の権利を取得せしむる目的を以て当事者の一方が相手方に対し第三者に給付すべきことを約するに因りて成立するものなれば,
◼ 要約者と第三者との間に新なる独立の給付を約したる場合のみならず,
◼ 既存債務の履行を引受け支払を為すことを約する場合に於ても,当事者の意思が第三者をして権利を取得せしむるに在るときは,
◼ 第三者の為めにする契約は成立するものとす。
◼ 「第三者のためにする契約」においては,第三者が権利を取得しなければならない
◼ 大判昭11・7・4民集15巻1304頁
◼ 債務者と其の履行を引受けたる者との間の契約に於て,特に第三者たる債権者をして,直接其の引受を為したる者に対し,履行の請求権を取得せしむることを約したる場合に非ざる限り,該契約は第三者の為めにする契約なりと云ふことを得ざるものとす。
◼ 「履行引受」だけなら,「第三者のためにする契約」ではない
◼ 大判大4・7・16民録21輯1227頁
◼ 契約当事者が第三者をして権利を取得せしむる意思なくして,単に其一方が相手方の第三者に対する債務を弁済すべきことを約したるに止まるときは,其効力は第三者の為めに生ぜず。
◼ 従て,第三者が受益の意思表示を為すも,之に因り其第三者は右当事者の一方に対し直接に給付を請求する権利を取得するものに非ず。
◆民法514条の規定は,債務引受の根拠とならないか?
◆債権譲渡の規定(民法466条以下)に対応して,債権者の交代による更改の規定(民法513条)が存在するように,債務引受に対応する債務者の交替による更改の規定(民法514条)が存在する。
◆第514条(債務者の交替による更改)
◆債務者の交替による更改は,債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし,更改前の債務者の意思に反するときは,この限りでない。
債務者の交代による更改(民法514条)の立法理由
◼ 民法514条の立法理由
◼ 立法の趣旨
◼ 本条は既成法典財産編第496条第1項の規定に対当す。
◼ 旧民法の規定の改正(「嘱託」等の重要性を認識できず)
◼ 同条には嘱託〔délégation〕、除約〔novation par expromission〕又は補約〔simple adpromission〕の如き新熟語を用いて学理的の説明を為せども,是れ独り其用なきのみならず,頗る法典の体を失するものなるを以て,改めて本条の如くしたり。
◼ 第三者の弁済の規定と調和する但書きの追加
◼ 本条の但書は諸国に例なき所なれども既に弁済の規定に於て之に類似のxx〔民法474条2項〕を設けたるに因り,更改の場合にも亦之を置きて二者の権衡を保たんことを欲したり。
旧民法財産編第496条
干渉(債務者の交代) 嘱託(指図)
債権者
債権
債務者
抗弁
補
償関係
新債務者
債権者
(受益者)
債権
債務者
(要約者)
抗弁
補
償関係
嘱
託
新債務者
(諾約者)
対価関係 対価関係
◼ 旧民法財産編第496条
◼ ①債務者の交替に因る更改は,或は旧債務者より新債務者に為せる嘱託〔délégation〕に因り,或は旧債務者の承諾なくして新債務者の随意の干渉〔l'intervention spontanée〕に因りてxxx。
◼ ② 嘱託には完全のもの有り,不完全のもの有り。
◼ ③第三者の随意の干渉〔l‘intervention spontanée d’un tiers〕は下に記載する如く,除約〔novation par expromission〕又は補約〔simple adpromission〕を成す。
◆この規定は,ボワソナードが,フランス民法典1274条(現行民法514条本文に同じ)を参考にしつつも,フランスの学説・判例によって発展した債務引受の制度(免責的債務引受,併存的債務引受)を明文化した貴重な条文である。
◆旧民法財産編第496条の特色
◆当事者(2通りの組み合わせ)
◆債務者と新債務者との合意…指図(délégation)
◆債権者と新債務者との合意…干渉(intervention)
◆効果(免責的・併存的債務引受の実現)
◆指図(délégation)
◆完全指図(délégation parfaite)…免責的債務引受
◆不完全指図(délégation imparfaite)…併存的債務引受
◆第三者の任意干渉(l'intervention spontanée d’un tiers )
◆債務免脱による更改(novation par expromission)…免責的債務引受
◆単純保証(simple adpromission)…併存的債務引受
①債務者の交替に因る更改は,或は旧債務者より新債務者に為せる嘱託〔délégation〕に因り,或は旧債務者の承諾なくして新債務者の随意の干渉〔l'intervention spontanée〕に因りてxxx。
② 嘱託には完全〔免責的〕のもの有り,不完全〔併存的〕のもの有り。
③第三者の随意の干渉
〔l'intervention spontanée d’un tiers〕は下に記載する如く除約〔novation par expromission〕又は補約〔simple adpromission〕を成す。
ドイツ民法
債務引受(Schuldübernahme)
◼ 第414条(債権者・引受人の契約)
◼ 債務は,第三者が債権者との契約により,旧債務者に代わって債務者となる方法をもってこれを引き受けることができる。
◼ 第415条(債務者・引受人の契約)
◼ 第三者が債務者と契約した債務の引き受けは,債権者の追認に よってその効力を生じる。追認は,債務者又は第三者が債務の引き受けを債権者に通知した後にな すことができる。追認がなされる 間は,当事者は契約を変更し又 は破棄することができる。…
民法514条,537条との組み合わせ
債権者・新債務者間の契約
◼ 民法514条
(債務者の交代による更改)
◼ 債務者の交替による更改は,債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし,更
債務者・新債務者間の契約
◼ 民法537条
(第三者のためにする契約)
◼ 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債
改前の債務者の意思に反するときは,この限りでない。
◼ 民法514条の基礎となった旧民法財産編496条には,このほかに,債務者と旧債務者の合意と債権者の承認による債務引受の規定が用意されていた。
◼ これを補うものとして,現行民法537条が大きな役割を果たしうる。
務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
◼ 前項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
第3節 第三者のためにする契約の
代表例
3 契約上の地位の譲渡
1. 契約上の地位の譲渡を債権譲渡と債務引受の方法とを使って構成できるか?
2. その場合,契約上の地位の譲渡の当事者は,誰と誰とになるか?
3. もしも,第三者のためにする契約として構成する場合には,当事者は誰になるか?
(賃借人)
対価関係債権
(使用・収益権)
要約者
(賃貸人)
抗弁
賃貸借契約の譲渡
(補償関係)
諾約者
(新賃貸人)
(賃借人)
対価関係
債権(譲賃渡料通債知権)
債権譲渡人
(旧賃貸人)
抗弁
債権譲渡契約
債権譲受人
(新賃貸人)
契約上の地位の譲渡(3/3)
同一当事者間の契約で権利と義務を同時に移転する方法の解明
旧賃貸人が権利を譲渡
(通常の債権譲渡によることで可能)
新賃貸人が債務を引受け
(第三者のためにする契約によることで可能)
賃借人
(債務者)
賃料債権
債権譲渡通知
旧賃貸人
(債権者)
抗弁
債権
譲渡契約
新賃貸人
(譲受人)
対価関係
賃借人
(受益者)
使使用用収収益益
旧賃貸人
(要約者)
抗弁
債務
引受契約
(補償
関係)
新賃貸人
(諾約者)
賃貸人の地位の譲渡の場合,新所有者に義務の承継を認めることが賃借人にとって有利であるから,賃借人の承諾を必要とせず,旧所有者と新所有者間の契約をもってこれをなすことができる。
契約上の地位の譲渡を第三者のためにする契約として構成することは可能か?
◼ 土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は、賃貸人の義務の移転を伴なうものではあるけれども、
◼ 賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではなく、また、土地所有権の移転があつたときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利であるというのを妨げないから、
◼ 一般の債務の引受の場合と異なり、特段の事情のある場合を除き、
◼ 新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには、賃借人の承諾を必要とせず、旧所有者と新所有者間の契約をもつてこれをなすことができると解するのが相当である。
第三者のためにする契約の代表例民法613条の直接訴権
1. 民法613条の直接訴権を,「第三者のためにする契約」として構成することは可能か?
2. その場合,「第三者のためにする契約」の当事者は,誰と誰とになるか?
3. 賃貸人の受益の意思表示は何を意味するか?
4. 賃貸人の転借人に対する先取特権(民法314条)は,どのように理解すべきか?
◼ 第613条(転貸の効果)
賃貸借契約
賃貸人
賃料債権
賃借人
(転貸人)
移転
適法抗弁
転
前
払の抗弁
借
転
料
借
債
料
権債
権
転
貸借契約
転借人
◼ ①賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,
◼ 転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負う。
◼ この場合においては,賃料の前払をもって賃貸人
に対抗することができない。
◼ ②前項の規定は,賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
◼ 第312条(不動産賃貸の先取特権)
賃貸人
賃料債権
先取特権
移転
適法抗弁
賃借人
(転貸人)
転
前
払の抗弁
先転借
先取借料
取特料債
特権
権 債権
権
転借人
◼ 不動産の賃貸の先取特権は,その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し,賃借人の動産について存在する。
◼ 第314条〔不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲〕
◼ 賃借権の譲渡又は転貸の場合には,賃貸人の先取特権は,譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。
◼ 譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭〔転借料債権等〕についても,同様とする。
◼ 民法613条に基づく賃貸人の転借人に対する直接の権利(直接訴権)の効力
◼ 民法613条の直接訴権は,賃貸人(A)が受益の意思表示をした時点で効力を生じ(民法537条参照),賃貸人(B)の転借人(C)に対する債権が先取特権とともに,賃貸人に移転する(民法314条)。
◼ この効力は,賃借人に対する権利を保持したまま(民法613条2項),しかも,転付命令と同様,移転的効力を生じるので,賃借人の他の債権者(D)の差押えに優先する。
◼ さらに,直接訴権は,民法314条の先取特権によって,転借人の債権者(E)にも優先する。
賃貸人A
賃料債権
先取特権
賃借人B
(転貸人)
転 先転借 先取借料
取特料債
債権
債権者D
移転
特権 x
x 債
権
転借人C
債権
債権者E
◼ 電信送金契約(判例の再検討)
◼ 振込契約(判例解釈の再検討)
◼ 誤振込と組戻し(新たな提言)
第4節 第三者のためにする契約の
応用例と判例の検討
1.電子送金契約
(判例の再検討)
1. 判例が電信送金契約を第三者のためにする契約ではないとしている理由は何か?
2. 最高裁昭和43年判決に影響を及ぼした先例はどのようなものであったか?
3. 最高裁昭和43年判決の1審,2審判決は,どのような立場をとっていたか?
4. 最高裁昭和43年判決は,事案の解決として妥当なものか?
5. 最高裁昭和43年判決の事案を準占有者に対する弁済として処理することは可能か?
(1/3)電信送金契約
対価関係
債務者
(送金受取人) (送金指図人)
金 電信
銭 送金
債 委託
権 契約
(債権
抗 譲渡)
弁
諾約者
(被仕向銀行)
電子送金支払委託契約(債務引受)
要約者
(仕向銀行)
◼ 事案の概要(1/3)
◼ Xは,岩手県購買農業協同組合連合会(県購連)の参事として衣料品買付のため京都方面に出張中,衣料品買付資金の必要が生じたので,県購連に対しその送付方を求めたところ,県購連は,これに応じ,昭和23年12月16日,岩手殖産銀行(岩手殖産) に金130万円を払い 込み,その送金受取人を京都市K方のXと指定して,その電信送金方を委託した。
◼ そこで,その委託を受けた岩手殖産は,即日,かねて電信為替取引契約の締結されていたY銀行(株式会社第一銀行)京都支店に対し右送金の支払方を委託し,他方,県購連は原告に対し右電信送金をした旨を通知し,その通知はそのころK方に到達した。
◼ 事案の概要(2/3)
◼ その時期,Xはたまたま他に出張し不在であったため,Kが,Xに無断で,家人をY銀行京都支店につかわし,右電信送金の通知書と自己の印章とを利用して,右送金全額を自己の当座預金口座に振り替えさせてしまった。
◼ Xは,右送金のあったことを知らないまま盛岡市に帰任したが,翌14年4月ごろになってはじめて右事実を知り,同年7月Y銀行京都支店に対し右送金の支払を求める旨の意思表示をした。しかし,Y銀行は,右送金はすでに受取人本人に支払ずみであるとの理由で,その支払を拒絶した。
最一判昭43・12・5民集22巻13号2876頁 事案(3/3)
◼事案の概要(3/3)
◼そこで,昭和26年3月7日,Xは,電信送金契約は第三者たる送金受取人のためにする契約であると解すべきところ,Xにおいて右のような受益の意思表示をしたことにより,右送金の支払請求権を取得するに至ったと主張して,Yに対し,その支払を求める訴を提起した。
◼ 第1回 第xx判決(東京地判昭28・9・7)請求認容
◼ 送金依頼人は委託銀行に対して送金依頼と同時に送金の金員を払い込んでいるのが通常の事例であって,同人の目的とするところは,専ら送金受取人に対して迅速確定的に送金を受領させることにあるから,送金依頼人は,特別の事情のない限り,受取人に給付を受ける権利を取得させる意思があるものと解するのが相当であり,同人より送金の依頼を受けた銀行と同銀行より支払の委託を受けた銀行とは,送金依頼人の意思に基づいて送金受取人に対して給付をすることを約しているものと解される。
◼ このように解しないときは,受託銀行に債務不履行ないし誤払のあった場合,その責任を問うことのできるのは委託銀行のみであって,送金依頼人は委託銀行を通じてのみその責任を追求し得るに過ぎないから,その救済は不十分となるばかりでなく,電信送金により最も利益を受ける筈の受取人に至っては,この場合何ら救済の方法を有しないこととなる。このような結果は,取引の実情に合わぬばかりでなく,電信送金制度の円滑な運営を妨げることになるであろう。
◼ したがって,右契約は,当事者間に別段の意思表示のないかぎり,第三者たる送金受取人のためにする契約に該当すると解するのが相当である。
◼ 第1回 第二審判決(東京高判昭29・9・17)控訴棄却
◼ 電信送金は送金依頼人が送金受取人に対し迅速且つ確実に送金をする目的を達するために設けられた制度であるから,送金依頼人から委託銀行に対し送金が依頼せられ(通常送金依頼人は同時に委託銀行に現金を払い込み,又は預金から振り替える等)現実に振込があったと同視すべき取引が行われる。
◼ これに応じて委託銀行と電信送金取引契約のある受託銀行との間において送金受取人に現金の支払をする送金契約がなされた以上,送金受取人は,受託銀行に対し受益の意思表示をすることにより,原則として受託銀行に対し直接送金の支払を請求し得るものとするいわゆる第三者のためにする契約がなされたものとする方が,より取引の実情に適し,且つ,送金制度の目的にも合致する。
◼ 送金受取人が受託銀行に対し直接送金支払請求権を取得せしめて,送金受取人は固より送金依頼人の電信送金制度に対する信頼感を増加せしめることにより,その制度の円満な運営と発達に寄与することになるものと考えられる。
◼ 第1回 上告審判決(破棄・差戻)
◼ 電信送金契約が,第三者のためにする契約であって,これにより,第三者たる送金受取人に直接受託銀行に対する権利を取得させる趣旨のものであるかどうかは,単に電信送金制度の目的からのみこれを決すべきではなく,右両行間に結ばれている電信送金に関する基本契約である電信為替取引契約の内容および送金依頼人と委託銀行との間における契約の趣旨をも考察してこれを決すべきであるところ,右第二審判決はこれらの点について何らの検討判断をもしていないから,同判決には審理不尽の違法がある。
◼ 第2回 上告審判決(最三判昭38・2・26民集17巻1号248頁)
(破棄・差戻)
◼ 第3回 第二審東京高判昭40・9・29(本判決の原審)(第xx判決取消)
◼ 岩手殖産(被仕向銀行)と控訴人Y銀行(仕向銀行)との間の本件電信送金支払委託の契約は第三者である被控訴人Xに直接控訴人Yに対する権利を取得させるものではない。
◼ むしろ,単に控訴人Y(仕向銀行)が本件電信送金を受取人Xに交付する義務を岩手殖産(被仕向銀行)に対して負う契約であるとみるのが相当である。
最一判昭43・12・5民集22巻13号2876頁 判決(5/5)
◼ 最一判昭43・12・5 (棄却・確定)
◼ 電信送金契約は,特別の事情のないかぎり,第三者たる送金受取人のためにする契約であるとはいえない。
◼ 被仕向銀行は,右契約により,仕向銀行に対する関係においては,送金受取人に送金の支払をする義務を負うが,送金受取人本人に対する関係においては,そのような義務を負うものではなく,単に仕向銀行の計算において送 金の支払をなしうる権限を取得するにとどまると解すべきである。
◼ 最高裁昭和43年判決が踏襲した大審院大正11年判決(大判大11・9・29民集1巻557頁)は,判旨部分のみをみると,以下のように,最高裁判決と全く同じである。
◼ 銀行業者が電報送金の委託を受け,其の金員を受取り,自己の本店又は支店の手を経て,第三者なる受取人に金員交付の手続を為す は,委託者に代り委託者の金員を第三者に送付するものにして,民法に所謂委任契約に胚胎するものと謂はざるを得ず。
◼ 其の契約の効力は,銀行と委託者との間に止まり,固より其の契約に於て銀行業者が第三者なる受取人に対し自己の出捐に係る金員の給付を為すことを約したる場合に非ざるを以て,其の銀行は,第三者なる受取人に対し,何等の義務を負ふことなく,又,第三者なる受取人も亦,銀行に対し何等の権利を取得すべきものに非ず。
◼ 故に之を第三者の為にする契約と謂ふことを得ざるや明なり。
◼ 最高裁昭和43年判決は,大審院大正11年判決の踏襲だが,銀行の立場は正反対である(銀行が第三者のためにする契約であると主張して,敗訴している)
◼ 大審院大正11年判決(大判大11・9・29民集1巻557頁)の事案では,銀行が,電信送金された金員の払戻債権を受働債権とし,銀行取引上の債権を自働債権として相殺を行い,電信送金の受取人の譲受人からの払戻請求を拒絶した。
◼ この事案においては,相殺を実現するため,銀行の方が,「電信送金契約は第三者のためにする契約である」と主張していた。
◼ つまり,大審院大正11年判決と最高裁昭和43年判決と比較すると,銀行の立場は逆転していた。
◼ 最高裁昭和43年判決が踏襲した大審院大正11年判決は,電信送金契約を「第三者のためにする契約」であることを認めたとしても,同じ結論を維持できる事案であった。
◼ 確かに,大審院大正11年判決でも,電信送金契約は,二者間の委任契約であり,「第三者のためにする契約ではない」と判示している。
◼ しかし,大審院大正11年判決の事案では,電信送金契約を銀行の主張通り,第三者の契約であると認めたとしても,銀行の請求を棄却することが可能な事案であった。
◼ なぜなら,受益者である送金受取人が受益の意思表示をする前に,要約者である送金依頼人が,電子送金契約を取消しまたは解除しているからである。
◼ さらには,電信送金は,振込とは異なり,金銭債権の移動ではなく,金銭の送金なのであるから,相殺にはなじまないということもできる。
◼ 最高裁昭和43年判決が踏襲した大審院大正11年判決は,銀行業務の慣行を無視したものであり,受取人の権利を認めた上で,結論を維持すべきものであった。
◼ 大審院大正11年判決の事案において,銀行は,電信送金に関する以下のような慣習が存在すると主張していた。
◼ 「銀行を以て諾約者とする送金委託の場合に於て,委託者(要約者)が受取人(第三者)に通知を為すは,銀行業者間の通例にして,受取人たる第三者は別段に受益の意思表示を為さずとも,特に,受益拒絶の意思表示を為さざる限り,該第三者に対し,有効に利益享受の効果を生ずるは,銀行取引に於ける慣習なりとす。」
◼ したがって,仕向銀行から被仕向銀行に支払委託通知を行い,被仕向銀行から受取人に受取すべき旨の通知があれば,受取人は,委託金請求権を取得して,第三者のためにする契約は完了することになる。
◼ 最高裁昭和43年判決は,大審院大正11年判決における銀行業務の慣行と銀行の主張を尊重し,「第三者の為にする契約」であることを認めるべきであった。
◼ 振込契約の前身である電信送金契約を「第三者のためにする契約」であることを認めても,銀行の利益を害するものではない。
◼ このことは,大審院大正11年判決の銀行側の上告理由,すなわち,
「契約の実質は,単純なる委託契約に非ずして,寧ろ,第三者の為にする契約なりと謂ふを正当なるものと信ず」によっても明らかである。
◼ 第三者のためにする契約であることを認めても,第1に,受益者の意思表示があるまでは,契約の変更が可能であること,第2に,諾約者は,契約に関する抗弁をもって受益者に対抗できるからである。
◼ 最高裁昭和43年判決は,大審院判例の事案を無視して判旨だけを踏襲した。このことが,振込契約に関する大混乱の引き金となった。
受益者
(送金受取人)
対価関係
債務者
(送金指図人)
金 電信
銭 送金
債 委託
権 契約
(債権
抗 譲渡)
弁
諾約者
(被仕向銀行)
電子送金支払委託契約(債務引受)
要約者
(仕向銀行)
第4節 第三者のためにする契約の
応用例と判例の検討
2.振込契約
(判例解釈の再検討)
1. 大審院昭和9年判決は,振込契約をどのような契約だと述べているか?
2. この判決が,振込契約は第三者のためにする契約ではないと理解される理由は?
3. 学説が,この判決を第三者のためにする契約を否定したとする根拠は?
4. 学説は,振込契約をどのような契約と考えているのか?
5. 振込契約を,民法の条文だけを根拠に構成することは可能か?
(2/3)銀行振込契約
受益者
(振込受取人)
対価関係
債務者
(振込指図人)
諾約者
抗弁
振込金支払委託
預金債権
要約者
振込委託
(債権譲渡)
(被仕向銀行)
(債務引受)
(支払指図人)
(仕向銀行)
◼ 大判昭9・5・25民集13巻829頁
◼ 甲が或銀行と契約し,同銀行は第三者乙に対し,若1,000円を支払ふべく取極めたるときは,這は疑も無く,第三者の為めにする契約なり。
◼ 此場合,甲が銀行に当該金円を払込むと否と,其の払込は現金を以てすると,将た甲の預金(が予ねて存在せしならば)其の中より差引くと云ふ形式を以てすると,此等は総て甲と銀行との間に於ける内部即ち資金関係の問題に過ぎず。
◼ 要は唯,甲と銀行との間に,前記の如き支払の契約が成立すれば足ると共に,又成立せざるべからず。
◼ 又或は甲は銀行の了解を得て,乙名義の預金を為し,他日乙が此預金の返還を請求し来るときは,銀行は之に応ずべき旨甲と銀行との間に取極めを為すときは,是亦,第三者の為めにする契約に外ならず。
◼ 学説は,この判例(大判昭9・5・25民集13巻829頁)は,第三者のためにする契約を否定したものと解している。←悲劇の始まり
◼ 例えば,xxx・判批「預金契約と虚偽表示」『銀行取引判例百選』(1966)第19事件(45頁)は,上記判決の第三者のためにする契約であるとの箇所を省略した上で,
◼ 大審院は,「銀行は金庫なりという譬喩を用いて、甲・銀行間の振込行為は第三者のためにする契約ではないと断じ」ているとする。
◼ 学説の対応
◼ 第三者のためにする契約説
x xxxx『民法総則』279頁
◆通謀虚偽表示の抗弁の対抗を認める(判旨に反対)。
◼ xx『判民昭和9年度』67事件
◆通謀虚偽表示の対抗は善意の第三者に対抗できない(判旨に賛成)
◼ 指図(Anweisung)説
◼ xxxxx「判批」法学論議32巻3号687頁
◆抽象的債務負担行為により,更改と同じく,一般的に抗弁の対抗を認めない(判旨に賛成)。
◼ 入金記帳・無因説
◼ xx・「判批」法律論叢13巻11-12号9251頁
◆銀行が口座に入金の記入をし,その通知をすることによって,当座預金口座契約の本質から当然に、絶対的に預金債権が発生する(判旨に賛成)。
◼ 解釈学のあるべき方向
◼ 憲法上の要請
◼ 法律の解釈は,最終的には,法律の条文,または,条文を導いている原理・原則を根拠にすべきである。
◼ 憲法76条3項
◼ すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
◼ 外国法を参照することは有用だが,外国法を直接の根拠とするのは,行き過ぎであろう。
◼ 振込契約は,電信送信契約でも述べたように,「第三者のためにする契約」として構成するのが妥当である。
第4節 第三者のためにする契約の
応用例と判例の検討
3.誤振込と組戻し
(新たな提言)
1. 最高裁平成8年判決が,誤振込でも振込が有効としている理由は何か?
2. 原因関係とは無関係に預金債権が成立するという判例の根拠は何か?
3. 銀行の便宜のための判決は,反社会集団に利用されていないか?
4. 誤振込の問題を解決するために,どのような方法が考えられるか?
5. 民法の条文だけで最高裁平成8年の事案を妥当な解決に導くことは可能か?
(3/3)誤振込事件
Xの債権者
対価関係
債務者振込指図人X
対価関係なし
誤振込 債権受取人
C
Cの 債権者 Y
預 誤 預
金
金
振
債
債
振込
抗 x
x
込委
委託
託
弁
差押え
諾約シャ D銀行
丙支店
要約者
委託
支払 A銀行
甲支店
諾約者
A
支払 銀行
委託
乙支店
全銀ネット口座
(1/10)第三者異議事件
◼ 事実関係と判旨
◼ 1.振込依頼人Xの真意は,A銀行甲支店に対して,B(株式会社・xx(トウシン))の取引銀行(D銀行)の普通預金口座に振込みを依頼するつもりであった。
◼ ところが,以前取引のあったカタカナ名が同じ振込先C(株式会社・透信 A(トウシン))と間違えて振込依頼をしたため,XからCの取引銀行(A銀行乙支点)の普通預金口座に振込みがあった。
◼ このような場合には,たとえ,両者の間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合であっても,受取人と銀行との間に,振込金額相当の普通預金契約が成立する。
◼ 2.誤振込を依頼したXは,誤振込を受けたCに対して,不当利得に基づく返還請求権を有するに過ぎない。
◼ したがって,Cの債権者がCの預金債権を差し押さえた場合には,これに 対して第三者異議の訴えを提起して強制執行を排除することはできない。
(2/10) 第xx判決(請求認容)
◼ 東京地判平2・10・25の判旨
◼ 1.振込における受取人と被仕向銀行との関係は,両者間の預金契約により,あらかじめ包括的に,被仕向銀行が為替による振込金等の受入れを承諾し ている。
◼ そして,受入れの都度当該振込金を受取人のため,その預金口座に入金し,かつ,受取人もこの入金の受入れを承諾してこれについて預金債権を成立させる意思表示をしているものである。
◼ この契約は,準委任契約と消費寄託契約の複合的契約であると解される。
◼ 2.ここで,両者が,預金債権を成立させることにつき事前に合意しているものは,受取人との間で取引上の原因関係のある者の振込依頼に基づき仕向銀行から振り込まれてきた振込金等に限られると解するのが相当である。
◼ 3.本件では,原告と「透信」との間に右取引上の原因関係がないことは明らかであるから,本件振込金について原告と前記銀行との間では預金契約は締結されていない。
(3/10) 第二審判決(請求認容)
◼ 東京高判平3・11・28の判旨(控訴棄却,請求認容)
◼ 1. Xは,B銀行に対し,甲に賃料等を送金する意思で誤って乙への送金手続を依頼しており,本件振込依頼には要素の錯誤があるが,重過失がある。
◼ 2.振込金について銀行が受取人として指定された者(受取人)の預金口座に入金記帳することにより受取人の預金債権が成立するのは,受取人と銀行との間で締結されている預金契約に基づくものであるところ,振込みが振込依頼人と受取人との原因関係を決済するための支払手段であることに鑑みると,振込金による預金債権が有効に成立するためには,特段の定めがない限り,基本的には受取人と振込依頼人との間において当該振込金を受け取る正当な原因関係が存在することを要すると解される。
◼ 3.そうすると,本件振込みに係る金員の価値は,実質的にはXに帰属しているべきであるのに,外観上存在する本件預金債権に対する差押えにより,これがあたかもCの責任財産を構成するかのように取り扱われる結果となっているのであるから,Xは,右金銭価値の実質的帰属者たる地位に基づき,本件預金債権に対する差押えの排除を求めることができると解すべきである。
◼ 1.振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは,振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず,
受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当である。
◼ けだし,前記普通預金規定には,振込みがあった場合にはこれを預金口座に受け入れるという趣旨の定めがあるだけで,
◼ 受取人と銀行との間の普通預金契約の成否を振込依頼人と受取人との間の振込みの原因となる法律関係の有無に懸からせていることをうかがわせる定めは置かれていないし,
◼ 振込みは,銀行間及び銀行店舗間の送金手続を通して安全,安価,迅速に資金を移動する手段であって,
◼ 多数かつ多額の資金移動を円滑に処理するため,その仲介に当たる銀行が各資金移動の原因となる法律関係の存否,内容等を関知することなくこれを遂行する仕組みが採られているからである。
◼ 2.また,振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しないにかかわらず,振込みによって受取人が振込金額相当の預金債権を取得したときは,
◼ 振込依頼人は,受取人に対し,右同額の不当利得返還請求権を有することがあるにとどまり,
◼ 右預金債権の譲渡を妨げる権利を取得するわけではないから,
◼ 受取人の債権者がした右預金債権に対する強制執行の不許を求めることはできないというべきである。
◼ 3.これを本件についてみるに,前記事実関係の下では,Cは,F銀行に対し,本件振込みに係る普通預金債権を取得したものというべきである。
◼ そして,振込依頼人であるXと受取人であるCとの間に本件振込みの原因となる法律関係は何ら存在しなかったとしても,
◼ Xは,Cに対し,右同額の不当利得返還請求権を取得し得るにとどまり,本件預金債権の譲渡を妨げる権利を有するとはいえないから,
◼ 本件預金債権に対してされた強制執行の不許を求めることはできない。
◼ 4.そうすると,右と異なる原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,
◼ その趣旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
◼ そして,以上に判示したところによれば,Xの本件請求は理由がないから,右請求を認容した第xx判決を取消し,これを棄却すべきものである。(破棄自判:第1審判決取消し,Xの請求棄却)
◼ 裁判長裁判官 xxxx(京大法学部卒→判事補→弁護士→最高裁判事→xxxxxx・xx・xx法律事務所へ天下り)
◼ 裁判官 xxxx(東大法学部卒→判事→最高裁事務局長→最高裁判事→弁護士→三井住友銀行,三井住友フィナンシャルグループ監査役)
◼ 裁判官 xxxx(東大法学部卒→検事→東京高検検事長→弁護士→最高裁判事→セントラル硝子株式会社社外監査役)
◼ 裁判官 xxx(東大法学部卒→外交官→最高裁判事→弁護士登録,xxxxx法律事務所)
◼ 1.棚ぼた式の利益を得ようとしている誤振込の受取人とその債権者Yよりも,錯誤によって誤振込を依頼したXが保護されるべきである。
◼振込制度をコントロールできる立場にある仕向銀行が,振込から通常生じうるリスクを負担すべきである。
◼振込業務を引き受けた仕向銀行は,錯誤による誤振込の無効を認め,xxの振込業務を履行すべきである(組戻しの後に,xxの振込を実行すべきである)。
◼ 2.二重の振込を行わざるを得なかった仕向銀行のリスク回避のための保護の必要性は,棚ぼた式の利益を得ようとしている誤振込の受取人とその債権者Yよりも優先されるべきである。
◼ そのことを実現できる制度として,「第三者のためにする契約」理論が活用されるべきである。
◼ そのためにも,振込契約を,振込依頼を受けた仕向銀行を要約者,被仕向銀行を諾約者,振込受取人を受益者と考えるべきである。
◼ 諾約者である被仕向銀行は,原因関係不存在の抗弁を
もって,受益者およびその債権者に対抗できるからである。
◼ 3.振込の制度は,すべて,銀行と全銀ネットのコントロールに置かれている。
◼そこで不具合が生じた場合に,そのリスクを顧客である振込依頼者に負わせたのでは,問題の真の解決から離れてしまうだけである。
◼振込制度から生じる不都合は,その制度をコントロールしている銀行のイニシアティブによって解決されるべきである。
(3/3)誤振込事件の解決
Xの債権者
対価関係
債務者振込指図人X
対価関係なし
誤振込 債権受取人
C
Cの 債権者 Y
預 誤 組
金 振 戻
債 込 委
権 委 託託
預 差押え金
債権
諾約者 D銀行丙支店
要約者
委託
支払 A銀行
甲支店
諾約者
A
組戻 銀行
引受
乙支店
全銀ネット口座
1. 参考判例
2. 参考文献
◼ △大判大4・7・16民録21輯1227頁
◼ 履行の引受では,第三者のためにする契約とはならない。
◼ ×大判大正5・7・5民録22輯1336
頁
◼ (改正前の商法中の生命保険契約につき,)受益の意思表示が あるまでは,当事者は第三者のためにする契約の変更ができる。
◼ ◎大判大6・11・1民録23輯1715頁
◼ 債務引受を第三者のためにする契約によって成立させることができる(全面肯定)。
◼ ×大判大11・9・29民集1巻557頁
◼ 電信送金契約は,送金委任者と受託者(銀行)との間の委任契約であって,第三者のためにする契約ではない。
◼ 受取人は,受任者に直接請求する権利を有しないので,委任者は支払い前に委任契約を解除して,金員の返還を請求できる。
◼ 受任者(銀行)は,受取人に対する債権をもって委任者に対抗できない(珍しくも,銀行が敗訴)。
◼ ◎大判昭9・5・25民集13巻829頁
◼ 通謀虚偽表示によって預金が成立したとしても,振込契約による受取人が善意の場合には,銀行は受取人に支払い義務を負う。
◼ △大判昭11・7・4民集15巻1304頁
◼ 第三者のためにする契約によって債務引受をするには,受益者が権利を取得することが必要である(制限的肯定)
◼ ×最一判昭43・12・5民集22巻13号
2876頁
◼ 電信送金契約は,第三者たる送金受取人のためにする契約であるとはいない。
◼ 被仕向銀行は,仕向銀行に対する関係においては,送金受取人に送金の支払をする義務を負うが、送金受取人本人に対する関係においては,そのような義務を負うものではなく,単に仕向銀行の計算において送金の支払をなしうる権限を取得するにとどまる。
◼ ○最二判昭46・4・23民集25巻3号
388頁
◼ 新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには,一般の債務の引受の場合と異なり,賃借人の承諾を必要とせず,旧所有者と新所有者間の契約をもつてこれをなすことができる。
◼ ×最二判平8・4・26 民集50巻5号
1267頁
◼ 普通預金口座に振込みがあった場合には,たとえ,両者の間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合であっても,受取人と銀行との間に,振込金額相当の普通預金契約が成立する。
◼ ×最二判平20・10・10 民集62巻9号
2361頁
◼ 振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において,受取人が当該振込みに係る預金の払戻しを請求することについては,これを認めることが著しくxxに反するような特段の事情があるときは,権利の濫用に当たるとしても,受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは,権利の濫用に当たるということはできない。
◼ 現行民法の立法理由
x xxxx『民法修正案(前三編)の理由書』有斐閣(1987)
◼ 法務大臣官房司法法政調査部『法典調査会民法議事速記録3』商事法務研究会(1984)781頁
◼ 教科書
◼ xxx『債権各論上巻(民法講義
V1)岩波書店(1954)113-114頁
◼ xxxx『契約法総論』青林書院
(1978)115頁
◼ xxxx『契約法(新民法体系Ⅳ)』有斐閣(2007)45-46頁
◼ xxxx『契約法』日本評論社
(2007)398-406頁,408-414頁
◼ 注釈書
x xxxx=xxxx編『新版注釈民法(13)債権(14)補訂版』有斐閣
(2004)533頁〔xxxx執筆〕
◼ 民法(債権法)改正検討委員会編
『詳解債権法改正の基本方針Ⅴ各
種の債権(2)商事法務(2010)
◼ 研究書
◼ xxx・xxx(xxxxほか訳)
『ヨーロッパ契約法Ⅰ』法律文化社
(1999)462頁
◼ xxxx『第三者のためにする契約』信山社(2002)
◼ オーレ・ランドー=ヒュー・ビール編
(xxxxほか監訳)『ヨーロッパ契約法原則Ⅰ・Ⅱ』法律文化社(2006) 315頁
◼ 論文
◼ xxxx「第三者のためにする契約」民商39巻4=5号(1959)513頁
◼ 「第三者の為にする契約」大分経済論集14巻2号
(1962)47頁
◼ xxxx「契約の第三者に対する保護効-ドイツ 民法における『第三者のためにする契約』の発展-」法学新報71巻6号(1968)1頁
◼ 論文(続き)
◼ xxxx「『第三者のためにする契約』再論」産大法学4巻2号(1970)59頁
◼ xxxx「振込」『銀行取引講座上巻』(1976)318頁
◼ xxxx「第三者のためにする契約」xxxほか監修・xxxxほか編『現代契約法体系〔第1巻〕現代契約の法理』有斐閣
(1978)128頁
◼ 論文(続き)
◼ xxx「振込取引の法的性質について-第三者のためにする契約説の立場からの覚え書き」白鴎法學2号
(1994-09)113-142頁
◼ xxx「第三者のためにする契約の判断基準」xxxx
=xxx編『日本民法と西欧法伝統』九州大学出版会
(2000)486頁
◼ 論文(続き)
◼ xxxxx「第三者のためにする契約における受益の意思表示-ドイツ民法典制定当時の議論をてがかりとして-」姫路法学19=30合併号
(2000)519頁
◼ xxxx「第三者のために する契約-権利取得授権 (Erwerbsermachtigung)を手がかりに」九州国際大学法学論集 9巻3号(xxx教授・xxxx教授退職記念号)
(2003-03)1-24頁
◼ 論文(続き)
◼ xxx「《多角》関係ないし
《xx》関係について」法時
80巻8号(2008)96頁
◼ xxxx「多角的法律関係の法的構造に関する研究序説-複合取引に関する従来の見解の限界と今後の課 題」法時80巻9号(2008)100頁
◼ xxx「法律行為と多角的法律関係」法時81巻4号
(2009)105頁
◼ 論文(続き)
◼ xxxxx「信託の特質・その多様性と多角的法律関 係」法時81巻1号(2009)88頁
◼ xxxxx「第三者のためにする契約と適用範囲の類型化をめぐる問題」日本法學 77巻1号(2011-07-25)23-62頁
レポート課題の説明
ご清聴ありがとうございました。