Contract
第 3 編「債権」
第 2 部「各種の契約」
民法(債権法)改正委員会
第 19 回 全体会議
2009.2.14
第5章 使用貸借
I. 使用貸借の意義と成立
1. 使用貸借の意義と成立
Ⅳ-2-1 使用貸借の意義と成立
使用貸借とは,当事者の一方(貸主)が,相手方(借主)に,ある物(目的物)を引き渡す義務を負い,借主が,引き渡された目的物を無償で使用収益し,使用貸借の終了により,その目的物を返還する義務を負う契約である。
関連条文 現民法 593 条(使用貸借)
【提案要旨】
使用貸借における当事者間の関係を示す冒頭規定である。現行法とは,以下の点で異なる。第 1 に,使用貸借が諾成的合意によって成立することを基本として採用し,目的物の引渡
しが契約の成立要件ではないことを示した。
第 2 に,上記のように諾成的合意によって使用貸借が成立することを受けて,貸主は,使用貸借に基づいて,目的物を借主に引き渡す義務を負担することを示した。目的物引渡し後の法律関係については,現行法と同様である。
なお,目的物の使用収益については,「借主が,目的物を無償で使用収益し」と規定することで,借主が使用収益についての権原を有することを明らかにするとともに,貸主が,借主に対して使用収益させるべき義務を負担するわけではないことを明らかにした。
このような法律状態を冒頭規定において明らかにする方法としては,ほかに,貸主の義務として,「借主が無償で使用収益することを忍容する義務」を規定するという方法も考えられる。
2. 使用貸借の拘束力の緩和
Ⅳ-2-2 使用貸借の引渡前解除権
貸主が使用貸借の目的物を借主に引き渡すまでは,各当事者は使用貸借を解除することができる。ただし,引渡しまでの使用貸借の解除権を排除することを書面によって合意したときは,この限りではない。
* 別案として,書面によらない贈与の解除権を規定する【Ⅱ-11-3】を準用するという考え方もある。
関連条文 現民法 550 条(書面によらない贈与の撤回)
【提案要旨】
使用貸借が諾成的合意によって成立することを原則とする一方で,無償契約である使用貸借については,諾成的合意のみによって確定的な拘束力を与えることが必ずしも適当ではないと考えられる場合が存在することに照らして,その拘束力を緩和するための規定を用意するものである。
具体的な内容としては,目的物の引渡しまでは,各当事者が使用貸借を解除することができることを規定するとともに(目的物の引渡しがなされてからの解除と区別する意味で,さしあたり,このような解除権を「引渡前解除権」と呼ぶ),引渡前解除権を排除することを書面によって合意した場合には,このような引渡前解除権が否定され,使用貸借の合意が確定的な拘束力を有することを提案するものである。
引渡前解除権の排除の合意を書面によってなした場合に限って,使用貸借の諾成的合意に確定的拘束力が生ずるというしくみは,贈与における拘束力の緩和と一定の共通性を有するものであるが,他方で,書面による贈与についての契約の拘束力を認めるというのに対して,より拘束力が生ずる場合が限定的なものとして用意されることになる。
この点は,①現行法においても,書面によって拘束力が生ずるものとしている贈与と,そもそも要物契約とされている使用貸借の相違があり,そうした違いを尊重すべきではないかという点のほか,②権利を相手方に移転してしまうという贈与と,単なる相手方の使用収益を容認するにすぎない場合も含む使用貸借では,実質的にも相違があり,使用貸借においては贈与以上に多様性が認められるということをふまえたものである。
ただし,贈与における書面も単なる覚書といったものではなく,「契約が書面による」とすることにより,強い法的拘束力が生ずるという当事者の確固たる意思を確保するものであるということに照らせば,両者を区別する十分な合理性はないという見解もあり,贈与の規定を準用する(ただし,何も規定しない場合には,【Ⅱ-11-22】によって,贈与の規定が使用貸借にも準用されるので,法技術的に準用を明示する必要があるかという点は,な
お残されている)という立場を,*として示したものである。
3. 使用貸借の予約
Ⅳ-2-3 使用貸借の予約
使用貸借の予約については,特に規定を置かない。
【提案要旨】
本提案は,使用貸借の予約に関し,特に規定を置かないことを提案するものである。
まず,このような提案は,従来要物契約とされていた使用貸借を諾成的使用貸借に改めることによって,使用貸借の予約という法律構成の実質的必要性が乏しいと考えられることに照らして,こうした予約について,さらに独立の規定を置く必要性は乏しいと考えられることによる。
そのうえで,何も規定しない場合には,当事者間において使用貸借の予約の合意がなされた場合,使用貸借の贈与の規定が他の無償契約にも準用されるという【Ⅱ-11-18】を受けて,贈与に関する規定である以下の【Ⅱ-11-2】が,使用貸借にも準用されることになるものと考えられる。
II. 使用貸借の効果
1. 目的物に関する借主の義務
Ⅳ-2-4 目的物の利用に関する借主の義務
(1)現民法 594 条 1 項を削除し,賃貸借についての【Ⅳ-1-16】を準用する。
(2)現民法 594 条 2 項及び 3 項を残し,以下の規定を置く。
① 借主は,貸主の承諾を得なければ,第三者に目的物の使用又は収益をさせることができない。
② 借主が前項の規定に違反して第三者に使用又は収益をさせたときは,貸主は,契約の解除をすることができる。
関連条文 民法 594 条(借主による使用及び収益)
【提案要旨】
賃貸借が使用貸借に先行して規定されることを受けて,現民法 594 条の内容を整序するものである。
提案(1)は,現民法 594 条 1 項の「借主は,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い,その物の使用及び収益をしなければならない」という部分については,賃貸借における【Ⅳ-1-16】がこれに相当する内容を規定することから,それを準用することを示すものである。
なお,賃貸借の規定の準用については,【Ⅳ-2-8】においてまとめて規定することを予定しているものであり,ここでの提案は,賃貸借に関する【Ⅳ-1-6】を使用貸借においても準用するという実質的関係を確認するものであり,場所についても,この部分において規定するということまでを積極的に提案するものではない。
提案(2)は,賃借権の譲渡や転貸に関する【Ⅳ-1-17】が,文言の点からも準用が必ず
しも適当ではなく,また,実質的にも信頼関係破壊の法理を取り込んだ部分を使用貸借にそのまま準用することは妥当ではないと考えられるために,使用貸借に固有の規定として,現民法 594 条 2 項及び 3 項に相当する規定を残すことを提案するものである。
なお,現行法は,用法に従った目的物の使用収益に関しては,使用貸借に関する現民法 594
条 1 項を賃貸借において準用し(現民法 616 条),他方,第三者に利用させた場合の現民法
594 条 2 項,3 項については,これらを賃貸借において準用せず,賃貸借の固有の規定を置いているので,基本的には,ここで提案は,ちょうどそれと裏返しの関係になる。
2. 目的物に関する費用の負担
Ⅳ-2-5 目的物に関する費用の負担
(1)借主は,目的物の通常の必要費を負担する。
(2)借主が目的物について費用を支出したときは,貸主は,現民法 196 条の規定に従い,その償還をしなければならない。ただし,有益費については,裁判所は,貸主の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
* 有益費の費用償還請求権については,費用が生じたことについて,借主が契約の性質上合理的な期間内にそのことを貸主に通知しなければ,費用償還請求権を失うとすることも考えられる。
関連条文 現民法 595 条(借用物の費用の負担)
【提案要旨】
現民法 595 条の規定を実質的に維持することを提案するものである。
ただし,現民法 595 条が準用する 583 条 2 項は,さらにその中で,現民法「196 条の規定に従い」としており,孫準用に当たり,見通しがよくないことから,具体的な規律を,本提
案の中に直接書き込んだものである。
なお,有益費の償還請求については,借主の支出について,それが当然に貸主に対して請求できるものであるのかという問題があり,その点については,(2)において期限の付与による対応をしているが,さらに,そのような有益費の償還請求が,貸主にとって不意打ちにならないようにするために,この点についての通知義務を規定するのが,*である。【Ⅳ-2
-14】は,費用償還請求権についての一般的な期間制限は取り入れないことを提案しているが,有益費については,*のような規定を置いた場合,通知義務による失権というしくみが採用されることになる。
3. 目的物の契約不適合
Ⅳ-2-6 目的物の契約不適合
(1)貸主は,使用貸借の目的物が契約に適合しないものであることについて,その責任を負わない。ただし,貸主が,目的物が契約に適合しないものであることを,引渡時に知りながら借主に告げなかったときは,この限りでない。
(2)負担付使用貸借については,貸主は,その負担の限度において,契約内容に適合した目的物を,借主に使用収益させる義務を負う。負担付賃貸借においては,その負担の限度で,賃貸借の規定が準用される。
* 代替物を目的物とする使用貸借契約において,目的物に瑕疵があった場合については,調達義務については規定を置くべきであるという見解もある。
関連条文 現民法 596 条(貸主の担保責任),同 551 条(贈与者の担保責任)
【提案要旨】
提案は,現民法 596 条が準用している現民法 551 条で規定された内容に相当する規律を使用貸借に置くことを提案するものである。
提案(1)は,目的物の契約不適合について,貸主が,原則として,その責任を負わないことを提案するものである。ここで責任とされるのは,追完などを含む履行責任,損害賠償責任のほか,解除も含まれるものであるが,ここでは,こうした責任を一般的に負わないということを示すものであり,特に,責任の個々の内容は挙げずに,単に,「その責任を負わない」と規定したものである。
提案(2)は,負担付使用貸借については,その負担の範囲内で,貸主が,「借主に使用収益
させる義務」を負うとするととともに,賃貸借の規定が準用されることを規定するものである。
その他,現行法では,現民法 553 条が,負担付贈与について,「その性質に反しない限り,双務契約に関する規定を準用する」と規定しており,負担付使用貸借についても,双務契約の規定が準用される可能性があるかが問題となる。この点については,贈与について,この点についてどのように規律するのかをふまえて(【Ⅱ-11-15】は,現民法 553 条を排することを提案している),それにあわせるものとする。
なお,代替物を目的物とする使用貸借においては,その目的物に瑕疵があった場合には,調達義務を認めるべきであるという見解もあったため,そのような立場を,*において提示している。
4. 第三者との関係
Ⅳ-2-7 使用貸借に基づく妨害排除請求xx
(1)目的物について所有権を取得した者との関係については,特に規定しない。
(2)目的物について用益物権を有する者または賃借権の設定を受けた者等との関係については,特に規定しない。
(3)使用貸借に基づく妨害排除請求権については,特に規定しない。
【提案要旨】
賃貸借においては,①目的物についてあらたに所有権を取得した者との関係,②目的物についての物権や利用権を有する者に対する賃借権の対抗力,③不法占拠者等に対する妨害排除請求権の各問題に分けて,規定を置くことを提案している。
これに対して,使用貸借においては,これらに相当する規定を置かないということを提案するものである。
5. 賃貸借の規定の準用
Ⅳ-2-8 賃貸借の規定の準用
賃貸借に関する以下の規定を準用する。
① 契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い,その物の使用及び収益をする借主の義務(【Ⅳ-1-16】)
② 貸主による修繕の場合の法律関係(【Ⅳ-1-10】(2))
③ 目的物について権利を主張する者がいる場合の通知義務(【Ⅳ-1-21】)
④ 解除の効果の非遡及(【Ⅳ-1-25】)
⑤ 契約終了時の原状回復義務(【Ⅳ-1-27】)
関連条文 民法 616 条(使用貸借の規定の準用)
【提案要旨】
賃貸借の規定が先に置かれることを受けて,賃貸借の規定を使用貸借で準用するという形式を採用することを提案するものである。
なお,使用貸借と賃貸借では,物の利用契約という点では共通するものの,実質的な規律として求められる内容においては,その違いも大きい。したがって,賃貸借の規定を包括的に準用するという立場はとらず,必要な部分のみを準用することとし,それを個別に列挙するという方式を採用するものである。
本提案では,いくつかの具体的な準用対象を示したが,なおこの点については,賃貸借の規定についての提案が固まった段階で,さらに確認する必要が残されていることはいうまでもない。
III. 使用貸借の終了
1. 使用貸借の終了に関する原則
Ⅳ-2-9 使用貸借の終了
(1)使用貸借の期間が定められている場合には,その期間の経過により,使用貸借は終了する。
(2)当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に,使用貸借は終了する。ただし,その使用及び収益を終わる前であっても,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,貸主は,直ちに返還を請求することができる。これによって使用貸借は終了する。
(3)当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも,〔相当の期間を定めて〕目的物の返還を請求することができる。これによって,使用貸借は終了する。
関連条文 現民法 597 条(借用物の返還の時期)
【提案要旨】
本提案は,現民法 597 条の規定を実質的に維持するものである。
なお,現行法は,借用物の返還の時期として規定しているが,そこで規定されている内容は,使用貸借の存続期間を同時に定めているものと理解される。使用貸借の終了によって目的物の返還をしなければならないということ自体は,すなわち,【Ⅳ-2-1】においてす
でに示されているものと考えられるので,現行法に相当する内容を,使用貸借の終了の規定として書き改めたものである。
提案(1)は,期間の定めがある場合の使用貸借の終了に関する規定である。この内容自体は,
期間の定めのある継続的契約一般に関する規律の内容として,自明のことであり,明示的に規定する必要がないとも考えられるが,以下の規定とまとめて,使用貸借の終了の規定として置くことが適当と考えられる。
提案(2)は,期間の定めはないが,使用貸借の目的が定められている場合の使用貸借に関す
る規定であり,現行法を基本的に維持するものである。
提案(3)は,期間の定めと使用貸借の目的のいずれも定められていない場合の規定である。なお,現行法は,「いつでも返還を請求することができる」とのみ規定しているが,使用貸借の状況によっては,借主に酷な状況が生ずることも考えられ,「相当の期間を定めて」という要件を置くことを,ブラケットに入れて提案している。
2. 借主の死亡による使用貸借の終了
Ⅳ-2-10 借主の死亡による使用貸借の終了
使用貸借は,借主の死亡によって終了する。
関連条文 現民法 599 条(借主の死亡による使用貸借の終了)
【提案要旨】
現民法 599 条の規定を維持し,使用貸借が,借主の死亡によって終了することを提案するものである。
3. 特段の事情による使用貸借の解除
Ⅳ-2-11 特段の事情による使用貸借の解除
前 2 条の規定に関わらず,以下の場合には,貸主は,使用貸借を解除することができる。
① 貸主にとっての目的物の予期できない必要性が発生し,その必要性が,目的物に関する従前の利用状況等に照らして,使用貸借の終了を正当化するものであると認められるとき
② 借主の忘恩行為等,使用貸借の基礎となる当事者間の信頼関係が喪失し,使用貸借を継続することが著しく困難となったとき
【提案要旨】
使用貸借の無償性に照らして,特段の事情による使用貸借の終了に関する規定を置くことを提案するものである。
具体的な内容としては,以下の2つの場合を規定している。
第 1 に,「①貸主にとっての目的物の予期できない必要性が発生し,その必要性が,目的物に関する従前の利用状況等に照らして,使用貸借の終了を正当化するものであると認められるとき」である。
これは,貸主にとって目的物の予期できない必要性が生じたという場合に,それを理由とする解除の可能性を認めるとともに,目的物が借主にとっても必要性の高いものであるような場合に,その利用状況等,従前の状況に照らして,貸主にとっての必要性が解除を基礎づけるに足るものであるかを判断し,その判断を経たうえで,解除を認めるというものである。
第 2 に,「②借主の忘恩行為等,使用貸借の基礎となる当事者間の信頼関係が喪失し,使用
貸借を継続することが著しく困難となったとき」である。
これは,いわゆる忘恩行為を理由とする解除を認めるものであるが,無償の利用契約という使用貸借においては,忘恩行為を個別具体的に列挙して示すことは困難であり,また,適切ではないと考えられることから,ある程度,一般的な要件として示したものである。それと同時に,忘恩行為一般が解除原因となるわけではなく,それによって,当事者間の信頼関係が喪失し,使用貸借を継続することが著しく困難となったということを要件とすることを示している。
4. 借主による目的物の原状回復等
Ⅳ-2-12 借主による撤去
(1)借主が目的物に附属させた物についての収去権については賃貸借の規定を準用する。
(2)賃貸借における目的物の原状回復義務に関する規定を準用する。
現民法第 598 条(借主による収去)
【提案要旨】
提案(1)は,現民法 598 条が規定する,借主が目的物に附属させた物についての収去権について,賃貸借の規定を準用することを提案するものである。
提案(2)は,目的物の原状回復義務に関する賃貸借の規定を準用することを提案するものである。
なお,いずれについても,こうした提案が認められる場合には,その内容は,【Ⅳ-2-
8】において規定されることになるが,使用貸借の終了時の目的物に関する規律として,こ
こでその内容を確認しておくものである。
5. 損害賠償請求権についての期間制限
Ⅳ-2-13 損害賠償請求権の期間制限
契約又はその目的物の性質によって定まった用法に反する使用または収益による損害の賠償請求権については,目的物の返還時を起算点として,一般の債権時効の規定が適用される。
関連条文 現民法 600 条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
【提案要旨】
現民法 600 条の定める貸主の損害賠償請求権に関する期間制限に関する提案である。
本提案は,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に反する使用または収益によって生じた損害についての,貸主の損害賠償請求権に関する期間制限を廃止し,一般の債権時効の規律に委ねるということを提案するとともに,その債権時効の起算点が,目的物の返還時となることを規定するものである。
現行法は,使用貸借の場合の損害賠償請求権について 1 年間の期間制限を規定しているが,
一般の債権時効が現行法と異なり,より短期のものとして規定されることに照らせば,特に,使用貸借の場合の貸主の損害賠償請求権のみを,そうした一般の債権時効に比べて,短期のものとする実質的な理由は乏しいものと考えられる。
ただし,使用貸借が,長期間にわたる場合,借主の義務違反によって目的物が損傷したが,それから,かなり時間が経過して,目的物が返還されるという場合には,目的物損傷時を起算点とすると,すでに債権時効が完成してしまっているという状況が生ずることが考えられる。この点については,原状回復義務をあわせて規定される目的物の返還義務の不履行の問題として,あらためて損害賠償請求権の債権時効が開始するということでも解決を図ることができると考えられるが,この点の疑義を避けるために,債権時効の起算点が,目的物返還時であるということを明示することが適当であると考えたものである。
なお,賃貸借における損害賠償の期間制限については,本提案と同様に,特に規定を置かないとする案と並べて,貸主の瑕疵発見後の通知義務を前提とする期間制限を設ける案を提示している(【Ⅳ-1-28】)。その点では,使用貸借における損害賠償の期間制限についても,両案を併記するということが考えられるが,ここでは,使用貸借が無償契約であるとしても,だからといって,一般的な所有者としての地位以上に保護される必要はないものと考えられるし(期間制限が一般的な債権時効より長期になる場合),他方,無償で目的物を利用していた使用借主にについて特段の保護を与える合理性もないものと考えられる(貸
主の失権によって期間制限が一般的な債権時効より短期になる場合)ことから,そのような提案を行わなかった。
6. 費用償還請求権についての期間制限
Ⅳ-2-14 費用償還請求権についての期間の制限
現民法 600 条を削除し,費用償還請求権の期間制限については規定を置かない。
関連条文 現民法 600 条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
【提案要旨】
本提案は,借主が支出した費用の償還請求権についてのものである。
ここでは,現行法の期間制限を廃止し,一般の債権時効に委ねるという提案を行っている。本提案は,賃貸借でもこのような期間制限を廃止することとともに,他の費用償還請求権
とのバランスも考え,一般の規律に委ねることを提案するものである。
なお,有益費の償還請求については,【Ⅳ-2-5】*では,通知義務を前提とする失権を規定しており,一般の債権時効によるほか,これによっても,権利行使が制限されることになる。