Contract
住宅の鍵開けサービス契約に係る紛争案件
報 告 書
(東京都消費者被害救済委員会)
令和5年3月
東京都生活文化スポーツ局
はしがき
東京都は、6つの消費者の権利のひとつとして、「消費生活において、事業者によって不当に受けた被害から、公正かつ速やかに救済される権利」を東京都消費生活条例に掲げています。
この権利の実現をめざして、東京都は、都民の消費生活に著しく影響を及ぼ し、又は及ぼすおそれのある紛争について、公正かつ速やかな解決を図るため、知事の附属機関として東京都消費者被害救済委員会(以下「委員会」という。)を設置しています。
知事は都内の消費生活センター等の相談機関に寄せられた相談のうち、委員会による処理が必要であると判断した案件を委員会に付託します。
委員会は、付託された案件について、あっせんや調停により紛争の具体的な解決を図り、個別の消費者の被害を救済するとともに、解決に当たっての考え方や判断を示します。
この紛争を解決するに当たっての委員会の考え方や判断、処理内容等は、東京都消費生活条例に基づき、広く都民の方々や関係者にお知らせし、同種あるいは類似の紛争の解決や未然防止に御活用いただいております。
本書は、令和4年10月18日に知事が委員会へ紛争処理を付託した「住宅の鍵開けサービス契約に係る紛争」について、令和5年3月30日に委員会から、審議の経過と結果について知事へ報告されたものを、関係機関の参考に供するために発行したものです。
消費者被害の救済と被害の未然防止のために、広く御活用いただければ幸いです。
令和5年3月
東京都生活文化スポーツ局
目 次
第1 紛争案件の当事者 1
第2 紛争案件の概要 1
第3 委員会による処理開始と当事者の主張
1 申立人の主張 1
2 相手方の主張 3
第4 委員会の処理結果 5
第5 報告に当たってのコメント
1 あっせん案の考え方について 6
2 同種・類似被害の再発防止に向けて 16
■資 料
1 処理経過 23
2 東京都消費者被害救済委員会委員名簿 24
第1 紛争案件の当事者
申立人 (消費者)1名 30 歳代女性
相手方 (事業者)1社 鍵開けサービス事業者
第2 紛争案件の概要
申立人の主張による紛争案件の概要は、次のとおりである。
深夜に帰宅した際に自宅アパートの鍵を紛失したことに気がついた。最寄りの交番に行き、 そこでもらったメモに書かれた事業者をスマホで検索した。出張作業が約9千円からと広告に あったので、それくらいならと思い、事業者に電話をかけた。コールセンターにつながり料金 を尋ねたが、実際に鍵を見ないと分からないと言われた。作業員は15 分ほどで到着し、ドアを 見て契約書面に金額と作業の内訳を書き込んだ。広告よりもかなり高かったので説明を求めた が、「特殊な作業だ。」としか言わなかった。キャンセルしたいと告げると、作業員に、今や めてもキャンセル料は結構な金額になるがどうするかと急かされ、仕方なく書面にサインした。
鍵開けの作業は5分程度で終わった。この作業で約6万円は高すぎると作業員に作業内容の説明を求めたが、全く応じてもらえず、料金の支払いを強く求められた。深夜、自宅前でもあったのでこれ以上もめるのは良くないと思い、やむを得ずデビッドカードで支払った。
契約金額に納得ができず、2日後に消費生活センターに相談し、契約から8日以内にクーリング・オフ通知書を出した。
第3 委員会による処理開始と当事者の主張
本件は、令和4年10 月18 日、東京都知事から東京都消費者被害救済委員会に付託され、同日、同委員会会長より、その処理が、あっせん・調停第二部会(以下「部会」という。)に委ねられた。
部会における事情聴取時の当事者の主張は、次のとおりである。
1 申立人の主張
(1) 令和4年6月中旬、深夜にタクシーで帰宅し、家の玄関の前で、鍵がないことに気がついた。タクシーに乗車した際、車内に落としたのだと思った。鍵が交番に届いていることを期待して、自宅から最寄りの交番に向かった。
(2) 交番に行き、鍵が届いていないか尋ねたところ、届いていないと言われた。困っていると、警察官から「こういうところが24 時間開けてくれるよ。」と鍵屋の屋号とフリーダイヤルが印刷されたメモを1枚渡された。
(3) 価格くらいは調べようという気持ちで、メモに印刷された鍵屋をスマートフォンで検索した。インターネット広告の「8,800 円(税込み)~」という表示を見て、それくらいならと思った。作業内容については分からず、単純に来て開けてもらうのだと思った。出張費や作業費については、別途かかるようには見えなかった。キャンセル料については、分からなかった。24 時間対応で 8,800 円からという書き方だったので、深夜料金や急ぎ料金の割増はあり得ると思ったが、8,800 円を基本とすれば、割増料金があったとしても
15,000 円以下だろうと思った。
(4) 作業をお願いしようと思い、すぐにフリーダイヤルに電話をかけた。「鍵をなくし ちゃったみたいで。鍵を開けてほしい。」と伝えると、相手から住所を聞かれ、到着まで どれくらい時間がかかるという説明を受けた。「金額ってどれくらいかかりますか。」と 尋ねると、「行ってみないと分からない。」、「鍵を見てからの判断となるので、基本的 には到着してからの判断となる。」と言われた。料金について、このほかに説明はなく、 キャンセル料についての説明もなかった。ドアや鍵の状態、どのような作業を望むのかな どということは、聞かれていない。自分の鍵はありふれたタイプのギザギザとした形状の 鍵で、割増料金はないと思った。現地に行かないと料金が分からないという説明に対して、不安に思うことはなかった。
(5) 電話をしてから、15 分から 20 分後くらいに、相手方の作業員1名が車で来た。自分から「鍵の方ですよね。」と声をかけると、作業員は「そうです。」と言った。
(6) 作業員は、到着するとすぐに鍵の確認作業を開始し、「すぐに開きますよ。」、「そん なに難しくはない。」と言った。開け方については、特殊な方法(以下「本件の特殊開錠」という。)とのことだった。
(7) 作業員は、契約書面に56,100 円と見積額を記載し、「この金額となります。」と言った 1。見積額が高額であることに驚き、「広告に 8,800 円からと書かれているのに、何でこんなにかかるんですか。」、「高すぎます。」と説明を求めたところ、細かい作業内容の説明はなく、「これをやるので、この金額です。」、「特殊な作業なんで。」としか言わなかった。
(8) あまりに高いのでやめたくなり、「キャンセルってできるんですか。」と聞くと、「こ こまで来ちゃっている以上、キャンセル費がかかる。」、「2、3万くらいはもらわない と。」とキャンセル料が料金全体の半分くらいかかるようなことを言った。また、「もう、いろいろと見ちゃっているので。」という発言もあり、鍵開けを頼まないと帰らないのだ と思った。深夜の住宅地という誰もいない中、作業員と自分の二人だけという状況の中で、作業員からイライラした様子で「どうしますか。」という言い方で急かされ、気持ちが 焦った。金額には全く納得できなかったが、鍵を開けるにしても、やめるにしても、どち らにせよ結構なお金がかかるのだと思い、仕方なく、契約書面の意向確認の署名欄にサイ ンをした。この際、「チェックしてください。」と言われ、意向確認の各事項のチェック ボックスにチェックを付けた。各項目についての説明は受けなかった。クーリング・オフ についての説明も受けなかった。
(9) 鍵開け作業の様子は近くで見ていた。5分ほどで作業が終わったので、56,100 円という金額は、やはり高いと思った。「本当にこんなにかかるんですか。」、「もともと 8,800円なのにおかしいんじゃないですか。」と言うと、作業員は、「作業をした後にそんなことを言われても困る。」と言い、なぜこのような金額になるのか、どのような作業をしたのかということは、説明しなかった。納得できず、減額するよう求めたが、「決められた額なので、安くなることはない。」と応じなかった。仕方なく、契約書面の作業完了確認の署名欄にサインをして、デビットカードで56,100 円を支払った。
(10) クレームを入れようと、2日後に契約書面に書いてあった電話番号に電話をし、作業員と話をした。「クーリング・オフみたいなことも考えています。」と言うと、「返金と
1 本報告書4ページ「申立人の契約書面記載内容」参照。
か、そういったことは全く考えていない。」、「勝手にしてください。」と言われ、これ以上の交渉はできないのだと思った。
(11) 同日、消費生活センターに相談し、クーリング・オフ通知書を契約書面を受領した日から8日以内に出した。鍵を開けてくれたので、8,800 円は払ってもよい。
2 相手方の主張
(1) 当社は、A社のグループ会社である。A社は、コールセンター業務やホームページの作成、運営業務の役割を担い、当社はA社から請け負う形で実際の鍵開け業務の役割を担っている。A社の代表取締役は、当社の代表取締役でもある。
(2) 鍵開けの料金について
ア 作業内容と料金を記載した料金表を作成している。現場では、お客様に料金表を示して作業内容や料金の説明をしている。
イ 出張料金5,500 円は、必ずかかる料金である。
ウ 基本料金 3,300 円は、作業をした場合に必ずかかる料金である。基本料金に含まれる作業は、鍵穴に油を差す等の簡易作業である。
エ 申立人の鍵のタイプは、ピッキング防止機能が付いているため、簡易な作業のみでは開けられない。このタイプの鍵は、特殊な開錠方法となる。料金は、料金表に記載のある「〇〇特殊開錠」の27,500 円に、出張基本料金8,800 円を加えた額となる。
オ 一般に鍵開け作業の方法は、現場の状況により異なる。当社の場合は、住宅の鍵開け全体の7割から8割程度は、「〇〇特殊開錠」を用いている。
(3) インターネット広告について
ア インターネット広告は、A社が作成、管理を行っている。当社は、作成に関与していないが、内容は承知している。
イ 広告には、最低作業料金(8,800 円)を表示しているが、実際に 8,800 円で終わる作業は少ない。当社の契約金額の実績では、3万円から4万円の間が最も多い。
ウ 鍵開けの技術等について、「ナンバーワン!」等と表示しているが、これらの表示は、ナンバーワンを目指しているという意味だと理解している。
エ 到着までの速さ、作業料金、実績数について、他社と比較する表示をしている。A社がどのような意図で、何を根拠に比較をしたのかまでは、分からない。
(4) フリーダイヤルについて
ア コールセンターの業務は、A社が行っている。
イ 当社は、A社コールセンターから「鍵開けの申し込みがあったので、現場に行ってください。」という連絡を受けることにより、鍵開けの業務を請け負う。コールセンターから伝達されるのは、お客様の依頼内容とコールセンターが伝えた料金である。
ウ 鍵開けの料金については、現地の状況を見ないと金額がどれくらいになるのかが分からない。このため、コールセンターからは、「最低作業料金が 8,800 円」と伝えた旨の伝達を受けることが多い。
(5) 契約書面について
ア すべてのお客様に対して、契約書面の控えを渡している。
イ 契約書面に記載している「サービス約款」に「作業スタッフが出発後のお客様都合でのキャンセルは¥6,000(税抜)、到着後のキャンセルは最低作業料金をキャンセル料
として申し受けます。」と記載している。この「最低作業料金」とは、出張基本料金 8,800 円のことである。お客様には、出張料金(5,500 円)はいただくこと、基本料金
(3,300 円)は作業をした時点で必ずかかることを説明しているので、「最低作業料金」はこの合計額(8,800 円)と認識されているものと理解している。「最低作業料金」の 金額を明示したものはない。
(6) 本件の勧誘及び契約について
ア 令和4年6月中旬の深夜、A社のコールセンターから鍵開けの依頼のメールを受け取った。メールに書かれていたのは、①申立人の住所、②申立人に「8,800 円から」という料金を伝えたこと、③現場到着の目安の時間だったと記憶している。キャンセル料や、深夜・早朝料金については書かれていなかった。
イ 申立人の自宅に行き、事業者名を告げて、すぐにドアの状況を確認した。鍵はピッキング防止機能の付いたものだった。
ウ 鍵を開ける方法や料金については、申立人に料金表2を見せながら説明した。「〇〇特殊開錠」と「××特殊開錠」という方法を説明すると、申立人は「〇〇特殊開錠」の方を選んだ。
<申立人の契約書面記載内容>
エ 本件の特殊開錠の各作業項目と見積額56,100 円を記載した契約書面を渡すと、申立人は「高いな。でも、開けてもらうしかないのでお願いします。」と言ったので、了承を得られたと思った。約款にはこういうことが書いてありますと簡単に説明して、契約書面の約款の部分にチェックとサインをいただいた。この際、約款に記載のキャンセル料の説明はしていない。クーリング・オフの案内もしていない3。作業は、5分程度で終わった。
〔作業・部品〕項目 | 数量 | 金額(円) |
出張基本料金 | 1 | 8,000 円 |
〇〇特殊開錠 | 1 | 25,000 円 |
●●部品交換 | 1 | 10,000 円 |
△△部品 | 1 | 8,000 円 |
小計 | 51,000 円 | |
消費税(10%) | 5,100 円 | |
合計 | 56,100 円 |
オ 作業後、56,100 円をデビットカードで決済した。デビットカードとクレジットカードは同じ扱いという理解で、契約書面の「クレジットカード」の部分に「〇」と付けた。 カ 滞りなくお金が支払われ、作業終了後のサインをいただいた。トラブルなく作業を終えたという認識だった。申立人からキャンセルの申出があったり、それについて話をし
たりしたという記憶は一切ない。
ケ 後日、申立人から返金を求めたいと連絡を受けた。申立人の主張は、「キャンセルを
2 部会が料金表を確認したところ、申立人の契約書面と同じ項目名及び金額の記載がある。
3 部会が契約書面を確認したところ、裏面にクーリング・オフに関する規定の記載がある。
申し出たのに、キャンセル料がかかると言われた。」、「クーリング・オフのようなこ とを考えています。」というものだった。キャンセルの話は全く身に覚えがなく、また、同意の上で作業をしたのに、後からこのようなことを言われて困惑した。「作業前、作 業後に同意を得て、チェックもサインも得て、サービスは終わっているので、後からそ のようなことを言われても困ります。」と答えた。さらに、申立人が当社に依頼を要請 した時点でクーリング・オフの適用除外になると思ったので、「クーリング・オフの適 用除外に当たると思いますよ。」と伝えた。申立人は納得できない様子で、消費生活セ ンターに相談しますという話になった。
コ 後日、消費生活センターの相談員から電話を受けた。相談員は、クーリング・オフを主張したが、その説明は納得できるものではなかった。当社としては、クーリング・オフは適用除外になると考えていた。
(7) 当社の考える解決策
被害救済委員会に付託される事態となり、申立人に納得いただけなかった結果と受け止めている。解決のために折り合いをつけたい。開錠作業は実施済みなので、作業料金はいただきたい。
第4 委員会の処理結果
部会は、令和4年10 月27 日から令和5年2月10 日までの4回にわたって開催された。(処理経過は資料1のとおり)
部会において、あっせん案を作成し、当事者双方へ提示したところ、双方が受諾し、紛争はあっせんの成立により解決した。
合意書の内容は、次のとおりである。
【合意書の内容】
申立人と相手方の間で令和4年6月〇日に締結した住宅の鍵開けサービス契約(契約金額56,100 円。以下「本件契約」という。)は、訪問販売(特定商取引に関する法律第2条第1項第1号)に該当することから、以下のとおり合意する。
1 相手方は、本件契約が、令和4年6月〇日発送の申立人による申出により、特定商取引に関する法律第9条に基づき解除(クーリング・オフ)されたことを認め、申立人が相手方に対し、本件契約の代金として支払った56,100 円を申立人に対し返還する義務があることを認める。
2 相手方は、上記1の返還すべき金員56,100 円を、申立人の指定する銀行口座に令和5年〇月〇日までに、全額を一括で振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は、相手方の負担とする。
3 申立人と相手方は、本件契約に関して、本あっせん条項に定めるほか、何ら債権・債務のないことを相互に確認する。
第5 報告にあたってのコメント
1 あっせん案の考え方について
本件は、深夜帰宅時に自宅アパートの鍵を紛失した申立人が、最寄りの交番で受け取ったメモをもとに鍵開けサービスに関する事業者に架電し、それにより来訪した作業担当者によって鍵開けの作業が行われたところ、その後に申立人によりクーリング・オフの通知が出されたという事案である。本件契約に関する法的問題につき、以下、本件の解決方法に直接関係する問題点として、(1)特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)の適用除外をめぐる問題、(2)クーリング・オフに関する問題について検討を行った上で、本件と関係するその他の問題点として、(3)特定商取引法に関するその他の問題点、(4)不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)に関する問題点、(5)消費者契約法に関する問題点につき、順次検討する。
(1) 特定商取引法の適用除外をめぐる問題点
ア 特定商取引法第 26 条第6項第1号に基づく特定商取引法の規定の適用除外をめぐる問題
本件契約は、営業所等以外の場所において役務提供契約を締結して行う役務の提供に関するものであり、特定商取引法第2条第1項第1号に規定する訪問販売に該当する。もっとも、本件契約は、申立人が鍵開け作業を依頼するため、警察からもらったメモを見て、さらに、インターネット広告の価格表示等を見て相手方に電話をして、来訪を請求したところ、相手方が申立人の自宅に訪問したものである。そのため、特定商取引法第 26 条第6項第1号によれば、「その住居において売買契約若しくは役務提供契約の申込みをし又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者に対して行う訪問販売」(いわゆる請求訪販)に関しては同法第4条から第 10 条までの規定を適用しないとされているところ、本件がこの適用除外に該当するかが問題となる。
消費者の請求に応じて訪問販売が行われた場合について特定商取引法の規定の適用を除外する趣旨に関し、通達4では、「商品の売買に当たっては、①購入者側に訪問販売の方法によって商品を購入する意思があらかじめあること、②購入者と販売業者との間に取引関係があることが通例であるため、法の趣旨に照らして第2章の規定を適用する必要がないためである」との説明がなされている。したがって、ここでは、来訪の請求に際して商品を購入する意思があらかじめあったと認められるのがいかなる場合であるのかが問題となるところ、東京高判平21・4・15(判例集未登載、平成19 年(ネ)第174号5)は、請求訪販に関する請求者の意義につき、「契約内容の詳細が確定していることを要しないが、契約の申込み又は締結をする意思をあらかじめ有し、その住居において当該契約の申込み又は締結を行いたい旨の意思表示をした者をいう」ので、「工事見積もり等の依頼があれば常に契約の申込み又は締結を行いたいとの意思の表現であると
4 「特定商取引に関する法律等の施行について」(通達)(令和4年6月22 日 各経済産業局長及び内閣府沖縄総合事務局長宛て 消費者庁次長・経済産業省大臣官房商務流通保安審議官)。
5 本判決につき、齋藤雅弘=池本誠司=石戸谷豊『特定商取引法ハンドブック〔第5版〕』(日本評論社・2014年)104 頁以下、後藤巻則=齋藤雅弘=池本誠司『条解消費者三法』(弘文堂・2015 年)639 頁以下を参照のこと。
したものとは解されない」し、「同法 26 条2項1号の文言上、顧客が、取引意思を有しないまま、契約準備に当たる行為のために事業者に自宅への来訪を求めても、同号の
『請求』には当たるとは解されない」と判示している。このように、請求訪販に該当するためには、契約内容の詳細が確定していることまでは必要ではないとしても、単に見積もり等の契約の準備行為のために自宅への来訪を求めた場合のように、締結されるべき契約の内容が未だ不明確であって、当該事業者と契約を締結する意思をあらかじめ有しているものと認められない場合には、請求訪販には該当しないものと考えられる。
イ 本件における検討
住宅の鍵開けサービスは、鍵の状況、ドアの状況、その他の条件によって役務の内容が変わることは通常であり、消費者が訪問を請求した時点において、契約内容の確定が困難な役務であると考えられる。実際、本件においては、申立人が訪問を請求した時に知り得た作業内容及び作業代金と実際に契約を勧められた内容等との間に、消費者が想定できない程度の乖離があったといえる。そのため、本件において、申立人が契約を締結したい旨の意思をあらかじめ有し、その住居において当該契約の締結を行いたい旨の明確な意思表示をしたとは言えないとすれば、請求訪販には該当せず、特定商取引法第 26 条第6項第1号に定める適用除外に該当しないこととなり得る。この点に関し、作業内容、作業代金の2点について、それぞれ検討する。
(ア) 作業内容
a 広告表示の内容
申立人が見たと説明するインターネット広告6(以下「本件広告」という。)で は、「一般的な鍵の住宅開錠 8,800 円(税込み)~」等と表示されている。この 点に関し、相手方は、「8,800 円」の作業内容について、①8,800 円は、最低作業 である、②最低作業に当たるのは、鍵穴に油を差すような簡易な作業等の場合であ る、③これまでの実績では、8,800 円で終わる作業はほとんどないと説明した。こ れに対し、申立人は、①どのような作業をするのか分からなかった、②自分の鍵は、ありふれたタイプのギザギザとした形状の鍵なので、「一般的な鍵」に当たり、単 純に開けてもらえるものだと思った、③別途作業費用がかかるとは思わなかったと 述べた。
また、相手方は、本件広告において「一般的な鍵」と表示しながら、どのような 鍵がこれに該当するのか表示していなかった。この点に関し、本件の鍵はピッキン グ防止機能が付いている鍵であるところ、相手方は、「料金表」の「付属する作業」にある「〇〇特殊開錠」で開けることとなると説明した。しかしながら、申立人は、自分の鍵が「一般的な鍵」に当たると思っていたため「付属する作業」が発生する ことを想定できなかった。
b コールセンターでの説明
相手方は、コールセンターの業務はA社が行っており当社では業務に関与していない、A社から連絡を受ける形で鍵開け業務を請け負っていると説明した。また、相手方は、本件作業依頼を受けた際のコールセンターからの伝達事項は、①申立人
6 事務局が令和4年8月22 日にプリントアウトした相手方の屋号が表示されたインターネット広告について、部会が申立人に確認したところ、申立人は令和4年6月中旬に自分が見た広告と同じであると説明した。
の住所、②申立人には「8,800 円から」という料金を伝えたこと、③現場到着の目安時間だけであったと説明した。
また、申立人は、「鍵を見てみないと分からない。」と言われたが、自分の鍵は
「一般的な鍵」なので単純に開けてもらえるのだと思い、不安はなかったと述べた。しかし、相手方によれば、①8,800 円でできる「一般的な鍵」の最低作業だけで終 わる場合は少ない、②7割から8割は本件の特殊開錠と同じ方法による作業を行っ ているとのことであった。
(イ) 作業代金
a 広告表示の内容
<本件広告の表示内容>
24 時間対応
一般的な鍵の住宅開錠 8,800 円(税込み)~
鍵修理・ドア修理 8,800 円(税込み)~
新規取付工事 25,300 円(税込み)~
鍵交換 13,200 円(税込み)~
本件広告においては、「24 時間対応」と表示するとともに、「一般的な鍵の住宅開錠 8,800 円(税込み)~」と表示している。「鍵修理・ドア修理」、「新規取付工事」、「鍵交換」に限り、追加料金の表示がある。
相手方は、①8,800 円は、出張費と基本作業料の合計額を示したものである、②基本作業料金に含まれる作業は、鍵穴に油を差すような簡易作業等である、③実際に 8,800 円で終わる作業は住宅の鍵開けサービス契約全体の2%程度である、④契約金額の実績では、3万円から4万円の間が最も多く、契約額が3万円以上となるものが75%を超えると説明した。
申立人は、作業代金について、①出張費や作業費が別途かかるとは思わなかった、
②「24 時間対応」との表示があるので深夜料金や急ぎの料金はあり得ると思った、
③8,800 円を基本とすれば、割増料金があったとしても15,000 円以下だろうと考えて作業を依頼したと述べた。
本件広告など事前に知り得る情報において、申立人は、料金について、深夜料金等の割増の可能性を認識していたものの、その金額は、「15,000 円以下」と述べたように、56,100 円もの金額になるとは想定することは困難だった。
b コールセンターの説明
相手方は、コールセンターでは、「現地の状況を見ないと金額がどれくらいになるか分からない。」との説明をしているとの認識を示した。
この点、申立人も、相手方のコールセンターに電話をかけた際、作業料金については、「行ってみないと分からない。」、「鍵を見てからの判断となる。」と言われたと述べている。また、自分の鍵は、一般的な鍵であり、特殊な鍵ではないとの認識であり、割増料金はないと思っていたと述べた。
以上の事情から、申立人は、料金について、自宅に来てもらわないと作業代金は確定しないものと認識していたものの、8,800 円を基本とする金額の範囲と考えていたことが窺える。
(ウ) 請求訪販であることに基づく特定商取引法の適用除外の該当性
前記(ア)、(イ)のとおり、相手方は、申立人が相手方の来訪を請求した時点において、具体的な作業内容及び作業代金を説明していなかったものと認められる。
a 作業内容を説明していなかったこと
作業内容については、鍵開けという役務の性質上、「行ってみないと分からない。」という相手方の説明は、直ちに問題となるものではない。しかしながら、相手方は、これまでの実績から 8,800 円という最低作業で完結する可能性はほとんどないにもかかわらず、8,800 円からという最低作業料金のみを告げていた。最低作業で開錠する可能性がほとんどないのであれば、消費者がこのことを理解できるよう、作業内容について明確に告げるべきであった。本件広告表示及びコールセンターの説明は、契約内容としての作業内容を説明したことにはならない。
b 作業代金を説明していなかったこと
作業内容と同様に、作業代金についても、鍵開けという役務の性質上、「行ってみないと分からない。」という相手方の説明は、直ちに問題となるものではない。しかしながら、相手方は、8,800 円で終わる作業は少なく、契約金額の実績では3万円から4万円の間が最も多いにもかかわらず、「一般的な鍵の住宅開錠 8,800 円
(税込み)~」等と本件広告で表示し、コールセンターにおいても最低作業料金のみを電話で告げていた。例えば、コールセンターで、一般住宅の鍵開けの多くは、
3万円以上かかっている等と説明するべきであったと考えられる。
なお、本件広告において、総額の上限や、想定される総額の例が十分に記載され ていないことを考慮すれば、この表示価格は、最低作業価格を示しているというよ りは、作業を依頼した場合にかかりうる金額の例示と認識されるものと考えられる。
「行ってみないと分からない。」と説明し、8,800 円ではない可能性があることを暗に示したとしても、申立人が、実際の契約金額を想定することは困難であったと考えられる。本件における告知は、契約内容としての契約金額を説明したことにはならない。
以上のように、①申立人が相手方に対し来訪の請求をした時点では、作業内容およ び作業代金は未だ確定しておらず、かつ実際に住居で鍵の状況を確認しない限りそれ らが確定できないことをコールセンターから申立人に対し告げられていたこと、また、
②8,800 円という最低作業料金だけが広告によって示されていたとしても、契約金額のおおよその幅や標準的な契約金額等が明らかにされていない以上、申立人において本件契約における代金額の範囲を想定して具体的に契約の締結を請求したものとは認められないこと等の諸点に鑑みれば、本件は請求訪販には当たらず、特定商取引法第 26 条第6項第1号に定める適用除外には該当しないものと考えられる。
(2) クーリング・オフ
ア クーリング・オフの該当性
上記のとおり、本件は特定商取引法の訪問販売の適用除外に該当しないことから、クーリング・オフの適用を受ける。
申立人は、契約書面を受領した日から8日以内に書面による解除の申出を行っていることから、クーリング・オフが成立している。申立人はクーリング・オフ通知書の写しをとっており、必要な事項が記載されていること及び配達記録があることを、部会にお
いて確認している。
イ クーリング・オフの効果 (ア) 返金額
申立人は相手方にデビットカードで 56,100 円を支払っているため、相手方は申立人に対し、速やかに返還する義務を負う。この場合の返還に係る手数料等費用は、特定商取引法第9条第4項及び第6項に基づき相手方が負担する。
(イ) 原状回復
申立人は、特定商取引法第9条第7項に基づき、本件鍵開けの原状回復に必要な措置を無償で講ずるよう請求することができる。
なお、申立人は、本件の作業内容について、上記条項に基づく原状回復を求めているわけではない。このため、本件の作業に関し、相手方は、特定商取引法第9条第7項に基づく原状回復の措置を講ずる必要はない。
(ウ) 違約金
相手方は、損害賠償又は違約金の支払を請求することができず(特定商取引法第9条第3項)、既に役務が提供されたときにおいても、当該役務の対価を請求することはできない(特定商取引法第9条第5項)。
(3) 特定商取引法に関するその他の問題点
ア 書面不備(特定商取引法第4条、第5条) (ア) 役務の種類
相手方が使用している契約書面において、本件では、「〔作業・部品〕項目」の欄に「出張基本料金」、「〇〇特殊開錠」、「●●部品交換」、「△△部品」と記載している。これらの各項目について、相手方は、自社の料金表に基づき各項目を記載したと説明した。
料金表の記載事項を転記すること自体、直ちに問題となるものではないが、役務に おける「種類」とは、役務が特定できる事項をいうため、どのような役務であるのか、そのような記載になっているのか、個別に確認することが肝要となる。例えば、「△
△部品」のように、個別の名称を記載しただけでは、どのような役務であるのかが分からない可能性がある(特定商取引法第4条第1号、通達3(2)(イ))。
(イ) 代金の支払い方法
相手方は、「支払方法」の欄の「クレジットカード」に「〇」を付しているところ、実際の支払い方法は、デビットカードであった。
相手方は、クレジットカードとデビットカードは同じ扱いという理解だったと主張 したが、クレジット(後日〔決済日〕に、引き落とされる)とデビットカード(即時、カードに紐づいた口座から引き落とされる)は、異なる支払方法である(特定商取引 法第4条第4号、通達3(2)(ハ))。
(ウ) クーリング・オフに関する記載
相手方は、裏面のクーリング・オフの欄に、「1.『特定商取引に関する法律』の適用を受ける場合には、この書面を受領した日から起算して8日間は、お客様(注文者)は文書を持って工事請負契約の解除(クーリングオフと呼びます)ができ、その効力は解除する旨の文書を発したときに生ずるものとします。ただし、お客様がご自
身で弊社にご自宅での作業を依頼された場合、(略)『特定商取引に関する法律』の適用除外事由に該当する場合には、上記条項はすべて適用時対象外となります。」と記載している。
この記載事項は、特定商取引法第 26 条第6項第1号の適用除外について説明したものと考えられるが、「お客様がご自身で弊社にご自宅での作業を依頼された場合」に適用除外になるとの部分は、同規定を正しく説明しているとはいえず、クーリング・オフに関する事項を正しく記載していることにはならない(特定商取引法第4条第5号、省令7第6条)。
イ 不実告知(特定商取引法第6条第1 項)
前記ア(ウ)のクーリング・オフに関する事項の書面不備について、裁判所が同様の事項が記載された契約書について、不実告知の判断を行った事例があることから、不実告知に該当しうるのか検討する。
(ア) 適格消費者団体ひょうご消費者ネットによる差止訴訟8
兵庫県下において、悪質な水道業者による消費者被害が相次いでいたところ、適格消費者団体ひょうご消費者ネットは、特に消費者からの苦情事例が多く報告されていた事業者(①みなと水道設備こと大和設備こと和田怜、②株式会社関西住宅設備及び株式会社アールサービス)に対し、神戸地方裁判所に差止訴訟を提起したところ、2件について和解が成立した。
このうち、株式会社関西住宅設備・株式会社アールサービスとの和解案(神戸地方裁判所第4民事部合議係 平成30 年(ワ)第1324 号)9においては、「お客様が、弊社にお電話等で住居での作業を要請された場合で、弊社により行った作業が、お客様がお電話等で要請された作業の範囲を超えない場合、原則として、契約の申込みの撤回または解除(以下、「クーリング・オフ」といいます。)の対象とはなりません」等と記載された契約書は、特定商取引法第4条、第5条の書面としては不備があると思料するとした上、「事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除を妨げるため、当該契約の申込みの撤回又は解除に関する事項について不実の事を告げる行為をしてはならない(特定商取引に関する法律(略)6条1項
5号)」と述べられている。
(イ) 本件における不実告知の該当性の検討
そこで、本件について見ると、前記ア(ウ)のクーリング・オフに関する事項の書面不備を行っていることが、不実告知となり得るかが問題となる。
この点につき、相手方は、書面交付時にクーリング・オフの案内をしていないと説 明し、また、申立人もクーリング・オフについての説明は受けていないと述べている。これらの事実関係によれば、勧誘に際して、前記ア(ウ)のクーリング・オフに関する 事項の書面不備部分を見せたり、口頭で説明したりしたような事実はなかったことが 窺える。しかしながら、特定商取引法第4条、第5条の書面不備を不実告知と判断し
7 「特定商取引に関する法律施行規則」(昭和51 年11 月24 日 通商産業省令第89 号)
8 適格消費者団体ひょうご消費者ネット「水道工事業者への不実告知等差止請求訴訟について」
(http://hyogo-c-net.com/pdf/200107_minato.kansai_koho.pdf)。
9 平成30 年(ワ)第1324 号不実告知等差止請求事件和解案(http://www.hyogo-c-net.com/wp01/wp- content/uploads/2019/12/191226_kansai_wakai.an_.pdf)。
た裁判所の和解事例があることを踏まえれば、本件における書面不備についても、不 実告知となり得るものと考えられる。本件においては、「『特定商取引に関する法律』の適用除外事由に該当する場合」の例示として、「お客様がご自身で弊社にご自宅で の作業を依頼された場合」と記載している部分が、クーリング・オフに関して正しく 告げていないものであり、クーリング・オフに関する事項の不実告知に当たり得ると 解される。
ウ クーリング・オフ妨害(特定商取引法第9条第1項)
申立人は、契約日から8日以内に、相手方に電話をかけ、クーリング・オフを申し出 た。これに対し、相手方は、「クーリング・オフの適用除外に当たると思いますよ。」 等と自身の考えを伝えたと説明した。また、申立人は、「返金とか、そういったことは 全く考えていない。」、「勝手にしてください。」と言われたと述べた。これを受けて、申立人は、契約日の2日後に消費生活センターに相談し、契約日から8日以内にクーリ ング・オフ通知書を発出した。
これらのことによれば、相手方の行為は、自身の考え(訪問販売の適用除外に当たるから、クーリング・オフの対象とはならない)を告げたに過ぎず、申立人がこれによってクーリング・オフを断念したわけではない。よって、申立人のクーリング・オフの行使を妨げているとまではいえないと考えられる。
(4) 景品表示法に関する問題点
本件広告及び相手方が現在の広告と説明するインターネット広告10(以下「現在の広告」という。)について、相手方は、A社11が作成、運営していると主張するとともに、当社 は作成に関与していないが内容は承知していると説明した。よって、本件広告及び現在の 広告の主体は、A社である。景品表示法は、同法の対象となる表示を「顧客を誘引するた めの手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これら の取引に関する事項について行う広告その他の表示」(景品表示法第2条第3項)と定義 しているところ、本件における鍵開けが「自己の供給する役務」に該当するのかにつき、 検討が必要となる。
この点に関し、A社は、消費者に直接的に鍵開けの役務提供を行っているものではない が、①A社グループとして、A社(広告の作成運用業務、コールセンターの業務等、事務 業務全般を担当)と相手方(現場の鍵開け業務を担当)が役割分担をして一体として事業 を行う関係にあること、②A社から依頼を受けて、相手方が鍵開け業務を行っていること、
③相手方の契約書面に「A社グループ」と自社の会社名を併記していること、という事情が認められる。このように、本件におけるグループ会社内における事業の一体性に鑑みれば、A社が相手方の鍵開け業務に関して行った本件広告、現在の広告の各表示について、 A社は景品表示法の適用を受けるものと考えられる。
なお、以上のようにA社は景品表示法の適用を受けるものと解される一方、自ら広告表
10 部会が相手方に対し、本件契約当時のインターネット広告を提出するよう依頼したところ、令和4年11 月7日に相手方からインターネット広告の提出を受けた。そのインターネット広告は、本件におけるインターネット広告とは異なるものであった。相手方は、この広告を「現在の広告」と説明した。
11 本報告書 第3 2(1)参照。
示を行っていない相手方については、景品表示法は適用されない。しかしながら、相手方とA社は、前記①~③のとおり密接な関係にあることに加え、相手方は「広告の作成には関与していないが、内容は承知している。」と説明しているように、広告内容を認識した上で自らの事業を行っている実態にあること及び相手方の代表取締役がA社の代表取締役でもあること等を考慮すれば、A社の景品表示法上の問題点についても、相手方に対して指摘を行っておくことが有用であると解される。そこで、以下、A社の広告に関する景品表示法上の問題点につき、検討を行うこととする。
<現在の広告>
ア 優良誤認(景品表示法第5条第1項)
表示内容 | 相手方の主張 |
鍵開けの技術等について、「ナンバーワン!」 | 技術力には自信がある、ナンバーワンを目指し ているという意味と理解している |
A社は、現在の広告において、鍵開けの技術等について、「ナンバーワン!」と表示している。相手方は、技術力には自信がある、ナンバーワンを目指しているという意味と理解していると説明した。これによれば、「ナンバーワン」であるとする内容が客観的な調査に基づくものとはいえないことが窺える。
優良性を表すこれらの表示について、合理的根拠に基づくものではない場合には、実際のもの又は競争業者のものよりも著しく優良であると誤認させる不当表示となるおそれがある(景品表示法第5条第1項)。
<現在の広告及び本件広告>
イ 有利誤認(景品表示法第5条第2項)
表示内容 | 相手方の主張 |
<現在の広告> 「5,500 円(税込み)~鍵開け」 「基本作業費3,300 円(税込み)~はいただきます」 | 「5,500 円」は出張料金を示している 「3,300 円」は基本作業費を示している |
<本件広告> 「一般的な鍵の出張作業8,800 円(税込み)~」 | 「8,800 円」は基本作業料金である |
A社は、現在の広告において、「5,500円(税込み)~鍵開け」、「基本作業費3,300円(税込み)~はいただいております」と、本件広告において、「出張作業 8,800 円
(税込み)~」と表示している。相手方は、①「5,500 円」は出張費を、「3,300 円」は基本作業費を、「8,800 円」は出張費と基本作業費の合計額をそれぞれ示していると理解している、②8,800 円は最低作業料金であると説明した。
しかしながら、相手方の説明によれば、①8,800 円で終わる作業はほとんどない、②契約実績としては3万円から4万円の間が最も多いとのことであり、このような価格表示は、ほとんど実績がない価格だった。
さらに、現在の広告及び本件広告の両広告には、総額の上限や、想定される総額の例が十分に記載されていない。当該表示において、「8,800 円」という金額は、最低作業
料金を示しているだけでなく、鍵開け作業を依頼する場合の料金の例示であると理解するのが通常であると考えられるが、それは当該表示の実際の意味内容とは異なるものとなっている。
このような表示は、実際の価格よりも著しく有利であると誤認させる不当表示となるおそれがあるものと考えられる(景品表示法第5条第2項)。
到着まで 作業料金 実績数
の速さ
X 社 50 分 13,200 円(税込) 10 万件 Y 社 30 分 6,600 円(税込) 1万件 Z 社 20 分 11,000 円(税込) 3万件
当社 16 分 8,800 円(税込) 10 万件
<本件広告>
ウ 比較広告表示に関する優良誤認及び有利誤認
表示内容 | 相手方の主張 | ||||
A社が作成したもので、表示の根拠は分からない | |||||
到着までの 速さ | 作業料金 | 実績数 | |||
X 社 | 50 分 | 13,200 円(税込) | 10 万件 | ||
Y 社 | 30 分 | 6,600 円(税込) | 1万件 | ||
Z 社 | 20 分 | 11,000 円(税込) | 3万件 | ||
当社 | 16 分 | 8,800 円~(税込) | 10 万件以上 | ||
A社は、本件広告において、「到着までの速さ」、「作業料金」、「実績数」について、他社(X社、Y社、Z社)との比較を表示している。相手方は、かかる表示の根拠について、A社が作成したもので、当社では分からないと説明した。仮に比較の対象となる役務の内容が、自社の役務の内容と同等のものといえない場合には、サービスの価格又は役務の品質、規格その他の内容について、著しく有利又は優良であると誤認させる不当表示となるおそれがあるものと考えられる。
この点に関し、消費者庁が示している比較広告ガイドライン12によれば、比較広告が不当表示とならないようにするためには、①比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること、②実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること、③比較の方法が公正であること、という3つの要件をすべて満たす必要があるとされている。本件広告については、相手方の説明からは、そこで比較されている他社のサービスの内容や価格などに関する客観的なデータが存在しないことが窺われ、以上の諸要件を充足しない可能性がある。相手方には、本件広告における比較広告表示が優良誤認又は有利誤認を惹起する不当表示とならないよう、A社とともに、その比較の内容及び方法等に関する正当性・妥当性の確保に努めることが期待される。
(5) 消費者契約法に関する問題点
ア 事業者の努力義務(消費者契約法第3条第1項) (ア) キャンセル規定の説明に関する努力義務
相手方は、契約書面に記載している「サービス約款」において、キャンセルについ
12 「比較広告に関する景品表示法の考え方」(昭和62 年4月21 日公正取引委員会事務局、改正平成28 年4月1日消費者庁)。
て、「作業スタッフが出発後のお客様都合でのキャンセルは\6,000(税抜)、到着後 のキャンセルは最低作業料金をキャンセル料として申し受けます。」と規定している。同約款に記載の「最低作業料金」について、同約款及び契約書面に具体的な金額が分 かる記載はどこにもない。相手方は、この規定の意味について、以下のように説明し た。
① 「最低作業料金」とは、出張基本料金 8,800 円(内訳は、出張料金 5,500 円、
基本作業料金3,300 円)のことである。
② お客様には出張料金(5,500 円)はいただいていること、基本作業料金(3,300円)は作業をした時点で必ずかかることを説明しているので、「最低作業料金」はこの合計額(8,800 円)と認識されているものと理解している。
③ 「最低作業料金」を明示したものはない。
一方、相手方における直近1年間のキャンセルの実績のうち、「作業スタッフ到着後」のキャンセルは 16 件あり、このうち「10,001 円~20,000 円」の実績が8件と半数を占めている。このような規定は、故意に金額を示さないことで、高額なキャンセル料の提示を可能とするもので、消費者にキャンセルを断念させるような恣意的な運用を可能とするものと言わざるをえない。
消費者と事業者との間には情報の質及び量について構造的な格差があることを踏まえれば、キャンセル料が発生する場合の条件や、その金額について、内容が十分に理解できるように明確かつ平易な形で記述した上で、十分な説明を行うことが求められると考えられる。
(イ) 作業内容及び作業代金の説明に関する努力義務
相手方は、鍵開けの方法については、本件の特殊開錠の方法について説明した上、料金の内訳については料金表を見せながら説明したと主張したが、申立人は、細かい作業内容についての説明はなく、「これをやるので、この金額です。」、「特殊な作業なんで。」としか説明されなかったと述べた。
これらの説明によれば、相手方は、広告に表示している「一般的な鍵」がどのような鍵なのか、また、申立人の鍵がこれに当たるのかどうか説明しなかったことが窺える。相手方は、申立人に対して、料金表記載の各付属作業が必要となる根拠を説明していなかったものと考えられる。
相手方は、作業内容や料金について説明したと主張するが、鍵開けという緊急を要する役務の提供であり、申立人が冷静な判断を行うことが困難な状況であったこと等を考慮すれば、相手方には、契約内容について分かりやすく、丁寧に説明することが求められる。
イ 契約締結前に契約締結を目指した事業活動を実施し、これにより生じた損失の補償を請求(消費者契約法第4条第3項第8号)
キャンセルによって発生する損失については、例えば出張料などの支払いに関する事前の合意が認められる場合であれば、その支払いを求めることは許容され得る。もっとも、消費者契約法第4条第3項第8号では、「当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該事業者が調査、情報の提供、物品の調達その他の当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において、当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照
らして正当な理由がある場合でないのに、当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げること」によって消費者が困惑した場合につき、困惑に基づく契約の意思表示の取消しが認められている。そこで、本件がこれに該当するかにつき、検討する。
(ア) コールセンターによる事前の説明
相手方は、A社から受けた作業依頼メールには、キャンセル料について伝えたとの連絡事項はなかったと述べ、申立人は、コールセンターに電話をかけたときには、キャンセル料についての説明はなかったと述べたように、「サービス約款」のキャンセル規定について事前に説明していなかったことが窺える。
(イ) キャンセル料の請求の有無
本件では、キャンセル料の請求について、相手方と申立人の主張が対立している。 相手方は、申立人の自宅において、キャンセルの話をした記憶はないと説明する一方 で、申立人は、高額な見積額に驚き、キャンセルを申し出た時に「ここまで来ちゃっ ている以上、キャンセル料がかかる。」、「2、3万円はもらわないと。」と言われ、開けるにしても、やめるにしても、どちらにせよ結構なお金がかかるのであれば、作 業してもらうしかないと思ったと述べた。
(ウ) 「契約締結前に契約締結を目指した事業活動を実施し、これにより生じた損失の補償を請求する行為」の該当性
以上に述べたように、本件では、キャンセル料の請求があったのかにつき当事者の主張が分かれており、この点に関する事実関係は明らかではない。もし相手方が、①本件契約の承諾の前に、②本件契約の締結を目指した事業活動(見積り)を実施し、
③キャンセル料の有無及びその金額は、契約の成立に必要な要素であるにもかかわらず、事前に「サービス約款」のキャンセル規定について説明せず、損失の補償としてキャンセル料を請求していた場合には、当該規定の適用が考えられる。
2 同種・類似被害の再発防止に向けて
(1) 事業者に対して
ア 消費者に誤解を与えない広告表示をすること
鍵を紛失して自宅の扉が開けられずに困ったときには、スマートフォンなどを使ってインターネットで鍵開けサービスを検索する人が多いと考えられる13。
そして、消費者は、鍵開けという同じサービスを提供する事業者が複数見つかった場合には、できるだけ代金が安い事業者に依頼したいと考えるのが通常である。
そのため、事業者のウェブサイトに掲載されている料金は、消費者がその事業者に依頼するかどうかを決定するための重要な考慮要素であり、事業者には、できるだけ多くの消費者から依頼を受けるべく、料金が安い印象を消費者に与える内容をウェブサイトに掲載したいという意欲が生じる。
しかし、消費者が実際に支払うことになる料金が、ウェブサイトに掲載されていた料金より高額である場合には、消費者は予期せず多額の出費をさせられ、事業者との間でトラブルが生じることとなる。
13 自宅等で発生する生活上のトラブルに対処するサービス(暮らしのレスキューサービス)は、鍵開けのほかに、ドア・ガラスの修理、トイレのつまり、害虫駆除、給湯器の修理等がある。
本件では、申立人は「一般的な鍵の住宅開錠 8,800 円(税込み)~」との本件広告の記載を確認した。そして、この記載から、自宅の鍵は、ありふれたタイプのギザギザとした形状の鍵なので、「一般的な鍵」に当たると思い、「8,800 円~」は、「~」があるので、最低価格が 8,800 円という意味だと理解し、依頼をするのが深夜であることから深夜料金が必要だとしても、8,800 円を基本とすれば、どんなに高くても15,000 円に収まるだろうと考えた。しかし、実際に作業を依頼し、請求されたのが56,100円であったことからトラブルとなっている。
このように、本件トラブルは本件広告が申立人に対して通常の場合の料金が 8,800 円程度であるとの印象を与えたことが発端となっている。
再発防止のためには、消費者が実際にかかる金額を予見したり、上限額を認識できる記載がされる必要がある。
鍵の開錠料金は、鍵の形状等によって開錠方法が異なるため、それに伴って料金も異なることになるところ、消費者が自分の鍵の形状等と見比べて料金を算出できるような料金表がウェブサイトに掲載されることが望ましいが、それができなくても、複数の鍵形状ごとの料金例や最高金額等が示されて、消費者が実際にかかる金額をある程度予見したり、上限額を認識できる記載がされるべきである。
なお、鍵を紛失して鍵開けサービスを探している消費者は、緊急事態に直面して焦っていることが多いと考えられるので、そのような心理状況でも理解しやすいよう、ウェブサイトの記載は特に分かりやすく記載されることが望ましい。
イ 現場に赴く前の電話対応もできる限りの説明をすること
本件広告に記載した料金の説明等は事業者からの一方的な情報発信であったが、電話対応では対話により事業者が消費者から聴き取りを行い、消費者の認識を確認できる機会となる。そこで、事業者は、電話対応において、消費者から鍵形状等を聴き取り、可能な範囲で作業内容やそれに対する料金、料金の上限額等を説明するべきである。
さらに、再発防止の観点からは、例えば引越し業者の一部で引越料金の見積りの際に行われているように、鍵開け事業者においてもスマートフォンのビデオ通話アプリを使って、鍵や扉の状態を映像で確認することにより見積りが行われれば、本件のようなトラブルが発生する可能性はさらに減少すると考えられる。
本件では、申立人が、本件広告を見た後に、ウェブサイト記載の電話番号に電話をかけて料金を尋ねたが、電話に出た相手は、実際に鍵を見ないと分からないと言い、キャンセル料の説明もしなかった。もし、電話でのやり取りで上記のような対応がされていれば、申立人は、高額な料金の支払いを覚悟した上で出張を要請し、または高額な料金の支払いを避けるために依頼をしない選択をすることができ、トラブルの発生には至らなかったと考えられる。
ウ 作業開始前に、合理的な料金表に基づき作業の具体的内容と料金を明記した見積書を書面で提示し、十分な説明をすること
(ア) 見積書の作業前の提示
消費者が作業前に料金を知らされれば、その料金を支払って作業を依頼するかどうかの選択をすることができるが、それがされずに作業後に初めて高額な料金額を知らされた場合には、突然高額料金を支払わされる立場に置かれることとなり、トラブル
となる。そのため、消費者には、作業前に見積書が提示されるべきである。本件では、作業前に見積書が提示されており、この点に関してはトラブル予防の一手段が講じら れたとして評価することができる。
(イ) 合理的な料金表に基づいた作業の具体的内容と料金を明示した見積書
本件では、作業開始前に料金表に基づき見積書が作成されているが、どのような作業が含まれているのか不明である「基本料金」という記載や、「〇〇特殊開錠」「●
●部品交換」「△△部品」という、作業内容が重複しているように見える作業項目が記載されていることも、申立人が相手方から不当に高額な請求をされているとの疑念を持った一因となっていると考えられる。
再発防止の観点からは、見積書は料金表に基づいて作成されているところ、料金表では、作業内容が不明な項目や作業内容が重複していると見られないように項目は整理されるべきである。
また、鍵の形状などにより選択される作業の料金は、作業難易度と作業時間などから合理的に定められるべきである。
本件の特殊開錠(56,100 円)は、5分程度という比較的短時間で完了しているが、料金表で最も安い 8,800 円の作業との間にそれほど大きな差額が生じるほど作業難易度と作業時間等の差があるのか疑問である。
この点において、最も安い料金をウェブサイトに掲載して消費者を呼び込んでおいて、実際に行われる他の作業では割高な料金を設定して高額請求しているとの疑念を生じさせるものであると思われ、改善の余地があると考えられる。
(ウ) 十分な説明をすること
申立人は、56,100 円という見積金額を見て、「こんなにかかるんですか。」と尋ねると、相手方の従業員は「特殊な作業だから、これくらいはかかる。」と答えただけであったが、ここで十分な説明がされていれば、トラブルに発展しなかった可能性も考えられる。
料金が作業難易度と作業時間から設定された合理的なものであれば、その観点などから、消費者が納得するような説明がされるべきである。
エ 録音等を残しておくこと
例えば、電話対応や現場でのやりとりにおいて、消費者に対して十分な説明をしたに もかかわらず、消費者との間で説明の有無に関してトラブルが生じた時には、電話対応 や現場でのやりとりの録音があれば、説明があったことを示すことで、トラブルを容易 に解消することができる。また、電話対応や現場でのやりとりに問題があった場合には、録音によって問題点を把握することができ、改善に役立てることができる。
このように、再発防止の観点から、電話対応や現場でのやりとりを録音することは有用であると考えられる。なお、トラブル防止の観点からは、消費者に対して、事前に録音することを伝えることが望ましい。
オ 法令を遵守した公正な対応をすること
(ア) ウェブサイトに料金等を記載する必要があることについて
ウェブサイトに料金等を記載することは法律上の要請でもある。
事業者のウェブサイトの広告表示については、景品表示法第5条第2号は実際のも
のよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるものであって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止している(有利誤認表示の禁止)。また、消費者契約法第3条第1項第2号は、「消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。」との努力義務を規定している。これらの規定から、事業者は、ウェブサイトにおいて、消費者が実際にかかる金額をある程度予見したり、上限額を認識できる記載をすることが必要である。
さらに、作業現場で契約をすることになる鍵開けサービスは訪問販売(特定商取引法第2条)に該当し、ウェブサイト等で消費者に提供されることになる作業内容や料金が消費者に予見できない場合には消費者が自宅への来訪を求めても適用除外(同法第 26 条第6項第1号)に該当しないと考えられることから、作業を行って料金を受領したとしても、クーリング・オフ(同法第9条)により意思表示が取り消されて受領した料金を全額返還することとなると考えられる。これを避けるためには、ウェブサイトにおいて、消費者が作業内容や実際にかかる金額をある程度予見できる記載をすることが必要である。
(イ) 契約をしなかった場合にキャンセル料を請求するのが不適切であることについて
本件では、事業者が、現場到着後、消費者から依頼を受ける前に、契約をしなかった場合にキャンセル料が発生する旨の説明を行ったかどうかについては事業者と消費者とで主張が食い違っている。
仮に、契約しなかった場合にキャンセル料が発生することを現場で初めて告げていたとすると、消費者契約法第4条第3項第8号に該当する可能性があり、これに該当するときは、契約を締結し、作業を行ったとしても、消費者は意思表示を取り消すことが可能である。
(ウ) このように、ウェブサイトに消費者が作業内容と料金を予見できるような記載をせずに、出張を求めた消費者に対して、契約をしない場合にはキャンセル料が発生することを告げて契約を迫るような営業手法は、法に違反する可能性があることから改められるべきである。
カ 業界全体としての適正化の取り組みについて
昨今は緊急性の高い修理等に関するトラブルが多く、消費生活センターにおいても、鍵の修理に係るトラブルの相談を受けている。その多くは事業者のウェブサイトで表示された代金と実際の代金の差によるものである。
鍵取扱業者には同業者でつくる事業者団体があるので、業界としてこのような消費者トラブルが生じないよう、広告表示の適正化やサービス提供時の対応について講習会を開くなど業界全体の改善に取り組んでいただきたい。
(2) 消費者に対して
ア 広告の情報を鵜呑みにしないように気をつけること
本件では、申立人は「一般的な鍵の住宅開錠 8,800 円(税込み)~」との本件広告の記載を確認し、自宅の鍵は、ありふれたタイプのギザギザとした形状の鍵なので、「一
般的な鍵」に当たると思い、「8,800 円~」は、「~」があるので、最低価格が 8,800円という意味だと理解し、依頼をするのが深夜であることから深夜料金が必要だとしても、8,800 円が基本とすれば、どんなに高くても15,000 円に収まるだろうと考えた。
しかし、前述のとおり、事業者のウェブサイトに掲載されている料金は、消費者がその事業者に依頼するかどうかを決定するための重要な考慮要素であり、事業者には、できるだけ多くの消費者から依頼を受けるべく、料金が安い印象を消費者に与える内容をウェブサイトに掲載したいという意欲が生じ、ときには消費者に料金が安いと誤解させようとする事業者が存在することも考えられる。
そこで、「8,800 円~」というような記載を見ても、その程度の金額ですむだろうと早合点せず、実際にはいくらかかるのかをしっかりと確認する必要がある。
また、事業者を選ぶ場合には、複数の事業者を検索し、ウェブサイトを見比べた上で選択すべきである。そして、選択の際には、料金がより明確に記載してあるかの観点からも確認すべきである。
また、「事業者名」と「評判」などのキーワードで検索することで当該業者の評判を知ることができる。ただし、その評判は、自社の評判を上げるために当該事業者の関係者が記載した嘘であったり、当該事業者を貶めるために他の事業者が行った嘘の記載の可能性もあるが、その可能性も念頭に置きつつ参考とすべきである。
イ 電話で可能な限りの説明を受けること
電話でのやりとりは、契約に先立って事業者と直接やりとりができる機会でもある。そこで、事業者に電話をした際には、消費者の側から積極的に作業内容や見積額を確認するべきである。
もしも事業者から作業内容や見積額は訪問時に説明すると言われたり、電話では詳しく説明できない等と言われたら、その理由をきちんと確認するべきであり、理由を説明してもらえないようなときや納得のいく説明が得られないようなときには、事業者との認識に行き違いが生じることになりかねないことを踏まえ、この事業者に依頼することを留保して、他の事業者にあたってみることを検討すべきである。
また、電話の段階で見積額が明確でない場合、訪問後に見積りを受け、見積額があまりに高額であれば作業を依頼しないことがあり得るが、そのときに事業者からキャンセル料や出張料などの名目で費用を請求されてトラブルとなる可能性がある。そこで、電話のやりとりでは、訪問後に作業を依頼しない場合に、料金が発生するか、発生する場合にはその金額を確認し、高額の料金が発生する場合には、この事業者に依頼することを留保して、他の事業者にあたってみることを検討すべきである。
ウ 作業前に見積書等をもらうこと
本件では問題とならなかったが、作業をする前に見積書の交付を求め、見積額が高額な場合には、作業を依頼しないことを検討すべきである。
エ 納得できない場合には、その場では金銭を支払わないこと
事前に説明されていないにもかかわらず、高額な出張料・キャンセル料を請求された場合や、見積りも事前の説明もされていないのもかかわらず、依頼していない作業が勝手に行われて高額な料金を請求された場合など、到底納得できない請求がされる場合が
ある。
仮に事業者の請求が法律に違反するものだったとしても、消費者がいったん金銭を支払ってしまうと、後から事業者に返金させることは簡単ではない。
それよりも、その場での支払いはせず、後日、消費生活センターや弁護士等に相談をしつつ、事業者と交渉をして、妥当な金額のみを支払うようにできれば金銭的被害の発生を抑えることができる。
ただし、事業者は作業を行った機会に金銭の支払いを強く迫ってくることが予想され、その場合には事業者が後日の支払いに納得するまで粘り強い対応が必要になる。
オ 事業者とのやりとりを録音しておくこと
本件では、申立人は、現場において、相手方から、依頼をしなかった場合にはキャンセル料がかかると言われたと主張し、相手方は、現場において、申立人との間でキャンセルに関して話をしたことはないと主張している。
このように、消費者と事業者との間で主張が食い違う場合には、第三者がどちらの主張が真実であるのかを判断することは困難である。
特に、消費者が事業者を被告として支払った料金の返金を求める裁判や、不法行為に基づく損害賠償請求の裁判など、裁判をする場合には消費者の主張が真実であることを消費者が立証しなければならない。
そこで、消費者の主張が真実であることを裏付けるための証拠とするために、事業者とのやりとりを録音しておくことも有効である。
いまでは多くの人がスマートフォンを持っており、スマートフォンのボイスレコーダーアプリを使用すればいつでも録音が可能であるので、活用することも一案である。
カ 他の方法も検討してみること
鍵をなくした場合に、鍵開け事業者に依頼する以外の方法も検討すべきである。
まずは、なくした鍵を見つけるために、お店や電車、タクシーなど鍵をなくしたと思われる場所の管理者に連絡をし、なければ交番などで拾得物として届けられていないか確認すべきである。
賃貸物件の場合、賃貸契約の際に、3本ある鍵のうち、賃貸人や不動産管理業者が1本を保管し、賃借人には2本が渡されることが多い。鍵をなくしたときには、賃貸人や不動産管理業者に連絡をして、保管されている鍵を借りることができる。賃貸人や不動産管理会社に相談するなど、対応について確認してほしい。
キ なくした場合も困らないように準備しておくこと
鍵は、なくした場合の影響が大きいことから、普段からなくさないよう注意をすべきものであるが、それでもなくしてしまうことはありうるので、その備えをしておくべきである。
賃借人に渡される2本の鍵のうち1本をカバンに入れておいたり、職場などに保管しておく等自宅に入れなくてもその鍵を使えるよう準備しておくことが考えられる。
また、最近では、紛失時に備えてスマートフォンと紐づけしておくと紛失物の位置情報が得られるアイテムがあるので、活用することも一案である。
ク 消費生活センターに相談すること
もしも、事業者から請求された料金に納得ができない等事業者の対応に疑義が生じた場合には、一人で悩まずに、消費生活センターに相談することをお勧めする。
(3) 行政に対して
ア 広告の不当表示を行った事業者に対する法執行を強化すること
消費者は、鍵開けサービスのような日常的に利用しないサービスについては、トラブル発生時にインターネットでサービスの内容や料金について検索する人が多いと考えられるところ、ウェブサイトに掲載されていた料金より消費者が実際に支払うことになる料金が高額である場合に、トラブルが生じることとなる。
そうであるとすれば、事業者がウェブサイトにおいて、実際よりも著しく安価であると消費者を誤認させるような記載をしなければトラブルは生じにくいと考えられるところ、実際よりも著しく安価であると消費者を誤認させるような広告表示は景品表示法第
5条第2号により禁止されていることから、トラブル発生を防止すべく、この法執行は強化されるべきである。
イ 消費者に必要な注意喚起をすること
本件の鍵開けサービスのような、消費者がインターネットでサービスを検索し、事業者のウェブサイトを見比べて事業者を決定するようなサービスの類型については、ウェブサイト上の記載から料金が安い印象を受けて依頼したところ、実際に請求される料金が高いとしてトラブルとなる場合が多い。
そこで、行政は、このようなサービス類型について、上記のようなトラブルとなる場合が多いことや、作業の内容及び料金がある程度明確になっている事業者を選択する等の対策をするよう注意喚起すべきである。
また、このような類型は、インターネットで検索することにより事業者を選択するものであるところ、インターネットで検索する際に注意喚起が目に留まるよう、注意喚起はインターネット上でもされるべきである。
ウ 特定の業者を紹介したとみられることはしないこと
本件では、申立人は、鍵を紛失した際に立ち寄った交番で、警察官から相手方の連絡先等が印刷された販促用のメモ用紙を渡されたことで、相手方を信用している。
このように、警察を含む行政が特定の事業者を紹介したとみられる行動をした場合には、紹介された事業者は一定の信用を得られやすいため、特定の事業者を紹介することがないよう配慮していただきたい。
資料1
「住宅の鍵開けサービス契約に係る紛争」処理経過
日 付 | 部会開催等 | 内 容 |
令和4年 10月18日 | 【付託】 | ・紛争の処理を知事から委員会会長に付託 ・あっせん・調停第二部会の設置 |
10月27日 | 第1回部会 | ・紛争内容の確認 ・申立人からの事情聴取 |
11月22日 | 第2回部会 | ・相手方からの事情聴取 |
令和5年 1月10日 | 第3回部会 | ・法的問題点の整理 ・あっせん案の考え方の検討 |
2月10日 | 第4回部会 | ・相手方にあっせん案の考え方等を示し、意見交換 ・あっせん案、合意書案の確定 ・報告書の検討 |
2月13日 | (あっせん案) | ・あっせん案を紛争当事者双方に提示 |
3月8日 | (合意書) | ・合意書の取り交わし |
3月30日 | 【報告】 | ・知事への報告 |
資料2
東京都消費者被害救済委員会委員名簿
令和5年3月30日
氏 名 | 現 | 職 | 備 | 考 |
学識経験者委員 | (16名) | |||
石 川 博 | 康 | 東京大学社会科学研究所教授 | 本件あっせん・調停部会長 | |
大 迫 惠 美 | 子 | 弁護士 | ||
大 澤 | 彩 | 法政大学法学部教授 | ||
大 塚 | 陵 | 弁護士 | ||
沖 野 眞 | 已 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 | ||
後 藤 巻 | 則 | 早稲田大学大学院法務研究科教授 | 会長代理 | |
志 水 芙 美 | 代 | 弁護士 | ||
菅 富 美 | 枝 | 法政大学経済学部教授 | ||
髙 木 篤 | 夫 | 弁護士 | ||
野 田 幸 | 裕 | 弁護士 | ||
洞 澤 美 | 佳 | 弁護士 | ||
宮 下 修 | 一 | 中央大学大学院法務研究科教授 | ||
村 千 鶴 | 子 | 東京経済大学現代法学部教授/弁護士 | 会長 | |
山 口 由 紀 | 子 | 相模女子大学人間社会学部教授 | ||
山 城 一 | 真 | 早稲田大学法学学術院教授 | ||
吉 村 健 一 | 郎 | 弁護士 | 本件あっせん・調停部会委員 | |
消費者委員 | (4名) | |||
江 木 和 | 子 | 東京都地域消費者団体連絡会共同代表 | ||
田 辺 恵 | 子 | 主婦連合会環境部副部長 | ||
星 野 綾 | 子 | 東京都生活協同組合連合会常任組織委員 | ||
山 下 陽 | 枝 | 特定非営利活動法人東京都地域婦人団体連盟副会長 | ||
事業者委員 | (4名) | |||
大 下 英 | 和 | 東京商工会議所産業政策第二部部長 | ||
大 畑 | 章 | 一般社団法人東京工業団体連合会専務理事 | ||
加 藤 | 仁 | 東京都中小企業団体中央会常勤参事 | ||
傳 田 | 純 | 東京都商工会連合会専務理事 |