Contract
190721TOKYO
テーマ:売買
合格[新民法]体験講義
テキスト
xxx x 専任講師
司 法 書 士
第2章 売買
Framework
売買契約とは,典型契約の中でも私たちに一番身近なものといえるでしょう。当事者の一方(売主A)が,ある財産権(例えば土地所有権)を相手方(B)
に移転し,相手方(買主B)がこれにその代金を支払うことを目的とする契約のことを意味します。買主が代金を支払う点で贈与と区別され,また,買主が売主に対して給付すべきものが金銭である点で交換と区別されます。
当事者の合意により売買契約が成立すると,売主は,財産権移転の義務を負います。つまり,売主は,財産権が占有を伴う場合にはその占有を買主に移転し,その財産権について不動産のように完全な所有権の取得に対抗要件を必要とする場合には,買主が対抗要件を具備することができるように協力する義務(例えば,所有権移転登記協力義務)を負担することになります。さらに,売買契約の目的物は,他人の所有に属する物でもかまいませんから(AB間の売買契約により他人Cの土地を目的物とすることも許されています),その場合には,売主は他人からその権利を取得して,買主に移転する義務を負担することになります。その一方,買主は,代金支払義務を負います。また,売主は,「担保責任」を負担することになりますが,これについては後述します。
第1節 意義
:当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれにその代金を支払うことを約束することによって効力を生ずる契約
有償・双務・諾成契約である(555条)。
売買に関する民法の規定は,売買以外の有償契約について準用する。ただし,その有償契約の性質がこれを許さないときは,この限りでない(559条)。
1
第2節 売買の成立
売買の予約
1. 意義
売買の予約:将来,売買契約(本契約)を締結すべきことを約束する契約
予約権者の一方が本契約締結の意思表示をすると相手方は承諾の義務を負うことになる。この承諾又は承諾に代わる裁判によって売買は成立する。
2. 売買の一方の予約(556条)
(1) 売買の一方の予約の意義
一方の予約の場合には,予約によって本契約を締結する権利を有する者(予約完結権者)が,相手方に対して予約完結の意思表示をすれば,相手方の承諾の意思表示をまたないで,売買の効力が発生する。買戻し(583条1項)と異なり,代金を提供する必要はない。
(2) 予約完結権の譲渡
予約完結権は,相手方の承諾がなくても,これを譲渡することができる。 譲渡の対抗要件としては,債権譲渡の規定(467条)に準じ,義務者の承諾又
は通知を必要とする(大判大13.2.29)。ただし,予約完結権が仮登記されている場合には,仮登記に権利移転の付記登記をするだけで対抗要件となる(最判昭35.11.24)。
また,債権譲渡の予約につき確定日付のある証書により債務者に対する通知又はその承諾がされても,債務者は,これによって予約完結権の行使により当該債権の帰属が将来変更される可能性を了知するに止まり,当該債権の帰属に変更が生じた事実を認識するものではないから,上記予約の完結による債権譲渡の効力は,当該予約についてされた上記の通知又は承諾をもって,第三者に対抗することはできないと解すべきである(最判平13.11.27)。
(3) 目的物が第三者に譲渡された場合-予約完結権行使の相手方
不動産の再売買の予約で,予約上の権利につき仮登記された後,当該不動産の所有権が第三者に移転した場合でも,予約完結の意思表示は,当初の予約義務者に対してすべきである(大判昭13.4.22)。
(4) 予約完結権の消滅時効
予約完結権は,166条1項に準じて10年又は5年の消滅時効にかかる(大判大10.
3.5)。
2
手付
(手付)
第557 条 買主が売主に手付を交付したときは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を現実に提供して,契約の解除をすることができる。ただし,その相手方が契約の履行に着手した後は,この限りでない。
2 第545 条第4項の規定は,前項の場合には,適用しない。
1. 意義
手付とは,契約締結の際に当事者の一方から相手方に交付される金銭その他の有価物をいう。
手付契約は,売買契約に従たる要物契約である。
2. 手付の目的・種類
(1) 証約手付
証約手付とは,契約を締結したということを示し,その証拠という趣旨で交付される手付をいう。手付は,次に述べる解約手付や違約手付の効果をもつ場合であっても,常に証約手付の効果はもっていると考えられている。
(2) 解約手付
解約手付とは,両当事者が相手方の債務不履行がなくても契約を解除できるという解除権を留保する趣旨で交付される手付をいう。
解約手付の趣旨で手付が交付された場合には,交付した者(買主)が手付を放棄するか,交付を受けた者(売主)が手付金額の倍額を買主に返還すれば,債務不履行の事実がなくても契約を解除できる。
当事者間で授受された手付は,反対の証拠のない限り解約手付とされる(最
判昭29.1.21)。
(3) 違約手付
さらに2種類に区別される。
(a) 違約罰として機能する違約手付
買主が債務の履行をしないときに,違約罰として没収されるという趣旨で交付されるもので,それ以外に損害が生じたならば売主は債務不履行による損害賠償を請求できるものである。
(b) 損害賠償額の予定としての違約手付
当事者の一方が債務不履行の場合に,損害賠償額が手付の額に制限されるものをいう。すなわち,当事者の一方に債務不履行があれば,その者が手付を交付した者であればそれを没収され,手付を受け取った者であればその倍額を返すことになる。
3. 手付の認定
違約手付の約定がある場合に,この約定が解約手付の効力を定めた557条を排除してしまうのか,すなわち,違約手付であると同時に解約手付でもあると認定することはできないのか。
確かに,当事者は契約の拘束力を強めることを意図して違約手付を授受したのであるから,契約の拘束力を弱める結果となる解約手付としての性質を同時に認めることは矛盾するとも思われる。
しかし,判例は,契約書に,違約の場合の手付没収,倍返しの記載があるからといって,それだけで解約手付でないとはいえないとして,違約手付と解約手付の両立を認めている(最判昭24.10.4)。
4. 解約手付による解除の要件
解約手付が交付された場合には,その相手方が契約の履行に着手するまでは契約を解除することができる(557条1項ただし書)。
(1) 相手方が契約の履行に着手する前であること
(a) 履行の着手の意義
→ 「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」
(最大判昭40.11.24)。一般的には,履行の着手に当たるか否かは,「当該行為の態様,債務の内容,履行期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合勘案して決すべきである」(最判平5.3.16)。
(b) 具体例
① 売主については,契約の趣旨に従って,目的物の修理,調達,荷造りなどをした場合
不動産売買の買主の場合,支払代金を調達しただけでは足りない。
② 買主が,履行期到来後売主に対して頻繁に明渡しを求め,この際,明渡しがあればいつでも残代金の支払をすることができる準備がある場合
③ 借家人のいる家屋につき売主がしばしば借家人に対して明渡しを求めていた場合
④ 転売契約において売主が前主に代金を支払い,売主名義に移転登記を得ていた場合
※ 履行期が定められていても,それ以前に,本条1項の履行の着手をすることができないわけではない (最判昭41.1.21)。例えば,履行期を5月1日とする売買契約で解約手付が授受されている場合,買主が4月30日に代金を提供したときには 「契約の履行に着手」 したと認められる。
(2) 手付の放棄・倍戻しをすること
手付の倍額の償還による売買契約の解除をするためには,単に口頭により手付の倍額を償還する旨を告げその受領を催告するのみでは足りず,買主に現実の提供をすることを要する(557条1項本文)。
5. 解約手付による解除の効果
(1) 損害賠償請求権の有無
解除の結果,損害賠償請求権は発生しない(557条2項)。
ただし,債務不履行を理由として解除する場合には,解約手付とは無関係であり,545条その他法定解除の規定に従う。従って,その解約手付が違約手付を兼ねているのでない限り,買主は不当利得としてその返還を請求できる。
(2) 契約が合意解除された場合,特約その他の事由のない限り手付金は不当利得として返還されなければならない。
(3) 契約が履行されたときは,手付金は代金の一部にあてられる。
3
売買契約に関する費用
売買では当事者双方が平等に利益を受けるから,契約に関する費用を当事者双方が平等に負担する(558条)。
第3節 売買の効力
1
Ⅰ 売主の義務
財産権移転義務
1. 財産権移転義務等
売買契約が成立すると,売主は売買の目的である財産権を買主に完全に移転する義務を負う(555 条)。具体的には,①目的たる財産権の移転,②目的物の占有の移転,③対抗要件を具備させること,④証書の交付等をする必要がある。
2. 他人物売買の場合
(他人の権利の売買における売主の義務)
第 561 条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
他人の物を売買契約の目的としても売買契約自体は有効である。売主は,その物を他人から取得して買主に移転する義務がある。561条は,他人物売買が有効な契約であることを当然の事理として規定したものである。
(1) 権利者の追認
無権利者が,他人の権利を自己に属するものとして処分した場合に,後に,権利者がその処分を追認したときは,116条の類推適用により,処分のときにさ
かのぼって効力を生ずる(最判昭37.8.10)。
(2) 他人の権利の売主と権利者の地位の同一化
相続などによって他人の権利の売主と権利者の地位とが同一人に帰した場合,地位の同一化によって当該権利が当然に相手方に移転するかが問題となる。
(a) 他人の権利の売主が権利者を相続した場合
売主は権利の移転を拒めず,当然に権利は買主に移転すると解されている。
(b) 権利者が他人の権利の売主を相続した場合
他人の権利の売主をその権利者が相続し債務者としての履行義務を承継した場合でも,権利者は,xxxに反すると認められるような特別の事情のない限り,当該履行義務を拒否することができる (最大判昭49.9.
4)。
2
果実引渡義務
1. 原則
売買の目的物引渡前は,売主に果実収取権があり(575条1項) ,目的物引渡後は,買主に果実収取権がある。
売買による権利の移転後も売主が目的物を占有している間に果実が生じた場合,本来は,売主は当然にそれを買主に引き渡すべきである。他方,買主は売主に自 己の所有物の管理費用を償還し,かつ履行期以後の代金の利息を支払うべき関係 に立つ。そこで本条は,果実を収取する利益と管理費用の差額を,利息と等しい とみて,両当事者の複雑な関係を簡潔に解決しxxを図ろうとした。
〔引渡前の果実に関する計算式〕
<果実>-<管理費用>=<代金の利息>
売 主 買 主
2. 売主が売買の目的物の引渡しを遅滞している場合
売主は,売買の目的物の引渡しを遅滞しているときでも,代金の支払を受けない限り,引渡しの時まで果実を収取できる (大連判大13.9.24)。
しかし,買主が代金を支払ったときには,目的物引渡前でも売主は果実を取得する権利を失う(大判昭7.3.3)。
Ⅱ 売主の担保責任
Framework
AB間で100㎡の土地売買契約が締結され引き渡されたが,その土地が実際には 90㎡しかなかったとか,ある機械の売買契約が締結され引き渡されたが,その機械が通常有している能力を有していなかったという場合に,売主は,買主に対して過失があるか否かにかかわらず,つまり,無過失で責任を負担しますが,これを「担保責任」といいます。この担保責任は,売買契約における売主と買主の債務が相互に対価的関係に立っていることを理由として,xxの観点から規定されているものです。
売主が「担保責任」を負担する結果,先の例のような事態において買主は,「追完請求」,「契約解除」,「代金減額請求」,「損害賠償請求」という方法からいくつかを用いて売主の責任を追及することができます。
この「担保責任」の発生する場合として,民法は,「物の契約不適合」,「権利の契約不適合」を予定しています。
1
契約不適合による担保責任の類型
(買主の追完請求権)
第562 条 引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
(買主の代金減額請求権)
第563 条 前条第1項本文に規定する場合において,買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず,次に掲げる場合には,買主は,同項の催告をすることなく,直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前3号に掲げる場合のほか,買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,前
2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第564 条 前2条の規定は,第415 条の規定による損害賠償の請求並びに第541 条及び
第542 条の規定による解除権の行使を妨げない。
(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
第565 条 前3条の規定は,売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第566 条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において,買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは,買主は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし,売主が引渡しの時にその不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,この限りでない。
(抵当xxがある場合の買主による費用の償還請求)
第570 条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権,質権又は抵当権が存していた場合において,買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは,買主は,売主に対し,その費用の償還を請求することができる。
1. 他人の権利の売主の責任
(1) 目的たる財産権の「全部」が他人に属する場合
売主が買主に権利の全部を移転できない場合,売主は権利移転義務(561条)の不履行という債務不履行状態にあるため,債務不履行の一般規定(415条以下, 541条,542条)により処理される(担保責任から除外されている,565条括弧書参照)。
(2) 目的たる財産権の「一部」が他人に属する場合
(a) 権利の契約不適合の一態様
権利の一部が他人に属する場合にこれを移転しないことは,権利の契約不適合の一態様となっている(565条括弧書)。
(b) 責任の内容
(ア) 追完請求権(565条・562条)
(イ) 代金減額請求権(565条・563条) (ウ) 損害賠償請求権(565条・564条) (エ) 解除権(565条・564条)
※ これらの権利が認められるための要件,権利の発生障害,権利の内容等は,いずれも,売買目的物の契約不適合を理由とする場合と同様である。
(c) 行使期間
権利に関する契約不適合については,権利移転義務の不履行に関しては短期間でその不履行の判断が困難になるとは考え難く,消滅時効の一般原則と異なる短期の期間制限を必要とする趣旨が妥当しない。そのため,「不適合の認識→通知義務→通知懈怠による失権」という566条本文の枠組みは採用されていない。
その結果,専ら債権の消滅時効に関する一般準則(166条1項)によって処理されるため,契約不適合を知った時から5年,不適合な給付がされた時から
10年となる。
2. 売買目的物の種類・品質・数量に関する契約不適合
(1) 債務不履行責任への統合
特定物ドグマの考え方を否定し,担保責任が契約責任であるとする考えを前提としている。契約の内容に適合した権利の移転・目的物の引渡しをなすべき義務を承認することを前提として,その義務の不履行に対する買主の救済手段に関する統一的な規定を定めている。
(2) 目的物の契約不適合の意義
(a) 契約内容の確定
売買契約の当事者が当該売買契約において目的物の種類・品質・数量に対してどのような意味を与えたのかを契約の解釈を通じて探究し,それによって導かれた契約の内容に即してみたときに「あるべき」種類・品質・数量が欠如している場合が契約不適合となるとされている。
(b) 「引き渡された目的物」
売買の目的物に限定は付されていない。特定物か不特定物か,代替物か不代替物かを問わない。
ただし,引き渡されたことが必要であり,履行遅滞や履行不能は対象外である。
(c) 「種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」
(ア) 種類・品質に関する契約不適合
ⅰ 物質面での欠点のみならず,いわゆる環境瑕疵(日照・景観阻害など)や心理的瑕疵も含まれる。
ⅱ 目的物について法律上の制限のあることが物の不適合(品質の不適合)か権利の不適合かは,解釈に委ねられている。いずれに当たるかは,担保責任の期間制限(566条),競売における特則(568条)の適用において重要な問題となる。
(ⅰ)物の不適合とする見解
(理由)
判例法理の統一的理解
(ⅱ)権利の不適合とする見解(xx)
(理由)
担保責任の期間制限(566 条),競売における特則(568 条)の適用において,種類・品質の不適合を特別に扱うことにした理由は,法律上の制限がある場合には,必ずしも当てはまらない
ⅲ 「隠れた」不適合に限らない。
(イ) 数量に関する契約不適合
売買の目的物に数量不足があったすべての場合に数量に関する契約不適合があったとされるわけではない。
売買契約の当事者が当該契約のもとで「数量」に特別の意味を与え,それを基礎として売買がされたという場合にはじめて,数量に関する契約不適合があったと評価されると解されている。
(3) 責任の内容(買主の救済手段)
(a) 追完請求権
(ア) 意義と追完方法
ⅰ 562 条1項により,買主の追完請求権が明文化されている。これは,担保責任が契約責任であるとする考え方を前提とするものである。これにより,特定物か不特定物かを問わず,履行の追完請求権が認められる。
ⅱ 買主は,売主に対して,①目的物の修補,②代替物の引渡し,③不足分の引渡しによる履行の追完を請求でき(同条項本文),追完方法の選択権は,買主に与えられている。ただし,売主は,「買主に不相当な負担を課するものでないとき」には,それと異なる方法により履行の追完をすることができる(同条項ただし書)。
(イ) 追完請求が認められない場合
履行の追完が不能の場合(412 条の2第1項)又は契約内容の不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合(562 条2項)は,買主の追完請求は認められない。
(ウ) 売主の帰責事由の要否
目的物の契約不適合が「売主の責めに帰すべき事由」によるものであることは,追完請求権の要件ではない。
(b) 代金減額請求権
(ア) 意義
563 条により,買主の代金減額請求権が明文化されている。代金減額請求権によって対価的均衡を維持する必要性は,数量不足の場合などに限らず,より一般的に認められるものであることから,代金減額請求権は契約不適合の場合一般における救済手段として認められる。
損害賠償請求権とは別個の規定であり,損害賠償請求が認められない場合(415 条1項ただし書等)でもなし得る。
(イ) 要件
解除の場合とパラレルに構成されている。
ⅰ 562 条1項の追完請求権が認められる場合に,買主が相当の期間を定めて催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主に代金減額請求権が認められる(563 条1項)。
ⅱ ①履行の追完の不能,②売主による履行の追完を拒絶する意思の明確な表示,③定期行為における時期の経過,④催告しても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき,のいずれかに当たる場合は,催告なしに代金減額請求が認められる(563 条2項)。
(ウ) 代金減額請求が認められない場合
目的物の契約不適合が「買主の責めに帰すべき事由」によるものである場合は,買主は売主に対して代金減額請求をすることができない(563 条
3項)。
また,代金減額的な趣旨の損害賠償請求と両立はしないため,代金減額 的な趣旨の損害賠償請求と代金減額請求の両方をすることは認められない。しかし,信頼利益的な売買コストに関する損害賠償請求と代金減額請求と の両立は認められ得る。代金減額請求は,売買契約の一部解除と同じ性質 を持つため,解除をしたうえで代金減額請求権を行使することも認められ ない。
(エ) 売主の帰責事由の要否
目的物の契約不適合が「売主の責めに帰すべき事由」によるものであることは,代金減額請求権の要件ではない。
(オ) 数量が超過する場合
契約不適合の効果としての代金減額請求権を定めた 563 条を類推適用して代金の増額を求めることはできないと解されている(最判平 13.11.27)
(xx)。
(c) 損害賠償請求権
(ア) 性質
買主は,415 条以下の規定に従い,売主に対し債務不履行を理由とする損害賠償請求をすることができる(564 条)。
(イ) 売主の帰責事由の要否
415 条によって規律される結果,売主は,抗弁として,契約不適合が「売主の責めに帰することができない事由」によるものであったと主張立証することで,損害賠償の責任を免れ得る。
(ウ) 損害賠償の範囲
債務不履行を理由とする損害賠償であり,その内容は,履行利益,すなわち,契約に適合した履行がされたならば買主が受けたであろう利益の賠償となる。その範囲は,416 条のもとで決せられる。
(d) 契約の解除
(ア) 性質
買主は,541 条以下の要件を満たしたときに,売主に対して,債務不履行を理由として売買契約を解除することができる(564 条)。
(イ) 要件
契約目的の達成が不能であるかを問わず,解除の一般規定(541 条以下)に従った取扱いがなされる。解除に売主の帰責事由は不要である。
(4) 行使期間
(a) 「売主が種類又は品質に関して」不適合目的物を引き渡した場合
(ア)買主が契約不適合を知った時から1年以内に,契約不適合の通知をすれば,買主の追完請求xxは保全され,以後契約不適合を知った時から
5年の主観的消滅時効にかかるまで,権利行使をなし得ることとなる。
(イ) また,566 条ただし書は,売主が引渡し時に契約不適合について悪意又は重過失であるときは,買主に前述のような1年以内の通知義務及び怠った場合の失権がないことを規定している。
この趣旨は,売主が,その不適合について悪意又は重過失の場合にまで,引渡しによる履行が終了したとの売主の期待を保護する必要がない点にある。
(b) 数量に関する契約不適合の場合
566 条本文は,「売主が種類又は品質に関して」不適合目的物を引き渡した場合に限定しており,数量に関する契約不適合の場合を含まない。
数量に関する契約不適合の場合は,売主が履行を終了したという期待を抱くことは想定し難く,売主を保護する必要がないと考えられたためである。したがって,この場合には,消滅時効の一般原則に従った扱いのみが妥当
する。
(5) 物の契約不適合の担保責任と錯誤
売主の担保責任を契約不適合責任としつつ,種類・品質に関する物の不適合については期間制限が付いている(566 条)。他方,錯誤については,効果が取消しである(95 条)。これに伴って,錯誤の主張権者の制限(120 条2項),追認の可能性(124 条,125 条),期間制限(126 条)の規律が及ぶので,担保責任の効果との差は小さい。
3. 権利に関する契約不適合
(1) 権利の契約不適合の意義
売買契約の内容に適合した権利を移転すべき義務を売主に課している。
移転した権利の契約不適合とは,①売買の目的である不動産に,契約の内容に適合しない他人の地上権や抵当権の負担があったとき,②一部が他人に属していて売主がそれを移転しなかったとき(565条参照),③売買契約の内容が地役権付きの土地所有権である場合にその地役権がなかったときなどである。
権利に関する契約不適合が契約締結時に既に存在していたか,契約締結後に生じたかは問わない。
(2) 責任の内容(買主の救済方法)
(ア) 追完請求権(565条・562条)
(イ) 代金減額請求権(565条・563条)
(ウ) 損害賠償請求権(565条・564条)
(エ) 解除権(565条・564条)
※ これらの権利が認められるための要件,権利の発生障害,権利の内容等は,いずれも,売買目的物の契約不適合を理由とする場合と同様である。
(3) 行使期間
権利に関する契約不適合については,権利移転義務の不履行に関しては短期 間でその不履行の判断が困難になるとは考え難く,消滅時効の一般原則と異な る短期の期間制限を必要とする趣旨が妥当しない。そのため,「不適合の認識→ 通知義務→通知懈怠による失権」という566条本文の枠組みは採用されていない。
その結果,専ら債権の消滅時効に関する一般準則(166条1項)によって処理されるため,契約不適合を知った時から5年,不適合な給付がされた時から10年となる。
4. 契約不適合の抵当xxがある場合の買主による費用の償還請求(570条)
(1) 意義
売買の目的である不動産に契約の内容に適合しない先取特権,質権又は抵当権が存していた場合において,買主が費用を支出して抵当xxを消滅させた場合に,買主から売主へその費用の償還を認めたものである。
(2) 要件
以下の2つの要件を満たす必要がある。
① 売買の目的である不動産に契約内容に適合しない先取特権,質権又は抵当権が設定されていること
契約内容に適合しないことが要件であるから,たとえば抵当権が設定されていることを前提として廉価で売買された場合には適用されない。
② 買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したこと
たとえば,買主が抵当権の被担保債権を第三者弁済や抵当権消滅請求を
するなどして当該抵当権を消滅させた場合である。
(3) 効果
買主は売主に対して支出した費用の償還を請求することができる。
2
債権の売主の,債務者の資力についての担保責任(569 条)
債権の売主も,売買の目的である債権の契約不適合について担保責任を負う。しかし,債務者の資力は債権そのものの内容ではないため,売主は特約をした場合にのみ責任を負う。法は,売主が時期を定めずに債務者の資力を担保したときは,契約時における資力を担保したものと推定し(569条1項),弁済期に至らない債権について債務者の将来の資力を担保したときは,弁済期における債務者の資力を担保したものと推定する(569条2項)。
3
競売における担保責任
(競売における担保責任等)
第568 条 民事xxxその他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は,第 541 条及び第 542 条の規定並びに第 563 条(第 565 条において準用する場合を含む。)の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
3 前2項の場合において,債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは,買受人は,これらの者に対し,損害賠償の請求をすることができる。
4 前3項の規定は,競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については,適用し
ない。
競売によって買い受けた物に種類・品質に関する不適合があった場合は,買受人は,債務者に対し,不適合を理由とする契約の解除や代金減額請求をすることができない(568条4項)。他方,競売によって買い受けた物に,物の不存在もしくは数量に関する不適合または権利の不存在もしくは権利に関する不適合があった場合は,買受人は,債務者に対し,債務不履行を理由として契約を解除し,または代金減額請求をすることができる(568条1項)。
種類・品質の不適合を特別に扱い,担保責任が否定される理由は,競売においては,①債務者(所有者)の自由意思によってなされるものではないこと,②債権者は目的物の品質について知る機会が少なく帰責性が乏しいこと,③競売手続においては目的物にある程度の損傷等があることを織り込んで買受けが行われているのが実情であり,買受人は自己の危険で買い取るべきであること,④競売の結果の安定性を図る必要があること,が挙げられている。
競売の内容が借地権付きの建物である場合にその借地権がなかったとすると,
565条の権利の不適合として,568条1項から3項が適用される。
4
担保責任に関する特約
(担保責任を負わない旨の特約)
第572 条 売主は,第562 条第1項本文又は第565 条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。
担保責任に関する規定は強行規定ではないから,当事者の特約によって法定の責任を排除・減軽・加重することができる。しかし,売主が責任を負担しない旨の特約はxxに反する場合があるので,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,責任を免れることはできない(572条)。
5
目的物の滅失・損傷に関する危険の移転
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第567 条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において,その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,買主は,その滅失又は損傷を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において,買主は,代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって,その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず,買主がその履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができ
ない事由によってその目的物が滅失し,又は損傷したときも,前項と同様とする。
危険移転時を「引渡し時」とする特約が締結されている実情をもとに,567 条
1項は,引渡しを基準として目的物の滅失・損傷の危険を買主に移転させることを明文化したものである。
567 条2項は,受領遅滞の場合の危険の移転を明文化した。
1. 引渡し後の滅失・損傷
(1) 特定物の売買の場合及び種類物売買で目的物の特定がされている場合
目的物の滅失・損傷に関する危険は,目的物の引渡しによって,売主から買主に移転する(危険移転時=引渡し時)。
その結果,その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,買主は,その滅失又は損傷を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において,買主は,代金の支払を拒むことができない(567条1項)。
ただし,引渡し後の滅失・損傷が売主の責めに帰すべき事由による場合は,買主は,目的物の滅失・損傷を理由として,上記の権利を行使できる(同条項)。
(2) 種類物売買で目的物の特定がされていない場合
売主が契約の内容に適合しない目的物を選定して引き渡しても「特定」の効
果が生じない。
この場合は,567条の適用外であり(同条1項括弧書参照),買主は,引渡し時における契約不適合を理由とする権利主張をすることができる。
2. 受領遅滞による危険の移転
売主が契約の内容に適合する目的物をもって,その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず,買主がその履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し,又は損傷したときも,「1 引渡し後の滅失・損傷」と同様とする(567条2項)。
Ⅲ 買主の義務
(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第576 条 売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により,買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず,又は失うおそれがあるときは,買主は,その危険の程度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし,売主が相当の担保を供したときは,この限りでない。
(抵当xxの登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第577 条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
2 前項の規定は,買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質
権の登記がある場合について準用する。
1
代金支払義務
1. 代金の支払期限(573条)
双務契約である売買においては,目的物の引渡しと代金の支払は同時履行の関係に立つから,売買の目的物の引渡しについてのみ期限があるときは,xxの観点から,買主の代金の支払についても同一の期限の定めを付したものと推定される(573条)。
2. 代金の支払場所(574条)
当事者の意思を推測し,売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならない(574条)。
3. 代金支払拒絶権(576条~578条)
(1) 目的につき他人が権利を主張する場合(576 条)
売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により,買主が買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず,又は失うおそれがあるときは,両当事者のxxの見地から買主に代金支払の拒絶権を認め,その損害を未然に防止できるようにしたものである。
576条は,代金支払の拒絶ができる場合として売買の目的について権利を主張する者がある場合以外に「その他の事由」を追加するとともに,買い受けた権利を取得することができない場合にも代金支払拒絶を認めている。
(2) 目的物に担保物権がある場合(577 条)
買い受けた不動産上に契約の内容に適合しない抵当xx(抵当権,質権,先取特権)が存在する場合には,買主は抵当権消滅請求をすることができるが(379条以下),そのために担保権者に支払った費用は売主の債務の弁済であるから,売主から償還してもらえるものである。そこで,当事者の便宜とxxの見地から,買主が抵当権消滅請求をする場合にはその手続が終了するまで代金支払拒絶権を認め,代金額から費用を差し引いた額を支払わせるとするものである。
(3) 売主の供託請求権(578 条)
576条及び577条によって買主に代金支払拒絶権が認められる場合には,売主は買主に対して代金の供託を請求することができる(578条)。従って,売主が代金の供託を請求したにもかかわらず,買主が代金を供託しないときは,買主は上記の代金支払拒絶権を行使することができない(大判昭14.4.15)。
2
利息支払義務(575 条2項)
買主は,目的物の引渡しの日から,代金の利息を支払う義務を負う(575条2項本文)。本条項の趣旨は,1項で売主に目的物の引渡しまでは目的物の果実を取得できるとしたこととの均衡上,買主にたとえ遅滞があっても目的物の引渡しを受ける以前には,代金の利息の支払義務を負わないとしたところにある(大連判大13.9.24)。
なお,代金の支払について期限があるときは,その期限が到来するまでは,利息を支払うことを要しない(575条2項ただし書)。
3
目的物受取義務
<判例> 最判昭46.12.16
売買契約において,売主が買主に対し,契約の存続期間を通じて採掘する鉱 石の全量を売り渡す約定があったなどの事情がある場合には,xxx上,買主 には売主が上記期間内に採掘した鉱石を引き取る義務があると解すべきである。
第4節 買戻し
(買戻しの特約)
第579条 不動産の売主は,売買契約と同時にした買戻しの特約により,買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては,その合意により定めた金額。第 583条第1項において同じ。)及び契約の費用を返還して,売買の解除をすることができる。この場合において,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
(買戻しの特約の対抗力)
第581条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対抗することができる。
2 前項の登記がされた後に第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は,その残存期間中1年を超えない期間に限り,売主に対抗することができる。ただし,売主を害する目的で賃貸借をしたときは,この限りでない。
1
意義
買戻しとは,不動産の売買契約において,その売買契約と同時に特約を付すこ とで,一定の要件のもとに売主に当該不動産を取り戻すことを認める制度をいう。売主が契約を解除して目的物を取り戻せる権利を買戻権といい,形式的には約
定解除権であるが,その実質は物権取得権である。
2
要件
1. 不動産売買であること
民法上の「買戻し」は不動産に限られる。動産の買戻しも契約自由の原則から有効であるが,民法にいう「買戻し」ではない。
2. 買戻しの特約が売買契約と同時になされること
買戻しの特約は,売買契約と同時にその登記をしなければ第三者に対して対抗力が認められない(581条1項)。後に買戻しの特約をしても無効で,誤ってその登記がなされても抹消しなければならない。
3. 買戻代金について定めること
支払代金及び契約費用が買戻代金となるのが原則であるが,当事者が別段の合意をした場合には,その合意により定めた金額及び契約費用が買戻代金となる
(579条前段括弧書)。
なお,当事者が別段の意思を表示しないときは不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなされる(579条後段)。
4. 買戻しの期間
買戻しの期間は10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは,10年とする(580条1項)。また,買戻しについて期間を定めたときは,その後にこれを伸長できない(580条2項)。
なお,期間の定めがないときは5年以内に買戻権を行使しなければならない
(580条3項)。
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買戻権とその譲渡・行使
1. 買戻権の性質
買戻権は,形式的には約定解除権であるが,実質は金を借りた債務者がこれを返済して担保物を取り戻すことができる地位である。
2. 買戻権の譲渡
買戻権は譲渡できる。対抗要件は登記であり,債権譲渡の対抗要件である通知・承諾(467条)を要しない(大判昭8.9.12)。ただし,買戻権が登記されていないときは,通知・承諾による(最判昭35.4.26)。
3. 買戻権の行使
(1) 行使の方法
相手方に対する意思表示によってなされる(540条1項)。不動産の買主が死亡した場合,共同相続人の全員に対して買戻しの意思表示をしなければならない(544条1項)。
(2) 行使の相手方
行使の相手方は買主であり,目的物が第三者に譲渡されたときは転得者である(最判昭36.5.30)。
(3) 代金及び契約の費用の提供と必要費・有益費の償還
(a) 売買代金と契約費用の提供
売買代金又は合意により定めた金額と契約の費用を提供しなければ,買戻しをすることはできない(583条1項)。
(b) 買主又は転得者の費用償還請求権
買主又は転得者が不動産につき費用を支出したときは,売主は196条の規定
に従い,これを償還しなければならない。ただし,有益費については裁判所は売主の請求により相当の期限を許与することができる(583条2項)。
(4) 買戻しの効果
買戻権の行使によって目的不動産の所有権は売主に復帰する。
買戻権を実行しても,対抗要件を備えた賃借人の権利はその残存期間中1年を超えない期間に限り,売主に対抗することができる。ただし,売主を害する目的で賃貸借をしたときは別である(581条2項)。
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共有持分の買戻特約
1. 共有者の1人が買戻特約付きでその持分を売却した後に,当該不動産に分割又は競売があったときは,売主は買主が受け,若しくは受けるべき部分又は代金について買戻しをすることができる(584条本文)。ただし,売主に通知をしないでした分割及び競売は,売主に対抗することができない(584条ただし書)。
2. 共有者の1人が買戻特約付きでその持分を売却した後に,当該不動産の競売があり,買主が買受人となったときは,売主は競売の代金及び583条に掲げた費用を支払って不動産の全部の買戻しをすることもできるし(585条1項),売却した持分のみの買戻しをすることもできる。
しかし,買主以外の共有者の分割請求によって買主が競売の買受人となった ときは,売主はその持分のみについて買戻しをすることはできない(585条2項)。
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買戻権の消滅
買戻権は,買戻期間の経過・目的物の滅失によって消滅する。また,当事者の合意によって消滅させることができる。
【買戻しと再売買の予約との比較】
買戻し | 再売買の予約 | |
目的物 | 不動産(579条) | 無制限 |
成立時期 | 売買契約と同時(579条) | 無制限 |
対抗要件 | 付記登記 | 仮登記 |
存続期間 | 10年以下。ただし,期間の定めなきときは5年(580条) | 無制限(ただし,10年又は5年の消滅時効にかかる) |
行使方法 | 代金又は合意により定めた金額・契約費用を提供(583条) | 無制限 |
譲渡性 | あり | あり |
譲渡の対抗 要件 | 付記登記あるとき移転登記 登記ないとき通知又は承諾 | 仮登記あるとき付記登記 登記ないとき通知又はxx |
xxがあった場合の意思表示の相手方 | 譲受人 | 譲渡人 |
辰 已 法 律 研 究 所
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