ESCO事業に係る契約
Ⅴ-4.建築物の改修に係る契約に関する基本的事項について
1.はじめに
1-1 建築物の改修に係る契約に関する基本的事項
環境配慮契約法に基づく基本方針に定められた、建築物に係る契約の体系及び建築物の改修に係る契約の位置づけ、並びに建築物の改修に係る契約に関する基本的事項は、以下のとおりである。
建築物に係る契約
その他の省エネ改修事業に係る契約
ESCO事業に係る契約
建築物の改修に係る契約
建築物の維持管理に係る契約
建築物の設計に係る契約
… Ⅴ-1
… Ⅴ-2
… Ⅴ-3
… Ⅴ-4
… Ⅴ-4-1
… Ⅴ-4-2
図Ⅴ-4.1-1 基本方針における建築物の改修に係る契約の位置づけ
③建築物の改修に係る契約
建築物の改修に係る契約に関する基本的事項は以下のとおりとする。
・建築物の改修は、ESCO 事業又は ESCO 事業以外の省エネルギー・脱炭素化に資する改修事業(以下「その他の省エネ改修事業」という。)とする。
・改修計画の検討に当たっては、当該施設の特性、エネルギー消費量等のデータ計測・分析及びデータの分析結果等を踏まえ、ESCO 事業の導入可能性判断を行う等、総合的な観点から適切な建築物の改修事業(ESCO 事業又はその他の省エネ改修事業)を選択するものとする。
1-2 建築物の改修に係る契約の基本的考え方
-130-
環境配慮契約法における建築物の改修に係る契約として省エネルギー改修事業(ESCO 事業)を位置づけていたところであるが、前述のとおり、国の機関の建築物についてみると、築後 20 年を経過する官庁施設は全体の 73%、さらに築後 30 年を経過する官庁施設は全体の 49%となっており、既存建築物の占める割合が高く、中長期的な視点からも、改修のタイミ
ングにおいて徹底した省エネルギー対策、再生可能エネルギーの導入等の創エネルギー対策を実施することによる脱炭素化を視野に入れたストック対策が極めて重要である。
このため、建築物の改修に係る契約を環境配慮契約として位置づけるとともに、これまでの ESCO 事業に加え、新たに ESCO 事業以外の省エネルギー・脱炭素に係る改修事業についても対象とすることとし、その他の省エネ改修事業に当たっても、国等の機関において率先して省エネルギー・脱炭素化を推進することとする。
環境配慮契約法に基づく基本方針に定められた建築物に係る契約の基本的事項においては、既存建築物の改修に当たって、以下の基本的考え方を掲げており、建築物の特性、省エネル ギー効果等を勘案し、中長期的な ZEB 化を見据えた改修計画について検討を実施するよう求 めている。
❑ 既存建築物の改修に当たっては、改修による省エネルギー効果等を踏まえ、必要に応じ、ZEB 化を見据えた中長期的な改修計画を検討すること。
🡺 大規模改修時にあっては ZEB 等の省エネ基準を満たす可能性を検討すること
🡺 改修による省エネ効果を踏まえつつ、段階的な ZEB 化の実現を図るために中長期的な改修計画について検討すること
また、建築物の改修に係る契約に係る契約の基本的考え方は、以下のとおりである。
❑ 建築物の改修は、ESCO 事業又は ESCO 事業以外の省エネルギー・脱炭素化に資する改修事業とすること。
❑ 改修計画の検討に当たっては、当該施設の特性、エネルギー消費量等のデータ計測・分析及びデータの分析結果等を踏まえ、ESCO 事業の導入可能性判断を行う等、総合的な観点から適切な建築物の改修事業(ESCO 事業又はその他の省エネ改修事業)を選択すること。
-131-
🡺 総合的な観点から建築物の特性等に応じた効果的な改修事業(ESCO 事業又はその他の省エネ改修事業)を選択すること
2.建築物の改修事業の導入フロー
建築物の改修に係る契約に関する基本的事項においては、「改修計画の検討に当たっては、当該施設の特性、エネルギー消費量等のデータ計測・分析及びデータの分析結果等を踏まえ、 ESCO 事業の導入可能性判断を行う等、総合的な観点から適切な建築物の改修事業(ESCO事業又はその他の省エネ改修事業)を選択するものとする」とされている。
建築物の改修計画の立案に当たっては、エネルギー消費量等のデータ計測・分析等を行い、施設の特性等を踏まえた計画とすることが重要である。改修の計画段階の概略フローは図Ⅴ
-4.2-1 のとおりであるが、最初に対象施設におけるエネルギー消費量、光熱水費額等の実態把握及び分析に基づき ESCO 事業の導入可能性の判断(事業成立の可能性等)を行い、ESCO事業の導入可能性が高いと判断された施設については、フィージビリティ・スタディを実施するなどにより、最終的な事業実施の適否を判断することとなる。
一方、ESCO 事業の導入による効果が低い、事業の成立が困難である等の判断がなされた場合や事業実施の適否の判断により「否」とされた場合は、その他の省エネ改修事業を選択することとなる。
なお、ESCO 事業の導入に向けた検討の詳細については、「Ⅴ-4-1.省エネルギー改修事業に係る契約に関する基本的事項について」に、その他の省エネ改修事業が適切な場合の内容については、「Ⅴ-4-2.その他の省エネ改修事業に係る契約に関する基本的事項について」にそれぞれ記載しているので、参照されたい。
ESCO事業の導入フロー
-132-
🔾 対象となる施設の診断結果
(簡易な診断等)
🔾 省エネルギー診断
可能性なし
否
その他の省エネ改修事業
予算化の手続
適
ESCO事業予算化の手続
ESCO事業実施の適否
(フィージビリティ・スタディの実施等)
ESCO事業導入可能性の判断
対象施設の実態把握及び分析
エネルギー消費量・光熱水費額省エネルギー技術
図Ⅴ-4.2-1 建築物の改修事業の導入フロー(計画段階)
Ⅴ-4-1.省エネルギー改修事業に係る契約に関する基本的事項について
1.はじめに
1-1 省エネルギー改修事業に係る契約に関する基本的事項
環境配慮契約法に基づく基本方針に定められた、建築物に係る契約の体系及び建築物の改修に係る契約の位置づけ、並びに建築物の改修に係る契約のうち、ESCO 事業に係る契約に関する基本的事項は、以下のとおりである。
建築物に係る契約
その他の省エネ改修事業に係る契約
ESCO事業に係る契約
建築物の改修に係る契約
建築物の維持管理に係る契約
建築物の設計に係る契約
… Ⅴ-1
… Ⅴ-2
… Ⅴ-3
… Ⅴ-4
… Ⅴ-4-1
… Ⅴ-4-2
-133-
図Ⅴ-4.1.1-1 基本方針における ESCO 事業に係る契約の位置づけ
③建築物の改修に係る契約ア.ESCO 事業に係る契約
ESCO 事業に係る契約に関する基本的事項は以下のとおりとする。
・ESCO 事業の立案に当たっては、事前に既存施設の状況を的確に把握し、フィージビリティ・スタディなど ESCO 事業を適切かつ円滑に遂行する手段を活用しながら、計画の立案を行うものとする。
・ESCO 事業の立案に当たっては、長期の供用計画を適切に作成して、契約期間内に契約条件に変更がないよう、十分検討を行うものとする。
・ESCO 事業者の決定に当たっては、価格のみならず、施設の設備システム等にもっとも
適し、かつ、創意工夫が最大限に取り込まれた技術提案その他の要素について総合的に評価を行うものとする。
・ESCO 事業の契約に当たっては、事業期間中に想定されうるリスクの分担について、事
前に実施事業者との間で十分協議を行うものとする。
・ESCO 事業の実施に当たっては、維持管理及び計測・検証のための要領を適切に定め契約を行うものとする。
・ESCO 事業の終了前に、ESCO 事業として採択された技術の範囲に関わる部分について、
事業終了後に適切な維持管理を行うための要領の作成を実施事業者に求めるものとする。
1-2 本解説資料の使い方
本解説資料は、環境配慮契約法に基づく基本方針に定められた、建築物の改修に係る契約のうち、省エネルギー改修事業(ESCO 事業)に係る契約に関する基本的事項を踏まえ、発注者が具体的にESCO 事業に係る契約を締結する際に適用し、ESCO 事業の導入計画の立案、 ESCO 事業の受注者の選定、リスク分担、計測・検証等の基本的な考え方を示すことにより、円滑に ESCO 事業を実施し、国等の機関の施設における環境負荷の低減及び光熱水費の削減を図るための参考として使用されることを想定したものである。
本解説資料は、ESCO 事業に係る契約に当たっての考え方や具体的な内容、実際の事務手続等について説明したものである。また、国土交通省の「官庁施設における ESCO 事業導入・実施マニュアル78」及び(一財)省エネルギーセンターの「ESCO 導入のてびき(自治体向け)
79」をもとに作成したものであるが、これらの資料の内容は、適宜見直しが行われていること
から、必要に応じ最新の資料を確認されたい。
なお、本解説資料に示す内容は参考例であり、企画立案、発注等は諸条件を踏まえて適切に対応することが必要である。
78 「官庁施設におけるESCO 事業導入・実施マニュアル」(平成 18 年 3 月策定、平成 20 年 3 月改定、平成 23 年 5 月改定、平成 26 年 3 月改定):平成 26 年 3 月に改定されており、特に設備更新型 ESCO 事業と従来型ESCO 事業が対比して記載されている。国土交通省大臣官房官庁営繕部の環境対策ホームページ xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx_xx0_000000.xxxx
-134-
79(一財)省エネルギーセンターによるESCO 導入のための情報提供及び調査事業は平成20 年度で終了している。なお、(一社)ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会においてESCO 事業に関する情報提供等を実施している。xxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/
2.ESCO事業の導入計画
2-1 ESCO事業の導入フロー(計画段階)
建築物の改修に係る契約においては、「総合的な観点から適切な建築物の改修事業(ESCO事業又はその他の省エネ改修事業)を選択」することとされており、対象となる施設の改修計画の検討に当たり、エネルギー消費量や光熱水費、導入可能な省エネルギー技術等の把握及び分析を行い、分析結果を踏まえ ESCO 事業の導入可能性を判断することとなる。
ESCO 事業の計画段階における対象施設の実態把握及び分析、導入可能性の判断を含めた概略のフローは、図Ⅴ-4.1.2-1 のとおりであり、以下にその内容を示すこととする。
なお、ESCO 事業の範囲又は事業者選定方式(総合評価落札方式又はプロポーザル方式)によって、予算化の手続等が異なるため、計画段階において事業の全体を詳細に検討することが重要である。
予算化の手続
ESCO 事業実施の適否
(フィージビリティ・スタディの実施等)
ESCO 事業導入可能性の判断
対象施設の実態把握及び分析
(省エネルギー診断、簡易な診断等)
図Ⅴ-4.1.2-1 ESCO 事業の導入フロー(計画段階)
2-2 既存施設の実態把握
ESCO 事業導入の検討に当たっては、まず既存施設の実態把握が必要である。そのため、以下に示す項目等を調査、整理を行うことが望ましい。
[調査項目]
❑ 建物概要
❑ 設備概要
❑ 施設の運用状況
❑ 過去 3 箇年のエネルギー種別ごとの消費量及び水の消費量
❑ 設備の運転状況
-135-
❑ 改修履歴、改修計画予定
[簡易な診断方法]
❑ 設計図書又は完成図を基に、設備機器の設置状況や過去の改修履歴等、対象施設の現状を把握する。
❑ 過去のエネルギー消費実態に関する資料(過去 3 箇年のエネルギー種別ごとの消費量等)を整理し、エネルギー消費傾向を把握する。
❑ 省エネルギー効果の高い技術をリストアップする。
❑ リストアップした省エネルギー技術に関し、設備機器の現状や運用実態などの把握を目的とした現地調査を必要に応じ行う。
❑ 省エネルギー技術ごとにおおよその費用対効果を算出する。
なお、グリーン診断を実施した官庁施設においては、上記の項目を調査していることから、各施設のグリーン診断結果を分析することで、施設の実態のおおよその把握が可能である。
2-3 ESCO事業導入可能性の判断
エネルギー多消費傾向が見られる施設から、xx、ESCO 事業の導入可能性の判断を行うことが望ましい。特に、設備機器の更新や改修計画の検討に当たっては、併せて ESCO 事業の導入可能性について検討を実施するものとする。
また、導入可能性の判断において、ESCO 事業の導入による効果が低い又は困難であると判断された施設については、その他の省エネ改修事業を選択するものとする。
(1)導入可能性の検討
ESCO 事業は、光熱水費削減額等により事業費を賄うことから、事業が成立するためには、当該施設において一定以上のエネルギー削減余地が見込まれることが必要となる。そこで、国の機関にあっては、次の条件をともに満たす施設を対象に、他の改修計画等との整合性を考慮しつつ、積極的に ESCO 事業の導入に向けた検討を行うこととする。
❑ 一次エネルギー消費量(換算値)80
・2,000MJ/m2・年以上(従来型 ESCO 事業の場合)
・1,500MJ/m2・年以上(設備更新型 ESCO 事業の場合)
❑ 年間光熱水費額
・5,000 万円以上/施設
なお、上記の条件は、判断に当たっての目安であり、それぞれの値にかかわらず、主要設備機器の更新時期やエネルギー使用実態等の施設の特性を踏まえ、事業化の可能性を検討するものとする。
独立行政法人や国立大学法人等、地方公共団体等においても、当該施設のエネルギー使用実態や削減余地について適切に判断し、導入可能性の検討を行うことが重要である。
-136-
80 電気使用量や燃料使用量から一次エネルギー消費量への換算方法は、エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行規則(昭和 54 年通商産業省令第 74 号)に定められた最新の換算係数を使用すること。
また、当該施設において、設備機器の老朽化に伴い通常の設備改修等を実施する必要がある場合には、設備更新事業と ESCO 事業を一体的に進める設備更新型 ESCO 事業の実施可能性について検討を行うものとする。
さらに、周辺の複数の施設における設備等の更新時期等の整合性を踏まえ、必要に応じ、一括して ESCO 事業の発注を行う方式(バルク方式)の採用可能性について検討を行うものとする。
(2)省エネルギー技術の精査
当該施設への導入が見込めそうな省エネルギー技術について、次の①及び②に従い ESCO
事業への採用の可能性を検討する。
① 運用時に計測・検証が可能な技術であること
計測・検証が著しく困難なもの以外を全て抽出する。計測・検証方法については、「3-
3(3)計測・検証方法」による。この際、他の改修計画がある場合は、これが実施された時の省エネルギー効果への影響についても可能な限り考慮する。
② 費用対効果があること
①により抽出された省エネルギー技術ごとに、それぞれ光熱水費削減額、改修工事費、投資回収年数等を算出し、費用対効果のあるものを採用の可能性が高い技術とする。
(3)導入可能性の判断
「(2)①」により抽出された技術のうち、「(2)②」により採用の可能性が高いとした技術を中心に集約し、次の条件から ESCO 事業の導入可能性を適切に判断する。
①建物全体のエネルギー消費量が一定割合以上削減されること
②ESCO 事業としてのふさわしい事業規模が確保されること
③集約した技術全体の改修工事費を適宜想定した事業期間内の光熱水費削減額・設備の単純更新に係る費用で賄えること
④その他、施設ごとに必要とされる与条件を総合的に判断し、事業化が適切であること
なお、公共機関においては、行政改革の中で今後も効率化が推進され組織の再編等が活発に行われていく可能性がある。
ESCO 事業は長期にわたる事業であるため、ESCO 事業の実施に当たっては、組織変更や事業の見直し等によるリスクについても留意する必要がある。
このため、当該施設の長期的視点に立った運用のための計画に加え、周辺の他の国有施設全体の運用計画の中で、適切な当該施設の供用計画(長期供用計画)を立案する必要がある。
2-4 ESCO事業実施の適否
-137-
ESCO 事業導入可能性の判断の結果を受けて、事業実施の適否について判断するものとす
する。なお、事業実施の適否の判断において「否」と判断された施設については、その他の省エネ改修事業を選択するものとする。
国の機関にあっては、ESCO 事業導入のフィージビリティ・スタディを実施する。また、独立行政法人及び国立大学法人等においても、必要に応じ、フィージビリティ・スタディなど ESCO 事業を適切かつ円滑に遂行する手段を活用し、事業実施の適否の判断を実施するものとする。
(1)フィージビリティ•スタディ
① フィージビリティ・スタディの実施
国の機関にあっては、可能な限り幅広く ESCO 事業を導入するため、導入の可能性のある施設に対して、ESCO 事業の規模(事業実施にかかる総費用)、効果の計測検証方法、 ESCO 事業実施にかかる与条件等について適切に整理、検討し、民間の優れた事業提案を極力幅広く受け入れられるよう与条件整理を行うことを目的とした、フィージビリティ・スタディを実施する。なお、フィージビリティ・スタディの検討資料が ESCO 事業の予算要求資料となることに十分留意して作成する必要がある。
フィージビリティ・スタディの実施者は、次の要件を全て満たす者の中からその能力や実績等を勘案し、適切に選定する。
① 建築設計、建築設備設計及び積算業務に精通している者
② グリーン診断あるいは省エネルギー診断を行った実績を有する者
③ その他、必要な要件を満たす者
なお、ESCO 事業の対象施設において、更新時期を迎えた設備機器がある場合は、設備更新型 ESCO 事業を行うことができる。その場合、フィージビリティ・スタディにおいては、次の点に留意して検討を実施する。
・条件とした設備機器の更新の有無にかかわらず、ESCO 部のみで ESCO 事業として成立すること。
・条件とした設備機器の更新において、事業者の創意工夫の余地があり、かつ、創意工夫による相乗効果により、ESCO 事業の効果量(二酸化炭素排出削減量及び光熱水費削減額)を一定以上向上させる可能性があること。
・条件とした設備機器更新にかかる費用と、それ以外の当該ESCO事業の施工に係る費用とのバランスを十分考慮すること。
また、検討に当たっては、次について分類するとともに、それぞれの標準案及び省エネルギー効果を検討する。
❑ 設備更新部
・更新対象となる設備機器・システム(附帯的な工事を含む)。ただし、当該機器に係る維持管理及び省エネルギー効果の計測・検証については、ESCO部に含める。
-138-
❑ ESCO 部
・設備機器の更新を設備更新型 ESCO 事業として実施することで得られる民間の創意工夫による効果(効率のxxx)。
・国の機関にあっては 10 年以内で投資回収できる全ての技術(組み合わせ技術も含む。)。
② フィージビリティ・スタディの成果品
フィージビリティ・スタディの成果品は、次のとおり。
・採用可能な省エネルギー技術の概要及び計測・検証方法案
・採用可能な省エネルギー技術の工事図面、工事費の概算及び維持管理費の概算、並びに省エネルギー効果
・老朽化した設備機器の改修工事の図面、改修工事費の概算及び維持管理費の概算、並びに省エネルギー効果(設備更新型 ESCO 事業の場合)
・ESCO 事業費の概算及び内訳、並びに省エネルギー効果
・ESCO 事業導入に当たり、制約となる条件(対象範囲を含む)及び理由一覧
・過去3ヵ年のエネルギー消費量とその細目(ベースライン設定に係る基礎資料)
・施設の概要及び平面図
・設備の概要及び機器の一覧
・修繕履歴及び改修履歴
・設備の運転実績及び運用状況(設定温度、運転時間等)
・その他必要なデータの分析結果等
(2)ESCO事業の適否の検討
フィージビリティ・スタディの結果を踏まえ、適切に ESCO 事業実施の適否を検討する。検討に当たっては、以下の要件を考慮するものとする。
❑ フィージビリティ・スタディで選定された技術に加え、その他当該施設又は設備に関連する技術等について検討し、事業として成立しうる技術を仮決定する。
❑ 仮決定した省エネルギー技術について、効果算定のためのベースラインの算定方法及び計測・検証方法について整理し、エネルギー削減量、二酸化炭素排出削減量、光熱水費削減額等の省エネルギー効果(複合的効果を考慮する。)及び工事費の概算額(附帯工事費を含む。)を算出する。
❑ 仮決定した技術をもとに、事業期間を考慮し、CO2 削減効果が最大となる組み合せにより、事業規模を算定する。
❑ 可能な限り幅広い技術の事業への採用可能性を確保する観点から事業の対象範囲・工種等について適切に配慮すること。
❑ 事業規模の算定に当たっては、次の費用を含める。
・現地調査、設計図書等の作成及びその関連業務に係る費用
・省エネルギー改修工事及びその関連業務に係る費用
・設備の維持管理に係る費用
-139-
・計測・検証に係る費用
・金利、その他
❑ 二酸化炭素排出量削減の原単位については地球温暖化対策の推進に関する法律81を、光熱水費削減額の原単位については次の例を参考に適切に設定する。その他、必要な項目があれば、これらに準じて適切に設定するものとする。
① 電気
光熱水費削減額の原単位については、単位は[円/kWh]とし、必要な場合は各月別又は技術ごとに設定する。ただし、各月別の削減量が一定と見込まれる場合は、年間平均単価としてもよい。
② ガス
光熱水費削減額の原単位については、単位は[円/Nm3]とし、一般用と空調用を設定する。また、空調用については、必要な場合は季節ごとに設定する。
③ 上下水
光熱水費削減額の原単位については、単位は[円/m3]とし、上水+下水の削減額として設定する。
検討の結果、ESCO 事業として成立し、かつ、ESCO 事業としてふさわしい事業規模が確保される場合は、ESCO 事業の導入が適当であると判断する。
また、管理官署が異なる複数の施設を一つの ESCO 事業(バルク方式)とする可能性についても検討する。
なお、ESCO 事業実施の適否を判断した後に ESCO の導入に進む場合には、公募に際して診断等の業務を実施した事業者が有利にならないように、診断等の内容の公表に努め、ESCO事業の公募における情報のxx性に十分注意を払う。xx性が確保できない場合には、診断等の業務を実施した事業者を ESCO 導入事業の入札から排除する。その場合、診断等の業務の公募段階において、ESCO 事業への入札の可否に関する条件を明確に示すことが必要である。
2-5 予算化の手続
(1)事業スキームの整理
国の機関においては、予算要求に当たって、ESCO 事業導入の適否判断の結果を踏まえ、 ESCO 事業を実施する際の事業スキームを整理する必要がある。整理すべき事項は、概ね次のとおりである。なお、独立行政法人及び国立大学法人等においても、ESCO 事業のスキームについて、適切に整理を行うことが必要である。
① 契約方式
② 事業方式
③ 事業期間
④ 事業スケジュール
-140-
81 必要に応じ、温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル等を参照のこと。https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/
⑤ 官民のリスク分担
⑥ 業績監視
⑦ 予算種別
なお、上記項目の整理に当たっては、次を考慮する。
① 契約方式
ESCO 事業の契約方式には、ギャランティード・セイビングス契約及びシェアード・セイビングス契約(表Ⅴ-1.3-2)があり、それぞれの特徴を考慮の上、方式を選択する。
② 事業方式
事業方式には、BTO(Build-Transfer-Operate)方式及び BOT(Build-Operate-Transfer)方式があり、それぞれの特徴を考慮の上、方式を選択する。
なお、国がはじめて実施した ESCO 事業である「経済産業省総合庁舎 ESCO 実証事業」
(事業期間:平成 17 年 3 月~平成 21 年 3 月)においては、契約方式にシェアード・セイビングス方式を、事業方式に BTO 方式を、それぞれ採用している。
表Ⅴ-4.1.2-1 事業方式の比較
事業方式 | 特 徴 |
BTO 方式 | ・設備等の完成後、所有権を国に移転する。 ・国が設備等を所有するので、設備等の所有に伴う税金の負担は事業者に生じない。 |
BOT 方式 | ・事業の終了後、所有権を国に移転する。 ・事業者が設備等を所有するので、設備等の所有に伴う税金の負担が事業者に生じる。 ・国が所有する施設において、一部設備等を事業者が所有すること になるので、管理が複雑になる可能性がある。 |
③ 事業期間
ESCO 事業の事業規模に基づき、国の機関にあっては 10 箇年度を限度として事業期間を設定する。
④ 事業スケジュール
契約、設計・建設及び維持管理をどの時期に行うかにより、予算の年度配分額に影響が出る。このため、予算要求段階に事業スケジュールを整理する。
⑤ 官民のリスク分担
官民のリスク分担により、事業者が負担するリスク対策費を、事業費に積む必要がある項目を整理する。
⑥ 業績監視
-141-
業績監視を行う際に、財務状況等の監視のために、アドバイザーと契約する必要がない
かを整理し、必要な場合はその予算確保に留意する。
⑦ 予算種別
国の機関にあっては、ESCO 事業を実施する際の予算の種別は、施設整備費、施設施工庁費等が考えられるが、調整を要するので留意する。
(2)予算要求項目
ESCO 事業の実施に当たっては、設計、施工、維持管理業務等を一括で行う複数年契約となることを踏まえて予算要求を行う。
ESCO 事業の対象とするべき項目については、施設の修繕計画との調整を図り、改修内容の重複等が起こらないようする。なお、主な項目は、次のとおり。
❑ 現地調査、設計図書等の作成及びその関連業務に係る費用
❑ 省エネルギー改修工事及びその関連業務に係る費用
❑ 設備の維持管理に係る費用
❑ 計測・検証に係る費用
❑ 金利
❑ その他
(3)設備更新型ESCO事業における予算化に係る留意点
国の機関において、設備更新型 ESCO 事業とする場合、以下の点に注意する必要がある。
予定
されている設備更新費
組み合わせて大きな事業に
ESCO 事業者の経費
返済分
光熱水費
+
維持保全に係る 費用
光熱水費
+
維持保全に係る 費用
改修前
改修後
ESCO
前
ESCO
期間中
ESCO
終了後
図Ⅴ-4.1.2-2 予定されている設備更新と他の省エネルギー技術を組み合わせた場合の経費イメージ
-142-
❑ ESCO 事業期間中に発生する費用(発注者が指定した設備機器の更新に係る省エネルギー効果の保証も含む。)は、設計、施工、維持管理等の包括的サービスへの対価であり、施設整備費として改修工事完成時に一括して支払う費用とは
予算種目が異なることがあるため、予算担当部局と調整する必要がある。
❑ 予算化された施設整備費と予定価格の差額により、予算に残額が発生した場合、その残額を設備更新部以外に流用することは原則認められない82。
(4)その他
国の機関にあっては、通常、事業を実施する場合は、原則として予算要求時と同じ工事種目で事業を実施する必要がある。このため、ESCO 事業の実施において、予算要求時段階と事業実施段階での工事種目が異なることが想定される場合は、予算担当部局と協議が必要となる場合がある。
2-6 プロポーザル方式による導入計画の留意点
(1)ESCO事業の適否の検討
一般には、プロポーザル方式により事業者を選定する場合は、詳細な省エネルギー診断及び最終的な ESCO 事業実施の適否の検討については、事業提案を行った応募者の中から、優先交渉権者を決定した後に、優先交渉権者が行うことになる。
(2)プロポーザル方式における予算化の手続
ESCO 事業者をプロポーザル方式で選定する場合であっても、整理すべき事業スキームや予算要求項目は前述「2-5」と基本的に同様であるが、次の点に留意する。
① 予算項目
事業者選定前に予算要求を行う場合にあっては、予算項目は、特定の手法に偏ったものとならないように十分配慮し、事業者の創意工夫の余地を適切に確保すること。
② 予算化スケジュール
技術提案の募集を行う前に、事業者の創意工夫を反映できるように的確な予算化のスケジュールを検討するとともに、予算化上対応が困難な事項については、提案募集時に与条件として、提案者に提示を行うこと。
なお、地方公共団体においては事前に提案公募に係る経費のみを予算化した上で、最優秀提案に基づく金額によって予算額を設定した事例83もある。
82 「財政法」(昭和 22 年法律第 34 号)第 33 条第 2 項:各省各庁の長は、各自の経費の金額については、財務大臣の承認を経なければ、目の間において、彼此流用することができない。
-143-
83 例えば、大阪府立羽曳野病院ESCO 事業では、大阪府が、最優秀提案を行った提案者と詳細協議した上で予定価格を作成し、予算化している。
ESCO事業公募
優先交渉者権決定
詳細診断契約
詳細診断検収
ESCO事業予算化
予算案議会承認
(補助金申請)
ESCO契約
着 工
工事終了
ESCOサービス開始
3年目
事業計画
詳細診断
予算要求 契約準備
工 事
ESCOサービス
2年目
初年度
地方公共団体
図Ⅴ-4.1.2-3 地方公共団体の ESCO 導入(プロポーザル方式)の予算化スケジュール例
ESCO事業導入の可否の判断
フィージビリティ•スタディ
ESCO事業の実施
入札公告•事業者選定•契約
予 算 成 立
予 算 案 の 内 示
概 算 要 求
予算要求資料作成•内部調整
ESCO導入可能性判断
~12月頃
1年目
~3月頃
4~6月頃
8月下旬頃
2年目
3年目
12月下旬頃
3月下旬頃
4~9月頃
10月頃~
図Ⅴ-4.1.2-4 国の機関の ESCO 事業の予算化スケジュール例
2-7 その他留意点
-144-
フィージビリティ・スタディの検討結果は事業の適否及びその後の事業の要件等に大きな影響を与えるため、継続的にその精度向上に努めることが望ましい。
3.事業者選定・契約
3-1 ESCO事業の導入フロー(事業者選定・契約段階)
(1)入札契約方式について
「省エネルギー改修事業に係る契約に関する基本的事項」では、「ESCO 事業者の決定に当たっては、価格のみならず、施設の設備システム等に最も適し、かつ、創意工夫が最大限に取り込まれた技術提案その他の要素について総合的に評価を行うものとする。」とされている。当該基本的事項に則る方式として、総合評価落札方式とプロポーザル方式が考えられる。
これらの方式については、表Ⅴ-4.1.3-1 のような特徴があり、法令等の制約の範囲内で、適切な方式を選択する。
表Ⅴ-4.1.3-1 入札契約方式の比較
契約方式 | 概要 | メリット | デメリット |
総合評価落札方式 | ○技術提案とともに公示価格を含めて事業者を選定 | ○技術提案内容と価格との関係における透明性が確保 ○発注者が想定する省エネルギー効果等を上回る優れた技術提案に対し、価格を踏まえた評価が可能 | ○評価の低い提案でも低価格の事業者が選定されるおそれがあり、その対策が必要 ○提案時の技術提案の内容を原則変更できないので、公募時に詳細な調査・ 診断結果が必要 |
プロポーザル方式 | ○技術提案に基づき、事業者を選定 | ○最も省エネルギー効果が期待できる事業の提案が可能 | ○事業化のための予算が内部の事務費であるため、内部の合意形成に時間がかかる ○事業者特定段階で提案内容の実施が確約されてい ない |
なお、プロポーザル方式は、技術提案を公募して、提出された技術提案書に基づき事業者を選定し、随意契約を行う方式であるが、採用に当たっては以下の整理が必要である。
❑ 随意契約の理由
🡺 事業内容は、施工の占める割合が最も大きいが、技術資料を作成する者が施工を行うのに最も適している、という理由に関する整理
❑ 技術提案書の時点で事業内容が確定していないなどの事業者選定上の問題
-145-
🡺 不確定な技術提案書により事業者を決定すると、結果として実施が困難な提案をした者を選定してしまうおそれがあることに対する整理
(2)総合評価落札方式によるESCO事業の導入フロー例
契 約
契約書の作成
事業者決定
入 札
提案内容等の審査
ヒアリングの実施
技術提案書の受領
質疑回答
現地見学等
公 告
技術資料作成要領の作成
予定価格の算定
与条件の設定
審査内容の設定
参加要件の設定
・・・ 3-2(1)参照
・・・ 3-2(2)参照
入
札 ・・・ 3-3参照
準
備
・・・ 3-4参照
・・・ 3-6参照
・・・ 3-7参照
入札公告
・提案審査
・・・ 3-8参照
・・・ 3-9参照
事業者決定
契 ・・・ 3-10 参照
約
-146-
図Ⅴ-4.1.3-1 総合評価落札方式による、ESCO 事業の導入フロー例(事業者選定・契約段階)
(3)プロポーザル方式によるESCO事業の導入フロー例
①募集要項及び資料配布
質問受付
②説明・質問回答書配布
③参加表明書及び資格審査書類の受付
④資格審査結果及び提案要請書の送付
図面等資料の配布
⑤現場ウォークスルー調査
⑥ESCO 提案書の受付
⑦優先交渉権者の選定、審査講評、結果通知
⑧詳細診断・契約書作成協議
ESCO 契約書締結
図Ⅴ-4.1.3-2 プロポーザル方式による、ESCO 事業の導入フロー例(事業者選定・契約段階)
※募集要項及び資料配布以降の手順について
① 募集要項の配布と質問等の受付
ESCO 事業提案を募集するに当たり、事業概要及びその他応募条件等を示す募集要項を作成し、関連資料とともに配布する。
② 説明・質問回答書配布
応募を検討している事業者からの募集要項に関する疑問点や質問を受け付け、説明をし、質問へ回答する。
③ 参加表明書及び資格審査書類の受付
-147-
参加を希望する事業者からの参加表明書及び応募条件や資格要件の確認に必要な書
類等を受付け、応募者の資格審査を行う。
④ 資格審査結果及び提案要請書の送付
資格審査結果及び提案要請書を送付する。また、次項に示す資料等を配布する。
(参考)主な配布資料
❑ 施設概要
❑ 過去3年間の月別光熱水費(電気、ガス、油、水道)及び使用量、供給約款形態
❑ 建物外観図(平面図、立面図)
❑ 各階平面図(ダクト図、照明機器配置図)
❑ 系統図(電気、衛生、空調)
❑ 完成図(電気、衛生、空調)
❑ 単線結線図
❑ 機械室配置図(熱源機械室、空調機械室)
❑ 機器リスト
❑ 設備稼働状況データ
❑ 事前省エネルギー診断調査資料 など
⑤ 現場ウォークスルー調査
参加事業者が提案書作成のために最低限必要な1日程度の現地調査を実施する。
⑥ ESCO提案書の受付
30(実労働)日間程度を提案書作成期間として設け、ESCO 提案書を受け付ける。
⑦ 優先交渉権者の選定、審査講評、結果通知
予め評価委員会等の承認を経た提案書審査評価表等に従い、最優秀の提案を行った
ESCO 事業者を選定し、その後速やかに審査の講評や事業者への結果の通知を行う。
⑧ 詳細診断・契約書作成協議
詳細診断に基づいて包括的エネルギー管理書等を作成し、契約書作成に係る詳細協議に入る。
3-2 事業者の応募に関する事項の設定
(1)ESCO事業者の役割と求められる要件
事業者の応募に関しては、広く提案を求めるために、入札参加希望者が不当に参加を制限されることのないよう公平に配慮することが重要である。
一方、施設が必要とするサービス水準を確保するためには、競争参加者に対し、事業実施に必要な業許可及び類似の経験についての要件設定を行う必要がある。
-148-
ESCO 事業を実施する事業者は、設計、工事及び導入した設備等の維持管理業務に加え、資金調達や事業計画の立案等の包括的なサービスを提供することから、一社で全てを実施する他に、代表企業と構成企業による企業グループ(コンソーシアム)を構成することや、特別目的会社(SPC)等の特定の ESCO 事業を目的とした法人を構成することが考えられる。 ESCO 事業のような小規模なプロジェクトでは、特別目的会社(SPC)等は一般的ではなく、
通常、企業グループで実施される。
したがって、各役割及び各役割に対する要件の設定は以下を参考として設定し、必要に応じ下記の役割以外についても適宜追加すること。
① 設計役割
設計役割は、設計業務の技術上の管理及び統括に関する業務を担う。
設計役割には、建築コンサルタントとしての能力が求められるため、通常の設計委託業務と同等の要件を設定することが考えられる。
② 工事役割
工事役割は、ESCO 事業の実施に必要な、施設の設備システム等の改修工事を担う。
工事役割には、品質の確保のために、対象となる改修部位等の規模及び技術的難易度に応じた技術力が求められる。このため、工事実績(建物用途、施設規模、工事種別)、配置予定技術者の工事経験等、必要な要件を設定する。
なお、ESCO 事業の事業費は、省エネルギー効果による光熱水費等の削減額で事業費をまかなうことから、対象となる設備システム等全体の新設(あるいは全面的な更新)に要する費用に比べ少額となる。このため、場合によっては、単純に改修工事に要する金額に応じた発注標準に見合う工事業者のみでなく、上位の発注標準に位置する工事業者にも参加資格を与えることが考えられる。
③ 維持管理役割
導入した設備に係る維持管理の他、計測・検証に必要な業務等を担う。このため「役務の提供等」の資格を要件として設定することが考えられる。
空調設備や電気設備などの多種の改修が想定されるので、設計役割、工事役割はそれぞれ共同企業体(以下「JV」という。)を可とし、JV とする場合は、協定書等を締結することが必要である。
なお、ESCO 事業実施の適否を判断した後に ESCO の導入に進む場合には、公募に際して診断等の業務を実施した事業者が有利にならないように、診断等の内容の公表に努め、ESCO事業の公募における情報の公平性に十分注意を払う。公平性が確保できない場合には、診断等の業務を実施した事業者を ESCO 導入事業の入札から排除する。その場合、診断等の業務の公募段階において、ESCO 事業への入札の可否に関する条件を明確に示すことが必要である。
この他、省エネルギー保証を含む事業全体の調整や資金調達のみを担う役割を設定する場合は、不良不適格業者の参入排除に十分に留意し、応募者の実績、担当者の経験等の必要な要件を設定し、厳格な審査を実施する必要がある。
(2)総合評価落札方式における事業提案の審査内容の設定
-149-
総合評価落札方式により事業者を決定するに当たっては、提案された技術についての採否
の判定及び当該施設に適した技術について評価を行うための審査が必要になる。
このため、当該施設に求めている改修内容を想定し、提案の採否の判断及び優秀な提案における採点基準及び加算点を事前に決定しておく。
事業の公平性の観点から応募者の提出する技術資料についての審査項目及び審査方法については、公表しておくことが重要である。
なお、提案された技術が、「2-4」において事業規模を算定するためにフィージビリティ・スタディの結果を踏まえ選定された技術と異なる場合であっても、設定された与条件を満たす範囲内であれば、適切に評価を行う。
〔必須事項の審査の例〕
① 提案技術の実現可能性
既に当該施設に採用されているものと同様の技術が提案される場合もある。このため、提案技術の内容を十分に把握し、実現可能性の分析を行い、実現可能性のない技術は不採用とする。
② 計測・検証の可否
ESCO サービス料の支払いに当たっては、削減効果の実績値に基づき支払額が決定されるため、計測・検証を確実に行うことが必須条件となる。
一般に、施設全体のエネルギー消費量からの削減効果が大きい場合は、ベースラインを用いて施設全体の使用量から把握できる場合もあるが、事務庁舎などの業務特性からエネルギー使用量が少ない傾向のある施設は、削減効果を施設全体のエネルギー使用量全体から把握することが困難な場合も多い。
このため、技術資料においては導入する省エネルギー技術の計測・検証方法の記載を求め、審査時において提案された方法により検証可能か判断し、採否を決定することが重要である。例えば、効果量を計算のみにより推計するものなど、計測できない技術は不採用とする。
なお、ベースラインを用いて全体量から把握する場合もベースラインの補正方法などを審査する必要がある。
③ 光熱水費削減額及び二酸化炭素排出削減量の確認
光熱水費削減額及び二酸化炭素排出削減量が、入札条件で設定した最低ラインを超えているかを確認する。なお、必要に応じ削減量等の算定根拠をヒアリング等で確認する。
〔加算対象の例〕
① 二酸化炭素排出量の削減
-150-
省エネルギー技術においては、光熱水費の削減と二酸化炭素の削減は単純に比例しないため、特に二酸化炭素の削減を重点的に評価する場合は二酸化炭素排出量について加点評価を行う。
② 長期耐用性
ESCO 事業により導入した機器等は、事業期間終了後も削減効果があることを考慮すると、長寿命の機器の方が発注者にとって有利となる。このため、長期耐用性の観点から評価を行い、長寿命の機器を導入しているものを高く評価する。
③ 既存設備に対する影響
ESCO 事業により導入される技術は、システムの一部のみ更新される場合や機器の追加となる場合がある(図Ⅴ-4.1.3-3)。このため、導入した機器が、更新していない部分に与える影響を考慮し、他の機器の故障を引き起こすおそれの無い技術や故障時に責任分担が明確なものを高く評価する。
既存機器1 | 追加機器 | 既存機器2 | |||
※既存機器2の故障時に原因が不明確となる。
図Ⅴ-4.1.3-3 既存設備に対する影響例
④ 保全性能の確保
提案技術の維持管理は、事業期間中は ESCO 事業者が行うものの、事業期間終了後には施設管理者(又は維持管理等業務を外注している場合はその受注者)が行うこととなる。このため、提案技術に必要な維持管理が施設管理者にとって過度な負担とならないかなどの長期的視点から評価し、負担の少ないものは高く評価する。
⑤ 事業者の構成
各役割の業務が明確となる体制を組んでいる事業者を高く評価する。
(3)総合評価落札方式における事業者の選定方法
総合評価落札方式は、応募者から提出される技術資料により提案内容の評価を行い、入札価格が予定価格の制限の範囲内にあるもののうち、評価値の最も高いものを落札者とする方式である。評価値の算出方法としては、加算方式と除算方式があるが、事業内容等を考慮し適切に選定する。
なお、技術評価点の検討に当たっては、技術提案内容が適切に評価される必要があり、入札価格の評価のみが特に高くなることの無いよう配慮すること。
国の機関においては、評価の方法について財務省担当部局との個別協議が必要になる。
-151-
ESCO 事業は、自由な提案を求めるため、省エネルギー技術の想定により事業に要する費用が変動する。ただし、総合評価落札方式においては予定価格以上の入札を行った者は欠格となるため、標準案の提示などにより過度な提案がされないように配慮する必要がある。
① 除算方式
価格以外の要素を数値化した技術評価点を入札価格によって除算することにより評価する方式(評価値=技術評価点÷入札価格)を除算方式といい(図Ⅴ-4.1.3-4)、技術評価点は基礎点(要求要件を満たしている場合に与えられる得点)及び加算点(必須とする項目以外について与えられる得点)からなる。
この方式においては、より効果的な事業を行なう技術提案が高く評価されるように、加算対象となる項目を十分検討し、適切に加算点の配分を設定することが重要となる。
なお、等評価値線(技術評価点を入札価格で除した値がなす直線)は、原点と各点を結ぶ放射状の直線であり、この傾きが大きいものほど評価値が高い。
●D
●B
●A
●C
評価値大
入札価格が予定価格の範囲外の領域
最低限の要求水準を満たさない領域
基礎点+加算点
基礎点
予定価格 入札価格 B(落札者)>A>C (欠格D)
図Ⅴ-4.1.3-4 除算方式のイメージ
② 加算方式
価格以外の要素を数値化した技術評価点と、入札価格を数値化した価格評価点を加算することにより評価する方式(評価値=技術評価点+価格評価点)を加算方式という(図Ⅴ
-4.1.3-5)。
-152-
一般的に、価格評価点は入札価格が低いほど大きくなるため、等評価値線(技術評価点と価格評価点を加算した値がなす直線)は右上がりの平行線(傾きは入札価格の数値化の方法により決まる)となり、評価値線が左上にあるものほど評価値が高い。
評価値大
●D
●B
●A ●C 入札価格が予定価格の
範囲外の領域
価格評価点大
技術評価点
予定価格 入札価格 B(落札者)>A>C(欠格D)
図Ⅴ-4.1.3-5 加算方式のイメージ
(4)プロポーザル方式における事業者の評価項目
国においては、現段階までプロポーザル方式によって ESCO 事業者を選定した事例がないため、地方公共団体における評価項目の例を示す。
例を参考にしてプロポーザル方式における評価基準を適宜設定すること。
① 事業期間内の利益総額が大きいこと。
② 契約期間中の各年の自治体の利益がある程度見込まれること。
③ 光熱水費削減保証額が高いこと。
④ 資金調達計画が信頼できること。
⑤ 契約期間が可能な限り短いこと。
⑥ ESCO 事業に係る補助金等の可能性の提案があること。
⑦ 対象建物全体の省エネルギー率が○%以上であり、省エネルギー効果が十分にあること。
⑧ 二酸化炭素排出の削減効果が高い等、地球温暖化対策が考慮されていること。
⑨ NOx,SOx,ばいじん、騒音等についての環境性が配慮されていること。
⑩ 技術・提案に具体性・妥当性があること。
⑪ 提案に独自性や特殊なノウハウが含まれること。
⑫ 既設機器の更新に係る改修が考慮されていること。
⑬ 設備維持管理、計測・検証方法及び運転管理方針の提案に具体性・妥当性があること。
⑭ 優れた品質管理を行い、期限までに確実に工事を完了し、ESCO サービスが提供できること。
⑮ ESCO 契約期間終了後の対応について提案があること。
-153-
⑯ 提案が全体としてバランスが良く優れていること。 なお、④、⑦、⑩に失格規定が設けられている事例もある。
3-3 与条件の設定
(1)施設に要求される水準
ESCO 事業では、事業の内容により施設の室内環境の性能が変化することがあるため、事前に要求される性能の水準を与条件として設定する。
室内環境の性能としては、照度、温度、空気環境等が考えられるが、各室の用途に応じて必要な性能を適切に設定し、与条件として明記する。現状を維持するのであれば、現在の施設が有している性能水準を設定し、現状より水準を向上させる必要がある場合には、必要な性能水準を設定する。
その他、各室の使用時間、人員密度、OA 機器の配置等、要求される水準を設定する。
なお、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(昭和 45 年法律第 20 号)に規定された水準(二酸化炭素の含有率、温度、相対湿度など)により設定することも考えられる。
また、現在の水準と異なる条件を設定する場合は、計測・検証に係るベースラインが異なることになるため、効果の算出・検証方法について、適切に検討しておくこと。
(2)提案対象範囲の設定
提案対象の範囲は、次の点に注意しながら、事業者の創意工夫や技術力を活かせるように、適切に設定するものとする。
① 改修対象範囲
技術提案が行われても採用できない部分を除いた範囲とし、事前に事業対象外である部分は明記する。
② 提案技術の範囲
事業対象施設の固有の事案を勘案し、事業者が技術提案を行うに当たって前提とすべき諸条件を、必要に応じ明記する。
③ 必須の提案技術
当該施設が特に必要としている技術については、必須項目として設定する。
また、設備更新型 ESCO 事業においては、次についても考慮が必要である。
④ 設備更新部
老朽化した設備機器の更新を必須とし、発注者が想定している改修内容を標準案として提示する。
⑤ ESCO 部
-154-
設備更新部の標準案による水準を満たし、かつ、二酸化炭素排出削減量及び年間光熱水
費削減額に設備更新部の標準案以外の技術の改修効果を加えた値又は額より上回る性能が保証される場合には、設備更新部の標準案以外のシステムの採用可否についても明記する。設備更新部の標準案以外のシステムの採用を認める場合には、発注者は応募者に対して、提案したシステムの改修効果を求める。
また、設備更新部以外で発注者が想定している技術の改修内容を ESCO 部の標準案として提示する。
なお、ESCO 部の標準案は全て参考であることを明記する。
(3)計測・検証方法
ESCO 事業の実施時において、計測・検証が確実に行えるよう、適切な計測・検証方法の提案を求める。提案には、計測・検証に係るベースラインの適切な設定も含める。また、改修対象範囲ごと又は提案技術ごとに、計測・検証方法を指定する必要がある場合には、次の代表的な4つのオプション(選択肢)を参考に、適切に設定する。ただし、「3-2(2)事業提案の審査内容の設定」との整合についても留意する。
なお、オプションは省エネルギー対策範囲のエネルギー用途、機器の特性及びかけられるコストを考慮して選択しなければならない。
-155-
設備更新型 ESCO 事業において、発注者が指定した設備機器の更新による省エネルギー効果とその他の技術による省エネルギー効果との計測・検証の区分が困難な場合は、事業全体での省エネルギー効果の計測・検証方法の提案を求める必要がある。
1)オプションA
省エネルギー対象機器ごとのエネルギー消費量の差を算出するのに、設備容量、稼働時間、及び省エネルギー率を乗じて省エネルギー効果を評価する。設備容量の設定は、省エネルギー対策の前後に1回又は短期の実測を行う場合と、メーカーのカタログデータを使用して推定する場合がある。
〔ベースラインの設定例〕
・一定消費電力機器、器具、システムの場合=対策前機器の消費電力×
機器数×稼働時間
2)オプションB
省エネルギー対策前後に、対象機器の出力(能力)、エネルギー消費などを一定期間あるいは長期計測する。
〔ベースラインの設定例〕
・一定消費電力機器、器具、システムの場合=対策前機器の消費電力×
機器数×稼働時間
・負荷連動機器 =相関が強いパラメータを用いた統計解析モデル式
3)オプションC
施設全体のエネルギー又は系統別エネルギー消費の実測結果、あるいはエネルギー供給会社の料金請求書をもとに統計的処理を行う。
〔ベースラインの設定例〕
相関が強いパラメータを用いた統計解析モデル式
4)オプションD
空調熱負荷シミュレーター、空調用エネルギー消費シミュレーター等を使用し、熱負荷又はエネルギー消費を推計して、省エネルギー効果を求める。
(4)光熱水の原単位の設定
光熱水の原単位は、「2-4(2)」と同様に適切に設定する。
3-4 予定価格の算定
国の事業では、会計法により予定価格の範囲内で契約を締結すること84となっており、予算決算及び会計令において予定価格を作成すること85となっているため、採用する入札方法に応じた適正な予定価格を入札前までに作成することが必要である。
予定価格の算定に当たっては、予算化された項目に基づき、フィージビリティ・スタディの内容を精査した上で、次のとおり算定する。
予定価格 = 設計等費 + 工事費 + 運転・維持管理費
+ 計測・検証費 + 金利
また、設備更新型 ESCO 事業の場合は、各費目に設備更新部に係る費用を計上するとともに、設備更新部を含めた民間の創意工夫について見込む。このため、コンサルタント等の調査により、実績等を把握することが必要である。
84 「会計法」第 29 条の 6 第 1 項
-156-
85 「予算決算及び会計令」(昭和 22 年 4 月 30 日勅令第 165 号)第 79 条
3-5 発注スケジュール等
一般競争総合評価落札方式の場合の標準的な発注スケジュール例を図Ⅴ-4.1.3-6 に示す。
競争参加資格の内容の審査
技術資料作成要領の審査
入札・契約手続運営委員会
(競争参加資格の決定)
公 告 案 の 検 討
公 告 | |
標準的日数
競争参加資格確認資料、技術資料等の提出期限
技 術 資 料 の 作 成 説 明現 地 見 学
入札説明書(技術資料作成要領を含む)の交付
公告後速やかに
10 日
30 日
20 日
競争参加資格確認資料の審査
提案内容と評価結果案の審査
技術資料のヒアリング
20 日
入札・契約手続運営委員会 (競争参加資格の有無の決定) | |
競争参加資格の確認結果の通知 | |
7 日※
競争参加資格がないと認めた理由の説明要求 | |
10 日
理由の説明要求に係る回答 | |
1 日
質問書の提出期限 | |
5 日
質問書に対する回答期限 | |
3 日
入 札 | |
※は、土曜日、日曜日、祝日等を含まない
注)本表は会計法に基づいた例であり、PFI法に基づく場合は「官庁施設のPFI事業手続き標準」に準じて実施するものとする http://www.mlit.go.jp/gobuild/pfi/pfi.htm
-157-
図Ⅴ-4.1.3-6 一般競争総合評価落札方式の場合の標準的な発注スケジュール例
3-6 技術資料作成要領の作成
技術資料作成要領には、「3-2 事業者の応募に関する事項の設定」及び「3-3 与条件の設定」の内容に加え、次の項目について記載する。
その他、追加項目が必要な場合は、適宜、記載する。
① 全体スケジュール
ESCO 事業のサービス期間は、BTO の場合、工事が終了し財産の引渡しを受けた後から開始されるため、事前に引渡し日を明確にする。なお、工事の遅延等により定められた日に引き渡されなかった場合には、サービス期間が短くなるため契約金額の変更等が生じるおそれがある。
② 予想されるリスクに対する責任分担
事前に発生が予想されるリスクに対しては、発注者又は事業者のどちらに責任があるのかを明記する。なお、各リスクについては契約時点で契約書として明記されることとなる。
③ 苦情の申立てについて
技術資料作成要領には、応募者の参加資格が認められなかった場合又は技術提案が不採用であった場合には、応募者は説明を要求することができることを明記する。
④ 施工の条件
改修工事に当たっては、居ながらの改修になるため事務室等における平日の作業は困難となる場合が多い。このため、作業時間等に施工上の制約がある場合には、その条件を明記する。また、施設の改修計画との整合によりシステム一体として改修するなどの条件がある場合は記載する。
⑤ 資料
フィージビリティ・スタディにて調査した事項のうち、技術資料の作成に必要となる、施設概要、平面図、主要機器リスト、エネルギー使用量、実施済改修工事リスト等を資料として添付する。
-158-
なお、事業の与条件等の設定根拠についても資料として提示を行うことが望ましい。
3-7 現地見学等
事業者の創意工夫を最大限に活用するには、応募者が施設の状況を十分把握したうえで提案を求めることが必要である。このためには、次の手続を実施することが有効である。
(1)現地見学
実際の既存設備システムの見学を行うことにより、既存設備システムの把握、改善余地の確認、新設する設備機器の設置場所の確認などが可能となる。
(2)エネルギー使用実績の閲覧
電気、ガス、油、水等の使用量とその詳細データを閲覧し、消費傾向の確認や運用方法の確認などを行うことにより、省エネルギー技術の適否の判断、削減効果の精査などが可能となる。
なお、フィージビリティ・スタディの際に収集した詳細データが古くなってしまった場合等は、必要に応じ、最新のデータを準備する。
(3)過去の工事の完成図の閲覧
過去の工事の完成図を閲覧することにより、既存設備システムの詳細の把握や既存機器の設置時期の把握及び新設する設備機器の設置場所の確認などが可能となる。
なお、これらの手続を実施した後には、応募者が技術資料を作成するのに十分な日程を確保する必要がある。
3-8 ヒアリングの実施
提出された技術資料についてヒアリングを実施することは、技術資料の内容を審査担当者が十分理解するとともに、正確で公平な評価を行う上で有効である。このため、必要に応じ、技術資料に関してヒアリングを実施するものとする。
-159-
ヒアリングは、提出された技術資料の記載内容を変更することはできないが、提出された技術資料だけでは不明な点を補足するために行う。なお、ヒアリングした事項が口約束とならないために、両者で合意した議事録を残すなど、回答された内容を担保することが必要である。
3-9 事業者の評価
(1)提案内容の審査
提出された技術資料について、「3-2 (2)事業提案の審査内容の設定」で設定した内容に従い、提案内容の審査を行う。
提案内容の審査については、ESCO 事業の技術について専門的な知見を有する有識者等からなる委員会等や入札時 VE 審査委員会等既存の枠組を活用するなどにより、提案内容の評価を決定する。
なお、工事の総合評価落札方式の場合、技術提案の内容の一部を改善することで、より優れた技術提案となる場合などに、技術提案の審査において、提案者に当該技術提案の改善を求める、又は改善を提案する機会を与えることができる仕組みがあるなど、工事内容に応じて、その手続の仕方が工夫されている。このため、ESCO 事業においても有効と思われる手続については、積極的にこれを検討することとする。
(2)競争参加資格の確認
提出された技術資料の審査結果を踏まえ、競争参加資格の確認を行う。
-160-
なお、競争参加資格の確認結果は書面により通知する。競争参加資格がないと認められた者に、その理由について一定期間以内に説明を求めることを可能とする。
3-10 契約書の作成
(1)契約書に記載する事項
ESCO 事業は、設計、工事、維持管理業務などを包括的に実施し、長期間にわたりサービスの提供を行うものである。このため、契約書に記載する内容については、業務の内容を十分踏まえ、業務の各段階において行うべき事項、問題発生時の対応方法などを明らかにしておく必要がある。次に、ESCO 事業の契約として、特徴的な主な事項を示す。
① 実施計画書の作成に関すること
ESCO 事業の実施体制、保全計画書、運転管理方針、計測・検証計画、ベースラインの設定方法、ベースラインの調整方法、室内環境に要求される水準の設定を現状と異なるものにした場合における効果の算出・検証方法など ESCO 事業期間全体を通して ESCO サービスに関する基本的事項を定めるために、実施計画書の策定を義務付けておく。
② 維持管理に関すること
ESCO 事業により設置された設備等は、既存の設備等に混在して設置される場合があるので、当該設備等の維持管理に関する責任や当該設備等が第三者に損害を及ぼした場合の責任など、その所在(あるいは分担)を明らかにしておく。
ESCO 事業で設置した設備の維持管理は ESCO 事業者が行い、既存設備システムの維持管理は保守管理会社が行うこととなるが、ESCO 事業者に係る設備の運転・監視又は運用での運転改善案は、ESCO 事業者が自ら行うか、施設管理者の合意のもと保守管理会社に行わせることができることを契約条件とする。
③ 計測・検証方法に関すること
ESCO 事業では、計測・検証の結果により、事業者に支払われる ESCO サービス料が減額又は増額される場合がある。このため、どのような方法により削減効果を計測し、その結果をどのような条件の下で算定、評価するか、あらかじめ明らかにしておく。なお、ESCOサービスによる削減効果の保証額(あるいは量)は、総合評価落札方式の場合、技術提案書に記載された額(あるいは量)となる。
④ 瑕疵と責任に関すること
ESCO 事業契約において、保証額(又は保証量)の未達成については、瑕疵担保責任の対象とならないことを明確にする。
⑤ 事業費の支払に関すること
改修工事完成時における設備更新型 ESCO 事業の設備更新部に係る事業費及び保証された削減額(又は削減量)が実現した場合における事業費(設備更新部の標準案による光熱水費削減相当分も含む。)の支払方法を明記する。明記する内容は次のとおり。
-161-
・年度ごとの支払限度額
・事業費の内訳(設計業務費、改修工事費、維持管理業務費、金利等)
・分割払スケジュール(事業費の内訳別)
⑥ ペナルティに関すること
ESCO 事業では、事業者が削減効果の計測・検証を毎年度実施し、保証された削減効果が達成されていない場合、発注者は事業者に対してペナルティを課すことになる。このため、ペナルティの算定方法やその額についてあらかじめ明らかにしておく。また、総合評価落札方式の場合は、事業者の技術提案の評価において、加点した内容についてもペナルティの対象となるので、提案内容を満たさなかった際の処置についてもあらかじめ明らかにしておく。
⑦ 業務の監視及び改善要求措置に関すること
発注者が行う業務の監視等について、その方法、時期などについて定めておく。
「業務の監視及び改善要求措置要領」に基づき、発注者が行う業務監視等に必要な報告を事業者が行うことを明記しておく。
⑧ 構成員に関すること
設計役割は、建築士法の要請を満たしていることを必須とする。工事役割は、建設業法の要請を満たしていることを必須とする。また、構成員の変更の可否及び構成員の破産又は解散が生じた際の対応について定める。
⑨ リスクに関すること
技術資料作成要領で示したリスク分担、及び実際に事業で実施される内容を踏まえ、予想されるリスクの分担について契約書に明記しておく。
⑩ 発注者の義務に関すること
-162-
発注者は、事業対象部位の故障や当該施設へのエネルギー供給の中断等 ESCO 事業の実施に重大な影響を及ぼす事項について、速やかに ESCO 事業者に通知することを明記しておく。また、各月の光熱水費を ESCO 事業者に通知することを明記しておく。
(2)各段階のリスク分担
リスクとは、事業の実施に当たり、契約の締結の時点ではその影響を正確には想定できない不確実性のある事由によって、損失が発生する可能性をいう。
リスク分担の設定に当たっては、一方的に事業者に過度な負担を求めることのないよう適切に設定すること。なお、施設所有者の事由に帰するリスクについては、発注者が負うものと考えられる。
ESCO 事業に限らず一般的に論じられるリスクとしては、表Ⅴ-4.1.3-2 に示すものがある。これらは ESCO 事業実施の各段階に共通なリスクである。
表Ⅴ-4.1.3-2 各段階に共通なリスク
リスクの種類 | リスクの性質 | リスク分担の考え方 |
制度関連リスク | 税制を含む法令の変更や許認可の取得などの制度に関わる要因に関して想定されるリスク | ・事業者の努力によって回避又は軽減することが不可能であるため、事業者には負担が困難な場合が多いことを考慮 ・事業期間中に発生可能性のあるリスクについては、事前に検討 ・契約時点で想定することが困難なものについて は、協議や補償の可能性を示す記述を盛り込む |
経済リスク | 事業者の資金調達にかかる金利及び物価(主に光熱水費)の変動リスク | ・金利の設定時期並びに見直しの有無及びその時期の設定により、リスクの負担度合いを考慮 ・発注者側の事由により事業が大幅に遅延し、融資契約の解約等に件う解約手数料が発生する場合等は、遅延可能な期間の期限の設定の有無等によ る条件変更の可能性等も考慮し検討 |
債務不履行リスク | 起因事由を分類項とするリスク | ・起因者によってリスク負担を検討 |
不可抗力リスク | 誰も管理不可能なリスク | ・事業の継続が可能な程度の損害の場合等は、損害拡大の阻止や事業の早期復旧 ・継続に向けて効果的なリスク負担の方法を検討 ・事業の終丁となるような場合等は、お互いに妥当な費用負担や損害の補てんの方法をあらかじめ定める ・不可抗力であっても保険による対処が可能なリス クもあるため、保険市場における動向を勘案して、適切な負担方法を定める |
-163-
事業の適正かつ確実な実施を確保するために、これらの一般的なリスク負担の考え方に基づき、事業実施の各段階について、リスクが顕在化した場合の責任の所在及び対処方法を整
理し、契約書に記載する。
① 調査・設計段階に想定されるリスク
リスクが顕在化する原因としては、提案内容の不備、発注者の指示による提案の変更等が考えられる。リスクを最小化する観点から、このリスクは起因者が負担することが望ましい。
調査・設計段階の物価変動リスクには、契約時点以降の物価変動に起因する調査・設計費用の増加等がある。現在の設計業務委託においては、物価変動による業務委託金額の変更は契約書に明記されていないが、契約期間は単年であることが多く、契約期間内の経済リスクは設計業務を受注した者が負担している。
② 施工段階に想定されるリスク
施工段階に関するリスクは、その内容、起因により多岐にわたるが、ESCO 事業においては基本的に設計図書どおりの施工をおこなうため、建設工事の請負契約に用いられている公共工事標準請負契約約款におけるリスク分担を参考に検討を進めることが、効率的かつ効果的である。
[施設所有者の事由に帰するリスク]
施設改修については、重要な会議等で改修が行えない場合など、予期せぬ施設の所有者の事由により工事が着手できず要求水準に不適合となった場合は発注者の負担とする。
[施設損傷・第三者への損害リスク]
施設損傷、第三者への損害リスクは、まず発注者から施工に関する特別な指示のない限り、起因性の観点から事業者が負担することが通常と考えられる。なお、従来型の工事同様に保険の付保を義務づけることも一つの方策と考えられる。
[金利変動リスク]
建設期間中の金利変動リスクには、金利の設定時期が大きく影響する。
金利の設定時期は、入札時、契約締結時、着工時、完工時などいくつかの時点が考えられるが、設定時点が後になればなるほど、発注者が完工までの金利の変動リスクを負担することになる。
[物価変動リスク]
建設段階においては物価変動に伴う工事費の増加がリスクとして想定される。当該物価変動リスクの分担方法は、公共工事標準契約請負約款の第 25 条(スライド条項)を参考に事業期間等を考慮して決定することが考えられる。
③ 維持管理運営段階に想定されるリスク
-164-
維持管理運営段階のリスクは、施工段階に比してその発生要因が多岐にわたるとともに、
その期間が長期に及び、利用者、管理者、業務従事者など多くの者の関与が想定されることから、起因者の特定が困難である場合が想定される。このため、起因者の特定が困難な場合を中心に、事前の想定によりいくつかの場合に分類し、その類型ごとに負担方法を定めておくことが重要となる。
[性能に関するリスク]
性能に関するリスクには、要求水準への不適合、瑕疵、性能変更等のリスクがあり、性能及び仕様の決定プロセスに基づいて負担者を決定することが一般的である。
要求水準に対する不適合については、基本的には、起因性及びリスク最小化努力の観点から、仕様を決定し、施工した事業者がリスクを負担することが適切である。ただし、事業期間中の社会状況の変化等に伴う性能変更の場合は、原則として変更を希望する発注者のリスク負担となる。
[設備等の所有に伴うリスク]
設備等の所有に伴うリスクは、基本的に設備等の所有者の負担とする。
[施設損傷・第三者ヘの損害リスク]
施設損傷のリスクにおいて起因者が明確である場合は、起因者が負担することが原則である。第三者による施設損傷等については、求償措置をとる者のリスクとすることが適切である。また、不可抗力による場合等求償措置をとることができない場合は、発注者のリスクとすることも考えられるが、施設損傷については保険の付保が可能な場合もあることから、保険でカバー可能な範囲を検討し、そのコストと比較考量した上で最終的な負担方法を決定すること。
[金利変動リスク]
金利変動リスクの検討に当たっては、事業の内容(サービスの継続性・持続性や公共施設等の管理者等、サービスの対価の支払者の信用力等)及び事業スキームの内容(事業の類型、事業期間、事業方式、支払方法、減額措置等)に対する市場の評価と、当該時点での金融の市場動向か大きく影響することに十分留意するとともに、将来における財政負担変動への対応可能性の有無にも配慮すること。
[物価変動リスク]
物価変動リスクの分担方法としては、以下の方法が考えられる。
・ 一定範囲内の物価変動は事業者の負担とする
・ 数年後ごとに物価変動指数に連動した見直しを行う
-165-
維持管理期間中の物価変動リスクは、長期間となることからその動向の見極めが困難であるため、実施する ESCO 事業の事業期間を考慮した上でその負担方法を検討すること。
[不可抗カリスク]
-166-
不可抗カリスクのうち施設に関するものについては、通常は施設の所有者がその責任を負うことが一般的である。このため、BTO の場合は、施設の所有者である国が施設に関するリスクを負担することとなるが、BOT の場合は特段の定めがなければ事業者がそのリスクを負担することとなる。しかし、現実的には事業者にとって管理不可能なリスクであるため、当該リスクを負担することが適切であるか検討する必要がある。
4.事業の実施
4-1 監視職員等
発注者は事業の実施状況等を確認するため、必要に応じ、契約及びこれに基づき締結される一切の合意に定めるもののうち発注者の権限とされる事項について、その一部を次に掲げる職員に委任する。この場合、発注者は職員の氏名及び委任する事務の範囲その他必要な事項を事業者に通知する。
(1)監視職員
監視職員は、発注者が必要と認めて委任したもののほか、次の権限を有する。
①契約の義務履行に係る事業の実施状況の監視
②契約の履行に関する事業者又は事業者の現場代理人に対する請求、通知、確認、承認又は協議
③事業者が作成及び提出した資料の確認
(2)検査職員
検査職員は、事業の実施状況について検査及び調書の作成を行う。
(3)事業実施における発注者又は監視職員・検査職員の職務
-167-
事業実施における発注者又は監視職員・検査職員の行う職務のフローを図Ⅴ-4.1.4-1 に示す。
ESCO 事業契約
事業者実施
発注者実施
実施計画書の策定 設計実施工程表の作成設計業務計画書の作成 設計業務の実施設計業務終了 工事実施工程表及び施工計画書の提出施工 施工の完了 業務計画書の提出運転及び維持管理 計測・検証結果の報告年間業務報告書の提出 契約終了 | 監視職員の設置 確認・検査確認 確認検査確認確認 完工検査承認 確認検査 引き継ぎ |
-168-
図Ⅴ-4.1.4-1 業務監視に係るフロー
4-2 事業実施計画
(1)実施計画書
事業者は、契約の締結後速やかに、事業関係図書に基づき、事業の実施体制、事業概略工程表、運転管理方針、保全計画書、計測・検証計画、ベースライン及びその計算方法、ベースラインの調整方法等、ESCO サービスに関する基本的事項を定めるために、実施計画書を策定する。
次に実施計画書の記載内容の主な概要を記載する。
① 事業計画
○事業実施体制
・各役割の業務実施体制等
○事業概略工程表
・事業終了までの事業計画の概要(設計・施工スケジュールを含む)
② 総合仮設計画
○総合仮設計画書
・現場代理人、監理技術者、技能士等の通知書
・施工体制台帳
・緊急連絡先等
③ 省エネルギー技術概要
・光熱水費削減予想額及び保証額
・二酸化炭素排出削減予想量及び保証量 等
④ 維持管理等計画
○保全計画書
・ESCO 事業対象設備等の点検項目、点検内容、点検周期等
・ESCO 事業対象設備等の保守(消耗品等の交換など)等の計画
○運転管理計画
・運転管理体制
・導入した設備等の運転管理に関する計画
・非常時のバックアップ体制
・既存機器の運転管理に関する省エネルギー提案があった場合、当該技術の具体的方法
⑤ 計測・検証計画
・計測方法、計測場所、計測時期、計測器の精度等
・得られたデータから効果量を検証する具体的方法
・ベースラインを用いる場合には、その設定方法及び調整方法等
⑥ その他必要と認められるもの
-169-
事業者は、実施計画書の策定を完了したと判断するとき、当該実施計画書を添えて業務完了報告書を発注者に提出する。
発注者は、一定期間以内に、その内容が契約及び事業関係図書に適合するか否かを検査し、事業者に書面で通知する。このとき、当該実施計画書の内容が、契約及び事業関係図書に適合しないと認めるときは、事業者に是正を求めることができる。
4-3 ESCO事業対象部位の設計
(1)設計実施工程表の確認
事業者は、設計実施工程表及び設計業務計画書を発注者に提出する。
発注者は、設計実施工程表及び設計業務計画書の提出を受けた場合、一定期間以内に確認を行う。
(2)設計業務の実施
発注者は、設計業務の着手後、定期又は随時に、当該業務の進捗状況について確認を行う。
(3)設計図書の提出及び検査
事業者は、設計業務を終了したと判断するときは、設計図書その他の関係資料(以下「設計図書等」という。)を添えて、発注者に業務完了報告書を提出する。
発注者は、設計業務完了報告書又は設計図書の受領後、一定期間以内に、その内容が契約及び事業関係図書に適合するか否かを検査し、事業者に書面で通知する。
このとき、発注者は、当該実施計画書の内容が、契約及び事業関係図書に適合しないと認めるときは、事業者に是正を求めることができる。
次に設計図書の主な検査項目を記載する。
① 図 面改設図
・工事仕様書において、使用材料の仕様、設計用標準震度、発生材の処分方法等が適切に記載されているか。
・各階設備等平面図(事業対象フロア)において、事業を行わない部位との取り合い、事業範囲、養生範囲等が適切に記載されているか。
・機器仕様(新設及び改設する機器の名称、仕様、数量)において、設計計算書に基づく適切な記載がされているか。
・各種システム系統図において、事業を行わないシステムに影響を与えるものでないか。
・各平面詳細図・断面図等において、必要な点検スペースが適切に確保されているか。
撤去図
・既存機器等の撤去を行うフロアの平面図において、撤去を行わない機器等に与える影響がないか。
-170-
・撤去する機器の名称、仕様、数量、発生材の処理(引渡し・廃棄の別)等が適切に記載されているか。
② 設計計算書等
・各種計算書が適切なものとなっているか。
・各種技術資料の内容が適切なものとなっているか。
・工事種目別積算資料及び内訳書に誤りがないか。
4-4 施工
(1)工事実施工程表
発注者は、事業者が施工に先立ち作成された工事実施工程表の提出を受ける。このとき発注者は、必要に応じて、工事実施工程表の補足として、週間又は月間工程表、工種別工程表等の作成及び提出を求め、施設管理者と工程についての調整を行う。
(2)施工計画書
発注者は、事業者が施工に関する総合的な計画をまとめた総合施工計画書、品質計画、安全計画、搬入計画、試運転計画及び工程の施工の確認を行う段階及び施工の具体的な計画を定めた工種別の施工計画書の提出を受け、使用材料、施工方法、安全対策等が適切に記載されているか確認する。
(3)施工確認
発注者は施工計画書に基づいて次の項目について確認、検査等を行う。
①工事記録・工事写真・打合せ議事録
②工事実施工程表
③施工状況
(4)完工検査
発注者は事業者及び現場代理人立会いの上、完工検査を実施し、設計図書等のとおり施工が完了したと確認したときに完工確認通知書を事業者に交付する。
事業方式が BTO 方式の場合は、改修工事の完成を確認した後に事業者より設備等の引渡しを受ける。
主な完工検査の内容を次に記載する。
・機器類、配管類、ダクト類、電線類の据付、固定状態
・機器類及びシステムの稼働状態
・騒音、振動の発生状況
-171-
・室内環境測定データ、試運転データ
4-5 運転及び維持管理
(1)事業者の報告義務
事業者は、運転及び維持管理期間中において行う ESCO 事業対象部位の日常点検、定期点検、修理、その他の運転及び維持管理のための作業の内容及び発注者が必要と認めて報告を求めた事項について、遅滞なく発注者に対して報告を行う。
(2)業務計画書の提出及び承認
事業者は、毎年度開始前又は前月末までに実施計画書で定められた運転管理方針及び保全計画書に基づき、当該年度又は月次等の業務計画書を作成し発注者に提出する。
発注者は、事業者から業務計画書の提出を受けたときは、遅滞なく事業者及び施設管理者と協議し承認を行う。また、発注者は、実施計画書で定められた運転管理方針及び保全計画書で定める条件を変更しようとするときは、あらかじめ事業者に対して通知し、事業者と協議しなければならない。
(3)運転管理
事業者は、実施計画書で定められた運転管理方針に基づき ESCO 事業により設置された設備の運転管理を自らの責任と負担で行う。その運転管理状況について、定期的に発注者に報告する。
また、運転は改修前の室内環境水準を遵守するように行うが、これが守れなくなった場合及び設備の不具合、故障等が発生した場合、速やかに発注者に報告する。
(4)維持管理
事業者は、実施計画書で定められた保全計画書に基づき ESCO 事業対象部位の維持管理を自らの責任と負担で行い、その維持管理状況について、定期的に発注者に報告する。
(5)発注者の通知義務
発注者は、事業実施期間中、次の事項について事業者に通知する義務を負う。
① 発注者が、ESCO 事業対象部位の故障又は不具合を発見したときは、速やかに通知。
② 当該施設へのエネルギー供給が中断したときは、速やかに通知。
③ 事業者の改修工事の完了日の属する翌月以降、毎月、当該施設に係る光熱水費の実績をその翌月に通知。
4-6 計測・検証
-172-
事業者は、運転及び維持管理中、光熱水費削減額及び二酸化炭素削減量が計画どおり守られていることを証明するため、実施計画書で定められた計測・検証計画に基づき、計測・検証を行う。
(1)計測・検証結果の確認
発注者は、事業者が行う対策後の定期的な達成省エネルギー量のレビュー(計画省エネルギー量との差の検証等)から、省エネルギー対策後に機器が正しい運転がされているか、パラメータとした要因以外にエネルギー消費に大きな変動を与える要因に変化がないか確認する。運転や管理に問題があり、保証されたエネルギー削減量等が計画どおりに達成されていない場合は、事業者に是正措置を検討させる。
また、発注者は、事業者から報告される計測・検証を行った結果の二酸化炭素削減量や光熱水費削減額の確認を必要に応じて定期的に行う。
(2)年間業務報告書の提出及び検査
事業者は、「業務の監視及び改善要求措置要領」に定めるところにより計測・検証結果を年間業務報告書として取りまとめ、発注者に提出する。
発注者は、年間業務報告書の提出を事業者から受けたときは、一定期間以内に、光熱水費削減額及び二酸化炭素削減量が計画どおり守られているか否か検査し、その結果を、事業者に書面で通知する。
(3)減額の措置
発注者は、維持管理期間中の計測・検証により確認された光熱水費削減額又は二酸化炭素排出削減量のいずれかが、事業契約書等に定める光熱水費削減保証額又は二酸化炭素排出削減保証量を下回った場合は、事業費の支払額の減額を行う。
4-7 契約終了
(1)維持管理マニュアルの作成及び引き継ぎ
実施された技術提案内容の維持管理・運用は、事業期間中は ESCO 事業者が行うものの、事業期間終了後には施設管理者(又は維持管理等業務を外注している場合はその受注者)が行うので、事業者は、事業終了前に、施設管理者等に維持管理業務を引き継ぐために必要な作業手順、管理項目等をまとめたマニュアルを作成する。
施設管理者等は、当該マニュアルについて、事業者から説明を受ける。
(2)ESCO事業対象部位の確認
-173-
契約終了時、発注者は、ESCO 事業対象部位の状況を検査し、完工時以降に損傷及び不具合等が発生していないか確認を行う。
◇資 料 編
◇ESCO 事業の例(概要)
以下に、具体的な ESCO 事業の概要及び提案内容(光熱水費削減保証額、二酸化炭素排出削減量、改修技術等)の例を示す。
1.事業の概要
(1) 対象施設 ○○○地方合同庁舎
(2) 発注・業務の監視・検査 ◇◇◇省
(3) 事業期間 平成 24 年 4 月~平成 33 年 3 月
(削減保証期間 平成 24 年 10 月~平成 33 年 3 月)
(4) 求めた事業者役割 設計役割、工事役割及び維持管理役割
(それぞれに資格要件を設定)
(5) 事業者選定方式 総合評価落札方式(除算式)
(6) 所有権引渡方式 BTO 方式
(7) 契約形態 シェアード・セイビングス方式
2.提案の概要
(1) | 光熱水費の削減保証額 | 約 8,500 千円/年 |
(2) | 二酸化炭素排出削減量 | 約 290t-CO2/年 |
(3) | 提案技術等 ①熱源・空調設備 |
・予冷予熱時の外気カット
・全熱交換器の導入
・VAV 方式の導入
・CO2 監視による外気量制御
・熱源台数制御
・温湿度センサー取付位置適正化
②照明設備
・インバータ化及び高効率誘導灯の導入
・初期照度補正、人感センサー、自動調光による制御
・外灯の自動点滅・タイマー併用
③給排気設備・換気設備
・変電室、機械室等の換気量制御
・局所排気による換気量制御
④給排水・衛生設備
・省エネルギー型浄化槽の導入
・感知式小便器自動洗浄弁、節水型大便器洗浄弁の導入
・自閉式水栓の設置
-174-
・擬音装置の設置
◇支払額の減額の算定例
以下に、①二酸化炭素排出量削減保証量が達成されなかった場合、②光熱水費削減保証額が達成されなかった場合の減額の算定例を示す。
なお、いずれの場合においても、減額は、本来支払われるはずだった事業費の総額を超えることはないものとする。
①二酸化炭素排出量削減保証量が未達成の場合の減額の算定例
二酸化炭素排出削減保証量に係る減額(円)
=減額に係る単価(円/t-CO2)
×{契約書に定める排出削減保証量(t-CO2)
-当該年度に計測・検証で確認された排出削減量(t-CO2)}なお、減額に係る単価は以下で算出する。
減額に係る単価(円/t-CO2)
=ベースラインの光熱水費の総和(円/年)
÷ベースラインの CO2 排出量(t-CO2/年)
②光熱水費削減保証量が未達成の場合の減額の算定例
光熱水費削減保証額に係る減額(円)
=契約書に定める削減保証額(円)
-当該年度に計測・検証で確認された光熱水費削減額(円)
◇支払額の変更分の算定例
維持管理期間における省エネルギーへのインセンティブを ESCO 事業者に付与するため、二酸化炭素排出削減量及び光熱水費削減額が、事業契約書等に定める二酸化炭素排出削減量に達し、かつ、光熱水費削減保証額を超えた場合に事業費の支払額の変更を行うことが考えられる。支払額の変更を行う場合の算定例を以下に示す。
-175-
なお、インセンティブとしての支払額の変更措置の検討に当たっては、関係法令を確認するとともに、予算担当部局と協議が必要になることに留意が必要である。
支払額の変更分の算定例
支払額の変更分(円)
={当該年度に計測・検証で確認された光熱水費削減額(円)
-契約書に定める削減保証額(円)×係数}÷2
なお、係数は1を超える数値とし、削減効果の補償額等を勘案し、適切に発注者側で設定する。
Ⅴ-4-2.その他の省エネ改修事業に係る契約に関する基本的事項について
1.はじめに
1-1 その他の省エネ改修事業に係る契約に関する基本的事項
環境配慮契約法に基づく基本方針に定められた、建築物に係る契約の体系及び建築物の改修に係る契約の位置づけ、並びに建築物の改修の改修に係る契約のうち、その他の省エネ改修事業に係る契約に関する基本的事項は、以下のとおりである。
建築物に係る契約
その他の省エネ改修事業に係る契約
ESCO事業に係る契約
建築物の改修に係る契約
建築物の維持管理に係る契約
建築物の設計に係る契約
… Ⅴ-1
… Ⅴ-2
… Ⅴ-3
… Ⅴ-4
… Ⅴ-4-1
… Ⅴ-4-2
-176-
図Ⅴ-4.2.1-1 基本方針におけるその他の省エネ改修事業に係る契約の位置づけ
③建築物の改修に係る契約
イ.その他の省エネ改修事業に係る契約
その他の省エネ改修事業に係る契約に関する基本的事項は以下のとおりとする。
・その他の省エネ改修事業の立案に当たっては、当該施設の運用段階におけるエネルギー消費量等のデータの活用に努めるとともに、必要に応じ、改修後の維持管理における運用改善に資するエネルギー管理機能の拡充を図るものとする。
・その他の省エネ改修事業の発注に当たっては、当該施設の特性及び当該改修の目的等に応じたエネルギー消費量又は温室効果ガス等の排出量等の削減に資する契約方式を選択するものとする。
・具体的な要求仕様及び入札条件については、当該改修の目的等を踏まえ、調達者において設定するものとする。
1-2 本解説資料の使い方
環境配慮契約法に基づく基本方針に記載されたとおり、建築物の改修計画の検討に当たっては、当該施設の特性、エネルギー消費量等のデータ計測・分析及びデータの分析結果等を踏まえ、総合的な観点から「ESCO 事業」を実施することが適当か、「その他の省エネ改修事業」を実施することが適当かを選択することとされている。
本解説資料は、基本方針に定められた建築物の改修に係る契約のうち、その他の省エネ改修事業に係る契約に関する基本的事項を踏まえ、発注者が当該事業の契約を締結する際の参考として使用されることを想定したものであり、その他の省エネ改修事業を行う場合には、本項に記載の事項を参照し契約手続を進めることが望ましい。
-177-
なお、本解説資料に示した事例は参考例であり、当該建築物における改修の目的、当該地域の実情等を踏まえ、発注者が適切に対応することが必要である。
2.契約方式の解説
2-1 その他の省エネ改修事業に係る契約の基本的考え方
環境配慮契約法において新たに建築物に係る契約類型として位置づけられたその他の省エネ改修事業についても、徹底した省エネルギー対策・脱炭素化を中心とした環境配慮の実施可能性を検討し、より積極的に環境配慮契約を実施することが求められる。
その他の省エネ改修事業の計画を検討するに当たっては、当該施設の運用段階における設備等の運転状況、エネルギー消費や温室効果ガス排出実態の把握・分析等を行うとともに、改修後の維持管理の運用段階においても、エネルギー消費量に係るデータの実測を行い、次の改修に活用されるよう、継続的・持続的な管理が行われることが重要であり、契約類型の垣根を超えた契約も念頭に計画を立案することも必要となる。
環境配慮契約法に基づく基本方針に定められた建築物に係る契約の基本的事項においては、既存建築物の改修に当たって、以下の基本的考え方を掲げており、建築物の特性、省エネル ギー効果等を勘案し、中長期的な ZEB 化を見据えた改修計画について検討を実施するよう求 めている。また、可能であれば、より短期かつ積極的に ZEB 化の実現を図るものとする。
❑ 既存建築物の改修に当たっては、改修による省エネルギー効果等を踏まえ、必要に応じ、ZEB 化を見据えた中長期的な改修計画を検討すること。
🡺 大規模改修時にあっては ZEB 等の省エネ基準を満たす可能性を検討すること
🡺 改修による省エネ効果を踏まえつつ、段階的な ZEB 化の実現を図るために中長期的な改修計画について検討すること
また、建築物の改修に係る契約のうち、その他の省エネ改修事業に係る契約の基本的考え方及びその対応の方向は、以下のとおりである。
❑ その他の省エネ改修事業の立案に当たっては、当該施設の運用段階におけるエネルギー消費量等のデータの活用に努めるとともに、必要に応じ、改修後の維持管理における運用改善に資するエネルギー管理機能の拡充を図ること。
🡺 維持管理の運用段階におけるデータの積極的な活用を図ること
🡺 改修に当たってエネルギー使用実態に基づき設備容量を最適化することによる定格時の性能向上及び低負荷時の効率低下の抑制を検討すること
🡺 改修後の維持管理の運用改善に資するエネルギー消費量等のデータ計測・分析ツール、制御システムの導入等のエネルギー管理機能の拡充を検討すること
❑ その他の省エネ改修事業の発注に当たっては、当該施設の特性及び当該改修の目的等に応じたエネルギー消費量又は温室効果ガス等の排出量等の削減に資する契約方式を選択すること。
🡺 発注に当たっては、当該施設の改修計画を踏まえ、要求仕様及び入札条件を設定するとともに、適切な契約方式等を選択すること
-178-
❑ 具体的な要求仕様及び入札条件については、当該改修の目的等を踏まえ、調達者において設定すること。
2-2 対象とする業務範囲等
省エネルギー・脱炭素化に資する改修事業は、建築物の築年数、改修の目的、施設面積、建物の用途、改修の規模あるいは予算等に応じ、対象とする業務の範囲は広範多岐にわたり、また、業務の発注に当たっても、老朽化した複数施設を包括して一括で発注する場合、事前調査、設計、施工を分割して発注する場合もあり、発注方法も様々となっている。
こうした改修事業の契約に係る態様を踏まえ、その他の省エネ改修事業において対象とする業務は、ESCO 事業以外の省エネルギー・脱炭素化に資する改修事業としている。一般には設備機器等の老朽化に伴う更新に併せて改修を行う場合が多いと考えられることから、躯体(外皮)の断熱性能の向上はもちろん、設備機器等の更新に伴う省エネルギー性能の向上、再生可能エネルギー設備や再生可能エネルギー導入に資する蓄電設備の設置等を含め、省エネルギー・脱炭素化に資する改修事業を幅広く対象とする。ただし、省エネルギー・脱炭素化以外の項目が特に優先される事業、省エネルギー・脱炭素化に工夫の余地がほとんどない事業等については、調達者の判断により対象外とすることができるものとするが、このような場合にあっても、当該建築物の改修目的等を踏まえ、省エネルギー性能向上のための取組について検討し、可能な限り実施することが望ましい。
また、大規模な改修に係る設計業務は、建築物の設計に係る契約の対象となることから、
「Ⅴ-2.建築物の設計に係る契約の基本的事項について」を参照されたい。
2-3 その他の省エネ改修事業に係る契約に当たっての留意事項等
建築物に係る契約の基本的事項において、「既存建築物の改修に当たっては、改修による省エネルギー効果等を踏まえ、必要に応じ、ZEB 化を見据えた中長期的な改修計画を検討するものとする」とされている。また、「地域脱炭素ロードマップ86」においては、脱炭素の基盤となる 8 つの重点対策のうちの一つとして、国等の機関は、公共施設など既存建築物における省エネルギー対策の徹底、更新や改修時に ZEB 化を推進することが求められている。
このため、その他の省エネ改修事業に係る契約に当たっては、第一に ZEB 化の実現可能性について検討を行い、実現困難又は実現可能性が低い場合には、当該建築物の特性等を踏まえ、適切な省エネ改修を実施することが望ましい。
(1)ZEB 化を見据えた改修
大規模な改修事業であって、ZEB 化水準の省エネルギー性能を満たすことが可能な建築物については、当該性能を積極的に満たし、ZEB 化の実現を図ることも考えられる。一方、1回の改修でZEB 化の実現が困難な場合は、当該建築物のエネルギー性能・省エネルギー効果、要する費用等を検討し、実現可能な範囲で部分改修を積み重ね、中長期的に ZEB 化を見据えた改修計画を立案することが求められる。
このため、当該建築物の改修に当たっては、以下の検討を行い、可能な限り ZEB 化の実現
-179-
86 国・地方脱炭素実現会議(令和 3 年 6 月)
を目指すことが重要である。
🔾 直近で大規模な改修を計画している場合は ZEB 化の実現(ZEB 化水準のエネルギー性能の確保)可能性の検討
🔾 中長期的な改修時期及び目指すべき省エネルギー性能の水準を検討・設定するとともに、改修計画を踏まえた段階的な改修内容及び費用等の検討
① ZEB 化に向けた省エネルギー技術等
新築建築物に比べ、一般に導入可能な技術に制限がある場合が多い既存建築物の改修においても、汎用的な技術を効果的に組み合わせることにより、大きな省エネルギー効果が発揮される場合も多くみられる。
表Ⅴ-4.2.2-1 は、環境省の補助事業において ZEB 化改修(改修による既存建築物の ZEB化)に当たって導入された技術を整理したものである。ZEB 化改修の場合であっても、多くの場合は既存の汎用的な技術の活用で対応可能となっている。
表Ⅴ-4.2.2-1 ZEB 化改修に導入されている主な省エネルギー技術等
区分 | 技術 | 導入❹ | |
パッシブ技術 | 外⽪断熱(屋根、外壁、床等) | ◎ | |
外⽪(開⼝部) | ◎ | ||
日射遮蔽(ルーバー、庇、ブラインド等) | △ | ||
アクティブ技術 | 空調 | ⾼効率空調(PAC、EHP、GHP) | ◎ |
⾼効率交換機(RAC) | △ | ||
全熱交換器 | △ | ||
⾼効率給湯器 | △ | ||
照明 | LED照明器具 | ◎ | |
換気 | ⾼効率ファン | △ | |
受変電・コンセント | ⾼効率トランス | △ | |
蓄電池 | ○ | ||
EMS | BEMS | ○ | |
創エネ技術 | 太陽光発電 | ◎ |
注:環境省補助事業に採択された既存建築物の導入技術を集計。◎:導入率 80%以上、○:50~ 79%、△:20~49%
資料:環境省「ZEB PORTAL-ネット・ゼロ・エネルギービル(ゼブ)ポータル」より作成
-180-
ZEB 化改修に導入されている技術としては、表Ⅴ-4.2.2-1 及び図Ⅴ-4.2.2-1 に示したとおり、大きく「エネルギーを減らすための技術(省エネ技術)」と「エネルギーを創るための技術(創エネ技術)」に分けられ、さらに省エネ技術は「エネルギー需要を減らすための技術(パッシブ技術)」と「エネルギーを効率的に利用する技術(アクティブ技術)」に分けられる。また、エネルギー管理機能の導入により、維持管理の運用段階におけるエネルギーの計測・分析等に基づく継続的改善につなげることが可能となる。
多くの建築物で導入されている技術としては、外皮断熱、高効率空調、LED 照明、太陽光発電であり、いずれも汎用的な技術となっている。これらの技術は、個々に導入することによっても、相応の省エネルギー効果を発揮するものであるが、当該建築物の用途・利用形態等の特性及びエネルギー消費量等のデータ計測・分析等を踏まえ、採用する省エネルギー技術を選択し、適切に組み合わせることにより、さらに大きな効果が得られることが期待される。
図Ⅴ-4.2.2-1 ZEB 化を実現するための技術等
資料:環境省「ZEB PORTAL-ネット・ゼロ・エネルギービル(ゼブ)ポータル」
② 既存建築物の ZEB 化に向けた取組
既存建築物における ZEB 化に向けた取組の方向性はとしては、建築物における負荷の低減と設備等の効率化を図ることにより、エネルギー消費を削減することが、第一段階となる。すなわち、外皮性能の向上等により負荷の低減を図った上で、必要となるエネルギー需要に対して、自然エネルギーの利用や設備システムの高効率化等を行い、さらに再生可能エネルギーの導入により、建築物のエネルギーの自立性を高めていくことになる。
また、上記①のとおり、当該建築物の特性を踏まえた適切なパッシブ技術及びアクティブ技術を選択し、適切に組み合わせた改修を行い、可能な限り、ZEB 化に向けて取り組むことが重要である。
(2)データの活用とエネルギー管理機能の拡充
設備機器等の改修時に熱源、空調、照明などの設備容量を最適化(ダウンサイジング87等)することで大きな省エネルギー効果が得られる場合も少なくない。こうした改修時において
-181-
87 例えば、設計段階において、空調システムの設備容量や能力に余裕を持たせている場合がある。この場合は、一般的に実際の負荷に対して設備容量が大きくなることから、熱源の台数分割や適切な制御等を行わなければ、効率的でない運転が多くなり、結果として多くのエネルギーを消費することもある。
最適な設備機器等の更新を行い、省エネルギー効果の発揮、コストの削減等を図るためには、維持管理の運用段階におけるエネルギー消費量等のデータ計測・分析等の結果等を踏まえた対応が不可欠である。
-182-
また、改修後の運用改善を図るために必要となる建築物のエネルギー管理機能については、省エネルギー対策の推進を図る観点から、当該施設におけるエネルギー管理レベル、計測・計量項目や運用状況等を踏まえ、改修段階において必要な機能等を検討の上、データ計測・分析ツールや制御システムの導入又は更新など拡充を図るとともに、必要に応じ、設備機器等の省エネルギー性能を適切に発揮するため、運転指針等の作成及び施設管理者への引き継ぎ等を求めることも重要と考えられる。
3.契約方法等について
3-1 契約方式の選択
その他の省エネ改修事業に係る契約に関する基本的事項において、「その他の省エネ改修事業の発注に当たっては、当該施設の特性及び当該改修の目的等に応じたエネルギー消費量又は温室効果ガス等の排出量等の削減に資する契約方式88を選択するものとする」とされており、その他の省エネ改修事業の発注に当たっては、当該改修の目的・内容等に照らして、エネルギー消費量又は温室効果ガス等の排出量等の削減に資する契約方式を選択することが求められる。そのためには、一定の資格、実績等のみを競争参加要件とすることにより、発注者が求める省エネルギー・脱炭素化に係る成果が確保される場合又は改修内容に技術的な工夫の余地がほとんどない場合等を除き、原則として、エネルギー消費量又は温室効果ガス等の排出量等の削減を評価テーマの一つとする技術提案を求めることとする。
なお、技術提案を求める契約方式としては、プロポーザル方式又は総合評価落札方式のいずれかを選択することを想定している。
また、以下に示すプロポーザル方式及び総合評価落札方式については、国土交通省の「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式の運用ガイドライン89」を参考として記載している。これらの契約方式の実施手順、審査・評価等の詳細については、同ガイドラインを参照されたい。
(1)プロポーザル方式
当該業務の内容が技術的に高度なもの又は専門的な技術が要求される業務であって、提出された技術提案に基づいて仕様を作成する方が優れた成果を期待できる場合は、プロポーザル方式を選択する。また、象徴性、記念性、芸術性、独創性、創造性等を求められる場合(いわゆる設計競技方式の対象とする業務を除く。)などをはじめ、「Ⅴ-2.4-3(1)プロポーザル方式の適用範囲」に示した業務についてもプロポーザル方式の対象とする。なお、上記の考え方を前提に、大規模改修以外の設計業務の場合は、可能な限り、プロポーザル方式を選択するよう努めるものとする。
プロポーザル方式においては、業務内容に応じて具体的な取組方法の提示を求めるテーマ
(評価テーマ)を示し、評価テーマに関する技術提案を求め、技術的に最適なものを特定す
88 本解説資料においては、契約方式としてエネルギー消費量又は温室効果ガス等の排出量等の削減を評価テーマの一つとする技術提案を求めるプロポーザル方式及び総合評価落札方式のいずれかを選択することを想定し、その内容を解説している。他方、ESCO 事業に代表されるパフォーマンス契約(効果保証契約)により省エネルギー効果や温室効果ガス等の排出量等の削減を保証する契約形態もあり、当該施設の特性や改修目的等を踏まえ、発注者において採用可能性について検討することも選択肢の一つである。ただし、パフォーマンス契約の締結に当たっては、業務の各段階におけるリスク分担や問題発生時の対応等について事前に明らかにして契約に適切に盛り込むことが必要である。
-183-
89 平成 27 年 11 月策定。ガイドラインの内容は、適宜見直しが行われていることから、必要に応じ、最新の資料を確認されたい。
ることとなる。プロポーザル方式を選択した場合のその他の省エネ改修事業における技術提 案のテーマ設定例は、以下のとおりであるが、当該改修の目的等を踏まえ、調達者が適切に設定することが必要である。
【技術提案のテーマ設定例】
🔾 建築物の特性を踏まえ機能・品質を確保した上で徹底的な省エネルギー対策に取り組むための改修事業における配慮事項について
🔾 中長期的に ZEB 化を目指す上での省エネルギー技術(パッシブ技術、アクティブ技術等)の活用の考え方について
🔾 建築物の特性を考慮した、効果的なエネルギー消費量の削減又は温室効果ガスの排出削減に関する考え方について(一般項目の提示ではなく地域特性、施設の特性等を踏まえたより効果的な方策)
🔾 省エネルギー性能を確保した上で、快適性、レジリエンス及びコストの縮減を実現するための考え方について
🔾 地域性を考慮した再生可能エネルギーの最大限の導入に関する考え方について
🔾 改修事業終了後における維持管理の運用段階におけるエネルギーマネジメントの考え方について
(2)総合評価落札方式
総合評価落札方式は、事前に仕様を確定可能であるが、入札者の提示する技術等によって、調達価格の差異に比して、事業の成果に相当程度の差異が生ずることが期待できる場合に選択する。
総合評価落札方式を選択した場合は、当該業務の実施方針以外に業務内容に応じて具体的 な取組方法の提示を求めるテーマ(評価テーマ)を示し、評価テーマに対する技術提案を求 めることによって品質向上を期待する業務の場合は標準型の総合評価落札方式を選択し、評 価テーマに関する技術提案を求める必要がない場合は簡易型の総合評価落札方式を選択する。
総合評価落札方式の評価項目としては、一般に設定されている専門性(技術者の資格)や業務実績・実施体制等の技術力に加え、その他の省エネ改修事業における技術提案のテーマ 設定例は、以下のとおりであるが、当該改修の目的等を踏まえ、調達者が適切に設定することが必要である。
【技術提案のテーマ設定例】
🔾 建築物のエネルギー管理目標・管理指標を踏まえた改修の考え方について
🔾 複数の省エネルギー技術の統合化による効果的な省エネルギー対策について
🔾 データ分析による室内環境、設備運転特性、エネルギー消費量等に係る性能評価について
🔾 エネルギー管理に必要となるデータ計測・分析及び活用の考え方について
-184-
🔾 地域の自然的条件、建築物の特性を踏まえた空調負荷の総量及びピーク削減の考え方について
🔾 改修事業終了後の設備機器等の適切な運転の考え方及び施設管理者への引き継ぎについて
(3)価格競争方式
上記(1)及び(2)の方式によらず、入札参加要件として一定の資格や実績等を付すことにより、発注者が期待する省エネルギー、温室効果ガス排出削減に係る成果や業務の品質が確保できる場合(業務履行能力のない者の排除が可能)は、価格競争方式(最低価格落札方式)を選択する。なお、入札参加要件の設定に当たっては、競争性の確保を考慮する必要がある。
3-2 契約方式の手続等
-185-
前述のとおり、プロポーザル方式又は総合評価落札方式の実施手順、審査・評価等の具体的な運用については、国土交通省が策定した「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式の運用ガイドライン」などを参照すること。
4.その他
調達者は、前項までの事項を踏まえ、評価内容の担保、公正な競争の確保の観点から、以下の点に留意しながら契約業務を行うものとする。
❑ 入札参加資格を設定する場合は、調達者の求める成果を踏まえつつ、当該地域の状況を勘案し、適切に設定するものとする。
❑ プロポーザル方式又は総合評価落札方式においては評価テーマに係る技術提案の内容を適切に契約条件として反映するものとする。
-186-
❑ プロポーザル方式又は総合評価落札方式においては評価項目、評価基準及び評価結果について情報公開を行うものとする。