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33-7
「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対して寄せられた意見の概要(各論6)
○ この資料は,中間論点整理第47から第63までに関する意見を内容としている。
○ 略語及び団体名等の略称は,部会資料33-1参照。
目 次
第47 役務提供型の典型契約(雇用,請負,委任,寄託)総論 1
第48 請負 11
2 注文者の義務 22
3 報酬に関する規律 34
(3) 仕事の完成が不可能になった場合の費用償還請求権 52
4 完成した建物の所有権の帰属 56
5 瑕疵担保責任 60
(3) 土地の工作物を目的とする請負の解除(民法第635条ただし書) 70
(5) 請負人の担保責任の存続期間(民法第637条,第638条第2項) 78
(6) 土地工作物に関する性質保証期間(民法第638条第1項) 88
6 注文者の任意解除権(民法第641条) 98
(1) 注文者の任意解除権に対する制約 98
(2) 注文者が任意解除権を行使した場合の損害賠償の範囲(民法第641条) 101
7 注文者についての破産手続の開始による解除(民法第642条) 105
8 下請負 107
(1) 下請負に関する原則 107
(2) 下請負人の直接請求権 111
(3) 下請負人の請負の目的物に対する権利 124
第49 委任 129
1 受任者の義務に関する規定 129
(1) 受任者の指図遵守義務 129
(2) 受任者のxx義務 138
(3) 受任者の自己執行義務 145
(4) 受任者の報告義務 153
(5) 委任者の財産についての受任者の保管義務 158
(6) 受任者の金銭の消費についての責任(民法第647条) 160
2 委任者の義務に関する規定 163
(1) 受任者が債務を負担したときの解放義務(民法第650条第2項) . 163
(2) 受任者が受けた損害の賠償義務(民法第650条第3項) 166
(3) 受任者が受けた損害の賠償義務についての消費者契約の特則(民法第6
50条第3項) 171
3 報酬に関する規律 175
(1) 無償性の原則の見直し(民法第648条第1項) 175
(2) 報酬の支払方式 179
(3) 報酬の支払時期(民法第648条第2項) 182
(4) 委任事務の処理が不可能になった場合の報酬請求権 185
4 委任の終了に関する規定 191
(1) 委任契約の任意解除権(民法第651条) 191
(2) 委任者死亡後の事務処理を委託する委任(民法第653条第1号) . 196
5 | 準委任(民法第656条) ....................................... | 204 |
6 | 特殊の委任 ..................................................... | 210 |
(3) 破産手続開始による委任の終了(民法第653条第2号) 201
(1) 媒介契約に関する規定 210
(2) 取次契約に関する規定 218
(3) 他人の名で契約をした者の履行保証責任 222
第50 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定 224
1 新たな受皿規定の要否 224
2 役務提供者の義務に関する規律 237
3 役務受領者の義務に関する規律 245
4 報酬に関する規律 249
(1) 役務提供者が経済事業の範囲で役務を提供する場合の有償性の推定 . 249 (2) 報酬の支払方式 251
(3) 報酬の支払時期 256
(4) 役務提供の履行が不可能な場合の報酬請求権 259
5 任意解除権に関する規律 266
6 役務受領者について破産手続が開始した場合の規律 274
7 その他の規定の要否 277
8 役務提供型契約に関する規定の編成方式 279
第51 雇用 282
1 総論(雇用に関する規定の在り方) 282
2 報酬に関する規律 291
(1) 具体的な報酬請求権の発生時期 291
(2) 労務が履行されなかった場合の報酬請求権 294
3 民法第626条の規定の要否 302
4 有期雇用契約における黙示の更新(民法第629条) 304
(1) 有期雇用契約における黙示の更新後の期間の定めの有無 304
(2) 民法第629条第2項の規定の要否 308
5 その他 310
第52 寄託 311
1 寄託の成立―要物性の見直し 311
(1) 要物性の見直し 311
(2) 寄託物の受取前の当事者間の法律関係 317
(3) 寄託物の引渡前の当事者の一方についての破産手続の開始 319
2 受寄者の自己執行義務(民法第658条) 321
(1) 再寄託の要件 321
(2) 適法に再寄託が行われた場合の法律関係 323
3 受寄者の保管義務(民法第659条) 327
4 寄託物の返還の相手方 329
5 寄託者の義務 333
(1) 寄託者の損害賠償責任(民法第661条) 333
(2) 寄託者の報酬支払義務 338
6 寄託物の損傷又は一部滅失の場合における寄託者の通知義務 341
7 寄託物の譲渡と間接占有の移転 344
8 消費寄託(民法第666条) 347
9 特殊の寄託―混合寄託(混蔵寄託) 352
10 特殊の寄託―流動性預金口座 354
(1) 流動性預金口座への振込みによる金銭債務の履行に関する規律の要否 354
(2) 資金移動取引の法律関係についての規定の要否 361
(3) 指図に関する規律の要否 363
(4) 流動性預金口座に存する金銭債権の差押えに関する規律の要否 365
(5) 流動性預金口座に係る預金契約の法的性質に関する規律の要否 368
11 特殊の寄託―宿泊事業者の特則 369
第53 組合 371
1 組合契約の成立 372
(1) 組合員の一人の出資債務が履行されない場合 372
(2) 組合契約の無効又は取消し 376
2 組合の財産関係 380
3 組合の業務執行及び組合代理 388
(1) 組合の業務執行 388
(2) 組合代理 390
4 組合員の変動 392
(1) 組合員の加入 392
(2) 組合員の脱退 393
5 組合の解散及び清算 398
(1) 組合の解散 398
(2) 組合の清算 402
6 内的組合に関する規定の整備 405
第54 終身定期金 408
第55 和解 412
1 和解の意義(民法第695条) 412
2 和解の効力(民法第696条) 417
(1) 和解と錯誤 417
(2) 人身損害についての和解の特則 422
第56 新種の契約 427
1 新たな典型契約の要否等 427
2 ファイナンス・リース 432
第57 事情変更の原則 454
1 事情変更の原則の明文化の要否 454
2 要件論 469
3 効果論 475
(1) 解除,契約改訂,再交渉請求権・再交渉義務 475
(2) 契約改訂の法的性質・訴訟手続との関係 483
(3) 解除権と契約改訂との相互関係 485
第58 不安の抗弁権 486
1 不安の抗弁権の明文化の要否 486
2 要件論 497
3 効果論 507
第59 契約の解釈 512
1 契約の解釈に関する原則を明文化することの要否 512
2 契約の解釈に関する基本原則 518
3 条項使用者不利の原則 524
第60 継続的契約 536
1 規定の要否等 536
2 継続的契約の解消の場面に関する規定 543
(1) 期間の定めのない継続的契約の終了 543
(2) 期間の定めのある継続的契約の終了 549
(3) 継続的契約の解除 555
(4) 消費者・事業者間の継続的契約の解除 560
(5) 解除の効果 562
3 特殊な継続的契約-多数当事者型継続的契約 563
4 分割履行契約 569
第61 法定債権に関する規定に与える影響 571
第62 消費者・事業者に関する規定 583
1 民法に消費者・事業者に関する規定を設けることの当否 583
2 消費者契約の特則 613
3 事業者に関する特則 618
(1) 事業者間契約に関する特則 618
(2) 契約当事者の一方が事業者である場合の特則 621
(3) 事業者が行う一定の事業について適用される特則 624
第63 規定の配置 629
第47 役務提供型の典型契約(雇用,請負,委任,寄託)総論
一方の当事者が他方の当事者に対して役務を提供することを内容とする典型契約には,民法上,雇用,請負,委任及び寄託があるとされている。しかし,今日の社会においては新しい役務・サービスの給付を目的とするものが現れており,役務提供型に属する既存の典型契約の規定によってはこれらの契約に十分に対応できないのではないかとの問題も提起されている。このような問題に対応するため,役務提供型に属する新たな典型契約を設ける考え方や,役務提供型の契約に適用される総則的な規定を設ける考え方が示されている(後記第50参照)ほか,このような考え方を採用する場合には,これに伴って既存の各典型契約に関する規定の適用範囲の見直しが必要になることもあり得る(後記第48,1,第49,5参照)。
役務提供型の典型契約全体に関して,事業者が消費者に対してサービスを提供する契約や,個人が自ら有償で役務を提供する契約など,当事者の属性等によっては当事者間の交渉力等が対等ではない場合があり,交渉力等において劣る方の当事者の利益を害することのないように配慮する必要があるとの問題意識や,いずれの典型契約に該当するかが不明瞭な契約があり,各典型契約の意義を分かりやすく明確にすべきであるとの問題意識が示されている。これらの問題意識なども踏まえ,各典型契約に関する後記第48以下の論点との関連にも留意しつつ,新たな典型契約の要否,役務提供型の規定の編成の在り方など,役務提供型の典型契約の全体的な在り方について,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第1[1頁]】
【意見】
○ 現在社会においては,雇用,請負,委任及び寄託に分類することが必ずしも適切ではない役務提供型契約が出現しているが,これらを準委任契約あるいは無名契約と位置付けて場当たり的に適用されるべき任意法規を選択することは法的安定性を欠くことになる。したがって,できるかぎり明確に類型化を図り,それぞれについて適切な任意規定群を定めることが望ましい。また,いずれの類型にあたるか判然としない契約が存することも避けられないと考えられるから,一般的な受皿規定を新設する必要性も認められるが,その内容については慎重に検討していく必要がある。なお,請負,委任,準委任の区分について,見直す必要があるとしても,従来の実務の安定性を害す危険があるため,慎重にならなければならない。(兵庫県弁)
○ 役務提供型契約全体に適用される総則的な規定を設ける考え方については反対する。役務提供契約の新たな典型契約を設ける考え方については,その内容について慎重に検討すべきである。
役務・サービス提供契約は,様々な契約類型が存在する。事業者と消費
者との間の役務・サービス提供契約もあれば,事業者と役務提供者との間の役務・サービス契約もある。後者は,さらに実質的に使用従属関係にある雇用契約,使用従属関係にあるとまでは言えないが役務提供者が弱い立場にある役務提供契約もある。例えば,力士の役務提供契約,プロ野球選手の役務提供契約である。また,独立の対等の事業者間の役務・サービス契約もある。これら全体をカバーする総則規定をおくことが可能なのか。また,総則規定によって適切に規律できるかは疑問である。したがって,役務提供契約の総則規定を置くことには反対である。
役務提供契約の新たな典型契約を設ける考え方について,上記のような様々な類型が存在する中で,典型契約で役務提供契約を置くことの意味や役割について慎重に検討すべきである。(日弁連)
○ 今日では,多種多様な役務提供型の契約が存在しており,その中には現行法の典型契約には収まりきらないものも存在するので,そういったものについて,解釈の指針となるような規律を設けることが望ましいことは否定しえないとの意見がある一方で,使用従属関係にあり,本来労働者として労働関係法規の適用を受けるべき者について,雇用契約ではない新たな役務提供型の典型契約の利用により,労働関係法規の潜脱がなされるおそれがあるとして,役務提供型の新たな典型契約を設けることに反対する意見がある。ただし,前者の立場に立つとしても,典型契約には該当しない多種多様な契約を全てカバーしうるような規律を定めることができるのか等,慎重に検討する必要がある。
後述のような役務提供型契約の受皿となる総則的規定を設けるということを前提に検討するのであれば,交渉力等において务る方の当事者の利益を害することのないように配慮する必要性から,役務提供者のxxな利益を保護する規制(役務受領者の任意解除権を制限したり,役務受領者に安全配慮義務を課すなど)を総則規定に設けるべきである。また,総則的規定と,雇用,請負,委任,寄託の4つの典型契約についての規定との適用関係について,実務上混乱を来すことがないように配慮することが必要である。(横浜弁)
○ 典型契約に当てはまらない類型について解釈の指針を示す必要があり,この類型を設けることでより適切な規律が可能になる場面も少なくないと思われることから,新たに典型契約としてある程度汎用性のある役務提供型の規定を設けることに賛成する。ただし,従前の取扱と大きな変更がないよう慎重に検討する必要がある。総則的,受け皿規定を設けることに反対する。(札幌弁)
○ 現行法の規定では適切な規制ができず,特別法に委ねることも適当ではない契約類型が多く見受けられるのであれば,典型契約全体を見直す必要性があると考える。もっとも,そのために新たな典型契約の規定が必要であるかは疑問がある。四つの典型契約は維持しつつ,規定を細分化し,あ
るいは整理して,現行法の規定では必ずしも対応できていない部分を埋められるのではないか。
サービス契約の種類・内容は日々変化していくから,現在における個々のサービス契約への対応を追求しすぎると,基本法たる民法典の普遍性を損なうおそれがある。新しいサービス契約から抽出される要素のうち,現行法の規定では対応できない部分について,一般的・抽象的な規定を追加するにとどめるべきである。(愛知県弁)
○ 役務提供型の契約に適用される総則的な規定を設ける考え方は,慎重に検討すべきである。「総則的な規定を設ける考え方」については消極・積極の両意見があったので,以下のとおり両論を併記する。
消極意見は,いわゆるサービス契約(役務提供契約)は無名契約又は典型契約の混合契約として解されているところ,従来どおり当事者の合意内容に典型契約規定の規律を適用して解釈・処理すれば足りるというものである。そもそも,多様なサービス契約の共通則を抽出することは困難であり,総則的な規定を設けるとしても,結局はいずれかの典型契約規定の規律の混合か,あるいは,いずれの典型契約規定にも見られない独自の規律になってしまうと思われることなどが理由となる。
積極意見は,法秩序保持の観点から,サービス契約(役務提供契約)のデフォルトルールを設けておく意義があるというものである。すなわち,サービス契約(役務提供契約)の規律のいわば最大公約数となる共通則を探索し,総則規定とするとか(最大公約数で割れないものは無名契約として残らざるを得ない。),あるいは典型契約規定の共通則を抽出して,この共通則をサービス契約(役務提供契約)の総則規定としようとする(各典型契約規定には残存規定のみが留まる。)ものである。これに対しては,共通則(典型契約規定の上位規定としての意味がある。)から下部規定へという順序であてはめて,当事者の合意内容を解釈していく思考方法は,従来のやり方とは異なり実務的に困惑するという指摘があった。(二弁)
○ 新しいサービスの給付を目的とする契約へ対応する必要があること,新しいサービスの給付の形が多様化してきており,法律との整合性を図る必要があることから,役務提供型の規定の見直しが必要である。(xx弁消費者委)
○ 新しいサービス供給契約について請負や準委任に当てはまらないと思われるものがあり,典型契約として規定を新設する必要が生じているから,役務提供契約の新設に賛成。
規定の新設の理由が上記要請に対応するためであり,総則規定として無理に整備する必要はないし,総則規定として整備しようとするとかえって論理的整合性をとるのが難しくなるおそれがある。したがって,請負,委任等の上位概念である総則的規定として規定し,当てはまらないものの受け皿規定の機能も果たさせる規定の仕方には反対。(法友全期)
○ 現代社会においては,在学契約,語学学校の受講契約,エステティックサロンの施術契約等(以下これらの契約を「サービス契約」という。),民法が必ずしも想定していたとは言い難い契約類型が含まれている。即ち,民法起草時において,起草者の構想としては,役務提供契約を請負と雇用のいずれかに分類できると考えていたようであるが,戦後「支配従属性」の要素が雇用に取り込まれて理解されるようになったのに伴い,請負でも雇用でもない役務提供契約が存在することとなったようである。これまでは,サービス契約につき委任に関する規定が適用ないし準用されることが多かったが,ⅰ)委任に関する規定によるとすれば,サービス提供者も任意解除権を有することとなるが,特定のサービス契約にかかる解除権を認めることが妥当とは言えない場合があること,ⅱ)請負類似のサービス契約で,物と結びつかない仕事の完成を内容とする場合は,請負契約に関する規定の多くが適用されない,等,民法がこれらのサービス契約に対して適切な規律を示せていないことがある。加えて,サービス契約は,消費者契約として締結されることが多く,サービス契約の解約の可否,違約金の内容につき,消費者,事業者間でトラブルが生じやすい。特定のサービス契約における消費者保護の観点から,特定商取引法に「継続的役務提供契約」に関する規定を設けたのがその一例である。かかる社会状況に鑑みれば,民法にサービス契約に関する規定が存しない状況は好ましくなく,新たに,役務提供型契約に関する規定を設けるべきである。
役務提供型契約の規定の方法としては,ⅰ)特定のサービス契約のみを 新たな典型契約として民法に規定する,ⅱ)有償のサービス契約について 独自の規定を民法に規定する,ⅲ)役務提供型契約の総則的規定を設ける,というものが考えられるが,ⅰ)は時代の変化に応じて新たに生じるサー ビス契約の類型に即応できない,ⅱ)は特に有償のサービス契約のみを切 り出す理由に乏しい,という点でいずれも適切ではない。よってⅲ)によ るのが妥当である。この方法は,個々具体的なサービス契約に対する規律 としては不十分である,と否定的に考える向きもあろうが,時代の変化に 即応できる点や,サービス契約において紛争が生じる法律問題はある程度 共通性を有するため,これらに一般的に妥当すると考えられる規律を取り 出せば保護に欠ける訳ではないこと,から,必ずしも批判はあたらない。
(日弁連消費者委xx)
○ 有料老人ホームへの入居契約の性質については,賃貸借に類似する契約形態も存在するものの,その契約上の性質については明確ではない点がある。また,入居契約における入居者の地位の相続,解除の制限,入居保証金の償却,借地借家法の適用等に関して,不統一な解釈がなされると,有料老人ホームの運営に予測可能性が失われ,結果として優良な事業者が有料老人ホーム事業に参入しなくなったり,既存の事業者が念のため多額の入居保証金を徴収することになりかねない。そのため,有料老人ホームの
入居契約についても役務提供型の一種として権利義務関係が明確になるように典型契約の一種として規定することを検討してはどうか。(xx・xx・xxxx)
○ 役務提供型の契約には,事業者が消費者にサービスを提供する契約のように役務提供者が強い立場にあるものもあれば,個人が自ら役務を提供する契約のように実質的に雇用に類似したものもあり,後者の契約においては役務提供者が弱い立場にあることから,その保護を図る必要性があることに留意して検討すべきである。また,消費者契約の分野では,請負に該当するか委任に該当するかが消費者にとって分かりにくい契約が増えていることから,それぞれの典型契約の意義を明確にすべきである。
新たな典型契約の要否,役務提供型の規定の編成の在り方など,役務提供型の典型契約の全体的な在り方としては,諸外国の例をみても種々多様であるが,雇用,請負,寄託と並んで「サービス(役務)契約」に相当する別の類型を設け,これに適用される総則規定を設けるとともに,「サービス(役務)契約」の下位概念として委任,仲介,代理商,医療,情報・助言を提供する契約などに関する規定を設ける例などがあり,参考になるものと思われる。
規定の配置にあたっては,国民にとっての分かりやすさと現役の法律家 にとってのなじみやすさという観点から,法制度の機能性と民法典の構造 的な視点との調和を基本に,債権関係の規定の配置に関する態度決定が民 法典の他の部分に与える影響等の観点に留意しつつ,現在の体系を維持し たうえで,若干の修正を加えることが考えられる。具体的には,契約の効 力に関する諸種の事項の規律については,そのうち基本原則に係る部分は,債権の効力に関する通則的な規定を置く部分に置き,また,契約に固有の 規律部分は,契約の総則規定群に置き,各種の契約に関する規定群を債権 及び契約総則に関する規定群から独立させたうえで,各種契約類型の配列 を再検討すること,典型契約の配列に関しては,典型契約の類型化を重視 すると,個々の典型契約の性質よりも類型としての性質が重視されるおそ れがあるため,配列の検討にあたっては慎重な検討が必要であること,各 種の契約類型に横断的に適用され得る規定として,第三者のためにする契 約に関する規定及び継続的契約に関する規定を設ける場合における当該規 定の配置についても検討すべきであること,などに留意した再編が望まれ る。(「改正を考える」研)
○ 役務提供契約と請負契約,委任契約,雇用契約の関係について。法制審議会が参考とするDCFRやPELSCにおいても,総則規定としての役務提供契約,下位概念としての種々の請負契約が規定されているが,委任契約は役務提供契約に含まれておらず,雇用契約については別の法規範によっている。ローマ法以来の伝統的な「委任契約」概念と,xxxxの解釈により発展されたわが国の柔軟な「(準)委任契約」概念とは異なるも
のであり,それらについて十分に比較検討した上で,わが国にあった規範 を作り出す必要がある。上記の法規範では請負契約は細分化されているが,そこにはわが国において準委任契約とされるものも含まれている。その点 も考慮する必要があろう。(「改正を考える」研)
○ 役務提供型の契約には,事業者が消費者にサービスを提供する契約のように役務提供者が強い立場にあるものもあれば,個人が自ら役務を提供する契約のように実質的に雇用に類似したものもあり,後者の契約においては役務提供者が弱い立場にあることから,その保護を図る必要性があることに留意して検討すべきである。また,消費者契約の分野では,請負に該当するか委任に該当するかが消費者にとって分かりにくい契約が増えていることから,それぞれの典型契約の意義を明確にすべきである。
新たな典型契約の要否,役務提供型の規定の編成の在り方など,役務提供型の典型契約の全体的な在り方としては,諸外国の例をみても種々多様であるが,雇用,請負,寄託と並んで「サービス(役務)契約」に相当する別の類型を設け,これに適用される総則規定を設けるとともに,「サービス(役務)契約」の下位概念として委任,仲介,代理商,医療,情報・助言を提供する契約などに関する規定を設ける例などがあり,参考になるものと思われる。(日大民研・商研)
○ 役務提供契約と準委任契約との境界が不明確であり,新設にどのような意味があるのか。システム開発においては請負,準委任契約が定着しつつある時期に,この新しい役務提供契約をどのように使い分けていくべきなのか,まだまだ不透明である。現在,システム開発契約では,ユーザーとベンダーが協調し,その雛形となるモデル契約を提供し,普及・浸透しつつあり,今回の改正がこのモデル契約の全面的見直しなども危惧され,現場でのシステム開発契約に混乱が起きると考えられる。いずれにしてもいま少し,役務,請負,準委任の適用に関して詰めが必須である。(システム・ユーザー協)
○ 新たに一般規定を設けることにつき検討を行うことに異論はない。しかし,従来から存続する典型契約(雇用,請負,委任,寄託)については,実務上特段不都合を感じないため,かかる典型契約についてまで在り方全体を見直すことを更に検討すべきか,その必要性に留意して頂きたい。また,役務提供型の規定の検討においては,ある取引が各典型契約のいずれに該当するかという振分基準を明確にするよう留意して頂きたい。その上で,振り分けられた各取引につき,実態に合った規定が当該典型契約の所に置かれる形になっているかとくに留意して検討を進めて頂きたい。(貿易会)
○ 仮に,役務提供型契約に適用される総則的な規定を設ける場合には,悪徳商法や詐欺商法を意識するあまり,既存の正当な契約に著しく影響を及ぼしたり,新たな取引モデルの創作の妨げとなったりしないようにすべき
である。(自動車リース連)
○ 役務提供者の義務内容に「結果債務(役務提供者が契約で定めた目的又 は結果の実現そのものに義務付けられることを約する場合)」と「手段債 務(契約で定めた目的又は結果を実現するために一定の注意義務を負うこ とを約する場合)」があること,役務とそれに対する報酬の決定方法とし て「成果完成型」と「履行割合型」があることに基づいて整理し,これら の各類型を組み合わせることによって,現実の各種役務提供契約に柔軟に 対応し得る多様な規律を導くことが可能になると思われる。しかしながら,この新しい類型を使いこなすには,役務提供者の義務や報酬の支払方式の 具体化,各類型の組み合わせによって創出される役務提供契約のパターン の整理及び各契約類型の区分の明確化が必要と考える。
「結果債務」と「請負」概念との関係を考えた場合,この度の改正議論の中では,ある取引が「請負」であるか否かを判断するときの要件として
「目的物の引渡し」という概念を付加するという案が提起されているが,その案に基づき議論を進めるのであれば,ある取引において「無体物」の引渡しが行われた場合に当該取引を「請負」として取り扱うのか,それとも「結果債務」として役務提供契約のもとに規律するのか,考え方を整理する必要があると思われる。
また,既存の四つの典型契約の機能分担の見直しという点については,役務提供契約の一類型として雇用契約を取り扱うという考え方が提案されているが,役務提供契約に含まれる他の契約類型と雇用契約の大きな相違点として,雇用契約は,強行法規性の強い労働法体系の一部に組み込まれているという点がある。この点で,雇用は,必ずしも請負,委任,寄託と同様の文脈で論じることはできないと考える。一方で,近年問題となっている偽装請負の例に代表されるように,請負や狭義の役務提供(役務提供の傘下に属する各契約類型のいずれにも該当しないもの)と雇用の境界線を明確に区分することは実務上も重要な課題の一つとなっている。このような状況を考えると,役務の給付を目的とする他の典型契約と同様に雇用契約を役務提供契約の一部として取り扱うことについては,慎重に議論を進めた上で,役務提供契約との相違点を整理する必要があると思われる。その場合には,役務提供と雇用との相違について,雇用者と被用者の指揮命令関係を一つの判断要素とすることも考えられる。(法友会)
○ 役務提供契約にのみ総則を配置する理由が不明確である。また,当事者間の交渉力等が対等でない場合の配慮は,原則と例外が逆転しないよう十分な配慮が必要である。(個人)
○ 「新たな典型契約の要否,役務提供型の規定の編成の在り方など,役務提供型の典型契約の全体的な在り方」の検討にあたっては,委託者にとって,特に請負・委任の区別がわかる表意者に明確となるように,契約書へ記載すべき要件・表示事項を明示する点を検討に加えるべきである。その
理由として,役務提供としてのサービス提供の実際の契約書では,建築のように請負であることが明確なものは少なく,請負,委任他の契約類型が混在しているものが多く,契約書のタイトルは一般に「業務委託契約」,契約目的は「委託者は・・の業務を委託し,受託者はこれを受託した」とするものが多く,中小企業において結果債務であるか手段債務であるかについて契約後にトラブルとなることが多いことによる。(都民銀行)
○ 役務提供契約を「請負」「委任」「寄託」「雇用」を包摂する上位のカテゴリーとして位置づけ,規律するのであれば,適用範囲等を明確にするとともに,各類型の総則規定として適用されるのであれば十分な議論を行うべきである。なぜならば,この規定の内容は,一般的規定ではなく,報酬請求権の発生や役務提供者の義務の範囲を規律するなど,重要なものとなる。したがって,適用対象が広がることによる不均衡等が生じることがないかどうかについて十分な議論を重ねる必要があるとともに,その適用範囲,条文の対象を明確化するべきである。(弁護士,弁護士)
○ 役務提供型の契約については,いわゆる典型契約の概念が変わってきている。本来ならば,雇用契約であるべきものが,相手方の都合により,個人請負,あるいはグループ的請負とされているケースが少なくない。請負契約に積極的に変更する理由としては,社会保険の会社負担の回避,脱法的な節税,労災・安全衛生のリスク回避などがあげられる。つまり,労務提供型の請負については労働契約としてみなされるべき契約が含まれていることを考慮する必要がある。同時に,労務提供型の請負契約には,雇用契約と同様に契約相手とは不平等な立場におかれることがしばしばあり,民法改正において,この点は注視されなければならないと考える。(団体職員)
○役務提供型の典型契約につき,新たな典型契約を設けたり,総則的な規定を設けたりする場合には,既存の各典型契約に関する規定の適用範囲が見直される可能性も十分にあり得る。しかし,これに伴い各典型解約に関する規定の適用範囲が不明確になると,当事者としてはどの規定が適用されるのか予測が困難となることも十分に考えられる。この場合,実務上は,いかなる典型契約に属すると判断されても対処できるよう,全ての任意規定につき契約内にも重ねて規定せざるを得なくなり,契約締結の実務に不要な負担を課すことになる。このような契約締結の実務が定着すると,返って典型契約の全体的な在り方を検討する意義が没却されるものであるから,各典型契約の適用範囲は可能な限り明確に規定されるべきである。
(森・xxxxxx)
○ 現在の典型契約と無名契約及びこれを合体した内容の契約としての対処で十分であり,今後も社会情勢や経済情勢の変動による新しい契約が生まれることを考えれば,現時点での状況を前提に新たな典型契約の規定を設ける必要はないのではないかとの疑問を呈する意見が多かった。(最高
裁)
○ 準委任と役務提供行為との区別について適切な基準を見出しがたいので,現状では,典型契約としての役務提供契約規定を設けることは妥当ではな い。また,役務提供型契約に適用される総則規定を設けることについても,これにふさわしい総則規定を見出すことも困難であり,やはり現状では妥 当ではない。(東弁)
○ 今日,役務・サービスの提供を目的とする契約形態が多様化し,既存の 典型契約によっては十分に対応できていない事態が生じていることは事実 である。こうした多様化した契約形態に関連して生ずる問題に対しては, 解釈のみで対応するのではなく,明文化された規律でもって対応すること が,利用者にとってわかりやすく,また,不要なトラブルをなくすること ができるとも考えられる。しかし,役務提供型契約の内容は,請負・雇 用・準委任の混合契約ないし無名契約というべきものがその大半と思われ,現時点においては当該役務提供型契約の内容自体が様々であり,これに統 一的な解釈指針が判例等で示されているとは思われない。したがって,x x的な規定を設けることについては慎重であるべきである。また,新たな 典型契約を設けることも,新たな契約形態が多様化している以上,それら を全て網羅することは難しいように思われるので,慎重に検討するべきで ある。(広島弁)
○ 新たな役務提供型契約に対応する規律が民法典に存在せず,既存の典型契約がこれに対応できていないことは問題提起のとおりであるが,サービスの給付を目的とする契約の形態は極めて多様であり,これらすべて(将来発生するであろうサービスの給付を目的とする契約を含め)に対応する規律を定立できるのかは甚だ疑問である。それ故,新たな典型契約を創設するにしても,どういった契約を,どういった形で典型契約化するかについて,その必要性,対象の選択,規律の方法の各点において慎重に検討する必要がある。
役務提供型の契約が極めて多様であることからすれば,これらに等しく適用される総則的規定を創設することが可能か甚だ疑問であるから,役務提供型の契約に適用される総則的な規定を設けることには反対である。
既存の典型契約の規定の適用範囲を見直すとすれば,実務に混乱が生じることが予想されるし,また,役務提供者のなすべきことが同じであっても異なる典型契約に分類されるという事態が生じることも予想されるところであり,そのようなことを生じさせてまで既存の典型契約の規定の適用範囲を改める必要があるといえるか甚だ疑問であるから,既存の典型契約の規定の適用範囲の見直しについては反対である。(大阪弁)
○ 役務提供型の無名契約のうち,比較的概念及び契約形態が定着しているものについて,新しい典型契約を設けることを検討することには反対しないが,役務提供型の契約に適用される総則的な規定を設けることについて
は,現在及び将来のすべての役務提供型の契約に妥当する内容を設けることはできないので,反対する。役務提供型の典型契約相互の機能分担を見直すことについては,慎重に対応すべきである。当事者の交渉力,情報量の差等の問題は,消費者保護法や業界法等で対応すべきであり,民法に規定を設けることには反対である。(経営法曹)
○ 役務提供型の契約は様々であり,多様な契約類型について新たな役務提供型契約の典型契約を設けて一律に規律することは極めて困難であり,かえって多種多様な役務提供型契約の実態にそぐわない。よって新たな役務提供型の典型契約を定めることには反対する。(労働弁護団)
○ 役務提供型契約には,①消費者契約のように,役務受領者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,②労働契約のように,役務提供者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,③企業間契約のように役務提供者と役務受領者がある程度対等な場合があり,それぞれの類型毎に規律を検討する必要があるところ,消費者保護の視点のみを強調して規律を行うことは,役務受領者の立場を片面的に強化し,労働者や零細事業者その他の立場の弱い役務提供者の契約上の地位と役務提供先に対する報酬請求権を弱める結果を招くものである。役務提供契約に関する総則規定の創設については,労働者など役務提供者が弱者である場合への配慮が欠如した場合における影響が危惧される。今後の検討過程で,これらの危惧が具体化した場合においては,このような方向での法改正には賛成できない。(連合)
○ 様々な役務提供契約が現われていることは,国際取引でもプラント輸出契約,プロジェクト契約の変遷をみれば明らかではあるが,複雑なプロジェクト契約等を典型契約にあてはめて議論する必要性にも,新しい典型契約のカテゴリーを作ることの必要性にも疑問がある。実務では業界としての契約約款により当事者の権利義務が調整されており,現行の諸規定を変更すればかえって混乱を招くおそれがあるため,現状のままでよいと思われる。(国際取引xx)
○ 役務提供型の契約において交渉上の力関係への配慮は,独占禁止法または下請法によって手当てすべき問題であり,民法がここまで関与するのは相当ではない。(xxx)
○ 今日の社会においては新しい役務・サービスの給付を目的とするものが次々と現れており,役務提供型に属する既存の典型契約(雇用・請負・委任及び寄託)の規定によってはこれらの契約に十分に対応できないのではないかという問題があること自体は否定できない。しかし,役務提供型の契約すべてに適用される総則的な規定を設けるという考え方については,そもそも対象となる役務提供型契約の類型が多種多様である以上,それらの全てに適用できる実質的な規律は,結局どちらに転がっても当たり障りのない,逆に言えば実質的にほとんど意味のないものしか設けられないこ
とになり,実務上ほとんど意味のないものにしかなり得ないと思われる。 ましてや,役務提供型契約の総則規定が適用される範囲を作出するため, 既存の請負契約や準委任契約の適用範囲を限定するという考え方に至って は,もはや役務提供型契約の新設自体が自己目的化していると評するほか なく,このような立法提案は実務にとって単なる迷惑以外の何物でもない。
(弁護士)
○ 役務提供契約の伸長が見られるのは事実であるが,だからと言って,役 務提供の主体,客体,提供する役務の内容等は極めて多様であり,新たに 典型契約として規定を設けたとしても,全てを網羅することも,またすべ ての事案において妥当な条項を設けることも困難と思われる。また,交渉 時において,各当事者はどの典型契約に該当するかを強く意識しているわ けでは必ずしもなく,当事者間が合意のもとで締結した契約書の内容が全 てであるという意識が強いことから鑑みると,諸般の事情を考慮したうえ で契約書の文言の合理的な解釈がまず最優先されるべきところ,当事者の 属性等への余計な配慮や,契約書の文言を軽視しいずれかの典型契約に引 き付けて考えられるべきという,実務上の処理とは異なる問題意識・考え 方が示唆されている点に若干の違和感を禁じ得ない。典型契約化により, 実務で行われている諸契約に新たに制約を課そうとする趣旨なのであれば,典型契約化の議論そのものに慎重さを求めざるを得ない。(会社員)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
○ 役務提供契約類型として,診療契約に関する規定を整備する必要が大きいのではないか。
また,総則的な規定を設けることの当否を問題とする前提として,請負契約や委任契約における準委任の適用範囲をどう考えるかという問題がある。請負について,論点整理で示唆されている考え方には賛成することができない。結果の実現を保証する役務をどこに位置づけるかは,請負契約の規定のあり方と不可分に関連する。
また,総則的規定を設ける場合に,売買契約が有償契約に準用されることとの関係を含めて,どのような規定がどのように適用されるかを,見通すことができるように規定を整序する必要がある。(大学教員)
○ 仮に請負の範囲が限定されたにもかかわらず,切り離された部分(役務提供の受け皿規定)が印紙税法上の「請負」と引き続き扱われると混乱するため,切り離された部分は不課税文書とするよう,国税庁との調整が必要である。(個人)
【意見】
○ 請負契約には種々の類型があり,契約締結当初から仕事の内容が確定しているものもあれば,契約締結時には仕事内容が確定しておらず,契約締
結後に,発注者と請負者が打ち合わせ等を重ねていくことにより,仕事内容が徐々に確定していくことを予定する類型のものも相当程度存在すると考えられる(例えば,建設契約,ウェブサイトの製作,出版業務等)。
このようなタイプの請負契約においては,発注者と請負者はある程度長期間の契約関係にあることになるが,この間に発注者と請負者の間で打ち合わせ等を重ねることにより,契約当初に想定されていた仕事の内容に,変更が生じることも考えられる。しかしながら,かかる仕事内容の変更に伴う請負契約に関する規律については,従前議論が十分になされていない点であることから,今後議論を行うことが望ましい。
例えば,①発注者に仕事の一定範囲の変更指図権を明記した上で,発注者が変更指図権を行使しない限り,請負者は変更後の仕事について完成義務を負わないことや,②発注者が変更指図権を行使した場合には,請負者は増加費用請求や,納期等の延長請求を行うことができることを明文化することなどについても検討することが考えられる。この点,実務上は,建設工事に限るものであるが,民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款,日弁連住宅建築工事請負契約約款や,国際的な標準約款である FIDIC レッドブック(1999 年)において,仕事内容の変更に関する規律が明記されているところであり,これらの規律を参考にしつつ更に検討することが考えられる。(xxxxxxx)
請負には,請負人が完成した目的物を注文者に引き渡すことを要する類型と引渡しを要しない類型など,様々なものが含まれており,それぞれの類型に妥当すべき規律の内容は一様ではないとの指摘がある。そこで,現在は請負の規律が適用されている様々な類型について,どのような規律が妥当すべきかを見直すとともに,これらの類型を請負という規律にまとめるのが適切かどうかについて,更に検討してはどうか。例えば,請負に関する規定には,引渡しを要するものと要しないものとを区別するもの(民法第633条,第637条)があることなどに着目して,請負の規律の適用対象を,仕事の成果が有体物である類型や仕事の成果が無体物であっても成果の引渡しが観念できる類型に限定すべきであるという考え方がある。このような考え方に対しては,同様の仕事を内容とするにもかかわらず引渡しの有無によって契約類型を異にするのは不均衡であるとの指摘があることも踏まえ,「引渡し」の意義に留意しつつ,その当否について,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,2[7頁]】
【意見】
○ 請負契約の範囲を限定的にしたほうがより適切な規律が可能であるこ
とから,成果が有体物または引渡が観念できる類型に限定する考え方に賛成する。「引渡」「受領」の解釈で,注文者宅での機械の設置なども請負類型とすることができ,必ずしも不均衡が生ずるとはいえない。講演・通訳等は瑕疵担保等の適用が不適当といえるので,役務提供型として規律すべきである。ただし,不適当な分類にならないかはなお慎重な検討を要する。(札幌弁)
○ 請負契約には多様なものが含まれており,それぞれによって求められ る効果等は異なっているので,この点を規定上明確にすることが望まし いことから,請負の目的別に類型化した規定を設けることに賛成である。請負の規律を,仕事の成果が有体物である類型や,仕事の成果が無体物 であるが成果の引渡しが観念できる類型のものに限定すべきであるとの 考え方に賛成する。請負は,仕事の目的が有形の結果であることがほと んどであり,従来から請負と考えられてきた形態と法律の規定とが合致 する。(xx弁消費者委)
○ 倒産手続きについて債務者は適時に知ることができない事態が多々あり,この現実に基づいた議論が必要であると考える。成果物の有無をもって分別することが可能であろうが,現行法が想定しているのは,目的物を注文者に引き渡すことを前提としていると考える。(団体職員)
○ 請負の意義の変更は,契約類型の本質にかかわる問題であり,現在の規律を変更することによって実務が混乱し,また契約の成否の認定を巡り裁判実務が混乱することを懸念する意見が多かったが,限定することに賛成する意見もあった。
なお,請負契約を巡る紛争が生じるのは,書面が作成されていないことが多いことが原因の一つとなっていることから,一定の類型・場合について,要式契約(契約成立に書面の作成を必要とする)とすることを検討してはどうかとの意見が複数あった。(最高裁)
○ 請負に様々な類型が含まれていることは認めつつも,それら類型を細分化して規定することや,請負に関する規定を見直すことには慎重意見が強い。従前,請負により処理してきたものが,請負以外の規律に従うことにより瑕疵担保責任の規定が適用されなくなる等の不都合が懸念され,また,売買契約との整合性についても留意しなければならない。
請負の規律の適用対象を,仕事の成果が有体物である類型や仕事の成果が無体物であっても成果の引渡しが観念できる類型に限定すべきであるという考え方には反対意見が強い。請負の本質は,仕事の「完成」であり,「引渡し」が不要なものを請負から外すと,現在請負と考えられている類型の多くが請負契約から外れることになり,実務に多大な影響を与える。「引渡し」という基準が外形的に分かりやすいとは必ずしも言えない。例えば,「引渡し」までは必要でない役務提供契約を請負契約の範疇から排除すると,家屋の内部改装工事であっても,家人が自宅
に居住しつつ工事を行う場合(引渡しを要しない場合)と家人が一時退去して工事を行う場合(引渡しを要する場合)とで,請負に該当したりしなかったりすることになる。(日弁連)
○ 請負契約の規律を受ける範囲を限定することについては,慎重に検討すべきである。仮に範囲を限定するのであれば,それによって請負契約に該当しないこととなる類型について,xxの規律を新たに設ける必要性を検討する必要性も生じてくるのではないか。(広島弁)
○ 請負の規律内容について見直すことを更に検討することは差し支えないが,請負を仕事の完成を目的とする契約であるという現行法の定義規定は維持するべきである。請負の定義規定を変更するべき実務的必要性は見出し難い。また,一般市民に分かりやすい言葉という観点からしても,広辞苑(第 6 版)にも「請負 ①保証すること。うけあうこと。②ある仕事の完成を全責任をもって引き受けること。」とあるように,仕事の完成を基準とする方がよい。仕事の成果の引渡しの有無によって規律の仕方が変わるとしても,請負の下位概念として,「引渡しを要する請負」,「引渡しを要しない請負」を設けて,規律していけば足りると思われる。(兵庫県弁)
○ 目的物の引渡を要しない類型の請負であっても,現行法上,一部の条文の適用除外などにより請負の一類型として対応できているのであるから,実務的には,請負の規律の対象を引渡ができるものに限定する必要性は乏しいと考える。(横浜弁)
○ 請負の規律の適用対象を,仕事の成果の引渡しの有無により限定する考え方には反対する。理由は,以下のとおりである。
(1)無体物の「引渡し」の判断基準が不明確である。例えば,市場調査のような業務についていえば,「調査」という役務を提供する点では役務提供契約となるとも思われる一方,市場調査業務において作成される報告書(または報告内容という無体物)の引渡しに着目すれば請負契約ととらえることになるように,従来実務上悩まなくて済んでいたものについて,請負なのか,役務提供契約なのかで悩まなければならなくなるケースが出てくるおそれがある。
(2)有体物の「引渡し」という基準が外形的にわかりやすいとはいえない。例えば,建物の補修工事でも,全面的なリフォーム工事では入居者が建物から一時退去して施工業者が建物を占有する場合があり,この場合には,工事完了後の引渡しを観念することができるが,補修工事の範囲や内容によって施工業者が建物の全部または一部を支配・占有している程度は様々であり,引渡しを観念できるか否かが微妙なケースもあり得る。また,宅配便等の物品の運送契約は,目的物の引渡しを観念できる契約類型のように思えるが,請負概念を限定する考え方を採用した場合,このような類型が請負に含まれると考えているのか,明確ではな
い。
(3)請負の定義は現行のとおりとしても,委任とは,仕事の完成を約しているのか否かで区別し得るので,不都合はない。
(4)「議事の概況等」(第1項)には,成果物の引渡しが観念できる類型に請負概念を限定する考え方の理由として,「引渡しを要しない類型には,瑕疵担保責任に関する規定など請負の規定の多くが適用されない」という理由が示されている。しかし,建物の補修工事などは引渡しを要しない類型であるが,現行法では,補修工事についても瑕疵担保責任の規定は適用されると解される。民法第637条第2項も,「仕事の目的物の引渡しを要しない場合」の瑕疵担保責任の存続期間について定めている。瑕疵担保責任に関する規定の適用の可否が問題となるのは,引渡しを観念できない類型ではなく「目的物」(有体物・無体物を含む仕事の成果物)を観念できない類型ではないか(講演,舞台の上演,マッサージ,美容,警備など。)。
(5)現行法において,引渡しの有無によって規律が異なるのは,報酬 の支払時期(民法第633条)と,瑕疵担保責任の存続期間の始期(民 法第637条)の二つのみである。これらの規定は,引渡しを観念でき る類型では「仕事の完成」の時期と「引渡し」の時期が異なることから 場合分けをしたものであるところ,この2点のみを請負規定の内部で書 き分けることは容易であり,それによって規定が複雑になるとは思えな い。報酬の支払時期,瑕疵担保責任の存続期間の始期は,いずれも請負 契約の本質的な要素ではなく,任意規定によって変更することも可能な 技術的な要素に過ぎない。そのような要素が異なるというだけの理由で,請負と新しい契約類型という2つの契約類型を並立させる方が,xxx に規定が複雑になり,国民にわかりにくい改正となってしまう。
(6)もっとも,請負人の瑕疵担保責任に関する規定は,「目的物」(有体物,無体物を含む仕事の成果物)を観念できない契約類型には適合しにくい面があり(目的物を観念できない契約類型では,瑕疵と不完全履行の区別が一層曖昧になる),「目的物」を観念できない契約類型を請負と区別すべきか否かは,更に検討を要する。(二弁)
○ 「仕事の成果」は有体物,無体物のいずれもありうる(現行法通り)とする意見に賛成。請負は有体物無体物を問わず「仕事の成果」に対して対価が支払われる契約である。
有体物のみならず無体物についても瑕疵担保責任を認める規定を置くことに賛成。無体物の場合も請負人について瑕疵担保責任(不完全履行責任)を問いうる。
請負を仕事の「成果」に対して報酬が支払われる契約と構成し直し,仕事そのものに対して対価が支払われる場合について(別途役務提供型契約を典型契約として規定し)請負と区別する意見に賛成。実務上,仕
事の成果に対してではなく仕事そのものに対して報酬が支払われる業務委託契約についても請負として処理しているが,これについてまで請負すなわち仕事の成果に対する報酬を支払う契約に含めるのは無理があり別類型とすべき。厳密に区別し難いが,仕事の成果が観念できる限り請負でよく,仕事の成果が観念できない場合を請負と別のものとして処理できるようにすべきである。(法友全期)
○ 請負の規定の適用対象を,仕事の完成を観念することができる役務提供とする方向で検討すべきである。仕事の完成は請負の本質的要素であると解されているが,現実には,必ずしも仕事の完成を目的としない契約類型が「請負」と称されることが少なくないため,こうした契約類型を,明確に請負から切り出す必要性は十分にある。また,引渡しを要するものと要しないものによって請負の規定範囲を区別するか否かにかかわらず,仕事の完成が請負の本質的要素であると考える。(日司連)
○ 従来の請負類型の見直しを検討するに当たっては,従来,請負契約としていた類型契約について,当該契約が非典型契約となった場合や別の典型契約となった場合に,現行の取引に著しく影響が出ないよう配慮すべきである。(自動車リース連)
○ 役務提供型契約には,①消費者契約のように,役務受領者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,②労働契約のように,役務提供者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,③企業間契約のように役務提供者と役務受領者がある程度対等な場合があり,それぞれの類型毎に規律を検討する必要があるところ,消費者保護の視点のみを強調して規律を行うことは,役務受領者の立場を片面的に強化し,労働者や零細事業者その他の立場の弱い役務提供者の契約上の地位と役務提供先に対する報酬請求権を弱める結果を招くものである。請負の定義については,
「請負」の範囲の限縮には賛成であり,完成の基準が客観的に明らかにできないものは,請負に該当しないことを明確にすべきである。(連合)
○ 従来の無形請負のうち,仕事の成果が無体物であって,その引渡しを観念できないものは,瑕疵担保責任等の適用がないものとして,役務提供契約の類型に移行することに異論はない。ただし,無形請負又は委任
(準委任)であっても,業務提供の一部として,有体物又は無体物を納入することがあり,そのような場合には一部請負の規律に服することにならないよう,明確にする必要がある。その場合,単に目的物の引渡しの有無により区分するのではなく,例えば,目的物が仕事の成果を実現したものであるかという要素を加味することなどが考えられる。(法友会)
○ 請負に類似する概念として実務上よく用いられ,下請法などにも登場 する「業務委託」との関係についても整理されることを希望する。なお,
請負人の弱い立場などに配慮するべき等の政策配慮については,特別法にて考慮すればよく,民法上はこれを考慮しない方向で検討すべきである。(会社員)
○ いわゆる「偽装請負」,すなわち,実質的には役務提供型の契約については,請負の範囲から外すような類型化が必要である。しかし,請負の本質は仕事の完成であり,引渡しが不要なものを請負から外すと現在請負と考えられている類型の多くが請負契約から外れることになり,実務に多大な影響があると考えられる。請負というラベルは現行法の範囲で維持しつつ,請負と分類された場合の規律を改善していくというアプローチが妥当である。(東弁)
○ 請負を引渡しが観念できる類型に限定すると,一般人が請負と認識しているものを請負概念から切り出すことになり,規律を複雑化させ,混乱を招く。また,引渡しを要しない類型には請負の規定の多くが適用されないという説明は,現行法の説明として疑義があるか,請負を引渡しが観念できる類型に限定する理由にはならない。よって,請負の規律の適用対象を,仕事の成果が有体物である類型や成果が無体物であるが成果の引渡しが観念できる類型に限定するという考え方に反対する。(一弁)
○ 請負の規律を,仕事の成果が有体物である類型や,仕事の成果が無体 物であるが成果の 引渡しが観念できる類型のものに限定すべきである との考え方については,従来,注文者 の設備や施設に対する仕事(機 械の設置,施設の保守点検,家屋の修理,清掃等)等請負 の典型例と して考えられたものが請負契約に該当しないこととなり,瑕疵担保責任 の規定 の適用がなくなると注文者の保護が後退すると考えられるので,反対である。 また,仮に,請負の規律を引渡しが観念できる類型のも のに限定するとしても,引渡し が観念できない類型については,請負 以外の規定において別途規律がなされる必要がある と考える。(兵庫県 弁)
○ 問題となるのは,仕事の「完成」は必要であるが引渡しまでは必要でない役務提供契約を請負契約の範疇から排除するか否かである。仮に,これを請負の範疇から排除するとすれば,自宅の改装工事について考えると,例えば,家屋の内部改装工事であっても,家人が自宅に居住しつつ工事を行う場合(引渡しを要しない場合)と家人が一時退去して工事を行う場合(引渡しを要する場合)とで請負に該当したりしなかったりすることになるが,このような区分は相当ではないであろう。
また,準委任以外に役務提供契約を新設するとすれば,引渡しが不要で仕事の「完成」を目的としていないとまでは評価できない契約(例理髪,機器のメンテナンス)を無理に請負の範疇に留める必要もなくなる。
以上から考えて,請負契約は,役務提供契約の中でも,仕事の「完成」を目的とする契約として位置付けておけばよいと思われる。(福岡弁)
○ 現行法も想定しているように請負には,引渡しの有無を異にする二つの類型を観念することができるが,現行法の区分を超えて,さらに独立的な類型として規定し直す必要性が乏しい。現行法の枠組みを維持することで不都合はなく,論点として取り上げるべきではない。(親和会)
○ 現在の請負は,引渡しの有無とは無関係に仕事の完成によって特徴づけられており,これが定着している中で概念を変更することは大きな混乱を招くことになり,引渡しや有体物の存否の判断は必ずしも常に明確ではないことから,請負の規律の対象を仕事の成果が有体物である類型や仕事の成果が無体物であっても成果の引渡しが観念できる類型に限定することには,反対である。(経営法曹)
○ 請負の目的別に類型化した規定を設ける必要性が存在することについては,総論的には賛成。特に,「建物その他の土地の工作物」の請負契約について独立した節等を設けることが望ましい。ただし,類型化においては,従前適用されていた規定が適用されなくなる等の弊害が生じることなきよう,各類型間や他の契約規定との調整,整合性については慎重に議論される必要がある。
請負の規律を仕事の成果が有体物である類型や仕事の成果が無体物で あるが成果の引渡が観念できる類型のものに限定するという考え方には 反対する。この考え方を前提にすると,例えば,動産を店舗等に持ち込 んで修理を依頼した場合は請負契約,業者が訪問する形での住宅の水道 管修理を依頼した場合は請負契約ではないという分類になりかねないが,両者に差異を設ける必要性があるとは思われない。このように請負概念 を上記のように再構成するべき立法事実が不明である点,また,当該再 構成によって現状の請負契約の効果面にいかなる影響が生じるのかも不 明である点,当該再構成によって請負契約から外れる類型についていか なる規定を適用(新設)するのかも不明である点から反対する。(日弁 連消費者委xx)
○ 成果の引渡しを要する類型に限定することに反対である。請負は,仕事の成果が有体物であるか無体物であるか,あるいは,仕事の成果の引渡しが観念できるかどうかにかかわらず,仕事の完成を目的とする類型として規定すべきである。その理由は,以下のとおりである。
従来,請負と観念されてきた多くの建築下請工事を請負から除外したり,物の修理を依頼された場合に,その場で修理を行うか,請負人の作業所に持ち帰って修理を行うかで規律を異にしたりするのは不自然である。
従来の請負の多くにおいて「引渡」が要素となっていることは否定し
ないものの,仕事の完成の結果,成果物が有体物となる場合の請負については,有体物であることを前提とした瑕疵担保責任等の規定を,請負の中で特定の類型だけに適用される特則と位置づければよい。
請負の本質的要素は「仕事の完成」である。(xxxx)
○ 「引渡し」の概念によって請負契約を限定することは,請負の規律の適用を巡って無用な混乱を生ぜしめる(例えば,ソフトウェアの開発契約や,既存構造物の補修工事等,今まで請負契約として整理されてきた類型について「引渡し」が観念できないために請負の規律の適用対象から外れるのか,等)ことが懸念される。したがって,規律の適用範囲が不明確とならないよう慎重に検討すべきである。(森・xxxxxx)
○ 請負の様々な類型を細分化して規定することや,請負に関する規律対象を仕事の成果が有体物である類型や仕事の成果が無体物であっても成果の引渡しが観念できる類型に限定すべきであるという考え方に反対する。請負の本質は,仕事の「完成」にあるとの考え方に立てば,仕事の成果が有体物である場合や引渡しを観念できる場合に限定するのは,上記本質から離れてしまう。また,引渡しの有無は必ずしも明確に区別できない(例えば,ソフトウェア開発では,プログラマーがクライアントの元は出向いて開発を行う場合もあるが,何をもって引渡しを観念するのか不明確である)。(愛知県弁)
○ 請負契約概念について。我が民法は製作請負に限らず,純粋な役務の 提供も含めた「仕事の完成を目的とする契約」を請負契約に含んできた。実社会においてもそのようなものとして認識されており,製作請負だけ を民法上の請負契約とした場合には,混乱が生じるおそれがある。これ まで通りの広い概念で規定すべきであると考える。(「改正を考える」 研)
○ 引渡の有無で規定を分ける必要はない。また,雇用・委任・請負自体が,労務供給の類型的な規定であり,場合分けではなく類型論という整理方法の本質からすると,さらなる細分化は混乱を招くだけで意味があるとは思えない。(広大xx)
○ 民法上の請負には,成果物の引渡しを要するものと要しないものとい う区別も含め,多様な契約が包摂されている。成果が有体物である類型 の中にも製作物供給契約,請負人が物を持ち帰ってそれを修理する類型,請負人が注文者の下で物を修理する類型があり,さらに,無体物に関す る請負にも様々なものがある。請負の規定を見直すといっても,請負概 念を変更する実益が明らかでない。役務提供型契約の受皿規定・総則規 定を設けることとする場合には,規定の適用関係を明確にするために, 請負に関する規定の適用対象を明確に画する必要があるとしても,まず 規律内容を検討した上で,これらの類型を「請負」という概念にまとめ るかどうかを議論すべきである。
成果が有体物であるか,引渡しが観念できるかという基準で請負とその他の労務提供契約を区別することについては,同じ物の修理でありながら,請負人が持ち帰って修理するか,注文者の下で修理するかによって請負に該当するかどうかが異なるなど,問題がある。請負の本質的な要素は仕事の完成であるから,引渡しが観念できるかどうかではなく,仕事の完成を目的としているかどうかを判断基準とすべきである。かりに建築請負や製作物供給のようなものに請負の規律の適用対象を限定することを意図するのであれば,引渡しの有無ではなく,労務の結果が有体物に化体するかどうかを基準とすべきである。
物の引渡しを観念できる契約類型については,引渡しを起算点として権利行使期間を規定するなど,瑕疵担保責任に関する規定を設ける実益があるが,引渡しを観念することができないサービスの提供を目的とする契約についてはこのような特則は必要なく,不完全履行として処理すれば足りる。(日大民研・商研)
○ 新築工事が請負契約で,修理工事やリフォーム工事が「成果の引渡が観念できない」からサービス提供契約であるという法制度は,大方の国民の常識と合致せず,混乱を招くことなどから,請負の定義は,現状のままとすべきである。(建設適取協)
○ 目的物の引き渡しの概念を妥当できる領域と妥当できない領域の区別は難しく,実務の混乱を招くので,請負の類型を区別してその適用対象を限定する考え方に反対である。(三菱電機)
○ 建設業界では,目的物を引き渡すことを要する類型である建設工事請負契約だけではなく,引き渡すことを要しない土壌汚染調査・対策計画業務の委託契約や産業廃棄物収集運搬・処理委託契約といった契約類型もある。これらの引渡しを要しない契約類型において,通常,問題となるのは,仕事の成果に対する受託者(請負者)の責任である。受託者(請負者)の責任については,仮にこれらの契約類型が,委任契約又は準委任契約であるとした場合は,過失責任である善管注意義務が問題となるが,請負であるとした場合は,無過失責任である瑕疵担保責任の問題となる。このように,請負の意義を考える上では,「成果の引渡」の有無・意義と同様に,成果に対する受託者(請負者)の責任についても併せて検討すべきである。
また,これまで「請負」の規律が適用されている様々な類型について,成果の「引渡し」の有無に着目する考え方を適用する場合には,建設会 社が請け負う工事の種類は,新築建物工事のように「引渡し」の概念に 比較的当てはまりやすいものもあるが,一方で,リニュアル,改修等の 様々な種類があり,それが「引渡し」の概念に一律に当てはまるものな のかどうかについて,現実の実務に支障がないように吟味することが必 要である。具体的には,既存構造物の改修工事(例えば「護岸改修工
事」)や補強工事,発注者の敷地に機械器具を設置する工事などが,引渡しを観念しにくいので,請負の範疇から外れることとなる。そうなると,契約締結時の都度,この契約が「請負契約」の対象か,それ以外
(無名契約や役務提供契約)かを判断する必要があり,これまでの実務 にはなかった考慮・検討を要することから,実務上,混乱を招く可能性 がある。また,設計業務が請負か準委任かという議論もある。法的責任 等についての約定内容によっても契約類型が変わるとされる中,請負の 概念を変えることでその整理が明快になるか疑問であり,どの類型に属 するかどうかの議論は更に残ることにならないか,実益は不明である。 更に,これまでは請負契約として一体的に扱っていたものを,請負とそ れ以外の類型の契約に仕分ける必要が生じることとなる可能性があるが,そのような仕分けを行うことが実務上大きな混乱が生じることが懸念さ れる。
同様に,「請負契約」という認識で工事を進めていたら,後に「請負契約ではない」とされた場合が生じる可能性もあり,契約関係が不明確なまま,思わぬリスクを蒙る可能性がある。
建設業法の経営事項審査の工事経歴書の記載や売上高計上などにおいて,請負概念の変更に伴う実務上の混乱が生じる可能性がある。(日建連)
○ 請負契約における「仕事の完成」が多様な場合を含むものであり,請負契約の適用範囲をより限定する必要があるのではないかという問題意識は理解できる。しかし,論点整理において示された考え方には賛成できない。
たとえば,同じくクリーニングが問題となる場面において,①洗濯物を預けてクリーニングを依頼し,後日,その洗濯物の引渡しを受ける場合と,②自宅の清掃を依頼する場合を考えると,クリーニングを引き受けた債務者の履行すべき債務は,「汚れていた状態を綺麗な状態にする」という結果を実現するという点で共通するものであり,この両者について,①では物の引渡しがあるから請負契約に当たるが,②については引渡しがなく,請負契約とは異なる契約類型であるとすることは不適切である。(大学教員)
○ 成果が有体物である類型等に請負の規律の適用対象を限定する意見もある。しかし,従来の請負概念は明確かつ有益なものであり,特段の不都合は生じていないから,請負の概念を変更することには反対である。完成した成果を引き渡すという類型は請負における一つの典型的な類 型であり,引渡しや受領の有無という基準は明確で外形的に分かりやすい上,このような類型においては引渡しと受領の関係や請負人の瑕疵担
保責任が問題になるなど,他の類型とは異なる特色を有している。また,民法の請負に関する規定には引渡しを要する請負と要しない請負とを区
別して扱うもの(同法第633条,第637条)があり,民法自体がこのような区別を設けている。しかし,このことは,請負を,成果が有体物である類型等に限定する理由として十分ではない。そもそも従来の請負概念で特段の不都合は生じておらず,請負の概念を変更する実益が明らかでない。請負の本質的な要素は仕事の完成であるから,引渡しが観念できるかどうかではなく,仕事の完成を目的としているかどうかを判断基準とすべきである。(弁護士)
○ 現行法上の請負契約に該当するとされている契約類型は様々なものがあるが,現行の請負概念は既に実務上定着しており,これ自体に特段の不都合が生じているわけではなく,請負の概念自体をみだりに変更するべきではない。
特に,請負の対象を引渡しが観念できるものに限定するという考え方は,家屋の修理契約など,従来問題なく請負であると解されていた契約類型まで対象から除いてしまうことになり,妥当でない。このような問題に対しては,「引渡し」や「受領」の概念をどのように構成するかによって対応することができるとの反論があったということであるが,日常生活でも使用されているこれらの用語を通常の用法と異なる意味で使用することは,一般市民にとって「分かりやすい」民法という理念に真っ向から反するものであり,断じて認められない。
また,仮に何らかの基準により請負契約の範囲を限定するとしても,これにより請負契約ではないとされる契約類型をどのようなカテゴリーに分類し,それらの契約にどのような規律が妥当するのかを明らかにしなければ,規定の欠缺や解釈上の疑義が生じ,実務上大きな混乱が生じることも予想される。(弁護士)
○「引渡しの有無」で請負に含まれるかどうかを区別する場合,引渡しと言えるかどうかの解釈で揉めてくる例も色々考えられる。また,引渡しの有無の重要性も疑問である。(翻訳・出版関係)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
民法は,報酬支払義務のほかには注文者の義務について規定していないが,注文者は請負人が仕事を完成するために必要な協力義務を負う旨の規定を新たに設けるべきであるとの考え方も示されていることから,このような考え方の当否について,更に検討してはどうか。
また,請負人が仕事を完成したときには注文者は目的物を受領する義務を負う旨の規定を新たに設けるべきであるとの考え方も示されているが,
「受領」の意味について,契約内容に適合したことを確認した上で履行として認容するという要素を含むとする理解や,契約の目的物・客体と認め
るという要素を含むとする理解のほか,そのような意思的要素を含まず,
単に占有の移転を受けることを意味するという理解などがあり得る。そこで,注文者の受領義務を規定することの当否について,「受領」の意味にも留意しつつ,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,3[9頁]】
【協力義務についての意見】
○ 協力義務(ただし,要件効果を明確に規定するものではなく,xxx的なもの)を規定すること,また受領義務を規定することに賛成する。請負という契約類型においては,一般的に,注文者の注文内容に即し た仕事を完成していく過程で,注文者の協力が必要ないし有用であることが多い。このため,注文者の協力義務を規定することは,請負人による義務の円滑な履行の観点からのぞましいと考えられる。ただし,協力義務の具体的内容は,個々のケースや進捗状況等に応じ多様であることから,要件効果を明確に規定することは困難であり,xxx的な規定で
もって協力義務を確認する内容とするのが適切ではないかと考えられる。
(広島弁)
○ 注文者が必要な協力をしないために請負人が仕事を完成させられず,請負人側から解除もできない事態を回避する必要があるため,注文者の協力義務には賛成する。(愛知県弁)
○ 仕事の完成のためには,注文者の協力が必要な場合もあり,協力義務を認めなければ請負人に不都合な場合があるため,協力義務を規定することに賛成する。もっとも,請負の類型や進捗状況に応じて必要な協力義務は異なるので,具体的に規定することは困難といえる。(札幌弁)
○ 情報システムの開発に関する契約では,xxxxはもとよりユーザに ついても,適時の情報開示と判断が特に重要である。ユーザが思い描く 情報システムの業務要件等を可視化した要件定義書その他の情報の開示 はベンダーの開発作業に関して先履行の関係に立ち,それがなければ, ユーザの欲する要件を充足する成果の引渡しは不可能となるからである。債権法改正の検討にあたっては,情報システムの開発契約に関し,契約 締結前の交渉過程はもとより開発の各工程においても,ユーザの適時の 情報開示及び判断を促し,情報開示及び判断が適時にかつ十分になされ なかった場合にベンダーがその影響の及ぶ範囲で開発を中止し,それに より被った損害があればユーザに損害賠償を請求し,契約を解除するこ ともできる特則を検討する必要がある。ユーザの適時の情報開示及び判 断は,債権者の一般的なxxx上の誠実義務にとどまらず,要素たる債 務として位置づけられ,情報システムの開発においてユーザの情報提供 が必要とされる場面での適用が可能となるように具体的に明示されるこ とが望ましい。(情サ産協)
○ 建設業界における請負契約(工事請負,設計受託など)においては,単
品受託生産という特殊性があり,注文者(発注者)の希望する製品を要求 どおりに提供するには,製品仕様に対する的確かつ詳細な情報提供(要 求水準・仕様の正確な伝達)という協力が不可欠である。これが曖昧な 場合は,完成品に対するトラブルが発生するケースが多い。したがって,注文者における協力義務として,その注文に際して,的確かつ詳細な情 報を受託者に提供するという協力義務に関する規定を設けることを検討 していただきたい。そして,当該協力の不履行に関しては,注文者にx xの責任が生じる構成とすることが望まれる。(日建連)
○ 契約の性質上,請負人が債務を履行するために注文者の協力または目的物の受領を要するときは,注文者はこれらの協力等をする義務を負う旨の規定を設けるのであれば,賛成する。
このような問題については,従来どおりxxxで処理すればよいとも思われるが,情報システムの開発請負契約などについて注文者が必要な協力をせず問題になっている事例等もあるため,xxの規定を設ける意義はある。ただし,注文者の協力義務は売買契約など他の契約類型でも見られることから,その中心である売買契約に協力義務の規定を設け,請負など他の有償契約ではその準用で対処する,あるいは契約総則に規定するといった方法も検討すべきである。(弁護士)
○ 注文者に協力義務を課してもよいという意見がある一方,注文者に専門的知識がないことも多く,協力義務を課したり,受領義務を失権効と直結させたりすると注文者にとって酷な状況が生ずることが危惧されることから,慎重に検討すべきである。(xx弁消費者委)
○ システム開発のような双方向で価値を見出していくような(役務の遂行に役務受領者側の協力が必要となるような)契約が増加していることを踏まえると,役務受領者の協力義務についての規定を新設するニーズがあるといえる。更なる立法事実の精査とともに,企業間取引と企業・個人間の取引では,協力の態様が異なるため,どのような内容の規定とすべきについて検証する必要がある。(産業組織課)
○ 協力義務を明文化することに賛成する意見もあったが,契約形態や内容によって義務の有無が異なる可能性があるため,解釈による方が柔軟な解決ができるとする意見が多かった。また,他の契約類型においても
「注文者の協力義務」に相当するような義務が観念できなくなるのであって,あえて請負にのみこれを規定することに疑問を呈する意見も多かった。(最高裁)
○ 契約当事者間において,一定の協力義務があるのは当然であるが,それを請負契約の注文者についてのみ法的義務として明示する積極的な理由はない。注文者に協力する義務が認められるかどうかは,個別の事情によるところが大きく,「契約の内容・趣旨」により決定されるものである。(日弁連)
○ 協力義務は,請負に限らず他の契約でも問題となるところであり,特に請負に限ってこれらの義務を新設するべきではない。(兵庫県弁)
○ 注文者に,請負人が仕事を完成するために必要な協力義務を課すことは反対である。契約当事者間において,一定の協力義務があるのは当然であるといえるが,それを請負 契約の注文者のみに法的義務として協力義務を明示する積極的な理由はないと考えられるからである。(大阪弁)
○ 協力義務の明文化は不要である。注文者に,協力義務が生じることも あるが,個別の事情によるところが大きく,一律に義務があるとなると,強制等の不都合が生じる恐れがある。要件で絞りをかけることも困難で あると思われる。(東弁)
○ 注文者は請負人が仕事を完成するために必要な協力義務を負うことの明文化については,慎重に検討すべきである。xxで一律に協力義務を課すことは妥当ではなく,契約の内容や仕事の性質に応じて個々に判断すれば足りる。(横浜弁)
○ 注文者の協力義務を定めることについては,慎重に検討すべきである。仮に,これを規定する場合には,協力義務が認められる契約類型及びx xの内容を具体的に定めるべきである。(二弁)
○ 請負契約には多様なものがあり,注文者の協力義務は曖昧なものにならざるを得ないほか,業務請負契約にあっては,注文者が請負人の労働者に対して直接指示をすることは職業安定法,労働者派遣法違反とされるおそれがある。したがって,注文者の義務を新たに規定することには反対である。(経営法曹)
○ 協力義務については,「協力」なる不明確な概念を義務化することの弊害が大きく,到底賛成できない。すなわち,仮に協力義務なるものが認められた場合,注文者としては,何をどの程度“協力”すれば義務を履行したことになるのか全く分からず,むしろ,“協力”の有無について注文者・請負人間で紛争となることが容易に予想される。もちろん,実際のケースとしては,注文者において一定の協力行為が必要となる場合も存在するかと思われるが,そもそもかかるケースでは目的物等完成のために必要な協力であれば,注文者において積極的な協力が期待できるのが通常であり,協力義務なるものを観念するべき場面は限定的であると思われ,かかる例外的な事例については,xxxの解釈により対応可能であると考えられる(むしろ,行うべき“協力”の内容は,事例によって千差万別であり,xxxの解釈に馴染む問題であるといえる)。
(日弁連消費者委xx)
○ 協力義務を明記する必要性はない。注文者が請負人に協力する義務を 負っているという理解は,現行法上もxxxから導くことが可能であり,それ以上に,特に具体的に定める必要性があるようには思われない。ま
た,様々な種類の請負の形態がある以上,協力義務の内容は様々であり,規範として定めようとすると抽象的になり,そのような規定は行為規範 としても漠然とし過ぎて,実益が乏しい。(xxxx)
○ 注文者が必要な協力をすべき義務を負うことに異論はないと考えるが,協力の態様が多種多様であることからすれば,xxを設けるとしても抽 象的な規定にならざるを得ず,とすれば,xxを設けることの意義は大 きくない。(親和会)
○ 個別の事例でxxx上債権者が義務を負う場合があると考えることはできるが,一般的に認めることについては,債務の履行に必ず債権者の義務が発生することになる点で理論的に不合理であり,一般的な規定の設置には反対である。仮に設けるとしても,一般的な規定ではなく,売買同様,xxx上認めるべき場合を類型化して規定することができるかどうかという方向から検討するべきである。(法友全期)
○ 請負以外にも同様に問題となり,また契約解釈から導けるのであれば,特に規定の必要性を感じない。(広大xx)
○ 請負に協力義務を規定することについては,情報処理システムの開発請負のような場合,請負人が適切に仕事を完成するには注文者が情報提供をしなければならないこともあり,実際,十分な情報提供があったかどうかをめぐり紛争が生ずることも少なくないことから,有益である。ただ,債権者の協力義務は,請負に限らず他の契約でも認められることであり,規定するとしても他の契約類型との関係にも配慮する必要がある。また,協力義務の具体的内容は,仕事の進捗状況に応じて変化していくものであるから,協力義務に関する規定を設けるにしても,柔軟な規定にする必要がある。要件効果を明確に規定するのが困難であれば,従来とおり,xxxに委ねる方法もある。(日大民研・商研)
○ 仕事の成果が契約に適合しているか否かの判断は,物の引渡しを念頭に置いている売買よりも一般的に困難と考えられるから,条文をもってこれらの義務を一律に課せば当事者の負担が重くなる上,取引において相対的に弱い立場にある当事者の保護を欠く場合が生じうる。xxx等の一般規定や特別法によって,これらの協力義務を導き出すことも必ずしも不可能ではない。よって,注文者が,請負人が仕事を完成するために必要な協力義務を負う旨の規定を置くことについては,慎重に検討すべきである。(日司連)
○ 請負人が仕事を完成するために必要な注文者の協力義務は,現状通りxxxに委ねることで足り,新たに規定を設けることに反対である。わかりやすい民法の観点から,不要な条項はいたずらに設けるべきではない。(三菱電機)
○ 他者の能力を活用するための契約である役務提供型の契約においては,請負に限らず,雇用や委任においても委託者,雇用者,委任者側が相手
方に対して適切な説明をなすことなく,目的を遂げることは難しい。その意味では注文者に債務の履行について負う部分があることは否定できない。
しかしながら,一方,高度に専門化が進んだ現代においては役務提供をする側が委託者,雇用者,委任者よりも多くの情報を有している場合が多く,むしろ債務者側の情報提供あるいは協力がなければ委託者,雇用者,委任者がどのような協力をすれば良いのかが分からないケースも増えてきている。例えば,自社にシステム開発の専門家を有していない者が自己業務に関するシステム開発を発注するような場合などが典型だと考えられる。このようなケースでは一般的に委託者などに協力義務を課すことは不適切であり,契約関係に立つ当事者に課せられる一般的なxxxに基づいて何が規範となるべきかを個別契約毎に判断する方が妥当である。
また,請負には多種多様なものがあるので,注文者が協力すべき義務の内容が必然的に決まらず,かえって注文者の義務に関する規定が紛争の元になってしまうおそれもある。(ヤフー)
○ 債権者の協力義務は請負に限らず他の契約でも認められることであり,請負についてのみ規定することは疑問がある。また,協力義務の具体的 内容は仕事の進捗状況に応じて変化していくものであるから,xxxに 委ねるべきである。(弁護士)
○ 債権者の協力義務は請負に限らず他の契約でも認められることであり,請負についてのみ規定するのは疑問である。(会社員)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
【受領義務についての意見】
○ 請負人が仕事を完成し,その受領を注文者に対して求めた場合に,注文者がそれを速やかに受領することは一般的に求められることであり,注文者が受領を拒絶した場合に注文者の債務不履行として請負人による損害賠償請求権や解除権が発生することも,仕事完成後の目的物の円滑な受け渡しを促進するものであり,のぞましいと考えられる。ただし,受領の前提として目的物の適合性を確認する機会が与えられなければならないことは指摘されているとおりであり,この点についても十分にフォローした上で規定を設ける必要がある。(広島弁)
○ 請負の定義に引渡しの要件を含める場合に,請負人が仕事を完成した場合の注文者の受 領義務を定めることについては反対しない。ただし,
「受領」の意味について,物理的に引渡しを受けるという事実行為のみを意味するのか,履行として認容するという意思的要素を含むのかについては,売買における受領義務との整合性も図ったうえで,慎重に検討すべきである。(大阪弁)
○ 注文者の受領義務を規定することに反対する。判例も一般的には受領義務を否定しており,これを覆す立法事実はない。(一弁)
○ 注文者が協力義務を負うか否かについては,「契約の内容・契約の趣旨」によって決定されるのであろう。例えば,家の建築工事で,着工後に壁紙の模様等を注文者が指示することになっていたような場合には,注文者の協力義務が認められるであろう。しかしながら,このような
「契約の内容・契約の趣旨」が不明な場合,協力義務が認められることはないとすべきである。(福岡弁)
○ 受領義務の明文化については,慎重に検討すべきである。その関連で,注文者に目的物が契約内容に適合したものであるか否か確認の機会を与 えるべきことの明文化についても,慎重であるべきである。
売買の場合と同様に,受領義務を一律に課すことは妥当ではなく,場面に応じて認めれば足りるものと考える。したがって,注文者の受領義務の明文化には慎重であるべきである。また,注文者に確認の「機会」を与えるといっても,その「機会」がどの程度のものなのか不明確である。また,素人である注文者がxxしただけでは契約適合性の有無が判然としない場合も多いと考えられるため,確認の機会について明文化することで,機会を与えさえすれば受領義務が生じるとして瑕疵のある目的物の押し付けがなされたり,瑕疵担保責任の追及が困難になるなど,かえって注文者(特に消費者の場合)が不利な取り扱いを受けるという弊害も考えられる。(横浜弁)
○ 個別の事例でxxx上債権者が義務を負う場合があると考えることはできるが,一般的に認めることについては,債務の履行に必ず債権者の義務が発生することになる点で理論的に不合理であり,一般的な規定の設置には反対である。仮に設けるとしても,一般的な規定ではなく,売買同様,xxx上認めるべき場合を類型化して規定することができるかどうかという方向から検討するべきである。(法友全期)
○ 注文者に目的物を受領する義務を負う旨の規定を設けるべき。「受領」は,履行として認容するという意志的要素が加わったものであるとまではせず,単なる占有移転(契約の目的物・客体として引渡を受けること)という理解でよい。売買契約でも受領義務を認めることに賛成なので,前に仕事の完成を要する請負では,なおさら,注文者の受領義務を認める必要がある。しかし,「受領」を,履行として認容するという意志的要素が加わったものと考えた場合,以下のとおり弊害が大きすぎる。すなわち,注文者は,契約内容に適合していることの確認を義務付けられることになるが,そのような確認能力の低い消費者にとっては酷である。受領を事実上強制されてしまうことになりかねない。また,
「受領」と引き換えに報酬請求権が発生するとした場合,報酬請求権の発生時期が不明瞭になり(注文者次第の側面が生じる),報酬をめぐる
紛争が更に増加しかねない。さらに,引換給付判決において「受領」を実現する術がなく,執行を開始できないこととなりかねない。(xxxx)
○ 情報システムの開発は,先述の情報提供・説明責任以外の点でもユーザの仕様確定等の協力・分担した役割の遂行なしに成功させることはできない。このため,METI モデル契約等においては,要件定義・外部設計等仕様が確定するまでのコンサルティング機能を有するサービスを準委任契約とし,仕様の確定後に請負契約とするなど段階的な契約を締結する取引慣行を整えてきた。また,手戻りを防ぐために中間資料の確認に関する規定,未確定事項の確定に関する規定を設け,ユーザの承認を得ながらプロジェクトを進めるマネジメント方法をも規定してきた。情報システムの開発において,仕様確定の遅延,未確定事項の確定遅延,中間資料の未確認,変更管理への不十分な対応等は,債務者の履行に重大な悪影響を及ぼすため,債権者の一般的なxxx上の誠実義務にとどまらず,最終成果の受領義務に準じた債権者の義務として具体的に規定することが望ましい。(情サ産協)
○ 取引実務において,請負人が仕事を完成したとき,仕事の目的物を注文者が受領しないことにより,請負人が目的物の保存に困り,注文者に対する損害賠償請求や契約解除を検討することが有る以上,請負人が仕事を完成したときには注文者は目的物を受領する義務を負う旨の規定を設けることに賛成である。(三菱電機)
○ 「契約で予定された工程が終了したとき」に注文者が当該住宅を「受領する」義務が規定されれば,トラブルを未然に防止する効果があると考える。
受領義務の有無を議論する以前の話として,「仕事の完成」がなされているか否かが常に争点になっており,そのため,注文者の受領義務発生の要件(仕事が完成していることの事実確定)として,①請負人が仕事が完成していると認識したとき,あるいは②第三者機関(公的機関が望ましい)が仕事が完成していると認定したとき,等を定めない限り,仮に今回の改正により注文者の受領義務を定めたとしても,実務上は現状と大きな差異は発生しないと思われる。
それどころか,「受領」の意味について,契約内容に適合したことを確認した上で履行として認容するという要素を含むように解すると,受領の有無が客観的な基準ではなく注文者の主観によって決せられることとなるため,契約で定められた内容以上の品質・性能についてまで履行として要求され,過剰なサービスを求められることとなる,また,かかる補修により工期が遅延した場合,請負人が遅延損害金支払いの義務を負うこととなりうる等,請負人の保護に欠けるものとなること,その結果として,請負人は膨大な確認作業を注文者に求めることとなり,建築
の専門的知見が豊富でない注文者にとっても過度な負担及び責任を強いることとなること等憂慮すべき点が多いと考えている。(住団連)
○ 受領義務を認めるかどうかについては,債権一般や売買契約の買主について受領義務を認めるか否かとの整合性を図る必要がある。また,受領義務及び確認の機会を認めたとしても,注文者に検査義務がなければ結局そこで停滞してしまうので,検査義務を認めないのであれば受領義務を認める意義があまりない。仮に受領義務を認めるのであれば,その前提として,仕事の目的物が契約内容に適合しているか否か確認できる必要があるのは当然である。(愛知県弁)
○ 「単に目的物の占有の移転を受ける」という意味において受領義務の規定を設けることに賛成する意見が強い。
「受領」という用語に,「単に目的物の占有の移転を受ける」という事実的要素と,「契約適合性の確認」,「履行としての認容」,「契約の目的物・客体と認める」という意思的要素の双方を含めるべきではない。それぞれの要素を表現する用語を区別すべきである。
契約適合性の確認について規定するとすれば,注文者の権利とすべきであり,注文者に契約適合性を確認する義務を負わせるべきではない。
(二弁)
○ 注文者に受領義務を課してもよいという意見がある一方,注文者に専門的知識がないことも多く,協力義務を課したり,受領義務を失権効と直結させたりすると注文者にとって酷な状況が生ずることが危惧されることから,慎重に検討すべきである。(xx弁消費者委)
○ 受領義務については,このような規定を設けることにより,弱い立場 にある注文者に対し,請負人がした仕事の成果物を履行として認容する ことを事実上強制することはないのかどうか,慎重な検討を要する。ま た,「受領」を履行として認容するという意味で用いるのであれば,そ れは債権者に受領義務が認められる場合に従来想定されていた受領の意 味とは異なるものであり,受領の有無をめぐり紛争を生ずることが予想 される。「受領」は,かりに意思的要素があるとしても,当該契約の目 的物・客体と認めるということにとどめるべきである。請負においては,成果物が契約に適合するかどうかを確認して受領するというプロセスを 観念できるかどうかが重要である。協力義務の場合と同様,他の契約類 型との関係もあり,従来とおりxxxに委ねることも考えられる。(日 大民研・商研)
○ 注文者の受領義務の新設については,注文者が受領義務を果たさないことが,注文者の債務不履行(受領遅滞)として請負人に損害賠償請求権や解除権を発生させることになるので,一定の積極的意義はある。しかしながら,一方では,受領義務の新設は,報酬の支払時期に関する規律とも密接に関連することから,「受領」の意味をどのように定義する
かによっては,請負人に大きな不利益(注文者が受領しない。⇒報酬を受けられない。)をもたらすことになるので,この点を念頭において慎重に検討すべきである。
そもそも建設請負における建物の完成引渡しは,法定の完成検査や工 事監理者による検査手続きを経て,契約の目的物が契約どおりに完成し たことを客観的に確認して引き渡しを受けることが一般的な実務である。
そこで,「受領」の意味をどのように定義するかが問題となるが,少なくとも請負代金の支払い時期とリンクする以上,報酬支払時期を,客観的概念である「完成引渡し」から,注文者の主観的な行為態様である
「履行として認容する行為」に係らしめることとなると,注文者の要求 水準の正確な伝達という注文者の協力義務が明確に果たされない場合で も,一旦工事が完成してしまうと,注文者が些細な不適合・不具合を主 張して,「履行として認容」せずにいつまでも引渡しを受けない,従っ て,請負人に報酬が支払われない,といった請負代金の支払いを巡るト ラブルが発生する可能性がますます高くなる。また,建設業法では,元 請・下請取引では,元請負人は完成通知を受けた後,20日以内で検査 を完了し,下請負人から引渡しを受けること及び下請負人から引渡しの 申し出から50日以内に下請代金を支払うことが義務付られている(建 設業法第24条の4及び第24条の5)。このような規制がある一方で,注文者と元請負者との間に意思的な要素の伴う「受領」の概念が導入さ れることは,元請負人にリスクが集中することにならないか懸念される。
(日建連)
○ 「受領」義務の内容としてどのようなものを考えるかを確定した上で,それが他の場面で問題となる「受領」と異なる概念であるとすれば,誤 解が生じることにならないよう,規定の相互関係について十分に整理を する必要がある。(大学教員)
○ 受領義務を認めると,注文者が,不十分な成果についても事実上受領を強制されてしまうおそれがある。他方,注文者に契約内容適合性を判断させた上であれば受領義務を課してよいという考え方については,契約内容適合性の判断自体が困難で規定が難しく,逆に請負人が注文者に不当に受領を拒まれる原因となりかねない。結局,ケースバイケースで判断せざるをえず,受領義務は明文化になじまないから,受領義務を明文化することには反対する。(札幌弁)
○ 請負以外にも同様に問題となり,また契約解釈から導けるのであれば,特に規定の必要性を感じない。(広大xx)
○ 注文者は,引渡前又は後に,瑕疵の有無・程度を確認する権利は有していると思われるが,瑕疵の有無・程度を探索する義務を負担しているわけではない。引渡前又は後に契約適合性の確認をしたことに何らかの法的効果を結びつけることは相当ではなく(「契約適合性を確認するた
めの合理的な機会が与えられたにもかかわらず,瑕疵を見逃した」場合に請負人が瑕疵担保責任を否定する主張を行う等,注文者の権利救済に不利な解釈が与えられる可能性がある。),注文者に契約適合性を確認する義務を課すべきではない。
また,「受領」という用語に「目的物を受け取る」という事実的要素と,「契約適合性の確認」「履行としての認容」「契約の目的物・客体と認める」という意思的要素の双方を含めることは,「受領」の意味が多義的になって分かりにくい。また,「受領」について意思的要素を含むとした場合には,債務不履行の要件,報酬の支払時期が不明確になる可能性がある。(日弁連)
○ 一定の場合に受領義務があることは認められるが,受領義務については,請負に限らず他の契約でも問題となるところであり,特に請負に限ってこれらの義務を新設するべきではない。仮に,受領拒絶をした場合であっても,受領遅滞の制度及びxxx上の受領義務違反としての損害賠償請求をすること可能である。(兵庫県弁)
○ 受領義務の明文化は不要である。注文者に受領義務が生じることもあるが,個別の事情によるところが大きく,一律に義務があるとなると,強制等の不都合が生じる恐れがある。要件で絞りをかけることも困難であると思われる。(東弁)
○ 受領とは,仕事の目的物を物理的に引き取り,かつ目的物が契約に適合していることを確認する行為のことである。
まず,注文者が物理的に目的物を引き取る義務を負うか否かであるが,注文者に引取義務を認めると,注文者が引き取らない場合に,請負人が 契約を解除し損害賠償請求することができることになるが,通常は,注 文者が報酬を支払わないので報酬の支払いがないことを理由として契約 を解除し,仕事の目的物の保管に要する費用についても弁済提供の効果 として請求できるため,引取義務を認める実益はほとんどない。実益が あるとすれば,例えば,報酬の支払時期が引渡後に設定されているよう な場合に,請負人が,注文者の引取義務違反を理由として契約を解除し,完成した目的物を第三者に売却したうえで請負報酬との差額を損害賠償 として請求するような限られた場面である。このような限られた場面に のみ適用される法理を条文化する必要はないであろう。
つぎに,契約適合性に関する確認義務であるが,注文者は,引渡前又 は後に,瑕疵の有無・程度を確認する権利を有ししている(その前提と して,契約適合性を確認する機会も付与されている)と思われるが,当 然には,瑕疵の有無・程度を探索する義務を負担しているわけではなく,引渡前又は後に契約適合性の確認をしたことになんらかの法的効果を結 びつけることも相当ではない。注文者に目的物が契約に適合しているこ とを確認する義務を課すべきではない。
さらに,注文者に受領義務を課すと,請負人が報酬を訴求した場合には,目的物の受領との引換え給付判決となる。そうすると,請負人は,注文者が契約適合性を確認した事実を証明しなければxxxが付与されないことになるが,注文者に契約適合性を強制することはできず,証明ができないためxxxの付与を受けることができないおそれがある。
注文者が受領義務を負うか否かは,請負人・注文者間の合意を離れて一般論として論じることはできず,「契約の内容・契約の趣旨」により決定されると考えるべきである。(福岡弁)
○ 引渡しを観念できる請負について受領義務を規定する意見もあるが反対である。(親和会)
○ 受領義務については,理論的,目的物の受領を注文者の権利であると同時に義務であるという構成することになると思われるが,民法典全体から見ても異質な構成と思わざるを得ない。現在の判例の立場も,受領義務は原則として否定しつつ,特段の事情がある場合にのみ肯定するという構成と思われ,上記考え方は当該判例の立場とも相容れない。実質的にも,かかる受領義務を認める実益は,注文者が不当な言いがかりをつけて目的物の受領を拒絶するような場合に限られると思われるが,目的物の引渡を受けられないことは注文者にとっても不利益であることが通常であるといえ,かかる事態が頻繁に発生することは想定しがたい。かかる例外的な事例をカバーするために,受領義務という現民法典上も原則として否定されている義務を新設するべき必要性は乏しいといえる
(例外的事例に対しては,xxxの解釈により対応可能であろう)。むしろ,受領義務を肯定することは,瑕疵有る仕事を行った請負人において,注文者に対して不当な受領請求をすることを認める結論となりかねないところ,かかる事態は実務上頻繁に起こりえると言え,その弊害は看過できない。よって,注文者の受領義務を規定することに強く反対する。
注文者に契約適合性を確認する機会を与えることを明示するという考え方については,当該機会を与えられたことを理由に注文者の瑕疵担保請求が制限されないことが明確にされるべきである。(日弁連消費者委xx)
○ 仕事の成果が契約に適合しているか否かの判断は,物の引渡しを念頭に置いている売買よりも一般的に困難と考えられるから,条文をもってこれらの義務を一律に課せば当事者の負担が重くなる上,取引において相対的に弱い立場にある当事者の保護を欠く場合が生じうる。xxx等の一般規定や特別法によって,これらの協力義務を導き出すことも必ずしも不可能ではない。よって,請負人が仕事を完成したときには注文者は目的物を受領する義務を負う旨の規定を置くことについては,慎重に検討すべきである。(日司連)
○ 請負契約において「受領」概念を導入することには疑問が多く,仮に 導入するとしても,当事者のxxを図るため,少なくとも建設請負工事 (土地の工作物)の報酬の請求に関しては,「契約及び仕事の性質により,仕事が実質的に完成していれば相当部分の支払を請負者は請求でき,注 文者はこれに応じなければならない」旨の規定を設けるべきである。
(建設適取協)
○ 一般的な実務においては,請負われた業務の検収が行われて初めて適法な債務の履行が行われたと認識することで,取引の安定性を担保している。債務の本旨にそぐわない履行を受領する義務を債権者に課すのは合理的ではなく,注文者の保護規定を設けるべきである。現実的には,受領に値しないような成果物をもって注文者に受領を迫る悪質な請負業者を排除するためにも,かかる規定は必要である。(xxx)
○ 注文者に受領の際,相当期間内に仕事の目的物が契約で定めた内容に 適合することを確認するために必要な検査を行わなければならないとの 義務は設けるべきではない。注文者が,消費者や目的物に精通していな い事業者である場合に,受領時に十分な検査をすることは不可能である。注文者側に,契約で定めた内容に適合することを確認するために必要な 検査を行う義務を規定することは,そのような義務が,請負人の不相当 な責任軽減(注文者への責任転嫁)に利用されることとなりかねないた め,このような規定は設けるべきではない。(弁護士,弁護士)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
【意見】
○ 注文者に契約適合性を確認する機会を与える旨を明文化することについては,慎重に検 討を要する必要がある。注文者に契約適合性の機会を与えることは必要である。しかし,注文者(特に消費者の場合)にとっては,確認の機会を与えられたからといっても,当該目的物に関する専門知識が不足していることが多い。特に建築請負の場合等において,注文者に専門的知識が不足して いることが多いと考えられる。したがって,契約適合性の確認の機会が与えられたといっても,xxしてわかるような 基本的な事項しか確認することはできない。その程度において契約適合性の確認の機会が 与えられるというのであればむしろ当然であり,わざわざ規定を設ける必要もないのでは ないか。 むしろ,契約適合性を確認する機会を与える旨を明文化することで,「契約適合性を確認するための合理的な機会が与えられたにもかかわらず,瑕疵を見逃した」場合に請負人が 瑕疵担保責任を否定する主張を行う等,注文者の権利救済に不利な解釈が与えられる可能性があるのではないか。また,契約適合性の機会を与える旨を明文化することについては,その前提として「受領」に仕事の目的物が契約内容に
適合したものであるか否かを確認し,履行として認容するという意思的要素を含めることになる。とすれば,債務不履行の場合の要件,報酬の支払時期が不明確になるおそれもある。(大阪弁)
民法第633条は,請負における報酬の支払時期について,仕事の目的物の引渡しと同時(引渡しを要しないときは,仕事完成後)と規定しているところ,この規律を改め,請負報酬の支払と,成果が契約に適合することを注文者が確認し,履行として認容することとを同時履行とすべきであるとの考え方が提示されている。これに対しては,請負人の保護に欠けることがないか,履行として認容することとの引換給付判決の強制執行をどのように行うかなどの指摘もある。そこで,これらの指摘を踏まえ,請負に関する取引の実態や取引実務に与える影響に留意しつつ,請負報酬の支払と注文者が履行として認容することとを同時履行とするという考え方の当否について,更に検討してはどうか。
このような考え方を採用する場合には,履行として認容する行為をどのような文言で表現するかについて,例えば「受領」と表現することが適切かどうかを含めて,併せて検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,4(1)[10頁]
【意見】
○ 実質上は,物の引渡しにつき請負人が常に先履行することになる点は構わないと思う。引渡,受領,検収などの用語法を民法全体で統一化すべきである。(広大xx)
○ 報酬の支払時期につき,成果が契約に適合することを注文者が確認し,履行として認容することと同時履行とすべきであるとの考えに賛成する。
請負契約においては,具体的報酬請求権は請負人による仕事の完成によって発生するとの理解が一般的であるところ,具体的報酬請求権の発生が確認されるのは,注文者が仕事の完成を承認して受領することによるものであることから,報酬の支払いと同時履行に立つのは注文者の受領であるとの考えに基づく上記提案は,解釈として自然である。また,仕事の完成を承認して受領することを報酬の支払いと同時履行に立たせることは,注文者の保護になると同時に,受領を促進する観点等から請負人の保護に寄与する点もあると考えられる。なお,意思的要素を含む行為との引換給付を実現するxxxの困難性をもって,上記意見に反対する意見もあるが,xxxの問題については別途検討すべきであり,xxxの困難性をもって実体法上の検討に制限が加えられるべきではないのではないか。(広島弁)
○ 具体的報酬請求権の発生が確認されるのは,注文者が仕事の完成を承認して受領したときであるから,報酬の支払時期を原則として目的物の引渡しと同時としつつ,引渡し後に契約適合性を確認する予定の場合にはそれが確認された段階とする考え方に賛成する。(愛知県弁)
○ 目的物の引渡しを要しない類型を除外すると,請負契約の報酬支払時期についての規定としては,受領と同時に支払わなければならない旨を規定すべきである。(xx弁消費者委)
○ 請負報酬の支払いと,成果が契約に適合することを注文者が確認し,履行として認容することとを同時履行とすべきであるとの考え方は取 引実務に則しており,賛成である。(三菱電機)
○ 報酬の支払時期については,取引の類型によって,報酬の支払時期に関する取引慣行や,契約適合性の確認・履行としての認容と報酬支払を同時履行とすることがxxにかなうか否かという利益状況が異なることに留意しつつ,検討すべきである。
注文者が契約への適合性を確認する時期が,必ずしも引渡後とは限らず,引渡前に適合性を確認する場合もあることに留意しつつ,検討すべきである。
仮に,履行として認容する行為を規定するのであれば,その文言は,
「受領」ではなく,「検収」,「確認」などのように,「履行として認容する行為」であることを理解しやすい文言を用いる方向で,検討すべきである。
引換給付判決にもとづく強制執行の場面を念頭において「履行として認容する行為」を注文者が請負人に一定の行為を請求する権利として構成するか,あるいは,債権債務ではなく報酬支払債務の停止条件として構成してはどうか,という意見もあった。(二弁)
○ 取引実務においては,完成後の一括払い,成果割合毎の支払い,一 部頭金+完成割合毎の支払い等,様々な報酬の支払い方法が存在し, 請け負わせる仕事内容や,各事業者の資金の都合なども加味して決定 されるのが通例である。典型契約としては,多様な支払方法を許容し,取引実務に余計な制約を課さない形での規定が望ましい。また,工事 請負など一部の請負に関しては,会計ルールなどにも支払いに係る定 めがあることから,これらとの整合性についても配慮をするべきであ る。(会社員)
○ 以下のような理由から,報酬の支払時期について,注文主が,履行として認容することと同時履行とするとの提案には,消極的な意見が多かった。
「注文者が確認し,履行として認容すること」という要件は,必ずしも明確でなく,裁判所において認定に支障が生ずるおそれがある。
また,注文者の代金拒絶理由として濫用されるおそれもあり,請負人の保護に欠けることになりかねない。さらに,仮に注文主が「履行として認容する」必要があるとするならば,引換給付判決の強制執行を行うに当たっては,「履行として認容する行為」があったかどうかを執行機関が制約された資料を前提に判断することを求められるが,そのような判断は事実上困難であるから,執行実務に混乱が生じる。
(最高裁)
○ 報酬について,成果が契約に適合することを注文者が確認し,履行として認容するのと同時に支払わなければならないという考え方については,反対意見が強い。
注文者に仕事の目的物が契約に適合しているか否かを確認する義務を課すべきではない。また,「受領」の意味に「履行として認容する」という意思的要素を含めた場合,注文者が受領を拒否した場合の報酬の支払義務発生時期,引換給付判決の主文の記載等が不明確になるおそれがある。(日弁連)
○ 注文者が履行として認容したことと報酬の支払を同時履行とする考え方には,注文者が履行として認容しない限り執行ができなくなって実務への影響が甚大であること,検収に時間を要する類型の請負において請負人への影響が大きいことから反対する。しかし,瑕疵担保責任の権利行使期間の起算点を請負人が履行として認容した時点とすることには反対しない。(一弁)
○ 「受領」(=注文者が履行として認容する意味)に意思的要素を含むと,その判断が不明確になりかねないほか,検収で報酬発生というのは商事売買に関するもので,一般に適用してよいかは疑問である。よって,報酬の支払と「受領」を同時履行とする考え方に反対する。現行法どおり,引渡との同時履行でよい。(札幌弁)
○ 注文者が契約適合性を確認し,履行として認容することを報酬請求権の発生原因とすると,請負人に酷である。仮に,事実行為としての受取に限定するとしても,引換給付判決の強制執行の時に困難が生じる。(東弁)
○ 現行法を積極的に改正するべき立法事実は明らかではない。例えば,報酬支払請求訴訟で,引換給付判決を考えてみると,引渡しと報酬支 払いの引換給付というのは,双方の権利が対立していてわかりやすい が,受領と報酬支払いの引換給付というのは,「受領させろ,そした ら支払いますよ」という不自然な形になってしまう。特に,注文者の 受領義務を法的に認めるという立場からすれば,この不自然さは顕著 となる。さらには,完成物の所有権帰属の問題とも関係するが,報酬 請求権担保のために完成物を留置する,という留置権との関係につい ても問題が生ずることとなる。したがって,報酬支払時期については,
現行法を維持し,仕事の目的物の引渡と同時に,目的物の引渡を要しないときは仕事の完成後に支払うべきものとすれば足りる。検討の必要はない。(兵庫県弁)
○ 報酬の支払時期を,成果が契約に適合することを注文者が確認し,履行として認容する ことと同時とすることについては,履行として認容するという意思的要素が含まれている ため,注文者が履行として認容することを拒否した場合の報酬の支払義務発生時期,引替 給付判決の主文の記載等が不明確になるおそれがあるため,現行法どおり,報酬の支払時期 については引渡しと同時とすることを維持するのが妥当である。少なくとも,仕事を完成 し引渡しができる状態になった後に注文者が履行として認容することを拒否した場合には, 受領義務違反又は弁済の提供があるものとして報酬請求が可能な状態となることを認める べきである。また,請負につき引渡しを観念できる類型に限定するのであれば,現行民法 第633条ただし書に相当する条文は不要であると考える。(大阪弁)
○ 請負報酬の支払時期と目的物の受領を同時履行とすべきではなく,現行法の規定を維持すべきである。
まず,引渡しが必要な請負契約についてであるが,注文者に仕事の目的物が契約に適合しているか否かを確認する義務を課すべきではなく,報酬の支払時期は,仕事の目的物の引渡時と考えるべきである。注文者は,引渡前又は引渡後に,瑕疵の有無・程度を確認する権利を有していると思われるが,報酬の支払時期は瑕疵の存在・程度とは一応無関係であるため,受領とリンクすることはない。
つぎに,引渡し不要の請負契約についてであるが,報酬支払時期は,仕事の完成時となることは当然である。(福岡弁)
○ 現行法の「引渡し」と同時で不都合はない。仮に「受領」と同時とした場合,注文者が難癖をつけて受領を拒否するなどして報酬の支払が不当に引き延ばされるといった事態の生ずることが懸念されるし,引換給付判決の取扱などの新たな問題が付随して発生するものと考えられる。(横浜弁)
○ 報酬支払と対価的牽連性をもたせる行為を「履行として認容すること」とすると,いずれも注文者にイニシアティブがある行為となり,請負人としては,報酬支払の履行確保のための防御手段を失うこととなるように思われ,妥当ではない。単なる目的物の引渡しや仕事の完成ではなく,履行として認容に足りる提供が必要であることは理解できるが,現行法の枠組みでも債務の本旨に従った目的物の引渡しや仕事の完成かという評価規範が介在することで十分に機能している。報酬支払と対価的牽連性をもたせる行為を,請負人による行為としての
「目的物の引渡し」や「仕事の完成」ではなく,注文者による行為と
しての「履行として認容すること」や「受領」と表現することには反対である。(親和会)
○ 「仕事の成果」の中には実際上引き渡しを観念しづらいものがあり,現行法の文言によればそのような場合にも適切に報酬を発生させるこ とができる。かかる条文の文言は存置すべきである。受領は債権者の 行為であり債務者の債務ではなく同時履行関係にない点で理論的に妥 当でないことに加え,理論の内容も難解であり,実社会で通用すると 思われない。(法友全期)
○ 現行民法 633 条は,報酬の支払い時期を「仕事の目的物の引渡と同時」と規定しているところ,それを「注文者が履行として認容する」ことと同時履行とする考え方については,特に注文者が消費者の場合で目的物に重大な瑕疵が存在するような場合には消費者保護の観点から一定の評価も可能である。しかし,「履行として認容」なる概念の前提に,注文者において目的物の契約適合性確認義務等が存在するのであれば,異議なき受領によって瑕疵担保責任の追求が制限されるような解釈がなされかねず,上記意見については反対する。
なお,上記意見とは別に,報酬の支払い時期に関しては,最高裁平 成9年2月14日判決の判示内容(請負契約の目的物に瑕疵がある場 合には,注文者は,瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんが みxxxに反すると認められるときを除き,請負人から瑕疵の補修に 代わる損害の賠償を受けるまでは,報酬全額の支払を拒むことができ,これについて履行遅滞の責任も負わない)は明文化されるべきと考え る。(日弁連消費者委xx)
○ 現行法と同様,引渡し(受領の用語を用いるとしても引渡の意味)と同時に支払わなければならないものとすべきである。その理由は,以下のとおりである。
「受領」と引き換えに報酬請求権が発生するとした場合,報酬請求権の発生時期が不明瞭になり(注文者次第になりかねない),報酬をめぐる紛争が更に増加する懸念がある。まして,何らかの意思的要素を含む意味の「受領」と引き換えとした場合には,請負人は,完成
(通常は,費用を負担している。)に加え引渡しまで先に行うことが必要となり,請負人の権利保護に欠ける。
次に,注文者については,引渡しを受けた時に,目的物が契約に適合するかどうか,確認しないまま報酬を支払わなければならないこととなるが,現行法どおり瑕疵担保責任の追及で処理することで不都合はない。
また,履行として認容するという意志的要素が加わったものとして
「受領」を考えて,報酬請求権の発生を受領と引き換えとした場合に,引換給付判決において,「受領」を実現する術がなく,執行を開始で
きないこととなりかねない。(xxxx)
○ 仕事の成果が契約に適合しているか否かの判断は,物の引渡しを念頭に置いている売買よりも一般的に困難と考えられるから,条文をもってこれらの義務を一律に課せば当事者の負担が重くなる上,取引において相対的に弱い立場にある当事者の保護を欠く場合が生じうる。xxx等の一般規定や特別法によって,これらの協力義務を導き出すことも必ずしも不可能ではない。よって,報酬支払義務が発生する前提として,注文者において成果が契約に適合することを確認し,履行として認容する行為を規定することは,慎重に検討すべきである。
(日司連)
○ 請負報酬の支払時期については,現行規定をとくに修正する必要は感じられない。報酬の支払と受領とを同時履行とするという考え方を前提とすると,請負人は目的物を引き渡しても,注文者がその契約適合性について確認しなければ報酬が得られないこととなり,請負人が目的物の引渡しのリスクを一方的に負担することになる。引渡しと同時履行とされている現行法の下でも,優越的地位にある注文者が仕事の完成を認めないために報酬の支払をめぐって紛争が生ずる事例が多発しており,報酬の支払を受ける要件として引渡しだけでなく,注文者が履行として認容することまで必要であるとすると,現在以上に紛争が多発するおそれがある。報酬の支払と受領とを同時履行とするという考え方は商事売買(商法第 526 条)において議論されているが,これは商事売買における売主を保護するという政策的な目的から買主に検査通知義務を課しているのであり,このような政策的目的を持つ規律を民法に設けることには疑問がある。(日大民研・商研)
○ 労務供給に関する報酬請求権については,労働契約,雇用契約,請 負契約,委任契約,準委任契約その他の契約形態の如何にかかわらず,現行法制より権利内容を後退させるべきではない。役務提供型契約に は,①消費者契約のように,役務受領者が弱い立場にありその保護に 配慮すべき場合,②労働契約のように,役務提供者が弱い立場にあり その保護に配慮すべき場合,③企業間契約のように役務提供者と役務 受領者がある程度対等な場合があり,それぞれの類型毎に規律を検討 する必要があるところ,消費者保護の視点のみを強調して規律を行う ことは,役務受領者の立場を片面的に強化し,労働者や零細事業者そ の他の立場の弱い役務提供者の契約上の地位と役務提供先に対する報 酬請求権を弱める結果を招くものである。この点,請負に関する報酬 支払時期について役務受領者の受領と同時とすることは,労務供給者 の報酬請求権の発生要件が厳格化され,役務受領者の支払拒絶が容易 化されるおそれがある。今後の検討過程で,これらの危惧が具体化し た場合においては,このような方向での法改正には賛成できない。
(連合)
○ 支払時期を変更することには賛同しかねる。注文者が契約適合性を 確認し履行として認容すること,即ち検収との同時履行とすることに ついては,無体物など契約適合性が簡単には判断できない場合など注 文者が契約適合性の判断を留保した場合には,請負人が報酬請求を期 待するだけの履行を完了した後も相当期間にわたり,報酬請求がかな わず,注文者と請負人間の紛争が生じることが懸念されるためである。また,注文者が契約適合性の適時の判断を過怠したときは,請負人が 不当に長期間,報酬請求ができないこととなるからであるからである。
(情サ産協)
○ 報酬の支払い時期に関し,仕事の目的物の引渡しと同時履行との現行の規律を改め,請負報酬の支払と注文者が履行として認容すること
(「受領」)とを同時履行とする考え方は,些細な不具合をとらえて,注文者の認容がなかなかなされず,請負報酬全額の支払が止められるケースも考えられるので,請負人の保護の観点から慎重に検討されるべきである。また,「履行として認容すること」を条文上に表現するにあたり,ここで指摘した弊害を排除するような適切な表現が可能かどうか甚だ疑問である。(日建連)
○ 客観的に仕事が適切に完成されたにかかわらず,注文者が履行として認容しなければ報酬の支払時期が到来しないとすると,注文者の恣意的な判断によって履行期が遅れることになるのではないか。(大学教員)
○ 報酬の支払と受領との「同時履行」という視点ないし表現方法は不適切であり,端的に報酬の支払時期という表題の下で議論すべきではないか。
①報酬の支払と引渡しは民法第533条の意味での同時履行の関係に立つが,報酬の支払と受領は同条の意味での同時履行の関係には立たない。
②また,民法第633条は物の引渡を要する場合の報酬の支払時期を仕事の完成時ではなくて引渡時とすることを主眼とし,これによって,本来的には先履行義務である報酬請求権と引渡とを同法第533条の同時履行の関係に立たせたものと解すべきだと思われる。
報酬の支払時期を「受領時」とすることは,請負人の代金債権の確保との関連で問題がある。特約により報酬の支払時期を検収完了時とすることが現実的には多いとしても,一般原則としては,報酬の支払いと引渡しを同時履行の関係に立たせる現行法を維持すべきである。
(大学教員)
○ 報酬の支払を受ける要件として,引渡しだけでなく注文者が履行と
して認容することまで必要であるとすると,現在以上に紛争が多発するおそれがある。契約上は注文者が検収してから代金を支払うという合意がされている場合であっても,報酬の支払を求めた訴訟においては,受領との引換給付判決ではなく,引渡しがあれば請求が認容されるのが一般的なことにも留意すべきである。(弁護士)
○ いわゆる検収を報酬の支払と同時履行の関係に立たせることは,優越的地位にある注文者による濫用のおそれが高い。また,民法で検収基準が原則となってしまった場合には,下請代金支払遅延等防止法第
2条の2のような規制も見直しを余儀なくされる可能性が高く,社会的弱者の立場にある請負人・下請負人の保護が現状よりさらに後退する結果ともなりかねない。よって,現行法の規律を改め,成果が契約に適合することを注文者が確認して履行を認容することと報酬の支払いを同時履行とする考え方には,強く反対する。(弁護士)
○ 雨漏りを直してもらう場合に,仕事が終わっても(あるいは,終わったつもりでいても)雨が降るまでは直ったかどうかは分からないから,終了時期は実は不明であって,633 条のたらい回し先の 624 条 1項をどう解釈するのかという問題が生ずる。(翻訳・出版関係)
○ 引渡しと同時に履行されるされている現行法のもとでも紛争があり,裁判になることも少なくないことや,認容するという概念の導入によ り,さらに混乱をもたらす懸念がある。(団体職員)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
○ 請負契約において「受領」概念を導入することには疑問が多く,仮に導入するとしても,当事者のxxを図るため,少なくとも建設請負工事(土地の工作物)の報酬の請求に関しては,「契約及び仕事の性質により,仕事が実質的に完成していれば相当部分の支払を請負者は請求でき,注文者はこれに応じなければならない」旨の規定を設けるべきである。(建設適取協)
仕事の完成が中途で不可能になった場合には,請負人は仕事を完成していない以上報酬を請求することができないのが原則であるが,注文者の責めに帰すべき事由によって仕事の完成が不可能になったときは,民法第536条第2項の規定に基づき,請負人は報酬を請求することができるとされている。もっとも,請負人が例外的に報酬を請求することができる場合を同項によって規律することについては,仕事が完成していない段階では具体的な報酬請求権が発生していないから,危険負担の問題として構成する前提を欠くという批判や,「責めに帰すべき事由」という文言が多義的で内容が不明確であるとの批判があるほか,請求できる
報酬の範囲も明確ではない。
そこで,仕事の完成が中途で不可能になった場合であっても請負人が報酬を請求することができるのはどのような場合か,どのような範囲で報酬を請求することができるかについて,現行法の下で請負人が得られる報酬請求権の内容を後退させるべきではないとの指摘があることにも留意しながら,更に検討してはどうか。
その場合の具体的な規定内容として,例えば,①仕事の完成が不可能になった原因が注文者に生じた事由であるときは既に履行した役務提供の割合に応じた報酬を,②その原因が注文者の義務違反であるときは約定の報酬から債務を免れることによって得た利益を控除した額を,それぞれ請求することができるとの考え方がある。このような考え方の当否について,「注文者に生じた事由」や「注文者の義務違反」の具体的な内容,請負人の利益を害するおそれの有無,注文者が債務不履行を理由に解除した場合の効果との均衡などに留意しつつ,更に検討してはどうか。
また,判例は,仕事の完成が不可能になった場合であっても,既に行われた仕事の成果が可分であり,かつ,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,既履行部分について請負契約を解除することはできず,請負人は既履行部分について報酬を請求することができるとしていることから,このような判例法理を条文上も明記するかどうかについて,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,4(2)[11頁]】
【第1段落から第3段落までについての意見】
○ 請負の中には建築請負に代表される報酬金額の高い契約もあるから,危険負担の規定によるオール・オア・ナッシングの規律は必ずしも妥 当でなく,請負人が既履行部分の割合に応じた報酬を確保するための 要件を整備することは有益である。よって,役務提供者が報酬を請求 するための要件・効果について,民法第536条第2項とは別に具体 的な規定を設けることに賛成する。
請負人が既履行部分の割合に応じた報酬を請求できる場合を設ける ことには賛成するが,「注文者に生じた事由」との要件には反対する。むしろ,注文者と請負人いずれの帰責事由ともいえない場合は,既履 行部分の割合に応じた報酬請求ができることを原則とする考え方は採 れないか。また,注文者の義務違反があった場合に請負人が債務を免 れたことによって得た利益を控除した額を請求できるとする考え方に は賛成する。(愛知県弁)
○ 中間論点整理において提案されている考え方は,当事者間のxx及び契約関係終了時の利益調整方法として妥当であり,賛成である。
(xx弁消費者委)
○ 中間論点整理において提案されている考え方に賛成である。「債権者の責めに帰すべき事由」を2つの程度に分けて,それぞれ異なる効果とすることには一定の意味があり,xxである。(札幌弁)
○ 仕事の完成が不可能になった原因が注文者に生じた事由であるときは既に履行した役務提供の割合に応じた報酬を,その原因が注文者の義務違反であるときは約定の報酬から債務を免れることによって得た利益を控除した額を,それぞれ請求することができるという提案に賛成する。これは実務上の考え方に即したものであり,それを明文化することはのぞましいと考えられる。(広島弁)
○ 仕事完成前の履行不能が注文者の責めに帰すべき事由による場合に は,請負人は注文者 に対し請負代金全額を請求できるとした上で, 自己の債務を免れたことによる利益を償還 する義務を負うというの が判例であり(最判昭和52年2月22日),この判例の考え方を明 文化するものであることは理解できる。また,履行不能の原因が注文 者に生じた事由で ある場合には役務提供の割合に応じた報酬を請求 することができるという考え方にも,一定の合理性があるとも思える。したがって,明文化すること自体については賛成である。
しかし,その具体的要件に関して,「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」の区 別については,必ずしも明らかではなく,どちらに該当するかについての紛争が生じる懸念もある。
また,これらの考え方は,現行民法第536条2項を廃止することを前提としているとも考えられる。現行民法第536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」の解釈を巡っては,特に,労働契約において,労働者が就労できない事態が生じた場合における賃金請求の可否を巡って,対価危険のxxな負担が図られるよう,議論が積み重ねられてきた。現行民法第536条2項に代わる規定を設定するのであれば,上記の議論を踏まえた対 価危険のxxな負担が図られるような必要十分な要件として定立されるよう,議論を尽くす必要がある。
以上の点から,仕事完成前の履行不能における報酬請求の具体的な要件については十分な議論を行う必要があると考える。(大阪弁)
○ 仕事の完成が中途で不可能になった場合には,請負人は仕事を完成していない以上報酬を請求することができないのが原則であるが,請負人が例外的に報酬を請求することができる場合を規律することについては,賛成である。
その場合の具体的な規定内容としては,「注文者に生じた事由」や
「注文者の義務違反」の具体的な内容,請負人の利益を害するおそれの有無,注文者が債務不履行を理由に解除した場合の効果との均衡などに留意した規定とする必要がある。例示されている,①仕事の完成が不可能になった原因が注文者に生じた事由であるときは既に履行し
た役務提供の割合に応じた報酬を,②その原因が注文者の義務違反であるときは約定の報酬から債務を免れることによって得た利益を控除した額を,それぞれ請求することができるとの考え方には,基本的に賛成である。(日大民研・商研)
○ 提案には反対ではないが,少なくとも建設請負契約(土地の工作物)の報酬の支払方法に関しては,仕事完成後の後払方式と,契約及び仕事の性質により仕事の完成前でも相当部分を支払う方式とがあることを前提に制度設計を行うべきである。(建設適取協)
○ 検討することに異論はなかった。(最高裁)
○ 仕事の完成が不可能になった原因が注文者に生じた事由であるときは,既に履行した役務提供の割合に応じた報酬を請求できる,②その原因が注文者の義務違反であるときは,約定の報酬から債務を免れることによって得た利益を控除した額を請求できるという考え方については,賛成意見が多いが,有力な反対意見があり,慎重な検討を要する。
基準を明確にすることには意義があるが,上記①②の具体的内容, 両者の区別は不明確であり,現行民法 536 条 2 項「責めに帰すべき事 由」を「義務違反」という表現に置きかえていることには問題がある。
(日弁連)
○ 仕事が完成していなくとも,その成果に応じて報酬相当額の請求権 を認めるべき場合があり,これを条文化する方向で検討することには 賛成である。「注文者に生じた事由」により履行不能となった場合に は,請負人は既履行部分の割合に応じた報酬請求権を持つとするのは,相当である。
しかし,提案されている,「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」と言う概念により,報酬請求権の範囲を異にするという立法については,区別が明瞭であるとはいえず,この方向で検討することには反対である。むしろ,請負人が,「約定報酬から自己の債務を免れることによって得た利益を控除した額」を請求することができるのは,契約を解除し,損害賠償を請求した場面であると考えられ,「注文者の義務違反」と言う概念を持ち込むよりも,「解除+損害賠償」の方向で検討するのが良いと考えられる。(兵庫県弁)
○ 規定を設けることに賛成である。ただし,その場合の具体的な規定内容について論点整理に示された考え方における,「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」の関係が不明確であるため,この点を明確にすべきである。(横浜弁)
○ 請負人が仕事を途中で完成できなくなった場合,「当事者の合意・合意の趣旨」,完成した部分の有益性などを勘案して,請負人は完成した部分に対応する報酬の支払いを求めることができる(注文者に生
じた事由によって完成不能となった場合に限られない)旨明文化すべきである。請負報酬は,仕事が完成しなければ具体的請求権として発生しないため,仕事が途中で終了した場合には,請負人は報酬を請求することはできないが,例えば,建物の建築請負において,柱・壁・屋根が完成した時点で,請負人が倒産してこれ以降の工事ができない状態になった場合,「当事者の合意・合意の趣旨」,又はこれが不明の場合には出来高部分の有用性などから判断して,出来高に対応する報酬が発生する場合も考えられる。この出来高に応じた報酬の支払は,注文者側の事情によって完成不能となった場合だけではなく,請負人側の事情,第三者又は不可抗力によって完成不能となった場合にも認められる。
仕事を途中で完成できなくなった原因が注文者の責めに帰すべき事 由による場合,請負人は,請負報酬から仮に工事を完成させたとすれ ば支出したであろう費用を控除した額の支払いを求めることができる。ただし,「当事者の合意・合意の趣旨」,当事者の業態・地位,契約締 結に至る経緯,仕事の進捗状況,不能となった理由・時期などを勘案 して相当と判断される範囲に限る旨明文化すべきである。例えば,請 負人Aが,一人暮らしの高齢のxxBにアパートを建築してアパート 経営することを勧め,Bが建築請負契約書に調印した直後に,思い直 して契約を解除した事例で考えると,請負人Aは工事に着工すらして おらず,Aの純利益を補償する必要はないであろう。このように額が 過大となる場合も想定されうるので,相当の減額をなしうる規定を入 れた。(福岡弁)
○ 注文者に帰責事由ある場合に請負人の報酬請求権を認める規定を置くことに賛成。注文者が仕事の完成を妨害した場合にまで請負人の報酬請求権を認めないのは請負人に酷。(法友全期)
○ 「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」の区別が不明確であり,また各場合の効果についても必ずしも明確になっていないというという問題がある。
また,注文者と請負人相互に,事由が生じたり,義務違反が認められる場合があるのではないか,既履行部分がわずかであったり,注文者義務違反が軽微なものにとどまる場合に,約定の報酬全額を認めることは注文者に酷になるのではないかといった危惧が生じる。
よって,慎重に検討すべきである。(日弁連消費者委xx)
○ 現行法の下で,請負人が得られる報酬請求権の内容を後退させるべきではない。
更に建設請負の実務の実態に照らした場合,実際に仕事の完成が不可能となった場合に,報酬請求権の範囲が問題となる場合が現実に多い。例えば,発注機関からの要請により技術提案やプロポーザル設計
を行うことがあるが,提案が実現しなかった時に,これまでの提案や設計に掛かった実費請求すらも認められない場合が多い。このような現状に対し,請負人が請求できる報酬の範囲として,注文者が一方的に工事を中止した場合,それまでの実費精算はもとより,既履行部分についてのみでなく,完成したら得られたであろう得べかりし利益相当額や,出来高に反映されない先行工事費や製作キャンセル費用なども,請求できる範囲であることを規定化することができれば,実務上の意義が認められる。(日建連)
○ 一般論としては,このような事項は解除や危険負担の規律に委ねればよく,なぜ請負について特則を設ける必要があるのか理解に苦しむが,仮にこのような規定を設けるのであれば,少なくとも解除や危険負担一般との関係を明らかにしておく必要があり,他の典型契約に関する規律との均衡も考慮すべきである。例えば委任契約では,委任者は原則としていつでも委任契約を解除できるものとされており,実務上はコンピュータシステムの作成に関する契約など,請負と委任との区別が難しい契約類型もあることに留意すべきである。(弁護士)
○ 注文者側の原因によるか否かや,注文者の義務違反であるか否かで扱いを区分しようとする処理は,原因や義務違反の有無を巡り注文者と請負者との間の意見不一致を招きやすく,トラブルの増加要因となることが懸念される。判例法理を前提に,可能な限り仕事の成果を可分なものとして理解し,既履行分の経済的価値を両者で算定の上,その経済的価値の範囲内で注文者が請負人に報酬を支払うものとする処理が,注文者,請負人双方にとって妥当なものであり,その方向で検討されるべきである。(会社員)
○ 「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」に分けて規律する考え方に反対である。民法第536条第2項に規定する「債権者の責めに帰すべき事由」の概念を維持すべきである。(一弁)
○ 注文者の責めに帰すべき事由によって仕事の完成が不可能になったときは,民法第536条第2項の規定に基づき,請負人は報酬を請求することができるとする現行法の考え方を維持するのが妥当である。これに対し,仕事の完成が不可能になった原因が注文者に生じた事由であるか注文者の義務違反であるかによって区別する考え方には反対する。(東弁)
○ 「注文者に生じた事由」や「注文者の義務違反」という概念の導入に反対する。「注文者に生じた事由」,「注文者の義務違反」の具体的内容,「注文者の責めに帰すべき事由」との違いが不明確であり,現行法を改正する必要性が不明である。
仮に「注文者に生じた事由」により,仕事の完成が不可能となった場合に履行割合に応じた報酬のみを請求できるとすると,現行法より
も請負人の権利が後退する懸念がある。すなわち,「注文者の義務違反」が「帰責事由」よりも狭い概念であるとすれば,注文者に「義務違反」以外の「帰責事由」がある場合は,「注文者に生じた事由」がある場合として履行割合に応じた請求はできるものの,報酬全額を請求できなくなり,現行法(注文者に帰責事由がある場合は民法536条2項により全額を請求できる)よりも請負人の権利が後退してしまう。また,「既に履行した役務提供の割合」を具体的にどのように算定・評価するのかが問題となるので,考え方を明確化する必要もあると考える。(二弁)
○ 注文者の帰責事由によって仕事の完成が不可能となったのであれば,請負人としては,役務提供を望んでもそれが叶わなくなっているので あるから,役務提供の割合にかかわらず,全額の報酬請求権があると する民法第536条第2項の規定には合理性があり,役務提供の割合 に制限されるべきではない。現行法の規律を維持すべきであり,論点 として取り上げるべきではない。(親和会)
○ 請負人が仕事の完成をすることができなくなった場合,原則として報酬請求権は発生しないこととすべきである。
例外的に,仕事の完成ができなくなったことにつき「注文者に帰責性がある場合」には,請負人は「約定の報酬から債務を免れることによって得た利益を控除した額」を請求することができる。「原因が注文者に生じた事由であるとき」という要件は,内容が不明確であり,また,原因が注文者に生じた事由であれば仕事の完成無しに報酬請求権が発生する根拠も明らかでない。他方,「注文者に義務違反があるとき」では,補足範囲が狭すぎる。「責めに帰すべき事由」という文言は,現行民法上,一般的に使用されている用語であり,これによるのが相当である。(xxxx)
○ 中間論点整理において提示された考え方については,慎重に検討すべきである。「注文者に生じた事由であるとき」及び「注文者の義務違反であるとき」といった要件は,民法第536条第2項に処理を委ねる現民法に比べ,解釈の幅が広がってしまうおそれがあり,後日,解釈を巡って紛争が生じる可能性がある。仕事の完成が中途で不可能になった場合の報酬請求権の帰すうは,現民法下と同様,現民法第5
36条第2項に相当する規定に委ねることとした方が簡明である。
(日司連)
○ 判例法理(最判昭和 56 年 2 月 17 日判時 996 号 61 頁等)を具体化 した規定を設けること(仕事の完成が不可能になった場合であっても,既に行われた仕事の成果が可分であり,かつ,注文者が既履行部分の 給付を受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,既 履行部分について請負契約を解除することはできず,請負人は既履行
部分について報酬を請求することができる)については,とくに反対はしない。(日大民研・商研)
○ 労務供給に関する報酬請求権については,労働契約,雇用契約,請 負契約,委任契約,準委任契約その他の契約形態の如何にかかわらず,現行法制より権利内容を後退させるべきではない。
役務提供型契約には,①消費者契約のように,役務受領者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,②労働契約のように,役務提供者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,③企業間契約のように役務提供者と役務受領者がある程度対等な場合があり,それぞれの類型毎に規律を検討する必要があるところ,消費者保護の視点のみを強調して規律を行うことは,役務受領者の立場を片面的に強化し,労働者や零細事業者その他の立場の弱い役務提供者の契約上の地位と役務提供先に対する報酬請求権を弱める結果を招くものである。
請負に関して,仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権につ いては,これまで,その原因が注文者の責めに帰すべき事由にあると きには,民法 536 条 2 項の危険負担の規定により,請負人は反対給付 たる報酬請求権を失わないと解されている。この点,従来の「注文者 の責めに帰すべき事由」と,「中間的な論点整理」の提案する「注文 者に生じた事由」と「注文者の義務違反」の違いは明らかではないが,
「注文者の義務違反」でなければ,個人が有償で自ら労務を供給する契約に関して,労務供給先(注文者)が仕事の完成前に仕事を打ち切った場合でも,既に履行した役務提供の割合に応じた報酬の支払をすればよいこととなる。これは,労働者や零細事業者その他の立場の弱い役務提供者の契約上の権利を後退させるものであり,このような方向での法改正には賛成できない。(連合)
○ 仕事の完成が中途で不可能になった場合であっても請負人が報酬を請求することができる場合及びその請求範囲の具体的な規定内容として挙げられている考え方(①仕事の完成が不可能になった原因が注文者に生じた事由であるときは既に履行した役務提供の割合に応じた報酬,②その原因が注文者の義務違反であるときは約定の報酬から債務を免れることによって得た利益を控除した額,をそれぞれ請求することができるという考え方)については,これら①②の範囲の実質的な違いが分かりづらいため,実務が混乱しない分かりやすい規定を目指すべきである。(三菱電機)
○ 民法第536条第2項の解釈として,仕事の完成が不能になったことについて注文者に帰責事由があれば請負人は報酬全額を請求することができる。(弁護士)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
【第4段落についての意見】
○ 解除も含め,部分的な完成で意味を持つ場合は,その部分のみの対応を認める方向で規定すべきである。(広大xx)
○ 既履行部分が可分であって注文者がその給付に関し利益を有する場合に関する判例を明文化することには賛成する。(愛知県弁)
○ 中間論点整理において提案されている考え方に賛成である。(札幌弁)
○ 判例法理を明記することについても賛成である。(広島弁)
○ 判例を明文化することについては,その結論が妥当であり,実務的にも定着していることから,賛成である。(兵庫県弁)
○ 請負人の債務不履行を原因として注文者が解除した場合等において,一定の要件の下に解除を制限し,報酬請求することができる旨の規定 を置くことに賛成する。(一弁)
○ 仕事の完成が不可能になった場合であっても,既に行われた仕事の成果が可分であり,かつ,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,既履行部分について請負契約を解除することはできず,請負人は既履行部分について報酬を請求することができる旨の判例法理を明文化することについては,基本的には賛成する。(東弁)
○ 判例を明文化するものであり,賛成である。(横浜弁)
○ 既履行部分が可分の場合の報酬請求権について,判例法理を明文化することに異論はない。判例法理を明文化する方向には異論ないが,仕事の成果が可分である場合とのはどのような場合を指すのかについて慎重に検討した上で,要件を定める必要があると考える。(二弁)
○ 仕事の完成が不可能になった場合であっても,すでに行われた仕事の成果が可分であり,かつ,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,既履行部分について請負契約を解除することはできず,請負人は既履行部分について報酬を請求することができる旨の判例法理を明文化することにはとくに異論はない。(親和会)
○ 完成した一部が可分の場合の報酬請求権を(判例に従い)認める規定を置くことに賛成。(法友全期)
○ 既に行われた仕事の成果が可分であり,かつ,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,
(既履行部分について請負契約を解除することはできず,)既履行部分について報酬を請求することができることは現行民法下の判例であり,これを明記すべきである。(xxxx)
○ 既履行部分に関して契約を遡及的に解除することができないことを明文化する必要がある。また,仕事の完成が中途で不可能になった場
合も請負人が報酬を請求できる場合があることを前提とした明文化を望むが,既に行われた仕事の成果が可分であることに加えて,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するとの要件が追加された場合には,注文者の利益が一定の場合に推定される規定でもない限り,報酬請求権の内容が現行法よりも後退することが懸念される。
(情サ産協)
○ 「論点整理」が引用する判例最判昭和56年2月17日の判例法理を条文明記することを検討していくべきである。(日建連)
○ 仕事の完成が不可能となった原因を問わず,既に行われた仕事の成果が可分であり,かつ,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,請負人に対し既履行部分の報酬請求権を認めるのがxxかつ合理的であるが,現行民法下にはこのような考え方を明示した条文はないことから,このような判例法理は明文化の対象とすべきである。(弁護士)
○ 判例(最判昭和56年2月17日判時996号61頁等)は,仕事の完成が不可能になった場合であっても,仕事の成果が可分であり,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,注文者は既履行部分について請負契約を解除することができないとし,請負人は既履行部分について報酬を請求することができるとしている。これを明文化することは合理性がある。ただし,請負においては成果を一部しか履行していない段階で既履行部分について報酬を請求することはできないのが原則であり,明文化することによって原則を曖昧にしないよう留意すべきである。(弁護士)
○ 「仕事の完成が不可能になった場合であっても,既に行われた仕事の成果が可分であり,かつ,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,既履行部分について請負契約を解除することはできず,請負人は既履行部分につ報酬を請求することができる」との判例法理を条文上を明記するとの考え方について,「注文者に生じた事由」「注文者の義務違反」以外の原因で仕事の完成が不可能になった場合の一部解除・報酬については,注文者が不本意な「利得」を押しつけられないように慎重に検討すべきである。例示されている「請負人の債務不履行を原因として注文者が請負を解除した場合」などにおいて,解除権を制限し,既履行部分について報酬請求を安易に認めると,請負人の「やり特」,注文者に不本意な「利得」の押しつけを許す場合もあり得る。
注文者の「利益」については,契約の趣旨・目的・契約態様・債務不履行の態様などから注文者の「利益」として報酬負担を認めることが合理的な場合に制限すべきであり,慎重に検討されるべきである。
(日弁連消費者委xx)
○ 提供された成果物が発注者側にとって何らかの効果をもたらした場合は既履行分の支払は当然なされねばならないが,中途納入物は往々にして役に立たず,最初から作り直さねばならないことが多い。したがって「一方的に作業をしたからその分の費用を支払え」は納得できるものではない。むしろ発注者側の,その間の付き合い費用を要請したい場合さえある。この問題の回避は「中間検査をきめ細かく行い発注者の意向を確認しつつ作業する」ことに尽きるのではないかと提言する。(システム・ユーザー協)
仕事の完成が中途で不可能になった場合に,請負人が仕事完成義務を履行するためそれまでに支出した費用の償還を請求することができるかどうかについて,更に検討してはどうか。その場合の規定内容として,例えば,注文者に生じた事由によって仕事完成義務が履行不能になった場合には既に履行した役務提供の割合に応じた報酬を請求することができるという考え方(前記(2)①)を前提に,このような場合には報酬に含まれていない費用の償還を請求することができるとの考え方(前記(2)②の場合には,②の適用により請求できる範囲に費用が含まれていることになると考えられる。)の当否について,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,4(2)(関連論点)[14頁]】
【意見】
○ 注文者に生じた事由によって履行不能となった場合,費用償還請求権を認めるのがxxであり,これに賛成する。(札幌弁)
○ 仕事の完成が中途で不可能になった場合に,請負人が仕事完成義務を履行するためそれまでに支出した費用の償還を請求できるという考え方には賛成意見が強い。ただし,請負における「費用」と「報酬」の区別は困難であるという有力な反対意見もあり,賛成意見においても具体的要件については慎重な検討を求めている。
判例(最判昭和 52 年 2 月 22 日)の考え方を明文化するものであり,一定の合理性が認められるが,「注文者に生じた事由」と「注文者の 義務違反」の区別,「注文者に生じた事由」「注文者の義務違反」以外 の原因で仕事の完成が不可能になった場合の一部解除・報酬,現行民 法 536 条 2 項との関係等について,十分に議論を尽くす必要がある。
(日弁連)
○ 提案はxxであり,賛成である。(横浜弁)
○ 中間論点整理において提示されている考え方は,契約関係終了時の利益調整方法として妥当であるから,賛成である。(xx弁消費者委)
○ 割合的な報酬を受領できる場合に,費用負担が報酬に包含されてい るか否かを一般的・抽象的に規律することは困難であると思われるが,合理的な範囲の費用償還請求の余地があることを規定することには, 特段の異論はない。(親和会)
○ 注文者に帰責事由ある場合に費用償還請求権を認める規定を置くことに賛成。債権者(注文者)が仕事の完成を妨害した場合にまで費用請求が認められないのは請負人に酷。
完成した一部が可分の場合の費用償還請求を認める案に賛成。完成した一部が過分で注文者に帰属する場合,費用の精算は当然されるべき。(法友全期)
○ とくに異論はない。(日大民研・商研)
○ 提案には反対ではないが,少なくとも建設請負契約(土地の工作物)の報酬の支払方法に関しては,仕事完成後の後払方式と,契約及び仕事の性質により仕事の完成前でも相当部分を支払う方式とがあることを前提に制度設計を行うべきである。(建設適取協)
○ 検討することに異論はなかった。(最高裁)
○ 仕事の完成が不可能となった場合,費用償還請求権の帰趨は当然に問題になると考えられるので,この点についても明文化しておくことがのぞましいと考えられる。また,その内容であるが,上記(2)における考え方を前提とすると,注文者の義務違反によって履行が不可能になった場合に,請負人が約定の報酬から自己の債務を免れることによって得た利益を控除した額を請求することができるということであるから,この場合については費用請求権を認める必要はないことになる。一方,注文者に生じた事由によって仕事完成義務が履行不能になった場合には,請負人には,履行割合に応じた報酬が与えられるが,更に費用請求権を認めるかどうかについては,履行した部分に関連する費用の請求は当然認められるとしても,不履行部分については当然に認められるという考えにはならないのではないか。(広島弁)
○ 仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権の可否の場面と同様に,「注文者に生じた事由」「注文者の義務違反」の区別が必ずしも定かではないので,十分な検討が必要である。ただし,仕事完成前の履行不能が注文者の責めに帰すべき事由による場合には,請負人は 注文者に対し請負代金全額を請求できるとした上で,自己の債務を免れたことによる利益 を償還する義務を負うので(最判昭和52年2月
22日),少なくともこの場合には費用請 求権を認めるべきではない。
(兵庫県弁)
○ 「注文者に生じた事由」により仕事の完成が中途で不可能になった場合には,請負人に報酬に含まれていない費用の償還請求権を認めるべきである。(兵庫県弁)
○ 「注文者に生じた事由」という概念の導入に反対するが,費用償還請求権について検討することに特に異論はない。(二弁)
○ 仕事の完成が中途で不可能になった場合に請負人が仕事完成義務を履行するためそれまでに支出した費用の償還を請求の可否について,上記(2)①②の場合分けに応じて検討するとの考え方については,上記と同じく「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」の区別が不明確であり,また各場合の効果についても必ずしも明確になっていないというという問題があり,概念的場合分けにとどまらず,注文者と請負人間のxxな危険配分が何かという観点から,更なる検討がなされるべきである。
また,「費用請求権」と「報酬請求権」については,概念上は区別できるとしても,実務上は費用と報酬を峻別することに困難が伴う場合も多いと思われる。更に,注文者・請負人双方に事由が生じる場合・義務違反が存在する場合もあり得え,請負人が仕事未完成の理由を注文者に転嫁して過大な請求をする濫用的事例を招くのではないかという危惧もある。民法上の任意規定としては完成部分に応じた報酬請求で足り,その余は,債務不履行の一般原則に委ねるべきではないか。(日弁連消費者委xx)
○ 費用償還請求権について賛同する。(情サ産協)
○ 報酬請求権の対象にならないが,義務を履行するために支出した費用,先行費用,出来高に含まれない履行準備費用,今後の設計変更予定の先行工事費用などについて,費用償還請求権について規定を設けることは,請負人保護の観点から必要である。(日建連)
○ 仕事の完成が中途で不可能になった場合に,請負人が仕事完成義務を履行するためそれまでに支出した費用償還を請求できる規定を設けることに賛成である。(三菱電機)
○ 注文者に生じた事由によって仕事完成義務が履行不能になった場合には既に履行した役務提供の割合に応じた報酬を請求することができるという考え方(前記(2)①)を前提に,このような場合には報酬に含まれていない費用の償還を請求することができるとの考え方に反対する。請負において支払われる金員について,費用と報酬を区別するのは困難であり,費用が報酬に含まれているかどうかによって扱いを分けることは妥当ではなく,民法第536条第1項又は第2項で対応するべきである。(東弁)
○ 仕事の完成が中途で不可能になった場合に,請負人が仕事完成義務を履行するためそれまでに支出した費用の償還を請求できるという考え方は内容自体は論理的であるが,「注文者に生じた事由」を要件とする分類には反対する。(愛知県弁)
○ 仕事を途中で完成することができなくなった場合の出来高に対応す
る報酬は,請負人が支出した費用のうち仕事の完成に必要な経費を勘案して算出されるはずであり((2)の例で考えると,報酬には,家屋の柱・壁・屋根を建築するために請負人が支出した経費相当額も含まれるはずである)。費用の請求を考える必要はない。
問題になるとすれば,建築工事の全期間を通じ必要な建設設備のレンタル料を一括払いしている場合の契約終了後に対応するレンタル料などであろう。このような費用の負担については,契約の途中解約の可能性,工事が途中で終了することとなった事情,報酬の計算などによって適宜処理すべきであり,わざわざ民法で規定する必要はない
(規定すれば,このような費用は当然全額請求できることになるが,相当とはいえないであろう)。(福岡弁)
○ 「注文者の責に帰すべき事由」によって仕事が完成できなくなった場合に,「約定の報酬から債務を免れることによって得た利益を控除した額」の報酬請求が認められることにすれば,費用は,カバーされているので,費用償還請求権を認める必要はない。(xxxx)
○ 労務供給に関する報酬請求権については,労働契約,雇用契約,請 負契約,委任契約,準委任契約その他の契約形態の如何にかかわらず,現行法制より権利内容を後退させるべきではない。
役務提供型契約には,①消費者契約のように,役務受領者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,②労働契約のように,役務提供者が弱い立場にありその保護に配慮すべき場合,③企業間契約のように役務提供者と役務受領者がある程度対等な場合があり,それぞれの類型毎に規律を検討する必要があるところ,消費者保護の視点のみを強調して規律を行うことは,役務受領者の立場を片面的に強化し,労働者や零細事業者その他の立場の弱い役務提供者の契約上の地位と役務提供先に対する報酬請求権を弱める結果を招くものである。
請負に関して,仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権につ いては,これまで,その原因が注文者の責めに帰すべき事由にあると きには,民法 536 条 2 項の危険負担の規定により,請負人は反対給付 たる報酬請求権を失わないと解されている。この点,従来の「注文者 の責めに帰すべき事由」と,「中間的な論点整理」の提案する「注文 者に生じた事由」と「注文者の義務違反」の違いは明らかではないが,
「注文者の義務違反」でなければ,個人が有償で自ら労務を供給する契約に関して,労務供給先(注文者)が仕事の完成前に仕事を打ち切った場合でも,既に履行した役務提供の割合に応じた報酬の支払をすればよいこととなる。これは,労働者や零細事業者その他の立場の弱い役務提供者の契約上の権利を後退させるものであり,このような方向での法改正には賛成できない。(連合)
○ 請負であれば,仕事の遂行に通常必要となる諸費用は請負人がこれ
を負担する(費用相当分は,実質的には請負人の報酬の中に含まれ る)ものとするのが原則であり,中途で仕事の完成が不可能になった 場合であっても,原則として報酬請求権の問題として処理すれば足り,別途に費用償還請求権を認める必要はないのではないか。規定しない 方向で検討されるべきである。(会社員)
○ 中間論点整理において提示された考え方には,反対する。請負にお いて支払われる金員について,費用と報酬を区別するのは困難であり,費用が報酬に含まれているか否かによって扱いを分けることは相当で ない。現行法どおり,民法第536条1項又は2項で対応するべきで ある。(弁護士)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
建物建築の請負人が建物を完成させた場合に,その所有権が注文者と請負人のいずれに帰属するかについて,判例は,特約のない限り,材料の全部又は主要部分を供給した者に原始的に帰属するとしているが,学説上は,当事者の通常の意思などを理由に原則として注文者に原始的に帰属するとの見解が多数説であるとされる。そこで,完成した建物に関する権利関係を明確にするため,建物建築を目的とする請負における建物所有権の帰属に関する規定を新たに設けるかどうかについて,実務への影響や不動
産工事の先取特権との関係にも留意しつつ,検討してはどうか。
【意見】
○ 判例の見解でも,不動産先取特権との関係(請負人が先取特権を有すること)を文言上明確に説明できないなども問題もあり,具体的ケースによって結論も分かれうるが,解釈の指針を明らかにするために原則だけでも示す必要性は高く,判例の見解には基本的な妥当性はあることから,原則という限度であっても明文化すべきである。(札幌弁)
○ 今まで解釈に委ねられてきた論点についてxxで規定することによって,不要な紛争を避けることができると考えられるので,xxで規定することには賛成である。具体的な立法提案はまだされていないが,実務上の扱いをそのまま取り入れ,特約がない限り材料の供給者に原始的に帰属するという考え方を採用するのが望ましいのではないかと考える。
(広島弁)
○ 紛争を防止するためには,明瞭な法的規律があることが望ましいという意見があったほか,特に規定を設けず判例の発展に委ねるほうがよいという意見もあった。また,法的規律を設けるについても,判例の見解を明文化するという意見と多数説を明文化するという意見があった。さらに,建築中の建物の所有権の帰属についても検討する必要があるとい
う意見があった。(兵庫県弁)
○ 目的物の所有権の帰属に関して,まず,「当事者の合意・合意の趣旨」から判断し,これが不明であれば,請負人が自ら材料を調達した場合には,請負人に原始的に帰属し,この所有権が引渡しによって注文者に移転する旨を明文化すべきである。(福岡弁)
○ 見解が対立している論点であり,これを立法で明確にすることが法的安定性に資する。(横浜弁)
○ 完成した建物の所有権の帰属については,注文者原始取得と請負人取得のいずれの原則を採用しても結論として大きく異なる実務運用になっていないとの指摘もあるが,完成建物を取り巻く権利関係の整理において実務上混乱を生じている場面も少なくないのであり,立法的に整理することについて賛成する。ただし,現在の実務に混乱が生じないように慎重な配慮を要する。(親和会)
○ 完成した建物に関する権利関係を明確にするため,建物建築を目的とする請負における建物所有権の帰属に関する規定を新たに設けることには,賛成である。判例は,特約のない限り,材料の全部又は主要部分を供給した者に原始的に帰属するとしているが,学説上は,当事者の通常の意思などを理由に原則として注文者に原始的に帰属するとの見解が多数説である。両者の見解はxxxxに対立しているようであるが,原則を修正することによって結論的には近似している。完成した建物の所有権の帰属に関する規定を設ける場合の内容も含めて,具体的な立法提案を示し,検討を進めるべきである。(日大民研・商研)
○ 建物建築の請負人が建物を完成させた場合に,その所有権は注文者に原始的に帰属するとの見解は失当であり,実務は,特約のない限り,材料の全部又は主要部分を供給した者に原始的に帰属するとしている判例のとおりであるから,当該所有権の帰属に関する規定を設けるのであれば,判例の明文化を検討するべきである。(三菱電機)
○ 完成建物の所有権の帰属を論じるに当たっては,誰が材料を供給した かという観点とともに,完成までにどれだけの請負代金の支払いが行わ れたかという点も重要な要素になるので,この点も視野に入れての検討 が必要である。とりわけ,「論点整理」において,学説上多数説とされ ているとする「注文者原始取得説」では,請負工事における支払条件の 実態を考えると,請負人に極めて不利になっており問題である。つまり,通常,建設請負の実務においては,建物完成時に請負代金が全額支払わ れているケースはそれほど多くはなく,また極端な例では,建物完成時 には,請負代金の 2,3 割程度しか支払われないという支払条件(延払い) となっているケースもある。
今後,完成建物の所有権の帰属を議論する場合にあって,学説の立場 (注文者原始取得説)をとることは,建物完成時に請負代金全額の支払い
がなされていないケースが多いとの実態を軽視することになり,建物完成引渡し時に注文者から第三者への建物譲渡や担保設定を可能にするといった,請負人の立場を極端に不利にするという面があることに留意すべきである。(日建連)
○ 明文化の方向に賛成。(大学教員)
○ 添付の規定は契約がないときに適用されるべきであり,請負契約にお いては,請負人が注文者のために代わりに材料を購入し立替払したに過 ぎないから,注文者帰属を原則とすべきである。しかし,その裏側とし て,仕事の完成に関わらず「費用」として償還を必ず認めるべきである。
(広大xx)
○ 完成した建物に関する権利関係については,判例の考え方により実務上どのような不都合が生じているかを確認した上で,判例と異なる考え方を採用することによる実務への影響を考慮しつつ,さらに慎重に検討すべきである。(二弁)
○ 完成した建物に関する権利関係を明確にするため,建物建築を目的とする請負における建物所有権の帰属に関する規定を新たに設けるとの考え方については,建物所有権については原則として注文者に原始的に帰属するという見解が,当事者の通常の意思に合致することが多いことは事実であると思われる。ただ,一方で当該考え方を取った場合,完成後引渡前に地震が発生した場合に請負人が責任を負わないという結論も生じうることから,かかる場合の責任配分も含めて,注文者・請負人の適切なリスク配分の見地から慎重に検討がなされるべきと考える。(日弁連消費者委xx)
○ 建物所有権の帰属についての規定を新たに設けることについては,賛成と反対の意見があり慎重な検討を要する。
請負人帰属説,注文者原始的帰属説のいずれを採用するかについて判例と学説が対立しており,また,物権法にも影響を及ぼすべき事項である。(日弁連)
○ 実務では,完成した建物の所有権は引渡しと同時に請負人から注文者に移転する(また,引渡しは危険負担の移転時期や代金の支払時期の基準にもなっている)という扱いが一般的であることから,このような実務上の取扱いを考慮の上,検討頂きたい。(貿易会)
○ 建物等の有体物については賛同できるが,無体物に関して類推適用がなされないように留意して検討を進めていただきたい。(情サ産協)
○ 住宅の建設工事の実務においては,請負人が材料の全部又は主要部分を提供するケースが大半を占めている。このため,完成した建物の所有権の帰属に関し,請負人が所有権を取得し,引渡によって注文者に移転するとの特約がなされている。
いわゆる注文者原始帰属説については,こうした住宅の建設工事の実
務上の取り扱いとは異なることも考慮した上で,慎重な議論を要するものと考える。
特に,注文者原始帰属説に立つと,注文者は代金を支払っていなくても所有権を有することになるが,多くの注文者はxxxの借り入れで資金を調達するし,ローンが実行されるのは完成後であり,それまでは請負人の負担で資材を調達し工事を進めることになる住宅の注文者一般の取引感覚からも著しく乖離しており,代金の支払状況に応じて所有権が移転するとする現在の判例の立場のほうがxxの観点からも理解しやすいし,実務上,この点が問題にされることは稀有であり,注文者にとっても請負人にとっても現行条文で何ら支障はない。また,仮に民法が注文者原始帰属説を採用した場合,所有権に基づく建物引渡請求に対し同時履行の抗弁権で対抗できるか,現時点では実務上の取扱いは不明である。同説採用の場合は,請負人の報酬請求権保護の観点から新たな法律上の手当てが必要ではないか。(住団連)
○ 産業界,特に建設業界の関心(注文者に対する請負報酬債権の保全)に即した立法措置あるいは解釈論に関する検討を行われたい。請負者への報酬は後払いという民法の典型モデルを前提に,材料の提供(代金の支払を含む)の如何に拘わらず,原始的に注文者が所有権を取得すると言う法理を民法に定めることは,国民の素朴な法感情からは理解しづらいし,建設業界からは,請負報酬債権の担保を図る手段がなくなるという懸念が示される。なお,請負人が材料を提供した場合に工事の出来形が請負人の所有物であるとする現行判例の考え方を採用する場合は,報酬支払まで敷地の上に出来形を存置する権利(例えば,法定使用貸借権或いは法定留置権)が請負者にあることについて,立法措置を検討すべきである。(建設適取協)
○ 請負人が完成した建物の所有権をめぐって,判例は,特約がない限り材料の供給者に原始的に帰属する(請負人が材料を提供するのが通常であることから,基本的に請負人が所有権を取得することになる。)としている。完成した建物に関する権利関係を明確にするためには,建物所有権の帰属に関する規定を新たに設けることを検討すべきであるが,判例の見解に従った規定を設けるためには,不動産工事の先取特権を体系的にどのように位置づけるかを整理する必要がある。(弁護士)
○ 従前の判例を変更することよって実務に混乱を及ぼすおそれが大きいので,慎重な検討が必要である。(最高裁)
○ 実務への影響が大きく,現時点で改正を行う必要性もないことから,特段の立法は不要である。(東弁)
○ 判例と学説が対立しており,物権法にも影響があることから,建物所 有権の帰属についての規定を新たに設けることには慎重な検討を要する。
(愛知県弁)
○ 建物所有権の帰属についての規定を新たに設けることも考えられるが,請負人帰属説, 注文者原始的帰属説のいずれを採用するかについて判 例と学説が対立しており,また,物 xxにも影響を及ぼすべき事項で あるため,債権法に建物所有権の帰属についての規定を 設けることに ついては慎重に検討すべきである。(大阪弁)
○ 建物建築を目的とする請負における建物所有権の帰属に関する規定を設ける必要はない。材料の供給の有無,代金の支払の有無によって注文者,請負人のいずれに原始的に所有権が帰属するかを決める判例の考え方は,物権法の原則にも合致するものであり,また,xxである。注文者帰属説を民法で定めることは実務に与える影響が大きすぎる。(xxxx)
○ 規定を新設しなくてもよい。実際には当事者の合意で適切に処理されるから規定を置く必要がない。
規定を置くとすれば判例通りでよい。規定を置くとすれば判例に示された考え方(材料・費用についてより大きな貢献をしたものに帰属させる)によるのが適当。(法友全期)
○ 完成した建物の所有権については,判例上は基本的に材料供給者の所 有権を認めることで,請負人の報酬請求権の保護を図っているものと解 されるが,完成した建物に注文者の所有権を認める法改正が行われれば,これによる報酬請求権の履行確保が困難となり,実務に大きな悪影響を 及ぼすと予想されるところ,このような弊害にもかかわらずなお規定を 設けるべき実務上の必要性は認められない。(弁護士)
○ 実務的に大きな影響のあるところであり,性急な改正は避け,慎重な検討が必要である。(会社員)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
○ 請負者は注文者からの注文があるから仕事を行うものであり,注文者からの変更,停止の指示がない限り,完成が不可能になることは考えにくい。よって,それまでの成果物を作成するまでに要した役務および材料等は,請求できるものと考える。(団体職員)
【意見】
○当該論点については,法定責任説か,契約責任説かという議論に拘泥することなく,具体的な要件と効果をどうするかという観点から検討を進めるべきである。(日弁連消費者委xx)
民法第634条第1項ただし書によれば,瑕疵が重要である場合には,修補に過分の費用を要するときであっても,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができるが,これに対しては,報酬に見合った負担を著しく超え,契約上予定されていない過大な負担を請負人に負わせることになるとの批判がある。このような批判を踏まえて,瑕疵が重要であるかどうかにかかわらず,修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないこととするかどうかについて,瑕疵があれば補修を請求できるという原則に対する例外の拡大には慎重であるべきである
との指摘があることも踏まえ,検討してはどうか。
【意見】
○ 瑕疵が重要であるかどうかにかかわらず,修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないと規定を修正することについて,賛成する。(広島弁)
○ 賛成(xxxx)
○ 修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合に瑕疵の修補を請求できない(瑕疵が重要でない場合に限定しない)意見に賛成。たとえ瑕疵が重要であったとしても契約した以上の過度の負担を契約当事者に負わせるべきではない。注文者には解除・損害賠償の請求が認められるので不利益は回避できる。(法友全期)
○ 請負人には,瑕疵担保責任という非常に重い無過失責任が課せられていることから,更に瑕疵修補請求の場面において,報酬に見合った負担を著しく超え,契約上予定されていない過大な負担を請負人に負わせることは,その過大な負担を請負代金に転嫁することは事実上不可能であることからも,極めて不合理である。従って瑕疵修補請求権には一定の制限を設けるべきである。
実務では,更に,不具合に対する発注者の過度な要求が行われ,請負者が過度な負担を余儀なくされ場面が少なくなく,不具合事象に対して経年劣化・使用劣化と瑕疵との分別が困難であることに加え,発注者と請負者間の力関係が必ずしも対等でない現実にあって,請負者側に一方的な負担が押し付けられる現実が存する。
これらの実務の実情を踏まえると,瑕疵の大小を問わず,契約の趣旨に照らし,報酬に見合った負担を著しく超え,修補費用が契約上予定されていない過大な額に及ぶ場合は,修補請求を制限することを規定することが望まれる。(日建連)
○ 瑕疵が重要であるかどうかにかかわらず,修補に要する費用が契約
の趣旨に照らして過分である場合には,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないこととする考え方に賛成である。現在の規定では瑕疵の重要性をことさら強調するといったミスリードをしやすいとも言えるが,当該考え方は,瑕疵の重要性以外の考慮要素も含めて判断することになり,契約当事者間のxx妥当な結論を導きやすく,また,実務においてもそのように解釈しているところであるからである。(三菱電機)
○ 瑕疵が重要であるかどうかにかかわらず,修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないものとする方向で検討するべきである。(会社員)
○ 瑕疵が重要であっても補修に要する費用が契約の趣旨に照らして過 分である場合には補修請求できず,補修費用の損害賠償は合理的な限 度とすることを検討してはどうかとする意見があったが,修補費用が 過分な場合に修補請求ができないとすることは,建替費用相当額の損 害賠償を認めた最三小判平成14年9月24日集民207号289頁 やこの判例に対応する解除権制限の見直しとの整合性を図ることが必 要となるとの意見があった。また,専門家たる請負人は,契約目的達 成に重要な要素の欠陥がある場合にはこれを補う責任を負うのであり,費用が過分であってもこれを注文主に負担させるのは不適当ではない かとする意見があった。(最高裁)
○ この問題は履行請求権の限界(第2,3)の一つとして議論するか,少なくとも,これとの整合性に留意すべきである。
瑕疵修補請求権は本来的な履行請求権であって,瑕疵の重要性や修補に過分の費用を要するか否かを問わずに,修補請求できるのが原則である(補足説明 359 頁の最後の意見を支持)。しかし,たとえばドイツ民法275条2項(前掲)では,「債権者の給付に対する利益に対し著しく不均衡となる費用を要するときは」債務者は履行を拒絶できるものとされている。履行請求権の限界として,このような規定を置くとすれば,この中で処理することが可能となろう。あるいは,少なくともこれの延長線上で請負契約に関して規定を置くべきではないか。仮に上記のような履行請求権の限界に関する規定を置く場合には,
瑕疵の重要性の有無を問題とする必要はないのではないか。
請負人がこの履行拒絶権を行使するときは,注文者は請負人に対して「修補に代わる損害賠償」(無過失責任)を請求することで足りる。瑕疵が重要であるとしても,当該請負人による修補に固執する必要は必ずしもない。(大学教員)
○ 瑕疵がある場合は原則として修補を認めるべきであり,修補費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には注文者は請負人に瑕疵修補
請求できないとする考え方に反対する。請負人に負担をさせるのが酷という例外的事情がある場合は,「瑕疵が重要」か否かの解釈によって調整可能である。(札幌弁)
○ 修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないという考え方については,反対意見が強い。
修補に過分の費用を要する場合に瑕疵の修補を請求することができないとすると,契約の内容を実現するためには,注文者が過分の費用を負担して瑕疵を修補しなければならないことになる。しかし,何らの落ち度もない注文者がそのような不利益を甘受することには合理性がなく,かかる不利益は瑕疵ある仕事を行った請負人が負担するのが合理的である。また,「過分な費用」か否かについて常に紛争が生じる懸念がある。(日弁連)
○ 修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には注文 者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないという考え 方については,「過分な費用」であるか否かについて常に紛争が生じ,混乱を招くので反対する。(愛知県弁)
○ 瑕疵があった場合は修補する義務があるのが原則であり,負担が大きいという理由だけで緩和するのは妥当ではないから,中間論点整理において提示された考え方には反対である。(東弁)
○ 請負人は,そもそも契約に適合した仕事を完成する義務を負担しているものであり,完成した仕事に瑕疵有る場合には原則として修補請求が可能なものであり,原則が重視されなければならない。瑕疵が重要な場合にまで請負人の免責を認めるのは相当ではない。特に,住宅の建築請負のように,消費者が注文者,事業者が請負人となる場合には,重大な瑕疵があるにもかかわらず瑕疵の修補を請求できないとすることは,不都合が生じることが予想される。(兵庫県弁)
○ 瑕疵が重要であるかどうかにかかわらず,修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないと規定することについては反対である。瑕疵修補請求が適用される場面が減少し,被害救済が不当に狭まる可能性がある。また,「修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合」か否かについて常に紛争が 生じる懸念がある。(大阪弁)
○ 民法634条1項は現行のまま維持すべきである。瑕疵が重大であれば,まずは修補すべきであり,軽々しく例外を認めるべきではない。(福岡弁)
○ 修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には,注文 者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないこととするこ とは,社会的合理性ある限界をxx上明確にしておくことに意義があり,
積極的に検討すべきであるが,請負人の瑕疵に対する不誠実な対応を招く危険性もあるので,濫用的主張が起きないよう留意する必要がある。
(横浜弁)
○ 瑕疵が重要である場合であっても,修補に要する費用が過分であれば瑕疵修補の請求ができない旨の規定を設けることに反対である。
現行民法第634条第1項ただし書は,原則として請負人は瑕疵の修 補義務を負うものの,瑕疵が軽微であり,かつ修補に過分の費用を要す る場合に限り,請負人の負担が過大となることから例外的に瑕疵修補x xを免れさせるものと解される。しかし,瑕疵が重要である場合にまで,この例外を拡張するとすれば,何ら落ち度のない注文者が過分の費用を 負担して瑕疵を修補する負担を負うことになりかねず,請負人と注文者 のxxを欠くものと思われる。したがって,注文者がそのような不利益 を甘受することには合理性がなく,かかる不利益は瑕疵ある仕事を行っ た請負人が負担するのが合理的である。(二弁)
○ 瑕疵がある場合に請負人が修補義務を負うのが原則であり,例外的に修補義務を負わない要件は厳格であるべきである。たとえば,請負人が漫然と瑕疵を放置したまま仕事を継続したために,重要な瑕疵について修補に過分の費用を要することとなった場合に修補義務を免れるとすることは,かえって社会経済上の利益を損なうこととなりかねない。現行法を維持すべきである。(親和会)
○ 瑕疵が重要であるかどうかにかかわらず,修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には,注文者は請負人に対して修補を請求することができないこととする考え方には強く反対する。
上記のような考え方は,瑕疵は修補されるべきという本来的原則を 損ない瑕疵担保責任を骨抜きにしかねないものであり,バランス論と しても,重大な瑕疵ある仕事を行った請負人に対して過当な保護を与 えるものといわざるを得ない。実際,重大な瑕疵が存在する場合,修 補費用も大きなものとなることは多く(例えば,建物の構造部分に瑕 疵が存在した場合には,瑕疵部分のみならず,外装材・内装材等を撤 去・再施工する必要があることが通常である),上記考え方によると,修補が容易な軽微な瑕疵のみが存在する仕事を行った請負人は修補x xを負うにもかかわらず,xがかりな修補が必要な重大な瑕疵ある仕 事を行った請負人は修補義務を負わないという不均衡が生じかねない
(重大な瑕疵ある仕事を行った請負人に「やり特」を認めかねない)。また,請負人において,「費用が過分である」と言い張ることによ
る不当な修補拒否が行われる危惧もある。この点,上記考え方は,過大な修補費用が生じる場合は損害賠償請求によるべきという考え方を前提にするのかもしれないが,当該考え方のような規定が設けられた場合,認定される損害賠償の範囲も当該規定に規律される結論となり
かねず,その場合,瑕疵は修補されるべきという原則を損なうこと,重大な瑕疵ある仕事を行った請負人を過当に保護する結論になることといった弊害は同様に生じるといえ,不当な結論となる。(日弁連消費者委xx)
○ 瑕疵が重要である場合,その修補に過大な費用を要する場合であっ ても,注文者は修補を請求することができるという現行法を維持すべ きである。瑕疵が重要であるにもかかわらず,注文主は修補請求が出 来ず,損害賠償請求しかできないというのは注文者にとって酷である。また,本来的に,請負人は仕事を完成すべき義務を負っているのであ るから,瑕疵が重要な場合に,その修補に過大な費用を要するからと いって,修補義務を免れるとするのは妥当ではない(雑な仕事をして おいて,重要な瑕疵が残ったままであるのに,その修理に過大な費用 を要するからといって,修補義務を免れるというのはxxではない。)
(xxxx)
○ 瑕疵がある場合,請負人は修補義務を負うのが原則であり,瑕疵が重要である場合には過分の費用を要する場合であっても瑕疵修補を請求できるという民法の規定を維持すべきである。そのうえで,瑕疵の程度も含めて,契約の趣旨に照らして「修補に過分の費用を要する」ときに限り,注文者は修補を請求することができないと考えるべきである。瑕疵があれば補修を請求できるという原則に対する例外の拡大には慎重であるべきである。(日大民研・商研)
○ そもそも瑕疵を生じさせたのは請負人の責任で,請負人は瑕疵のな いものを完成させる義務を負うのだから,極めて例外的な場合を除き,過分費用を要するときであっても請負人が修補義務を負うとするのが 適当ではないか。(オリックス)
○ 請負人が,過分な費用がかかることを理由に瑕疵の修補を拒絶することができるとすると,注文者が契約の目的を達せられない場合も,受領義務を負い,修補もうけられないという,両者の利害のバランスを考えると極めて不均衡な状況が出現してしまう。この場合には,少なくとも,注文者に催告解除権を認めるべきである。(xxx)
○ 瑕疵修補請求の例外は,現行法どおり,「瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するとき」とするべきである。瑕疵修補請求が,瑕疵の程度および態様に照らして過分の費用を要する場合に認められないとすることは,その評価,解釈によって瑕疵修補請求が適用される場面が減少することになり,被害救済が不当に制限されることになりかねない。したがって,瑕疵修補請求の例外要件については,「瑕疵の程度および態様に照らして,その修補に過分の費用を要するとき」と変更するべきではなく,現行法どおりに「瑕疵が重要でない場合」とすべきである。(弁護士,弁護士)
○ 民法第634条第1項ただし書は,瑕疵が重要でない場合において,修補に過分の費用を要するときは,注文者は修補を請求することがで きないとしている。この趣旨は,修補に過分の費用を要する場合にも 修補を請求することができるとすると,請負人は報酬に見合った負担 を著しく超えるような負担を課されることになるが,このような過大 な負担を負わせることは契約上予定されていないからである。瑕疵が ある場合には請負人は修補義務を負うのが原則であり,例外的に修補 義務を負わない要件は厳格にすべきであって,瑕疵が重要である場合 には過分の費用を要する場合であっても瑕疵修補を請求できるという 民法の規定を維持すべきである。(弁護士)
○ 現行法の規律を維持すべきであり,瑕疵が重要であるかどうかにかかわらず,修補に要する費用が契約の趣旨に照らして過分である場合には,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができないこととする考え方には反対する。請負の目的物に重要な瑕疵があった場合には,当然請負人の責任において修補すべきであり,負担が大きいというだけで修補義務を否定すべきではない。(弁護士)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
○ (1)個別仕様の発注品についての瑕疵は発注者側からの指摘義務 は認めるが,常識的以上の瑕疵が出ないようにして納品するベンダー 側の義務も謳ってほしい。バグがあっても当たり前の感覚は容認すべ きものではない。機能仕様についての表現は現債権法に多く登場して くるが,非機能要件についての記述が少ないことも再考の余地がある。
(2)パッケージのバグにユーザーは悩まされているので,一定以上の品質にしてから売り出す義務も提起してほしい。瑕疵修復時間を規定すべきと考える。
(3)クラウドシステムの提供
パッケージよりもさらに厳しい品質が期待される。機能のみならず,非機能についての品質確保が望まれる。国際基準の共同作成など国は 推進してほしい。クラウドシステムについての非機能要件の確保基準 など一歩進めることを期待したい。
過去にも不当変更で問題が発生している。一方的に約款を変更して良いなどの商品が存在することを許してはならない。
この問題はソフトウェア産業にとって独特の課題であり,これは時間をかけて議論すべき問題である。(システム・ユーザー協)
○ 情報システムの開発に際しては,限られた期限・コストの範囲で全てのパターンの検証を行うことは不可能であり,その結果,開発の最終工程が完了した段階であっても不具合が残存することは避けられない。このため,複数の裁判例において,不具合が発生したとの指摘を受けた後,遅滞なく補修を終えるか,注文者と協議したうえで相当な
代替措置を講じたと認められるときは,損害賠償の請求ができないこととされていることを踏まえ,このような場合には,契約不適合の状態にはなく,請負人は瑕疵に基づく権利行使(損害賠償の請求,報酬減額請求等)を受けないことを明らかにする必要がある。(情サ産協)
民法第635条本文は,瑕疵があるために契約目的を達成できないときは注文者は請負契約を解除することができると規定しているところ,契約目的を達成することができないとまでは言えないが,請負人が修補に応じない場合に,注文者が同法第541条に基づく解除をすることができるかについては,見解が分かれている。そこで,法律関係を明確にするため,注文者が瑕疵修補の請求をしたが相当期間内にその履行がない場合には,請負契約を解除することができる旨の規定を新たに設けるべきであるとの考え方がある。このような考え方の当否について,解除に関する一般的な規定の内容(前記第5,1)にも留意しながら,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,5(2)[16頁]】
【意見】
○ 請負人が修補にも応じない場合は,たとえ目的達成可能であっても解除を認めるのが妥当であるから,541条に基づく解除を請負にも明記することに賛成する。(札幌弁)
○ 注文者が瑕疵修補請求をして,相当期間内にその履行がない場合に請負契約を解除することができる旨の規定を新たに設ける考え方について賛成する。(愛知県弁)
○ 請負人が瑕疵修補義務を履行しない場合に,注文者が請負契約を解除することができる旨のxxの規定を設けるべきである。(福岡弁)
○ 瑕疵を理由とする催告解除を認める考え方に,賛成である。請負人が修補に応じない場合にまで,解除を制限することに合理性は乏しいものと考えられる。(二弁)
○ 規定を置かなくとも債務不履行の一般原則の催告解除の規定を適用することになろうが,目的不到達の場合の無催告解除のみ請負の規定で,催告解除は債務不履行の一般原則の規定を適用するのは統一性がない。無催告解除の規定を置くなら催告解除の規定も置くべき。(法友全期)
○ 現行民法第 635 条が定める場合以外に,541 条に基づく解除ができることを条文xxxすべきとの考え方には賛成。(日弁連消費者委xx)
○ 解除できる場合を制限する現行法の合理性は判例によって否定されているところであり,建替え以外の救済方法がある場合であっても,契約の解除を認めるべき場合はあるから,注文者が瑕疵修補の請求をしたが,相当期間内にその履行がない場合には解除することができることとする考え方に賛成する。(xx弁消費者委)
○ 催告解除によって,請負人が報酬債権の全部を失うものではなく,解除原因の態様等に応じて,一定の報酬債権を有する余地があることを前提に,瑕疵を理由とする催告解除を設けることについてとくに異論はない。(親和会)
○ 賛成(xxxx)
○ 解除に関する一般的な規定の内容にも留意しながら検討するのであれば,とくに異論はない。(日大民研・商研)
○ 請負契約について,民法635条以外に,541条による解除ができることを明文化すべきである。(弁護士,弁護士)
○ 検討することに異論はなかった。(最高裁)
○ 注文者が瑕疵修補請求をして,相当期間内にその履行がない場合には請負契約を解除することができる旨の規定を新たに設ける考え方については,賛成する意見が多いが,反対する意見も強く,慎重な検討を要する。
解除制限に合理性はないという賛成意見がある一方,瑕疵が軽微であるときにも解除を認めることは請負人に酷であり,請負による解除を「契約の目的を達することができない」場合に限るとしてもそれほど不都合は生じず,損害賠償請求により対応することで注文者の保護は図られるとする反対意見も強い。(日弁連)
○ 民法541条の解除の一般的な規定の内容との整合性をふまえて,検討する必要がある。(広島弁)
○ 民法第541条の原則はあるが,このような場合には他の者に修補 させればよく,解除を認めるのは請負人に酷な場合がある点に留意し,今後慎重に検討されるべきである。(東弁)
○ 瑕疵修補の遅滞によって請負契約がいきなり解除され,例えば建築された建物が収去されるような事態に陥る可能性があり,紛争が激化するおそれもあるので,解除の効果も視野に入れて慎重に検討するべきである。(兵庫県弁)
○ 「論点整理」の催告解除が,第541条(履行遅滞等による解除権)「当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。」に基づく解除をいうのであれば,ここでいう「当事者の一方が債務を履行しない場合」とは,請負人が瑕疵修補に応じない場合をいうのではなく,請負
人が請負契約に定める本来の債務(仕事)を履行しない場合をいうことになる。その意味では,第541条の規定から,「注文者が瑕疵修補の請求をしたが,相当期間内にその履行がない場合には,請負契約を解除することができる旨の規定を新たに設けるべき」と導くには飛躍があり,説得的ではない。(日建連)
○ この場合に,契約目的の達成不能という要件を維持するのかどうか,債務不履行解除の一般的要件との関係について,さらに整理が必要で はないか。(大学教員)
○ 民法第541条の解除の一般的な規定の内容(前記第5,1)が確定した段階でこれとの整合性に留意しながら検討する必要がある。
(弁護士)
○ 請負契約には,その仕事の内容が可分である場合に,契約全部の解除を認めてしまうと有益な仕事の成果物まで原状回復して注文者に返還しなければならないことになり,社会経済上の損失が大きい。したがって,注文者が瑕疵修補の請求をしたが相当期間内にその履行がない場合に,請負契約を解除することができる旨の規定を新たに設ける場合には,瑕疵のない既履行部分を除く部分にのみ注文者の解除権を認めるものとすべきである。(弁護士)
○ 瑕疵修補の請求を行い,履行がされない場合に解除権を付与するこ とは注文者の保護に資するものであることは理解できる。しかし,建 物建築請負で軽微な瑕疵について修補請 求を行い,請負人がそれを 履行しなかった場合に解除をするということは不均衡であるとも考え られる。請負における解除は,「契約の目的を達することができな い」場合に限るとしても,それほど不都合はないものと考えられる。 瑕疵修補の請求を行い履行がなされなかった場合に,なお契約の目的 を達することが可能な状態であれば,それは損害賠償請求により対応 すれば注文者の保護は図られるのではないか,と考える。したがって,瑕疵が軽微な場合であっても,注文者が瑕疵修補の請求をしたが相当 期間内にその履行がない場合には解除することができると条文xxx することには反対である。(大阪弁)
○ 瑕疵が軽微であるときにも解除を認めると請負人に酷である。注文者の保護は損害賠償請求により図りうる。(横浜弁)
○ 「請負人が瑕疵の修補に応じない場合,注文者は,瑕疵によって契約目的を達成することができないとまでは言えないにもかかわらず,催告して解除できる」旨の規定を設けることには反対。瑕疵があって契約目的を達しない場合は解除できるが,それ以外は解除できないこととしても,瑕疵担保責任(債務不履行責任)としての損害賠償請求をできるから,注文者に格別不利益はない。(xxxx)
○ 請負の場合,注文者による解除が問題とされるケースとしては,背
景事情として,注文者と請負人との間に瑕疵の有無や瑕疵が当該請負人の仕事に起因するものか否かについて疑義がある場合が多い。この場合において,請負人としては,注文者が原因解明のための現場への立ち入りや,他の請負人を交えての話し合いに応じないがために瑕疵修補に応じられないケースがままあるが,このような場合にまで注文者の解除が認められるのは妥当ではなく,このような場合にまで解除権を行使されるのは請負人にとって酷である。中間整理に記載されている考え方とは逆に,注文者の解除権を制約する方向での議論を希望する。(会社員)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
(3) 土地の工作物を目的とする請負の解除(民法第635条ただし書)
民法第635条ただし書は,土地の工作物を目的とする請負は,瑕疵のために契約をした目的を達成することができない場合であっても解除することができないと規定しているが,これは,土地工作物を収去することは請負人にとって過大な負担となり,また,収去することによる社会的・経済的な損失も大きいからであるとされている。しかし,建築請負契約の目的物である建物に重大な瑕疵があるために当該建物を建て替えざるを得ない事案で建物の建替費用相当額の損害賠償を認めた最高裁判例が現れており,この判例の趣旨からすれば注文者による契約の解除を認めてもよいことになるはずであるとの評価もある。これを踏まえ,土地の工作物を目的とする請負の解除の制限を見直し,例えば,土地の工作物を目的とする請負についての解除を制限する規定を削除し,請負に関する一般原則に委ねるという考え方や,建替えを必要とする場合に限って解除することができる旨を明文化する考え方が示されている。これらの考え方の当否について,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,5(2)[16頁]】
【意見】
○ 建替えが必要なほど重大な瑕疵がある場合に建替費用相当額の損害賠償を認めた最高裁判例との整合性が必要であり,建替えが必要な場合に土地工作物についても解除を認めることに賛成する。(札幌弁)
○ 民法第635条ただし書の見直しについては,原則として解除を制限しつつ,例外的に解除を認める要件を定めるべきであるという慎重意見もあるが,同条ただし書による解除制限の撤廃は,判例(最判平成 14 年 9 月 24 日・判時 1801 号 77 頁)と整合性を有するから,同条ただし書を削除することに賛成する意見が多数である。(日弁連)
○ 建築請負契約の目的物である建物に重大な瑕疵があるため建物を建
て替えざるを得ない場合には,建物を収去することが社会経済的に大きな損失をもたらすということもなく,また,建物を建て替えてこれに要する費用を請負人に負担させることは契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって請負人にとって過酷であるということもないことから,建替えを必要とする場合には,原告法の民法
635条ただし書の趣旨はあてはまらない。したがって,この場合には解除を認めるということを明文化してよいと考える。(広島弁)
○ 土地の工作物を目的とする請負の解除の制限は,現代の社会経済情勢に照らし,合理的なものとはいえず,実質的に判例によって骨抜きになっている以上,維持するべき理由がない。一般原則によれば足りる。(兵庫県弁)
○ 土地の工作物に関する解除制限については,建物に重大な瑕疵があるために建て替えざるを得ない場合には,注文者は建て替えに要する費用相当額の賠償を求めることができるとの判例(最判平成14年9月24日)が出たことにより,実質的に現行民法第635条ただし書が適用される場面がなくなったものといえる。解除制限の撤廃は,この判例とも整合性を有するものである。したがって,土地の工作物を目的とする請負における,解除制限撤廃については賛成である。(大阪弁)
○ 近時,土地工作物について建替えを認めた最高裁判決も存在し,取り払わないことによる損害が大きい場合もあり得るから,解除制限を緩和することに合理性はあると考えられる。民法第635条ただし書は削除すべきである。(東弁)
○ 民法第635条ただし書による解除制限は,判例により実質的に骨抜きにされており,規定から削除すべきである。(福岡弁)
○ 少なくとも,建替えを必要とする場合には請負契約の解除を認める方向で,検討すべきである。土地工作物を収去することは請負人にとって過大な負担となり,収去することによって社会経済的な損失も大きいという現行民法第635条ただし書きの趣旨は,建替費用相当額の賠償が認められるような場合には妥当しない。建替えを必要とする場合以外にも解除を認めるか否かは,更に検討を要する。(二弁)
○ 最高裁平成 14 年 9 月 24 日判決が建替費用相当額の損害賠償を認めている趣旨からして,現行民法第 635 条但し書きは削除が相当である。この場合,建て替えを必要とする場合に限って解除することができる旨を明文化するとの考え方も存在するが,建て替えを必要とする場合に限定する必要はなく解除制限は全廃するべきと考える(“建て替えを必要とする場合”という評価概念を新たに規定して規定を複雑化するよりも,解除制限に関する判例法理を前提とした請負に関する一般原則に委ねて解決をすることが簡明かつ適切と考える。(日弁
連消費者委xx)
○ 土地の工作物であっても,契約の目的が達成できない場合には解除可能とすることに賛成する。
建築された建物に重大な欠陥があり(例えば耐震性が全く足りない),建て替えるほかないという場合に,注文者に解除を認めないのは酷である。現行民法化の判例では,正面から解除を認める代わりに立替費用相当額の損害賠償を認めたものがあり,実質解除を認めたのと同様の結論を導いているから,解除を認めても支障はない。
一旦建築された建物がもったいないという発想は理解できるものの,
「契約の目的を達成することができない場合」という要件のあてはめによって妥当な解決を図ることができる。(xxxx)
○ 解除できる場合を制限する現行法の合理性は判例によって否定されているところであり,建替え以外の救済方法がある場合であっても,契約の解除を認めるべき場合はあるから,土地の工作物を目的とする請負の解除制限を廃止する考え方に賛成である。(xx弁消費者委)
○ 土地の工作物であっても解除を認めるべき場合がありうるので,土地の工作物のみ特別扱いせず請負における一般原則に委ねる意見に賛成。(法友全期)
○ 建物等の建替えを認めず,瑕疵ある建物を存続させることがかえって社会経済上の損失となることもあり得るため,建物等を目的とする請負について,解除の余地を認めていない現行法を改めることに賛成する。ただし,一般的には,建物等の建替えは社会経済上の損失を生ぜしめるものであることに留意しなければならない。(親和会)
○ ただし書の廃止に賛成である。そもそも,建築基準法違反の建物もドイツのように取り壊す方が,適切なシグナリングとなる。(広大xx)
○ 建築請負契約の目的物である建物に重大な瑕疵があるために建物を 建て替えざるを得ない場合,注文者は請負人に対し建物の建替えに要 する費用相当額の損害賠償請求をすることが可能である。このことは,民法第 635 条ただし書の趣旨に反しないとした最高裁判例(最判平成 14 年 9 月 24 日判時 1801 号 77 頁)によっても認められているところ である。このような判例法理に照らすと,解除の制限を廃止する方向 で同条ただし書を見直すことには賛成である。(日大民研・商研)
○ 土地の工作物を目的とする請負契約については,解除権の制限を見直すべきである。(xxx)
○ 土地工作物の請負における解除制限については,廃止すべきである。土地工作物の請負について解除制限をした趣旨は,土地工作物を維持 することが国民経済に資することにある。しかし,土地工作物につい て解除制限をすることが国民経済に資するという立法事実は,今日で
は妥当しないと思われる。建て替えを必要とする場合など,解除すべきケースについては,本文の目的達成の有無,についての解釈で妥当な結論を導くことが可能である。(弁護士,弁護士)
○ 近時,土地工作物について建替えを認めた判例もあり,土地の工作物に関しては,建て替えを要する場合にまで注文者の解除権を否定するのは行き過ぎである。したがって,解除制限を緩和することに合理性は認められるから,民法第635条ただし書は削除すべきである。
(弁護士)
○ 検討することに異論はなかったが,重大な瑕疵がある場合には,解除を認めるのが相当であるとする意見がある一方,軽微な瑕疵を理由に解除を請求する者が出ることへの懸念を示す意見があった。(最高裁)
○ 原則として解除を制限しつつ,工作物の建替えを必要とする場合には解除を認める考え方に賛成する。(愛知県弁)
○ 解除制限を完全に廃止すべきではなく,原則として解除を制限しつつ,例外的に解除を認めるべき要件を定めるのが望ましいと考える。現行法が土地の工作物についての解除権を制限している趣旨は,解 除に伴い一度は完成させた土地の工作物を収去することは社会経済的損失が重大であるという理由によるところ,かかる趣旨が妥当するも
のについては,今後も解除を制限すべき必要性がある。これに対して,建物に重大な瑕疵があるため建替えが必要となる場合など,それを収 去することが社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく,当該 建物を残置しておくことが危険であり,かえって周囲に損害を与えか ねないような場合には,解除を認める必要性がある。(横浜弁)
○ 建築請負契約の目的物である建物に重大な瑕疵があるために建物を建て替えざるを得ない場合には,注文者は請負人に対し建物の建替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることができ,このことは民法第635条ただし書の趣旨に反しないとした最高裁判例(最判平成
14年9月24日判時1801号77頁)はあるが,このことから直ちに同条ただし書は廃止してよいということにはならない。現行法を改めると,目的物が土地の工作物であっても比較的容易に解除することができるようになるが,その当否については慎重な検討が必要である。(弁護士)
○ 引用される最高裁判例は居住用建物の瑕疵が重大で建替え以外に有 効な修補方法がないという相当に特殊な事案であるから,これに依拠 して,土木構築物を含む広い概念である「土地の工作物」に関する瑕 疵担保責任に関して一般的な議論をする際に引用するには慎重である べきである。また,大規模な土地工作物においては,xxが不可能で あって修繕等で対応せざるを得ない工作物も存在するものであるから,
一律に請負に関する一般原則に委ねられるべきではない。(森・xxxxxx)
○ 土地の工作物を目的とする請負契約の解除の制限について,住宅の瑕疵に関する判例法理や行政施策を非住宅の建設工事請負契約にまで拡張する考え方は,実務上も極めて問題が多く,現状のままとすべきである。平成14年9月24日の最高裁判決だけでは,救済措置として解除までが必要という積極的な論拠としては不十分である。(建設適取協)
○ 建物に重大な瑕疵があるために建て替えざるを得ない事案で建替費用相当額の損害賠償を認めた最高裁判例の趣旨を明文化するには,当該判例事案に特殊性(居住用木造建物)があること,さらには,建物だけではなく,特に,土木工作物を収去する場合に惹起される社会的・経済的な損失は非常に大きいことから,明文化には反対である。
そもそも平成 14 年最高裁判例の事案は極めて稀なケースであることを考えると,この判例の趣旨を,請負人の過大な負担及び社会的経済的損失の回避という現行条文がもつ立法経緯・趣旨を排除してまで明文化する必要性はないと考える。また,土地の工作物を目的とする建設請負においては,請負契約の解除がなされた場合,売買契約などのように代金返還と引き換えに,売買目的物を返還すれば,原状回復が済むのとは異なり,実際問題として,現状を元に復することは極めて困難を極める。土地の工作物が大規模化し,高度化・高性能化した現代社会では,この傾向が顕著である。さらに言えば,トンネル,シールド,ゴルフ場といった地盤に密着した土木工作物については,そもそも「収去」「建替え」といった概念に馴染みにくい。つまり,土木工作物に関しては,万一瑕疵があった場合でも,収去・建替えは不可能であり,修補・修繕で対応する以外にないのが実態である。(日建連)
○ 現行民法635条但書の立法趣旨は,基本的に現在でも大半の請負 について妥当するため維持されるべきであり,これを廃止して請負の 一般原則によるものとすることは妥当ではない。ただし,建物に重大 な瑕疵があり,かつ,当該瑕疵の存在につき請負人が故意又は重過失 であった場合などに限定し,更に行使目的を建て替えを行う場合など に厳格に限定したうえで,ただし書の再例外を設けることについては,請負人の負担と注文者の不利益を衡量しつつ,議論する余地はあるも のと考える。(会社員)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
請負の目的物に瑕疵があった場合における注文者の救済手段として報酬減額請求権が認められるかどうかは,xxの規定がなく不明確であるが,報酬減額請求権は,損害賠償など他の救済手段の存否にかかわらず認められる点で固有の意義があるなどとして,報酬減額請求権に関する規定を新たに設けるべきであるとの考え方がある。これに対しては,請負においては損害賠償責任について請負人に免責事由が認められるのはまれであることなどから,減額請求権を規定する必要はないとの指摘もある。このような指摘も考慮しながら,報酬減額請求権の要否について,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,5(3)[17頁]】
【意見】
○ 報酬減額請求権は報酬請求権の債権譲渡の場面等において意義を有するから,規定を設けることに賛成する。(札幌弁)
○ 過分の費用を要するために瑕疵修補請求ができない場合において,注文者と請負人とのxxをはかるのに有効であるから,報酬減額請求権に関する規定を新たに設ける考え方に賛成する。(愛知県弁)
○ 報酬減額請求権については,売買契約における瑕疵担保責任の規定に代金減額請求権を盛り込むということであれば売買契約との整合性が図れるし,明確に規定されることで消費者保護にも資するものと考えられるので,認めるべきである。(大阪弁)
○ 過分の費用を要するために修補請求ができない場合や,免責事由があるために請負人に対して損害賠償を請求することができない場合にも認められる救済手段が設けられることで,問題が生じた際の解決方法が多様となり,適切な解決が図られやすくなると考えられる。したがって,報酬減額請求権を認める規定を設けることについて,賛成である。(広島弁)
○ 瑕疵ある目的物の時価評価額が証明できれば,請負報酬との差額について報酬減額請求という方法での瑕疵による減価分の請求ができるので,このような救済方法も認めてよい。なお,代金減額請求は無過失責任とすべきである。(福岡弁)
○ 請負人に免責事由がある場合にも認められる報酬減額請求権を規定することは,請負人と注文者のxxの観点から,意義があるものと考えられる。(二弁)
○ 報酬減額請求権は,当事者間の緻密な利益調整を図り得ることから,請負の場合でも,報酬減額請求権を認める必要がある。(xx弁消費 者委)
○ 注文者の救済手段として報酬減額請求権については新設されるべき
である。請負人が免責される場合の救済手段としての報酬減額請求権を認めることはxxの観点からも妥当であると考える。ただし,同請求権の要件,効果については更に検討が必要である。(日弁連消費者委xx)
○ 報酬減額請求権を認めるべき。その理由は,実務上,報酬減額により処理をしている事例も多数見られることからすれば,これをxx上も規定して明確にするほうが望ましいこと,また,売買の場合に代金減額請求権を認めるのであれば,有形請負などには売買的要素がある以上,同様に報酬減額請求権を認めるのが相当であり,また,無形請負であっても,これを認めるべきでない根拠は大きいとは考えられないことである。(xxxx)
○ 規定を設けることに賛成である。(広大xx)
○ この点につき,とくに異論はない。(日大民研・商研)
○ 報酬減額請求権は認められるべきである。(xxx)
○ 請負の目的物に瑕疵があった場合における注文者の救済手段として報酬減額請求権に関する規定を設けることに反対である。物の製作を目的としない請負もあり,売買における代金減額と同じ理論は妥当しない。(三菱電機)
○ 損害賠償請求権を免責する事由があり得ないと考えるのであれば,報酬減額請求権は不要であるといえるが,まれであるというだけで,規定が不要であるとする理由は明らかではない。(大学教員)
○ 請負の目的物に瑕疵がある場合の救済手段としての報酬減額請求権を認めるべきである。例えば報酬請求権が譲渡されている場合において,請負人が完成した目的物に瑕疵があるときは,報酬請求権の譲受人には減額された報酬請求権しか取得しないという帰結を導くために減額請求権を規定する必要性がある。(弁護士)
○ 製造請負における特別採用条項など,実務に報酬減額請求権に類似している制度が存在することから,一概に否定されるべきではない。ただし,請負人が拡大損害防止などのため,減額の上での引渡しを望まない場合にまで注文者が減額請求権を行使できるものとすることには慎重であるべきである。(会社員)
○ 検討することに異論はなかった。(最高裁)
○ 報酬減額請求権に関する規定を新たに設ける考え方には,賛成する意見が多いが,有力な反対意見もあり,慎重な検討を要する。
売買契約における瑕疵担保責任の規定に代金減額請求権を盛り込むのであれば,売買契約との整合性が図れ,明確に規定されることで消費者保護にも資する。もっとも,現行法でも損害賠償の内容であり,規定がなくても特に不都合はなく,むしろ減額すべき金額の算定が容易でないため混乱をきたすという反対意見がある。(日弁連)
○ 現行法でも損害賠償の内容とされており,目的物に瑕疵があった場合に免責が認められることはあまりないと考えられるので,このような請求権を設けなくても不都合はない。(東弁)
○ 報酬減額請求権という権利は,実質的には契約の一部解除であるが,仕事の完成を目的とする請負契約について,契約の一部解除,という のはなじみにくい面がある(特に,無体物のような場合)。結局,損 害賠償や瑕疵修補で対応し,それでだめなら,そのリスクは請負人が 負担すべきである。このように考えても,損害賠償が認められないケ ースはほとんどなく,請負人が負担するリスクは,どの様な契約にも 内在しているリスクという域を出ないものと考えられるため,特に不 xxはない。したがって,報酬減額請求権を規定する必要はない。
(兵庫県弁)
○ 明文化する必要はない。売買における数量不足の場合などと異なり,請負(特に物の制作を目的とする場合以外)の場合は,減額すべき金 額の算定が容易ではないため,混乱を来すおそれがある。また,判例 上,瑕疵に基づく損害賠償債権と報酬債権は相殺できると解されてい るため,結果的に減額と同様の効果が得られる。(横浜弁)
○ 目的物に瑕疵が存在する場合であって,請負人に対する損害賠償請 求権が認められない(認められるべきではない)ような場合において,報酬減額請求権という別の請求権の行使によって当初の請負金額につ いて一定の範囲で支払拒絶が可能となることが妥当な結論といえる場 面が想定し難い。新たに報酬減額請求権を設けることを議論する必要 はないと考える。(親和会)
○ 不当な報酬減額手段として悪用されることが懸念され,請負人保護の必要があるので,認めない見解に賛成する。履行の態様が不完全でも,まず催告等を行い仕事を完成させることを目指し,どうしても完成しない場合に損害賠償するというプロセスを踏むべきである。(法友全期)
○ 具体的にどのような場合に報酬減額請求権が生じるのか不明である。損害賠償請求権との異同も含め,もう少し内容を明確にすべきである。
建設請負の実務に照らした場合,現実には,瑕疵による価値の減少を算定することが難しく,また,発注者優位の力関係の場合が多いことから,瑕疵を理由とする報酬減額請求権が発注者に与えられると,請負者に契約の趣旨を超えた過度な負担を強いる結果となるおそれがある。
また,建設請負の生産システムは,注文者と請負者が計画・施工と相互に絡んで工事を仕上げていくものであり,両者の資質の問題もあることから,瑕疵問題に対しては,そのロスをどちらが負担するかの
「負担」の問題として取り扱われるべきであり,報酬の減額といった
考え方はなじまない。
一方,近時の実務では,瑕疵担保留保金等の名目で請負金の数パーセントを保留される契約が目立ってきており,一定の留保期間経過時点においてどれだけその留保金を取り戻せるかが,請負人にとって注文者との厳しい交渉となることが多い。これは経年劣化等を瑕疵だとして留保金の返還金額を出来るだけ少なくしようとする注文者との攻防であるが,注文者優位の力関係により,請負人に酷な場合が多い。以上のことから,建設請負の実務の視点からは,瑕疵を理由とする
報酬減額請求権は,請負人に酷な結果となるおそれが高く,また,
「損害賠償」や「瑕疵保険」等の既存の制度によっても調整可能であると思われ,ここで新たに注文者の救済手段としての報酬減額請求権を制度化する必要性はないと考える。(日建連)
○ 代金減額請求権は,請負契約の注文者については明示的に認められていないが,売買契約についての代金減額請求権の規定は他の有償契約にも準用されるので,現行法上請負契約についても,代金減額請求権の行使が全く否定されているわけではない。
請負契約には,売買契約との区別が曖昧で売買契約と同様に代金減額請求権を認めるべきと思われる類型もあれば,報酬減額について売買と同じ論理が通用しない類型もある。よって,請負契約の報酬減額請求権については,xxではこれを認めていないものの,一応適用の余地を残している現行法の規律を維持し,具体的にこれが認められるか否かは,当該請負契約の具体的性質に応じて個別に判断されるものとする(解釈に委ねる)のが相当と思われる。(弁護士)
○ 改定の必要があるとは思えない。合意により報酬減額がなされるのが通常である。(個人)
(5) 請負人の担保責任の存続期間(民法第637条,第638条第
2項)
請負人の担保責任を追及するためには,土地の工作物を目的とするもの以外の請負においては仕事の目的物の引渡し(引渡しを要しないときは完成時)から1年以内,土地の工作物を目的とする請負において工作物が瑕疵によって滅失又は損傷したときはその時から1年以内に,権利行使をしなければならず(民法第637条,第638条第2項),具体的には,裁判外において,瑕疵担保責任を追及する意思を明確に告げる必要があるとされている。
このような規律に対しては,請負人の担保責任について消滅時効の一般原則と異なる扱いをする必要があるか,目的物の性質を問わず一律の存続期間を設けることが妥当か,存続期間内にすべき行為が過重では
ないかなどの指摘がある。これらの指摘を踏まえ,起算点,期間の長
さ,期間内に注文者がすべき行為の内容を見直すことの要否について,更に検討してはどうか。
その場合の具体的な考え方として,①注文者が目的物に瑕疵があることを知った時から合理的な期間内にその旨を請負人に通知しなければならないとする考え方(ただし,民法に事業者概念を取り入れる場合に,請負人が事業者である場合の特則として,瑕疵を知り又は知ることができた時からこの期間を起算する旨の規定を設けるべきであるとの考え方がある(後記第62,3(2)④)。)や,②瑕疵を知った時から1年以内という期間制限と注文者が目的物を履行として認容してから5年以内という期間制限を併存させ,この期間内にすべき行為の内容は現行法と同様とする考え方が示されているほか,③このような期間制限を設けず,消滅時効の一般原則に委ねるという考え方もある。これらについては,例えば①に対して,「合理的な期間」の内容が不明確であり,取引の実務に悪影響を及ぼすとか,失権効を伴う通知義務を課すことは注文者にとって負担が重いとの指摘などもある。上記の各考え方の当否について,売買における売主の瑕疵担保責任の存続期間との整合性(前記第3
9,1(6)),消滅時効の一般原則の内容(前記第36,1(1)(3))などにも留意しつつ,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,5(4)[18頁],
部会資料20-2第1,3(2)[16頁]】
【意見】
○ 通知義務を課すことで請負人も損害を抑える対応がとれるし,瑕疵を認識した場合に通知することは一般消費者との関係でも期待できるから,瑕疵通知義務による期間制限に賛成する。ただし,合理的期間というのはあいまいであり,具体的に明記する必要がある。(札幌弁)
○ 瑕疵担保責任の存続期間を瑕疵通知義務と失権効によって規律する 考え方に賛成する。その内容は,注文者は,目的物に瑕疵があること を知った時から1年以内に,瑕疵がある旨を請負人に通知しなければ,瑕疵担保責任の追及ができないこととすべきである。理由は,以下の とおり。
第1に,瑕疵の有無,まして,引渡しの時点であったか否かの判断は,時間が経過すると困難になること,通知を受けることで,請負人が注文者の被る損害を小さくする対応をとることも可能となることから,瑕疵を知ってから早期に通知させることが望ましい。また,目的物を引き渡した以上債務の履行を完了したと考えている請負人の信頼は一定の保護に値する。
第2に,注文者に具体的な権利行使までさせることを要求すると,
対応方法をよく知らない注文者に酷であるが,「瑕疵がある旨の通知」であれば,困難を強いるものとはならない。(xxxx)
○ 注文者が消費者である場合に,適切な相手方に適切な内容の通知を一定期間内に出すということが期待できるのか疑問であり,また,事業者に限ってそのような通知義務を負わせることも規定のあり方として複雑である。
そこで,瑕疵を知った時から1年以内という期間制限と,注文者が目的物を履行として認容してから5年以内という期間制限を併用させることで,瑕疵がある場合にはなるべく早期に担保責任を主張させるという趣旨はある程度保護されるのではないか。ただし,売買における売主の瑕疵担保責任の存続期間や,消滅時効の一般原則の内容との整合性を考慮しながら検討する必要がある。
また,担保責任を追及する側が事業者である場合でも,事業者の中には取引に営利性があるゆえに簡易・迅速を求める商人だけでなく,営利性のない取引を行う者も存在し,営利行為を行わない事業者についてまで権利行使を制約する方向での特則を商法とは別に民法に取り込むことは,知識・情報・交渉力などの格差を是正することとは必ずしも繋がらず,こうした特則規定を定める必要性があるのか疑問である。(広島弁)
○ 注文者が目的物の瑕疵を知ったときに通知するとの考え方に反対す る。通知のみすることの意義が見出せない。また,「合理的な期間」 が不明確に過ぎる。やはり原則的な期間を明示すべきであると考える。
担保責任の存続期間につき現行法の規定を維持しつつ,起算点を注文者が瑕疵を知った時とする等の修正を加える考え方に賛成する。
担保責任追及のために注文者が存続期間内にすべき事項について,判例を明文化することに賛成する。(愛知県弁)
○ 注文者が合理的期間内に通知しなければならないとする考え方は,通知の有無,内容の適否,合理的期間内になされたかどうかなどを巡って紛争が拡大することになり,反対する。引渡し又は仕事の終了から1年という期間制限は短く,注文者が瑕疵を知った時から起算される期間と注文者が仕事を履行として受領した時から起算される期間の双方を規定し,注文者の権利行使期間を伸長する方向に賛成する。
(一弁)
○ 瑕疵担保責任の存続期間は,引渡後10年及び注文者が瑕疵を知ってから 2~3 年程度とすべきである。理由は以下のとおり。
瑕疵担保責任を契約責任と考えれば,瑕疵担保責任の存続期間は,一般債権と同じく 10 年となるはずである。売買の瑕疵担保に関して
も,引渡後 10 年間存続することと解されている(最高裁平成 13 年
11 月 27 日判決・民集 55 巻 6 号 1311 頁)。したがって,基本は,引
渡後 10 年間とすべきである。目的物の瑕疵が引渡し直後に発覚せずに時間を経て発覚する事例も少なくなく,現行法のように引渡後短期間では,瑕疵担保責任の規定としては十分ではない場合も少ないと思われる。そのうえで,仕事が完成し目的物の引渡しも完了したという請負人の信頼の保護を考えると,引渡後 10 年以内であっても,注文者が瑕疵を知ってから一定の期間(2~3 年間)を経過すれば,請負人を免責すべきと思われる。(福岡弁)
○ 必ずしも専門的な知識を有しているとは限らない注文者に一方的に通知義務を課し,それを怠った場合に瑕疵担保責任の追及を封じるというのは,注文者にとって極めて酷といえる。また,通知をすべき
「合理的期間」という概念についても,不明確であり,賛成できない。
「知ったときから1年」という点については,賛成である(ただし,
1年では短すぎるとの意見もある。)。現行民法の売買の瑕疵担保責任とのバランスからも起算点は「知ったとき」とすることが望ましい。
「受領してから」という点については,債権一般の時効として処理すべきである。ただし,一般の債権時効が5年よりも長い場合には,
5年という制限を設けることも検討すべきである。(横浜弁)
○ 中間論点整理①の合理的期間という規定は不明確であり,実務に大きな混乱をもたらす上,通知義務を負わせることは,その通知自体の存在の証明自体の負担が大きい。
知ってから1年という主観的期間と履行として認容してから5年を併存するという②の考え方は,請負の範囲の議論次第では,事実上似た類型の契約であるにもかかわらず片方は知ってから1年,片方は一般消滅時効と大きな差が出てくる可能性がある。
一般消滅時効に一元化すべきであり,③に賛成する。
なお,事業者について特則を設ける考え方は,業種や瑕疵の発見能力に関わりなく瑕疵の発見を要求するものであり,実際上,瑕疵担保責任を追及できる期間が現行民法の規定より著しく短期間となってしまうので,不当である。(東弁)
○ 期間制限を設けず,消滅時効の一般原則に委ねるという考え方に賛成する意見が強い。
①については,「合理的期間」という規定が不明確であり,注文者は当該目的物について専門的な知識を有していないことが多いため,何をもって通知の対象とすべき瑕疵であるかを判断できず,消費者保護の観点からも,般的な通知義務を課すことは,注文者に酷な結果となる。
②については,例えば,住宅の瑕疵の場合,不具合(欠陥現象)には気づいても,専門家に依頼して調査するまでは不具合の原因(欠陥原因)が分からなかったという例が多く,かかるケースでも,不具合
に気づいた時点で「瑕疵を知った」と判断される可能性があり,注文主の瑕疵担保責任請求権が不当に制限される。また,「履行としての認容」という概念を採用しても瑕疵の有無について検査義務を課すものではないと理解されているにもかかわらず,履行として認容したことによって短期の期間制限に服するのか,その理由が不明である。
(日弁連)
○ 注文者に通知義務を課すべきではなく,担保責任の存続期間の規定を撤廃して,権利行使期間の制限については時効制度の規定に委ねるべきである。その理由は,以下のとおりである。
注文者に通知義務を課す考え方は,「給付された目的物が契約に適合しない不完全履行があった場合において,債務の本旨に従った履行を完了したと信じた善意の債務者の正当な信頼を保護するために,契約当事者の協力義務の一環として,不完全履行の事実を知った債権者がその時から契約の性質に応じた合理的な期間内に債務者にその旨を通知する義務を負い,それによって,不完全履行に基づく損害賠償責任が保存されるとする考え方に基づく規律である。」との考えに基づくものであると考えられ,契約当事者の協力義務の一環として通知義務を位置づけている。しかし,そもそも,請負人は,瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負っている以上,かかる義務を履行していない債務者(請負人)について,債務の本旨に従った履行を完了したことを信じたことについて保護すべき理由はないものと考えられ,協力義務を注文者に求めることは妥当でないと考える。また,注文者は,当該目的物について専門的な知識を有していないことが多いのであって,何をもって通知の対象とすべき瑕疵か否かについて判断できないのが通常である。例えば,住宅紛争事案の場合,欠陥現象(雨漏り等)と欠陥原因(建築士等の調査結果により発見された構造上の問題等)とが存在する。欠陥現象を認識した時点から起算点とするのは注文者に酷であると考えられるが,どの時点を「注文者が目的物に瑕疵があることを知ったとき」とするのかは不明である。以上より,瑕疵の通知義務を一般に課 すことについては,注文者にとって酷な結果となるのではないかと考える。
消費者保護の観点からも,事業者と消費者との現実的な交渉力・情報量格差か らすれば,消費者も含めて一般的な通知義務を課するのは,消費者である注文者に酷な 結果となる。
以上より,注文者に通知義務を課すことは妥当ではないと考える。そして,権利行使期間の制限については,権利行使期間の明確化の観点から,時効制度の一般規定に委ねるべきであると考える。(大阪弁)
○ 期間制限については賛否両論あるが,消滅時効の一般原則に委ねる
方向で見直すべきとの意見が多数である。
仮に,期間制限を維持する場合には,「合理的な期間内」ではなく,一律の期間とする方向で検討すべきである。
仮に,期間制限を維持する場合には,起算点を「知った時から」とすることについて,更に慎重に検討すべきである。(二弁)
○ ①については,「合理的な期間」なる不明確な概念により瑕疵担保請求権の消長が決せられるのでは実務上混乱が避けられないこと,
「通知」の内容もいかなる事実を通知するべきかも明確でないこと,注文者が消費者の場合には通知義務を課すのが酷な場合が珍しくないといえることから,実務上,到底受け入れがたい考え方であるといえる。
②は,「履行として認容」という不明確な概念が起算点とされることの問題点,1年,5年という期間が前提とされている理由が不明であるという問題点が存在し,賛成できない。
③については,現行民法が,債権の消滅時効期間とは別に,更に短期の除斥期間としての瑕疵担保期間を別途設定している複雑さを見直し,簡明化するという意義は認められる。(日弁連消費者委xx)
○ 中間論点整理に置いて提示された各考え方のうち,①の「合理的期間」という規定は極めて抽象的かつ不明確であり,実務に大きな混乱をもたらすことが予想される。また,事業者について,瑕疵を知り又は知ることができた時から期間を起算する旨を規定するという考え方については,現行商法の規定より更に注文者の検査義務を厳格にし,業種や瑕疵の発見能力(注文者が専門業者等以外の場合には,事業者の瑕疵発見能力は一般人とあまり変わりない)に関わりなく瑕疵の発見を要求するものであり,仮にこのような規定が設けられれば,注文者は現行実務よりさらに時間を掛けた慎重な検査を行うことを余儀なくされ,それだけ請負人に対する報酬支払いの時期も遅延し,いわゆる「下請いじめ」の被害が現状よりさらに拡大する可能性がある。
②の「知ってから1年」という主観的期間と「履行として認容して から」5年を併存するという考え方は,特に後者の「履行として認容 してから」という時効の起算点について紛争が多発する可能性があり,あまり有益な立法提案とはいえない。
したがって,一般消滅時効に一元化することが相当である。(弁護士)
○ 請負人の担保責任の存続期間については,仕事の目的物の完成から 長期間を経ると,通常の損耗や注文者帰責による不具合と請負人が責 任を負うべき瑕疵との区別が困難になるから,一般債権の時効消滅期 間ではなく,引渡時(引渡しを要しないときは完成時)を起点とする,取引実務で受け入れられる合理的な長さ(3ヶ月,6ヶ月,1年が目
安)の特別の除斥期間たる短期期間制限を設けるべきである。当該期 間内に注文者は瑕疵の存在の通知を行うだけでよいとするべきである。
(三菱電機)
○ 請負人が瑕疵について善意の場合には注文者が契約の性質に応じて合理的な期間内に瑕疵の通知を行うことによって瑕疵に基づく権利が保存されるという規律に改めるべきであるとの意見がある一方,瑕疵について十分な専門的知識がないことの多い注文者による瑕疵の通知懈怠と失権効とを結びつけることは注文者にとって酷であるとの意見もあり,慎重に検討すべきである。(xx弁消費者委)
○ 請負人の瑕疵担保責任の損座置く期間に関し,注文者に対して通知 義務を課す場合には,通知期間につき明確な期間を定めるべきである。注文者に対して合理的な期間内の通知義務を課した場合,「合理的な 期間」がxx的には決定できないため,請負人にとって瑕疵担保責任 を負う期間に関する予測可能性が著しく阻害されることとなり,取引 の安定性を害するとともにかえって注文者の保護を後退させることに なりかねない。(森・xxxxxx)
○ 短期の期間制限を撤廃すると,経年変化等についても瑕疵として主張されて無用な紛争を招くことを懸念する意見,「合理的な期間」とせずに具体的に時期を定めるのが相当であるとする意見があった。
(最高裁)
○ 更に検討すること自体は是認できる。ちなみに,①案のように,注文者に瑕疵の通知義務(失権効を伴うもの)を負担させることは,注文者が消費者の場合には疑問であるとの意見があったが,①ないし③案のいずれが妥当かについては意見がまとまらなかった。(兵庫県弁)
○ 担保責任の存続期間の起算点,期間の長短,期間内に注文者がなすべき行為の内容を見直すことに特段の異論はないが,注文者と請負人の双方の利益のバランスを慎重に検討しつつ見直す必要があるほか,権利行使や免責のための形式的な手続や義務(通知義務など)を徒に増やすことには反対する。事業者について特則を設けることも反対する。(親和会)
○ 売買における売主の瑕疵担保責任の存続期間との整合性や消滅時効の一般原則の内容などにも留意しつつ検討するのであれば,とくに異論はない。具体的な問題点は,存続期間の起算点,期間の長さ,その期間中に注文者がすべき行為の内容をどのように考えるかであるが,改正する場合の具体的な規定内容については,本文記載の①及び②の考え方のほか,請負人の担保責任について消滅時効の特則を設けず,消滅時効の一般原則によって処理すべきであるとの意見も視野に入れて検討すべきである。請負人の担保責任の存続期間を債権の消滅時効
の一般原則に従って処理するに当たっては,瑕疵の存否や程度についての評価は時間を経るに従って困難になるという性質をどのように評価するか,注文者が瑕疵の存在を知ったときの行為規範としてどのようなものが望ましいかなどを考慮する必要がある。
なお,通知義務と失権効によって瑕疵担保責任の存続期間を規律するという考え方は,売主の瑕疵担保責任の存続期間についても議論されており,これとの整合性にも留意しながら検討する必要がある。
(日大民研・商研)
○ 現行法の規定と解釈によるのが,既に履行を完了したと認識している売主を長期経過後に不測の事態に陥れることもなく,また買主の保護としても十分である。
請負の概念について現行法どおり仕事の成果について引渡しを要しない場合もあると考えると,現行民法637条2項の規定は必要である。
注文者の通知義務→失効案には反対する。明確な基準ではなく法的安定性の確保に資さない。
対等な当事者を前提とした価値中立的な規律を定める民法において,
「事業者」という一定の属性を前提とした規律を設ける必要性はない。このような規定を民法に設けることについては,反対である。(法友 全期)
○ 従来の請負契約では 1 年の除斥期間が明示され,取引慣行の形成,個別取引における合意形成に一定の役割を担ってきた。契約の性質に照らし,合理性を有しないときは,個別に伸長又は短縮できることを前提として,目安となるデフォルトルール(商事売買を参考とすれば
6 ヶ月)を明示することは,取引の安定,取引コストの低減にとって有益と考える。また,注文者にとっても少なくとも事業活動において他人に請け負わせた目的物については速やかに且つ十分な検査をもって瑕疵の有無を点検し,瑕疵を通知することが期待されるところ,起算点が曖昧なまま,いつでも瑕疵の存在を知ったときから請求を可能としてしまうと,十分な検査が行われなくなることが懸念される。少なくとも事業活動に伴う請負契約により引渡しを受けた目的物について,担保責任の期間の起算点を引渡し時とする必要があるのではないか。
なお,「瑕疵を知った時から 1 年以内という期間制限と目的物を履
行として認容してから 5 年以内という期間制限を併存」させる考え方
も示されているが,引渡し時点から 1 年が 5 年に伸長されることとなり,情報サービス取引のように技術革新が目まぐるしい取引分野においては,請負人の負担が過大となり,従来は,引渡し後 1 年間を経過したところで締結するのが一般的であった有償での保守サービス契約
の締結が阻害されることにもなりかねない。(情サ産協)
○ 企業法務の立場からは,現行民法の定めのままで,発注者,請負人の双方においても何ら支障を来しているものではなく,実務上の無用の混乱を避けるためにも,改正すべき明確な根拠がないならば,改正は不要である。
①について,企業間取引実務においては,瑕疵担保責任を負う期間が具体的に明確化されていることが非常に重要であり,「合理的な期間内に」とのみ定めることや,具体的な期間を明記しないこととすべきではない。「合理的な期間内に」と定めるならば,並存して一定の期間(例えば1年以内,6か月以内等)は民法上に明文化しておくべきである。また,瑕疵の通知義務を課すのであれば,単に瑕疵があることの通知で足りるのか,それとも瑕疵があることに合わせてどのような責任を果たすべきかをも通知する必要があるのか,受託者側としては,何をもって通知があったと判断すれば良いのか,明確にされるべきである。
②について,一般法たる民法において一律に長い担保責任の存続期 間を定めるべきではない。成果物の性質によって差はあるが,瑕疵が 何年にも亘って発見されないということは稀なケースであり,請負人 としても一定期間は担保責任を負い得るであろうことは想定している こと思われるが,長期間,担保責任を負う可能性があるということに なれば,長期間に亘って,材料,機材,人材等を維持する必要がある ことになり,請負人の負担が大きすぎる。請負の成果物の耐用年数は,その性質により大きく異なるし,土地の工作物を除けば,実務上,通 常,担保責任は 1 年間であるので,それを超える担保責任の存続期 間を定めるのであれば,特別法で定めるのが現実的である。
③について,期間制限を設けずに消滅時効の一般原則に委ねるべき ではない。請負人としては成果物を引き渡した時点で業務を完了した,と考えているのであり,その信頼は保護に値するので,消滅時効とは 別に,担保責任を追及できる期間について一定の制限を設けるべきと 考えられる。(法友会)
○ 請負人の担保責任の存続期間について,住宅の瑕疵に関する判例法理や行政施策を非住宅の建設工事請負契約にまで拡張する考え方は,実務上も極めて問題が多く,現状のままとすべきである。(建設適取協)
○ 「論点整理」で示す「注文者が目的物に瑕疵があることを知った時から合理的期間内にその旨を請負人に通知しなければならないとする考え方」については,「合理的な期間」の内容が不明確であり,裁判をしないと合理的な期間内なのか期間外なのかが確定しないことになるので,確定期限,例えば1年以内という期間制限を設けるべきであ
る。また,「論点整理」では,注文者に通知義務を課すことは負担が 重いとの指摘があるとのことであるが,通常,目的物を引き渡した後 は,当該目的物の管理支配権は注文者にあり,請負人はその管理支配 の状況を知ることはできない。したがって,注文者の瑕疵に関するx x行使の前提として,目的物に不具合があることを知ってから徒に時 間が経過すると,その真の原因が請負人の仕事に起因するものなのか,注文者の使用方法の悪さに起因するものなのか,あるいは不可抗力に よるものなのか分からなくなってしまう。特に土地の工作物の場合
(第638条2項),滅失または損傷のときには,不具合事象が明確になっていることから,1年以内に責任を追及しなければならないとする現行法の構成は極めて合理的であり見直しの必要はない。これまでも,判例(最判平成4年10月20日)において,「裁判外において,瑕疵担保責任を追及する意思を明確に告げる必要がある」という解釈がなされていることから,単に通知義務を課すことは,何ら注文者に過重となるものではないと考える。(日建連)
○ 短期期間制限を維持する場合に,制限期間の起算点を事業者について通常の場合よりも早めることに合理性があるかは疑問である。(大学教員)
○ 存続期間を引渡しから1年とする現行法の規律を維持すべきである。消滅時効の一般原則をどのようなものとするかについては,起算点,
時効期間の長さなどについて議論がされており(前記第36,1 (1)(3)参照),請負人の担保責任について消滅時効の特則を設ける必要がある。
存続期間内に注文者がすべき行為の内容について,現在の判例は権利保存のため具体的な主張をしなければならないこととしており,明文化を検討すべきである。(弁護士)
○ 1年の期間制限は妥当であり,民法の規定としてこれを長期化しようという考え方には反対である(事業者間取引においては,瑕疵担保期間の長期化の必要がある場合には契約書等で瑕疵担保期間を明記するが通常であり,法律中の規定をわざわざ長期化する必要がない)。消費者契約に関しては,契約上への明記を期待しえない場合もあり得ようが,消費者契約法や,取引類型に応じ業法等で特則を設ければ足りるのであって,民法の問題とするべきでない。(会社員)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
○ 雨漏りを直してもらう例で普通に雨が降って直ったと思ったが,その後強風が伴う雨が降って実は直っていなかったことが判明した場合は「瑕疵」なのか「仕事が終了していない」のかということが問題になる。「仕事が終了していない」と解釈するなら 637 条 2 項の除斥期間は適用されず,適用されるとすれば 170 条の 3 年時効ではないのか
(あるいは短期時効は廃止するのか)。一旦直ったと思ったら仕事が終了したとみなしてその後は瑕疵と考えるのか。いずれにせよ 637 条
2 項の「仕事が終了」というのがいつを指すのかは明確ではない。
(翻訳・出版関係)
(6) 土地工作物に関する性質保証期間(民法第638条第1項)
民法第638条第1項は,土地工作物に関する担保責任の存続期間について規定するが,その法的性質を性質保証期間(目的物が契約で定めた性質・有用性を備えていなければならない期間)と解する立場がある。このような立場から,前記(5)の担保責任の存続期間に加え,土地工作物について性質保証期間に関する規定を設け,請負人はその期間中に明らかになった瑕疵について担保責任を負うことを規定すべきであるとの考え方が示されているが,これに対しては,土地工作物のみを対象として性質保証期間を設ける根拠が十分に説明できないなどの指摘もある。そこで,土地工作物について性質保証期間に関する規定を設けるかどうか,設ける場合に設定すべき具体的な期間,合意によって期間を伸縮することの可否等について,担保責任の存続期間との関係などにも留意しつつ,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,5(5)[21頁]】
【意見】
○ 土地工作物については,多くの契約において性質保証期間の合意があると考えられるので,性質保証期間を任意規定として定める意義がある(東弁)。
○ 土地工作物について性質保証期間に関する規定を設けることについては,その要件を慎重に検討する必要はあるが,賛成である。
土地工作物において,消滅時効の規定とは異なる性質保証期間の規定を設けることは,注文者の権利救済に資する。もっとも,その要件については,住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)94 条以下や時効制度との整合性に配慮すべきである。(日弁連)
○ 土地工作物において,消滅時効の規定とは異なる性質保証期間の規定を設けることについては,性質保証期間内に発見した瑕疵については,引渡時に存在していた瑕疵と推定するものであって,注文者の権利救済に資するものと考えられるので賛成である。
性質保証期間については現行民法と同じく原則5年とすべきであり,例外として,住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)94条 と同様に特に重要な構造・雨漏りの瑕 疵については性質保証期間を
10年とすべきである。また,性質保証期間の設定については,時効制度との整合性も図る必要がある。
性質保証期間の伸縮については,品確法との整合性を図り,特に重要な構造・雨漏りの 瑕疵については,合意により短縮することを禁止すべきである。(大阪弁)
○ 土地工作物についての性質保証期間の定めを明文化すべきであるとの考え方に賛成である。瑕疵担保期間については,住宅の品質確保の促進等に関する法律で採用されている区分を一般化して,「建物その他の土地の工作物」のうち,「耐久性を有する」新築建物の「耐久性に関わる基礎構造部分」については10年とし,それ以外の土地の工作物については2年とすべきである。地盤については,建物の耐久性に関わる基礎構造部分に準じて10年とすべきである。請負人の故意又は重大な義務違反によって瑕疵が生じた場合には,所定の期間を短縮することができないとの規律を設けるべきである。また,土地工作物の瑕疵担保責任においても,瑕疵修補請求や減額請求等の担保責任の一般原則や瑕疵の通知義務が適用されることを明記すべきである。
(xx弁消費者委)
○ 担保責任の存続期間に加え,土地工作物について性質保証期間に関する規定を設け,請負人はその期間中に明らかになった瑕疵について担保責任を負うことを規定すべきであるとの考え方は,方向性としては賛成。工作物だけではなく,地盤も対象とされるべき。
合意による期間の短縮は,少なくとも住宅では否定されるべき。 性質保証期間は,10 年以上とされるべきと考える。(日弁連消費者
委xx)
○ 土地工作物について,性質保証期間の定めを置くことに賛成する。その内容は,引渡しから一定の期間内に明らかになった瑕疵については,引渡時に瑕疵があったものと推定し,請負人は,引渡時に当該瑕疵がなかったことを反証なければ,担保責任を負うとすべきである。理由は,以下のとおり。
土地工作物の重要性に鑑み,瑕疵担保責任や消滅時効制度とは別に,性質保証期間を定めることには意義が認められる。ただし,一定の性 質保証期間を定め,その期間内に明らかになった瑕疵については,受 領時に瑕疵があったものとして扱う期間として理解した場合,引渡時 に当該瑕疵がなかったこと(想定されている性質・有用性を備えてい たこと)の反証の余地を封じるのは行き過ぎである。製造物責任法第
3 条の欠陥の証明(引渡時に瑕疵が存在したことを請求者側が証明する必要がある。)に関する規律とは異なるが,製造物一般に広く認められる同法における規律と,土地工作物についてだけ認める性質保証期間の規律が異なることは問題とまでは言えない。(xxxx)
○ 民法638条を,いわゆる性質保証期間に関する規定に改め,この期間内に瑕疵が発見された場合には受領時に瑕疵があったものとして
取り扱うものとすることには賛成するが,存続期間については,基本的に現行法の規律を維持すべきである。
性質保証期間中に明らかになった瑕疵については,請負人に対し保証期間内に通知しなければならず,通知が期間経過後になされた場合には権利は保存されないものとすべきである。
性質保証期間の存続期間は,1年以上20年以下の範囲内で,契約により伸縮できる旨をxxで規定し,請負人の故意または重大な義務違反によって生じた瑕疵については,期間短縮の特約の効力は及ばないものとすべきである。
性質保証期間の経過後に瑕疵が明らかとなった場合でも,受領時において仕事の目的物に瑕疵があったことを立証すれば,請負人に対し瑕疵担保責任を追及できるものとし,その旨のxx規定を置くことには賛成する。(弁護士)
○ 性質保証期間(仕事の目的物が契約で定めた性質ないし有用性を備えていなければならない期間)という概念は,実質的に瑕疵担保責任における引渡時の瑕疵の存在についての立証責任を緩和するものであり,実務的には重要な意味合いを有するので,更に検討するべきである。(兵庫県弁)
○ 現行法の材質による区分についてより適切な区分の方法があるということであれば引き続き検討することに賛成であるが,現行法より規定を複雑にすることは反対。
長期経過してから瑕疵が問題となる可能性のある場合について長期間瑕疵担保責任の追及を認める現行法の規定は合理的であると思われる。もっとも,現在の材質による区分以外に適切な区分の方法があればそれによることを検討する必要がある。しかし現在出ている提案はそれを超えるものである上理論も難解・不明確であるため引き続き検討することに賛同しがたい。(法友全期)
○ 民法第 638 条第 1 項は土地工作物に関する担保責任の存続期間について規定し,これが性質保証期間(仕事の目的物が契約で定めた性質ないし有用性を備えていなければならない期間)であることに異論はないが,土地工作物のみを対象として性質保証期間を設ける根拠が十分に説明できないなどの指摘もあり,また,性質保証期間の効果として議論されていることは消滅時効の効果として議論すれば足り,必ずしも性質保証期間という考え方を導入する必要はないとの考え方もある。具体的な立法提案を示して,更に検討する必要がある。(日大民研・商研)
○ 土地工作物についてのみこのような規定を設ける意義及び必要性に疑問を呈する意見,様々な性質のものが考えられる土地工作物に一律に規定を設けることに疑問を呈する意見,現在の規律で対応できるの
ではないかとする意見など,性質保証期間の規定については消極的な意見が多かった。(最高裁)
○ 売買と請負の境目は明確でなく,請負にのみ性質保証期間に関する 規定を設けることは不均衡であるので,制限期間を性質保証期間とす る考え方に反対する。除斥期間又は消滅時効期間と考えるべきである。
(札幌弁)
○ 担保責任の存続期間を性質保証期間とする考え方に反対する。注文者が瑕疵を知った時を起算点とする考え方に立てば,性質保証期間と考える必要性が特に見出せない。また,任意規定としたのでは,資力のある請負人は予め排除し,資力のない零細業者だけが責任を負うことになりかねず,実効性に疑問がある。(愛知県弁)
○ 売買等の他の契約類型においては特に認められていないのに,土地の工作物を目的とする請負についてのみ性質保証期間の規定を設ける必要性が不明であるから,性質保証期間の規定を新たに設けることについては,慎重であるべきである。(広島弁)
○ 民法638条1項の期間を性質保証期間と位置付けるべきではない。瑕疵担保責任に加えて,土地工作物についてさらに長期間の性質保証 期間を認める必要性はないであろう。(福岡弁)
○ 「性質保証期間」という規定の採用自体につき慎重であるべきであ る。民法第638条第1項が定める担保責任の存続期間を「性質保証 期間」とする立場が必ずしも一般的とはいえず,唐突な感を否めない。そもそも「性質保証期間」という用語の定義自体が不明確であり,混 乱を招きかねない。通常の瑕疵担保の対象が狭められることを招くな ど,現行法よりも注文者の保護が後退するのではないかとの懸念が残 る。(横浜弁)
○ 土地工作物について性質保証期間に関する規定を設けることについては,慎重に検討すべきである。その理由は以下のとおりである。 ア 性質保証期間の経過後に瑕疵が明らかになった場合でも,引渡時
に瑕疵があったことを注文者が立証すれば瑕疵担保責任を追及できるとするが,瑕疵担保責任の存続期間を規定しただけではそのような趣旨は読み取りにくく,かえって,その期間内しか瑕疵担保責任を追及できないように読めるおそれがある。上記の趣旨が理解できるように明確に規定すべきである。また,売買の規律との平仄も検討すべきである。
イ 瑕疵担保責任の存続期間について,除斥期間と性質保証期間という類似した二つの制度を設けた場合,当事者が契約で瑕疵担保責任の存続期間を定める際にはいずれの期間についての特約なのかを明示しなければならないが,そのような契約の書き分けを一般人に期待することは難しいのではないか。
ウ 「期間内に瑕疵が明らかになった場合には,引渡時において既に瑕疵が存在したものと扱われる」とするが,具体的場面でどのように適用されるのか,明らかでない。
例えば,ひび割れ(クラック)のように,通常は目的物を受領し てから一定期間経過後に発生する瑕疵(不具合)について,決めら れた一定の期間内にひび割れが判明すれば無条件で瑕疵担保責任を 負うのか(受領時からひび割れが生じていた可能性は低いが,それ でも「受領時において既に瑕疵が存在したもの」と扱われるのか),明らかでない。
エ 期間内に瑕疵が「明らかになった」という事実を実務上どのように認定するのか,「瑕疵を知った」と同義なのか(「知り得た」は含まないということでよいか。),不明である。もし同義であれば,
「瑕疵を知った」に用語を統一した方がよい。(二弁)
○ 建物建築請負の実務において,アフターサービスと瑕疵担保請求権は明確に峻別して理解されている。土地工作物に関する担保責任の存続期間を性質保証期間として捉えることは,現在の実務に変更を加えることとなるほか,無用な混乱を導きかねない。このような論点を取り上げることには賛成できない。(親和会)
○ 土地工作物につき性質保証期間に関する規定を置くことは,慎重に検討すべきである。土地工作物には多種多様のものがあり,求められる性質保証の内容や程度についても,工作物の種類性質によって大きく差があるため,一般的に性質保証の内容や程度を規定することは,極めて困難であろうと考えられる。仮に,土地工作物のみを対象として性質保証期間をに関する規定を置くにしても,土地工作物の種類性質に応じ,各種の特別法に規定を置けば十分である。(日司連)
○ 土地工作物に関する性質保証期間について,住宅の瑕疵に関する判例法理や行政施策を非住宅の建設工事請負契約にまで拡張する考え方は,実務上も極めて問題が多く,現状のままとすべきである。(建設適取協)
○ 土地工作物に関する性質保証期間は,任意規定とはいえ実務上の影響と混乱が大きいことが懸念されるため,規定の新設に反対である。その規定の必要性を更に慎重に検討すべきである。
まず,性質保証期間の考え方(仕事の目的物が契約で定めた性質ないし有用性を備えていなければならない期間)は,瑕疵概念への該当性判断の通説・判例の考え方(契約内容に照らして不完全な点があるか否か)と近似するが,責任の存続期間の設定に当たっては,年数の経過により事実や原因が不明確となるリスクをどの程度負わせるかとの見地が不可欠なはずである。ところが,性質・有用性の視点から責任期間を設定すると,本来の責任期間の設定にあたり考慮しなければ
ならない事実や原因が不明確となるリスクの負担をいかにすべきかという論点が後退するので,結局,その事実や原因が不明確になるリスクを請負人のみに負わせる結果となる。これは適当ではない。
また,そもそも建設請負の契約目的物の性質・有用性は,経年・使用劣化,メンテナンス等により左右されるので,その期間を予め契約で確定させることは困難である。その不確定性の故に,請負人がどの程度の責任期間を覚悟すべきか等の予見可能性が著しく損なわれ,適当ではない。
同様に,建設請負の契約目的物は構造物の種類が多種多様であるため,それらの構造物の特性・強度等に相応して個々に責任期間を定めるといったことは,明らかに実務上煩雑に過ぎる。
これまで「性質保証期間」を巡り行われてきた議論においては,期間後でも注文者が受領時に瑕疵があったことを立証すれば瑕疵担保責任の追及が可能とする考え方や,期間内に瑕疵が発現した場合は請負人が受領時に瑕疵が無かったとする反証は許されないとする考え方が示されており,もともと注文者優位の傾向にある建設請負において,更に請負人が長期の責任を強いられ,しかも瑕疵に関する反証の機会も喪失するなど,更なる不利益を蒙るおそれがある。
更に,「論点整理」では,「前記(5)の担保責任の存続期間に加え」土地工作物について性質保証期間に関する規定を設けるとの考えが示されている。これは,土地工作物については,瑕疵担保責任とは別に,つまり,瑕疵担保期間に加えて「性質保証期間」に関する規定を設けるという趣旨であるならば,当然に,双方の責任規定の適用関係(重畳的に適用されるのか否かなど)を明らかにすべきであることはもちろんであるが,そもそも,土地工作物についてのみ,請負人にそれだけ過重な責任を課す説得的な理由を明らかにすべきである。
(日建連)
○ 土地工作物に不具合がある場合は,基本的に前記(5)の担保責任で足りているし,手当てが必要な側面については特別立法(「住宅の品質確保の促進等に関する法律」など)で対処できているから,当該性質保証の概念を新たに規定することに反対である。わかりやすい民法の観点から,不要な条項はいたずらに設けるべきではない。(三菱電機)
○ 注文者の受領日から「2年以内」と期間短縮することは妥当ではなく,現行法どおり「5年間」とすべきである。また,住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の規定の趣旨を没却することがないように規律すべきである。請負における瑕疵担保責任の法的性質は,債務不履行責任とも関連するところ,あえて請負人の責任を軽減するだけの理由・根拠がない。また,品確法との関係において,同法の趣
旨を没却しないように,また,その適用範囲・文言との整合性を有する必要もある。(弁護士,弁護士)
○ 性質保証期間とすることに反対する。土地の工作物について性質保証期間を設けるかどうかについては,売買などの他の契約類型については性質保証期間に関する規定を設けず,土地の工作物を目的とする請負についてのみ性質保証期間を定める合理的な根拠を説明する必要がある,性質保証期間の効果として議論されていることは消滅時効の効果として議論すれば足り,必ずしも性質保証期間という考え方を導入する必要はない。(弁護士)
○ 改定すべき理由があるとは思えない。(個人)
○ 土地工作物の範囲が,現行法以上に広がることのないよう留意されたい。(会社員)
請負人は,担保責任を負わない旨の特約をした場合であっても,知りながら告げなかった事実については責任を免れないとされている(民法第640条)が,知らなかったことに重過失がある事実についても責任を免れない旨の規定を設けるかどうかについて,検討してはどうか。また,これに加え,請負人の故意又は重大な義務違反によって生じた瑕疵についても責任を免れない旨の規定を設けるかどうかについて,更に検討してはどうか。
【部会資料17-2第2,5(6)[22頁]】
【意見】
○ 知らなかったことに重過失がある場合,瑕疵が請負人の故意・重大な義務違反によって生じた場合には,免責特約を制限することに賛成する。(札幌弁)
○ 請負人の故意又は重大な義務違反によって生じた瑕疵についても責 任を免れない旨の規定を設けること,知りながら告げなかった事実に ついてと同様,知らなかったことに重過失がある事実についても責任 を免れない旨の規定を設けることについては賛成意見が強い。ただし,
「重大な義務違反」の具体的内容を明らかにすべきである。免責約款があったとしても,故意又は重過失があった場合に約款の効力が及ばず,重過失を故意と同視するという解釈は一般的である。(日弁連)
○ 請負人の故意又は重大な義務違反によって生じた瑕疵についても責任を免れない旨の規定を設けること,知りながら告げなかった事実についてと同様,知らなかったことに重過失がある事実についても責任を免れない旨の規定を設けることについて賛成する。(愛知県弁)
○ 知らなかったことに重過失がある事実についても責任を免れること