また、ベンチャー投資を行う投資家もベンチャー・キャピタル(以下「VC」という。)に限らず、個人投資家(以下「エンジェル」という。)、事業会社及び事業会社が運用 するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(このような投資家を総称して、以下「CVC」という。)等の存在も目立つようになり、投資家層や投資目的も多様化している。 さらに、同じ VC でも投資を行うステージが、シード、アーリー、ミドル、レイトと異なれば投資に対する考え方も異なり、投資条件をより複雑化させている。
平成 29 年度グローバル・ベンチャー・エコシステム連携強化事業
(我が国におけるベンチャー・エコシステム形成に向けた基盤構築事業)
我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項
平成30年3 月経済産業省
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会xxx情報総研株式会社
( 協力: リンクパートナーズ法律事務所)
ベンチャー企業に対する投資(以下「ベンチャー投資」という。)は、2005 年の会社法の制定時に種類株式の取り扱いが大幅に改正されたことをはじめとして、投資条件の設計も多様化している。かつては投資資金の回収(以下「Exit」という。)の方法は投資先の発行する株式が金融商品取引所へ上場すること(以下「IPO」という。)が主なものであったが、昨今では IPO 以外に M&A による Exit も意識されるようになり、ベンチャー投資の機会や金額規模も増加している状況となっている。
また、ベンチャー投資を行う投資家もベンチャー・キャピタル(以下「VC」という。)に限らず、個人投資家(以下「エンジェル」という。)、事業会社及び事業会社が運用するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(このような投資家を総称して、以下「CVC」という。)等の存在も目立つようになり、投資家層や投資目的も多様化している。さらに、同じ VC でも投資を行うステージが、シード、xxxx、ミドル、レイトと異なれば投資に対する考え方も異なり、投資条件をより複雑化させている。
このため、ベンチャー投資を巡っては、従来のように投資家と投資を受ける会社(以下「発行会社」という。)の間の利害関係の調整に留まらず、投資家間の利害関係に対しても調整を行う必要性が高まっている。
これに対し、我が国の VC は、40 年以上の歴史を持つ投資活動の中で、各 VC がそれぞれの経験や知見を積み上げ、ベンチャー投資に係る各種契約(以下「投資契約等」という。)を締結し、その内容の改善を重ねてきた。その結果、契約内容は VC の間において大きな差異が生じてきている。今後、投資契約等のもつ利害調整機能の重要性はさらに高まることが想定されるが、投資契約等は法律により規定されたものではないため、投資家も各々で作成したものを用いている状況にある。
たとえ成長性の高いベンチャー企業であっても、適切な投資契約等を設計して資金調達を行わなければ、投資契約等が事業の発展や将来の資金調達の支障となり、その成長を妨げてしまう。
そこで、本書では、投資契約等自体の意義を確認するとともに、投資契約等の設計において契約当事者が留意すべき事項を解説することにより、適切な投資を促進し、ベンチャー企業とその支援者である投資家の発展に資することを目的とする。
目 次
第 1. ベ ン チ ャ ー 投 資 に お け る 投 資 契 約 等 の 意 義 4
第 2. 投 資 契 約 等 の 重 要 性 が 高 ま っ て い る 背 景 6
1. ベ ン チ ャ ー 企 業 の 資 金 x x の 重 層 化 6
2. 投 資 ス ト ラ ク チ ャ ー の x x 化 6
4. ベ ン チ ャ ー 企 業 を 対 象 と し た M&A の 増 加 7
第 4. 種 類 株 式 と 投 資 契 約 等 の 関 係 15
1. ベ ン チ ャ ー 投 資 に お い て 利 用 さ れ る 種 類 株 式 15
2. 種 類 株 式 と 投 資 契 約 等 の 関 係 15
別紙 1 タームシート( 例)
2 優先分配に基づく分配額シミュレーション
第1.ベンチャー投資における投資契約等の意義
本来、発行会社が株式を発行して資金調達を行う場合、会社法に定められた募集と申込手続等を行えば足り、別途、投資契約等を交わす必要は無い。かつては VC も投資契約等を締結せずに投資をしていた事例も多くあり、現在においてもエンジェルは投資契約等を締結せずにベンチャー投資を行うことが多い。
しかし、昨今における VC のベンチャー投資の殆どの事例では投資契約等が締結されている。そして、投資契約等の多くは投資家側の要望により締結される。なぜなら、投資契約等を結ぶことにより、投資家は投資における前提条件を発行会社、及び発行会社の代表取締役又はこれに類する地位に就き一定以上の株式を持つ株主(ベンチャー企業においては創業時の株主において多いことから、本書においては以下「創業株主」という。)に担保させ、さらに会社法に定められた株主の最低限の権利以上の権利を得ることができるためである。
このように投資契約等は投資家側の要請により交わされているが、一方で、発行会社及び創業株主には、投資契約等を締結することにより、より有利な条件で円滑に資金調達をすることができる可能性が高まるというメリットがある。
例えば、投資契約等において発行会社が「表明保証」を行うことにより、投資家は投資検討におけるデュー・デリジェンス(以下「DD」という。)の一部を簡略化することができる。これにより、資金運用の世界では少額投資の部類となるベンチャー投資を行う投資家にとって、投資に係る費用と時間の節約となるだけではなく、発行会社にとっても DD 対応の事務負担が軽くなり、短期間で出資を受けられる可能性が高まることになる。
また、投資契約等には投資家の Exit に関する取り決めも含まれる。ベンチャー投資は、投資家が投資してから Exit するまで5年程度の期間を要することが多い。発行会社の社歴が浅く、事業も立ち上がり時期にあるシードやアーリーステージのベンチャー投資であるほど予想通りに発行会社も成長しないため、当初計画していた Exit には至らないことが多い。このような可能性を踏まえ予め投資契約等において数年後に訪れる Exit 局面の対応について取り決めておくことにより、投資家は Exit に対する予測可能性を高めることで投資が実行しやすくなり、また、発行会社及び創業株主にとってはステージが早期の段階であっても資金調達が行いやすくなるというメリットがある。
しかし、投資契約等の Exit に関する事項は、往々にして投資家、発行会社及び創業株主の間で争点となりやすい。これは、Exit に関する事項には発行会社の事業が当初予定した通りに十分な成長をしなかった場合の対応が含まれているためである。例えば「事業が予定通りに成長しない場合、数年後には投資家主導で創業株主の保有する株式を含め全株式を売却する」といった内容も含まれることがあり、創業株主自身は事業の成功に対して確信をもつものの、将来のことでもあるため少なからずとも不安もあり、心理的にも受け入れ難いものとなりやすい。
他方、VC によるベンチャー投資はその大半が外部の出資者から資金を預かり、期限のあるファンドとして運用する責任を負う立場にある。我が国においてはファンドの出資者への分配は金銭による方法が殆どであるため、ファンドの期限の到来に際して、原則として保有する株式を全て売却し、得られた資金をファンドの出資者に還元しなければならない。
ベンチャー投資の Exit 局面では、関係者の利害が一致せず解決が困難となり、紛争に至ってしまう場合も少なからずある。だからこそ、契約当事者はExit に関する事項を当初より契約によって明確化し、その範疇で対応するようにすることが重要である。また、投資家、発行会社及び創業株主は共通の目的に対して一定期間を共に過ごすパートナーであり、投資家は必要な情報を発行会社から受領し、自身の持つ知見やノウハウ、ネットワーク等を活かし、発行会社の事業の整備や成長を加速させるための体制を構築支援していくとともに、発行会社が投資家から調達した資金を用いて事業拡大等を図り、社会的責任が増す中、パブリックカンパニーとして発展するための法令遵守体制やコーポレート・ガバナンスの在り方等についても投資契約等において取り決めておくことが重要である。ここにおいても、投資契約等を締結する意義が存在している。
ベンチャー投資において投資家と発行会社は、共に世に無い新しい事業を創り出すためのパートナーである。しかし、立場が異なるため、時として意見の相違が生じることもあり、その意見を調整し事業を推進していくために投資契約等が必要となる。適切な投資契約等を締結することは、健全な投資の促進とベンチャー企業の成長につながり、投資家とベンチャー企業が共創し、共に発展し合える世界を切り開くために重要な存在である。
第2.投資契約等の重要性が高まっている背景
ベンチャー投資において、投資契約等の重要性は、これまで以上に高まっている。その大きな要因として、次の4つの点があげられる。
1.ベンチャー企業の資金調達の重層化
昨今、ベンチャー企業は起業して間もないシードステージより投資家から投資を受けることが多い。また、事業が順調に成長している企業でも、成長速度を加速させるために複数回にわたって資金調達を行い、積極的に追加資金を得る事例も増えている。このように、ベンチャー企業の資金調達が複数回に及ぶと投資家と発行会社及び創業株主の間における利害調整のみならず、投資家同士の利害調整も必要になってくる。
シードステージの発行会社に対する投資は、少額の投資となることが多いものの、発行会社の存続性すらも不透明な段階から投資をしているため、投資家は高いリスクをとっている。他方、IPO 直前にあり持続的なキャッシュフローが得られているレイトステージにある発行会社に対する投資は、投資時の企業価値評価額(Valuation)が高く、投資金額も多額となることが多い。
同じ投資家らにより複数回の追加投資を行えば、利害の不一致は起こりにくいが、企業のステージにより投資金額の規模、投資時の企業価値評価額は異なり、また、VC をはじめ投資家の投資戦略や方針、投資してからの Exit 時期の目論見及びファンドの期限も異なるため、投資ラウンドごとに参加する投資家が異なる事例が多い。このため、発行会社や投資家間の利害を調整するため投資契約等によって方針、ルールを明確にする必要がある。
2.投資ストラクチャーの多様化
投資ストラクチャーが多様化していることも投資契約等の重要性を高めている要因である。我が国においては従来までは普通株式での投資が一般的であったが、昨今では種類株式を利用した投資が普及してきているうえ、最近では新株予約xxを用いた新しいストラクチャーの投資案件も増えている。
種類株式を発行した場合、種類株式の内容や種類株主総会の設計を定款により定めるが、投資契約等を利用することで種類株式の内容や種類株主総会と同様の機能を補完することができる場合もある。
また、新株予約権を用いた場合は投資契約等がさらに重要となる。従来から利用されている新株予約権付社債に加え、昨今では新株予約権そのものにより投資を行う投資家も増えているが、投資家は新株予約権が株式に変わるまで株主としての地位を得られず、会社法において定められた株主総会の議決xxの共益権は与えられない。とはいえ、VC
は新株予約権による投資であっても、株主と同等の権利を有しなければファンドの運用者としての責任が果たせない。よって、このような場合、VC が株主と同等の権利を補完するために投資契約等を用いることとなる。
3.投資家層の多様化
昨今では VC 以外にエンジェル、CVC もベンチャー投資において存在感を強めている。このようなベンチャー投資を行う投資家層の多様化も投資契約等の重要性を高めている要因となっている。
エンジェルの特徴はシード・アーリーステージの発行会社に対して少額投資を行うところにある。エンジェルもキャピタルゲインのような金融的な収益を目的として投資を行っている事例は多いものの、起業家への応援目的で投資をしている場合もあることに加え、個人で事務コストを負担してまで種類株式や投資契約等の設計を行うことがないため、投資契約等を締結せずに普通株式により投資をしている事例が多い。これに対し、 VC は Exit までの期間を意識し、一定の成長トレンドを評価した後にエンジェルではみられない金額規模による投資を行うことが多い。このため、投資ステージや投資規模の違いから、投資家間の利害の不一致が起こる場合がある。
CVC も VC とは性質が異なる投資家である。VC は期限のあるファンドにより投資を行い、ファンドの構成員に対して金融的な収益還元を目的とした「キャピタルゲインを得ることを最優先とした投資家」であるのに対し、CVC の多くは事業シナジーを高めることを目的とした「キャピタルゲインを得ることを最優先としていない投資家」である。このため、金融的な収益を最優先とする VC が発行会社に対して求める契約条項の中には、金融的な収益を最優先としていない CVC にとっては受け入れ難い場合がある。
また、VC の中でも投資戦略も異なってきている。VC によっては、投資ラウンドで主導権を握り、その投資ラウンドにおける持株比率を多くする投資戦略を採用している場合もあれば、投資ラウンドで主導権は握らずにフォロワーを中心とした投資戦略を採用している場合もあり、投資戦略に違いが出ている。
このように、昨今では一括りに同じ投資家といっても、投資に対する目的や方針等が大きく異なる複数の投資家が一つの企業に投資をすることが生じている。もちろん、それぞれの長所が活かされ、発行会社の成長が着実に進む場合もあるが、投資家間の利益相反が企業の成長阻害要因になる可能性もある。よって、それぞれが求めるものを最初に明確にし、利害調整のうえで投資契約等を締結しておくことが各投資家にとっても、発行会社及び創業株主にとっても重要なこととなっている。
4.ベンチャー企業を対象とした M&A の増加
かつて、我が国におけるベンチャー投資の Exit は大半が IPO であった。我が国では IPO
を行う場合、上場申請前迄には原則として全ての種類株式を普通株式に転換し、かつ、 投資家が締結していた投資契約等についても効力を終了させる必要があるとされている。このため、無事に IPO を実現するといかなる投資契約等を締結していたかは重要ではな くなる。
ところが、最近は米国のベンチャー企業の Exit の傾向と同様に、我が国においても VCによる投資案件の Exit 方法として M&A の事例が増えてきている。このように M&A が増えている状況下においては従来の IPO を前提としていたような投資とは異なり、M&A も想定し、M&A 時の意思決定プロセス、売却代金の分配方法等も配慮した投資契約等を必要とする。このように、IPO に比べ M&A による Exit の方がより一層、投資契約等の内容が重要といえる。
第3.投資契約等の構成
昨今ではベンチャー投資の際に交わされる契約は複雑化しており、複数の契約により構成されている。複数の契約に分けられている主な理由は、契約当事者の範囲と契約の目的が異なることにある。
ベンチャー投資に関する主な契約は、以下の図1の通り①投資契約、②株主間契約、③財産分配契約に分けることができる。
図 1 ベンチャー投資に関する契約の構造
投資契約等
投資契約
投資家が株式を取得する際の投
資実行条件を中心に定めた契約
【契約当事者】発行会社
創業株主
投資家
【主な内容】
①発行概要
②払込条件
【一般的な名称】
投資契約書
株式引受契約書社債引受契約書株式譲渡契約書
投資実行後の主要な投資家と発行会社及び創業株主との権利義務等を取り決めた契約
【契約当事者】
発行会社
創業株主
主要投資家(VC等)
【主な内容】
①会社経営に関する事項
②情報開示に関する事項
③投資家のExitに関する事項
【一般的な名称】
財産分配契約
経営支配権の変更が伴うような M&AによるExitに関する事項を取り決めた契約
【契約当事者】
発行会社創業株主全株主
【主な内容】
①同時売却請求権に関する事項
②みなし清算に関する事項
【一般的な名称】財産分配契約書
買収にかかる株主分配等に関す
る合意書
株主間における合意書
ベンチャー投資に際し、必ずしも 3 種類の契約書が存在するとは限られない。例えば、投資家が1名しか存在していない場合、投資の際に締結する契約内容も1つの契約書に集約した方が契約手続は簡素化できる。また、投資家が事前に準備している投資契約の標準雛形には、他に投資家がいることを前提とせず、自身のみを投資家として参加することを想定していることもある。
しかし、本書では、投資契約等に定められる契約内容に着目し、契約内容の機能と契約当事者の違いから、投資契約等を図 1 のように主に 3 種類の契約からの構成とすることを標準としている。
1.投資契約
投資契約(Share Purchase Agreement)は、契約当事者を、発行会社、創業株主、投資家とする。
投資契約は、投資家が株式を取得する際の投資実行条件を中心に定めた契約であり、引受契約(取得契約)と呼ばれることもあるが、以降では単に投資契約とする。投資契約の主な内容は、投資に係る発行概要(取得する株式等の種類、種類株式の内容、数、価格、払込期日等)、資金使途、表明保証等の投資の前提条件、投資実行の条件、契約違反が生じた際の取り決め等で構成される。一方、事前承認・通知事項、取締役指名権、オブザーベーション・ライトといった会社経営に関する事項及び情報開示に関する取り決め、優先引受権のような株式の変動に関する事項等、投資後に関する内容も取り決められる事例も多い。
発行会社は、特に初めの資金調達時では投資家が単独又は少数であることから、事務処理や費用負担の軽減等を理由に投資後に関する内容も含めて投資契約のみにまとめて取り決める事例が多い。しかし、これら投資後に関する事項については、本来は株主間契約において取り決めた方が望ましい。なぜなら、投資後に関する事項は、投資家ごとに交わされる投資契約において規定していくと、その内容も投資家ごとに異なる状態を招くこととなる。このため、発行会社は投資家ごとに異なる義務を負うこととなり、その後、資金調達が行われ複数の投資家が参加すると、かえって事務処理の負担が増すだけに留まらず、ある投資家との投資契約を履行すると他の投資家との投資契約に対して不履行が生じてしまうといった契約違反状態に陥ることがあるためである。従って、投資後に関する事項が投資契約に含まれている場合、投資家が増加した際には、各投資契約に記載されている内容は株主間契約に統合することが望ましい。また、将来、新規の投資家が参加することが予見されるような場合は、当初から経営に関する事項等は株主間契約として別契約にしておくことも1つの方策である。
投資契約は契約当事者が少数であるため、契約の効力が及ぶ範囲は狭いが、投資家と創業株主との間の調整のみで内容を確定することができる場合が多く、柔軟かつ多岐にわたる内容を織り込むことができ、実務上は最も利便性が高い契約である。従来は投資契約のみを交わして投資を行う事例が殆どであった。しかし、昨今においては前述のように投資後に関する事項を取り決める事例が増え、契約内容が複雑化したことから、投資契約に併せて株主間契約や財産分配契約を利用する事例が増えている状況にある。
2.株主間契約
株主間契約(Shareholders Agreement)は、契約当事者を発行会社、創業株主及び主要な投資家とする。
投資契約が投資を実行するまでの条件を中心に定めたものであるのに対し、株主間契
約は投資後の主要な投資家と発行会社及び創業株主との権利義務等を取り決めたものである。主な内容は、投資後の①会社経営に関する事項、②情報開示に関する事項、③投資家の Exit に関する事項等で構成され、発行会社の運営やモニタリング、及び株主間の利害調整に関する条件が中心に定められている。
これらの内容は、前述の通り従来は投資契約の中に「投資家との特約」等の項目で記載されることも少なくなかった。しかし、発行会社が成長過程において複数の投資家と投資後の条件を定めた契約を重ねていくにつれ、その内容が加重かつ複雑化していき、気づかないうちに、ある投資家の義務を履行すると他の投資家に対する義務違反に該当してしまうような履行困難な契約を交わし、意図せざる契約違反状態に陥ることも生じていた。
そこで、最近では投資後の内容に関する事項は株主間契約に一本化し、発行会社、創業株主及び主要な投資家が、一つの契約に基づいて統一的な行動をとる事例が増えている。なお、その内容及び目的から、比較的に少額投資で事務負担を避ける傾向にあるエンジェルは株主間契約には参加しないことが多い。
株主間契約は、契約の効力が既存投資家も含めた広範囲に及ぶものである。株主間契約に定められる主な内容は、M&A が生じた際に投資家の Exit を円滑にするための事項、投資家が多数参加した場合における取締役の指名権や事前承認等の会社経営に関する事項である。
3.財産分配契約
最近、締結する事例が増えているのが財産分配契約である。「買収にかかる株主分配等に関する合意書」、「株主間における合意書」等、実務では様々な名称が用いられている。財産分配契約は、エンジェルや従業員株主も含めた株主全員が契約当事者となる点に
大きな特徴がある。
財産分配契約は、M&A による Exit に関する内容を取り決めており、種類株式に「優先分配」(「第4.1.ベンチャー投資において利用される種類株式」において定義する。)の定めをしている場合において用いられ、株主間契約に定められる内容の中でも、「みなし清算条項」と「同時売却請求権」と呼ばれる M&A による Exit 部分を中心に抜き出した契約である。
みなし清算条項(Deemed Liquidation)とは、発行会社に M&A が生じた場合に、発行会社を清算したものとみなして投資家に対して分配を行うことを内容とする定めをいう。本来、種類株式に定められる優先分配は、発行会社が配当を行う場合や事業を停止し清算を行う場合に適用される。一方、M&A は株式譲渡等により行われるため、配当や清算に該当するものではない。そこで、経営支配権の変更が伴うような M&A が生じた場合に、発行会社が清算した状態になったものとみなして、優先分配を行う旨を規定しているのが、みなし清算条項である。また、同時売却請求権とは、ドラッグ・アロング・ライト
(Drag Along Right)、又は売却請求権ともいわれ、多数の投資家の賛成等の任意に設定 された一定の要件を満たした場合、発行会社、創業株主に限らず他の株主に対しても買収に応じるべきことを請求することができる権利である。このように、財産分配契約において事前に M&A の発動に関する合意と M&A が生じた際の株主間の分配方針を定めることにより、投資家及び創業株主の Exit を円滑化するために重要な役割を果たしている。この財産分配契約は、複数の株主を当事者として締結する点で株主間契約の一種では
あるものの、株主間契約には会社経営に関する事項や情報開示に関する事項が含められるのに対し、財産分配契約にはそのような事項は定められず M&A 時の事前合意や売却代金の分配方法を中心に定めており、内容は大きく異なる。
なお、同時売却請求権は、普通株式のみでの投資事例においても用いられることがあり、財産分配契約以外で締結することもある。但し、全株主の合意が必要という点では、みなし清算条項と同様であるため、本書では財産分配契約に含むものとする。
財産分配契約は、投資額が比較的に少額となる個人株主に対してまで契約の締結を求めることはxxすると煩雑であるように思える。しかし、優先分配の機能を有効なものとするためには株主間契約の当事者には入っていないエンジェルや従業員株主、その他の普通株主も含めた全株主が原則として参加する必要があり、その契約の効力は株主間契約以上にxxに及ぶものといえる。
4.その他の契約等
以上に述べた投資契約等の他に、ベンチャー投資を行う場合、総数引受契約を別途締結することが多いが、これはベンチャー投資特有の契約というよりも会社法に基づく契約であることから、本書では説明を割愛する。
また、ベンチャー投資では場合によっては投資契約等に記載される事項を定款に定めることがある。但し、定款は、発行会社の代表取締役をはじめとする機関を拘束する効力を有しているが、定款違反は会社法違反(会社法355条等)を構成することとなり、その効力は強力であること、また、定款に一度定めてしまうと内容を変更するには株主総会の特別決議を必要とするため運用面においても柔軟性に欠けてしまうことから、定款への記載事項とせずに投資契約等において取り決めておく場合が一般的である。このように、投資契約等において合意する事項を定款に記載する場合もあるが、本書においては投資契約等に関する解説を中心として扱うこととし、紹介に留めておくものとする。
5.契約構造の変遷
最後に、投資契約の構造を理解するために、以下の図2によりベンチャー投資に関する契約構造の変遷についても説明しておく。
図 2 ベンチャー投資に関する契約構造の変遷
出資に関する事項
出資後に関する事項
M&A Exitに関する事項
第
1
形
態
投資家A 投資契約 |
投資家B 投資契約 |
投資家C 投資契約 |
エンジェル等個人投資家 (投資契約なし) |
第
2
形
態
投資家A 投資契約 | 投資家A~C共通 株主間契約 | |
投資家B 投資契約 | ||
投資家C 投資契約 | ||
エンジェル等個人投資家 (投資契約なし 株主間契約不参加) |
第
3
形
態
投資家A 投資契約 | 投資家A~C共通 株主間契約 | |
投資家B 投資契約 | ||
投資家C 投資契約 | ||
エンジェル等個人投資家(投資契約なし 株主間契約不参加) |
全株主共通
財産分配契約
かつて投資契約等が利用され始めた頃のベンチャー投資では、図2の「第 1 形態」のように、各投資家が投資後の事項を含めた投資契約を個々に締結していたため、投資契約によって異なる投資後の取り決めがされている事例が多かった。
その後、投資後の取り決めについては、投資家同士においても内容を統一した方が投資契約間の矛盾が生じないうえ、発行会社及び創業株主においても契約内容が明瞭となり有効に実行されやすいものと考えられた。そこで、投資後に関する事項を切り離し、投資家、発行会社及び創業株主によって 1 つの共通した契約を締結することとなり、株
主間契約が普及した。これが「第 2 形態」である。
株主間契約が普及した後でも、エンジェルや創業株主以外の役職員等の個人株主は投資契約や株主間契約を締結する事例は少なかった。しかし、種類株式の普及後、投資契約や株主間契約を締結しない個人株主に対しても優先分配の有効性を高めるために Exitに関する契約を締結する必要性が高まった。そこで、新たに出現し、全株主を対象とし
て締結されている契約が財産分配契約である。この財産分配契約を用いられるようになった状態が「第 3 形態」といえる。
なお、昨今の事例では、第1形態において財産分配契約のみを全株主により締結していることもある。しかし、そのような事例では出資後に関する事項について投資家同士で取り決めていくことには限界があることに留意する必要がある。
このため、例えばシードステージで第1形態の投資契約のみを締結した場合でも、新たな投資が行われ新規の投資家が増える局面では、過去の投資契約を見直し、第 2 形態
や第 3 形態に移行することが望ましいといえる。
第4.種類株式と投資契約等の関係
投資契約等を理解するためには、ベンチャー投資において利用される種類株式の内容と、当該種類株式と投資契約等との関係を理解しておく必要がある。
1.ベンチャー投資において利用される種類株式
本書における種類株式とは、定款により異なる内容が定められた株式をいう。投資家に対して発行される種類株式は、普通株式よりも優先的な剰余金の配当(会社法108条1項1号)や残余財産の分配(同項2号。以下、これらの優先的な剰余金の配当及び残余財産の分配を併せて「優先分配」という。)を定めたもの、投資家から発行会社に対して普通株式等を対価とした転換を請求することができる取得請求権(同項5号。以下
「転換請求権」という。)が付されたもの、又は発行会社が強制的に種類株式を普通株式へ転換するための取得条項(同項6号)が付されたものが多い。種類株式により設定される権利の中でも、優先分配や転換請求権は、投資家の Exit において重要な機能を果たすことから、設定されることが特に多い。また、発行会社が強制的に種類株式を普通株式へ転換するための取得条項も、IPO をする際に種類株式を残さないために設定される。
2.種類株式と投資契約等の関係
種類株式と投資契約等は、いずれも発行会社と投資家の間の権利義務を形成している点で共通する。しかし、種類株式は「定款の効力」をもって株式そのものの内容として、発行会社と投資家の間の権利義務関係を定めているのに対し、投資契約等は「契約の効力」として契約当事者間の権利義務関係を定めている。
このため、種類株式の内容の設定や変更を行うには、会社法の定めに従い厳格な手続きを経る必要があり、しかも、種類株式により定められた権利義務の内容に違反した際は会社法違反として扱われることとなる。他方、投資契約等は契約当事者間の合意により形成されるため、種類株式ほどの厳格な手続きは要求されず、投資契約等に違反した際は契約違反として相手に対する債務不履行責任を負うこととなる。
また、種類株式は、会社法に予め列挙された内容を基本として設定されるものであるのに対し、投資契約等は当事者間の契約に基づき任意に内容が設定されるため、規定することができる内容が多様である点でも異なるといえる。
種類株式と投資契約等の関係において特に重要なのは、優先分配に関する関係性である。種類株式の内容として定められた優先分配の内容は、本来は配当時や清算時における分配基準を定めたものであるが、当該分配基準が、投資家の他の Exit 場面においても株主間の利害調整の基準として用いられることがある。例えば、M&A 時に発動するみなし清算条項に定められた株主間の譲渡代金の算定基準は、種類株式の内容として定められ
た優先分配の内容を基準に株主間契約又は財産分配契約において定められることが多い。このように、優先分配に係る種類株式と投資契約等の関係性は投資家の Exit において重 要な役割を果たしている。
さらに、種類株式を利用することにより、一定の決議事項に対する拒否権(会社法1
08条 1 項8号)の付与や、取締役の選任権(会社法108条1項9号)を付与することができ、投資契約等においてみられる「事前承認」や「取締役の指名権」と同様の権利を得ることができる。しかし、これらの事項を種類株式の内容として設定する場合、前述の通り会社法に基づく厳格な手続きのもと投資家の保護は高められるが、他方で、発行会社は法定による手続きが煩雑となり、一定の期間を要することとなる。このため、同じ効果が得られるものであっても、種類株式により定めるか投資契約等において定めるかは、これらのメリットやデメリットを勘案し、発行会社と投資家の間における調整により決めていく必要がある。
第5.タームシート
1.タームシートの意義
投資契約等の内容は、投資ラウンドによっては複雑かつ長文化することがあり、また、当該投資ラウンドの契約当事者に限らず、既存投資家等を含めた利害調整が行われることも多い。そこで、投資契約等を作成する前に、投資契約等で定める主たる条件を列挙したタームシート(Term Sheet)を作成し、関係者間において基本条件を明らかにしたうえで調整を行うことにより、投資契約等の内容を円滑に整理していくことができる。このように、タームシートは投資契約等の締結を円滑化するために有用な機能を担っている。
タームシートの内容は、投資家の投資方針や企業の成長段階により大きく異なるが、
「2.解説及び留意事項」において例示としてあげた項目を中心に、個別の投資事情を踏まえて作成がなされている。
なお、タームシートは契約書ではない。タームシート上において調整された事項も投資契約等に適切に反映されなければ契約としての効力は生じないことには留意する必要がある。
2.解説及び留意事項
以下、「別紙1 タームシート(例)」において記載されている各項目について、その意義と契約当事者が留意すべき事項を中心に解説する。なお、投資契約等の内容は発行会社の資金調達額、成長段階や規模、株主構成の状況等により異なる。
以下に例示するタームシートは、「別紙1 タームシート(例)」に記載した内容を解説するものであり、種類株式を利用し、かつ、投資家が複数名参加する場合を想定したものである。このため、タームシートは、「Ⅰ.投資契約」、「Ⅱ.株主間契約」、「Ⅲ.財産分配契約」の 3 種類の契約書を利用する場合を想定したものであり、同時売却請求権とみなし清算条項は財産分配契約において定めている。
Ⅰ.投資契約
投資契約は、株式を取得する際の投資実行条件を中心に定めた契約であり、投資家と創業株主との間の調整のみで内容を確定することができる場合が多く、柔軟かつ多岐にわたる内容を織り込むことができる。
Ⅰ.投資契約(契約当事者)
投資契約の主な内容は、表明保証等の投資に関する前提的な事項、事前承認・通知事項や取締役指名権といった会社経営に関する事項、優先引受xxの株式の変動に対する事項、契約違反が生じた際の取り決め等である。本書の「別紙1 タームシート(例)」では、投資家が複数名参加している場合を想定し、事前承認・通知事項、情報開示に関する事項等は株主間契約の内容としており、これを前提として解説を行う。
1. 契約当事者 | 投資家:[ ] 発行会社:[ ] 創業株主:[ ] |
【Ⅰ.投資契約 1 解説】
投資契約は、株式を取得する際の投資実行条件を主に定めるものであるため、当事者の範囲も投資をする投資家と、投資を受ける発行会社となる。本書では、創業株主を当事者に含めているが、これは、我が国の創業株主は、発行会社の役員の選解任に重大な影響を及ぼすほど株式を単独又は近親者と共に所有しており、かつ、代表取締役に就任している等業務執行への影響を有していることが多いため、投資された資金の使途等も実質的には創業株主に委ねられるためである。このような背景により、創業株主を契約当事者に含めるが、仮に、創業時の株主の株式の所有割合が低い場合や、経営に対する影響力が乏しい場合は、不必要に創業株主を拘束し過剰な義務を課すことを避けた方が望ましい場合もある。また、例示では創業株主を1名として設定しているが、起業時より共同代表により運営されている場合であれば創業株主に該当する者は2名となる場合があり、この他、技術者等で経営に大きな影響を与える役職員がいる場合においても創業株主に相当する者として契約当事者に含められることもある。このように、契約当事者の範囲については発行会社の状況に応じて検討されることとなる。
Ⅰ.投資契約(資金調達概要) | |||
2. 発行する株式の種 類 | [普通/[ ]種優先]株式 |
3. 発行可能株式総数及び発行済株式総数 | (1)発行可能株式総数 普通株式[ ]株、[ ]種優先株式[ ]株(2)発行済株式総数 普通株式[ ]株、[ ]種優先株式[ ]株 新株予約権(普通株式)[ ]株相当 | ||
4. 発行株式数 | 総 数 [ ] 株 内 X に対して[ ]株、Y に対して[ ]株 | ||
5. 発行価額 | 1株当たり[ ]円 投資前企業価値評価額:[ ]円(潜在株式を含む) | ||
6. 払込金額の総額 | [ ] 円 | ||
7. 払込条件 | 最低調達額 払込金額の総額[ ]円以上 | ||
8. 資本金等 | 増加する資本金の総額[ ]円(1株当たり[ ]円) 増加する資本準備金の総額[ ]円(1株当たり[ ]円) | ||
9. 払込期日 | 20XX 年 XX 月 XX 日(予定) | ||
10. 追加発行 | 今回の払込内容と同条件を基本として以下を条件により追加発行を認めるとする ・発行期限 20XX 年 XX 月 XX 日 ・最大追加発行数[ ]株 | ||
【Ⅰ.投資契約 2 乃至 10 解説】
⑴ 資金調達概要は、株式を引受けるにあたり必要とされる基礎条件であり、会社法において求められる募集事項や当該投資ラウンドにおける概要が列挙される。資金調達概要は投資契約の内容として記載されることが多いが、株式の引受けを会社法205条に定める総数引受契約による方法とする場合、登記申請資料を簡素化するために投資契約とは別に資金調達概要の一部(例えば「2.発行する株式の種類」、「4.発行株式数」乃至「6.払込金額の総額」、「8.資本金等」及び「9.払込期日」)を抜き出した「募集株式の総数引受契約書」をあえて作成し、締結しておく事例も多い。
⑵ 「2.発行する株式の種類」において、例えば、普通株式、A 種優先株式、B 種優先株式といった投資家が引受ける株式の種類を明らかにしておくこととなる。
⑶ 「5.発行価額」に記載される投資前企業価値評価額(Pre-Money Valuation)は、当該投資において予定される1株当たりの発行価額に対して、「3.発行可能株式総数及び発行済株式総数」で示された投資を受ける前の発行済株式総数を乗じた金額により算出され
る。なお、投資前企業価値評価額の算出にあたっては、新株予約xxの潜在株式を考慮することが一般的である。
⑷ 「7.払込条件」とは、投資家が投資を行うために前提として要求する条件をいう。例示のような最低調達額に限らず、発行会社の状況を踏まえ、重要な知的財産権の移管、重要人物の取締役就任、適正な株主構成を実現するための株式の移動、発行会社のグループ会社を整理するための組織再編等が払込の条件とされる場合があるが、投資家が単独の場合や、複数の投資家で投資をする場合でも発行会社の事業遂行に必要となる最低調達額の確保に目処がついている場合等では払込条件は付されない場合が多い。また、例示には記載していないものの、投資契約に記載する払込条件としては法令及び定款に則り払込手続きが履行されていることを証明する議事録の提出や、投資契約の契約から払込期日までの間に発行会社の経営状況に著しい変化がないことの表明保証等が求められることが多い。
⑸ 「7.払込条件」において例示した最低調達額を記載される事例が多い理由として、ベンチャー投資では、発行会社が必要とする設備購入や研究開発体制の構築が行える規模の資金調達ができなければ、たとえ投資家が投資をしても、その資金が新規事業に対して有効に使われることもないまま運転資金の中で消費されてしまうためである。また、ベンチャー投資は上場会社に対する投資と比べ、投資家数は少数であり、かつ、他の投資家による投資額が自己の持株比率に与える影響も大きい。このため、最低調達額として下限を定めるだけでなく、最大調達額として上限を定めておき、一定の範囲内での資金調達を払込条件とする場合もある。なお、いかなる状態をもって最低調達額が得られる状態となったと判断するかは、各投資家の投資契約の締結をもって行われることが一般的である。但し、投資家数が多い等、当該投資ラウンドの投資家全員からの投資契約等の期限迄の締結が実務上困難である場合は、投資家同士での確認がとれたことをもって代替する等、予め定めておく必要がある。
⑹ 「10.追加発行」は、投資契約を締結した投資家より投資を受けた後、時期を間もなくして新規の投資家による投資が予定されている場合に当該投資に対して付される制約条件である。複数の投資家が投資を行う際には、同時期に投資契約を締結し、払込を行うことで投資家同士の引受条件の平等性が確保される。しかし、ベンチャー投資においては各投資家の事情(追加検討事項の発生、投資委員会や取締役会の開催時期の問題、決裁権限者の不在等、要因は多様といえる。)により必ずしも同時期に投資契約の締結や払込が行えない場合がある。そこで、当初予定していた一部の投資家の投資時期が遅延する場合、予め当該追加投資を許容するとともに、他方で当該追加投資に対して一定の制約条件を課すために定められることがある。
11. 優先配当 | 1株当たり[ ]円(1株当たり払込金額に対し[ ]%) 普通株式に優先、[ ]種優先株式に対して[同列/優先] とし、[参加型/非参加型]による[累積型/非累積型]と する |
12. 残余財産分配の優先 | 1株当たり[ ]円(1株当たり払込金額に対し[ ]%) 普通株式に優先、[ ]種優先株式に対して[同列/優先] とし、[参加型/非参加型]とする |
Ⅰ.投資契約(種類株式の内容)
【Ⅰ.投資契約 11 及び 12 解説】
⑴ 「11.優先配当」及び「12.残余財産分配の優先」は、会社法108条1項1号及び2号に基づき種類株式の内容として定められるものであり、優先株主が普通株主に優先して受領することができる優先分配の具体的内容が定められる。
⑵ 優先配当
・「11.優先配当」において例示している「累積型」とは、特定の事業年度において種類株式に対して支払われる配当金額が優先配当金額に達しない場合、当該不足分について翌事業年度以降も繰り越されていく方式であり、「非累積型」とは、当該不足分を翌事業年度以降には繰り越されない方式である。
・優先配当額について累積型を選択した場合に、配当金額が優先配当金額に達しない不足分を毎期積み立てていき、繰り越された合計額を Exit の際にみなし清算条項に基づき、優先分配の金額として加算させるという事例もある。
⑶ 優先分配の機能
・種類株式の内容として定めた優先分配の内容は、本来は配当時や清算時における分配基準を定めたものであるが、投資家の Exit 場面におけるみなし清算条項等において定められる分配基準も種類株式の内容として定めた優先分配の内容を参考として設定されることが多い。このため、優先分配の内容は株主間の利害調整の基準として重要な機能を有している。
・例えば、新規の投資家が、シードステージの投資家と同じ株式数を当時よりも高い企業価値評価額により取得した後、少額の M&A が行われた場合、新規の投資家だけが損
失を被る可能性があり、高い企業価値評価額による投資を控えてしまう。しかし、高い企業価値評価額により引受ける新規の投資家に対してシードステージの投資家に比べて優先順位が高い優先分配を設定し、みなし清算条項を付すことにより、たとえ少額な M&A が行われた場合でも、新規の投資家を含めたすべての投資家が利益を得られる可能性が高くなる。このように、優先分配の設計次第で、新規の投資家は高い企業価値評価額であっても投資を行いやすくなり、発行会社も既存株主の株式価値の希釈化を抑えながら多額の資金調達を行うことが可能となり、双方にとってのメリットが生じることとなる。
⑷ 参加型と非参加型
・「参加型」とは、優先株主が優先分配される金額を受領後、さらに残余の分配可能額から追加して配当又は分配を受け取ることができる方法であり、これに対し「非参加型」とは、追加して受け取ることができない方法である。優先分配を参加型とするか非参加型とするかにより実際にどのように異なるかについては別途「別紙2 優先分配に基づく分配額シミュレーション」により数値を用いて解説している。
・我が国のベンチャー投資では、優先分配については参加型の事例が多い。その理由としては、投資家にとって参加型はxxすると普通株式や非参加型に比べて有利な内容であることがいえ、発行会社及び創業株主も普通株式や非参加型に比べて参加型の方が高い企業価値評価額が付きやすく、関係者の理解が得られやすいためである。しかし、参加型には投資家にとってはデメリットもある。投資家の保有する種類株式に参加型による優先分配が定められているのであれば、「別紙2 優先分配に基づく分配額シミュレーション」に記載の通り、投資家は種類株式のまま Exit した方が常に有利となる。仮に、発行会社の IPO が実現すると、投資家の保有する種類株式は普通株式に転換されてしまうため、投資家にとっては得られるリターンは減少してしまうこととなる。投資家は、参加型の優先分配を設定することはダウンサイドリスクの軽減にはなるが、その際に高い企業価値評価額を許容しなければならない分、優先分配のメリットが得られない IPO 時にはリターンが減少することがあること、特に、IPO の実現可能性が高まっているレイトステージにおいては、普通株式又は非参加型を選択して企業価値評価額を低く抑えて投資をした方が将来のリターンが高くなる可能性もあることに留意する必要がある。
・我が国では、非参加型の優先分配を利用する事例は少ないが、米国においては活発に利用されている。非参加型の場合、投資家は種類株式のままでは設定された優先分配の金額以上のリターンは得られないため、それ以上のリターンを得たいのであれば普通株式に転換する必要がある。しかし、たとえ非参加型を普通株式に転換しても一定規模以上の企業価値評価額が付かなければ十分なリターンが得られないため、非参加
型を避ける投資家もいる。
⑸ 留意事項
・優先分配の具体的な内容は、発行会社、創業株主及び投資家の間の調整により任意の金額又は倍率が設定されるが、設定された内容は、設定当時の投資家のみでなく、将来、新規に加わる投資家との間においても利害を生じさせるものである。このため、契約当事者は、その投資ラウンドだけを意識するのではなく将来の資金調達も見越して金額や倍率を設定することが望ましい。特に種類株式による資金調達を繰り返し、優先分配となる金額が累積して膨らむと新規に投資する投資家にとっては投資対象としての魅力が薄れてしまう。発行会社と創業株主はこの点を留意して資金調達を行う必要がある。
・例えば A 種優先株式に対し、B 種優先株式のような後続の種類株式が出現した場合、A種優先株主と B 種優先株主との間における優先分配に対する優先順位の調整が必要となる。この優先順位は、同列又はいずれかの種類株式を優先とすることとなるが、投資家にとって Exit に関わる重要な関心事項であるため、その調整が難航する可能性がある。このため、発行会社は資金調達のスケジュールを遅延させないためにも、新規の種類株式を設定する際には、既存投資家に対して早めに新たな種類株式の内容を説明し、調整を行っておくことが望ましい。
・発行会社が優先分配を設定した種類株式を発行すればするほど、優先分配される金額は増加する。その累計金額は多額となると、「別紙2 優先分配に基づく分配額シミュレーション」の表②-1 乃至表②-3 のシミュレーション例にあるように、普通株式を保有する創業株主らにとっては M&A がされた際に受領できる分配額が少額となる。このため、いざ M&A を検討する局面では、経営を担ってきた創業株主に対して分配される金額が、想定していたよりも少額となり、M&A に対する賛同が得られないことがある。そこで、投資家はこのようなギャップが生じないためにも、優先分配を設定して投資を実行する際には、優先分配の内容とExit 時の分配額をシミュレーション等の説明を行い、企業価値評価額の状況に応じた分配額に対する理解を得ておくことが重要である。
Ⅰ.投資契約(種類株式の内容) | |||
13. 取得請求権 | ・投資家は普通株式を引換えとした[ ]種優先株式の取得請求をいつでもすることができる ・[ ]種優先株式1株につき普通株式1株を交付する ・[ ]種優先株式の払込金額を下回る金額により新株発行等 |
を行った場合、[フルラチェット方式/ナローベース加重平均方式/ブロードベース加重平均方式]により調整されるものとする。但し、発行済株式総数の[ ]%に相当するストックオプションの発行を行う場合、及び[ ]種優先株
主の3分の2以上の同意がある場合は調整されない
【Ⅰ.投資契約 13 解説】
⑴ 「13.取得請求権」は会社法108条1項5号に基づき種類株式の内容として定められるものである。投資家が保有する種類株式を普通株式に転換することができる権利を付与することにより、IPO に限らず M&A の際にも普通株式として売却を行う機会を確保することができる。通常、種類株式1株に対して付与される普通株式の株式数(以下「転換比率」という。)は1株とされるが、後続の投資家が当該種類株式の1株当たり払込金額を下回る金額により株式を引受けた場合、当該種類株式の株式価値を下げないために転換比率を増加させることにより、株式価値の希釈を防止する条項(以下「希釈化防止条項」という。)が定められることがある。
⑵ 希釈化防止条項
・希釈化防止条項とは、投資家が転換請求権を行使した際の転換比率を増加させる調整条項である。ここで、転換比率については下記のような算式を基準とする。
転換比率=種類株式の 1 株当たり払込金額/転換価額
転換価額は、種類株式が発行された当初においては種類株式の払込金額と同額であるが、希釈化防止条項は当該転換価額を減額調整することにより転換比率を高めるものである。そして、転換価額を調整する方法としては、①フルラチェット方式、②ナローベース加重平均方式、③ブロードベース加重平均方式の類型が存在する。
まず、フルラチェット方式とは、種類株式の払込金額を下回る払込金額により新株発行等がされた場合に、発行数にかかわらず、当該下回った1株当たり払込金額を転換価額として置き換えることにより、転換比率を増加させる方式である。
次に、ナローベース加重平均方式とブロードベース加重平均方式は、いずれも加重平均方式により転換価額を調整するものであり、種類株式の払込金額を下回る払込金額により株式の発行等がされた場合に、既に発行されている株式数も考慮し、転換価額を減額調整することにより転換比率を増加させる方式である。ナローベース加重平均方式は以下のとおり転換価額を調整する。
ナローベース加重平均方式
既発行株式数 | × | 調整前転換価額 | + | 新規発行株式数 | × | 1 株当たり払込金額 | |
調整後 転換価額 | = | ||||||
既発行株式数 | + | 新発行株式数 |
ブロードベース加重平均方式は、ナローベース加重平均方式における「既発行株式数」に新株予約xxの潜在株式を含めて調整後転換価額を算定する。
希釈化防止条項の算定式をそれぞれ分析すると分かるが、仮に種類株式の取得価額を下回る払込金額により株式の発行がされた場合には、希釈化防止条項による調整は、フルラチェット方式、ナローベース加重平均方式、ブロードベース加重平均方式の順にその転換価額の減額調整は高くなり、転換比率も高いものとなる。
⑶ 役職員に対して付与されるストックオプションは、インセンティブ目的で付与されるものであること、投資家も発行会社が優秀な人材を確保するための手段としてストックオプションを利用することを認識していること、ストックオプションは通常、普通株式を対象として付与されるため、その行使の際に出資される財産の価額は相対的に種類株式の払込金額を下回ることがあることから、一定範囲の役職員に対するストックオプションに限り、希釈化防止条項の対象外とされることがある。このような場合、例示のように「但し、発行済株式総数の[ ]%に相当するストックオプションの発行を除く」といった記載が加えられる。
⑷ 発行会社が何らかの事情により、既に発行された種類株式の1株当たり払込金額を下回る金額により普通株式や種類株式を発行する場合において、既存投資家にとっても希釈化によるデメリットに比べ、資金調達を実施するメリットの方が大きい場合がある。そこで、例示のように、希釈化防止条項に対しては種類株式を保有する株主の3分の2以上(過半数等任意の比率とする場合もある)の同意がある場合は調整されないものとするといった記載を加えることで、既存投資家の合意形成の円滑化と新株発行手続きの簡素化を図ることができる。
⑸ 例示には記載していないが、取得請求権により交付される対価を金銭とする場合がある(金銭による取得請求権)。しかし、この条項は発行会社の事業運営や次の資金調達に支障をきたすおそれがあり、ベンチャー投資には馴染みにくいものである。このため、特段の事情があり、金銭による取得請求権を設ける場合には、安易な払い戻しとならな
いよう、行使条件については請求できる期間を制限する等、一定の条件を設けるべきといえる。
Ⅰ.投資契約(種類株式の 14. 取得条項 | 内容) ・金融商品取引所に対し上場申請を行うことを取締役会において決議した場合に取得可能 ・[ ]種優先株式1株に対して交付される普通株式の数は取得請求権の内容と同様とする |
【Ⅰ.投資契約 14 解説】
⑴ 「14.取得条項」は会社法108条1項6号に基づき種類株式の内容として定められる ものであり、一定の条件のもと、発行会社が投資家の保有する種類株式を普通株式に転 換することができることを定めた条項である。前述した「13.取得請求権」に定められ た転換請求権は投資家側より行使することができる権利であるのに対し、取得条項は、 投資家側の意思によらず種類株式が普通株式へ転換されることを内容とする条項である。
Ⅰ.投資契約(種類株式の内容)
⑵ 実務上、原則として IPO の際には種類株式を残したまま普通株式の上場申請を行うことができないとされている。そこで、種類株式を普通株式に転換した後に IPO をするため、取得条項が設定される。
15. 議決権 | ・通常株主総会での議決権[有り(1株につき1個)/無し] ・種類株主総会での議決権[法定どおり/付加する/省略する] |
16. 株式分割等 | 株式の分割、併合、無償割当、株主割当を行う場合は、全て の普通株式及び種類株式に対して同一割合で行う |
【Ⅰ.投資契約 15 及び 16 解説】
⑴ 「15.議決権」は種類株式を設定した際の議決権の内容に関する定めである。種類株式は、株主総会における議決権を無くすことができる(会社法108条 1 項3号)。また、種類株式を設定すると、会社法の定めにより通常の株主総会とは別に、種類株主総会による決議を必要とする事項が生じることとなるが、当該種類株主総会の決議事項については対象範囲を広げることや省略することもできる。例えば、一定の決議事項に対する
拒否権(会社法108条 1 項8号)を設定し、決議事項として加える場合があれば、一方で会社法322条1項2号乃至13号に関する決議事項をはじめ、会社法199条4項、同200条4項、同238条4項、同239条4項に関する決議事項については定款の定めにより手続きを省略する場合もある。なお、種類株式を設定した場合には、普通株式についても普通株主による種類株主総会を必要とする場合があるが、当該種類株主総会の決議事項については、定款により省略規定を設けている事例が多い。
⑵ 「16.株式分割等」の条項は、種類株式を発行している場合、一部の普通株式又は種類株式において株式の併合や分割等が行われても他の普通株式及び種類株式においても同様の効力を生じる旨を定めるものである。この条項を置くことにより、一部の株式のみを対象とした分割等を防止し、普通株式及び種類株式間の比率関係や均衡関係を維持することができる。
Ⅰ.投資契約(その他、引受 18. 資金使途 | に関する事項) ・発行会社は、払い込まれた資金を、事業を発展させるために合理的に必要と認められる人材採用、研究開発、設備投資、販路開拓に使用すること |
【Ⅰ.投資契約 18 解説】
投資家が投資を行う目的は、発行会社の事業を発展させるためである。投資家の資金を事業の運営とは無関係に使用されること(例えば、創業株主が私的に利用するための高級車の購入や、投機性の高い金融商品の購入に充てること、福利厚生を超える娯楽目的による飲食や旅行に充てられること等)は、投資家の投資目的に反する。そこで、投資家の資金が発行会社の事業に使われることを明らかにするために資金使途を定めることが多い。なお、資金使途においては例示した内容の他に、取締役会で決議された事項や、投資家の承認が得られた事項についても資金使途の範囲として認める旨を定められることが多い。
Ⅰ.投資契約(その他、引受に関する事項) | |||
19. 表明保証 【発行会社】 | ・発行会社は投資契約の締結及び新株発行をするための権利能力及び行為能力を有すること ・発行会社の株式等の発行状況 ・本発行について発行会社は適切な機関決定を経ていること |
・法令等の違反及び訴訟が存在しないこと ・許認可、知的財産権の取得がされていること ・貸借対照表及び損益計算書が適正であること ・反社会的勢力等との関係がないこと ・関連当事者取引の開示及び取引条件に問題がないこと ・必要資料の提出が適正に行われたこと 〈その他、発行会社の状況に応じて設定〉 | |||
20. 表明保証 【創業株主】 | ・創業株主は投資契約を締結し、履行するために必要な権利能力及び行為能力を有すること ・他の法人又は団体における兼職、兼任がないこと ・法令等の違反が存在しないこと ・反社会的勢力等との関係がないこと ・必要資料の提出が適正に行われたこと 〈その他、創業株主の状況に応じて設定〉 | ||
【Ⅰ.投資契約 19 及び 20 解説】
⑴ 表明保証とは、一定時点における一定の事項がxxかつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証するものである。投資家は、投資を行う前に法務や財務等の観点より投資の支障になるような懸念事項がないか DD を行うことが多い。DD を詳細に行えば行うほどその手続きには時間や費用がかかるし、たとえ詳細に DD を行ったとしても発行会社が提供した資料を調査対象とするため、その調査を完全なものとすることは、情報範囲や信ぴょう性の観点から限界がある。そこで、投資家による DD の補完等の目的で、発行会社及び創業株主は、投資家より表明保証を求められることがある。
⑵ 発行会社及び創業株主によっては、投資家より投資を受ける時点で法令違反や他の企業の兼任をしている場合もあるが、その内容によっては軽微な法令違反であることや事業への支障が生じない兼任であることもある。投資家は、全ての法令違反や兼任を拒否するのではなく、その内容の社会的な評価や発行会社の事業に与える影響を勘案したうえで、許容できる事項については「○○を除き、」という除外事項を付したうえで表明保証を得ておくことが望ましい。
⑶ 例えばシードステージにある発行会社に対し、投資家の投資契約の標準雛形であることをもって 20 項目以上にわたる表明保証を要求しても、その全てを保証することが現実的ではない場合がある。このため、表明保証として列挙する事項についても、発行会社の成長段階や規模、当該表明保証の必要性を勘案し、過剰な保証を求めないよう当事者
間において調整を行う必要がある。
Ⅰ.投資契約(その他、引受 21. 投資家の優先引受権 | に関する事項) 発行会社が株式等を発行する場合、投資家は持株比率に応じて優先的に引受けることができる。但し、発行済株式総数の [ ]%に相当するストックオプションの発行を除く |
【Ⅰ.投資契約 21 解説】
⑴ 投資家によっては、発行会社に対する持株比率を維持することを希望することがある。そこで、発行会社が新株発行や新株予約権付社債等の発行をした際に、投資家の持株比率を低下させないために投資家の優先引受権を設定することがある。
⑵ 発行会社の役職員に対して付与されるストックオプションはインセンティブ目的で付与されるものであること、投資家も発行会社が優秀な人材を確保するための手段としてストックオプションを利用することを認識していることから、一定範囲の役職員に対するストックオプションに限り、優先引受権の対象外とされることがある。このような場合、記載例のように「但し、発行済株式総数の[ ]%に相当するストックオプションの発行を除く」といった記載が加えられる。
Ⅰ.投資契約(その他、引受に関する事項) | |||
22. 契約違反時の取り扱い | (1)発行会社及び創業株主は、契約違反が生じた場合、誠意をもってその治癒にあたる義務を負うものとする (2)投資家は、発行会社及び創業株主が投資契約に違反し、損害を被った場合、発行会社及び創業株主に対し損害賠償を請求できる (3)投資家は、以下のいずれかの事由が生じた場合、発行会社及び創業株主に対して投資家が保有する株式を買い取るよう請求することができる ・本契約[ ]条、[ ]条、[ ]条について重大な違反をした場合 ・表明保証した事項についてxx又は正確ではないことが判明し、かつ、その内容が重要な場合 (4)上記(3)の買取請求により投資家の株式を買い取る場合の |
価格は投資家と発行会社及び創業株主が合意する算定方
法による金額とする
【Ⅰ.投資契約 22 及び Ⅱ.株主間契約 9 解説】
⑴ 契約違反の治癒について
・契約違反が判明した場合、違反状態の治癒を第一に考えるべきである(なお、治癒をする必要が無いほど軽微な違反の場合もある。)。投資家は契約違反を発見した際は、まずは当該事実を発行会社及び創業株主に伝え治癒を求めるべきであり、発行会社及び創業株主は誠意をもって違反状態の治癒にあたらなければならない。
⑵ 買取請求の定めについて
・投資家は、投資契約等の実効性を確保するため、契約違反が生じた際の取り扱いとして、損害賠償請求の定めを置くが、投資家は自己に生じた損害額を算定し立証することが困難であることが多い。そこで、買取請求として、投資家が取得した株式の資産価値に相当する金銭を請求する権利を確保することにより、契約違反時の請求額の算定を行いやすくすることができる。また、重大な契約違反が発生した際には、投資家と発行会社間の信頼関係が損なわれ、投資家は株主であり続けることが困難となることが多い。そこで、発行会社と投資家の関係解消を図るために買取を請求する権利を定めているものである。
・我が国では、会社法461条に基づく財源規制があり、発行会社に十分な剰余金が存在していなければ自己株式を取得することができない。このため、投資家が発行会社に対して買取請求をしたとしても、財源規制が適用され、発行会社が投資家の保有する株式を取得することができない場合がある。そこで、買取請求の対象に創業株主を含めることがある。
・買取請求の対象として、例示では発行会社及び創業株主を定めているが、発行会社及び創業株主が指名した第三者を含める旨を定めることもある。第三者を含めることにより、現実的に資力がある者による買取りが実現され、かつ、発行会社及び創業株主に友好的な者を株主として迎え入れることができるためである。
⑶ 連帯責任の定めについて
・我が国の投資契約等では、発行会社又は創業株主による契約違反時の責任を連帯責任としている事例が多い。本来、発行会社による契約違反と創業株主による契約違反は異なる主体による違反であることから、別々に責任追及されるものである。しかし、
投資家が各自に対して損害賠償を請求しても、被った損害の全てを請求できない可能性があり、また、前述の通り、発行会社に対する買取請求については財源規制による制限もある。このため、投資家はその損害回復の実効性を高めるために、発行会社及び創業株主を連帯責任とすることが一般的である。
・さらに、我が国のベンチャー企業は創業株主が発行会社の株式を過半数保有し、取締役会や株主総会の決議を左右することができ、所有と経営が一致している状態が多い。このため、発行会社の行為を創業株主の行為と同視できる場合が多いことも、投資家が創業株主に対して発行会社との連帯責任を求める事例が多い理由といえる。
・連帯責任は、創業株主の行為による責任を発行会社が負うことも認識しておく必要がある。全ての場合において連帯責任とすることは望ましいものではなく、創業株主の株式の保有割合や、経営に与える影響度合い、財産の状況等を勘案し、事案に応じて連帯責任とすべきか判断していく必要がある。
⑷ 買取価額の算定方法について
・買取請求がされる際、その買取価額の算定方法は様々な手法が用いられている。一般的には、複数の算定方法を列挙し、その中から最も高い価額となる算定方法が採用されることが多い。列挙されることが多い算定方法の例としては下記のようなものがある。
① [ ]種優先株式の1株当たりの払込金額
② 財産評価基本通達に定められた「類似業種比準価額方式」に従い計算された1株当たりの金額
③ 発行会社の直近の貸借対照xxの簿価純資産に基づく発行会社の1株当たりの純資産額
④ 発行会社の直近の株式の譲渡事例又は増資事例における1株当たりの譲渡価額又は発行価額
⑤ 合意された第三者により算定されたxxな価額
⑸ 留意事項
・例示では、契約違反時の取り扱いとして、一般的な損害賠償請求と買取請求を定めているが、いずれも契約違反時であることを前提としている。特に、買取請求については、発行会社及び創業株主に対して多額の負担が強いられ、かつ、他の投資家に対しても影響が大きく、安易な行使は望ましくないことから、重大な契約条項や表明保証の違反に限定列挙方式により掲げている。なお、投資家によっては、契約違反状態の
誠実な治癒義務が履行されず、信頼関係が著しく損なわれ株主であり続けることが困難となる場合を想定し、発行会社と投資家の関係の解消を図るための手段として、誠実な治癒義務違反を買取請求の対象とすることもある。
・発行会社及び創業株主にとって契約違反時の定めは重い内容を規定しているものと受け止められる。しかし、投資家においても、例えば VC は外部の資金を預かって運用する立場であり、その運用には重い責任が課せられている。また、CVC であっても、契約違反を原因とした投資損失を生じさせることは避けなければならない。そこで、投資家も投資契約等の実効性を確保しなければならず、このためには契約違反に対する具体的な義務を定める必要がある。契約違反時の責任追及は、発行会社及び創業株主が投資契約等を遵守する限りにおいては発動されるものではなく、また、投資家も本来、買取請求による Exit を望んではいない。発行会社及び創業株主は契約違反が生じた際のリスクを十分認識する必要があり、一方、投資家は発行会社及び創業株主に対しては当該条項の存在と意味を十分に説明する必要がある。
・一方で、投資家は買取請求を濫用してはならない。特に、IPO や M&A が進まない場合の Exit の代替方法ではないことは強く認識する必要がある。ベンチャー企業は社内体制が未整備なうえ、新規性の高い事業を運営するため、事前に全てのリスクを把握し対処することは困難である。発行会社の違反事項を探せば、おそらく何かしらの違反を発見することができるであろうが、それを濫用し安易に買取請求を行うことは慎むべきである。Exit 協力義務を怠った場合の責任については、別途、Exit 協力義務の内容に応じた責任内容を投資家と発行会社間で調整したうえで設定することが望ましい。
・投資家は、契約違反状態を発見した場合、その違反状態を認識しつつも放置し、後日その事由をもって責任追及をすることは厳に慎むべきである。また、治癒ができない違反である場合、投資家は責任追及することができる状態となるが、この場合であっても、違反状態を放置していると、発行会社が新規の投資家からの投資を受ける際に大きな障害となる可能性があることを認識し、放置しておくことに問題が生じるのであれば速やかに契約内容の変更や新規の投資家との間における調整(放置された違反事項を原因とした買取請求は新規の投資家による承認も発動要件としておく等)に努めなければならない。
・買取請求がされるほどの重大な表明保証違反や契約違反としては、以下のような内容が一例として挙げられる。
① 粉飾決算(多額の架空売上の計上、債務の隠蔽等)
② 投資資金の資金使途以外での使用(目的以外の事業への流用、他者への投融資、創業株主らによる私的利用等)
③ 反社会的勢力との関係が明らかとなった場合
④ 事前承認事項への違反(大量の新株発行や重要な事業の譲渡等)
⑤ 重大な法令違反が生じた場合
・我が国の VC による投資では、一定期間内に IPO ができない場合、買取請求が発動できるという内容の投資契約等が少なからず存在した。しかし、一定期間 IPO できなかったというだけで、発行会社及び創業株主に買取請求を行うことは好ましくなく、このような条項を設けることは避けるべきである。投資家の Exit に関連して買取請求のような強力な権利を行使することができるのは、Exit 協力義務に対して重大な契約違反が生じたと判断できる場合に限定すべきである。一方、発行会社が十分に IPO を出来る状態にあるにもかかわらず IPO を行おうとせず、投資家の M&A による Exit に対しても協力しない場合、投資家が買取請求を行うことにも合理性がある。但し、そのような場合については事前に発行会社とも調整し、明確な条件を設定しておくことが望ましい。また、投資家から投資を受けてから長期間が経過している発行会社の場合、過去の投資契約等に定められた上場努力義務の期限が過ぎてしまっていることがある。この場合、既存投資家と発行会社は、当該条項の見直しを行わなければ新規の投資家からの出資を得る際の支障になることについても留意する必要がある。
Ⅰ.投資契約(その他、引受 23. 契約の終了 | に関する事項) ・当事者全員が投資契約の終了を合意した場合 ・発行会社が上場申請を行った場合。但し、上場が延期又は中止したときは申請日に遡り有効になるものとし、かつ、普通株式に転換された種類株式を再交付するものとする ・投資家が発行会社の株主ではなくなった場合 |
【Ⅰ.投資契約 23 Ⅱ.株主間契約 12 Ⅲ.財産分配契約 6 解説】
⑴ 投資契約は、その性質上、発行会社の株式の発行や譲渡、経営方針等に対して重要な制限を課している。他方で、金融商品取引所の上場審査の過程では、上場後において、一部の投資家が発行会社に対し特別な権利を保有し続けることがないか確認される。このため、投資契約の終了条件として、発行会社が上場申請をした場合を記載しておく必要がある。
⑵ 上場申請を行った場合であっても、上場承認が得られないことや上場承認後に上場承認を取り消されることにより IPO に至らないこともある。このような場合、投資契約等については上場申請時に遡って有効とし、さらに、普通株式に転換された株式について
も上場申請前の種類株式を再交付すべきことを定めておくことで従前の状態に戻すことが可能となる。また、普通株式に対して上場申請前の種類株式を再交付するには他の株主からの同意を必要とする場合もある。このため、投資契約だけでなく、株主間契約や財産分配契約においても再交付に係る内容を定めておき、予め株主からの同意を取得しておく必要がある。なお、発行会社が上場申請を取下げた場合であっても、短期間のうちに再度上場申請することが想定される場合等は、従前の種類株式の再交付は請求せず、普通株式のまま保有し、従前の種類株式において定められていた優先分配の内容と同様の金融的な収益が得られる権利を定めた同意書を、全ての株主の間で交わすことで対処する場合もある。
Ⅱ.株主間契約
株主間契約は、投資後の投資家と発行会社及び創業株主の権利義務等を取り決めたものである。その主な内容は、投資後の①会社経営に関する事項、②情報開示に関する事項、
③投資家の Exit に関する事項等で構成され、発行会社の運営やモニタリング、及び株主間の利害調整に関する条件が中心に定められている。このため、その契約内容は、投資家同士の調整も経て決定されることが多い。
Ⅱ.株主間契約
「別紙1 タームシート(例)」では、株主間契約に加え、財産分配契約を締結するパターンにより例示をしている。このため、持株比率又は払込金額が高い投資家に限定して株主間契約を取り交わしておき、他方で、全株主との間で合意しておくことが株主共通の利益となるような「同時売却請求権」、「みなし清算条項」といった M&A による Exit に関連した条項は株主間契約ではなく、財産分配契約により合意しておくというパターンを想定し、以下、株主間契約について解説する。
1. 契約当事者 | 投資家:[ ]、[ ]、[ ]発行会社:[ ] 創業株主:[ ] |
【Ⅱ.株主間契約 1 解説】
株主間契約は、投資後における発行会社の運営やモニタリング等の経営関与に関する定めを含むため、当事者の範囲は、投資家と、発行会社及び創業株主となる。エンジェルや従業員株主といった属性の株主は、株主間契約に基づく経営関与を求めていない場合がある。そのような株主までも含めて株主間契約を締結することは発行会社にとっては事務負担が生じてしまい、かえって望ましくない場合がある。他方、同時売却請求権やみなし清算に関する取決めは全株主が合意して実行することが望ましい。そこで、株主間契約を締結しないエンジェルや従業員株主がいる場合は、株主間契約とは別の財産分配契約を締結することで調整することが考えられる。
Ⅱ.株主間契約 | |||
2. 定 義 | ・多数優先株主とは、発行済の[ ]種優先株式の[過半数/ 3分の2]以上を保有する単独又は複数の[ ]種優先株主をいう ・企業買収とは、発行済株式数の半数以上の移転の伴う株式 |
譲渡、合併、株式交換、株式移転、会社分割等をいう
【Ⅱ.株主間契約 2 解説】
⑴ 株主間契約においては、複数の投資家が契約当事者となるが、各投資家の意見が異なることも想定される。そこで、投資家間の合意形成を図るための基準を予め明確化するために、定義として「多数優先株主」、「多数投資家」、「多数[ ]種株主」等を定めておくことがある。例示のような多数優先株主を定めておくことで、例えば、投資家による事前承認事項について、承認する投資家の合計株式数が一定数(種類株式全体に対する過半数、3分の2以上等)得られたことをもって、投資家全体の承認が得られたとみなすよう取り決めることができる。
⑵ 同時売却請求権、みなし清算条項等の発動条件を明確にするため、発行会社が買収されたといえる場合を「企業買収」として定義しておく必要がある。例示では発行済株式の過半数の移動を目安とした一定の事象が生じた場合を「企業買収」として定義づけているが、例えば投資目的とした事業や知的財産等が発行会社から離れた際には買収がされたと判断することができるよう、発行会社の状況を踏まえた定義を設定していくことが必要である。
Ⅱ.株主間契約 | |||
3. 事前承認/事前通知 | ※「事前承認」の場合 発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の事項については決定を行う[ ]日前に通知し、多数優先株主の書面又は電子メールによる承認を得るものとする。但し、発行会社より通知を受けてから[ ]日経過しても承認をするか否かの旨を通知しない投資家については承認したものとみなす ※「事前通知」の場合 発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の事項については決定を行う[ ]日前に通知を行うものとする (1)定款の変更 (2)発行会社株式等の発行又は処分。但し、発行済株式総数の [ ]%に相当するストックオプションの発行を除く (3)合併、株式交換、株式移転、会社分割、事業譲渡又は事業譲受 |
(4)解散又は破産、民事再生、会社更正若しくは特別清算の申立ての決定
(5)創業株主の保有する発行会社株式等の譲渡、担保の設定、その他の処分
(6)資金使途の変更
(7)役員の選任又は解任
(8)投資に関する契約の締結、変更又は解除(9)発行会社の株式等の譲渡等に対する承認
(10)株式上場に関する公開予定時期、公開予定市場、引受主幹事証券会社、監査法人の決定又は変更
〈その他、投資家、発行会社及び創業株主にて調整して設定
すること〉
【Ⅱ.株主間契約 3 解説】
⑴ 「事前承認」とは、発行会社の一定の決定事項について、事前に投資家に対して通知のうえ、承認を得るべきことを義務として課すものである。これに対し「事前通知」は、発行会社の一定の決定事項について、事前の承認は不要であるものの通知は行うべきことを手続義務として課すものである。ここにいう「事前」とは、株主総会や取締役会において議案を上程する前の段階を指している。
⑵ 例示では、事前承認と事前通知(以下「事前承認等」という。)を定めているが、投資家に対して事前に通知をしたうえで誠実な協議を求めるという「事前協議」を定めることもある。
⑶ 投資家が事前承認等を求める理由は、投資時に確認した事業内容や経営体制、株式の 価値を断りなく変更されないためのモニタリングや、新規の株主や取締役が反社会的勢 力で無いか等の確認を行うことがあげられる。このため、新株発行、主要事業の変更と いった重要事項は事前承認の対象として設定されやすいものの、実際にいかなる事項を 事前承認や事前通知とするかは発行会社と投資家との間の調整により定まるものであり、事前承認と事前通知を分ける場合もあれば、全ての事項を事前承認とする場合や事前通 知に留める場合もある。
⑷ 事前承認等を書面に限定する場合もあるが、発行会社と投資家双方の情報伝達の迅速性や手間を考慮すると、通知及び承認の方法としては電子メール等の電磁的方法も活用していくことが望ましい。
⑸ 例示に記載された事前承認の但書のように、発行会社が承認を求めたにもかかわらず投資家が何ら通知をしない場合、発行会社にとってはその後の意思決定や他の投資家への説明が行えない状態に陥ってしまうため、一定の期間を定め、その期間内に投資家から何ら通知が無い場合は、投資家が承認したものとみなす旨の定めをしておくことが望ましい。
⑹ 留意事項
・投資家の株主間契約の標準雛形であることをもって 20 項目以上にわたる事前承認を要求するような事例が散見されるが、その全てを事前承認とすることが現実的ではない場合がある。このため、過剰な事前承認を求めないよう、発行会社の機関設計や社内体制の整備状況、当該事前承認の必要性を勘案し、当事者間において調整を行う必要がある。
・事前承認は、拒否権でもあり、発行会社の経営に対して重要なモニタリング機能を有している。しかし、事前承認の項目が多岐にわたる場合、発行会社の運営上の妨げとなるだけではなく、発行会社の不注意により事前承認を欠いた状態を生じさせる可能性を高めてしまう。また、発行会社が事前承認を欠いた状態にある場合には、投資契約等に違反状態となり、後続の投資家が投資を検討する際の支障にもなりうる。投資家は、このような弊害を自覚し、事前承認を設定する際には項目ごとに事前承認の対象とする必要性を検討したうえで項目を定めることが重要である。
・事前承認等は投資契約により投資家が単独の権利として設定することが可能であるが、投資家が複数名存在する場合や投資ラウンドが複数回に及ぶ場合には、投資家ごとの投資契約に定められた事前承認の内容が異なることがある。投資家ごとに異なる事前承認を定めている場合、発行会社の事務処理の負担が増すため、参加する投資家が増えた際には例示のように株主間契約により、事前承認の内容を統一化していく必要がある。さらに、事前承認については投資家全員の承認を求めるのではなく、例えば「多数優先株主の承認」で足りるように定めることにより、発行会社の負担は軽減される。なお、このように承認を受ける投資家の範囲を緩める場合であっても、重要事項については、投資家全員に対して通知されるように定めることが望ましい。
・事前承認の対象事項を種類株主総会の決議事項とすることも可能である(拒否権付種類株式、会社法108条1項8号)。このため、投資契約等に事前承認を定めず、代わりに種類株主総会の決議事項としておくこともできる。しかし、種類株主総会の決議事項とした場合も、留意すべき点がある。まず、種類株主総会の決議事項とした以上は、発行会社の取締役が決議を欠いたまま実行してしまうと会社法違反に該当するおそれが生じてしまうため、発行会社にとっては投資契約等の違反に比べて重い責任を
課される可能性が生じる。また、非公開会社は会社法299条1項により招集通知の 発送は原則として1週間前で足りるとされていることから、投資家は招集通知を通じ て決議の1週間前に決議事項を知らされることとなり、種類株主総会の当日までに投 資家と発行会社との調整が間に合わず議案が決議されない可能性が出てくる。さらに、発行会社は会社法に基づき種類株主総会を開催しなければならない事務負担が生じる。このため、種類株主総会の決議事項を増やすことは慎重に行うべきと考えられる。
・投資家によっては、xxxxの出資者からの要望により、投資契約等に入れるべき事前承認の項目を指定されることがある。しかし、全ての投資において指定された項目をそのまま定めることは、発行会社の運営の妨げになる場合や、後の資金調達に支障が生じ、かえってファンドの出資者が望まない結果を招くこともある。このため、投資家も状況に応じ、ファンドの出資者からの要望について、これに代替ないし類似する手続きを定めることができるようファンドの出資者と合意しておく必要がある。
・事前承認及び事前協議の権利を有する投資家は、その権利に伴う対応手続きに配慮する必要がある。投資家は、発行会社から事前承認を求められた場合、速やかにこれに対応しその可否を伝える努力をしなければならない。そして、投資家側にとって重要なことは想定される事前承認に対する社内の決裁プロセス・権限等を事前に定めておくことである。また、発行会社としても、投資家側の事務的都合で事前承認が得られないことにより意思決定が滞らせないためにも、「事前承認事項を通知後[ ]日間、投資家より返答がない場合は承認したとみなす」等の条文を加えておくことが望ましい。
Ⅱ.株主間契約 | |||
4. 情報開示 | (1)発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の情報を書面又は電子メールにより提供する ・毎事業年度の計算書類(決算日後[ ]日以内) ・税務申告書及び明細書(申告後速やかに) ・事業計画書(変更後速やかに) ・定款(変更後速やかに) ・登記事項証明書(変更後速やかに) ・株主名簿及び新株予約権原簿(変更後速やかに) ・月次試算表(月末日後[ ]日以内) (2)発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の事項を書面又は電子メールにより直ちに報告する ・災害その他の重大な損害のおそれのある事象の発生 |
・訴訟、仲裁、調停、強制執行その他司法上又は行政上の手続の開始及びその終結
・破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算の開始その他の倒産手続開始の申立て
・支払停止又は手形若しくは小切手の不渡り
【Ⅱ.株主間契約 4 解説】
⑴ 本書における情報開示の定めは、株主名簿、定款、登記事項証明書、月次試算表、事業計画書等、経営上の重要な情報の開示を求めること、災害や訴訟といった重要事象の発生に対して報告を求めることを内容とするものである。例えば VC はファンドの運営責任を負うため、投資先の経営情報を常に把握しておく必要があり、このような情報の取得が必須な場合があるため定められている。
⑵ 留意事項
・投資家と個別に交わされる投資契約では、各社各様の情報開示が定められている場合があるが、情報開示項目が多岐にわたると発行会社の事務負担が重くなり、場合によっては開示対応自体ができなくなってしまう。このため、投資家が多くなった場合、例示のように株主間契約において情報開示項目を統一化する等の配慮をすることが望ましい。
・情報開示の方法は、可能な限り電子メール等による電磁的方法を認め、PDF 等のデータファイルによる開示も認めるべきである。投資家にとっては迅速に情報を取得することができることは望ましく、発行会社にとっても書面による情報開示は過度な負担になるためである。
・発行会社のステージによっては、投資を受けてから情報開示体制を整備していくこともある。このため、例えば月次試算表の情報開示を定める場合でも、経理担当者が不在の段階から暦 30 日以内の早期開示を求めるようなことは控え、一定の猶予期限を設けるような配慮をしていくことが望ましい。
・VC の場合、運用するファンドの出資者の要望により、投資契約に入れるべき情報開示の項目を指定されることがあるが、全ての投資において指定された項目をそのまま定めることは、発行会社にとって現実的に対応できない要求となることもなる。また、発行会社に対し過剰な情報開示を求めることは、その運営の妨げになり、かえってファンドの出資者が望まない結果を招くこともある。このため、投資家も状況に応じ、ファンドの出資者からの要望について、これに代替ないし類似する手続きを定めるこ
とができるよう組合員と合意しておく必要がある。
Ⅱ.株主間契約 5. 取締役指名権及びオブザーベーション・ライト | ・発行済の[ ]種優先株式を[XX%/XX 株]以上保有する株主は取締役1名を指名する権利を有する ・発行済の[ ]種優先株式を[XX%/XX 株]以上保有する株主はオブザーバー1名を指名する権利を有する。発行会社はオブザーバーに対し、取締役会への出席権を認める |
【Ⅱ.株主間契約 5 解説】
⑴ 取締役指名権は、発行会社に対して投資家が指名する取締役を派遣することができる権利であり、オブザーベーション・ライトは発行会社の取締役会その他の重要会議に対して投資家が指名する者を派遣することができる権利である。いずれも投資家による発行会社の情報の取得、モニタリングや経営関与の目的で設定されるものであるが、取締役指名権は会社法上の役員としての権利義務が定められた取締役を派遣するため、より強力な権利である。
⑵ 投資家によっては、発行会社のモニタリングを行うことができる状態としておくために、投資時に取締役指名権又はオブザーベーション・ライトを契約上の権利として設定しておき、実際には取締役やオブザーバーを派遣しないという例も多い。また、投資家によっては、モニタリングや情報取得という側面以外にも、発行会社の企業価値向上に向けた支援目的としての意味を含めて取締役やオブザーバーを派遣することがある。
⑶ 留意事項
・取締役指名権やオブザーベーション・ライトは、事前承認と同様、投資契約により各投資家に対して設定することは可能であるが、各投資家に設定してしまうと、取締役会の参加者が多数となり、意見交換が行いづらく取締役会が形骸化する弊害が生じてしまうおそれがある。このため、投資家は、自己の持株比率や払込金額、発行会社の取締役会の構成員や開催状況に応じ、取締役指名権やオブザーベーション・ライトの要否を確認し、例示のように、株主間契約により一定以上の株式を保有する投資家の判断に委ねる等の配慮が必要である。
・取締役指名権に基づき派遣される取締役は会社法上の役員であり、発言内容は議事録
に記載され、取締役会において賛成反対の票を投じる立場にある。また、議事録に押印を行い、他の投資家に対しても責任を負う立場にある。さらに、取締役に就任した場合、発行会社に対してxx義務(会社法355条)を負うため、自身が所属する組織の利益と発行会社の利益が衝突する事案においても発行会社の利益を意識した行動を求められることについても留意する必要がある。投資家は、取締役を派遣する場合とオブザーバーを派遣する場合の相違点を認識したうえで、これらの権利設定を行うことが望ましい。なお、取締役指名権に基づき派遣される取締役に対しては、責任限定契約(会社法427条)が締結される事例が多い。
・取締役は会社法上の役員として発行会社との間の関係が定められているが、オブザーバーは発行会社や投資家により、その位置づけが異なっている。発行会社によってはオブザーバーに対して積極的な発言や経営関与を要望する場合があれば、あくまでもオブザーバーである以上、取締役会等で多く発言することは議事の進行に支障をきたすという意見もある。オブザーバーの位置付けについては、発行会社と投資家との間において認識を一致させておくとともに、投資家が増えた場合や発行会社の役員が増加した場合には、別途、オブザーバーを派遣することに代えて株主報告会の開催義務を設定する等により、柔軟な対応を行うことが発行会社と投資家双方においても望ましい。
Ⅱ.株主間契約 6. 創業株主の専念義務 | ・投資家の承認なく取締役の辞任、再選拒否をしない ・投資家の事前承認のない兼職及び兼任の禁止 ・在任中及び退任後[ ]年間の競業避止義務 |
【Ⅱ.株主間契約 6 解説】
創業株主は、発行会社の経営に与える影響が極めて大きいうえ、発行会社の取引先等との関係も創業株主との信頼関係で構築されていることが多い。このため、創業株主の専念義務は、投資家の投資後に創業株主が会社経営から離脱することを避け、かつ、その能力を発行会社の経営に十分に発揮してもらうために、発行会社の取締役の地位からの辞任、他社の役員のxxxについて一定の制限を課すものである。
Ⅱ.株主間契約 | |||
7. Exit 協力義務 | ・発行会社及び創業株主は、[ ]年[ ]月末日までにx x商品取引所に上場をする努力義務を負う |
・発行会社及び創業株主は、投資家が期限満了等により発行会社株式を売却せざるを得ない場合には、協力すべき義務
を負う
【Ⅱ.株主間契約 7 解説】
⑴ Exit 協力義務とは、投資家、特に VC は一定期間内に投資の成果を確定しファンドの出資者にその成果を分配しなければならないことから、発行会社及び創業株主もこれを認識し、投資家の Exit に向け互いに協力し合うことを目的とする条項である。
⑵ Exit 協力義務の内容は、例示に記載されたような「上場努力義務」と呼ばれる一定の上場時期を定め当該時期までに上場を行うよう努めることを定めたものや、ファンドの期限を明記し当該期限を理由とした株式の売却について発行会社及び創業株主が協力すべきことを定めたもの(対象となる株式は通常、定款により譲渡制限が付されており、発行会社及び創業株主の協力が得られなければ投資家は株式を譲渡することができない状態にあるため。)が設定されることが多い。その他にも、投資家が株式を売却する際に売却候補先による DD を誠実に受けるべきとする内容や、発行会社の業績が順調に推移して IPO が行える状況にも関わらず IPO を行おうとしない場合には、予め責任内容を定めておくことが考えられる。
⑶ 発行会社が、各 VC のファンド期限を確認しておくことは重要である。ファンドが期限を迎えた場合でもファンド契約による規定やファンドの出資者との合意により運用期間が延長される等、各ファンドによって対応は異なるが、原則としてファンド期限に向けて VC は保有する株式の売却を推進するので、発行会社も状況を認識しておく必要がある。さらに VC のファンド期限対応は、他の投資家にも影響を及ぼすので、各 VC も相互にファンド期限及びその対応を認識しておくことも Exit を円滑に進めるうえで重要である。 VC のファンド期限を確認するために投資契約上又は株主間契約において、各投資家のファンド期限を記載し、確認をすることができる状態にしておくことも方法の1つである。
⑷ 投資家の Exit 方法は主に IPO 又は M&A により行われる。投資家はファンドの期限にあわせて発行会社に対する投資の成果を確定する必要があるが、IPO が間に合わない、又はそもそも IPO をすることが難しい場合があり得る。そこで、VC が投資をする際、発行会社には IPO に限らず M&A による Exit の可能性を認識してもらう必要があるため、M&A による Exit に協力する義務(売却候補先による精査への対応、M&A に必要となる法令上の手続き等)を定めておくことがある。また、特定の投資家がファンド期限に対応するために当該投資家の保有する発行会社株式のみを対象とした株式移動を行う場合にも、発
行会社及び創業株主は、その実現に向けて協力する義務を定めておくことがある。
⑸ 留意事項
・投資家から資金調達した発行会社の多くは IPO を目指しているし、投資家も IPO による Exit を期待している。しかし、発行会社が IPO できるか否かは業績や社内体制の整備状況等、発行会社の努力による要因のみならず、経済環境や株式市場の状態等、発行会社ではコントロールすることができない要因にもよる。このため、上場目標時期を遵守すべき義務は、通常の「義務」とするのではなく、「努力義務」に留めることが望ましい。
・シードステージのように、発行会社のサービスの立ち上がり段階では、Exit 協力義務の期限を設定することが難しい場合がある。このような場合、Exit 協力義務の期限を設定はせずに、その後の追加の投資ラウンド等、ある程度、発行会社の事業計画の見通しがついた時点で期限を設定した方が現実的で望ましいといえる。
・Exit 協力義務の規定内容によっては、投資家が発行会社及び創業株主に対して、Exitを行うために売却先の選定等の作為義務までを課している場合もあれば、そのような義務まで課していない場合もある。投資家は、Exit 協力義務として売却先の選定等の作為義務を設定する際には義務の内容を投資契約等には分かりやすく記載するとともに、発行会社及び創業株主に対して十分な説明を行い、後に見解の相違が生じないようにしておくことが望ましい。
Ⅱ.株主間契約 8. 先買権及び共同売却請求x | xx株主が発行会社株式の一部又は全部を第三者に譲渡しようとする場合、投資家は創業株主と当該第三者との間で合意した条件により創業株主が譲渡しようとした株式を自ら買い取るか、又は自己の保有株式のうち、下記の算定式に基づき算定された株式数を創業株主と共同して当該第三者に売却することを選択することができる権利を有する 【算定式】 創業株主の譲渡希望株式数×{投資家の保有株式数 /(投資家の保有株式数+創業株主の保有株式数)} |
【Ⅱ.株主間契約 8 解説】
⑴ 先買権(First Refusal Right)とは、他の株主が発行会社の株式を譲渡しようとする
場合に、自己が優先的に譲受人となり当該株式を買い受けることができる権利をいい、共同売却請求権(Tag Along Right)とは、他の株主が発行会社の株式を譲渡しようとする場合に、自己も他の株主と共同して譲渡人として参加して売却することができる権利をいう。いずれの権利も他の株主が株式を譲渡する際に発動するものであることから、株主間契約には、先買権と共同売却請求権を組み合わせて定めていることが多い。
⑵ 先買権及び共同売却請求権の対象となる株式は、創業株主が保有している株式に限定される場合もあれば、投資家が保有している株式を含める場合もある。後者に関しては、投資家間において売却の機会をxxに与えるという機能があるが、投資家の運用するファンド期限を理由とした売却が共同売却権により阻害されてしまう等、他の投資家の Exit を制約してしまうことがあることに留意する必要があり、投資家間の共同売却権においては投資家の運用するファンド期限を理由とした売却を除外する等を規定する場合もある。
Ⅱ.株主間契約 10. 新規株主の参加 | 発行会社及び創業株主は、株主間契約の当事者以外の新規の株主が出現した場合には、新規の株主を株主間契約の当事者として参加させるものとする |
【Ⅱ.株主間契約 10 及び Ⅲ.財産分配契約 4 解説】
⑴ 株主間契約や財産分配契約を締結後、新規の投資家が出現した際に契約の効力が及ばなければ、同時売却請求権やみなし清算条項において意図した効力が失われてしまう。そこで、発行会社及び創業株主に対し、新規の投資家が出現した際には株主間契約又は財産分配契約の当事者として加入させることを義務とする条項を設定することで各条項の実効性を将来にわたって確保させる必要がある。
⑵ 既存の投資家が締結した株主間契約に対して新規の投資家が難色を示す場合がある。新規の投資家が既存の株主間契約を拒絶し、新たに株主間契約を作成してしまうと、投資家間を含めて統一的な処理を行うための株主間契約の有効性が失われてしまう。株主間契約については、既存投資家と新規の投資家は協議の場を設け、特定の株主の利益が強調されているのであれば適切な調整を行うことを相互に心掛け、株主間契約は一つに統一化して運用されることが望ましい。
⑶ 新規株主を株主間契約の当事者として広く参加させることは、投資家の Exit の円滑化
を図るためでもある。このため、発行会社及び創業株主が主導するよりも、投資家が中心となり新規株主に対して働きかけた方が理解も得やすく調整しやすい場合がある。そこで、例示とは異なり、新規の株主を契約当事者として参加するための契約手続を、高い持株比率を有する投資家に委ねている事例も多い。
Ⅱ.株主間契約 11. 優先関係 | 本契約の各条項は、投資家が、単独又は共同で発行会社及び創業株主と締結している、株式引受契約書、投資契約書及びそれらに準ずる契約書、並びにそれらの変更契約書に記載される各条項に優先して適用されるものとする |
【Ⅱ.株主間契約 11 及び Ⅲ.財産分配契約 5 解説】
株主間契約の当事者となった投資家の中に、当該株主間契約の内容と矛盾する、若しくは整合しない又は当該株主間契約を否定する内容を定めた契約を個別に交わしている者がいると、株主間契約の効力が失われてしまう可能性がある。そこで、株主間契約を締結する際には、個別に交わされた契約の内容よりも株主間契約の内容が優先される旨の条項を入れておき合意しておくことが望ましい。また、株主間契約と財産分配契約との間においても、契約の効力について優先関係が問題となる場合がある。この場合、財産分配契約のExit に関する事項を最優先させておくことが、株主全体の利益の観点から望ましいことが多い。
Ⅲ.財産分配契約
財産分配契約は、M&A による Exit に関する内容を取り決めており、種類株式に優先分配の定めをしている場合において用いられ、株主間契約に定められる内容の中でも、「みなし清算条項」と「同時売却請求権」と呼ばれる M&A による Exit 部分を中心に抜き出した契約である。
Ⅲ.財産分配契約
発行会社の全員が株主間契約を締結する場合、株主間契約においてM&A による Exit 部分を取り決めて合意すれば足りる。しかし、昨今では、エンジェルを始めとして株主間契約に加わらない投資家も多いため、そのような投資家を含めた全株主を対象として、Exit に関する事項を定めている財産分配契約が利用されている。
1. 契約当事者 | 投資家等:[ ]、[ ]、[ ]、[ ]発行会社:[ ] 創業株主:[ ] |
【Ⅲ.財産分配契約 1 解説】
財産分配契約は、原則として全株主を契約当事者とする。投資額が比較的に少額とな る個人株主に対してまで契約の締結を求めることはxxすると煩雑であるように思える。しかし、優先分配の機能を有効なものとするためにはエンジェルや従業員株主、その他 の普通株主も含めた全株主が原則として参加する必要があり、その契約の効力は株主間 契約以上にxxに及ぶものといえる。仮に、財産分配契約を締結していない株主が存在 する場合、別途、創業株主により個別にみなし清算条項並びに同時売却請求権に対する 合意書は取得しておくことが望ましい。
Ⅲ.財産分配契約 2. 同時売却請求権 | 発行済の[ ]種優先株式の[過半数/3分の2]を保有する株主が賛同する場合、企業買収の機会において、全株主が同時に売却することに同意する |
【Ⅲ.財産分配契約 2 解説】
⑴ 同時売却請求権は、ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)、又は売却請求
権ともいわれ、多数の投資家の賛成等の任意に設定された一定の要件を満たした場合、発行会社、創業株主に限らず他の株主に対しても株式の売却に応じるべきことを請求することができる権利である。
⑵ 同時売却請求権の発動条件は多様であり、例示の記載もあくまでも一例である。同時売却請求権の発動条件として記載される内容は、一般に以下の内容を組み合わせて設定している。条件が複雑化することもあるため、契約当事者は、いかなる場合に同時売却請求権が発動するのかを確認しておく必要がある。
① 発 案 者
一定以上の株式を保有する投資家が発案者となる場合が多いが、最近では創業株主が発案者となる場合も増えている。投資家が発案者となる場合、②の期間条件と組み合わせて設定される事例が多く、一方で創業株主が発案者となる場合③の金額条件と組み合わせて設定される事例が多い。
② 期間条件
同時売却請求権について、発動できる時期については契約締結から一定期間(3乃至5年程度)経過した後に限定される場合が少なくない。期間条件は主に投資家が発案者となる場合に設定される。これは、投資時に発行会社と投資家との間において合意した事業計画が達成されていない場合やIPO の目標時期を経過した場合にM&Aによる Exit を推進していく必要があるからである。特にファンドの期限が近づくと Exit の必要性が高くなるため、ファンドの期限を勘案して期間条件を定めている場合が多い。なお、投資家が発案者となる場合、一定期間内は創業株主又は取締役会等の同意を必要とする旨を規定する場合もある。
③ 金額条件
一定金額以上の企業価値評価額が付くことを条件として発案することができるとするものである。創業株主が発案権を持つ場合に設定されることが多い。最近では投資家から投資を受ける時点から M&A による Exit を目指す起業家も増えている。創業株主によっては機会があれば短期間での Exit を希望することもあるが、投資家にとってはこの Exit が投資リターンを想定よりも大幅に低くする可能性もある。そこで、一定水準のリターンを確保するためにも、同時売却請求権の発動要件として、企業価値評価額に対して最低金額を設けることがある。
④ 売 却 先
投資家が提案する売却候補先と同じ条件であれば、創業株主が選定した買収を希望する第三者への売却を優先することができる旨を定めるものがある。当該規定によ
り、創業株主が望まないような発行会社と競合する企業への買収等を回避することができるためである。なお、CVC も同様に優先交渉権や先買権を有する場合もある。
⑶ 同時売却請求権の機能
・同時売却請求権には、発行会社の M&A に対する株主合意形成機能があり、当該機能により M&A を促進させることができる。発行会社、創業株主及び主要な投資家が M&A に対する合意を形成しておくことにより、IPO が果たせない場合等でも M&A による Exitを円滑に行うことができるようになる。このため、期限のあるファンドを運営する VCにとってはリスクの許容範囲を広げた投資が行えることとなり、また、CVC においても将来的には M&A により発行会社をグループ会社に迎えることも視野に入れた投資ができることとなり、エンジェル等の他の投資家にとっても Exit の可能性が高まるものといえる。
・同時売却請求権には、M&A を促進させることにより、IPO 以外の方法による創業者利潤を実現させる機能もある。近年では M&A により創業者利潤が実現する事例が増えていることから、創業株主から積極的に同時売却請求権の発案者として規定されることを求める事例も増えてきている。
⑷ 同時売却請求権に対する認識の問題
・同時売却請求権は、これまで「強制売却権」と表記されることが多かった。特に従来は投資家のみが保有する権利であり、創業株主は一方的に受け入れざるを得ない印象が強かった。しかし、昨今では、創業株主が M&A による Exit を企図する場合も増えており、さらには創業株主が同時売却請求権の発案者となる場合も少なくない。その際、同時売却請求権のもつ合意形成機能により、少数株主の非協力・反対意見により M&Aが実行できないというリスクを軽減することができる。事案にもよるが、同時売却請求権は、創業株主にとって有利な条件で円滑に M&A を実現させ創業者利潤を獲得しやすくすることができる条項でもある。このように、同時売却請求権は投資家のみならず創業株主にとっても有益な権利となり得る。このことから、強制売却権と記載するよりも同時売却請求権と記載し、提示することにより誤解が生じずに調整を行いやすいと考え、本書では「同時売却請求権」と表記した。
⑸ 留意事項
・買収を行う企業は、買収先に対する持株比率が 100%となることを希望することが多い。このため、同時売却請求権は持株比率が低い株主も含め、全株主で契約を締結しておくことが重要となる。形式としては株主間契約に含めることも考えられるが、株主間
契約には持株比率が低い株主には関係ない条項も多く含まれる等、適当でない場合がある。そこで、例えば経営関与や複雑な契約を望まないエンジェル等との間では、同時売却請求権とみなし清算条項を抜き出した財産分配契約を締結しておき、同時売却請求権が発動した際には、全ての株主にその効力が及ぶようにしておくことが望ましい。
・同時売却請求権が行使された場合、発行会社の経営体制に重要な変更をもたらすため、顧客離れによる企業価値の毀損等が発生する可能性がある。このため、投資家は上場目標として設定した期限を過ぎたことのみをもって同時売却請求権を発動するものとせず、幅広い視点で検討することが必要である。
・投資家が株主間契約又は個別に交わした契約等により先買権や優先交渉権を別途有している場合、その内容によっては同時売却請求権の行使の際に売却価格の形成等で阻害要因となり得る。このため、株主間契約又は財産分配契約に、同時売却請求権が他のいかなる契約条件にも優先する旨を定めておき、投資家が株主間契約又は個別に交わした契約等で有する先買権や優先交渉権が、同時売却請求権の効力に影響を与えないようにしておくことに留意すべきである。
Ⅲ.財産分配契約 3. みなし清算条項 | 契約当事者は、企業買収により受領する対価については定款に定められた残余財産分配権の計算式と同様に算出された対価により各株主が受領することに同意する |
【Ⅲ.財産分配契約 3 解説】
⑴ みなし清算(Deemed Liquidation)とは、発行会社に M&A が生じた場合に、会社を清算したものとみなして投資家に対する分配を行うことをいう。種類株式の内容として会社法に定められた残余財産の優先分配の内容は、発行会社が清算した際に効力は生じるものの、M&A のような株式の譲渡等による場面では残余財産の分配ではないため効力が及ばない。そこで、株主間における契約の効力として、M&A の際にも種類株式において定めた残余財産の優先分配と同じ対価が得られるようにするために設定されるのがこの条項である。
⑵ みなし清算は、任意に交わされる契約条項として設定されるものである。すなわち、定款の効力に基づき全株主に対して効力を及ぼす優先配当や残余財産分配の優先とは異なり、契約の効力として投資家に対して優先分配をもたらすものである。従って、みな
し清算条項は、創業株主を含めた全ての株主が合意していなければ有効に機能しない可能性があるため、全ての株主との間において合意しておく必要がある。仮に、財産分配契約によりみなし清算条項について合意していない株主が存在する場合、別途、創業株主により個別にみなし清算条項に対する合意書は取得しておくことが望ましい。
Ⅳ.その他の解説及び留意事項
以下では、本書における「別紙1 タームシート(例)」では例示していないが、実務上見受けられる条項の解説やその留意事項について解説を行う。
⑴ 最恵待遇条項
・最恵待遇条項とは、投資家が締結した契約条件よりもさらに有利な契約条件を後続の投資家が発行会社と合意した際は、先の投資家に対し、当該有利な条件が与えられるものとする定めをいう。最恵待遇条項の機能には、投資条件の検討期間を短縮することができること、他の投資家による抜け駆けを防止することができることがあげられる。
・一方で、新たな投資家が大きな資金を投資する際に既存株主よりも有利な条件を求める場合や、発行会社の経営が思わしくない状況下において新たな投資家が救済目的で投資を行う場合において、既存投資家が最恵待遇条項の権利を強く主張すると、発行会社の資金調達に支障が出る可能性がある。最恵待遇条項を取得した投資家はその点を認識し、最恵待遇の権利を主張することができる範囲を具体的に明示しておくことや、契約締結後も当該権利の変更や削除がありうることを認識し、柔軟に対応する必要がある。
・最恵待遇条項は、昨今普及してきた条項であるが、その内容はxxかつ強力な権利義務を定めている。しかし、実務上、契約書の最後に2行程度で記載されていることが多く、契約当事者も当該条項の内容を理解・認識しないまま契約を締結している傾向にある。投資後に最恵待遇条項を巡って紛争に至らないためにも、当該条項を提示する投資家側においては、相手方への十分な説明を行う必要があるとともに、発行会社側においても、受け入れるのであれば十分な理解を行ったうえで合意する必要がある。
⑵ 投資契約等の見直し等
・発行会社は投資を受けた後、ステージがシード、xxxx、ミドル、レイトへと移り変わるにつれ、経営体制や内部統制も充実していき、投資家によるモニタリング等の必要性も変化してくる。投資家にとっては、一度設定された種類株式や投資契約等の条項を削除することや緩めることは、社内手続上の事情で難しいこともあるが、発行会社のステージに応じ、例えば当初は事前承認の判断基準として「1000 万円以上の資産の購入」としていたものを「3000 万円以上の資産の購入」へと変更する等、条項を見直して締結した方が双方にとって望ましい場合もあることを認識しておく必要がある。
・投資家によっては、社内の事情等により投資時に一度締結した投資契約等は一切修正できないとする姿勢を貫くことがある。しかし、新規の投資家が加わる場面等においては、既存投資家と締結した投資契約等を改めて調整しなければ発行会社が追加の資金調達を得られない場合がある。このため、既存投資家は、投資後に発行会社や新規の投資家との関係において、投資契約等の内容の変更を必要とする場合があることを認識し、関係者との協議の機会を設け、発行会社にとって望ましい状況に配慮し、投資契約等の内容を調整していく必要がある。
・投資の際、契約書の種類が複数に渡ることは発行会社の負担になるだけでなく、投資スケジュールの遅延にもつながる。このため、シードステージでは、投資契約の締結のみに留めておくことも一つの考えであるが、他方、シードステージであっても、例えば1年以内に多額の資金調達が想定されるような場合は、当初より株主間契約を設計して締結をしておいた方が今後の調整を円滑に行うことができる場合もある。投資家及び発行会社は、株主間契約の要否の判断を、将来の資本政策や投資家の状況を勘案して検討しておくことが望ましい。
⑶ CVC 固有の投資契約等に関する事項
・CVC によるベンチャー投資が増えているが、事業面でのシナジーを重視したものが多い傾向にある。このため、投資契約等において、CVC の意図をもとに事業活動に関連する優先権や競業制限等の独自の条項を設定していることがある。これらの条項の内容によっては、他の投資家にとって不利となる場合や、その後の資金調達に支障が出る場合もあるため、発行会社は、その内容をよく理解し、将来、自社にとって不利となる可能性がある場合は、その点も踏まえて投資を受け入れるかの判断をしなくてはならないことに留意する必要がある。
・CVC は、発行会社に自社以外の他の投資家がいる場合には、独自に定めた条項が発行会社のその後の資金調達に支障となり、ひいては発行会社の成長に対する過度な妨げとなることのないよう、柔軟な運用や対応を行うことができるように留意する必要がある。
・CVC は、投資契約等の代わりに資本業務提携契約を締結することもあり、その投資目的により締結される契約書の方針も大きく異なる。また、投資窓口となる担当者も、投資業務以外の別の事業部門を兼務していることや、一時的な出向や転籍、社内異動等により投資業務に従事している場合もあり、会社によって投資に対する知識や経験も多様である。このため、投資の際に締結される契約書についても VC が締結する投資契約等とは大きく異なる内容が記載されていることもある。そこで、発行会社及び創業株主は、CVC からの投資を受けた後に VC からの資金調達を予定している場合は、CVC と締結する契約書の内容が VC からの資金調達の際に支障とならないか
慎重に確認をしておくことが望ましい。
・CVC は、発行会社に対する持株比率を高めに取得し、将来、グループ会社として迎え入れることも想定して投資をしている場合がある。この場合には、資本業務提携契約等を締結し、事業譲渡を始めとする事業内容の変更に対しては特に意識をして制限を課すことがある。特に、Exit 局面における M&A の優先交渉xxを設定することがあるため、他の投資家と締結される株主間契約や財産分配契約との間における調整が必要となる場合がある。一方、発行会社に対する持株比率が低い場合、将来、グループ会社として迎え入れられる可能性が低くなること、また、発行会社に対して過度な制約を課さない方が今後の成長の妨げにもならないことがあり、厳しい制限を課さないことも多い。この場合には、発行会社と CVC が協力関係を構築するために、株主間契約や財産分配契約との間における調整を要しない範囲で覚書等を締結することがある。また、CVC としてはM&A 発生時に持株比率を高めることを想定し、先買権を取得しておくこともある。このように、CVC が行うベンチャー投資は、その投資目的、持株比率に応じて投資契約等、特に経営に対する制限内容を変えていく必要がある。
第6.おわりに
昨今、我が国のベンチャー投資は活況化してきたが、未だその歴史は浅く、発展段階にある。その中で、投資契約等は定款及び法令により定めがないものを補完し、発行会社のコーポレート・ガバナンスの適正化や、契約当事者の利害を調整することで、ベンチャー投資を円滑にする機能を有している。
本来、ベンチャー企業のコーポレート・ガバナンスを適切に機能させるためには、契約により縛るのではなく取締役会等の機関により対応することが望ましい。投資家の意見を反映して選任された取締役や、独立した社外取締役等で構成された取締役会により、コーポレート・ガバナンスが適切に機能するのであれば、投資家も発行会社を安心して見守ることができ、株主間契約の事前承認等の項目を減らすことも可能である。しかし、現状の多くのベンチャー企業では、そのような人材を確保することは困難であり、コーポレート・ガバナンスも構築段階にある。ベンチャー企業のコーポレート・ガバナンスの向上は投資契約等だけに頼るのではなく、より多面的に考えていくことも今後の課題といえよう。
投資契約等は投資家と発行会社の置かれている立場によっても異なってくる。昨今のように、ベンチャー企業に投資する投資家層が多様化する中では、投資契約等の利害の調整役としての重要性はより高まっている。
本書では、タームシートの形式で投資契約等の事例を示したが、これについても今後さらに変化していくと予想される。近年では、2005 年の会社法改正により種類株式が整備されたことで投資契約等の構造は大きく変わった。今後も、会社法、税法、金融商品取引法をはじめとした、法令改正は投資契約等に対して大きく影響を与えるだろう。
投資環境の変化も、投資契約等の内容に影響を与える。過去5年ほどベンチャー投資は、良好な環境の中で発展してきた。しかしながら、経済環境等の変化によりその環境が厳しくなることも想定される。例えば、米国においてはそのような環境下では「pay to play」と呼ばれるような、発行会社や既存投資家により厳しい条件が付されることもある。本書は将来の環境変化も想定して作成しているが、我が国においても環境次第では投資契約等の条件が発行会社や既存投資家にとって、さらに厳しいものになる可能性もある。
これまで述べてきたように、投資契約等は個別性が強い。同一の発行会社においても、その置かれた環境や成長ステージにより契約内容は異なってくる。投資家によっては、投資契約等について定型的な雛形で対応しようとするが、そのことは個々の投資事案に適さない契約を締結し、発行会社の成長を阻害させてしまう可能性もある。投資家は、
常に発行会社の現状及び将来を鑑みて柔軟に内容を提示していくことが望ましい。
本書は、投資契約等の整備が、我が国のベンチャー投資活性化に資することを企図している。その作業は、まだ始まったばかりで、行うべき議論は多く残されている。本書がその端緒となり、今後のベンチャー投資の経験と相まって、我が国における健全なベンチャー投資のエコシステム育成に繋がり、ベンチャー企業・起業家及び投資家にとって有益なものとなることを切望する。
別紙1
タームシート(例)
タームシートの内容は資金調達額、投資家側の事情、発行会社の規模や株主構成の状況等により異なるものである。以下に例示するタームシートは、種類株式が発行され、かつ、複数の投資家が参加する場合を想定したものであり、「Ⅰ.投資契約」、「Ⅱ.株主間契約」、「Ⅲ.財産分配契約」の3種類の契約書を利用する場合のタームシートである。また、タームシート内に記載された項目は、事例として用いられることが多い主要項目を例示列挙したものである。このタームシートは、あくまでも参考例として捉え、実際にタームシートを作成する際は、投資が行われる状況に応じて作成することに留意する必要がある。
Ⅰ.投資契約
契約当事者 | |
1. 契約当事者 | 投資家:[ ] 発行会社:[ ] 創業株主:[ ] |
資金調達概要 | |
2. 発行する株式の種類 | [普通/[ ]種優先]株式 |
3. 発行可能株式総数及び発行済株式総数 | (1)発行可能株式総数 普通株式[ ]株、[ ]種優先株式[ ]株(2)発行済株式総数 普通株式[ ]株、[ ]種優先株式[ ]株 新株予約権(普通株式)[ ]株相当 |
4. 発行株式数 | 総 数 [ ] 株 内 X に対して[ ]株、Y に対して[ ]株 |
5. 発行価額 | 1株当たり[ ]円 投資前企業価値評価額:[ ]円(潜在株式を含む) |
6. 払込金額の総額 | [ ] 円 |
7. 払込条件 | 最低調達額 払込金額の総額[ ]円以上 |
8. 資本金等 | 増加する資本金の総額[ ]円(1株当たり[ ]円) 増加する資本準備金の総額[ ]円(1株当たり[ ] 円) |
9. 払込期日 | 20XX 年 XX 月 XX 日(予定) |
10. 追加発行 | 今回の払込内容と同条件を基本として以下を条件により追加 発行を認めるとする |
・発行期限 20XX 年 XX 月 XX 日 ・最大追加発行数[ ]株 | |
種類株式の内容 | |
11. 優先配当 | 1株当たり[ ]円(1株当たり払込金額に対し[ ]%) 普通株式に優先、[ ]種優先株式に対して[同列/優先]とし、 [参加型/非参加型]による[累積型/非累積型]とする |
12. 残余財産分配の優先 | 1株当たり[ ]円(1株当たり払込金額に対し[ ]%) 普通株式に優先、[ ]種優先株式に対して[同列/優先]とし、 [参加型/非参加型]とする |
13. 取得請求権 | ・投資家は普通株式を引換えとした[ ]種優先株式の取得請求をいつでもすることができる ・[ ]種優先株式1株につき普通株式1株を交付する ・[ ]種優先株式の払込金額を下回る金額により新株発行等を行った場合、[フルラチェット方式/ナローベース加重平均方式/ブロードベース加重平均方式]により調整されるものとする。但し、発行済株式総数の[ ]%に相当するストックオプションの発行を行う場合、及び[ ]種優先株 主の3分の2以上の同意がある場合は調整されない |
14. 取得条項 | ・金融商品取引所に対し上場申請を行うことを取締役会において決議した場合に取得可能 ・[ ]種優先株式1株に対して交付される普通株式の数は取 得請求権の内容と同様とする |
15. 議決権 | ・通常株主総会での議決権[有り(1株につき1個)/無し] ・種類株主総会での議決権[法定どおり/付加する/省略する] |
16. 株式分割等 | 株式の分割、併合、無償割当、株主割当を行う場合は、全て の普通株式及び種類株式に対して同一割合で行う |
17. その他 | 〈その他、投資の状況に応じて設定〉 |
その他、引受に関する事項 | |
18. 資金使途 | ・発行会社は、払い込まれた資金を、事業を発展させるために合理的に必要と認められる人材採用、研究開発、設備投 資、販路開拓に使用すること |
19. 表明保証 【発行会社】 | ・発行会社は投資契約の締結及び新株発行をするための権利能力及び行為能力を有すること ・発行会社の株式等の発行状況 ・本発行について発行会社は適切な機関決定を経ていること ・法令等の違反及び訴訟が存在しないこと |
・許認可、知的財産権の取得がされていること ・貸借対照表及び損益計算書が適正であること ・反社会的勢力等との関係がないこと ・関連当事者取引の開示及び取引条件に問題がないこと ・必要資料の提出が適正に行われたこと 〈その他、発行会社の状況に応じて設定〉 | |
20. 表明保証 【創業株主】 | ・創業株主は投資契約を締結し、履行するために必要な権利能力及び行為能力を有すること ・他の法人又は団体における兼職、兼任がないこと ・法令等の違反が存在しないこと ・反社会的勢力等との関係がないこと ・必要資料の提出が適正に行われたこと 〈その他、創業株主の状況に応じて設定〉 |
21. 投資家の優先引受権 | 発行会社が株式等を発行する場合、投資家は持株比率に応じて優先的に引受けることができる。但し、発行済株式総数の [ ]%に相当するストックオプションの発行を除く |
22. 契約違反時の取り扱い | (1)発行会社及び創業株主は、契約違反が生じた場合、誠意をもってその治癒にあたる義務を負うものとする (2)投資家は、発行会社及び創業株主が投資契約に違反し、損害を被った場合、発行会社及び創業株主に対し損害賠償を請求できる (3)投資家は、以下のいずれかの事由が生じた場合、発行会社及び創業株主に対して投資家が保有する株式を買い取るよう請求することができる ・本契約[ ]条、[ ]条、[ ]条について重大な違反をした場合 ・表明保証した事項についてxx又は正確ではないことが判明し、かつ、その内容が重要な場合 (4)上記(3)の買取請求により投資家の株式を買い取る場合の価格は投資家と発行会社及び創業株主が合意する算定方 法による金額とする |
23. 契約の終了 | ・当事者全員が本契約の終了を合意した場合 ・発行会社が上場申請を行った場合。但し、上場が延期又は中止したときは申請日に遡り有効になるものとし、かつ、普通株式に転換された種類株式を再交付するものとする ・投資家が発行会社の株主ではなくなった場合 |
24. その他 | ・契約において一般的に定められる合意管轄等 〈その他、投資の状況に応じて個別的に設定される事項〉 |
Ⅱ.株主間契約
1. 契約当事者 | 投資家:[ ]、[ ]、[ ]発行会社:[ ] 創業株主:[ ] |
2. 定 義 | ・多数優先株主とは、発行済の[ ]種優先株式の[過半数/ 3分の2]以上を保有する単独又は複数の[ ]種優先株主をいう ・企業買収とは、発行済株式数の半数以上の移転の伴う株式 譲渡、合併、株式交換、株式移転、会社分割等をいう |
3. 事前承認/事前通知 | ※「事前承認」の場合 発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の事項については決定を行う[ ]日前に通知し、多数優先株主の書面又は電子メールによる承認を得るものとする。但し、発行会社より通知を受けてから[ ]日経過しても承認をするか否かの旨を通知しない投資家については承認したものとみなす ※「事前通知」の場合 発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の事項については決定を行う[ ]日前に通知を行うものとする (1)定款の変更 (2)発行会社株式等の発行又は処分。但し、発行済株式総数の [ ]%に相当するストックオプションの発行を除く (3)合併、株式交換、株式移転、会社分割、事業譲渡又は事業譲受 (4)解散又は破産、民事再生、会社更正若しくは特別清算の申立ての決定 (5)創業株主の保有する発行会社株式等の譲渡、担保の設定、その他の処分 (6)資金使途の変更 (7)役員の選任又は解任 (8)投資に関する契約の締結、変更又は解除(9)発行会社の株式等の譲渡等に対する承認 (10)株式上場に関する公開予定時期、公開予定市場、引受主 |
幹事証券会社、監査法人の決定又は変更 〈その他、投資家、発行会社及び創業株主にて調整して設定すること〉 | |
4. 情報開示 | (1)発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の情報を書面又は電子メールにより提供する ・毎事業年度の計算書類(決算日後[ ]日以内) ・税務申告書及び明細書(申告後速やかに) ・事業計画書(変更後速やかに) ・定款(変更後速やかに) ・登記事項証明書(変更後速やかに) ・株主名簿及び新株予約権原簿(変更後速やかに) ・月次試算表(月末日後[ ]日以内) (2)発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の事項を書面又は電子メールにより直ちに報告する ・災害その他の重大な損害のおそれのある事象の発生 ・訴訟、仲裁、調停、強制執行その他司法上又は行政上の手続の開始及びその終結 ・破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算の開始その他の倒産手続開始の申立て ・支払停止又は手形若しくは小切手の不渡り |
5. 取締役指名権及びオブザーベーション・ライト | ・発行済の[ ]種優先株式を[XX%/XX 株]以上保有する株主は取締役1名を指名する権利を有する ・発行済の[ ]種優先株式を[XX%/XX 株]以上保有する株主はオブザーバー1名を指名する権利を有する。発行会社 はオブザーバーに対し、取締役会への出席権を認める |
6. 創業株主の専念義務 | ・投資家の承認なく取締役の辞任、再選拒否をしない ・投資家の事前承認のない兼職及び兼任の禁止 ・在任中及び退任後[ ]年間の競業避止義務 |
7. Exit 協力義務 | ・発行会社及び創業株主は、[ ]年[ ]月末日までに金融商品取引所に上場をする努力義務を負う ・発行会社及び創業株主は、投資家が期限満了等により発行会社株式を売却せざるを得ない場合には、協力すべき義務 を負う |
8. 先買権及び共同売却請求x | xx株主が発行会社株式の一部又は全部を第三者に譲渡しよ うとする場合、投資家は創業株主と当該第三者との間で合意した条件により創業株主が譲渡しようとした株式を自ら買い |
取るか、又は自己の保有株式のうち、下記の算定式に基づき算定された株式数を創業株主と共同して当該第三者に売却することを選択することができる権利を有する 【算定式】 創業株主の譲渡希望株式数×{投資家の保有株式数 /(投資家の保有株式数+創業株主の保有株式数)} | |
9. 契約違反時の取り扱 い | 〈投資契約における記載内容と同様〉 |
10. 新規株主の参加 | 発行会社及び創業株主は、本契約の当事者以外の新規の株主が出現した場合には、新規の株主を本契約の当事者として参 加させるものとする |
11. 優先関係 | 本契約の各条項は、投資家が、単独又は共同で発行会社及び創業株主と締結している株式引受契約書、投資契約書及びそれらに準ずる契約書、並びにそれらの変更契約書に記載され る各条項に優先して適用されるものとする |
12. 契約の終了 | 〈投資契約における記載内容と同様〉 |
13. その他 | ・契約において一般的に定められる合意管轄等 〈その他、投資の状況に応じて個別的に設定される事項〉 |
Ⅲ.財産分配契約
1. 契約当事者 | 投資家等:[ ]、[ ]、[ ]、[ ]発行会社:[ ] 創業株主:[ ] |
2. 同時売却請求権 | 発行済の[ ]種優先株式の[過半数/3分の2]を保有する株主が賛同する場合、企業買収の機会において、全株主が同 時に売却することに同意する |
3. みなし清算条項 | 契約当事者は、企業買収により受領する対価については定款に定められた残余財産分配権の計算式と同様に算出された対 価により各株主が受領することに同意する |
4. 新規株主の参加 | 〈株主間契約における記載内容と同様〉 |
5. 優先関係 | 〈株主間契約における記載内容と同様〉 |
6. 契約の終了 | 〈投資契約における記載内容と同様〉 |
7. その他 | ・契約において一般的に定められる合意管轄等 〈その他、投資の状況に応じて個別的に設定される事項〉 |
別紙2
優先分配に基づく分配額シミュレーション
ここでは、種類株式を用いたベンチャー投資において、優先分配に基づく分配額のシミュレーションについて解説する。
まず、表①は投資家が 2 億円の投資を行い、持株比率として 20%の株式を取得した場合
(投資後企業価値評価額:2 億円 ÷ 20% = 10 億円)である。なお、解説の便宜上、創業株主は創業時に普通株式により 1,000 万円を投資しているものとする。
次に、投資家の投資後、発行会社が 5 億円による M&A の提案を受けたとする。仮に、投資家が普通株式により投資をしていた場合、創業株主(持株比率 80%)の受領額は 4 億円、投資家(持株比率 20%)の受領額は 1 億円となる。このため、創業株主は出資額の 1,000万円を差し引いても 3.9 億円の利益となるため、M&A の提案に対しては前向きに検討する可能性がある。一方、投資家は 1 億円の損失となるため、M&A の提案は受け入れ難い可能性がある。
しかし、投資家が出資の際に取得した株式が優先分配(投資額と同額(1.0 倍)を優先受領できる参加型とする。)の設定された種類株式であり、かつ、創業株主と「みなし清算条項」を付した合意がされている場合、状況は異なってくる。前述と同様に、発行会社が 5億円による M&A の提案を受けた場合、まず、投資家は優先分配 2 億円(1.0 倍)を受領する。次に、5 億円から 2 億円を差し引いた残額 3 億円に対して、投資家は参加型の権利により
6,000 万円(持株比率 20)を追加で得られるため、合計 2.6 億円を回収することができ、
投資額の 1.3 倍を回収できたこととなる。一方、創業株主は残りの 2.4 億円(5 億円 - 2億円 - 6,000 万円 = 2.4 億円)を受け取ることができる。創業株主にとっては、投資家が普通株式である場合に比べると受領できる金額は少なくなるが、次の事業を開始するには十分な資金と考えるであろう。
このように、優先分配を利用することにより、投資家が負う損失を回避できる可能性が高くなり、関係者の円滑な合意形成が図られ M&A が実現されやすくなる機能を有している。
表① 優先分配(参加型)を用いた投資事例
創業株主 | 投資家(VC 等) | |
投資時 | ||
持分比率 | 80% | 20% |
投資額 | 1,000 万円 | 2 億円 |
Exit 時(M&A 提案) | ||
投資家が普通株式の場合 | ||
受領額 | 4 億円 | 1 億円 |
投資損益 | 3.9 億円の利益 | 1 億円の損失 |
投資家が種類株式の場合 | ||
受領額 | 2.4 億円 | 2.6 億円 |
投資損益 | 2.3 億円の利益 | 6,000 万円の利益 |
注:投資家の種類株式の優先分配は投資額の 1.0 倍、参加型とする
さらに、当該事例を用いてさらに投資家の損益についてシミュレーション分析を行うと、次の図①に示す通り、M&A による提案額が 2 億円から 10 億円の範囲となる場合、投資家にとっては普通株式を取得していたときは損失が生じるが、種類株式を取得したときは利益が生じる状態になる。
図① 優先分配(参加型)を用いた際の投資家損益シミュレーション例
(百万円)
800
創業株主
VC(種類株式:優先分配1倍 参加型)
VC(普通株式)
600
評価額約2億円~10億円の間、創業株
主の損益はプラス。VCの損益は普株式ならマイナス、種類株式ならプラスとなる
400
200
0
-200
参加型の優先分配権を付した種類株式の場合、種
類株式のままExitした方が常に普通株式でのExitよ り有利となり、M&AによるExitのインセンティブが働く
-400
0 000 000 000 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 2,200 2,400
(百万円)
Exit 評価額
投資家
投資損益
注:表①の例と同様、投資家の種類株式の優先分配は投資額と同額を優先受領できる参加型とする。
図②は同様の事例のもと、投資家の種類株式の優先分配が投資額と同額(1.0 倍)を優先受領できる非参加型の場合である。非参加型の場合、優先分配を実施後に財産が残っていても分配を受ける権利が無い。今回の事例にあてはめると、優先分配は投資額と同額(1.0倍)であるから、投資した資金を回収することは出来るが種類株式のままでは利益を上げる事はできない。これに対し、普通株式の場合、2 億円を投資すると、持株比率が 20%であることから、投資家は評価額が 10 億円を超えてくると投資額を上回るリターンを得ることができるため、種類株式を普通株式に転換した方が有利となり普通株式に転換したうえ
で投資回収を図ることになる。
本事例では 2 億円から 10 億円の間は投資家の回収額が変わらないため、企業価値評価額の向上を支援するインセンティブが働きにくいという意見がある。一方で、投資家がリターンを得るためには種類株式を普通株式に転換する必要があるため、IPO に向けて普通株主との利害が完全に一致することはメリットと考えられる。
図② 優先分配(非参加型)を用いた際の投資家損益シミュレーション例
(百万円)
1,000
創業株主
VC(優先株式:優先分配1倍 非参加型)
VC(普通株式)
800
600 評 価 額 約 2 億 円 ~10 億 円 の 間 、 創 業 株
主の損益はプラス。VCの損益はは普通
株式ならマイナスだが、非参加型優先株
400 式 な ら 、 優 先 分 配 額 は 回 収 で き る
200
0
-200
VCは1.0倍以上のリターンを得るには種
類株式を普通株式に転換する必要があ
り、他の普通株主と利害が一致する
-400
0 000 000 000 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 2,200 2,400
(百万円)
Exit 評価額
投資家
投資損益
注:投資家の種類株式の優先分配は投資額と同額を優先受領できる非参加型とする。
みなし清算において重要なのは優先分配の総額である。種類株式を複数回発行し、優先分配される金額の累計額が増加すると、創業株主等の普通株主に M&A の売却代金が分配されにくくなる。種類株式を保有する投資家にとっても、種類株式が複数種発行され、それらの優先分配に優先劣後がある場合は、劣後する種類株式に分配が回ってくるには相応の企業価値評価額が必要となる。特に、優先分配により受けられる金額をその払込金額よりも高く設定した場合は、普通株主が M&A により分配を受けるハードルは高くなる。
一方、投資家にとっても優先分配による金額を回収しただけでは投資は成功とはいえず、十分なリターンが得られる M&A の企業価値評価額の水準は、資金調達を繰り返すほど高く なる。
種類株式を発行する際には、次の表②-1 乃至表②-3 のように、M&A が発生した際に、各株主にどのような分配がなされるかを常に意識しておく必要がある。
表②-1 資金調達を複数回行った場合の分配シミュレーション例(前提条件)
投資家 | 取得株式 | 株式数 | 出資比率 | 優先分配 | 投資額 | 投資時Post 時価総額 |
株 | 千円 | 千円 | ||||
創業株主 | 普通株 | 10,000 | 64.5 | - | 1,000 | 1,000 |
エンジェル | 普通株 | 1,000 | 6.5 | - | 10,000 | 110,000 |
VC1 | A種優先株 | 1,000 | 6.5 | 1.0倍(参加型) | 100,000 | 1,200,000 |
VC2 | B種優先株 | 1,500 | 9.7 | 1.0倍(参加型) | 300,000 | 2,700,000 |
VC3 | C種優先株 | 2,000 | 12.9 | 1.0倍(参加型) | 600,000 | 4,650,000 |
VC累計投資額 (本件では優先分配の累計額も同額) | 1,000,000 |
表②-2 資金調達を複数回行った場合の分配シミュレーション例(1)優先株は同順位
株主 | 創業株主 | エンジェル | VC1 | VC2 | VC3 |
保有株種類 | 普通株 | 普通株 | A種優先株 | B種優先株 | C種優先株 |
出資額(千円) | 1,000 | 10,000 | 100,000 | 300,000 | 600,000 |
M&A評価額 | 分配額 | ||||
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 |
300,000 | 0 | 0 | 30,000 | 90,000 | 180,000 |
500,000 | 0 | 0 | 50,000 | 150,000 | 300,000 |
800,000 | 0 | 0 | 80,000 | 240,000 | 480,000 |
1,000,000 | 0 | 0 | 100,000 | 300,000 | 600,000 |
1,155,000 | 100,000 | 10,000 | 110,000 | 315,000 | 620,000 |
1,500,000 | 322,581 | 32,258 | 132,258 | 348,387 | 664,516 |
2,000,000 | 645,161 | 64,516 | 164,516 | 396,774 | 729,032 |
3,000,000 | 1,290,323 | 129,032 | 229,032 | 493,548 | 858,065 |
5,000,000 | 2,580,645 | 258,065 | 358,065 | 687,097 | 1,116,129 |
10,000,000 | 5,806,452 | 580,645 | 680,645 | 1,170,968 | 1,761,290 |
注:種類株の優先劣後:A 種、B 種、C 種同順位。分配額が不足の場合、払込金額に比例して按分。
表②-3 資金調達を複数回行った場合の分配シミュレーション例(2)優先株に優先劣後有り
株主 | 創業株主 | エンジェル | VC1 | VC2 | VC3 |
保有株種類 | 普通株 | 普通株 | A種優先株 | B種優先株 | C種優先株 |
出資額(千円) | 1,000 | 10,000 | 100,000 | 300,000 | 600,000 |
M&A評価額 | 分配額 | ||||
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 |
300,000 | 0 | 0 | 0 | 0 | 300,000 |
600,000 | 0 | 0 | 0 | 0 | 600,000 |
900,000 | 0 | 0 | 0 | 300,000 | 600,000 |
1,000,000 | 0 | 0 | 100,000 | 300,000 | 600,000 |
1,155,000 | 100,000 | 10,000 | 110,000 | 315,000 | 620,000 |
1,500,000 | 322,581 | 32,258 | 132,258 | 348,387 | 664,516 |
2,000,000 | 645,161 | 64,516 | 164,516 | 396,774 | 729,032 |
3,000,000 | 1,290,323 | 129,032 | 229,032 | 493,548 | 858,065 |
5,000,000 | 2,580,645 | 258,065 | 358,065 | 687,097 | 1,116,129 |
10,000,000 | 5,806,452 | 580,645 | 680,645 | 1,170,968 | 1,761,290 |
注:優先株の優先劣後:C 種は A 種、B 種に対し優先。B 種は A 種に対し優先。
優先分配を設定した種類株式は相対的には資金調達が行いやすいものの、何度もこれに頼ると創業株主、投資家双方にとって投資資金の回収が難しくなっていくことについては十分に留意する必要がある。
<アドバイザリーボード委員>
株式会社メルカリ 執行役員 xxxx
オムロンベンチャーズ株式会社 インベストメントディレクター xxxx
KDDI 株式会社 バリュー事業企画本部 戦略推進部長 xxxxフォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士 xxx
スマートニュース株式会社 ヴァイス・プレジデント財務担当 xxx平株式会社メルカリ 取締役社長兼 COO xxxx
XXX 総合法律事務所 パートナーCEO 弁護士 xxxx早稲田大学大学院ビジネススクール 教授 xxxxx
(敬称略 氏名五十xx)
<プロジェクトメンバー>
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 企画部長 (インキュベイト・ファンド 代表パートナー) xxxx ※事業統括
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 VC ナレッジ部会長 (xx企業投資株式会社取締役) xxxx ※プロジェクトリーダー
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 会長(株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージング・パートナー)xxxxx
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 VC ナレッジ部会委員(株式会社 iSGS インベストメントワークス 代表取締役 代表パートナー)xxxx
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 VC ナレッジ部会委員 (ベンチャーユナイテッド株式会社 取締役 ベンチャーキャピタリスト) xxx
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 企画部マネージャー (株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ シニア・アソシエイト) xxxxx
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 事務局長 xxxx
協力法律事務所:リンクパートナーズ法律事務所 パートナー 弁護士&公認会計士 xxx
xxx情報総研株式会社 経営・IT コンサルティング部 上席課長 xxx
xxx情報総研株式会社 経営・IT コンサルティング部 事業戦略チーム xxxx
※ アドバイザリーボードの各委員は、2 回(1 回 2 時間程度)の委員会において、限られた時間の中で、意見を求められた点について意見を述べたものであり、また、本書に対して全体的な監修はしておらず、本書の内容は、各委員の意見と必ずしも一致しているものでありません。
また、本書は、各プロジェクトメンバー個人、及び各プロジェクトメンバーが所属する組織の意見を必ずしも反映したものではありません。