静岡銀行(頭取 柴田 久)では、SDGs への取り組みの一環として、相川鉄工㈱(社長 濁澤 光宏)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
2022.3.30
xx鉄工㈱と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(頭取 xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、xx鉄工㈱(社長 xx xx)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※企業活動が環境・社会・経済のいずれかの側面において与えるインパクトを包括的に分析し、特定されたポジティブインパクトの向上とネガティブインパクトの低減に向けた取り組みを支援する融資
1.契約日 3 月 30 日(水)
2.融資金額 3 億円
3.資金使途 運転資金
4.xx鉄工㈱の取り組みについて(詳細は「評価書」をご参照ください)
〇同社は製紙原料xx用機器の国内トップメーカーであるとともに、同技術を応用して広く産業機器・環境機器も手掛けています。「人造りから製品製造まで」をポリシーに一貫生産により付加価値の高いものづくりを行っています。
〇今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境 面 | ・次世代の環境素材として注目される CNF の普及促進(低コストで効率が良 い CNF 製造のための最適な叩解技術の開発、大学等と共同研究) ・製品提供を通じた地球環境保護(小容積のウェットエンドシステムや乾式破砕機など、省エネやリサイクルを促進する機器の開発) ・省エネ・創エネ促進による CO2 排出量の削減(低公害車・LED 照明への切り替え、xxx発電設置) | |
社会面 | ・地域の技術教育を支え、工業界に優秀な人材を輩出(xx高等学校の運営に携わり、優秀な技術系人材を多数輩出) ・従業員の安全衛生対策の徹底(3S 推進事務局による 3S 活動の推進、法令安全委員会による工場巡視、安全衛生面での人材教育と資格取得推奨) |
|
経済面 | ・高い技術力で製紙業界の発展に貢献(紙料xx工程を支える高性能機器を開発、試験センターで製紙メーカーと共同研究) ・リモートコミッショニングへの挑戦(遠隔試運転、遠隔支援の実用化) |
5.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入
人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】xx鉄工㈱の概要
所 在地 | xxxxxxxx 00-0 | 創 業 | 1924 年(大正 13 年)4 月 |
資 本金 | 100 百万円 | 売 上高 | 3,576 百万円(2021 年 12 月期) |
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:xx鉄工株式会社
2022 年3月 30 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
(4)ワーク・ライフ・バランスの実現とダイバーシティの推進 20
(5)次世代の環境素材として注目される CNF の普及促進 22
静岡経済研究所は、静岡銀行が、 xx鉄工株式会社(以下、xx鉄工) に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、xx鉄工の企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響およびネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」および ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
xx鉄工は、製紙原料xx用機器の国内トップメーカーである。また、この技術を応用して広く産業機器・環境機器も手掛けており、バイオマス原料xx設備や断熱材等に使われるセルロースファイバーの製造設備、化学・食品工場等の排水処理設備など、プラント設計・製造も得意としてい る。xx鉄工の強みは、一貫生産による高付加価値なものづくりにある。「人造りから製品製造ま で」をポリシーに掲げ、工業科を有する高校の運営を始めとする優れた技術者の育成・確保や、素形材を作成する部門から製品出荷までの一貫生産工程による品質管理、新鋭機械を駆使した高品質製造などを実現しているほか、充実したサービス体制による万全なアフターケアの実施、予備部品のための専門工場の設置による顧客ニーズに合わせた対応も可能にしている。
同社の事業活動が環境、社会、経済に与えるインパクトは幅広く、まず経済面では、紙料xxに関する高い技術力でxxにわたり製紙業界の発展に貢献してきた点、コロナ禍における人流制限や生産性の向上が問われる中、リモートコミッショニングの実現に積極的に取り組んでいる点が挙げられる。
また社会面では、“人造り”をポリシーとしていることから、工業科を有する高校を運営して地域の技術教育を支え、工業界に優秀な人材を輩出している点や、自社の従業員に対しても、ワーク・ライフ・バランスを実現させ、ダイバーシティを推進するとともに、安全衛生対策にも社を挙げて取り組むことで、誰もが生き生きと安心して働くことのできる環境を整備している点が特徴的である。
そして環境面では、次世代の環境素材として注目される CNF 用の叩解刃物を装着したディスク叩解機を開発するなど、産学官の連携による CNF 普及促進に参画しているほか、省エネ効果の高い製品、リサイクル促進のための製品など、製品提供を通じた地球環境保護にも貢献している。また、自社の事業活動においても省エネ・創エネに取り組んでいる。
本ファイナンスでは、以下のインパクトが特定され、それぞれに KPI が設定された。
【ポジティブ・インパクトの増大】
分類 | テーマ | 取組内容 | KPI(指標と目標) | インパクトレーダー | SDGs |
経済 | ①xx技術発表会 | ||||
高い技術力で製紙業界の発展に貢献 | 紙料xx工程を支える高性能機器を開発 試験センターで製紙メーカーと共同研究 | を、年に 1 回の頻度で継続して開催する。 ②試験センターにおける受託試験を年 20回以上実施する。 | 経済の収れん | ||
①2025 年までに、取 | |||||
引先における試運転 | |||||
や操作支援のうちリモ | |||||
リモートコミッショニングへの挑戦 | 遠隔試運転、遠隔支援の実用化 | ート割合を 20%以上とする。 ②2027 年までに、 IoT を活用した設備の | 経済の収れん | ||
メンテナンス予測分析 | |||||
システムを構築、実用 | |||||
化する。 | |||||
社会 | xx高校の運営に関与し、優秀な技術系人材を多数輩出 | ①引き続き、xx高 | |||
校の運営に携わり、地 | |||||
地域の技術 | 域に優秀な人材を輩 | ||||
教育を支 え、工業界に優秀な人 | 出する。 ②毎年、xx高校の生徒を実習生として 1 | 教育雇用 | |||
材を輩出 | 名以上受け入れ、工 | ||||
場や試験センターで実 | |||||
務を経験させる。 |
分類 | テーマ | 取組内容 | KPI(指標と目標) | インパクトレーダー | SDGs |
社会 | 休暇制度の充実で従業員の子育てを支援 障がい者、外国人、女性が活躍できる職場環境 | ①2025 年までに、子 | |||
育てを行う労働者の職 | |||||
業生活と家庭生活の | |||||
両立等を支援するため | |||||
の雇用環境を整備し、 | |||||
男性の育休取得率 | |||||
ワーク・ライ フ・バランスの実現とダイバーシティの推進 | 7%、女性の育休取得率 75%を達成する。 ②2030 年までに、女 性社員の割合を現在 | 雇用 包摂的で 健全な経済 | |||
の 13%から 30%に | |||||
引き上げるとともに、女 | |||||
性管理職を現状の2 | |||||
名から 5 名に増加させ | |||||
る。 | |||||
環境 | 低コストで効率が良 | ① 2024 年までに、 CNF 製造に関する新製品を2 件開発する。 ②CNF 製造装置を周知・普及させるために、環境関連展示会に年 2 回以上出展する。 | |||
次世代の環 | い CNF 製造のため | ||||
境素材として | の最適な叩解技術 | 資源効率・ | |||
注目される | の開発 | 資源安全確保 | |||
CNF の普及 | 大学等と共同研究 | 経済の収れん | |||
促進 | 環境関連展示会で | ||||
普及 | |||||
①2024 年までに、乾 | |||||
式破砕技術を応用し | |||||
小容積のウェットエン | たリサイクル関連装置 | 資源効率・ | |||
製品提供を | ドシステムや乾式破 | を1件開発する。 | 資源安全確保 | ||
通じた地球 | 砕機など、省エネやリ | ②2024 年までに、調 | 水 | ||
環境保護 | サイクルを促進する | 成工程における製造 | 大気 | ||
機器の開発 | 装置において、省エネ | 廃棄物 | |||
効果の高い新製品を | |||||
2 件開発する。 |
【ネガティブ・インパクトの低減】
分類 | テーマ | 取組内容 | KPI(指標と目標) | インパクトレーダー | SDGs |
社会 | ①3S 活動や工場巡 | ||||
視、事故発生時の原 | |||||
3S 推進事務局に | 因追及、再発防止対 | ||||
よる 3S 活動の推 | 策などを継続して実施 | ||||
従業員の安全衛生対策の徹底 | 進 法令安全委員会による工場巡視 安全衛生面での人 | し、毎年の労働災害ゼロを達成する。 ②2025 年までに、従 | 雇用 健康と衛生 包摂的で健全な経済 | ||
材教育と資格取得 | 業員の労働安全衛生 | ||||
推奨 | 意識の向上を目的とし | ||||
た社内制度を構築し、 | |||||
積極的に運用する。 | |||||
環境 | ①2025 年までに、 | ||||
自社のエネルギー使 | |||||
用量や CO2 排出量 | |||||
を測定する体制を整 | |||||
省エネ・創エネ促進による CO2 排出量の削減 | 低公害車、LED 照明への切り替え、xxx発電設置 | え、2030 年までの削減目標を設定する。 ②2025 年までに、 全社的な環境方針 | 気候変動エネルギー | ||
を策定し、方針に則っ | |||||
た年度目標を設定す | |||||
る体制を整える。 |
今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要
契約日および返済期限 | 2022 年3月 30 日~2029 年 3 月 31 日 |
金額 | 300,000,000 円 |
資金使途 | 運転資金 |
モニタリング期間 | 7 年 0 ヵ月 |
企業概要
企業名 | xx鉄工株式会社 |
所在地 | xxxxxxxxxxx 00-0 |
事業所 | xx工場(静岡xxx市) xx工場(静岡県静岡市駿河区)四国営業所(愛媛県四国中央市)東京営業所(xxx品川区) |
従業員数 | 246 名 |
資本金 | 1億円 |
業種 | 製造業(製紙原質機器) |
取扱品目 | 製紙原質機器・プラント・付属機器 原質機器(パルパー、スクリーン、叩解機、ディスパージョン等) 抄紙機用付属機器(各種ドクター、ファブリッククリーナー装置等)排水処理機器(加圧浮上装置) 各種機器用消耗品(バスケット、プレート、ブレード等) 等 |
主要取引先 | 日本製紙㈱王子製紙㈱レンゴー㈱大王製紙㈱ 特種東海製紙㈱ |
沿革 | 1924 年 xxxxx 創業 1934 年 合名会社xxxx鉄工所 設立 1941 年 学校法人xx学園 静清工業高等学校設立 1961 年 xx鉄工㈱ 設立 1989 年 ㈱xxエンジニアリング 設立 1991 年 xx技術センター 開設 1992 年 xx技術振興財団 設立 2012 年 ㈱xxトレーディング 設立 2013 年 旧本社工場跡地に「MARK IS 静岡」誘致 2016 年 旧本社工場跡地に日帰り温浴施設「xxの郷」開業 |
(2022 年 3 月 30 日現在)
1. サプライチェーンにおける役割および特徴
xx鉄工は、製紙原料xx用機器の国内トップメーカーであり、木材パルプ繊維を目的の紙製品に合った特性にxxする機械や、古紙原料に含まれる異物を除去し、精選古紙パルプを製造する工程の機械を製造している。国内でこれらの製紙原料xx用機械をすべてラインナップしている唯一のメーカーである。また、そうした技術を応用して広く産業機器・環境機器も手掛けており、バイオエタノール製造プラント等のバイオマス原料xx設備や、断熱材等に使われるセルロースファイバーの製造設備、化学・食品工場等の排水処理設備、食品残渣の堆肥化や飼料化等の廃棄物リサイクル設備など、プラント設計・製造も得意としている。
創業は 1924 年と古く、祖業は鋳造業であり、その後 1954 年に日本で初めての連続式紙料xxx「スーパーリファイナー」を開発、そして 1959 年には「デラックス・ファイナー」や「シングルディスクリファイナー」を、1967 年には「ダブルディスクリファイナー」を開発するなど、製紙原料xx用機器市場を牽引してきた。この間、海外の先進的な技術を取り込むために、オットーシーストレッカー社
(旧西ドイツ、1959 年)、ロディング社(アメリカ、1965 年)、ラモー社(フランス、1970 年)、ELP 社(カナダ、1985 年)、CTP 社(フランス、1987 年)、ポセイドン社(カナダ、 1993 年)、KADANT 社(アメリカ、2001 年)など、海外メーカーと技術提携を結んだ。
ダブルディスクリファイナー
RF シングルディスクリファイナー
<一貫生産とアフターフォローに強み>
xx鉄工の強みは、一貫生産による高付加価値なものづくりにある。「人造りから製品製造まで」をポリシーに掲げ、工業科を有する高校の運営を始めとする優れた技術者の育成・確保や、素形材を作成する部門から製品出荷までの一貫生産工程による品質管理、新鋭機械を駆使した高品質製造などを実現しているほか、充実したサービス体制による万全なアフターケアの実施、予備部品のための専門工場の設置による顧客ニーズに合わせた対応も可能にしている。
具体的には、受注から設計、鋳鉄・鋳鋼、機械加工、組立、検査までの生産体制を社内に構 築しているほか、現場据付・試運転立会いやアフターケアまでトータルでフォローしている。保有する 要素技術としては、鋳造・鋳鋼、機械加工、溶接、曲げ、研磨、塗装、酸洗など幅広く、製紙原料xxのための攪拌・分散、異物除去、解繊・粉砕、洗浄・水処理などの工程を網羅している。そのため、単体の機械のみならずプラント全体をターンキーベースで受注することができ、家庭紙、板紙、洋紙など紙の種類も問わない。
アフターフォローの充実も同社の強みである。営業部では、北海道から九州までを8地区に分けそれぞれ1~3名の営業担当を置いている。営業担当は、顧客を訪問し、設置した機械の操業状況や新規のニーズをヒアリングしており、営業部だけでは対応できないケースでは技術部がフォローする体制が取られている。また、海外取引先をフォローする営業担当も2名配属している。
グローバルな販売力も同社の競争力の源泉となっている。1988 年に、初の海外拠点となるファイバープレップ社をアメリカに設立したほか、2004 年には中国に嘉興相(後の AFT CHINA)を設立、また、2006 年には、全世界に販売チャネルを有するカナダの Advanced Fiber Technology 社(AFT 社)とフィンランドの POM Technology (POMT 社)の 2 社を子会社化し、世界市場への足掛かりを築いた。
現在、相鉄工、AFT、POMT の 3 社が一体となって AIKAWA GROUP を形成し、世界市場に向けて、製紙用原料xx機械並びに抄紙機アプローチフロー技術およびリファイニングプレート、スクリーンシンダー、ローター、ドクターブレード等の中核消耗品に関して、世界最先端の技術、製 品、サービスを提供するリーディングサプライヤーを目指している。
<品質・納期・コストの最適化を実現する一貫生産体制>
<適切な廃棄物処理と環境対策の徹底>
相鉄工で材料として使用される素材は、主に鋼種(ステンレス、鉄)であり、端材や切粉は 有価物として全量リサイクル処理されている。また、梱包材としての段ボールや雑紙、あるいは廃油 も、全量を古紙回収業者やリサイクル処理業者が買い取っている。一方で、廃プラスチック、木屑、研磨汚泥、排水汚泥、コンクリートガラ、ガラス屑、砥石屑、切削液等の産業廃棄物については、マニュフェスト処理を徹底している。
同社の製造工程には鋳造、塗装、研磨、酸洗など、粉塵や排水等を伴う工程があるが、地球 環境や作業者の人体への影響を極力軽減させるようソフト・ハード面の対策を講じている。ソフト面では、作業者は決められた保護具を着用するとともに、係ごとに職場巡視をして巡視項目を基にチェックをしている。基準に満たない場合は、安全管理者および所属長が指導する。ハード面では、自 社内に排水設備を整備し、基準値内での河放流を徹底するとともに、排水分析や環境測定 は、定期的に専門業者が実施し、記録として残している。
このように、相鉄工では、法令遵守の廃材・廃棄物処理を徹底しており、こうした取組みは、インパクトレーダーの水、大気、土壌、資源効率・資源安全確保、廃棄物に該当する。
<本社跡地を活用し、にぎわい創出に貢献>
相鉄工は、JR 東静岡駅に隣接する約 26,000 ㎡の旧本社工場跡地に、2013 年、大型 ショッピングモール「MARK IS 静岡」を誘致した。三菱地所プロパティマネジメント㈱と連携した同プロジェクトは、静岡市内における初の大型ショッピングモール誘致として話題となり、現在も市民の買い物ニーズを満たすほか、にぎわい創出に大きく貢献している。なお、同社は地主としてだけでなく、 開業前年の 2012 年には 100%出資子会社として㈱相トレーディングを設立し、飲食店や雑 貨店などを展開してきた。ファミリー層を中心とする来店客のニーズをくみ取ることで、業態やメニューを常に見直しながら最適な店舗配置を設定し、現在、MARK IS 静岡内に飲食店を8店舗運営している。
さらに、同じく旧本社工場跡地を活用して、㈱相トレーディングが日帰り温浴施設「xxの郷」を 2016 年に開業した。地下 1,500mから汲み上げた天然温泉の露天風呂と、県内最大規模の岩盤浴フロアが魅力の同施設は、オープン当初から市民の憩いの場として位置づけられ、2021 年には「第 15 回 ニフティ温泉年間ランキング 2021」の静岡県ランキングで、総合1位、ベストオブ岩盤xx1位、ベストオブおふろ賞1位を獲得した。一般的に日帰り温浴施設は高齢客が多い 中、xxの郷では価格設定を比較的低く抑えるとともに、食事メニューを充実させ、リクライニングコーナーにコミックや絵本を充実させるなど、ファミリー層を意識した運営をしていることから、家族層や学生の来場客が多いのが特徴である。このxxの郷は、2020 年に、静岡市と「災害時における入浴施設に関する協定」を締結している。これは地震や風水害などの災害が発生した際に、xxの郷を被災者に開放し、入浴の機会を提供するというものである。入浴施設の提供に関する協定は静岡市として初の試みであるが、有事の際に被災者が最低限の健康的な生活を確保できると期待されている。
このように、相鉄工では、周囲が市街地化された旧本社工場跡地に大型ショッピングモールや日帰り温浴施設を誘致し、運営することによって、市民の余暇活動を充実させるとともに、街のにぎわい創出に大きく貢献している。
2. 業界の動向
【製紙業界の需給動向】
日本製紙連合会が発表した「2022 年 紙・板紙内需見通し報告」によると、2021 年の紙・板紙の内需は 2,331 万トンと前年比で+1.6%増加したが、2014 年比では▲15.0%と漸減傾向にある。また、2022 年の見通しは 2,316 万トンと前年比で▲0.7%の微減となることが予想されているが、これは過去のピークだった 2000 年(3,197 万トン)の 7 割強の水準となる。
同連合会では、内需に与えるプラスの要因として、コロナ禍による景気落ち込みからの回復基調や衛生意識の高まり、ネット通販等 EC の拡大、脱プラスチックによる紙化の動き、食品・化粧品・健康関連市場の伸びなどを挙げるとともに、2022 年は北京冬季オリパラや FIFA ワールドカップ等の世界的なイベント開催も押上げ要因として見ている。一方で、マイナス要因としては、人口減少や少子高齢化といった構造的な問題から、情報・広告分野を中心としたデジタル化の加速により、新聞・雑誌向け使用量の減少、業務におけるペーパーレス化、書面や押印の見直し、スマートフォン等の利用拡大など、働き方や生活習慣の変化に伴う要因、そして SDGs の浸透も背景とした包装様式の変化(省包装、簡易包装、包装資材の他素材へのシフト、マイバッグ定着)も、紙需要にとっては押下げ要因と指摘している。
また、経済産業省の「生産動態統計年報」によると、2020 年の製紙パルプの生産量は 706 万トンと、2016 年の 864 万トンの8割強の水準にまで落ち込んでいる。
このように、紙・板紙やパルプの国内需要は減少しており、わが国の製紙業は全体的に緩やかな退潮局面にあるとみられ、製紙機械メーカーに対するニーズとしても、従来の高速・量産への対応から、省力化・省人化や安全性、環境性能などに変化している。
紙・板紙内需
出典:日本製紙連合会「2022 年 紙・板紙内需見通し報告」
【製紙業界が進めるカーボンニュートラル】
日本製紙連合会では、2012 年に「環境行動計画」を策定し、2021 年 2 月に6回目の改訂を行っている。同計画では、①低炭素社会の実現、②自然共生社会の実現、③循環型社会の実現、➃環境リスク問題への対応、⑤環境経営の着実な推進の5つを環境方針に掲げ、環境方針ごとに行動方針を設定している。
また同連合会では、2013 年度から、低炭素社会の実現に向けて「低炭素社会実行計画」をスタートさせ、毎年フォローアップを実施している。同計画は 2021 年度から「カーボンニュートラル行動計画」に名称変更し、「カーボンニュートラル行動計画フェーズⅡ」では、基準年を 2005 年度とし、 2030 年度までに BAU(特段の対策のない自然体ケース)からの CO2 排出量を 466 万トン削減することを掲げており、これには最新の省エネ設備・技術(BAT)の積極的導入が柱としている。
このように、大量の電力や重油等を使用する製紙業界では、“環境”や“脱炭素”への対応に積極的に取り組んでおり、SDGs やカーボンニュートラルの考え方が浸透しつつある近年、その傾向は益々強まっている。その成果は現れており、日本製紙連合会技術環境部の報告「紙パルプ産業のエネルギー事情 2021 年度版」によると、紙・板紙生産額に占める主要エネルギー費及び紙・板紙生産額に占める主要エネルギー費比率は、約 30 年前の 1981 年にはそれぞれ 5,288 億円、 21.8%だったのが、2019 年には 1,687 億円、6.4%に低減している。
紙・板紙生産における主要エネルギー費と生産額に占める比率の推移
出典:日本製紙連合会「紙パルプ産業のエネルギー事情 2021 年度版」
以上のように相鉄工の企業概要や特徴および同社が属する業界動向を総合的に勘案した上で、UNEP FI のインパクト評価ツールを用いて網羅的なインパクト分析を実施し、ポジティブ・ネガティブ両面のインパクトが発現するインパクトカテゴリーを確認した。そして、同社の活動が、環境・社 会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に貢献すべきインパクトを次項のように特定した。
3. インパクトの特定および KPI の設定
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>経済
<インパクトレーダーとの関連性>経済の収れん
<SDGs との関連性>
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
<KPI(指標と目標)>
①相 技術発表会を、年に 1 回の頻度で継続して開催する。
②試験センターにおける受託試験を年 20 回以上実施する。
<インパクトの内容>
相鉄工のインパクトの1つとして、高度な製品開発力によって長年、世界の製紙業界を牽引 してきたという経済面への貢献が挙げられる。抄紙工程の前段階となるパルプ製造・古紙処理工程において、パルプ繊維を叩解する「リファイナー」や、古紙を攪拌して繊維をほぐす「パルパー」、異物を除去する「スクリーン」などの機械を開発・製造することで、紙の品質向上や古紙のリサイクル、歩留り向上にとって最も重要な「紙料調成」の工程を支えてきた。
同社ではこれまでに、日本で初めてとなる連続式紙料調成機「スーパーリファイナー」を開発したのを皮切りに、ADS型ダブルセパレーター、ADC型ダブルコニファイナー、連続式デトラッシャー Success-PALなど、世界に誇る製品を相次いで開発している。これは、技術本部と営業本部に、最新の技術情報やユーザーニーズが集約され、開発本部が新型機械やシステム開発設計を担当、製造本部や生産管理本部、設計本部がそれらを実現させるという、製品開発に対する強固な社 内体制が構築されていることが大きな要因である。実際に、技術、開発、営業などが参加する部署横断的な「製品開発会議」が四半期に一度開催されるなど、情報共有を密にして日々情報のアップデートを図っている。また、こうした自社技術を広く周知するとともに顧客ニーズを収集することを目的に、「相技術発表会」を1986年以降、毎年5月頃に定期開催している。取引先他を多数招待し、座学での技術発表と試験室でのデモンストレーション、製造工場での実際の製品展示を通じて、その1年で開発した自社技術のお披露目をしたり、来場者と新ビジネスを構想する場として一 定の成果が出ている(直近2年はコロナの影響でリモート開催)。
こうした積み重ねの結果、紙パルプに関する技術開発、研究開発に顕著な成果を上げ、紙パルプ技術の進歩発展に大きく寄与し、紙パルプ業界に貢献のあった企業を表彰する「佐々木賞」(紙パルプ技術協会主催)を、1989年以降、過去10回受賞しているほか、1968年には、経済的、
社会的に優れた成果を上げている企業を顕彰する「グッドカンパニー大賞」(公益社団法人中小企業研究センター主催)を受賞している。
さらに、相鉄工は、1991年に「試験センター」を設立。自社で製造するすべての原料調成機 器を配置し、単品機器や複数の機器のシステム的運転により、原料調成に関するあらゆる調査、 研究、開発を実施している。核となるのが、原料調成パイロットプラントで、パルパー溶解工程から離解・叩解工程、高濃度分散工程、スクリーン工程など、一連の工程を「15T/D」ぺースでのセミ・コンティニュアンス運転を可能としている。さらに、すべての運転状況がCRT画面に映し出され、実操業と同じ条件で稼働状況管理が行われる。この試験センターは、同社が機械やシステムを新たに開発する上で重要な実地試験場であるとともに、取引先からの持ち込み試験の場としても活用されている。製紙メーカーは24時間フル稼働しているケースが多く、操業を止めての試験ができないため、多い時で年間30件以上の受託試験に対応している。こうした受託試験には、秘密保持契約(NDA)を締結した上で、製紙メーカーなどの顧客担当者も立会いの下で実施されるケースが多い。
相鉄工では、理論的な解析・分析も重んじている。開発本部では、コンピューター上で流体解析をすることで機器内におけるスラリー(紙原料)の流れや動きを分析したり、スリットを通過する繊維の動きを仮想的に把握している。微細な粒子の流れや物の動きを事前に検証した上で設計・開発することによって、開発効率の向上、コストと時間の削減に大きな効果がある。
このように、相鉄工は、その卓越した技術力・開発力で製紙業界をリードし、業界内でも一目置かれる存在となっている。ペーパーレス化が進む中にあっても、生活、ビジネスなど多方面において欠かせない存在である“紙”の製造、環境問題からプラスチックなどの代替素材として見込まれている “木質繊維製品”の開発を支えていることは、経済面において大きな貢献が認められ、インパクトレーダーの経済の収れんに該当すると評価される。
静岡銀行は、相 鉄工が今後も高い技術力・開発力を保持し、製紙メーカーの生産性向上や紙の品質向上に挑戦し続けることを確認するために、同社がKPIとして設定した相技術発表会の継続開催や、試験センターにおける受託試験回数をモニタリングしていく方針である。
<相鉄工の「佐々木賞」受賞における対象技術一覧>
受賞年度 | 対象技術 |
1989 | ダブルセパレーター |
1996 | ファイン・スクリーン及びファインリジェクト・スクリーンの開発 |
2000 | グランフロー型スクリーン |
2002 | 新型高濃度パルパー及び異物除去システム |
2006 | 既設PSスクリーンのID化 |
2009 | ADC型ダブルコニファイナー |
2010 | 高効率4軸ニーダー(UVブレーカー) |
2011 | ファインバー(Finebar)叩解刃物 |
2013 | Max Flow Screen |
2018 | 高圧水型カンバス洗浄装置スーパークリーナーWET(ブロワー吸引型) |
<試験センターでの代表的な試験項目>
工程 | 試験・設備内容 |
パルパー離解工程 | 低濃度、中濃度、高濃度で離解するマキシパルパー、高濃度パルパーを設置。パルパーからの異物の連続廃棄試験にも対応 |
離解、叩解工程 | トップファイナー、セブンファイナー、ダブルディスクリファイナー、シングルディスクリファイナー、ダブルコニカルファイナーを設置。リファイナーには100種類以上のディスクパターンを準備し、粘性、カッティング、省エネルギー、特殊叩解等 あらゆる原料処理試験に対応 |
スクリーン工程 | グランフロースクリーン、MaxFlowスクリーンなどを設置、粘着異物、微細夾雑物の除去試験に対応する。同工程からのテールは連続的にテールスクリーン工程で再処理され、実際操業と同様カスケード、先送りのシステム試験 が選択可能 |
クリーナー工程 | 高濃度クリーナー、各種低濃度クリーナーと軽量異物用ハイスピードクリーナーを設置。粗大&微細重量異物の除去から軽量異物の除去まで実際のプラントと同条件で試験が可能 |
テールスクリーン工程 | MaxSaver、DRS型ダブルリジェクトスクリーン、JF型ジャボロファイナー、 MTS型マキシトラッシャー、MCS型マキシセパレーター、FR型リジェ クトスクリーンを設置し、あらゆる種類のテール処理試験に対応 |
高濃度分散工程 | 1軸、及び4軸式ニーディング型と高速コニディスク型の2種類のディスパーザーを設置。単独およびシリーズでの試験が可能。高濃度熟成前後、フローテーションの前後などの位置変更にも対応 |
フローテーション工程 | 最新型ハイパーセルフローテーターを設置。原料希釈には循環濾液が使用され、実操業と同一条件での試験が可能 |
中央コントロール室紙料分析室 | 設備の運転・制御はすべて中央コントロール室で行われ、運転状況はCRT画面上に表示される。必要な運転データは即時プリントが可能。紙科分析室では、予備試験の実施やサンプル原料の性質や紙力等の調査を実施 |
CNF&MFC用叩解工程 | 1.0m3パルパー、小型中継タンク、高粘度原料対応ポンプ、14”ラボリファイナーを備え、小容量・高叩解によるCNFやMFC原料製造試験に対応 |
乾式解繊工程 | 34”リサクルファイナー、14”ラボリファイナーと各々のフィードスクリュー、集塵装置などを備え、様々な原料の乾式解繊試験に対応 |
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>経済
<インパクトレーダーとの関連性>
経済の収れん
<SDGs との関連性>
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
<KPI(指標と目標)>
①2025 年までに、取引先における試運転や操作支援のうちリモート割合を 20%以上とする。
②2027 年までに、IoT を活用した設備のメンテナンス予測分析システムを構築、実用化する。
<インパクトの内容>
相鉄工では、遠隔での試運転や操作支援を行うリモートコミッショニングに挑戦している。コロナ禍もあって、特に海外取引における現地での試運転や操作支援が困難な状況にある中、自社に居ながら遠隔で操作・支援が実施できるシステムを構築した。
たとえば、パルプ叩解設備の遠隔試運転においては、相 鉄工のパソコンと取引先のパソコンをインターネットで接続し、相鉄工の電気計装設計課の社員が自社のパソコンを操作することで、取引先のパソコン経由で PLC を動かし運転させる。操作時には、取引先のエンジニアと LINE 通話をしながら、結線、入出力、パラメータ設定、ドライラン確認などを口頭で説明・確認することで、先方の担当者の理解も深まるという。
また、スマートグラスなどを応用した遠隔支援も実用化している。これは、取引先の技術者がスマートグラスを装着すると、その視界を高解像度で相鉄工のサポート担当者に共有できる仕組みである。取引先の技術者がワイヤレスマイクとイヤホンで、作業しながら機械の実状報告をしたり、次の作業の指示を受けることが可能となる。リアルタイムで同じ視界、同じ情報を共有することで、作業 効率は格段に高まる。このスマートグラスによる遠隔支援は、2022 年1月にオーストラリアに納入したバガスパルプ叩解設備から実際に運用している。
そして将来的には、設備の故障予測を24時間体制で行うことによる、最適なメンテナンス体制の構築を目指している。具体的な構想としては、IoTを活用することで、①故障の兆候をセンサーが捕捉してデータを送信、②データを分析し故障を特定、③最適な対策提案でビジネスプロセスを開 始、➃サービス担当を自動的に派遣、⑤故障前に設備を計画停止、修理、復帰させるというフローである。
このように、相鉄工では、技術本部が中心となって、リモートでの顧客サポート体制の構築に取り組んでいる。顧客の多くが設備を24時間フル稼働する製紙メーカーであり、また海外取引先も多い中、顧客の利便性向上と自社の作業負担の軽減、そして両者の経済的価値の創出を目的に、近年注力している分野であり、インパクトレーダーの経済の収れんに該当する。
静岡銀行は、相 鉄工のリモートコミッショニングへの取組みが、業務効率化を図りつつ、顧客と密接にコミュニケーションを取ることで信頼を獲得できるツールであると、その挑戦を支持する。さらなる精度の向上と新サービスの開発を確認するために、同社がKPIとして設定した取引先における試運転や操作支援のうちのリモート割合、IoTを活用した設備のメンテナンス予測分析システムの構築・実用化の実現をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>社会
<インパクトレーダーとの関連性>教育、雇用
<SDGs との関連性>
4.3 2030 年までに、全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。
4.4 2030 年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
4.5 2030 年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子供など、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。
<KPI(指標と目標)>
①引き続き、静清高校の運営に携わり、地域に優秀な人材を輩出する。
②毎年、静清高校の生徒を実習生として 1 名以上受け入れ、工場や試験センターで実務を経験させる。
<インパクトの内容>
相鉄工は、日本の製造業を支える若い技術者を養成したいとの思いと、地元経済界からの熱い要望もあって、1939 年、社員の養成学校として「相青年学校」を開設。その後 1941 年に、財団法人相学園を設立し「静清工業学校機械科」を開校、1948 年に新学制により「静清工業高等学校」を設置、1950 年に学校法人相学園を設立し学校法人化している。開校当時は機械科のみであったが、1952 年に電気通信科、1971 年に電気科を設置し、時代の要請に合わせて教育領域を拡充させてきた。
そして、2010 年に普通科の設置に伴い「静清高等学校」に校名を変更。現在は、文理探求科
(文理探求コース、スポーツ探究コース)、工学探求科(メカトロニクス・情報工学コース、機械システム工学コース、電気システム工学コース)の2科・5コース(学年定員 240 名)で、“人間力の育成”を土台とした“考える力の育成”に主眼を置いた教育を実践している。一方で、野球部は春夏併せて過去2回甲子園に出場し、プロ野球選手を5名輩出しているほか、バレーボール部は春高バレーに出場するなど、部活動にも力を入れており、人間力の育成を通じて子どもたちの「生きる 力」を伸ばしている。
静清高等学校では、建学の精神である「社会に貢献しようとする強い使命感と豊かな人間性を備えた人材の育成」の下、建学の目的として「学校と産業界(企業)が協力し、一体となって教育
を行うという「産学一体」の理念に基づき、理論は教室で学び、実習は工場で行い、信義に篤く、人柄の良い、理論と実践能力を兼ね備えた優秀な技術者の育成」を掲げ、新鋭機械・施設や開発試験設備を充実させるとともに、経験豊かな多数の熟練技術者による直接指導を実現している。相鉄工でも、機械専攻の生徒を中心に、毎年 20 人~40 人の実習生を受け入れ、工場や試験センター等において、実際に機械を操作させることで現場作業を経験させている。
このように、「人造りから製品製造まで」をポリシーに掲げる相鉄工では、高等学校の運営に深く関わることで人材育成に貢献している。同社では、静清高等学校の卒業生を積極的に雇用しており、一定年齢以上の製造部門の社員はほとんどが旧静清工業高等学校の出身者であるほか、会社全体でも約4割に当たる 97 名が同校の卒業生である。また、開校 80 年を超える静清高等学校は、これまでに 13,000 人以上の優秀な人材を輩出しているが、その多くが地元の製造業者を 中心に県内企業に就職し、地域産業を支える貴重な人材となっている。こうした取組みは、インパクトレーダーの教育、雇用に該当するものと評価される。
静岡銀行は、相 鉄工が、今後も静清高等学校の運営に深く関わり、次世代を担う子供たち
に教育の場を提供し、地域に優秀な人材を輩出し続けることを確認するために、同社がKPIとして設定した実習生の受入れ状況をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>社会
<インパクトレーダーとの関連性>雇用、包摂的で健全な経済
<SDGs との関連性>
5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
8.5 2030 年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
<KPI(指標と目標)>
①2025 年までに、子育てを行う労働者の職業生活と家庭生活の両立等を支援するための雇用環境を整備し、男性の育休取得率 7%、女性の育休取得率 75%を達成する。
②2030 年までに、女性社員の割合を現在の 13%から 30%に引き上げるとともに、女性管理職を現状の2名から 5 名に増加させる。
<インパクトの内容>
相鉄工では、経営理念の一つに「各自が役割を自覚し、英知と総力を結集して、明るく働きがいのある職場を確立する」を掲げ、従業員が自己成長を実感しながら、ワーク・ライフ・バランスを実 現し、多様性のある職場の中で、生き生きと働くことのできる環境整備に取り組んでいる。
その一環として、2019 年3月に、次世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」を作成した。この中では、「女性の産後の継続就業率向上の促進」や「子どもが生まれる際の父親の休暇取得の促進」、「子どもが生まれた後の両親の休暇取得の促進」、「ノー残業デーその他の導入による所定外労働の削減」、「インターンシップ(学生の就業体験)を通じた若年者の安定就労の促進」といった5つの項目について、2021 年度までの目標を設定している。実際、妊娠中や 出産後の女性従業員が気軽に相談できる窓口を設置したり、出産休暇・育児休暇の利用を促進した結果、3 名が出産後に職場復帰するなど女性従業員の出産後の継続就業率向上に寄与し ている。また、子育てを行う従業員の仕事と家庭の両立を図るために、休暇制度の周知と職場理 解の醸成を進めた結果、配偶者出産のための休暇取得者 3 名、子どものイベントや通院等のための有給休暇取得者 5 名など、子育て世帯への休暇取得が浸透している。そして、インターンシップについては、従来、関連の静清高等学校から実習生を受け入れているが、新しいインターンシップ制度
の体系を整備し、2021 年度は大学生などインターンシップを 1 名受け入れ、学生の就業体験に貢献した。
従業員の人材育成についても重要課題と認識しており、2021年に、相鉄工の100%子会社として㈱ヒューマンサポートを設立し、グループ会社全体の研修や人材育成等を企画・実施してい る。運用においては、部署ごとのOJTを基本としているが、外部の研修機関と連携することで、リーダーシップ研修、マネジメント研修などの階層別研修や、営業研修等の部門別研修を充実させてい る。また、資格取得も推奨しており、施工管理技士や管理技術者、有機溶剤作業主任者など業務に必要な資格については、受験料や更新料など取得経費の一部を会社が負担している。
相鉄工では、ダイバーシティ(雇用の多様化)にも積極的に取り組んでいる。障がい者を2名雇用しており、障がいの特性に応じた業務を担当させることで能力発揮に努めている。法定雇用率 2.3%を超えていないため、今後も、同社の希望に適した人材がいれば、障がいの有無に関係なく 採用していく方針である。
外国人は9名雇用しており、設計部、生産技術部、情報システム部、素形材部、製造部などで活躍している。同社では国籍にこだわらず、能力や適正に応じて採用する方針を一貫して取っており、外国人についても正社員として雇用し、給与面の待遇や昇格・昇給にも差がない。なお、中国の華南理工大学とのつながりから、技能実習を目的に3名受け入れている。
女性が活躍できる環境整備にも努めており、前述の「一般事業主行動計画」において取り組ん でいるように、時短制度や産休・育休制度を促進してきた。こうした制度の充実によって、女性社員の割合を現在の13%から上昇させることを目標としている。また、現在、女性の課長と課長代理がそれぞれ1名いるが、能力のある女性を管理職等の要職に登用することも積極的に進めていく方針である。
ダイバーシティの一環として、また地域への貢献として、地元焼津市の野球クラブチーム「焼津マリーンズ」の選手を、2022年4月に3名採用する予定である。スポーツと仕事の両立を応援することで、職場の一体感醸成を目的としている。
なお、相 鉄工では、永年勤続者に対する表彰制度を設けており、勤続10年以降、5年ごとに表彰金を進呈、最長の35年勤続者には20万円を進呈するとともに、職場全体で対象者を表彰する風土が生み出されている。
このように、相鉄工では、従業員の柔軟な働き方を推奨し、モチベーション高く、やりがいを感じながら働ける環境を整備するとともに、地域においても優良な雇用の場を創出しており、インパクトレーダーの雇用、包摂的で健全な経済に該当する。
静岡銀行は、相 鉄工が、今後も従業員のワーク・ライフ・バランスを応援し、多様な人材を受け入れる風土を維持し続けることを確認するために、同社がKPIとして設定した従業員の育休取得 率、女性社員の割合や女性管理職の人数をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>環境
<インパクトレーダーとの関連性>
資源効率・資源安全確保、経済の収れん
<SDGs との関連性>
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
15.1 2020 年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する。
17.17 さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する。
<KPI(指標と目標)>
①2024 年までに、CNF 製造に関する新製品を2件開発する。
②CNF 製造装置を周知・普及させるために、環境関連展示会に年 2 回以上出展する。
<インパクトの内容>
相鉄工では、CNF(セルロースナノファイバー:Cellulose NanoFiber)を製造するための 叩解刃物「Finebar®Plate」を装着したディスク叩解機を開発した。CNF とは、木質繊維をナノレベル(100 万分の 1mm)にまで微細化した新素材で、鋼鉄の5倍の強度と5分の1の軽さ で、低熱膨張、高リサイクル性、再生可能で安心・安全な天然物といった特徴を持つ。用途として は、プラスチックフリーでリサイクル可能な紙器、食品・化粧品のクリームの保湿・増粘剤、軽量化と 耐久性を両立したランニングシューズ、パーツの軽量化により CO2 排出量を軽減する自動車、蓄電性能を活用した乾式で軽量のスーパーキャパシタ(完全個体物理蓄電体)など幅広い。また、この CNF に強力な蓄電効果があることを東北大学の研究チームが発見した。CNF の表面形状を制御したナノサイズの凹凸面を作り出すことにより、乾式で軽量のスーパーキャパシタ(完全固体物理電池)開発に成功したと発表している。これにより再生可能エネルギーの大量備蓄やそれに伴う CO2排出量の大幅削減の可能性が示唆されており、CNF 需要の拡大が期待されている。
同社が開発した叩解刃物「Finebar®Plate」は、0.6mm×1.0mm の狭小刃型のため、微細繊維をさらに解繊できるほか、組立方式で製造するため、刃幅や溝幅を自由に設計・製造できることも特長である。静岡県工業技術研究所富士工業技術支援センター内にある「ふじのくに CNF研究開発センター」や、早稲田大学、長岡技術科学大学など、産官学での協力開発体制を構築するとともに、同社においても試験センター内に CNF 試験設備を置き、新規事業開発部が中心と
なって実用化に向けた研究開発を進めている。こうして開発したリファイナーや叩解刃物などのセルロースナノファイバー製造設備は、「ふじのくに CNF 総合展示会」や「エコプロ 2021 ナノセルロース 展」、「INCHEM TOKYO2021」など、環境関連の展示会にて PR している。
このように、相鉄工では公設試験研究機関や大学等と連携しながら、次世代の環境素材として注目されている CNF の実用化に向けて、その製造装置の開発に注力し、CNF 製造各社への CNF 製造設備の販売や新叩解刃物の開発などの実績を残している。こうした取組みは木材の有効活用とそれに伴う森林資源の保護という観点から、環境面に与えるポジティブなインパクトが認められ、インパクトレーダーの資源効率・資源安全確保に該当するとともに、次世代技術としての可能性から経済の収れんにも資する取組みと評価される。
静岡銀行では、相 鉄工のCNFに対する継続的な研究開発への取組みを確認するために、定量的な指標として、同社がKPIとして設定した新製品の開発件数や環境関連展示会への出展件数をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>環境
<インパクトレーダーとの関連性>
資源効率・資源安全確保、水、大気、廃棄物
<SDGs との関連性>
6.3 2030 年までに、汚染の減少、投棄の廃絶と有害な化学物・物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模で大幅に増加させることにより、水質を改善する。
7.3 2030 年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる。
9.4 2030 年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。
11.6 2030 年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。
<KPI(指標と目標)>
①2024 年までに、乾式破砕技術を応用したリサイクル関連装置を1件開発する。
②2024 年までに、調成工程における製造装置において、省エネ効果の高い新製品を 2 件開発する。
<インパクトの内容>
相鉄工が手掛ける製紙原料調成機器は、回収古紙から異物やインク等を除去して再生紙 原料を製造する機械であり、紙をリサイクルするための出発点ともいえる機械である。また、バージン パルプの調成機器においても、目的とする紙製品の品質に合うようにパルプの特性を調成すること が、紙の品質向上や不良率低減など抄紙工程の生産効率向上につながることから、木材等森林資源の有効活用に資する重要な役割を担っている。つまり、同社は製紙メーカー等への製品提供を通じて、森林資源の保護と、それに伴う生態系の維持や、水、大気等の汚染防止に貢献していると認められる。
さらに近年、製紙メーカーをはじめとした取引企業では、省エネルギーやリサイクルを促進する動きが広がっており、相鉄工に対しても、よりエネルギー効率の高い機器や、製品リサイクルを実現するための機器の開発ニーズが高まっている。同社でもそうしたニーズに対応し、代表的なものとして以下のような新製品を開発した。
① 画期的に小容積の「POM コンパクトウェットエンドシステム」
同社が開発した「POM コンパクトウェットエンドシステム」は、乾燥工程の前段階であるウェットエンドをコンパクト化することで、設置面積の極小化、建設コストの削減、システムの省エネルギー化、機械稼働の安定性向上、迅速な抄き出し、抄き替え時間の短縮、製品欠陥の低減、洗浄時間の短縮、薬品量の削減などを実現した。具体的には、一般的なウェットエンドでは標準装備となっているミキシングチェスト、マシンチェスト、白水サイロ、シールピット、デキュレーターをすべて省略すること で、容積は従来機比 10 分の 1~15 分の 1 に縮小したほか、ワイヤー搾水性は一般のシステムと比べて+10%、マシン効率は同+8%、断紙回数同▲75%、抄替え時間同▲60%、マシン洗浄時間同▲50%、製品ロス同▲60%、添加薬品量同▲50%、消費電力同▲20%などと、その効果は定量的に認められている。
②乾式破砕機
乾式破砕機とは、木材や紙等を解繊し、細かい繊維にすることで再利用するための機械である。たとえば、トイレットペーパーの端材を二軸破砕機で破砕、リサイクルファイナーで離解し、細かく解繊した繊維を紙おむつ用材料としてリサイクルする実験などを行っている。使用済み紙おむつも、解繊 用パルパーでの攪拌や、異物スクリーンでの異物除去、洗浄装置や高脱水濃縮装置での洗浄・脱水など、同社の技術を駆使することで繊維材料としてリサイクル実用されている。
このように、相鉄工では、高効率機器やリサイクル機器の開発を通じて、地球環境保護に貢献しており、環境に関するポジティブ・インパクトの増大が認められ、インパクトレーダーの資源効率・資源安全確保、水、大気、廃棄物に該当することが認められる。
今後も、高度リサイクルによる環境問題への対策に注力するとしており、たとえば、紙製飲料容器の紙とラミネートを分離させる機械をドイツの製紙メーカーに納品し、容器のリサイクル事業の一端を担っているほか、大手製紙メーカーの FCRP 増産計画に参画し、高濃度パルパーやスクリューセパレーターなどの開発・製造に取り組んでいる。また、オーストラリアの企業に、サトウキビの絞り粕(バガ ス)のパルプからコーヒーカプセル用原料を製造する装置を納品するなど、脱プラへの貢献も果たしている。さらに現在開発中のプロジェクトとして、耐水紙器のリサイクル、食品残渣利用のための破砕、災害ゴミの高精度選別、木質チップなどの乾式破砕など、自社の技術を応用した社会的・環境的課題への解決策を模索している。そして、このような環境配慮機器を広く普及させるために「エコプロ 2021」などの展示会に出展したり、 繊維ベースのパッケージの循環性を完成させる業界を超えたアライアンスである「4evergreen」への加盟を申請するなど、自社の取組みを周知することで環境配慮機器の普及促進を目指している。
静岡銀行では、相 鉄工の環境に優しい機器開発をサポートするとともに、同社が今後も環境負荷低減につながる機器開発を継続していくことを確認するために、同社が KPI として設定した乾式破砕技術を応用したリサイクル関連装置の開発件数や省エネ効果の高い新製品の開発件数をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ネガティブ・インパクトの低減
<分類>社会
<インパクトレーダーとの関連性>
雇用、健康と衛生、包摂的で健全な経済
<SDGs との関連性>
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
<KPI(指標と目標)>
①3S 活動や工場巡視、事故発生時の原因追及、再発防止対策などを継続して実施し、毎年の労働災害ゼロを達成する。
②2025 年までに、従業員の労働安全衛生意識の向上を目的とした社内制度を構築し、積極的に運用する。
<インパクトの内容>
相鉄工では、従業員が安全・安心に働けるよう、工場等の作業現場を中心に安全衛生対策の徹底を図っている。
まず社内体制としては、2020 年4月に「法令安全委員会」を設置し、同委員会が中心となっ て、従業員の法令遵守および労災防止に対する意識の醸成に努めているほか、各種法令の改正に伴う必要な施策を講じている。現在、委員長、副委員長、参与の3名体制で、メンバーとして は、法令関係の経験者、安全運転管理者、安全管理者、ISO(国際標準化機構)品質システムの統括管理者によって構成されている。
同委員会では、法令遵守や各種事故防止については終わりがないとの認識を持ち、従業員への啓発活動を繰り返し実施しているほか、法改正や働き方の変化、時代の要請等に応じた新たな対応策について、日々検討している。社内のノウハウだけでなく、労働安全コンサルタントの指導を受けながら、労働安全衛生法や同規則、クレーン等安全規則、粉じん障害防止規則などについて対応しているほか、法改正で必要となる対策についても計画的に実施している。
具体的な活動としては、まず、企業活動の基礎・基盤となる重要な活動の一つとして 3S(整 理・整頓・清掃)活動がある。これは、3S 推進事務局が中心となり、安全な職場、快適で健康な職場、そして生産性の向上を目的として、全部署を対象に、部署ごとに問題意識を持って取り組んでいるもので、社長をはじめ役員が定期的に社内を直接診断し、一年間の活動に対して優秀な部署を年末に表彰するなど、全社一丸となって推進している。また、定期的に、法令安全委員会と安全管理者が、労働安全コンサルタントと各工場を巡視し、特に労災につながる不安全行動の是正
や安全確保に関する法令についての指導も行っている。巡視で指摘した事項については、その根拠を示し、書面で改善結果を求めるなど記録化している。
さらに、労働安全衛生に関する資格取得者に対する追教育および能力向上のため、年間計画を立てて社内において教育・研修を実施し、対象者が欠席した場合は、資料を作成し補充教育の徹底を図っている。
法令安全委員会の具体的業務は以下の通りである。
①労働安全コンサルタントとの巡視活動および教育・研修計画の実施
②労災など事故が発生した場合、二度と同様の事故が発生しないよう原因究明と再発防止対策の徹底
③リスクアセスメント(災害が発生しにくく、発生しても軽くて済む、安全度の高い現場の実現)対策の推進
➃労災および交通事故防止など必要な社内報の発行
⑤会社として必要な規程の整備および改訂
⑥国際規格である品質保証の認証取得継続および国内外の顧客からの要求に応えるため、 ISO 品質管理規程および品質マニュアルに従った業務の推進
相鉄工では、こうした労働安全衛生活動を全社的な取組みとして明確にするために、必要に応じて規程の整備等を取締役会に上申し、適切な運用を図っている。また、労働安全衛生に関する全社的な方針や目標については、毎年、取締役会において決定される経営基本方針や品質目標の中で示され、これに従い各部署において、年間目標および計画書を策定している。2021 年度については、経営基本方針において「無災害職場環境を構築」を掲げているほか、品質目標において「無災害職場環境の構築により生産性の低下を防止する」ことを目標設定した。こうした経営基本方針および品質目標を推進するため、法令安全委員会では、①法令遵守の環境構築、②労災の未然防止対策の推進を施策項目として掲げ、ISO 品質マニュアルの実行計画書や進捗フォロー表に従い、推進状況を経営会議および社長に報告している。
なお、法令安全委員会が作成・施行した労働安全衛生管理規程(会社規程)および労働安全衛生委員会規程(会社規程)により、安全衛生委員会が中心となり、労働基準監督署が推奨している「安全衛生管理計画書」(年間計画)を検討作成し実行している。こうした具体的な改善対策を講じることで従業員の安全への意識がさらに向上している。
加えて、昨今の新型コロナウイルス感染症対策については、会社としての安全配慮義務の観点から、従業員が安心して休みやすい環境作りのため、家族が濃厚接触者となった場合でも特別有給休暇を付与するなど、柔軟な勤務や休暇処理対応を図っている。また、予防接種日や接種に対する副反応に対しても、特別有給休暇を付与している。密回避への配慮としては、在宅勤務の推奨や、会議室等を利用して各部署の分散業務化を図り、感染防止対策を講じている。さらに、従業員が感染した場合は、濃厚接触者に該当しない場合でも同じ職場の従業員に対して会社負担で PCR 検査を実施して安全配慮を行っている。
このように、相鉄工では、従業員の安全・安心な職場環境を維持するため、取締役会が定めた方針・目標を各職場に落とし込み、法令安全委員会が機能して全社に浸透させるとともに、外部コンサルタントの専門的な知見も活用しながら、実効性のある活動を実施しており、インパクトレーダーの雇用、健康と衛生、包摂的で健全な経済に該当する。
静岡銀行は、相 鉄工が、今後も従業員が健康で安全に働ける職場環境を整備し続けるとともに、労働安全衛生に関する法令遵守の徹底を確認するために、同社がKPIとして設定した労働災害件数や、労働安全衛生に関する制度化への取組みをモニタリングしていく方針である。
(8)省エネ・創エネ促進による CO2 排出量の削減
<インパクトの別>
ネガティブ・インパクトの低減
<分類>環境
<インパクトレーダーとの関連性>気候変動、エネルギー
<SDGs との関連性>
7.1 2030 年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。
13.1 全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。
<KPI(指標と目標)>
①2025 年までに、自社のエネルギー使用量や CO2 排出量を測定する体制を整え、2030 年までの削減目標を設定する。
②2025 年までに、全社的な環境方針を策定し、方針に則った年度目標を設定する体制を整える。
<インパクトの内容>
相鉄工では、自社の事業活動における気候変動など地球環境への負荷低減を図るため、使用エネルギーの低減や太陽光発電による再生エネルギーの活用によって省エネ・創エネに取り組んでいる。具体的には、33 台所有している営業車のうち 27 台をハイブリッド車に切り替えたほか、残りの6台や今後購入する車両についても更新・購入時期に合わせて燃費効率の良いハイブリッド車等に変更していく方針である。
また、収益物件として所有しているビルについて、LED 照明への切り替えを進めている。本社登記のある1棟についてはすでに切り替えたほか、他の 1 棟についても計画中である。さらに、2020 年に主力の岡部工場の外壁塗装工事を大規模に実施。温度変化を防ぎ、空調効率向上、労働環境良化につながっている。一方、創エネについては、岡部工場の屋上に太陽光発電パネルを設置 し、年間 52 万kWh を発電している。
このように、相鉄工では、低公害車や LED 照明等の省エネ機器への切り替えや、太陽光発電による再生可能エネルギーの生産など、省エネ・創エネに取り組んでおり、インパクトレーダーの気候変動、エネルギーに該当する。ただし、それを定量的に把握していないため、今後は部署ごとの使用エネルギーを測定することで全社的に CO2 排出量を算出し、環境負荷低減に関する活動の効果を見える化することで、より実効性の高い取組みに進化させていく方針である。
静岡銀行では、相 鉄工が引き続き、省エネ・創エネに関心高く取り組むことを確認するために、
同社がKPIとして設定したエネルギー使用量やCO2排出量を測定する体制の整備状況および環境方針の策定や年度目標設定など全社的な体制整備の状況をモニタリングしていく方針である。
4. 地域課題との関連性
相鉄工は、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、5 年後の売上高を 60 億円に、従業員数を 300 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この目標を達成することによって、相鉄工は、静岡県経済全体に年間 94 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
【静岡県産業成長戦略】
静岡県は 2022 年2月、「静岡県産業成長戦略 2022」を公表した。基本理念・目指す姿として「東京時代から静岡時代へ~新しい生産と消費の循環で SDGs を達成~」を掲げ、供給面では「DX と脱炭素への積極的な投資」を促進するとし、次の8つの施策を展開している。
「フジノミクス」を核とする生産と消費の新しい循環の創出
(1)新たな広域経済圏「山の洲」の形成
(2)リーディング産業への重点投資(データとデジタル技術で構造転換)
(3)企業誘致と県内への定着
(4)新たな生活様式を踏まえた個人消費の拡大
(5)環境と経済成長が両立した循環型社会への移行
(6)成長分野・領域への投資促進(中小から中堅企業へ)【グローバル型・サプライチェーン型】
(7)中小・小規模企業の事業再構築・再生による経営の強靭化【地域資源型・地域コミュニティ型】
(8)中小企業の事業継続に向けた強靭化
この中で、(2)リーディング産業への重点投資における素材分野、基盤技術の産業応用として、「ふじのくに CNF プロジェクト」が盛り込まれており、研究開発の強化や製品開発の支援、CNFによる循環経済の構築などが計画されている。また、同計画内で設立された「ふじのくに CNF 研究開発センター」に相鉄工も入居しており、県や静岡大学等と共同研究を実施している。
また、(5)環境と経済成長が両立した循環型社会への移行では、徹底した省エネルギーの推進やサーキュラーエコノミー(循環経済)への対応などが想定されており、この中でも、「CNF による循環経済の構築」が1つの柱となっている。具体的には、CNF の高いリサイクル性に着目し、自動車部材等への活用に向けて「CNF 活用資源循環研究会」を設置、大学、先進企業、金融機 関、県などが連携することで CNF の活用を推進する方針である。
さらに、(6)成長分野・領域への投資においては、「IoT「実装支援」の強化」や「IoT 拠点による導入支援の全県展開」などが盛り込まれており、遠隔モニタリング、遠隔操作などの実体験の予算化が検討されている。
このように、静岡県の産業成長戦略と相鉄工の事業活動は方向性が一致しており、特に CNF や IoT において、地域における存在感の高まりが期待される。
5. マネジメント体制
相鉄工では、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、濁澤光宏代表取締役社長の指揮の下、藤田和巳取締役専務執行役員と中村尚樹常務執行役員が実行責任者となって、業務本部、技術本部、開発本部を中心に、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動等を棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトレーダーや SDGs との関連性、KPI の設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、濁澤社長が最高責任者、藤田専務と中村常務が実行責任者となり、業務本部、技術本部、開発本部を実行部隊として展開していく。具体的には、同社の企業活動の基となる事業計画書等に盛り込むとともに、経営会議や社内勉強 会等で社内に浸透させ、KPI 達成に向けて、各部署、各チームで実行していく。
最高責任者 | 代表取締役社長 濁澤光宏 |
実行責任者 | 取締役専務執行役員 藤田和巳常務執行役員 中村尚樹 |
担当部署 | 業務本部技術本部 開発本部 |
6. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成および進捗状況については、静岡銀行と相鉄工の担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場等を通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金およびその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持していることを確認する。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行と相鉄工が協議の上、再設定を検討する。
以 上
本評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行および静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する相川鉄工から供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
<評価書作成者および本件問合せ先>
一般財団法人静岡経済研究所
主席研究員 森下 泰由紀
〒420-0853
静岡市葵区追手町 1-13 アゴラ静岡 5 階 TEL:054-250-8750 FAX:054-250-8770
第三者意見書
2022 年 3 月 30 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: 相川鉄工株式会社に対するポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行が相川鉄工株式会社(「相川鉄工」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定した PIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照している IFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえで PIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクト領域における「包括的で健全な経済」、「経済収れん」の観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されている。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では
52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、相川鉄工の持ちうるインパクトを、UEP FI の定めるインパクト領域および SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、相川鉄工がポジティブな成果を発現するインパクト領域を有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行が PIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めた PIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本 PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しながら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及び ESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人である相川鉄工から貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、可能な範囲で
対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
Japan Credit Rating Agency, Ltd.
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候変動イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026
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