Contract
「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」
(37 号告示)に関する疑義応答集(第3集)
【アジャイル型開発と契約方式】
Q1 アジャイル型開発のようなシステム開発の場合でも、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」が適用されますか。また、アジャイル型開発においては、発注者との間の契約が請負契約ではなく、準委任契約となる場合がありますが、契約の違いにより同基準の適用に違いが生じますか。
A1 労働者派遣事業とは、派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行うこと(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」といいます。)第2条第1号及び第3号)をいい、一方、請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法 632 条)であり、労働者派遣との違いは、請負には、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係を生じないという点にあります(※1)。
この点において、委任(民法 643 条)、準委任(民法 656 条)も同様であり、アジャイル型開発(※2)が準委任契約を締結して行われる場合でも、実態として、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係がある場合には、その契約の形式を問わず、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受けます。
したがって、アジャイル型開発のようなシステム開発の場合でも、労働者派遣と請負等(委任、準委任を含みます。以下同じ。)のいずれに該当するかについては、契約形式ではなく、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和 61 年労働省告示第 37 号)に基づき、実態に即して判断されるものです。
※1 発注者と受注者との間において請負契約等の形式をとりながら、実態として発注者が受注者の雇用する労働者に対して直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合をいわゆる偽装請負といい、労働者派遣法に違反するものとなります。
※2 アジャイル型開発とは、一般に、開発要件の全体を固めることなく開発に着手し、市場の評価や環境変化を反映して開発途中でも要件の追加や変更を可能とするシステム開発の手法であり、短期間で開発とリリースを繰り返しながら機能を追加してシステムを作り上げていくもので、発注者側の開発責任者(プロダクトオーナー等。以下同じ。)と発注者側及び受注者側の開発担当者(再委託先の開発担当者を含みます。以下同じ。 ) が対等な関係の下でそれぞれの役割・専門性に基づき協働し、情報の共有や助言・提案等を行いながら個々の開発担当者が開発手法や一定の期間内における開発の順序等について自律的に判断し、開発業務を進めることを特徴とするものです。
【基本的考え方】
Q2 アジャイル型開発は、発注者側の開発責任者と発注者側及び受注者側の開発担当者が一つのチームを構成して相互に密に連携し、随時、情報の共有や助言・提案をしながらシステム開発を進めるものですが、こうしたシステム開発の進め方は偽装請負となりますか。
A2 適正な請負等と判断されるためには、受注者が自己の雇用する労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っていること及び請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することが必要です(「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」参照)。
アジャイル型開発においても、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者(発注者側の開発責任者と発注者側及び受注者側の開発担当者を含みます。以下同じ。)が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合には、受注者が自己の雇用する労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行い、また、請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理しているものとして、適正な請負等と言えます。
したがって、発注者側と受注者側の開発関係者が相互に密に連携し、随時、情報の共有や、システム開発に関する技術的な助言・提案を行っていたとしても、実態として、発注者と受注者の関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。
他方で、実態として、発注者側の開発責任者や開発担当者が受注者側の開発担当者に対し、直接、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行うなど、指揮命令があると認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。
こうした事態が生じないよう、例えば、発注者側と受注者側の開発関係者のそれぞれの役割や権限、開発チーム内における業務の進め方等を予め明確にし、発注者と受注者の間で合意しておくことや、発注者側の開発責任者や双方の開発担当者に対して、アジャイル型開発に関する事前研修等を行い、開発担当者が自律的に開発業務を進めるものであるというようなアジャイル型開発の特徴についての認識を共有しておくようにすること等が重要です。
【管理責任者の選任】
Q3 アジャイル型開発において、開発チーム内では、個々の開発担当者が自律的に開発業務を進めることとしていることから、受注者側の管理責任者を選任していても、すべての会議や打ち合わせに同席しているわけではありませんが、この場合、偽装請負となりますか。また、管理責任者を選任していれば、偽装請負と判断されることはありませんか。
A3 前記A2で述べたとおり、アジャイル型開発において、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。そのため、両者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めている限りにおいては、受注者側の管理責任者が会議や打ち合わせに同席していない場合があるからといって、それだけをもって直ちに偽装請負と判断されるわけではありません。
他方で、受注者側の開発担当者に対して業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行う必要がある場合や、開発の進捗に遅れが生じた際などに、受注者側の開発担当者に対し、仕事の割り付け、順序、緩急の調整等に関して指示を行う必要がある場合には、受注者が管理責任者を選任するなどして受注者自ら指揮命令を行う必要があり、発注者側の開発責任者や開発担当者が、直接受注者側の開発担当者に当該指揮命令を行ってしまうと、たとえ受注者において管理責任者を選任していたとしても、偽装請負と判断されることになります。
【発注者側の開発責任者と受注者側の開発担当者間のコミュニケーション】
Q4 アジャイル型開発においては、発注者側の開発責任者はプロダクトバックログ(開発対象に係る機能等の要求事項の一覧)の内容やその優先順位の決定を行い、開発手法やスプリント(開発業務を実施するための一定の区切られた期間)内における開発の順序等については開発担当者がその専門的な知見を活かして自律的に判断し開発業務を進めるのが通常ですが、その際、発注者側の開発責任者から、受注者側の開発担当者に対し、直接、プロダクトバックログの詳細の説明や、開発担当者の開発業務を円滑に進めるための情報提供を行うと偽装請負と判断されますか。
A4 前記A2で述べたとおり、アジャイル型開発において、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。そのため、両者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めている限りにおいては、そのプロセスにおいて、発注者
側の開発責任者が受注者側の開発担当者に対し、その開発業務の前提となるプロダクトバックログの内容についての詳細の説明や、開発業務に必要な開発の要件を明確にするための情報提供を行ったからといって、それだけをもって直ちに偽装請負と判断されるわけではありません。
他方で、発注者側の開発責任者による受注者側の開発担当者に対する説明や情報提供が、実態として、受注者側の開発担当者に対する業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令と認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。
【開発チーム内のコミュニケーション】
Q5 アジャイル型開発の開発チーム内のコミュニケーションにおける技術的な議論や助言・提案によって、偽装請負と判断されることはありますか。
A5 前記A2で述べたとおり、アジャイル型開発において、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。そのため、実態として、両者間において、対等な関係の下でシステム開発に関する技術的な議論や助言・提案が行われ、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めているのであれば、偽装請負と判断されるものではありません。他方で、発注者側の開発担当者の助言・提案や技術的な議論における言動が、実態と して、受注者側の開発担当者に対する業務の遂行方法や労働時間等に関する指示など
の指揮命令と認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。
【会議や打ち合わせ等への参加】
Q6 アジャイル型開発においては、発注者側と受注者側の開発関係者が、随時、情報の共有や助言・提案をしながら開発を進めることが通常ですが、そのための会議や打ち合わせ、あるいは、連絡・業務管理のための電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者側及び受注者側の双方の関係者全員が参加した場合、偽装請負となりますか。
A6 前記A2で述べたとおり、アジャイル型開発において、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるも
のではありません。そして、会議や打ち合わせ、あるいは、電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者側と受注者側の双方の関係者が全員参加している場合であっても、それらの場面において、実態として、両者が対等な関係の下で情報の共有や助言・提案が行われ、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めているのであれば、偽装請負と判断されるものではありません。
他方で、このような会議や打ち合わせなどの全ての機会に管理責任者の同席が求められるものではないものの、実態として、会議や打ち合わせ、あるいは、電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者側の開発責任者や開発担当者から受注者側の開発担当者に対し、直接、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令が行われていると認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。
そのため、受注者側の開発担当者に対し、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行うことが必要になった場合には、受注者側が管理責任者を選任するなどして受注者自らが指揮命令を行うなど、適正な請負等と判断されるような体制を確立しておくことが必要です。
【開発担当者の技術・技能の確認】
Q7 アジャイル型開発では、開発担当者同士が情報共有や助言、提案を行いながら、個々の開発担当者が自律的に判断して開発業務を進めるため、そのような開発を行うことができる専門的な技術者が必要となりますが、国内ではアジャイル型開発を経験した技術者が少ない等の状況にあるため、開発担当者の技術や技能について、一定の水準を確保することが重要です。そこで、発注者から受注者に対し、開発担当者の技術・技能レベルや経験年数等を記載した「スキルシート」の提出を求めたいのですが、これに何か問題はありますか。
A7 前記A2で述べたとおり、適正な請負等と判断されるためには、受注者が自己の雇用する労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っていること及び請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することが必要であり、そのためには、受注者の労働者の配置等の決定及び変更について受注者自らが行うことが求められます。
そのため、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与していると判断されることになり、適正な請負等とは認められません。
他方で、アジャイル型開発において、受注者側の技術力を判断する一環として、発注者が受注者に対し、受注者が雇用する技術者のシステム開発に関する技術・技能レベルと当該技術・技能に係る経験年数等を記載したいわゆる「スキルシート」の提出を求
めたとしても、それが個人を特定できるものではなく、発注者がそれによって個々の労働者を指名したり特定の者の就業を拒否したりできるものでなければ、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与しているとまではいえないため、「スキルシート」の提出を求めたからといって直ちに偽装請負と判断されるわけではありません。