Contract
ハンガリー
労務等ビジネス関連法レポート
ブタペスト事務所
ハンガリーに進出する日系企業を対象に、同国の定年労働者制度や解雇制度などの労務問題についてまとめた。
目 次
1.定年労働者や年齢保護労働者との雇用契約の終了に関する特別労働法規則 2
2.法的手段による費用削減方法 7
3.労働者の病気欠勤及び病気欠勤に基づく解雇 11
4.会社の工場閉鎖及び撤退の法的手段 15
5.ハンガリーにおける労働監督の実施 19
6.会社集中化に関するハンガリー競争法による規制 24
7.職場の安全衛生:ハンガリーの労働保護について 28
8.ハンガリーにおける人材派遣 32
9. 国家援助の EU 競争法による管理 36
10.雇用契約の終了:使用者側の注意点 40
11.労働者の利益代表制及び経営参加 45
12.労働紛争の解決 50
13.女性労働者の出産に関係する特別労働法規則 53
14.労働時間、休憩及び休暇に関する留意点 56
15.会社の上級管理職に適用される特別規則 60
1.定年労働者や年齢保護労働者との雇用契約の終了に関する特別労働法規則
(2009 年 8 月時点作成)
厚生年金の各タイプに関する説明
(1)定年労働者との雇用契約の終了に関する規則
ハンガリーの法制度において「定年労働者」という特別概念が存在する。ハンガリーの労働法典は定年労働者との雇用契約の終了に関して、使用者にとって一般規則より有利なルールを定めている。
①定年労働者(ハンガリー語で:Nyugdíjas munkavállaló)の定義
労働法典に基づいて以下の労働者は定年労働者とみなされる。
(a) 62 歳*を過ぎて、老齢厚生年金受給資格に必要な在職期間を持つ労働者
(b) 62歳を過ぎていなくても老齢厚生年金を受給している労働者
(c) 年齢優遇老齢年金を受給している労働者
(d) 早期老齢年金又は減額早期老齢年金を受給している労働者
(e) 職務年金(特定の職業に従事していた場合の特別年金)を受給している労働者
(f) 契約早期年金を受給している労働者
(g) 老齢厚生年金と同様とみなされる他の年金を受給している労働者
(h) 障害年金又は労働災害年金を受給している労働者
上記の年金のタイプのうち、(a)(b)老齢厚生年金、(c)年齢優遇老齢年金及び(f)契約早期年金について以下の(3)で説明する。
(a)に該当する労働者は、彼らに適用される定年退職年齢(現在62歳)に達した上で必要な在職期間(基本的に20年間)を満たした時点から、労働法典に基づいて自動的に定年労働者とみなされる一方、(b)から(h)の労働者のグループは、 彼らに年金の受給額が決定された時点からだけ法的に定年労働者とみなされている。
定年の年齢に達することだけで雇用契約は自動的に消滅することにならないので、定年労働者との雇用契約が定年退職年齢を過ぎた後でも、又は他の資格で年金を受給されていることによっても消滅はしない。
*2010 年 1 月 1 日から変更される規則によると、定年退職年齢が誕生した年によって変わることになる。例えば、1957 年以降生まれた人は定年退職年齢が 65 歳となる。
②特別な規則の適用範囲
以下のルールが、使用者が労働者に予告する通常解雇の場合にのみ適用される。定年労働者との雇用契約を他の方法で終了する場合(共同解雇契約、非常解雇、労働者による通常退職、使用者による一定期間の雇用契約の一方的終了)に関しては法が特別規定を定めていない。
使用者による通常解雇というのは、使用者の書面により一方的に労働者宛行われ、労働契約や労働法典で定められた解雇猶予期間が過ぎると、雇用契約を終了することである。
通常解雇による解雇が無限の雇用契約の終了に限られるので、無限の労働契約のもとに雇用された定年労働者に対する使用者による通常解雇の場合しか適用できない。
上記の規定の例外は退職金受領権利に関する特別ルールである。労働者が退職金受領権利を主張できるのは次の 2 つの場合である。①無限雇用契約が使用者による通常解雇で終了される場合、および②雇用契約が一定期間であるか、無限であるか、かかわりなく、使用者に承継人がなく消滅する場合。なお、使用者が承継人がなく消滅する場合、定年労働者の無限雇用契約だけではなく、その一定期間の雇用契約の場合も、退職金に関する特別ルールが適用されうる。
③特別な規則の内容
定年労働者に関しては、労働法典が使用者による通常解雇の場合における解雇理由を述べる義務、解雇制限および退職金の点で特別な規則を規定する。
(a)使用者による通常解雇の理由
基本ルールとして使用者が通常解雇の理由を述べる義務を負う。解雇理由として労働法典に含まれた理由しか認められていない。
しかし使用者は、障害年金と労働災害年金の定年労働者を除いて、定年労働者に通常解雇を予告する時、その理由を述べる義務は負わない。
(b)解雇制限を定める規定
特定の状況下では使用者が労働者に法的に通常解雇を予告することができない。この際、労働者は「解雇制限」で保護されている。この時期に予告された通常解雇は違法とみなされる。特定の状況下とは、たとえば病気による休業、 子供の療養のための無給休暇、および子供が 3 歳*までの保育期間である。
労働法典に基づいて定年労働者とみなす労働者との関連では、解雇制限の規定は適用されず、上記の解雇制限の期間にも、あらゆる定年労働者の雇用契約を法的に終了することができる。
*2010 年 5 月 1 日から規則が変更され、保育補助金受給期間が子供の年齢 3 歳から 2 歳となる。
(c)退職金
労働法典で規定された条件に該当すれば、使用者は労働者へ退職金を支払う義務を負う。退職金の額は労働者の平均賃金の 1 ヵ月分から 6 ヵ月分までであるが、その具体的な金額は使用者に雇用された労働期間によるものである。
基本的に、使用者の通常解雇による、または使用者に承継人がなく消滅することによる雇用関係終了の場合は、労働者が退職金権利を持つようになるが、その上に使用者との雇用関係が尐なくとも 3 年間続いているという条件も満たさなければならない。
退職金に関する上記のルールは、労働法典に基づいて定年労働者とみなされる労働者には適用されない。それ故に、該当する労働者が遅くとも雇用関係終了時点で定年労働者とみなされたら、退職金の受領権利を持たない。
(2)年齢保護労働者との雇用契約終了に関する特別規則
①年齢保護労働者(Védett korú munkavállaló)の定義
定年退職年齢までまだおよそ 5 年間あり、年金を受給していない労働者との雇用関係の終了について、労働法典は一般規則より厳格で、使用者にとっては追加的義務を定める規則を含めている。
②特別な規則の適用範囲
特別な規則は定年労働者のケースと類似した条件下で年齢保護労働者に適用されている。即ち、以下 3.の規定が無限の雇用契約が使用者により通常解雇で終了される場合に適用されるほか、退職金に関連する特別ルールが、一定期間の雇用契約を持つ労働者にも適用されうる。
③特別な規則の内容
労働法典において年齢保護労働者に関して特別なルールを含んでいる点は、使用者による通常解雇の際の理由を述べる義務と退職金についてである。
(a)使用者による通常解雇の理由
労働者が定年退職年齢に達するまで最大 5 年間あり、かつ、労働者が 62 歳に達していない場合に、使用者は労働者との雇用契約を通常解雇で、解雇に特に正当な理由がある場合のみ終了できる。しかし、その労働者がすでに何らかの年金を受けている場合はこのルールが適用されない。
(b)増額退職金
労働者との契約関係が、老齢厚生年金又は年齢優遇年金の受給資格獲得時期を前に 5 年以
内に終了すれば、退職金の労働法典で定められた額に当人の平均賃金の 3 ヵ月分が加わえられる。しかしながら、労働者がすでに増額退職金を受けたことがあれば、増額退職金を受ける権利を持たない。
(3)厚生年金への資格
社会保障法によって規制される厚生年金の主なタイプの中から、老齢厚生年金、年齢優遇年金、契約早期年金について簡単に説明する。以下ではもっとも重要で、現在有効である規定だけをまとめ、将来において実施されうる変更には触れていない。
①老齢厚生年金(Öregségi nyugdíj)
以下では、2008 年 12 月 31 日以降決定された老齢厚生年金のうち、老齢完全年金、老齢部分年金、早期老齢年金と減額早期老齢年金について解説する。
(a)老齢完全年金(Öregségi teljes nyugdíj)
62歳に達した後、最低限20年間の在職期間(たとえば雇用契約)を持つ人には老齢完全年金が与えられる。
(b)老齢部分年金(Öregségi résznyugdíj)
定められた定年退職年齢に達し、最低限15年間の在職期間を持つ人は老齢部分年金の資格が与えられる。
(c)早期老齢年金(Előrehozott öregségi nyugdíj)
2012年12月31日まで適用される規則に従って、60歳、61歳の男性と59歳、60歳の女性は、在職期間が40年間以上あれば、早期老齢年金の受給権利を持つ。それにより、早期老齢年金の定年者は老齢完全年金が受けられる定年になる前でも、ある必要条件を満たせば、老齢年金の完全な金額を受給することができる。
(c)減額早期老齢年金(Csökkentett összegű előrehozott öregségi nyugdíj)
2012年12月31日まで適用される規則に従って、在職期間が最低限37年間ある上で早期老齢年金の条件を満たす人は、減額早期老齢年金の受給権利を持つ。したがって、減額早期老齢年金の受給権利を持つ人は、在職期間を満たしていなくても、年金の受給を申し込むことができるのである。しかし、彼らに老齢完全年金と同額は受給できない(減額受給)。
①年齢優遇老齢年金(Korkedvezményes öregségi nyugdíj)
身体に相当な負担がかかる、さらに健康に有害な労働に携わっていた人が該当する。年齢優遇の程度と年齢優遇年金への権利の条件は社会保障法によって定められている。
②契約早期年金(Korengedményes nyugdíj)
年齢免除で退職する最低 1 年前に、使用者と労働者の間締結された契約に基づいて、契約早期年金を受けることも可能である。
受給条件は、労働者が年齢免除で退職する時までに、定年退職年齢の 5 年前に、つまり 57歳に達しており、早期老齢年金と減額早期老齢年金それぞれに必要な在職期間を管轄行政機関によって事前に認証されていることである。
しかしながら、以下の場合は労働者と使用者が契約早期年金に関する契約を結ぶことが認められない。:(a)契約を結ぶ時点で女性の労働者は 59 歳に、男性の労働者は 60 歳に達し
た場合、及び(b)意図された退職時点において女性の労働者が 59 歳に、男性の労働者が 60
歳に達する場合。
契約早期年金受給の更なる条件として、使用者は、労働者が早期老齢年金受給の年齢までの年金の年次値上げと補足を含まない金額と関連費用を、一括払いで管轄年金機関に支払う義務がある。
契約早期年金の決定の要件として、労働者の雇用契約が年齢免除退職の時点で終了していなければならない。
2.法的手段による費用削減方法
(2009 年 8 月時点作成)
経済危機の影響で、会社の経営において費用の削減や合理化の問題が喫緊の課題となっている。費用の削減方法として以下のような手法が実施されている。
社用車や電話の使用、文房具の注文などの一般的な営業費を抑える上で、会社は主な取引相手の見直しを行っている。たとえば会社は賃料を減らす目的で賃貸契約を再交渉したり、転居したりする。支店が多くあれば統合も有効である。
費用の合理化とは別に、営業活動の合理化も節約に有効であろう。例えば、会社の業務を明確に区別し、各業務の費用を計算し、必要であれば、業務を外部の会社へ委託すること(アウトソーシング)がある。IT や経理部門を他の専門会社へ委託すれば、場合により、会社にとっての費用を減らす効果がある。
営業活動の合理化に関係する事例として、ある会社グループに属する会社のために「共用サービスセンター」というものを設立し、即ち、共同で取り扱える業務機能、たとえばマーケティング、IT、人事、ヘルプデスクなどをそのセンターが集中的に扱う方法もある。
更に、会社は損失を最小限にするために未払債権の回収に取り組む傾向がある。その目的で債権回収を専門とする会社と契約を結ぶか、法的手段によって、債務者が債権を支払うよう促している。
(1)会社法による費用削減方法
費用削減のため、法律の側面からの検討も可能である。以下 3 点は会社法による、費用削
減方法である。各方法の場合は、当国で最も多い有限会社に適用される規則を例として簡単にまとめる。
①登記資本金額の減少
(a)登記資本金の定義
登記資本金とは、会社のために出資者によって給付された又は将来に給付すると約束された、金銭的形態、又は非金銭的形態(価値のある物体か権利)で行うことができる財産的出金のことである。
登記資本金の額を会社の定款に定めなければならない。その設立時の法定最低額は、会社形態ごとに法によって決められ、たとえば有限会社の場合には、登記資本金が最低 50 万フ
ォリント、株式非公開会社の場合は 500 万フォリント、そして株式公開会社の場合は 2000
万フォリントとなっている。
会計の面から登記資本金が会社の資産に含められているので、登記資本金は法定最低額まで引き下げることができる。これにより生じた資金を経営に活用できる。
以下は登記資本金額の減尐に関する規則の要約である。
(b)有限会社の登記資本金額の減尐
登記資本金額の減尐のために会社の社員総会の決議、又は社員が一人しかいなければ、その社員の決議が必要となる。登記資本金額の減尐と同時に定款も変更しなければならないので、決議の採択には総会メンバーの 4 分の 3 の賛成が必要である。
登記資本金額を法に制定された法的最低額より低い額まで削減できない。
登記資本金額の減尐に関する決議では、減尐した登記資本金額、そして各社員の持分および登記資本金減尐の理由(たとえば損失整理又は会社資産の他の勘定科目の増加)も含めなければならない。
会社の取締役は、総会の登記資本金減尐の決議結果をその採択日から 30 日間以内に登記裁
判所へ提出する義務を負い、それと同時に会社公報により、決議結果を 2 回公告しなけれ
ばならない。会社公報による 1 回目と 2 回目の公告は、最低 30 日間あけて行わなければならない。
会社公報で発表される公告の内容には、総会決議の内容とその理由以外に、会社の債権者向けの、本発表前に発生したまだ満期になっていない請求に対して担保を要求できる―という通知も含めなければならない。連絡先のわかる債権者へは、会社から直接決議内容の通知を送らなければならない。債権者が登記資本金減尐との関係で担保を要求しようとしたら、それを 2 回目の発表から 30 日間以内に意思表明しなければならない。
担保を要求する債権者があれば、取締役は担保をその債権者に提供したとを証明した後、登記裁判所は、登記資本金額の減尐を会社登記簿に登記する。
②会社組織再編:組織変更と合併
会社の組織再編も費用削減に有効である。一つの方法として組織変更ということが考えられる。組織変更というのは会社が法によって制定された会社形態をなんらかの理由で他の会社形態へ変更することである。組織変更は、もっと低い資本でより尐ない管理コストの会社形態へ変更である。また組織変更とは別に合併も考えられ、この場合は二つ以上の会社が法的に一つになることである。この方法で事業を集中的に、費用効果よく行うことができる。
組織変更や合併(吸収合併を除いて、以下参照)の際は、もとの会社は解散し、新たに設立する会社はもとの会社の承継会社となる。
(a)組織変更
組織変更の際は、承継会社の会社形態が自由に選べるが、選択した形態に関する法によって定められている最低登記資本金義務を、組織変更後も履行しなければならない。組織変更については、社員全員が承継会社へ出資を完了した時点からしか決定できない。更なる条件として、承継会社が清算手続き又は解散手続きの対象になってはいけない。
会社の組織変更の決定と組織変更に必要な決議の採択は社員総会で行われる。組織変更決議の採択には、総会メンバーの 4 分の 3 の賛成が必要である。
会社の定款に特に定めがなければ、社員総会は組織変更について基本的に 2 回決議を行う。
ただし、総会が組織変更について 1 回で決議ができるという規定が定款に盛り込まれている場合はその限りではない。
社員総会が組織変更について 2 回決議を採択すれば、1 回目の総会のとき、取締役の報告に
基づいて、または会社に監査役会も存在すれば、その監査役会によっても評価された取締役報告に基づいて次の決議をする。①社員が組織変更と同意しているか、②組織変更後の会社形態を何にするか、そして、③社員の間から新設会社に誰が社員になろうとしているか。
社員が組織変更に同意すれば、総会にて貸借対照表案の決算時を決めて、会計監査人についても決定し、組織変更に必要な書類の作成を行う取締役を委任する(変更される会社と承継会社の各貸借対照表案と各財産目録案、承継会社の定款案と承継会社に社員として加わらない社員との関係解除に関する提案を行う)。
組織変更に関して会社の社員総会は貸借対照表案とその付属書、即ち組織変更書類に基づいて 2 回目の総会において決議を採択する。総会で最新情報に基づいて判断するために貸
借対照表案の決算時から 3 カ月以内に 2 回目の総会を行う。
2 回目の総会において、貸借対照表案の情報および取締役の報告に基づいて、承継会社の社員とそれぞれの登記資本金持分を決める上で、承継会社に社員として参加しようとしない人の財産分とその財産分の支払方法も決定しなければならない。更に、会社設立時の一般的な事項(社名、所在場所、役員等)についても決議を採択しなければならない。
会社は定款署名から 8 日間以内に会社公報による決議の公告を行い、つづけてもう 1 度公告を行う義務を負う。公告には変更される会社と承継会社の基本情報を含めなければならない。承継会社の資産額が変更前の資産額より低い場合、そのことを上記公告にて債権者に通知しなければならない。つまり、債権者が変更される会社に対して、変更決議内容の第 1 回目発表前に発生して、まだ満期となっていない請求の関連で担保を要求する権利を
持つ。該当する債権者からの請求に限り、変更される会社の第 2 回目の発表から 30 日間以内で担保を要求することができる。
組織変更によって会社の権利義務が承継会社に承継される。
(b)合併
合併の際にも上記のルールが適用されるが、異なる点は、各関係会社の社員総会が個別に合併に関する決議を採択しなければならないこと、及び合併する各会社の取締役の署名によって合併契約が締結されることである。
更に注意すべき点として、合併には異なる法的効果を持つ二つの形態がある。一つは、合
併して会社が新設される新設合併で、その場合は合併前の各会社は解散され、それぞれの財産が合併で設立される新しい承継会社へ承継される。一方、吸収合併の場合は吸収される会社だけ解散し、その財産は存続会社へ承継させる。
さらに、組織変更と異なる点として、合併の場合は合併される会社に適用される競争法の規則にも注意しなければならない。
③社員総会への電気通信による参加
最後に、ハンガリーの規則により、社員が総会へ実際には参加せず、権利を書面上、又は電気通信措置を通じても行使できる。この方法でも、費用を削減することができるであろう。しかしながら、電気通信措置を用いる場合は、事前にこの方法および決議を採択できる課題の範囲を定款に記載しなければならない。
この方法で行われる決議採択実施の必要条件として、電気通信措置が参加者の身分証明、当事者の間の会話および議論を制限なく可能にしなければならない。このような総会において、言われたことを後でも確認できるように、記録しなければならない。もし総会で登記裁判所へ提出すべき決議が採択される場合は、総会議事録を作成する義務が取締役にある。
3.労働者の病気欠勤及び病気欠勤に基づく解雇
(2009 年 9 月 26 日時点作成)
労働者は職場へ行き、そこで使用者の指導にしたがって仕事をする基本義務を負う。しかしながら、労働者の病気にかかることがこの基本義務の履行を妨げることがある。この場合は健康状態に応じて、また仕事ができる時点まで労働者が欠勤せざるを得ない。
労働者の欠勤の結果として使用者は欠勤労働者の代替労働者を探したり、職務を再分配したりしなければならないので、労働者の休業は使用者にとって時間や追加的費用がかかる傾向がある。労働者が病気にかかったことを訴えて、頻繁に欠勤する場合は特に困難である。この場合は労働者が実際に病気にかかったのか、病気休暇を余分に取っていないか、頻繁に病気欠勤する労働者をどのように退職させられるか、使用者として知りたいところだ。
以下でハンガリーにおける病気休暇と傷病手当金の制度について簡単にまとめて、労働者の病気欠勤を理由にした解雇にも言及する。
(1)労働者の病気欠勤
ハンガリーの法制度は労働法典において一般休暇を規定する。一般休暇とは労働者は 1 年間に持つ休暇の日のことである。一般休暇の目的は労働者のレクリエーションの確保であり、その日数は 1 年間に最低 20 日間であるが、日数が労働者の年齢とともに増加する。一般休暇以外に、労働者は病気休暇の権利も持つ。
①病気休暇
仕事することができない労働者が法律上で「労働不能」とみなされる。よって、病気によって欠勤し、仕事ができない労働者も労働不能とみなされる。しかしながら、労働不能の事由が病気以外にもさまざまあり、労働不能に関する休暇の期間や規則が事由によって異なることに注意を払わなければならない(労働不能カテゴリー)。例えば病気による労働不能や業務災害・通勤災害*による労働不能などの労働不能カテゴリーがあり、各カテゴリーで休暇期間と規則が異なる。
*業務災害・通勤災害とは業務上の事由又は通勤途上で、負傷、病気、障害、死亡する災 害のことを言う。
病気による労働不能の場合は労働者が年間通算 15 就労日の病気休暇を取る権利がある。15
就労日の病気休暇を全部一回で取ることができるし、例えば 1 カ月に 1 日など部分的に何度も取ることもできる。病気休暇は当該年に消化しない場合、次の年に持ち越しはできず、未消化分は年末で消滅する。
ハンガリーにおいては病気休暇の期間は有給であるが、該当期間に労働者に支給されるのは賃金でなく、休業料である。休業料の支払いは全額使用者の負担となる。
労働者の労働不能は主治医によって証明される。主治医は原則として 5 日間前に遡って労働不能の証明することができる。
②傷病手当金
労働者が当該年の病気休暇の 15 就労日を全部消化したものの、労働不能が当該年に連続して、または労働不能が当該年に再び起こった場合は、労働者は傷病手当金の受給権を持つ。以下で病気による労働不能の際に提供される傷病手当金についてまとめる。
労働契約期間中に、または労働契約の消滅後の 3 日以内に労働不能となる労働者は傷病手
当金受給権を持つ。この場合の条件としては、上記の病気休暇の完全消化、つまり 15 就労日を完全に取っていなければならない。
*業務災害や通勤災害による労働不能の際は、労働者が 15 就労日の病気休暇を取得しなくても、傷病手当金受給権を持つ。
傷病手当金は労働不能の期間に支給される。しかしながら、傷病手当金支給期間は労働契約期間中、通算 1 年間、労働契約の消滅後は通算最大 30 日間に限られている。
傷病手当金額は労働契約期間に応じて決められる。最高受給金額は法によって限られており、原則として最低 2 年間連続した労働契約がある場合は賃金の 60%、それより短い雇用契約の場合、及び入院の場合は賃金の 50%が傷病手当金額となる。傷病手当金額は管轄社会保障局によって労働者に支払われるが、支払われた金額の 3 分の 1 は使用者が社会保障局に弁済しなければならない。
(2)労働不能期間の解雇制限
頻繁な病気欠勤の事由で雇用契約を解雇できるか、よく問題となる。
ハンガリーの労働法典上の制度においては、病気休暇を取っているまたは傷病手当金を受給している労働者との雇用契約と解雇することが困難である。なぜなら、労働法典には解雇制限ということが定められて、解雇制限の対象となる期間において労働者との雇用契約を使用者が一方的に終了することが認められない。
病気休暇の 15 就労日の期間と傷病手当金受給期間は解雇制限の対象となっている。このように、原則として当該期間に労働者との雇用契約を通常解雇で消滅することができない。
*解雇制限の保護は業務災害・通勤災害による傷病手当金受給期間にも及ぶ。
上記の期間に労働者との雇用契約が通常解雇で消滅することは認められない。しかしながら、特別解雇や合意等の、他の方法では雇用契約が消滅できる。
(3)労働不能事実の確認
労働者が労働不能を主張して欠勤する一方、労働不能かどうか疑わしい場合は使用者が管轄健康保険局において労働不能事実の確認を申し込むことができる。当該手続きは有料であり、現在 1 万 5,800 フォリントとなっている。
確認は委任された医師が行う。確認する医師は患者(労働者)を診察する権利を持ち、診察は労働者の自宅でも行うことができる。さらに、医師はカルテを見たり、労働可能や労働不能を確定したり、傷病手当金提供の停止を管轄健康保険局に勧めたりする権利を持つ。確認した医師の決定に対して使用者と労働者双方とも救済権を持つ。
上記の確認手続きの結果が解雇制限に重要な影響を与えうる。もし、確認医師が、労働不能でなく、労働可能と判断すれば、労働者は解雇制限による保護が適用されなくなる。したがって、その場合において、通常解雇の一般的な条件が満足されれば、労働契約が終了できるようになる。
(4)解雇事由となる欠勤
原則として病気による休業は通常解雇事由とならない。すなわち、労働者は病気で頻繁に休業しても、その事由で労働契約の終了は認められない。そればかりか、病気による労働不能の期間に労働契約は解雇制限によって保護され、当該期間に他の事由でも通常解雇することはできない。
しかしながら、裁判所の判決によれば、場合によっては労働者の病気による頻繁な休業も通常解雇の事由となることが可能である。この場合は休業していた労働者の職務の観点から、休業は使用者の活動の効率性に悪影響を及ぼしたか、審査しなければならない。加えて、職務の内容と重要性、労働者の職場における地位などを詳しく審査しなければならない。
審査の時、労働者は他の労働者が持たない特別な知識を持つか、その知識が他の労働者によって得やすいか、考えなければならない。なぜなら、特別な知識を持つ労働者が休業したら、他の労働者がその知識を持たない場合は、代替が問題となり、休業が効率的な業務遂行に影響を与える可能性があるためである。
4.会社の工場閉鎖及び撤退の法的手段
(2009 年 9 月 26 日時点作成)
工場を運営している会社が工場閉鎖して、ハンガリーからの撤退を計画している場合は、計画実現の法的手段がさまざまある。撤退の基本的手段としてまず、会社売却や合併がある。会社売却の際は社員・株主の持分・株が売却され、会社自体は解散しない。合併の際は会社が同じ会社グループ以内の、またはそれ以外の会社との合併を通じて、ハンガリーから撤退することができる。
さらに代表的な法的手段として清算による会社解散が考えられる。
以下、(1)清算による会社の解散、(2)会社の売却、会社の他会社との合併の方法について解説する。
(1)会社の解散:清算
清算は会社の解散の一つの方法である。清算以外に会社は例えば破産手続きでも解散することができるが、破産手続きは会社の支払不能の際に裁判所の厳格なコントロール下で適用される手続きである。それに対して、会社の適切な財産状態、すなわち、会社は債権者の弁済に十分な財産を持つ状態においては清算の手続きが適用される。つまり、清算とは債権者に対して完全に債務を弁済して、会社が解散する目的の手続きである。
会社の最高機関(例えば有限会社の場合は社員総会、株式会社の場合は株主総会)は清算を連続的に管理することができ、手続きを決議でいつでも履すことができるため、会社にとって清算は非常に柔軟性のある手続きである。清算を行う人が清算人と呼ばれ、清算人のポストに会社の前の取締役、または委任中の取締役が選任されることが多い。なぜならば、清算人となる取締役が会社の内部の人であると、会社の情報をよく知っていることから、会社にとっては事業的連続性を確保することができるため、清算手続きが効率よく、迅速に行われると考えられるためである。
なお、清算の対象となる財産は、会社の清算開始時の財産及び清算の間に普通の事業活動で取得される財産である。
①清算開始
清算の開始には会社の最高機関の決議が必要となる。当該決議では会社の解散、清算の開
始、それから清算開始時が決められる。清算開始時を決議採択の後の時点にすることも認められている。決議採択の時は最高機関が清算人の選任を行う。清算開始時に会社の取締役は会社の代表権を失い、清算人がその代表権を持つ役員となる。もちろん、取締役を清算人に選任することができる。
清算人は、法人、法人格を持たない会社、及び自然人からも選べる。清算人は清算開始時から普通の事業期間と違って、会社や会社グループの利益だけでなく、会社や会社グループの利益とともに清算する会社の債権者の利益も重視しなければならない。清算人が相当な注意を払って清算事務を行う義務を負う。
清算人は職務の一部として、登記裁判所に清算開始を知らせなければならない。さらに、会社の活動に関係がある国家機関にも連絡を取る義務も負う。清算人は会社の銀行口座がある銀行にも清算開始を知らせる。当該会社に関する行政手続きか裁判手続きがあれば、当該行政機関や当該裁判所へも通知する義務を負う。
②清算手続き
清算人は清算期間の中に清算会社の財産の現状を調査し、債権を取立て、債務を弁済し、権利を行使し、義務を履行し、そして、必要であれば、会社の財産を処分する。清算人が清算会社の財産を保護しなければならない。
さらに清算人は会社の債務を含める清算開始貸借対照表を作成する義務を負う。清算開始貸借対照表を基に、清算会社の財産が債務弁済に不十分であると確定された場合、二つの対応方法がある。一つ目は、社員・株主が不足分の財産を会社に支払う。支払わない場合、二番目として、清算人は登記裁判所へ破産手続きの申し込みを提出する義務を負う。すなわち、社員・株主が債権者弁済に足りない分を支払わなかったら、すでに開始された清算手続きを破産手続きに切り替える。
以下は清算人の職務を分野ごとにまとめる。
(a)動産・不動産
工場を運営している会社は一般的に不動産と生産活動に必要な設備を所有する。この財産を清算人は調査し、清算終了の時は会社の社員・株主の間に分配するか、必要な場合は処分する。
(b)契約
会社は事業活動にあたり賃貸借契約、運送契約、リース契約等のさまざまな契約を結ぶことが不可欠である。清算人が会社によって締結されたこれら契約を直ちに解除する権利を持つ。
会社の契約として融資契約がよく銀行と結ばれる。一般的にこのような融資契約は厳格な条件の下で結ばれて、その対象は非常に大きな金額のため、解除の前に関係銀行に相談することが望ましい。
(c)労働法
工場を運営している会社は多くの労働者を雇用しており、その観点からも、工場閉鎖の影響を考える必要がある。さらに、大きな会社においては労働者のさまざまな権利擁護団体が活動する可能性があるから、そのような労働者団体に関わる法的規則も研究しなければならない。会社で権利擁護団体が活動していれば、清算人は清算について通知しなければならない。
清算の開始自体は雇用契約と労働者の権利義務に効果を及ぼさない。よって清算開始は解雇事由として認められず、使用者は一般規則に従って雇用契約を解約することができる。しかしながら、多くの労働者の同時解雇の際に労働法の特別規則が適用されることに注意を払わなければならない。
(d)公租公課
税金、関税、罰金等の公租公課も債権者の債務として取り扱われる。清算の終了要件として公租公課を支払う必要がある。税務当局は会社が税務当局や関税当局に未支払い公租公課がないことを証明しない限り、当該会社の登記簿からの削除を認めない。
(e)裁判手続き・行政手続き
会社は係争中の裁判手続きまたは行政手続きを行っている間に清算を終了できない。裁判手続き・行政手続きは時間がかかるため、清算の終了が先延ばしになる可能性がある。
(f)環境保護
産業活動には一般的に環境汚染が伴う。清算人は環境損害の削減の目的で積極的に活動しなければならない。環境汚染、環境損害で会社が罰金等の支払い義務を負う可能性があるので、清算開始の時に清算人が管轄環境検査当局に会社事業で発生した環境損害の存在に関して通知を行う。
③清算終了
原則として清算開始から 3 年間以内に清算を終了しなければならない。
清算人は債権者弁済後の残余財産を会社の社員・株主の間に金銭でまたは現物で分配し、会社の事業を終了する。
清算の開始と同じように清算の終了にも会社最高機関の決議が必要である。この際に提出された事業報告、終了報告等の書類に基づいて決議が採択される。
清算終了の時、登記裁判所は清算人によって提出された削除申し込みに基づいて登記簿から当該会社を削除する。
(2)会社売却と合併
①会社売却
会社の撤退を可能にする他の方法として会社の売却がある。この際は会社がその財産と権利義務とともに売却される。この方法のメリットとして、会社がよい売却価格で売却されたら、清算より利益率が高くなる可能性がある。清算より迅速に手続きを進められる方法でもある。さらなるメリットとして会社売却の当事者が売却の条件を柔軟に、自分の利害に応じて決めることができる。しかしながら、上述 I.の清算手続きは法的に明確な状況を作って、会社を消滅させる一方、会社売却のデメリットは、契約には売主が一般的に瑕疵担保等の義務を負うので、売却後の紛争を防ぐことができない場合もある。
会社売却の際、競争法上の問題点も考慮しなければならない。売却の手続きは一般的に次のように行われている。
(a)基本合意書
基本合意書において当事者は会社買収・売却に関する意思表示を行う。基本合意書は取引に対してまだ法的拘束力がなく、取引までxxx過程だけを規則する。第三者に当事者の財産状態やビジネス計画を隠すために、この段階で当事者は秘密保持義務などもよく定める。
(b)デューディリジェンス (Due Diligence)
デューディリジェンスとは、買主が法務、金融、環境等の、さまざまな観点から会社の状態を調査する手続きであり、それによって会社の状態、危険な取引かどうかなどについて情報を得る。会社売却の際に買主がデューディリジェンスを行うことは一般的であると言われる。
(c)契約
契約においては取引の詳しい条件と過程が定められる。
(d)クロージング (Closing)
最終ステップとしてのクロージングの時点で価格が完全に支払われて、所有権が譲渡される。
②EU 内越境合併
EU 域内の有限会社は EU の他加盟国にある有限会社と簡単に合併することができる。このような方法でも、会社はハンガリーから撤退することができる。会社グループが他加盟国に子会社を持つ場合は、合併が非常に有利であろうし、子会社の合併によっては会社グループが費用を削減することもでき、地域の拠点作りにもなる。
5.ハンガリーにおける労働監督の実施
(2009 年 10 月 26 日時点作成)
ハンガリーのテレビで、労働監督官が事前通知なしで違法雇用を行う建設会社などに査察
にはいる映像がよく見られる。このような査察の結果、労働監督官が法律違反を行った会社に対して多大な罰金を科するとともに、警察が、違法労働者に対して決められた措置を取ることがある。
上述は労働監督官の業務の代表例だが、これは労働監督業務の一部である。雇用者は上述の査察、そしてそれ以外に監督を受ける行為がある。以下でハンガリーにおける労働監督について簡単に説明する。
(1)労働監督の目的
労働監督の第一目的は闇経済を縮小させることであり、「闇雇用」、「闇労働」の取締である。第二の目的は、法的雇用の管理である。ハンガリーの労働法典は労働基準を定めるが、労働契約や労働協定にも雇用についての大切な条件が含められており、国家は労働基準と労働契約の遵守をチェックし、違反となる行為を処罰する義務を負う。国家のこの活動手段として、労働監督という管理方法がある。
労働監督業務は、労働監督局(Országos Munkavédelmi és Xxxxxügyi Főfelügyelőség)の労働監督官によって行われる。
なお、上述の雇用者は使用者よりずっと広い意味を持つので、注意を払わなければならない。労働監督のシステムと手続きは特別な法律によって規定されるが、当該法律に従って、労働契約に基づく雇用関係が監督の対象となる一方で、委任契約や請負契約に基づく雇用関係は監督の範囲から除外される。
(2)労働監督の実施
労働監督の手続きは、原則として労働監督局の労働監督官によって行われる。労働監督は一般的に労働監督局の職権に従い自発的に開始されるが、場合によって、職場で権利や正当な利益が害された者も監督の実施を申請できる。例えば、均等待遇の義務に違反が見られる場合は、労働監督の実施が労働者の違反申告に基づいて開始されるのである。
労働監督の実施や適用できる処罰は雇用者の事業の種類によって異ならない。例えば事務業務を主とする事務所を運営している雇用者と、工場において肉体労働者を雇用する雇用者に適用されるルールは同一である。しかし、労働監督の対象となる労働の性質が違うことがあり、工場を運営している雇用者の場合は、監督の範囲が広くなり、事務所の場合に
問題とならないこと、例えば夜勤や非常労働(残業)なども調査されるようになる。
労働監督官が雇用者の本店、そしてあらゆる支店において、事前通知なしで立ち入り検査を実施する権限を持つ。立ち入り検査実施の要件として、監督官は監督権限を証明する証票を携帯しなければならない。検査について記録も作成しなければならない。立ち入り検査の結果として雇用者の法律違反が確定された場合は、雇用者に救済権が確保される。
(3)労働監督の対象分野
以下は労働監督の対象となり、労働監督官は調査権限がある主な分野を並べて、それぞれの分野に労働監督官が調査する問題点の例を挙げる。
①労働契約締結義務
例えば、労働契約が書面上に締結されたか、締結された場合は法によって定めた絶対的明示事項(従事すべき業務、賃金、就業の場所)が契約に含められているか。
②雇用者の説明義務
例えば、雇用者が賃金の支払時期、休暇の計算方法などを労働者に雇用契約の締結日に説明したか。締結以降の 30 日以内にその説明を書面でも労働者に渡したか。
③雇用契約の成立、解除・消滅に関する通知義務
例えば、雇用契約が成立した時、および解除・消滅した時に、雇用者が税務当局に対して通知を行ったか。
④記録義務
例えば、雇用者が労働時間や休暇を法律に従って記録しているか。
⑤均等待遇義務
例えば、同一業務を行い、同様な経験を持つ男性と女性労働者の賃金に差がないか。
⑥女性労働者、未xx者労働者などに関する特別義務
例えば、女性労働者は、妊娠確定の時点から幼児が 1 歳になるまで非常労働をさせることはできない。
⑦労働時間、休憩時間、休暇、非常労働に関する規則の遵守義務
例えば、1 日の労働時間は非常労働も含めて 12 時間を越えてはならない。非常労働は 1 年
間に最高 200 時間、雇用協約が定める場合は 1 年間に最高 300 時間を越えてはならない。
⑧賃金の金額及び賃金の擁護に関する法律の遵守義務
例えば、法律によって規定される最低賃金額(現在常勤労働で月給 7 万 1,500 フォリント)より低い賃金が常勤労働者に支給されていないか。
⑨雇用契約の消滅に関する証明書などの発行義務
例えば、原則として従業員の最後の就労日に雇用契約に関する証明書などを雇用者が発行しなければならないし、労働者との賃金や退職金などの決済も行わなければならない。
⑩外国人労働者の雇用に関する義務
例えば、外国人労働者が雇用される場合は当該労働者の労働許可が発行されているか、雇用者が雇用契約の成立または解除・消滅を管轄当局に通知したか。
➃人材派遣に関する義務
例えば、人材派遣の枠組みで雇用された労働者の労働契約に雇用目的として人材派遣が含められているか、人材派遣を行う会社が管轄当局に適切に登録されているか。
⑫労働組合設立の確保義務
例えば、雇用者が労働者の労働組合設立への行為を妨げたか、妨げているか。
(4)労働監督の処罰
労働監督官は雇用者が法律違反や契約違反を行ったことを確定する権限を持つ。法律違反や契約違反が確定された場合は、労働監督官が処罰を課することができる。以下は処罰の中で重要であり、よく適用される処罰を紹介する。
①勧告
労働監督官が雇用規制遵守の考えに基づいて雇用者の注意を喚起するために行う。さらに、雇用者の規則違反行為の停止を命じることができる。
②将来の雇用の禁止
重大な違反の場合、労働監督官は違反確定以降の雇用を禁止することができる。この処罰
は例えば雇用契約の成立、解除・消滅に関する通知義務を怠った場合に適用される。
③労働力市場基金(Munkaerőpiaci Alap)への支払
雇用者が労働許可を持たない外国労働者を雇用した場合、雇用者は労働力市場基金へ特定の金額を支払わなければならない。
④法的関係の変更
労働監督官が雇用者と従業員との関係の法的性質を調査する権限を持ち、法的関係を変更させることができる。例えば、契約で委任関係として定義された関係が実際上には委任関係でなく雇用契約であると労働監督官が確定することができる。この場合、雇用契約の成立時に遡って見直され、雇用者には新たな税務上の義務などが発生して、不利な効果をもたらす。
ここで注目すべきは、雇用者と従業員との関係が監督開始時にすでに消滅していたとしても、労働監督官が法的関係を上述のように変更することができる。すなわち、すでに成立していない雇用契約も事後的に変更させることができ、元の委任関係を雇用契約とみなすこととなる。
⑤罰金
労働監督官は罰金を科する権限を持つ。罰金を科するのは場合によって義務的であり、この時は労働監督官に選択の余地がない。例えば雇用者が労働時間登録を作成しなかった場合、罰金が必ず科せられる。罰金の額は違反行為の性質、回数、関連している労働者の人数によって変化するが、3 万フォリトから 2,000 万フォリントに及ぶ。
罰金を科することが、雇用者にとって支払義務以外に更なるマイナス効果をもたらす場合がある。労働監督に基づく罰金の確定は、場合によって公的調達の手続きへの参加や特定の種類の入札手続きへの参加を妨げたり、政府補助を受けることができなくなるためである。
6.会社集中化に関するハンガリー競争法による規制
(2009 年 10 月 26 日時点作成)
(1)欧州委員会及びハンガリー経済競争局の積極的活動
最近、欧州委員会及びハンガリーの経済競争局(Gazdasági Versenyhivatal、以下、経済競争局)の積極的な活動がメディアでよく伝えられる。なぜなら、EU の基本価値である競争と障壁のない貿易環境を作り、維持するために、強制xxxを持つ機関が必要となったからである。
以下で企業活動に大きく関係すると考えられる経済競争局の活動を紹介する。この活動は会社が相手会社と合併し、相手会社に吸収され、相手会社の支配力を獲得し、又は相手会社と共同で会社を設立する行為の認可手続きである。上述した行為は会社集中化と呼ばれ、その実施のために経済競争局の認可が必要となる。
(2)経済競争局の活動
経済競争局は国の機関であり、その業務は、欧州委員会とともにxxな市場競争を保護することである。この枠組みで経済競争局は(a)申し立てに基づいて、(b)市場の部門別の調査において、及び(c)職権上、市場に参加している経済主体、つまり会社の経済活動を調査する権限を持つ。
最近の数年間の傾向であるが、経済競争局によって会社に命じられた制裁金の金額がますます増加している。制裁金は、長い競争調査手続き、ある場合は裁判手続きの結果で決定され、その理由として、会社が市場競争を阻害する目的で協定を締結している、競争阻害の目的で他の会社と調和した活動をしているなどの事例がある。
具体的な例を挙げると、先月に終了した手続きにおいて経済競争局が合計でおよそ 10 億フォリント(375 万ユーロ)の制裁金を 7 つの銀行と 2 つのカード会社(Visa や Mastercard などのカードを発行する会社)に科した。当該銀行とカード会社に競争阻害を目的とした協定と活動がみられ、経済競争局はその存在が市場に長期的に影響を及ぼしたとして、膨大な制裁金を科した。
しかしながら、経済競争局は上記のようなカルテル行為を防ぐ活動だけでなく、他の活動も行っている。会社集中化の認可手続きである。
(3)会社集中化について
市場の参加者が、利益を高める目的で市場行動をとったり、合併したり、商品などを開発したり、他の、集中化とみなされる行為もしたりする。以下は集中化の意味と主な場合をまとめる。
①会社はある場合に他会社と合併したり、他会社に吸収されたりする。会社の一部が損失やなんらかの合理化の理由で、他会社に渡されることもありえる。会社の一部とは、競争法の観点から、会社の株など一般的に一部として定義されるものだけでなく、設備や権利なども会社の一部として扱われる。設備や権利は独立した市場活動を行うことに十分であれば、競争法上、会社の一部とみなされる。
上記のケースの特別例として、ある場合に会社が引き渡す顧客も会社一部としてみなされる。これは多数の顧客を扱う部門(銀行部門、保険部門)によく適用される競争法規則である。
②2 つの会社グループが、市場行動を改善するために、独立した会社機能を持つ会社を共同で設立すること(共同企業体、ジョイント・ベンチャー)もある。(ここでのジョイント・ベンチャーは、研究開発のために設立したジョイント・ベンチャーでなく、ビジネスを共同で行うための事業体を意味する。)
③ある会社が独立した、すでに事業活動を行っている会社の一部、又は全体を管理できる支配力を獲得することも集中化である。
このように、競争法上は多くの行為が集中化とみなされ、競争法の厳格なルールが適用されるので、注意を払わなければならない。
(4)集中化の法的規制
①管轄権
EU 加盟国であるハンガリーにおいて EU 法が適用される。競争法の分野は EU 法とハンガリー法が並列に適用される法分野の一つである。すなわち、原則として競争法の事件に EU法とハンガリー法が同時に適用される。しかしながら、会社集中化の規制には EU 法とハンガリー法にこの並列管轄権が存在しない。よって事実上は、ある事案について、EU 法またはハンガリー法どちらかが適用され、それに従って管轄当局は EU 競争委員会もしくは
経済競争局となる。
集中化が「共同体規模」(community dimension)である場合は EU 競争法が適用される。一般的に特に重大な売り上げ額を持つ会社グループの集中化は、共同体規模とみなされる。
会社グループの年間売り上げ額が共同体規模の程度に達しない場合は、原則として加盟国の競争法、すなわちハンガリー競争法が適用され、経済競争局が当局として対応する。
②適用範囲
なお、集中化の当事者である 2 つの会社がハンガリーで登記されないにもかかわらず、ハンガリー法が適用され、経済競争局が対応する場合があることに注意を払わなければならない。すなわち、ハンガリー競争法はハンガリー領域内における集中化だけでなく、外国に所在地がある会社の集中化にも適用される可能性がある。外国に所在地を持つ会社の集中化が、実際上または理論上にハンガリー領域内に影響を及ぼす効果がある場合、当該会社にもハンガリー競争法が適用されることがある。よって、EU 加盟国に所在地を持つ日本企業が加盟国の会社との間で集中行為が認められ、ハンガリー領域内に影響をもたらす可能性がある場合は、同会社の行為にハンガリー競争法が適用される。
③集中化に参加する会社
会社が集中行為を行うにあたり、場合によって、経済競争局の認可を受けなければならない。集中行為となる取引を計画している会社は、当該取引に集中認可手続きが必要となるかどうか、考慮しなければならない。まず、(a)計画される取引が EU の管轄権かハンガリーの管轄権に属するか(上述管轄権を参照)、そして(b)取引がハンガリー管轄権に属する場合は、ハンガリーの競争法によって禁止されている行為と当てはまるか(上述適用範囲参照)、最後に(c)ハンガリー法上で取引が集中化となるかどうか、調査しなければならない。以上の条件が満たされれば、集中化の参加会社である関連会社グループを確定しなければならない。
集中化に直接または間接に参加する会社を関連会社と呼ぶ。集中化の取引の当事者である会社は直接参加会社であり、直接参加会社の会社グループの他の会社は間接参加会社である。直接参加会社と間接参加会社は関連会社であり、関連会社全体を関連会社グループと呼ぶ。
関連会社グループの定義の確定が重要である。その理由は、関連会社グループの年間売り上げ額が経済競争局の認可手続きの前提となるためである。
④認可申請の条件
各関連会社グループ及び、関連会社グループのメンバー会社と第三会社と共同で管理される会社も含め、以下の条件が両方満たされれば、会社の集中化について経済競争局に認可申請しなければならない。
(a) 上述の会社全体の直近の事業年度売り上げ額が合計で 150 億フォリント(約 570 万ユーロ)を越えること、及び、
(b) 複数の関連会社グループの中で、最低 2 つの関連会社グループの直近の事業年度年間売り上げ額が(会社グループのメンバーと第三会社と共同で管理されている会社の売り上げ額も含めて)5 億フォリント(約 18 万ユーロ)を越えること。
売り上げ額を計算する際に、関連会社相互の取引の売り上げを計算に含めてはならない。所在地が外国にある会社の売り上げを計算する際は、ハンガリー領域内で行った取引の売り上げ額だけ計算しなければならない。
⑤認可の申請
認可申請の提出の締め切りが結構短いので、会社は特に注意を払わなければならない。申請の提出締め切りは契約締結や管理権の取得から 30 日間以内である。
提出と同時に申請者は、400 万フォリント(約 1 万 5,000 ユーロ)の高額の手数料を支払わな
ければならない。この手数料に加えて法律に基づき、さらに 1,200 万フォリント(約 4 万
5,000 ユーロ)の手数料を支払わなければならない場合がある。
⑥認可の重要性
認可が重要な理由は、経済競争局の認可が集中契約の成立条件となるためである。つまり、認可がない限り集中契約は成立しないとみなされる。そして、集中契約が成立しなかったら、集中化そのものも現実化しない。
経済競争局が集中化を認可する場合は、集中契約の締結時点に遡って成立したとみなされ
る。
⑦認可の発行
経済競争局が様々な要素を考慮して、市場の複雑な研究に基づいて、当該集中化が市場の競争を制限するか否か、調査する。もし、当該集中化が市場の競争を大きく阻害しないことが確定されたら、経済競争局は申請を認可しなければならない。
7.職場の安全衛生:ハンガリーの労働保護について
(2009 年 11 月 26 日時点作成)
仕事をする時は労働者が職場で長い時間を過ごすため、健康な職場環境の形成を目指して、詳しいルールを定める法律が EU やハンガリーでもますます増えてきている。健康な職場環境に加えて労働安全にも注意をしなければならない。労働災害を防止し、職業病の発生可能性を減尐させることが、労働者と使用者にとっても有利だからである。
労働安全衛生に関連する規制がその最低基準を定めるが、使用者が最低基準を踏まえて、社内規則などにおいて作業環境を発展するために、自主的に追加義務を設けることができる。快適で健康な職場環境が労働の効率化につながることから、上記の安全衛生活動に注意を払う会社の数は増加している。
(1)労働保護の分野
ハンガリー労働保護法は、健康を危険にさらさない、安全な労働条件の実現と継続的な維持をあらゆる使用者に義務付けている。労働保護の領域は幅広く、その基本的な分野として特別な知識を必要とする(a)職業健康管理、(b)労働衛生、及び(c)労働安全がある。(a)の職業健康管理が産業医の活動などを意味する一方、(b)の労働衛生は労働者の福祉や適切な作業条件を確保することである。最後に、(c)の労働安全は、労働の安全性に関する、防護具や装置などに関する規則を定めている。
労働保護法以外でも労働保護を法規で定めており、使用者にさまざまな義務を課している。以下は使用者の義務の中から(1)の職業健康管理と(2)の労働衛生の分野でもっとも重要だと思われる、労働者の健康保全に関するポイントについて説明する。しかしながら、ここで注意すべきことは、健康保全というテーマも幅が広く、適用される法規がたくさん存在す
る。例えば、以下で触れないが、職場における騒音レベルについても別の法規が存在する。
(2)使用者の健康保全義務
一般的に、健康を危険にさらさない、安全な労働条件を実現した職場の形成が使用者に課せられる中心的な義務である。この義務の内容には、ハンガリー法によって定めた、使用者のタスクが多数入っている。例えば、使用者は作業環境で起こりうる危険を評価し、防止計画を作成し、労働者を危険に関して指導し、教育しなければならない。
上述したように、使用者が危険評価(リスク・アセスメント、risk assessment)を作成する。ここで危険とは非常時において負傷、障害の発生可能性とその重大性を意味する。危険を評価する場合、職場において何が労働者を害し、脅かし、そして、健康損害防止のためにどのような措置をとる必要性があるか、使用者が調査する。
危険評価に特別な知識が必要となるので、使用者が危険評価を行わず、一般的に専門会社や労働保護の専門家に評価業務を委任する。危険評価の実施がよく一時的な問題だと思われがちだが、その理解は誤りである。なぜなら、健康で安全な作業環境を継続的に維持しなければならない一方、作業環境や設備の質などが時間の経過とともに悪化したり、関連規則が変更されることがあるので、危険評価は定期的に行わなければならない。
危険評価では、使用者が労働者の健康と安全を危険にさらす要素、特に、利用される道具や危険物質、労働上のストレス度と仕事場の状態などを調べなければならない。
危険評価の結果に基づいて、適切な労働条件を継続的に確保できる予防措置を取らなければならない。以下は予防措置の例である。
• 清潔な職場の形成と維持
• 汚水、ゴミの適切な収集
• 労働保護規則に関して労働者の教育、管理
• 適切な健康診断の実施(以下参照)
• 労働災害や職業病の発生の通知、診察及び記録
• 飲食、休憩のための施設の提供
予備措置を社内規則に含めなければならない。
上記の例の中から職業病に関する規則を簡単に説明する。職業病とは、特定の職業を行う
ことによって、または、行う関係で発生する病気のことである。例えば、仕事でパソコンを使って、たくさんタイプする人は腱鞘炎にかかることが多い。職業病として認定された病気のリストを法律で定めているので使用者は確認できる。職業病にかかった場合、それを健康管理提供者の産業医が認定する。
使用者は職業病の発生をハンガリー労働監督局(Országos Munkavédelmi és Munkaügyi Főfelügyelőség)に通知しなければならない。職業病が社会保障手当金に関係があるため、速やかな通知が必要である。
(3)職業健康管理義務
使用者が職場において労働者の健康を管理する義務を負う。つまり、産業医や看護婦を雇用するか、健康管理提供者と契約を結ばなければならない。健康管理提供者とは医療サービスを提供する会社のことである。
健康管理提供者と契約を締結する場合は、労働者の健康診断が健康管理提供者において行われる。契約に使用者の負担となる健康診断料の金額が確定される。
職業健康管理サービスは(a)基本サービス、(b)専門医療サービス及び(c)特別サービスで構成される。基本サービスの枠組みで定期的な健康診断や職業病の診察などが行われる。専門サービスは、職業病と認定された労働者の治療などを行う。そして、特別サービスは例えば精神的な健康診断を行う。これらの健康管理サービスの提供は、すべて使用者の負担となっている。
(4)労働者の仕事適性診断及び健康診断
業務内容や職場によって異なるストレスや疲労が蓄積されるため、使用者は適切な対応が求められる。特定の職種がある労働者にどのようなストレスを与えるか、労働者がその精神的・肉体的緊張にどう対応できるのか、仕事適性診断によって測定する。仕事適性診断は労働者の採用前に、または労働者の業務内容が変化する時に行われ、以下の質問に答える必要がある。
• 業務内容が労働者の肉体的、精神的な健康を脅かしているか
• 労働者の健康状態に悪影響を与えないか
• 労働者は病気があれば、それは労働災害の理由とならないか
• 労働者が定期的な健康診断を必要とする病気にかかっているか
仕事適性診断は上述の健康診断の(3)(c)特別サービスの類である。もちろん、上述の特別な場合以外でも、労働者の健康診断を定期的に行わなければならない。なお、健康診断の回数は業務内容によって異なり、法によって定められている。
例えば、農薬生産に従事する労働者は半年に 1 回、外国出張から帰ってきた労働者は、帰
国後の 2 年間に 1 回診断しなければならない。特に大きなストレスと伴う業務の労働者も 1
年に 1 回診断しなければならない。特に大きなストレスを伴う業務とは、人や財産のために特に大きな責任を負う仕事のことである。例をあげると、取締役もこのような仕事である。
なお、ハンガリーの規則では、スクリーンなどの画面を用いた業務も特に大きなストレスを伴う業務として定義している。よって、画面を用いた業務の労働者も毎年健康診断を行わなければならないし、以下に説明する眼科検査も 2 年に 1 回行わなければならない。
(5)画面を用いた業務に関する特別規則
IT の発展の結果、パソコンなどの画面を用いた仕事がハンガリーでも一般的となっており、画面を用いた仕事に必要なメガネの提供、及び眼科検査が義務として使用者に課せられるようになった。
労働者が 1 日に 4 時間以上画面を用いた業務を行った場合、特別な規則が存在する。すな
わち、労働者に 1 時間ごと 10 分の休憩時間を与えなければならない。職場において利用さ
れる設備等の理由で 1 時間ごとの休憩が不可能な場合でも、休憩のために労働を 1 時間ご
とでなくても、定期的に停止する努力をしなければならない。労働者が 1 日に画面を用いる時間が合計で 6 時間、または労働時間の 75%を越えてはいけない。
採用前に、そして就業後 2 年に 1 回、労働者の眼科検査を行うことも使用者の義務である。もちろん、労働者が目の状態が悪化したと感じる際も、使用者は眼科検査の実施を認めなければならない。最初の検査を産業医が行い、その後必要であれば専門医師も検査を行う。専門医師が労働者にメガネを処方すれば、その費用を使用者が負担しなければならない。
画面を用いた作業の際は、よい質の画面、快適な椅子及び適切な照明を提供することも使用者の義務である。
(6)労働保護に対する処罰
最後に注目すべきなのは、労働保護に関する義務の履行が労働監督局によって監督されることである。使用者が労働者の生命や健康を重大な危険にさらすこと、または労働安全衛生に関する他の義務を履行していないことが監督実施の結果明らかになった場合、罰金が科される。罰金額は 5 万フォリントから 100 万フォリントまでに及ぶ。
8.ハンガリーにおける人材派遣
(2009 年 11 月 26 日時点作成)
(1)人材派遣の定義
ある会社に勤める労働者の数が何らかの理由で一時的に不足することがある。この現象は、普通、棚卸やクリスマス時期などに起こり、その結果、会社の労働力需要が増加する。労働力需要増加の問題は季節的な事業を行う会社でも発生する。このような会社の典型的な例は農業関連の加工産業の工場においてである。必要な労働者の数が時期によって激変するため、常に適当な数の労働者を確保することは企業にとって悩ましいことがらの一つである。
上記の問題を解決するため、労働者との雇用契約を頻繁に成立させたり、解除したりすることは、使用者の管理業務に負担がかかり、莫大な経費も発生させる。よって、労働力需要を柔軟に満たす目的の特別雇用形態として、人材派遣というものが発展してきた。
人材派遣は特定の使用者(以下は派遣元会社)が自社と労働契約がある労働者を、労働の目的で、他の使用者(以下は派遣先会社)に有料で使用させる。
以下は人材派遣について簡単に説明する。
(2)人材派遣の三角形:3 人の当事者
人材派遣の当事者は①派遣元会社、②派遣先会社、及び③派遣労働者である。
人材派遣の際は、派遣元会社と派遣先会社が人材派遣サービスを使用する目的で派遣契約を締結する。派遣契約に基づいて派遣労働者が具体的な作業を派遣先会社で行うが、派遣
労働者の雇用契約は派遣先会社とでなく、原則として派遣元会社と成立している。派遣労働者と派遣元会社との労働契約には、雇用契約の目的は人材派遣であることが明記されている。
このように、使用者となるのは具体的な労働を行う派遣先会社でなく、労働者と労働契約を結んだ派遣元会社である。派遣元会社が使用者の一般管理業務、例えば当局への労働に関する通知などを行うが、事実上の労働が派遣先会社で行われるので、労働に関して指揮命令、管理活動などは派遣先会社によって行われる。
(3)人材派遣に関する規制
人材派遣は非xxの雇用形態であり、労働契約に適用される一般規則と違って、ハンガリー労働法典において人材派遣に適用される特別規則が定められている。労働法典以外にも、この労働タイプに関する規則が多数ある。
(4)派遣先会社から見た人材派遣の利点
①経理上の負担の削減
派遣労働者と派遣先会社との間に雇用契約が成立しないため、労働者との雇用契約の設立や解除に関する通知義務や給与計算などの経理業務は、原則として派遣先会社の負担とならない。
②費用削減
派遣労働者へ給与を支払うのは派遣先会社でなく、派遣元会社であるので、前者に社会保障費などが負担とならない。さらに、一般の雇用契約の際は労働が行われない時、例えば病気欠勤の時にも賃金を支払わなければならないが、人材派遣の場合は派遣先会社が派遣元会社に時給で派遣料を支払うため、実際の労働時間に応じて派遣料を支払うこととなり、この点でも人材派遣は費用削減効果がある。
③弾力性
人材派遣の更なるメリットはその弾力性である。人材派遣の基本的な目的は使用者の一時的な労働力需要増加を満足させることであるから、派遣先会社が労働者を 1、2 日間であっても利用できる。派遣期間終了後は、労働者と雇用関係はないため、派遣先会社は費用発生を伴う雇用契約解除などを行う必要がない。
(5)ハンガリーの人材派遣業界の特徴
ハンガリー職業安定事務所(Foglalkoztatási és Szociális Hivatal)によると、2008 年 12 月 31 日時点で、地方労働局に 948 の派遣会社が登録されている。統計によると、派遣労働力を一番利用するのは加工産業の企業であり、それ以外に農業、漁業、林業関連企業及び経営サポートを行う企業もよく派遣人材を活用している。
2008 年に派遣された労働者の 82.7%が肉体労働者、17.3%が事務労働者であった。
企業の人材派遣への関心は高まっている。さらに、人材派遣を長期間利用する傾向があり、 この場合は派遣労働者が正社員とほぼ同じ内容の業務を違う労働条件下で行うこととなる。そのため、派遣労働が特定の期間を超えた場合、労働法典が手当などに関して派遣社員と 正社員の均等な待遇を使用者(派遣先会社)に義務付けている。
(6)人材派遣会社
人材派遣活動をビジネスとして行う場合、事業主はハンガリー国内に所在地があり、社員が有限責任である会社、及び共同組合に限定される。人材派遣を行う会社は管轄地方労働局への登録が必要である。
人材派遣契約を締結する前に、派遣元会社に対して以下の情報を照会しておくとよい。
①派遣元会社の登録
派遣元会社が地方労働局に適切に登記されているかどうか、派遣契約締結の前に必ず証明させたほうが安全である。派遣労働者の実際上の労働開始までに派遣元会社が登記されていなかった場合、労働法典の一般規則が適用され、雇用契約が労働者と派遣元会社との間ではなく、労働者と派遣先会社との間に設立されるとみなされ、派遣先会社は労働法上や税法上で不利益を被ることになる。
②税務当局への通知
派遣元会社が労働者の雇用について税務当局に通知したかどうか、労働者の労働開始までに証明させることが望ましい。
③派遣労働者の労働契約の表示
人材派遣元会社は労働者とハンガリー労働法典の規制に従って労働契約を締結したか、証
明させることも大切である。派遣元会社と派遣労働者との労働契約に当事者の基本情報、労働者の給料、業務の内容、及び契約締結の人材派遣目的が記載されていなければならない。もし、労働契約が上記の事項を盛り込んでいなかった場合、労働契約が派遣元会社と労働者との間でなく、派遣先会社と労働者との間に成立する。
(7)派遣元会社と派遣先会社との派遣契約
ある会社が労働力の派遣を希望する場合、人材派遣活動の資格を持つ会社と書面上で合意しなければならない。労働法典において定まった特定の所有関係の会社、例えば親会社・子会社の間に締結される派遣契約は認められておらず、無効となることがあるため、注意が必要だ。なぜなら、特定の所有関係の会社の間で労働者の派遣が行われた場合、それは法的に人材派遣ではなく、出張とみなされる。
人材派遣が非xxの雇用タイプとみなされる理由は、労働者にとって使用者は派遣元会社と派遣先会社の二者となり、使用者の権利義務が派遣元会社と派遣先会社の間に分割されるためである。そのため、派遣契約の当事者である二つの会社はお互いに継続的に協力しなければならない。協力義務について労働法典が詳しく規制している。
以下は派遣契約上の注意すべき点である。
①派遣契約事項
上述のように、派遣元会社と派遣先会社が契約を書面上で結ばなければならない。派遣契約に派遣期間、仕事場、業務内容などを含めなければならない。
②派遣先会社の情報提供義務
派遣先会社は、社内規定、業務内容及び雇用にかかわっているあらゆる重要な要素について、書面で派遣元会社に情報を提供する義務を負う。さらに、派遣先会社は、派遣された労働者の労働に関する情報も、給与計算に間に合うように、派遣元会社に通知しなければならない。
③費用負担
雇用に関する費用として、例えば労働者の交通費や労働に必要な健康診断料などがある。雇用に関する費用は原則として派遣元会社の負担となるが、当事者が派遣契約で負担者を派遣先会社に変更できる。
④使用者の権利義務分割
使用者の権利義務が派遣元会社と派遣先会社の間でどう分担されるか、労働法典で規制される。例えば、労働安全衛生や労働時間、休憩などに関する規則は、派遣先会社が使用者とみなされる。よって、当局による労働監督が行われる際、違法が見つかれば、派遣先会社は労働者と労働契約が成立しなくても使用者とみなされ、罰金が科されることがある。
派遣労働者に休暇を与えるのは、原則として派遣元会社の権利であるが、派遣契約に基づいてその権利を派遣先会社に変更することができる。
⑤派遣労働者との雇用契約の解除
労働者と派遣元会社との雇用契約を派遣先会社が解除することはできない。
9. 国家援助の EU 競争法による管理
(2010 年 1 月 4 日時点作成)
何らかの形で国は企業に支援(以下、国家援助)を行うことがある。この行為は EU 加盟国の場合でも見られる。しかしながら、EU において国家援助は、EU 競争法によって極めて厳格に規制されている。国の恣意的な決定によって市場競争が歪むためである。
EU には経済的共同体を構成する特別な目的がある。各国の国家援助が EU レベルで厳しく管理されていなければ、EU が目的とする単一市場は実現できず、各国がそれぞれ自国の競争力のない企業を保護する政策を実行すれば他国に悪影響が生じる可能性がある。よって、国家援助の管理は EU 競争政策において重要な地位を占める。以下に国家援助に関する規則を簡単にまとめる。
(1)国家援助に関する規制
企業の経営陣は以下について留意しておくとよい。
①欧州委員会は(a)違法な国家援助、又は(b)EU 市場と両立しない国家援助(以下(2)参照)を加盟国が企業に与えた場合、当該支援額を企業が加盟国に返還させる権限を持つ。つまり、国家援助を受けた企業は、支援額にxxをつけて国に返還しなければならない。このような場合、企業のダメージは甚大で、破産状態にまで至る場合もありうる。よって、国家援助を受ける前に、当該援助が欧州委員会の許可を得たものか、確認しておくのがよい。
②国家援助の場合は、競争相手企業は EU に申し立ての資格を持ち、例えば欧州委員会に国家援助が実施されたことを通知することができる。競争相手企業の典型的な対応として、他の企業に国家援助が与えられた場合、競争相手企業はその支援によって自社の権利が害されたと主張するようである。その場合、競争相手企業は申し立ての権利を利用して利益をうることが多い。
(2)EU 法による国家援助の禁止
原則として競争を歪める及び加盟国間の貿易に影響を及ぼす国家援助を EU は禁止している。
「欧州連合の機能に関する条約」(以下 EU 機能条約)の107 条 1 項には以下のようにある。
この条約に別段の定めがない限り、形式のいかんを問わず、加盟国により、もしくは加盟国の資金を通して与えられる援助で、特定の企業または特定の生産に便益を与えることによって競争を歪めるもの、もしくは歪めるおそれがあるものは、加盟国間の貿易に影響を及ぼす限り、域内市場に両立しない。
上の条文を理解するために、まず「国家援助」の意味を明確にしておく。
(3)国家援助の意味
国家援助の意味は EU 制定法でなく、EU 判例法によって定義されてきた。すなわち、
EU 競争法上において、国家援助とは以下のすべての条件を満たす国家介入のことである:
①便益を持つ
②国家によってまたは国家の資源から与えられる
③その対象は特定の企業や産業分野である
④競争を歪める
⑤加盟国間の貿易に影響を与える
①便益は、普通の競争的市場において企業が得ることができない利益を意味する。便益は完全に又は部分的に無料でなければならない。政府補助金などの金銭的な便益だけでなく、免税、負債への国家保証、低xxでの融資など、他の形態の便益も国家援助とみなされる。
②国家の資源は国家機関からだけでなく、地方自治体や国有会社からも与えられる。国家の資源から与えられるとは、国家援助が国家財政の負担となることである。
③国家援助が特定の企業、事業分野や産業分野を優先する点、すなわち、国家援助の差別性も重要である。国は差別的な支援とともに一般介入も行う。一般介入は場合によって影響が差別的であるため、一般介入と国家援助を区別するのが困難な場合もある。
④国家援助は必ずしも競争を歪めるものとは限らない。競争を歪めるおそれがある場合でも、国家援助が欧州委員会によって認められることがある。しかしながら、競争歪曲が小さければ、国の行動は国家援助とみなされないため、欧州委員会に通知する必要はない。(欧州委員会のDe minimis 規則以下VI. 参照。)
⑤国の介入が加盟国間貿易に影響を与えなかった場合、EU 競争法上、国家援助とみなされない。例えば、ある対象商品の貿易が加盟国間で一切行われなかった場合、国の介入は国家援助とみなされない。しかしながら、このような例は尐ない。一般的に、国の介入は加盟国間の貿易に影響を与えるか、影響を与える危険性があると言える。
(4)国家援助の区別
国家援助はさまざまに区別できる。区別によって、適用される規則が異なるので、注意が必要である。以下は主な区別である。
• タイプによって(例えば、税控除、国による負債保証)
• 目的によって(研究開発、環境保護、経済体制変換など)
• 一回限りの国家援助や政策的な国家援助
(5)国家援助の悪影響と効果
国家援助の主な悪影響としては、以下のようなものが考えられる。
• 競争力のない企業は国家援助を受けない企業の費用で支えられる。
• 国家援助を受ける企業は事業を積極的に展開しない場合があり、こうした場合、国内外市場においても該当企業の競争力は低下する。
• 生産者側では生産過剰、又は消費者側では過剰消費が生じるので、適切な競争効果が望めない。
しかし、場合によって効果も認められる。
• 研究開発及びイノベーションの促進。
• 環境にやさしい製品、サービスの提供。
• 公共照明などの、競争市場では生産が困難な公共財の生産が促進される。
(6)国家援助の許可
支援については、EU による事前許可制度がある。事前許可制度とは、国が支援を与えようとしている場合は、それを欧州委員会に通知し、欧州委員会の許可が出るまで該当支援は有効でないということである。つまり、欧州委員会の許可なしに与えられた支援は原則として違法である。
このように、ある支援が(a)上述の 107 条 1 項の意味での支援であるか、そして(b)支援である場合は、許可をするか、欧州委員会は確定する排他的な権限を持つ。
上述 107 条 1 項の条件を満たす支援、つまり、禁止の対象となる支援は単一市場と両立しないので、付与は違法である。しかしながら、107 条 1 項の禁止には例外が存在しており、以下で簡単に解説する。
①De minimis (デ・ミニマス)原則
De minimis 原則, いわゆる僅尐原則によると、特定の企業に与えられた小額の支援は、特定の条件が満たされた場合、上述 107 条 1 項の支援とならない。例えば条件として、援
助の総額が 3 年間に 20 万ユーロを超えてはならない。このような小額の援助は国家援助とみなされず、欧州委員会に通知する必要はない。
②包括的適用除外規則
欧州委員会によって発効された包括的適用除外規則によると、一定の条件が満たされていれば、ある分野に関する国家援助については、加盟国が欧州委員会に事前に通知する必要はなく、実施の許可も必要ない。
包括的適用除外規則は例えば以下の分野に適用される。
• 中小企業への投資と雇用援助
• 中小企業に対する助言に関わる援助
• 中小企業の見本市参加の援助
• 研究開発、イノベーションの援助
• 訓練援助等。
③域内市場と両立する国家援助
上記の De minimis 原則と包括的適用除外規則の対象となる援助以外にも、可能な支援がある。該当支援には特別な目的があり、域内市場と両立しない性質でないため、欧州委員会が許可を与えることができる。以下は当該例である。
• 経済的に不利な状態にある地域の開発の援助
• 経済危機対応の援助
• 特定の産業分野の開発への援助
• 特定の経済地域の開発への援助
• 文化への援助、文化的な遺産の保護
(7)中小企業に対する特別な国家援助
中小企業は欧州企業の 99%、欧州 GDP の 60%を占める。欧州の中小企業の一番大きな課題は融資を受けることが容易でないということである。
この課題を解決するため、上記の包括的適用除外規則以外に、欧州委員会は暫定的な国家援助を許可するようになった。すなわち、2010 年 12 月 31 日まで各加盟国は一定の条件
を満たせば、企業ごとに 50 万ユーロを超えない一括援助を提供することが可能となった。
10.雇用契約の終了:使用者側の注意点
(2010 年 1 月 4 日時点作成)
雇用された労働者の勤務態度や能力に満足しない時、又は経営上の理由で使用者が労働者との雇用契約を終了したいと考えた場合、注意が必要である。雇用契約の終了が合法的であるために、終了に関する法規のあらゆる形式的及び実質的な条件を満たさなければならない。不十分な場合、労働裁判所は労働契約の解除が違法であったと判断する危険性があり、その際は使用者が労働者に対してだけでなく、訴訟費用、手数料など、訴訟手続きに関わる多額の支払い義務を負うことになる。
以下は雇用契約の合法的終了に必要な、形式的、手続き的、実施的な規則に焦点を当てながら、使用者の立場からの雇用契約の終了方法及び当事者の合意による解約方法を解説する。
(1)雇用契約終了の一般的注意点
①書面による解除
どんな終了方法を選んでも、労働契約の解除は書面上で行わなければならない。解除が書面によるものでなかったら、違法となる。
②解雇通知書や合意解約書の署名権者
使用者権限を持つ人は原則として会社の取締役である。複数の取締役がいる場合は、会社のメンバーは使用者権限を持つ取締役を選定することができる。さらに、使用者権限を持つ人として取締役でなく、他の、会社と雇用契約にある人を指名する決議を書面上で採択することができる。
使用者側で解雇通知書や合意解約書に署名できるのは、使用者権限を持つ人に限られている。上記の書類に使用者権限を持たない人が署名すると、その雇用契約終了は違法となる。
よって、解雇通知書を労働者に渡す前に、会社の登記事項証明書及び定款において、誰が使用者権限を持つか確認しておくとよい。
③労働契約及び雇用協約の確認
該当労働者との労働契約には、試用期間、解雇猶予期間、労働者の年齢、退職金など留意すべき事項が多く含まれているので、雇用契約の終了に先立ちすべて確認しておくのが望ましい。労働者との雇用契約に雇用協約が適用される場合は、雇用協約内容の確認も忘れてはならない。
(2)合意解約
合意解約とは雇用契約の終了にあたり、雇用契約の終了時点や労働報酬などすべての事
項について自由に同意できる、使用者と労働者の書面上の合意のことである。合意解約の 場合は解雇制限の規則(以下(3)参照)が適用されないので、いつでも合意文書の締結ができる。
合意解約による終了の大きな利点は、解約書を労働者が同意して署名するので、労働裁判所で労働者が解約の無効を主張できるのは、錯誤、脅迫、又は詐欺だけに限られるにもかかわらず、その立証責任は労働者にある。
したがって、できれば、合意解約による該当雇用契約の終了が望ましい。合意解約書には、当事者は雇用契約から生じる請求は一切ない―という文言を含めておくと安全である。
(3)通常解雇
使用者による通常解雇とは、解雇猶予期間が過ぎて雇用契約を終了させる効果を持つ、使用者の書面による一方的な意思表示のことである。ただし通常解雇の事由を解雇予告通知書で述べなければならない。通常解雇の場合は、労働法典によって事由が三つある。①労働者の能力、②労働者の態度、及び③使用者の経営上の理由-である。
非常解雇又は合意解約で労働者の雇用契約がいつでも終了できる一方、労働者は「解雇制限」で保護され、使用者が労働者と雇用契約を合法的に通常解雇で終了することができない場合がある。解雇制限の期間に予告された通常解雇は違法とみなされる。解雇制限期間は、たとえば病気による休業、 子供の療養のための無給休暇の期間である。
したがって、雇用契約を通常解雇で終了したい場合は、該当労働者が解雇制限で保護されているか、確認したほうがよい。一番安全な方法として、解雇予告通知書を渡す前に、解雇制限で保護されていない旨労働者に書面で明らかにさせる方法もある。
ハンガリー法において「年齢保護労働者」という特別な労働者カテゴリーがある。年齢保護労働者とは定年退職年齢まで、まだおよそ 5 年間残っている労働者のことである。年齢保護労働者に関する解雇制限によると、特別正当な理由がある場合のみ通常解雇が可能である。例えば、整理解雇は特別に正当な事由としてみなされるので、年齢保護労働者の雇用契約を終了することできる。必ず、解雇予告通知書を渡す前に、労働者の年齢及び該当定年退職年齢、いわゆる、年齢保護労働者とみなされるか、使用者は確認したほうがよい。
(4)非常解雇
非常解雇は雇用契約を解雇猶予期間なしに、即時に終了させる、使用者の一方的、書面上の意思表示である。非常解雇の実施は制限されており、その適用が以下の二つの場合に限られている。
①労働者が雇用契約上の義務について故意に、又は重大な過失によって重大な違反を犯した場合(例えば無断欠勤をするなど)、又は
②労働者が雇用契約の維持を不可能とする態度をとる場合。いわゆる、使用者の労働者に対する信頼が喪失される場合(例えば、労働者が経済犯罪で有罪の判決を受けるなど)。
非常解雇の通知は、義務違反や信頼喪失から 15 日以内に、特別な場合においては 1 年間以内に行わなければならない。使用者が非常解雇を上記の期限を越えて通知した場合、解雇は違法となる。
(5)通常解雇と非常解雇の共通注意点
①解雇通知書の内容
解雇通知書に原則として解雇事由を述べなければならないし、法的救済方法についても案内しなければならない。解雇事由が含まれていない場合、解雇が違法となる。一方、救済についての案内、つまり、裁判所へ訴えるなど法的手続き方法が明示されていないと、解雇自体は違法とならないが、救済の締め切りが延長される可能性がありうる。
②解雇事由
一つの義務違反が同時に警告と解雇の理由となることができない。よって、労働者が無断欠勤し、使用者は警告を出した後は、同じ欠勤を理由に労働者を解雇することは法的にできない。しかし、労働者が以前にも警告されたにも拘らず再び欠勤を行った場合、使用者はその欠勤を理由に解雇することができる。
訴訟等紛争の際に解雇事由の立証責任を使用者が負うので、解雇通知書に解雇事由を明確にし、将来的にも立証できるよう準備しなければならない。解雇事由が一般的すぎてはならないし、訴訟手続きの時、裁判所の判断材料は解雇通知書の内容に限られるので、労
働者に重大な義務違反があったとしても、解雇通知書に記録していなければ、裁判所で主張することはできない。よって、解雇までxxxすべての義務違反などを詳しく記録するのがよい。
解雇通知書は上記以外にも法的留意点がたくさん存在するので、解雇の前に法律家に相談するのが望ましい。
③解雇通知書の受け取り
解雇通知書は労働者本人が郵便を受領した時や、本人が直接受け取った時点から効力が生じる。すなわち、非常解雇の際は雇用契約が解雇通知書を受け取った日に終了する一方、通常解雇の場合は、受け取った日から解雇猶予期間がスタートする。
本人へ手渡しする場合は労働者が通知書受領を断ることがある。この場合、拒絶の事実を記録書に書いて、実際に受け取られなくても解雇通知書が渡されたとみなされる。
(6)試用期間中の雇用契約終了
試用期間中にも雇用契約を終了することができる。この場合は解雇事由を述べる義務はないし、雇用契約が即時に終了できる。しかしながら、解雇通知書を試用期間中に労働者に引き渡す際は注意が必要である。試用期間の長さは使用者と労働者の合意によるものであるから、解雇前に労働契約を確認したほうがよい。
期間中の雇用契約終了には解雇事由を述べなくてもよいので、事由を一切含めないほうがよい。なぜなら、解雇事由を一つも述べたら、解雇が労働紛争となる場合は、事由に関する立証責任を使用者が負う。
(7)有限労働契約の解除
有限労働契約は通常解雇で解除することができない。法的な終了方法としては、当事者の合意解約、非常解雇、試用期間中の即時解雇及び特別な解雇方法がある。
特別な解雇方法として、使用者は有限労働契約を一方的に、書面により、解雇事由を述べずに解除することができるが、この場合は労働者に残りの期間、最高 1 年間の平均給料を支払わなければならない。
最後に、有限労働契約の期日を 1 日でも越えて、労働者が直属の上司の指示のもとで労働を続けたら、有限契約は無限契約に変換するので注意しなければならない。有限契約が無限契約と変換した場合は、もちろん、上記の普通の労働契約の解除に関する規則が適用されるようになる。
(8)取締役の雇用契約の終了
取締役が会社と労働契約を結んだら、その終了に特別な注意を払わなければならない。取締役が無限に、または、有限期間任命されたか、会社の登記事項証明書を確認すればよい。会社法上の情報と労働法上の情報が一致しない場合は、会社登記の情報が優先されるため、解雇が労働契約の内容に基づいて行われた場合、違法となる。
取締役の使用者権限は会社のメンバー総会の合意によって認められる。雇用契約の終了と同時に、取締役としての任命も総会の決議によって解任しなければならない。
(9)違法解雇の結果
解雇が違法と判断され、労働者が地位回復を請求しなかったら、労働裁判所は損害賠償金として労働者の給料の 2-12 ヵ月分の支払いを使用者に義務付ける。
加えて、使用者が労働者の雇用契約終了の結果で生じた損害及び判決の時点までの労働者の賃金も支払わなければならない。
11.労働者の利益代表制及び経営参加
ハンガリーの労働組合と社内労働委員会について(2010 年 1 月 27 日時点作成)
この 1 月に、ブダペスト公共交通(BKV)とその労働組合が、雇用協約に関して交渉をしたものの難航、ストライキに突入した結果、ブダペスト市内の交通は一週間ほど混乱した。ストライキは労働者を代表する労働組合と使用者の争議が一般市民の日常生活に直接影響を与える代表例である。
場合によって、労働者は権利を主張してストライキなど強行手段に訴えることがあることから、使用者はハンガリーの労働者利益代表制への理解が必要である。
ハンガリー憲法によると、あらゆる者は経済的・社会的利益を擁護する目的で団体を結成し、団体へ加入する権利を持つ。よって、権利主張のための団結の権利が、労働者だけでなく使用者にも憲法で保障されている。
(1)労働者の一般的利益代表について
労働組合(Szakszervezet、以下(2)参照)と社内労働委員会(Üzemi tanács、以下(3)参照)は労働者の利益代表だが異なる形態である。
労働組合の主な役割は、労働者の雇用契約上の利益を保護し、拡大することである。労働者の利益は、使用者と交渉しその結果締結される雇用協約で保障される。
労働組合と使用者の交渉において、当事者の利害関係が激しく対立しているため、双方が妥協点を見出すのが困難なことがある。さらに、交渉に関係する労働組合の数が増えるにつれ雇用協約の締結が困難となるケースも見られる。
一方、社内労働委員会の場合は、労働者は使用者の経営にある程度参加する権利及び使用者の経営に影響を与える権利が保障される。したがって、社内労働委員会の場合は、労働者と使用者は利益を共有していると言え、社内労働委員会が使用者と労働者間の仲介機関として機能している。
(2)労働組合
労働者は職場において労働組合を結成する権利を持つ。労働組合の機能は特に①金銭的、社会的、文化的権利義務、及び労働条件に関係ある権利義務について労働者に情報を提供すること、及び②労働組合員を雇用契約において使用者と国家機関に対して代表すること
-である。このように、労働組合は基本的に情報提供及び労働組合員代表の役割を持ち、その具体的な活動は、雇用協約変更交渉、新雇用協約の締結、労働者の権利代表などである。
労働組合は同一の使用者の元、最低 10 人の労働者で結成することができる。労働組合は
「社会組織」とみなされるので、その結成にあたっては管轄地方(首都)裁判所において登記が必要である。
労働組合の権限のうち、協力の権限、相談の権限、情報請求の権限及び雇用協約締結の
権限が重要である。以下は特に重要な雇用協約締結権と情報請求権について説明を行う。
①雇用協約締結権
雇用契約の特徴は、当事者である労働者と使用者の関係が不平等であることである。個人としての労働者は、使用者に対して自分の立場を主張しにくいが、団体で交渉すれば、ハンガリー労働法典が定める一般的労働条件より有利な労働条件を使用者に同意させることが可能となり、その同意が雇用協約の形で記録される。
雇用協約の締結によって、当事者は労働法典のある一般規則の適用を免除される点は重要である。個人労働者と使用者の労働契約においては、労働法典の一般規則を適用しなければならない。しかし、雇用協約によって、労働法典規則の適用が免除されるため、労働者は労働法典より有利な労働条件を得ることが許される。なお、労働法典規則の適用免除によって、労働者の労働条件は有利なものだけでなく、不利なものにも変更可能である。
以下は雇用協約により労働法典一般規則が変更された例である。
• 労働法典によると、出張や出向の時間は 1 年間に合計 110 時間を越えてはならないが、雇用協約において該当時間をより長く、もしくは短く設定することができる。外国出張が多い企業などで実情に応じた制度見直しが可能となろう。
• 労働法典において非常労働(残業)は年間最高 200 時間を越えてはならないが、雇用協約によって、年間最高 300 時間の非常労働時間を設定することができる。
• 労働法典によると、使用者は、終業から次の日の始業までに労働者に尐なくとも 11 時間休憩時間を提供しなければならない。しかし、ある条件を満たせば、雇用協約によって 11 時間より短い、8 時間の休憩時間の提供が可能となる。
• 解雇猶予期間の延長、退職金の増額もできる。
雇用協約の締結交渉には、使用者及び労働者側に存在するあらゆる労働組合が参加しなければならない。雇用協約が締結されれば、労働組合員でない労働者にも変更が適用されるため、労働組合員でない労働者については、個別労働契約に加えて雇用協約も適用しなければならないため、注意が必要である。
②情報請求権
労働組合は、労働者の雇用契約上の経済的・社会的利益に影響を与える使用者の行為について、情報を請求する権限を持ち、また使用者の計画している行為及びすでに決定された行為についても情報請求権を持つ。現在の不況下においては、労働者の給料や解雇の計画に関する情報請求が多くなっている。
使用者は、求められた情報の提供及び決定された行為の説明要求を断ることができない。さらに、労働組合は使用者の行為や計画に対する意見を使用者に伝え、課題について相談を開始する権限も持つ。しかしながら、情報提供の際に企業秘密を知ることとなる労働組合員は守秘義務を負う。
正しい情報を入手できない場合は、労働組合は労働者に対する意見の検討ができないため、情報請求権は相談権の前に行使される。
(3)社内労働代表者及び社内労働委員会
労働者の人数が 50 人を越える組織において、使用者は社内労働委員会を選挙で設けなけ
ればならない。労働者の人数が 16 人から 50 人までの場合は、社内労働代表者(Üzemi megbízott)を選挙で選ばなければならない。法によって選挙による上記の労働者の代表選出が義務付けられるが、使用者は当該選挙を準備する義務はない。なぜなら、上記は労働者の代表であり、その選挙は労働者の権利でもある。それゆえに、使用者は社内労働代表者又は社内労働委員会を選出する機会につき、労働者に通知する義務のみを負う。
①意見を述べる権限
使用者は特定の事項に関して社内労働委員会に意見を問う義務を負う。社内労働委員会の意見が使用者のものと異なる場合は、その意見を使用者は無視することができるが、最近の傾向として、使用者が社内労働委員会の意見を考慮して、職場の改善を促進するために、計画や行為などを変更することがよくある。
以下のような場合は社内労働委員会に意見を求めなければならない。
• 大きな割合の労働者に影響を与える使用者の計画、例えば再建、大幅な解雇計画など
• 職員名簿の作成、記録される個人情報の範囲
• 労働者の教育、訓令に関する計画
• 年間休暇政策の予告
• 社内規則の変更など
上記の事項に関して、使用者が社内労働委員会に意見求めないまま実施した場合は、実施は無効となり、社内労働委員会は無効性の確定を裁判所に訴えることができる。
労働組合への対応と同様、使用者は特定の事項に関して社内労働委員会に通知する義務を負う。例えば、
• 尐なくとも半年間に一回使用者の経済的状況を通知
• 使用者の事業活動の大きな変更、使用者による投資の計画
• 尐なくとも半年間に一回、労働者の給料、労働条件の変化などについて通知
(4)労働者のその他の権利代表者
社内に労働組合も社内労働委員会も存在しない場合でも、使用者は労働者の権利代表者と相談しなければならないことがある。例を挙げると、大量解雇の場合は、使用者が労働者の権利代表者と継続的に協力しなければならない。
(5)労働者の監査役会への参加権
労働者の権利代表機関は労働法典によって規定されている。しかしながら、会社法にも労働者の権利代表に関する規則がある。
ある使用者の元で、正社員労働者が最低 200 人勤める場合は、労働者は使用者の監査役会に参加し権利を代表する権限を持つ。その前提条件として、使用者の元で社内労働委員会が活動していなければならない。社内労働委員会は労働者から監査役会員となる労働者を選任する。この場合、監査役会の尐なくとも 3 分の 1 は労働者とならなければならない。
労働者である監査役会員は守秘義務を負いつつも、監査役会の活動について社内労働委員会に報告しなければならない。
12.労働紛争の解決
(2010 年 2 月 26 日時点作成)
労働期間の長短に関係なく、個々の労働者と使用者との間に争いが起こる可能性がある。特定の労働条件に関して紛争が発生した場合、紛争の当事者、いわゆる使用者と労働者は、円満な解決を目指す傾向があるため、和解を試みたり、あっせん制度を利用したり、当事者が満足できる解決方法を探すよう努める。
上記のような、いわゆる裁判外紛争解決方法は、裁判所における手続きほど時間も、費用もかからず、紛争当事者の満足度も高い。そのため、労働者と使用者の間に争いが起こる際は、できる限り裁判以外で交渉し、紛争終結の合意を得るのが望ましい。
労働紛争というのは、労働条件に関するすべての争いのことであり、個別の労働者と使用者との間の争いだけでなく、労働者と労働者との間の争い、労働組合や社内労働委員会と使用者との争いも定義に含められる。しかしながら、今回解説する「労働紛争」は、個別の労働者と使用者との間の紛争に限定する。
(1)裁判外紛争解決方法
①自主的解決
争いの、一番簡易で迅速な解決方法は、事件の社内における自主的解決である。裁判所で訴訟を起こす前に、労働者は普通、本人から又は弁護士を通じて、不満や問題点を直接に使用者に伝える。これを受けて使用者はまず、労働法の専門家を利用して、被害の実態を詳しく調べて、労働者の主張に誤りはないか、調査を行う。
例えば、よくあるケースとして労働者から残業手当の請求があったとする。この場合、使用者として、まず、労働者の請求が法律上で正しいものか、調べるのが望ましい。労働者が残業手当の受給資格を法律上持っているか確認する。場合によっては、労働者が残業手当の受給資格を持たないこともある。例えば、フレックスタイム制で働いている労働者、いわゆる始業及び終業の時刻を自分で決定する労働者は、ハンガリー労働法により残業手当がもらえない。
その後、労働者の請求の事実内容も検査したほうがよい。上述の請求の際は、労働時間及び残業時間の記録などを調べて、関連する証拠を全部集めなければならない。収集され
た証拠は、紛争が訴訟まで至った場合は、自分の立場を立証するために利用できる。
調査の結果労働者の請求に正当な根拠があると確認できたら、争いを円満な方法で解決することが望ましい。
②あっせん
当事者が紛争を自分で解決できないが訴訟を起こしたくない場合は、あっせんを受けることができる。あっせんは、当事者の間に中立な第三者が入り、調整を行い、話し合いを促進することにより紛争の円満な解決を図る制度である。第三者は労働問題の専門家であり、紛争当事者の主張を考慮して、あっせん案を提示する。当事者があっせん案に合意すれば、紛争は終了に向かう。これによって紛争の平和的解決ができ、裁判手続きより迅速で、簡便である。
ハンガリーでは、あっせん人候補者名簿が存在するので、紛争当事者があっせん人を自由に選ぶことができる。
(2)裁判所における紛争解決
紛争当事者は紛争を自主的に解決できず、あっせんもよい結果をもたらさなかった場合、裁判による解決、いわゆる、訴訟を起こすことが選択肢としてある。
原則として、使用者も労働者も、雇用契約のあらゆる紛争について訴訟を時効期間内に起こすことができる。労働法上は時効の期間は原則 3 年間である。つまり、裁判手続きを
申し立てられるのは、訴訟のもととなった出来事から 3 年間以内となる。例えば、損害賠
償に関する請求や退職金などの報酬に関する請求は、出来事から 3 年間以内に起訴できる。
しかしながら、請求の種類によって法律は 3 年間より短い時効期間を定めることがあるので、注意が必要である。例えば、以下の場合は起訴状が出来事から大変短い間、30 日以内に裁判所に提出されなければならない。
• 労働契約の使用者による一方的改正
• 雇用契約の終了、合意解約
• 非常解雇
• 労働者の義務違反行為に対する使用者の行為
①管轄裁判所
原則として「労働裁判所」という特別な裁判所が労働紛争の管轄権を持つ。ハンガリーでは労働裁判所が各県に一つ設置され、県と別の行政単位であるブダペストに「首都労働裁判所」がある。
②裁判上の和解
当事者の合意による紛争解決が法によって優先されているため、紛争当事者は裁判手続きのいかなる時点でも、つまり提起前または訴訟開始後にも和解を成立することができる。
当事者は本格的な訴訟が始まった後「訴訟上の和解」も可能である。使用者は訴訟のもととなった自分の行為の合法性が立証できない場合、または訴訟手続きが延長され、費用が増加する場合は、労働者に和解案を提示した方がよい。
③立証責任
訴訟において、誰が立証責任を負うか、よく問題となる。労働法では、請求の種類によって、立証責任を使用者が負う場合と、労働者が負う場合が存在する。
例えば、労働者による損害賠償請求の場合は、立証責任は労働者が負うので、損害の発生や損害発生と使用者行動の因果関係などを労働者が証明しなければならない。
しかし訴訟で労働者が使用者の違法解雇を主張する場合は、申し立てを労働者が行うにもかかわらず、使用者が立証責任を負う。立証責任を使用者は負うので、解雇が合法的であったことを証明しなければならない。使用者が適当な証拠を提示できない場合は、解雇の違法性が確定する。このため、訴訟の前に、立証責任を誰が負うか、使用者としてどのような証拠が提示できるか確認し、その結果訴訟で負ける可能性があると判断したら、和解を試みるとよい。
④訴訟の期間
裁判手続きの期間は大きく異なり、訴訟の種類、当事者の行動力や外国からの証拠収集、証人召集なども期間に影響を及ぼす。例えば、違法解雇の確定の訴訟は第xx手続きで尐なくとも 1 年間半かかる。第xx判決に対して控訴を申し立てることができる。第二審手
続きは第xx手続きほど時間がかからず、口頭弁論が一つ、二つしか行われず、半年~1 年間で確定判決が下される。
⑤判決の結果
使用者の責任が確定した場合、使用者は判決によって労働者の地位回復や損害賠償金として労働者の賃金 2~12 ヵ月分の支払いや、労働者の雇用契約終了の結果生じた損害賠償などを命じられる。さらに、違法解雇の場合は、違法解雇の時点から確定判決の時点までの労働者の賃金も支払わなければならない。裁判手続きは 17-24 ヵ月もかかるため、使用者にとって大きな負担となる。
13.女性労働者の出産に関係する特別労働法規則
(2010 年 2 月 26 日時点作成)
女性労働者の雇用に関して、ハンガリー労働法において多くの特別規則が定められている。女性は、出産に関連して、妊娠確定の時点から日常生活が大きく変化し、その新しい生活環境は、健康面から、そして家族中心主義の価値観から、法によって保護される。そのため、妊娠、産休、職場復帰、子育てなど、出産に関連している生活環境はすべて労働法の特別規制の対象となり、母親となる労働者の仕事と家族とのバランスが保障される。
労働者の上記の特別な生活環境において、雇用の際に使用者が何の義務を負うのか、当該労働者は何の権利を持つのか、確認したいところだ。特にポイントとして、職場復帰がどの条件でできるのか、復帰した女性労働者をパート・タイム制で雇用できるのか、幼児を育てる女性労働者の雇用契約をどのように終了できるのか、などが挙げられよう。
以下は女性労働者に適用される、出産に関連している特別労働法規則、及び幼児を育てる女性・男性労働者に適用される規定を簡単にまとめる。
(1)出産休暇
妊娠中の労働者は労働法典に基づいて産前産後合計 24 週間の出産休暇が取れる。使用者
は 24 週間の中から 4 週間をできる限り産前に提供しなければならない。出産休暇の期間中労働者は、出産手当金(terhességi gyermekágyi segély, TGYÁS)を国から得る権利を持つ。出産手当金の金額は当該労働者の平均賃金の 70%である。
(2)育児休業
出産休暇に加えて、女性労働者は幼児が 3 歳になるまで育児休業を取ることができる。育児休業は無給休暇であるので、出産した労働者の雇用契約の終了の意味をしない。
出産休暇以降から幼児が 2 歳になるまで、女性労働者は、経済的補助として育児手当金 (gyermekgondozási díj, GYED)を毎月国から受給できる。育児手当金は幼児が年齢 2 歳まで、また労働者が、幼児が 2 歳になる前に職場復帰する場合は、復帰の時点まで受給することができる。その金額は労働者の平均賃金の 70%だが、最高額は法律によって定めた最低賃金の 2 倍の額の 70%と制限されている。現在の最低賃金は 7 万 3,500 フォリントであ
るので、育児手当金の最高額は 10 万 2,900 フォリントとなっている。
上述の出産手当金及び育児手当金は社会保障制度の元での経済的援助であるため、該当受給権を得るためには、最低 180 日間の雇用契約(つまり社会保障費の支払い)が求められる。女性労働者が仕事に復帰した場合、両方の手当の支給が終了される。
(3)職場復帰と育児
出産休暇や育児休暇を取っている労働者が職場へ復帰する意図を表した場合は、使用者がいかなる時点においても、産前の労働条件で労働者を復帰させる義務を負う。つまり、使用者は労働者を産前と同じ業務内容で復帰させなければならない。しかし、給料は上記のルールと異なる。使用者は復帰した労働者の給料を、休暇前に同じ業務内容と経験があった労働者の現在の給料と同額としなければならない。
労働者が上述の出産手当金及び育児手当金の受給権を持たない場合、又は認められている育児休業の期間を全てとらない場合は、国から提供される育児補助金(gyermekgondozási segély, GYES)を受給できる。育児補助金は現在幼児が 3 歳まで受給できるが、2010 年 5 月 1 日からその期間は 2 歳までに短縮される。出産手当金や育児手当金と異なり、労働者が職
場へ復帰しても支給される。育児補助金の現在の月額は 2 万 8,500 フォリントである。
(4)解雇制限
解雇制限の期間に、使用者は労働者との雇用契約を一般解雇で終了させてはならない。妊娠している労働者は妊娠初期から解雇制限で保護されている。
労働者は育児補助金を受給している限り解雇されない。このように、労働者が出産休業・育児休暇を取っているか、既に仕事へ復帰して働いているかに関係なく、育児補助金を受給している限り、解雇制限で保護されているのである。
注意すべきことであるが、2010 年 5 月 1 日から法律改正によって育児補助金の受給資格
年齢が 3 歳から 2 歳に短縮される。しかしながら、解雇制限の期間は育児補助金の受給資
格年齢の変更に関係なく、現行通り、つまり、幼児年齢 3 歳まで有効である。労働者が人工授精の治療を受ける場合も、解雇制限で保護されている。
(5)雇用に関する特別規則
女性が職場へ復帰し、産前と同様な作業をするにもかかわらず、仕事と同時に育児をするため、当該雇用に特別な規則が適用される。このように、雇用に関する特別規則が職場へ復帰した女性労働者を対象にしている。一方、労働者は男性、女性を問わず、幼児を一人親で育てるのは困難であるため、一人親の労働者にも特別雇用規則が定められている。
①非常労働の制限
幼児が 1 歳になるまで女性労働者に非常労働(残業)を一切させてはならない。一人親で
ある労働者が非常労働を行う場合、幼児が 1 歳から 4 歳までの期間中は、労働者の同意が必要である。
②他の都市における作業の制限
会社の支店などの、他の都市における労働は、妊娠確定から幼児 3 歳まで、女性労働者の同意が必要。
③待機労働の制限
幼児が 1 歳になるまで、女性労働者に待機労働をさせてはならない。また、1 歳から 4 歳までの幼児のいる一人親の労働者の場合は、待機労働は労働者の同意による。
④出向及び出張の制限
出向というのは、労働者が一時的に別の会社で働くことである。それに対して出張は、労働者が使用者のため、通常の職場以外の場所において作業を行うことである。妊娠確定から幼児 3 歳まで、女性労働者に出向や出張をさせてはならない。
⑤休暇
原則として労働者は雇用契約の期間に応じて休暇が取れる。しかしながら、女性労働者は 24 週間の産前産後の出産休暇に加え、育児休業の最初の 1 年間に、一般労働者と同等の休暇を取得できる。つまり、当該期間の 24 週間+1 年間は当該労働者が労働していたとみなされ、職場へ復帰した際、定められた日数の休暇を取得できる。
⑥新しく父親となった男性労働者
最後に、出産との関係で、ハンガリー労働法は父親となった労働者にも規定を定めている。つまり、出産の際は、父親は出産から 2 ヵ月間の間に、5 日間の特別休暇を取る権利が与えられる。
14.労働時間、休憩及び休暇に関する留意点
(2010 年 3 月 25 日時点作成)
労働者の労働時間を管理することによって、会社は費用の削減ができるため、ハンガリー労働法による労働時間、休憩、休暇に関する規制への理解は重要である。ハンガリー労働法上では、使用者が労働者の労働時刻をかなり自由に決定できる。以下で説明する。
(1)労働時間について
①労働時間の区別 (a)所定労働時間
法律に定められたフルタイムの労働時間、いわゆる法定労働時間は 1 日 8 時間、1 週間 40時間である。しかし、フルタイムの労働時間として、法定労働時間より長く、又は短く所定された労働時間もある。
例を挙げると、使用者と労働者は、1 日 6 時間、1 週間 30 時間などの、法定労働時間より短いフルタイムの労働時間にも合意することができる。さらに、健康上特に有害な業務などの、特定業務の場合は、1 日 8 時間、1 週間 40 時間の法定労働時間より短い労働時間が認められることもある。
法定労働時間より長いフルタイムの労働時間として、例えば待機業務の場合がある。当事者が合意すれば、医者などの、待機業務の労働時間は 1 日 12 時間、1 週間 60 時間まで増加できる。さらに、使用者と労働者が近しい親族であれば、労働時間が上述のレベルまで増加させることができる。
以上の法定労働時間、及びそれより長く又は短く設定されたフルタイムの労働時間は、以下のとおり「所定労働時間」と呼ばれる。
(b)パートタイム労働時間
当事者は、所定労働時間より短い労働時間であるパートタイム労働について合意できるが、その場合は、業務がパートタイムであることが必ず労働契約に記録されていなければならない。その理由は、パートタイム制が年次有給休暇に影響するためである。つまり、パートタイムで働いている労働者は一般労働者と同じ日数の休暇を持つが、休暇中の給料はパートタイム労働者の給料額に応じて算出される。
(c)非常労働
非常労働(時間外労働、残業)というのは、予見できなかった理由で、労働者を所定労働時間を超えて労働させることである。
②労働時間時刻の決定
原則として使用者は労働者の労働時間時刻を一方的に決定することができる。このように、使用者は始業、終業の時点、交代勤務時間の順などを自由に決定する権限を持つ。会社に労働組合と締結された労働協定がない場合は、使用者は当該労働をさせる 1 週間の各日に
ちの労働時刻を、当該週間の初日から 1 週間前に、当該労働者へあらかじめ通知しなければならない。
注意すべきことは、始業や終業などの、労働時間に関する事項が労働契約に記録されたら、締結後は、当該事項は当事者の同意によってしか改正できない。そのため、使用者として、労働時間時刻決定の際は、一方的権限を利用し、労働者へ当該時刻を通知すればよい。
③1 日当たりの労働時間の制限
労働者を 1 日 12 時間以上労働させてはならない。当該 12 時間に所定労働時間及び非常労
働時間も含められている。上記のルールが厳格な制限であるため、当事者は 12 時間を超える労働に合意しても、違法となる。ただし例外が一つだけある:待機業務の際は、労働者を 1 日に最高 24 時間まで労働させることができる。
④1 週間当たりの労働時間の制限
労働者を 1 週間 48 時間以上労働させてはならない。待機業務の際の 1 週間当たりの最高労働時間は、非常労働を加えて、72 時間に制限されている。
⑤変形労働時間制
使用者は 1 日当たりの労働時間を日にち毎指定する権限を持つ。この場合は「変形労働時
間制」が適用される。例えば、ある週は毎日 6 時間、その次の週は毎日 10 時間働かせることができる。
変形労働時間制は労働の量が左右される場合は便利である。注文が尐ない時期に、短い労働時間で労働者に労働させることができ、注文が多い場合は、労働時間が非常労働とみなされず、延長できる。そのため、労働の増減で左右される残業代の節約にもなる。
しかし、変形労働時間制を適用しても、上述の 1 週間労働時間 48 時間の制限を超えてはならないことに注意しなければならない。
⑥フレックスタイム制
仲買業務などの特定の業務の際は、フレックスタイム制が適用できる。フレックスタイム制においては労働者が始業と終業の時点を自分で決める一方、使用者が残業代を支払わないシステムである。
使用者は、残業代の支払いを回避したい時は、フレックスタイム制が適用できない業務にもフレックスタイム制を使用することが多い。しかし、フレックスタイム制が適用できる業務が法によって制限されているので、適用外の業務で制度を使用すれば、当該業務の労働者は遡って残業代を請求することができる。
⑦日曜日、休日における労働
労働者を日曜日や休日に労働させることができる場合が労働法典に定められている。例えば、スーパーなどの、日曜日にも運営する会社においては、労働者を普通の労働時間で労働させることができる。
(2)休憩、休暇について
①労働中の休憩
1 日の労働は 6 時間を超える場合は、労働者に 20 分の休憩を提供しなければならない。6
時間後の 3 時間ごとに追加 20 分、合計で 1 日最高 1 時間の休憩を労働者に提供しなければならない。
②労働の間の休憩
終業と始業の間に、労働者に尐なくとも継続した 11 時間の休憩を提供しなければならない。
③1 週間の休日
原則として労働者に 1 週間に 2 日の休日を提供しなければならない。当該休日のうち 1 日は原則として日曜日でなければならない。
④年次有給休暇
労働者は毎年年次有給休暇を取得できる。年次有給休暇は基本休暇と追加休暇から成り立つ。
(a)基本休暇
基本休暇の最低日数は年間 20 日である。当該日数が労働者の年齢とともに、年間 30 日ま
で増加する。年次有給休暇の 4 分の 1 は労働者が希望する日程で使用可能だが、労働者は
休暇取得の 15 日前に使用者に休暇取得を請求しなければならない。他方、年次有給休暇の
4 分の 3 は使用者が取得時期を指定でき、休暇の 30 日前に労働者へ通知する。
労働者はある年の休暇を原則として次の年に取ることができない。しかし、例外として、使用者の重大な経済的利益や労働者の病気による休業などの理由から、休暇を次の年に取れる場合もある。
(b)追加休暇
特別な場合は、労働者が追加休暇を取る権利を持つ。例えば、未xx者である、いわゆる年齢 18 歳になっていない労働者も、目の不自由な労働者も、1 年間に 5 日の追加休暇が取
れる。育児をしている労働者も、子供の人数と年齢に応じて 2 日から 7 日まで追加休暇を取得できる。
(3)使用者の労働時間記録義務
使用者は、原則として、あらゆる労働者に関して労働時間の記録表を作成する義務を負う。労働時間記録表に、ある日の始業時点、終業時点、労働者が通常労働や非常労働を行かったのか、記録しなければならない。同じように、使用者は労働者の欠勤、病気などに関する証明書も保管しなければならない。
15.会社の上級管理職に適用される特別規則
(2010 年 3 月 25 日時点作成)
会社の上級管理職の一つである取締役は、労働契約又は委任契約に基づいて任務が遂行できる。適用される法規が契約の種類によって異なるため、取締役と会社との法的関係は労働契約又は委任契約に基づいているのかは、重要な問題である。委任契約の場合は当事者が平等な立場に立ち、適用されるルールが民法となる一方、労働契約は、会社が使用者、取締役が労働者となる従属関係を成立させ、取締役を保護するため、労働法の規則が適用される。
以下に取締役を含めた会社の上級管理職に関する労働法の特別規則を、簡単に紹介する。
(1)会社の上級管理職(Vezető állású munkavállaló)
取締役を含めた、会社の上級管理職に労働法の特別規則が適用される。その理由は、上級管理職は一般労働者と違って、自らの行為が会社の運営に直接影響を及ぼすので、責任と使用者の期待も大きいためである。
労働法の観点からは、会社の上級管理職が主に二つのグループに分かれている:①法律による上級管理職、及び②指定上級管理職。双方のグループに特別規則があるが、グループによって規則内容が異なる。以下は、二つのグループ別に労働法を説明する。
(2)法律による上級管理職(A törvény erejénél fogva vezető állású munkavállalók)
会社の社長(vezető)と副社長(vezető helyettese)は、法律によって自動的に上級管理職とみなされ、労働法の特別規則の対象となる。会社の何のポジションが「社長」と「副社長」に当たるのかは会社法による。社長というのは会社の取締役のことである。会社に副社長
という地位があれば、業務内容に基づいて、当該地位が社長の実際上の代理であるのか、検討しなければならない。副社長の地位は検討の上で社長の代理とならない場合は、役職名が副社長であるにもかかわらず、当該地位は労働法上で副社長とみなされない。同じように、会社に副社長というポジションが存在しなくても、実際に社長の代理となる業務があれば、副社長とみなされる。
会社にマネージャー(cégvezető)というポジションが存在することが多い。マネージャーのタスクは社長の任務の援助とサポートであり、会社の代表権も持つ。マネージャーは副社長、いわゆる上級管理職であるのか、当該業務内容による。上述のように、社長の一般的な代理として労働すれば、副社長とみなされ、労働法の以下の特別規則の対象となる。
社長と副社長は、法律によって自動的に上級管理職とみなされるので、使用者はいかなる準備行為も必要とされない。しかし、社長や副社長は、法律によって自動的に上級管理職となるのを知らないことがあるので、念のため、使用者は、労働法の特別規則の適用に関して社長と副社長へ通知すればよいだろう。
法律による上級管理職に適用される特別規則
①通常解雇
上級管理職の雇用契約を通常解雇で終了させることは、一般労働者の通常解雇よりシンプルである。例えば、上級管理職の場合は、使用者が解雇理由を述べなくてもよい。しかし、解雇理由を述べた結果、解雇自体が当事者間の紛争となる場合は、解雇理由の事実性を使用者が立証しなければならない。
一般労働者の場合、病気による休業、 子供の療養のための無給休暇、および子供が 3 歳までの保育期間での解雇は違法である。つまり、一般労働者が解雇制限で保護される。しかし、上級管理職に解雇制限の規則は適用されないので、上記に該当する期間に解雇されても、違法ではない。
取締役の雇用契約は、無限に又は一定期間成立する。その上に、取締役がメンバー総会など会社の最高機関によって選任されなければならないので、取締役の雇用契約を終了させたい場合は、会社の総会は解任決議を採択しなければならず、当該決議が解雇予告通知となる。
②非常解雇
雇用契約を解雇猶予期間なしに、即時に終了させる非常解雇の場合は、一般的に非常解雇
の通知は、義務違反や信頼喪失から 1 年間以内に行わなければならないが、上級管理職の
場合は当該期間が 3 年間に延長される。
③契約締結禁止
上級管理職は元の労働契約に加えて、雇用を目指す契約を締結してはいけない。例えば、他の労働契約、請負契約や委任契約の締結が禁止されているが、上級管理職の科学的、教育的、又は知的財産に関する活動には制限はない。
④持分・株の取得禁止、自己取引の禁止
取締役による持分・株の取得、及び自分のための取引はある程度制限されている。すなわち、取締役は使用者と同じ、又は類似している事業活動を行う会社の持分・株を取得してはいけない。会社と他社の事業活動が同じであるのか、類似しているのか、その決定基準は当該会社の定款や登記事項証明書で記録されている事業活動で確認できる。
上記の制限に加えて、取締役は自分のために、使用者の事業活動を目的とした契約も結んではいけない。さらに、取締役の近い親族が使用者の会社と同じ、又は類似している事業活動を行う会社のメンバーとなる場合、又は取締役となる場合は、取締役は使用者へ通知しなければならない義務を負う。
上記の義務に違反が認められたら、使用者は取締役との雇用契約を非常解雇で即時に終了することができ、損害賠償請求する権利も持つ。
⑤雇用協約
使用者とは雇用協約が締結されるが、上級管理職にそれは適用されない。
⑥労働時間、休憩、休暇の決定
上級管理職は労働時間、及び休暇を取る時点を自分で決定することができるが、非常労働(残業)に対する割増賃金(残業代)がもらえない。
⑦取締役の責任
取締役の業務範囲内の行為又は上述の持分・株の取得禁止、さらに自己取引の禁止に違反した故意又は重過失によって会社に損害を与えた場合には、取締役は会社に対して全額損害賠償をする責任を持つ。しかし、損害の存在や取締役の行為と損害の因果関係を会社が立証しなければならない。
(3)指定上級管理職(Xxxxxőnek minősített munkavállaló)
メンバー総会などの会社の最高機関は、会社の運営に特に重要な地位として上級管理職を指定できる。代表的な例は、会社の(取締役でない)最高財務責任者などである。その決定によって、指定された上級管理職も特別労働法規則の適用範囲に入る。
指定上級管理職に関する労働法の特別規則
上述(2)の、法律によって自動的に上級管理職とみなされる労働者、及び上述(3)の、会社の決定によって上級管理職に指定される労働者(指定上級管理職)に適用される特別規則には違いがある。原則として、指定上級管理職は一般労働者に近い労働者であり、例えば通常解雇のルールが一般労働者と同様であるので、解雇理由を述べなければならないし、責任も上述(2)法律による上級管理職ほど厳格ではない。しかし、以下のポイントで、適用される規則が法律による上級管理職と一致する。
○非常解雇通知は、義務違反や信頼喪失から 3 年間以内
○他との雇用を目的をした契約の締結禁止
○持分・株の取得禁止、自己取引の禁止
○労働時間、休憩、休暇を自分で決定、無給残業
○労働協定からの除外
(4)競業禁止特約(Versenytilalmi megállapodás)
上級管理職や一般労働者との雇用契約が終了した後、退職した労働者が競業他社に勤め、知識やノウハウを漏らしてしまうことは元の使用者会社の経済的損失である。そのため、労働者の退職後の活動を制限するために、会社と労働者が特約、いわゆる「競業禁止特約」を結ぶことが多い。
競業禁止特約は一般的に労働契約締結と同時に結ばれる。その中に、労働者が退職後、働いてはいけない業務内容、地域、競業他社名が記録されているが、禁止期間は最高 3 年間に限られる。当該特約は有償契約であるため、会社は労働者の競業活動禁止の対価を支払う。
作成協力:Xxxxxx, Fest & Partners Attorneys at Law免責事項
以上のレポートは法的アドバイスではありません。本レポートに基づいて行われた行為の結果につきxxxx・xxxx&パートナーズ法律事務所は一切責任を負いません。
【おことわり】
・掲載されている内容はジェトロの公式見解ではありません。
・記載されている内容の採否はお客様の判断によります。お客様が情報利用によって生じた結果について、万一、お客様が直接、間接に関わらず不利益を被る事態が生じたとしても、ジェトロは一切責任を負いません。
・無断転載はご遠慮ください。