Property management support for the elderly and voluntary guardianship
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約
――任意後見との関わりを中心に
Property management support for the elderly and voluntary guardianship
xx xx
XXXXX Xxxxx
要旨 わが国の任意後見制度においては、即効型、移行型、将来型の利用形態がある。移行型においては、財産管理契約が任意後見契約の締結から発効までの間のつなぎとなり、将来型においては、見守り契約が重要な役割を果たしうる。本稿は、任意後見制度を支える制度でもある見守り契約および財産管理契約を検討する。わが国において任意後見制度がさらに普及、発展するためにも、これらが全体として制度として発展してゆくことが期待される。ドイツの事前配慮代理に関する法律論を参照しつつ、問題点を検討する。
第 1 はじめに
1 地域における様々な見守り
高齢者は身体および判断能力の低下などから多様な問題を抱えやすい傾向にある。具体的には、医療・介護・社会福祉の問題から、住まいの問題、親族による財産の使い込み、詐欺などの犯罪被害、悪徳商法など消費者被害などが挙げられるが枚挙に暇がない。家族が遠くに離れている高齢者や身寄りの無い高齢者においては、さらに問題は切実になる。そのような高齢者に寄り添う「見守り」が欠かせない。
地域では様々な見守りが行われている。「見守り」の辞書的な意味は、「安全であるかどうかに注意を払うこと」、といったところであるが、地域における「見守り」の意味するところ、内容・レベルは具体的な場面により様々である。見守り主体としては家族、親族、友人、知人、近所の人、社会福祉士、介護保険サービス事業者、xx委員、区市町村、町内会・自治会、病院、在宅介護支援センター、地域包括支援センター、社会福祉協議会、消費生活センター、消費者安全確保地域協議会1)、xx後見人や任意後見人(以下では、「xx後見人等」という)、企業2)、警察などが挙げられる。なお、見守りという言葉は社会福祉や看護分野で従来用いられてきた概念であるともいわれる3)。
1 ) 改正消費者安全法の施行(2016年)により消費者安全確保地域協議会(以下「協議会」という)(見守りネットワーク)の設置が可能となった。消費者被害防止に向けた地域で高齢者等を見守る仕組みとして注目される。消費者の利益の擁護および増進に関連する分野の事務に従事する地方公共団体は、関係機関により構成される協議会を組織することができ、協議会を組織する関係機関としては、病院、教育機関、消費生活協力団体又は消費生活協力員などを構成員として加えることができる(同法11条の 3参照)。協議会は、情報を交換や協議を行い、協議会の構成員は、消費生活上特に配慮を要する消費者と適当な接触を保ち、その状況を見守ることなど必要な取組を行う(同法11条の 4 参照)。消費者庁「改正消費者安全法の実施に係る地方消費者行政ガイドライン」(2016年)によれば、構成員の例として、地域包括支援センター、医師、歯科医師、看護師、法テラス、弁護士、司法書士、学校、宅配事業者、配食サービス事業者等の事業者、金融機関などが挙げられている。
2) 安否確認や生活支援サービス、警備会社その他によるセンサー・機器等による見守りサービスなど多様なサービスが急速に拡大しつつある。IoT(Internet of Things)を活用した見守りも普及し始めた。
人文社会科学研究 第 34 号
2 財産管理の支援
民法上、支援を必要とする者(高齢者には限らない)を支える仕組みとしてxx後見制度がある。全国の家庭裁判所のxx後見関係事件(後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件)の処理状況を取りまとめた資料である最高裁判所事務総局家庭局
「xx後見関係事件の概況-平成27年 1 月~12月-」によれば、利用者のうち本人が65歳以上の者は、男性では男性全体の約67.9%を、女性では女性全体の約86.4%を占めている。申立ての動機については、預貯金等の管理・解約が最も多く(28,874件)、次いで、介護保険契約(施設入所等のため)(11,588件)となっている。身上監護(8,951件)、不動産の処分(6,494件)がそれに続く。財産管理処分の支援の必要が高いことが伺われる。
3 本稿の主題
以上の状況等に鑑み本稿は、xx後見制度を支える仕組みでもある見守り契約および財産管理契約を検討する。これらはxx後見(特に任意後見)の前の段階でとりわけ重要な機能を果たしうるものと考えられる。これらは今後、任意後見がさらに普及して行くに伴い、一層注目を集めて行くことが予想される。
第 2 任意後見制度、見守り契約、財産管理契約
1 任意後見制度
高齢者などが判断能力を失った場合においても、支援を受けながら自らの意思を実現することを可能とする仕組みとして、任意後見制度がある。任意後見契約とは、本人が任意後見人となる者に対して、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、任意後見監督人が選任された時から契約の効力を生ずる旨の定めのあるものをいう(任意後見契約に関する法律 2 条 1
号)。任意後見契約の締結に際しては、xx証書によることが必要である(同法 3 条)。
前掲「xx後見関係事件の概況-平成27年 1 月~12月-」によれば、平成27年の任意後見監督人選任の審判の申立件数は816件(前年は738件)であり、対前年比約10.6%の増加となっている。また、任意後見の利用者数 は2,245人(前年は2,119人)であり、対前年比約5.9%の増加となっている。人口あたりの利用者はまだまだ少なく低調であるが、利用者は増える傾向にある。また、日本公証人連合会がまとめたところによると、任意後見契約xx証書の2015年の全国での作成件数が10,774件となり、統計のある平成16年以降で、初めて年間 1 万件を超えたことが2016年 9 月末、複数のメディアにより報じられた。
2 任意後見契約の利用形態
わが国の任意後見制度においては、即効型、移行型、将来型の利用形態があり4)、移行型においては、財産管理契約が任意後見契約の締結から発効までの間のつなぎとなり、将来型においては、見守り契約がやはり重要な役割を果たしうる。
移行型は、任意後見契約の締結と同時に、財産管理契約等を締結しておく類型である。すなわち、本人に判断能力はあるが、本人の便宜のため財産管理等を委託しておき、判断能力が低下した後は任意後見監督人の選任の申立てることで任意後見に移行する形態であ
3) xxxxx『民法とxx後見ー人間の尊厳を求めて』(成文堂、2012年)105頁。
4) xxxx=xxx編『xxx後見制度の解説』(金融財政事情研究会、2000年)225頁以下。
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約(xx)
る。この移行型の場合においては、本人の判断能力が低下したにもかかわらず、任意後見受任者が任意後見契約を発効させずに、財産管理契約の受任者が監督なしで財産管理を続けるという問題も多く指摘されている5)。
即効型は、任意後見契約の締結後、直ちに任意後見を開始することを予定する形態である。判断能力が低下し、即時に任意後見を開始したい場合にはこの形態が用いられる。ただし、任意後見契約を締結するだけの判断能力(意思能力)があることが前提となる。
将来型は、本人に十分な判断能力がある場合に、将来自己の判断能力が低下した時点ではじめて任意後見人により保護を受けるという形態である。契約締結時には、財産管理を他人に委託などせず、自分で財産管理を行うのである。しばしば、任意後見契約発効までの間、本人の生活状況を把握し、判断能力を失った時期を見定めるために見守り契約が締結される。実務では専門家の任意後見受任者により広く行われている6)。なお、法が予定していたのはこの将来型である。
3 見守り契約
(1)見守り契約
上述のように「見守り」を契約内容とするものには様々あるが、ここで取り上げるのは、法律の専門家(弁護士、司法書士)による見守りである(本稿において「見守り契約」とはそのようなもののみを指すことにする)。任意後見との関わりでいえば、任意後見契約受任者が見守り契約をする場合と、(未だ)任意後見契約の受任者でない者が見守り契約を受任する場合とがありうる。後者の場合には特に当事者の信頼関係を構築する手段として有用である。
このような法律の専門家が関わる見守り契約はホームロイヤー契約とも言われることもある。個別の契約により内容は異なるが、見守り契約は、見守り受任者が委託者(本人)の住居に訪問し、あるいは電話により生活状況や安否を確認し、法律相談(法的助言)や生活上の悩み相談を行い、ライフプラン(また、エンディングノートや事前指示書)や財務プラン(見守り受任者がそのような分野に明るい場合)のプランニングをすることが主な内容となる(財産管理は本人が行う)。また、将来型の任意後見契約を伴う場合には、委託者の判断能力の確認が重要な任務になる。
このような場面で用いられる見守り契約には次のような利点がある考えられる。すなわち、第一に、見守り契約により、本人の生活状況を総合的に把握し、身上へ配慮や手配、財産管理の支援をすることが可能となる。第二に、本人が将来型の任意後見契約を締結している場合には、本人の判断能力の程度を見定め、見逃すことなく任意後見発効の手続きをとることができる。第三に、見守り受任者が任意後見人としてふさわしいか、人物を見定めることができる。第四に、見守り受任者の働きかけにより地域での人的ネットワークを強化し、拡大することが期待できる。すなわち、地域に働きかける法律家が連携の要となり、地域連携のコーディネーターとなることが期待できる。このような連携の前提としては、本人の同意に基づいて本人に関する情報を予め集約させておく体制づくりが重要で
5) xx二xx「任意の契約による財産管理」xxx=xxxx=xxxx編『xx後見制度―法の理論と実務―(第 2 版)』(有斐閣、2014年)348頁など。
6) xxxx「任意後見制度の課題と提言」・xx=xx=xx編・前掲277頁。
人文社会科学研究 第 34 号
ある。そのための情報集約の場と、相談窓口の強化が要請されるであろう。法や制度を得意分野とする法律家がこのような役割を担うことは望ましいといえる。第五に、ライフプラン等のプランニングが促されること挙げられる。これは本人の希望を尊重するために重要な役割を果たすことになり、自己決定の尊重に資する。
(2)xx後見人等による身上監護における「見守り」等との異同
見守り契約の見守りと類似するものとしてxx後見人等によるとりわけ身上監護の支援の内容としての「見守り」もある7)。法定後見の場合と契約自由が妥当する任意後見の場合とで見守りの内容は異なりうる。これらと見守り契約における見守り概念との相違が問題になりうるが、相互に重なり合うところも大きい。他方、任意後見契約発効前における任意後見受任者の見守り義務との異同も問題となる8)。見守り契約実務の進展とともにより明らかにされよう。
(3)見守り契約の法的性質・法律関係
見守り契約の法的性質および当事者の法律関係はいかなるものであろうか。見守り契約の法律上の定義は存在しない。契約内容は個々の契約ごとに異なりうる。見守り契約は時間的に幅のある継続的契約に該当する。
見守り契約の受任者は電話や訪問による安否確認等の事実行為を行う。このような事実行為は、委託者と受託者の準委任契約を基礎として行われる。準委任契約によることから、受任者は善管注意義務を負い(民法656条、644条)、顛末報告義務(民法656条、645条)を負う。報酬は特約により定まることになる(民法656条、648条 1 項)。見守り契約は信頼関係に基づいてることから、当事者双方とも任意に解約できると考えられる(損害があれば損害賠償を伴う)。
また、場合によっては、事務管理として、必要な処置を講じる。
本人の代わりに行動することも場合によって必要となろう。見守り契約は、一般に一定の事項にかかる代理権を伴う財産管理契約とは異なり、事実行為をなすことに主眼が置かれていよう。日常生活における事務を代行するなどの事実行為を行う場合の法的な説明としては講学上の概念である使者があてはまる。もっとも、本人から特定の法律行為につき代理権を授与され(通常は委任状の交付によって行われる)、代理人として事務の処理を行うこともありうる。
履行補助者による履行も行われる。例えば法律事務所の事務職員による見守り事務の履行である。このような履行補助者により一層本人との関係を密にし、見守り事務の質と合理性を高めることができる。そのような反面、履行補助者に過度に依存しすぎれば本人との信頼関係が揺らぎ、また本人の支援が実現できないことにもなりかねないであろう。
(4)見守り契約の役務提供契約ゆえの特徴
契約上の問題としては、報酬に対する見守り義務の履行が釣り合わない(報酬が不当に高額である)といったトラブルが問題になりうる。「財産内容の内容や手間の大変さ」は
7) xxx『専門職後見人と身上監護(第 2 版)』(民事法研究会、2010年)75頁、xxxx「任意後見人の職務等」・xx=xx=xx編・前掲233頁。
8) xxxx「任意後見受任者の義務」実践xx後見14号(2005年)72頁以下。xxxx「ホームロイヤーの意義とxx後見」実践xx後見58号(2015年)10頁以下は、見守り契約の方につき「より充実した内容の見守りを求めるのが本人の合理的意思に合致する」とする。
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約(xx)
報酬の基準として考慮されるべきである9)。いずれにせよ、明確な報酬基準があること、本人に対して十分に説明をすることが重要である。
このように見守り契約の役務提供契約ゆえの特徴としては、「見守り」というサービスつまり役務の提供については、モノの取引のように目に見えないため(無形性)、契約内容を事前に特定・評価しにくいといったことが問題となる。ここでは特に説明義務が問題になる。また、見守りという役務のクオリティを客観的に評価することが困難であるといった問題がある。そのことから報酬の決定基準の明確性、役務提供の瑕疵の判断の困難性すなわち、債務不履行、付随義務の不履行(生命、身体、財産)の判断基準が問題となりうる10)。
見守り契約が、財産管理契約と相まって任意後見制度を信頼できる制度へと発展していくために、サービスの標準化・規格化の視点が重要であろう。
(5)見守り契約において問題となる点・懸念点
見守り契約の仕組み上の問題点として、一般に見守りに対する監督がつかないことが挙げられる。これは任務の逸脱や濫用の可能性につながる。また、利益相反の問題もある。xx後見人等の権限濫用、逸脱に準じたリスクということもできる。これらの問題につ いては、xx後見制度など隣接する分野における各種の議論が参考になる。具体的には、監督人の設置、複数人による見守りの受託、組織を備えた法人による受託、地域連携によ
る相互監視にかかる議論が参考になる。
また、現実の問題として、見守りから任意後見への切り換えのタイミングが難しいことも挙げられる。そもそも、任意後見契約を発効する程度に判断能力が低下したのか否かの見極めが困難であることの他、任意後見に移ることに本人が納得しないということも考えられる。親族が介入してくることで契約を解除されてしまったり、見守りに支障が生じたりすることもあるようである11)。
4 財産管理契約12)
(1)財産管理契約とは
財産管理契約は、財産管理等の事務を第三者に委託するもので、民法上の委任契約による。判断能力が残存していても、身体が不自由といった場合、xx後見制度(任意後見も含む)は利用できない。xx後見制度は本人の判断能力の低下を要求するからである(民法 7 条、11条、15条 1 項、任意後見契約に関する法律 2 条参照)。そうした場合に、判断能力がある高齢者は、第三者に財産管理(預貯金、年金、不動産などの管理)や身上監護
(生活・医療・介護などに関する契約の締結を中心とする決定およびその手配13))に関する事務を委任することによって、事務を処理してもらい、私的自治を補うことができる。財産管理の形態としては包括的に行われる場合と、一定の財産に絞って行われる場合とが
9) xx・前掲356頁。なお、本人の財産額で報酬を決めることには問題もあろう(同書同頁参照)。
10) xxxx「サービス契約の法理と課題」法教181号(1995年)65頁以下参照。
11) 日本弁護士連合会高齢社会対策本部編『超高齢社会におけるホームロイヤーマニュアル(改訂版)』
(日本加除出版、2015年)304頁。日本弁護士連合会高齢社会対策本部編『超高齢社会におけるホームロイヤーマニュアル(改訂版)』(日本加除出版、2015年)304頁。
12) 財産管理契約に関しては、xx・前掲347頁以下が詳細に論じている。本稿の記述もこれに負っている。
13) 身上監護の内容としての「決定と手配」につき、xxx・前掲203頁以下を参照。
人文社会科学研究 第 34 号
ありうる。身上監護の内容も基本的には契約内容に従う14)。広く捉えると、上述した見守 り契約も財産管理の一つの場面ではあるところ、このような代理権を伴う財産管理契約の形態は「狭義の財産管理」ともいわれる場合がある15)。移行型の任意後見契約においてみられる財産管理契約がまさにそれである。任意後見契約を伴わない狭義の財産管理も多数存在する。本稿では狭義の財産管理を行う場合を単に「財産管理契約」と呼ぶことにする。財産管理契約に類似するものとして、日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業) がある16)。この事業は、1999年10月に開始した制度であり、実施主体は都道府県・指定都市の社会福祉協議会(社協)であるが、より身近な支援を可能にするため、実際にはほとんど市町村社協が委託している。支援の内容は、福祉サービス利用支援(福祉サービスに関する相談や情報提供)、②日常的な金銭管理(家賃、光熱費の支払い代行)、③書類等の預かりである。また、定期訪問による見守りも行われている。社協と利用者との契約によ
り行われ、比較的低額で利用ができる。
(2)法的性質・法律関係
財産管理契約は委任契約に基づく。原則として無償契約であり、報酬の定めは特約による(民法648条 1 項)。
任意後見契約とは異なり、契約の締結に際しては、xx証書による必要はない。もっとも、財産管理契約の締結がより慎重に行われるであろうこと、取引の相手公方に代理権を証明するに際してxx証書の方が信用性が高まるであろうことから、xx証書にしておく方が望ましい17)。
また、財産管理契約は登記によって公示されることもない。取引の相手方としては、代理権の有無を慎重に判断する必要がある18)。
(3)監督人
財産管理契約においては、任意後見契約とは異なり通常は監督が付かない。それをいいことに、本人の判断能力が低下しているにもかかわらず、任意後見契約を発効させずに、財産管理契約をそのまま継続させて置くという事例が多く報告されている。代理人は簡易迅速に事務処理にあたりたいという要望があるのであろうが、権限の逸脱や濫用につながりやすいと指摘されている。
第 3 ドイツ法における任意後見
1 事前配慮代理
ここでは任意後見が普及しているドイツの法制度について概観し、特に判断能力の低下
14) 本人の健康状態やニーズがつかめなければ適切な財産管理はなしえないであろう。その意味では、見守り等の身上に対する配慮(身上監護)は適切な財産管理のための前提である。
15) xx・前掲356頁参照。
16) 日常生活自立支援事業とxx後見制度の役割分担および本来は後見類型に相当する者の支援を本事業だけで行っている実務の是正について問題提起をする文献として、xxxx「日常生活自立支援事業の課題―xx後見制度との関係を中心に―」社会福祉学52巻1号(2011年)がある。
17) 日本弁護士連合会高齢社会対策本部編・前掲366頁参照。
18) 例えば、銀行の対応としては、①任意代理の委任契約書や委任状に他、本人と受任者の連盟による銀行所定の代理人届の提出を求める、②約款等において、届出事項の変更届義務を定める、変更届出前の損害にかかる銀行の免責を定めるといった対応が考えられている。xxxx=xxxx監修『Q&A家事事件と銀行実務』(日本加除出版、2013年)。
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約(xx)
した高齢者の意思を尊重しつつ財産管理をどのように行っているか、そこにおける問題点や、法律論につき問題解決のために考えられている方策を検討したい(ドイツ法に関しては基本的にXxxxxx Xxxxxxxxxx, Vorsorgevollmacht – Betreuungsverfuegung –Patientenverfue- gung: für die Beratungspraxis, 2 . Aufl. 2010.に依拠する)19)。わが国の法定後見制度にあたるものとしてドイツにおいては世話(Betreuung)制度が存在する。ドイツ世話法では早くから身上監護が取り入れられている。また、わが国の任意後見にあたるものとしてドイツには事前配慮代理(Vorsorgevollmacht)というものがある。事前配慮代理とは、将来における本人の行為無能力ないし世話の必要性が生じた場合のために行われる任意代理である。
ドイツ民法典(以下BGBと記す)1896条 2 項20)は世話の必要性の原則を定めている。これは、本人のための法的世話が必要に思われる場合でも、当該事務が本人の任意代理人によっても世話が可能である場合には、世話人は選任されないことを意味する。これには 2つの目的があるといわれる。すなわち、①本人の自己決定権の尊重、および②国家の負担の軽減である21)。
ドイツの任意後見制度では、わが国の任意代理制度とは異なり、監督人の選任が例外的な措置とされている。つまり原則として監督人がおらず、当事者の信頼がすべてであり、代理権の濫用をいかに防ぐかが大きな課題になっている。この点では、わが国の財産管理契約に状況は類似している。ドイツでは代理権の証明となる代理権授与証書を受任予定者に渡さないでおいて、必要な時まで友人やかかりつけ医に保管しておいてもらうという方法も採られている。
2 事前配慮代理
(1)代理規定の適用による
わが国の任意後見制度が「任意後見契約に関する法律」という民法の特別法によるのに対し、ドイツの任意後見は、通常の任意代理の規定BGB 166条(法律行為により授与された代理権)以下に基づいている。特に現在または将来における本人の支援が代理権授与の契機である場合には、事前配慮代理という言葉が用いられている22)。このように事前配慮代理は、任意代理の独自の形態ではなく、BGB 164条以下の代理の規定の適用によるものである。
(2)包括的代理および特別代理
任意代理権は、特定の法律行為に関する特別代理権(Spezialvollmacht)として、または
19) ドイツの任意後見制度については、邦語文献として、xxxx「ドイツにおける任意後見制度の運用」公証法学41号(2011年)、xxxxx「ドイツxx後見制度と公証人の役割」公証法学38号(2007年)参照。本稿はXxxxxx Xxxxxxxxxx, Vorsorgevollmacht – Betreuungsverfuegung–Patientenverfuegung: für die Be- ratungspraxis, 2. Aufl. 2010.に依拠してドイツの制度を概観する。紙幅の都合より逐一同書の引用頁を挙げることは控える。他文献からの引用部分についてはその都度注記する。
20) BGB 1896条 2 項「世話人は、世話が必要とされる職務範囲についてのみ選任することができる。第1897条第 3 項の掲げる者に該当しない任意代理人により、又は法定代理人の選任を伴わない他の援助により、xx者の事務を世話人による場合と同様に適切に処理することができるときは,世話は必要といえない。」条文訳:xxx「ドイツ世話法条文」 民事月報65巻 6 号79頁以下を引用。
21) Münchener Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch, Bd. 8, 6. Aufl., 2012, §1896 Rn48[Schuwab].
22) 老齢配慮代理権(Altersvorsorgevollmacht)という用語も用いられてきたが、事前配慮が必要となるのは事故等によっても生じるので、ふさわしくないとされている。
人文社会科学研究 第 34 号
すべての法律行為を包含する包括的代理権(Generalvollmacht)としても授与されうる。事前配慮が世話人の選任を回避するために行われる場合には包括的代理権がふさわしい
ともいわれる。代理に含まれない措置が必要となる場合には、世話人が選任されてしまうことになるからである23)。例えば、本人が、任意代理人にもっぱら健康上の配慮、医療措置の中断について代理権を授与したところ、後日、住居費用を支払うために土地の売却が必要となった場合には、その範囲で世話裁判所による世話が指示されなければならないのである。
(3)任意代理権の授与
任意代理権は受領を必要とする一方的な意思表示(単独行為)により授与される24)。代理権の授与には特別の方式をとることは必要ない(BGB 167条 2 項)。事前配慮代理のみに妥当する特別規定としては、医療措置への同意にかかるBGB 1904条 5 項、自由を剥奪する収容にかかるBGB 1906条 5 項が存在し、当該代理権の授与には書面が要求される25)。
代理権は無因的である。すなわち、外部関係における代理権の範囲は、原則的に内部関係には依存しない。しかし、任意代理における内部関係(代理権授与者[本人]と任意代理人との間の委任契約または事務処理契約に基づく関係)の取決め(例えば、「私は…という場合のために代理権を授与する」)により、条件付き(制限付き)の代理権にしておくことができる。
(4)条件の成就の証明
代理権授与証書に記された条件が成就し、任意代理人が本人の代理人として契約を行う場合、契約の相手方としては条件成就の証拠を要求することになる。ドイツにおいては実体法上、代理権の有効性の証明は告知や解除のような単独行為に際して必要となる(BGB 174条26))。
土地登記(土地登記法[GBO]29条 1 項27))あるいは商業登記(商法[HGB]12条(登
記申請及びその提出手続) 2 項28))に関わる場合には、条件の成就の書式を証拠として示さなければならない。ここで、例えば、「私が行為無能力の場合には…」という条件付きの代理は土地登記にはふさわしくないといわている。なぜならば、譲渡の合意の意思表示
23) Xxx Xxxxxxx / Xxxxxxxx Xxxx / Xxxxxxx Xxxxxx(Hrsg.), Vorsorgevollmacht, Betreuungsverfuegung und Patien-
tenverfuegung, 4. Aufl. 2015, Rn66. [Hack].
24) BGB 167条 1 項「代理権の授与は、代理権を授与される者又は代理の相手方である第三者に対する意思表示によって行う。」(条文訳:xxx人「ドイツ民法Ⅰ[総則]」国立国会図書館調査及び立法考査局[2015年])。単独行為と捉えるドイツ民法のこのような授権概念は、代理と委任とを理論的に処理するために便宜であるためであるといわれる。xxxx『民法総則(第 6 版補訂)』(成文堂、2012年) 248頁参照。
25) 以前は、事前配慮代理権が身上および健康上の事務の領域にも及ぶのか否かが争われていた。1999年 1 月 1 日の世話法改正法施行により、この点に決着がついた。
26) BGB 174条(代理人の単独行為)「代理権を授与された者が他人に対して行う単独行為は、代理権を授与された者が代理権証書を呈示せず、相手方がその理由から、この法律行為を遅滞なく拒絶したときは、効力を有しないものとする。代理権授与者が、相手方に代理権の授与を知らせていたときは、拒絶をすることはできない。」条文訳:xx・前掲。
27) 同条は、登記をするには登記に必要な意思表示が、公文書または公に認証された文書によって証明されなければならないとする。
28) ドイツ商法(HGB)12条 1 項 2 文「代理申請を行う場合の代理権の証明にも同様に公的に認証され
た書式を必要とする。」条文訳:法務省大臣官房司法法制部「ドイツ商法典 (第 1 編~第 4 編)法務資料465号(2016年)。
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約(xx)
の時点における代理権授与者の行為無能力の事実について、公文書または公に認証された文書によって土地登記所に証明されなければならないとすれば、そのようなことは非現実的であるからである。
その他の場合においても、実務上、法取引において条件の成就は証明されなければならないことがある。取引に通じた相手方(例えば銀行、保険会社、官庁等)は、条件の成就が証明されなければ任意代理人との取引を許容しない。
このようなことから不明確な条件を伴った任意代理権は、法取引においてほとんど価値が無いことになるため、そのようなものは推奨されないと指摘されている。
3 事前配慮代理の長所および短所
事前配慮代理の長所は、国家による私的領域への介入が少ないことであるとされる。任意代理の場合は、本人は代理権の範囲や誰を任意代理人とするかを自由に選択することができる。これに対して、世話の場合は、世話人を誰にするかについて世話裁判官が決定する(もっとも、本人は世話手続きの中で、あるいは世話裁判官による聴聞に際して、誰にして欲しいか人物を提案しうる[BGB 1897条 4 項参照])
また、事前配慮代理の場合、支援の必要性が生じたときは、裁判上の手続きは必要ではない。これに対して、世話の場合は、世話裁判所による手続きが必要である。
代理権の始期および終期に関して、世話による場合は、代理権は、世話が効力を生じたときに開始され(家庭事件及び非訟事件の手続に関する法律[FamFG]287条)、遅くとも被世話人の死亡とともに終了する(特定の緊急時には事後にも継続する。世話の条文に置かれるBGB 1908i条 1 項が準用するBGB 1893条[後見終了後の事務処理の継続、証書の
返還]、BGB 1698[a 親の配慮の終了後の事務処理の継続],b条[子の死亡後の事務処理の
継続])。これに対して、事前配慮代理の場合は、本人の判断により、支援の必要性が生じる前でも「世話」を受けることができ、また、本人の死後も従事させることができるため、任意代理人は遺産の処理に移行することもできる。もっとも、代理権の濫用は相続人の負担になる。
これに対して、事前配慮代理権の短所は、裁判所による任意代理人の監督が十分になされないことである。任意代理人は、その気になれば本人の土地を譲渡することなどができてしまう。また、任意代理人は代理権授与者の住居を解約できてしまう。例えば本人が病院から戻ろうとした場合に家がないという事態も生じうるのである。この場合、本人は施設等への転居を余儀なくされる。世話の場合には、世話裁判所が介入することになっている(BGB 1907条参照29))。
4 登録制度
2005年、連邦公証人会(Bundesnotarkammer)による中央事前配慮登録簿(Zentrales Vor- sorgeregister)が開設された(連邦公証人法 78a条)。制度の詳細は、事前配慮登録簿規則
(VRegV)に定められている。中央事前配慮登録簿には事前配慮代理権を登録してもらうことができる。私的に作成された事前配慮代理権の他に、公的に(例えば、公証人や世話官庁により)認証された事前配慮代理権、またはxx証書による事前配慮代理権も対象となる。ホームページ(xxxx://xxx.xxxxxxxxxxxxxxxx.xx)から、自身で直接(または公証人、
人文社会科学研究 第 34 号
弁護士、世話協会などが)、事前配慮代理にかかるデータを入力することができる。
これによって、世話裁判所は、オンラインで中央事前配慮登録簿のデータを呼び出すことが可能になった。他の機関が代わりに行うことはできない。世話裁判所は、世話の指示が拒否され、抗告手続きが抗告裁判所に係属中である場合、電磁的方法、文書、電話による要求で、登録の照会を受けることができる(事前配慮登録簿規則 6 条)。
代理権の文章内容は登録されない。中央事前配慮登録簿は、電子登録のみを蓄積するのであり、代理権授与証書そのものが保管されるのではない。事前配慮文書は、原本でもって官庁、銀行、医師に対して実際に提示されなければならないからである。
また、以前は不可能であったが、2009年 9 月 1 日から、世話指示書30() Betreuungsverfü- gung)の単体での登録も可能となった。それまでは、必ず事前配慮代理を伴っていなければ登録しえなかった。
2016年 9 月30日現在で、総数332万 7 千件の事前配慮文書の登録がある。2015年における新規登録数は38万件で、87%は公証人による登録であった。2015年における、登録申請の76%は、患者の事前指示書31() Patientenverfügung)の登録も行っている32)。
5 世話裁判所による監督
任意代理人が、世話裁判所によって監督される場合がいくつか存在する。
①一定の場合における健康状態の検査、治療行為または医的侵襲への世話人の同意
(BGB 1904条 5 項が準用する同条 1 項)。
②一定の場合における健康状態の検査、治療行為または医的侵襲への世話人の不同意又は同意の撤回(BGB 1904条 5 項が準用する同条 2 項)。
③任意代理人が自由を剥奪する収容をおこなう場合にも、世話裁判所の許可を要する
(BGB 1906条 5 項が準用する同条 3 項)。
上記①②の場合には、世話裁判所の許可を必要とする。世話裁判所は、これらの同意、不同意又は同意撤回が被世話人の意思に適うときは、許可を与えることができる。
上記①~③以外の場合は、世話裁判所による監督は行われない。
29) BGB 1907条(居住関係の解消に対する世話裁判所の許可)
「(1)世話人が、被世話人の使用賃借していた住居使用賃貸借関係を告知するには、世話裁判所の許可を必要とする。そのような使用賃貸借関係の合意解約に向けられた意思表示についても、同様とする。
(2)使用賃貸借関係終了の原因となるその他の事情が生じたときは、その職務範囲に使用賃貸借関係又は居所指定を含む世話人は、これを遅滞なく世話裁判所に報告しなければならない。世話人が使用賃貸借関係の告知又は合意解約以外の方法で被世話人の居住関係を解消しようとするときも、世話人は、これを遅滞なく報告しなければならない。
(3)使用賃貸借関係若しくは用益賃貸借契約、又は被世話人が定期給付を義務付けられるその他の契約については、その契約期間が 4 年を超えるとき又は世話人が住居を賃貸しようとするときは、世話人は、世話裁判所の許可を必要とする。」条文訳:xx・前掲。
30) 誰が世話人になるべきか、世話がどのように行われるべきかに関して記しておく指示書。
31) 患者の事前指示書は、xx者が将来、同意能力がなくなった場合のために、現時点ではまだ問題となっていない特定の健康状態の検査、治療、医療介入に、同意するか否かについて、書面に当該判断を確定しておくというものである(BGB 1901a条 1 項)。拙稿「患者の事前指示書について―民法との関わりを中心に―」xx大学法学論集30巻第 1 ・ 2 号(2015年)335頁以下参照。
32) ZVR-Statistik 2016, ZVR-Jahresberichte xxxx://xxx.xxxxxxxxxxxxxxxx.xx/Xxxxxx/Xxxxxxxxx/0000/xxxxx.xxx,
xxxx://xxx.xxxxxxxxxxxxxxxx.xx/Xxxxxx/Xxxxxxxxxxxxx.xxx(最終確認:2017年 1 月 6 日)
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約(xx)
6 監督世話人による監督
世話人が任意代理人を選任したが、精神的な障害により(行為無能力であることは前提としない)、もはや自ら監督できず、その結果、特別な任務領域を伴った世話人(監督世話人[Kontrollbetreuer, Vollmachtsbetreuer, Überwachungsbetreuerなど幾つかの呼ばれ方がある])を必要とする場合がある。BGB 1896条 3 項33)はこの監督世話人に関して規定している。監督世話は、通常の世話であり、単に世話人の任務の範囲が限定されているだけである。監督世話人は、任意代理権を撤回することも(また、その基礎となる法律関係については告知しうる)、あるいは存続させておくこともできる。通例は、監督世話人は任意代理権を撤回して、自ら代理権授与者を代理する。
監督世話人の権限の範囲は、代理権の基礎となる法律行為から生じる(委任契約、事務処理契約)。すなわち、委任または事務処理契約から生じる。監督世話人は、監督権を有し、任意代理人に対し、次のことを要求できる。
・任意代理人に対して情報を要求できる(BGB 666条34))。
・任意代理人に指示を与えうる。
・任意代理人に特定の行為を禁止しうる。
・支持された収入と支出のリストを要求しうる(BGB 666条)。
・証書の閲覧またはその返還を要求しうる(BGB 667条35))。
・監督世話人は代理権授与者の元々の指図に従わないことを許可しうる(BGB 665条 2 文36))。
・代理権授与者の任意代理人に対する損害賠償請求権を行使しうる。
7 代理権の濫用
(1)代理権を越えて行われた法律行為
任意代理人が代理権を越えて法律行為を行った場合、彼は代理権なく行為したことになる。契約の有効性は、代理権授与者の追認に依存している(BGB 177条 1 項37))。追認が拒絶された場合、代理権授与者は義務を負わない。例えば、AがBに銀行に関して代理権を与え、その後、BがAの口座から1,000ユーロを引き出すべきだったが、Bは3,000ユーロを引き出した。そのとき、Aは、1,000ユーロを限度として義務を負い、銀行は残りの2,000ユーロを口座の貸方に記入しなければならない。
33) BGB 1896条 3 項「被世話人の任意代理人に対する権利行使も、職務範囲に定めることができる。」条文訳:xx・前掲。
34) BGB 666条(報告義務)「受任者は、委任者に対して必要な通知を行い、請求に基づいて事務の状況を報告し、かつ、委任の執行後に結果を報告する義務を負う。」条文訳:xxxx編『注釈ドイツ契約法』(三省堂、1995年)(xxx人)。
35) BGB 667条(受任者の引渡義務)「受任者は、重任を執行するために受け取ったもの及び事務を処理することによって取得したものをすべて委任者に引き渡す義務を負う。」条文訳:xx・前掲。
36) BGB 665条(指図に従わない場合)委任者が実情を知っていれば自己の指図に従わないことを是認したであろう事情が受任者において認められるときは、受任者は、委任者の指図に従わないことができる。受任者は、遅延により危険を生ずるおそれがないときは、あらかじめ委任者に通知をし、その決定をたなければならない。」条文訳:xx・前掲。
37) BGB 177条 1 項「ある者が代理権なく他人の名において契約を締結したときは、代理された者のための又はこれに対する契約の効力は、代理された者の追認による。」条文訳:xx・前掲。
人文社会科学研究 第 34 号
(2)内部関係における制限を越えた場合
代理権は無因的であり、授与された代理権は、原則的に内部関係には依存しない。任意代理人が代理権の範囲で法律行為を行ったが、しかし、内部関係において合意された、または指図された制限に違反した場合、任意代理人は代理権を濫用したことになる。この場合でも代理は有効である。これは、代理権の無因性から帰結される。例えば、Vが銀行の事務についてBに、包括的代理権を授与し、1,000ユーロを引き出すことを指示したが、Bは3,000ユーロを引き出したとしよう。そのとき、銀行は免責される。代理権を授与したVが軽率なのであり、VはBから賠償を請求することになる。
(3)事前配慮代理権の濫用
事前配慮代理権の濫用の危険は特に大きいと考えられている。なぜなら、判断能力の低下した代理権授与者は、孤立無援の状況ゆえに任意代理人をもはや監督しえず、任意代理人はこのことを知っているからである。
濫用の危険は、原則的に代理権授与者が負う。例外的に有効性に影響を及ぼす場合としては通謀(Xxxxxxxxx)の場合がある。代理人と取引の相手方が、本人の不利益を知り、協働していた場合、そのような合意は良俗違反により無効である(BGB 138条 1 項「善良な風俗に反する法律行為は、無効とする。」条文訳:xx・前掲)。例えば、任意代理人がある物を購入し、通謀して価格を10%高く勘定に入れ、上積み分を外国の偽口座に振り込ませることを合意するという場合である。また、取引の相手方にとって明白な濫用が存在する場合にも法律行為は無効となりうる(BGB242条[xxxxに適った給付]の適用)。任意代理権が有効に授与されたが、任意代理人が代理権授与者の不利益にこれを濫用す る場合、世話裁判所にとって濫用であると判断できる具体的な根拠が存するときには、世
話が指示されうる。
(4)濫用の回避
a.適切な任意代理人の要件
注意深く任意代理人を選任することにより、もっともよく代理権の濫用が予防できるとされる。任意代理人は、絶対的に信用できる人物でなければならない。適切な任意代理人のための基本的な要件は以下のとおりである38)。
・双方向で、長い間持続した代理権授与者と任意代理人の間の信頼関係があること。
・特に、身上の領域における代理の場合、代理権授与者の基本的な考え、および希望を知り、理解していること。
・特に、身上の領域における代理の場合、第三者に対して代理権授与者の希望を代弁しうる能力と時間があること。
・財産法上の任務に関する知見と専門知識。
b.共同代理による複数の任意代理人
父あるいは母が二人の子をどちらも贔屓にしたくないがために二人の子を共に任意代理人に選任する場合がある。このように、代理権授与証書において二人の任意代理人が協働
38) Xxx Xxxxxxx / Xxxxxxxx Xxxx / Xxxxxxx Xxxxxx(Hrsg.), a.a.O., Rn59. [Hack].
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約(xx)
してのみ行為しうると指示している場合には、単独で代理権を濫用する危険性は取り除かれ、また両者が共に濫用する危険性は少ないといえる。
しかし、複数人による任意代理には迅速な取引が困難になるという短所が存在する。例えば、任意代理人の一人と他の者が離れた場所に居住している場合には職務が複雑になってしまう。また、家族がいない場合、第二の信頼できる人物を見つけることがしばしば困難である。
c.二重の代理
任意代理人に支障が生じた場合のために、二人の代理人が同一の任務を引き受けるかたちでの二重の代理が役立つ。そこでは、両任意代理人は場合により互いに無関係に行為しうる。見解が相違した場合については、特定の代理人の決定に従うことが予め決められる39)。
(5)弁護士による事前配慮代理40)
しばしば、本人が事前配慮代理を望むが、しかし、任意代理を引き受けることのできる人物がいないという場合がある。そのような場合、弁護士が任意代理人を引き受けることがある。
本人が主たる任意代理人ともに、第二の任意代理人として、補助・監督をする任意代理人として弁護士を任命した場合、本人には利点がある。補助をされる方の任意代理人は間違いなく、自身の任務を遂行するであろう。それに加え、本人は、財産の横領、急な介護施設への引っ越し、その他の他者決定から保護されうる。
任意代理人にとっても、補助・監督をする弁護士の任意代理人の存在は、有益である。例えば、外からの攻撃に際して、弁護士に相談することができる。加えて、情報提供義務および報告義務については弁護士から行うといったことができる。また、相続人との争訟を鎮めることにもつながる。
また、他にふさわしい人物が他にいない場合、弁護士は第一の任意代理人になりうる。
8 ドイツ法からの示唆
ここでは任意後見が普及しているドイツの法制度について概観し、特に判断能力の低下した高齢者の意思を尊重しつつ財産管理をどのように行っているか、そこにおける問題点や、法律論、問題解決のために考えられている方策をみてきた。
ドイツでは、法定後見制度である世話制度があるものの、必要性の原則により、事前配慮代理が優先される仕組みが構築されている。事前配慮代理の長所としては、国家による私的領域への介入がより少ないこと、手続きが簡易であることが言われている。また、事前配慮代理にかかる登録制度が整っており、登録数も増え、国民の老後への準備が進んでいることが伺われる。
わが国の任意後見制度とは異なり、ドイツでは基本的には裁判所による監督がなされない仕組みである。そのような状況において代理人の濫用について議論がある。この点、状況は異なれども、わが国における原則として監督者が不在である財産管理契約(見守り契約)と同様の懸念が問題となっている。
39) Xxx Xxxxxxx / Xxxxxxxx Xxxx / Xxxxxxx Xxxxxx(Hrsg.), a.a.O., Rn67. [Hack].
40) Xxx Xxxxxxx / Xxxxxxxx Xxxx / Xxxxxxx Xxxxxx(Hrsg.), a.a.O., Rn62-64. [Hack].
人文社会科学研究 第 34 号
濫用を防ぐ手立てとしてドイツでは、当然のことのようであるが、任意代理人の選任を慎重に行うべきことが指摘されている。これが代理権の濫用を防ぐ最善の手段なのである。また、本人と代理人との継続的な信頼関係があること、本人の基本的な考えや希望を理解していること、第三者に対して本人の希望を代弁しうる能力や時間があること、財産管理に関する知識が指摘されている。
さらには、複数人による(共同)代理、弁護士による場合の専門知識のメリットも指摘されている。まわりに適当な人物がいない場合にも、弁護士が任意代理人になりうることが指摘されている。
第 4 おわりに
わが国の任意後見制度においても、移行型においては、財産管理契約が任意後見契約の発効までの間のつなぎとなり、将来型においては、見守り契約が信頼関係の構築のために重要な役割を果たしうる。今後、任意後見制度がさらに普及して行くに伴い、一層注目を集めて行くことが予想されよう。また、任意後見契約受任(予定)者でない者が見守り契約、財産管理契約を受任する場合ともありうるが、信頼関係を築くことができれば、ここから任意後見へと移る可能性も高い。財産管理契約と見守り契約の役務内容の明確化と質を担保してゆくことが、わが国における任意後見制度の普及のためにも必要であり、これら全体が制度として発展することが期待される。
見守り契約の濫用の危険、利益相反など、xx後見人等の権限濫用に準じたリスクがある。これについては、見守り受任者を監督する者を設置すること、見守りを複数人で行うこと、組織を備えた法人によって見守りを受託するようにすること、また、地域の連携による相互の監視といった、従来xx後見制度にかかる議論において指摘されたことが参考になるように思われる。
見守り契約も財産管理の側面を有し、財産管理契約も見守りの側面を有する。支援の基本において代理権を伴うか否かは民法理論に関り、両契約の独自性が追求されるべきである。もっとも、両者とも「身上監護のための財産管理」を基本とするべきと考える。その意味で、両契約の差異は究極的には相対的なものであると捉えたい。
地域連携については、見守り契約の受任者が、地域の医療・福祉関係者と協働して行くことこそが、見守り契約の大きな存在価値であると考える。そのような実務の発展、仕組みづくりが肝要である。見守り契約、財産管理契約は、xx後見制度や他の制度、民間のサービスとも相まって、地域の連携を促すなど、地域社会によりよい効果を及ぼすものと期待される。これらの実務の積み重ねが地域における多種多様な取り組みと綿密な関係を結ぶこと、そのために、柔軟な発想で社会のリソースを上手く活用して行くことが鍵となるであろう。
見守り契約、財産管理契約ともに、受任者に支払う報酬の問題もあり、残念ながらすべての高齢者が利用できるわけではない。しかし、社会において一定のニーズも確かにあり、地域における「見守り」のありかたの一つとして今後とも果たすべき役割は大きい。
謝辞
本稿は、横浜商科大学「平成28年度個人及びグループ研究助成」並びに文部科学省・独
高齢者を支える見守り契約と財産管理契約(xx)
立行政法人科学技術振興機構「革新的イノベーション創出プログラム」「高齢者の地域生活を健康時から認知症に至るまで途切れなくサポートする法学、工学、医学を統合した社会技術開発拠点」(研究リーダー・xxx)及び独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域「高齢者の安全で自律的な経済活動を見守る社会的ネットワークの構築」(研究代表者・xxx)に基づく研究成果の一部である。