Case 40 ①Xは交通事故の後始末をYに一任した。Yは、A進物店で1万円の見舞用盛りかごを買ってZを訪れ、「XはZに対し解決金100万円を払い、Zは一切の 請求を放棄する」との示談をしてきた。Xは、100万円が被害者の怪我の程度などから見て高すぎると不満である。Xは示談契約に従ってZに100万円を支払う必要がある か。盛りかご代1万円はどうなるか。また、XはYの責任を追及できるか。
民法特別講義・債権各論
第16回 委任契約と事務管理
(教科書269~282頁、509~517頁)
1999/10/15
xx xx
【委任契約と事務管理 ── 前置き】
★事務管理は、例えばドイツ語では Geschäftsführung ohne Auftrag(委任によらない事務処理)と呼ばれる。委任契約との違いは、他人の事務の処理が契約に基づくか否かで、事務管理の場合には、最低限の後始末としての効果のみを認めている。
【委任契約】
Case 40 ①Xは交通事故の後始末をYに一任した。Yは、A進物店で1万円の見舞用盛りかごを買ってZを訪れ、「XはZに対し解決金100万円を払い、Xは一切の請求を放棄する」との示談をしてきた。Xは、100万円が被害者の怪我の程度などから見て高すぎると不満である。Xは示談契約に従ってZに100万円を支払う必要があるか。盛りかご代1万円はどうなるか。また、XはYの責任を追及できるか。
②上記の委任については、XY間では報酬について何も定めていなかったところ、 Yが10万円の報酬を請求してきた。Xは支払う義務があるか。Yが弁護士かそうでないかで結論が異なるか(xxx=xxxx『ワークブック民法』136頁〔xx〕から)。
③Yが弁護士であるとして、YがZとの示談交渉を継続している間に、XがZとの間で直接話をつけてしまった場合、YはXから報酬を請求できるか。
1 委任契約の法的性質など
★片務・無償で他人の事務を処理する諾成契約←沿革的理由。報酬支払特約があれば、双務・有償契約(643条)。
★事務処理内容が事務処理なら委任、事実行為なら準委任(656条)。両者には効果に基本的に差がないため、事務処理を委託する契約として一括できる。
・事務処理者の独立性(←→雇用契約)、手段債務性(←→請負契約)。
2 委任契約の成立
☆専門の資格のない者に委任する契約の効力はどうなるか(90条との関係)。
参考判例
最判昭和38年6月13日民集17巻5号744頁(弁護士法72条の違反には業務性を要しない。90条違反で契約無効)、最大判昭46年7月14日刑集25巻5号690頁(業務性を要する)、最判昭和50年4月4日民集29巻4号317頁(xx)
3 委任契約の効力
(1) 受任者の義務 ←高度の人的信頼関係の特殊性
①事務処理義務
★善管注意義務(644条):無償でも同じ←→義務軽減説
☆医療契約を準委任契約と構成すると被害者に有利か?
・原則として履行の代行は不可←人的な信頼関係。例外-104・105条類推による復委任
・重いxx義務・誠実義務まで負うという見解もある。←fiduciary relation
参考文献
xxxx「代理・委任における代理人・受任者の行動基準」関西信託法研究会『財産管理における受託者及びそれに類する者の行動基準』10頁以下(1 995年)
②付随的義務と責任
(ア) 事務処理現状報告義務(645条)
(イ) 受領物引渡・権利移転義務(646条)
(ウ) 金銭消費の場合の絶対的責任(647条)←背任防止。損害賠償は419条の特則。 (エ) 契約終了の場合の応急措置義務(654条);善処義務とも言う(xx279頁) (オ) 終了事由通知義務・管理継続義務(655条)
(2) 委任者の義務
①委任事務処理費用の負担
(ア) 事務処理費用の前払義務(649条)
・保証人の事前求償権の性質は費用前払請求権かという議論がある。 (イ) 費用の利息付償還義務(650条1項)
(ウ) 代弁済ないし担保提供義務(650条2項;間接代理の場合)
・代弁済請求権は通常の金銭債権と目的を異にし相殺の対象にならない(最判昭和 47年12月22日民集26巻10号1991頁)。
(エ) 損害賠償義務(650条3項)-無過失責任とされている
②特約による報酬支払義務(648条1項)
・黙示の合意・慣習や商512条等によっても特約認定がなされうる。〔判〕五五、83
・報酬額には業界標準や法律上の上限(弁護士報酬。xxx46条;3%+6万)
・後払い原則(同条2項)、途中終了の場合の割合的報酬(同条3項)。
※不動産仲介契約は請負的要素も強く、仲介により売買契約等が成立しないと報酬は請求できない。この場合も含め報酬請求権の確保は130条(類推)による
(〔判〕 最判昭和45年10月22日民集24巻11号1599頁)。
(3) 委任契約による代理権の発生
★代理権(外部的な効果帰属)と委任(内部関係)は別問題。委任契約でも代理権を伴わないものがある一方、委任契約以外でも代理権が発生しうる。委任契約の有効無効と代理行為の効果とは必ずしも直結しない。無因構成や表見代理。
4 委任契約の終了
(1) 任意解除権=無理由解約権(+損害賠償義務。651条)
★委任は当事者の信頼関係を基礎とするため、解約自由が原則で、委任者側に解約につきやむを得ない事由があれば、相手方保護のための損害賠償責任も生じない。
★解約権を制約する構成がいろいろと考案されているが、この場合でも受任者の債務不履行などやむを得ない事情があれば解除できる。解除権制限の類型的な詰めが課題。x xxによる解除権放棄、ロ 受任者の利益でもある場合、ハ 無償委任限定説
〔判〕
五四、82(登記手続委任の双方性)、<24>、<25>、85、86(受任者の利益)
←→五六、84(解約自由の原則の方を重視)
(2) 特別終了原因(653条)
・委任者または受任者の死亡、破産、受任者の禁治産宣告
〔判〕 最判平4年9月22日金法1358号55頁(死後も存続する特約。要式行為たる遺言との関係が問題となりうる)。
【事務管理】
Case 41 ①夫Xの浪費癖に手を焼いた内縁の妻Yは、A銀行にあったXの預金を無断で解約し、それを使ってY名義で株式を買ったところ、この株式は数年後には2倍に値上がりした。Yと別れたXが、これに気づいてA銀行に、預金引出は無効であるとして、重ねて払戻を請求した。この請求は認められるか。
②XがA銀行への請求をあきらめ、Yに株券の引渡を求めたところ、Yは株式の値上がり分は自分の投資の才覚によるもので返還の必要はないという。どうなるか。
③①で、株券がZ証券会社に預託してあるとすると、XはZに対して直接に引渡を請求できるか。証券会社に対して手数料債務が残っている場合にはどうなるか。
1 法的性質
★契約によらない他人の事務処理の後始末。法は、原則として他人の権利領域への干渉を違法とするので、事務管理の第一の意味は干渉を例外的に適法化する点にあり、次いで、管理継続義務や管理費用の償還によって当事者関係を調整する。積極的な事務処理義務・報酬請求権は原則として発生しない。
2 事務管理の成立要件
①他人の事務の管理(事務の他人性)
・客観的に見て他人の事務に当たる場合でなくてもよい(通説)。
・法律行為・事実行為を問わず、処分行為までを含む場合がある。
②他人のためにする意思(事務管理意思・利他的意思)
・自己の利益のためにする意思が併存しても良い(通説)。
③事務処理義務の不存在
←法律又は契約によって義務が存在すれば事務管理とする必要がない。
義務を超えた行為も事務管理 例 連帯債務者の一人の負担部分を超える弁済
④本人の利益や意思に反することが明らかでないこと(697条2項、700条但書)
3 事務管理の効果
(1) 事務管理者と本人の間の効果
①干渉の違法性阻却=正当化。もっとも、債務不履行責任は別途生じうる。
②事務管理者の債務の発生
・本人の利益に最適の方法での意思に従った事務処理債務(697条)
通常:善管注意義務。例外:緊急事務管理の場合の責任軽減(698条)。
・事務処理開始通知義務(699条)、事務処理継続/中止義務(700条)
★受任者に準じる義務と責任(状況報告・結果引渡権利移転義務、金銭消費の責任)
③本人の債務の発生
・有益費又は現存利益の償還債務・代弁済債務(702条)
☆管理に際して事務管理者が被った損害を有益費に含めるべきか。
★報酬支払債務は(原則として)ない。例外 遺失物法4条など。
社会通念上、当該状況のもとでは事務管理の引受が有償でしか期待しえないような場合として、報酬請求権を認めるべき(xxxx『事務管理・不当利得』35頁)か。
(2) 本人と第三者(法律行為の相手方)との関係
①非顕名代理の場合:効果不帰属で、代弁済請求権で調整。
顕名代理でも無権代理となり、効果不帰属←→代理権発生説(効果帰属)
②追完・追認によって効果が帰属する。
4 準事務管理
★悪意又は重大な過失によって他人の権利を無断で行使して収益をあげた場合、その収益を剥奪するため、利他的意思の要件が欠けていても事務管理の規定を類推して結果の引渡義務を認める解釈が有力である。ドイツ民法687条2項はxxを置く。
←問題状況:特許法102条1項のような損害推定規定がないと、不法行為・不当利得では損害ないし損失要件が充たされない。制裁的損害賠償は日本法では認められていない。他に問屋の介入権(商41条2項、74条2項)の類推説などがある。