Contract
地方公共団体の
入札契約適正化に向けた取組
たか ぎ
国土交通省 不動産・建設経済局 建設業課 入札制度企画指導室
xx
xxxx
敬央
1. はじめに
近年,建設業の担い手の減少,新規事業からメンテナンス分野への市場の拡大,また頻発する災害や技術的難易度の高い工事への対応,ICT の活用による生産性のxxx,公共工事を取り巻く環境や発注者に求められるニーズは刻々と変化するとともに多様化している。また,我が国の建設業界の潜在的な技術力は高い水準にあることから,公共工事の品質確保を促進するためには,民間企業が有する高い技術力を有効に活用することも必要である。
公共工事の品質確保のためには,発注者が,担い手の中長期的な育成及び確保に配慮しつつ,工事の性格や地域の実情等に応じた適切な入札契約
方式を選択すること,入札及び契約の適正化を図ることが必要である。これらは地方公共団体を含めた全ての公共発注者が取り組むべき課題である。
2. 地方公共団体の入札契約制度を取り巻く課題
公共工事を円滑に推進するためには,その特性に応じて課題を解決するために必要なタイミングで適切な入札契約方式を導入する,関係者間の役割とリスクの分担を契約図書として準備する,入札契約手続きを適正に実施するなど,事業推進を図る体制や仕組みづくりを行うことが必要となる。
しかし,全国の地方公共団体に目を向けると,技術職員の減少や大規模事業のノウハウ不足等の要因により,多様な事業ニーズへの対応に当たり
図- 1 地方公共団体の工事発注件数
(出典)令和 4 年度入契調査(国土交通省・総務省・財務省),令和 4 年地方公共団体定員管理調査(総務省)
必ずしも十分な体制ではない状況が見受けられる。特に小規模な市町村など地域の公共発注者においては,都道府県等に比べて発注量は相対的に少ないものの,職員の体制上の制約もあり,技術職員 1 人当たりの発注件数が多く,事務負担が大きいといえる(図- 1)。
3. 地方公共団体の入札契約適正化の取組状況
国土交通省・総務省・財務省では,「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」に基づき,毎年度,公共工事の発注者による入札契約の適正化の取組状況を調査し,結果を公表している(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxx/xxxxx_ fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00168.html)。
本稿では,公表資料のうち地方公共団体の取組状況の概要を紹介する。
⑴ ダンピング対策
低入札価格調査基準価格・最低制限価格の算定式については,標準となる中央公契連モデルが令和 4 年に改定されたところである。都道府県では,全ての団体で最新の令和 4 年中央公契連モデル相当(以上)の水準で運用されているが,市区町村では,算定式の設定水準が確認できる団体のうち令和 4 年中央公契連モデル相当(以上)を採用している団体は約半数にとどまる(図- 2)。
⑵ 工期の設定に当たっての休日の考慮
工期の設定に当たって休日(週休 2 日,祝日,年末年始,xx休暇)を考慮している団体は,都道府県・指定都市では 9 割超だが,市区町村では 5 割未満にとどまる(図- 3)。
図- 3 工期の設定に当たっての休日の考慮
⑶ 週休 2 日工事等の実施
週休 2 日工事又は週休 2 日交替制工事を実施している団体は,都道府県・指定都市では全てだが,市区町村では 2 割未満にとどまる(図- 4)。
図- 4 週休 2 日工事等の実施
⑷ スライド条項の運用基準の策定
単品スライド条項やインフレスライド条項の運用基準を策定している団体は,都道府県・指定都市ではほぼ全てだが,市区町村では約 3 割にとど
図- 2 ダンピング対策 図- 5 スライド条項の運用基準の策定
まる(図- 5)。
4. 「入札契約改善推進事業」の取組
国土交通省では,地方公共団体における多様な入札契約方式の導入・活用を促進するため,平成 26 年度から「入札契約改善推進事業」(平成 29
年度までは「多様な入札契約方式モデル事業」として実施)により,地方公共団体が抱える入札契約制度の課題解決に向けて支援を行ってきた(表
- 1)。
具体的には,応募のあった地方公共団体に対して,国土交通省が専門的知見を有する支援事業者を派遣し,事業における課題の抽出や入札契約方式の比較,あるいは採用する入札契約方式等にお
表- 1 入札契約改善推進事業による支援事業の一覧
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いて必要となる諸手続きの支援等を行うことにより,入札契約制度の改善を推進し,それらの成果を他の地方公共団体に展開することを目的として実施してきた。
令和 4 年度は以下の 3 団体の支援を実施した。
⑴ 中富良野小・中学校改築事業,入札契約制度改善(北海道中富良野町)
学校施設の老朽化対策として小・中学校が一体
となる新校舎の建築工事であり,数十年に一度の学校改築工事のため,発注者側のノウハウや技術力の不足が課題であった。また,地元企業の活用・発展を図った上で工事品質を確保し,透明性・xx性を確保した入札契約方式の選定,及び入札契約制度の適正化に対する支援を必要としていた。支援内容としては,勉強会を開催してさまざま な工事発注方式について利点・留意点を含めた情報提供を行い,地元建設業者へのアンケート調査を実施して市場環境を分析した。また,不調不落防止等を目的として,これまでの積算実績や資材価格等の高騰を踏まえた設計概算額への助言,コスト管理表を活用した手戻りのない設計スケジュールや工事実績データを分析した適切な参加資格要件の提案,工事監理における品質確保上の留意点の助言,それらを踏まえた工事発注資料作成の
支援などを行った。
その結果,支援終了後,工事が公告され受注者が決定し,現在,施工中である。
入札契約適正化については,町の取組状況を見える化し,課題に対する助言や他地方公共団体の取組事例などの資料提供を行った結果,町が優先順位を付けて改善に取り組んでいる。
⑵ 用途廃止公共建築物解体事業(新潟県柏崎市)施設の老朽化等により,8 年間で 31 棟の公共 施設の用途廃止,建築物解体が予定されている。限られた建築技術職員での対応や積雪による工事期間の制約などがある中で,適切な入札契約方式の選定,コスト縮減方策の標準化等により,効率的な業務執行が必要とされていた。また,工事費
の縮減が求められる一方,解体工事中の安全確保や廃棄物の適切な処理が必要であり,適正な解体工事費の算出についても支援を必要としていた。支援内容としては,市の発注プロセスについて は見える化することで妥当性を確認した。次に市の解体工事実績の分析と建設業者・解体業者へのアンケート調査を実施した結果,市の積算金額が妥当であることを確認した。また,産廃処分先と受け入れ状況も確認し,今後,市発注の解体工事で発生する産廃が受け入れ可能であることを確認した。さらに,解体工事の概略予算・工期を算出できるプログラム及び入札契約方式の選定フロー等から成る標準的なモデル案を作成し,それらを
基にした今後の発注計画案も提示した。
今後,市は標準的なモデル案を活用して,効率 的・計画的な解体工事の発注に努める予定である。
⑶ 津南町立ひまわり保育園増築事業(新潟県津南町)
町内 3 保育園の統廃合による既存保育園の増改
築工事を町が発注したが 2 度不落となり,不落原因の詳細分析,工事費の検証及び事業スケジュールの再検討が必要であったが,技術職員及び事業ノウハウの不足が課題であり,支援を必要としていた。
支援内容としては,まず町が設定した予定価格や設計経緯等を詳細に分析した結果,不落の直接的な原因は資材価格の高騰等を考慮した積算となっていなかったことだが,その背景として発注者側が設計や積算の内容を確認する時間や体制の不足が要因であることが判明した。また,現時点での適正な予定価格を検証した結果,延床面積の削減を行わないと現予算では実現不可能であることが判明し,複数案を比較検討した結果,基本設計からやり直す方針となった。
そこで,複数の入札契約方式について新たな事業スケジュールを比較検討し,また県内の設計事務所及び建設事業者へのアンケート調査を実施して市場環境の分析を行った結果,設計施工分離発注方式で事業を進める方針となった。次年度以降
の事業推進に向けて,事業着手から竣工までの事業スケジュールに町内の役割分担や事業費の推移管理を加えた発注ロードマップを提供した。
また,発注者体制の補完が必要と考えられたことからCM(コンストラクション・マネジメント)方式の導入を提案し,見積徴収や公募資料案の提供などの支援を行った。
現在,再設計などの実施に向けて,町が関係者との合意形成を進めているところである。
(参考)令和 4 年度入札契約改善推進事業報告会
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxxxxxxxx/xxxxx/ content/001598947.pdf)
5. 今年度からの新たな取組
(ハンズオン支援)
これまで実施してきた入札契約改善推進事業に加えて,特に市町村における入札契約適正化の取組をより一層推進するため,令和 5 年度より「ハンズオン支援事業」を新たに実施している。
具体的には,国土交通省が専門的知見を有する支援事業者と共に都道府県と連携して管内の市区
町村を対象に複数回の勉強会を開催し,入札契約適正化について他地方公共団体の取組事例の紹介や質疑回答を行うことで,市区町村ごとの入札契約適正化の取組を直接支援するものである(図- 6)。
令和 5 年度は茨城県,xx県,岐阜県の市町村を対象に事業を実施しており,次年度以降も他の都道府県を窓口として取組を継続していく予定である。
6. おわりに
地方公共団体による公共工事の品質確保に向けて,入札契約改善推進事業による個別事業の支援及び水平展開を継続し,ハンズオン支援事業により各地方公共団体の入札契約適正化の取組をより一層推進していく所存である。
これらの取組により地方公共団体の公共工事が円滑に進むことで,良質な市民サービスが提供され,また建設業の担い手が中長期的に育成及び確保されることを期待して,本稿を締めくくる。
図- 6 ハンズオン支援事業の概要