Q1 Q2 Q3 Q4 Q5
第14回 契約書の作り方
~秘密保持契約書~
xxxx
[弁護士]xx法律事務所
平成17年に「個人情報保護に関する法律」が全面的に施行されたのを契機に,「情報」に対する意識に変化が生じ,企業間でも秘密情報の取扱に関する契約(秘密保持契約)を定めることが多くなりました。そこで,今回は,標準的な秘密保持契約書をもとに,「契約書」の作 方を学びます
Q1
秘密保持契約とは? ※1
秘密保持契約は,会社の営業上の機密事項やノウハウなどの秘密情報を,取引相手等の第三者に開示するに際して,その取扱について定めるために締結されます。一方的に情報を開示する場合に限らず,相互に開示し合う場合もあ ます
「秘密情報」が何を指すのかという「定義」をはじめとして,「秘密情報」を使用できる範囲,取扱方法,契約に違反した場合の効果などが定められます
Q2
タイトルはどのように
決定すればよいのか? ※2
今回は「秘密保持契約書」というタイトルが付けられていますが,たとえタイトルがなくても契約書が無効となるものではありません。つまり,契約書を作成する場合,そのタイトルは
必須ではありませんが,契約書を管理する上では,内容を明解に示すタイトルを付けるのがよいでしょう。適当なタイトルが見当たらない場合は,「合意書」や「確認書」などでも問題あ
ません
Q3
契約当事者の順序は? 3
契約書に記載する当事者の順序に決まりはありません。ただ,契約書では,「甲」「乙」「丙といった表記をすることが多いため,取引上の地位に優劣がある場合は,優位にある当事者を最初に記載して「甲」と表記することが多いように思われます。各条項内では,「甲」「乙」「丙という表記がなされるため,当事者の入れ替えなどで表記を変更すると,契約書全体に影響を及ぼすことになりますから,注意が必要です
Q4
当事者がいずれも秘密情報を開示する場合の記載は? 4
業務提携や共同開発など,相互に情報を開示し合う場合は,「当事者の一方が他方に開示する(秘密情報)」などと記載します
Q5
秘密情報の定義は? 5
何が秘密情報に当たるのかが理解できるよう,可能な限り定義を明確に規定しておきま
JMS経営教育 180 58
●秘密保持契約書の例
秘密保持契約※1書※2
○○○○株式会社(以下「甲」という。)※3と,○○
○○株式会社(以下「乙」という。)とは,○○○○(以下「本件取引」という。)のため,甲が乙に対し開示する※4秘密情報の取扱に関し,次のとおり契約を締結する。
(定義)※5
第1条 本契約において秘密情報とは,書面・口頭・その他方法を問わず,甲が乙に秘密情報であることを表明した上で開示した甲の業務上の一切の知識及び情報をいう。但し,乙につき次の各号の一に該当するものは除外する。
(1)甲より開示を受けた時点において既に公知であったもの
(2)甲より開示を受けた後に乙の故意・過失によらず公知となったもの
(3)甲より開示を受ける前に乙が正当な手段により自ら知得し,又は秘密保持義務を負っていない第三者より正当な手段により入手したもの
(秘密保持義務)
第2条 乙は,事前に甲から書面による承諾を得た場合以外は,秘密情報を第三者に開示もしくは漏洩してはならないものとする。但し,裁判所からの命令,その他法令に基づき開示が義務付けられる場合は,この限りではない。
(使用目的)
第3条 乙は,本契約により開示される秘密情報を本件取引の目的のためにのみ使用し,その他の目的のためには一切使用してはならないものとする。
(開示の範囲)※6
第4x xは,秘密情報を,乙の役員又は従業員であって本件取引に従事し当該秘密情報を知る必要がある者に限り,その必要な範囲内でのみ開示するものとする。但し,乙は,当該役員または従業員に対して本契約に定められた乙の義務と同等の義務を遵守させるものとし,かつ,当該役員又は従業員の行為について全責任を負うものとする。
(複写)
第5条 乙は,xによる事前の書面による承諾を得た場合以外は,秘密情報を記載又は記録した文書,図面その他の書類又は磁気的,光学的に記録された媒体等一切について複製又は複写してはならない。
(損害賠償)※7
第6x xxx第2条によって乙から秘密情報の開示を受けた第三者に起因する事由により,秘密情報が漏洩されたことによって甲が損害を被った場合には,乙は甲に対し,その損害を賠償するものとする。但し,本契約に定められた義務の履行につき乙に故意及び過失のなかったことを乙が証明したときはこの限りでない。
(情報の返還または廃棄)
第7条 乙は,本件取引終了後または甲から要請があった場合には,提供された秘密情報及びその複製物を甲の指示に従い返還または廃棄するものとする。
(有効期間)※8
第8条 本契約は,本契約の締結の日から発効し,本件取引が完了し,または中止された後も,3年間は効力を失わない。
(協議解決)※9
第9条 本契約の解釈について疑義が生じた場合又は本契約に規定なき事項については,甲乙誠意をもって協議の上,解決するものとする。
(合意管轄)※10
第10条 本契約に関して生ずる一切の法的紛争の解決は,甲の本店所在地を管轄する裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。
以上のとおり合意したので,本契約の成立を証するために,本書2通を作成し,甲乙記名捺印の上,各1通を保有する。
平成 年 月 日
59 JMS経営教育 180
に秘密情報であることを表明した上で開示した情報」と規定すると,秘密であることを表明せずに開示した情報は,原則として秘密情報として保護されないこととなりますので,「秘密情報」の定義は,開示の態様など実情に合致させるよう配慮してください
Q6
開示が認められる範囲は
どのように設定すべきか? ※6
例えば,M&A(企業の合併や買収)に伴って秘密情報が開示される場合,当該企業の役員や従業員のみならず,デューディリジェンス
(対象企業に関する資産等の調査)に携わる専門家に対しても開示が必要となります。つまり,開示が必要な範囲は,取引や秘密情報開示の目的によって異なりますので,表現の工夫が必要です
Q7
損害賠償の条項は必要か?※7
仮に,損害賠償の条項がなかったとしても契約違反による損害が発生した場合は,民法の規定に基づく損害賠償請求が可能です。ただし,損害賠償義務の条項を設けておくことで契約違反に対する抑止的な効果を期待することができるといえるでしょう。さらに,民法による損害賠償の範囲を狭めたり広げたりすることも可能ですので,損害賠償の条項が設けられている場合はその内容について十分確認した上で,締結に至るべきです
Q8
契約の有効期間とは? 8
秘密保持契約は,それ単独で交わされるというよりも,何らかの取引等に付随するものであることが一般的です。しかしながら,たとえそ
れらの取引等が終了した場合に,秘密保持契約の効力が失われるとすると,秘密情報が第三者に開示されることを認めることにもなりかねません。したがって,少なくとも,一定期間は秘密保持契約の有効性を継続させる必要がある場合が多いと思われます。秘密情報の性質によっては,取引等の終了後も一切開示しないよう明記することもあります
Q9
「協議解決する」という合意はどの程度の意義を有するか?
※9
契約違反等のトラブルが発生した場合,かかる条項を理由に協議がスムーズに行われることは極めてまれであるため,トラブル解決に大きな役割は期待できません。つまり,慣習的に挿入されていることが多い条項であると捉えるべきでしょう
Q10
合意管轄とは? ※10
どの裁判所に訴訟を提起することができるかは,法律に定めがありますが,万が一遠方の裁判所において訴訟が提起されたら,これに応じるためには相応の費用がかかります。そのため,あらかじめ訴訟を提起できる裁判所を定めておくことが多く,合意によって定められたものを「合意管轄」といいます。契約書例では甲が乙に情報を開示する場面であることを踏まえて,「甲の本店所在地を管轄する裁判所」としていますが,例えば,「東京地方裁判所」「大阪地方裁判所」等と裁判所を明記することも多いのです
JMS経営教育 180 60