内部統制は、①経営者の経営理念や基本的経営方針、取締役会や監査役の有する機能、社風や慣行等からなる統制環境、②企業目的に影響を与えるすべての経営リスクを認識し 、その性質を分類し、発生の頻度や影響を評価するリスク評価の機能、③権限や職責の付与及び職務の分掌を含む諸種の統制活動、④必要な情報が関係する組織や責任者に適宜 、適切に伝えられることを確保する情報・伝達の機能、⑤これらの機能の状況が常時監視され、評価され、是正されることを可能とする監視活動、⑥組織目標を達成するために...
分別管理に係る内部統制のフレームワーク(改訂第2版)
1.はじめに
本書は、会員における顧客資産の分別管理の適正な実施を確保するため、金融商品取引法(以下「金商法」という。)第 43 条の2第3項の規定に基づき、同条第1項及び第2項の規定による顧客資産の分別管理の状況について、毎年1回以上定期的に、公認会計士又は監査法人(以下「公認会計士等」という。)の監査を受けるに当たり、会員が顧客資産の分別管理に関する法令(以下「分別管理の法令」という。)を遵守するための方針、手続きの円滑な整備及び運用の指針として、分別管理に係る内部統制のフレームワークを取りまとめたものです。
本フレームワークは、会員における分別管理の法令遵守の体制整備及び運用に関する指針として、また、日本公認会計士協会が公表する「業種別委員会実務指針第 54 号『金融商品取引業者における顧客資産の分別管理の法令遵守に関する保証業務に関する実務指針』(平成 28 年7月 25 日)」に準拠して、公認会計士等が、分別管理の法令遵守に関する保証業務(以下「保証業務」という。)を実施する際の基礎となる確立された一定の基準として機能するものと考えております。
なお、「顧客資産の分別管理のチェック項目、チェックポイント」は、合意された手続業務において利用されていたもので、各会員が自ら統制目標の達成状況について確認するための手続例として有用であり、また、公認会計士等が、保証業務を実施する際の参考資料としても有用であることから、本フレームワークを構成する添付資料3として改めて取りまとめられたものです。
併せて、本フレームワークにおいて、複雑な業務等である、店頭デリバティブ取引、外国市場デリバティブ取引、引受業務、公開買付、累積投資業務、ミニ株、現先取引、レポ取引(有価証券貸借取引)、選択権付債券売買取引、ディーリング業務、非居住者取引、海外の保管機関への預託、外貨預り等業務等に係る記述に網掛けをしています。
後述のように、内部統制については、各会員の置かれた環境や事業の特性及び規模等を踏まえて整備し、運用されるべきものであると考えます。したがって、全ての会員に添付資料1~3の例示のとおりの対応を求めるものではなく、例えば、複雑な業務等を行わない小規模な会員にあっては、自社の特性に応じて適宜、組織体制等を整備いただくとともに、この網掛けを参照いただきながら、該当しない業務を削ってご利用いただくことが考えられます。
2.内部統制の一般的フレームワーク
一般的に、内部統制とは、事業経営の有効性と効率性を高め、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営に係る法規の遵守を促すとともに資産の保全を図ることを目的とし
て企業内部に設けられ、企業を構成する者のすべてによって運用される仕組みと考えられます。
内部統制は、①経営者の経営理念や基本的経営方針、取締役会や監査役の有する機能、社風や慣行等からなる統制環境、②企業目的に影響を与えるすべての経営リスクを認識し、その性質を分類し、発生の頻度や影響を評価するリスク評価の機能、③権限や職責の付与及び職務の分掌を含む諸種の統制活動、④必要な情報が関係する組織や責任者に適宜、適切に伝えられることを確保する情報・伝達の機能、⑤これらの機能の状況が常時監視され、評価され、是正されることを可能とする監視活動、⑥組織目標を達成するために予め定められた適切な方針及び手続を踏まえた業務の実施における組織内外のIT への適切な対応という6つの要素から構成されると考えられております。
これらの内部統制の6つの構成要素は、上述した内部統制の目的を達成するために、必要なものです。これらの6つの構成要素は、相互に影響し合い、経営管理の仕組みに組み込まれて一体となって機能するものであり、企業全体に係るものとして捉えることができます。また、企業の部署別、事業活動別、取引サイクル別等に係るものとして捉えることができます。したがって、ある部門の内部統制が有効であるためには、上述した内部統制目的に関連して6つの構成要素がすべて具備されていることが必要です。
内部統制は、企業目的を達成するために経営者が自ら企業内に設定するものであるため、内部統制の構築と維持の最終責任は経営者にあります。
また、内部統制は、その目的を達成するために整備、運用されるものであるが、内部統制には以下のような固有の限界があることに留意する必要があると考えられます。
• 内部統制担当者の判断の誤りや不注意により内部統制からの逸脱が生じること
• 内部統制を設定した当初は想定していない取引が生じた場合には対応できないこと
• 内部統制担当者等の共謀により内部統制の機能を無効ならしめること
• 内部統制責任者自身が内部統制を無視することによりその機能を無効ならしめること
なお、令和元年(2019 年)12 月 13 日に企業会計審議会により公表された「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」における「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」及び 2019 年6月 12 日に日本公認会計士協会により公表された「監査基準委員会報告書 315『企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価』」に、内部統制の一般的なフレームワークに関するより詳細な説明がなされているため、参考にしてください。なお、これらの基準では財務諸表の虚偽表示に関して重要性の概念が示されていますが、金融商品取引業者は、分別管理の法令に基づき、すべての顧客資産を適正に分別管理する義務を負っており、その義務の履行に重要性の考え方はありません。
3.分別管理の内部統制のフレームワーク
内部統制の一般的フレームワークは上記のとおりですが、分別管理の内部統制とは、事業経営に係る法規のうち、分別管理の法令を遵守することを目的として、企業内部に設けられ、企業構成員のすべてによって運用される仕組みをいいます。
分別管理に係る内部統制の目的は、分別管理の法令の遵守にありますが、より具体的には、下記の統制目標を達成するために設計され維持される仕組みとして整理できると考えられます。
各会員においては、これらの統制目標を達成するために、分別管理に係る内部統制を、具体的にどのような仕組みとして整備し、どのように運用するかについて、各会員の置かれた環境や事業の特性及び規模等を踏まえ、経営者自らが、ここに示した内部統制の機能と役割を効果的に達成し得るように工夫していくべきものと考えております。
添付資料1には、各会員が分別管理に係る内部統制を整備し、運用していく際の統制要点を、「1 全般的事項」、「2 有価証券の分別管理」及び「3 金銭等の分別管理」として統制目標ごとに例示しております。さらにこれらの統制要点のうち、特に会計及び帳簿記録に係るものを「4 会計、帳簿記録」として取りまとめております。
統制要点とは、各統制目標を達成する内部統制を整備し、運用する際の具体的な指針として位置付けられるものであり、また、統制要点例はあくまでも例示として整理したものであり、個別の会員の特性に応じて、適宜、追加・削除又は修正し適用して差し支えありません。
添付資料2には、統制要点例のうち、特に信用取引、発行日取引、市場デリバティブ取引(先物・オプション取引)及び対象有価証券関連店頭デリバティブ取引等に係るものを別記し取りまとめております。
<分別管理に係る内部統制における統制目標>
1 全般的事項
(1) 取締役が分別管理の法令遵守の重要性を認識し、かつ、会社の分別管理の法令遵守の状況を適時に把握していること
(2) 分別管理の法令遵守のための組織体制等が整備され、個々の職員が分別管理の法令、社内規程等を十分理解した上で日々の業務を行っていること
(3) 独立した部署が、分別管理の状況を適切にモニターしていること
2 有価証券の分別管理
2-1 一般的事項
関係役職員が、分別管理の法令で要求されている分別管理すべき顧客有価証券の範囲を、金融商品取引業者の業務及び取扱商品に則して、網羅的に、かつ、正確に把握し
ていること
2-2 自社保管
(1) 分別管理すべき顧客有価証券のうち、自社保管分について、その残高を網羅的に把握した上で、法令で要求されている方法によって保管することにより管理していること(混合保管、混合保管以外)
(2) 金融商品取引業者が占有するすべての有価証券のうち、自社保管の有価証券の帳簿残高の実在性及び分別管理の状況(単純・混合、共有、分散型台帳の別に)が確かめられていること
(3) 現物有価証券が保全されていること
2-3 第三者機関保管
(1) 第三者機関において保管させることにより管理することにつき、顧客の同意を得ていること
(2) 顧客有価証券の保管を行う第三者機関の選定が顧客資産の保全という観点から適切であること
(3) 分別管理すべき顧客有価証券のうち、自社保管以外について、その残高を網羅的に把握した上で、分別管理の法令で要求されている方法によって保管させることにより管理していること(混合保管、混合保管以外)
(4) 金融商品取引業者が占有するすべての有価証券のうち、第三者機関に保管させることにより管理している有価証券の帳簿残高の実在性及び分別管理の状況(単純・混合、共有、分散型台帳の別に)が確かめられていること
2-4 口座管理
(1) 分別管理すべき顧客有価証券のうち、社債、株式等の振替に関する法律(以下「振替法」という。)の規定に基づく振替口座簿において管理するものについて、その残高を網羅的に把握した上で、分別管理の法令で要求されている方法によって管理していること
(2) 金融商品取引業者が占有するすべての有価証券のうち、振替法に基づく振替口座簿において管理している有価証券の帳簿残高の実在性及び分別管理の状況が確かめられていること
3 金銭等の分別管理
3-1 金銭等の分別管理(対象有価証券関連店頭デリバティブ取引等に係るものを除く。)
3-1-1 一般的事項
(1) 関係役職員が、分別管理の法令で要求されている分別管理すべき顧客分別金(対象有価証券関連店頭デリバティブ取引等に係る顧客分別金を除く。以下3-1において同じ。)の範囲を、金融商品取引業者の業務及び取扱商品に則して、網羅的に、
かつ、正確に把握していること
(2) 顧客分別金信託勘定を設定する信託銀行の選定が、顧客資産の保全という観点から適切であること
(3) 顧客分別金信託勘定の設定に係る信託銀行との契約が、分別管理の法令に定められた条項を含んでいること
3-1-2 顧客分別金管理体制
(1) 分別金の算定方法、算定対象が規定され、かつ、算定の基となるデータの記録内容の正確性及び網羅性並びに会計/帳簿記録との整合性が確保されていること
(2) 顧客分別金の合計額としての顧客分別金必要額の算定が、分別管理の法令及び社内規程に準拠して網羅的、かつ、正確になされていること
(3) 顧客分別金信託口座に、分別管理の法令で規定された必要金額が預託されていること
(4) 顧客分別金信託口座への入出金等が分別管理の法令に準拠し、適切な手続の下に行われていること
3-2 金銭等の分別管理(対象有価証券関連店頭デリバティブ取引等に係るものに限
(5) 顧客分別金口座帳簿残高と当該信託銀行の残高とを定期的に照合する手続が存在すること
る。)
3-2-1 一般的事項
(1) 関係役職員が、分別管理の法令で要求されている分別管理すべき顧客分別金(対
象有価証券関連店頭デリバティブ取引等に係る顧客分別金に限る。以下3-2にお
いて同じ。)の範囲を、金融商品取引業者の業務及び取扱商品に則して、網羅的に、
かつ、正確に把握していること
(2) 顧客分別金信託勘定を設定する信託銀行の選定が、顧客資産の保全という観点か
ら適切であること
(3) 顧客分別金信託勘定の設定に係る信託銀行との契約が、分別管理の法令に定めら
れた条項を含んでいること
3-2-2 顧客分別金管理体制
(1) 分別金の算定方法、算定対象が規定され、かつ、算定の基となるデータの記録内
容の正確性及び網羅性並びに会計/帳簿記録との整合性が確保されていること
(2) 顧客分別金の合計額としての顧客分別金必要額の算定が、分別管理の法令及び社
内規程に準拠して網羅的、かつ、正確になされていること
(3) 顧客分別金信託口座に、分別管理の法令で規定された必要金額が預託されている
こと
(4) 顧客分別金信託口座への入出金等が分別管理の法令に準拠し、適切な手続の下に
行われていること
在すること
(5) 顧客分別金口座帳簿残高と当該信託銀行の残高とを定期的に照合する手続が存
4 会計、帳簿記録
4-1 口座開設・受注・約定 - 対顧客
(1) 取引の妥当性(すなわち開始されたすべての顧客取引は実在する相手先との取引であり、適切に承認されていること)を確保すること
(2) すべての取引が入力され、取引処理され、報告されること
(3) 約定された取引が、自己又は顧客、顧客名、口座番号、受注・約定日時、銘柄名、数量、価格、通貨、金額、売り又は買い等の主要な取引情報に関し正確に記録され、取引処理され、報告されること
4-2 約定 - 対市場
(1) 実行された取引が、決済処理及び会計処理のため、漏れなく入力されていること
(2) 実行された取引が、金額、数量、通貨、相手先、日付、銘柄、自己又は顧客等の主要な取引情報に関し正確にかつ適正な勘定に記録されていること
4-3 取引の決済(対顧客、対市場)
(1) 顧客の有価証券及び金銭の移動が、有効な取引に関してのみ行われるか、あるいは適正な顧客の指示に対してのみ行われ、かつ適切に承認されていること
(2) 承認された有価証券及び金銭の移動が、会計処理のため網羅的に、かつ、金額、数量、銘柄、通貨、顧客名、日付、受け又は渡し等の主要な取引情報に関し正確に記録され、適切な勘定に記録されていること
4-4 マスター・データ及び累積データ
(1) マスター・データ(顧客名・口座番号・住所・決済口座等の顧客データ、銘柄データ等)への変更が承認され、網羅的に、かつ、変更内容に関し正確に入力されていること
(2) 売買取引、有価証券及び金銭の受払いに関する入力が、トレーディング商品勘定元帳、顧客勘定元帳、保護預り有価証券明細簿、保管場所別有価証券台帳(金融商品取引業者が占有する有価証券を保管場所別に記録した台帳)等のデータベースに正確に反映されていること
(3) 売買取引、有価証券・金銭の移動及びそれらの修正に関する累積データが、保管場所別有価証券台帳その他帳簿間の関連勘定において整合していること
4-5 資産及び記録に対するアクセス制限
(1) 承認された従業員しか、資産及び会計/帳簿記録(マスター・データ、金銭・有価証券の決済データを含む。)にアクセスできないこと
以 上
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1 この改正は、2021 年 10 月 26 日から施行する。
注 平成 14 年(2002 年)11 月 8 日 制定
平成 23 年(2011 年)3月 16 日 改訂初版平成 26 年(2014 年)4月 22 日 改正
平成 28 年(2016 年)9月 27 日 改正
令和 3 年(2021 年)10 月 26 日 改訂第2版