静岡銀行(頭取 八木 稔)では、SDGs への取り組みの一環として、株式会社遠州米穀(社長 青木 孝)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
2024.6.28
(株)遠州米穀と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(xx xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、株式会社遠州米穀(社長 xx x)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※企業活動が環境・社会・経済のいずれかの側面において与えるインパクトを包括的に分析し、特定されたポジティブインパクトの向上とネガティブインパクトの低減に向けた取り組みを支援する融資
1.「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」契約の概要
(1)契約日/6 月 28 日(金)
(2)融資金額/9 億円
(3)資金使途/設備資金
2.㈱遠州米穀の取り組み
〇同社は 1951 年の設立以来、地域への安定的な米の流通を担うべく、地元磐田市の生産農家のほか、14道県の米穀集荷業者など生産者に近い仕入先を確保し、静岡県民の豊かな食生活を支えています。
〇現在は、売上高の 7 割が精白米等を販売する米穀事業、2 割が小売店が販売するおにぎりなどを製造する炊飯事業が占め、消費者ニーズに対し、柔軟に対応しながら米の需要を喚起するとともに、工場見学を通じた食育活動にも取り組まれています。
今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境面 | ・効率的なエネルギー利用(コージェネレーション設備による電力の地産地消と廃熱利用、地域再エネの推進、空調設備の効率的な使用) ・廃棄物の有効活用(ライスインクで印刷された米袋の使用、再利用・リサイクル可能な容器の使用) |
|
社会面 | ・安全安心な商品の生産と良食味米の提供(HACCP 認定による衛生的な生産体制、米品質を低下させない移動精米タンク搬送システムなど) ・多様な人材の活躍(障がい者雇用の実現、女性の活躍推進など) |
|
経済面 | ・持続可能性を高める事業展開(炊飯事業の開始および炊飯センターの稼働、冷凍食品製造への参画) |
3.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】㈱遠州米穀の概要
所 在 地 | xxxxxxxxx 0000 | 設 立 | 1951 年 |
従業員 | 204 名 | 売 上 高 | 71.8 億円(2023 年 3 月期) |
※同社には、静岡銀行のESG 地域金融促進事業における「共通 KPI」策定の検討に協力いただき、今回のポジティブ・インパクト・ファイナンスでの KPI 設定においても「共通 KPI」を活用して設定しました。
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:株式会社遠州米穀
2024 年6月 28 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
<要約> 3
企業概要 4
1. 事業概要 6
1-1 事業概況 6
1-2 経営理念 8
1-3 業界動向 9
1-4 地域課題との関連性 10
2. サステナビリティ活動 11
2-1 環境面での活動 11
2-2 社会面での活動 13
2-3 経済面での活動 19
3. 包括的分析 20
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析 20
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定 20
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性 21
3-4 インパクトエリア/トピックの特定方法 21
4. KPI の設定 22
4-1 環境面 22
4-2 社会面 24
4-3 経済面 26
5. 地域経済に与える波及効果の測定 27
6. マネジメント体制 27
7. モニタリングの頻度と方法 27
静岡経済研究所は、静岡銀行が、 株式会社遠州米穀(以下、遠州米穀)に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、遠州米穀の企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響及びネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」及び ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
<要約>
遠州米穀は、1951 年に遠州地域への米の安定的な流通を担うべく、解散した食糧配給公団の静岡支局に代わり設立された。地元磐田市の生産農家を中心に 200 先以上の農家と、全国の米の産地 14 道県の米穀集荷業者など、生産者に近い仕入先を多く確保して美味しく安心して食べられる米を仕入れて、静岡県内の食卓に届ける卸売業者である。
同社の事業活動は、環境面においては、効率的なエネルギー利用や再エネ活用による気候変動対策のほか、廃棄物の有効活用や無洗米加工によるとぎ汁の抑制が環境負荷の低減に寄与し ている。社会面では、遠州地域への米の安定供給や、安全安心な食料の生産、良食味米の提供 に取り組むとともに、地域への米飯文化の普及や食育といった活動を行い貢献している。また、若手 の育成や外部研修の活用に加え、多様な人材の活躍にも取り組む。女性の活躍推進や負担の重 い作業の自動化を図る設備投資で働きやすい環境の整備にも注力するほか、安全な職場環境の整備も欠かさず行っている。経済面においては、県内外に広がる取引先と信頼関係を構築するほか、炊飯事業における新たな事業展開は、同社の持続可能性を高める取組みである。
遠州米穀のサステナビリティ活動等を分析した結果、ポジティブ面では「食料」、「教育」、「文化と伝統」、「雇用」、「セクターの多様性」、「零細・中小企業の繁栄」が、ネガティブ面では「健康および安全性」、「社会的保護」、「ジェンダー平等」、「年齢差別」、「その他の社会的弱者」、「気候の安定性」、「水域」、「資源強度」、「廃棄物」がインパクトエリア/トピックとして特定され、そのうち、環 境・社会・経済に一定の影響が想定され、遠州米穀の経営の持続性を高める 5 つの活動について、 KPI が設定された。
今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要
金額 | 900,000,000 円 |
資金使途 | 設備資金 |
モニタリング期間 | 7 年 6 カ月 |
企業概要
企業名 | 株式会社遠州米穀 |
所在地 | xxxxxxxxx 0000 |
従業員数 | 204 名(2024.3 月時点) |
資本金 | 3,000 万円 |
業種 | 卸売業 |
取扱品目 | 米穀類、米飯、一般食品他 |
関連会社 | 自笑亭株式会社(以下、自笑亭) 東海食糧株式会社(以下、東海食糧) |
認証など | 精米 HACCP 認定(一般社団法人日本精米工業会)炊飯 HACCP 認定(公益社団法人日本炊飯協会) |
主要取引先 | <仕入先> 全国農業組合連合会、全国主食集荷協同組合連合会、日清製粉株式会社、日東富士製粉株式会社、 株式会社 Mizkan 等 <販売先> スーパー、米穀店、外食産業、製麺所 等 |
沿革 | 1951 年 会社創立(旧社名:遠州米穀卸株式会社) 1975 年 xxxxセンターを竣工 2001 年 株式会社遠州米穀へ社名変更無洗米製造販売開始 2009 年 炊飯工場竣工、炊飯事業を開始炊飯 HACCP 認定取得 2010 年 磐田市xxxに現社屋を竣工 2018 年 xx x代表取締役社⾧ 就任精米 HACCP 認定取得 2020 年 xxx第2倉庫建設 2022 年 自笑亭 グループ会社化 東海食糧 グループ会社化 コージェネレーション設備 稼働 2023 年 炊飯工場を増築、炊飯センターへ改称 |
(2024 年6月 28 日現在)
1. 事業概要
1-1 事業概況
遠州米穀は 1951 年に設立され、解散した食糧配給公団の静岡支局に代わり遠州地域への
米の安定的な流通を担ってきた。現在では、地元磐田市の生産農家を中心に 200 先以上の農家と、全国の米の産地 14 道県の米穀集荷業者など、生産者に近い仕入先を確保して美味しく安心して食べられる米を仕入れ、静岡県内の食卓に届ける卸売業者となっている。
同社は、玄米や精白米を販売する米穀事業と、スーパー等の小売店が販売するご飯やおにぎりを製造する炊飯事業を営んでおり、地元住民の豊かな食生活を支えている。販売先は静岡県内のローカルストアが中心で、店頭に陳列される精白米のシェアが6~7割に達する店舗もある。また、売上高のおよそ 7 割が米穀事業、2 割が炊飯事業、残りがその他の事業から構成されている。近年では、消費者の食の多様化や簡便化ニーズの高まりに伴い、炊飯事業を拡大させている。
《遠州米穀の取り扱う商品例(一部抜粋)》
静岡県産米
◎
加工品
資料:同社 HP をもとに当所作成
《精米工場及び炊飯センターでの工程》
資料:同社 HP をもとに当所作成
1-2 経営理念
遠州米穀は、「お届けするのは『元気、笑顔、豊かさ』をおいしい生活へ」を経営理念に掲げ、「基本は、安全、安心な『食』をお届けすることです。」という考えのもと、安全安心な米であることを基本に、食べることに喜びを感じることができるおいしい米を食卓に届けるため、会社一体となり事業活動を行っている。
また、経営理念を実現していくための経営方針及び経営ビジョンを策定しており、従業員が普段から業務活動を行う上での指針としている。
《経営方針》
1.基本はxxに変化を捉え的確に対応する
2.常にお客さまを第一に考え、安全・安心の美味しいお米と笑顔のあるサービスをお届けします
3.社員満足度(ES)を目指し創造xxxで挑戦するxxのある人材を育てます
4.人間性を尊重し風通しの良い魅力ある職場作りで活性化している会社を目指す
5.会社の発展によって、社会に貢献する
《経営ビジョン》
1.1人ひとりが、自ら高め創造性で自由豊満な、活力ある集団を目指します
2.よき企業人として、責任を自覚し社会の調和を図りその発展に貢献します
3.より高いクオリティーを追求する会社であり続けます
4.適切な投資をし、リスクを背負って実行できる会社であり続けます
5.透明度が高い、新しい価値を創造する会社であり続けます
1-3 業界動向
【需要に応じた米の生産】
米は、日本において主食であり、最も重要な農作物として国が政策によって需給及び価格の安定を図ってきた。これまでの米政策をみると、食料不足を背景として 1942 年に食糧管理法が制定すると、米の価格と流通は政府の直接統制下に置かれ、米の増産に向けた政策が推進された。 1960 年代には、高収量品種や稲作の機械化、土地改良などで米生産量が飛躍的に増加したが、
米の消費量は 1963 年をピークに減少傾向に転じており、過剰問題が発生し政府は過剰在庫の処理に迫られた。そこで、1971 年から本格的な生産調整対策が始まり、減反政策が推進されることとなり、2018 年に廃止されるまで続けられた。2018 年以降は、「国が策定する米穀の需給の見通し等の情報を踏まえつつ、生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産に取り組む」ことを基本方針を示しており、民間が需要を見極め生産することが可能となった。
ただし、米の需要見通しは下降傾向にあり、令和5/6年及び令和6/7年の1人当たり消費量は約 54kg と推計されており、ピーク時の約 118kg から半減しており、生産量も需要に応じて調整されていくことが想定される。
資料:農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(令和6年3月)」
そこで遠州米穀は、地域への米飯文化の普及と食育活動を通じ、米の需要を喚起するとともに、炊飯事業で消費者のニーズに応えた米を使用した食品加工を行うことで消費量拡大を図っている。
1-4 地域課題との関連性
【生産農家の減少及び高齢化】
磐田市は、都市部と農村部が均衡ある発展を遂げており、2021 年の農業産出額は約 87 億円と静岡県内市町村で6位の規模となっており、そのうち米の産出額は約 19 億円で、浜松市の
約 21 億に次ぐ規模を誇る。このように農業が発展している地域であるが、生産農家数は減少している。2015 年の 2,731 世帯から、2020 年には 2,169 世帯と 5 年で約 500 世帯(5年前比
▲20.6%)減少している。これは全国(同▲18.9%)や静岡県(同▲17.0%)の減少幅よりも大きく、他地域に比べて急速に離農が進んでいる。さらに、農産物を販売して収入を得る販売農家の減少においては、磐田市は 2015 年から 2020 年にかけて▲32.8%減少した。
また、農業経営体をみても、経営主の高齢化が進行しており、70 歳以上の経営主で半数を超えていることに加え、後継者を確保できていない経営体が8割もいる。
遠州米穀では、遠州地域の米農家を毎年訪問しており、情報交換を活発に行うことで、米農家が抱える課題の共有し、存続に向けて可能な限り対応している。
(単位:世帯)
全国 | 静岡県 | 磐田市 | ||||
総農家数 | 販売農家数 | 総農家数 | 販売農家数 | 総農家数 | 販売農家数 | |
2020 年 | 1,747,079 | 1,027,892 | 50,736 | 24,426 | 2,169 | 991 |
2015 年 | 2,155,082 | 1,329,591 | 61,093 | 31,864 | 2,731 | 1,474 |
注)販売農家:経営耕地面積 30a 以上、または調査期間前 1 年間の農産物販売金額 50 万円以上の農家
資料:農林水産省「農林業センサス」
2. サステナビリティ活動
2-1 環境面での活動
(1)効率的なエネルギー利用
遠州米穀は、2022 年 7 月から都市ガスを燃料とするコージェネレーション設備を導入、効率的なエネルギーの利用を実現した。このコージェネレーション設備は、電力の使用場所で発電し、発電 で生じた廃熱を回収して、蒸気や温水として再利用することを可能とする。同社では、発電した電力を事務所や炊飯センターで使用するとともに、廃熱を炊飯センターに供給して、生産ラインで使用 する蒸気や工場内に温水循環設備を配置して、シンクでの温水浄水に利用している。この取組み によって、設備導入前と比べて年間の CO₂排出量を約 330t、総排出量のおよそ 16%を削減した。
なお、この設備は同社の使用電力量の約6割を発電するが、残り4割についても、地域の再生可能エネルギーを積極的に調達する電気事業者であるスマートエナジー磐田㈱から電力供給を受け、環境負荷の低減に寄与している。
このほか、炊飯センターの空調設備では、フィルターの目詰まりによる機能低下を防止するため、
3カ月ごとのフィルター交換や、遠隔モニターでの稼働状況チェックを実施することでエネルギー浪費を防止している。
(2)廃棄物の有効活用
同社では、精米工場と炊飯センターのそれぞれで排出される廃棄物の有効活用に取り組んでいる。まず、精米工場では、仕入れた玄米を精米加工する過程で、およそ6%が米ぬかとして取り除かれる。そのため、同社では年間 1,440t 程の米ぬかが発生することになるが、全量を有価物として米油の製造会社に販売することで廃棄物になることを防いでいる。米ぬかは含油量が約15~21%あり、こめ油を搾油できるため、なたねや大豆、パーム油は油脂原料の多くが輸入される中、貴重な国産原料として活用される。また、精製過程で生じる脱脂ぬかや脂肪酸なども飼料や肥料、せっけん等として可能な限り有効活用されている。
次に、より良い食味を実現するため米の選別も行う。除去される米は、加工時に割れた砕粒や色味が良くない被害粒等があるが、これらについては専門業者に販売し、米菓や米粉といった触感や見た目を要さない加工食品の原料として菓子メーカー等へ渡っており、廃棄物として処理されることはない。
なお、同社が取り扱う無洗米は、精白米の表面に付着する肌ぬかを取り除くことで家庭での洗米を不要とし、水質汚染につながるとぎ汁の発生を防ぐことができる。同社では、ライスビーズによる無洗米加工法を採用しており、加工過程においても排水が発生しない。
次に、炊飯センターでは、食品ロスの削減に取り組む。同社は、米飯やおにぎり、弁当等といった日配品を受注生産しており、取引先の商品種類ごとに炊き方、品種、調味料が異なるため、段取り替えの際に、どうしても廃棄食材が発生してしまう。現在は、近隣の養豚場に有償で引き渡してお
り、乾燥させて飼料として使用してもらっているが、今後は、新たに始める冷凍食品事業やグループ会社で駅弁の製造を行う自笑亭で、食材として活用することを検討している。
このほか、荷受け時の紙製の米袋は古紙として資源回収に出すほか、再利用できるフレコン袋を使用して、廃棄物が生じないように配慮しているほか、小売店に卸す製品の米袋へのプリントは、米ぬか油が原料となっているライスインキを使用している。さらに、炊飯センターでも同様に、米飯等は 同社が備えている繰り返し使用する保温コンテナで納品し、しゃり玉の容器はリサイクルできる PP 樹脂製トレーの採用を検討している。今後は、小売店向けの製品に使用する米袋で、耐久性や実用性の面について十分考慮し、環境配慮素材のものへの代替を進めていく方針である。
3段階のやさしい精米が行える精米機「ミルマスター」(左)と取り除かれた米ぬか(右)
資料:同社提供
2-2 社会面での活動
(1)遠州地域への安定供給
遠州米穀は、食の中心となる米を遠州地域の食卓に安定して届けるため、地元磐田市を始め幅広い地域から仕入を行う。取り扱うのは新潟県や北海道、xx県、山形県等の全国の産地から調達した米や、浜松市から御前崎市にかけて主に静岡県西部地区を中心に生産される遠州産の米であるが、仕入前には、必ず現地の農家を訪れて生育状況の確認や病害対策等の情報交換を行っている。このような取組みにより、全国に広がる調達網を確立、天候不順による不作等のリスクを分散し、仕入れる米の量や品質の安定化を実現している。加えて、同社では収穫期に1年間の買付をすべて実施することで、変動する米の相対取引価格の影響を最小限に抑え、通年での安定供給を可能としている。
また、販売先も地域に密着しているローカルストアを中心に米を卸すことで、県内全域へと米が届くようにしている。大型小売店だけに取引が偏らないようにすることで、地域への安定供給に支障が生じないようにしている。
このほか、同社では有事に備えた炊飯米の供給体制も構築している。背景には、2018 年に発生した台風 24 号による県西部での大規模停電で、炊飯工場が丸1日稼働できなかった経験がある。同年には磐田市と災害時に米や炊飯米を供給する協定を結んだこと加え、2022 年にはコージェネレーション設備を導入して事業継続性を高めるとともに、締結した協定に近隣の工場や商業施設の帰宅困難者を受け入れる内容を追加した。導入したコージェネレーション設備は、都市ガスの供給を受けて発電を行うもので、このガス供給に使われている中圧導管は地震による地盤変動に耐えられる強度と柔軟性を持つ。災害時でも食糧を安定的に供給できる体制は、南海トラフ巨大地震が想定されている静岡県において、地域への貢献を十分に果たすものである。
(2)多様な人材の活躍
同社は 2018 年以降、人員増強を加速的に進めており、2022 年までに社員を 20 名以上増
員、今後も新たな事業展開を見据え、パート・アルバイトを含めて、さらに従業員を約 10 名増やす方針であることから、多様な人材が活躍できる環境の整備は急務と考え、女性や高齢者、障がい者の活躍推進に取り組む。
1つ目の女性の活躍推進では、女性管理職の登用を実現、2024 年には次⾧職へ昇進しているほか、炊飯部と営業部で女性係⾧が計3名が活躍している。また、子育てや介護等との両立が図れるよう、勤務時間の相談には柔軟に応じていることで、実際に短時間勤務で働く女性が 2 名いるほか、育休中の女性従業員も 1 名いる。このような柔軟な対応によって、炊飯センターでは 73 名中 47 名が女性と、多くの女性従業員が活躍している。
2つ目の高齢者の就労機会では、定年後の継続雇用制度を整備している。同社の定年は 60歳となっているが、従業員本人が希望すれば 65 歳まで嘱託社員として勤務が可能となっている上、 65 歳以降でも本人が希望し、会社が認めた場合は継続的に雇用している。その結果、現在6名
の嘱託社員が在籍している。なお、嘱託社員ではないが最高齢の従業員は 79 歳で、炊飯センターで食品加工に従事しており、年齢に関わらず活躍できる場が用意されている。
最後に、障がい者雇用では、法定雇用率を満たす 3 名の障がい者雇用を実現しており、炊飯センターでの保温コンテナの洗浄補助や、精米工場での袋詰めのピッキング作業といった業務を任せて活躍できるようにサポートしている。
(3)人材教育
会社の持続的な発展には人材教育が欠かせない要素のひとつであるとし、人材育成にも力を入れる。新入社員に対しては、基礎的な社会人マナーから教育、研修のたびに、その内容がきちんと身についているかを確認しながら、繰り返し教えている。業務に関する教育は、現場で先輩社員が XXX による丁寧な指導を行うほか、工場で米に関する専門的な知識を習得させている。なお、入社後の1週間は、入社直後の慌ただしさや特有の疲労に配慮し、会社の規則や雰囲気に慣れてもらう期間としており、しっかりと教育を受けられる体勢ができてから育成を始めていることに加え、およそ
1カ月間は毎日、その日の就業で感じたことをヒアリングしてつまづきにいち早く対処、メンタル面のケアや話しやすい環境作りもしている。
既存社員の育成も実施するが、配属部署や業務経験により必要となるスキルが異なることから、従業員ごとに都度、研修を行ったり、スキルアップが図れる資格取得を推奨したりしている。管理職については、外部研修を活用することで、専門的なマネジメントや財務、労務知識等の習得を実施している。
(4)安全安心な商品の生産と良食味米の提供
安定的な米の供給と同じく、安全安心で品質の良いおいしい米の提供にもこだわる。同社はまず、食の安全を確保する仕組み作りを行うため、精米工場と炊飯センターの両方で HACCP 認定を取得している。炊飯工場にて、2009 年に取得し、静岡県で初めてとなる日本炊飯協会の HACCP認定を受けており、県内で先んじて炊飯食品の衛生管理体制を確立した。商品の製造工程ごとに危険発生要因を分析するとともに、釜の温度や出荷時の金属検出、備品の洗浄といった重要管理点を決め、食の安全を確保しており、これまで食中毒等を発生させたことは一度もない。
精米工場では、2018 年に日本精米工業会の精米 HACCP 認定を取得、異物の混入防止や除去を徹底するとともに、品質の低下を防止している。工場や倉庫への玄米の搬入時は、扉の開閉を最低限に留めることはもちろん、カーテンを取り付け鳥や虫の侵入を防いでいるほか、倉庫にねずみ返しを設けることで害獣の侵入を防止、倉庫内は米の品質を低下させないように温度は 15℃以下を保つようにしている。加工工程では、粗洗機や石抜機によって石等の異物を取り除くほか、精米した後にはロータリーシフターで割れた米やぬかの塊をふるい分けている。その後、95%の精度を持つ色彩選別機を2台使い、虫による被害を受けて変色した被害粒及びガラス等の異物を除去し、袋詰めの前後には金属検出機によるチェックを行うことで、異物や不純物が混じっていない安全な米
の提供を可能にする。今後は、さらなる品質向上を目指し、2021 年 12 月に制定された最新の品質基準である国家規格の精米 JAS 認証を取得する方針である。
異物除去を行う設備(左:粗洗機、中:石抜機、右:色彩選別機)
資料:同社提供
次に、この精米工程では米の品質を低下させないための取組みとして、精米後の米を保管・搬送する大型設備、移動精米タンクによる搬送システムを取り入れている。一般的な米の移動は、常設されたパイプラインを滑走やエアー搬送等で移動させることが多く、米が内壁と衝突したり、擦れることで欠けたり傷ついたりしてしまうが、移動精米タンクによる搬送システムでは、米自体は静止した状態で目的の場所まで運ばれるため、ダメージが最小限に抑えられる。さらに、タンクは密閉され異物混入や害虫・害獣の侵入も防ぐことができ、同社においては併設された炊飯センターへの搬入も外気に触れることなく安全にできる。加えて、タンクごとに米の水分量やアミロース、たんぱく質、脂肪酸度の成分分析を行い、3カ月間保管することで万が一、問題が生じた場合にも備えている。
また、タンクは総数 48 個(容量1t/個)あり、米を産地や搬入日、生産農家ごとに小分けに管理できる等、多品種小ロットの生産に対応できる強みがある。米をタンクごとに管理することでトレーサビリティが容易となるため、原因究明に素早く着手することができている。なお、この搬送システムは、コスト面でのハードルが高いため、同社を含めて国内の精米工場うち3施設にしか導入されていない。
資料:㈱サタケ HP ニュースリリース
さらに、精米加工では、品質の低下につながる米の割れや水分の抜けを防ぐため、研削・摩擦・研米と精米度を 3 つの段階で分けられる設備を使い、通常は 40℃近く上がる温度を約 32℃に抑制し品質を保持している。
資料:同社ホームページ
このほか、米の品位等検査ができる「穀物検査員」の資格を有した人材が7名在籍、米の仕入段階から営業担当者として携わることで、専門的な知識のもと厳しい判断基準に基づき、品質の良い米を見極めた仕入が可能となっている。
(5)地域への米飯文化の普及と食育活動
米の消費量が減少傾向にある中、維持拡大するためには米飯文化の普及や食育活動に取り組むことが必要であるとし、同社では工場見学に力を入れる。これまで磐田市を中心とした近隣の保育園や小中学校、老人会等からの依頼に応じて工場見学を年間3回程実施しており、2019 年には7回程対応した。施設案内だけでなく日本炊飯協会の「ごはんソムリエ」に認定された従業員が米の生産から炊飯方法、食べ方等まで解説しており、少しでも米に興味を持ってもらえるよう取り組み、米の産地である磐田市の文化を伝えている。加えて、2015 年から 2018 年まで毎年、磐田市が開催する「しっぺい感謝祭」に合わせて予約不要の精米工場見学会を実施しており、より多くの人が見学できる機会を設けた。2015 年の実施当初から 1,000 名近くの参加者が来場し、過去には約 2,000 名も来場するなど盛況を博した。今後は、食育を目的として、幼稚園、保育園、小学生、及び保護者や学校給食の先生などを対象に、工場見学を実施する方針である。
また、2024 年1月から、西部地域の希望するこども食堂 16 施設に対して、精白米を毎月最大 300kg 提供する取組みも開始した。現在は、2カ月に1回、協力企業を通じて配送し、地域の小中学生やその親が食事に困ることの無いよう、生活に欠かせない食の分野で貢献している。
(6)働きやすい環境の整備
同社では、従業員が働きやすい環境を整えるための取組みを積極的に行う。まず、ワークライフバランスを実現するため、休暇が取得しやすい環境を実現するため大幅な人員増強を実施している。 2018 年時点では 40 名以下だった正社員数は、現在 66 名まで増員しており、一人当たりの業
務量が軽減された。その結果、残業時間は 10 時間に満たない程度に抑制できている。また、 2020 年度には 112 日だった年間休日を 115 日に、2023 年度には 120 日まで増加させた。そのうえで、有給休暇を年間 12 日以上取得するよう推進し、うち5日間は計画を立てて必ず取得できるようにしていることで、従業員の有休取得率は約 53%を維持している。
次に、負担の重い工程の自動化を図る設備導入にも積極的に取り組む。精米工場では、袋詰めされた精白米を荷積みするロボットパレタイザーを2台配置する。旧工場では作業員が一袋ずつ手積みを行っていたが、同設備を導入したことで 1 台当たり1時間に 1,200 個の米袋を積み上げることができ、4人が丸1日費やす必要のあった肉体的な負担を軽減している。なお、精米工場は炊飯センターに隣接しており、炊飯用の米の搬入は、移動精米タンクのままフォークリフトで運ぶことができる。炊飯センターでは、炊飯ラインが自動化されているほか、生産個数が膨大になるおにぎりや巻きずし、しゃり玉は製造機を完備し、おにぎりでは重さをグラム単位で調整して 7,000~10,000個/日作る負担をなくした。一方、量が多くない商品に関しても、従業員への負担が重いと判断すれば設備投資を怠らない。たとえば、おこわ等は蒸し調理となるため、セイロを段積みにする。下のセイロから調理が完了していくため、蒸し中のセイロを持ち上げ、引き抜くような作業が発生してしまう。同社では、この作業を自動化する機械を導入、負担を軽減した。
このほか、ハラスメント対策も欠かさず実施している。就業規程の服務規律には、各ハラスメントについて明記されており、どのような内容が該当するのかを明確にしていることに加え、総務部が相談窓口になり対応にあたると定めている。また、1on1ミーティングの実施によって、風通しの良い職場環境の醸成に努めている。
1時間に 1,200 個の米袋を積み上げるロボットパレタイザー(左)と正確に荷積みされた精白米(右)
資料:同社提供
(7)安全な職場の整備
同社では、人命に関わるような重大な労災事故はこれまで発生していない。一方で、転倒等による軽微な労災事故は年間で1件程発生してしまうことがある。事故状況や発生要因の確認を徹底し、再発防止策を講じて社内掲示板を通じて従業員全体へ共有するほか、関連部署では上⾧が直接、口頭で注意を促し再発防止に努めている。加えて、事務職以外のすべての従業員に対して、安全靴を支給する等、従業員が安全に作業を行えるように配慮している。
高温になり危険が想定される炊飯工程については、すべて自動化することで安全な作業環境を実現している。具体的には、米の計量から炊き上がり後のほぐし工程まで自動化しており、従業員が米飯を受け取る段階では粗熱が十分取れた状態となっているため、炊飯ラインにそもそも従業員が携わる作業がなく、作業場とは別室に炊飯ラインを設けることで不注意による事故が発生しないようにしている。
このほか、米袋の積上げに制限や決まり事を設けて徹底しており、荷崩れが発生しないように注意しているほか、管理職による月1回の現場の見回り実施や、従業員の緊急時連絡先の定期的な確認及び更新を行っている。
2-3 経済面での活動
(1)県内外に広がる取引先との信頼関係
遠州米穀では、米の産地に直接赴き、生産農家や地域業者と対話することで取引先との厚い信頼関係を醸成している。取引先は、地元磐田市の生産農家を中心とする 200 先以上の農家
と、全国 14 道県の米産地と広範囲に及ぶが、年1回以上は必ず訪問し、顔の見える付き合いを実践して信頼を得ている。たとえば、稲の生育状況を確認し、天候に応じた追肥の必要性や病害虫対策等、その年に各地で見聞きした情報を提供している。
また、仕入時には、同社の想定を上回る収穫量であっても適正価格で全量買取を実施し、生産農家から翌年まで米を持ち越し古米となり価値を落としてしまうリスクを排除している。このような取組みによって、生産農家は安心して米の栽培に専念できるほか、地域業者も仕入れを積極的に行 える。加えて、生産者向け工場見学会を催すことで、同社が引き取った米をどのように丁寧に扱って いるのかを知ってもらう機会を設け、丹精込めて育てた米を任せてもらえる企業として認められている。
(2)川下への展開とエリア拡大による持続可能性の向上
米穀販売を中核事業とする同社は、消費者の食生活の多様化や簡便化ニーズに対応するため、時代に合わせた事業を展開することで持続可能性を高めている。2009 年に開始した炊飯事業は、消費者の簡便化や小売店の負担軽減ニーズを捉え、現在まで拡大を続けており、売上高の 20% を占める事業に成⾧している。今後は、新たに冷凍食品製造に参画する予定である。
また、2022 年 1 月には、商品開発能力や販売チャネル拡大を狙い、駅弁販売を行う自笑亭をグループ会社化、同年6月には、米の消費量増加につながる商品として、おにぎり以上弁当未満をコンセプトにした「おに弁」の開発を行った。さらに、2022 年 3 月には、より多くの消費者の獲得を目指し、東部地域及び神奈川県まで商圏を広げるため東海食糧をグループ会社化しており、今後も持続的な事業展開をしていく方針である。
ご飯を弁当箱に仕立てた新しいコンセプトの商品「おに弁」
資料:PR TIMES「自笑亭㈱ プレスリリース」
3. 包括的分析
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析
「UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツール」を用いて、遠州米穀の卸売事業を中心に、網羅的なインパクト分析を実施した。その結果、ポジティブ・インパクトとして「食料」、「文化と伝統」、
「雇用」、「賃金」、「零細・中小企業の繫栄」が、ネガティブ・インパクトとして「健康および安全性」、
「食料」、「賃金」、「社会的保護」、「気候の安定性」、「水域」、「大気」、「生物種」、「生息地」、
「資源強度」、「廃棄物」が抽出された。
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定
遠州米穀の個別要因を加味して、同社のインパクトエリア/トピックを特定した。その結果、同社のサステナビリティ活動に関連のあるポジティブ・インパクトとして「教育」、「セクターの多様性」を、ネガティブ・インパクトとして「ジェンダー平等」、「年齢差別」、「その他の社会的弱者」を追加した。一方で、ポジティブ・インパクトのうち「賃金」を、ネガティブ・インパクトのうち健康を害する食品の製造がないことから「食料」を、是正すべき不公平な賃金格差がないことから「賃金」を、大気汚染の要因となる排気活動がみられないことから「大気」を、生物の生態系に影響を及ぼす工場建設等はないことなどから「生物種」と「生息地」を削除した。
分析ツールにより抽出された インパクトエリア/トピック | |
ポジティブ | ネガティブ |
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個別要因を加味した インパクトエリア/トピック | |
ポジティブ | ネガティブ |
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<特定されたインパクトエリア/トピック>
インパクト カテゴリー | インパクト エリア | インパクト トピック |
社会 | 人格と人の安全保障 | 紛争 |
現代奴隷 | ||
児童労働 | ||
データプライバシー | ||
自然災害 | ||
健康および安全性 | 健康および安全性 | |
資源とサービスの入手可能 性、アクセス可能性、手ごろさ、品質 | 水 | |
食料 | ||
エネルギー | ||
住居 | ||
健康と衛生 | ||
教育 | ||
移動手段 | ||
情報 | ||
コネクティビティ | ||
文化と伝統 | ||
ファイナンス | ||
生計 | 雇用 | |
賃金 | ||
社会的保護 | ||
平等と正義 | ジェンダー平等 | |
民族・人種平等 | ||
年齢差別 | ||
その他の社会的弱者 | ||
社会経済 | 強固な制度・平和・安定 | 法の支配 |
市民的自由 | ||
健全な経済 | セクターの多様性 | |
零細・中小企業の繁栄 | ||
インフラ | インフラ | |
経済収束 | 経済収束 | |
自然環境 | 気候の安定性 | 気候の安定性 |
生物多様性と生態系 | 水域 | |
大気 | ||
土壌 | ||
生物種 | ||
生息地 | ||
サーキュラリティ | 資源強度 | |
廃棄物 |
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性
遠州米穀のサステナビリティ活動のうち、環境面においては、効率的なエネルギー利用や再エネ活用が、「気候の安定性」(ネガティブの低減)や「資源強度」(ネガティブの低減)に該当し、廃棄物の有効活用や無洗米加工によるとぎ汁の抑制が、「水域」(ネガティブの低減)や「資源強度」
(ネガティブの低減)、「廃棄物」(ネガティブの低減)への貢献が認められる。
社会面においては、遠州地域への米の安定供給が「食料」(ポジティブの増大)に該当し、安全安心な食料の生産と良食味米を提供することは「食料」(ポジティブの増大)や「健康および安全性」(ネガティブの低減)に該当し、地域への米飯文化の普及や食育といった活動が、「食料」
(ポジティブの増大)や「文化と伝統」(ポジティブの増大)への貢献が認められる。また、若手の育成や外部研修の活用は、「教育」(ポジティブの増大)に該当し、多様な人材の採用及び活躍への取り組みは「雇用」(ポジティブの増大)や「社会的保護」(ネガティブの低減)、「ジェンダー平等」(ネガティブの低減)、「年齢差別」(ネガティブの低減)、「その他の社会的弱者」(ネガティブの低減)に資する取組みと評価できる。働きやすい環境の整備に関する取組みや、安全な職場環境の整備に関する取組みが、「健康および安全性」(ネガティブの低減)に資する取組みと評価できる。
経済面においては、県内外に広がる取引先との信頼関係は「零細・中小企業の繫栄」(ポジティブの増大)に、冷凍食品事業への参画といった持続可能性を高める新たな事業展開は、「セクターの多様性」(ポジティブの増大)や「零細・中小企業の繫栄」(ポジティブの増大)への寄与が認められる。
3-4 インパクトエリア/トピックの特定方法
「UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツール」を用いたインパクト分析結果を参考に、遠州米穀のサステナビリティに関する活動を同社の HP、提供資料、ヒアリングなどから網羅的に分析するとともに、同社を取り巻く外部環境や地域特性などを勘案し、同社が環境・社会・経済に対して最も強いインパクトを与える活動について検討した。そして、同社の活動が、対象とするエリアやサプライチェーンにおける環境・社会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に最も貢献すべき活動を、インパクトエリア/トピックとして特定した。
4. KPI の設定
特定されたインパクトエリア/トピックのうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、遠州米穀の経営の持続可能性を高める項目について、以下の通り KPI が設定された。なお、モニタリング期間内に KPI の設定年度が到来するものは、その年度において再度 KPI を設定し、測定していく。
4-1 環境面
インパクトエリア/トピック | 気候の安定性(ネガティブの低減)資源効率(ネガティブの低減) |
テーマ | 効率的なエネルギー利用 |
取組内容 | コージェネレーション設備による電力の地産地消と廃熱利用、地域再エネの推進、空調設備の効率的な使用 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、世界のエネルギーミックス 7.2 における再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。 2030 年までに天然資源の持続可能な 12.2 管理及び効率的な利用を達成する。 全ての国々において、気候関連災害や自 13.1 然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。 |
KPI(指標と目標) | GHG 排出量を 2031 年度まで毎年度、売上高原単位 ① 当たり 2023 年度比1%削減していく。また、当該年到達時には、再び削減に向けて取り組んでいく |
インパクトエリア/トピック | 資源強度(ネガティブの低減)廃棄物(ネガティブの低減) |
テーマ | 廃棄物の有効活用 |
取組内容 | ライスインクで印刷された米袋の使用、環境配慮素材で作られた副資材への代替 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を 12.3 半減させ、収穫後損失などの生産・サプラ イチェーンにおける食品ロスを減少させる。 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物 12.4 の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削 12.5 減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 |
KPI(指標と目標) | 2030 年度までに、使用する米袋の 15%を、環境に配 ① 慮した代替素材のものにする |
インパクトレエリア/トピック | 食料(ポジティブの増大) 健康および安定性(ネガティブの低減) |
テーマ | 安全安心な商品の生産と良食味米の提供 |
取組内容 | HACCP 認定による衛生的な生産体制、米の品質を低下させない移動精米タンク搬送システム、徹底した異物除去と温度上昇を抑 制した精米加工、専門的な知識を有した人材による米の仕入 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、飢餓を撲滅し、全ての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱 2.1 な立場にある人々が一年中安全かつ栄 養のある食料を十分得られるようにする。 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技 8.2 術向上及びイノベーションを通じた高いレ ベルの経済生産性を達成する。 |
KPI(指標と目標) | 2027 年度までに、精米 JAS を取得し、取得後はその水 ① 準を維持していく HACCP 認定を継続取得し、食品の衛生管理体制を徹 ② 底して引き続き食中毒等を発生させない |
インパクトエリア/トピック | 雇用(ポジティブの増大) ジェンダー平等(ネガティブの低減) その他の社会的弱者(ネガティブの低減) |
テーマ | 多様な人材の活躍 |
取組内容 | 障がい者雇用の実現、女性の活躍推進、時短勤務の実施、育休取得の推進 |
SDGs との関連性 | 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な 5.5 女性の参画及び平等なリーダーシップの機 会を確保する。 2030 年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な 8.5 雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全 8.8 ての労働者の権利を保護し、安全・安心 な労働環境を促進する。 |
KPI(指標と目標) | 2030 年度までに、障がい者の雇用を2名以上増加させ ① る 2030 年度までに、くるみん認証を取得し、取得後はその ② 水準を維持していく |
インパクトエリア/トピック | セクターの多様性(ポジティブの増大) 零細・中小企業の繫栄(ポジティブの増大) |
テーマ | 川下への展開とエリア拡大による持続可能性の向上 |
取組内容 | 炊飯事業の開始及び炊飯センターの稼働、冷凍食品製造への参画 |
SDGs との関連性 | 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技 8.2 術向上及びイノベーションを通じた高いレ ベルの経済生産性を達成する。 |
KPI(指標と目標) | 2030 年度までに、冷凍食品事業の売上高を 3 億円ま ① で伸ばす |
5. 地域経済に与える波及効果の測定
遠州米穀は、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、2030 年の売上高を 80 億円に、従業員数を 225 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この
目標を達成することによって、遠州米穀は、静岡県経済全体に年間 125 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
6. マネジメント体制
遠州米穀では、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、青木代表取締役が陣頭指揮を執り、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動などを棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトレーダーやSDGsとの関連性、KPIの設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、青木代表取締役を最高責任者、白石取締役を実行責任者とした、総務部が中心となって展開していく。半期ごとの全体会議や日々の朝礼、掲示板を通じて社内へ浸透させ、KPI の達成に向けて全従業員が一丸となって活動を実施していく。
最高責任者 | 代表取締役 青木 孝 |
実行責任者 | 取締役 白石 正和 |
担当部署 | 総務部 |
7. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成及び進捗状況については、静岡銀行と遠州米穀の担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場などを通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金及びその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持していることを確認する。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行と遠州米穀が協議 の上、再設定を検討する。
以 上
本評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行及び静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する遠州米穀から供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
一般財団法人静岡経済研究所
調査部 研究員 後藤 裕大
〒420-0853
静岡市葵区追手町 1-13 アゴラ静岡 5 階 TEL:054-250-8750 FAX:054-250-8770
第三者意見書
2024 年 6 月 28 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: 株式会社遠州米穀に対するポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行が株式会社遠州米穀(「遠州米穀」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定したPIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できること、なおかつネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照しているIFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえでPIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクトエリア/トピックにおける社会経済に関連するインパクトの観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されてい
る。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では 52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できること、なおかつネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、遠州米穀の持ちうるインパクトを、UNEP FI の定めるインパクトエリア/トピックおよび SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、遠州米穀がポジティブな成果を発現するインパクトエリア/トピックを有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行がPIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めたPIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しなが
ら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及びESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人である遠州米穀から貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
(第三者意見責任者) 株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価部長
梶原 敦子
担当主任アナリスト 担当アナリスト
川越 広志 間場 紗壽
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候債イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026