Contract
監査基準委員会報告書210
改正改正改正 最終改正 | 2011 年 12 月 22 日 2 0 1 4 年 4 月 4 日 2 0 1 5 年 5 月 29 日 2 0 1 9 年 2 月 27 日 2 0 1 9 年 6 月 12 日 |
日本公認会計士協会監 査 基 準 委 員 会 (報告書:第70 号) |
項番号
Ⅰ 本報告書の範囲及び目的
1.本報告書の範囲 1
2.本報告書の目的 2
3.定義 3
Ⅱ 要求事項
1.監査の前提条件 4
(1) 監査契約の締結前における監査範囲の制約 5
(2) 監査契約の締結に影響を及ぼすその他の要因 6
2.監査業務の契約条件に関する合意 7
3.継続監査 9
4.監査業務の契約条件の変更の受諾 10
5.監査契約の締結における追加的な考慮事項
(1) 法令等により財務報告の基準が補完されている場合 14
(2) 法令等により財務報告の枠組みが規定されている場合における監査契約の締結に影響を及ぼすその他の事項 15
(3) 法令等により監査報告書の様式又は用語が規定されている場合 17
Ⅲ 適用指針
1.本報告書の範囲 A1
2.監査の前提条件
(1) 財務報告の枠組み A2
(2) 経営者の責任に関する合意 A11
3.監査業務の契約条件に関する合意
(1) 監査業務の契約条件に関する合意 A22
(2) 監査契約書又は他の形式による合意書 A23
4.継続監査 A28
5.監査業務の契約条件の変更の受諾
(1) 監査業務の契約条件の変更の要請 A2
(2) レビュー業務、合意された手続業務又は調製業務に変更することの要請 A33
6.監査契約の締結における追加的な考慮事項
(1) 法令等により財務報告の基準が補完されている場合 A35
(2) 法令等により財務報告の枠組みが規定されている場合における監査契約の締結に影響を及ぼすその他の事項 A36
(3) 法令等により監査報告書の様式又は用語が規定されている場合 A37
Ⅳ 適用
付録 一般目的の財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかの判断
《Ⅰ 本報告書の範囲及び目的》
《1.本報告書の範囲》
1.本報告書は、経営者との監査業務の契約条件の合意に関する実務上の指針を提供するものである。監査業務の契約条件の合意には、経営者が責任を有する監査の前提条件が満たされていることを明確にすることが含まれる。監査基準委員会報告書220「監査業務における品質管理」は、監査契約の新規の締結又は更新に関する事項のうち、監査人の管理すべき事項に関する実務上の指針を提供している。(A1項参照)
《2.本報告書の目的》
2.本報告書における監査人の目的は、以下を通じて、監査実施の基礎が合意されている場合にのみ、監査契約の新規の締結又は更新を行うことである。
(1) 監査の前提条件が満たされているかどうかを明確にすること
(2) 監査業務の契約条件について監査人と経営者が共通の理解を有することを確認すること
《3.定義》
3.本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。
「監査の前提条件」-経営者が財務諸表の作成に当たり、受入可能な財務報告の枠組みを使用すること及び経営者が監査実施の前提(監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」第12項参照)に合意することをいう。
《Ⅱ 要求事項》
《1.監査の前提条件》
4.監査人は、監査の前提条件が満たされているかどうかを明確にするため、以下の事項を実施しなければならない。
(1) 財務諸表の作成に当たり適用される財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかを判断すること(A2項からA10項参照)
(2) 以下の責任を有することを認識し理解していることについて経営者の合意を得ること
(A11項からA14項及びA21項参照)
① 適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成すること。適正表示の枠組みの場合は、財務諸表を適正に表示することを含む。(A15項参照)
② 不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために経営者が必要と判断する内部統制を整備及び運用すること(A16項からA19項参照)
③ 以下を監査人に提供すること
ア.経営者が財務諸表の作成に関連すると認識している記録や証憑書類等の全ての情報
(注記事項に関連する情報を含む。)
イ.監査人が監査の目的に関連して経営者に追加的に依頼する情報(A20項参照)
ウ.監査人が監査証拠を入手するために必要と判断した、企業構成員への制限のない質問や面談の機会
《(1) 監査契約の締結前における監査範囲の制約》
5.監査人は、経営者が監査業務の契約条件において監査人の作業の範囲に制約を課してお り、その制約により、財務諸表に対する意見を表明しないことになると判断した場合、監査契約を新規に締結又は更新してはならない。
《(2) 監査契約の締結に影響を及ぼすその他の要因》
6.監査人は、監査の前提条件が満たされていない場合には、そのことについて経営者と協議しなければならない。以下のいずれかの場合には、監査契約を新規に締結又は更新してはならない。
(1) 監査人が財務諸表の作成において適用される財務報告の枠組みは受入可能なものではないと判断した場合(第15項に記載されている場合を除く。)
(2) 第4項(2)に記載されている合意が得られなかった場合
《2.監査業務の契約条件に関する合意》
7.監査人は、監査業務の契約条件について経営者と合意しなければならない。(A22項参照)
8.監査業務の契約条件の合意された内容として、以下の事項を監査契約書又はその他の適切な形式による合意書(以下「監査契約書」という。)に記載しなければならない。(A23項から A27項参照)
(1) 財務諸表監査の目的及び範囲
(2) 監査人の責任
(3) 経営者の責任
(4) 財務諸表の作成において適用される財務報告の枠組み
(5) 監査報告書の想定される様式及び内容
(6) 状況により監査報告書の様式及び内容が想定と異なる場合がある旨
《3.継続監査》
9.継続監査において、監査人は、監査業務の契約条件の変更を必要とする状況が生じているかどうか、及び監査業務の現行の契約条件の再確認を企業に求める必要性があるかどうかを評価しなければならない。(A28項参照)
《4.監査業務の契約条件の変更の受諾》
10.監査人は、正当な理由がない限り、監査業務の契約条件の変更に合意してはならない。
(A29項からA32項参照)
11.監査人は、監査の終了前に、監査より低い水準の保証を提供する業務に変更することを依頼された場合、正当な理由があるかどうかを判断しなければならない。(A33項及びA34項参照)
12.監査業務の契約条件が変更された場合、監査人と経営者は、変更後の契約条件について合意し、それを監査契約書において記載しなければならない。(A32項参照)
13.監査人が監査業務の契約条件の変更に合意できず、かつ、経営者が当初の契約条件どおりに監査業務を継続することを許容しない場合には、監査人は、以下を実施しなければならない。
(1) 監査契約を解除すること
(2) 契約又は法令等によって、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下「監査役等」という。)、株主、規制当局等の他の関係者に状況を報告する義務があるかどうかを判断すること
《5.監査契約の締結における追加的な考慮事項》
《(1) 法令等により財務報告の基準が補完されている場合》
14.認知されている会計基準設定主体の設定する財務報告の基準が法令等によって補完されている場合、監査人は、財務報告の基準と法令等による追加的な要求事項との間で不整合が生じていないかどうかを判断しなければならない。不整合が生じている場合、監査人は、追加的な要求事項の内容について経営者と協議し、以下のいずれかの措置に合意しなければならない。
(1) 追加的な要求事項を満たすように財務諸表に追加的な開示を行うこと
(2) 財務諸表における適用される財務報告の枠組みに関する記載を変更すること
これらの措置のいずれも実施できない場合、監査人は、監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に従って除外事項付意見を表明する必要があるかどうかを判断しなければならない。(A35項参照)
《(2) 法令等により財務報告の枠組みが規定されている場合における監査契約の締結に影響を及ぼすその他の事項》
15.監査人が財務報告の枠組みは受入可能なものではないと判断したが(A9項参照)、法令等により財務報告の枠組みが規定されている場合、監査人は、以下の全ての条件が満たされる場合を除き、監査契約を締結してはならない。(A36項参照)
(1) 経営者が、財務諸表の利用者の判断を誤らせないようにするため、財務諸表に追加的な注記を行うことに合意している。
(2) 監査業務の契約条件において以下の点が確認されている。
① 財務諸表に対する監査報告書に、監査基準委員会報告書706「独立監査人の監査報告書における強調事項区分とその他の事項区分」に従って、追加的な注記事項に対する利用者の注意を喚起するため強調事項区分が含まれること
② 法令等により財務諸表に対する監査意見の表明において「[適用される財務報告の枠組み]に準拠して、…すべての重要な点において適正に表示している」という表現を使用することが監査人に要求されていない限り、そのような表現を使用しないこと
16.第15項に記載されている条件が満たされないにもかかわらず、法令等により監査が要求されている場合、監査人は、以下を実施しなければならない。
(1) 利用者の判断を誤らせるような性質を財務諸表が含んでいることについて、監査報告書に及ぼす影響(監査意見に及ぼす影響や強調事項又はその他の事項の必要性)を評価す る。
(2) 監査業務の契約条件に以下の事項を含める。
① 第15項に記載されている条件が満たされないにもかかわらず、法令等により監査が要求されている旨
② 利用者の判断を誤らせるような性質を財務諸表が含んでいることについて、監査報告書に及ぼす影響を評価する旨
《(3) 法令等により監査報告書の様式又は用語が規定されている場合》
17.関連する法令等により、監査報告書について、一般にxx妥当と認められる監査の基準の要求事項と著しく異なる様式や用語が規定されていることがある。この場合、監査人は、以下を評価しなければならない。
(1) 財務諸表監査から得られる保証について誤解が生じる可能性があるかどうか。
(2) 誤解が生じる可能性がある場合、監査報告書に追加的な説明を記載することによって、そのような可能性を軽減できるかどうか。(監基報706参照)
監査人は、このような誤解が生じる可能性を、監査報告書に追加的な説明を記載することによっても軽減できないと判断した場合、法令等により要求されていない限り、監査契約を締結してはならない。このような法令等に準拠して実施される監査は、一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠したものではない。したがって、監査人は、監査報告書に、一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠して実施された監査であることを示すような記載を行ってはならない。(監査基準委員会報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報 告」第45項参照)(A37項参照)
《Ⅲ 適用指針》
《1.本報告書の範囲》(第1項参照)
A1.保証業務(監査業務を含む。)の契約は、依頼されている業務が保証業務として成立する一定の特徴を有しており、業務実施者が独立性や職業的専門家としての能力を含む職業倫理に関する規定を遵守できると判断した場合にのみ、新規に締結又は更新することができる。監査契約の締結その他の監査人が管理する事項における職業倫理に関する規定に係る監査人の責任は、監査基準委員会報告書220第8項から第10項に記載されている。本報告書は、企業が管理する事項で、監査人と企業経営者の合意が必要となる事項(又は前提条件)に関する実務上の指針を提供している。
《2.監査の前提条件》
《(1) 財務報告の枠組み》(第4項(1)参照)
A2.保証契約を締結するためには、主題(関連する場合、表示及び注記事項を含む。)の評価又は測定の規準が適切であり、想定利用者に利用可能である必要がある。規準が適切であれ
ば、職業的専門家としての判断に基づき、合理的な範囲で首尾一貫して各業務の主題を評価又は測定することが可能になる。一般にxx妥当と認められる監査の基準においては、適用される財務報告の枠組みが、監査人が財務諸表を監査するために用いる規準(財務報告の枠組みが適正表示の枠組みの場合には、適正表示の規準)となる。
A3.財務報告の枠組みが受入可能なものでなければ、経営者は財務諸表の作成に対する適切な基礎を、監査人は財務諸表の監査のための適切な規準を有しないことになる。A8項及びA9項に記載されているとおり、多くの場合は、監査人は、適用される財務報告の枠組みについて受入可能なものであると推定できる。
《財務報告の枠組みが受入可能なものかどうかの判断》
A4.財務諸表の作成において適用される財務報告の枠組みが受入可能なものかどうかについて監査人が判断する際に、以下のような要素を考慮することがある。
・ 企業の特性(例えば、企業は営利企業か非営利組織か。)
・ 財務諸表の目的(例えば、広範囲の利用者に共通する財務情報に対するニーズを満たすこ
とを目的として作成される財務諸表であるか、又は特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすことを目的として作成される財務諸表であるか。)
・ 財務諸表の特性(例えば、完全な一組の財務諸表であるか、個別の財務表(例えば貸借対照表)であるか。)
・ 適用される財務報告の枠組みが法令等に規定されているかどうか。
A5.財務諸表の利用者の多くは、特定の情報に対するニーズを満たすことを目的として作成される財務諸表を要求する立場にない。特定の利用者の情報に対する全てのニーズを満たすことはできないが、広範囲の利用者に共通する財務情報に対するニーズは存在する。広範囲の利用者に共通する情報に対するニーズを満たすことを目的として策定された財務報告の枠組みに準拠して作成される財務諸表を、「一般目的の財務諸表」という。
A6.場合によっては、特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすことを目的として策定された財務報告の枠組みに準拠して財務諸表が作成されることがある。そのような財務諸表を、「特別目的の財務諸表」という。こうした状況において適用される財務報告の枠組みは、想定利用者の財務情報に対するニーズによって決定される。
監査基準委員会報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」は、特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすように策定された財務報告の枠組みの受入可能性について記載している。(監基報800第7項)
A7.監査人は、監査契約の締結後、適用される財務報告の枠組みについて受入可能なものでないことを示す不備を発見することがある。当該枠組みを利用することが法令等に規定されている場合、第15項及び第16項の要求事項が適用される。当該枠組みを利用することが法令等に規定されていない場合、経営者は、受入可能な他の財務報告の枠組みの採用を決定することがある。経営者が他の財務報告の枠組みの採用を決定する場合、以前に合意した監査業務の契約条件とは異なることになるため、第12項に従って、財務報告の枠組みの変更を反映するため、監査業務の契約条件の変更について合意する。
《一般目的の財務報告の枠組み》
A8.現在、一般目的の財務報告の枠組みが受入可能なものかどうかを判断するための、国際的に一般に認められる客観的かつ規範性のある基準は存在しない。そのような判断基準が存在しないため、企業が利用すべき基準を公表する権限を有する又は認知されている会計基準設定主体が設定する財務報告の基準は、当該設定主体が、確立された透明性のあるプロセス
(広範囲の利害関係者の見解についての審議及び検討を含む。)に従っているのであれば、企業が作成する一般目的の財務諸表に適用される枠組みとして受入可能なものであると推定される。こうした財務報告の基準には、例えば、以下のものが含まれる。
・ 企業会計基準委員会が設定する企業会計基準
・ 金融庁長官が指定する指定国際会計基準
・ 国際会計基準審議会が公表する国際会計基準
・ 日本以外の国において認知されている会計基準設定主体が公表する会計原則、ただし、当該会計基準設定主体が確立された透明性のあるプロセス(広範囲の利害関係者の見解についての審議及び検討を含む。)に従っている場合
これらの財務報告の基準は、我が国において、一般目的の財務諸表の作成を定める法令等により、適用される財務報告の枠組みとして認められていることがある。
《法令等により財務報告の枠組みが規定されている場合》
A9.監査人は、第4項(1)に従い、財務諸表の作成に適用される財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかを判断することが要求される。企業の一般目的の財務諸表の作成におい
て利用する財務報告の枠組みは法令等に規定されていることがあるが、反証がない限り、そのような財務報告の枠組みは、当該企業が作成する一般目的の財務諸表のために受入可能なものであると推定される。反証に基づき財務報告の枠組みが受入可能なものではないと判断する場合には、第15項及び第16項が適用される。
《財務報告の枠組みが会計基準設定主体又は法令等によって規定されていない場合》
A10.財務報告の枠組みが認知された会計基準設定主体又は法令等によって規定されていない場合には、経営者が財務諸表の作成に適用する財務報告の枠組みを決定する。付録に、そのような状況において財務報告の枠組みが受入可能なものかどうかを判断する際の指針を記載している。
《(2) 経営者の責任に関する合意》(第4項(2)参照)
A11.一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠した監査は、経営者が第4項(2)に記載された責任を有することを認識し理解しているという監査実施の前提に基づいて実施される
(監基報200のA2項参照)。第4項(2)に記載された責任が法令等に明確に記載されていることもあれば、記載されていない場合もある。いずれにしても、経営者の責任に関して、一般にxx妥当と認められる監査の基準が法令等に優先して適用されるものではない。しかしながら、独立監査人による監査において、財務諸表の作成又は企業の関連する内部統制に対する責任を担うことは監査人の役割ではなく、また、経営者が提供できる限りにおいて、監査に必要な情報(総勘定元帳や補助元帳以外から入手した情報を含む。)を監査人が入手することが合理的に期待されている。したがって、これらの前提は、監査を実施するための基本となる。誤解を避けるために、第7項及び第8項における監査業務の契約条件について合意し記録することの一環として、経営者が当該責任を有することを認識し理解していることについて、経営者と合意する。
A12.経営者と監査役等その他ガバナンスに責任を有する者との間の財務報告に対する責任の分担の方法は、企業の人的資源や組織及び関連する法令等並びに企業内での経営者及び監査役等その他ガバナンスに責任を有する者それぞれの役割によって様々である。多くの場合、経営者は業務執行の責任を負う一方、監査役等その他ガバナンスに責任を有する者は経営者の職務の執行を監査する。取締役会設置の株式会社の場合、経営者の職務の執行を監督するものとして取締役会があり、財務諸表を承認する責任を負っている。
A13.監査基準委員会報告書580「経営者確認書」第9項及び第10項に基づいて、監査人は、経営者に対して、経営者の責任を果たした旨の経営者確認書を提出するよう要請しなければならない。したがって、他の監査基準委員会報告書で要求されている確認事項及び財務諸表又は財務諸表における特定のアサーションに関連する他の監査証拠を裏付けるために必要な確認事項とともに、経営者の責任を果たした旨を記載した経営者確認書の入手を予定していることを経営者に知らせることが適切な場合がある。
A14.経営者がその責任を認識していないか、又は監査人が経営者確認書で確認を要請した事項について経営者から確認を得ることに同意しない場合、監査人は十分かつ適切な監査証拠を入手することができない(監基報580のA22項参照)。このような状況が見込まれる場合、監査人が監査契約を新規に締結又は更新することは適切ではない。
《財務諸表の作成》(第4項(2)①参照)
A15.大部分の財務報告の枠組みには、財務諸表の表示に関する規定が含まれている。その場 合、財務報告の枠組みに準拠する財務諸表の「作成」には、「表示」が含まれることになる。適正表示の財務報告の枠組みの場合、適正性に関する意見表明という監査報告の目的が重要であることから、経営者と合意する監査実施の前提に、財務諸表を適正に表示することを特に含めることになる。
《内部統制》(第4項(2)②参照)
A16.経営者は、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために必要であると判断する内部統制を整備及び運用する。内部統制は、いかに有効であっても、内部統制の固有の限界のため、企業の財務報告の信頼性を確保するという目的の達成について企業に合理的な保証を提供するにすぎない。(監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」のA50項参照)
A17.一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠して実施される独立監査人による監査は、経営者による財務諸表の作成に必要な内部統制の整備及び運用を代替するものではない。したがって、監査人は、経営者が当該内部統制に対する責任を有することを認識し理解していることについて、経営者の合意を得ることが要求される。ただし、第4項(2)②の規定により要求される合意は、経営者が整備及び運用する内部統制がその目的を達成していること、又は内部統制に不備がないことを監査人が発見することを意味するものではない。
A18.経営者は、財務諸表を作成するためにどのような内部統制が必要かを判断する。内部統制は、統制環境、企業のリスク評価プロセス、財務報告目的の情報システム(関連する業務プロセスを含む。)と伝達、統制活動及び監視活動という構成要素に分割されることがあり、内部統制にはこれらの構成要素内の広範囲の活動が含まれる。この五つの構成要素は、必ずしも、特定の企業がどのようにその内部統制を整備及び運用しているか又はある内部統制がどの構成要素に分類されるかを表しているわけではない(監基報315のA55項及び付録1参照)。企業の内部統制は、経営者のニーズ、事業の複雑性、企業が影響を受けるリスクの内容及び関連する法令等を反映したものになる。
A19.国によっては、法令等が、適切な会計帳簿と会計記録又は会計システムに関する経営者の責任を規定していることがある。我が国においては、例えば、会社法において、適時かつ正確な会計帳簿の作成が経営者の責任として義務付けられている。また、実務上、会計帳簿及び会計記録又は会計システムと内部統制は区別するのが一般的である。ただし、会計帳簿及び会計記録又は会計システムは、A18項に記載された内部統制と不可分であるとみなされることから、第4項(2)②における経営者の責任としては、特に記載していない。監査人は、誤解を避けるため、経営者の責任の範囲を経営者に説明することが適切な場合がある。
《追加的な情報》(第4項(2)③イ参照)
A20.監査人が監査の目的に関連して経営者に追加的に依頼する情報には、監査基準委員会報告書720に従ったその他の記載内容に関する事項が含まれる場合がある。
《小規模企業に特有の考慮事項》(第4項(2)参照)
A21.監査業務の契約条件を合意する目的の一つは、経営者と監査人それぞれの責任に係る誤解を避けることである。例えば、第三者が財務諸表の作成を支援しているような場合でも、適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成する責任が経営者にあることの確認を求めることは有益である。
《3.監査業務の契約条件に関する合意》
《(1) 監査業務の契約条件に関する合意》(第7項参照)
A22.企業が監査業務の契約条件について合意する際の経営者と監査役等その他ガバナンスに責任を有する者の役割は、ガバナンスの構造及び関連する法令等に依存する。
《(2) 監査契約書又は他の形式による合意書》(第8項参照)
A23.監査の開始前に監査契約書を締結することは、監査に対する誤解を避ける上で、企業及び
監査人の双方にとって有益である。
《監査契約書の様式及び内容》
A24.監査契約書の様式及び内容は、企業によって異なる場合がある。監査契約書における監査人の責任の記載は、監査基準委員会報告書200第3項から第9項を参考にして行う場合があ る。経営者の責任に関する記述については、本報告書の第4項(2)に示されている。監査契約書には、第8項により要求される事項に加えて、例えば、以下の事項を記載することがあ
る。
・ 監査の範囲に関するより詳細な説明(適用される法令等、一般にxx妥当と認められる監査の基準及び日本公認会計士協会の公表した監査人が遵守すべき職業倫理に関する規則等)
・ 監査報告書以外の監査業務の結果に関するコミュニケーションの方法
・ 監査及び内部統制の固有の限界のため、一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠して、適切に監査を計画し実施しても、重要な虚偽表示が発見されないという回避できないリスクがある旨
・ 監査の計画及び実施に関する取決め(監査チームの構成を含む。)
・ 経営者確認書の入手が予定されている旨(A13項参照)
・ 予定されている日程どおりに監査人が監査を完了できるよう、財務諸表の草案及びその作成に関連する全ての情報(総勘定元帳や補助元帳以外から入手した情報を含む。)並びにその他の記載内容の草案を監査人が適時に利用できるようにすることについての経営者の合意
・ 経営者が、監査報告書日の翌日から財務諸表の発行日までの間に知るところとなった、財務諸表に影響を及ぼす可能性のある事実を監査人に通知することについての経営者の同意
・ 報酬計算の考え方及び請求の方法
A25.監査人が、法令により又は任意で、監査報告書において監査上の主要な検討事項を報告する場合は、一般にxx妥当と認められる監査の基準に従って監査上の主要な検討事項を報告する旨を監査契約書に記載することとなる。
A26.関連する場合、監査契約書に以下の事項を記載することもできる。
・ 監査の一部の局面において他の監査人や専門家を関与させることに関する取決め
・ 企業の内部監査人等の利用に関する取決め
・ 初年度監査で前任監査人が存在する場合、前任監査人との業務の引継ぎに関する取決め
・ 法令により、違法行為又はその疑いを適切な規制当局に報告すべき監査人の責任に関する事項
・ 監査人の責任限定(それが可能な場合に限る。)に関する事項
・ 監査人と企業との間の別途協議事項
・ 正当な理由がある場合に監査調書を他の関係者に提供する義務
《構成単位の監査》
A27.親会社の監査人が構成単位の監査を実施する場合、構成単位との間で別個の監査契約を締結するかどうかの判断に影響を及ぼす要因として、以下のようなものがある。
・ 構成単位の監査人を選任する者
・ 構成単位に関する別個の監査報告書の発行の要否
・ 監査人の選任に関する法令等の規定
・ 親会社による所有の程度
・ 構成単位の経営者が親会社から独立している程度
《4.継続監査》(第9項参照)
A28.監査人は、事業年度ごとに新規の監査契約書を取り交わすことにより、契約条件を見直し、現行の契約条件を企業との間で再確認することができるため、事業年度ごとに新規の監査契約書を取り交わすことが適切であるが、場合によっては事業年度ごとに新規の監査契約書を取り交わさないことがある。しかし、以下の要因がある場合には、監査業務の契約条件を変更すること又は現行の契約条件の再確認を企業に求めることが適切である。
・ 企業が監査の目的及び範囲を誤解している兆候
・ 監査業務の契約条件の変更又は特約
・ 上級経営者の交代
・ 株主等の重要な異動
・ 企業の事業内容又は規模の重要な変化
・ 法令等の変更
・ 財務諸表の作成に採用される財務報告の枠組みの変更
・ 財務諸表監査以外の報告に関する要求事項の変更
《5.監査業務の契約条件の変更の受諾》
《(1) 監査業務の契約条件の変更の要請》(第10項参照)
A29.企業による監査人に対する監査業務の契約条件変更の要請は、監査の必要性に影響を及ぼす状況の変化、当初依頼した監査業務の性質に関する誤解、又は経営者若しくは他の状況による監査業務の範囲の制約の結果生じることがある。監査人は、第10項に記載されているように、当該要請の正当性、特に、監査業務の範囲の制約による影響を検討する。
A30.企業の遵守すべき要求事項に影響を及ぼす状況の変化や、当初依頼した監査業務の性質に関する誤解は、監査業務の変更を要請する合理的な根拠と判断できることがある。
A31.一方、情報が不正確、不完全又は不十分であることによる契約条件の変更は、合理的であるとはいえないことがある。例えば、監査人が売掛金に関して十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合において、監査意見の限定や意見の不表明を避けるため、企業が監査業務からレビュー業務に変更するよう求めるときが挙げられる。
A32.法令により監査人が監査上の主要な検討事項を報告することが要求されていない場合において、当初の監査業務の契約条件の合意後に、監査人と経営者が任意に監査報告書において監査上の主要な検討事項を報告することに合意したときは、契約条件の変更として取り扱われることとなる。
《(2) レビュー業務、合意された手続業務又は調製業務に変更することの要請》(第11項参照)
A33.一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠した監査を実施する契約を締結した監査人
は、監査業務からレビュー業務、合意された手続業務又は財務諸表等の調製業務に変更することに合意する前に、上記のA27項からA29項に記載されている事項に加えて、変更による法令等又は契約上の影響を評価しなければならない場合がある。
A34.監査人が、監査業務をレビュー業務、合意された手続業務又は財務諸表等の調製業務に変更する正当な理由があると判断した場合において、変更の日までに実施した監査手続が変更後の業務にも関連していることがある。しかし、実施される手続及び発行される報告書は、変更後の業務にとって適切なものでなければならない。利用者の混乱を避けるため、合意された手続実施結果報告書又は財務諸表等の調製業務の報告書には、以下のいずれの事項も記載してはならない。
(1) 当初の監査契約
(2) 当初の監査契約において実施された手続。ただし、監査業務から合意された手続業務に変更され、したがって、実施した手続についての記述が合意された手続実施結果報告書の当然の一部となる場合は除く。
《6.監査契約の締結における追加的な考慮事項》
《(1) 法令等により財務報告の基準が補完されている場合》(第14項参照)
A35.認知されている会計基準設定主体の設定する財務報告の基準が、法令等により定められた財務諸表の作成に関連する追加的な要求事項によって、補完されていることがある。そのような場合、一般にxx妥当と認められる監査の基準を適用する目的で適用される財務報告の枠組みは、識別された財務報告の枠組みと、法令等による追加的要求事項(識別された財務報告の枠組みとの間で不整合のない事項に限られる。)の両者から構成される。例えば、財務報告の基準により要求される注記事項に追加して、法令等による注記事項が規定されている場合や、財務報告の基準において認められている会計方針等の選択の範囲が、法令等により制限されている場合が挙げられる。なお、監査基準委員会報告書700第13項は、財務諸表において、適用される財務報告の枠組みについて適切に記述されているかどうかを評価することを要求している。
《(2) 法令等により財務報告の枠組みが規定されている場合における監査契約の締結に影響を及ぼすその他の事項》(第15項参照)
A36.適用される財務報告の枠組みが法令等に規定されており、それが法令等に規定されていなければ受入可能なものではないと監査人が判断する場合でも、監査意見に「すべての重要な点において適正に表示している」という文言を使用することが法令等に規定されていることがある。このような場合、監査報告書の文言として規定されている用語は、一般にxx妥当と認められる監査の基準の要求事項と著しく異なることになる。(第17項参照)
《(3) 法令等により監査報告書の様式又は用語が規定されている場合》(第17項参照) A37.監査基準委員会報告書200第19項は、監査基準及び個々の監査業務に関連する全ての監査
基準委員会報告書及び他の監査実務指針の要求事項を遵守しない限り、一般にxx妥当と認
められる監査の基準に準拠した旨を記載してはならないことを監査人に要求している。監査人は、法令等により、監査報告書について、一般にxx妥当と認められる監査の基準の要求事項と著しく異なる様式や用語が規定されており、かつ、監査報告書に追加的な説明を記載することによっても誤解を招く可能性を軽減できないと判断する場合、監査報告書に、一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠して実施された監査ではない旨を記載することを検討することがある。しかしながら、一般にxx妥当と認められる監査の基準に準拠して実施された監査であることを監査報告書に記載することが認められない場合であっても、監査人は、実施可能な限り、監査報告書に関する指針を含め、一般にxx妥当と認められる監査の基準を適用することが奨励される。
《Ⅳ 適用》
・ 本報告書(2011年12月22日)は、2012年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。
ただし、第14項から第17項に該当する法令等に定めのある監査業務について、日本公認会計士協会による実務上の指針が公表されている場合はそれに基づくものとし、第14項から第17項は、当分の間、適用しない。
・ 本報告書(2014年4月4日)は、2015年4月1日以後に開始する事業年度又は会計期間に係る監査から適用する。ただし、監査基準委員会報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」又は監査基準委員会報告書805「個別の財務表又は財務諸表項目等に対する監査」に基づいて2014年4月1日以後に監査報告書を発行する監査の場合には本報告書を適用する。また、第14項から第17項に該当する法令等に定めのある監査業務について、日本公認会計士協会による実務上の指針が公表されている場合はそれに基づくものとし、第14項から第17項は、当分の間、適用しない。
・ 本報告書(2015年5月29日)は、2015年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。
・ 本報告書(2019年2月27日)は、以下の時期から適用する。
- 違法行為に関連する適用指針(A26 項)は、2019 年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。
- 監査上の主要な検討事項に関連する適用指針(A25 項、A32 項)は、2021 年3月 31 日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。ただし、2020 年3月 31 日(米国証券取引委員会に登録している会社においては 2019 年 12 月 31 日)以後終了する事業年度に係る監査から早期適用することができる。
- 上記以外の改正は、2020 年3月31 日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。
・ 本報告書(2019年6月12日)は、2020年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。ただし、2019年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から早期適用することができる。
《付録 一般目的の財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかの判断》(A10項参照)
《財務報告の枠組みが会計基準設定主体又は法令等によって規定されていない場合》
1.本報告書のA10項に記載されているとおり、財務報告の枠組みが認知された会計基準設定主体又は法令等によって規定されていない場合には、経営者が財務諸表の作成に適用する財務報告の枠組みを決定する。そのような場合、実務上、本報告書のA8項に記載されている設定主体が設定する財務報告の基準が使用されることがある。
2.他方、特定の組織が作成する一般目的の財務諸表に対する財務報告の枠組みとして一般に認知されている確立された会計慣行が存在することがある。そのような財務報告の枠組みが採用される場合、監査人は、本報告書の第4項(1)に従って、そのような会計慣行が、全体として、一般目的の財務諸表に対する受入可能な財務報告の枠組みを構成すると考えることができるかどうか判断することが求められる。監査人は、当該会計慣行が受入可能な財務報告の枠組みが通常示す特性を示しているかどうかを検討したり(以下の第3項参照)、会計慣行を受入可能なものと考えられている既存の財務報告の枠組みの要求事項と比較することにより(以下の第4項参照)、この判断を行う。
3.受入可能な財務報告の枠組みは、通常、以下の特性を示しており、これらの特性の結果、想定利用者にとって有益な情報が財務諸表により提供される。
(1) 目的適合性
財務諸表で提供される情報が企業の事業活動等と財務諸表の目的に適合しているかどうか。例えば、一般目的の財務諸表を作成する営利を目的とする企業の場合、目的適合性は、xxな利用者が経済的意思決定を行う際に共通する財務情報に対するニーズを満たすのに必要な情報を提供しているかどうかという観点から評価される。これらのニーズは、通常、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を表示することによって満たされる。
(2) 完全性
財務諸表に基づく利用者の結論に影響を及ぼす可能性がある取引及び事象、勘定残高並びに注記事項が省略されていないかどうか。
(3) 信頼性
財務諸表で提供される情報が以下に該当するかどうか。
① 単なる法形式でなく、事象及び取引の経済実態を反映していること
② 類似の状況において使用される場合、合理的な範囲で首尾一貫した評価、測定、表示及び注記がなされること
(4) 中立性
財務諸表において偏向のない情報が提供されるかどうか。
(5) 理解可能性
財務諸表において明瞭かつ総合的な情報が提供され、著しく異なる解釈をもたらさないかどうか。
4.監査人は、受入可能なものと考えられている既存の財務報告の枠組みの要求事項と比較することにより、会計慣行が受入可能なものかどうかの判断を行うことがある。例えば、監査人は、会計慣行を国際会計基準と比較することがある。小規模企業の監査の場合、監査人は、会計慣行を、認知された会計基準設定主体が小規模企業のために特別に設定した財務報告の枠組みと比較し、その適否の決定を行うことがある。監査人がこれらの比較を行い、差異が識別された場合、財務諸表の作成及び表示において採用された会計慣行が受入可能な財務報告の枠組みを構成するかどうかを判断する。その判断に当たっては、識別された差異の理由と、当該会計慣
行を適用すること又は財務諸表において当該会計慣行を記載することによって財務諸表利用者の判断を誤らせる可能性があるかどうかを検討する。
5.個々の利用者のニーズに合わせて会計慣行を単に組み合わせているような場合は、一般目的の財務諸表に対する財務報告の枠組みとして受入可能なものではない。同様に、準拠性の枠組みは、財務諸表作成者と財務諸表利用者に一般的に受け入れられている場合を除き、財務報告の枠組みとして受入可能なものではない。
以 上