Contract
■元請業者からの代金回収リスク対応
弁護士 xx xx
<想定事例>
下請
元請
注文者
←→ ←→
<元請負契約> <下請負契約>
<所有権帰属特約>
第1 元請負業者の破産による出来形をめぐる争い
■元請負業者が工事途中で倒産し,注文者から元請負業者に対し出来形を超える請負代金は支払われている一方で,元請負業者から下請負業者への請負代金が倒産により支払われていない場合に,注文者の出来形部分への所有権帰属が認められてしまうと,下請負業者は請負代金債権を確保できなくなる
■反対に下請負業者の出来形部分への所有権帰属が認められてしまうと,下請負業者の請負代金債権の回収不能リスクを注文者に転嫁することになってしまう
第2 参照判例(最高裁平成5年10月19日判決民集第47巻8号5061頁)
1 事案
■建物建築工事の元請負業者がこの工事を一括して下請負業者に出し,実際の工事は下請負業者自ら材料を提供して行い,下請負業者が工事全体の約26パーセントの出来形を完成させたところで元請負業者が倒産してしまった。
■注文者と元請負業者との間の元請負契約においては,契約が中途で解除された場合の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定があったが,元請負業者と下請負業者との間の下請負契約においては,こうした約定は存在しない。
■そして注文者は元請負業者の倒産までに元請負契約に従って,請負代金の約56パーセントを支払っていたが,元請負業者は,下請負業者に対し,下請代金を全く支払っていない。
■このような事実関係を前提として,下請負業者は,出来形部分の所有権が自己に帰属することを主張して,当該出来形部分に残工事を実施して建物を完成した注文者に対し,建物
明け渡し請求等を行う。
2 判示
本件判決は,「下請負契約は,その性質xx請契約の存在及び内容を前提とし,元請負業者の債務を履行することを目的とするものであるから,下請負業者は,注文者との関係では,元請負業者のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず,注文者のためにする建物建築工事に関して,元請負業者と異なる権利関係を主張し得る立場にはない」ことを理由として,「請負契約において,注文者と元請負業者との間に,契約が中途で解除された際の出来高部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に,当該契約が中途解除されたときは,元請負業者から一括して当該工事を請け負った下請負業者が自ら材料を提供して出来高部分を築造したとしても,注文者と下請負業者との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り,当該出来高部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である」と判示し,下請負業者の主張を認めず。
※本件判決には,可部裁判官による詳細な補足意見
→①下請負業者は,元請負業者の履行補助者的地位にあるから,下請負業者は,注文者と元請負業者との間の合意に拘束され,下請負代金の支払いの確保は,結局のところ元請負業者との関係で図るほかなく,下請負業者の施工に見合う代金を既に元請負業者に対し支払った注文者の犠牲においてなされるべきではないこと,②本件判例が述べる「特段の事情」とは,注文者が元請負業者と下請負業者との間の下請負契約を知り,注文者にとって不利益な契約内容を承認したような場合を意味し,注文者と下請負業者との間に格別の合意がない限り,注文者が下請負業者の存在を知っていたか否かによって結論は左右されない
第3 下請負業者が保護される「特段の事情」はほとんど認められない
■下請負業者は,元請負業者の履行補助者的立場にあることから,注文者が元請負業者と下請負業者との間の下請負契約を知り,注文者にとって不利益な契約内容を承認したというような「特段の事情」が認められない限り,元請負契約の内容に拘束される。
■本件判決がこのような判断枠組みを示した実質的根拠は,元請負業者や下請負業者の権利義務関係は,注文者との関係では内部的事情にすぎず,このような内部的事情によって元請負契約で定められた注文者の地位や権利が変動し,注文者が代金の二重払い余儀なくさせられるのは不合理であるという価値判断。
■このような価値判断に照らせば,本件判決の射程は広く解され,例えば,①注文者が下請負業者の存在を知っている場合,②一括下請ではなく部分下請の場合,③元請負業者と下請負業者との間で出来形部分の所有権を下請負業者に留保する旨の合意をしていた場合,であっても,元請負契約において所有権の帰属特約があり,注文者が元請負業者に対して工事の出来高部分を超える請負代金を支払っている事情が認められるのであれば,下請負業者は,注文者に対し,当該出来形部分の所有権の主張を行うことはできない
第4 下請負業者の保護手段
■下請負業者に当該出来形部分に対する留置権
→上述の注文者に二重払いを強いることは不合理であるという本件判決の価値判断に照らせば,注文者に二重払いを余儀なくさせる可能性のある下請負業者の注文者に対する留置権主張も 否定すべきと考えられてる。
■本件判決にいう「特段の事情」を発生させるためには,注文者との間で,施工済み出来形部分に対応する支払がなされるまでは,当該出来形部分の所有権を下請負業者に帰属させる旨の合意を行う等の手段が考えられる。
以上