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株式譲渡契約と表明保証
TMI総合法律事務所
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弁護士 xx xx
登場人物
● xxxx
自動車部品の製造、販売を行う会社の社長
● xx弁護士
健全な企業の力になりたいと願い、研鑽を続ける弁護士
xxさんは、自動車部品の製造、販売を行う会社を経営しています。xxxxは、会社の株式を全て保有していましたが、同じく自動車部品の製造を行っているX社から提携を持ちかけられてこれに応じ、先月、保有している会社の株式の一部をX社に譲渡しました。ところが、今月に入ってから、X社のA社長から、株式譲渡契約における表明保証違反があったため、損害を補償するよう求められています。xxxxは対応に苦慮し、xx弁護士を訪れました。
るY社と自動車部品の売買契約を締結しました。しかし、Y社が、当社の供給する部品がY社の求める仕様に達していないと主張し、製品を返送してきました。そして今月になって、Y社から当社に対し、売買契約を解除するとの通知が来ました。この解除によって、当社は、売上として計上していた
Shokokai 2013.12
5000万円を、Y社から支払ってもらえなくなりました。主張の詳細はよく分かりませんでしたが、A社長は、
これがその契約書です。
xx 確かに表明保証に関する条項がありますね。「(xxxxの会社は)X社に対し、以下の事項がxxかつ正確であることを表明及び保証する」との条項があり、具体的な事項が記載されています。
表明保証とは
xx まず、この表明保証とはどのようなものなのですか。
xx A社長から意味の分からないことを主張され、戸惑っています。 xx 詳しい事情をお聞かせいただけますでしょうか。
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xx はい。半年ほど前、知人の紹介でX社のA社長と知り合いました。そこで意気投合したことをきっかけに、 A社長から企③提携の話をもちかけられました。検討の末、当社の株式の
%を譲渡することで合意しました。そして、1ヵ月ほどかけて、X社が見たいという書類を同社に開示し、また、
当社の経理部や財務部の担当者との打ち合わせの機会を設けて、当社の株式の評価をしてもらった上で、先月、譲渡契約を締結し、X社に株式を譲渡したのです。しかし、今月に入ってから、A社長から、「表明保証違反があったので、損害を補償して欲しい」との電話がありました。
xx A社長はなんと言っているのでしょうか。
xx 当社は、X社と株式譲渡契約を締結する前月に、自動車製造会社であ
このY社による解除の事実をもって、
「表明保証違反」であると主張し、5
000万円の支払いを受けられなくなったことをもって、当社の企③価値が減少し、X社には、一定の損害が生じたと主張しているようです。しかし、私はそもそもこの「表明保証違反」というものがどういうものかが分かりません。こんなトラブルが生じるなんて思いもよりませんでしたから、株式譲渡契約はX社が用意してきたものをざっと確認して、押印してしまいました。
xx 表明保証とは、文字通り、契約当事者の一方が、他方当事者に対し、一定時点において一定の事項がxxかつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証するものです。もともとはxxで発展した概念であり、日本へは、企③買収の発展に伴い、実務上導入されてきました。日本の法律には規定されていないものですが、法的には損害担保契約、つまり当事者間において、一定の事実から他人に生ずる損害を填補することを約束する契約と考
の株主であること、xxxxの会社に隠れた債務がないこと等が規定されていますね。また、事③に関する契約上の義務を全て履行しており、重大な債務不履行はなく、相手方に解除権が発生していないことも、表明保証事項として記載されています。詳細はよく把握できませんが、A社長は、Y社による売買契約の解除が、表明保証事項に違反していると主張しているようですね。
xx xxxxたか。契約の内容をしっかり吟味した上で、締結すべきでした…。そのような表明保証条項に違反する場合、どうなるのでしょうか。 xx 株式譲渡契約書には、表明保証条項と合わせて、補償条項が規定されることが多く、拝見した株式譲渡契約書にも、「(Aさんの会社は)表明及び保証した事項がxx又は正確でないことに起因してX社が被った損害につき、補償するものとする」との定めがあります。このような規定により、表明保証違反があった場合には、これに起因して生じた損害について、補償する義務を負うこととなります。本件で損害がいくらになるかははっきりしませんが、義務がないとはいえないかもしれません。
今後の方針について
xx そうですね。そのように反論する方向で考えたいと思います。
xx いいえ、それはお勧めできません。せっかくお互いの意思が合致して、事③のための前向きな提携をするということで、契約までしたのですから、可能な限り両者の良好な関係を維持する努力をすべきですし、その方向で話し合いの機会を持ち、解決できればベストです。Y社による解除を巡る問題については、両者の認識に行き違いがあるのかもしれません。その点きちんと意思疎通をした上で、場合によっては、一定の譲歩、妥協をして解決することも念頭に、X社、A社長と話し合うべきだと思います。
【xxxxプロフィール】
東京大学卒業後、警察庁入庁。同庁退職の後、司法修習を修了し、弁護士登録。xxxx見富法律事務所へ勤務、シカゴ大学ロースクールへ留学。2004年
3月より TMI 総合法律事務所へパートナーとして参画。取扱分野は、一般企業法務、国際企業取引、企業合併・買収(M&A)、労働関係、倒産処理/企業再建など多岐にわたる。第一東京弁護士会所属、ニューヨーク州弁護士資格保有。
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Shokokai 2013.12
xx 分かりました。一度、A社長と話し合ってみたいと思います。
えられているようです。
xx なぜ、表明保証の規定が契約書に盛り込まれるのですか。
xx 表明保証の大きな機能の一つとして、リスク分担機能があるといわれています。つまり、契約の当事者は、他方当事者と契約関係に入る場合に、資産をある程度有しているとか、大きな負債を抱えていないといった、一定の状態にあることが重要な場合があります。この前提が崩れたときには、ある当事者は契約により不当に利益を得て、他方当事者は、不当に不利益を被ることになり得ます。このような事態に備えて、前提となる事実が崩れた場合には、当事者が被った損害を補償する仕組みを設け、当事者間に生ずる不均衡を経済的に調整する趣旨で、表明保証条項が契約に盛り込まれているのです。
表明保証違反について
xx そういった趣旨の規定だったのですか。表明保証事項として、どういった内容が盛り込まれていますか。 xx 契約書を拝見する限りでは、Aさんの会社が有効に設立され存続していることや、倒産手続が係属していないこと、xxさんがご自分の会社の真
当事者の主観との関係について
xx 表明保証の概要についてはよく理解できました。しかし、私がその補償義務を負うというのは、納得がいきません。なぜなら、株式譲渡契約の締結の前から、X社に対し、経理部や財務部の担当者を通じて、Y社から、当社の供給する部品の仕様についてクレームを受けたことは伝えていたのです。 X社は、それを分かった上で、私と株式譲渡契約を締結したのですから、その主張は虫が良すぎると思います。 xx 今伺った点は、X社に対する反論材料とはなるでしょう。表明保証事項に関する違反について、わずかな注意さえ払えば表明保証違反の事実について知りえたのに、これに気づかないまま株式譲渡契約を締結した場合、表明保証をしたものは表明保証違反の責任を免れる旨述べる裁判例もあります。xxxxの立場からは、「X社は、 Y社からのクレームの存在を認識しており、わずかな注意さえ払えばY社の解除権の存在を知りえたのに、これに気づかないまま株式譲渡契約を締結したのだから、当社は表明保証責任を負わない」と反論することはできないではありません。