Contract
中間取りまとめ
平成 27 年8月
消費者委員会 消費者契約法専門調査会
目次
はじめに 1
第1 見直しの検討を行う際の視点 2
第2 総則 4
1.「消費者」概念の在り方(法第2条第1項) 4
2.情報提供義務(法第3条第1項) 5
3.契約条項の平易明確化義務(法第3条第1項) 7
4.消費者の努力義務(法第3条第2項) 7
第3 契約締結過程 9
1.「勧誘」要件の在り方(法第4条第1項、第2項、第3項) 9
2.断定的判断の提供(法第4条第1項第2号) 11
3.不利益事実の不告知(法第4条第2項) 12
4.「重要事項」(法第4条第4項) 15
5.不当勧誘行為に関するその他の類型 17
6.第三者による不当勧誘(法第5条第1項) 23
7.取消権の行使期間(法第7条第1項) 24
8.法定追認の特則 25
9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果 27
第4 契約条項 30
1.事業者の損害賠償責任を免除する条項(法第8条第1項) 30
2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号) 31
3.消費者の利益を一方的に害する条項(法第 10 条) 35
4.不当条項の類型の追加 36
第5 その他の論点 44
1.条項使用者不利の原則 44
2.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除 45
3.継続的契約の任意解除権 47
おわりに 49
審議経過・委員名簿
はじめに
消費者契約法(平成 12 年法律第 61 号、以下「法」ということがある。)は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とする」(法第1条)ことなどを規定している。なお、法制定時の衆参両院の附帯決議では、法の見直しを含め適切な措置を講ずることが掲げられている。
平成 13 年4月1日の法施行後、消費生活相談の場において紛争解決に活用さ
れるとともに、裁判例等も蓄積している。また、平成 18 年の法改正により、消費者団体訴訟制度(差止請求)が導入されている。
他方で、情報通信技術の発達や高齢化の進展など法施行後の社会経済状況の変化に対応する必要がある。しかし、これまで法の規律のうち、契約締結過程及び契約条項の内容に係る部分(いわゆる「実体法部分」)の抜本的な見直しは、行われていない。この点、法の見直しについて、平成 27 年3月に消費者政策会議で決
定された消費者基本計画工程表では、平成 27 年度に改正法案の検討を行うことが明記されている。
上述の状況を踏まえ、平成 26 年8月に内閣総理大臣から消費者委員会に対し、
「施行後の消費者契約に係る苦情相談の処理例及び裁判例等の情報の蓄積を踏まえ、情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点から、契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律等の在り方」の検討を行うように諮問がなされた。その後、平成 26 年 10 月に消費者委員会に設置された消費者契約法専門調査会において、消費者庁提出資料に基づく検討を行うなど合計 17 回にわたり精力的な審議を行った。今回の中間取りまとめは、これまでの審議の内容を踏まえ、現時点における到達点を整理するとともに、今後の検討の方向性を示すものである。
第1 見直しの検討を行う際の視点
見直しの検討を行う際には、法施行後の社会経済状況の変化、裁判例等の蓄積、民法等との関係などの視点を踏まえて進める必要があると考えられる。具体的には、以下のとおりである。
まずは、平成 13 年の法施行後、インターネットの普及を通じ、消費者による情報の収集等が容易になっている側面もあるが、消費者が関わる取引が多様化・複雑化し、情報の量も増加する中で消費者がトラブルに巻き込まれる場合もある。そこで、消費者が正確な情報を選択した上で、意図した内容の取引を行うことができるように配慮する必要がある。また、高齢化の進展により、事業者も含めた多様な主体により高齢者の利便に資するような生活支援サービスが提供される一方で、一人暮らしの高齢者や認知症の可能性のある者等に対し、その弱みにつけ込むようにして不必要と思われる分量の商品を購入させている事例等も見受けられる。このような社会経済状況の変化を踏まえつつ、法の実効性を確保する必要がある。
また、法施行後の裁判例や消費生活相談事例の傾向等1を踏まえ、紛争解決の基準の明確化を図るとともに、消費生活相談の現場においても法が十分に活用されるように留意する必要がある。同時に、消費者契約全般を対象とする包括的な民事ルールである消費者契約法については、xxな業種・業態に関わるものであることを踏まえ、事業者の予測可能性を担保するとともに、経済活動が円滑に進み、
「国民経済の健全な発展に寄与する」(法第1条)ように留意する必要がある。裁判で争われる場合のみならず、裁判外における事業者と消費者の関係も含めて消費者契約法の影響が及ぶ点を踏まえ、問題となる事例の解決による消費者被害の救済を図るとともに、通常の取引に与える影響についても留意する必要がある。
さらに、消費者契約法については、一方で、民法(明治 29 年法律第 89 号)2との関係では、その特別法に当たる。すなわち、民法は対等当事者間における法律
1 法の見直しに向けた理論的な分析として、消費者委員会「『消費者契約法に関する調査作業チーム』論点整理の報告」(平成 25 年8月)が取りまとめられている。また、法施行後の裁判例や消費生活相談事例等については、消費者庁「消費者契約法の運用状況に関する検討会報告 書」(平成 26 年 10 月)で整理されている。
2 なお、民法(債権関係)の改正については、法制審議会における審議を経て、「民法の一部を改正する法律案」(第 189 回国会閣法第 63 号)が平成 27 年3月 31 日に国会に提出されている
(以下、同法律案による改正後の民法を「新民法」という。)。
関係を念頭に置くものであるのに対し、消費者契約法は消費者と事業者との間に 存在する構造的な「情報の質及び量並びに交渉力の格差」(以下「情報・交渉力の 格差」という。)に鑑み、意思表示の取消しや契約条項の無効等を規定することに より、「消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全 な発展に寄与することを目的とする」(法第1条)ものである。他方で、消費者契 約法は、個別の業法との関係では、消費者契約に関する一般法に当たる。すなわ ち、個別の業法における民事ルールが特定の分野に限り適用されるのに対し、消 費者契約法の規定は消費者契約一般に当てはまる民事ルールとして取引の適正 化を図ろうとするものである。このような消費者契約法の位置付けを踏まえつつ、社会経済状況の変化への対応としてふさわしい規定の在り方を考える必要があ る。
なお、取引の適正化を図るためには、行政、消費者・消費者団体、事業者・事業者団体等との間の相互の連携により、消費者に対する情報提供、消費者教育の充実を図ることも重要である点に留意する必要がある。また、消費者と事業者の間の適正な取引の確保に関する法律や事業者団体における自主規制ルールの運用状況等も踏まえて適切な対応を図ることが重要である点にも留意する必要がある。
第2 総則
1.「消費者」概念の在り方(法第2条第1項)
ア 法第2条第1項は、消費者とは「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。」と規定している。
このような「消費者」概念については、法が情報・交渉力の格差に着目するものであることを踏まえ、契約当事者間に実質的な格差があるときには、事業として又は事業のために契約の当事者となる個人や法人その他の団体であっても、消費者として扱うべき場合があり、そのような結論を導くためには、規定の改正又はそのような解釈の可能性を明らかにすることが必要であるという指摘がある。
イ 消費者と事業者の間の情報・交渉力の格差が生じる要因は、基本的には、
「事業として」、すなわち、同種の行為(契約の締結、取引)を反復継続して行っているか否かであるが、それに加え、社会から要請されている事業者の責任という視点も必要であると考えられる3。このような現行法の考え方に基づき、「消費者」概念の在り方について問題となる裁判例や消費生活相談事例を踏まえ、第7回消費者契約法専門調査会(以下、単に「第○回」という場合には、同回の消費者契約法専門調査会を指すものとする。)では、以下の5つの類型に区分4して検討を行った。
① 当該契約以外に事業者性を基礎付ける事情がない場合
② 事業の実体がない場合
③ 事業を行う個人について、自己の事業に直接関連しない取引を行うために契約の当事者となる場合
④ 団体が実質的には消費者の集まりである場合
⑤ 形式的には事業者に該当するが、相手方事業者との間に消費者契約に準ずるほどの格差がある場合(すなわち、事業者間契約ではあるが、実質的には、一方の当事者である事業者と相手方である事業者との間に格差がある場合)
第7回の議論においては、これらの問題につき、基本的には事案に応じた柔軟な法の解釈・適用で対応することができ、それで足りるが、逐条解説等
3 消費者庁消費者制度課編『逐条解説 消費者契約法[第2版補訂版]』(商事法務)(以下「消費者庁逐条解説」という。)76 頁
4 第7回資料2「1.『消費者』・『事業者』概念の在り方」
でその点を明記しておくべきという意見があった。例えば、①については、客観的に見て事業を行う目的があるかないかを捉えることにより法が適用されるかを判断すれば足りるという意見、②に関し、個人について事業の実体がない場合は、現行法の解釈による対応で特段の問題は生じていないという意見があった。また、定義規定はみだりに変えるべきではないという意見や、ある程度明確な基準で該当性を判断することができるものとすべきであるという意見があり、例えば、③の直接関連しないという概念が不明確であるという意見があった。これに対し、④については、権利能力なき社団を消費者とみなした裁判例もあることを踏まえ、実質的には消費者の集合体にすぎないと見ることができる団体であれば法の適用があると考えるべきという意見やそれを法文化すべきという意見がある一方で、消費者の集合体とみなす団体とそうではない団体を区別する基準を明確に作ることができるかどうかが課題であるという意見もあった。⑤については、実質的に消費者と大差のない小規模事業者に消費者保護規定が準用される旨を法文化すべきであるという意見もあったが、事業者間の格差の問題は、事業者間取引に適用される法律において検討すべき事柄であり、中小企業と大企業との間の事業者間契約を消費者契約法の適用対象とすることは慎重に検討すべきという意見もあった。
ウ 以上を踏まえ、「消費者」概念の在り方については、法の適用の前提となるものであり、その範囲を明確に定める必要がある中で、問題となる場合においても、基本的には、法の適切な解釈・適用により相応に対処できるものと考えられる。他方で、実質的には消費者の集合体にすぎない団体と事業者との間の契約のうち、現行法を形式的に適用すると事業者間契約となるが、実質的には消費者契約とみるべき場合に関しては、法を適用することを可能とする観点から、法を改正して「消費者」概念を拡張することも考えられる。この点については、明確な基準が設定できるかどうかを含めて引き続き検討すべきである。なお、裁判例を逐条解説等で紹介するなど、法の適切な解釈・適用に資する取組を進めることも重要である。
2.情報提供義務(法第3条第1項)
ア 法第3条第1項は、事業者に対し、「消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない」と規定している。
これに対し、消費者と事業者との間の情報・交渉力の格差を是正して消費
者の利益の擁護を図るという消費者契約法の立法目的との関係において、情報提供義務が努力義務にとどまり、具体的な救済手段を定める規定ではないことは不十分であるとして、消費者契約における事業者の情報提供義務を規定するとともに、同義務違反の効果を検討すべきという指摘がある。
イ 情報提供義務違反の効果については、損害賠償と意思表示の取消しの両方が考えられる5ところ、損害賠償とすることに賛成する意見もあったが、不利益事実の不告知の要件を明確にすることで意思表示の取消しが認められる範囲を広げる方に意味があるという意見もあった。そこで、意思表示の取消しについては、後述の第3の3.不利益事実の不告知の論点において検討することとし、ここでは効果として損害賠償を定める規定を設けることについて検討する。
この点を検討した民法(債権関係)改正の議論やxxx上の情報提供義務違反の効果として損害賠償責任を認めた裁判例を踏まえて損害賠償責任を基礎付ける情報提供義務の発生要件を検討すると、概ね、①事業者にとって当該情報を入手することが可能であること(事業者の情報入手可能性)、②当該情報が消費者の契約締結の意思決定に重要な影響を及ぼすものであること(情報の重要性)、③消費者にとって当該情報を入手することが困難であること(消費者の情報入手困難性)、④事業者において、消費者が情報を知らなかったことによって生じた損害を賠償させることが不相当でないことが認められる場合が考え得る。
これらの要件に対しては、②の要件のみで足りる又は②の要件を中心とすべきという意見がある一方で、②の要件の明確性が疑問であるという意見や法第4条第4項の「重要事項」との関係を整理した上で検討する必要があるという意見があった。また、規定の仕方によっては、これまで民法のxxxに基づいて認められていた範囲をかえって狭めることとなり、結果的に消費者の利益の擁護に資するものとはならない可能性があるという意見もあった。
ウ 以上を踏まえ、情報提供義務違反の効果として損害賠償を定めることについては、消費者契約一般に通用する情報提供義務の発生要件の在り方について、慎重に検討する必要がある。まずは、一定の事項の不告知による意思表示の取消しの規律を検討した上で、必要に応じ、更に情報提供義務違反の効果を損害賠償と定める規定を設けるべきかどうかを検討することが適当で
5 第7回資料2「2.情報提供義務」
ある。
3.契約条項の平易明確化義務(法第3条第1項)
ア 法第3条第1項は、「事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、 消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平 易なものになるよう配慮する」ように努めなければならないと規定している。
これに対し、契約条項の内容が明確であることは、紛争を未然に防止することにつながるとともに、契約締結後に紛争になった場合もその解決を容易にするものであるとして、法的義務とすべき旨の指摘がある。また、事業者に条項の意味を明確にする義務があるという観点から、消費者契約に含まれる条項の意味が後述(第5の1.ウ)の「通常の方法による解釈」を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合には、条項使用者である事業者にとって不利な解釈を採用すべきであるという考え方(条項使用者不利の原則)に基づき、そのような規律を設けるべき旨の指摘もされている。
イ 本専門調査会では、法的義務として定めるという意見もあったが、その意味をどこに求めるかについては様々な考え方が示された。
ウ 以上を踏まえ、契約条項の内容が不明確であり、その意味を確定することができない場合について、契約条項の解釈に関する条項使用者不利の原則を検討することが考えられる。よって、契約条項の平易明確化義務については、条項使用者不利の原則をどのように具体的に規律するかといった点を中心に、後述の第5の1.条項使用者不利の原則の論点において、検討することとする。
4.消費者の努力義務(法第3条第2項)
ア 法第3条第2項は、消費者の努力義務として、「消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努める」と規定している。この規定の趣旨は、消費者と事業者との間には情報・交渉力の格差が存在することから、消費者には自ら情報を収集する努力までも求めるものではなく、事業者から情報が提供されることを前提として、少なくとも提供された情報は活用する
ことを消費者に求める6ものである。
これに対し、法第3条第2項が事業者によって消費者の責任や過失を強調する手段に用いられるおそれがあるとして、削除すべきという指摘がある。
イ 本専門調査会では、消費者保護法に消費者の努力義務を規定すべきではないという意見や、民事ルールを定める法に努力義務を規定する必然性はないという意見もあった。他方で、情報通信技術の発達により、消費者自身が情報を収集することが容易になり、入手できる情報量が増加している側面もあるほか、法第3条第2項は第1項と表裏であり、あくまでも努力義務を規定しているものであることから、削除する必要はないという意見もあった。
ウ 以上を踏まえ、法第3条第2項については、現時点では、同項の規定を削除しないこととするのが適当である。
6 消費者庁逐条解説 98 頁
第3 契約締結過程
1.「勧誘」要件の在り方(法第4条第1項、第2項、第3項)
ア 法第4条第1項から第3項までの規律は、事業者が「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」一定の不当な行為をした場合に、消費者が意思表示を取り消すことができる旨を定めている。ここにいう「勧誘」とは、「消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の勧め方」をいうとされ、不特定多数向けのもの等客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられない場合は「勧誘」に含まれないとされている7。
しかしながら、情報通信技術の発達・インターネット取引の普及等の影響も受け、現代では、情報の発信や収集の方法、あるいは契約締結の方法が多様化したことなどにより、不特定の者に向けた広告等を見て契約を締結することも多くなり、これによりトラブルに至った事例も見られる。また、不特定の者に向けた広告等の記載や説明をもって、取消しの規定の適用を認めたと考えられる裁判例8も見られる。
これらを踏まえ、不特定の者に向けた広告等に不実告知等があった場合にも、消費者契約法上の意思表示の取消しの規律を及ぼすべきであるという考え方がある。
イ 本専門調査会では、消費者の多くは様々な情報を収集した上で物品を購入しており、実際の購入手段における広告等の記載や説明だけが意思表示に影響しているとは限らないという意見も見られたが、不特定の者に向けた広告等の中にも、消費者の意思形成に直接的に影響を与えるものがあり、取消しの規律の適用を認めるべき場合があること自体については、委員から特段の異論はなかった。
具体的な対応との関係では、第8回において、不特定の者に向けた広告等が消費者の意思形成に直接的に影響を与えることがあるという実情を踏まえ、また、働きかけが特定の者に向けたものか不特定の者に向けたものかによって区別する理由はないとして、「勧誘」という文言を「契約の締結に関して」又は「契約が締結されるまでの間に」という文言に改めるという案9に賛
7 消費者庁逐条解説 109 頁
8 例えば、xxx判平成 20 年1月 17 日。
9 第8回資料1「1.『勧誘』要件の在り方」乙案
成する意見が出された。他方で、この案のように不特定の者に向けた広告等について、特に限定を付さないこととする案については、予期しないところに適用対象が拡大しかねないという懸念が示された。
これを踏まえ、第 13 回では、現行法の「勧誘」という文言を維持した上で、これに不特定の者に向けられた働きかけが含まれることを示すため、「勧誘
(不特定の者に対するものを含む)」という文言にするという案10も示された。委員の中には、このような案を支持する意見も見られたが、対象となる範囲 が広くなりすぎて混乱を招くとして、反対する意見もあった。
また、取消しの規律を適用する対象を不特定の者に向けた広告等一般に拡大するのではなく、その範囲を具体的に画する観点から、「勧誘」という文言を「当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもってする行為」に改めるという案11も提示された。この案については、適用範囲を適切に画しているかを更に検討し、文言を修正する必要性が指摘されたものの、方向性については支持する意見も見られた。
なお、取消しの規律の適用対象に不特定の者に向けた広告等のうち一定のものを含めるとしても、契約当事者となる事業者が不適切な情報提供の主体でない場合には、当該事業者が責任を負うこととすべきではないという意見も出された。他方、これに対しては、広告等の主体は消費者の関知しない事情であり、これによって取消しの可否が左右されるべきではない等の指摘も見られた。
ウ 事業者が、当該事業者と消費者との間でのある特定の取引を誘引する目的をもってした行為12については、それが不特定の者を対象としたものであっても、それを受け取った消費者との関係では、個別の契約を締結する意思の形成に向けられたものと評価することができると考えられる。そこで、事業者が、当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもってする行為をしたと客観的に判断される場合、そこに重要事項についての不実告知等があり、これにより消費者が誤認をしたときは13、意思表示の取消しの規律を適用することが考えられるが、適用対象となる行為の範囲については、事業者に与える影響等も踏まえ、引き続き検討すべきである。
10 第 13 回資料1「1-1.『勧誘』要件の在り方」B案
11 同A案
12 これは、取消しの規律を適用する対象として、不特定の者に向けた広告等一般を指すものではなく、適用対象とすべき行為の範囲を具体的に画する趣旨のものである。
13 不特定の者に向けた働きかけにおいて消費者を困惑させることは考えにくいことから、誤認類型に限定している。
2.断定的判断の提供(法第4条第1項第2号)
ア 法第4条第1項第2号は、断定的判断の提供の対象について、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」と定めている。ここでいう「将来における変動が不確実な事項」とは、「消費者の財産上の利得に影響するものであって将来を見通すことがそもそも困難であるもの」をいうとされる14。
これを前提とすると、「財産上の利得に影響するもの」でなければ、断定的判断の提供の対象に含まれないことになり、「必ず痩せる」、「必ず成績が上がる」、「運勢が良くなる」等と言われて契約を締結した事例では、断定的判断の提供による取消しは認められないということになる。これに対し、断定的判断の提供の対象となる事項を消費者の財産上の利得に影響するものに限定すべき合理的理由はなく、これを条文上も明確化すべきであるという考え方がある。
イ 委員からは、事業者が不確実な事項を確実だと断定した場合に、契約を締結するか否かの消費者の意思決定に影響を及ぼしやすいということは、財産上の利得に影響する事項に限って妥当するものではないとして、財産上の利得に影響しない事項も断定的判断の提供の対象にすべきであるという意見が出された。また、断定的判断の提供による取消しが、将来の断定できない事項を断定するという行為態様を問題とし、それによって消費者が誤認した場合に認められるものなのであれば、痩身効果や成績の向上などについて、消費者自身の能力や体調などによって結果が左右されるにもかかわらず断定的な判断を提供したという行為態様がある以上、そのような場合を対象から排除すべきではないという意見も見られた。また、痩身効果や成績の向上との関係では、「将来における変動」という要件が適切か否かも問題となるという指摘も見られた。
これに対して、①「必ず痩せる」、「必ず成績が上がる」等のように、客観的な効果・効能が問題となる場合は、不実告知による取消しによって対応することができ、②「運勢が良くなる」等のように、客観的でない効果・効能が問題となる場合は、消費者の心理状態を利用して不必要な契約を締結させるような場合が多いことから、そのような場合に契約の効力を否定する規定
14 消費者庁逐条解説 116 頁
を設けることの検討(後述の第3の5)に委ねるべきであるという意見が見られた。また、現行法の文言の下でも、財産上の利得に影響しない事項も断定的判断の提供の対象に含まれるという解釈は可能であるという指摘もあった。
ウ 裁判例や消費生活相談事例において、財産上の利得に影響しない事項が問 題となる典型的な事例は、①痩身効果や成績の向上その他の商品・役務の客 観的な効果・効能が問題となるものであるが、これは現行法上の不実告知と して捉えられる場合もあると考えられる。また、②運命・運勢などの客観的 でない効果・効能が問題となる事例については、消費者の心理状態を利用し て不必要な契約を締結させた場合に問題となることが多いことから、まずは、後述の第3の5において、そうした場合に対処することができる規定を設け ることを検討することとするのが適当である。
その上で、それでもなお財産上の利得に影響しない事項や「将来における変動」が問題とならない事項についても対象にする必要性があると考えられる場合には、その方策を検討すべきである。なお、その際には、立法的な措置のほか、現行法の文言を維持した上で、断定的判断の提供の対象が必ずしも財産上の利得に影響を及ぼす事項に限定されるわけではないことを逐条解説等に適切に記載することも考えられる。
3.不利益事実の不告知(法第4条第2項)
ア 不利益事実の不告知については、裁判例の状況を踏まえ、利益となる旨の告知が具体的であり、不利益事実との関連性が強いため、不実告知といっても差支えがない場合(不実告知型)と、利益となる旨の告知が具体性を欠き、不利益事実との関連性が弱いため、不利益事実が告知されないという側面が際立つことになり、実質的には故意の不告知による取消しを認めるに等しくなる場合(不告知型)とに類型化して検討する考え方がある。
イ 第8回及び第 13 回で議論が行われたところ、第8回においては、類型を分ける考え方自体については特に異論はなかった。もっとも、第 13 回においては、不実告知型の事案と不告知型の事案を分ける明確な基準を設けることができないのであれば、分けて検討すべきではないという意見があった。この意見に対しては、不実告知型は、当該消費者にとって特定の利益となる旨を告げ、かつ、当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を告げなかった場合であ
ると考えることができるので、不実告知型と不告知型を区別する基準は明確であるという意見もあった。
ウ そこで、裁判例の状況を踏まえ、不実告知型と不告知型とに類型化して検討するのが適当である。
(1) 不実告知型
ア 不実告知型(利益となる旨の告知が具体的で不利益事実との関連性が強いと考えられる類型)について、従来、故意要件があることにより消費生活相談の現場において使いづらいという指摘があったことのほか、裁判例では、先行行為が認定できる事案において、故意要件の充足が必ずしも明確に判断されていないにもかかわらず取消しを認めているものがあることから、故意要件を削除するという考え方がある。
イ 第8回及び第 13 回では、不実告知の場合には故意も過失も要求されないこととのバランス上、故意・過失は不要とすべきであるという意見や、裁判外の場面では、事業者から「知らなかった」「わざとではない」と反論されるとそれ以上の交渉が不可能な状況があるので、故意要件を削除することに賛成するという意見があった。
他方で、第 13 回では、故意要件が取引の安定性への配慮から設けられたことを踏まえ、取引の安定性を劣後させてよいのかを議論する必要があり、各業法における不告知に関する規定には故意要件を定めるものがあることからすると、慎重に検討する必要があるという意見があった。さらに、事業者が不利益事実を知らずに先行行為をしてしまった場合にも取消しが認められるのは、事業者に酷であるという趣旨の意見もあったが、これに対しては、不実告知型は不実告知に匹敵するような類型で、不実告知の場合には事業者に故意又は過失があるかどうかに関係なく取消しが認められているのだから、事業者に酷であるとまではいえないのではないかという趣旨の指摘もあった。
ウ 不実告知型については、先行行為として告げた利益と告げなかった不利益事実とは表裏一体で一つの事実と見ることができることからすると、利益となる旨だけを告げることは、不利益事実が存在しないと告げることと同じであると考えることができる。そこで、不実告知(法第4条第1項第1号)と同視して取り扱うこととし、不実告知において事業者の主観的要件を要求し
ていないこととの均衡から、故意要件を削除するのが適当である。また、事業者の免責事由(法第4条第2項ただし書)に相当する規定を設けるかどうかについては、引き続き検討すべきである。
(2) 不告知型
ア 不告知型(先行行為が具体性を欠き、不利益事実との関連性が弱いと考えられる類型)について、具体的な先行行為を認定することなく故意を認定して不利益事実の不告知として取消しを認めた裁判例があり、特定商取引に関する法律(昭和 51 年法律第 57 号)(以下「特定商取引法」という。)においては先行行為がない場合であっても故意の不告知による取消しが認められていることから、先行行為要件を削除するという考え方がある。また、情報提供義務違反が問題となる事案のうち、契約の効力を否定すべきものについては、不告知型において検討するという考え方がある。
イ まず、第7回では情報提供義務が論点として取り上げられ、その中で、情報提供義務違反の効果について、消費者が事業者に対して損害賠償請求をすることができるという案15が示された。これを支持する意見がある一方で、賠償範囲等の判断が難しく、取引によっては取消しの方が損害賠償よりも負担が軽いこと等から慎重な検討を求める意見もあった。また、まずは契約の取消しの要件を議論すべきであり、それでは不十分だという場合に、中間的な解決として調整的に損害賠償を検討すべきではないかという意見もあった。
また、第8回では、不告知型において先行行為要件を削除するという案16について、検討が行われた。故意による不告知があるにもかかわらず、先行行為がなかったり立証することができないために取消しが認められないのは妥当ではないという理由や、特定商取引法における規律と揃えるのであれば事業者にとっても支障はないはずであるという理由で、提案に賛成する意見があった。他方で、先行行為要件によって事業者の告知すべき不利益事実の範囲が画されていることから、反対する意見もあった。
以上を踏まえ、第 13 回では、以下のように3つに分けて検討が行われた。第1に、契約締結過程における事業者の消費者に対する情報提供義務が問題となる事案のうち、契約の効力を否定すべきものについては、不利益事実の
15 第7回資料2「2.情報提供義務」2
16 第8回資料2「3.不利益事実の不告知」2
不告知(不告知型)において検討するという案17が示されたところ、委員から特段の異論はなかった。第2に、不告知型について、故意要件を維持した上で、先行行為要件を削除する場合、取消しが認められる故意の不告知の対象となる事項をどのように限定するかという検討課題18が示された。具体的には、不実告知型において「重要事項」の範囲を拡張したとしても、不告知型においては現行法の「重要事項」の範囲を維持する考え方が示され、委員の中には、現行法の「重要事項」は事業者側の支配領域に属する事項を定めているのでこれを故意の不告知の対象とするのは合理的である等として、理解を示す意見も見られた。また、第8回と同様、先行行為要件の削除に反対する意見があった。また、故意要件を過失又は重過失に広げることを検討すべきであるという意見や、沈黙による詐欺との関係を整理する必要があるという意見もあった。第3に、情報提供義務を法的義務とした上で、情報提供義務違反の効果として消費者が事業者に対して損害賠償を請求することができるとする場合、消費者契約一般に通用する情報提供義務の発生要件の在り方19について、引き続き検討することとされた。
ウ 不利益事実の不告知のうち、不告知型については、裁判例や特定商取引法 の類例を踏まえ、事業者の予測可能性を確保するため、不告知が許されない 事実の範囲を適切に画した上で、先行行為要件を削除することが考えられる。この場合、仮に不実告知及び不実告知型の不利益事実の不告知との関係で
「重要事項」の概念(法第4条第4項)を拡張するとしても、不告知型との関係ではこれを拡張しないこととする等、不告知が許されない事実の範囲について、引き続き実例を踏まえ検討すべきである。
4.「重要事項」(法第4条第4項)
ア 現行法は、取消しの対象となる行為を適切な範囲に限定するため、不実告知や不利益事実の不告知による取消しを、それが「重要事項」についてされた場合にのみ認めている。そして、「重要事項」とは、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」又は「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」であって「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判
17 第 13 回資料1「2-3.情報提供義務/不利益事実の不告知(不告知型)」1
18 同2
19 同3
断に通常影響を及ぼすべきもの」であると規定している。もっとも、契約を締結した動機等の契約締結時に前提とした事項について不実告知を受けたという被害も発生しており、「重要事項」を柔軟に解釈することによって取消しを認めた裁判例がある。また、特定商取引法には、契約の締結を必要とする事情に関する不実告知も取消しの対象とする規定がある。これらの点を踏まえ、「重要事項」について、法第4条第4項各号に掲げられる事項に限られないこととすべきという考え方がある。
イ 第8回では、法第4条第4項各号を削除する案、同項各号が例示であるこ とを明示する案20、同項各号の事項に加え、「消費者が当該消費者契約の締結 を必要とする事情に関する事項」を「重要事項」に含める案21が示された。こ のうち、法第4条第4項各号を削除する案を支持する意見はなかったものの、他の案については、それぞれ支持する意見が出された。また、特定商取引法 の規律を参考にして消費者契約法における重要事項を規律すべきであると いう意見も出された。
これを踏まえ、第 13 回では、まず、法第4条第4項各号の事項に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を加えた上で、同項各号が例示であることを明示する案22が示された。この案については、法第
4条第4項各号に定めた事項以外の事項も「重要事項」に含めることができるため支持するという意見がある一方で、取消権の範囲が明確ではなくなるとして反対する意見もあった。また、別の案として、法第4条第4項各号の事項に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」、
「当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件が有利であると認められる事情に関する事項」、「当該消費者契約の締結が合理的であると認められる事情に関する事項」等の事項を加える案23も示された。法第4条第
4項各号に限定列挙として具体的な事項を加えるという方向性には賛成する意見があったものの、提案されている事項が問題となっている事案を捉えるための文言として適切といえるのかについて疑問を呈する意見があり、
「当該消費者契約の締結が合理的であると認められる事情に関する事項」に替えて「当該消費者契約の締結に伴い消費者に生じる危険に関する事項」を加えてはどうかという意見もあった。また、問題となっている事案の中には、現行法により適切に処理し得るものがあるので、その場合については法第4
20 第8回資料2「4.重要事項」甲案
21 同乙案
22 第 13 回資料1「2-2.『重要事項』」B案
23 同A案
条第4項各号に新たな事項を加えることは不要ではないかとの意見もあった。
ウ 「重要事項」の適用範囲を明確にしつつ、かつ、裁判例の状況及び特定商 取引法の規定を踏まえ、「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情 に関する事項」を現行法第4条第4項所定の事由に追加して列挙することで、事業者が消費者に対して契約を締結する必要があると誤認させるような不 実告知等を行う場合も契約の取消しを可能にすることが適当と考えられる24。さらに、当該消費者契約の締結が消費者に有利であることを裏付ける事情
(例えば、事業者が消費者に一般市場価格は購入価格よりも大幅に高いことを説明した事例における一般市場価格などが想定される。)や、当該消費者契約の締結に伴い消費者に生じる危険に関する事項等を列挙することのほか、列挙事由を例示として位置付けることも考えられるところであり、引き続き検討すべきである。
5.不当勧誘行為に関するその他の類型
(1) 困惑類型の追加
ア 法第4条第3項では、困惑類型の不当勧誘行為として、不退去(同項第1号)及び監禁(同項第2号)の2つの行為態様を規定している。もっとも、実際には、例えば、自宅や勤務先に何度も電話をかけられたり、声を荒げて怒鳴られたりするなど、不退去・監禁以外の行為態様による勧誘を受けて消費者が困惑したと考えられる事例も存在することから、困惑類型の取消しの対象を、不退去・監禁以外の行為にも拡張すべきであるという考え方がある。
イ 委員からは、事業者の不当な勧誘行為で消費者が困惑して契約を締結してしまったという事案は、不退去・監禁の事案に限られないとして、困惑類型の取消しの対象を拡大することに賛成する意見が出された。
24 したがって、消費者が内心において契約の締結が必要と思った事項が、直ちに「重要事項」に該当するものではない。なお、「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を追加したとしても、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」である場合に限り、「重要事項」に該当するとされる点は変わらない(法第4条第4項柱書)。
具体的には、①執拗な電話勧誘及び②x迫等による勧誘が取り上げられ、これらを困惑類型の不当勧誘行為に追加するという案が示された25。
(ア)まず、①執拗な電話勧誘については、自宅や勤務先に何度も電話がかかってくるというのは、現行法で取消事由とされている不退去・監禁と同様、勧誘から逃れられないという事情があることから、これについて取消しを認めるべきであるという意見も見られた。他方、電話勧誘販売については、それに特化した規律が特定商取引法に設けられていることから、消費者契約一般に適用される消費者契約法ではなく、まずは特定商取引法の規律の在り方の中で議論すべきであるという意見も見られた。
(イ)次に、②威迫等による勧誘については、第9回に事業者が「威迫したこと」を要件とする案26、及び、事業者が「粗野若しくは乱暴な言動を交えて、又は迷惑を覚えさせるような方法」で勧誘したことを要件とする案27が示されたが、これらについては、要件が不明確であり予見可能性を欠く、消費者の主観によって左右されることになりかねない等の意見が出された。また、このうち、「迷惑を覚えさせるような方法」については、現行法の不退去・監禁や執拗な電話勧誘の要件との相互関係を整理する必要があるという指摘も見られた。
これを受けて、第 14 回では、事業者が「威迫したこと」を要件とする案
28のほか、怒鳴ったり、居丈高な態度で職場に出向くと脅されたりした事案
を念頭に置いた上で、要件を更に限定し、事業者が「粗野又は乱暴な言動を交えて威迫をしたこと」を要件とする案29が示された。委員の間では、後者で念頭に置かれている事案において取消しを認めるべきであるという点については意見の一致が見られたが、他方で、判断の客観性が担保される文言にする必要があるという意見があった。また、殊更に入墨を見せるなど粗野・乱暴な言動を伴わない威迫行為もあるし、パソコンの画面に警告を表示させるなど威迫行為に当たらない困惑惹起行為もあるため「、粗野又は乱暴な言動を交えて」「威迫したこと」という要件では、対象が限定されすぎているという意見も見られた。なお、このうち、パソコンの画面に警
25 第9回資料1「1-1.事業者の行為により自由な意思決定がゆがめられる類型」の1の
(1)及び(2)
26 同(2)甲案
27 同乙案
28 第 14 回資料1「1-1.困惑類型の追加」②のA案
29 同B案
告を表示させるといった事案については、取消しの対象にする必要はないという意見もあった。
ウ ①執拗な電話勧誘については、自宅や勤務先といった生活・就労の拠点で電話による勧誘を受け続けることは、現行法で取消事由とされている不退去又は監禁と同様に、当該勧誘から逃れるためにやむなく消費者が契約を締結したという状況にあるとも言い得る。もっとも、現在、特定商取引法の見直しに関し、電話勧誘販売における勧誘に関する規制の在り方について検討されていることから、その状況等を注視しつつ、必要に応じ、検討すべきである。
他方、②威迫による勧誘については、「威迫」(脅迫に至らない程度の人に不安を生じさせる行為)によって消費者が困惑し、契約を締結した場合について、消費者の保護を図る観点から、適用範囲を明確にしつつ取消事由として規定することが適当である。
(2) 不招請勧誘
ア いわゆる不招請勧誘(消費者からの要請がないにもかかわらず事業者が一方的に行う勧誘)については、その不意打ち的な性質から生ずる問題が指摘されていることもあり、消費者契約法において規定を設けるべきであるという考え方がある。
イ 本専門調査会では、不招請勧誘についての行為規制を設けるとともに適格消費者団体による差止請求の対象とするという案30、不招請勧誘により消費者が被った損害について事業者の損害賠償義務を規定するという案31、意思表示の取消しを認める規定を設けるという案32が示された。このうち、損害賠償義務を規定する案については賛成する意見も見られたが、保護法益や損害の算定方法についての問題点を指摘する意見もあった。このほか、消費者契約一般に適用される消費者契約法において、不招請勧誘に関する規律を設けることについては、慎重であるべきとする意見やその必要性に疑問を呈する意見も見られた。
30 第9回資料1「1-1.事業者の行為により自由な意思決定がゆがめられる類型」の2の甲案
31 同乙案
32 同丙案
また、特定商取引法の改正の議論の中で、訪問販売や電話勧誘販売における勧誘に関する規制の在り方について検討されていることから、消費者契約法に不招請勧誘に関する規律を設けることについては、その必要性があるか否かを含めて、特定商取引法の改正の議論の動向やその結果を踏まえた上で検討するという考え方も示され、これについて特に異論はなかった。
ウ いわゆる不招請勧誘について、その不意打ち的な性質から生ずる問題点を踏まえ、消費者契約法に規律を設けることも考えられるが、現在、特定商取引法の見直しに関し、訪問販売及び電話勧誘販売における勧誘に関する規制の在り方について検討されていることから、その状況等を注視しつつ、事例の集積等を待って、必要に応じ、検討すべきである。
(3) 合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型ア 社会の高齢化の進展に伴い、高齢者の消費者被害が多発している。高齢者
の中には、加齢や認知症等の影響により判断力が低下している消費者もおり、そのような消費者と契約を締結するに当たっては、事業者には、その知識、経験、財産状況等に適合した形での勧誘を行うことが求められるという考え 方が問題となることもある。また、消費者被害の中には、事業者が、認知症 等を患った高齢者等の判断力が不十分であることを利用して不必要な契約 を締結させた事例や、心理的な圧迫状態、従属状態等を利用して不必要な契 約を締結させたなどの事例も多く見られる。消費者契約法には、このような 事例を対象とした規律はなく、公序良俗(民法第 90 条。いわゆる暴利行為に
当たる場合)や不法行為(民法第 709 条)などの一般的な規定による救済に 委ねられているが、判例で示された暴利行為の要件は厳格であることのほか、これらの規定は抽象的であり、どのような場合に適用されるかが、消費者に とっては必ずしも明らかではない。
そこで、事業者が、消費者の判断力や知識・経験の不足、心理的な圧迫状態、従属状態など、消費者が当該契約を締結するか否かについて合理的な判断を行うことができないような事情を利用して、不必要な契約を締結させた場合に、必ずしも対価的な均衡を著しく欠くとまでいえなくても当該契約の効力を否定する規定を消費者契約法に設けるべきであるという考え方がある。
イ まず、前提として、事業者が認知症等を患った高齢者等の判断力の不足等を利用して不必要な契約を締結させた場合に、そのような契約の効力を否定
すべきであるという価値判断自体については、委員の間でも、特段の異論は見られなかった。
具体的な規定の方法については、暴利行為準則に関する判例33を参考に、①消費者の置かれた状況についての事業者の主観的態様(主観的要素)及び②締結された契約の内容や当該契約の締結がもたらす当事者の利益・不利益
(客観的要素)に着目して、消費者契約の特質に即した要件を定めることが試みられた。
(ア)まず、第9回では、上記の暴利行為準則を、近時の裁判例も参考にしつ つ、消費者契約の特質に即して修正した案(例えば、消費者の困窮その他 の消費者が当該契約をするかどうかを合理的に判断することができない 事情があることを利用して、事業者に不当な利益を得させ、又は消費者に 不当な不利益を与える法律行為は、無効とするという趣旨の規定を設ける)
34、及び、特定商取引法第9条の2の過量販売解除権の要件を参考にした案
(例えば、事業者が、消費者に上記の事情があることを認識した上で消費者契約を締結した場合であって、当該消費者契約の目的物が、日常生活において通常必要とされる分量を超える場合に、取消権又は解除権を認める規定を設ける。)35が提示された。
委員からは、①主観的要素について、何をもって「合理的に判断することができない」というかが曖昧であるという指摘があった。また、事業者の主観的態様については、そのような事情を認識するだけでは足りず、そのような事情を利用したことが必要ではないかという意見が見られた。
また、②客観的要素については、暴利行為準則の修正案に対しては、どのような場合に「不当な利益」「不当な不利益」といえるのか不明確であるという指摘があり、特定商取引法の過量販売解除権を参考にした案に対しては、目的物が過量であった場合に限らず、消費者の事情につけ込んで不必要な契約を締結させた場合には取消しを認めるべきであるという意見が出された。
(イ)以上を踏まえ、第 14 回では、①主観的要素及び②客観的要素のそれぞれについて、問題となる点が分析的に示され、議論が行われた。
33 大判昭和9年5月1日民集 13 巻 875 頁
34 第9回資料1「1-2.合理的な判断をすることができない事情を利用する類型」甲案
35 同乙案
①主観的要素については、まず、対象として想定される事情として、消費者の判断力の不足、知識・経験の不足、心理的な圧迫状態、従属状態が挙げられた。また、これらの事情を包括した要件が必要と思われるところ、第9回で示された案の「消費者が当該契約をするかどうかを合理的に判断することができない事情」という要件について、高度な経済的合理性を有する判断ができるか否かを問題にしているのではなく、一定の事情があるために、一般的・平均的な消費者であれば通常することができる判断ができない状況にあることを指すということが示された。さらに、そのような状態に対する事業者の主観的態様としては、認識していただけでなく、自己の利益のために当該状況を積極的に用いた(利用した)ことまで必要であるという考え方が示された。
委員からは、判断力や知識・経験の不足の程度は様々であり、それらの総合的な考慮が求められるとすると、当該消費者が、一般的・平均的な消費者と比較して合理的に判断することができないか否かを事業者が判断することは困難であるという意見も見られたが、これに対しては、事業者がそのような事情を認識していなかった場合には、利用するという要件を満たさないことになるから、問題ないのではないかという指摘があった。
また、「利用」という文言では範囲が広いため、「不当に」等の限定を加えることも提案された。
②客観的要素については、事業者の当該行為がなければ、一般的・平均的な消費者が通常締結したとは考えられない契約という趣旨で「不必要な契約」を締結させたことを要件とするという考え方が示された。
これについては、事後的に当該契約の締結が不必要であったとして、消費者から取消しを主張されることへの事業者の懸念が示された。また、その点も含め、客観的要素について、「不必要な契約」の内容を具体的に示す文言とすべきであるという指摘があった。
ウ 前述のとおり、事業者が消費者の判断力の不足等を利用して不必要な契約を締結させるという事例について、一定の手当てを講ずる必要性があることについては特に異論は見られなかった。その一方で、規定を設けるとしても、適用範囲を明確にしなければ、事業者の事業活動を過度に制約したり、事業活動を委縮させたりすることにもなりかねない。そこで、消費者の置かれた状況や契約を締結する必要性について、一般的・平均的な消費者を基準として判断することや、そのような消費者の状況を事業者が不当に利用した場合を規律の対象にすることなど、適用範囲の明確化を図りつつ消費者を保護す
る観点から規定を設けることについて、引き続き実例を踏まえて検討すべきである。
6.第三者による不当勧誘(法第5条第1項)
ア 法第5条第1項は、事業者から、当該事業者と消費者との間の消費者契約の締結について媒介の委託を受けた第三者が、消費者に対して不当勧誘行為をした場合に、消費者に意思表示の取消しを認めているが、事業者から委託を受けていない第三者(あるいは事業者と委託関係があるか不明な第三者)が不当勧誘行為を行った場合についての規定はない。そのため、事業者が、第三者が不当勧誘行為をしたことや、消費者がそれに基づく誤認・困惑によって意思表示をしていることを知っていた場合であっても、消費者は意思表示を取り消すことができないことになる。しかしながら、いわゆる劇場型勧誘のように、事業者と第三者との間に委託関係があるかが不明な事案で消費者が被害を受ける実例も見られる。そこで、事業者と第三者との間に委託関係が明らかでない場合であっても、新民法第 96 条第2項と同様に、事業者が、第三者の不当勧誘行為及びそれに基づく誤認・困惑によって消費者が意思表示をしていることを知っていた又は知ることができた場合36には、消費者に取消権を認める規定を設けるべきであるという考え方がある。
また、法第5条第1項の「媒介」とは、「他人間との間に法律行為が成立す
るように、第三者が両者の間に立って尽力すること」をいい、また、「両者の間に立って尽力する」とは、通常、契約締結の直前までの必要な段取り等を第三者が行っており、事業者が契約締結さえ済ませればよいような状況をいうとされている37。これに対して、法第5条第1項の適用場面を「消費者契約の締結について媒介をすることの委託」がある場合に限定すべきではなく、これを「消費者契約の締結について勧誘をすることの委託」として、同項の適用場面を拡大すべきという考え方がある。
イ まず、新民法第 96 条第2項と同様の規定を設けることについては、これに賛成する意見も見られたが、適用対象として想定される事例に見合う適切な要件の設定が必要であるという意見も出され、インターネット上での他人による評判やテレビでの芸能人の発言などの事業者のコントロールの及ばな
36 現行の民法第 96 条第2項は、第三者による詐欺について、「相手方がその事実を知っていたときに限り」その意思表示を取り消すことができるとされているが、新民法第 96 条第2項では、「相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り」とされている。
37 消費者庁逐条解説 156 頁
いものも対象に含まれてしまいかねないという懸念も示された。もっとも、これに対しては、当該第三者が不当勧誘行為をしたことだけではなく、それによって消費者が誤認・困惑し、その誤認・困惑に基づいて消費者が意思表示をしているということについての悪意又は有過失が要件とされているのであれば、取消しが認められる範囲は限定的であるという意見も見られた。また、「知ることができたとき」という要件では適用対象が広すぎるという意見も見られた。なお、事業者が法人その他の団体である場合には、その団体のどの立場の者が知り又は知ることができれば、事業者に悪意又は過失があると判断されるかが問題となるという指摘も見られた。
また、「媒介」の意義については、消費者庁逐条解説における説明を改め、必ずしも契約締結の直前までの必要な段取り等を第三者が行うような場合でなくても、「媒介」の委託に当たる可能性があることを明らかにすることで足りるのではないかという考え方が示され、特に異論は見られなかった。
ウ 悪質な事例において、契約相手である事業者と勧誘をする第三者との間の委託関係の立証が困難なケースがあることから、委託関係にない第三者による勧誘(この場合の「勧誘」の意義は、現行法のものを維持することが考えられる。)であっても、事業者が、当該第三者の不当な勧誘をしたこと及びそれに起因して消費者が誤認又は困惑し意思表示をしていることを知っていた場合に、消費者に取消権を認めることについて、引き続き検討すべきである。また、それを知っていた場合に取消権を認めるとすれば、それを知ることができた場合にも取消権を認めるべきか否かについても併せて検討すべきである。
なお、現行法第5条第1項にいう「媒介」の意義については、必ずしも契約締結の直前までの必要な段取り等を第三者が行っていなくてもこれに該当する可能性がある旨を逐条解説等において適切に記載すべきである。
7.取消権の行使期間(法第7条第1項)
ア 消費者契約法に基づく意思表示の取消権の行使期間については、短期の行 使期間は追認をすることができる時から6か月、長期の行使期間は消費者契 約の締結の時から5年と定められており、民法の規定に基づく取消権の行使 期間よりも短い。消費生活相談事例では、消費者がどこに相談してよいか分 からないまま時間が経過するなどの事情により、法定の行使期間内には取消 権を行使することができなかったというものがあるとの指摘がある。そこで、取消権の行使期間を伸長すべきであるという考え方がある。
イ 第9回では、消費者契約被害の相談現場においては、「騙されて恥ずかしい等々と思い悩むうちに6か月以上経ってしまった」等、取消権の行使期間が経過してしまう事案が少なからずあるとして、取消権の行使期間の伸長を支持する意見があった。その一方で、取引の安定性を著しく損なうとして反対する意見があった。また、実例を確認し、それらを参考に適切な行使期間を定めるべきではないかとの意見もあった。
以上を踏まえ、第 14 回では、今後も更に実例を調べた上で検討すべきであるという課題が示され、この点について委員の間で異論はなかった。委員からは、短期の行使期間を最低でも1年に伸長すべきであるという意見や、不当な勧誘を受けて契約をしたものの、仕方がないと諦めていたという事例が非常に多いことなどから、短期の行使期間を3年、長期の行使期間を 10 年とすべきであるという意見があった。
ウ 消費生活相談事例では消費者が相談に来た時点で既に取消権の行使期間を経過しているケースが多数存在することに鑑み、取消権の実効性を確保する観点からは行使期間を適切に伸長することが考えられるが、相手方事業者の取引の安全を図る必要性もあることを踏まえ、引き続き、実例を調査した上で検討すべきである。
8.法定追認の特則
ア 消費者契約においては、法に詳しくない消費者が、民法第 125 条各号の行為をし、明確に意図しないままに取消権を行使できなくなってしまうことがあると指摘されているところであり、消費者契約法の規定に基づく意思表示の取消しについては、法定追認の規定(民法第 125 条)の適用についての特則を設けるべきであるという考え方がある。
イ 第 11 回では、消費者契約法の規定に基づく意思表示の取消しについては法定追認の規定を適用しないこととする案38が示され、これを支持する意見もあったが、取引関係を著しく不安定にするため賛成できないという意見もあった。そこで、第 15 回では、取引の安定に配慮し、民法第 125 条第1号から第6号までに掲げられた行為のうち、一部についてのみ法定追認の規定を
38 第 11 回資料1「1.法定追認の特則」甲案
適用しないこととするという修正案39も示され、同条第1号に限定することに賛成する意見もあったが、取消原因の拡大が議論されていることも踏まえると、取引の安定が害されるおそれは払拭できないとして、反対する意見があった。後者の意見に対しては、事業者の側に取消原因に当たる不当勧誘行為があることが前提となるのだから、そのような事業者について取引の安定を考慮すべき理由はないのではないかという指摘もあった。
また、第 11 回及び第 15 回では、消費者が取消権を有することを知った後
に民法第 125 条各号に掲げる事実があった場合でなければ、法定追認の効力は生じないこととする案40も示された。法定追認の規定の適用を一律に排除するよりも、取消権を有することを知ったか否かにより区別する方が柔軟な解決が可能である等の理由から賛成する意見がある一方で、消費者が事業者から送付された商品を受領する場合であっても法定追認となるのであれば、取消権が機能しなくなるのではないかという指摘があった。また、この案によれば、事業者において消費者が取消権を有することを知っていたことを立証する必要があると考えられるが、これに対しては、第 15 回において、事業者に消費者の認識を立証させるのは酷であるとして、更なる検討を求める意見もあった。
第 11 回及び第 15 回では、民法の解釈・適用に委ねる案41も示され、これを支持する意見もあった。さらに、現行法における困惑類型(法第4条第3項)に限って法定追認の規定の特則を設けることも考えられるという意見もあった。
ウ 消費者が、不当勧誘に基づいて契約を締結した後、事業者から求められて代金を支払ったり、事業者から商品を受領したりした場合に一律に法定追認が認められるとすると、取消権を付与した意味がなくなりかねない。その一方で、法定追認事由が生じた場合には、契約が取り消されることはないと信頼した相手方事業者の取引の安全にも配慮する必要もあると考えられるが、事業者の側に取消原因に当たる不当勧誘行為があることが前提となっていることも考慮する必要がある。以上を踏まえると、消費者契約において特に問題となると考えられるのは民法第 125 条第1号に掲げられた「全部又は一部の履行」であることから、消費者契約法に基づく取消権との関係では、同号についてのみ、民法の法定追認の規定を適用しないこととするか、あるい
39 第 15 回資料1「1.法定追認の特則」甲案の(注)
40 第 11 回資料1・第 15 回資料1「1.法定追認の特則」乙案
41 同丙案
は、消費者が取消権を有することを知った後でなければ法定追認の効力が生じないこととするかについて、これらの当否も含め引き続き検討すべきである。
9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
ア 消費者が消費者契約法に基づいて意思表示を取り消した場合における消費者の返還義務の範囲について、現行法の下では、民法第 703 条が適用され、現存利益の範囲で返還義務を負うものと考えられる42。すなわち、消費者が物の給付を受けていた場合、原則として原物を返還することになり、損傷・変質などで価値が減少していた場合でも、その原物自体を現存利益として返還すれば足りる。また、原物の返還が不可能な役務等の場合には原物の返還に代えてその原物(受領した役務等)の客観的な価値を金銭で返還することになる。
これに対し、新民法第 121 条の2の下では、有償行為が取り消された場合には、受領したものが滅失するなどして原物を返還することが不可能になった場合であっても原状回復義務を免れることはなく、原物の返還に代えてその客観的価値を金銭で返還しなければならなくなると考えられる。
以上によると、役務提供契約に基づいて永久脱毛のサービスのような役務の提供を受けた後に意思表示を取り消した場合には、現行法の下でも新民法第 121 条の2の下でも、提供を受けた役務の客観的価値について、消費者が金銭で返還しなければならないことになると考えられる。また、例えばダイエットサプリメント43を一部費消した後に意思表示を取り消した場合には、新民法第 121 条の2の下では、費消した分の商品の客観的価値を消費者が金銭で返還しなければならないことになると考えられる。
しかしながら、そうすると、消費者が不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しにより代金の返還請求権を得たとしても、事業者の有する上記客観的価値の返還請求権と相殺され、結局対価を支払ったのと変わらないことになってしまう。
イ そこで、消費者契約法に基づく取消権が行使された際の消費者の返還義務について、民法の特則を設けることが考えられる。本専門調査会では、具体
42 消費者庁逐条解説 127 頁。なお、民法第 703 条が適用されるのは受益者(給付の受領者)が善意の場合(取消原因があることを知らなかった場合)と考えられている。
43 これを摂取することによって他の出費が節約されるわけではないことを前提としている。
的な対応として、①特定商取引法におけるクーリング・オフの清算規定(同法第9条第5項等)を参考にした規定を設けるという考え方44、②現行法において適用されると考えられる民法第 703 条と同様に返還義務を現存利益に限
定する考え方45及び③新民法第 121 条の2の解釈・適用に委ねるという考え方46が示され、これについて議論が行われた。
委員の意見の中には、事業者の「利得の押付け」や「やり得」を許す結果になれば、取消権を認めた趣旨が没却されてしまい不合理であるとして、①クーリング・オフの清算規定を参考にした規定を設けるべきというものも見られた。他方、これに対しては、クーリング・オフの規定は一定の販売類型に設けられた制度であり、期間も限定されていることに照らし、その考え方を消費者契約全般に適用される消費者契約法に盛り込むのは難しいという指摘のほか、新民法において、より悪質な詐欺・強迫について特則が設けられていないことや、意思無能力者の行為等の場合でも現存利益の返還が必要とされていることとの均衡が取れないという指摘も見られた。また、消費者が商品を費消して利益を享受した後に意思表示を取り消して代金の返還を求める場合への対応も併せて検討すべきという意見もあった。
また、消費者が、新民法の施行後、現行法よりも広い範囲の返還義務を負うことになるという点については、少なくとも現行法上の不当勧誘行為を前提とする限り、問題であるという点については、意見の一致が見られた。その上で、②返還義務を現存利益に限定するという案を採ることもあり得るという意見も見られた。また、その場合、現存利益の意義については解釈に委ねられることになるが、事案に応じた柔軟な対応を可能にするために、諸般の事情を総合考慮してxxxに反する場合には利益の返還を請求することができないという規定を設ける案も提示された。また、このような規定を設けなかったとしても、不法な原因のために給付をした場合には、その給付したものの返還を請求することができないとする民法第 708 条の規定の解釈によって、妥当な結論を導くことも可能であるという意見も見られた。
なお、取消しの効果については、取消事由についての検討を見据えつつ、それとの関連で検討すべきであるという意見もあった。
ウ 消費者契約法に基づいて意思表示を取り消した場合の消費者の返還義務の範囲について、特定商取引法のクーリング・オフをした場合の清算規定を
44 第 12 回資料1「1.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果」及び第 14 回資料1
「2.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果」の甲案
45 同乙案
46 同丙案
参考に消費者の返還義務の範囲を限定することも考えられるが、消費者契約一般にそのような規律を設けることや、消費者が商品を費消して利益を享受した後に意思表示を取り消して代金の返還を求めることの当否について慎重に検討する必要がある。他方、少なくとも新民法の施行後も消費者が消費者契約法に基づき契約を取り消した場合の返還義務の範囲を引き続き現存利益の限度とするためには、その旨の特則を消費者契約法に設けることが必要と考えられることから、消費者契約法に設けるべき規定の内容について引き続き検討すべきである。
第4 契約条項
1.事業者の損害賠償責任を免除する条項(法第8条第1項)
(1) 人身損害の軽過失一部免除条項(第2号及び第4号)
ア 事業者の軽過失に基づく債務不履行又は不法行為によって生じた損害について、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項は、現行の法第8条の規定の適用によっては無効とならない。しかし、消費者の生命又は身体に生じた損害(以下「人身損害」という。)についての損害賠償責任を一部免除する条項に基づく主張を権利濫用として排斥した裁判例もある。そこで、生命及び身体の保護法益としての重要性と被害者の救済の必要性に鑑み、消費者の人身損害を賠償する責任の一部を免除する条項については、事業者の軽過失によるものであっても無効とすべきであるという考え方がある。
イ 第 10 回では、生命及び身体が法益として重要であることそれ自体に否定 的な意見はなかったものの、人身損害の軽過失一部免除条項は無効とすべき であるという意見がある一方で、事業者の免責を認めるべき場合もあるとし て慎重な検討を求める意見もあり、実例を検証する必要があるものとされた。
これを踏まえ、第 14 回では、運送取引やスポーツ又はスポーツ観戦に関する実例の調査結果が報告され、その結果、人身損害のうち身体に生じた損害については、一定の場合には事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項を有効とすべき場合があるとして、消費者の生命に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項についてこれを無効とする案47が示された。この案については、生命が身体と比べてより重要であることや、基準として明確であること等から支持する意見がある一方で、生命と身体を分けて規律することへの違和感を示す意見もあった。また、人身損害の損害賠償責任の一部免除条項を原則として無効とした上で、合理的と認められる場合には例外的に有効とする案48も示された。この案については、生命か身体かを問わず、一定の場合には例外的に免責を有効とすべき場合があるが、その場合には事業者は免責の合理性を説明する必要があるとして、支持する意見があった。
47 第 14 回資料1「4.事業者の損害賠償責任を免除する条項(法第8条)」A案
48 同B案
ウ 身体に生じた損害といってもその内容が様々であることも踏まえると、社会的に有用な事業活動を阻害しないようにする等の観点から、一定の範囲で事業者の免責を認めるべき必要性もあると考えられる。免責を認めるべき必要性は、当該消費者契約の目的・種類・性質・内容その他の事情によって様々であり、免責の内容や態様・程度も様々であることから、人身損害について、こうした要素を考慮した上で無効とする規律とすることのほか、生命に生じた損害については一律に一部免除条項を無効とすることが考えられ、不当条項の類型の追加と合わせ引き続き検討すべきである。
(2) 「民法の規定による」要件の在り方(第3号及び第4号)
ア 消費者契約における事業者の債務の履行に際してなされた当該事業者の不法行為による損害賠償責任について、法第8条第1項第3号は全部免除条項を、同項第4号は当該事業者の故意又は重過失による場合の一部免除条項を、それぞれ無効であるとするが、これらの規定では、「当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任」と定められている。これに対しては、事業者の不法行為責任を免除する条項の不当性は、その不法行為が民法の規定によるかどうかによって異なるものではないとして、民法以外の規定による事業者の不法行為責任についても、事業者の責任を免除する条項を無効とすべきであるという考え方がある。
イ 第 10 回では、「民法の規定による」という文言を削除することについて、委員から特段の異論はなかった。
ウ 現行法の施行後、法人の不法行為責任等、かつて民法に設けられていた規定が他の法律に規定されるようになったものがあり、「民法の規定による」不法行為責任に限定すべきではないこと等に鑑み、現行法第8条第1項第3号及び第4号の「民法の規定による」という文言は削除することとするのが適当である。
2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号)
(1) 「解除に伴う」要件の在り方
ア 法第9条第1号は契約の解除に伴う損害賠償額の予定・違約金条項について規定しているが、同条の趣旨が高額な損害賠償額の予定や違約金により消
費者が不当な出捐を強いられるのを避ける点にあることからすると、契約の解除に伴う場合に限定せず、損害賠償額の予定・違約金条項一般について「平均的な損害の額」を超える部分は無効とすべきであるという考え方がある。裁判例には、消費貸借における期限前の弁済時に違約金を支払う旨の条項
(いわゆる早期完済条項)について、法第 10 条により無効とした裁判例がある。
イ 第 12 回では、事業者を貸主、消費者を借主とする消費貸借の特則として、期限前の弁済に伴う損害賠償の額を予定する条項について、当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効とする規定を設けるという案49が示された。これに対しては、法第9条第1号を改正し、損害賠償額の予定一般に適用範囲を広げることで、過大な賠償額を定める早期完済条項にも対応できるようにすべきであるという趣旨の意見があった。また、この案とは別に、期限前の弁済に伴う損害賠償の範囲に約定の返還時期までに生ずべきであった利息相当額が含まれないことを規定すべきではないかという意見もあったが、この意見に対しては、貸金業者も約定の返還期限までの利息を取得することができるという前提で資金調達をしているので、利息相当額の損害賠償請求が認められないとするとビジネスモデルとして成り立ち難いという意見があった。
これを受けて、第 14 回では、法第9条第1号を改正し、消費者契約の解除
に伴わない損害賠償額の予定条項も対象とする案50が示された。第 12 回と同様、期限前の弁済についてより具体的に規律する規定を設けるべきであるとして賛成できないという意見がある一方で、より具体的な案が示されれば検討するという意見もあった。また、期限前弁済のみならず、損害賠償額の予定・違約金条項一般を対象とするならば、違約罰を「平均的な損害の額」で規律することの当否など更に検討すべき課題があるという指摘があったほか、債務の弁済等によって消費者契約が終了する場合に伴う損害賠償額の予定条項という形で限定するか、より広げるかを検討する必要があるという指摘もあった。
ウ 損害賠償額の予定をすることによって事業者が不当な利得を得るべきで はないことは、契約の解除に伴わない場合においても同様と考えられること、
49 第 12 回資料1「2.不当条項の類型の追加(第2回)⑦消費貸借における期限前の弁済に伴う損害賠償」ⓑ甲案
50 第 14 回資料1「5-2.期限前の弁済に伴う損害賠償等」A案
特に消費貸借における期限前弁済については、実質的に契約を終了させる点で契約の解除の場合と差異がなく、約定利息相当額又は利息制限法所定の利率を超える利息相当額を予定している場合には現行法第 10 条により無効となるという裁判例もある。これらを踏まえ、契約の解除に伴わない損害賠償額の予定条項についても、実質的に契約が終了する場合には規律の対象となるよう規定を見直すことを検討すべきである。
(2) 「平均的な損害の額」の立証責任
ア 法第9条第1号における「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」及びこれを超える部分について、最高裁判所(以下「最高裁」という。)は、事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には、消費者が立証責任を負うものと判断した51。しかし、当該事業者に固有の事情であり消費者が知ることは困難な場合が多いことから、立法による対応が必要であるという考え方がある。
イ この論点については、第 10 回及び第 14 回に検討が行われた。
(ア)第 10 回では、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えないことについて事業者が立証責任を負うという趣旨の規定を設けるという案52が示された。この案について、主張・立証責任のxxな分担という観点や、諸外国でも事業者に立証責任を負わせるものがあることを指摘し賛成する意見がある一方で、反対する意見もあった。
また、「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超える部分を無効とすることを原則とした上で、一定の場合に例外を認める案53も示された。事業者に生じる訴訟対応等のコストを考えると、一定の条件を設定した上で、その条件を満たすことを消費者側が証明すれば、事業者が立証責任を負うという規律を設けることで、消費者と事業者間のバランスを図るのが望ましいなどの理由から、この案の方向性で検討することに賛成する意見があった。
なお、裁判所による資料提出命令規定等を設けることで、事業者による 主張・立証を制度的に促す案54も示されたが、積極的に賛成する意見はなく、
51 最判平成 18 年 11 月 27 日民集 60 巻9号 3473 頁
52 第 10 回資料1「2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号)」甲案
53 同丙案
54 同乙案
裁判外における交渉に用いることができない等の理由から消極的な意見が出された。
(イ)これを踏まえ、第 14 回では、以下の2つの案が示された。
第1は、第 10 回と同様、事業者が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えないことについて立証責任を負うという趣旨の規定を設けるという案55である。事業者が損害賠償額の予定を定めた以上、それが法第9条第1号に反しないことを説明すべきであるし、その点に困難はないはずであるとして賛成する意見があった。他方で、事業者に一方的に責任を負わせるものであり、また、収支構造、原価率、コスト等の事業者にとって重要な機密事項を公開することになるおそれがあるとして、反対するという意見が出された。
第2は、消費者は「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えること又は「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えることのいずれか又は双方を立証することができ、かつ、事業者は
「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」よりも「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」がより高くなることを立証することができるという趣旨の規定を設けるという案56である。この案については、消費者と事業者の間で適切に立証責任が分担されるのであれば結構であるという意見があった。他方で、消費者にとっては「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えることを立証することも困難であるとして、賛成できないという意見もあった。
また、立証責任の転換という形ではなく、もう少し歩み寄れるような折衷案が望ましく、議論が必要ではないかという意見もあった。
ウ 損害賠償額の予定又は違約金として定められた額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えることの立証のために必要な資料は、主として事業者が保有していると考えられることからすると、その立証責任を事業者に転換することも考えられるが、企業活動の実態に関する証拠を提出することによる企業秘密に対する影響や、証拠の収集・保存や訴訟における立証等において事業者に生じるコストにも配慮する必要がある。
現行法の下で、最高裁は、消費者に立証責任があるとした上で、事実上の推定が働く余地があるとしていることからすると、同種事業者に生ずべき平
55 第 14 回資料1「5-1.『当該事業者に生ずべき平均的な損害の額』の立証」A案
56 同B案
x的な損害の額を超える部分が立証されれば、それから当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を推認することができる場合もあると考えられる。この点を踏まえ、消費者の立証の困難性を緩和するため、同種事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分と推定する規定を設けることを含め、検討すべきである。
3.消費者の利益を一方的に害する条項(法第 10 条)
(1) 前段要件
ア 法第 10 条は、消費者契約の条項が「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」(以下「任意規定」という。)の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する内容であることを要件としているところ(前段要件)、ここでいう任意規定について、最高裁は、「xxの規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である」という判断を明示した57。そこで、最高裁判決を踏まえ、前段要件を修正すべきであるという考え方がある。
イ 第 10 回及び第 15 回では、最高裁判決を踏まえ前段要件を修正することを支持する意見があった。なお、前段要件が適用される事案が変わらないのであれば修正する必要はないという意見があったが、これに対しては、最高裁の判断に適合するよう前段要件の文言は修正する必要があるという指摘があった。
ウ 最高裁判決を踏まえ、当該条項がない場合と比べて消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものかどうかを判断するという規律とするこ とが適当であり、具体的な規定の在り方について引き続き検討すべきである。
(2) 後段要件
ア 法第 10 条は、前段要件に引き続き、消費者契約の条項が「民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」である
57 最判平成 23 年7月 15 日民集第 65 巻5号 2269 頁
ことを要件として定めているが、この後段要件については、要件が抽象的で分かりにくく、具体的な文言にすることが望ましいという考え方がある。
イ 第 10 回では、当該条項が平易かつ明確ではないことを、後段要件該当性を判断する上での重要な要素として明記する案58が示されたものの、平易かつ明確であれば不当な条項であっても有効になり得ると反対解釈されることを懸念する意見があった。
これを踏まえ、第 15 回では、条項の平易明確性については条項使用者不利の原則等において検討することとし、法第 10 条の後段要件については、現行法の文言を維持するという案59が示された。委員の中には、この案を支持する意見がある一方で、後段要件は消費者契約法の趣旨や目的等に照らして判断すべきであることを明確にするため、「民法第一条第二項に規定する基本原則」という文言を修正すべきであるという意見があった。後者の意見に対しては、民法上のxxxが消費者契約において適用される場合には、当然に消費者契約法の趣旨や目的が考慮されることになるはずであるが、この点に誤解があるのであれば、誤解を是正するために必要な対応を行うべきであるという意見もあった。
ウ 契約条項が平易かつ明確でないことは、消費者に不利益をもたらすおそれがあるとともに、消費者に不利な条項を隠蔽する余地を残すもので問題があるものの、後段要件の考慮要素として明記することについては、契約条項が平易かつ明確でありさえすれば内容が不当であっても有効になり得るという、その趣旨とは違った理解がされかねないといった懸念も示されたこと等を踏まえ、条項使用者不利の原則等において検討することとし、現行法の後段要件は特に見直さないのが適当である。また、後段要件に規定するxxxに反するかどうかについて、法の趣旨・目的に照らして判断されるべきことについて、逐条解説等において明確にすべきである。
4.不当条項の類型の追加
現行の消費者契約法には、具体的な条項を無効とする規定として法第8条及び第9条が設けられているほか、これらに規定するもの以外の条項が無効となる場合についての包括的な要件を定めた法第 10 条があり、これが、不当条項に関する
58 第 10 回資料1「3-2.後段要件」
59 第 15 回資料1「2-2.後段要件」
受け皿規定としての機能を果たしている。しかし、法第 10 条の要件は抽象的であるため、契約当事者の予見可能性を高め、紛争を予防する等の観点から、具体的な条項を無効とする規定を追加すべきであるという考え方がある。
そこで、本専門調査会では、新たに不当条項として無効とする規定を設けることを検討すべき具体的な条項の類型について、法第 10 条の適用が争われた裁判例、適格消費者団体による差止請求事例、消費生活相談事例等も踏まえた上で、実際に用いられている契約条項の例を基に検討が行われた。
(1) 消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項
ア 規定の追加を検討すべき具体的な条項の類型として、①消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させる条項及び②消費者の解除権・解約権を制限する条項が挙げられる。
イ 本専門調査会では、これらについて次のような議論が行われた。
(ア)①法律上の解除権・解約権をあらかじめ放棄させる条項は、類型的に信 xxに反して消費者の利益を一方的に害するものと考えられることから、第 11 回では、これを例外なく無効とするという考え方が示され、これにつ いて特段の異論は見られなかった。また、解釈上認められる消費者の解除 権・解約権(例えば事情変更を理由とする解除xx)を放棄させる条項も、 法律のxxで定められる解除権・解約権の場合と不当性は同様であるから、対象に含めるべきであるという意見もあった。
これを踏まえ、第 15 回では、解釈上認められる解除権・解約権を放棄させる条項も対象に含める考え方60と、要件の明確性の観点から、法律のxxで認められる解除権・解約権を放棄させる条項に限定する考え方61が示された。委員からは、準委任契約類似の無名契約である継続的契約の任意解除権など、解釈上認められる解除権・解約権を放棄させる条項も対象に含めるべきであるという意見も出された反面、法律のxxで認められる解除権・解約権を放棄させる条項に対象を限定するのであれば考えられるという意見もあった。他方、いずれにせよ、実務上、消費者の解除を認めない条項も用いられていることから、合理的な必要性がある場合もあるのでは
60 第 15 回資料1「4-1.消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」①のA案
61 同B案
ないかという意見も出された。また、これらの前提として、解除権・解約権を放棄させるものと制限するものの区別を明確にするために、解除権・解約権の放棄に当たる場合をより具体的に特定することの必要性を指摘する意見も見られた。
(イ)②消費者の解除権・解約権を制限する必要性や、制限の内容や方法は個々の契約によって異なるため、消費者の解除権・解約権を制限する条項を一律に無効にすべきではないと考えられるところ、この点について異論はなかった。
消費者の解除権・解約権を制限する条項のうち、どのようなものを無効とするかについて、第 15 回では、そのような条項が法第 10 条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方62と、そのような条項を原則として無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由があり、それに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方63の二つが示された。法第 10 条後段の要件を用いる考え方については、消費者の解除
権・解約権を制限する条項が法第 10 条前段の要件を満たすことは明らか
であり、法第 10 条後段の要件を満たす場合に無効になることを敢えて規定する意味はないという意見が出された。また、原則として無効としつつ一定の例外を認めるという考え方については、条項を設ける必要性等は事業者が示すのが合理的であるとして、これを支持する意見も見られたが、要件が不明確であり予見可能性がないとして反対する意見も見られた。なお、一定の条項について、原則として無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由があり、それに照らして内容が相当である場合に例外的に有効とするという考え方については、例外的な場合に当たることの立証責任を事業者に一方的に課すことが問題なのであり、立証責任の所在次第では検討の余地があるという意見も見られた。
ウ ①消費者の解除権・解約権を放棄させる条項については、解除権・解約権を制限する条項との区別を明確にした上で、当該条項が消費者に与える不利益のほか、当該条項を無効にすることとしたときに実務にどのような影響が生じるかなどを勘案しつつ、これを例外なく無効とする規定を設けることについて、引き続き検討すべきである。その際、放棄させようとしている解除
62 第 15 回資料1「4-1.消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」②のA案
63 同B案
権・解約権として、解釈上認められるものも含めるか、法律のxxで認めら れるものに限るかについても、これらを区別する理由とともに、当該条項が 消費者に与える不利益のほか、当該条項を無効にすることとしたときに実務 にどのような影響が生じるかなどを勘案しつつ、引き続き検討すべきである。
②消費者の解除権・解約権を制限する条項については、どのような場合に当該条項を無効とする規定を設けるのが適切かについて、当該条項が消費者に与える不利益のほか、当該条項を無効にすることとしたときに実務にどのような影響が生じるかなどを勘案しつつ、引き続き検討すべきである。その際には、当該条項が法第 10 条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方、及び、当該条項を原則として無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由がありそれに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方のほか、当該条項を設ける合理的な理由の有無・内容や、当該条項の内容の相当性についての立証責任を事業者だけに課すものではないこととする考え方も含めて、検討すべきである。
(2) 事業者に当該条項がなければ認められない解除権・解約権を付与し又は当該条項がない場合に比し事業者の解除権・解約権の要件を緩和する条項
ア 規定の追加を検討すべき具体的な条項の類型として、事業者に、当該条項がなければ認められない解除権・解約権を付与し又は当該条項がない場合に比し事業者の法律に基づく解除権・解約権の要件を緩和する条項が挙げられる。
イ これらの条項についても、契約の種類や性質によって必要性がある場合も想定されるし、その方法や内容も様々であるため、これを一律に無効とするのではなく、一定の場合に限定して無効とすることが考えられるところであり、この点について異論は見られなかった。その方法については、消費者の解除権・解約権を制限する条項と同様、そのような条項が法第 10 条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方と、そのような条項を原則として無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由があり、それに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方が示された。これに対する委員の意見は、消費者の解除権・解約権を制限する条項におけるものと概ね同じものであった。
また、当該条項を無効にすることとした場合に実務に及ぶ影響も考慮すべきであるという意見も見られた。
ウ 事業者に本来認められない解除権・解約権を付与し又は事業者の解除権・解約権の要件を緩和する条項についても、どのような場合に当該条項を無効とする規定を設けるのが適切かについて、当該条項が消費者に与える不利益のほか、当該条項を無効にすることとしたときに実務にどのような影響が生じるかなどを勘案しつつ、引き続き検討すべきである。その際には、当該条項が法第 10 条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方、及び、当該条項を原則として無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由がありそれに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方のほか、当該条項を設ける合理的な理由の有無・内容や、当該条項の内容の相当性についての立証責任を事業者だけに課すものではないこととする考え方も含めて、検討すべきである。
(3) 消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項
ア 規定の追加を検討すべき具体的な条項の類型として、消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項が挙げられる。
イ 消費者の作為又は不作為をもって意思表示を擬制する条項についても、一律に無効とするのではなく、関連する諸要素を総合的に考慮してその有効性を判断するのが適切であると考えられるところであり、この点について異論は見られなかった。その方法については、消費者の解除権・解約権を制限する条項と同様、そのような条項が法第 10 条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方と、そのような条項を原則として無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由があり、それに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方が示された。これに対する委員の意見は、消費者の解除権・解約権を制限する条項におけるものと概ね同じものであった。
また、当該条項を無効にすることとした場合に実務に及ぶ影響も考慮すべきであるという意見も見られた。
ウ 消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項についても、どのような場合に当該条項を無効とする規定を設けるのが適切かについて、当該条項が消費者に与える不利益のほか、当該条項を無効にすることとしたときに実務にどのような影響が生じるかなど
を勘案しつつ、引き続き検討すべきである。その際には、当該条項が法第 10条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方、及び、当該条項を原則として無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由がありそれに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方のほか、当該条項を設ける合理的な理由の有無・内容や、当該条項の内容の相当性についての立証責任を事業者だけに課すものではないこととする考え方も含めて、検討すべきである。
(4) 契約文言の解釈権限を事業者のみに付与する条項、及び、法律若しくは契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性若しくはその権利・義務の内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項
ア 規定の追加を検討すべき具体的な条項の類型として、①契約文言の解釈権限を事業者のみに付与する条項(以下「解釈権限付与条項」という。)、及び、
②契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性又はその権利・義務の内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項(以下「決定権限付与条項」という。)が挙げられる。
イ ①解釈権限付与条項については、双方の当事者の合意によって成立した契約の文言の解釈を事業者のみに委ねると、契約の内容が事業者の裁量によって消費者の意思に関わりなく確定されることになり、実質的には契約の内容を事業者が一方的に決定できるのと同様の結果になることから、第 11 回及
び第 15 回では、これを例外なく無効とするという考え方が示された。これについては、②との区別を明確にする必要があるという意見があったほか、特段の異論は見られなかった。
②決定権限付与条項については、実務上は一定の必要性が認められる場合があると考えることもできるものの、そのような場合であっても、当該条項を事業者が恣意的・濫用的に運用すれば、消費者に不利益を与えることがあり得る。そこで、第 15 回では、法第 10 条に加えて、決定権限付与条項を一定の場合に無効にする個別の規定を設けることはせず、個別の事案で実際に当該条項が不当に利用された場合の救済は、xxx(民法第1条第2項)、権利濫用(同条第3項)、不法行為(同法第 709 条)等の適用に委ねるという考え方が示された。これに対しては、決定権限付与条項を設ける合理的な必要性が認められる場合はないのではないかという意見や、①解釈権限付与条項と問題の本質は同じであるから、これらを区別する理由はないという意見が出された。
ウ ①解釈権限付与条項については、②決定権限付与条項との区別を明確にすることができるか否かを踏まえた上で、当該条項が消費者に与える不利益のほか、当該条項を無効にすることとしたときに実務にどのような影響が生じるかなどを勘案しつつ、これを例外なく無効とする規定を設けることについて、引き続き検討すべきである。
②決定権限付与条項については、当該条項が消費者に与える不利益のほか、当該条項の実務上の必要性やこれを無効にすることとしたときに実務にど のような影響が生じるかなどを勘案しつつ、一定の場合には当該条項を無効 とする規定を設けることも含め、引き続き検討すべきである。また、その場 合には、当該条項が法第 10 条後段の要件に当たる場合に無効とするという 考え方、及び、当該条項を原則として無効としつつ、当該条項を定める合理 的な理由がありそれに照らして内容が相当である場合には例外的に有効と するという考え方のほか、当該条項を設ける合理的な理由の有無・内容や、当該条項の内容の相当性についての立証責任を事業者だけに課すものでは ないこととする考え方も含めて、検討すべきである。
(5) サルベージ条項
ア 規定の追加を検討すべき具体的な条項の類型として、いわゆるサルベージ条項が挙げられる。サルベージ条項とは、本来であれば全部無効となるべき条項に、その効力を強行法によって無効とされない範囲に限定する趣旨の文言を加えたもの(例えば、「法律で許容される範囲において一切の責任を負いません」というもの)である64。
イ 委員の意見には、サルベージ条項の問題点を指摘し、これを無効とすべき というものがあった。指摘された問題点としては、①事業者が消費者に対し て当該条項のどこからが無効なのかを示すよう迫り、何も言わない消費者に は不当条項がそのまま適用されるという点、②事業者に適正な内容での契約 条項の策定へのインセンティブが働かない点、③本来であれば全部無効とな るはずの不当条項がそうならないという点で脱法的効果を有しているとい う点、④消費者にとって条項の内容が不明確であるという点等が挙げられる。
64 本来であれば全部無効となるべき条項を、救い出して、ぎりぎり有効なところまで引き上げることを狙うところから、この名前があると説明される。
これに対して、明確なメルクマールがない強行規範があるとか、時代の変化によって有効・無効の判断が変わり得るといった事情があり、それを全て把握した上で直ちに契約条項に反映させることは不可能であることから、サルベージ条項には実務上の必要性があるという意見も見られた。また、実際にサルベージ条項が使用されたことによって発生した問題がどの程度存在するのか不明であるという疑問も呈された。
ウ サルベージ条項を無効とする規定を設けることについては、問題となった実例等を調査した上で、引き続き検討すべきである。
第5 その他の論点
1.条項使用者不利の原則
ア 契約の条項について、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合には、条項の使用者に不利な解釈を採用すべきであるという考え方を条項使用者不利の原則という。
現行の消費者契約法には規定がないものの、消費者と事業者との間には情報・交渉力の格差があることに鑑みると、条項について複数の解釈が可能であることにより紛争が生じたときに、消費者は事業者から不利な解釈を押し付けられるおそれがあるので、消費者の利益の擁護を図る必要があると考えることができる。また、条項使用者不利の原則を定めることは、事業者に対して明確な条項を作成するインセンティブを与えることになり、ひいては条項の解釈に関する事業者と消費者の間の紛争を未然に防止することが期待できる。
そこで、消費者契約法において条項使用者不利の原則を定めるという考え方がある。
イ 第7回では、契約条項の平易明確化義務(法第3条第1項前段)に関する論点として、消費者契約法において条項使用者不利の原則を定めることについて検討した。委員の中には、この原則を定めることに賛成する意見がある一方で、約款に限定するのであれば定めることも考えられるという意見があり、適用範囲について議論があった。他方で、条項使用者不利の原則の適用場面が明確でなく、また、裁判外で当事者が合理的解釈をすることによって解決している場合が多いことから、同原則をxxで定める必要性について議論する必要があるとして、同原則を定めることに慎重な意見もあった。
これを踏まえ、第 15 回では、条項使用者不利の原則の適用範囲を明確にするという観点から、定型約款(新民法第 548 条の2第1項)の条項に限定するという案が示された。この案を支持する意見もあったが、消費者が事業者から不利な解釈を押し付けられるおそれがあるのは定型約款に限られないとして、一方的に準備作成された条項や個別交渉を経なかった条項に適用すべきであるという意見があった。
また、第 15 回では「通常の方法により解釈してもなお複数の解釈が可能であるとき」に条項使用者不利の原則を適用するという案が示されたところ、ここでいう「通常の方法」の意味が議論となった。何をもって「通常」であるかはその人によって判断が異なることから、「通常の方法」では要件として
機能しないのではないかという意見があったのに対して、ここで「通常の方法」とは、適法な解釈の方法として一般的に認められる解釈の方法という意味であり、各人が「通常」と思う解釈の方法を意味するものではないという意見があった。
なお、第 15 回においても、消費者契約法において条項使用者不利の原則を定めること自体について、慎重な意見があった。
ウ 事業者は、自ら契約条項を準備し使用している以上、できる限りその内容を明確にすべきであり、条項が多義的であることによるリスクは事業者が負うことがxxに合致すると考えることもできるところ、この問題は、特に、不特定多数の者を相手方として用いられる定型約款(新民法第 548 条の2第
1項)で顕著に現れるものと考えられる。
そこで、消費者契約に該当する定型約款の条項について、契約によって企図した目的、慣習及び取引慣行等を斟酌しながら解釈により合理的にその意味を明らかにすることがまずは試みられるべきであるが(これを契約解釈の方法として一般的に認められるものという意味で「通常の方法による解釈」と呼ぶことも可能であると思われる。)、それでもなお複数の解釈が可能であるときは、事業者(定型約款準備者)にとって不利に解釈しなければならないとする規律を設けることが考えられる。なお、定型約款に限らず、事業者によって一方的に準備作成された条項や個別交渉を経なかった条項についても適用すべきとの意見もあったことも踏まえ、これらについて、引き続き検討すべきである。
2.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除
ア 割賦販売法(昭和 36 年法律第 159 号)においては、消費者が売買契約において生じている事由をもって、クレジット会社からの支払請求に対抗できること、いわゆる抗弁の接続が規定されている。しかし、与信契約の支払方式や契約形態により、割賦販売法が適用されない場合に、消費者保護の程度が異なることは不合理であるとして、法に規律を設けることにより、抗弁の接続の適用対象を拡大すべきとの指摘がある。また、クレジット取引以外の場合においても、関連する複数の契約のうち、一つの契約について無効・取消し・解除等の理由が生じたときに、他の契約を締結した目的が達成できなくなる場合がある。このような場合について、他の契約の法的効力に関し、法に規律を設けるべきとの指摘がある。
イ 本専門調査会においては、リース契約やいわゆるマンスリークリア取引など、現行の割賦販売法の規定の適用対象にならない事例における与信契約を念頭に、抗弁の接続や複数契約の無効・取消し・解除に関する規律を法に設けるべきであるとの意見もあったが、契約当事者以外に契約の効力を及ぼすことは認められないのが原則であることを踏まえつつ、法第5条の規定を活用することや、割賦販売法の改正の議論の状況を見定めながら、慎重に検討すべきとの意見もあった。
抗弁の接続、複数契約の無効・取消し・解除に関する規律については、消費生活相談事例の状況等を踏まえると、消費者契約全般の問題であるとは直ちには言い切れないと考えられる。特に、抗弁の接続の対象範囲が典型的に問題となるのは、消費者信用の分野であると考えられる。
産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会の報告書65では、「少なくとも現時点において、マンスリークリア取引を抗弁接続等の民事ルールの適用対象とすることは適切ではない。」とされている。また、民法(債権関係)改正の議論では、適切な要件の設定が困難であることや取引実務に与える影響についての懸念が示されており、結果的にはコンセンサスを得られるには至っていないことを踏まえる必要がある。
さらに、消費者とクレジット会社との間のクレジット契約について、販売業者が媒介の委託を受けた第三者に当たるとして、販売業者の勧誘行為を理由にクレジット契約の取消しを認めた裁判例66があることを踏まえると、媒介の委託を受けた第三者及び代理人の行為による取消しを規定した法第5条の解釈・適用によって、クレジット取引その他の複数契約のうちの一つの契約が取消し等によって効力を失う場合に他の契約の効力を適切に規律することも可能と考えられる。
ウ 以上を踏まえ、契約は当事者以外に効力を及ぼすことはできないという原則の例外を設けることとなり、要件を慎重に検討する必要があること、法第
5条によって対処できる場合もあることを踏まえ、また、関係法令の運用や改正の動向、裁判例や消費生活相談事例の状況も見定めながら、必要に応じ、検討すべきである。
65 産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会報告書「~クレジットカード取引システムの健全な発展を通じた消費者利益の向上に向けて~」(平成 27 年7月3日)16 頁参照
66 例えば、xx地xxx判平成 21 年 10 月2日(消費者法ニュース 84 号 211 頁)、xxx判平成 19 年7月 26 日。
3.継続的契約の任意解除権
ア 消費者が事業者から継続的に役務を受領する継続的契約(以下「継続的役務受領型契約」という。)については、民法第 651 条の適用・準用や特定商取
引法第 49 条第1項により消費者の任意解除権が認められているが、消費者が事業者から継続的に商品を購入する継続的契約(以下「継続的商品購入型契約」という。)については、これらの民法や特定商取引法の規定は適用されないことから、消費者の任意解除権は認められない。
この点、消費者契約である継続的契約については、消費者は将来に向けて契約を任意に解除できるように、消費者契約法に規律を設けるべきとの指摘がある。
イ 本専門調査会においては、継続的契約の場合は、契約期間が長期間となり対価が高額になることもある一方で、契約締結後に契約を継続することが困難となる事情が生ずる場合もあることから、消費者の任意解除権を規定すべきとの意見もあったが、どの程度の期間のものを想定するのか、役務の受領と商品の購入とを同じように取り扱うことが適当なのか等の問題があるほか、契約一般又は継続的契約一般について規定するとなると相当多数の多様なものが含まれることになるが、どのような影響が生ずるのか精査する必要があるではないかとの意見もあった。
継続的役務受領型契約については、上記の民法の規定の適用・準用により、消費者に任意解除権が認められる。このほか、消費生活相談の多い取引類型については、その実態をよく把握した上で、特定商取引法の特定継続的役務の対象として政令で追加する67ということも考えられる。他方、継続的商品購入型契約については、民法等に任意解除権を認める規定がないことから、任意解除権は認められない。この点、長期契約締結のメリットとして料金の割引がなされているような取引もある中で、仮に継続的契約の任意解除権に関する規律を導入した場合には、長期間の契約に与える影響に対する懸念も示されている。
ウ 以上を踏まえ、継続的役務受領型契約と継続的商品購入型契約との異同やどの程度の期間の契約を念頭に置くかなど、消費者契約一般に通用する規律
67 特定商取引法の特定継続的役務については、「役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関する目的」が「実現するかどうかが確実でないもの」とされており(同法第 41 条第2項参照)、この点は全ての継続的役務受領型契約に必ずしも当てはまるものではないと考えられる。
の内容としてどのようなものが適当か慎重に検討する必要がある。関係法令の運用、裁判例や消費生活相談事例の状況も見定めながら、必要に応じ、検討すべきである。
おわりに
本専門調査会においては、法施行後の社会経済状況の変化への対応等の観点から、契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律等の在り方について審議を行ってきた。
xxx以降も、本専門調査会において団体等からのヒアリングを行い、中間取りまとめに対する意見を幅広く聴取した上で、事業者の不適切な経済活動から消費者の利益を保護する必要があるという観点や事業者の適切な経済活動を阻害しないかという観点等からの検証をし、それを踏まえて上述の課題に関する検討を深めていく必要がある。
審 議 経 過
開催日 | 議事内容 | |
第1回 | 平成 26 年 11 月4日 | ・消費者契約法(実体法部分)に関するこれまでの検討状況 |
第2回 | 平成 26 年 11 月 21 日 | ・今後の検討の進め方 ・委員からのプレゼンテーション (xxxx座長代理、xxxx委員) |
第3回 | 平成 27 年1月 16 日 | ・委員からのプレゼンテーション (xxxxx委員) |
第4回 | 平成 27 年1月 30 日 | ・委員からのプレゼンテーション (xxxx委員、xxxx委員) |
第5回 | 平成 27 年2月 13 日 | ・委員からのプレゼンテーション (xxx委員、xxxx委員) |
第6回 | 平成 27 年3月6日 | ・民法(債権関係)の改正について ・委員からのプレゼンテーション (xxx委員、xxxx委員) |
第7回 | 平成 27 年3月 17 日 | ・総則部分(第2条、第3条関連)の論点 |
第8回 | 平成 27 年4月 10 日 | ・不当勧誘に関する規律(1) 「勧誘」要件の在り方、断定的判断の提供、不利益事実の不告知、「重要事項」 |
第9回 | 平成 27 年4月 24 日 | ・不当勧誘に関する規律(2) 不当勧誘行為に関するその他の類型、第三者による不当勧誘、取消権の行使期間 |
第 10 回 | 平成 27 年5月 15 日 | ・不当条項に関する規律(1) 事業者の損害賠償責任を免除する条項(第8条)、損害賠償額の予定・違約金条項(第9条第1号)、不当条項の一般条項(第 10 条) |
第 11 回 | 平成 27 年5月 29 日 | ・不当勧誘に関する規律(3)法定追認の特則 ・不当条項に関する規律(2)不当条項の類型の追加 |
第 12 回 | 平成 27 年6月 12 日 | ・不当勧誘に関する規律(4) 不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果 ・不当条項に関する規律(3)不当条項の類型の追加 ・その他 抗弁の接続、複数契約の無効・取消し・解除、継続的契約の任意解除権 |
第 13 回 | 平成 27 年6月 30 日 | ・「勧誘」要件の在り方/第三者による不当勧誘 ・不利益事実の不告知/重要事項/情報提供義務 |
第 14 回 | 平成 27 年7月 10 日 | ・不当勧誘行為に関するその他の類型 ・不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果 ・取消権の行使期間 ・事業者の損害賠償責任を免除する条項(第8条) ・損害賠償額の予定・違約金条項(第9条第1号) |
第 15 回 | 平成 27 年7月 17 日 | ・法定追認の特則 ・消費者の利益を一方的に害する条項(第10 条) ・条項使用者不利の原則 ・不当条項の類型の追加 |
第 16 回 | 平成 27 年7月 28 日 | ・中間取りまとめに向けた検討(1) |
第 17 回 | 平成 27 年8月7日 | ・中間取りまとめに向けた検討(2) |
委 員 名 簿
(座長) | xx | xx | 京都大学大学院法学研究科教授 |
(座長代理) | xx | xx | 早稲田大学大学院法務研究科教授 |
xx | xx | 一般社団法人日本経済団体連合会常務理事 | |
xx | xx | 特定非営利活動法人大分県消費者問題ネットワーク理事長 | |
xx | x | 法政大学法学部准教授 | |
xx | xx | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 | |
xx | xx | 一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局長(共同代表) | |
xx | xx | ヤフー株式会社決済金融カンパニープロデュース本部長 | |
xx | x | 全国商工会連合会常務理事 | |
xx | xx | 公益社団法人全国消費生活相談員協会専務理事 | |
xx | xxx | 名古屋大学大学院法学研究科教授 | |
xx | xx | 東京大学大学院経済学研究科教授 | |
xx | xx | 一橋大学大学院法学研究科教授 | |
xx | xx | 弁護士(xx法律事務所) |
以上14名(敬称略)
※ なお、消費者委員会のxxxx委員長、xxxx委員長代理、xxxx委員と、法務省及び国民生活センターがオブザーバーとして出席した。