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道路政策グループ主席研究員
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道路政策グループ上席xx研究員
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道路構造物の長寿命化を促す入札契約のススメ
1
はじめに
我が国の社会資本施設は、高度経済成長期に集中的に整備 され、今後急速に老朽化することが懸念されている。今後20 年間で、建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に高 くなる見込みであり、このように一斉に老朽化する社会資本 施設を戦略的に維持管理・更新することが求められている※1。
表1 建設後 50 年以上経過する社会資本の割合※1
2018 年3 月 | 2023 年3 月 | 2033 年3 月 | |
道路橋 [約 73 万橋注1)(橋長 2m 以上の橋)] | 約 25% | 約 39% | 約 63% |
トンネル [約 1 万 1 千本注2)] | 約 20% | 約 27% | 約 42% |
河川管理施設(xxx) [約 1 万施設注3)] | 約 32% | 約 42% | 約 62% |
下水道管きょ [総延長:約 47 万 km 注4)] | 約 4% | 約 8% | 約 21% |
港湾岸壁 [約 5 千施設注5)(推進-4.5m 以深)] | 約 17% | 約 32% | 約 58% |
注1 )建設年度不明橋梁の約23 万橋については、割合の算出にあたり除いている。 注2 )建設年度不明トンネルの約400 本については、割合の算出にあたり除いている。
注3 )国管理の施設のみ。建設年度が不明な約1 , 00 施設を含む。( 50 年以内に整備された施設については概ね記録が存在していることから、建設年度が不明な施設は約 50 年以上経過した施設として整理している。)
注4 )建設年度が不明な約2 万 km 含む。( 30 年以内に布設された管きょについては概ね記録が存在していることから、建設年度が不明な施設は約30 年以上経過した施設として整理し、記録が確認できる経過年数毎の整備延長割合により不明な施設の整備延長を按分し、計上している。)
注5 )建設年度不明岸壁の約100 施設については、割合の算出にあたり除いている。
こうした深刻化する社会資本施設の老朽化への対応として、
①既存構造物の予防保全型の計画的な修繕・補強、②新技術
・ 新素材の開発 ・ 導入、③道路橋示方書など技術基準の改定
・ 充実、④長寿命化を促す入札契約の工夫、といった取組が行われている。本稿では、このうち、④の入札契約の工夫として、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」においても位置付けられている、完成後一定期間経過後の品質を確認
・ 評価する入札契約制度について、道路の新設アスファルト舗装に導入した事例やその効果、他の道路構造物への展開状況について示し、その重要性・有効性について提言する。
長寿命化を促す入札契約制度について
2
2 . 1 経緯と位置付け
社会資本施設の長寿命化を促す入札契約制度に関する経緯としては、まず、平成24 年11 月の社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会において、『持続可能で的確な維持管理・更新』の『④効率化と品質確保』の中で“工事完成から一定期間後の品質確保・評価の仕組みの導入”を図ることが提案された。
次に、平成24 年12 月の国土交通省技術基本計画において、 “長期保証型(=施設完成後に一定期間を経た後の品質を確 認する契約方式)や性能管理型等の新たな公共調達方式の導 入に資する技術研究開発を進める”と位置づけられている。
また、平成26 年の「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の一部改正において、第7 条第1 項第6 号に「必要に応じて完成後の一定期間を経過した後において施工状況の確認及び評価を実施するよう努めること」という規定が追加され、法律に位置づけられた。
さらに、「今後の発注者のあり方に関する中間とりまとめ」(平成30 年4 月、発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会、今後の発注者のあり方に関する基本問題検討部会)において、「大規模維持更新時代に対応するために、長期性能保証付契約や、完成後数年経てからの工事成果物の耐久性や安全性について評価する『公共工事長期品質評価制度(仮称)』の導入を検討すべき」と提言されている。
2 . 2 制度の仕組み
社会資本施設の長寿命化を促す入札契約の工夫とは、完成後の一定期間を「品質保証期間」として、完成後一定期間経過後の品質を確認・評価する入札契約の仕組みである。
道路構造物の長寿命化を促す入札契約のススメ
竣工後に品質が変化するもの(例えば、コンクリート構造 物の乾燥収縮など)は、完成時の検査結果に加え、一定期間 経過後における検査結果の2 点以上で品質を確認することで、劣化曲線により将来の劣化を予測することができる。
一定期間経過後における品質確認では、目標とする性能指 標値を設定し、性能指標値を達成できなかった場合は、保証 金や回復措置などが講じられる。性能指標値は、通常の施工 でも十分達成可能な値を設定しており、受注者は、従来と同 じ材料で一層丁寧な施工を心がけることで、性能指標値より も劣化の程度が小さくなれば、初期変状を抑えることができ、長寿命化につながるものと考えられる。
よって、本制度では、“保証期間”、“性能指標”、“性能指標値”を設定し、保証期間満了時における性能指標値による評価を行うこととしている。
図 1 一定期間経過後の品質確認による長寿命化のイメージ
また、一般に公共工事の場合には、工事目的物に瑕疵があるときは、発注者が受注者に対して、瑕疵の修補、又は修補に代え若しくは修補とともに損害の賠償を請求することができる「瑕疵担保」が定められているが、本制度は瑕疵担保とは異なり、瑕疵には該当しないものの、構造物の劣化を促すと思われる一定の水準を超える初期変状に対して補修等を求めるもので、受注者が丁寧な施工を心がけることを促し、構造物の長寿命化を図ることを目的としている。
3
道路の新設アスファルト舗装工事における取組と導入効果
3 . 1 取組経緯
道路の新設アスファルト舗装(以下、「新設 As 舗装」と いう。)において、供用開始後の初期変状を規定値内に抑制 して、表層の使用年数を長期化しようとする、完成後一定期 間経過後の品質を確認・評価する入札契約制度の取組が進 められている。平成21 年度に東北地方整備局管内において 新設 As 舗装工事の試行工事が実施され、その後、平成24 年度からは、全国の新設 As 舗装工事に原則適用されており、
平成21 年度以降、平成30 年度末現在で計591 件の工事において実施されている。
また、全国での運用状況を踏まえ、平成29 年3 月に全国で統一すべき事項を定めた実施要領(案)(全地方整備局等連名)を策定し、これに基づき各地方整備局等における実施要領等が作成され、運用されている。
3 . 2 導入効果
道路の新設 As 舗装工事における性能指標は、“わだち掘れ量”と“ひび割れ率”とし、地方整備局等ごと(年度ごと)に保証期間と、保証期間満了時の性能指標値が設定されており、保証期間満了時に路面性状測定車により測定したそれぞれの値が、性能指標値を満足しているかを確認している。
本制度の運用の結果、平成30 年度末時点で保証期間を満了した145 件のうち、性能指標値を超えた工事は11 件(回復処置2 件、保証金適用2 件、協議中7 件[令和元年度末現在])であった。区間数では、69区間/ 9, 699区間( 0. 7%)であり、区間ベースでは指標値を超えているものは極めて少ない。
また、本制度の導入効果を検証するため、制度の導入前、導入後の測定データについて、わだち掘れ量は測定されたデ ータの数を1 mm 刻みで、ひび割れ率は測定されたデータ の数を1%刻みで集計し、それぞれ度数分布で整理した。整 理した度数分布は、制度導入前後の比較を容易にするため、度数の最大値を1 とするxx化を行った(図2)。なお導入
制度導入前 | 制度導入後 | 差 | |
データ数 | 5,595 | 7,179 | 1,584 |
平均値(mm) | 8.87 | 7.07 | -1.80 |
標準偏差(mm) | 4.43 | 2.42 | -2.01 |
制度導入前 | 制度導入後 | 差 | |
データ数 | 5,595 | 7,072 | 1,477 |
平均値(%) | 1.06 | 0.52 | -0.54 |
標準偏差(%) | 2.98 | 1.94 | -1.04 |
図 2 道路の新設 As 舗装工事における本制度の導入効果※2
前の測定データは、平成14 年度~ 28 年度までに全国で測 定された路面性状測定結果のうち、新設から5 年後に測定さ れたデータから本制度の対象区間と同等な条件(構造物区間、交差点区間などを除外)のデータを抽出し、集計している。
本制度により実施した新設 As 舗装工事の保証期間満了時(施工後5 年)の全測点のわだち掘れ量の平均値は、 7. 07mm であり、導入前の8. 87mm から1. 80mm 減 少している。同様にひび割れ率の平均値は0 . 52%であり、 1 . 06%から0 . 54 ポイント減少している。さらに、わだち 掘れ量、ひび割れ率ともに導入前と比べて、ばらつきが減少 しており、本制度の導入により、舗装の長寿命化、品質の均 一化に効果があったといえる。
また、東北地方整備局管内の保証期間満了後から3 年経過した工事区間を対象に路面性状を計測し、使用目標年における劣化状況を予測・分析した。初期の変状を抑え、早期の劣化防止が図られたことにより、使用目標年において、修繕基準には達しない予測結果が得られた(図3)。
4 . 2 PC 橋梁桁端部への適用の取組
PC 橋梁の桁端部への完成後一定期間経過後の品質を確認
・評価する入札契約制度の適用は、中部地方整備局において、平成24 年度に「PC 橋の長期保証に関する検討委員会」が 設置・検討され、平成25 年に3 件の試行工事が実施されて いる。
本制度の対象部位は、竣工後約 3 年経過後の初回点検を 実施した PC 橋梁(ポステン)の約 2 割でひび割れが見られ、その約 85%が桁端部であること、桁端部は PC 定着部があ り構造上重要であるとともに、伸縮部からの漏水等水の影響 を受け易いなど、腐食環境が厳しいため、ひび割れの抑制が もとめられることから、“桁端部(充実部)で定着部の影響 範囲を外した範囲(地覆、壁高欄は除く)”(図 4)と設定し ている。保証期間は、コンクリート打設から概ね 3 年程度 で収縮応力が収束していること、供用開始後 2 年で初回点 検を実施していることから、“3 年”と設定している。性能 指標値は、日本コンクリート工学会の「ひび割れ調査、補 修・補強指針 2009」の中で、通常の環境で『補修を必要と
密粒度舗装の経年変化
x | 繕基準 | (30 | mm) | ) | |||||||||
性 | 能指 | 標値( | 13mm以 | 下) | 5.1 | mm | |||||||
1.9 | 5.0 | 4.4 | 3.9 | 3.7 | 4.1 | 4.3 y | = 0. | 1261x | + 3. | 4732 |
35
30
わだち掘れ量(mm)
25
20
15
平均値
しない』ひび割れとして 0.2mm 以下があげられていること、
土木学会のコンクリート標準示方書等の各種文献の中で、鋼材腐食の観点から一般的に雨水の浸入が少ないひび割れとして 0.2mm があげられていること、等から、“ひび割れ幅 0.2mm 以下”と設定している※3。
保証対象範囲
使用目標年数(13年
10
5
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
3工事 (データ数N=230)
供用年数(年)
図 3 保証期間満了後の劣化予測 ( 東北地整管内:密粒度 ) ※2
4
他の道路構造物への展開
4 . 1 コンクリート構造物への展開
コンクリート構造物の品質確認は、主に竣工時に実施され ているが、コンクリートは乾燥収縮等による初期ひび割れが、数年を経て進行するため、竣工時の検査では変状していない ものも多い。しかし、例えば PC 橋梁では、竣工検査時には 0 . 2 mm 以上のひび割れは確認されていない場合でも、初 回点検ではひび割れが多く発生していることが確認される場 合もある。
ひび割れの発生により、PC 橋梁ではひび割れから雨水等 が浸透し鉄筋等の腐食の原因となったり、トンネル覆工では、コンクリート片のはく落等が生じる場合もあり、コンクリー ト構造物の長期的な健全性、品質の向上を保つためには、初 期のひび割れの抑制は大変重要である。
図 4 本制度の対象部位のイメージ(側面図)
中部地方整備局で実施された試行工事は、竣工後3 年経過した時点で、性能指標値である最大ひび割れ幅が0 . 2 mm以下であったことから履行を確認し、施工者に履行確認が通知された。ひび割れの低減を図る適切な対策工を実施し、丁寧に施工を行うことでひび割れを抑えることが実証されたことから、中部地方整備局では、引き続き PC 橋梁に本制度を適用した工事を実施していくこととしている※4。
さらに、本制度により、竣工時のひび割れ調査では発生していなかったひび割れについても、保証期間である竣工後3年間の間に継続して調査を行うことにより、初期のひび割れを早期に発見し対応していくことが可能となるため、将来的な PC 橋の長期の耐久性が向上できるといえる。
4 . 3 トンネル覆工コンクリートへの適用の取組
トンネル覆工コンクリートに完成後一定期間経過後の品質を確認・評価する入札契約制度を適用した試行工事は、中国地方整備局と四国地方整備局において平成26 年度より実施
道路構造物の長寿命化を促す入札契約のススメ
している。新設のトンネル覆工コンクリート工事において、丁寧な施工を促すことで、ひび割れや浮き、剥離等の変状の 発生を可能な限り抑制し、覆工コンクリートの長期的な品質 確保を図ることは、トンネルの長寿命化につながる。
中国地方整備局では、平成25 年度に「トンネル覆工コンクリートの長期保証に関する検討委員会」を設置し、保証項目及び保証基準等について検討し、決定した※5。長寿命化を促す契約制度の取組における保証範囲は、トンネル点検の判定区分b判定のうち、ひび割れを確認対象としている。保証期間は、トンネル工事竣工後3 年間とし、修補対象は、
●“幅3 mm 以上のひび割れ”および“長さ5 m 以上かつ最大幅1 mm 以上のひび割れ”は修補対象
●変状の進行に伴い、浮き・はく離・はく落の危険性がある “半月状”、および“幅 0.3mm 以上のひび割れによりブロック化しているもの”は修補対象
としている。
導入後において、より丁寧な施工(セントル施工時の配慮、コンクリートの確実な充填、養生期間の確保等)により、変 状の発生を大幅に削減されており、長期的な品質が確保され ることから、長寿命化が期待されている※6。
また、中国地方整備局では、保証期間終了時(トンネル工事竣工後 3 年間)の点検結果において、“ひび割れの発生がない”、または“ひび割れ幅が 0.3mm 未満でひび割れの交差がない”状態のトンネルは、評価し、施工を行った受注者に対して、段階選抜方式の一次審査において評価するインセンティブを付与する取組も行っている※7。
4 . 4 全国展開に向けた課題
前述したように、コンクリート構造物への本制度の運用は、工事完成時の竣工検査から数年後のコンクリートのひび割れ の抑制を保証基準(性能指標値)として設定している。初期 のコンクリートのひび割れ幅を一定の値以下に抑えることで、ひび割れに起因する劣化の不安要因を除去し、構造物の長期 的な健全性を保つことに資する。現在は、PC 橋梁の桁端部 については中部地方整備局、トンネル覆工コンクリートにつ いては、中国地方整備局、四国地方整備局において“試行” として実施されているが、今後の社会資本施設の老朽化対策 の一つとして全国への展開が望まれる。
その際、本制度で設定する“保証期間”、“性能指標”、“性能指標値”は、PC 橋梁の桁端部、トンネル覆工コンクリートとともに、それぞれ運用している地方整備局で検討し、設定されている。コンクリートの品質確保で主に重要となるのは、適切な材料の選定、丁寧な施工、確実な養生である。今後、全国へ展開するためには、コンクリート構造物の施工は地域特性(現場近郊で調達可能なコンクリートの種類、気象条件等)による影響が大きいため、他地整への展開における性能指標値等について検討し、地域ごともしくは全国統一の性能指標等を設定する必要がある。
また、発注者、受注者の双方にメリットのある制度とする ためには、完成後一定期間経過後の品質を確認・評価する制 度の設計・運用に係る検討だけではなく、本制度の導入を踏 まえた、成績評定への反映等によるインセンティブ付与や監 督・検査の省力化など、入札・契約から施工、監督・検査、評価に至る建設生産・管理システム全体のあり方についても 検討することが重要であると考える。
5
おわりに
完成後一定期間経過後の品質を確認・評価する入札契約制度の取組は、新設 As 舗装、PC 橋梁の桁端部、トンネル覆工コンクリートともに、導入後における品質向上の効果が確認されているところである。
本制度は、道路構造物の老朽化対策の有効な手段の一つとして期待できるといえ、現在、一部の地方整備局において試行的に実施されている PC 橋梁の桁端部とトンネル覆工コンクリートに関しては、全国への展開が望まれる。
全国展開に向けては、それぞれの構造物ごとに、先行事例におけるそれまでの検討経緯や課題を整理していく必要があると考える。
また、本制度は、同様の劣化特性を持つ道路以外の社会資本施設にも展開が可能であると考える。
これらを踏まえ、発注者、受注者の双方にメリットのある制度となるよう、全国へ展開していくトータルマネジメントが必要であり、JICE としても、国土交通省の協力を得ながら本仕組みの充実に尽力して参りたい。
<参考文献>
※1:国土交通省 社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト
※2:「『令和元年度 道路舗装の長期保証に関する検討業務』報告書」(令和2 年2 月 北陸地方整備局)
※3:「『PC橋の長期保証に関する検討委員会』報告書」
(平成25 年2 月28 日、中部地方整備局道路工事課)
※4:平成30 年11 月8 日、中部地方整備局記者発表資
「PC橋梁の長寿命化に引き続き取り組みます~~ PC橋の維持管理コスト低減のため~~」
※5:中国地方整備局ホームページ「トンネル覆工コンクリートの長期保証について」
※6:令和元年10 月18 日、( 一社 ) 全日本建設技術協会令和元年度公共工事品質確保技術者更新講習資料
「中国地方整備局の品質確保に向けた取り組み」
※7:中国地方整備局ホームページ「平成31 年度 入札・契約手続き等に関する説明会資料 工事の入札・契約等について(平成31 年4 月)」