Sample Bidding Documents under Japanese ODA Loans
片務的契約条件チェックリスト
(Sample Bidding Documents under Japanese ODA Loans
- Procurement of Civil Works 2009 年 6 月版対応)
2011 年 3 月
独立行政法人 国際協力機構資金協力支援部 調達監理課
序文
国際協力機構(JICA)が融資する円借款によって実施される事業の効率的かつ迅速な実施のためには、借入人とコンサルタント及びコントラクターとの間の契約における明確かつ適正な権利義務の規定が不可欠である(コンサルタント雇用ガイドライン第 2.02 条、調達ガイドライン第 4.04 条)。
円借款供与により実施される建設プロジェクトの契約書の規定について、JICA は従来より国際コンサルティング・エンジニヤ連盟(FIDIC)標準契約約款を盛り込んだ標準入札書類(土木)を作成しており、「円借款事業の調達及びコンサルタント雇用ガイドラインに係るハンドブック」において、その使用を推奨しているが、異なる約款を使用したり、標準約款を改変し、発注者(借入国側)・請負者間のxxなリスク負担が確保されない「片務的契約条件」を含む約款を使用する事例がしばしば見られる。かかる「片務的契約条件」は、円借款の円滑な実施のための障害となり、ひいては案件効果発現を遅延させ借入国にとって損害となり得るものである。
以上の背景から、JICA は日本コンサルティング・エンジニヤ協会(AJCE)に委託し、円借款事業に見られた「片務的契約条件」の具体事例をまとめて借入国側の適正な入札書類の作成に資すると共に JICA 職員の執務においても参考とするために、「片務的契約条件チェックリスト」を作成した。本チェックリストは、2009 年 6 月に FIDIC 標準契約約款(レッドブック MDB 版)を採用し作成された標準入札書類(土木)に合わせ、2006 年 12 月に発行した「片務的契約条件チェックリスト(Sample Bidding Documents under JBIC ODA Loans – Procurement of Civil Works 1999 年 11 月版対応)を改訂するものである。1本邦建設企業の一層の国際化が求められる昨今、円借款事業の借入人、JICA 職員のみならず、円借款事業であるか否かを問わず、海外で活躍される本邦建設企業、エンジニアリングコンサルタントの方々にも広く活用されることを期待したい。
もちろん、チェックリストが活用され片務的な契約条件が是正されたとしても、更に契約条件の適正な運用が必要であることは論を待たない。しかしながらxxな契約条件の確保は円借款事業実施促進のための基本と考えられる。JICA は今後も借入国との協議を通じ、共同して円借款事業実施における改善を図っていく所存であるところ、本編がその一助となれば幸いである。
1 今後も、標準入札書類の改定にあわせ、本チェックリストも改訂される予定である。
片務的契約条件チェックリスト
目 次
序文
本書の構成について
片務的契約条件チェックリスト
1. チ ェ ッ ク リ ス ト の 目 的 1
2.FIDIC レ ッ ド ブ ッ ク MDB 版 の 特 徴 2
3. 契 約 書 の 片 務 性 に つ い て 6
4. 契 約 が 片 務 的 に な る 動 機 に つ い て 9
5. チ ェ ッ ク リ ス ト 解 説 12
添 付
添付-1 クレーム及び紛争解決の手順(FIDIC レッドブック MDB 版)
本書の構成について
片務的契約条件チェックリスト
円借款プロジェクトの建設契約書の作成やレビューにおいて、契約当事者の権利、義務、リスクに関わる契約上の片務性を排除するためのチェックリストを巻頭に示す。
第1節: チェックリストの目的
本チェックリストを作成した背景と目的を解説する。
第2節: FIDIC レッドブック MDB 版の特徴
建設契約書の作成者が理解すべき、FIDIC レッドブック MDB 版の基本的なコンセプトと
特徴を解説する。
第3節: 契約書の片務性について
契約片務性の原因となる事由を4つのカテゴリーに分類し解説した。
第4節: 契約が片務的になる動機について
契約が片務的になる動機について、4つの主な原因を解説した。
第5節: チェックリスト解説
本チェックリスト各項目の内容を理解するための手引きとして、個々のチェック項目に
関わる解説を記述する。
凡例 : 「標準入札書類」= JICA "Sample Bidding Documents under Japanese ODA Loans, Procurement of Works", June 2009
No. | 条項 | タイトル | チェックポイント | 結果 |
1 | 全般 | - | 契約図書は標準入札書類に準拠しているか。 | |
2 | 全般 | - | 特記条件を含む契約図書一式は、経験のある専門家により作成・編集されているか。 | |
3 | 1.1.2 | 当事者及び者 | xxxxxに指定されているのは、発注者組織とは別個の企業(コンサルタント)に属する専門家であ るか。 | |
4 | 1.1.3 | 日付、試験、期間及び完成 | 請負者の欠陥通知期間は、標準入札書類の契約データの通りに"365 days"となっているか。 | |
5 | 1.2 | 解釈 | 契約データに「利益」について規定されている場合、過少な値となっていないか。 | |
6 | 1.4 | 法律と言語 | 契約の支配言語、コミュニケーション言語は国際的な言語が指定されているか。 | |
7 | 1.5 | 書類の優先順位 | 書類の優先順位が一般条件から変更されていないか。 | |
8 | 1.9 | 図面又は指示の遅延 | 図面・指示の遅延に対する請負者の工期延長・追加費用請求権が制限されていないか。 | |
9 | 2.1 | 現場への立入り権 | 現場の立入りと占有に係る請負者の工期延長・追加費用請求権が制限されていないか。 | |
10 | 2.2 | 許可、免許又は承認 | 発注者の請負者に対する助力について、具体的にその内容が示されているか。または規程が削除あ xxは範囲が縮減されていないか。 | |
11 | 2.5 | 発注者のクレーム | クレームの通知期限が延長されていないか。 | |
12 | 3.1 | エンジニヤの義務と権限 | エンジニヤが裁量権限を行使する際に、発注者の事前承認を必要とする対象範囲が明確に記載さ れているか。また過大となっていないか。 | |
13 | 3.3 | エンジニヤの指示 | エンジニヤの指示に関する権限、手順に、発注者の関与が付加されていないか。 | |
14 | 3.4 | エンジニヤの交代 | xxxxxの交代についての、請負者の異議申し立ての権利が制限されていないか。 | |
15 | 3.5 | 決定 | エンジニヤの決定の、契約に基づくxx性が阻害される様な制限が課せられていないか。 | |
16 | 4.1 | 請負者の一般的義務 | 他者による設計責任が請負者の一般的義務に転嫁される等、請負者の一般的義務が拡大されてい ないか。 | |
17 | 4.2 | 履行保証 | 履行保証の期間や保証額は適正か。 | |
18 | 4.7 | 計画位置の設定 | 計画位置の設定に係る参照原点、原線、原水準ついても請負者の責任としている様な義務の拡大が ないか。 | |
19 | 4.10 | 現場データ | 一般条件に示される以上に、現場データに係る責任を請負者に負担させていないか。 | |
20 | 4.12 | 予見不可能な物理的条件 | 予見不可能な物理的条件による請負者の工期延長・追加費用請求権を制限していないか。 | |
21 | 4.24 | 化石 | 本条項に係る請負者の権利に制限がかけられていないか。 | |
22 | 5.2 | 指名に対する異議 | 指定下請者の指名に対して請負者の合理的異議申し立てが制限、あるいは削除されていないか。 | |
23 | 7.4 | 試験 | 試験に係る請負者の工期延長・追加費用請求権が制限されていないか。 | |
24 | 8.1 | 工事の開始 | 工事の開始もしくは工事開始日について、片務的な事項が特記条件又はその他の契約図書に記載 されていないか。 | |
25 | 8.4 | 完成期限の延長 | 請負者の完成期限延長に係る権利が制限されていないか。 | |
26 | 8.7 | 遅延損害賠償 | 請負者に課す遅延による予定損害賠償金の日額は妥当か、上限額は標準入札書類の契約データに 示す額を超えていないか。 | |
27 | 8.9 | 工事中断の結果 | 工事中断に係る請負者の権利に制限がかけられていないか。 | |
28 | 8.10 | 工事中断の場合のプラント及び資材の支払い | 工事中断に係る請負者の支払いを受ける権利に制限がかけられていないか。 | |
29 | 8.11 | 長期に渡る中断 | 工事の長期中断に係る請負者の契約終了の権利に制限がかけられていないか。 | |
30 | 10.1 | 工事とその区間の引渡し | 引渡しに関する手順について、請負者に不利な変更や追加がなされていないか。 | |
31 | 11.1 | 未了工事の完成と欠陥の修復 | 欠陥の修復について請負者の責任範囲を拡大していないか | |
32 | 11.3 | 欠陥通知期間の延長 | 欠陥通知期間を無制限に延長できる様な変更がされていないか。 | |
33 | 11.8 | 請負者による原因究明 | 欠陥が請負者の責によらない場合の、調査の費用や関連の利益についての請負者の権利が制限さ れていないか。 | |
34 | 12.3 | 費用算定 | 新たな料率又は価格の追加が行われる条件について、請負者に不利な変更や追加がなされていな いか。 | |
35 | 13.5 | 暫定金額 | (b) (ii)項に適用される料率は適正か。 | |
36 | 13.7 | 法制の変更による調整 | 請負者の工期延長・追加費用請求権を制限していないか。 | |
37 | 13.8 | 費用の変更による調整 | 一年以上の工期が設定されている工事の場合、調整データ表が明細書に綴じられ、本条項が有効と なっているか。適正な調整データ表が契約図書に含まれているか。 | |
38 | 14.2 | 前渡金 | 前渡金償還に関して請負者に過度の義務を強いていないか。 | |
39 | 14.3 | 中間支払い証明書の申請 | 標準入札書類の契約データを参照した、適正な留保率・額についての設定がされているか。 | |
40 | 14.6 | 中間支払い証明書の発行 | エンジニヤの業務から発注者の業務として変更していないか。エンジニヤによる中間支払い証明書 の発行期限を延長することによって、請負者の権利を制限していないか。 | |
41 | 14.7 | 支払い | 支払期限を長期に設定するような、請負者の権利制限がなされていないか。 | |
42 | 14.8 | 支払いの遅延 | 支払い遅延利息をなくすような、請負者の権利制限がなされていないか。 | |
43 | 16.1 | 請負者の工事中断の権利 | 発注者に起因する工事終了・減速における請負者の工事中断の権利及び中断に伴う工期延長・追 加費用に係る権利が制限されていないか。 | |
44 | 16.2 | 請負者による契約終了 | 請負者の契約終了ができる条件やまたその手続きについて、請負者の不利となる変更がされていな いか。 | |
45 | 17.3 | 発注者のリスク | 発注者のリスクを請負者に転嫁して請負者の義務を拡大していないか。このリスクに起因する請負者 の工期延長・追加費用に係る権利が制限されていないか。 | |
17.4 | 発注者のリスクの帰結 | |||
46 | 19.1 | 不可抗力の定義 | 不可抗力の定義をせばめていないか。不可抗力に起因する請負者の工期延長・追加費用に係るx xが制限されていないか。 | |
19.4 | 不可抗力の結果 | |||
47 | 19.6 | 任意契約終了、支払い及び解除 | 任意契約終了ができる条件や精算支払いの手続きについて、請負者の不利となる変更がされていな いか。 | |
48 | 20.1 | 請負者のクレーム | クレームに係る手続きやクレームに関連する事項について、通知期間を短縮するような変更がされて いないか。 | |
49 | 20.2 | 紛争委員会の選任 | 契約データに設定されている紛争委員会設置の期限は、標準入札書類の契約データ通りに"28 days after the Commencement date"となっているか。 | |
50 | 20.3 | 紛争委員会選任の不一致 | 契約データに指名機関又は指名者が明記されているか。またその機関/者は当事者双方にとってx xか。 | |
51 | 20.6 | 仲裁 | 請負者が国外業者のため国際仲裁となる場合、契約データに設定されるべき仲裁機関は、標準入札 書類通りに"International Chamber of Commerce"となっているか。 | |
52 | App. | 紛争委員会合意書の一般条件 | 紛争委員への支払いに関し、等分負担の方針を変えるような変更がされていないか。 |
契約書は契約当事者の、責任、権利、リスクを規定する文書であり、多数のステークホルダーが関わるプロジェクトの円滑な実施にとって大変重要な文書である。独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency : JICA)は、円借款供与により実施される建設プロジェクトに対して、2009 年に発行された「円借款事業に係る標準入札書類(土木工事編)」 (Sample Bidding Documents under Japanese ODA Loans - Procurement of Works, June 2009、以下
「標準入札書類」)をベースとして契約書を作成することを被援助国実施機関に対して勧奨している。この標準入札書類では契約条件書として、国際コンサルティング・エンジニヤ連盟(Fédération internationale des ingénieurs-conseils、以下「FIDIC」)が作成した建設工事契約条件書[発注者の設計による建築ならびに建設工事]国際開発金融機関調和版(Conditions of Contract for Construction for Building and Engineering Works Designed by the Employer, Multilateral Development Bank Harmonized Edition、以下「レッドブック MDB 版」)が採用されている。これは発注者(the Employer)と請負者(the Contractor)のxxなリスク分担の確保を原則として作成されている。
FIDIC の契約条件書は、プロジェクト毎の特性や要求事項を勘案して加筆・調整がなされ 最終化されるが、原文にあるリスク分担の考え方が大きく変更され、請負者の負うべきリス クが過大となるような書換えが行われた場合には、以下のような問題が発生する原因となる。
① 入札価格の上昇
② 入札の不調とこれに起因する工事完成予定日の延伸
③ 誠実で有能な請負者の入札への不参加
④ リスクを適正に評価できない請負者の落札
⑤ 工事品質の低下や工期延長
⑥ 契約当事者間の信頼関係の低下
⑦ 契約上の根拠に乏しいクレームの多発
⑧ 契約当事者間の紛争状態の発生
⑨ 最悪のケースとして契約の途中修了
これらの状況は円借款事業全体の円滑な実施を大きく妨げるものであり、発注者にとっての利益とならない。
本チェックリストは、契約の片務性を予防することを目的に作成され、事業実施機関をはじめ関係者が契約図書の作成や照査の際の参考資料として活用することを推奨するものである。
なお本チェックリストは、過去の円借款プロジェクトの事例などに基づいて作成した。
2.FIDIC レッドブック MDB 版の特徴
JICA の標準入札書類では、XXXXX が作成したレッドブック MDB 版が契約条件書として使
1
用されている。レッドブックの歴史は古く 国際建設契約約款のデファクト・スタンダード
2
として、世界銀行やアジア開発銀行の標準入札書にも採用されている 。
このレッドブックは、1987 年版「Conditions of Contract for Works of Civil Engineering Construction」から 1999 年版「Conditions of Contract for Construction for Building and Engineering Works Designed by the Employer」に向けて大幅に改訂された。MDB 版とは、1999 年版に国際開発金融機関が融資するプロジェクト向けの変更を施したものであり、基本構造は 1999年版と同じである。尚、レッドブックとは、FIDIC が発行する契約条件書のうち発注者が設計を行うプロジェクト用のものは、いずれも赤色を基調とする装丁であることから付けられた名称である。(イエローブック、ホワイトブック、などもある。)
レッドブック MDB 版は一般条件(General Conditions)を著したものであるが、次の特記条件が作成されることを想定している(標準入札書類を参照)。
D 特記条件パート A「契約データ」(Particular Conditions, Part A - Contract Data)
一般条件中に、契約データに示されるよう指定されている事項をまとめたもの。プロジェクト毎に指定される数値、固有名称など。
D 特記条件パート B「個別規定」(Particular Conditions, Part B – Specific Provisions)
そのプロジェクト固有の性質、状況を鑑みた場合、一般条件のままでは適切でない部分について、変更、削除、追加を行うもの。
また契約図書全体としては次の様な書類構成を想定している。(参照「1.5 条 書類の優先順位」)
D 契約合意書(the Contract Agreement)
D 入札受諾書(the Letter of Acceptance)
D 入札書(the Letter of Tender)
D 特記条件パート A(the Particular Conditions – Part A) D 特記条件パート B (the Particular Conditions – Part B) D 一般条件(the General Conditions)
D 仕様書(the Specification)
D 図面(the Drawings)
1 第一版は英国の ICE 約款をベースに 1957 年に発行されている。
2 世銀・アジ銀は 2005 年 5 月に FIDIC レッドブック 1999 年版をベースとした Harmonised Edition を公表したが、それ以前は FIDIC レッドブック 1987 年版が採用されていた。
D 明細書とその他契約を構成する書類(the Schedules and any other documents forming part of the Contract)
レッドブックの基本的な思想は以下に要約されるが、この枠組みから大きく外れる書換えが行われるケースにおいて契約書の双務性が阻害される可能性が生ずると考えられる。
1) 発注者による設計
レッドブックと称される FIDIC の契約条件書では、プロジェクトの実施方法として設計-入札-施工(Design-Bid-Build)方式が想定されている。永久構造物の設計は発注者が行い(但し、4.1 条に関連して請負者の設計が課されている範囲を除く)、請負者は入札で示された図
3
面と仕様書に従い工事を完成させる 。従って設計瑕疵責任は発注者が負うことになる。
ここで土木構造物の設計は、地形や地質などの自然条件から大きな影響を受けるが、事前調査においてこれら条件を完全に把握することが不可能であるため、建設中の設計変更が起こりやすい。設計変更に起因する契約変更を円滑に処理するプロセスとして、13 条「変更と調整」が規定されている。
2) 紛争委員会の存在
レッドブック MDB 版の最も顕著な特徴として紛争委員会(Dispute Board)の存在がある。紛争委員会の委員は建設工事契約の当事者ではないが、発注者及び請負者双方と別途に契約 (三者契約)を結び、建設工事中の発注者と請負者の間の紛争について裁定(Decision)を行う。そして建設工事契約の一般条件に、この別途の契約の一般条件を添付し、その中で委員がxx(impartial)かつ発注者及び請負者双方から独立(independent)していることを保証し相互に同意されなければならないことを規定している。
3) エンジニヤの存在
FIDIC の契約条件書にはエンジニヤ(the Engineer)と称される役割が規定されているものが あり、レッドブックもその一つである。xxxxxは契約の直接的な当事者ではないが、エ ンジニヤの役割と業務が契約に明記されており、契約管理において大変重要な役割を果たす。
レッドブック MDB 版におけるエンジニヤの役割は以下の 3 つに分類することができる。
① 発注者の業務代行者
xxxxxは、FIDIC レッドブックに従った契約管理を遂行するため、以下の業務を提供する。
• 施工に必要な詳細図面の作成(設計変更を含む)と請負者への発給(関連条項:
1.9)
• 工事の変更通知の発行(関連条項:13.1)
• 請負者の作成する施工計画や図面の審査・承認(関連条項:4.1)
3設計は、円借款事業の場合、発注者との契約によりコンサルタントが実施することが通常である。
• 進捗管理、コスト管理、品質管理、検査業務、安全管理、環境管理等のプロジェクト管理業務(関連条項:8.3、13、7、9、4.9)
② 承認者・証明者
xxxxxは、請負者の義務の完了や契約金の支払に関連する各種証明書
(Certificate)を独自の判断により発行する。エンジニヤの発行する証明書は、契約当事者双方にとって強い拘束力を持つものである。
• 工事の引渡し証明書の発行(関連条項:10.2)
• 工事の完工日の証明(関連条項:11.9)
• 前渡金支払・中間支払証明書の発行(関連条項:14.6)
• 保留金の解除(関連条項:4.9)
• 最終支払証明書の発行(関連条項:14.13)
③ クレームに関わる決定者
期間延長や追加費用が発生した場合に、請負者にはクレーム(the Claims)をエンジニヤに申し立てる権利が確保されている。xxxxxは、第 3.5 条に基づき、合意を得るべく両者と協議を行い、合意に至らなかった場合は「契約に従って『xxな』決定を行う」(make a "fair" determination in accordance with the Contract)。
即ち、xxxxxは、①発注者の業務代行者、②承認者・証明者、③クレームの決定者の 3 つの役割を併せ持っている。後者の二つについてxxxxxはxxな契約管理を行うことが要求されている。
レッドブック 1987 年版では決定(decision)、意見(opinion)、同意(consent)、満足又は承認の表明(expression of satisfaction or approval)、価格決定(determination of value)などのエンジニヤの行為について契約上与えられた権限を「xxに」行使する(he shall exercise such discretion “impartially” within the terms of the Contract)とされ(1987 年版 2.6 条)、また、契約もしくは工事の施工に関連して論争(Dispute)がある場合、何れかの契約当事者により、その争点はエンジニヤに付託されエンジニヤはその決定を行うとされるなど(1987 年版 67 条)、エンジニヤの中立性が重視されていた。一方 1999 年版・MDB 版では、かかる条項は採用されず、紛争委員会が「xxな(impartial)」裁定を担い、エンジニヤは発注者の要員であり(“’Employer’s Personnel’ means the Engineer...”,1.1.2.6 条)、発注者のために行動するとみなされる(the Engineer shall be deemed to act for the Employer, 3.1 条)、ことが新たに規定された。しかしながらxxxxxは、契約上要求される責務について高い技能を保持する有資格技術者でなければならないとされており(“The Engineer’s staff shall include suitably qualified engineers and other professionals who are competent to carry out these duties”, 3.1 条)、クレームの際は、契約に基づき「xxな」決定をすることが義務付けられている(3.5 条)。仮にxxxxxがバランスを欠
いた判断をすることが常態化すれば、紛争の頻発を招くこととなる。そして紛争委員会が「xxな」判断を下した結果、xxxxxの決定が容易に覆されるような事態となれば、エンジニヤの資質に疑義がもたれ、ひいてはプロジェクトの運営に支障をきたす恐れがある。この様に発注者の利益のためにも、xxxxxがプロフェッショナルな立場でxxな判断をしていくことを求められていることは明らかである。
(決定)
【DAB 契約】
DAB
以上から、契約上の代表的関係者の連関を図示すると次の様になる。
【紛争委員会契約】
裁定
【建設契約】
( 【コンサルタント契約】
【紛争委員会契約】
報告、申請
裁定
紛争委員
発注者
エンジニア
(報告、申請)
(管理、指示、決定、承認
(建設契約)
(決定)
コンサルタント契約)
【DAB 契約】
請負者 | エンジニヤ | ||
管理、指示、決定、承認 |
)
図 1 主要関係者連関図(レッドブック MDB 版)
4) クレーム処理/紛争解決手続の明確性
建設作業は、地下条件、気象条件、社会環境、経済状況などの外的要因の影響を強く受ける。従って、長期にわたる建設期間中に予見し難い事象が発生しやすいが、これらの不確実性を全て事前に排除することはできない。
レッドブックでは、契約時に予見できない事象(Unforeseeable Physical Conditions)が発生したり、契約規定からの逸脱が発生した場合に、請負者に追加費用と工期延長を請求する権利を有することが規定されている。そして建設工事の不確定性から発生するクレームや紛争解決のプロセスが詳細に規定されている。
添付-1 に、レッドブック MDB 版におけるクレーム及び紛争解決の手順を示す。
5) バランスの取れたリスク分担
レッドブックは、発注者と請負者のリスク分担にxxxxがとられている契約であることが、しばしば言われている。
リスク分担の基本的な考え方は以下の通りであると考えられる。
• それぞれのリスクをより良く管理できる当事者がそのリスクを負担する。
• 発注者・請負者共に管理できないリスクについては基本的に発注者がリスクを負担する。
6) BQ(単価)契約(BQ Contract)・再検測契約(Remeasurement Contract)
支払は、請負者の入札単価と実際の工事数量に基づき精算される。契約書の BQ(Bill of Quantities、数量明細書)の工事数量はあくまで暫定的なものであり、実際の工事数量はエンジニヤが請負者の立会いのもと再検測(remeasurement)し支払額を証明する。
3.契約書の片務性について
契約に片務性を与える原因として、標準入札書類に掲載されている一般条件の条文を、特記条件パート B で別の内容に置き換えてしまうことにより、①請負者の契約上の「権利 (rights) 」が不合理に制限される、 契約上の請負者の「 義務(duties, obligations or responsibilities)」が不合理に拡大又は発注者の「義務」が不合理に縮小、更には請負者に転嫁、③エンジニヤの 3.5 条に基づくxxな決定が阻害される、④紛争委員裁定の取得が阻害される、という4つの事由が考えられる。これらは、何れも請負者の契約上のリスクを増大させるものである。
円借款事業を含む政府による公共事業一般において、発注者(通常、政府・政府機関)は受注者より強い立場にあると考えられる。従って、片務性を排除するには、両者の権利義務を合理的かつ明瞭に契約書に記載して、契約当事者間でのバランスのとれた権利義務関係を構築すると共に、契約当事者(特に発注者)による恣意的な解釈・運用の可能性を排除する必要がある。
1) 請負者の契約上の「権利」の制限
請負者の権利として最も重要なものに、予見不可能な物理的条件遭遇した場合や契約条件からの逸脱が発生した場合の工期延長や追加費用のクレームの権利が挙げられるが、これらの権利が不合理に制限される場合に請負者のリスクを増大させる結果となる。
レッドブック MDB 版では以下の状況において、請負者がxxxx、その他の権利を有することを定めている。
表 1 請負者のxxxx等が可能な項目
事象 | 条項 | 工期延長 | 追加費用 | 追加利益 | 決定プロセス | |
1 | エンジニヤによる図面発給や指示の遅れ Delay of drawings and instructions by the Engineer | 1.9 | ○ | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) |
2 | 現場への立入り権や占有権の制限 Limitation of right of access to the Site | 2.1 | ○ | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) |
3 | 不適切な要員へのエンジニヤ交代 Replacement of Engineer to an unsuitable person | 3.4 | - | - | - | 発注者へ異議申立 |
4 | 参照点の誤謬 Inaccuracy of setting out references | 4.7 | ○ | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) |
5 | 予見不可能な物理的条件 Unforeseeable Physical Conditions | 4.12 | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | |
6 | 化石や遺跡の出現 Appearance of fossils | 4.24 | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | |
7 | 不適当な指定下請者 Insufficiently competent nominated subcontractor | 5.2 | - | - | - | エンジニヤへ異議申立 |
8 | エンジニヤによる試験に係る変更 Variation of testing instructed by the Engineer | 7.4 | ○ | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) |
9 | 工事開始に係るエンジニヤの指示書未達Unreached the Engineer’s instruction of Commencement of Works | 8.1 | ○ | ○ | ○ | 発注者へ通知(16.2 条) |
10 | 条項に規定する理由による完成期限の延長Extension of Time for Completion caused by reasons in the Sub-Clause | 8.4 | ○ | エンジニヤへ通知(20.1 条) | ||
11 | 8.4 条に係る完成期限延長を短縮 Reduction of delays resulting from Extension of Time for Completion under Sub-Clause 8.4 | 8.6 | ○ | エンジニヤへ通知(20.1 条) | ||
12 | エンジニヤの指示による工事の中断の結果Consequences of suspension instructed by the Engineer | 8.9 | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | |
13 | 長期の工事中断:省略 Prolonged Suspension: omission | 8.11 | ○ | ○ | エンジニヤへ通知(13.1 条) | |
14 | 長期の工事中断:契約終了 Prolonged Suspension: contract termination | 8.11 | ○ | ○ | 発注者へ通知(16.2 条) | |
15 | 契約指定・合意以外の発注者による部分使用 Taking over of parts of the Works by the Employer | 10.2 | ○ | ○ | エンジニヤへ通知(20.1 条) | |
16 | 発注者の責による完成試験の阻害 Interference with tests on completion by the Employer | 10.3 | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | |
17 | 請負者の責に因らない欠陥の調査 Searching causes of a defect not responsible to the Contractor | 11.8 | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | |
18 | 13.1 条の変更に係る省略 Omissions forming a Variation under Sub-Clause 13.1 | 12.4 | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | ||
19 | バリュー・エンジニアリング Value engineering | 13.2 | - | - | - | エンジニヤよる決定(3.5 条) |
20 | 法制の変更 Adjustments for changing in legislation | 13.7 | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | |
21 | 16.1 条の事由による工事の中断Suspend Work under Sub-Clause 16.1 | 16.1 | ○ | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) |
22 | 16.2 条の事由による契約の終了Termination under Sub-Clause 16.2 | 16.4 | ○ | ○ | ○ | 発注者へ通知 |
23 | 発注者のリスクによる損失・損害 Loss or damage by Employer’s Risks | 17.4 | ○ | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) |
24 | 知的財産権の侵害 Infringement of intellectual property rights | 17.5 | - | - | - | 発注者へ通知 |
25 | 不可抗力 Force Majeure | 19.4 | ○ | ○ | エンジニヤよる決定(3.5 条) | |
26 | 不可抗力による長期中断:契約終了 Prolonged suspension by Force Majeure: termination | 19.6 | ○ | ○ | 発注者へ通知 | |
27 | 請負者が期限延長・追加支払に該当すると考える場合 Event of Contractor’s claim for Extension of Time or additional payment | 20.1 | ○ | ○ | ○ | エンジニヤへ通知 |
28 | エンジニヤの行為についての紛争 Disputes related to the Engineer’s Actions | 20.4 | - | - | - | 紛争委員会へ付託 |
29 | 紛争委員会の裁定でも解決しない紛争 Disputes unable to be settled by Decisions of the Dispute Board | 20.7 | - | - | - | 仲裁へ付託 |
2) 契約上の、請負者の「義務」の拡大又は発注者の「義務」の縮小
例えば、遅延のための遅延損害(Delay Damages:8.7 条)に上限が設けられていなかったり、また欠陥通知期間(Defect Notification Period:11.3 条)が非常に長く設定される場合に、請負者の義務範囲が拡大されると考えられる。
また、FIDIC レッドブック MDB 版で規定される発注者の義務事項の代表的なものは以下の通りである。
① 発注者の義務事項:1.13 条
② 現場の立入り権及び占有権の請負者への付与(The right of access to and the possession of the site):2.1 条
③ 当該国の法制度に定める許可、免許、承認を請負者が得ることの支援(Assistance to allow the Contractor to obtain permits, licences or approvals required by the Laws of the Country):2.2 条
④ 工 事 の た め の 支 払 い を 裏 付 け る 資 金 の 手 配 (Employer’s financial arrangements):2.4 条
⑤ 工事の位置決めに必要な参照点の正確さ(Accuracy of the original points, lines and levels of reference):4.7 条
⑥ 工事に関係する発注者所有データの、請負者への開示(Site Data made available by the Employer to the Contractor):4.10 条
⑦ 前渡金、及び中間・最終の支払い(Advance payment and Interim and Final payments):14.2 条、14.7 条
⑧ 発注者、発注者の要員又はそれらの代行者による、契約上の過失などに係る補償(Indemnities against all claims, damages, losses and expenses in respect of the reason attributable to the Employer, the Employer’s personnel or any of their respective agents):17.1 条
⑨ 「発注者のリスク」の引受け(Shift of “Employer’s Risks” to the Contractor):17.4
条
⑩ 不可抗力に関する、契約に定められた追加費用の支払い(Payment for additional costs due to Force Majeure, which is mentioned in the Contract):19.4 条
⑪ 紛争委員の任命(請負者と共同) (Jointly appointment of the Dispute Board by the Parties :20.2 条
⑫ 和解による紛争の解決(Amicable settlement of disputes):20.5 条
⑬ 紛争委員への支払い(請負者と等分)(Payment to the Dispute Board Member (equally shared by each Party):添付「紛争委員会合意書の一般条件(APPENDIX:
General Conditions of Dispute Board Agreement)」6 条
もし上記に挙げた発注者が果たすべき各義務事項の一部または総てが削除されたり、あるいは請負者に転嫁されたりするような場合には、請負者のリスクの拡大につながる可能性がある。
3) エンジニヤの 3.5 条に基づくxxな決定の阻害
2 章で記述した通り、レッドブック MDB 版では期間延長や追加費用が発生した場合に、請負者にはクレームをエンジニヤに申し立てる権利が確保されており、エンジニヤは、第
3.5 条に基づき、合意を得るべく両者と協議を行い、合意に至らなかった場合は、「契約に基づくxxな決定を行なう(shall make a fair determination in accordance with the Contract)」(3.5 条)こととなる。
この 3.5 条の「xxな決定」に制限を加える方法として、
① 3.5 条において、「xxな(fair)」という文言を削除したり、決定の通知前に発注者の承認が必要とする旨を追加する。
② 3.5 条を参照している条項(1.9 条、2.1 条、4.7 条、他)において、「副条項 3.5[決定]に従い(in accordance with Sub-Clause 3.5[Determinations])」という文言を削除したり、合意や決定に対し発注者の承認が必要とする旨を追加する。
などが考えられる。この様な変更が行われると、契約がxxに履行される拠り所が曖昧となり発注者の意向が過度に反映されるなどして、その結果、片務性を帯びた契約となる可能性がある。
4) 紛争委員裁定の取得の阻害
MDB 版では紛争委員会のみに紛争を裁定する権限が付与されており、高い中立性とxx性が義務付けられている。一般条件の添付である「紛争委員会合意書の一般条件」の 3 条に
「委員は、自身がxxであり、発注者、請負者及びエンジニヤから独立していることを保証し且つこれに合意する。(The Member warrants and agrees that he/she shall be impartial and independent of the Employer, the Contractor and the Engineer.)」と規定されている。
従って紛争委員の選任が遅い、或いは常設でない、更には紛争委員会そのものを削除するなどの変更を加えた場合、請負者にとっては契約の全般にわたってxxな履行を保証する機能が制限されるため、重大なリスクと捉えられる可能性がある。
4.契約が片務的になる動機について
契約図書を作成する際に契約が片務的になる動機として、①発注者の工事に関連する予算の不足、②発注者の契約約款の理解、契約マネジメント能力または主体者意識の不足、③契約図書作成に要する期間と費用の不足、④国内法規・国内手続きへの配慮、という4つの事由が考えられる。契約図書の作成段階に至る前にこれらの要因を取り除いておけば、多くの責任ある請負者の入札参加が期待でき、プロジェクトの円滑な進行に繋がる。
1) 発注者の工事に関連する予算の不足
プロジェクトの初期の計画段階で見積った事業費が適正であっても、工事の実施が決定となって契約図書の作成に着手する間に物価上昇や為替変動などによって予算が不足することが起こり得る。
この場合、契約図書に綴じられる数量明細書と対応していない発注者側の予備費や紛争委員費用を圧迫することとなる。その結果として、実績数量検測の制限や完成期限延長、追加費用と関連利益の支払いの制限を契約条件に加えて予備費の支出を抑えようとしたり、紛争委員の選定を遅らせて紛争委員への支払い額を少なくしようという圧力が働く場合がある。
この様な事態を回避するには、契約図書作成の前段階で工事費用の見積りを再検証し、増加している場合は工事範囲の縮小や工法の見直しなどによって、所定の予備費や紛争委員費用が確保できるようにすることが望ましい。
2) 発注者の契約約款の理解、契約マネジメント能力または主体者意識の不足
FIDIC レッドブックは適正なリスク配分の見地で作成されており、請負者側についても配慮されている。しかしながら、発注者の契約約款、特に契約当事者間の権利義務関係に対する理解、マネジメント能力の欠如、主体者意識の不測から、発注者が負うべき義務を請負者に転嫁するケースが多く見られる。ここで発注者の利益を出来るだけ増大させるような変更を加えて行くと、請負者にとって権利の減少はリスクの増加、義務の増加は費用の増加となっていく。果たして適正な利益を上げるのが困難な案件となり、優良な請負者は入札に参加しにくくなってしまう。
その結果、入札準備段階での検討が十分でなかったために低い入札価格を提示した請負者が受注し、その請負者が工事開始後に検討外の支出を防ぐためクレームを頻繁に行なうという事態に陥りやすい。
工事を円滑に進行させるためには、優良で経験豊富な責任ある請負者を調達することは重要である。そのためには発注者、請負者双方の利益・リスクに配慮された契約とし、品質の良い施工をすれば適正な利益が見込める契約条件を形成する必要がある。そうすれば自ずと責任ある請負者が多数、入札に参加して、実のある競争環境が成立するものと考えられる。
また、契約約款の内容を説明し、バランスのとれた契約約款を使用することが、広い意味で発注者の利益になることをプロジェクト形成段階の早い段階で十分に発注者の理解を得ておくことが重要である。
3) 契約図書作成に要する期間と予算の不足
契約図書は一般条件や特記条件のみならず、様々な書類から成り立っており相互に関係している。従って、一般条件に書類間の優先順位は定められているものの、契約図書作成時の検討が十分でないと、下位の書類にある記述の方が妥当であったり参照先の内容が不完全である又は全く無いことが起こり得る。
契約締結後にこの様なことが明らかになった場合、発注者の意向が強く働いて発注者の優位な内容に決められることが少なくない。即ち請負者にとって、不確定、不完全な事項というのは、それ自体が片務的条件に変わる可能性を持っているといえる。
この様な不確定、不完全な事項を無くし、入札期間中の質問事項にも丁寧に対処していくには、契約図書作成に掛ける時間と、契約管理に長けた専門家や当該工事に豊富な知識・経験を持つ技術者を十分に調達できる予算を確保することが必要である。
4) 国内法規・国内手続への配慮
発注者が、当該国の大統領令や調達委員会の通達等の国内法規との整合性を意識し、それらの文章表現に倣って契約約款自体を全面的に書き換えたり、多数の特別条件を添付することにより、契約約款を大きく修正してしまう例が少なくない。また、支払時の財政当局の承認や事業サイトがある自治体による住民移転、用地取得等、発注者以外の第三者が契約履行過程に関与することに配慮し、それらに関する発注者の義務を削除したり制限したりすることも多く見られる。国内法を理由とする修正の多くは、使用されている用語や表現が国内法のそれらと異なることから、標準契約約款を十分に理解しないまま、国内法や規定の文章を単純に追加したり、差し替えたりしていると考えられる。そもそも標準契約約款は、発注者と契約者の権利義務が広くカバーされ、バランスのとれた形となっていることから、大幅な変更は契約約款の基本的な構造を損なうものであり、片務性を生じやすく、安易に行うべきではない。FIDIC の標準契約約款は、個々の契約の状況に応じた特別条件による補足を認めているが、その際は法律的な助言を求め、契約約款全体の整合性を保持するべきである。また、発注者以外の第三者の関与に配慮した、発注者の義務の削除や縮小については、関係者との調整・合意を事前に行い、かかる事態の発生を防止するよう努めるべきであり、安易に片務的な条件変更を行うべきではない。
プロジェクト実施前に、国内法との相違点や国内手続を押さえた上で、標準契約約款を含む調達手続についての発注者の理解を深めておくことが重要である。
契約条件書の作成において契約片務性を回避するためのチェックリストは冒頭に挙げたとおりである。当リスト各項目についての解説を FIDIC レッドブック MDB 版(Sample Bidding Documents under Japanese ODA Loans, Procurement of Works, June 2009)の基本概念に基づき以下の通り提示する。
尚、円借款事業において契約図書作成の参考とする JICA の標準入札書類(土木工事編) "Sample Bidding Documents under Japanese ODA Loans, Procurement of Works"(June 2009)は、解説中では「標準入札書類」と称する。
Check Point | 1 | 契約図書は標準入札書類に準拠しているか。 |
FIDIC Clause | 全般 | |
<解説> JICA 円借款案件では、標準入札書類をベースとした入札書類/契約書類を作成することが推奨されている。標準入札書類では、契約条件書として、国際契約約款のデファクトスタンダードとなっている FIDIC レッドブック 1999 年版をベースに FIDIC が国際開発金融機関(Multilateral Development Bank: MDB)の委託を受けて改訂した MDB 版が採用され、バランスの取れた発注者-請負者間のリスク分担が確保されている。 ところが標準入札書類が用いられず、ローカルな契約条件書が使用されている事例が確認されており、その場合、 D 契約条件の構造を一から理解する必要があり、妥当性検証に時間がかかる。 D 国際的な契約慣行から逸脱した規定が含まれる可能性がある。 D 契約書としての完全性が十分ではない可能性がある。 などの問題が生じる。標準入札書類を基本とした入札書類/契約書類とするべきである。 |
Check Point | 2 | 特記条件を含む契約図書一式は、経験のある専門家によりx x・編集されているか。 |
FIDIC Clause | 全般 | |
<解説> 契約図書は、標準入札書類に記載されている一般条件やその工事特有の条件を記す特記条件のみならず、最終的に契約図書として両当事者に承認された書類一式が互いに関連性を持っている。従って契約図書、個々の書類はその分野の専門家により作成されると共に、契約図書一式として完結させるために、工事運営・契約管理に長けた専門家が、その編集を総括する必要がある。 特に一般条件は FIDIC の専門家によって作成されている完成度の高い標準約款であるこ とから、特記条件における書き換えは細心の注意を払ってなされる必要がある。書き換えが |
必要な際には、一般条件の他の関連条項のみではなく他の契約図書にも関連が無いか、検証をすることとなる。
ここで工事運営・契約管理に長けた専門家の資質として次の点が挙げられる。
(1) 国際工事契約全般に対する知識
(2) FIDIC レッドブックの基本的な考え方の理解
(3) 実施される工事内容の理解
(4) 費用と工程に関する知識
(5) 英語力
Check Point | 3 | エンジニヤに指定されているのは、発注者組織とは別個の企業 (コンサルタント)に属する専門家であるか。 |
FIDIC Clause | 1.1.2 | 当事者及び者 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 第 2 章の通り、エンジニヤは契約の直接的な当事者ではないが、様々な役割が規定されており、プロジェクトの適正な運営に重要な役割を担っている。FIDIC レッドブックでは、1999 年版以降、xxxxxは発注者の要員の一部であり(1.1.2.6 条)、発注者のために行動するとみなされる(3.1, (a)条)とされているが、発注者の利益を尊重しすぎる判断がなされると、紛争の原因となるばかりでなく、「xxな」判断を行う裁定委員会でエンジニヤの判断が覆されると、エンジニヤの資質に疑義が生じることになり、契約の運営にも支障を来しかねない。 発注者側の人間又は組織がエンジニヤを兼務している事例があるが、エンジニヤの裁量に発注者の意向が過度に反映される可能性があるため、エンジニヤは発注者組織とは別の企業(コンサルタント)から任命することが、強く望まれる。 |
Check Point | 4 | 請負者の欠陥通知期間は、標準入札書類の契約データの通りに "365 days"となっているか。 |
FIDIC Clause | 1.1.3 | 日付、試験、期間及び完成 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 契約データに規定される欠陥保証責任期間は土木構造物の場合通常1年間である。欠陥通知期間を延長する条文変更を行うことで過分なリスクを請負者に負わせることは、入札価格を押し上げる要因となり発注者にとっても割高となる。また、欠陥通知期間への対応を計画せず、保留金を取り戻さないことを前提に応札する請負者が出てくる可能性もある。発注者・請負者双方にとってメリットのない条文変更は避けるべきである。 |
Check Point | 5 | 契約データに「利益」について規定されている場合、過少な値 となっていないか。 |
FIDIC Clause | 1.2 | 解釈 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 建設、特に土木工事は自然の影響を強く受けるため、当初の計画、設計通り工事を進められないことが多く、FIDIC レッドブックも契約当初の条件の変化に応じて契約内容の変更ができるようになっている。 一方請負者にとって工事とは企業としての営業行為であり、その結果として正当な利益を上げることが求められている。本条項はこの点を数値として表わしたものである。これにより、様々な変更があってもある程度の利益を挙げられることが明らかなため、工事を取り巻く様々な要因にも、積極的に発注者の期待に答えようとする請負者のインセンティブが期待できる。 この利益率について契約データで低く設定することは、請負者に、価格に上乗せすることで利益を確保する行動に向かわせたり、工事の質を低下させる要因となり、発注者にとってメリットは生じない。従って、低い利益率を設定する合理的な理由を入札要領書などに示すことができる場合以外は、標準入札書類のままとしておくことが望まれる。 |
Check Point | 6 | 契約の支配言語、コミュニケーション言語は国際的な言語がx xされているか。 |
FIDIC Clause | 1.4 | 法律と言語 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 契約の支配言語、コミュニケーション言語は全ての関係者(発注者、請負者、JICA)を結び付けるものであり重要である。JICA 円借款プロジェクトは通常国際入札となり請負者が発注者の国の業者とは限らず、また銀行(JICA)も契約や通信の内容について理解する必要がある。この様なことから発注者、請負者、銀行がxxに理解できる様、国際言語の英語・仏語・西語以外の言語を、支配言語、コミュニケーション言語に指定することは避けるべきである。 |
Check Point | 7 | 書類の優先順位が一般条件から変更されていないか。 |
FIDIC Clause | 1.5 | 書類の優先順位 |
<解説> 参照:標準入札書類 Section IX. 本条項において規定されている契約図書の優先順位は次の通りである。 (1) 契約合意書(the Contract Agreement) (2) 入札受諾書(the Letter of Acceptance) (3) 入札書(the Letter of Tender) |
(4) 特記条件パート A(the Particular Conditions – Part A)
(5) 特記条件パート B (the Particular Conditions – Part B)
(6) 一般条件(the General Conditions)
(7) 仕様書(the Specification)
(8) 図面(the Drawings)
(9) 明細書とその他契約を構成する書類(the Schedules and any other documents forming part of the Contract)
記述された優先順位に係らず、例えば「内容について詳細に述べている書類が優先する」との記述を加えたりすることは、不確実性を生じることになるため、xxxな記述は避けるべきである。
また上記(1) the Contract Agreement に契約図書の構成や優先順位が記載されることがあるが、本条項との間に齟齬を生じないよう留意するべきである。
Check Point | 8 | 図面・指示の遅延に対する請負者の工期延長・追加費用請求権 が制限されていないか。 |
FIDIC Clause | 1.9 | 図面又は指示の遅延 |
<解説> 標準入札書類にある一般条件の元となっている FIDIC レッドブック MDB 版は「発注者の設計による建築ならびに建設工事」のための契約約款であり、xxxな設計に係る図面や指示について、請負者はエンジニヤに要求することができる。本条項はその場合の手順や、図面や指示が遅れた場合の取り扱いについて規定している。 エンジニヤの図面発給や指示が遅れた場合には、請負者の詳細施工図面作成業務に待ち時間が発生したり、図面発給の遅れにスライドしてその部分の工事開始が遅れる可能性がある。このような事態の発生は請負者が管理できないリスクであり、そのようなリスクを請負者に課すべきではない。 また期間や費用・利益に関する請負者の権利が削除されるといった条文変更はxxであるとみなしがたいことから、そのような変更は避けるべきである。 |
Check Point | 9 | 現場の立入りと占有に係る請負者の工期延長・追加費用請求権 が制限されていないか。 |
FIDIC Clause | 2.1 | 現場への立入り権 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 現場の占有と立ち入り許可の遅れは発注者の責任であり、請負者が管理できない事項である。クリティカルな作業に影響を及ぼすことになれば工期延長は避けられない。 請負者にとって管理できないそのようなリスクを請負者に負わせるような条文変更は避 |
けるべきである。更に現場の占有と立ち入り許可の遅れ、請負者の期間や費用・利益についての権利が制限・削除されるといった条文変更は、請負者の負担を増加させ、入札価格を押し上げたり、責任ある請負者を排除する結果を招くこととなり、発注者にとっても利益にはならない。したがって、そのような変更も避けるべきである。
Check Point | 10 | 発注者の請負者に対する助力について、具体的にその内容が示されているか。又は規程が削除あるいは範囲が縮減されていな いか。 |
FIDIC Clause | 2.2 | 許可、免許又は承認 |
<解説> 本条項は通関、就業許可、就労査証など請負者が工事を実施するにあたり必要な許認可取得に関する発注者の支援範囲を規定するものであり、その内容は特定されていない。発注者が請負者を支援すべき内容は国・プロジェクトによって異なるため、できるだけ具体的に特 記条件書で記述するべきである。 支援規定を削除・削減した場合は請負者の義務を拡大するばかりでなく、プロジェクト遂 行において支障を来たすこともあるため、そのような条文変更は避けるべきである。 |
Check Point | 11 | クレームの通知期限が延長されていないか。 |
FIDIC Clause | 2.5 | 発注者のクレーム |
<解説> 通知期限は 20.1 条「請負者のクレーム」と同じ 28 日間となっており、xx性を保つためには、この期限の延長は避けるべきである。 |
Check Point | 12 | エンジニヤが裁量権限を行使する際に、発注者の事前承認を必要とする対象範囲が明確に記載されているか。また過大となっ ていないか。 |
FIDIC Clause | 3.1 | エンジニヤの義務と権限 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 第 2 章の通り、標準入札書類の一般条件ではエンジニヤの様々な行為について規定しており、それらは次の様に分類される。 (10) 発注者の業務代行 (11) 承認・証明 (12) クレームに関わる決定 |
この内(2)については、発注者からの事前の承認が必要な事項について本条項の(a)項から(d)項に具体的な内容を規定している。更に(b)(ii)項に関し発注者からの承認が必要となる契約合意額変更の範囲を契約データに示しており、標準入札書類では 10%~15%としている。
発注者にとっても契約管理は発注者自身の予算管理と密接に結びついているため、エンジニヤにどこまでの権限を委任するかは重要な問題である。しかしながら(a)~(d)以上に項目を増やしたり、(b)(ii)項の 15%を減じたりすると、3.3 条におけるエンジニヤの指示の権限を阻害し、プロジェクトの運営において発注者の意向が常に強く働くようになるため、結果として片務的な状況が生じやすい。
従って適正な理由の無い限りは、標準入札書類に規定されている以上に、発注者からの特定の承認を必要する事項を増やすことは避けるべきである。
特に、3.5 条に基づいてxxxxxが決定すると定められている事項まで発注者の特定の承認を必要としてしまうと、請負者はその条項でのエンジニヤによる「xxな決定」が期待できなくなり、請負者にとってコスト増加リスクとなる。このため入札価格が上振れし、発注者の予算に影響するおそれがある。
Check Point | 13 | エンジニヤの指示に関する権限、手順に、発注者の関与が付加 されていないか。 |
FIDIC Clause | 3.3 | エンジニヤの指示 |
<解説> 3.5 条では、xxxxxの指示についての権限や手順などについて、一般的な記述がされている。 ここで指示の手順として発注者の事前承認を必要とする様な変更をすると、プロジェクト運営の様々な面において発注者の意向が常に強く働くようになり、結果として片務的な状況が生じやすい。従ってxxxな変更は避けるべきである。 |
Check Point | 14 | エンジニヤの交代についての、請負者の異議申し立ての権利が 制限されていないか。 |
FIDIC Clause | 3.4 | エンジニヤの交代 |
<解説> xxxxxが交代となる場合、後任者がエンジニヤとして不適切と判断されれば、請負者はこれに異議申し立てを行うことができると規定されている。またその異議に対し、発注者は十分かつxxに考慮することとなっている。 この異議申し立ての権利を制限すると、例えば 3.5 条に要求されているxx性に欠ける人 材がエンジニヤとなることを防止する機能を損ない、請負者に一方的に不利な状況となる恐 |
れがある。
従って異議申し立てに係る請負者の権利や、異議をxxに考慮する発注者の義務を減ずる
様な変更は避けるべきである。
Check Point | 15 | エンジニヤの決定の、契約に基づくxx性が阻害される様な制 限が課せられていないか。 |
FIDIC Clause | 3.5 | 決定 |
<解説> 本条項では、他条項で認められている請負者のクレームについて、xxxxxは両者の合意を得るべく請負者・発注者双方と協議し、合意が得られない場合は、「契約に基づくxxな決定(a fair determination in accordance with the Contract)」をすることとされており、 20 条による紛争委員会による別の裁定が得られるまでは、発注者も請負者も、この決定を有効として実施する必要がある。また両当事者の合意が無い限り、xxxxxはこの 3.5 条に係る権限を誰にも委任してはならないとされている(3.2 条)。 この 3.5 条に規定されている「契約に基づくxxな決定」そのものが阻害されると、3.5 条を参照している条項全てにコスト増加リスクが発生することになり、入札価格そのもの上振れのみならず、良質で工事の遂行に真摯な請負者が入札への参加そのものを避けるような事態にも繋がりかねない。従って 3.5 条による決定の「契約に基づくxxな決定」に関する文言を変更したり、エンジニヤの決定の有効性を減じる様な変更は避けるべきである。 |
Check Point | 16 | 他者による設計責任が請負者の一般的義務に転嫁される等、請 負者の一般的義務が拡大されていないか。 |
FIDIC Clause | 4.1 | 請負者の一般的義務 |
<解説> 標準入札書類にある一般条件の元となっている FIDIC レッドブック MDB 版は「発注者の設計による建築ならびに建設工事」を基本とした契約約款である。即ち建設される永久構造物の設計責任を請負者に負わせる様な変更は、請負者に過剰なリスクを負わせることになり、配分のバランスを損なう変更となる。この様な条文変更は行なうべきではない。 |
Check Point | 17 | 履行保証の期間や保証額は適正か。 |
FIDIC Clause | 4.2 | 履行保証 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ及び添付 FIDIC レッドブック MDB 版において履行保証は、工事の完成及び欠陥通知期間に指摘 |
された瑕疵の補修を完了するまで、確実な履行を担保するものである。従って履行保証書に示されている有効期限は、欠陥通知期間満了までカバーしている必要がある。
一般的には履行保証の額としては契約価格の 10%とする契約が多く、JICA ハンドブック
(2009 年 3 月発行)では 5%から 15%としているので、この範囲で設定するのが妥当であると考えられる。
Check Point | 18 | 計画位置の設定に係る参照原点、原線、原水準ついても請負者 の責任としている様な義務の拡大がないか。 |
FIDIC Clause | 4.7 | 計画位置の設定 |
<解説> 発注者の設計に用いたそれらの基準と、実際の工事で用いられる基準は完全に一致させる必要があり、本条項に規定される手順を変更して請負者にエンジニヤから示された参照x x、原線及び原水準の正確性に関する責任を負わせるような条文変更は避けるべきである。 |
Check Point | 19 | 一般条件に示される以上に、現場データに係る責任を請負者に 負担させていないか。 |
FIDIC Clause | 4.10 | 現場データ |
<解説> 請負者(応札者)が、発注者より開示されたデータや工事を取り巻く様々な情報を調査、検討して入札価格に反映させるには、時間が必要であり、また、xxxな調査や検討に掛けられる費用は限られている。即ち請負者が合理的に知っているとみなし得る範囲を越えて、全てを請負者が知っているものと見なす条項はリスク配分のバランスを欠いているということができる。 本条項には請負者が入札書提出時点で理解しているとされる様々な事項が述べられているが、上記の点を考慮すべく条項中に「(費用及び時間を考慮して)実行できた範囲で」(“To the extent which was practicable (taking account of cost and time), “)と規定され、責任範囲を限定している。 従って「(費用及び時間を考慮して)実行できる範囲で」及び「同様に実行できる範囲で」(“To the same extent, ”)という文言が削除された場合、請負者の責任が絶対的と解釈されて著しく責任の範囲が大きくなるおそれがある。この様な場合、入札価格の上昇や責任ある請負者の排除を引き起こす可能性がある。従ってこれらの文言が削除されるような変更は避けるべきである。 |
Check Point | 20 | 予見不可能な物理的条件による請負者の工期延長・追加費用請 求権を制限していないか。 |
FIDIC Clause | 4.12 | 予見不可能な物理的条件 |
<解説> 予見不可能とは、経験ある請負者でも合理的に予見することが不可能である事象である(1.1.6.8 条)、また予見不可能な物理的条件は、発注者の負担するリスクとされ、請負者は工期の延長や追加費用の発生を請求できることとされている(17.3 条、17.4 条)。予見不可能な物理的条件に遭遇した場合の期間や費用に関する請負者の権利を制限する様な変更は、請負者が管理できないリスクを請負者に負わせることとなり、そのリスクを価格に正当に反映できない未熟な応札者を落札者と評価することになりかねず、結果としてそのリスクを価格に反映する責任ある応札者を排除することになる危険性が高い。よってそのような変更は避けるべきである。 本条項は 4.10 項と密接に関係している。即ち発注者からの情報に関係事項が見当たらず、経験ある請負者が費用及び時間を考慮して実行できる範囲での調査、検査では予見できない条件であったならば「予見不可能であった」と考えうる。 発注者としては、入札準備に着手する以前に適切な調査を行って応札者への開示データを用意するのが、本条項に関する紛争を回避する有効な手段である。 |
Check Point | 21 | 本条項に係る請負者の権利に制限がかけられていないか。 |
FIDIC Clause | 4.24 | 化石 |
<解説> 本条項では、化石や遺物、遺跡などが発見された時には、その取り扱いにつきエンジニヤが指示を行い、また、工期の遅れや費用の増加が生じた場合は、請負者がクレームできる権利を規定している。 これらの費用を請負者に負担させたり、請負者の工期延長・追加費用の請求に関する権利を制限する様な変更は、請負者の負担を増加させ、入札価格を押し上げたり、責任ある請負者を排除する結果を招くこととなり、発注者にとっても利益にはならない。発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 22 | 指定下請者の指名に対して請負者の合理的異議申し立てが制 限、あるいは削除されていないか。 |
FIDIC Clause | 5.2 | 指名に対する異議 |
<解説> 指定下請者といえども他の下請者と同様に、請負者が発注者との契約の履行を可能ならし |
めるような義務と責任を負っていると考えられる。
指定下請者が請負者に対し守るべき義務を果たさない場合の請負者が取り得る権限を削除するような条文変更は、工事の品質・工期を遵守できない可能性が高くなるため避けるべきである。
また、本項の適用を拡大し、請負者が調達する一般の下請者を発注者が拒否できるような追加、変更を行うと、請負者は予定の品質とコストで施工ができなくなるので、xxxな変更は避ける必要がある。
Check Point | 23 | 試験に係る請負者の工期延長・追加費用請求権が制限されてい ないか。 |
FIDIC Clause | 7.4 | 試験 |
<解説> エンジニヤは試験の場所や詳細などの変更を請負者に指示できるが、試験結果に問題が無かった場合、この指示によって生じた期間や費用への影響は請負者の責任ではないため、それらを請負者はクレームすることができる。従ってこれらの費用を請負者に負担させたり、請負者の工期延長・追加費用の請求に関する権利を制限する様な変更は、請負者に管理のできないリスクを負わせることになるため、避けるべきである。 一方 7.5 条では、試験の結果として欠陥など見つかった場合、請負者の費用で契約に適合するよう対処することが規定されている。 |
Check Point | 24 | 工事の開始もしくは工事開始日について、片務的な事項が特記 条件又はその他の契約図書に記載されていないか。 |
FIDIC Clause | 8.1 | 工事の開始 |
<解説> 本条項には工事開始に伴う条件が記されている。このうち、現場への立入り許可の取得や資金繰り計画の提出といった発注者側の手続を条件から削除するといった変更を行うことは、開始条件が整わないまま工事を開始することとなり、請負者に管理のできないリスクを負わせることになるため避けるべきである。 また、xxxxxの指示書を一定期間内に受領しなかった場合に請負者が契約を終了できる権利を削除すると、請負者の責によらないにも係らず、売上に繋がらない人員や資機材を長期間確保することになり、その費用は請負者の経営にダメージを与える。従ってこの様な削除は、責任ある請負者の入札不参加を引き起こすおそれがあり、避けるべきである。 |
Check Point | 25 | 請負者の完成期限延長に係る権利が制限されていないか。 |
FIDIC Clause | 8.4 | 完成期限の延長 |
<解説> 工事は、8.3 条で規定されている工程表に従って進捗管理されるが、本条項に記載された要因により進捗が遅れ、完成期限までに工事が完成することが不可能となった場合、請負者は完成期限の延長をクレームすることができる。これらの条件を削除・制限したり、完成期限延長をクレームする権利そのものを削除するような変更を行なった場合、請負者に対して管理できないリスクを負担させることとなる。したがって、この様な条文変更は行なうべきでない。 |
Check Point | 26 | 請負者に課す遅延による遅延損害賠償金の日額は妥当か、上限 額は標準入札書類の契約データに示す額を超えていないか。 |
FIDIC Clause | 8.7 | 遅延損害賠償 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 遅延損害賠償金について JICA ハンドブック(2009 年 3 月発行)では、一日あたり契約価格の約 0.1%、週あたりでは契約価格の約 0.5%と例示されている。上限額については標準入札書類の契約データに 10%と示されている。 高額な遅延損害賠償金が設定されると、請負者はそのリスクを入札価格に含める可能性があり、また責任ある請負者を排除する結果を招く危険性もある。発注者・請負者双方にとってメリットの無い条文変更は避けるべきである。 |
Check Point | 27 | 工事中断に係る請負者の権利に制限がかけられていないか。 |
FIDIC Clause | 8.9 | 工事中断の結果 |
<解説> 本条では、8.8 条に係る請負者の責に因らない中断に伴い発生した工期延長・追加費用を、請負者がクレームする権利を規定しており、これを制限・削除することは請負者に管理のできないリスクを負わせることとなるため、このような条文変更は避けるべきである。 |
Check Point | 28 | 工事中断に係る請負者の支払いを受ける権利に制限がかけられ ていないか。 |
FIDIC Clause | 8.10 | 工事中断の場合のプラント及び資材の支払い |
<解説> 中断の場合のプラントと資材の取り扱いについて規定している。(b)項は、中断がいかな |
る理由であっても、プラントや資材を発注者が受け取ったことを意味しており、それについて代金を支払うことは妥当である。この条文を削除した場合、保留金や履行保証に加えて物品の差し押さえを行なうことに繋がる恐れがあり、請負者にとっては予定外の負担を強いられることとなる。従ってこの様な変更は避けるべきである。
Check Point | 29 | 工事の長期中断に係る請負者の契約終了の権利に制限がかけら れていないか。 |
FIDIC Clause | 8.11 | 長期にわたる中断 |
<解説> 8.8 条に係る請負者の責に因らない中断について、中断が工事の全体にわたりかつ長期(84 日以上)となった場合の請負者の契約終了の権利を規定している。この場合に請負者を長期、更に無期限に拘束することは、請負者の責に依らないにも係らず、売上に繋がらない人員や資機材を長期間確保することになり、その費用が請負者の企業経営に重大な影響を及ぼすことが考えられる。従って、契約終了の権利を削除する様な変更は行なうべきではない。 |
Check Point | 30 | 引渡しに関する手順について、請負者に不利な変更や追加がな されていないか。 |
FIDIC Clause | 10.1 | 工事とその区間の引渡し |
<解説> xxxxxが引渡し証明書を請負者に発給する前に発注者の承認を得なければならないとする条文変更は、発注者の意向が過度に反映され契約のxxな実施が阻害される可能性がある。そのような変更は、FIDIC レッドブックが意図する適正なリスク配分に影響するおそれがあり、避けるべきである。 |
Check Point | 31 | 欠陥の修復について請負者の責任範囲を拡大していないか。 |
FIDIC Clause | 11.1 | 未了工事の完成と欠陥の修復 |
<解説> 本条項では、欠陥修復について、契約で求められる状態から「通常の損耗、損傷を除く(“fair wear and tear excepted”)」と規定している。 この様な請負者の瑕疵とは言えない事項を責任範囲に含ませるような変更をした場合、請負者の負担が増加し、入札価格を押し上げたり、責任ある請負者を排除する結果を招くこととなり、発注者にとっても利益にはならない。発注者・請負者双方にとってメリットの無い 変更は避けるべきである。 |
Check Point | 32 | 欠陥通知期間を無制限に延長できる様な変更がされていない か。 |
FIDIC Clause | 11.3 | 欠陥通知期間の延長 |
<解説> 本条項では、請負者の責による場合であっても欠陥通知期間の延長は 2 年間までとしている。2 年間の延長を経ても欠陥が修復されない場合、発注者は保留金や履行保証を用いて別の請負者により補修させることが可能である。また重大な欠陥については、引渡しを受ける前までの様々な検査や試験で発見されるよう、契約図書が作成されている。従って、これを無制限、あるいは不合理に長期間延長できるとした場合、請負者が確定できないリスクを負い、入札価格を押し上げたり、責任ある請負者を排除する結果を招く恐れがあり、発注者にとっても利益にはならない。このような発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 33 | 欠陥が請負者の責によらない場合の、調査の費用や関連の利益 についての請負者の権利が制限されていないか。 |
FIDIC Clause | 11.8 | 請負者による原因究明 |
<解説> 本条項では、欠陥や損傷の原因をエンジニヤの要求に従って請負者が調査し、その欠陥が請負者の責によらない場合は、請負者が利益を含めた調査の費用を請求できる権利を認めている。 この様な費用・利益が支払われないような変更を行った場合、請負者は管理できないリスクを抱えることとなり、入札価格を押し上げる原因となって発注者にとっても負担増となる。また責任ある請負者を排除する結果となる危険性もある。このような発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 34 | 新たな料率又は価格の追加が行われる条件について、請負者に 不利な変更や追加がなされていないか。 |
FIDIC Clause | 12.3 | 費用の算定 |
<解説> 本条項の(a)項は、実際数量の増減に対して、ある一定程度までは発注者と請負者双方の許容でき得るリスクとして扱い、それを超えた場合には金額の調整、又は調達単価を変更することを認めている。 ここで新たな料率・価格を追加できる条件の一つとして、当初の数量、金額からの変化率 |
を規定している。これを小さな値に変更すると新たな料率・価格の設定作業が頻繁に行なわれることになり、発注者・請負者双方に煩雑な作業が生じることになる。
標準入札書類の一般条件に示される条件は一般的に受け入れられているものであり、根拠の明確でない変更は避けるべきであると考えられる。
Check Point | 35 | (b) (ii)項に適用される料率は適正か。 |
FIDIC Clause | 13.5 | 暫定金額 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ この料率に含まれるべき内容には、次の様な項目が含まれる。 (1) 工事経費:職員人件費、共通仮設費、共通経費、他 (2) 本・支店経費 (3) 利 益 料率が低い場合は、本条項に係る作業を行っても適正な利益が確保できないことになる。したがって、一般に品質の良い施工をする企業はこの料率が高くなると推測できる。 この料率の設定方法について(b)(ii)項に定められているが、応札者が提出した明細書に記載された値を採用せず、契約データで著しく低い値を設定する様な変更は、責任ある請負者の入札参加を排除する恐れがあり、避けるべきである。 |
Check Point | 36 | 請負者の工期延長・追加費用請求権を制限していないか。 |
FIDIC Clause | 13.7 | 法制の変更による調整 |
<解説> 基準日の後に成された法制の変更は、請負者の管理できない事項であるため、工期延長・追加費用を請負者はクレームする権利を認めている。法制に関するリスクは許容できない重大なものとみなされることが多く、かかる権利を制限・削除した場合、請負者の負担が増大し、責任ある請負者が入札に参加しない結果を招く危険性があり、発注者にとっても利益にならない。このような、発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 37 | 一年以上の工期が設定されている工事の場合、調整データ表が明細書に綴じられ、本条項が有効となっているか。適正な 調整データ表が契約図書に含まれているか。 |
FIDIC Clause | 13.8 | 費用の変更による調整 |
<解説> 参照:明細書、特記条件 パートA 契約データ 工期が 1 年以上に及ぶにも係らず調整データ表が明細書に無いため本条項が適用されなかったり、あっても内容が適切でない、或いは本条項の調整方法が不合理に変更されている場合、請負者は本条項による適切な金額の変更が見込めないと判断して入札価格を押し上げたり、責任ある請負者を排除する結果を招く危険性があり、発注者にとっても利益とならない。このような発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 38 | 前渡金償還に関して請負者に過度の義務を強いていないか。 |
FIDIC Clause | 14.2 | 前渡金 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ及び添付 前渡金は、請負者が中間支払いを受けるまでに現地設営や仮設工事などを実施するため、或いは高額の建設機械(特殊作業船など)を当初に発注する必要がある場合などに、請負者のキャッシュ・フローを支援する目的で支払われるものである。 本条項には前渡金の償還方法や期間について規定されているが、償還開始の時期や償還完了の期限を早めるような変更は、前渡金の本来の目的を歪めることになるため避けるべきである。 |
Check Point | 39 | 標準入札書類の契約データを参照した、適正な留保率・額に ついての設定がされているか。 |
FIDIC Clause | 14.3 | 中間支払い証明書の申請 |
<解説> 参照:特記条件 パートA 契約データ 標準入札書類では、JICA ハンドブック(2009 年 3 月発行)と同様に、保留金の水準を契約受諾金額の 5 から 10%と例示している。この値は現在の国際建設市場において一般的なものである。 留保率や保留金総額の上限を高く設定すると、請負者の企業は資金借入額が増える、即ち金利コストが増加し工事の採算を圧迫することとなる。これにより入札価格の上昇や責任ある請負者の排除に繋がる可能性があるため、適正な値に設定することが望まれる。 |
Check Point | 40 | エンジニヤの業務から発注者の業務として変更していないか。エンジニヤによる中間支払い証明書の発行期限を延長すること によって、請負者の権利を制限していないか。 |
FIDIC Clause | 14.6 | 中間支払い証明書の発行 |
<解説> 参照:特記条件 パートA「契約データ」 本条項では、エンジニヤの支払い証明書の発行期限は 28 日以内と規定されている。 この 28 日間という期限を延長する変更を行なった場合、請負者のxxxxx・xxxを圧迫することになり、請負者から下請者への支払いにも影響する。責任ある請負者を排除する結果となる可能性もある。また、支払い証明書の発行を発注者の業務とすると、出来高算出に係る請負者との日々の協議まで発注者が介入することになり、エンジニヤに対する不信感を生じさせたり、工事の不必要な停滞を招くおそれがある。経済的合理性の観点からもxxxな変更は避けるべきである。 |
Check Point | 41 | 支払期限を長期に設定するような、請負者の権利制限がなさ れていないか。 |
FIDIC Clause | 14.7 | 支払い |
<解説> 本条項では、前渡金支払いや中間及び最終支払いの期限について規定されている。 これらの期限を延長する変更を行なった場合、請負者のxxxxx・xxxを圧迫することになり、請負者から下請者への支払いにも影響する。これは入札価格の上昇や責任ある請負者を排除する結果となる可能性もある。経済的合理性の観点からもxxxな変更は避けるべきである。 |
Check Point | 42 | 支払い遅延利息をなくすような、請負者の権利制限がなされて いないか。 |
FIDIC Clause | 14.8 | 支払いの遅延 |
<解説> 発注者の支払いの遅れによって請負者には当初の想定に無い金利コストが発生することになり、これを発注者が弁済することはxxであるといえる。 支払い遅延利息が発生しないような変更を行なった場合、かかる利息を請負者が負担することとなり、請負者が管理できないリスクとなる。これは入札価格の上昇や責任ある請負者を排除する結果となる可能性もある。経済的合理性の観点からもxxxな変更は避けるべきである。 |
Check Point | 43 | 発注者に起因する工事終了・減速における請負者の工事中断の権利及び中断に伴う工期延長・追加費用に係る権利が制限 されていないか。 |
FIDIC Clause | 16.1 | 請負者の工事中断の権利 |
<解説> 本条項では発注者に起因する理由による、請負者の工事中断の権利及び中断に伴う工期延長・追加費用についての権利を規定している。 これらの権利を制限・削除するような変更をした場合、請負者の負担が増大し、入札金額を押し上げたり、責任ある請負者が入札に参加しない結果を招くおそれがあり、発注者にとってもメリットにならない。リスクの適正配分の点からこの様な変更は避けるべきである。 |
Check Point | 44 | 請負者の契約終了ができる条件やまたその手続きについて、請 負者の不利となる変更がされていないか。 |
FIDIC Clause | 16.2 | 請負者による契約終了 |
<解説> 本条項では発注者に起因する理由による、請負者の契約終了の権利について規定している。 これらの権利を制限・削除するような変更をした場合、請負者の負担が増大し、入札金額を押し上げたり、責任ある請負者が入札に参加しない結果を招くおそれがある。このような発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 45 | 発注者のリスクを請負者に転嫁して請負者の義務を拡大していないか。このリスクに起因する請負者の工期延長・追加費用に 係る権利が制限されていないか。 |
FIDIC Clause | 17.3 | 発注者のリスク |
FIDIC Clause | 17.4 | 発注者のリスクの帰結 |
<解説> 本条項では、発注者のリスク及び、それらのリスクに起因する損害・損傷から生じた工期延長・追加費用についての請負者の権利を規定している。 これらのリスクを請負者に転嫁したり、或いはリスク発生に伴う工期延長や追加費用についての請負者の権利を制限・削除したりした場合、請負者の負担が増大し、入札金額を押し上げたり、責任ある請負者が入札に参加しない結果となるおそれがある。このような発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 46 | 不可抗力の定義をせばめていないか。不可抗力に起因する請負 者の工期延長・追加費用に係る権利が制限されていないか。 |
FIDIC Clause | 19.1 | 不可抗力の定義 |
FIDIC Clause | 19.4 | 不可抗力の結果 |
<解説> 本条項では、不可抗力とされる事象を定義し(19.1 条)、それらの発生に伴う工期延長や追加費用について、請負者が請求できる権利を認めている(19.4 条)。 不可抗力の範囲をせばめたり、或いは不可抗力の発生に伴う工期延長や追加費用についての請負者の権利を制限・削除したりした場合、請負者の負担が増大し、入札金額を押し上げたり、責任ある請負者が入札に参加しない結果となるおそれがある。このような発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 47 | 任意契約終了ができる条件や精算支払いの手続きについて、 請負者の不利となる変更がされていないか。 |
FI DIC Clause | 19.6 | 任意契約終了、支払い及び解除 |
<解説> 本条項では不可抗力が発生した場合の、両当事者の権利、請負者が取るべき手順、精算支払いの手続きについて規定している。 請負者に係るこれらの権利を制限・削除する変更をした場合、請負者の負担が増大し、入札金額を押し上げたり、責任ある請負者が入札に参加しない結果となるおそれがある。このような発注者・請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。 |
Check Point | 48 | クレームに係る手続きやクレームに関連する事項について、 通知期間を短縮するような変更がされていないか。 |
FIDIC Clause | 20.1 | 請負者のクレーム |
<解説> 請負者がクレームを通知する場合、クレームを説明する書類の準備に時間が必要である。一方、発注者にとってはそのクレームを検証することになるので、当該事由の発生から早急に通知を受けることが望ましい。この通知期間について、本条項では 28 日間としているが、多くの建設契約でこの期間が採用されており一般的である。 この通知期間を短縮する様な変更を行なった場合、請負者は契約管理要員を増やすなどし て費用の増加に繋がるので入札価格を上昇させる一因となる。また十分な説明書類の無いクレームが多くなって、これに対応する発注者側の手間が増えることも考えられる。発注者・ |
請負者双方にとってメリットの無い変更は避けるべきである。
Check Point | 49 | 契約データに設定されている紛争委員会設置の期限は、標準入札 書 類 の 契 約 デ ー タ の 通 り に "28 days after the Commencement date"となっているか。 |
FIDIC Clause | 20.2 | 紛争委員会の選任 |
<解説> 参照:特記条件 パートA「契約データ」 第 2 章の通り、レッドブックの 1999 年版以降、契約や、工事の実行から生じる紛争は、紛争委員会に付されることとされており、紛争委員は、いかなる時も発注者、請負者からxxかつxxな立場で行動することが求められている。 この紛争委員会の設置期限が長い、紛争が起きてから設置する、或いは設置そのものが削除されるような変更は、紛争に対し、xxかつxxな裁定が確保されない状況が生じることとなり、FIDIC レッドブック MDB 版の基本精神に反するものである。請負者はこの様な変更を重大なリスク要因であると捉え、責任ある請負者が入札に参加しない結果となるおそれがある。リスクの適正配分の点からこの様な変更は避けるべきである。 |
Check Point | 50 | 契約データに指名機関又は指名者が明記されているか。またそ の機関/者は当事者双方にとって中立か。 |
FIDIC Clause | 20.3 | 紛争委員会選任の不一致 |
<解説> 参照:特記条件 パートA「契約データ」 紛争委員の指名について両当事者が合意に至らなかった場合に指名を委ねる先であるから、両当事者にとって中立である必要がある。 国際的にみて「中立」と見なされている、次の様な機関を指名することが望まれる。 (1) 国際商業会議所(International Chamber of Commerce, ICC) (2) 国際 コンサ ル ティン グ ・ エン ジニヤ連 盟 (Fédération internationale des ingénieurs-conseils, FIDIC) (3) 両当事者と利害関係の無い国の仲裁機関 D ロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration)、他 |
Check Point | 51 | 請負者が国外業者のため国際仲裁となる場合、契約データに設定されるべき仲裁機関は、標準入札書類通りに"International Chamber of Commerce"となっているか。 |
FIDIC Clause | 20.6 | 仲裁 |
<解説>
仲裁機関は両当事者にとって中立である必要がある。標準入札書類の「契約データ」にあ る国際商業会議所(International Chamber of Commerce: ICC)はこの点に合致している。ICC としない場合は、これと同等とみなすことができる国際的且つ中立的な仲裁規則・期
間を指定するよう配慮すべきである。
Check Point | 52 | 紛争委員への支払いに関し、等分負担の方針を変えるような 変更がされていないか。 |
FIDIC Clause | Appendix | 紛争委員会合意書の一般条件 |
< 解 説 > x x : 一 般 条 件 添 付 紛争委員が両当事者に対して実質的に中立たり得る根拠が、紛争委員への報酬や活動に伴う費用を、発注者と請負者が等しく負担する点にある。従って、その費用負担の方針を変える様な変更は避けなければならない。 |
添 付
添付-1
クレーム及び紛争解決の手順 (FIDIC レッドブック MDB 版)
20.4 条
20.1 条
20.4 条
20.1 条
Yes
裁定の受諾
No
3.5 条
20.4 条
Yes
協議による解決
No
20.5 条
3.5 条
Yes
和解成立
No
Yes
エンジニヤの決定の受諾
20.6 条
No
紛争の発生
紛争の最終解決
仲裁開始
(前項申立・通知後 56 日以降)
紛争の解決
3.5 条に基づく、xxxxxによるxxな決定
当事者間の和解の試み
(前項申立・通知後 56 日以内)
不服申し立て及び仲裁開始意思通知
(裁定受領後 28 日以内)
3.5 条に基づく、xxxxxによる両当事者との協議
(根拠と詳細受領後 42 日以内)
紛争の解決
クレームの根拠と詳細のエンジニヤへの送付
(クレーム事象認知後 42 日以内)
紛争委員会による裁定
(紛争の付託後84 日以内)
クレーム意図のエンジニヤへの通知
(クレーム事象認知後 28 日以内)
紛争委員会への紛争の付託
クレームの解決
クレームの解決
クレーム事象の発生