イ 競争による価格低下が期待されるというメリットがある。ただし、これにふさわしい業務は、基本的には、業務の一時的な中断により致命的な影響をもたらさないことが必 要である。さらに対象の業務が原則として、(i)管理者等自らがサービスを提供し、代替できる能力がある場合、 (ii)競争市場において常に代替事業者が存在している 場合、(iii)業務そのものが管理者等にとり必要性がなくなった場合のいずれかに該当する場合に限り適切な方法となる。
資料1
PFI事業契約に際しての諸問題に関する考え方とその解説(12 月案)
目 次
まえがき 1
第1章 サービス内容、サービス対価の変更 2
第1節 サービス内容、サービス対価の変更に関する基本的な考え方 2
第2節 サービス内容の変更に関する規定 3
第3節 施設整備費に係る物価変動リスクへの対応 5
第4節 市場価格の変動に応じたサービス価格の変更 6
第2章 任意解除、事情変更又は政策変更等による解除 8
第3章 情報共有と情報公開 11
第4章 紛争解決 14
第5章 法令変更による増加費用の分担 16
第6章 モニタリング・支払メカニズム 18
おわりに 21
まえがき
本書は、民間資金等活用事業推進委員会により平成 15 年 6 月 23 日に策定された「契約に関するガイドライン」(以下、「契約ガイドライン」という。)及び「モニタリングに関するガイドライン」(以下、
「モニタリングガイドライン」という。)の公表後に、PFI事業契約に関して特に課題となっている諸問題についての考え方をまとめたものである。将来的には、条文例を付した上で、必要に応じて更に議論を深め、PFIの標準契約を作成していくこと、又は契約ガイドラインを改定していくことが想定されている。
契約ガイドラインは、サービス提供業務(本書では、設計・施工が完了し、当該施設の供用が開始された後の全ての業務を指す意味で用いる)の比重が軽い事業を念頭において作成したが、本書では、サービス提供業務の比重が重い事業についても配慮している。サービス提供業務の比重が軽い場合、長期契約であっても社会、経済情勢の変化や法令変更等が事業に与える影響が比較的小さいため、予め決定した諸条件が著しく合理性を欠く事態になる可能性は、サービス提供業務の比重が重い事業に比べて小さかった。本書では、サービス提供業務の比重が重い事業についても扱うこととしたため、これらに対応することを重視した。なお、サービス提供業務の比重が重い事業を対象とするとしても、本書で主に想定しているのはサービス購入型であり、需要リスクを選定事業者に移転しない事業である。
また、本書の検討対象は、PFI事業契約の内容であり、従ってPFI事業契約が結局締結されなかった場合の損害賠償のあり方等、PFI事業契約で扱うことができない問題については検討対象としていない。
公共施設等の管理者等(以下、「管理者等」という。)は、本書を参考にしつつ、それぞれの事業のリスクを特定した上で当該事業にふさわしいPFI事業契約書を作成していくことが求められる。
本書作成にあたっては、国民にとってより質及び利便性の高いサービスをより低廉な費用で提供するためには何が必要かという観点から、以下の点を重視した。
① 民間事業者からVFMの高い提案を得て、かつ実際に質の高いサービスの提供を受けるためには、管理者等と選定事業者が良好で対等なパートナーシップを形成する必要があること。
② 管理者等と選定事業者のリスク分担を契約で明確に定めることにより、官民の認識の齟齬による紛争を防止するとともに、リスクが顕在化した場合の責任の所在を明確化することで、事業全体のリスクを最小化すること。
③ 官民のコミュニケーションを密に図ることにより、管理者等と選定事業者の認識の不一致を解消し、さらには官と民の価値観、メンタリティや行動原理の違いの理解を促進することにより、紛争の予防 等を目指すこと。
④ 契約内容の柔軟性を確保するための変更規定を盛り込むこと。ただし、変更規定で対応可能な範囲は限定されるため、入札段階においてリスク分担を明確にした上でできるだけ条件を変更しなくても済むよう業務の範囲や業務要求水準の内容を決定すべきこと。
なお、本書において使用されている用語は、特に断りのない限り、契約ガイドラインにおける定義に従うものとする。
第1章 サービス内容、サービス対価の変更
第1節 サービス内容、サービス対価の変更に関する基本的な考え方
1.変更規定の必要性及び限界
(1) 変更規定の必要性:PFI事業契約の事業期間は長期にわたるものであることから、当初想定していた前提条件や環境が大きく変化した場合などに備えて、サービス内容やサービス対価の変更に関する規定をPFI事業契約書に盛り込む必要がある。変更規定は、適切に運用されれば、サービス内容や支払条件をより実態に即したものとし、さらに民間事業者に管理困難なリスクを負担させることにより応札価格が不必要に高くなることを防止することにより、VFMの向上に資するものと考えられる。
(2) 変更規定の限界:変更規定は、官民の適切なリスク分担を図るために必要なものであるが、変更規定により対応可能である範囲は限定される。特に、サービス対価の変更額の客観的な算定は容易ではないこと、当初の事業内容を大幅に変更することは困難であることに留意する必要がある。したがって、将来大きな変更が予想される業務については、PFIの対象外としたり、その業務のみ期間を短くしたりするなど別の選択肢も検討すべきである。
2.変更規定の基本的な留意点
(1) xx性・透明性の確保:変更規定の作成及び運用にあたっては、xx性及び透明性の確保が重要である。
(2) リスク管理との関係:リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担すべきであるというPFIの基本原則からは、選定事業者がリスクを負担しないことが常に望ましいということにはならない。むしろ、選定事業者(及び金融機関)がリスクを管理できる場合は、選定事業者がリスクを負担することも選択肢となる。
(3) 業務要求水準を明確に規定する必要性:契約締結時点で業務要求水準の内容が曖昧であると、変更する場合にも何を基準にサービス対価の変更額を算定すればよいのかが曖昧になり、変更が困難になる。したがって、変更規定を機能させるためには、入札段階で業務要求水準が明確に示されていることが必要となる。
(4) 合意を文書化する必要性:変更がなされた場合、合意内容を契約条件変更として文書化する必要がある。これを怠ると、特に後日に担当者が変更になった場合などに、選定事業者が義務を負う範囲が不明確になりモニタリングも困難となる。
3.変更の方法
(1) 変更規定には例えば以下のものがあるが、どのような規定が必要かは事業類型、サービス内容等により異なる。それぞれの方法の特性を理解した上で、事業内容に応じて、変更規定を組み合せていく必要がある。
① 指標などにより機械的に価格を調整する方法:一定の指標(インデックス)等を予め定め、これに基づき対価を定期的に調整する(契約ガイドライン4―3 3参照)。この方法のみでは市場価格と大きく乖離する可能性がある場合は、②の方法と組み合わせることが考えられる。
② 市場価格との比較等により定期的にサービス対価を見直す方法:本章第4節参照。
③ 変更、調整手続を開始する事由を規定する方法:法令変更(第4章及び契約ガイドライン5-3
5参照)、不可抗力事由(契約ガイドライン3-6、5―3等参照)など一定の事由が生じた場合の手続、効果(リスク分担)を規定する。
④ 管理者等の要求によるサービス内容の変更:本章第2節参照
⑤ 一定の時点での見直し、調整:本章第2節5参照
(2) 債務負担行為及びPFI法9条に規定された地方議会の議決との関係に関しては、一定の軽易な変更については柔軟に行えるような枠組みが確立されることが望まれる。
第2節 サービス内容の変更に関する規定
1.サービス内容の変更要求等
(1) サービス内容変更規定の必要性:PFIは長期契約であるため、当初の前提条件や前提となった環境が大きく変化した場合に備えて、サービス内容(業務要求水準書の内容、選定事業者による提案内容、落札後に両当事者で合意した内容)を変更するための規定(契約の一部変更の規定)が必要である。
(2) 管理者等からのサービス内容変更請求が認められる場合:管理者等はいつでも選定事業者に対してサービス内容の変更を要求することができ、選定事業者は一定の拒否事由に該当する場合を除きこれを拒否することができない(契約の一部変更に応じる必要がある)とすることが考えられる。ただし、このような規定が合理的か否かは、案件により異なりうることに留意する必要がある。すなわち、かかる規定の必要性は将来において管理者等が変更を要求せざるを得なくなる状況が生じる可能性と、かかる規定が存在することによって選定事業者が負うことになるリスク等を考慮して決定すべきである。また、この方法を採用する場合でも、拒否事由を検討する際には、経済的合理性のない変更を選定事業者に強いることのないようにする必要がある。さらに、プロジェクトファイナンスが用いられる場合、基本的には契約初期条件を変更しないことを前提としているので、変更が及ぼす事業キャッシュフローへの影響など金融機関の立場も考えて1、拒否事由を作成していく必要がある。
(3) 選定事業者からのサービス内容変更の提案:選定事業者から変更を提案する手続についても規定することが望ましい。
2.増加費用の負担者及び負担額の決定方法
(1) 増加費用の負担者:管理者等からの要求によるサービス内容の変更によって増加する費用は管理者等が負担する。一方、費用が減少した場合にもサービス対価の変更がなされるべきである。
(2) 小規模変更:特に小規模の変更については、価格決定のために両当事者に過大な費用が生じるとすると事実上変更が困難となるため、当事者の負担が少ない価格決定メカニズムが必要である。そこで、サービス内容の変更に伴う価格について予め単価等及び算定式を合意しておくことにより、できるだけ機械的に算定できるメカニズムを導入することが考えられる(なお、単価は一定の基準に従い調整
1 また、金融機関が悪影響の有無を判断するためには技術コンサルタント等によるデューデリジェンス(変更による影響を精査する)を必要とする場合(時間、コストがかかる)もある。この評価や協議の内容次第では、事業への影響がありうる。また、管理者等の要求により変更を行う場合には、デューデリジェンスに要する合理的費用を管理者等が負担することになることにも留意する必要がある。
できるようにしておく)。ただし、この方法は、予め合意した単価と算定式を用いて算出されたサービス対価の変更額が市場価格と大きく乖離しないことが見込まれる事項に限り利用すべきである。
(3) 通常の変更:小規模変更以外の変更についても、価格の決定手続を盛り込むことが望ましいが、どのような方法を採用するのかについては慎重な検討が必要である。①ベンチマーキング(市場価格を調査し、それに応じて対価を決定する方法)、②マーケットテスティング(選定事業者が対象のサービスを入札にかける方法)、③中立的な専門家の活用(適格性を有する独立した技術アドバイザーに、参考価格の作成(への助言)や選定事業者の見積の精査を委ねる方法)などが考えられる(それぞれの方法の特徴については、本章第4節参照)。
(4) 手続に要する費用:変更手続に要する費用についても規定を設けておくことが望ましい。管理者等からの要求に基づく場合は当該費用を管理者等が負担することが原則ではあるが、事前に具体的金額や予算上の上限等について合意することなどにより、過大な負担が生じないようにすることが望ましい。
3.対価の支払時期
(1) 資本的支出等相当分(変更による資本的支出や初期投資):サービス内容変更の実施により必要となる資本的支出その他の初期投資相当分については、管理者等が選定事業者へ一括して支払うのか、分割して支払うのかを決定する必要がある。この際必要となる資金調達2をどちらの当事者がどのように実施するかと併せて検討すべきである3。
(2) 資本的支出等相当分以外:サービス内容変更が初期投資を伴わない場合には、一括払い部分はなく、将来のサービスの対価の調整のみとなり、維持管理、運営費相当分のサービス対価に反映させる。
4.一部解除及び一部解除時の補償
(1) 一部解除ができる場合:管理者等からサービス内容変更要求がなされたものの拒否事由が存在する 場合、又は拒否事由は存在しないが両当事者がサービス対価の変更額について合意できなかった場合、管理者等に契約を一部解除する権利を与えることが考えられる。ただし、これが可能であるのは、選 定事業者に重大な悪影響を与えず、かつ、原則として、①管理者等に自ら当該業務を実施することが できる場合、②当該業務を第三者に競争的価格で委託することができる場合、又は③業務そのものが 不要となった場合に限られる。また、①②の場合について、業務の承継が円滑に遂行できるよう予め 協力義務等に関する規定を設けることが望ましい。
(2) 損失補償の内容4:第2章2参照。
2 一括して支払う方法の場合、金利等の調達費用を支払う必要がないというメリットがある。しかし、特にある程度の大きな額の資金が必要である場合には、選定事業者による資金調達にかかるコストも勘案した上で定期的に支払う対価を変更するという方法もあり得る。この場合、金融機関の合意が必要となるが、既存のファイナンスの枠組みに大きな影響をもたらさない手法(例えば、資金調達を金融機関からの貸付等に劣後するローンとして構成企業から調達するなど)を用いることにより、既存のファイナンスへの影響をできるだけ少なくすることも考えられる(この場合でも、構成企業からの資金調達に要する費用はサービス対価に転嫁され、管理者等の負担になる)。
3 案件によっては、対価を増やすことなく、(債務負担行為の変更等必要な手続を経た上で)契約期間を延長して、事業者による収益機会を増やすことで対価を回収させる方法もある(この場合、将来の収入を現在価値へ割引く方法も考慮する必要がある)。
4 一部解除に伴ってサービス対価を減額する際は、複数の業務を一括して請け負うことによる費用が削減されている場合の効果についても配慮する必要がある。
5.一定の時点での見直し、調整
先例が少ない分野の案件や、入札からサービス提供開始までに特に長期の時間を要する案件で、契約締結時点でできる限り明確に業務要求水準を規定したとしてもサービス提供時点で調整が必要になると予想される場合には、例えば運営段階開始直前、運営段階開始1年後にサービス内容を見直す旨の規定を挿入することが考えられる。ただし、このような規定を挿入する場合でも、「後で決めればよい」といった考え方によって契約条件が曖昧なまま契約を締結することは適切でない。
第3節 施設整備費に係る物価変動リスクへの対応
1.基本的な考え方
(1) 施設整備に関するリスクは選定事業者が負担すべき重要なリスクであるので、通常の範囲内のインフレ(経済成長、通貨供給拡大等)、デフレについては選定事業者のリスクとすべきである。したがって、施設整備に要する費用に影響を与える物価変動があっても、通常の範囲内のインフレ・デフレであればサービス対価は変更されない。民間事業者は、応札段階でこのリスクを合理的に評価し、サービス対価の提案に反映させるべきである。
(2) しかし、誰もが管理できないような、急激で著しく、かつ予測不能な物価上昇による建設費の高騰を選定事業者のリスクとしてしまうと、事業として成り立たない可能性がある。そこで、急激で著しく、かつ予測不能な物価変動については、管理者等もリスクを分担すべきである。
2.サービス対価調整の対象となるリスクの範囲
(1) 対象期間:入札から契約時点までの価格変動に関するリスクは、本来、入札価格に反映されるべきことを前提とすれば、契約締結時を基本とすべきと考えられる5。
(2) 対象となるリスク:以下の場合においてサービス対価を調整することが考えられる6。
① 主要な工事材料に著しい価格変動があった場合。
② 急激なインフレまたはデフレによる物価変動があった場合。
(3) 留意点:物価変動に応じた施設整備費相当分の調整基準を作成する際は以下の点に留意すべきである。
① サービス対価を変更する場合でも、管理者等がリスクを全て負担するのではなく、双方がリスクを分担することにより、選定事業者が影響を緩和するよう努力することを促すこと。
② 民間事業者が適切にリスクを評価できるよう、変更額の具体的算定方法及び変更手続を予め規定すること。この際、PFIは性能発注であるため、単純ではない点に留意する必要がある7。各種指
5 一方、応札から契約にxxxまでかなりの期間が必要となると想定される場合、予め一定のルールを公募上定め、それに基づき対価を契約時点で調整できるメカニズムを考慮することにも一定の合理性がある。ただし、その適用に関しては、透明性、xx性につき特段の配慮が必要となる。
6 ここで挙げられた場合以外に、賃金水準又は物価水準の変動により一定以上の費用の変動があった場合を対象に含めるべきとの考え方もある。しかしながら、施設整備に関するリスク分担が官から民へのリスク移転の重要な要素であることを考慮し、選定事業者に通常のコスト管理・リスク管理をする動機付けを与える必要がある。
7 管理者等が選定事業者との契約によりサービスを購入する前提にたった場合、あるいはユニタリー・ペイメントの前提にたつ場合、管理者等と選定事業者の関係は、SPCと工事請負事業者の関係と 1 対 1 で対応しないこともあることに留意すべきである。この場合、何を、どのように調整するかに関し、明確な判断基
標(インデックス)を使用することも考えられる。
3.支払時期
物価変動による増額分については、一括払いとすれば資金調達に与える影響を最小限にすることができる。一方、金額によっては増額分を管理者等が一括で支払うことが難しい場合があると考えられる。また、一括払いでは選定事業者の費用管理の動機付けが希薄になり、全体費用を縮減することにはならない可能性がある。このため、一概に分割、一括のどちらが適切とはいえない。
第4節 市場価格の変動に応じたサービス価格の変更
1.対象となる業務
(1) 物価変動に関する指標による調整のみでは市場価格と乖離が生じてしまう業務については、定期的
(例えば5年ごと8)に市場価格との比較などによりサービス対価を見直す規定等を設けることが考えられる。ただし、このような調整規定が機能する業務は限定され、具体的には以下のような点を考慮してかかる調整規定の対象とすべきかを決定すべきである。
① 多額の初期投資等の有無:当該業務について、見直しのタイミングまでに初期投資を回収することが可能であるか、またコストのうち変動費と固定費の割合はどのようになると予想されるかについて検討する。初期投資や固定費部分が多いと、市場価格の変動に応じた価格調整が難しくなる。
② 建設等と分離して発注することの合理性:当該業務が、建設、大規模修繕と分離して発注することが合理的であるか否かを検討する。例えば、施設の維持管理のうち、コストが建物の状態により大きく左右されるものについては、建設、大規模修繕と分離して発注することはPFIのメリットを失わせることになる。また、当該業務のみを取り出して市場価格と比較することも困難である。
③ 競争市場の有無、代替性:当該業務が、他の民間事業者でも実施することができるのか、さらに当該業務について競争市場が存在しているかを検討する。存在しない場合、ベンチマーキング(2
①参照)に必要な市場価格の情報の入手も、マーケットテスティング(2②参照)も困難になる9。
(2) PFIの業務の範囲は常に広ければ広いほどよいというものではなく、民間事業者が負担することの困難なリスクを含む業務については、はじめからPFIの対象外とすることも考えられる。ここで規定するサービス対価の改定方法は、あくまでもその業務のみ切り離して市場価格と比較する(あるいは入札にかける)ことができるような場合を想定している。
2.価格改定方法
見直しの方法としては、ベンチマーキング、マーケットテスティング、中立的な専門家の活用、x
xを定義しない限り、問題が生じることもある。また、資本的支出(施設整備)の一部が機械や機材等である場合、選定事業者が担うべき投資の一部を選定事業者が協力会社に担わせ、投資リスクを分担している場合もある。かかる場合には、利害関係が複雑になるが、実態に即して調整のあり方を考えることが適切であろう。
8 価格の見直しの対象とした場合でも、ある程度初期投資がある場合には、その程度に応じて対象から除外したりすることにより、あるいは1回目の見直しまでの期間を長くしたりすることにより(例えば7年から 10 年など)、選定事業者に不当な不利益を及ぼさないように工夫すべきである。一方、変化が激しい分野では、初回の見直しまでの期間は短めに設定する方が現実的である。
9 現在競争市場が存在していない分野が多いが、今後競争市場が形成されていくことが望まれる。
部業務の契約期間短縮・一部解約権の付与などが考えられ、それぞれの方法を理解した上で、サービスの性質に応じて適切なものを選定する10。
① ベンチマーキング(市場価格を調査し、それに応じて対価を調整する方法)
イ 現行の委託先が引続き行うため、選定事業者の委託先の変更に伴う問題が生じないというメリットがあるが、適切なデータの入手およびその客観性の判断が困難というデメリットがある。 ロ 十分なデータが得られないこと等により両当事者が変更額を合意できない場合が想定される
ため、この場合の扱いを定めた規定が必要である。例えば、合意できない場合は管理者等が最終価格を提示する(ただし、選定事業者はこれを拒否し契約の一部解除を行うことができるものとする)方法が考えられる。
② マーケットテスティング(特定のサービスについて、選定事業者が入札にかける方法。入札の結果、選定事業者は委託先を落札者と交代させることもありうる)
競争による価格低下が期待されるというメリットがある。一方、選定事業者の委託先となりうる企業の参加意欲を減退させる可能性があること、当該サービスについて競争市場が存在しないと逆に価格が高くなるリスクがあること、入札参加者の範囲を決定する際参加者が多い方が競争性が確保できるが新しい委託先の不履行リスクも考慮する必要がある(構成企業や金融機関がとるリスクに影響を与えるため)こと11などへの配慮が必要である。
③ 中立的な専門家の活用(適格性を有する独立した技術アドバイザーに、参考価格の作成やそのための助言、選定事業者の見積りの精査を委ねる方法)
④ 一部契約期間短縮又は一部解除権付与(一部の業務について、契約期間を短くしたり、価格変更に合意できない場合の解除権を規定したりする方法)
イ 競争による価格低下が期待されるというメリットがある。ただし、これにふさわしい業務は、基本的には、業務の一時的な中断により致命的な影響をもたらさないことが必要である。さらに対象の業務が原則として、(i)管理者等自らがサービスを提供し、代替できる能力がある場合、 (ii)競争市場において常に代替事業者が存在している場合、(iii)業務そのものが管理者等にとり必要性がなくなった場合のいずれかに該当する場合に限り適切な方法となる。
ロ 一部の業務をはじめからPFI事業契約の対象外とすることも考えられるが、当該業務をPF Iの一部とすることにより、その業務を念頭において施設の設計をするというメリットがある。
ハ 契約期間短縮や一部契約解除は、選定事業者や融資金融機関に対する影響度も大きいため、その妥当性、手順、効果等に関しては、慎重な判断が必要である。
10 選定事業者や委託先の創意工夫がコスト削減に寄与できる分野において管理者等が選定事業者の努力の結果をすべて奪ってしまうことがないよう工夫する必要がある。このような分野については、見直しの対象外とすることや、テストの結果を全て管理者等による選定事業者に対する支払に連動させるのではなく一部のみ連動させること等も考えられる。
11 委託先の変更は、選定事業者に融資をしている金融機関等にも影響を与える可能性がある。
第2章 任意解除、事情変更又は政策変更等による解除
1.基本的な考え方
(1) 契約ガイドラインでは、「管理者等の政策変更や住民要請の変化等により、選定事業を実施する必要がなくなった場合や施設の転用が必要となった場合には、管理者等は一定期間前にPFI事業契約を解除する旨選定事業者に通知することにより、任意にPFI事業契約を解除できる旨規定されることが通例である」とされている。ガイドラインは、解除が行われる場合について、選定事業者の帰責事由による解除、管理者等の帰責事由による解除、不可抗力又は法令変更による解除を掲げており、これらの事由による解除以外の解除について、幅広く任意解除の対象ととらえている。
(2) 公共工事標準請負契約約款第48条第1項においては、発注者は、工事が完成するまでの間は、必要があるときは、契約を解除することができる旨が規定されている。また、同条第2項においては、この任意解除により請負者に損害を及ぼしたときは、その損害を賠償しなければならないと規定されている。この任意解除による損害賠償の範囲は、相当因果関係の範囲内における積極的損害と消極的損害、すなわち逸失利益を含むものと解されている。
(3) PFI事業契約は、公共工事の契約と異なり長期にわたるものであり、長期間の事業期間のうちには、選定事業者の帰責事由、管理者等の帰責事由、不可抗力又は法令変更以外に、従来の任意解除の規定の対象となっていた場合として次のような例が考えられる。
① 工事が完成するまでの期間中又は工事完成直後における管理者等による理由を明示しない解除
② 事業開始後において、事業開始前に想定した予測と異なる状況が発生した場合における解除
③ 事業開始後の一定期間経過後に、管理者等が選定事業者の業務の実績について評価を行った場合において、社会経済情勢の変化、周辺の土地利用の状況の変化等により、選定事業に係るサービスの提供を継続することが不適当と認められることによる解除
④ 業務実績の評価等に基づき契約を変更する必要がある場合において、管理者等と選定事業者との変更協議が整わないことによる解除
(4) PFI事業契約は、その継続性、有効性に依拠して、民間主体が投融資を実現するものである以上、管理者等による契約解除権の行使は、本来想定外の事象になり、選定事業者側に、大きな費用負担を強いることを認識することが必要である。
(5) 一方で、任意解除の要因に従った対応が必要であり、(3)①の典型的な任意解除については、抑制的であることが求められ、損失補償についても、通常の公共工事に準じた取扱いとすることが考えられる。また、(3)②から④までについては、契約変更のメカニズムがどのように機能したかが問題であるほか、(3)②については、事業開始前の予測を管理者等と選定事業者のいずれが行ったかが問題となり、さらに、事業開始前に想定した予測と異なる状況が発生した場合に管理者等がどのように問題を把握して対応するかが問題となる。また、(3)③については、業務の実績の評価の内容と利用者の反響、地方公共団体にあっては住民自治の原則との関係、行政施策の継続性・可変性等を考慮する必要があり、 (3)④については、契約変更の協議が整わないことがどのような要因によるかを考慮する必要がある。
(6) このように、長期にわたるPFI事業契約においては、(3)①に掲げる典型的な任意解除と(3)②以下の政策変更・事情の変化等に基づく解除とを同一に論ずることは必ずしも適切ではないと考えられる。
2.補償範囲12
(1) 補償額の明確性
補償額を算定するにあたっては、上記のとおり、現在「任意解除」の対象となっているものには様々なものがあることを考慮して補償範囲を定める必要がある。この際、従来任意解除として扱われていた部分を細分化する場合には明確に分類すること、そしてそれぞれの場合の補償額算定方法を明確に規定することが必要である。補償額が不明確であると、管理者等が解除をするか否かを判断することが困難になることに加え、管理者等と選定事業者の間で紛争が生じる可能性がある。
なお、補償額算定に必要な情報の共有については第3章参照。
(2) 実際に生じた損害
実際に生じた損害で合理的な額については、入札段階で生じた各種費用で回収できていない部分も含め適切に補償されるべきである。
① 優先貸付人への期限前弁済に伴い支払う補償に相当する分
マーケットプラクティスに従ったものである限り、期限前弁済に伴い優先貸付人に実際に生じた損害を填補するために選定事業者が優先貸付人に支払う違約金相当額を支払うべきである(金利スワップ解約コスト等を含む)。
② 委託先への補償
一定の期間(例えば半年以上)前に通知した場合には補償しない旨予め入札条件として示すことが考えられる。ただし、初期投資がある場合において、選定事業者が解除により初期投資が回収できなくなったことを証明したときは、当該初期投資が合理的である限り、これを補償すべきである。
(3) 逸失利益
① PFI事業の公共性と選定事業者・融資金融機関の立場を考慮すれば、PFI事業の解除が社会経済状況の変化等のやむを得ない要因13によるものであり、透明性のある手続で住民に対する説明責任が果たされ、かつ解除までの間に合理的な猶予期間が設けられたとすれば、解除に際し逸失利益の補償は要しないと考えることが適切である。
② 一方、典型的な任意解除の場合(1(3)①の場合)でも、もともと選定事業者は将来においてリタ
12 「損失補償」は、もともと憲法上の概念であるが、通常の法律でも「損失補償」が規定されていることが少なくない。例えば、憲法上の損失補償と、特定の法律上の損失補償の内容が異なることを前提とする判例があるなど、「損失補償」といっても一義的に決定されるわけではない。したがって、PFI事業契約書において「損失補償」という用語を使用したとしても、それによって直ちに支払額が決まるわけではない。ただし、例えば、特定の業者に不利益を与える目的で解除権が行使された場合など、行政に与えられた裁量の範囲を逸脱に該当するような場合は、むしろ「違法」な解除がなされたとみるべきである。この場合には、国家賠償法(国家賠償法第1条第1項の「公権力の行使」は非常に広く解釈されているので、解除権の行使について故意又は過失があれば、これに該当する可能性がある)により損害賠償を負うことになるとも考えられる。国家賠償法の場合には、一般論としては損失補償よりも支払額が多くなる可能性が高いと思われる。
13 社会経済状況の変化等のやむを得ない要因としては、例えば次のような事項が考えられる。
① 施設への需要の変化、技術革新、当該施設に関するサービスについて公的支援を受けない民間事業者が提供することが可能となること等により、施設を廃止する必要があるとき
② 管理者等が公共サービスに関する需要リスクを負担している場合において、需要が事前の想定を大幅に下回ったとき
なお、PFIの事業費を利用者から徴収する料金及び公共部門の支出の双方によって賄う事業(混合型)において、選定事業者の高水準の収益が相当期間継続し、公共部門の支出がなくても独立した民間事業としての経営が十分に可能であると認められる場合にまでサービス対価を支払続けることが必ずしも適切でないと考えられるケースもありうる。このような場合に備えて、必要に応じ、選定事業者の収益に応じてサービス対価を減額する仕組みを支払メカニズムに組み込むことも考えられる。
ーンを得られることが保証されているものではなく、リターンに見合うリスクをとっていることに留意する必要がある。すなわち、選定事業者の利益がゼロ、あるいはマイナスとなる可能性もあり、そのようなリスクが高い案件ほど、成功した場合のリターンも高いという関係にある。そして、解除された場合、解除時以降はリスクを負わないのであるからリターンを得る根拠もなくなることになる。したがって、典型的な任意解除の場合でも維持管理・運営段階の逸失利益まですべて算入することは適切ではなく、限定された範囲内で認めることが適切と考えられる。
(4) 株主、株主劣後貸付人14への支払
株主、株主劣後貸付人(以下、「株主等」という。)の利益相当分については、以下の点に考慮して補償の有無及び算定方法を定めるべきである。具体的な算定方法としては財務モデルを用いる方法15や解除時期に応じて具体的補償額を決めておく方法等がある。
① 株主等は解除後はリスクをとらないのであるから、基本的には将来の利益相当分を支払う必要はないものと考えられる。
② ただし、株主等がとるリスクは、時期によって異なっていることへの配慮も必要である。例えば、事業によっては、建設期間に株主が負うリスクは、運営期間に株主等が負うリスクよりも高いものと考えられる。このような事業でこの点を考慮しないで算定方法を決定すると、管理者等にとっては完工後に直ちに解除することが最も有利ということになってしまい公平ではない。したがって、事業の性質に応じて、どの段階でどのようなリスクを株主等が負うのかに配慮した上で、合理的な算定方法を定める必要がある。
3.留意点
(1) 入札での明示:いずれの方法によるにせよ、入札説明書において補償の条件、選定事業者が提出すべき資料等を明示しておく必要がある。
(2) 契約未実現リスク:本章の対象は、管理者等が解除した場合であるが、逆に例えばPFI事業契約締結後に、選定事業者が融資契約を締結できなかったり、融資の実行に必要な条件を満たすことができなかったりすることなどにより事業が中断することもありえる。この場合の選定事業者から管理者等への補償のあり方についても、今後検討されることが望まれる。
14 株主(又は株主と経済利害関係を同一にする第三者)が劣後融資をしている場合には、基本的には株式と同様の扱いをすべきである。劣後融資は、優先貸付より返済が劣後するハイリスク・ハイリターンが前提である以上、優先貸付人と同様の基準で支払うことはリスクを無視することになるからである。株主以外の者が劣後融資をしている場合、劣後融資・優先融資の間にメザニン融資がある場合などは、それぞれの融資の性質(リスク、リターン)に応じて扱いを決定する必要がある。ただし、現在の実務では、メザニン融資については、任意解除のリスクを見込んでいないとの指摘もあり、この部分については更に検討を要する。
15 将来的には、解除時の株主の逸失利益を算定するために、当事者間で予め合意した財務モデルにおいて想定されている将来の収支等をもとに算定する方法も考えられる。この方法は、もともとユニタリー・ペイメント(施設整備、維持管理等に係る対価を一体として捉える方法)を前提としており、株主の利益の部分のみをサービス対価から取り出して計算するのではなく、施設整備費相当分も含めた将来のキャッシュフローをもとに株主の利益となるべき額の現在価値を算定する。あくまで補償額算定のための基準であって、必ずしも選定事業者が財務モデルに従って支払等を行わなければならないということではない。この方法は、わが国ではまだ実践されていないため、採用する場合には慎重な検討が必要である。
第3章 情報共有と情報公開
1.情報共有
(1) 情報共有の必要性
サービス対価の見直し(第1章第4節)、サービス内容の変更(第1章第2節)、管理者等による解除(第2章等)などの際、サービス対価変更額、補償額が客観的な算定根拠を示すことができなければ、議会や住民に説明が困難となる場合がある。また、解除時の補償額が予測できなければ、管理者等は解除権を行使することが困難になる。そこで、サービス対価変更額、補償額の算定の際に必要な情報は、予め管理者等が把握することが望ましい。この対象となる項目としては、費用内訳、融資契約の内容、選定事業者とサービス提供業務協力企業との契約の内容等が想定される。
(2) 費用内訳
費用内訳は実態に即した合理的なものとすべきである16。しかし情報提供の目的は、サービス対価の変更額の算定の際の基準として用いることにあり、よって選定事業者が将来にわたって費用内訳どおりに構成企業等への支払を行う義務を負うわけではない17。
費用内訳を作成する際には、基本的には費用の部分と構成企業(選定事業者の株主)に配当できる利益の部分を明確に区別すべきである18。
(3) 融資契約
融資契約が合理的な慣行に従ったことを確保するため、コストに見合う場合には予め融資契約や関連諸契約のデューデリジェンスを行うことが望ましく、そのほかの場合であっても少なくとも選定事業者が優先貸付人に対する債務の期限前弁済を行う場合について、当該弁済について行う補償の額に影響を与えるような条項の内容等を把握することが望ましい。現在の実務では、通常、PFI事業契約後に融資契約等をドラフトしており、PFI事業契約締結までに合意しているのは主要な融資条件レベルである。この場合、管理者等が融資契約締結前に特に期限前弁済時の補償の額に大きく影響を与える条件を予め把握するとともに、その後に管理者等の同意を経ずに変更できないものとする(又は、変更されても補償額は変更前のものをもとに算定する)という考え方も取ることができる。一方、管理者等が後刻、直接契約により融資金融機関と直接的な契約関係に入り、融資契約上の権利義務関係が管理者等と選定事業者の権利義務関係に重要な影響をもたらすことを前提とする場合、融資契約、直接契約締結の時点で、選定事業者に融資契約の写しを管理者等に提出することとすれば、管理者等は補償の額に影響を与える全ての条項の内容等を正確に把握することができる。融資契約締結前にPFI事業契約が解除に至ることは想定できないため、拙速に条件を固めるよりも、正確を期すことが適切という声もある。
(4) 選定事業者とサービス提供業務協力企業との契約
特に初期投資がある場合などに(第2章2(2))、一部解除時の損失補償を客観的に算出するため、契約の締結時点までに、選定事業者とサービス提供業務協力企業との契約のうち、重要な事項で解除
16 現在選定事業者が開示している各業務の費用については、市場価格を反映していない場合もある(例えばひとつの事業者が複数のサービスを提供して、それぞれのサービスコストに乗せる利益の幅を意図的に変えて、総体として利益を確保している場合など)が、このような状況は合理的算定を困難にするものであり、できるだけ実態に近い価格が提出されるようになることが望まれる。
17 ただし、費用の内訳と現実の乖離をどこまで認めるかなどについては別途検討を要する。
18 ただし、例えば、株主が劣後貸付をしている場合、劣後貸付けは準資本(Quasi-Equity)とも呼ばれ、補償額の算定の際に資本(Equity)としての投資と同様に扱う考え方があるなど(第2章2参照)、会計上費用として扱われるか否かとは必ずしも一致しないことに留意する必要がある。
に関係するものの内容について合意すべきである。これらを合意していくプロセス(対象事項、提案の際に提案すべき事項、提案内容の条件、その後の合意プロセス等)については、入札段階で予め示す必要がある。なお、サービス提供業務協力企業との契約の写しを契約締結後、管理者等が取得するという方法も考えられる。
(5) 留意点
① 費用内訳等については、入札公告において、必要に応じて、応札者の提案すべき事項、提案内容が満たすべき条件、評価方法等を明示すべきである。
② 管理者は、選定事業者の財務の状況を定期的に適切に把握しなければ、事業の継続に困難が生じ た場合に管理者等の対応が遅れる可能性があり、財務モニタリングについて今後の検討が望まれる。
2.情報公開
提供された情報を公表するか否かについては、予め関連法令の規定との整合性も含めて整理した上で、どのような情報を公表するかを、以下の点に留意しつつ、PFI事業契約書において規定することが望ましい。
(1) 現状等
① 契約のガイドラインでは、情報公開に関し、「6―6 守秘義務」の中で次のとおり記述されている。
・ 管理者等は、PFI事業契約の履行過程で知り得た選定事業者の秘密を漏らしてはならないことが規定される。
・ しかしながら、選定事業者にかかる情報が情報公開の関連法令等の対象となる場合、その対象となる事項について、守秘義務の対象の例外となる。但し、選定事業者の企業秘密に関する情報については開示の対象とならない場合が多い。
・ PFI事業契約書の開示請求があったときは、管理者等は、原則としてPFI事業契約書を開示請求者に対して開示しなければならない。
② PFI法第9条及びPFI法施行令では、地方公共団体は、PFI事業に係る契約で、都道府県では5億円以上、政令市では3億円以上、政令市以外の市では1億5千万円以上、町村では5千万円以上の契約を締結する場合には、あらかじめ、議会の議決を経なければならないこととされている。
③ モニタリングに関するガイドラインでは、「管理者等は、当該選定事業に係る透明性を確保するため、PFI事業契約等に定めるモニタリング等の結果について、住民等に対し公表することが必要である。ただし、公表することにより民間事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある事項については、あらかじめPFI事業契約等で合意の上、これを除いて公表することが必要である」としている。
④ PFI事業に関連して、管理者等が把握し、又は把握が求められる事項は、次のとおりである。イ 管理者等と選定事業者とのPFI事業契約
ロ モニタリング等の結果
ハ 管理者等と金融機関との直接協定
ニ 選定事業者とサービス提供業務協力企業との契約ホ 選定事業者と金融機関との融資契約等
⑤ ④に掲げた事項の公表の状況は、概ね次のとおりである19。
イ PFI事業契約については、管理者等が実施方針の公表又は入札公告の段階で契約(案)を公表しているが、締結された契約は公表されていない場合が多い。
ロ モニタリング結果については、平成19年度の内閣府調査によれば、PFI事業100事業のうち、「モニタリング結果を公表している」との回答は2割弱となっている。
ハ 管理者等と金融機関との直接協定、選定事業者とサービス提供業務協力企業との契約及び選定事業者と金融機関との融資契約等については、通常、公表されていない。
(2) 基本的な考え方
① PFI事業契約及びモニタリング等の結果については、次の理由から、公表を基本とすべきと考えられる。
イ PFI事業は公共サービスを提供するものであって、財政資金が投入され、又は公的な支援が行われるものであり、透明性を確保し、公共サービスの実施内容及び結果をサービスの受益者である国民・住民に周知することが求められること。
ロ 契約内容やモニタリングの内容には民間事業者のノウハウである部分もあるが、PFI事業契 約締結やモニタリングの実践を通じて蓄積されたノウハウは、財政資金の投入等の結果でもあり、基本的には国民が広く共有することが求められること。
② なお、モニタリングは、日常的に行うもの、定期的に行うもの、随時の抜き打ち等非定期に行うもの等様々な形態があり、公表に際しては、一定の期間を定めてモニタリング結果の概要を公表することが考えられる。また、PFI事業契約のうち、例えばサービス対価の支払の項目については、民間事業者の権利、競争上の地位等に係る事項が含まれていないかどうか配慮が必要になる。
③ 一方、選定事業者とサービス提供業務協力企業との契約及び選定事業者と金融機関との融資契約等については、民間事業者が自らのリスクとノウハウに基づいて実施するものであるほか、民間事業者独自のノウハウも含まれるものであり、民間事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。さらに、選定事業者とサービス提供義務協力企業との価格情報が公表されることとなれば、選定事業者が経済的に有利な調達を行うことができない可能性もある。このため、公表には慎重な検討を要するものと考えられる。
④ 直接協定については、③に準じて取扱うことも考えられるが、直接協定のうち事業の継続が困難となった場合における措置に関する事項については、事業の継続の可否に重大な影響を及ぼすことから、公表を基本とすべきと考えられる。
⑤ 情報公開に関しては、民間事業者の地位を不当に害しないようにするため、管理者等は、事前に定めた明確な基準に基づき実施することが必要である。
19 市場化テストの制度では、民間事業者がどのようなサービスを実施することとなったかをサービスの受益者となる国民に周知することを主たる目的として、契約の内容に関する事項のうち一定のものについて、公表する旨が定められている(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律第20条第2項)。
第4章 紛争解決
1.当事者間の協議
(1) 紛争予防:両当事者間で継続的にコミュニケーションをとっておくことにより、相互の信頼関係を醸成しておくことが、紛争を予防する観点からは重要である。そこで両当事者の間のコミュニケーションの場を設定し、対面でコミュニケーションを行う機会を設けて信頼関係の構築に当たるべきである20。
(2) 当事者間による協議による紛争解決:紛争が生じた際には、いずれかの当事者の要求により両当事者による紛争解決のための会議を招集するなど、まずは両当事者間の協議により紛争の解決を図ることになる(契約ガイドライン6-7参照)。
2.中立的第三者の関与による紛争解決
(1) 中立的第三者の関与の必要性
PFIの場合は紛争が生じても選定事業者が行う業務全体に悪影響を及ぼさないようにする必要性が高いため、協議によって解決しなかった場合でも、良好な関係を継続したまま、迅速に解決することが必要である。さらにPFIをめぐる紛争は高度な専門知識を要求されることが多いと予想される。そこで、紛争が生じた場合に、裁判よりも迅速に、かつ専門的事項に十分対応できるよう、中立的な専門家が調停人、仲裁人等として関与して紛争を解決する手続を規定すべきである。ただし、かかる手続になじまない紛争も存在するため、あらかじめ手続きの対象となる事項(又は対象とならない事項)を契約書で特定することや、手続の使用を任意とすることなども考えられる。
(2) 中立的専門家の選任
① 人数:1名又は3名とすることが考えられる21。
② 選任する時点:中立的専門家の選任方法については、(イ)事業契約締結後一定期間内に合意しておく方法22、(ロ)紛争が生じた際に両当事者間の合意により選定する方法があり、以下のようなメリット、デメリットがある。日本では、中立的な専門家を関与させる枠組みが定着しておらず、
(イ)は以下のような課題もあることから、(ロ)の方法が当面は現実的であると考えられる。 イ 事業契約締結後に予め合意しておく方法:事業契約締結後の手続負担が重いこと、また選任し
た段階から中立的専門家に報酬を払わなければならなくなること、利益相反の問題がより複雑になることなどのデメリットがある。しかし、実際に中立的専門家による紛争解決が必要になった場合は、迅速な解決が期待できるというメリットがある。
ロ 紛争が生じた際に両当事者間の合意により選定する方法:実際に紛争が生じている場合両当事者がより慎重になるため、人選について合意できないリスクが高くなる。この人選について合意できない場合、迅速な解決は期待できないというデメリットがある。しかし、紛争となっている
20 この点に関し、現実には、多くの場合、「紛争」に至る以前に、日常的に公共側によって物事が決められるところに問題があるので、場合によっては、中立的第三者が監視機能も含めた調整役を担う措置が必要であるとの指摘もある。
21 3名とした場合には、各当事者が1名ずつを選任し、選任された2人の裁定人が第三の裁定人を選任するという方法が考えられる。1人とした場合は、両当事者が共同で選任する。
22 この場合は、複数の分野の専門家について合意しておき、紛争の内容に応じて適切な専門家を選任できるようにすることが望ましい。
分野にあわせて中立的専門家を選ぶことができるというメリットがある。
③ 選任候補者:受任することについて利益相反がないことに加えて、紛争の分野に応じて必要な専門的知識を有しており、かつ両当事者が納得できるだけの中立性を有している専門家を選任することが必要になる。
④ 選任について合意できない場合:選任について意見が一致しない場合の手続規定が必要である。第三者機関への選任の依頼が考えられるが、現実的に可能か事前に検討が必要である。
(3) 手続の内容
両当事者の意見及び証拠の提出期限、口頭による意見の陳述等の方法、中立的専門家の判断の期限等の手続を定める。
(4) 中立的専門家の判断の拘束力
我が国のPFIでは中立的第三者に関与させて紛争を解決するという慣行は存在していないため仲裁のように当事者を拘束するとなると中立的専門家の選任が困難になる可能性がある。この場合、中立的専門家を関与させる手続きが実務から敬遠されてしまう可能性があることから、当面は、中立的専門家の判断に拘束力を持たせない手続(一種の調停手続23)とすることが考えられる。今後、第三者を用いる手法に対する信頼の向上、中立的な第三者機関の設立(または既存の機関の活用)、紛争解決のための基準の明確化などによって、徐々に拘束力を持たせる方法が採用されるようになることが期待される。
3.留意点
(1) 議会との関係:和解、調停、仲裁などについては、地方自治法第 96 条第1項第 12 号に定める地方公共団体の議会の議決事項に含まれている点に留意する。
(2) 費用:紛争解決に要する費用分担を予め合意する必要がある24。
(3) サービスの継続:紛争解決の手続の期間中、建設やサービスの提供が中断されることのないよう、原則として25建設及びサービスの提供を中断してはならない旨を規定する必要がある。
23 紛争解決にあたる第三者の判断に拘束力がある場合は仲裁、拘束力がない場合は調停になる。調停には、簡易裁判所等で行なわれる法定の調停と、民間機関(又は民間人)によって行われる任意の調停がある。民間機関によって行われる調停については、ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)による認証制度がある。この認証制度については弁護士以外の調停人の活用、時効の中断等でメリットがある。 PFI事業契約に中立的な専門家による判断を盛り込む場合も、弁護士法との関係で問題が生じないようにするため、認証された調停機関・手続を利用することも考えられる。なお、仲裁には適用されない。
24 この際、報酬水準についても合意する必要があるが、調停人等の報酬は、組織などの場合には、一定の水準が決まっていることが多く、自由な交渉の対象とはなりにくいことに留意する必要がある。
25 不可抗力事由等により義務が履行できない場合を例外とする必要がある。
第5章 法令変更による増加費用の分担
1.法令変更が生じた場合のプロセス
(1) 法令変更については、早い段階から当事者間の密度の高い協議を行うことにより、増加費用等を軽減できる場合も少なくない。そこで、法令変更が予想される場合には、早い段階で他方の当事者に通知をした上で協議を開始し十分な時間をかけて議論することにより、双方で情報を共有して協力しながら、正確な影響を評価し増加費用の軽減に努力することが重要である。
(2) 法令変更に関する具体的な条項を作成する際には、法令変更により影響を受ける者(又は事業)の範囲、各法令の目的、法令変更と費用増加の関係の明確性など様々な要素を考慮した上で、法令変更の内容を類型化し類型に応じて扱いを決めていくことが考えられる。ただし、法令変更に関する規定については、その対象、範囲、影響を予め定義することが難しいため様々な考え方があるところであり、個別の案件の事情に即した検討が必要である。
2.費用の分担方法
(1) 判断基準(収益事業以外)
一般的法令変更か否かで判断する考え方と、原則管理者等がリスクを負担するという考え方がある。
① 一般的法令変更か否かで判断する考え方
この考え方は、まず、「本事業に直接影響を与える法令の変更」(特に本事業及び本事業類似のサービスを提供する事業に関する事項を直接的に規定することを目的とした法令で事業者の費用に影響があるもの。直接法令変更)とそれ以外の法令変更(一般的法令変更)に分類した上で、後者については選定事業者がリスクを負担するようにするものである。法令変更のうち、その影響が広範に及ぶものについては法令変更の対象者が広く一般的であり、選定事業者もその効果を受忍すべきであること、また、一般的法令変更の場合は、間接的には物価指数等に影響を与え、サービス対価の物価スライド条項その他指標に応じた調整条項、ベンチマーキングの規定、マーケットテスティングの規定など、価格調整に関する条項26により最終的には一定部分費用の増加を吸収できることを根拠とする。
この考え方を採用する場合でも、実際にはこの基準で判断することは困難であることも予想されるため、特に当該事業において将来問題になる可能性があると予想される変更(公的機関による運用の変更も含む)については、「本事業に直接影響を与える法令の変更」「一般的法令変更」のどちらに分類するかについて契約書に明記することなどにより、できるだけ明確化すべきである。
② 一般的法令変更の場合も含め、原則として管理者等がリスクを負担すべきであるとの考え方 民間企業においては、法令変更による事業の増加費用を、その分野において事業活動を行わない
とすることにより影響を一定の範囲内に抑えることができる。これに対して、選定事業者の場合は、
26 この考え方をとる場合でも、資本的支出(建設費の増額や、運営開始以降の新たな設備の導入、大規模修繕等。解体費も同様に扱うことが考えられる)については、個別性が高く物価スライド等で吸収することは困難と考えられることから、法令の種類に関わらず管理者等の負担とすることが原則と考えられる。ただし、この場合でも、選定事業者の努力により増加費用を抑えることができる場合が考えられることや、手続き負担の観点(比較的少額の変更について対価の変更のための手続を行うことは煩雑である)から、選定事業者も一部負担することが考えられる。
公目的達成のために契約上その行動が制限されるという選定事業者の義務の特異性から、一般の企業活動に比べて収益や支出の枠組みが固定しており、法令変更に伴う費用増を、収益を増大して吸収できる手段が限定される。したがって、一般法令変更の場合も管理者等がリスクを負担すべきとする。
(2) 収益事業の場合
① 選定事業者が利用者からの利用料金を収受するスキームの場合は、費用の増加を利用料等に反映させることができること、また、他の民間事業者との公平を図ることから、原則として選定事業者の負担とすることが考えられる。ただし、費用の利用料への転嫁については、例えば、指定管理者制度が採用されている場合に利用料金の設定について制約されているなど一定の限界があることに留意すべきである。この場合、法令変更の場合は利用料金の変更に管理者等が同意する旨規定するか、管理者等が増加費用を負担するなどの方法により、選定事業者に過大なリスクを負わせないようにすべきである。また利用料金の値上げが可能である場合でも、値上げにより利用者が減少し、収益の増加に繋がらない可能性がある。従って、利用料金値上げが可能である場合でも、利用者にこれを転嫁することを前提に選定事業者が増加費用を負担することが常に妥当であるとは限らない点に留意する必要がある。
② これに対して、選定事業者が事業継続義務を負う以上、管理者等が増加費用を負担すべきとの考え方もある。
(3) 費用増加の立証責任
費用の増加については、選定事業者が立証責任を負う。
3.軽減義務
選定事業者の努力により法令変更による影響を抑えることができる部分については、管理者等は増加費用を負担すべきではない。したがって、管理者等が法令変更リスクを負担する場合については、選定事業者に費用の増加を抑えるために合理的な範囲内での努力を行う義務を負わせることが適切である。この場合、軽減するための努力を行ったことを示す証拠や類似の事業に与えた影響に関する証拠の提出を義務づけるなど、軽減方法や負担額を協議する際の手続を予め規定することも考えられる。
第6章 モニタリング・支払メカニズム
1.セルフモニタリング
(1) セルフモニタリング
① モニタリングガイドラインにおいては、以下のように記載されている。
モニタリングに際しては、
① 選定事業者が提供する公共サービスの履行状況の把握と履行状況を検証するためのデータやサンプルの収集
② 提供された公共サービスの水準がPFI事業契約に規定された要求水準を満たしていないことが確認された場合の速やかな改善措置の実施
③ 収集されたデータやサンプル、改善措置の実施状況等について、要求されている公共サービスの水準を満たしているかの測定及びその結果に基づく実績評価等
などを実施していくことが挙げられる。
モニタリングの最終責任は管理者等にあり、③の実績評価等は管理者等が自ら行う必要がある。一方、①②の措置等については、選定事業者が行う方が合理的な場合があり、その実施者を誰とするかは個別事業の中で考える必要がある。
(モニタリングガイドライン 二「モニタリングの実施方法」1「モニタリングの実施」)
② 上記のうち、選定事業者自らが行うモニタリング(以下「セルフモニタリング」という。) と管 理者側が行うモニタリングについては、両者の区別が曖昧になり混乱が生じているとの指摘がある。これらを明確に区別した上で、選定事業者がどのようなセルフモニタリングを行う義務を負うのか
(又は提案する義務を負うのか)を入札段階で明示すべきである。
③ セルフモニタリングの内容を検討する場合は、以下の点に留意する必要がある。
イ セルフモニタリングの意義は、もともと管理者等から義務づけられなくても選定事業者側で行う必要があるモニタリングを活用することにより、費用を実質的に上昇させることなく実効性を高めることにある。例えば、これまで施工会社のコントロールの下にあった設計会社が施工監理を行っていたのを、できる限り独立性を持たせることにより27、コストを上げずにより効果的にモニタリングすることができる。
ロ セルフモニタリングを活用する場合であっても、モニタリングを実施する最終責任はあくまで管理者等にある。
ハ セルフモニタリングの内容は、全面的に選定事業者に委ねるのではなく、上記のセルフモニタリングの意義を踏まえ、かつ、管理者等が自ら有する履行確認に関するノウハウも生かして、どのようなセルフモニタリングが必要であるのかを明確に示すべきである。
27 例えば管理者等、選定事業者、工事監理会社の三者間契約とし、費用は選定事業者が最終的な責任を担うが、管理者等が工事監理会社に指示し報告を受けるというスキームも考えられる。工事監理会社に対する支払行為を利害関係者となる設計会社や選定事業者とせず、管理者等とする、あるいは管理者等の代わりに融資金融機関が選定事業者の費用負担でこの任を担う等も考えられる(費用の負担者と契約上の作業命令権が利害関係者に集中している場合独立性も維持できないことから、これを切り離す)。ただし、設計を担当した事業者が工事監理を行う場合でも、社内では別の部署が担当することが一般であり、工事監理の担当者はプロフェッショナルとしてサービスを提供するものであるから、設計をした事業者が工事監理をしても直ちに問題であるわけではないとの指摘もある。
(2) 虚偽報告を防止する仕組み
測定機器による計測、サンプルの抽出による検査、抜き打ち検査、サービス受益者等からの苦情等の連絡によって、選定事業者から報告された内容が事実であるかを確認すべきである(モニタリングガイドライン 二2「モニタリングの具体的内容」参照)。選定事業者から提出された情報に虚偽が発見された場合には、それ自体をペナルティの対象とすべきである。なお、過失ではなく故意の場合は特に厳しくすべきである。
2.設計・施工段階のモニタリング
(1) 建設モニタリングの必要性
PFI施設において事故が起きた事例や、完工検査において瑕疵が発見される事例があることを考慮すると、設計・施工段階のモニタリングの内容を明確に規定する必要がある。
(2) セルフモニタリング
1参照
(3) 管理者等によるモニタリング
① モニタリングの対象:管理者等が特に重要と考える点については、管理者等が自らモニタリングを行うべきである。対象としては、例えば以下のものが考えられる。
イ 完工後の瑕疵発見が困難かつ重要な事項(躯体状況等)等
ロ 瑕疵があった場合の手戻りの影響が大きい事項(重要な機械設備の出荷検査等)ハ 施設の安全性に直接関わる事項(天井の振れ止め等)
ニ 地域の環境保全に大きな影響を与える事項(アスベストを含む旧施設の解体等)
ホ モニタリングの内容に関しては、具体的な工種・工程等も含めて予め例示しておくことが望ましい。
② モニタリングを行う権利:特に契約書等で明示されたもの以外でも、管理者等が必要と判断した場合にはモニタリングを行うことができる旨規定することが望ましい28。
(4) モニタリング結果による減額
設計・施工段階のモニタリングの実施の結果、建築中の施設に業務要求水準未達部分の存在が判明した場合でも、業務要求水準を満たした施設がPFI事業契約上の引渡期日(猶予期間がある場合には猶予期間の満了日)までに引渡された場合、施設整備費は減額されるべきではない(虚偽報告がなされた場合を除く)。
3.実効的なモニタリング体制の構築
(1) 管理者等の側の契約管理体制の構築:契約管理を実効的に行う観点からは、管理者等においても、契約管理を継続的に行う体制(スタッフ、組織、マニュアルの作成等)を構築する必要がある。
(2) 選定事業者(SPC)による横断的な管理:サービス提供業務の比重が重い事業など、選定事業者の業務範囲が広範に及び、委託先が多岐にわたる場合等においては、各種サービス提供業務を横断的に統括する機能を選定事業者(SPC)に担わせることも考えられる。
(3) モニタリングに関する協議の場の設定:サービス提供業務の比重が重い事業や複数の機能から構成
28 設計段階・施工段階、運営段階を問わず、モニタリングに必要となる費用の負担者については、明確に規定しておく必要がある。
される事業等については、モニタリングに関する協議の場を整え、①運営開始後に調整期間を設け、セルフモニタリングの結果及び管理者等の評価を対照させながら、両者の認識を一致させ、モニタリングの基準を調整していくこと29、②モニタリングにおける事実認定及び評価の確定を行うことが考えられる。なお、調整期間に行われる調整は、予め明示されたモニタリング内容から合理的に推測できる範囲を逸脱すると、モニタリングに伴う追加費用などが係争の対象になる可能性が大きい。したがって、あくまでも重要部分は入札段階までに決定すべきであり、調整の対象となる部分は限定されることに留意すべきである。
4.適切な支払メカニズムの構築
(1) 利用量に応じた適切な調整の必要性:サービス購入型で、かつ利用者数など利用量によって選定事業者のコストが大幅に増額する場合、サービス対価を増額するなど、サービス提供量(例:入場者数等)の増大によるコストの増加をカバーする枠組みが必要である。
(2) 各指標間の関係:一つの事由(違反)が複数の指標に関連する場合に二重に減額するのかなど各指標間の関係を明確にする必要がある。また、選定事業者の債務不履行により実際に生じた損害の賠償との関係、瑕疵担保責任との関係についてもPFI事業契約に明確に規定しておくことが望ましい。
(3) 施設整備費部分の扱い:業務要求水準を達成されなかった場合のサービス対価の減額幅については、 BTOについては確定債権として施設整備費部分は減額の対象とはせず30、一方BOT方式について は、サービス水準維持への強い動機付けを図るため施設整備費部分も減額の対象とすることが考えら れる。ただし、施設整備費部分を対象にする場合でも、必要に応じて減額幅に上限を設けることを検 討すべきである31。
29 この期間内(例えば1年間)は、一定の範囲内の業務要求水準未達については原則ペナルティを課さないとすることも考えられる。
30 確定債権となるBTOの場合にも、選定事業者の債務不履行時における損害賠償権や施設に関する選定事業者の瑕疵担保責任の規定等を活用することで、適切な業務の履行のためのインセンティブとすることができる。なお、BTOの場合でもこれらとサービス購入料を相殺することが禁止されているわけではない。
31 ただし、選定事業者に厳しいペナルティを課すことにより適切な履行を確保すべきとの立場からBTOについてもユニタリーペイメントを採用すべきという意見もある一方、ペナルティがきつくなると民間事業者が提案価格を上げることにつながるのでVFMが低下するのは望ましくないとの立場からBOTについてもユニタリーペイメントを採用すべきでないとの意見もある。
おわりに
平成 17 年に改正された民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(以下「P FI法」という)において、政府は、少なくとも3年ごとに制度の見直しを行うべき旨が盛り込まれた。本委員会としては、制度の改善に向け、平成 19 年 11 月に「本委員会報告-真の意味の官民パートナ ーシップ(官民連携)実現に向けて-」をとりまとめた。同報告は、官民が対等な立場にあるとは言い難いという民間事業者の不満、PFIは手間がかかり使いやすい手法となっていないという管理者等の不満を踏まえ、対応すべき課題をまとめたものである。本委員会は、同報告において挙げられた課題への対応を様々に行ってきており、本書も、課題の一つとして挙げられた契約書等の標準化の推進に向け
た作業の一環としてとりまとめたものである。
一方、平成 20 年 10 月に、新たな経済政策に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議において「生活対策」がとりまとめられ、その中の地域活性化の項目の一つに「PFIについて、民間事業者が創意工夫を発揮しやすい環境の整備等、制度の改正を行う」ことが盛り込まれた。地域活性化の重要性については本委員会も認識を共にするものであり、また、PFI事業において雇用創出や地元産品消費を通じて地域経済活性化を図っている例や、地域金融機関がPFIを通じ地域活性化に貢献しているという状況がある。更に今後、民間事業者が創意工夫を発揮しやすい環境の整備等が進展し、更なる地域活性化が図られることを期待するものである。
加えて、今後のPFI制度の改正にあたっては、上述の本委員会報告を踏まえ、真の意味の官民パートナーシップ(官民連携)の実現を目指すとの視点をもって制度改正を行うよう要望したい。
同報告は、民間事業者、関係省庁、地方公共団体へのヒヤリング及び国民各層からの公開意見募集を行い、その成果も踏まえて検討を行い、真の官民連携実現に向けた課題と今後の方向性をとりまとめている。より民間の創意工夫が生かせる入札プロセス、対話方式の充実といった点をはじめとして、その問題意識及び内容は、今後の制度改正においても十分反映されるべきと考える。同報告と「生活対策」において、問題意識の視座や重点の置き方は必ずしも一致しないとはいえ、PFIの本質が官民のパートナーシップを構築することにあるとの認識に立ち返れば、目指すべき方向性には自ずと共通のものがあるはずである。
最後に、本書及び本委員会の活動が、より適切なPFI事業の運営、より良いPFI制度の構築にも貢献するものと信じるとともに、関係各位の御理解、御協力をお願いする次第である。