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企業法務セミナー
土地賃借人破産の場合の 賃貸借契約解除土地明渡
xx xx(xxxx xxxx)xxxx法律事務所
弁護士
当社は所有する土地をAに賃貸し、Aは建物を建築し土地を使用していましたが、地代を相当額滞納したため、当社はAに賃貸借契約解除の通知をしました。その後、まだ建物の収去、土地の明渡しがされないうちに、Aに対する破産手続開始決定の通知を受けました。
当社は今後どのようにして土地の明渡しを求めたらよいでしょうか。また、未納賃料や明渡しが行われるまでの賃料相当額の損害金や、土地を原状に復するために必要な費用はどのように扱われるでしょうか。
1 破産手続上の取戻権
破産手続開始当時破産者が占有、管理していた財産は、破産手続開始時以降、原則として破産財団とされ破産管財人の管理に服することになります(破産法34条1項、78条1項)。そのため、破産者に属しない財産が破産財団に混入することがありますが、当該財産については引渡請求権を有する第三者から破産管財人に対し、当該物が破産財団に属さないことを主張して引渡しを求めることができます。このような第三者の権利を破産手続上、取戻権と呼びます(同法62条)。
取戻権の基礎となる権利としては、たとえば破産管財人に対抗できる所有権や、特定物の引渡を求める債権であって同特定物が破産者以外の者の権利に属し、破産者としては単にそれを不法占有
質
問
しているにすぎないような場合がこれに当たります。
破産手続の開始は取戻権に影響を及ぼさないので、取戻権は破産手続によることなく、訴訟上または訴訟外の適切な方法によって破産管財人に対し行使することができます。
2 賃料債権及び明渡しまでの賃料相当損害金債権の破産手続における取扱い
破産者に対する債権は、破産債権と財団債権とに大きく分けられます。
破産債権とは、「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないもの」(同法2条5項)を言います。破産債権については破産手続におい
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て債権を届け出、確定した破産債権額につき配当を受けることによってのみ行使することが許されます。
財団債権とは、「破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権」(同法第2条7項)を言い、破産手続において債権届出、確定を経る必要はありません。また、破産債権に対する優先弁済権が認められています。
一般に賃貸人は土地の賃貸借契約を解除した後土地の明渡しがなされるまでの間、賃料相当額の損害賠償請求権を取得します。
破産手続開始決定までの賃料債権及び賃料相当損害金債権は「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」として破産債権とされています。
他方、破産手続開始決定後、明渡しがなされるまでの間の賃料相当損害金債権は、破産法148条
1項4号の定める「破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権」に該当し、財団債権であるとされています。破産手続開始により土地上の破産者所有建物は、破産財団として破産管財人の管理に服することになるため、土地上に建物を所有して土地を占有することに伴い生じる賃料相当損害金債権は、破産管財人の管理処分権に基づく行為によって生じたものと解することができるからです(最高裁昭和46年6月13日判決)。
3 原状回復費用請求権の破産手続における取扱い
賃貸借契約終了の際、賃借人は賃貸人に目的物を返還する義務を負いますが、その際、目的物に付属させた物を収去し、原状に戻したうえで返還する原状回復義務を負います(民法616条、598条)。
賃借人が破産した場合に賃貸人が賃借人に対し有する原状回復請求権(又は原状回復費用請求権)の破産手続における取扱いにつき、破産手続開始前に賃貸借契約が終了していたときは「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」として破産債権とすることに争
いはありません。
これに対し、破産手続開始後に賃貸借契約が終了した場合の原状回復請求権については、東京地裁平成20年8月18日判決が「原状回復費用請求権は、原告が破産管財人として、破産手続の遂行過程で、破産財団の利益を考慮した上で行った行為の結果生じた債権といえるから、破産法148条1項4号及び8号の適用又は類推適用により、財団債権と認められる」と判示している一方で、大阪地裁では、原状回復の原因となる賃貸目的物への毀損や変更が破産手続開始前に生じている限り、破産手続開始前の原因に基づいて生じた債権であり破産債権とする運用がされており、見解が分かれています。
賃貸人の実務的な対応としては、破産管財人との間で一定額の原状回復費用の支払を受ける内容の和解を締結し、早期に新たな賃借人を探すのが通常とされています。
4 本件の場合
土地賃貸借契約を解除した当社はAに対し、賃貸借契約終了に基づき建物収去土地明渡請求権を有しており、これは取戻権に該当するので、当社は破産手続によることなく破産管財人に対し建物収去土地明渡しを求めることができます。破産管財人が任意に応じない場合には、破産管財人に対し訴訟を提起し、判決に基づく強制執行をすることが可能です。
本件では破産手続開始前に賃貸借契約は解除により終了しているので、原状回復費用請求権は破産債権に当たります。また、未納賃料債権及び賃貸借契約解除後の賃料相当損害金のうち破産手続開始決定前のものは破産債権に当たります。これらの破産債権は破産手続において債権届出を行い、配当を受けることにより回収を図ることになります。
他方、賃料相当損害金のうち破産手続開始決定後のものについては財団債権に当たり、破産管財人が土地を明け渡すまでの間、破産財団から随時に弁済を受けることができます。
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