Contract
神奈川、昭60不12、昭61.2.27
命 令 書
申立人 日本音楽家ユニオン
被申立人 有限会社 サンプロジェクト
主 文
被申立人は、申立人が昭和60年1月29日付けで申し入れた「A1ら楽団員の解雇問題」に関する団体交渉に誠実に応じなければならない。
理 由
第1 認定した事実
1 当事者
(1) 申立人日本音楽家ユニオン(以下「組合」という。)は、肩書地に事務所を置き、職業演奏家と音楽演奏業務に関連する労働者の社会的、経済的地位の向上を目的として、組合員数約6,000人(本件申立て時)を組織する個人加盟の労働組合である。
(2) 被申立人有限会社サンプロジェクト(以下「会社」という。)は、肩書地に事務所を置き、バー及びキャバレーの営業を行っている。
2 演奏契約の経緯
昭和52年8月頃、組合員A1(以下「A1」という。)ほか8名は、会社の所有するグランドキャバレー「ローレンス」(以下「ローレンス」という。)で楽団員を募集していると友人から聞き、その友人の紹介でxxxxxのB1店長、xxxxxにショーを入れていたプロダクションの営業部長のB2及び会社の従業員の前で、マンボ、スィングなどの各ジャンルにわけ、4曲ぐらい演奏テストを受けて合格し、昭和52年8月25日、会社と演奏契約を締結した。
3 演奏契約の内容
A1ほか8名が締結した演奏契約の内容は次のとおりである。
年 月 日
x 約 書
有限会社サンプロジェクトを甲とし記載の楽団名A1とリズムシャープ(リーダー名) A1と楽団員8名を乙として左の通り契約を締結する。
第1条 乙は甲の経営する(店名)グランドキャバレー・ローレンスに出演する。
(住所)xxxxxxxxx00-00
第2条 甲は乙に対し出演料として一ケ月金¥1,444,444円也(税込)を毎月16日と1日に現金にて支払うものとする。
第3条 オバータイム又はショーリハーサルは1時間(拘束1名につき)¥3,000円を(税込)支払うものとする。
第4条 パーティ、休日代替バンド費は1名につき¥6,000円(税込)を支払うものとす
る。
付記事項(その他の条件)
第5条 本契約はS.53年3月1日からS.54年2月28日迄とする。以後改定するに当っては双方協議する。
第6条 甲、乙はこの契約期間中であっても45日の予告期間を置いて甲、乙の合意に基づき本契約を解除することが出来る。
又、此の場合、契約違反によって生じた損害賠償は相手方に対し請求することが出来る。
第7条 乙は甲の営業時間19時30分より23時30分迄、出演するものとする。(但し、休憩時間をふくむ)
第8条 休日は、月1回とするものとする。
第9x xの指揮命令に基づいて乙は、楽団を編成し、出演する歌手及びフロアーショーの伴奏を行うものとし、その他リクエスト等の要望に対しては、誠意をもって努力するものとする。
第10条 楽団員の変更又は交代の必要が生じた場合、甲の営業に支障のない様に事前に甲、乙、協議決定をし、楽団員の代行に関しては甲の営業利益の為に音楽業務の性質上、甲、乙がxxxxに特別な合理的解決をするものとする。
第11条 乙は甲から借用する楽器を丁重に取扱うものとして、乙が故意又は、重大な過失により借用する楽器を損傷した場合は、甲、乙、協議・決定して実費を弁償するものとする。
第12x xは甲の営業上の機密に関しては契約中は勿論、契約満了後といえども他に漏洩しないものとする。
甲(会社、他)
xxxxxxxxx00xx00有限会社 サンプロジェクト代表取締役 B3
乙
xxx練馬区
A1 ㊞
契約を証する為本書二通を作成し、甲、乙記名捺印の上、各一通宛を所有するものとする。
社印
付記事項
一、本契約記載以外の事項及び疑義を生じる場合は甲、乙事時協議し決定する。
楽団員の氏名・住所録
氏 名 | ポジション | 住 所 | 出 演 賃 金 (税込・別) (含楽器使用料) |
A2 | 1.Sax | 世田谷区 | 166,666- |
A3 | 2.Sax | xx区 | 144,444- |
A4 | 3.Sax | xx市xx区 | 144,444- |
A5 | 1.Pet | xx区 | 177,777- |
A1 | 2.Pet | 練馬区 | 244,444- |
A6 | T.b. | 世田谷区 | 144,444- |
A7 | Bass | 横浜市戸塚区 | 122,222- |
A8 | Piano | 横浜市緑区 | 155,555- |
A9 | Dram | xx市幸区 | 144,444- |
前記契約書のとおり、その当事者は、会社を甲とし、A1ら9名を乙としており、その契約内容には、演奏の場所、出演料、演奏時間、休日などが指定され、またA1らは、会社の指揮命令に基づいて楽団(A1とリズムシャープ)を編成して、出演する歌手及びフロアショーの伴奏を行い、客のリクエスト等の要望に誠意をもって応ずる旨規定されている。
さらに、契約書の末尾には、楽団構成員の個人ごとにポジション、住所及び出演賃金が記載されている。
4 演奏契約の更改及び楽団員の交代
演奏契約の期間は、当初6か月間であったが、以後1年間となり、ほぼ同内容で昭和59年10月までxx支障なく更改されてきた。
楽団員の交代は、次のとおり届出によって行われた。
楽 団 員 交 代 届
B1店長 x
xx52年9月 日
楽 団 名 リズムシャープリーダー名 A1㊞
昭和52年10月15日付で当楽団の楽団員を契約書第10条において交代(又は変更)しますのでここにお届けをいたします。
記
1.氏 | 名 | A2 |
2.住 | 所 | 世田谷区 |
3.ポジション 1.Sax (経験)21年
4.出 演 賃 金(税別・込)
(含楽器使用料) ¥166,666円
5.交 代 事 由(具体的に書き入れて下さい)
坐骨神経痛ノ為
6.現在の楽員名 A10(ポジション)1.Sax
㊞
届出承認 支配人か担当営業部長
の署名もしくは承認印
この交代の届出は、前記契約書第10条に基づき、会社に氏名、住所、ポジション(経験年数)、出演賃金、交代事由などを届け出て、店長の承認を受ける形で行われた。
なお、本件契約当初からの構成員であるA1を除き、組合の組合員A2は、昭和52年10月15日、同A11は、昭和53年3月15日、同A12は、昭和56年10月1日、同A13は、昭和56年12月1日、同A14は、昭和57年8月16日、同A15は、昭和58年3月16日に前任者とそれ
ぞれ前記の方法により交代したものである。
5 演奏業務の実態
(1) 演奏等についての会社の指示
会社は、「のど自慢をやるから譜面を作れ」とか「アレンジをしてくれ」等の指示や、 B4専務がローレンスに赴任した昭和58年7月13日以後は、「ロック調の曲を演奏してくれ」とか「ギターを弾いてくれ」などとA1らに指示し、A1らは、ギターの件(楽団員には、ギターを弾ける者がいない。)を除き、これらの会社の指示に従ってきた。
(2) 楽団員のための会社の設備等
会社は、A1らのためにローレンス内に控室を設け、ロッカー、テーブル及び椅子を置いていたので、A1らは、この控室で着換えや休憩をしていた。なお、楽団員の制服については、楽団員が自ら購入していた。
(3) 時間の管理
会社は、楽団員の時間の管理について特にチェックを行っていなかったが、楽団員は、演奏時間の前までには各自ローレンスに来ていた。
(4) 出演料の支払い方法
会社は、楽団員への出演賃金を全員の分をとりまとめて、月1回バンドマスターのA1に手渡し、A1は、各楽団員に契約書末尾記載の各金額を手渡していた。
なお、楽団員の所得税は、会社が源泉徴収して税務署に納付していた。
6 楽団員の解雇と団体交渉
(1) 楽団員の解雇
会社は、昭和60年1月24日営業不振を理由にローレンスの模様がえを行いたいとして、 B4専務からA1らに店をやめてほしい旨伝えた。
A1らは、「急に言われても生活に困る。」としてこれを拒否したが、会社は、同年2月末日をもって全員を解雇した。
(2) 団体交渉の申入れ
A1らは、組合に加入していることを会社に告げることなく演奏業務に従事していたが、前記の事情から直ちに組合執行部と相談した結果昭和60年1月29日組合名で会社に対し「A1ら楽団員の解雇問題について」団体交渉の申入れを行った。
会社は、この申入れに対し、演奏契約は、バンドマスターであるA1と行っており、 A1を含め楽団員との間に労使関係がないのであるから、団体交渉には応じられないとして、この申入れを拒否した。
組合は、その後も同じ内容で同年2月12日及び同月25日にも重ねて団体交渉の申入れを行ったが、会社は、前記と同じ理由によって、いずれもこれを拒否した。
第2 判断及び法律上の根拠
1 当事者の主張
(1) 組合は、会社との契約書に記載のとおり、A1らは、出演場所、出演時間、演奏方法、休息時間などの指示を受けて業務に従事し、人員の交代は、契約書第10条に基づいて協議のうえ会社の承認を受けて行い、休日、所得税の処理なども会社の指示で行っている。賃金についても、楽団員全員の賃金総額をA1が受けていたものの、これは単に事務処理上の簡略化にほかならない。
また会社は、A1らが組合に加入していることを知らなかったと主張するが、少なくとも組合が、本件団体交渉を会社に申し入れた時点以後は、加入の事実を知ったのであるから、団体交渉拒否の正当理由とはならない。
以上のとおり、A1らは、会社の指示に基づき従属的な地位において演奏業務に従事してその対価を受けており、本件演奏業務が雇用契約に基づくものであったことは明らかであり、したがって会社の組合との団体交渉の拒否は、いずれも正当な理由がなく、労働組合法第7条第2号にいう団体交渉拒否に該当するものであることは明らかであると主張する。
(2) これに対し会社は、A1と演奏契約を締結し、演奏の内容や演奏料の分配について会社は一切関与しておらず、これらはすべてA1の一存で決定しうる事項であり、会社と各楽団員との間には何らの法律関係もない。A1以外の楽団員は、会社とA1との演奏契約の履行について、A1を補助する者にすぎない。
また会社は、A1らが組合に加入している事実について全く知らなかったのである。以上のとおり、会社は、A1以外の各楽団員とは何らの法律関係もなく、A1と会社 との契約は、前記で明らかなとおり雇用契約ではないのであるから、会社がA1らとの労使関係の存在を否認し、これを理由に団体交渉を拒否したことは正当であり、不当労働行為に該当しないのであるから、本件は棄却されるべきであると主張するので以下判
断する。
2 不当労働行為の成否
会社は、本件演奏契約が会社とA1との間に締結されたものであって、会社とA1以外の楽団員との間には、何らの法律関係もないのであるから、会社と楽団員の間には労使関係はないと主張する。そしてその裏付けとして出演料の総額が一括してA1に支払われ、その分配などについては、すべてA1の一存で決定しうる事項であるとする。
しかし、前記本件契約書では、会社の主張に反して本件契約の当事者は、会社とA1及び楽団員となっており、演奏場所、出演時間、休日及び楽団員の個人ごとの住所、ポジション、出演賃金などが記載され、特に第9条では、「甲(会社)の指揮命令に基づいて乙(A1ら楽団員)は、楽団を編成し、出演する歌手及びフロアーショーの伴奏を行うものとし、その他リクエスト等の要望に対しては、誠意をもって努力するものとする。」と規定されている。
また、その実態をみても、楽団員の交代、演奏等についての会社の指示など、ほぼ契約書記載のとおり演奏業務が実施されてきたことが認められる。
以上のとおり、出演料の支払い方法などに若干の疑問はあるものの、全体としてみれば、 A1らは、会社の指揮命令の下に従属的な立場で演奏業務に従事し、その対価として会社から出演賃金を受けていたものと認められ、会社とA1らとの間には使用従属関係があったと認めざるをえない。
さらに会社は、A1らが組合に加入していることを知らなかったと主張するが、前記認定のとおり昭和60年1月29日に組合が、「A1ら楽団員の解雇問題について」会社に団体交渉を申し入れた時点で、少なくともその加入の事実を知りえたはずであり、その後2回の団体交渉の申入れを拒否している事実からみても、会社の主張は、正当な理由とは認めがたい。
以上検討してきたとおり、A1らは、契約の内容及び業務の実態からみて、労働組合法第3条に定める労働者と認められ、彼らが加入する労働組合の申し入れた団体交渉を会社が拒否した事実に争いがなく、他方、会社の主張にはいずれも正当な理由がないのであるから、組合の申し入れた団体交渉を拒否した会社の行為は、労働組合法第7条第2号に定める団体交渉の拒否に該当するものと判断する。
よって当委員会は、労働組合法第27条及び労働委員会規則第43条の規定を適用し、主文のとおり命令する。
昭和61年2月27日
神奈川県地方労働委員会会長 x x x