Contract
第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
2 事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第12条の4において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。
Ⅰ 第1項
1 趣旨
契約条項に基づく事業者による消費者の義務の加重としては、消費者契約の解除等に伴い高額な損害賠償等を請求することを予定し、消費者に不当な金銭的負担を強いる場合がある。そこで、本項においては、消費者が不当な出捐を強いられることのないよう、事業者が消費者契約において、契約の解除の際又は契約に基づく金銭の支払義務を消費者が遅延した際の損害賠償額の予定又は違約金(以下「違約金等」という。)を定めた場合、その額が一定の限度を超えるときに、その限度を超える部分の契約条項は無効とされている。
2 条文の解釈
(1)第1号
民法第 420 条によると、当事者の合意により債務不履行による違約金等を定める
ことができる。本号は、契約の解除に伴う違約金等の定めがある場合において契約が解除されたときに、民法第 420 条の適用の如何にかかわらず、当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える額の支払を消費者に請求することができず、その超える部分を無効とするものである。なお、約定解除の場合の損害賠償の額に関しては、民法上の規定は存在しない。
① 「契約の解除に伴う」
「契約の解除に伴う」とは、約定解除権を行使するケース又は法定解除権を行使するケースを指す。本号は、たとえ消費者の責に帰すべき事由により事業者が解除権を行使する場合であっても、事業者は一定の金額を超える違約金等を請求することができないということが規定されている。
② 「損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が」
消費者契約において、契約の解除に伴う損害賠償額の予定と併せて、損害賠償とは趣旨が異なる違約罰的なものとして高額な違約金を定める場合があり得る。例えば、事業者が損害賠償の予定として3万円、違約金として2万円を定めており、当該事業者に生ずべき平均的な損害の額が4万円という事例では、損害賠償の予定と違約金は、それぞれ単独では平均的な損害の額である4万円を下回ることになるが、損害賠償の予定3万円と違約金2万円を合算した金額は5万円となり平均的な損害の額を超えることとなる。損害賠償額の予定と併せて違約金を定めた場合には、消費者に過大な義務を課されるおそれがあるため、両者を合算した額が事業者に生じる平均的な損害の額を超えてはならないこととする。
③ 「当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」
この「平均的な損害の額」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額という趣旨である。具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当該事業者に生ずべき損害の額の平均値を意味するものである。したがって、この額はあらかじめ消費者契約において算定することが可能なものである。これは、事業者には多数の事案について実際に生ずべき平均的な損害の賠償を受けさせれば足り、それ以上の賠償の請求を認める必要はないためである。また、この
「平均的な損害の額」は、当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生ずべき損害の額について、契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値であり、当該業種における業界の水準を指すものではない。
「解除の事由」とは具体的な解除原因を指す。解除に伴う違約金等については、事例9-1のように、具体的な解除原因によって解約手数料の額を区分している場合や、事例9-2のように解除の時期により区分している場合がある。また、売買
契約の場合には、解除により商品が返品されたか否かで区分している場合があり得る。「当該条項において設定された」とは、解除に伴う違約金等の区分の仕方は、業種や契約の特性により異なるものであるところ、「平均的な損害の額」であるかどうかの判断は当該契約条項で定められた区分ごとに判断するとの意味である。ただし、
「平均的な損害の額」の算定については、消費者側の「解除の事由」という要素により事業者に生ずべき損害の額が異なることは、一般的には考え難い。
〔事例9-1〕語学学校等の例
契約後、中途解約を希望される場合、下記の条件及び解約理由に設定された解約手数料をいただいた上で納入された受講料の残額をお返しいたします。
〔事例9-2〕標準旅行業約款(募集型企画旅行契約の部)(注)
(旅行者の解除権)
第 16 条 旅行者は、いつでも別表第一に定める取消料を当社に支払って募集型企画旅行契約を解除することができます。(以下略)
(別表第一)取消料(第 16 条第1項関係)
一 国内旅行に係る取消料
● 解除の事由・時期の具体例
解 除 理 由 | 解約手数料 |
本人の転居(転居先に当校がない場合、またあっても遠距離で通学が困難と当社が判断した場合)、本人の疾病・事故等(ただし2か月以上の入院)の場合 | 残余受講料の 20% (最高限度額2万円) |
上記以外の事由の場合で本人からの申出があった場合 | 残余受講料の 20% (最高限度額5万円) |
区 分 | 取消料 |
㈠ 次項以外の募集型企画旅行契約 | |
イ 旅行開始日の前日から起算してさかのぼって 20 日目(日帰り旅行にあっては 10 日目)に当たる日以降に解除する場合(ロからホまでに掲げる場合を除く。) | 旅行代金の 20%以内 |
ロ 旅行開始日の前日から起算してさかのぼって 7日目に当たる日以降に解除する場合(ハからホまでに掲げる場合を除く。) | 旅行代金の 30%以内 |
ハ 旅行開始日の前日に解除する場合 | 旅行代金の 40%以内 |
ニ 旅行開始当日に解除する場合(ホに掲げる場合を除く。) | 旅行代金の 50%以内 |
ホ 旅行開始後の解除又は無連絡不参加の場合 | 旅行代金の 100%以内 |
㈡ 貸切船舶を利用する募集型企画旅行契約 | 当該船舶に係る取消料の規定によります。 |
備考㈠ 取消料の金額は、契約書面に明示します。 |
(注)旅行業法第 12 条の2の規定によると、旅行業者は旅行業約款を定め観光庁長官の認可
を受けなければならないが、同法第 12 条の3の規定により観光庁長官及び消費者庁長官が定め公示した標準旅行業約款と同一の約款を定める場合には、認可を受けたものとみなされる。
(2)第2号
民法第 420 条によると、当事者の合意により債務不履行による違約金等を定めことができる。本号は、遅延損害金の利率の上限を年 14.6%とし、これよりも高い遅延損害金の利率が定められている場合に、民法第 420 条にかかわらず、年 14.6%を超える部分の契約条項が無効となり、年 14.6%を超える損害賠償又は違約金を消費者に請求することができないとするものである。
① 「当該消費者契約に基づき支払うべき金銭」
売買契約の目的物である商品の代金、役務提供契約における役務の対価、立替払契約における支払金等がこれに含まれる。
② 「消費者が支払期日までに支払わない場合における」
本号は、消費者が支払うべき金銭債務の支払遅延の場合の違約金等を対象とするものである。不正乗車の割増運賃のような支払期日以外の契約条項に違反したことによる違約金等は、本号の対象とはならない。
③ 「損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が」
本条第1項第1号の解説を参照のこと。
④ 「当該支払期日に支払うべき額」
金銭債務の支払期限に支払うこととされる金額を指す。複数回に分割して支払う場合は、それぞれの支払ごとの支払期限及び金額を指す。
⑤ 「年 14.6 パーセント」
上限は、消費者の損害賠償責任を、消費者が契約に基づく金銭債務の支払を遅延
することによって事業者に生ずべき平均的な損害の額にとどめる、という趣旨であるが、無効とすべき限度は、業種横断的に適用されるものとして、一定の妥当な水準に制限するという目的、市場取引の実情、民事上の債権に係る遅延損害金の上限を定める他の立法例を踏まえて設定されるべきものである。
具体的には、後記の立法例として、例えば、賃金の支払の確保等に関する法律第
6条第1項において、退職した労働者に対する未払賃金を支払う事業主の債務の遅延損害金の上限が年 14.6%となっていること等に加え、立法当時の取引の実情をみても、実際に世間で使用されている契約書では、かなりのものにおいて年 14.6%(日歩4銭)又は年 14.5%とされており、民事上の契約においては、遅延損害金の限度としてこの基準が一種の慣習として定着し、一般的に許容される限度として受け入れられている。その意味でこの水準は、実際の取引を混乱させるおそれがないものであって、遅延損害金の限度として妥当性のある利率であるものと考えられた。
⑥ 計算方法
年 14.6%は単利であり、当該条項が日・月等の単位で違約金等を定めているときは、これを年利に換算する。
(3)効果
第1項第1号に該当する契約条項があった場合には、平均的な損害の額を超える部分の契約条項が無効となり、事業者は平均的な損害の額の範囲内でしか消費者に違約金等を請求することができない。
第1項第2号に該当する契約条項があった場合には、年 14.6%を超える部分の契約条項が無効となり、事業者は年 14.6%の範囲内でしか消費者に違約金等を請求することができない。
3 第9条第1項関連の事例
(1)第1号関連の事例
〔事例9-3〕
契約後にキャンセルする場合には、以下の金額を解約料として申し受けます。
(結婚式場等の契約の例)
(A社の場合)
実際に使用される日から1年以上前の場合 契約金額の 80%
(B社の場合)
実際に使用される日の前日の場合 契約金額の 80%
〔考え方〕
例えば、A社のように、結婚式場を実際に使用するのが1年後であるにもかかわらず、契約金額の 80%を解約料として請求する場合には、通常は事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えると考えられるので、本号に該当し、平均的な損害
の額を超える部分の契約条項が無効となる。すなわち、1年前のキャンセルの場合の当該事業者に生ずべき平均的な損害の額が、仮に契約金額の5%だとすると、 80%との定めのうち 75%の部分の契約条項が無効となり、事業者は5%分しか請求できないこととなる。
しかし、B社の例のように、式の前日にキャンセルする場合には解約料として契約金額の 80%を請求しても、通常は平均的な損害の額を超えるとはいえず、この契約条項は無効とはならないと考えられる。
(2)第2号関連の事例
〔事例9-4〕
毎月の家賃(70,000 円)は、当月 20 日までに支払うものとする。前記期限を過ぎた場合には1か月の料金に対し年 30%の遅延損害金を支払うものとする。
〔考え方〕
本号に該当し年 14.6%を超える部分の契約条項が無効となる。
例えば、代金1か月分(70,000 円)を 180 日遅延した場合には、この契約条項どおりだと遅延損害金は、10,356 円(70,000×30%×180/365)となるが、本号の適用によると、5,040 円(70,000×14.6%×180/365)が上限となり、5,316 円について請求できないこととなる。
〔事例9-5〕電気供給約款の例
39 違約金
⑴ お客さまが 36(供給の停止)⑶ロからヘ(注)までに該当し、そのために料金の全部又は一部の支払を免れた場合には、当社は、その免れた金額の3倍に相当する金額を、違約金として申し受けます。
(注) 電気工作物の改変等によって不正に電気を使用された場合等。
〔考え方〕
この違約金は、金銭債務の支払遅延に対するものではなく、電気工作物の改変等によって不正に電気を使用された場合等に課されるものであるため、本号には該当しない。
● 第9条第1項第1号に関連する最高裁判決
【1】最二判平成 18 年 11 月 27 日(裁判集民 222 号 275 頁) | |
事件番号: | 平成 17 年(オ)第 886 号 |
事案概要: | 学校教育法所定の大学を設置するY(上告人)らが実施した入学試験 |
に合格してYらとの間で在学契約を締結し、入学時納入金を支払ったものの、その後、他大学に入学するために同契約を解除したと主張するX(被上告人)らが、Yらに対し、入学時納入金を返還しない旨の合意は無効であるとして、不当利得に基づき各納入金相当額及びこれに対する請求(本件訴状の送達)の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。
判示内容: | 消費者契約法2条3項に規定する消費者契約を対象として損害賠償 の予定等を定める条項の効力を制限する同法9条1号は、憲法 29 条に違反するものではない。 |
【2】最二判平成 18 年 11 月 27 日(民集 60 巻9号 3437 頁) | |
事件番号: | 平成 17 年(受)第 1158 号・平成 17 年(受)第 1159 号 |
事案概要: | Xら(第 1158 号事件被上告人・第 1159 号事件上告人)が、それぞ れ、Y大学(第 1158 号事件上告人・第 1159 号事件被上告人)への入学を辞退してY大学との間の在学契約を解除したなどとして、Y大学に対し、不当利得返還請求権に基づき、本件学生納付金相当額及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案であり、Y大学は、 Xらとの間に本件不返還特約が有効に存在することなどを主張して、Xらの各請求を争った。 |
判示内容: | ① 原告らは、本件入学金の納付により、大学に入学し得る地位又は学生たる地位を取得するなどしてその対価を享受したものであるから、その後に入学を辞退してもその返還を求めることはできない。 ② 平均的な損害及びこれを超える部分については、事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には、違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負うものと解すべき。 ③ 一人の学生が特定の大学と在学契約を締結した後に当該在学契約を解除した場合、その解除が当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものであれば、原則として、その解除によって当該大学に損害が生じたということはできない。 ④ 一般に、4月1日には、学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべきである。そうすると、在学契約の解除の意思表示がその前日である3月 31 日までにされた場合には、原則として、大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであって、不返還特約はすべて無効となり、在 学契約の解除の意思表示が同日よりも後にされた場合には、原則 |
として、学生が納付した授業料等及び諸会費等は、それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り、大学に生ずべき平均的な損害を超えず、不返還特約はすべて有効となるというべき。
【3】最二判平成 18 年 11 月 27 日(民集 60 巻9号 3597 頁) | |
事件番号: | 平成 17 年(受)第 1437 号・平成 17 年(受)第 1438 号 |
事案概要: | Xら(第 1437 号事件被上告人・第 1438 号事件上告人)が、それぞ れ、Y大学(第 1437 号事件上告人・第 1438 号事件被上告人)への入学を辞退してY大学との間の在学契約を解除したなどとして、Y大学に対し、不当利得返還請求権に基づき、本件学生納付金相当額及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案であり、Y大学は、 Xらとの間に本件不返還特約が有効に存在することなどを主張して、Xらの各請求を争った。 |
判示内容: | ① 上記判例【2】の判示内容と同旨 ② 要項等に、「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」、「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」などと記載されている場合には、当該大学は、学生の入学の意思の有無を入学式の出欠により最終的に確認し、入学式を無断で欠席した学生については入学しなかったものとして取り扱うこととしており、学生もこのような前提の下に行動しているものということができるから、入学式の日までに在学契約が解除されることや、入学式を無断で欠席することにより学生によって在学契約が黙示に解除されることがあることは、当該大学の予測の範囲内であり、入学式の日の翌日に、学生が当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されることになるものというべきであるから、入学式の日までに学生が明示又は黙示に在学契約を解除しても、原則として、当該大学に生ずべき平均的な損害は存しな いものというべき。 |
【4】最二判平成 18 年 11 月 27 日(裁判集民 222 号 511 頁) | |
事件番号: | 平成 18 年(受)第 1130 号 |
事案概要: | X(上告人)が、Y(被上告人)大学への入学を辞退して本件在学契約を解除したなどとして、Y大学に対し、不当利得返還請求権に基づき、本件学生納付金相当額から返還済みの本件後援会費相当額を控除した残額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案であ り、Y大学は、Xとの間に本件不返還特約が有効に存在することなど |
を主張して、Xの請求を争った。
※Xの母が平成 16 年3月 26 日にY大学に電話をかけた際、電話に応対したXx 学の職員が、Xの母に対し、授業料の返還を受けるための入学辞退届は同月 25 日必着で提出しなければならない旨及び入学式に出席しなければ入学辞退として取り扱う旨述べた。 | |
判示内容: | ① 上記判例【2】の判示内容と同旨 ② 被上告人大学の職員の上告人の母に対する上記発言により、上告人は、既に入学辞退を決めていたのに、その手続を3月 31 日まで執らずに4月2日の入学式に欠席することにより済まそうとしたものと推認され、結果的に上告人において同年3月 31 日までに本件在学契約を解除する機会を失わせたものというべきであるから、被上告人大学において、本件在学契約が同年4月1日以降に解除されたことを理由に、本件不返還特約が有効である旨主張し て本件授業料の返還を拒むことは許されないものというべき。 |
【5】最二判平成 18 年 12 月 22 日(裁判集民 222 号 721 頁) | |
事件番号: | 平成 17(受)第 1762 号 |
事案概要: | X(上告人)が、Y(被上告人)学校(いわゆる鍼灸学校)への入学を辞退してY学校との間の在学契約を解除したなどとして、Y学校に対し、不当利得返還請求権に基づき、本件学生納付金等相当額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案であり、Y学校は、Xとの間に本件不返還特約が有効に存在することなどを主張して、Xの請求を争った。 |
判示内容: | ① 被上告人学校の入学試験の合格者と被上告人学校との間で締結される在学契約の性質、上記合格者が入学手続の際に被上告人学校に対して納付する学生納付金(入学金及び授業料等)の性質及びその不返還特約の性質及び効力等については、いずれも大学における場合と基本的に異なるところはなく、大学についての当裁判所の判例(最高裁平成 17 年(受)第 1158 号、第 1159 号同 18 年 11 月 27 日第二小法廷判決・裁判所時報 1424 号 11 頁※等)の説示が基本的に妥当するものというべき。 ② 大学の場合と同じく、入学すべき年の3月 31 日までは、被上告人学校と在学契約を締結した学生が被上告人学校に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるような状況にはなく、同日までの在学契約の解除について被上告人学校に生ずべき平均的な損害は存しない。 ※前記【4】 |
【6】最三判平成 22 年3月 30 日(裁判集民 233 号 353 頁) | |
事件番号: | 平成 21 年(受)第 1232 号 |
事案概要: | Y(上告人)の設置する大学の推薦入学試験に合格したX(被上告人)が、入学を辞退して在学契約を解除したなどと主張して、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、納付済みの授業料等相当額の返還を求めた事案。 ※学生募集要項に、一般入学試験等の補欠者につき、4月7日までに通知がない場合に不合格となる旨の記載がある。推薦入学試験の合格者については、いわゆる専願等を資格要件とするものではなく、学生納付金の納付期限から他大学 医学部の一般入学試験日まで相当の期間がある。 |
判示内容: | ① 上記判例【2】の判示内容③及び④と同旨 ② 学生募集要項の上記の記載は、一般入学試験等の補欠者とされた者について4月7日までにその合否が決定することを述べたにすぎず、推薦入学試験の合格者として在学契約を締結し学生としての身分を取得した者について、その最終的な入学意思の確認を4月7日まで留保する趣旨のものとは解されない。 ③ 専願等を資格要件としない推薦入学試験の合格者について特に、一般入学試験等の合格者と異なり4月1日以降に在学契約が解除されることを当該大学において織り込み済みであると解すべき理 由はない。 |
● 第9条第1項第2号関連の立法例
金銭債務の支払を遅延した場合における遅延損害金の利率を年 14.6%としている規定の例としては以下のようなものがある。
中小企業倒産防止共済法(昭和 52 年法律第 84 号)
(共済金の貸付けの条件等)第 10 条
3 機構は、共済金の貸付けを受けた者が共済金をその償還期日までに償還しなかつたときは、その者に対し、その延滞した額につき年 14.6 パーセントの割合で償還期日の翌日から償還の日の前日までの日数によつて計算した額の範囲内において、違約金を納付させることができる。
(一時貸付金の貸付け)第 10 条の2
5 機構は、一時貸付金の貸付けを受けた者が一時貸付金をその償還期日までに償還しなかつたときは、その者に対し、その延滞した額につき年 14.6 パーセントの割合で償還期日の翌日から償還の日の前日までの日数によつて計算した額の範囲内において、違約金を納付させることができる。
(割増金)
第 16 条 機構は、共済契約者が掛金をその納付期限までに納付しなかつたときは、その者に対し、その延滞した額につき年 14.6 パーセントの割合で納付期限の翌日から納付の日の前日までの日数によつて計算した額の範囲内において、割増金を納付させることができる。
賃金の支払の確保等に関する法律(昭和 51 年法律第 34 号)
(退職労働者の賃金に係る遅延利息)
第6条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあっては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年 14.6 パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
(注)年 14.6%(政令第1条)
建設業法(昭和 24 年法律第 100 号)
(特定建設業者の下請代金の支払期日等)第 24 条の6
4 特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となつた下請契約に係る下請代金を第1項の規定により定められた支払期日又は第2項の支払期日までに支払わなければならない。当該特定建設業者がその支払をしなかつたときは、当該特定建設業者は、下請負人に対して、第 24 条の
4第2項の申出の日から起算して 50 日を経過した日から当該下請代金の支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に国土交通省令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
(注)年 14.6%(省令第 14 条)
Ⅱ 第2項
1 趣旨
消費者契約の解除等に伴う違約金等については、契約解除時に消費者の関心事項となるものである。しかし、令和4年通常国会改正前は、監督規制等がない場合等契約解除時の情報提供については事業者にxxの規定が設けられておらず、事業者から消費者に対して、十分な情報提供がなされていないことがあった。その結果、違約金が発生することが契約条項に明記されていたとしても、違約金額が妥当なものであることについて事業者から十分な説明がないため、消費者が判断できずに紛争が発展することがあった。また、令和4年通常国会改正前は、監督規制等がない場合等において、違約金等を定めた契約条項に基づき損害賠償又は違約金を請求する際に違約金等について何ら説明をする必要がないため、高額な違約金等を設定して不当に利益を収受している事業者も存在していたと考えられる。
そこで令和4年通常国会改正により、消費者と事業者との間に生じている情報の量及び質並びに交渉力の格差を解消するため、消費者からの求めに応じて、事業者に対して違約金等の算定の根拠の概要について説明する努力義務を規定したものである。本項は、契約締結後であっても、事業者が努力義務を負う場合があるこ
とを定めるものである(第3条第1項第4号の解説も参照のこと)。
2 条文の解釈
本項は、事業者が違約金等を定めた契約条項に基づき違約金等を請求する場合において消費者からの求めに応じて、事業者に違約金等の算定の根拠の概要について説明する努力義務を課すものである。
① 「消費者契約の解除に伴う」
本条第1項第1号の解説を参照のこと。
② 「損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」
本条第1項第1号の解説を参照のこと。
③ 「損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは」
違約金等について説明が必要となる場面については、①違約金等がトラブルとなりやすいのは実際に事業者が消費者に対して違約金等を定めた契約条項に基づき違約金等を請求する場面であること、②消費者が違約金等について事業者に対して説明を求めていない場合にまで事業者に義務を課す必要がないことを踏まえて、「損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたとき」に説明する努力義務を規定したものである。なお、事業者が違約金等を定める契約条項に基づき消費者から受領した契約の対価の返還を拒み、違約金等として当該対価の全部又は一部を収受するような事例についても、事業者が消費者に対して違約金等を請求して違約金等を受領した状態といえるため、「損害賠償又は違約金の支払を請求する場合」に含まれる。
④ 「損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠の概要」
「損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠」とは、違約金等を事業者が設定するに当たって考慮した事項、当該事項を考慮した理由、使用した算定式、金額が適正と考えた根拠など違約金等を設定した合理的な理由を意味している。違約金等を設定するに当たって考慮した事項としては、例えば、消費者契約における商品、権利、役務等の対価、解除の時期、消費者契約の代替可能性、費用の回復可能性など違約金等に影響を与える事項をいう。また、事業者に求められる説明は算定の根拠の概要であるため、費用などの具体的な数字についてまでは説明する必要はなく、違約金等の設定に当たり考慮された費用項目などを説明することで足りる。
⑤ 「説明するよう努めなければならない」
本項は努力義務であるので、本項に規定する義務違反を理由として意思表示の取消しや損害賠償責任といった私法的効力が直ちに生ずるものではない。
● 算定の根拠の概要の説明の具体例
〔事例9-6〕結婚式場利用契約の例
挙式1か月前に契約を解除された場合は、見積額×35%のキャンセル料を頂戴いたします。
〔考え方〕
「当社の結婚式では会場の装飾品の仕入れや司会者等の人員の手配を挙式本番の1か月前で通常は完了させており、挙式が中止になっても当該費用が発生します。そのため、当該人件費等を含めてキャンセル料を設定しています。」等と回答すれば、算定の根拠の概要を説明していることとなり努力義務を履行したこととなる。
〔事例9-7〕コンサートチケットの例
(コンサート鑑賞をキャンセルして)チケットの払戻しを受ける場合には、解約手数料として 100 円かかります。
〔考え方〕
「チケットは転売防止のために購入者の氏名を入力して印刷しており、当該チケットの印刷費やシステムにキャンセルを入力する人件費等が損害として発生しており、当該費用は 100 円を超えることは明らかである。そのため、解約手数料
として 100 円を設定している。」等と回答すれば努力義務を履行したこととなる。
●「平均的な損害の額」の立証
「平均的な損害の額」について、最高裁(上述の本条第1項第1号に関連する最高裁判決【2】)は、事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には、消費者が立証責任を負うものと判断した。しかし、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」はその事業者に固有の事情であり、立証のために必要な資料は主として事業者が保有していることから、裁判や消費生活相談において、消費者による
「平均的な損害の額」の立証が困難な場合もあると考えられる。
そこで、本条第2項において消費者に対して違約金等の算定の根拠の概要を、
また第 12 条の4第2項において適格消費者団体に対して違約金等の算定根拠を事業者が説明する努力義務を規定し、違約金等を定める際に考慮した事項や算定式などの情報を提供することとしている。事業者から提供された違約金等を定める際に考慮した事項や算定式などの情報を用いることにより、消費者や適格消費者団体は当該情報を用いて平均的な損害の額を算定しやすくなり立証責任の負担軽減につながると考えられる。
また、第3条第1項第2号は、事業者と消費者との間に情報・交渉力の格差があることを踏まえ、消費者の理解を深めるため、事業者の努力義務として、消費者契約の締結について勧誘をするに際して、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を消費者に提供することを定めている。その趣旨に照らすと、消費者契約の締結について勧誘する際も違約金等に関する内容が消費者にとって当該契約を締結するのに必要な情報に該当する場合は、事業者は消費者に対して違約金等の算定の根拠の概要や「平均的な損害の額」についての情報を提供するよう努めなければならないと解される(注1)。
なお、本条第1項第1号における「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」に関しては、事業者が、違約金等を定める契約条項を定める際に、あらかじめ「平均的な損害の額」を十分算定していれば、紛争が生じた場合でも、算定根拠を示した説明も容易となり、違約金等を巡るトラブルも回避できるものと考えられる
(注2)。また、本条第2項により違約金等の算定の根拠の概要について説明する努力義務が規定されている趣旨に照らせば、事業者においては、違約金等を定めるに際しては、合理的な根拠を持って「平均的な損害の額」を算定しておくことが期待されている。
(注1)民事訴訟法において、営業秘密等、文書の所持者がその提出を拒絶することができる事由があるとされるような場合(同法第 220 条第4号ハ)まで、その対象に含まれるという趣旨ではない。
(注2)内閣府消費者委員会消費者契約法専門委員会報告書(平成 29 年8月)9頁。