Contract
◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆
三為契約における融資特約の主体が、契約書上の買主か、最終購入者かの判断で争われた事例
(東京地裁 令和4年2月7日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
X(原告)は、転売を目的として、Y(被告、xx業者)との間で、土地建物(本件不動産)の売買契約(本契約)を以下のとおり締結した。
[売買契約概要]
・契約日 平成30年4月24日
・売買代金 2億1500万円
・手付金 800万円
・残代金支払い及び引渡 同年5月31日
・融資特約 買主は、契約締結後速やかに、融資のために必要な書類を揃え、その申込手続をしなければならず、契約解除期限までに、融資の全部若しくは一部について承認が得られないと、又は、金融機関の審査中に契約解除期限が経過したときは、本件契約は自動的に解除となる。
・契約解除期限 平成30年5月22日
・第三者のためにする特約 売主及び買主は、本件契約が第三者のためにする特約を付した売買契約として締結されるものであることを確認する。買主は、売買代金全額の支払までに本件物件の所有権の移転先となる者を指定するものとし、売主は、買主の指定した者に対し、本件物件の所有権を直接移転するものとする。
Xは、本契約と同日付でA(転売先業者)と本件不動産について、売買価格を2億4000万円とする売買契約(本件転売契約)を締結した。Aが本契約に定める融資特約の契約解除期限までに融資承認を受けたので、XはYに契約履行の準備ができたとして、決済の申し入れを求めたが、Yは、X自身が融資特約による契約解除期限までに融資承認を得ていないから本契約は自動的に解除されたとして、第三者B(不動産業者)に本物件を売却し、所有権移転登記を行った。
Xは、Aに違約金として4800万円を支払い、Yが本件契約を不当に破棄したと主張して、Yに対し、債務不履行(履行不能)に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、Xの請求を認容した。
(1)本件契約が融資特約に基づき解除されたか否か
Xは、本件契約の際に、融資特約に定められた融資の申込みを自らする意思はなく、融資を受ける主体をAとする前提で本件契約を締結したと認められる。また、本件契約の媒介業者Dのメール等により、本契約締結前に、Yは、XおよびAと面談していることが認められる。また、Aは、本件契約に先立ち融資申請をしていること、本件契約の日にYに対して本件契約の手付金を支払っていることなど、一貫して本件物件の最終買受人となる前提の行動をしていた。この点に加え、Aが融資を受けるに当たり、金融機関の担当者による本件建物の内覧が必要となること、本件契約が、YからAに直接所有権を移転させる第三者のためにする特約を含むものであることを併せ考慮すると、XやAが、本件契約前に、Yに対し、XがAに本件物件を転売する予定であることを伝えなかったとは、考え難い。
したがって、Yは、本件契約の際、Aが本件物件の最終買受人となることを認識していたと認められる。さらに、最終買受人ではないXに融資を受ける必要性が乏しいことも踏まえると、Yは、本件契約の際、XではなくAが融資を受ける予定であることについても認識していたと考えるのが合理的である。
このように、融資特約は、融資を受ける主体をAとする前提で合意されたものと解されるところ、Aは、契約解除期限までに、融資特約において定められた額を超える融資の承認を受けたことが認められる。したがって、本件契約が、融資特約に基づき自動的に解除されたとは認められない。
(2) Xの損害の有無及び額
Xが、Yに対し、Aが融資承認を受けたことを前提に、本件契約の履行を求めたのに対し、Yは、これを履行する意思がないことを明確にしたことが認められる。その後、Yが本件物件をBに売却して、同社に対する所有権移転登記手続をしたことも踏まえると、本件契約に基づくYの債務は、Yの帰責事由により履行不能になったと認められる。
Xは、Aに対し、転売契約に基づく違約金4800万円を支払っているところ、かかる違約金の支払は、本件契約が履行不能となったことにより生じたXの損害であると認められる。
また、本件契約における代金が2億1500万円であり、転売契約における代金が2億4000万円であったことに照らすと、本件契約の履行不能により、Xに、少なくとも2400万円の逸失利益が生じたと認められる。
したがって、Yの債務不履行(履行不能)により、Xに、7200万円の損害が生じたことが認められる。
3 まとめ
本事案では、いわゆる三為契約における融資特約の主体が最終買受人であることを売主が認識していたとの認定に基づき、売買契約が融資特約によって自動解除されたとする売主の主張が否定されました。本契約書において、第三者のための特約を定める際に、融資申込の主体についても明確に記載していれば、争いにならなかったとも考えられます。融資特約に限らず、可能な限り不明瞭な内容を残さず契約書等に明記しておくことが紛争防止のために重要です。
なお、本事例では、Yの債務不履行による損害額として、転売契約が履行不能になったことによって転売先に支払わざるを得なくなった違約金相当額(=信頼利益)だけでなく、転売契約が締結され、転売価格も確定していたことから、その差額についても逸失利益(=履行利益)として損害が認容されており、参考になる事例です。(なお、本事例は、その後、Yが控訴し、控訴審の審理の過程で、YがXに和解金として、5300万円を支払うとの和解が成立しています。)
(一財)不動産適正取引推進機構 2023.8.1配信
RETIO メルマガ 第201号から転載