Contract
各 位
会 社 名 | 株 式 会 社 か ん ぽ 生 命 保 険 | |
代 表 者 名 | 取締役兼代表執行役社長 | xx xx |
(コード番号:7181 東証第一部) |
「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」からの報告について
株式会社かんぽ生命保険(xxxxxx区、取締役兼代表執行役社長 xxxx)は、日本郵政株式会社(xxxxxx区、取締役兼代表執行役社長 xxxx)及び日本郵便株式会社(xxxxxx区、代表取締役社長兼執行役員社長 xxxx)とともに、「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会(委員長:xxxx弁護士)」から調査報告書を受領いたしましたので、公表します。
以上
日本郵政株式会社 御中日本郵便株式会社 御中
株式会社かんぽ生命保険 御中
調査報告書
2019 年12 月18 日
かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会 | |
委 員 長 | 弁護士 x x x x |
委 員 | 弁護士 寺 𦚰𦚰 一 峰 |
委 員 | 弁護士 x x x x |
目次
3 日本郵便支社長及びかんぽ生命エリア本部長経験者に対するアンケート調査 5
4 ウェブサイトに設けた専用の情報提供窓口を利用した情報提供者からの情報収集 5
5 関係資料(かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の関係部署及び関係者から提出を受けた書面及び電子データ)の精査 6
3 かんぽ生命保険商品の個人向け募集に係る営業目標の設定及び配算過程 31
4 かんぽ生命保険商品に係る営業推進管理体制及び募集品質管理体制 32
6 かんぽ生命の保険商品の申込関係書類審査及び引受手続 39
9 かんぽ生命保険商品に係る保険募集人に対する主な研修や研究会の概要 45
5 不祥事件又は不祥事故の発生後のかんぽ生命及び日本郵便における報告体制 59
9 不祥事件・不祥事故非該当事案(無効・合意解除事案等)の処理等に関する分析 62
第 7 本契約問題発覚前までの不適正募集の防止に向けたかんぽ生命及び日本郵便の取組みと評
3 転換制度及び条件付解約制度が導入されなかった経緯等 70
2 金融庁から報告徴求を受けた後の日本郵政グループの対応等 75
第5 その他不適正募集に関連する当委員会による調査及び分析 89
1 不適正募集を自ら行ったことがあると回答した者の割合 89
2 不適正募集を職場で見聞きしたことがあると回答した者の割合 90
6 不適正募集に当たって不適切な話法や手法が用いられていたこと 93
7 保険募集人の間で、不適正募集の勧誘方法等が伝播した機会 94
8 不適正募集を行う販売実績の比較的高い層の者に対して募集品質に係る実効的指導が行われなかったこと 97
9 保険募集人による不適正募集の動機 98
第4 編 原因分析 102
第1 不適正募集の発生につながる直接的な原因 102
1 保険募集人の一部には、モラルに欠け、顧客第一の意識やコンプライアンス意識が低く、顧客の利益よりも自己の個人的な利得等を優先する者が存在していたこと。それにもかかわらず、このような不適正募集のリスクの高い保険募集人に対して、実効的な研修や教育、指導に関する取組みを組織的に行ってこなかったこと 102
2 郵便局等の営業目標達成のために、高実績者である保険募集人に依存せざるを得ない状況の中で、上司等が募集品質に問題がある保険募集人を厚遇してきたため、販売実績を上げる手段として不適正募集が黙認されるという風潮が形成され、不適切な勧誘の話法を含めた不適正募集の手法が各地に伝播していったこと 103
3 高実績者ではない保険募集人についても、自身の所属する郵便局等の営業目標達成を理由に、顧客に不利益を与える乗換契約を含めた不適正募集を行うことが正当化される風潮が形成されていたこと 103
4 販売実績を上げるための自主的な勉強会等を含め、不適正募集の手法が共有される機会が存在していたにもかかわらず、これに対する適切な対応が講じられてこなかったこと
104
第2 不適正募集を助長した要因 104
1 営業目標必達主義を背景とした、厳しい営業推進管理が行われていたこと 104
2 新規契約の獲得に対する直接的なインセンティブを付与する募集手当など、新規契約獲得に偏った手当等の体系となっていたこと 105
3 営業目標の設定及び配算の結果、一部の保険募集人に対して実力に見合わない営業目標が課されていたこと 105
4 かんぽ生命の貯蓄性保険商品の販売が困難となりつつある中で、保有契約数の底打ち・反転のために、高齢者を主な顧客層とする経営目標の設定と実現に向けた営業推進管理体制自体が不適正募集を助長したこと 106
5 不適正募集の疑いが生じた保険募集人に対して、徹底的な調査とこれを踏まえた厳しい不祥事件・不祥事故判定や処分等が行われてこなかったこと 106
第3 不適正募集を防止できなかった構造的要因 107
1 不適正募集を抑止する態勢の整備が不十分であったこと 107
2 顧客に不利益を与える乗換契約等の不適正募集の実態が長期間にわたって把握されてこなかったこと 108
第4 乗換契約に関する特有の原因 109
1 条件付解約制度及び契約転換制度等が導入されていなかったこと 110
2 乗換契約の募集に係る社内ルールに不明確な点があったため、形骸化や潜脱を招き、適切な運用がなされていなかったこと 110
3 他の類型の不適正募集の抑止を優先し、乗換契約における不適正募集への抜本的な対策が遅れたこと 110
第5 その他の構造的要因 110
第5 編 かんぽ生命保険商品の募集に係るコンプライアンス・リスク管理態勢の問題点 112
第1 日本郵政グループのコンプライアンス態勢 112
1 xxxxxxxxx・xxxxxxxxxx 000
0 xxxxxxxxxxxxxxxx 000
0 xx郵便のコンプライアンス態勢 113
第2 リスク管理の枠組みに関する考え方 113
第3 かんぽ生命保険商品の募集に係るコンプライアンス・リスク管理態勢の実態と問題点114
1 事業部門である郵便局の募集現場における不適正募集の防止に向けた管理態勢が不十分であったこと 114
2 管理部門による牽制が不十分であったこと 117
3 内部監査部門による検証も不十分であったこと 119
4 事業子会社のコンプライアンス・リスクに関する情報が、日本郵政に適時にもたらされる態勢が構築されていなかったこと 122
5 日本郵政グループにおいて不適正募集に係る情報を現場から吸い上げる内部通報制度が機能していなかったこと 124
第6 編 日本郵政グループのガバナンスの問題点 126
第1 日本郵政グループのガバナンスの在り方 126
第2 かんぽ生命のガバナンスに係る問題点 127
1 リスク感度の低さに起因し、リスク事象を探知した際、xxxxの追究と抜本解決を先延ばしにし、問題を矮小化する組織風土であったこと 127
2 縦割り意識に起因する部門間の連携不足と情報伝達の目詰まりが生じていたこと 128
3 社外取締役等の外部人材の知見を十分に活用できていないこと 130
第3 日本郵便のガバナンスに係る問題点 130
1 重層的な組織構造の中で、郵便局の現場で発生している不適正募集の実態の把握ができていなかったこと 130
2 日本郵便において、金融コンプライアンスの要請に適切に対応する体制が構築されていなかったこと 131
3 コンプライアンスを狭義の法令遵守と捉え、顧客本位の観点から、かんぽ生命の保険募集に求められる対応がなされていなかったこと 132
4 社外取締役等の外部人材の知見を十分に活用できていないこと 132
第4 日本郵政のガバナンスに係る問題点 133
第7 編 日本郵政グループの本契約問題に対する改善への取組み状況 136
1 不適正募集防止に向けた共通の改善策 136
2 乗換契約の募集に関する改善策 136
3 高齢者募集に関する改善策 136
4 多数契約募集に関する改善策 136
5 苦情等の調査の強化 137
6 グループ会社間の連携強化 137
第8 編 当委員会による改善策の提言 138
第1 募集状況の可視化(録音録画) 138
第 2 不適正募集のリスクがある契約をシステムにより営業のフロントで簡易に検知できるる仕
組みの整備 138
第3 新規契約の獲得に偏った手当及び人事評価の体系の見直し 138
第4 不適正募集を行った保険募集人及び管理者に対する処分の徹底 139
第5 募集コンプライアンスに特化した通報制度の設置と通報内容の定期報告 139
第 6 責任部署と実施時期を明記した具体的改善策とその実施計画を策定し、外部専門家により構成された第三者検証機関のモニタリング等を受けながら、その進捗状況を適時に各社の取締
役会に報告し、定期的に公表すること 140
第7 その他の改善策の提言 140
1 売上・利益重視の経営から真に「顧客本位の業務運営」を実行する組織への改革 140
2 乗換契約の取扱いに係るルールの明確化 141
3 時代や環境の変化に対応できるビジネスモデルへの転換と保障性商品の営業スキルの向上 141
4 かんぽ生命保険商品の個人向け募集における販売チャネルを郵便局に依存する構造の解消 141
5 営業の実力に見合った営業目標の設定と配算方法の見直し 142
6 グループ間及び全社的な人事交流の拡大 142
7 顧客本位の保険募集を実現するための研修・教育の充実化 143
第9 編 アドバイザーの助言及び見解 144
1 本契約問題の原因及び背景事情 144
2 本契約問題に対する改善策 145
3 高齢者募集の抑制 146
4 不適正募集を発生させた郵便局におけるかんぽ生命保険商品の取扱い禁止 146
第10 編 結語 147
はじめに
かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会(以下「当委員会」という。)は、本年7 月24 日に設置され、同日から調査を続けてきたが、本日、その調査結果を取りまとめた報告書を、依頼者である日本郵政株式会社、日本郵便株式会社及び株式会社かんぽ生命保険に提出した。
今回の調査の対象となった個人向けのかんぽ生命保険商品は、引受保険会社である株式会社かんぽ生命保険が日本郵便株式会社に保険募集を委託し、全国各地の郵便局員によって販売されたものである。
かんぽ生命保険の名称は、1916 年 10 月に始まり、その後、全国の郵便局で一斉に募集を開始した簡易生命保険事業に由来する。2007 年 10 月の郵政民営化実施に伴い、株式会社かんぽ生命保険の保険商品は、それまでの簡易生命保険のような政府保証等はなくなり、他の民間生命保険会社の保険商品と全く同様のものとなったが、引き続き多くの国民から申込みを受けてきた。
他方、郵便局の中心的事業である郵便事業は、1871 年に創業され、翌 1872 年 7 月には全
国的に実施されるようになった。また、郵便貯金事業は1875 年5 月から始まり、その後に加わった簡易生命保険事業と共に、これら3 事業を中心とする国営郵便局における各種業務は、xxxないしxxx半近くにわたり、国民生活に欠かせない重要なインフラとして社会に貢献してきた。この郵便局に対する信頼こそが、株式会社かんぽ生命保険となってからも多数の顧客を集めることができた最大の要因であることに間違いはなかろう。
今回のかんぽ生命保険商品に係る不適正募集問題は、xxにわたる先人たちのxxとxによって築き上げられた郵便局への篤い信頼を失墜させる重大事である。民営化が進んでいるとはいえ、3 事業会社の持株会社である日本郵政株式会社の発行済株式のうち 3 分の 2 近くは政府が保有しており、今もなお日本郵政グループの持つ組織、事業、資産等の総体は、国民全体の財産と言うことができる。また、全国津々浦々で数多くの国民が生活や経済活動を営む上で不可欠な、わが国の根幹をなす社会的基盤の一つでもある。
今、その「国民の財産」、「国民のインフラ」が重大かつ深刻な危機を迎えており、このまま手をこまねいていることはできない。また、捉えようによっては、郵政グループ各社が大改革を遂げ、これまでに勝るとも劣らない優れた財産を後世に引き継ぐことができる、まさに好機と言うこともできよう。
当委員会は、今回の事態をこのように重く受け止め、できるだけ本件の実態解明に努め、その原因を分析し、改善策について検討を重ねるなどした。その上で、改善策については、拙速な、いわば弥縫策に満足することなく、募集状況の可視化(録音録画)等、国民が見て直ぐに分かるような抜本的な対策を、責任部署と時期を明確にした工程表に基づいて数年内に確実に実施すること、かつ、その進捗状況等を検証する第三者機関を設置することなど、相当ハードルの高い提言をした。個々の顧客の立場や心情に思いを致せば、生半可な対策で済まされるはずがないのは当然であり、また、そのような大改革を遂げない限り、信頼の回復はあり得ないからである。
なお、今回の調査については、不適正募集問題の原因分析及び改善策の提言に必要な調査はおおむね終了したものの、株式会社かんぽ生命保険が行ってきた特定事案調査等は完結していない。そのため、当委員会は、日本郵政株式会社、日本郵便株式会社及び株式会社かんぽ生命保険の依頼を受け、本報告書提出後も、引き続き、①特定事案調査及び全契約調査の検証及び分析、②①に必要な範囲での特定事案等を受理した保険募集人に対する個別的調査及び③不適正募集問題に係るグループ各社の経営陣の認識等を含めた事実経緯などの調査を行い、2019 年度末を目途に、当該調査を終える予定であることを付言する。
第1 編 本調査の概要
本報告書は、株式会社かんぽ生命保険(以下「かんぽ生命」という。)、日本郵便株式会社
(以下「日本郵便」という。)及び両社の持株会社である日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)の設置した当委員会が実施した調査(以下「本調査」という。)の結果について報告を行うものである。
第1 本調査の経緯
当委員会は、2019 年7 月24 日、上記3 社の取締役会決議を経て設置され1、同日調査に着手し、同年12 月15 日まで、調査を実施した。
本調査の結果を報告するための基準日(以下「基準日」という。)は、2019 年 12 月 15 日であり、本報告書は、基準日までの間に判明した事項に基づき、本調査の結果をとりまとめたものである。2
第2 当委員会の構成
当委員会は、下記3 人の委員で構成されている。
委員長 xxxx(xxxxx法律事務所 弁護士)委員 xxxxx(xxx法律事務所 弁護士)
委員 xxxx(xxxx法律事務所・外国法共同事業 弁護士)
いずれの委員も日本郵政、日本郵便及びかんぽ生命のいずれとも利害関係を有していない。当委員会は、本調査を実施するに当たり、xxxx法律事務所・外国法共同事業に所属す
る、いずれも上記3 社と利害関係を有しない弁護士25 人を調査補助者として従事させた(以下、調査補助者である弁護士を「調査補助弁護士」という。)。
なお、調査補助弁護士は、xxxx法律事務所・外国法共同事業に所属するxxxx(総括担当)、xxx(顧問)、xxxxx、xxxxx、xxxx、xxxxx、xxxx、xxxx、xxxx、xxxx、xxxx、xxxx、xxxx、xxxxx、xxx、xxx、xxxx、xxxx、xxxx、xxx、xxx、xxx、xxxx、xxxx、xxxxである。
また、当委員会は、本調査を実施するに当たり、上記3 社と利害関係を有さず、かつ、生命保険業の経営及び実務等に精通し、卓越した専門的知見を有するxxxxx(現立命館ア
1 xxxxx://xxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxxx/xxx/00000000.xxx xxxxx://xxx.xx-xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxx/00000000xxxx-0-0.xxx
xxxxx://xxx.xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxx/0000/00_xxxxxx/0000_00.xxxx
2 後述の契約調査の結果については、本調査基準日と一部異なっている。
ジア太平洋大学学長)3をアドバイザーとして選任し、2019 年10 月以降、定期的に助言を得てきた。
当委員会は、本調査の独立性及び客観性を確保するため、日本弁護士連合会策定の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の趣旨を踏まえ、本調査を実施した。
第3 本調査の目的及び対象範囲等
本調査の目的は、かんぽ生命保険商品の募集に関し、乗換契約等によって顧客に不利益が生じた問題(以下「本契約問題」という。)について、かんぽ生命による事実確認、すなわち後述の「契約調査」の範囲・方法等の妥当性を検証するとともに、その調査結果を分析・検討し、併せて、独自にその他の不適正な募集に関する事実関係についても検討を行い、本契約問題等の実態を明らかにした上で、その原因を究明し、さらに、再発防止策を提言することにある。4
なお、当委員会は、本契約問題は、金融コンプライアンス違反の問題と捉え、ここでいう
「コンプライアンス」には保険業法等の法令を遵守することのみならず、社会規範や顧客等のステークホルダーからの合理的な期待に応じる姿勢や取組みも含むものとして理解している5。
この観点から、当委員会は、顧客に不利益を与える形態の保険募集は法令違反に該当しなくとも、「不適正募集」に該当するという考え方に立ち、顧客に不利益が生じた不適正な乗換契約に係る問題を中心としつつも、高齢者を対象とした、意向把握・確認等が必ずしも十分とはいえない形態による募集活動(以下「高齢者募集」という。)や、同一人に対し、経済合理性の乏しい多数の保険契約を締結させる形態の募集活動(以下「多数契約募集」という。)などの不適正とされる募集活動(以下「不適正募集」という。)についても必要な範囲で検討を加えた。
第4 本調査の方法及び期間等
当委員会は、基本的に、かんぽ生命保険商品の契約に係る書類等の保存期間である 2014
3 xxxx氏の略歴は以下のとおりである。
1972 年 日本生命保険相互会社に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任
2005 年 東京大学総長室アドバイザー
2007 年 早稲田大学大学院講師
2008 年 ライフネット生命保険株式会社を開業、代表取締役社長に就任
2010 年 慶應義塾大学講師
2013 年 ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長に就任
2017 年 ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長を退任
2018 年1 月 立命館アジア太平洋大学学長に就任(現在に至る)
4 当委員会の役割として、本契約問題に係る役職員等の責任の有無等を明らかにすることは含まれておらず、本報告書ではこの点について言及していない。
5 2019 年 6 月 28 日付け経済産業省策定に係る「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」
(グループガイドライン)65 頁の注53 参照
年4 月から2019 年3 月までの期間を対象とし、以下の調査を実施した。
1 ヒアリングの実施
当委員会は、日本郵政グループの役職員その他の関係者合計649 人に対してヒアリングを実施した。この内訳は、以下のとおりである。
①かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の執行役・執行役員以上の役員 71 人
②①を除く、かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の本社又は支社等の役職員 395 人
③郵便局員である生命保険募集人及び生命保険募集人経験者等 161 人(以下「募集人ヒアリング」という。)
④かんぽ生命の保険商品の顧客又はその家族等の関係者6(以下「顧客等」という。) 10 人
⑤生命保険会社における実務経験を有する外部協力者及び保険法等の研究者等 12 人
2 募集人アンケート
当委員会は、本契約問題を含む不適正募集の動機及び背景・原因を多角的に分析・検討するため、保険募集人としてかんぽ生命保険商品の募集業務に従事している日本郵便の社員 8
万 9,483 人(渉外社員 1 万 5,458 人、窓口社員 7 万 4,025 人)を対象とし、2019 年 10 月 24日から同年11 月20 日までの間、ウェブサイト上での選択式(一部自由記述あり)によるアンケート調査(以下「募集人アンケート」という。)を実施した。これに対し、合計3 万8,839人からの回答を受け(回答率約43%)7、この内容を分析した。
3 日本郵便支社長及びかんぽ生命エリア本部長経験者に対するアンケート調査
当委員会は、本契約問題に関して、全国13 か所に所在する日本郵便支社及びかんぽ生命エリア本部における実態把握の参考にするため、2017 年度及び 2018 年度当時に在籍した日本郵便支社長合計15 人及びエリア本部長経験者合計15 人(1 人を除き29 人回答)に対し、質問事項を記載したアンケートによる回答を要請する方法により、アンケート調査を実施し、この回答を分析した。
4 ウェブサイトに設けた専用の情報提供窓口を利用した情報提供者からの情報収集
当委員会は、本契約問題に係る情報を広く募ることを目的として、ウェブサイト上
(xxxxx://xxxxxx-xxxx.xx/)に情報提供窓口を設置し、かんぽ生命保険商品の顧客等及び日本郵政グループ3 社(かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政)の役職員等から寄せられた情報(合計128 件)を分析した。
6 顧客等から情報提供窓口を経由又は書面送付等による情報提供を受けた場合、本調査に資する範囲で顧客等に対して電話によるヒアリングを実施した。
7 募集人アンケートでは、対象者における渉外社員と窓口社員の比率と、回答者における渉外社員と窓口社員との比率とは、おおむね同じであった。そのため、当委員会としては、募集人アンケートの母集団の傾向は、募集人全体の母集団の傾向と同様であると考える。
5 関係資料(かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の関係部署及び関係者から提出を受けた書面及び電子データ)の精査
第5 本調査の結果の要旨
当委員会による本調査の結果の要旨は以下のとおりである。
1 事実関係
(1) 特定事案調査等の進捗状況
2014 年4 月から2019 年3 月までの5 年間に受理した特定事案に該当する契約の総数は約
18.3 万件(契約者数約15.6 万人)であるが、本年12 月13 日現在、うち約14.8 万件(契約者数約12.8 万人。上記契約者総数の約82%。本年9 月30 日の中間報告時点9では約6.8 万件)について顧客からの意向確認が終了し、そのうちの1 万2,836 件10(中間報告時点では6,327件)については、顧客の申告どおりであれば法令又は社内規則に違反する疑いが認められた
(以下、かかる事案を「違反疑い事案」という。)。この「違反疑い事案」に関与した募集人
(以下「関与募集人」という。)の数は、現在、かんぽ生命において確認中である(中間報告時点では、5,797 人)。
かんぽ生命では、「違反疑い事案」に関与した募集人4,213 人(関与件数 4,527 件)について募集人調査を行い、法令違反ないし社内規則違反の有無を判定した結果、2019 年12 月15日現在で、法令違反と認められた事案(不祥事件)が48 件、社内規則違反と認められた事案
(不祥事故)が622 件であった。
(2) 判明した事実
当委員会では、まず、どのような募集人が「違反疑い事案」に関与したかを中心に分析・検討することを試みた。
分析の対象は、不祥事件・不祥事故に該当するものではなく、顧客の申告どおりであれば法令又は社内規則に違反する疑いのある「違反疑い事案」とした。これは単なる「疑い」の段階のもので、その後の募集人調査の結果、法令違反ないし社内規則違反と認定される件は限られるが、顧客が当該契約に不満を抱き、その旨の申告をしたことに間違いはなく、不適
8 デジタル・フォレンジックとは、不正や不祥事案の調査を行う際、コンピュータやサーバ内部に保存されたデータ、あるいは関係者間で送受信されたメールを調査対象として実施される電磁的記録の調査・分析に関する一連の調査手法・技術である。一般に、事案の全容把握と原因究明、類似不正及びその他の不正の有無を確認するためにデジタル・フォレンジックが用いられる。
9 2019 年9 月27 日時点での数値である。
10 2019 年12 月15 日現在の数値である。
正募集全体の原因や対策を検討するには、対象をある程度広めにした方がよいと考えたからである。
また、分析の対象にした件数は、特定事案調査の進捗等の事情から、中間報告時に把握されたものとしたが、数的には現段階で把握しているものの半数程度に達しており、また、後述するその他の調査結果と照らし合わせても、整合性が認められることから、十分に価値があるものと判断した。
ア 「違反疑い事案」の数は、年平均1,265 件(年平均新規契約件数の約0.06%であり、最終的にも、その2 倍程度と思われる。
この5 年間の新規契約件数は合計約1,067 万件(5 年平均約213.4 万件)であるところ、特定事案の件数は合計約 18.3 万件(5 年平均約 3.7 万件)であり、そのうち顧客の意向確認が終了した件数は約6.8 万件で、その結果、「違反疑い事案」とされたものは6,327 件(年平均 1,265 件)であった。
イ 「違反疑い事案」の関与募集人は、募集人全体の数%である。
「違反疑い事案」に関与した募集人の数は、(各年度における重複を除いて算出すると)5,797人であり、かんぽ生命保険商品の募集実績のある全体人数(約8 万9,000 人から約9 万3,000人)の約1.1%(1,007 人)から約2.4%(2,155 人)、5 年平均では約1.7%(1,530 人)である。
ウ 「違反疑い事案」を受理した郵便局数は、全体の約9%である。
募集人の受け付けたかんぽ生命保険商品は、募集人の在籍する各郵便局で受理した扱いとされるところ、「違反疑い事案」の受理局数は1,841 局であり、郵便局総数約2 万局(簡易郵便局を除く。)のうちの約9%に当たる。
エ 「違反疑い事案」(6,327 件)のうち、渉外社員である募集人が関与した件数の割合は、
5 年平均で約87%(5,507 件)であり、窓口社員の割合は約13%(820 件)である。
全募集人(5 年平均で約9.1 万人)に占める渉外社員の割合は、5 年平均で約18%(約1.6万人)であり、窓口社員の割合は約82%(約 7.5 万人)である。つまり、全募集人の中の約 18%に当たる渉外社員が「違反疑い事案」の約87%に関与しているということである。
オ 「違反疑い事案」のうち、販売実績が「優秀」とされる募集人11が関与した件数の割合は、約26%(1,641 件)である。
販売実績が「優秀」とされる募集人は、5 年平均で募集人全体の約 1.4%(1,287 人)であり、新規契約全体のうちの約8.9%に当たる合計約95 万件(年平均約19 万件)の募集に関与
11 年間販売実績 500 万円以上の渉外社員と年間販売実績 200 万円以上の窓口社員であり、この販売実績額以上の実績である保険募集人は、最高優績者を含む成績トップ層のものとして扱われている。
しているが、全募集人の中の約1.4%にすぎない販売実績「優秀」者が、「違反疑い事案」の 4 分の1 以上に関与しているということである。
カ 「違反疑い事案」に関与した同一募集人の関与件数は、少ない者は1 件(4,003 人)で、多い者は22 件(1 人)であるが、1 件から3 件までの人数が9 割以上を占め、3 件から5 件までの人数を加えると全体の約97%を占める。なお、6 件以上に関与した募集人は約3%である。
キ 「違反疑い事案」である契約に加入した顧客の 1 人当たりの加入件数は、1 件から5 件であったが、1 件の顧客が約 97.3%、2 件の顧客が約 2.3%であり、この合計で約 99.6%を占めている。
ク 「違反疑い事案」である契約に加入した顧客の加入年代は、10 代から 90 代にわたっているが、最も多いのが60 代(約 32%)であり、60 代、70 代(約 30%)、80 代(約 10%)、 90 代(約0.1%)の合計が7 割以上を占めている。
ケ 「違反疑い事案」である契約に加入した顧客の性別は、女性が約85%、男性が約15%である。
(3) 募集人アンケートの結果
乗換契約の募集に限定せず、高齢者募集及び多数契約募集を含む不適正募集全般について調査を実施した結果、以下の事実が判明した(なお、募集人アンケートでは、不適正募集を行ったことがあるか否か、見聞きしたことがあるか等を質問するに当たり、期間を限定していないため、5 年間を対象期間とする特定事案調査による数字と単純に比較することはできない。)。
ア 全般
(ア) 不適正募集を自ら行ったことがあると回答した者の割合は、1 割以下であった
① 高齢者募集:約6%(約2,100 人)
② 多数契約募集
・「多額契約」12:約3%(約1,200 人)
12 例えば、保険料の総額が顧客の支払能力を超えるなどの多数の保険契約を締結させる形態の募集をいう。
13 契約者が同一で、被保険者を変更する多数の保険契約を締結させる形態の募集をいう。
14 不適正な高齢者募集、多額契約、乗換契約に関して自由記載欄でお客さまのご意向である旨説明を加えた者の人数は、それぞれ約50 人、約30 人、約10 人から約40 人であったが、「ヒホガエ」を自ら
③ 乗換契約:約8%(約3,000 人)
(イ) 不適正募集を職場で見聞きしたことがあると回答した者の割合は、半数程度であった
① 高齢者募集:約43%(約1 万6,600 人)
② 多数契約募集
・「多額契約」:約47%(約1 万8,300 人)
・「ヒホガエ」:約44%(約1 万7,100 人)
③ 乗換契約:約55%(約2 万1,300 人)
イ 渉外社員と窓口社員の別
回答者全体に占める割合は、渉外社員が約2 割、窓口社員が約8 割であるのに対し、不適正募集を自ら行ったことがあると回答した者に占める割合は、渉外社員が約53%、窓口社員が約47%であり、渉外社員の方が高かった。
ウ 販売実績等との関連性
回答者全体に占める割合は、多数回受彰者、すなわち販売実績の比較的高い層の者が約 1割、それ以外の者が約9 割であるのに対し、不適正募集を自ら行ったことがあると回答した者に占める割合は、販売実績の比較的高い層である多数回受彰者が約2 割、それ以外の者が約8 割であった。
(4) 募集人が不適正募集を行う動機
ア 募集人全般で見た場合、個人又は班や局の営業目標の達成が、不適正募集を行う一つの動機として募集人に影響を与えていることがうかがわれるものの、営業目標達成への動機付けは、募集人の属性によって異なる。
イ 渉外社員と窓口社員を比較した場合、営業目標達成への動機付けについて、厳しい指導等を回避することを挙げている点は共通するが、これ以外に、渉外社員は営業手当等による高い収入を得ることへの意識が強く、窓口社員は、所属組織や上司等に迷惑をかけることを回避することへの意識が強いという傾向が見られる。
ウ 営業目標達成への動機付けとして、販売実績が比較的高い層の募集人とそうでない募集人に共通するのは所属組織や上司等に迷惑をかけることを回避することである。異なる点は、販売実績が比較的高い層の募集人は、営業手当等により高い収入を得ることや、選奨その他のインセンティブへの意識が強いのに対し、そうでない募集人については、厳しい指導等を受けるのを回避するという意識が強いという傾向が見られる。
行ったことがあると回答した者(3,969 人)のうち約500 人が、自由記載欄でお客さまのご意向である旨説明を加えている。
2 原因分析
(1) 不適正募集の発生につながる直接的な原因
ア 保険募集人の一部には、モラルに欠け、顧客第一の意識やコンプライアンス意識が低く、顧客の利益よりも自己の個人的な利得等を優先する者が存在していたこと。それにもかかわらず、このような不適正募集のリスクの高い保険募集人に対して、実効的な研修や教育、指導に関する取組みを組織的に行ってこなかったこと
イ 郵便局等の営業目標達成のために、高実績者である保険募集人に依存せざるを得ない状況の中で、上司等が募集品質に問題がある保険募集人を厚遇してきたため、販売実績を上げる手段として不適正募集が黙認されるという風潮が形成され、不適切な勧誘の話法を含めた不適正募集の手法が各地に伝播していったこと
ウ 高実績者ではない保険募集人についても、自身の所属する郵便局等の営業目標達成を理由に、顧客に不利益を与える乗換契約を含めた不適正募集を行うことが正当化される風潮が形成されていたこと
エ 販売実績を上げるための自主的な勉強会等を含め、不適正募集の手法が共有される機会が存在していたにもかかわらず、これに対する適切な対応が講じられてこなかったこと
(2) 不適正募集を助長した要因
ア 営業目標必達主義を背景とした、厳しい営業推進管理が行われていたこと
イ 新規契約の獲得に対する直接的なインセンティブを付与する募集手当など、新規契約獲得に偏った手当等の体系となっていたこと
ウ 営業目標の設定及び配算の結果、一部の保険募集人に対して達成困難な営業目標が課されていたこと
エ かんぽ生命の貯蓄性保険商品の販売が困難となりつつある中で、保有契約数の底打ち・反転のために、高齢者を主な顧客層とする経営目標の設定と実現に向けた営業推進管理体制自体が不適正募集を助長したこと
オ 不適正募集の疑いが生じた保険募集人に対して、徹底的な調査とこれを踏まえた厳しい不祥事件・不祥事故判定や処分等が行われてこなかったこと
(ア) 保険募集人の自認への過度の依存した事実認定を行っていたこと
(イ) 保険募集人や管理者に厳しい処分等の制裁が課されていなかったこと
(3) 不適正募集を防止できなかった構造的要因
ア 不適正募集を抑止する態勢の整備が不十分であったこと
(ア) 申込関係書類審査の手続や引受手続に不適正募集を防止するための手続や仕組みが組み込まれていなかったこと
(イ) 不適正な乗換契約を含め、顧客に不利益を生じさせるおそれのある保険募集を未然に防止するためのツールとしての契約者情報等の管理システムの機能が不十分であったこと (ウ) 不適正募集に係る社内ルールに不備があり、潜脱を招いたこと
(エ) 製販分離体制の下で、委託元保険会社であるかんぽ生命による委託先代理店である日本郵便に対するコンプライアンス上の統制が脆弱であったこと
イ 顧客に不利益を与える乗換契約等の不適正募集の実態が長期間にわたって把握されてこなかったこと
(ア) 顧客の苦情等を含め不適正募集の疑いに係るリスク情報がもたらされても、リスク感度の低さに起因し、これらの情報が問題点等の発見に活かされず、矮小化された結果、問題の抜本解決がなされず、実態把握の遅れにつながったこと
(イ) かんぽ生命保険商品の募集に係るコンプライアンス・リスク管理態勢に不十分な点があり、顧客に不利益を与える乗換契約等の不適正募集の兆候を発見できなかったこと
(ウ) 顧客に不利益を与える乗換契約等を含め、不適正募集の実態把握につながる現場の声が経営層に届かない組織風土であったこと
(4) 乗換契約に関する特有の原因
ア 条件付き解約制度及び契約転換制度等が導入されてこなかったこと
イ 乗換契約の募集に係る社内ルールに不明確な点があったため、形骸化や潜脱を招き、適切な運用がなされていなかったこと
ウ 高齢者募集や多数契約募集など他の類型への対策が優先されたため、不適正な乗換契約への抜本的な対策が遅れたこと
(5) かんぽ生命保険の募集に係るコンプライアンス・リスク管理態勢の問題点
ア 事業部門である郵便局の募集現場における不適正募集の防止に向けた管理態勢が不十分であったこと
イ 管理部門による牽制が不十分であったこと
ウ 内部監査部門による検証も不十分であったこと
エ 事業子会社のコンプライアンス・リスクに関する情報が、日本郵政に適時にもたらされる態勢が構築されていなかったこと
(6) 日本郵政グループのガバナンスに係る問題点ア かんぽ生命のガバナンスに係る問題点
(ア) リスク感度の低さに起因し、リスク事象を探知した際、xxxxx追究と抜本解決を先延ばしにし、問題を矮小化する組織風土であったこと
(イ) 縦割り意識に起因する部門間の連携不足と情報伝達の目詰まりが生じていたこと
イ 日本郵便のガバナンスの問題点
(ア) 重層的な組織構造の中で、郵便局の現場で発生している不適正募集の実態の把握ができていなかったこと
(イ) 日本郵便において、金融コンプライアンスの要請に適切に対応する体制が構築されていなかったこと
(ウ) コンプライアンスを狭義の法令違反と捉える、顧客本位の観点から、かんぽ生命の保険募集に求められる対応がなされていなかったこと
ウ 日本郵政のガバナンスの問題点
(ア) 持株会社としての日本郵政が果たすべき役割やグループガバナンスの在り方について、全役員のコンセンサスが得られていなかったこと
(イ) グループの企業価値を毀損するおそれのある情報の共有等に関するルールが明確でなかったことなどから、不適正募集の実態に関する情報が不足していたため、必要な対策を講じることができなかったこと
3 主な具体的改善策の提言
(1) 募集状況の可視化(録音録画)
(2) 不適正募集のリスクがある契約をシステムにより営業のフロントで簡易に検知できる仕組みの整備
(3) 新規契約の獲得に偏った手当及び人事評価の体系の見直し
(4) 不適正募集を行った保険募集人及び管理者に対する処分の徹底
ア 顧客に重大な不利益が生じている悪質事案について外部専門家の協力を得て、事案の徹底解明を図る態勢の構築
イ 保険募集人の自認に依存しない不祥事件及び不祥事故の適正な判定と第三者による定期検証
ウ 不適正募集を発生させた保険募集人の管理者に対する処分の厳格化
エ 不祥事件又は不祥事故の判定ができなかったとしても、かんぽ生命が一定の基準に基づいて、適格性を欠く保険募集人の募集停止を可能とする制度の導入
オ 不適正募集を行った保険募集人に対する管理者等によるモニタリングの厳格化
(5) 募集コンプライアンスに特化した通報制度の設置と通報内容の各社取締役会等への定期報告
(6) 責任部署と実施時期を明記した改善策等を策定し、外部専門家で構成された第三者機関のモニタリング等を受けながら、定期的に、その進捗状況を適時に各社の取締役会等に報告し、かつ、公表すること
なお、当委員会としては、上記の改善策については、郵政グループ各社において、早急にこれを具体化し、おおよそ3 年間で全て完了させることを目途に実施すべきである、と考える。
4 その他の改善策
(1) 売上・利益重視の経営から真に「顧客本位の業務運営」を実行する組織への改革
(2) 乗換契約の取扱いに係るルールの明確化
(3) 時代や環境の変化に対応できるビジネスモデルへの転換と保障性商品の営業スキルの向上
(4) かんぽ生命における個人向け保険商品の販売チャネルを郵便局に依存する構造の解消
(5) 営業の実力に見合った営業目標の設定と配算方法の見直し
(6) グループ間及び全社的な人事交流の拡大
(7) 顧客本位の保険募集を実現するための研修・教育の充実化
以上が本調査全体の概要である。
以後、第2 編で「本契約問題の前提となる事実」、第3 編で「特定事案調査等の検証・分析、その他の調査等の結果明らかとなった事実」、第4 編で「顧客に不利益を生じさせた乗換契約募集を含む不適正募集事案が発生した原因」、第5 編で「かんぽ生命の保険商品の募集に係るコンプライアンス・リスク管理態勢の問題点」、第6 編で「日本郵政グループのガバナンスの問題点」、第7 編で「日本郵政グループの本契約問題に対する改善への取組み状況」、第8 編で「当委員会の改善策の提言」を述べることとする。
第2 編 本契約問題の前提となる事実
ここでは、まず、本契約問題の原因や改善策等を検討するための前提となる事実について述べる。
第1 日本郵政グループの概要
1 沿革
日本郵政は、2006 年1 月、郵政民営化法及び日本郵政株式会社法に基づき、郵便事業株式会社及び郵便局株式会社の発行済株式の総数を保有し、これらの経営管理及び業務の支援を行うことを目的とする株式会社として設立された。同年9 月には、日本郵政の全額出資により、株式会社ゆうちょ(現:株式会社ゆうちょ銀行)及び株式会社かんぽ(現:株式会社かんぽ生命保険)が設立された。2007 年 10 月、郵政民営化(郵政民営化関連 6 法の施行)に伴い日本郵政公社が解散し、その業務は、日本郵政、郵便事業株式会社、郵便局株式会社、株式会社ゆうちょ銀行(以下「ゆうちょ銀行」という。)及びかんぽ生命へとそれぞれ引き継がれた。また、郵政民営化前の簡易生命保険の管理に関する業務は、独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構(以下「郵政管理・支援機構」という。)に引き継がれた。
これにより、日本郵政を持株会社とし、郵便事業株式会社、郵便局株式会社、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命を中心とした日本郵政グループが発足した。
2012 年 10 月、郵政民営化法等の一部を改正する等の法律の施行に伴い、郵便局株式会社は日本郵便株式会社に商号を変更するとともに、郵便事業株式会社を吸収合併し、日本郵便が発足した。これにより、日本郵政グループは5 社体制から4 社体制へと再編された。また、郵政民営化法等の一部改正により、下記4 記載のとおりユニバーサルサービスの範囲が拡充され、これまでの郵便サービスのみならず、貯金、保険の基本的なサービスを郵便局で一体的に利用できる仕組みが確保された。
郵政民営化に伴い、日本郵政の設立当初は、政府が日本郵政の発行した全株式を保有していたが、2011 年11 月30 日に成立した東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法に基づき、復興債の償還費用の財源を確保するため、日本郵政の経営状況、収益の見通しその他の事情を勘案しつつ処分の在り方を検討し、その結果に基づいて、できる限り早期に処分することとされた。これを受けて、2015 年 11 月及び2017 年9 月の二度にわたる売出し、並びに日本郵政による自己株式の取得に応じて売却した結果、政府が保有する日本郵政の株式の割合は発行済株式総数の56.87%(自己株式を除いた所有株式数の割合は63.29%)となった。
また、日本郵政が保有するゆうちょ銀行及びかんぽ生命(以下「金融2 社」ともいう。)の株式については、その全部を処分することを目指し、金融2 社の経営状況、ユニバーサルサービス確保の責務の履行への影響を勘案しつつ、できる限り早期に処分することとされてい
なお、政府による日本郵政の株式の売出し・上場に合わせ、金融2 社の株式についても、同時に売出し・上場を行うこととされ、2015 年11 月4 日、日本郵政及び金融2 社は東京証券取引所市場第一部に同時上場した。
2 コーポレートガバナンス体制等
日本郵政グループは、日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命(このうち、日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命を、以下「事業子会社」という。)を中心に構成される。
日本郵政は、2019 年 9 月 30 日現在、持株会社として、日本郵便の全株式、ゆうちょ銀行株式の88.99%、かんぽ生命株式の64.48%をそれぞれ保有している。
日本郵政及び事業子会社に係る企業情報は以下のとおりである(2019 年9 月30 日時点)。
資本金 (百万円) | 純資産額(百万円) | 総資産額(百万円) | 従業員数(人) | |
日本郵政 | 3,500,000 | 8,104,239 | 8,327,559 | 2,184 |
日本郵便 | 400,000 | 656,912 | 4,431,225 | 199,614 |
ゆうちょ銀行 | 3,500,000 | 11,645,930 | 213,122,963 | 12,908 |
かんぽ生命保険 | 500,000 | 2,238,300 | 73,036,599 | 7,879 |
(1) 日本郵政
日本郵政は、指名委員会等設置会社であり16、取締役会は、社外取締役9 人を含む15 人で構成され、経営の基本方針等、法令で定められた事項のほか、特に重要な業務執行に関する事項等を決定するとともに、取締役及び執行役の職務の執行の監督等を行うものとされている。取締役兼代表執行役は、xxxxx(取締役兼代表執行役社長・2016 年4 月就任)及びxxxxx(取締役兼代表執行役上級副社長・2015 年6 月就任)である。
xxx以前の歴代の日本郵政の代表執行役社長は、xxxxx(2007 年10 月から2009 年
15 郵政民営化法の成立当初は、2017 年9 月30 日までにその全部を処分することが義務づけられていたが、2012 年の郵政民営化法等の改正により、処分に関する義務が修正された。日本郵政は、2015 年11月の上場後もかんぽ生命の議決権の 89.0%を保有していたが、2019 年 4 月に実施されたかんぽ生命株式の売出により、日本郵政のかんぽ生命に対する議決権比率は64.48%となった。
16 日本郵政が指名委員会等設置会社を選択した理由は、以下のとおりとされている。
1.経営の基本方針の策定等の重要な意思決定及び監督とその決定に基づく業務執行とを分離し、経営の機動性を高めるとともに、取締役会によるグループの経営監督体制を構築する。
2.独立役員を中心とした取締役会並びに指名委員会、報酬委員会及び監査委員会の3委員会の機能発揮により、社外の視点を経営に十分に活用するとともに、経営の意思決定の透明性及びxx性を確保する。
3.すべてのステークホルダーのみなさまに対して、適切に説明責任を果たし得るコーポレートガバナンス体制を実現する。
11 月)、xxxxx(2009 年10 月から2012 年12 月)、xxxx(2012 年12 月から2013 年
6 月)、xxxxx(2013 年6 月から2016 年3 月)である。
日本郵政の代表執行役社長は、業務執行に関する迅速な意思決定を行い、取締役会がその状況を適切に監督するものとされる。また、社外取締役が過半数を占める指名委員会、報酬委員会及び監査委員会が設置され、このうち、監査委員会は社外取締役 4 人を含む取締役 5
人(常勤1 人)で構成され、取締役及び執行役の職務執行の監査等を行っている。
経営会議は、執行役社長の諮問機関として設置され、執行役社長が指定する執行役で構成されており、取締役会決議事項、執行役社長の権限事項等の協議を行うほか、グループの重要な経営状況等の報告を行うものとされている。
なお、日本郵政は、グループ運営態勢について、事業子会社各社とグループ協定等を締結し、グループ共通の理念、方針、その他のグループ運営に係る基本的事項について合意しており、これによりグループ各社が相互に連携・協力し、シナジー効果を発揮する体制を構築している。さらに、グループ全体に重大な影響を与える事項や経営の透明度確保に必要な事項について、日本郵政が個別の承認・協議又は報告を求めることにより、グループ・ガバナンスを確保している。また、日本郵政グループ協定に基づき、効率的かつ効果的なグループ運営を推進するため、グループ経営に関する重要事項を課題ごとに議論し、グループの経営陣の認識を共有する場としてグループ運営会議を設置している。
(2) 日本郵便
日本郵便は、監査役会設置会社であり、取締役会は、社外取締役6 人を含む12 人で構成される。代表取締役は、xxxxx(代表取締役社長兼執行役員社長・2016 年6 月就任)及びxxxxx(代表取締役副社長兼執行役員上級副社長)である。xx氏以前の歴代の日本郵便の代表取締役社長は、xxxxx(2012 年10 月から2013 年6 月)、xxxx(2013 年6
月から2016 年6 月。現取締役会長)である。
日本郵便は、迅速な意思決定及び業務執行を目的として執行役員制度を導入し、その執行役員の一部をもって構成する経営会議を設置し、経営上の重要事項について協議している。監査役会は、社外監査役3 人を含む監査役4 人で構成され、そのうち常勤監査役は2 人で
ある。
(3) かんぽ生命
かんぽ生命は、指名委員会等設置会社であり17、取締役会は、社外取締役7 人を含む10 人で構成され、経営の基本方針、執行役の職務分掌及び内部統制システムの構築に係る基本方針等を決定し、執行役の職務の執行を監督する権限を有する。
代表執行役社長は、植平光xx(取締役兼代表執行役社長・2017 年6 月就任)である。
17 意思決定の迅速化と経営の透明性の向上を図るため、指名委員会等設置会社としており、経営を監督する取締役会と業務を執行する執行役とでその役割を分離し、会社経営に関する責任の明確にしているものとされている。
植平氏以前の歴代のかんぽ生命の代表執行役社長はxxxx(2007 年10 月から2012 年6
月)、xxxxx(2012 年6 月から2017 年6 月)である。
取締役会から業務執行の執行権限を委譲された執行役が、迅速な意思決定を行う体制を取っており、取締役会の決議により執行役に委任された事項のうち、経営上の重要事項は、代表執行役社長と各業務を担当する執行役で構成される経営会議で協議した上で、代表執行役社長が決定している。
また、かんぽ生命は、指名委員会、監査委員会及び報酬委員会の3 つの委員会を設置しているが、このうち、監査委員会は、社外取締役4 人(常勤1 人)で構成され、取締役及び執行役の職務執行の監査等を行っている。
3 事業の概要
日本郵政の事業子会社が営む業務は、主に、①郵便・物流事業、②金融窓口事業、③銀行業、④生命保険業、⑤その他事業から構成され、このうち、本契約問題に関係するのは、②金融窓口事業と④生命保険業である。
②の金融窓口事業とは,郵便・物流事業に係る窓口業務、銀行窓口業務等、保険窓口業務等、物販事業、不動産事業、提携金融サービスその他の業務である。銀行窓口業務等では、日本郵便が、ゆうちょ銀行から委託を受け、通常貯金、定額貯金、定期貯金、送金・決済サービスの取扱い、公的年金などの支払、国債や投資信託の窓口販売などを行っている。また、保険窓口業務等では、日本郵便が、かんぽ生命から委託を受け、生命保険の募集、保険金の支払やその他の保険事務の代行などを行っている。
金融窓口事業は、営業拠点として全国に設置した日本郵便直営の郵便局(2019 年 9 月 30日現在2 万0,156 局(内、営業中は2 万0,070 局))及び同社から業務を受託した個人又は法人が運営する簡易郵便局(2019 年9 月30 日現在4,213 局(内、営業中は3,860 局))において提供される。ただし、銀行代理業務等に係る委託契約を締結し銀行窓口業務等を提供する郵便局は3,847 局(内、営業中は3,831 局)、生命保険募集委託契約を締結し保険窓口業務等を提供する郵便局は558 局(内、営業中は556 局)である。
他方、④の生命保険業として、かんぽ生命は、保険業法に基づく免許又は認可を受けて、保険の引受け及び有価証券投資、貸付等の資産運用業務を行っている。なお、かんぽ生命が営む事業には、生命保険業免許に基づく保険引受業務及び資産運用業務の他、、他の生命保険会社の商品の受託販売等、及び郵政民営化により日本郵政公社から郵政管理・支援機構に承継された旧簡易生命保険法上の簡易生命保険契約の管理業務の受託業務が含まれる。
4 ユニバーサルサービスの提供
日本郵政及び日本郵便は、その業務の運営に当たっては、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務を利用者本位の簡便な方法により郵便局で一体的に、かつ、あまねく全国においてxxに利用できるようにする責務を有する(日本郵政株式会社法5 条、日本郵便株式会社法5 条)。また、日本郵政及び日本郵
便は、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務が利用者本位の簡便な方法により郵便局で一体的に利用できるようにするとともに将来にわたりあまねく全国においてxxに利用できることが確保されるよう、郵便局ネットワークを維持するものとし、郵便局ネットワークの活用その他の郵政事業の実施に当たっては、その公益性及び地域性が十分に発揮されるようにするものとされている(郵政民営化法7 条の2)。
ここで「郵便局」とは、日本郵便の営業所であって、郵便窓口業務、銀行窓口業務及び保険窓口業務を行うものをいい(日本郵便株式会社法2 条4 項)、「郵便窓口業務」とは、郵便物の引受け、郵便物の交付、郵便切手等の販売等の業務をいう(日本郵便株式会社法 2 条 1項、簡易郵便局法2 条)。また、「銀行窓口業務」とは、銀行法に定められる銀行代理業のうち、日本郵便が日本郵政株式会社法5 条の責務を果たすために営むべきものとして総務省令で定めるものをいい(日本郵便株式会社法2 条2 項、日本郵便株式会社法施行規則1 条)、「保険窓口業務」とは、保険業法に定められる保険募集及び関連保険会社の事務の代行のうち、日本郵便が日本郵政株式会社法5 条の責務を果たすために営むべきものとして総務省令で定めるものをいう(日本郵便株式会社法2 条3 項、日本郵便株式会社法施行規則2 条)。
2012 年改正前の日本郵便株式会社法においては、日本郵便の営業所であって、郵便窓口業務を行うものを郵便局と定義し、同法5 条は、日本郵便の責務として、総務省令で定めるところにより、あまねく全国において利用されることを旨として郵便局を設置しなければならないものと定めていたため、日本郵便が同法5 条に基づき負担する責務は、郵便窓口事業を行う郵便局の設置に限られていた(郵政民営化の実施に伴う郵便事業のユニバーサルサービスの提供義務)。
その後、郵政民営化法等の一部を改正する等の法律の施行に伴い改正された郵政民営化法
(2012 年5 月改正)及び日本郵便株式会社法(2012 年10 月改正)により、日本郵便は、郵便局の引受け、郵便物の交付、郵便切手等の販売といった郵便の役務だけでなく、貯金、保険の基本的なサービスも郵便局で一体的に提供する仕組みを確保する責務を負うことになり
(郵便局における金融のユニバーサルサービスの提供義務)、今日に至っている。
このように日本郵便が営む金融窓口事業のうち、金融のユニバーサルサービスの対象業務を図示すると、以下の太枠で囲まれた部分である。
銀行サービス | 保険サービス | |||||
ゆうちょ銀行 | その他の銀行 | かんぽ生命保険 | その他の保険会社 | |||
銀行窓口業務および保険窓口業務 ユニバーサルサービスの対象業務 | ①流動性預金の受入れ ②定期性預金の受入れ ③為替取引 | ・通常預金 ・定期貯金 ・定期預金 ・為替 ・払込み ・為替 | ①流動性預金の受入れ ②生命保険会社の事務の代行 | ・終身保険 ・養老保険 ・終身保険、養老保険に関する満期保険金 および生存保険金の支払の請求の受理 | ||
①流動性預金の受入れ ②定期性預金の受入れ | ・通常貯蓄貯金 ・為替貯蓄 ・自動積立貯金 ・財形貯蓄 ・満期一括受取型定期貯金 ・ニュー福祉定期貯金 | ①保険の募集 | ・特定養老保険 ・学資保険 ・普通定期保険 ・財形保険 ・災害特約 ・入院特約 ・長寿支援保険 | ・がん保険 ・引受条件緩和型医療保険 ・変額年金保険 ・自動車保険 ・バイク自賠責保険 ・傷害保険 | ||
地域住民の利便の増進に質する業務 | ||||||
③為替取引 ➃金融商品仲介業 | ・払出し ・国債の販売 ・投資信託の販売 | ②保険会社の事務の代行 | ・死亡保険金、年金、契約者配当等の支払の請求の受理 ・保険料の収納 ・貸付金の請求に係る事務 |
銀行サービス
5 日本郵政グループの収益構造
(1) 概要
日本郵政グループの収益は、主たる子会社である日本郵便が営む郵便物流事業・金融窓口事業、日本郵便の子会社であるToll Holdings Limited が営む国際物流事業、ゆうちょ銀行が営む銀行業、かんぽ生命が営む生命保険業その他の事業(グループシェアード事業、病院事業、
宿泊事業、投資事業、不動産事業等)による収益から構成され、連結ベースでの経常利益1(8 及
び親会社株主に帰属する当期純利益又は当期純損失)は、2015 年 3 月期 1,115,823 百万円
(482,682 百万円)、2016 年3 月期966,240 百万円(425,972 百万円)、2017 年3 月期795,237百万円(▲28,976 百万円)、2018 年3 月期916,144 百万円(460,623 百万円)、2019 年3 月期 830,696 百万円(479,149 百万円)であった。
(2) 日本郵政グループ
前述のとおり、日本郵政グループにとって、主たる事業会社は、日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命であるところ、グループ全体に占める経常利益のうち、各社の経常利益が占める割合は以下のとおりである。
18 日本郵政の各事業年度の有価証券報告書を参考とした。
(単位:百万円)
2014 年度 | 2015 年度 | 2016 年度 | 2017 年度 | 2018 年度 | ||
日本郵政 | 1,115,823 | 966,240 | 795,237 | 916,144 | 830,696 | |
事業子会社 | 日本郵便 (割合) | 22,871 (2.0%) | 42,336 (4.4%) | 52,221 (6.6%) | 85,459 (9.3%) | 179,865 (21.7%) |
ゆうちょ銀行 (割合) | (569,489) (51.0%) | (481,998) (49.9%) | (442,085) (55.6%) | 499,654 (54.5%) | 373,978 (45.0%) | |
かんぽ生命 (割合) | 492,625 (44.1%) | 411,504 (42.6%) | 279,755 (35.2%) | 309,233 (33.8%) | 264,870 (31.9%) |
注:ゆうちょ銀行は、2017 年度より連結財務諸表を作成しているため、2016 年度以前の数字について単体のものを記載している。
以上のとおり、過去5 年間で、日本郵政グループの経常利益全体に占めるかんぽ生命の経常利益の割合は3 割以上であった。
(3) 日本郵便及びかんぽ生命
日本郵便の金融窓口事業のうち、銀行窓口業務等は、ゆうちょ銀行からの委託又は再委託を受け、保険窓口業務等は、かんぽ生命からの委託を受けて行っている。日本郵便が金融 2
社との間で締結している銀行窓口業務契約等及び保険窓口業務契約等に基づく 2017 年度における各社からの受託手数料は、それぞれ5,981 億円及び3,722 億円であり、それぞれ日本郵便の金融窓口事業セグメントにおける営業収益の約 44%及び約 27%を占めている。また、 2018 年度における金融2 社からの受託手数料は、それぞれ6,006 億円及び3,581 億円であり、それぞれ日本郵便の金融窓口事業セグメントにおける営業収益の約 44%及び約 26%を占めている。
6 日本郵政グループの生命保険業に関する経営計画等
(1) 2014 年及び2015 年中期経営計画
日本郵政グループは、2015 年4 月、日本郵政及び事業子会社3 社の連名で、2015 年度から 2017 年度を計画期間とする「日本郵政グループ中期経営計画~新郵政ネットワーク創造プラン2017~」(以下「2015 年中期経営計画」という。)を公表した。
2015 年中期経営計画は、日本郵政が 2014 年 2 月に公表した「日本郵政グループ中期経営計画~新郵政ネットワーク創造プラン 2016~」(以下「2014 年中期経営計画」という。)の内容を、日本郵政及び金融2 社の株式上場スキームや経営環境の変化等を踏まえて見直したものであった。すなわち、2014 年中期経営計画で定められた「主要三事業の収益力と経営基盤を強化」、「ユニバーサルサービスの責務を遂行」、「上場を見据えグループ企業価値を向上」
という3 点を中期的なグループ経営方針とする点を維持しつつ、グループが直面している「更なる収益性の追求」、「生産性の向上」、「上場企業としての企業統治と利益還元」という新たな3 つの課題を克服するための計画として策定された。
2014 年中期経営計画においては、生命保険業に関して、かんぽ生命の保有契約件数が、1996年度末の8,432 万件をピークに2012 年度末は3,681 万件となるなど、満期等の消滅契約が新契約を大きく上回り、減少傾向が継続している現状を踏まえ、「新契約月額保険料500 億円」という営業目標が示された。この営業目標を実現するための主要施策として、①お客さまニーズに応える商品の提供(教育資金の確保という主たるニーズに沿った改定学資保険の販売による若年層の開拓)、②郵便局チャネルの営業力強化((a)高齢の顧客が安心して加入できるよう、募集品質を確保、(b)日本郵便とかんぽ生命の連携による郵便局営業人材の採用・研修・育成施策の拡充、郵便局へのサポート態勢の強化)、③提携商品の活用によるかんぽ直営店チャネルの営業力強化(他社の法人向け商品を活用した法人顧客の開拓)が掲げられた。
これらに加えて、2015 年中期経営計画においては、「新契約の獲得」による「保有契約の底打ち・反転」という事業戦略、及び郵便局ネットワークを通じた顧客との接点を最大限活用し、提案の機会を拡大するための「満期代替の早期取組み」、「既契約者訪問活動の展開」などが営業・サービス戦略として掲げられた。
また、2017 年度の経営目標は、簡易生命保険創業100 周年(2016 年度)に新契約月額保険料を「500 億円台に乗せて更に拡大させること」で、2015 年中期経営計画最終年度(2017 年度)以降の保有契約の底打ち・反転を目指すとされ 19、顧客に対応した商品開発の具体策として「養老保険の加入年齢引上げ」、「終身保険の加入年齢引上げ」などが掲げられた。
なお、2015 年4 月に養老保険の加入年齢上限の引上げ 20、2015 年10 月に終身保険の加入年齢上限の引上げ21がそれぞれ実施された。
(2) 2018 年中期経営計画
日本郵政グループは、2018 年 5 月、日本郵政と事業子会社 4 社の連名で、2018 年度から 2020 年度までを計画期間とする「日本郵政グループ中期経営計画2020」(以下「2018 年中期経営計画」という。)を発表した。
2018 年中期経営計画では、「お客さまの生活をトータルにサポートする事業の展開」、「安定的なグループ利益の確保」、「社員の力を最大限に発揮するための環境の整備」、「将来にわたる成長に向けた新たな事業展開」の4 点を中期的なグループ基本方針とすることが示された。また、事業別の基本方針として、生命保険業については、「保障重視の販売、募集品質向上による保有契約の反転・成長」が示され、2015 年中期経営計画の取組みが「高齢者層を中心とした顧客基盤の深耕」などであったとの現状認識の下、「保障重視の販売の強化」(郵便
19 なお、かんぽ生命が独自に作成した2014 年度経営計画においては、2016 年度に新契約保険料500 億円を達成し、保有契約の早期底打ち・反転を目指していくことが基本的な考え方として示されていた。
20 普通養老保険について、75 歳から80 歳への引上げなど。
21 定額型終身保険について、65 歳から85 歳への引上げなど。
局の渉外社員・窓口社員の育成、他生保との商品面の協力(受託販売等))、「募集品質の向上」
(募集資料の分かりやすさの徹底、募集品質向上の総合的な対策)、「新たな顧客層の開拓」
(未加入者・青壮年層の開拓、職域営業等の強化、かんぽつながる安心活動、健康増進サービスの展開)などが、2018 年度から2020 年度の方針・取組みとして示された。
第2 かんぽ生命及び日本郵便の組織体制
1 かんぽ生命
本社
コンプライアンス統括部
営業企画部
新契約部
・ ・ ・
募集管理統括部
営業推進部
商品開発部
・ ・ ・
xx ア本部
<全国1 3 箇所>xx ア本部長
総合企画部総務部
支店
<全国8 2 箇所( ※) >
支店長
※ 全国82支店のうち、以下の支店については法人営業部またはパートナー部未設置
<法人営業部未設置支店(6支店)>
xxx都心支店、東東京支店、南東京支店、春日井支店、名古屋支店、大阪支店
<パートナー部未設置支店(6支店)>
東京中央法人支店、xxx都心法人支店、東東京法人支店、南東京法人支店、名古屋法人支店、大阪法人支店
パート ナー部
法人営業部
業務部
代表執行役社長
かんぽ生命は、本社の下に、13 のエリア本部及び 82 の支店が設置されている。エリア本部には、エリア本部長の下、総合企画部と総務部が設置されており、支店には、パートナー部、法人営業部及び業務部が設置されている。
2 日本郵便
(1) 日本郵便の組織体制
日本郵便は、本社の下に、13 の支社(北海道、東北、関東、東京、南関東、信越、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄)が設置されている。各支社の受持区域 22には、直営
22 各支社の所在地及び受持区域は以下のとおりである。
の郵便局及び簡易郵便局 23が存在する。以下、特に直営の郵便局と簡易郵便局とを区別しない場合には、直営の郵便局を指して「郵便局」と記載する。
直営の郵便局には、①エリアマネジメント局と②単独マネジメント局がある。
全国で、エリアマネジメント局は約1 万9,000 局、単独マネジメント局は約1,200 局存在する(2019 年9 月30 日現在)。
(2) 郵便局における組織管理体制
単独マネジメント局とエリアマネジメント局における金融窓口事業に関する指揮命令系統その他の組織系統の概要は、以下のとおりである。
金融窓口事業における組織イメージ
A:金融渉外本部長によるマネジメント
B:地区統括局長によるマネジメント
一般社員
一般
xx
課長代理
課長
局長
(窓口営業部長を配置する場合もある)
部長
管理者
⇒職務権限上の責任者
窓口営業部
金融渉外部
3.エリアマネジメント局注1
2.単独マネジメント局
(金融渉外部未設置局)
注1
1.単独マネジメント局(金融渉外部設置局)
支社
一般
一般
一般
xx
xx
xx
課長代理
課長代理
課長代理
課長
課長
課長
局長
部長
注1:金融渉外部のない渉外社員配置局の一部については、金融渉外本部長によるマネジメントを行う場合がある。
名称 | 位置 | 受持区域 |
北海道支社 | 札幌市 | 北海道 |
東北支社 | 仙台市 | 青森県 岩手県 xx県 xx県 山形県 xx県 |
関東支社 | さいたま市 | 茨城県 栃木県 群馬県 埼玉県 xx県 |
東京支社 | xxx | 東京x |
x関東支社 | xx市 | 神奈川県 山梨県 |
信越支社 | xx市 | 新潟県 xx県 |
北陸支社 | xx市 | 富山県 xx県 xx県 |
東海支社 | 名古屋市 | 岐阜県 静岡県 愛知県 三重県 |
近畿支社 | 大阪市 | 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 |
中国支社 | 広島市 | 鳥取県 島根県 岡山県 広島県 xx県 |
四国支社 | xx市 | 徳島県 香川県 愛媛県 高知県 |
九州支社 | 熊本市 | 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 xx県 鹿児島県 |
沖縄支社 | 那覇市 | 沖縄県 |
注 埼玉xxx市に所在する東京北部郵便局は、東京支社が受け持つ。
23 簡易郵便局とは、簡易郵便局法に基づき、日本郵便から委託された郵便窓口業務等の委託業務を行う施設をいう。かんぽ生命は、簡易郵便局(委託業務の受託者)に対し、かんぽ生命の生命保険契約の募集業務を委託しており、また日本郵便に対し、簡易郵便局に対するかんぽ生命の生命保険契約に係る教育・指導・管理を委託している。
ア 「機能重視のマネジメント」体制の導入
郵便局には、郵便・物流機能を有し社員数千人を擁する大規模な郵便局から、xxの社員で窓口サービスを提供する郵便局まで幅広い組織規模の郵便局が存在している。これらの郵便局を効果的・効率的に管理することを目的として、郵便事業株式会社及び郵便局株式会社が日本郵便として統合後の2013 年4 月から、郵便局の損益管理の方法に着目して、郵便局の種別を、①単独の郵便局で損益管理(損失や利益のバランスを管理すること)を行う郵便局である「単独マネジメント局」と、複数の郵便局で構成するエリア単位で損益管理を行う郵便局である「エリアマネジメント局」の2 種類に整理し、管理する運用を開始した。その後、
「単独マネジメント局における郵便・物流機能、窓口機能、金融渉外機能等、郵便局が有する機能に応じて、郵便局の推進管理体制を構築し、またそれぞれの機能の専門性を高め、営業推進、業務品質向上に取り組み、業績を上げていく」という基本構想から成る「機能重視のマネジメント」の仕組みが2015 年4 月から一部導入され、2016 年4 月から本格運用が開始された。
この仕組みの下では、単独マネジメント局の郵便局長の業務は、郵便・物流機能に集中し、また単独マネジメント局(金融渉外部設置局)では窓口機能と金融渉外機能にそれぞれ部長を置いて、部長がこれらの機能における業務の責任者としての役割を担うこととなり、これにより、郵便局長は郵便・物流機能を、窓口営業部長は窓口機能を、金融渉外部長は金融渉外機能をそれぞれ統括するという機能別の分担がされている。このように窓口機能と金融渉外機能を分離してそれぞれの機能に特化することによって各機能における専門性の向上を図り、高度化する顧客のサービス需要に対応することが企図されている。機能重視の管理を採用したことによって、窓口機能及び金融渉外機能については、それぞれ窓口営業部長及び金融渉外部長の段階で、それぞれの業務の統括責任を完結させる体制とされている。
イ 金融渉外機能における組織管理体制
単独マネジメント局における金融渉外機能の管理体制については、支社に所属する金融渉外本部長が、おおむね都道府県を基準とした受持エリア内の単独マネジメント局(金融渉外部設置局)の金融渉外部長を統括する体制となっており、これにより、実態的に日本郵便本社→支社各部→支社金融渉外本部長→個局の金融渉外部長→渉外社員、という指揮命令系統が構築されている。
ウ 窓口機能における組織管理体制
エリアマネジメント局では、日本郵便本社→支社各部→地区統括局長(地区連絡会)→部会長(部会)→個局の局長→窓口社員、という指揮命令系統が構築されている。また、単独マネジメント局の窓口営業部は、その機能の内容においてエリアマネジメント局と同様であることから、エリアマネジメント局の管理体制に組み込まれ、これにより、単独マネジメント局の窓口機能についても、日本郵便本社→支社各部→地区統括局長(地区連絡会)→部会長(部会)→個局の窓口営業部長→窓口社員、という指揮命令系統が構築されている。
第3 かんぽ生命保険商品の個人向け募集の態勢
1 かんぽ生命の保険商品及び開発に係る規制等
(1) かんぽ生命の保険商品
かんぽ生命は、2007 年 10 月、郵政民営化(郵政民営化関連 6 法の施行)に伴い、保険業法に基づく生命保険業を開始した。かんぽ生命が引受けを行う保険商品(主契約)のうち、主力商品は、養老保険(保険期間について満期が設定される有期型の保険商品であり、被保険者が保険期間の満了前に死亡した場合は死亡保険金が支払われ、また被保険者が生存中に保険期間が満了した場合は満期保険金が支払われるもの)と終身保険(保険期間について満期が設定されない終身保障(生涯保障)型の保険商品であり、死亡した場合に死亡保険金が支払われるもの)である。
全保険商品の新契約件数に占める割合は、2018 年度において、養老保険が約49%と最も高く、次いで終身保険が約43%となっている。このように、養老保険が最も高く、新契約件数の約半分の割合を占めるという傾向は、2014 年度以降同様である。
これに対し、養老保険に次いで高い割合を占めた商品は、2014 年度は、学資保険(約28%)であり24、終身保険はこれに次ぐ割合(約25%)であったが、2015 年度以降は、終身保険と学資保険の順位が逆転し、養老保険に次いで終身保険が高い割合を占めるという傾向が続いている。
上記の主契約(基本契約)に、医療特約(医療保障を内容とする特約)を付加することができ、かんぽ生命においては、主契約に医療特約を付加して販売する例が多い。
なお、2016 年度以降のかんぽ生命における個人保険の保有件数は約1,800 万件(民営化前の簡易生命保険と合算して約 3,000 万件)で推移しており、また個人保険に係る新契約の件
数は、2016 年の約244 万件をピークに2017 年度以降は約170 万件で推移している。
(2) かんぽ生命保険商品の開発に係る規制ア 認可制
保険業法上、新たな保険商品の開発又は既存保険商品の改定に当たっては、原則として金融庁長官の認可が必要となるところ(保険業法123 条、同313 条1 項)、かんぽ生命による新たな保険商品の開発又は既存保険商品の改定に当たっては、当該保険業法上の認可に加えて、上乗せ規制として、郵政民営化法上、金融庁長官及び総務大臣の認可が必要となる。特に医療保険の認可につき、適正な競争関係が確立されていること、またかんぽ生命の業務の適切な遂行態勢が確保されたことが確認できるまで認可は行わない旨の担当大臣からの発言があった。それらのことから、医療保険については、実質、単品の主契約としての引受けが認められず、特約(医療特約)として主契約に付加することのみ認められている。また、特約(医療特約)の保険金額については、後記イの被保険者1 人当たりの加入限度額(1,000 万円)に
24 2014 年4 月に学資保険の新商品を発売したことによる効果が大きかったためとされている。
加え、原則として、特約(医療特約)を付加する主契約の保険金額と同額以下とするものとされている。
イ 加入限度額制限
また、かんぽ生命の生命保険については、郵政民営化法上、被保険者1 人につき引受け可能な保険金額等の限度(加入限度額)が定められており、養老保険及び終身保険等の限度額は、以下のとおりである(郵政民営化法137 条1 号)。
① 被保険者が満15 歳以下の場合:被保険者1 人当たり700 万円
② 被保険者が満16 歳以上の場合:被保険者1 人当たり1,000 万円2526
保険(基本契約)の加入限度額
(注1)特定養老保険に加入する場合は500万円まで、 55歳以上の被保険者が普通定期保険・ 特別養老保険に加入する場合は800万円までとなる。
(注2)20歳以上55歳以下の被保険者は、 加入後4年以上経過した保険契約がある場合、 最高2,000万円まで加入できる。
2,000万円
※図中の年齢は満年齢。
被保険者1人につき 1,000万円
16歳以上
被保険者1人につき 700万円
15歳以下
(2019年12月10日現在)
1,000万円 | (加入後4年以上経過した契約がある場合) | 1,000万円 | |
700万円 | 500万円(特定養老保険に加入する場合) | 800万円 | |
55歳以上の者が普通定期保険・特別養老保険に加入する場合 | |||
0~15歳 | 16~19歳 | 20~55歳 | 56歳~ |
(注)
上記の法令で定める加入限度額以外にも、 満15歳未満の被保険者が加入できる保険金額など、 被保険者の年齢や保険種類によって、 加入できる保険金額に一定の制限がある。
2 個人向け募集に係るかんぽ生命と日本郵便の関係
(1) 概要
かんぽ生命は、保険商品の募集について、法人向けの募集と個人向けの募集を行っている。そのうち、法人向けの募集については、かんぽ生命に所属する営業職員(法人営業チャネル)が行い、個人向けの募集は、そのほぼ全てを外部の保険代理店である日本郵便(の保険募集人)が行っている。かんぽ生命保険商品の総販売実績のうち、かんぽ生命に所属する営業職員によるものが約1 割を占め、日本郵便(の保険募集人)によるものが約9 割を占める。
25 特定養老保険の保険金額は500 万円、被保険者が満55 歳以上の者で特別養老保険・普通定期保険に加入する場合は、加入者限度額は合計で800 万円と定められている(郵政民営化法施行令6 条1 項5号)。また、被保険者が満20 歳以上55 歳以下の者で、一定の条件(加入後4 年以上経過した保険契約がある場合など)を満たす場合は、加入限度額は累計で2000 万円と定められている(郵政民営化法施行令6 条1 項2 号)。
26 郵政民営化前の簡易保険においても同様に、生命保険の加入限度額は、被保険者が満15 歳以下の場合は被保険者1 人当たり700 万円、被保険者が満16 歳以上の場合は被保険者1 人当たり1,000 万円とされていた。
かんぽ生命は日本郵便以外の保険代理店等に保険募集の外部委託を行っていないことから、かんぽ生命保険商品の販路については、個人向けの募集のほぼ全てを日本郵便に依存してい る。
他方で、日本郵便は、保険商品だけをとっても、かんぽ生命保険商品以外の他の生命保険会社の商品を取り扱っており、また保険商品以外の金融商品としては、貯金、投資信託等の取扱いを行っている。
(2) かんぽ生命と日本郵便の契約関係及び法的関係等ア 契約関係
独立行政法人 郵便貯金簡易生命保険管理・ 郵便局ネッ ト ワーク支援機構
簡易生命保険管理業務再委託契約
日本郵便
かんぽ生命保険
生命保険契約 簡易生命保険
維持管理業務 管理業務
再委託契約 再再委託契約
簡易局
*契約ではない。
紹介代理店制度の引受*
生命保険募集委託契約
総括代理店委託契約
②保険窓口業務契約
①生命保険募集・ 契約維持管理業務委託契約
簡易生命保険管理業務委託契約
紹介代理店
募集代理店
このうち①生命保険募集・契約維持管理業務委託契約は、かんぽ生命が日本郵便に新契約の保険募集及びかんぽ生命が引き受けた保険契約の管理業務(保険金支払、保険料収納、各種請求受付等)を委託する契約である。他方、②保険窓口業務契約は、かんぽ生命が日本郵便に保険窓口業務(普通・特別終身保険、普通・特別養老保険の新契約の募集、満期・生存保険金の支払請求の受理)を委託する契約である。
これらの契約に基づき、かんぽ生命保険商品に関するかんぽ生命から日本郵便への保険募
27このほか、民営化前の簡易生命保険契約の管理業務(保険金支払、保険料収納、各種請求受付等)を
かんぽ生命が日本郵便に委託する契約として、簡易生命保険管理業務再委託契約が締結される。
集の委託が行われ、その結果、かんぽ生命は日本郵便に対して、保険募集の委託の対価として募集手数料の支払を、また保険料収納、契約保全業務その他の管理業務の委託の対価として維持・集金手数料の支払を行うこととされる。
上記の②保険窓口業務契約は、期間の定めのない契約であり、また同契約に定める特段の事情がない限り、かんぽ生命から一方的に解除することはできない。また、かんぽ生命の定款上、かんぽ生命は日本郵便との間で保険窓口業務契約を締結する旨の規定が存在し(定款 2 条の2)、同契約を終了させる場合にはかんぽ生命の定款の変更が必要となる。
イ 法的関係
日本郵便及び日本郵便に所属する保険募集人(郵便局の渉外社員や窓口社員)の両者は、かんぽ生命を所属保険会社とする「生命保険募集人」に該当する(保険業法2 条19 項、同条 24 項)。
(ア) 所属保険会社としてのかんぽ生命の法的義務(体制整備義務、委託先管理義務等)
かんぽ生命は、日本郵便及び日本郵便に所属する保険募集人の所属保険会社として、適切な保険募集管理態勢を確立し、「保険募集に関する法令等の遵守、保険契約に関する知識、内部事務管理態勢の整備(顧客情報の適正な管理を含む。)等について、社内規則等に定めて、特定保険募集人の育成、資質の向上を図るための措置を講じるなど、適切な教育・管理・指導」を行わなければならない(保険業法100 条の2、保険業法施行規則53 条の7、同53 条の 11、保険会社向けの総合的な監督指針Ⅱ-4-2-1(4))。
(イ) 保険代理店としての日本郵便の法的義務(体制整備義務)
日本郵便は、かんぽ生命から委託を受けた保険募集に関する業務に関し、適切な保険募集管理態勢を確立し、「保険募集に関する法令等の遵守、保険契約に関する知識、内部事務管理態勢の整備(顧客情報の適正な管理を含む。)等について、社内規則等に定めて、保険募集に従事する役員又は使用人の育成、資質の向上を図るための措置を講じるなど、適切な教育・管理・指導」を行わなければならない(保険業法294 条の3 第1 項、保険会社向けの総合的な監督指針Ⅱ-4-2-9)。
(3) かんぽ生命と日本郵便における営業推進施策の策定・実施体制
かんぽ生命保険商品の募集に係る営業推進施策の策定・実施体制は、以下の図のとおりである。
かんぽ生命
パート ナー会議
営業推進
Web会議
総合企画部長会議
支社金融営業部長会議担当部長会議又はTV会議
協働推進本部会議
全国パートナー部長等会議
訪問等による郵便局支援
支社
金融営業部
(金融部)
かんぽ担当
日本郵便
郵便局
本社
金融営業部
支店
パートナー部
エリア本部
本社
営業推進部営業企画部
ア かんぽ生命本社及び日本郵便本社における営業方針等の策定
かんぽ生命本社の営業企画部において営業方針の策定がなされ、これに関するかんぽ生命本社での協議を経た後、かんぽ生命本社と日本郵便本社との間で開催するパートナー会議において、当該営業方針が協議される。ここでの協議結果に基づき、かんぽ生命本社の営業推進部は、同社の関係各部及び日本郵便本社の関係各部と協議し、営業方針を実施するための具体的施策等を策定している。
イ かんぽ生命エリア本部及び日本郵便支社における営業推進施策等の策定
前記パートナー会議で協議された営業方針及びこれに基づき策定された施策等は、かんぽ生命においては、本社から営業推進Web 会議、総合企画部長会議や全国パートナー部長等会議等を通じて、かんぽ生命エリア本部及び支店パートナー部に指示・周知がなされる。他方、日本郵便においては、日本郵便本社から、支社金融営業部長会議、かんぽ担当部長会議又は TV 会議等を通じて、日本郵便の各支社に指示・周知がなされる。
このように指示・周知がなされた施策等に基づき、かんぽ生命の各エリア本部とこれに対応する日本郵便の各支社は、毎月、協働推進本部会議で協議しながら、各エリアの状況に応じた施策等を策定している。
ウ 郵便局への営業推進施策等の指示・周知
かんぽ生命エリア本部及び日本郵便支社間の協働推進本部会議で策定された具体的な施策等は、支社の金融渉外機能については、金融渉外本部長会議等を通じて、金融渉外本部長に指示・周知がなされた後、各金融渉外本部長から金融渉外部長会議を通じて単独マネジメント局の金融渉外部長に指示・周知がなされる。他方、窓口機能については、地区統括局長会議等を通じて、支社内の地区統括局長に指示・周知がなされた後、地区連絡会及び部会を通じて、エリアマネジメント局の局長及び単独マネジメント局の窓口営業部長に指示・周知が
3 かんぽ生命保険商品の個人向け募集に係る営業目標の設定及び配算過程
かんぽ生命
①本社(全国目標)
日本郵便
かんぽ生命保険商品の営業目標が設定され、個々の郵便局及び郵便局員に配算されるまでの流れの概要は、以下の図のとおりである。
②支社目標 | |
金融渉外機能 | 窓口機能 |
(B) エリア本部
(A) 本社(全国目標)
(C) 支店
③郵便局目標
③郵便局目標
※日本郵便が支社・郵便局へ配算する額を基に決定
社員 | 社員 | |
➃個人目標 ・ ⑤目安額 |
社員 | 社員 | |
➃個人目標 ・ ⑤目安額 |
(1) かんぽ生命本社と日本郵便本社との協議による営業目標の決定
翌年度のかんぽ生命保険商品に係る全国の営業目標は、かんぽ生命本社及び日本郵便本社の協議により決定される。その際、当年度末における販売実績の見込みの金額を基準とし、これに、翌年度の新商品効果や生産性xxxの施策効果(活動量増加・成約率xxx)等の増要素と、新商品の発売初年度効果の喪失、保険料改定の影響等の減要素の双方を加味して検討されている。
(2) 日本郵便本社による支社に対する営業目標の配算
日本郵便本社は、支社に対する営業目標の配算に際し、金融渉外機能及び窓口機能ごとに、社員数やマーケット要素(保有契約保険料、満期発生予定保険料額、夜間・昼間人口)等を踏まえ決定する。
(3) 日本郵便支社による受持区域内の郵便局に対する営業目標の配算
日本郵便支社は、個々の郵便局に営業目標を配算するに当たっては、日本郵便本社より作成された基準を踏まえ、さらに、当該受持区域における社員数、マーケット要素、地域性、営業環境等を考慮して算出している。
28 第2 編第3,4(1)に掲載した日本郵便の営業推進体制図参照。
(4) 郵便局における個々の局員に対する営業目標の配算
かんぽ生命保険商品については、個々の郵便局員に対して、①個人目標と②目安額が設定される。このうち①個人目標について、その達成状況が人事評価の対象となる。
この①個人目標については、各郵便局の管理者、すなわち、エリアマネジメント局の局長、金融渉外部が設置されている単独マネジメント局の金融渉外部長が決定する。その際、管理者は、自局の営業目標を基に、「社員数」と「年度中にかんぽ生命保険商品の募集に従事する時間の割合」を考慮して決定する。他方、②目安額については、個々の郵便局員の経験年数や販売スキル等を踏まえ、自局に配算された営業目標の達成のために、社員に期待する目安とするものであり、管理者が社員と対話を行って決定している。
4 かんぽ生命保険商品に係る営業推進管理体制及び募集品質管理体制
(1) 営業推進管理体制
支社、郵便局及び個々の郵便局員に配算された各営業目標に対する推進状況は、日本郵便において階層ごとに把握・管理を行っている。すなわち、支社の営業推進については支社金融営業部が、支社内の金融渉外機能の営業推進については金融渉外本部長が、支社内の窓口機能の営業推進については地区統括局長及び部会長が、それぞれ統括管理している。また、郵便局の営業推進については、郵便局管理者が行っている。
上記の営業推進管理に関係する主な部署や役職の業務の概要は、以下のとおりである。
日本郵便 営業推進体制 2019年4月現在
本社
支社( 13支社)
支社
経営管理本部
支社
金融営業部
連
携
地区統括局長
( 地区連絡会: 238)
金融渉外
本部長
95名
部会長
( 部会: 1620)
営業インスト ラ 単独マネジメ ントクター 局長
約800名
※内保険担当は約500名
金融渉外部
約1,100局
窓口営業部
約1,200局
社員
約12,000名
社員
約14,000名
xx アマネジメ ント 局長
約17,000名
窓口社員 約48,000名
渉外社員約2,000名
※xx アマネジメ ント 局には渉外局を含む
窓口機能
金融渉外機能
※社員数は正社員のみ
これらの日本郵便における営業推進管理に対して、かんぽ生命のエリア本部及び支店パートナー部が支援を行っている。
ア 日本郵便
(ア) 日本郵便本社
日本郵便本社金融営業部は、かんぽ生命本社より提供を受けた販売実績データに基づき、日伸、週伸、月伸及び累計の営業推進状況と当日、当月及び累計の販売実績の一覧を記載した日報を支社エリアごとに作成し、各支社に提供している。
(イ) 支社
支社においては、金融営業部が、前記の日報により提供された販売実績データに基づき支社全体の営業推進状況を把握・管理している。
(ウ) 郵便局
a 金融営業部
支社の金融営業部は、上記の日報により提供された販売実績データに基づき、郵便局単位及び個人単位の販売実績の一覧、並びに週伸と月伸で年間目標に対する到達目標割合が定められた計画ガイドラインを日次で郵便局へ提供している。計画ガイドラインと自局の営業推進率を比較することにより、自局の営業推進状況が把握可能となる。
b 営業インストラクター
営業インストラクターは、支社に所属し、受持区域内の郵便局に対して営業活動に関する指導及び助言並びに営業推進施策の立案及び提案を行う。営業インストラクターの類型としては、ゆうちょ銀行担当、かんぽ生命渉外担当及びかんぽ生命窓口担当の3 つがあるところ、かんぽ生命渉外担当の営業インストラクターは、支社に駐在している一部の例外を除き、受持区域内の単独マネジメント局に駐在し、①渉外社員に対する集合研修と②支社が選定した渉外社員に同行する形での個別指導を実施している。
c 金融渉外本部長
金融渉外機能については、支社の金融渉外本部長が、金融渉外機能の責任者として受持エリアの金融渉外部における営業推進の管理及び指導を行っている。金融渉外本部長は、支社金融営業部から連携を受けた受持エリア単位及び郵便局単位の販売実績データにより受持エリア及び同エリア内の各郵便局の営業推進状況を把握した上で、受持エリア内の郵便局の金融渉外部長に対する営業推進に係る指導を行っている。他方、金融渉外部が設置されていない単独マネジメント局に配置されている渉外社員やエリアマネジメント局に配置されている渉外社員に対しては、直接金融渉外本部長が、営業推進に係る指導を行っている。
d 部会長、地区統括局長
窓口機能については、部会長が、部会内のエリアマネジメント局の営業推進状況、及び単独マネジメント局の窓口営業部の営業推進状況を部会単位で把握・管理し、その上で、地区統括局長が、地区連絡会単位での営業推進状況を把握・管理している。
(エ) 郵便局員の営業推進管理
a 金融渉外部長
単独マネジメント局の金融渉外部においては、金融渉外部長が、支社から提供を受けた郵便局単位及び保険募集人単位での販売実績データにより各渉外社員の営業推進状況を把握・管理し、営業目標の推進率が低い渉外社員に対する指導を行っている。単独マネジメント局では、主に課長代理を班長として社員3、4 人で1 つの班を構成し、基本的に、班単位での営
業推進管理を行っている。
b 局長、窓口営業部長
エリアマネジメント局においては、局長が、支社から提供される郵便局単位及び保険募集人単位での販売実績データにより各窓口社員の営業推進状況を把握・管理し、営業目標の推進率が低い窓口社員に対する指導を行っている。窓口営業部が設置されている単独マネジメント局においては、窓口営業部長が同様に各窓口社員の営業推進状況を把握・管理し、指導を行っている。
イ かんぽ生命
(ア) かんぽ生命本社
かんぽ生命本社営業推進部は、日本郵便本社金融営業部に対して、支社及び郵便局等の営業推進管理に用いられる販売実績データを提供している。
(イ) エリア本部
エリア本部総合企画部は、受持ち地域内の郵便局及び郵便局員の営業推進状況の分析を行った上、日本郵便の支社金融営業部に対して分析結果を提供し、これにより、郵便局における営業推進管理の支援を行っている。
(ウ) 支店
支店パートナー部は、受持ち地域内の郵便局及び郵便局員の営業推進状況の分析を行った上、日本郵便の金融渉外本部長、金融渉外部長、地区統括局長等に対して分析結果を提供し、これにより、郵便局における営業推進管理の支援を行っている。
(2) 募集品質管理体制
不適正募集の発生を防止するため、①日本郵便とかんぽ生命の両本社、②支社とエリア本部及び③郵便局と支店がそれぞれ連携しながら、募集品質に関するデータが記載された募集品質実績表に基づき、募集品質面での課題の早期発見と改善を図っている。募集品質実績xxに照らして募集品質に特に問題が認められる保険募集人に対しては、募集品質指導専門役等による個別指導がなされる。
ア 日本郵便
(ア) 日本郵便本社
日本郵便本社金融営業部は、支社金融営業部に対して、支社及び郵便局等の募集品質管理に用いられる郵便局別及び保険募集人別の募集品質実績表を提供する。
(イ) 支社
a 金融営業部
支社金融営業部は、日本郵便本社金融営業部より、前記の郵便局別及び保険募集人別の募集品質実績表の提供を受け、これにより郵便局及び保険募集人ごとの募集品質に関する各種データ(保険契約の消滅等の発生率や前月までの改善状況等)を把握している。募集品質実
績xx、当該保険募集人の撤回率、未入金解除率、料済率その他の募集品質に関する数値29が一定値を上回った場合、当該保険募集人が所属する郵便局の全局員に対する全体指導及び当該保険募集人に対する個別指導を郵便局管理者に実施させるものとされている。もし郵便局管理者による指導が不十分であると認められる場合には、金融営業部社員が当該保険募集人に対して直接指導を実施するものとされている。
b 金融渉外本部長
xxxx本部長は、金融渉外機能の責任者として受持エリアの金融渉外部における募集品質の管理及び指導を行っている。金融渉外本部長は、支社金融営業部から提供を受けた募集品質実績表により募集品質状況を把握した上で、受持エリア内の金融渉外部を定期的に巡回して金融渉外部長に対する指導を行っている。金融渉外本部長は、募集品質に問題があると認められる保険募集人に対する金融渉外部長の指導が不十分であると判断した場合には、直接、当該保険募集人に対して個別指導を実施する。
c 募集品質指導専門役
募集品質指導専門役は、所属は日本郵便本社であるが、沖縄支社を除く12 の支社に1 人ないし2 人(合計18 人)が駐在している。募集品質指導専門役は、募集品質実績xxに基づき、募集品質を改善する必要があると認められる郵便局に臨局して、局員全体に対する指導及び管理者に対する指導を行う。特に、苦情を多発させている保険募集人その他募集品質に問題があると認められる保険募集人に対しては、必要に応じて、管理者同席の下、直接に個別指導を行う。
(ウ) 郵便局
a 金融渉外部長
金融渉外機能においては、金融渉外部長が、募集品質実績表に基づき、自局に所属する渉外社員の募集品質を管理している。金融渉外部長は、定期的に局内において適正募集の確保に向けた研修や勉強会を実施している。金融渉外部長は、募集品質に問題があると判断した渉外社員に対して指導を実施し、改善を促す。
b 局長、部会長、地区統括局長
窓口機能においては、局長は、募集品質実績表に基づき、自局及び自局の窓口社員についての保険契約の消滅等の発生件数や発生率の推移等を把握し、必要に応じ、窓口社員に対して適正募集の確保に向けた指導を行う。部会長は、業務品質向上に向けた活動等の一環として、部会内の郵便局に対し募集品質向上に係る指導を行っており、地区統括局長は、同様に業務品質向上に向けた活動等の一環として、部会に対し募集品質向上に係る指導を行っている。
イ かんぽ生命
かんぽ生命における募集品質管理体制の概要は、以下のとおりである。
29 これらの募集品質に関する指標については、第2 編第7,2(3)参照。
xx アコンプライアンス室
<全国1 3 箇所>
xx ア本部
<全国1 3 箇所>
総合企画部長
※ 全国82支店のうち、以下の支店については法人営業部またはパートナー部未設置
<法人営業部未設置支店(6支店)>
xxx都心支店、東東京支店、南東京支店、春日井支店、名古屋支店、大阪支店
<パートナー部未設置支店(6支店)>
東京中央法人支店、xxx都心法人支店、東東京法人支店、南東京法人支店、名古屋法人支店、大阪法人支店
パート ナー部長
業務部長
法人営業部長
支店長
支店
<全国8 2 箇所( ※) >
総務部長
xx ア本部長
募集品質指導専門役
( xx アコンプライアンス室兼務)
募集管理統括部長
コンプライアンス統括部長
xx xコンプライアンス室長
代表執行役社長
(ア) かんぽ生命本社
(イ) エリア本部
a 総合企画部
エリア本部の総合企画部は、本社より共有された募集品質実績表に基づき、エリア内の郵便局の募集品質状況を把握している。募集品質に問題がある郵便局又は保険募集人については、郵便局管理者による指導状況を確認し、もし郵便局管理者による指導が不十分と判断した場合には、郵便局管理者に対して、全局員に対する全体指導と当該保険募集人に対する個別指導を実施するよう指導している。
b 募集品質指導専門役
募集品質指導専門役は、所属はかんぽ生命本社であるが、沖縄を除く12 のエリアのエリアコンプライアンス室に1 人ないし3 人(合計21 人)が駐在している。かんぽ生命の募集品質指導専門役の業務内容は、日本郵便の募集品質指導専門役とほぼ同じである。
(ウ) 支店
支店パートナ一部は、本社より共有された募集品質実績表に基づき、受持エリアの郵便局及び保険募集人の募集品質状況を把握している。募集品質に問題がある郵便局又は保険募集
30 保険募集人への指導等に活用するため、各保険募集人等の募集品質に係る各種データ(消滅契約や苦情の発生状況等)を記載した資料のこと。かんぽ生命が、かかる資料を作成するに至った経緯は、第 2 編第7,1(3)を参照。
人については、郵便局管理者による指導状況を確認し、もし郵便局管理者による指導が不十分と判断した場合には郵便局管理者に対して局員全体に対する全体指導と当該保険募集人に対する個別指導を実施するよう指導している。
支店パートナー部は、金融渉外本部長、金融渉外部長・窓口営業部長、及びかんぽ保険担当の地区副統括局長に対して募集品質カルテを提供し、郵便局における募集品質管理の支援を行っている。また、支店パートナー部員が受持ち郵便局に臨局した際に把握した募集品質に係る推奨に値する取組みについては、支店パートナー部が独自に作成・発行する情報誌にて紹介し、受持xxx内の他局に共有している。
5 かんぽ生命保険商品の個人向け募集の態勢
(1) 郵便局における募集態勢
かんぽ生命保険商品の個人向け募集のほぼ全ては郵便局において行われている。その募集態勢は、郵便局の組織体制に応じて異なっているところ、以下、当該募集態勢について説明を行う。
エリアマネジメント局 31では、窓口において窓口社員が保険募集を行っている。金融渉外部が設置されている単独マネジメント局においては、窓口において窓口社員が保険募集を行い、金融渉外部に所属する渉外社員が郵便局外において保険募集を行っている。渉外社員は、金融渉外部において取り扱っているかんぽ生命保険商品以外の6 つの商品(ゆうちょ、投資信託、提携金融機関のがん保険・変額年金保険・損害保険・引受条件緩和型医療保険)についても営業目標を課せられている場合がある。金融渉外部においては、渉外社員が出勤後、制服を着用し、朝礼を済ませた後、郵便局を出発し、往訪のアポイントメントを済ませた顧客又は見込み顧客の自宅等をオートバイ等で訪問して募集活動を行い、1 日の募集活動を終えた後、郵便局に戻り、金融渉外部長に対し、1 日の業務状況を報告するというのが通常の業務形態である。
なお、かんぽ生命の保険商品の募集を行う社員は、保険業法上の保険募集人として登録されており、2018 年度(2019 年3 月現在)に募集実績のある保険募集人の人数は、渉外社員が 1 万4,500 人、窓口社員が5 万8,345 人であった32。そのうち、保険を専門的に担当する渉外社員は約6,000 人で、渉外社員全体の約4 割であった。
(2) かんぽ生命保険商品の個人向け募集に係る規制等の概要ア 保険募集に一般的に適用される法的規制
保険会社、保険募集人による保険契約の締結又は保険募集等に関しては、主に以下の規制が適用される。
(ア) 情報提供義務(平成26 年保険業法改正により導入)
31 エリアマネジメント局の中にも渉外局と呼ばれる、渉外社員が配置されている郵便局もある。
32 2018 年度に募集人資格を有している社員数は、渉外社員が16,018 人、窓口社員が69,972 人であった
(2019 年3 月現在)。
保険会社、保険募集人は、保険契約の締結又は保険募集等に関し、「保険契約の内容その他保険契約者等に参考となるべき情報の提供を行わなければならない」(保険業法294条1項)。 (イ) 意向把握義務(平成26 年保険業法改正により導入)
保険会社、保険募集人は、保険契約の締結又は保険募集等に関し、「顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結等(保険契約の締結又は保険契約への加入をいう。以下この条において同じ。)の提案、当該保険契約の内容の説明及び保険契約の締結等に際しての顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供を行わなければならない」(保険業法294 条の2)。
(ウ) 保険契約者等の保護に欠けるおそれがある行為の禁止(平成7 年保険業法から導入)
保険会社、保険募集人は、保険契約の締結又は保険募集等に関して、重要事項を告げないこと、虚偽のことを告げること、保険契約等に関する重要事項について誤解させるおそれのあることを告知・表示することその他保険契約者等の保護に欠けるおそれがある行為が禁止されている(保険業法300 条1 項)。
具体的な禁止行為の内容は、以下のとおりである。
(a) 重要事項不告知及び虚偽告知の禁止
保険会社、保険募集人は、保険契約の締結又は保険募集等に関して、「保険契約者又は被保険者に対して、虚偽のことを告げ、又は保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為」をしてはならない(保険業法 300 条1 項1 号)。
(b) 誤解告知禁止
保険会社、保険募集人は、保険契約の締結又は保険募集等に関して、「保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、保険契約等に関する事項であってその判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、誤解させるおそれのあることを告げ、又は表示する行為」をしてはならない(保険業法300 条1 項9 号、保険業法施行規則234 条1 項4 号)。
(c) 保険契約者等の保護に欠けるおそれがある行為の禁止
上記(a)及び(b)のほか、保険会社、保険募集人は、保険契約の締結又は保険募集等に関して、保険契約者等の保護に欠けるおそれがある所定の行為が禁止されている。(保険業法300 条1項)。
(3) かんぽ生命保険商品の募集に関する主な社内規則
かんぽ生命では、不適正募集の防止に向け、上記保険業法違反以外の行為に関しても、以 下のような保険募集人の遵守すべき事項を定めている。これらの社内規則は、「新契約の手引」、
「適正募集管理マニュアル」、「生命保険契約維持マニュアル」、「適正な営業活動ガイドブック」等に記載され、保険募集人は常にこれを目にすることができるようになっている。
これらの社内規則によれば、保険募集一般に適用される事項として、①保険募集人は、保険募集に際し、顧客に対して保険商品の内容等を丁寧かつ詳細に説明し、理解を十分に得なければならない、②保険募集人は、保険契約者以外の者を被保険者とする保険契約の申込み
を受理する際は、被保険者の同意を得なければならない、③被保険者等への面接観査を行わないまま保険契約を締結してはならない、④保険募集人の認識・把握した顧客の健康状態について取扱者報告書により会社(かんぽ生命)に報告しなければならない、⑤保険募集人や家族などの第三者が申込関係書類への代書等(代書、署名又は記名押印)をしてはならない、
⑥保険募集の実態がない保険募集人を保険契約の受理者とすることによる販売実績の付替えを行ってはならない、⑦顧客に誤認を生じさせるような不適切な話法を用いてはならない、
⑧かんぽ生命本社の承認を得ることなく独自に作成、加工又は一部加工した募集関係資料等や使用期限が経過した募集関係資料等を所持及び使用してはならない、⑨高齢者募集に際しては、原則として家族等を同席させなければならない、とされている。
6 かんぽ生命の保険商品の申込関係書類審査及び引受手続
郵便局員によりかんぽ生命の保険商品の申込みが受理された後の、郵便局における申込関係書類審査及び引受手続の概要は以下のとおりである。
(1) 内務の責任者による申込関係書類の審査
まず、郵便局の窓口社員又は渉外社員は、保険契約者及び被保険者から保険契約申込書等又は被保険者同意書等を受理した後、当該申込関係書類を内務の責任者に引き継ぐこととされている。そして、内務の責任者は、当該申込関係書類を審査することとされている。ここでいう「内務の責任者」とは、①窓口業務を総括する部長を置かない郵便局においては、局内で窓口事務を行う者の中から局長(窓口業務を担当する副局長又は次長)が指定した者、
②窓口業務を総括する部長を置く郵便局においては、局内で窓口業務を行う者の中から同部長が指定した者(取扱者以外の者)をいう。
申込関係書類の審査において、内務の責任者は、申込みを受けた保険契約が締結されることにより当該保険契約に係る被保険者の加入限度額を超過することにならないか、申込書への署名・押印の有無、ご意向確認書における顧客の記載内容、高齢者募集時の家族等の同席の有無等を確認することとされている。
特に、高齢者募集時に、申込関係書類上、家族等の同席状況が「同席なし」とされている場合は、同席できない理由にチェックがあることを確認し、その際、高齢者の家族等の同席がなかったことが保険募集人の主観的な判断等によるものでないことを確認することとされている。
(2) 局(部)xx責任者による申込関係書類の査閲
内務の責任者は、申込関係書類の審査を終えた後、申込関係書類を、局(部)xx責任者に引き継ぐこととされている。ここでいう「局(部)xx責任者」とは、以下の者を指す。
①窓口業務を総括する部長を置かない郵便局においては局長(窓口業務を担当する副局長又は次長)(不在時は窓口業務を行う次席の社員)
②窓口業務を総括する部長を置く郵便局においては同部長(不在時は窓口業務を行う次席
の社員)
局(部)xx責任者による申込関係書類の査閲は、以下の内容及び観点で行うこととされている。
自防査33の内容 | 申込書類に基づき自防査に該当しないこと。 |
筆跡の確認 | 保険契約者等と保険募集人の筆跡が同一でないこと。 |
取扱者報告書情報の 自己契約・特定契約 | 取扱者報告書を確認し、自己契約又は特定契約に該当しないこと。 |
取扱者報告書情報の 構成員契約 | 取扱者報告書を確認し、構成員契約及び親族契約に該当しないこと。 |
被保険者不同意 | 申込書類で、被保険者不同意となっていること。 |
面接期間経過 | 申込書類で、面接期間経過となっていること。 |
電話番号入力状況の 確認 | 申込書類に基づく保険契約者及び被保険者の電話番号の入力状況及び 内容。 |
ご契約内容確認書の実施者の確認 | 満70 歳以上の保険契約者に対する募集態様について、家族等の同席等の取扱いが、「家族等説明(郵送)」、「管理者同行」、「電話等確認」又 は「窓口受理」の場合における同席等取扱いの実施者 |
また、局(部)xx責任者は「ご意向確認書」について、記載事項に漏れがないか、保険契約者又はその法定代理人の署名が申込書における筆跡と同一であるか、顧客記入欄の確認日が保険契約申込日以前の日付であるかをそれぞれ確認するとともに、保険契約者の意向と申込みを受けた保険商品の内容に疑義がある場合は、保険募集人に状況を確認することとされている。その他、査閲に当たって疑義が生じた場合、局(部)xx責任者は、保険募集人又は内務の責任者に確認し、申込書データの修正が必要と判断したときは内務の責任者に対して再審査を指示して、当該申込関係書類を内務の責任者に引き継ぐとともに、申込書データの修正を行った後に再審査を行わせることとされている。
(3) かんぽ生命の保険商品の引受手続
かんぽ生命の保険商品について、郵便局における申込審査の手続を了した後、申込関係書類が当該郵便局からかんぽ生命に送付され、引受手続が行われているところ、その手続は、大要、以下のとおりである。かんぽ生命の保険商品も含め、保険契約は一般に申込関係書類
33 「自契約」、「防契約」、「査契約」の総称であり、「自契約」とは、顧客から自発的に申込みがあり、保険金詐欺のおそれがある保険契約をいい、「防契約」とは、保険金目当ての殺人のおそれがあり、防犯上注意を要する保険契約をいい、「査契約」とは、保険契約者と被保険者の姓が異なる等、不適正な契約のおそれがある保険契約をいう。
の審査、引受審査を経て総合的な審査が完了した時点で、契約の成立可否が決定する。引受審査の過程で、病気の告知がある等、引受基準上引受けをすることができない場合には、契約が不成立となる。
まず、郵便局が顧客から受理した申込関係書類が、郵便局から、かんぽ生命の事務サービスセンター郵便運行ユニット(引受関連部門の一つ)を経由して、新契約部の新契約サービスセンター(以下「新契約SC」という。)34に送付される。
次に、新契約SC(書類審査ユニット)では、送付漏れの書類の有無等をシステムでチェックし、未到着書類があれば郵便局に対して不備について照会する(到着監査)。
その後、筆跡確認を含む記載内容の欠落等の有無を確認し、欠落等があれば郵便局に不備について照会する(書類確認)。
さらに、過去の契約情報を蓄積したホストシステムと接続し、顧客の入院前歴の有無等を確認する(機械監査)。
続けて、顧客の健康状態を確認する医的診査、加入限度額の超過の有無を確認する超契審査、モラルリスクの有無等を確認する環境審査を行う(引受審査)。
これらの医的診査、超契審査及び環境審査のそれぞれの審査結果を確認し、保険引受の可否を決定する(総合審査)。
その後、ホストシステムと接続し、顧客の入院前歴の有無等を確認する(機械監査)。
これらの結果、保険契約が成立する場合は、新契約SC から顧客に保険証券等を送付する。なお、新契約 SC における各種審査の過程で不適正募集の疑いが発覚した場合、新契約SC から募集管理統括部に不適正募集に係る調査依頼を行うこととされ、同部から支店に所属す
るかんぽサービスアシスタントに対して調査実施の指示が行われる。
7 保険募集人の営業手当及び人事評価の体系等
(1) 保険募集人の募集実績と営業関係の手当の関係ア かんぽ生命保険商品の保険募集人の給与と手当
保険募集人の給与は、基本給(固定給)部分と手当部分(営業手当及び諸手当)から構成される。手当のうち、営業手当は、販売実績のみにより換算される部分(営業手当の約70%)と、販売実績のほか契約保有率や懲戒処分の有無・程度を考慮して換算される部分(営業手当の約30%)から構成される。
2018 年度における日本郵便の渉外社員の場合、営業手当の給与全体に占める割合は、平均約25%とされている。かんぽ生命保険商品の募集を行う郵便局員の給与に占める営業手当の割合は、他の生命保険会社等の保険募集人と比べると、一般的に低く、固定給の割合が高い。
34 かんぽ生命による保険の引受けについては、かんぽ生命の新契約部が所管している。この新契約部は、仙台、東京、岐阜、京都、福岡に所在する①新契約SC と②かんぽ生命本社の企画部門から構成される。各地のSC は、郵政省時代の地方簡易保険局が改称された「簡易保険事務センター」を前身とし、郵政民営化後に「サービスセンター」と改称されたものである。各地SC において、事務、新契約、保険金等の所掌事務に対応し、事務SC、新契約SC、保険金契約SC 等が設置されている。
イ 渉外社員と窓口社員における給与及び営業関係の手当
渉外社員に対する営業関係の手当は、販売実績に応じて支給される営業手当のみであるが、窓口社員に対する営業関係の手当には、営業手当のほか、局内における同僚等へのサポート・後方支援等による営業への貢献度に応じて支給される手当(内務サポート手当)がある。
窓口社員において、営業手当の給与全体の占める割合は、渉外社員の場合よりも低く、例えば、ある郵便局における給与全体に占める営業手当の割合は、渉外社員が約20%から35%程度であるのに対し、窓口社員は約0%から10%程度であった。
2018 年度の渉外社員の年間給与の最高額は2,569 万円、最低額は249 万円35、平均額は655
万円であった。また、2018 年度の給与額が1,000 万円以上であった渉外社員は、渉外社員全体の約5%であった。
ウ 未加入者等加算
また、渉外社員か窓口社員かを問わず、かんぽ生命保険商品の募集を行う保険募集人への営業手当は、新規契約についての契約ごとの保険金額・保険料額に、商品別に設定された支給率を乗じることにより決定される。この営業手当の額は、獲得した新規契約の顧客が「未加入者」又は「青壮年層」等に該当する場合、1.1~1.3 倍の額に加算される。
エ 営業手当の返納
保険契約締結後の一定期間内に解約等により契約が消滅した場合は、保険募集人は期間に応じた営業手当を返納することとされている。2019 年3 月までは、この営業手当の返納を要する期間は、保険料払込から 24 か月以内とされていたが、同年 4 月以降、保険料払込から 36 か月以内とする取扱いに変更された。
また、不適正募集が行われた場合は、契約締結後の経過期間にかかわらず営業手当を全額返納する必要がある。
(2) 保険募集人の人事評価
保険募集人の人事評価は、昇給、昇格等に影響するところ、この人事評価においても、新契約保険料額ベースによる本人の営業目標を達成した場合に高い業績評価を受けることとされている。他方で、不適正募集による保険業法違反等のコンプライアンス上の問題を発生させた場合には、人事評価上マイナスの査定を行うこととされている。もっとも、後述第6,3のとおり、保険業法違反の有無は本人の自認が無ければ認定できないなど慎重な運用がされていることに照らすと、不適正募集を発生させた保険募集人を人事評価上マイナス査定の対象とする上記の基準が適用される場面は実際上限定的と考えられる。
管理者についても、所属組織において配下の保険募集人が不適正募集を発生させた場合、人事評価上マイナス査定の対象となり得るものの、これも、保険募集人当人の自認がなければ認定できない運用とされている。
35 休職等の理由で基本給が減額又は無支給となっているものは除く。
8 選奨その他のインセンティブ制度
(1) 選奨
ア 日本郵便における選奨制度
日本郵便では、毎年、前年の販売実績等に基づき、かんぽ生命保険商品の募集において、高額の実績を上げた保険募集人及び組織に対して選奨、すなわち販売実績等の一定の基準により選定された者に対する表彰等を行う制度を実施している。
イ 選奨の対象者
選奨の対象者は、渉外又は窓口においてかんぽ生命の保険商品の募集に関し、前年度の販売実績が高額である等、優れた実績を上げた保険募集人(個人選奨)又は組織(組織選奨)である。
ウ 選奨の内容
個人選奨では、表彰対象とされた保険募集人について、順位表が社内のポータルサイトに掲載された上で、かんぽ営業代表者会議等で表彰され、さらに、一部の者については海外研修の機会が与えられる。組織選奨では、表彰対象とされた組織が、かんぽ営業最高優績組織として認定される。以下では、個人選奨について詳細を述べる。
(ア) かんぽ営業代表者会議等での表彰
個人選奨としての表彰には、「かんぽ営業最高優績者」の表彰とルーキー・オブ・ザ・イヤー賞がある。
まず、各支社が設定した販売実績及び修正前特約保険料額の基準を達成した保険募集人は、支社においてかんぽ営業最高優績者として選考・決定される。かんぽ営業最高優績者として表彰される者は、毎年度、全国で 1,200 人程度以下とされている。さらに、かんぽ営業最高優績者のうちで特に優れた成果を上げた保険募集人 36については、日本郵便本社において特別選奨の選考が行われ、日本郵便とかんぽ生命の両社長より、渉外社員についてはダイヤモンド優績者(30 人)及びゴールド優績者(200 人)、窓口社員についてはルビー優績者(30人)及びパール優績者(70 人)の資格が認定される。2018 年度からは、渉外と窓口の区分を問わず、保険販売実績が全国上位10 人の社員はブルーダイヤモンド優績者として認定・表彰されることとなった。他方、ルーキー・オブ・ザ・イヤー賞については、保険募集人登録日から3 年未満の社員のうち一定の基準を超えた者全員(ただし、過去の受賞者は除く。)に対して授与される。
かんぽ営業最高優績者及びルーキー・オブ・ザ・イヤーに該当する保険募集人は、各支社によって開催される地方営業最高優績者等会議において表彰を受け、優績証書、優績章及び副賞として商品券2 万円(ルーキー・オブ・ザ・イヤーについては商品券に代えて記念品)が授与される。
かんぽ営業最高優績者のうち、ブルーダイヤモンド優績者(2018 年度以降)、ダイヤモンド優績者、ゴールド優績者、ルビー優績者、パール優績者並びにゴールド及びパールの優績
36 2016 年度の選奨時より、販売実績に加えて募集品質に関する基準も導入された。
基準を満たした者のうちの上位者(ただし、ゴールド優績者及びパール優績者を除く。)については、毎年10 月に日本郵便本社によって開催されるかんぽ営業代表者会議に参加する資格が与えられる。かんぽ営業代表者会議は全国各地のホテル等で開催され、日本郵便本社からは代表取締役社長、専務執行役員、常務執行役員等の経営幹部が出席し、かんぽ生命本社からは代表執行役社長、専務執行役、常務執行役等の経営幹部が出席する。
かんぽ営業代表者会議では、外部ゲストによる特別講話の後、かんぽ営業代表者認定式が行われ、表彰状及び記念品の授与がなされる。記念品としては、優績証書と優績章の他に、ブルーダイヤモンド優績者は商品券15 万円、ダイヤモンド優績者は商品券10 万円、ゴールド・ルビー優績者は商品券5 万円及びパール優績者は商品券3 万円(金額は2018 年度のもの)が贈呈される。かんぽ営業代表者認定式に引き続いて、意見交換会が行われる。
(イ) 海外研修
ダイヤモンド優績者及びルビー優績者のうち、それぞれ過去に2 回認定されている者については、かんぽ営業代表者会議の翌日から4 泊6 日の海外研修が実施される。研修先は、2014年度及び2015 年度はオーストラリア、2016 年度はシンガポール、2017 年度はハワイ、2018年度はシンガポールであった。
(2) その他のインセンティブ制度
上記(1)の選奨制度の他に、日本郵便本社、支社、かんぽ生命本社及び支店は、それぞれ営業推進や実績等の基準を達成した保険募集人及び組織を報奨するインセンティブ制度を実施している。これまでに実施されたインセンティブ施策としては以下のようなものがある。 ア 日本郵便本社
日本郵便本社は、営業推進率、保険販売実績及び募集品質等の基準を達成した組織に対して交際費や広告宣伝費を支給し、本社主催の推奨式に出席する資格を与える。また、保険販売実績と契約者未加入契約販売件数及び募集品質等の基準を達成した保険募集人個人に対して金券(商品券)を支給する。
イ 支社
日本郵便支社は、営業推進率、保険販売実績及び募集品質の基準を達成した組織に対して交際費や広告宣伝費を支給する。保険販売実績と契約者未加入契約販売件数及び募集品質の基準を達成した保険募集人個人に対して金券(商品券)を支給する。
ウ かんぽ生命本社
かんぽ生命本社は、上半期、年間等において、受持エリア内の郵便局等におけるかんぽ生命保険商品の販売額等が計画基準を上回ったエリア本部及び支店に対して交際費等を支給する。
エ 支店
かんぽ生命支店は、郵便局等に対して営業推進率、保険販売実績、募集品質等を活用し、一定の基準を定め、その基準を達成した組織に対して、かんぽ生命保険商品を周知するためのポケットティッシュやタオル等の販促物品を支給する。
9 かんぽ生命保険商品に係る保険募集人に対する主な研修や研究会の概要
(1) 営業に関する研修等
かんぽ生命及び日本郵便は、かんぽ生命の保険商品の募集を行う社員一人ひとりの営業力を向上させるための人材育成の取組みとして、新人社員に対する研修、販売実績の向上を目的とした研修や優績認定を見込める社員に対するKIP 研修37や管理者・役職者に対するマネジメント力の向上を目的とした研修などを実施している。
このうち、新人社員に対する研修については、生命保険募集に必要な保険知識・営業スキルを付与すること等を目的として、日本郵便が各支社に設置した営業力養成センター38において実施される。その後は、販売実績により区別され、特に年間販売実績が240 万円以上の渉外社員については、かんぽ生命及び日本郵便が、優績者を目指すために必要な保険知識・営業スキルの付与等を目的とした渉外KIP 研修(通常コース)を実施し、さらに年間販売実績が500 万円以上の渉外社員については、ダイヤモンド優績者・ゴールド優績者を目指すのに必要な保険知識・営業スキルの付与等を目的とした渉外KIP 研修(プレミアムコース)を実施している。他方、年間販売実績が一定額に満たない渉外社員については、商品知識、業務手順、アポイントメントのとり方のように個々の課題に応じた研修を、金融渉外本部長のエリア単位又は金融渉外部単位で対象者を選定の上、実施するものとされている。
また、金融渉外部長などの管理者等に対しては、日本郵便が、推進管理、社員の行動管理等、かんぽ生命の保険商品の営業の基礎的なマネジメントに関する知識やスキルの習得等を目的とした研修を実施している。
かんぽ生命や日本郵便が実施する上記の公式の研修以外にも、xxの保険募集人が自主的に勉強会等(以下「自主研究会」という。)を組織して、業務外で、営業の手法等に関する情報交換等を行っており、この自主研究会において、保険募集の際に用いる話法が保険募集人間で共有されていた。
(2) 募集品質に関する研修
かんぽ生命及び日本郵便は、かんぽ生命保険商品の募集品質の向上に向けた取組みとして、各郵便局に対し、DVD(保険業法の改正内容や顧客からの苦情を防止するための留意点等を解説したものなど)を用いた研修を実施するよう指導したり、保険募集人に対する年2 回の Web テストを実施したりするほか、2018 年度からは、各郵便局に対し、かんぽ生命が作成する適正な営業活動ガイドブックのケーススタディー等を用いた研修を月1 回以上実施するよう指導するなどしている。
37 KIX xは、「かんぽ育成プログラム」の略称で、かんぽ生命の広域エリアインストラクター又はエリアインストラクター、日本郵便の営業インストラクターが講師を務め、選抜された社員を対象にする集合研修のことをいうものとされている。
38 営業力養成センターとは、日本郵便支社の金融営業部に設置される組織であり、日本郵便の社員に対する金融業務に係る集合研修等を行っている。
第4 かんぽ生命における「乗換契約」の取扱い等
1 乗換契約特有の法的規制及び社内規則等
(1)乗換契約特有の法的規制等
「乗換契約」とは、一般に、既契約を解約等により消滅させて新規契約の申込みをさせ、又は新規契約の申込みをさせて既契約を消滅させる行為をいう。
乗換契約は、新たな保険契約の締結により、既契約にはなかった保障内容を得ることが可能となる反面、被保険者の加齢や予定利率の低下による保険料の上昇など、顧客にとって既契約にはなかった不利益が生じる可能性があるとされている。そのため、保険業法上、保険募集に関して一般的に適用される規制に加え、乗換契約特有の規制として、不利益事項の不告知の禁止が定められている。すなわち、保険会社、保険募集人は、「保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させる行為」をしてはならない(保険業法300 条1 項4 号39)。なお、この保険業
法300 条1 項4 号違反については、保険業法には罰則の定めはないものの、金融庁による業務改善命令、業務停止命令その他の行政処分の対象となり得る。
この保険業法300 条1 項4 号所定の「不利益となるべき事実」の具体例として、金融庁策定の「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」という。)では、「一定金額の金銭をいわゆる解約控除等として保険契約者が負担することとなる場合があること、特別配当請求権その他の一定期間の契約継続を条件に発生する配当に係る請求権を失うこととなる場合があること、被保険者の健康状態の悪化等のため新たな保険契約を締結できないこととなる場合があることなど」が挙げられている(監督指針II-4-2-2(7))。また、「不利益となるべき事実」の告知方法については、「顧客からの確認印を取り付ける等の方法により顧客が不利益となる事実を了知した旨を十分確認しているか」に留意すべきとされている(監督指針 II-4-2-2(7))。
(2) 乗換契約に係る勧誘の適切性を確保するための取組み等
乗換契約については、金融庁策定の「保険検査マニュアル」において、転換契約、高齢者に対する募集等と同様、「通常の募集以上に注意を要する募集」と位置付けられている(保険検査マニュアル「保険募集管理態勢の確認検査用チェックリスト」III.1.⑥(i))。
その上で、保険検査マニュアルでは、乗換契約に係る勧誘の適切性を確保するための取組みとして、「乗換契約(他社からの乗換契約を含む)・転換契約に係る勧誘の適切性について、例えば、サンプルチェック等により確認し、改善に向けた取組みを不断に行う態勢となっているか」に留意すべきとされている(保険検査マニュアル「保険募集管理態勢の確認検査用チェックリスト」III.2.⑥(iii))。
39 平成7 年の保険業法の全面改正時から存在する規定である。
(3) かんぽ生命の乗換契約に適用される社内規則
かんぽ生命では、乗換契約の取扱いについて、前記第3 の5 で述べた「(3) かんぽ生命保険商品の募集に関する主な社内規則」が適用される上、乗換契約に特有の事項として、保険契約者に明確な解約意思や契約内容を変更することへの強い意向がない場合は、乗換契約を受理することはできないこと等が定められている
2 かんぽ生命における乗換契約の取扱い
(1) 概要
かんぽ生命では、従来から新規の保険契約の募集を行った保険募集人について、月払保険料額が販売実績として計上され、これに伴う営業手当も支給されているところ、保険募集人が販売実績や営業手当欲しさを動機として、顧客の意向に沿わない形態での乗換契約の募集を行うことを防止するため、上記のように、保険契約者に明確な解約意思や契約内容を変更することへの強い意向がない場合に乗換契約を勧めることを禁止している。そして、適法なものとして許容される乗換契約を募集した場合にも、原則として、(下記イ記載の「乗換契約
(転換類似)」を除き)保険募集人には、販売実績の計上を認めず、手当も支給しないこととしている。
(2) 取扱いの変遷
既契約の解約を伴う新規契約への加入のうち、どのような態様のものが乗換契約に該当するかについて、保険業法上特段の定めはない。かんぽ生命においても、2001 年 4 月以前は、乗換契約の該当性に関する特段の判定基準はなく、販売実績及び営業手当とも、新規契約と同様に、販売実績が100%計上され、営業手当も100%が支給されていた。その後、かんぽ生命では、2001 年4 月に、乗換契約の該当性に関する判定基準を設け、これ以降、既契約の解約等が新規契約の契約日より前1 か月から当該新規契約の契約日の後3 か月までの間に行われたものを、乗換契約と判定している。これに伴い、乗換契約に当たっての新規契約の獲得時における営業手当はゼロとしつつも、販売実績は従前通り 100%計上することとした。この当時は、既契約と新規契約について被保険者が同一である場合が乗換契約と判定されていた40。また、既契約と新規契約の保険種別によって乗換契約の該当性の判定が異なっていた。例えば、保険から年金保険への乗換又は年金保険から保険への乗換は乗換契約とは判定されていなかった。41
しかし、かんぽ生命は、2010 年3 月下旬以降、以下の3 条件を全て満たす乗換契約に限り、
40 保険契約者及び被保険者が同一である場合、又は被保険者のみ同一である場合に乗換契約と判定されており、後述のとおり、2019 年 4 月以降、かんぽ生命では、保険契約者又は被保険者のいずれかが同一の場合には乗換契約として取り扱っている。
41 後述のとおり、かんぽ生命では、2019 年 4 月以降、全ての保険種別について乗換契約と判定することとしている。
「乗換契約(転換類似)」として取り扱い、新規契約受理時における販売実績の2 分の1 を保険募集人に付与することとした。この3 条件とは、①乗換契約と判定される期間(以下「乗換判定期間」という。)の範囲内(2010 年 3 月下旬時点においては、既契約の解約等が新規契約の契約日より前1 か月から当該新規契約の契約日の後3 か月までの間に行われたもの)における乗換契約であること、②既契約と新規契約について、保険契約者と被保険者の双方が同一の者であること(2010 年 3 月下旬時点)42、③既契約と新規契約の内容を比較する書面(新旧比較表)を用いて、新旧契約の比較説明をすることである。
この制度の下では、既契約の解約及び新規契約の締結が乗換判定期間外において行われる場合は、乗換契約ではなく、通常の新規契約締結と同様に、販売実績及び営業手当の全額が保険募集人に付与されていた。
①の乗換判定期間については、販売実績及び手当の全額計上を意図する保険募集人において、判定期間外に乗換を行い、新規の契約であるかのように装うという「乗換判定の潜脱」が行われるおそれがあった。そのため、かんぽ生命は、これを防止するべく、2010 年4 月に乗換判定期間を拡大し、既契約の解約等が新規契約の契約日より前1 か月から当該新規契約
の契約日の後6 か月までの間に行われるものを乗換契約として取り扱うようになった。これに伴い、かんぽ生命では、乗換契約について、原則として販売実績と手当の双方についてゼロとしつつ、例外的に、乗換契約のうち乗換契約(転換類似)に該当するもののみ、販売実績と手当の双方について、新規契約受理時の2 分の1 を計上することとした。
さらに、かんぽ生命では、乗換判定の潜脱を防止する観点から、2015 年4 月、更に乗換判定期間を拡大し、既契約の解約等が新規契約の契約日より前3 か月から当該新規契約の契約日の後6 か月までの間に行われるものを乗換契約として取り扱うようになった。もっとも、これによっても、既契約解約及び新規契約締結が拡大後の乗換判定期間の外で行われる場合は、従前同様、通常の新規契約として取り扱われた。この場合、販売実績及び営業手当の全額が保険募集人に付与されることとなり、この取扱いは現在も同様である。
また、かんぽ生命では、乗換契約と判定する対象の拡大について、以下のとおり、対象となる①保険種別の拡大と②契約形態の範囲拡大を行っている。すなわち、①保険種別の拡大について、2017 年 10 月からは、保険・年金保険と長寿支援保険の間で行われる新旧契約の解約・締結についても乗換契約として取り扱うようになり、2019 年4 月からは、既契約と新規契約の保険種別によって乗換契約への該当性を区別せず、保険・年金保険・長寿支援保険のいずれの保険種別の間で行われる新旧契約の解約・締結についても乗換契約として取り扱っている。
さらに、かんぽ生命では、②契約形態の範囲拡大について、2019 年4 月からは新旧契約について、保険契約者又は被保険者のいずれかが同一の場合には乗換契約として取り扱っている。43
42 被保険者のみ同一の場合は「乗換契約(転換類似)」に該当しないこととなる。
43 個人契約のみが対象であり、法人契約は対象外である。
上記の基準により乗換契約として取り扱われない場合は、新規契約と同様の取扱いとなる。すなわち、販売実績及び営業手当の全額が保険募集人に付与されることになる。
以上のとおり、前述の①保険種別の拡大により、想定される全ての類型が乗換判定対象とされることにより、保険募集人による意図的な募集態様によるものか否かにかかわらず、乗換判定を潜脱することが可能な類型がなくなったという点では、一定の評価に値する。もっとも、乗換判定の期間(既契約解約から新規契約締結までの期間、又は新規契約締結から既契約解約までの期間)に関しては、現在でも、乗換判定期間外の新規契約締結による乗換判定の潜脱が可能な状態であり、この点ではいまだに不十分と評価せざるを得ない。
第5 顧客からの苦情に係る対応
不適正募集の疑いが発覚する端緒の1 つとして、顧客から寄せられる苦情があるため、以下では、不適正募集の疑いを含む苦情の対応手続、他部署等への連絡方法及び顧客の救済の方法について記載する。
1 不適正募集の疑いに関する苦情の対応
(1) 苦情受理から新契約SC による無効・取消し手続への連携
かんぽ生命において、不適正募集の疑いを含む苦情は、基本的に、郵便局又はコールセンターで受け付けられ、コールセンターで受け付けた内容は、かんぽ生命のお客さまサービス室に引き継がれる。郵便局又はお客さまサービス室は、顧客等の苦情内容に保険契約の無効・取消しの申出が含まれる場合は、顧客の主張に根拠がないことが明白である場合を除き、新契約SC に引継ぎを行い、新契約SC は、当該申出に係る保険契約につき無効・取消しの対象となるか否かを判断するものとされている。新契約 SC による無効・取消しの判断は、保険募集人の供述内容を踏まえつつ、客観的事情に基づいて行うものとされている。
新契約 SC における 2014 年度から2018 年度までの期間の無効・取消しの決定件数は、おおむね250 件から450 件の間で推移している。
また、お客さまサービス室での対応が困難な場合は、当該苦情は、お客さまサービス室からかんぽ生命本社お客さまサービス統括部内に設置された「お客さま相談室」に引き継がれる。なお、この際の引継ぎの要否に関する具体的な基準は存在していなかった。
(2) 緊急案件対応部会における協議への移行
新契約 SC により保険契約の無効・取消し処理が行われない場合であって、契約者保護の観点から、契約関係を契約時に遡って解消する和解的な解決(合意解除)を図ることが適切と認められる場合には、お客さまサービス統括部長が、「緊急案件対応部会」(後記3 参照)に付議し、合意解除の処理を行うことがある。
緊急案件対応部会に付議される苦情は、お客さまサービス室での対応が困難でありお客さま相談室に引き継がれるものや無効要件は満たさないが合意解除による処理ができないか新
契約部等からお客さま相談室へ依頼があったものとされている。苦情に関する緊急案件対応部会への合意解除対象事案の付議については、お客さまサービス統括部内のお客さま相談室においてxx的に行っているところ、付議の要否について、実務上、統一的な基準は存在していなかった。
この緊急案件対応部会における2014 年度から2018 年度までの合意解除の決定件数は、お
おむね50 件から200 件の間で推移している。
なお、お客さまサービス室からお客さま相談室へ引き継がれた苦情件数の割合は、お客さまサービス室が受領した苦情件数の 1%未満にとどまっている。この割合の少なさからすれば、前記(1)のとおり、お客さま相談室への引継ぎに関して具体的な基準が存在していなかったため、お客さまサービス室から本来お客さま相談室への引継ぎがなされるべきものがなされていなかった可能性を否定できない。合意解除は、お客さま相談室から緊急案件対応部会への付議が契機の1 つとなるため、上記のように、不適正募集の疑いを含む顧客の苦情につき、仮にお客さまサービス室からお客さま相談室に引継ぎがなされていなかった場合、合意解除の判定手続にすら至らず、本来救済が検討されるべき顧客について対応が何ら行われないまま放置される事案が生じるおそれがある。
2 関係部署等への連絡
かんぽ生命のお客さまサービス統括部がお客さま相談室から連携を受けた苦情は、不祥事故等(後記第 6 の 3「不祥事件及び不祥事故の判定」参照)又はそのおそれのある事案に係る苦情、新規契約に関する苦情、高齢者からの苦情などの苦情内容に応じて、お客さまサービス統括部から、かんぽ生命の執行役、監査委員会事務局、コンプライアンス統括部、募集管理統括部などの関係部署に随時共有することとされている。
他方、日本郵便(郵便局)が受理した苦情は、前記 1(1)のとおり、xx的にはかんぽ生命に引き継ぐことにより対応されており、基本的に、日本郵便の関係部署への共有はされていない。
3 緊急案件対応部会における合意解除の協議
(1) 緊急案件対応部会の概要
緊急案件対応部会は、契約者保護をより重視する社会的動向の高まりを踏まえ、顧客からの苦情について、より迅速かつ柔軟な解決が図られるよう、その解決策の検討を行う関係部署による合議体を設立することを目的として、かんぽ生命により、2010 年 10 月に設置された。緊急案件対応部会は、お客さまサービス統括部長が部会長となり、新契約部、お客さま相談室、コンプライアンス統括部、募集管理統括部等関係部署の担当者及び社外弁護士が出席し、週1 回の頻度で開催されている。
(2) 合意解除対象案件及び合意解除の基準
合意解除とは、無効・取消しには該当しないものの、案件の内容、募集態様に照らして、
苦情申出に対する個別対応として、保険契約者との合意により保険契約を消滅させて無効・取消しと同様の効果を生じさせることをいう。緊急案件対応部会は、当該苦情に係る保険契約につき合意解除の対象とすべきか否かを協議する。
緊急案件対応部会では、個々の苦情に関して、具体的な事実関係を考慮して合意解除を行うか否かを決定している。
4 顧客から受理した不適正募集の疑いを含む苦情の状況
(1) かんぽ生命に対する苦情の推移
399,102
392,065
その他
2016.1
マイナンバー利用開始
新規契約
既契約(収納・保全)保険金
267,935
334,835
329,907
63,107
60,646
60,646
54,702
62,309
63,321
63,321
49,242
59273
苦情増加要因となったと思われるポイント
苦情減少要因となったと思われるポイント
186,530
88,877
93,551
45,141
44,159
71,722
93,551
2018.4
苦情分類の精微化
31,609
61,692
124,418
13,051
43,999
37,311
99,333
13,135
24,928
32,547
29,381
66,763
101,829
146,634
192,416
174,547
140,472
41,509
31,889
2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 2018年度
2017.4
苦情範囲の見直し
2012.3
苦情分類の徹底
2014.10
SATI全面移行
A2015.4 養老保険 加入年齢引上 | 2015.7 振込先口座への 自動振込開始 | 2015.10 終身保険 加入年齢引上 |
450,000
400,000
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
かんぽ生命が、2011 年度から 2018 年度までの期間に受理した苦情の総数及び内訳は、上記グラフのとおりである。
このグラフが示すとおり、かんぽ生命が受理した苦情総数は、2011 年度(18 万 6,530 件)から 2014 年度(39 万 9,102 件)まで一貫して増加傾向にあったが、2015 年度(39 万 2,065件、前年比約2%減)から減少に転じ、2017 年度には12 万4,418 件、前年比約63%というように大幅に減少している。この大幅な苦情減少については、かんぽ生命による2017 年4 月における「苦情範囲の見直し」が大きく寄与している。すなわち、それまでかんぽ生命は、顧客から受理した問合せのうち、否定的で好ましくない印象があるものも全て「苦情」に含めて分類してきたところ、生命保険業界では、保険契約、サービス内容、募集活動等に関して不満足の表明があったものが「苦情」と分類されていることなどを踏まえ、かんぽ生命においても、2017 年4 月に、顧客からの具体的な不満の表明があるものを「苦情」に含めて分類することとした。また、かんぽ生命は、2018 年4 月にも同様に、同一の顧客からの重複する苦情については 1 件と換算する等、「苦情分類の精緻化」を行った結果、2018 年度に受理した苦情件数が減少した。
前述のとおり、2015 年度以降、かんぽ生命が顧客等から受理した苦情の総数は、減少傾向にあったものの、主に契約加入に関する苦情を含む新契約関係の苦情は、2015 年4 月における養老保険の加入年齢の引上げ及び2015 年10 月の終身保険の加入年齢引上げに伴い、苦情総数が減少に転じた2015 年度及び2016 年度を含めても、2011 年度から2016 年度まで一貫して増加傾向にあった。また、前述のとおり、新契約関係の苦情が2017 年度以降に減少に転じたのは、2017 年4 月においては「苦情範囲の見直し」として、さらに、2018 年4 月においては「苦情分類の精緻化」として、苦情の換算基準を変更したことによる影響が大きいと思われる。上記のような苦情件数の推移及びこれに対する会社の対応に照らすと、苦情件数という指標の削減それ自体が目的化しており、苦情という形で表明された顧客の不満の原因となる事象を分析し、xx的原因を除去しようとする姿勢・態勢が十分ではなかったと思われる。
(2) かんぽ生命に対する高齢者苦情の推移
かんぽ生命が、2011 年度から 2018 年度の期間に高齢者から受理した苦情の総数及び内訳は、上記グラフのとおりである。
このグラフが示すとおり、かんぽ生命が受理した高齢者(70 歳以上)である顧客の苦情総数は、2011 年度(7,516 件)から2015 年度(7 万 3,950 件)まで一貫して増加傾向にあり、 2016 年度(6 万9,869 件、前年比約6%減)から減少に転じ、2017 年度には2 万4,879 件、前年比約64%の減少となった。この増減の傾向は、前述の苦情総数の推移とおおむね一致している。
高齢者から受理した苦情件数については、2014 年度(前年比約 128%の増加)及び 2015
年度(前年比約63%の増加)の増加が著しい。
前述のとおり、2016 年度以降、高齢者から受理した苦情総数は減少傾向にあったが、苦情
のうち、主に契約加入に関する苦情を含む新契約関係の苦情は、苦情総数が減少に転じた
2016 年度を含め、2011 年度から2016 年度まで一貫して増加傾向にあった。また、前記(1)の
とおり、新契約関係の苦情が 2017 年度以降減少に転じたのは、2017 年4 月の「苦情範囲の見直し」及び2018 年4 月の「苦情分類の精緻化」により苦情の換算基準を変更したことによる影響が大きいと思われる。このように、前記(1)と同様に、高齢者苦情の件数の推移及びこれに対する会社の対応に照らすと、高齢者苦情の件数という指標の削減それ自体が目的化しており、苦情という形で表明された高齢者顧客の不満の原因となる事象を分析し、xx的原因を除去しようとする姿勢・態勢が十分ではなかったと思われる。
なお、新契約に関する高齢者苦情の内訳としては、2016 年度から 2018 年度までの期間には、保険に加入した覚えがない場合や保険に加入する意図がないにもかかわらず加入させられた場合など加入認識がない旨の苦情(特に郵便貯金の説明と保険の説明とを混同した旨の苦情が多い。)や保険料額に関する苦情が、「その他」の苦情を除いた上位2 つの苦情項目となっている。
(3) かんぽ生命が受理した苦情の状況に関する他の民間生命保険会社との比較ア 苦情受理件数及び苦情発生割合等の比較
他社比較 : 苦情件数および苦情発生状況
2017年度 | かんぽ | A社 | B社 | C社 | D社 | 4社平均発生割合 | ||||||
苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | |||
新契約関係 | 37,311 | 2.15% | 6,126 | 0.17% | 3,737 | 0.34% | 5,061 | 0.44% | 6,397 | 0.73% | 0.42% | |
既契約関係 | 32,547 | 0.10% | 29,960 | 0.10% | 12,525 | 0.09% | 16,106 | 0.13% | 24,105 | 0.20% | 0.13% | |
収納関係 | 10,063 | 0.03% | 5,698 | 0.02% | 2,375 | 0.02% | 3,026 | 0.03% | 3,906 | 0.03% | 0.02% | |
保全関係 | 22,484 | 0.07% | 24,262 | 0.08% | 10,150 | 0.07% | 13,080 | 0.11% | 20,199 | 0.17% | 0.11% | |
保険金関係 | 41,509 | 0.69% | 7,459 | 0.30% | 6,185 | 0.27% | 7,725 | 0.20% | 15,098 | 0.70% | 0.37% | |
その他 | 13,051 | 0.04% | 15,965 | 0.05% | 18,618 | 0.14% | 11,008 | 0.09% | 15,071 | 0.13% | 0.10% | |
合計 | 124,418 | 0.37% | 59,510 | 0.20% | 41,065 | 0.30% | 39,900 | 0.33% | 60,671 | 0.52% | 0.34% | |
2018年度 | ||||||||||||
かんぽ | A社 | B社 | C社 | D社 | 4社平均発生割合 | |||||||
苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | |||
新契約関係 | 24,928 | 1.46% | 6,074 | 0.12% | 3,311 | 0.07% | 4,601 | 0.40% | 5,385 | 0.68% | 0.32% | |
既契約関係 | 29,381 | 0.09% | 26,067 | 0.08% | 10,714 | 0.06% | 15,304 | 0.12% | 22,532 | 0.19% | 0.11% | |
収納関係 | 8,340 | 0.03% | 4,437 | 0.01% | 2,041 | 0.01% | 2,816 | 0.02% | 3,400 | 0.03% | 0.02% | |
保全関係 | 21,041 | 0.07% | 21,630 | 0.07% | 8,673 | 0.05% | 12,488 | 0.10% | 19,132 | 0.16% | 0.10% | |
保険金関係 | 31,889 | 0.53% | 6,778 | 0.27% | 5,382 | 0.23% | 7,269 | 0.19% | 12,755 | 0.59% | 0.32% | |
その他 | 13,135 | 0.04% | 16,177 | 0.05% | 15,464 | 0.09% | 11,111 | 0.09% | 14,740 | 0.13% | 0.09% | |
計 | 99,333 | 0.31% | 55,096 | 0.17% | 34,871 | 0.20% | 38,285 | 0.31% | 55,412 | 0.47% | 0.29% |
注:苦情発生割合を計算する際の分母
・ 「新契約関係」については新契約件数、「既契約関係」については保有契約件数、「保険金関係」については保険金支払件数、「その他」については保有契約件数、「合計」については保有契約件数を使用。
かんぽ生命以外の各社については、各社のウェブページ等で公表されている情報を使用。
注:苦情発生割合を計算する際の分子の苦情数
・ かんぽ生命以外の各社については、生命保険協会ウェブページで公開されている苦情数を使用。
上記の表は、2017 年度及び 2018 年度における苦情件数及び苦情発生割合について、かんぽ生命の状況を他の生命保険会社4 社と比較したものである。総保有契約件数に占める苦情の割合は、かんぽ生命の苦情発生割合が若干高いものの、両者で大きな差異は認められないのに対し、苦情の内容に着目すると差異が認められる。すなわち、かんぽ生命では、「新契約関係」の苦情の発生割合が、両年度ともに他の生命保険会社4 社の平均値よりも高く、特に、主に契約加入に関する苦情を含む「新契約関係」の苦情発生割合(2017 年度は約2.15%、2018年度は約1.46%)は、他の生命保険会社4 社の苦情発生割合の平均値(2017 年度は約0.42%、 2018 年度は約0.32%)の4 倍超と相当高い数値となっている。
確かに、苦情発生率の母数となる総保有契約件数の換算方法については、例えばかんぽ生命では、主契約と特約をそれぞれ1 件と換算するのに対し、他社はこのように換算していないなど、各社ごとに取扱いが異なる可能性があるものの、これが主因となって新契約関係の苦情が他の生命保険会社に比べて多くなっているという点に着目するよりも、上記の苦情発生状況を受けて、新契約関係の苦情の内容について精査をすることが望まれる対応であった。そこで、次に、新契約関係の苦情の他社比較について検討する。
イ 新契約関係の苦情の比較
他社比較 : 苦情件数および苦情発生状況 - 新契約関係 -
2017年度 | かんぽ | A社 | B社 | C社 | D社 | 4社平均発生割合 | |||||
苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | ||
不適切行為疑い | 10,039 | 0.58% | 519 | 0.01% | 1,517 | 0.14% | 412 | 0.04% | 383 | 0.04% | 0.06% |
説明不十分 | 6,539 | 0.38% | 1,297 | 0.04% | 1,427 | 0.13% | 1,130 | 0.10% | 1,420 | 0.16% | 0.11% |
事務取扱不注意 | 279 | 0.02% | 527 | 0.01% | 379 | 0.03% | 371 | 0.03% | 447 | 0.05% | 0.03% |
契約確認 | 2,465 | 0.14% | 134 | 0.00% | 1 | 0.00% | 267 | 0.02% | 260 | 0.03% | 0.01% |
契約引受関係 | 5,417 | 0.31% | 107 | 0.00% | 155 | 0.01% | 205 | 0.02% | 440 | 0.05% | 0.02% |
証券未着 | 711 | 0.04% | 106 | 0.00% | 48 | 0.00% | 27 | 0.00% | 225 | 0.03% | 0.01% |
その他 | 11,861 | 0.68% | 3,436 | 0.10% | 210 | 0.02% | 2,649 | 0.23% | 3,222 | 0.37% | 0.18% |
2018年度 | |||||||||||
かんぽ | A社 | B社 | C社 | D社 | 4社平均発生割合 | ||||||
苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | 苦情件数 | 発生割合 | ||
不適切行為疑い | 3,042 | 0.18% | 600 | 0.01% | 1,346 | 0.03% | 358 | 0.03% | 266 | 0.03% | 0.03% |
説明不十分 | 4,490 | 0.26% | 1,450 | 0.03% | 1,174 | 0.03% | 863 | 0.07% | 1,148 | 0.14% | 0.07% |
事務取扱不注意 | 117 | 0.01% | 411 | 0.01% | 359 | 0.01% | 327 | 0.03% | 377 | 0.05% | 0.03% |
契約確認 | 2,115 | 0.12% | 112 | 0.00% | 5 | 0.00% | 260 | 0.02% | 209 | 0.03% | 0.01% |
契約引受関係 | 4,534 | 0.26% | 99 | 0.00% | 178 | 0.00% | 163 | 0.01% | 323 | 0.04% | 0.01% |
証券未着 | 294 | 0.02% | 158 | 0.00% | 47 | 0.00% | 31 | 0.00% | 171 | 0.02% | 0.01% |
その他 | 10,336 | 0.60% | 3,244 | 0.07% | 202 | 0.00% | 2,599 | 0.22% | 2,891 | 0.36% | 0.16% |
上記の表は、2017 年度及び 2018 年度においてかんぽ生命及び他の生命保険会社 4 社が受
理した「新契約関係」の苦情の内訳を示したものである。
2017 年度及び2018 年度のいずれにおいても、かんぽ生命の苦情発生割合は、「事務取扱不
注意」を除く全ての項目で他の生命保険会社4 社の平均値よりも高くなっていた。特に、「不適切行為疑い」に関しては、かんぽ生命の苦情発生割合(2017 年度は 0.58%、2018 年度は 0.18%)は、他の生命保険会社4 社の苦情発生割合の平均値(2017 年度は0.06%、2018 年度は0.03%)の約6 倍から 10 倍という高い数値となっている。また、「説明不十分」に関しても、かんぽ生命の苦情発生割合(2017 年度は0.38%、2018 年度は0.26%)は、他の生命保険会社4 社の苦情発生割合の平均値(2017 年度は0.11%、2018 年度は0.07%)の3 倍超の高い数値となっていた。
(4) 苦情対応等に対する評価
以上に述べたように、かんぽ生命では、会社に対する顧客の不満の表明ともいえる苦情について、分析及びこれに対する改善策への活用が不十分であったと言わざるを得ない。すなわち、かんぽ生命のお客さまサービス統括部で集約された苦情は、前述のとおり、保険金、既契約(収納・保全)、新契約及びその他の4 つの項目に分類されている。そして、保険募集時における不適正な募集行為に関する苦情は、「新契約」の項目の苦情における小分類である
「不適切行為疑い」、「説明不十分」に分類していたところ、かんぽ生命では、乗換契約に係る不適正募集の疑いや多数契約募集に係る不適正募集の疑いといった観点からの分類は行ってこなかった。
他方で、かんぽ生命では、高齢者募集に関する苦情については、保険金、既契約(収納・保全)、新契約及びその他の4 つの項目への分類をした上、苦情増加要因と苦情減少要因等の分析を行っている。高齢者募集に関する苦情について、新契約関係の苦情の件数が多くなっており、その内訳としては、保険に加入した覚えがない場合や保険に加入する意図がないにもかかわらず加入させられた場合など加入認識がない旨の苦情が多かった。かんぽ生命はこのような状況に対して、高齢者募集時における家族同席の義務づけ等の施策を講じており、一定の対策を講じてきたといえる。しかしながら、加入認識がない旨の苦情等については、乗換契約その他の不適正募集の問題が潜在する可能性があるとは捉えていなかった。そもそも、保険契約への加入の認識がないというのは、保険募集時に顧客が理解できるような態様で意向把握や情報提供が行われていないということに起因することが多いと思われ、必ずしも高齢者募集特有の問題ではないといえる。したがって、前述のような新契約に関する苦情の内容を更に精査していれば、乗換契約や多数契約募集といった他の類型の不適正募集においても同様の問題が発生していないか、「加入認識がない」との苦情に伏在する事象の究明につなげることができた可能性があったと思われる。
今般の乗換契約に係る特定事案調査においても、実際に「保険募集人に言われるがまま」加入の認識なく加入しているとの回答が多く寄せられている。特に、乗換契約については、金融庁においても、高齢者に対する募集等と同様に、「通常の募集以上に注意を要する募集」と位置付けていること(保険検査マニュアル「保険募集管理態勢の確認検査用チェックリス
ト」III.1.⑥(i))に照らせば、高齢者募集への対処と比して、乗換契約への対処としては十分ではなかったと思われる。
第6 不適正募集事案に対する調査及び処分
1 不適正募集の調査の端緒
かんぽ生命において、不適正募集の疑いが発覚し、調査を行う端緒としては、顧客からの苦情以外にも、発生した事務事故44に関する会社への報告、内部通報等が存在する。
2 調査手続の概要
かんぽ生命及び日本郵便において、顧客から不適正募集等の疑いを含む苦情を受理した場合の調査手続の流れは、おおむね以下のとおりである。
まず、①保険契約者その他の関係者から、苦情の申出に係る情報が、かんぽ生命お客さまサービス統括部からかんぽ生命コンプライアンス統括部に提供される(前記第 5 の 2「関係部署等への連絡」)。コンプライアンスの観点から疑義がある案件についてはかんぽ生命コンプライアンス統括部内の調査担当が調査の要否を判断している。そして、調査が必要と判断した場合、当該案件の保険契約を受理した郵便局の所在地を受持区域とするかんぽ生命のエリアコンプライアンス室に調査を指示する。これを受けてエリアコンプライアンス室は、顧客調査を行うとともに、当該保険契約を受理した募集人に対する調査(以下「募集人調査」という。)を実施している。不適正募集の疑いが高い事案については、エリアコンプライアンス室は、日本郵便支社に駐在する地方コンプライアンス室と連携して募集人調査を実施している。
3 不祥事件及び不祥事故の判定
顧客調査と募集人調査の結果を踏まえて、かんぽ生命エリアコンプライアンス室において保険業法その他の法令違反や保険募集に関する社内規則違反の有無の判定を行う。その際、保険業法違反(情報提供義務違反、意向把握義務違反、重要事項不告知など)その他の法令等の違反(詐取、横領等の犯罪)若しくは社内規則違反又はこれらのおそれのある事案は「不祥事故等」に該当するものとされ、コンプライアンス統括部に報告される。「不祥事故等」のうち、例えば、情報提供義務違反、意向把握義務違反、重要事項不告知など、保険業法施行規則85 条5 項45に該当するとコンプライアンス統括部が判定したものは、「不祥事件」とし
44 事務事故とは、役職員が正確な事務を怠ることにより発生した事故等をいう。
45 保険業法施行規則85 条5 項
5 第一項第十七号に規定する不祥事件とは、保険会社、その子会社若しくは業務の委託先、保険会社、その子会社若しくは業務の委託先の役員若しくは使用人(生命保険募集人及び損害保険募集人である者を除く。)、保険会社若しくはその子会社の生命保険募集人若しくは損害保険募集人又はそれらの役員若しくは使用人が次の各号のいずれかに該当する行為を行ったことをいう。
一 保険会社の業務を遂行するに際しての詐欺、横領、背任その他の犯罪行為
て金融庁に届出を行う必要がある。これに対して、かんぽ生命が、「不祥事故等」のうち、不祥事件に該当しないと判定したものについて、「不祥事故」として判定した場合、かんぽ生命は、当該保険募集人に対して、後記4(2)に述べる社内規程等に基づき処分を検討する。なお、本報告書では、不祥事件及び不祥事故を総称するものとして、「不祥事故等」の語を用いることとする。
従来から、かんぽ生命では、不祥事件及び不祥事故に係る事実認定に際して、顧客等からの聴き取りに基づく不適正募集の疑いについて、その事実があったと認める供述、すなわち
「自認」が得られていることが不可欠であり、基本的に、保険募集人が自認していない場合には、仮に、保険募集人の言い分が顧客の主張に反していたとしても、不祥事件及び不祥事故のいずれとも判定していなかった。
その結果、かんぽ生命は当該保険募集人に対して、所属保険会社として行う生命保険募集人業務廃止(後記4(2)参照)等の募集人処分を行わず、当該保険募集人は引き続き募集活動を行うことが可能となっていた。
この点、かんぽ生命保険商品の募集に関して、日本郵便コンプライアンス室が2018 年度に
行った募集人調査の件数は 3,011 件であり、そのうち保険募集人が自認したのは、その 1 割
にも満たない246 件であった。この246 件全てについて不祥事件又は不祥事故との判定が行
われたものの、残りの 2,765 件について、非該当との判定がなされ、当該保険募集人には、かんぽ生命による募集人処分も日本郵便による人事上の懲戒処分も行われなかった。
4 不適正募集に対する処分
(1) 日本郵便における保険募集人に対する懲戒処分
日本郵便では、「不祥事故等」を発生させた保険募集人に対しては、同社の規程に基づき人事上の懲戒処分を行っている。懲戒処分の種類としては、懲戒解雇、諭旨解雇、停職、減給、戒告、訓戒、注意がある(日本郵便懲戒規程)。日本郵便による保険募集人に対する懲戒処分は、かんぽ生命による不祥事件又は不祥事故の判定が行われていることが前提条件となっており、その上で、いずれの懲戒処分が行われるかは、不祥事故等の内容、手口及び結果の重大性並びに日本郵便における平素の指導状況及び不祥事故等の後における措置状況を考慮し
二 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和二十九年法律第百九十五号)に違反する行為
三 法第二百九十四条第一項、第二百九十四条の二若しくは第三百条第一項の規定、法第三百条の二において準用する金融商品取引法第三十八条第三号から第六号まで若しくは第九号若しくは第三十九条第一項の規定若しくは第二xx十四条の二十一の二第一項の規定に違反する行為又は法第三百七条第一項第三号に該当する行為
四 現金、手形、小切手又は有価証券その他有価物の紛失(盗難に遭うこと及び過不足を生じさせることを含む。以下同じ。)のうち、保険会社の業務の特性、規模その他の事情を勘案し、当該業務の管理xxxな紛失と認められるもの
五 海外で発生した前各号に掲げる行為又はこれに準ずるもので、発生地の監督当局に報告したもの六 その他保険会社の業務の健全かつ適切な運営に支障を来す行為又はそのおそれのある行為であって前各号に掲げる行為に準ずるもの
た上で、決定される。具体的には、日本郵便がかんぽ生命から受託した保険募集の業務に関して生じた不祥事故等については、保険募集人の故意過失の有無や行為の重大性に応じて、決定されている。
また、不適正募集を発生させた郵便局の管理者等についても、日本郵便懲戒規程によれば、指導不十分、検査等過怠等の行為が戒告、訓戒、注意等の懲戒処分の対象となり得るが、実際の懲戒処分の運用は、後記7 記載(不祥事件に関するもの)のとおりとなっており、基本的に、不適正募集を発生させた郵便局の管理者等については、懲戒処分等は行っていない。
(2) かんぽ生命による日本郵便の保険募集人に対する処分
日本郵便の保険募集人につき「不祥事故等」の疑いが発覚し、保険契約者やその家族等からの苦情を受理した場合、かんぽ生命コンプライアンス統括部における募集人調査が必要と判断された段階から、日本郵便は、当該保険募集人の募集業務を一時的に停止している。その上で、事案に応じて、かんぽ生命は以下の処分を行っている。
ア 不祥事件に判定された場合
かんぽ生命による日本郵便の保険募集人に対する処分には、以下のとおり、生命保険募集人の業務を廃止する処分及び厳重注意がある(不祥事故等取扱規程)。
かんぽ生命では、保険募集人の募集行為が保険業法その他の法令の違反と判定され、不祥事故等のうち、不祥事件と判定した場合、当該保険募集人に対し、原則として、生命保険募集人の業務を廃止する処分(以下「生命保険募集人業務廃止処分」という。)を行っている。そして、かんぽ生命が生命保険募集人業務廃止処分を行った場合、かんぽ生命から金融庁長官への募集業務の廃止の届出が行われ、これに伴い当該生命保険募集人の募集人登録は効力を失う。
これに対して、かんぽ生命では、事案の重大性が低いなどの例外的な場合には、当該保険募集人に対して厳重注意を行う場合もある。
なお、かんぽ生命により不祥事件と判定された場合、日本郵便は当該保険募集人に対して、前述のとおり、基本的に懲戒処分を行っている。
イ 不祥事故と判定された場合
かんぽ生命において、保険募集人の募集行為について、保険業法その他の法令の違反であるとの認定はされなかったものの、不祥事故と判定された場合には、原則として、当該保険募集人に対して、生命保険募集人業務廃止処分は行われず、募集人処分として厳重注意の処分を行っている。
前記のとおり、日本郵便により募集業務が停止された保険募集人については、募集業務の停止の原因となった不祥事故等が不祥事件に該当しないことが明らかになった場合、又は当該不祥事故等についての懲戒処分が執行された場合46は、募集業務を再開することができる。
なお、かんぽ生命により不祥事故と判定された場合、日本郵便は当該保険募集人に対して、
46 懲戒処分を行わない旨の決定がされた場合も含まれる。
基本的に懲戒処分を行っている。
ウ 不祥事件及び不祥事故のいずれにも該当しないと判定された場合
かんぽ生命において、生命保険募集人の募集につき、不祥事件及び不祥事故のいずれにも該当しないと判定した場合は、何らの処分も行っていない。この場合、日本郵便により懲戒処分を行わない旨の決定がされた段階において、当該保険募集人は募集業務を再開することできる。
そして、かんぽ生命により、不祥事件又は不祥事故のいずれにも認定されなかった事案については、かんぽ生命による生命保険募集人業務廃止処分又は日本郵便における人事上の懲戒処分の対象にはならず、かんぽ生命及び日本郵便のコンプライアンス委員会、経営会議等への報告はなされていない。この場合、顧客との関係では、当該事案における保険契約について、無効・取消しとする取扱い、又はかんぽ生命及び顧客との間での合意解除がなされること等を通じて、私法的な救済が図られている。
5 不祥事件又は不祥事故の発生後のかんぽ生命及び日本郵便における報告体制
かんぽ生命では、「不祥事故等」が発生した場合は、その発生状況、件数等について、コンプライアンス統括部から、毎月、コンプライアンス委員会及び経営会議に報告するものとされ、また、四半期ごとに取締役会に報告するものとされている。
また、コンプライアンス統括部において、不祥事件及び不祥事故のうち、経営に重大な影響があるものと判断した事案については、代表執行役社長、コンプライアンス委員会、経営会議及び取締役会に報告するものとされている(不祥事故等取扱規程(会社編))。
しかしながら、かんぽ生命では、実際には、不祥事故等のうち金融庁への届出を要する事案、すなわち不祥事件のみが、経営に重大な影響があるものと判断され、上記のような報告の対象とされている。この報告がなされる場合にも、通常は事案の概要のみが簡潔に報告されている。他方、不祥事故については、その内容にかかわらず、かんぽ生命では、経営に重大な影響があるものとは判断せず、通常、その内容につき上記の報告は行われていない。
日本郵便においても、「不祥事故等」が発生した場合は、その発生状況、件数等について、コンプライアンス統括部から、毎月、コンプライアンス委員会及び経営会議に報告するものとされ、また、四半期ごとに取締役会に報告するものとされている。
6 不適正募集に係る再発防止策の策定
かんぽ生命において、不祥事件及び不祥事故に係る原因の分析は、コンプライアンス統括部が行っている(当委員会のヒアリングによる。)。他方、不祥事件及び不祥事故を契機とするものも含め、不適正募集全般に対する再発防止策については、募集管理統括部が策定を行っている。PDCA サイクルを回すためには、本来、再発防止策の策定に当たっては、調査を踏まえた原因分析に対応した実効的な方策が検討されるべきであるため、調査を行った部署で行うことが望ましいところ、募集管理統括部における再発防止策の策定については、個別の不祥事件及び不祥事故に係る原因分析の結果を踏まえて行われているわけではない。
7 過去5 年の乗換契約等に関する不祥事件の分析
当委員会は、2014 年度から 2018 年度までの過去 5 年間の不適正募集事案のうち、金融庁に対して届出がなされている不祥事件(108 件 47)を対象に、これらの資料の提供を受け、分析を実施した。また、2019 年度についても、基準日までに上記届出がなされた事案 24 件についても、資料の提供を受け、これを精査した。
(1) 違反事由、不適正募集の類型、処分内容に係る傾向ア 違反事由、不適正募集の類型
不祥事件届出事案のうち、①(xxの)情報提供義務違反に係る事案が過半数を占め、最も割合が高い。また、②意向把握義務違反に係る事案と③乗換契約における不利益事項の不告知に係る事案は、基本的に、いずれも単独での違反とされることはなく、①の(xxの)情報提供義務違反を伴っている。
③の乗換契約における不利益事項の不告知(保険業法300 条1 項4 号違反)を違反事由とする不祥事件を含め、乗換契約の場面において生じた不祥事件は、作成契約に係る事案に次いで高い割合を占めている。とりわけ、②の意向把握義務違反は、乗換契約の際に生じた事案の半数以上を占めている。また、乗換契約の際における上記不祥事件届出事案には、旧契約の解約の可否、解約可能時期、新契約の締結可能時期等について虚偽の説明又は誤解を与える説明をするなど、その態様によっては、虚偽告知禁止規定(保険業法300 条1 項1 号)
の違反又は誤解告知禁止規定(保険業法施行規則234 条1 項4 号)の違反に該当し得るものが含まれていた。
不祥事件届出事案の中には、乗換契約の場面において、顧客にとって経済合理性を欠き不利益が生じているおそれがあると考えられる事案も複数確認された。
また、不祥事件届出事案のうち、高齢者が契約者や手続者48等となった事案が4 割以上を占めており、乗換契約の場面において生じた不祥事件に限れば、高齢者に対する保険募集の事案が半数以上を占めていた。
さらに、不祥事件届出事案のうち、同一の者を保険契約者として、被保険者(保険契約者の親族等)を異にする多数の保険契約に加入させる事案については、契約数が5 件以上である事案を抽出したところ、16 件認められ、このうち保険契約者等が高齢者であるものが7 件と半数近くを占めている。
イ 処分内容
不祥事件を発生させた保険募集人に対するかんぽ生命の行う処分の内容に関しては、2016年度以前は、生命保険募集人業務廃止処分と厳重注意が混在していたのに対して、2016 年度以降は、基本的に生命保険募集人業務廃止処分が行われている。
47 108 件中3 件は、かんぽ生命の支店の営業職員が発生させた不祥事件である。
48 高齢者が、保険契約の契約当事者ではないものの、保険契約者や被保険者に代わって(場合によっては保険契約者や被保険者の与り知らないまま)契約手続を行う事案が相当数存在した。
不祥事件を発生させた保険募集人に対する日本郵便における懲戒処分に関しては、停職、減給が大部分を占めている。他方、懲戒解雇は、2014 年度に 4 件、2015 年度に 3 件、2016年度に1 件、2017 年度に1 件、2018 年度に2 件であり、そのほとんどは詐取、横領等の犯罪事案である。
保険募集人の管理者(郵便局長、金融渉外部長等)に対する日本郵便における処分は、懲戒処分の中で最も軽い口頭注意が最も多い。
(2) 不祥事件届出書記載の再発防止策等
不祥事件届出書中には、当該個別事案における保険募集人の動機、事案発生の原因、及び再発防止策が列挙されている。このうち、不適正募集に関する不祥事件届出の事案の再発防止策について見ると、ほとんど同一の内容が届出書中に繰り返し列挙されており、これは、届出当時に会社として実施継続中であった施策又は実施予定であった施策を記載したものにすぎない。こうした届出書中の記載からは、これまでの不祥事件の届出事案において、当該事案固有の原因を分析し、その結果を踏まえた再発防止策を検討するというPDCA サイクルを回してきた形跡はうかがわれない。
また、上記の再発防止策は、事案の周知、注意喚起、指導、集合研修等に偏重しており、特に指導が多い。これらに照らすと、実効的な対応策を検討したものと評価できない。
さらに不祥事件の届出事案における保険募集人の管理者への処分状況を見ても、届出書中では、研修・指導等の履行や書面の形式的なチェックを行っていた事実があれば、基本的には管理者として行うべき点検・検査及び指導等が適正に行われたものと評価され、その結果として、管理者に対する処分は、口頭での注意その他の軽微な処分にとどまったり、処分なしとされる傾向にある(当該管理者自身が不適正募集を行った場合を除く。)。
8 過去5 年の乗換契約等に関する不祥事故の分析
不祥事故等報告書(不祥事件に該当しない不適正募集である不祥事故について日本郵便からかんぽ生命に提出された報告書)により2014 年度から2018 年度までの過去5 年間に報告された不祥事故の件数は、835 件であり、そのうち、乗換契約に関する不適正募集と分類される不祥事故は少なくとも116 件であったところ、当委員会は、これについて精査した。
(1) 不祥事故の具体例
2014 年度以降の不祥事故等報告書における乗換契約に関する不祥事故のうち、経済合理性を欠くなどの不利益が生じた可能性がある事案の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
①終身保険から終身保険への乗換契約であり、保障内容は変わらず保険料額が上昇するもの
②満期が近づいている既存の養老保険から新規の養老保険への乗換
③予定利率が高く、保険料の払込も完了しているなど、資産価値の高い既契約について解約を伴う乗換契約を行ったもの
④契約種類が同一の乗換契約であって、特約の中途付加又は特約のみの解約が可能であるにもかかわらず、乗換契約を行ったもの
⑤保険料の減額の要望について保険金額の減額変更による対応が可能であるにもかかわらず乗換契約を行ったもの
⑥同一の保険契約者(高齢者)について短期間に既契約の減額・解約と新規契約の締結が行われているもの
⑦保険募集人が既契約の解約可能時期又は新規契約の締結可能時期について誤導を行い、結果として保険期間の重複又は無保険の期間が生じたもの
⑧乗換判定を潜脱し通常の新規契約と同様の販売実績の付与を受けること等を目的として、保険募集人が意図的に手続上の操作を行ったもの49
(2) 再発防止策等との関連性
不祥事故のみならず、不祥事件についても同様であるが、便宜上ここに併せて記載すると、不祥事故等の原因分析はかんぽ生命コンプライアンス統括部が行うこととされているが、かんぽ生命募集管理統括部による再発防止策の策定は、同部で行った募集品質に関する苦情等の分析を踏まえて行われるとされており、個別の不祥事故等の発生及び個別の不祥事故等の原因分析の結果を受けて行われるものではない。そのため、PDCA サイクルが機能しておらず、かんぽ生命募集管理統括部による再発防止策の策定は、かんぽ生命コンプライアンス統括部による個別の不祥事故等に係る事実認定、不祥事故等判定、及び原因分析を全く考慮しない形で行われていた。
9 不祥事件・不祥事故非該当事案(無効・合意解除事案等)の処理等に関する分析
(1) 無効・合意解除事案の件数の推移
かんぽ生命において、無効事案とは、苦情申出を端緒とした契約内容の錯誤を原因等として無効とされる事案をいい、合意解除事案は、無効には該当しないものの、案件の内容、募集態様に照らして、苦情申出に対する個別対応として、保険契約者との和解により保険契約を消滅させて無効と同様の効果を生じさせるものをいう。
2014 年度から2018 年度までの無効事案の決定件数は、2014 年度が245 件、2015 年度が330
件、2016 年度が448 件、2017 年度が460 件、2018 年度が432 件である。
2014 年度から2018 年度までの合意解除事案の決定件数は、2014 年度が46 件、2015 年度が101 件、2016 年度が203 件、2017 年度が177 件、2018 年度が166 件である。
このうち、直近 2 年の 2017 年度及び 2018 年度の無効・合意解除事案を分析したところ、
その8 割超は不祥事件又は不祥事故と判定されなかった事案であった。その背景としては、保険募集人からの自認が得られなかったこと等により不祥事件又は不祥事故と判定されなか
49 既契約と新規契約の被保険者が同一とならないように解約対象の既契約を選別すること、同一人である保険契約者について別人名義で受理すること等
った事案であって、顧客の被害態様等に照らしてその救済の必要性が高いものが、無効・合意解除の対象とされる傾向が存在した。50
(2) 不祥事故等非該当事案の内訳
当委員会は、不祥事件又は不祥事故と判定されなかった事案(以下「不祥事故等非該当事案」という。)のうち2018 年度の緊急案件対応部会において合意解除と判定された事案の提供を受け、主に乗換契約により顧客に不利益を与えた事案を中心に分析を行った。
不祥事故等非該当事案には、①認知症、視覚障害等により判断能力の低下した保険契約者
(乗換契約の場合は既契約者)に対して、保険契約者が理解しないままに乗換契約の不利益事項の説明その他の情報提供を行い、乗換契約その他の契約加入をさせた事案、②保障内容についての保険契約者の意向を十分に踏まえないまま乗換契約その他の契約加入をさせた事案、③保険契約者の収入・資産の状況を確認しないまま、乗換契約等により高額な保険料支払を要する新規契約に加入させた事案が含まれていた。51
これらの事案の中には、乗換契約その他の契約加入に当たって保険業法上義務づけられる情報提供、意向把握、不利益事項の告知が行われなかったことについて保険募集人の自認が得られず、この点についての顧客側の主張と保険募集人側の主張が対立する場合であっても、書面の記載内容と加入後の契約内容、顧客の加入状況、新旧契約の契約内容、保険料負担額、顧客の収入・資産状況を示す事情(預貯金残高等)、顧客の認知能力等の客観的な事実から、顧客の理解に資する形での情報提供や実質的な意向把握等がされていないと推認され、保険業法上の義務(情報提供義務、意向把握義務等)に違反し不祥事件に相当する事案も複数認められた。また、保険募集人の否認供述と対立関係にあるこれらの客観的事実に照らし、保険募集人の否認供述の信用性を厳しく吟味して、募集人調査の徹底及びこれを踏まえた不祥事件・不祥事故の判定を行うことが望ましい事案もあった。
第 7 本契約問題発覚前までの不適正募集の防止に向けたかんぽ生命及び日本郵便の取組みと評価
50 かんぽ生命によれば、前述のように、無効・合意解除事案は、かんぽ生命において年間500~600 件程度発生するが、他の生命保険会社では年間にほとんど発生していないとのことである。
51 具体的には、ア 解約・新規締結を繰り返しつつ累計30 件以上の保険契約に加入させ、これらの保険契約には新旧契約で全く同じ保険種類のものが多数存在するほか、必要保険料総額も1 億7,000 万円以上となる多数契約募集(かつ乗換契約)の事案、イ 同一の契約種類での乗換契約や保険種類を変更した数年後にまた以前と同一の保険種類に戻った乗換契約のほか、異なる保険種類での乗換契約においても、終身保険から養老保険への乗換契約等、一般的な顧客のニーズからすると乗換の必要性に疑義がある乗換契約や、終身年金保険から定期年金保険への乗換契約等、既契約に比べて保障水準が下がっている乗換契約の事案も存在した。また、既契約について保険料の払込みが完了しており、かつ保険契約者が無職で収入がないにもかかわらず解約して乗換契約を行う等、顧客が解約による不利益を被ってまで乗換契約をする意向があったか疑問であった事案も存在した。
1 不適正募集の防止に向けた取組み
かんぽ生命に限らず、生命保険業界にとって、保険商品販売に関する不適正募集問題は、古くからの重大な課題であった。当然かつての簡易生命保険についてもその種の問題はあり、かんぽ生命においても、民営化当初から同様であった。ただ、高金利環境にあっては、簡易生命保険やかんぽ生命保険における主力商品であるいわゆる貯蓄型保険は、支払保険料を上回る満期返戻金が得られるなどの事情から、問題が顕在化することがさほど多くはなかった。しかし、近年の低金利環境にあっては、保険料に比し満期返戻金は少なく、その点での顧客からの期待に応えることは困難である。さらに、社会の高齢化が進み、かんぽ生命の顧客層はますます高齢化している。そうした状況の中で、近年、意向把握義務や保険募集人の体制整備義務等を新設した改正保険業法が施行され、また、金融庁による指導等も強化されてきた。
こうした中で、かんぽ生命及び日本郵便は、上記の金利環境の変化や2015 年の養老保険・終身保険の加入年齢の引上げ等による苦情等の増加、上記の2016 年5 月の改正保険業法の施行、2017 年3 月の金融庁による「顧客本位の業務運営に関する原則」の発出等、様々な環境の変化や要請(下表参照)に対して、以下に記載する不適正募集防止のための取組みも含めた施策により対処してきた。
時期 | 事実関係 |
2008 年7 月 | かんぽ生命、「入院特約 その日から」を販売開始 |
2013 年7 月 | かんぽ生命、募集管理統括部を設置 |
2014 年4 月 | かんぽ生命、学資保険「はじめのかんぽ」の販売開始 |
2015 年4 月 | かんぽ生命、養老保険の加入年齢上限の引上げ(普通養老保険:75 歳 から80 歳) |
2016 年4 月 | 日本郵便、本社金融業務部内に募集管理統括室を設置 |
2015 年10 月 | かんぽ生命、終身保険の加入年齢上限の引上げ (定額型:65 歳から85 歳、その他:それぞれ5 歳ずつ引上げ) |
2016 年5 月 | 平成26 年改正保険業法施行 |
2016 年8 月 | かんぽ生命、保険料額改定(予定利率1.5%から1.0%) |
2017 年1 月 | かんぽ生命及び日本郵便、「かんぽ募集品質改善緊急対策本部」を設置 |
2017 年3 月 | 金融庁、「顧客本位の業務運営に関する原則」を発出 |
2017 年4 月 | かんぽ生命、保険料額改定(予定利率1.0%から0.5%) |
2017 年10 月 | かんぽ生命、「医療特約 その日からプラス」を販売開始 |
2017 年10 月 | かんぽ生命、長寿支援保険の販売開始 |
2017 年12 月 | かんぽ生命及び日本郵便、「募集品質向上に向けた総合対策」の策定と の実施開始 |
2018 年4 月 | NHK、「クローズアップ現代+(プラス)」を放送 |
本契約問題発覚までのかんぽ生命及び日本郵便における不適正募集の防止に向けた取組みにつき、高齢者募集、多数契約募集、乗換契約の類型ごとに記載すると、その概要は以下のとおりである。
(1) 高齢者募集
かんぽ生命では、高齢者(満70 歳以上の者)からの苦情と高齢者を対象とした不適正募集が増加しているという状況に対し、2011 年度以降、保険募集時に、高齢者募集における家族等の同席を推奨していたという取扱いを改めて、家族等の同席を原則義務化し、その徹底を図るなどした。
その後、2015 年4 月に養老保険の加入年齢の引上げ、及び2015 年10 月に終身保険の加入年齢の引上げが行われた際、この影響により高齢者からの苦情が増加したという状況を踏まえ電話での対応が困難又は架電を嫌う傾向にある高齢者についても全ての契約申込みに対して契約内容の確認を実施するため、2016 年4 月から、「ありがとうコール」52による高齢者への早期架電に代えて、高齢の顧客に対して、書面による「お申込内容確認のご案内」(高齢者レター)を郵送する取扱いを実施することとした。
さらにかんぽ生命では、2018 年4 月のNHK クローズアップ現代+の報道後にも、高齢者の顧客からの苦情が依然として発生している状況に対応するため、高齢者募集の適正化を図る観点から、後記2 の「募集品質向上に向けた総合対策」の一環として、2019 年4 月からは、満80 歳以上の高齢者に対する積極的な勧奨の原則停止、契約申込み前の熟慮期間(シンキングタイム)の設定といった施策を実施している。
(2) 多数契約募集
2016 年 5 月に意向把握義務の規定を含む平成 26 年改正保険業法が施行されたところ、かんぽ生命では、これを踏まえ、2016 年 10 月から、保険契約者が高齢者である新規契約の申込みのうち、払込保険料が高額であること等、一定の条件を満たす場合は、かんぽ生命新契約部新契約 SC における引受審査を一時保留し、申込内容が当該高齢者顧客の意向に沿ったものであるかをエリアコンプライアンス室が確認することとした。
その後、かんぽ生命では、①2015 年度以降の不祥事件を発生させた保険募集人の過去の募集活動を確認した結果、同一の保険契約者について解約等による契約消滅と新規契約の締結を繰り返していた事案が発覚したこと、②2017 年1 月から行われた保険募集人に対する調査の結果、多数契約募集に関して3 件の不祥事故が発覚したこと、③2017 年5 月に開始された多数契約の保険契約者に対する意向等の確認・調査において、不祥事件となった事案及び合意解除、撤回等となった事案が判明したこと、④2018 年4 月からの確認・調査の結果、調査対象となっていた保険契約者の家族からの既契約に関する苦情申告を機に不適正募集の発覚に至った事案が発生したこと等を受けて、払込保険料額、締結件数、消滅件数等に照らして
52 契約成立後に顧客に架電して意向や契約内容の確認等を行うサービスをいう。
一定の基準に該当する事案に対する調査及び意向確認、かかる調査・意向確認の対象範囲の逐次拡大、並びに郵便局における募集事前チェック機能の新設等の施策を実施している。
(3) 乗換契約
かんぽ生命は、2008 年7 月から医療特約の新商品(「入院特約 その日から」53)の販売開始を機に乗換契約が急激に増加した状況に対し、金融庁からの要請等を踏まえ、2010 年4 月に、「乗換契約(転換類似)」の制度を導入し、乗換契約用の意向確認書を作成すること、2009年10 月から、既契約と新規契約の比較対査に係る説明をすることをそれぞれ実施した。
その後、かんぽ生命では、乗換契約(転換類似)の導入後に、乗換判定期間外で乗換判定期間の直近の時期に行われる既契約の解約等の件数が増加していること、乗換契約の件数が増加する一方で成約後の保険契約が有効に維持保有されている割合(保有率)が減少傾向にあること等の状況に対し、乗換判定(期間、保険種類、契約形態)の逐次拡大、保険募集人ごとの「募集品質カルテ」の作成及びこれに基づく指導、並びに保有率を考慮した募集手当の算出等の対策を講じた。
また、2017 年 3 月に金融庁から「顧客本位の業務運営に関する原則」が発出されたところ、かんぽ生命では、失効・解約の発生率が増加しているという状況にあったことに対応するため、2017 年7 月から、乗換契約を含めた解約の申込みの際に「解約時ご留意事項確認書」54を交付する取扱いを、一部の郵便局において試行し、その後、「募集品質向上に向けた総合対策」の一環として、2018 年4 月から本格実施した。
さらに、かんぽ生命は、2017 年 10 月から長寿支援保険 55の販売を開始し、これに合わせて、保険・年金保険と長寿支援保険の間で行われる新旧契約の解約・締結についても乗換契約と判定するようになった。
同じ時期にかんぽ生命では、新たな医療特約(「医療特約 その日からプラス」)の販売を開始したところ、これ以降、乗換契約が多数発生していたとの状況に対して、「募集品質向上に向けた総合対策」の一環として、2018 年 10 月から、乗換契約が減少した場合に日本郵便に代理店手数料を支払う手数料体系に改定する取扱い、2019 年4 月から乗換判定(契約形態)の拡大等を行った。
2 募集品質向上に向けた総合対策
(1) 概要
2017 年12 月から、かんぽ生命と日本郵便により「募集品質向上に向けた総合対策」(以下
「総合対策」という。)が策定された。その内容としては、大きく、①点検・調査対象の拡大、②高齢者に対する意向確認の強化、③無効・合意解除に対する指導の強化、④募集品質
53 短期の入院費用に対応できるよう、入院1 日目に入院保険金を受け取れる医療特約
54 解約請求時に不利益事項を顧客に理解してもらうために使用する書面
55 老後の生活資金の確保のニーズに応えるため、死亡保障を行わず、長生きした場合の受取保険金総額を大きく設定している年金保険
カルテの導入、⑤選奨基準の見直し(3 年間保有率等の基準を追加)、⑥保有率による評価(保有率を営業指標に設定)、⑦乗換判定対象の拡大、⑧営業推進管理の見直しが挙げられる。
かんぽ生命は、上記1 の施策を講じる中、かんぽ生命保険商品の募集に関して依然として下記(2)に記載の状況にあることを踏まえ、不適正募集の根絶及び苦情減少を目的として、 2017 年1 月に募集品質向上緊急対策本部を設置し、その後、これまでの個別の施策による単発的な対応ではなく、総合的な柱立てをもって対応する観点から、2017 年 12 月から、総合対策を進めてきた。
総合対策は、上記1 の不適正募集の防止に向けた取組みのうち、不適正募集が根絶できていないこと、募集態様に関する苦情のうち約7 割が高齢者苦情であるとの苦情実態、撤回による締結前消滅の頻発、未入金解除等による短期消滅の頻発といった課題を受けて、不適正募集の根絶、苦情リスクの逓減、営業・業務効率の向上、契約維持を通じた保有契約の反転・成長といった形での募集品質の向上を図ろうとするものであった。
(2) 総合対策の策定の経緯
かんぽ生命及び日本郵便は、不適正募集の防止のための対策として上記1 の施策を講じる中、2016 年度の募集品質に係る徴表となる指標につき、依然として、前年度の2016 年度(②についてのみ2017 年度第1 四半期)において、①法令違反に該当する不適正募集(不祥事件)の件数が15 件、②募集態様に関する苦情の発生率が0.69%、③無効・合意解除の発生件数が 651 件、④契約後13 か月の継続率が95.1%、契約後25 か月の継続率が90.0%、⑤撤回・被保険者不同意・面接期間経過の発生率が 4.1%、⑥未入金解除・1P 失解 56の発生率が 1.0%、
⑦乗換契約の発生件数が36.6 万件、⑧料済・減額の発生件数が5.8 万件であるというような状況を認識していた。かんぽ生命及び日本郵便は、これらの課題を解決することを目的として総合対策を策定した。
また、かんぽ生命は、①から⑥について、他の保険会社と異なり、②の募集態様に関する苦情の発生率が0.01%から0.14%であり、③の無効・合意解除はほとんど発生しておらず、
④の契約後13 か月の継続率は96.0%程度、契約後25 か月の継続率は92.0%程度であり、⑤の撤回・被保険者不同意・面接期間経過の発生率は大半の会社で 1%未満であり、⑥の未入金解除・1P 失解はほとんど発生していないことを認識していた。このように、かんぽ生命の募集品質は、顧客からの不満の表明である②から⑥の全てについて、他の保険会社よりも悪い状況にあった。このうち、特に③無効・合意解除については、前述のとおり、保険募集人からの自認が得られなかったこと等により不祥事件又は不祥事故と判定されなかった事案であっても、不祥事件に相当するような重大な事案も多く認められるものであり(前記第6,9
(2))、その発生状況は、他の保険会社と比べて格段に悪い状況にあった。また、⑦の乗換契約は、転換制度を採用している他の多くの国内の生命保険会社では、当然に発生しない。
56 第1 回保険料の払込後、第2 回保険料の払込みがないまま、その保険契約が失効することをいう。
かんぽ生命及び日本郵便は、総合対策の策定に当たって、このように他の保険会社との比較の下で、上記のような状況を認識していた。
(3) 総合対策の実施状況
ア 「募集品質」の指標項目
上記(2)の課題認識を受けて実施される総合対策においては、「募集品質」を測る指標となる評価項目(KPI)は、(i)不適正募集(不祥事件)、(ii)募集態様に関する苦情、(iii)無効・合意解除、(iv)継続率、(v)撤回、(vi)未入金解除 57・1P 失解 58、(vii)乗換、(viii)料済 59・減額 60、から構成されている。
これらの評価項目はいずれも、毎年度、客観的な数値により定量的に把握される。すなわち、(i)不適正募集の評価項目は、金融庁に届出を要する不祥事件の件数として、(ii)募集態様に関する苦情の評価項目は、会社公表値を元に算出した苦情発生率として、(iii)無効・合意解除の評価項目は、無効・合意解除事案の件数として、(iv)継続率の評価項目は、契約後 13 か月間及び契約後25 か月間の契約継続率として、(v)撤回の評価項目は、撤回の発生率として、 (vi)未入金解除・1P 失解の評価項目は、未入金解除・1P 失解の発生率として、(vii)乗換の評価項目は、乗換契約の発生件数として、(viii)料済・減額の評価項目は、料済・減額の発生件数として、それぞれ把握される。
これらの評価項目については総合対策により達成すべき数値として、(i)不適正募集については不祥事件を根絶(0 件)すること、(ii)募集態様に関する苦情については苦情発生率を定常的に0.05%以下とすること、(iii)無効・合意解除については申込後1 年以内の事案発生を根絶(0 件)すること、(iv)継続率については3 年間保有率を96%程度とすること等の目標値が掲げられている。
イ 施策の具体的内容
総合対策は、上記アの募集品質の指標項目に関する目標値の達成を目指して実施されるところ、2017 年 12 月の実施以降、本契約問題の発覚までに、総合対策として採られた具体的な施策の例は以下のとおりである。以下では、高齢者募集、多数契約、乗換契約のそれぞれに分類して記載する。
(ア) 高齢者募集
かんぽ生命では、NHK クローズアップ現代+の報道後も高齢者の顧客からの苦情が依然と
57 未入金解除とは、第1回保険料の払込みがないまま払込猶予期間を経過したことによる保険契約の解除をいう。
58 1P 失解とは、第1 回保険料の払込後、第2 回保険料の払込みがないまま、その保険契約が失効し(1P
失効)、又は解約されること(1P 解約)をいう。
59 料済とは、保険料払済契約への変更のことであり、保険料の払込みを中止し、それまで払い込んだ保険料に見合う額に保険金額を減額する方法である。顧客が将来の生活環境の変化等により保険料の払込みが難しくなった場合に活用される。
60 減額とは、保険金額の減額変更のことであり、保険金額及び特約保険金額を減らすことにより、以後の保険料を少なくする制度をいう。
して発生している状況を受け、高齢者募集の適正化を図る観点から、総合対策の一環として、
2019 年4 月から、以下の施策を実施することとなった。
①保険契約者が満80歳以上の高齢者でありかつ被保険者が満70歳以上の高齢者である場合、又は保険契約者が満 80 歳以上の高齢者でありかつかんぽ生命保険商品に未加入である場合は、積極的な勧奨を停止するとともに、契約申込を受理した場合も販売実績としては計上しないこと
②満80 歳以上の高齢者に対する保険募集においては契約申込み前の熟慮期間(シンキングタイム)を設け、保険募集人が契約内容を説明した日の翌日以降でなければ契約申込みが受理されないシステムを導入
③満70 歳から満79 歳までの高齢者募集においても、管理者等が同行することによる方法及び管理者等から電話確認することによる方法は認めないこととし、高齢者顧客について登録された家族等に対して申込みに関する書面(契約内容のご案内)を送付(家族登録がされていない場合はかんぽ生命社員による保険契約者への意向確認を実施)
(イ) 多数契約
かんぽ生命では、総合対策の一環として、2018 年4 月から、①多数契約の保険契約者に対する意向等の確認・調査の対象を拡大し、(i)既契約(払込満了契約を除く。)の合計払込保険料額が20 万円以上であって、既契約が複数件消滅している高齢者(満70 歳以上)の保険契約者からの新規の契約申込みがあった場合、(ii)払込保険料額が 10 万円以上(締結した週ごとに合算)であって、払込方法が窓口払いの高齢者の保険契約者からの新規の契約申込みがあった場合、(iii)過去5 年間に15 件以上の新規契約が成立し、かつ、既契約が複数件消滅している保険契約者からの新規の契約申込みがあった場合、又は(iv)契約者貸付と新規契約の申込みの時期が近接している保険契約の消滅後、同一の保険契約者から消滅後1 年以内に新規契約の申込みが受理された場合、のいずれかに該当する場合に、当該保険契約者に意向等を確認する取扱いとし、2019 年4 月からは、②不利益発生のおそれが類型的に高いと認められる一定の条件(顧客からの申出の内容から保険募集を控えるべきと判断される顧客、多数契約者、過去に無効・合意解除となった顧客)を満たす保険契約者からの新規契約の申込みに当たって、その申込みの受理前に、保障設計書及び申込書の作成手続を一時保留し、第三者
(募集人の管理者又はかんぽ生命)の承認後に申込手続を再開するシステム機能(募集事前チェック機能)の新設、及び③金融庁から、過去5 年間の契約件数が多い保険契約者(上位 50 人)を報告するよう求められたこと等を受けて、2019 年5 月から、過去5 年間の契約件数が多い保険契約者のうち高齢者を対象とした意向等の確認・調査をそれぞれ実施することとした。
(ウ) 乗換契約
かんぽ生命では、総合対策の一環として、2018 年4 月から、①全国の郵便局(単独マネジメント局。エリアマネジメント局については2019 年1 月から)において、解約の申込みに当たって「解約時ご留意事項確認書」を交付する取扱い、及び②保有率を日本郵便の各支社の営業指標に設定する取扱いを、2018 年7 月から、③ありがとうコールによる契約後の顧客へ
の架電の対象を、新規契約の契約日より前3 か月から6 か月の間で行われる既契約の解約等又は新規契約の契約日の後6 か月から9 か月の間で行われる既契約の解約等を行った顧客に拡大する取扱い、及び2018 年10 月から、④乗換契約が減少した場合に日本郵便に代理店手数料を支払う手数料体系に改定する取扱いをそれぞれ実施することとした。
また、かんぽ生命では、総合対策の一環として、2019 年4 月から、⑤従前の取扱い(新旧契約について、保険契約者及び被保険者が同一である場合、又は被保険者のみ同一である場合に乗換契約と判定する)を改め、新旧契約について、保険契約者又は被保険者のいずれが同一であっても(双方が同一であっても、いずれか一方が同一であっても)乗換契約と判定する取扱い、⑥保有率に代えて、消滅率(成約後の保険契約が失効・解約等により消滅した割合)を日本郵便の各支社の営業指標に設定する取扱い、⑦保険募集人の選奨基準として、保有率(3 年間)に代えて、消滅率(3 年間)の評価項目を設ける取扱い、⑧保険募集人に対して保有率を考慮して募集手当を支給する取扱いをそれぞれ実施することとした。
上記のほかには、無効・合意解除事案を発生させた保険募集人及びその管理者に対する指導の強化、募集品質指導専門役の増員により、無効・合意解除事案を発生させた保険募集人に対する指導態勢の強化、保険募集人の販売実績計上のタイミングについて顧客からの申込受理時ではなく、それより後の面接観査や被保険者の同意完了時に販売実績を確定的に計上する取扱いの実施等がある。
3 転換制度及び条件付解約制度が導入されなかった経緯等
(1) 転換制度が導入されなかった経緯等
ア 郵政民営化後、これまでにかんぽ生命が転換制度を導入してこなかった理由
郵政民営化後、かんぽ生命は、転換制度と類似する制度として「保険金額の増額等変更制度」を創設し、同制度は郵政民営化前と同様の制度を引き継いだ。しかし、同制度(及び同制度と同様の郵政民営化前の制度)による取扱実績は郵政民営化前から極めて少なかったこと、及び郵政民営化当初はかんぽ生命の保有契約が少なく、また同制度の対象となる新商品もなかったことから、システム改正等の費用をかけてまで同制度を維持する必要性は乏しいと判断し、かんぽ生命は、「保険金額の増額等変更制度」を廃止し、2010 年10 月2 日以降を契約日とする新規契約については同制度を適用しないこととした。
その後、しばらくは新商品がなかったことから、従来と同様、有期型(保険期間10 年程度)の養老保険等がかんぽ生命の取扱保険商品の多くを占めていた。かんぽ生命は、これらの保険商品は保険期間が比較的短期間であることから保険期間中に保障内容を見直すニーズは相対的に少ないとの認識のもと、転換制度を導入する必要性は大きくないと判断していた。 イ かんぽ生命における転換制度の検討状況
その後、超低金利環境の長期化による貯蓄性の高い主力保険商品の魅力低下に伴い、保障性を重視した終身保険に医療特約を付加した契約の販売の割合が高まってきた。また、特に 2017 年 10 月以降、新たな医療特約(「その日からプラス」)の発売に伴い、乗換契約の発生
が増加した。かんぽ生命は、こうした状況のもと、2017 年 12 月以降、他の生命保険会社に倣い、転換制度の導入について検討を開始した。
2017 年12 月頃から2018 年8 月頃まで、かんぽ生命の経営層、商品開発委員会、商品開発部、募集管理統括部等の関係各部において転換制度について議論が行われたところ、商品開発部からは、経営層に対して、大要、保障見直しのニーズに応える顧客本位の制度として転換制度の創設も考えられること、一方で、乗換契約に起因する問題への対策としては乗換契約(転換類似)に係る販売実績及び募集手当の見直しという手段もあること、転換制度は乗換契約(転換類似)と比較して長所と短所の双方があること、また、かんぽ生命の現状の商品ラインナップ、過去に廃止した「保険金額の増額等変更制度」の利用実績の少なさ、さらに、システム改正コストの大きさ(当時の概算で約25 億円程度)を踏まえると、加入限度額や商品認可に係る規制の撤廃後に活用が期待できる制度と捉え、中長期的な事案として検討していくことが報告された。
その後、2018 年10 月に、かんぽ生命の募集管理統括部から、「乗換契約(転換類似)についての販売実績・募集手当等の評価の見直しに当たり、日本郵便の労働組合との交渉を円滑に進めるために転換制度の導入ができないか」との提案が行われ、かんぽ生命では、転換制度についてより早期の実施を目指す検討が開始された。この検討に当たり、かんぽ生命商品開発部は、転換制度の導入に必要な事務・システム要件やシステム改正コストの見積り等について経営層に報告した。
これらを踏まえて、2018 年 12 月に、商品開発部から、転換制度の導入時期は、2021 年 4
月を目指して検討することが現実的である旨報告された。
かんぽ生命では、2019 年3 月の役員打合せにおいて、募集品質向上に向けた総合対策の今後の取組みとして、「転換制度の導入(2021 年4 月以降)」が募集管理統括部から報告された。その後、2019 年5 月に、商品開発部から経営層に対する転換制度導入に向けたスケジュー ル及び対応範囲についての報告を経て、経営層の打合せにおいて、転換制度の導入時期につ
いて、2021 年4 月以降の早い段階での導入を検討することとなった。
(2) 条件付解約制度が導入されなかった経緯等
ア これまでにかんぽ生命が条件付解約制度を導入してこなかった理由
かんぽ生命に寄せられた、「現状、新規契約の医的診査の結果、引受謝絶となった場合でも、解約した既契約を復元できないため、既契約を復元できるようにできないか」との顧客からの要望に対して、かんぽ生命では、2016 年3 月のお客さまサービス向上委員会において、新契約部から「申込受理前に引受可否を確認できる仕組み等について、他の施策との兼ね合いも見ながら検討中」との対応方針が示されたが、しかし、2016 年6 月の同委員会では当初の対応方針が変更され、2016 年11 月の同委員会では、「申込受理前に引受可否を確認できる仕組み等については費用対効果等を勘案し、実施しないこととする」との対応方針変更案が承認された。
このように、これまでかんぽ生命が条件付解約制度を導入してこなかった理由は、主にシ
ステム開発コストを含めた費用と制度の利用可能性・頻度との兼ね合いから費用対効果が十分に見込めないと判断していたためであり、実際に、商品開発部は、システム要件が未確定でかつ実施の可能性も低い条件付解約のシステム開発について、2017 年 11 月まで、システム部門に対する見積り依頼を控えていた。
イ かんぽ生命における条件付解約制度の検討状況
かんぽ生命では、前記アの2016 年11 月のお客さまサービス向上委員会における条件付解約に係る対応方針の変更に関し、要望に対する改善になっていないのではないかという意見が複数の委員から表明され、関係各部で再度検討することとなった。
その後、2017 年 11 月に至り、商品開発部から担当役員に対し、システム開発コスト(概算で5 億円から10 億円)の説明、及び顧客に対する継ぎ目のない保障を実現するための、転換制度の導入に次ぐ施策としての条件付解約制度の提示を行ったところ、一定の事務・システム態勢の整備が必要であり、システム開発コストが依然必要となることから、他の商品・商品制度への対応等との優先順位も踏まえつつ、継続して検討することとされた。
その後、かんぽ生命では、後述のように、金融庁から2019 年5 月28 日付けで「募集品質
に係る諸問題にかかる報告について」と題する報告の徴求を受けたことを機に、同年6 月20日の経営会議において、募集品質向上に向けた総合対策の追加対策として、条件付解約制度の導入を組み入れることにつき募集管理統括部から報告された。
4 これまでの取組みに対する評価
本契約問題の発覚までに採られた上記1 及び2 の取組みについて、当委員会は、以下のように考える。
(1) 高齢者募集対策
高齢者に対する不適正募集防止のための対策として、家族等の同席の必須化については、現状において家族等の同席率が70%程度であることに照らすと、一定の効果を上げてきたといえる。もっとも、家族等の同席ができない場合もあるため、形骸化するおそれもあった。また、かんぽ生命が2019 年4 月に新設された募集事前チェック機能は、顧客の不利益が発 生することを保険契約の成立前に抑止する仕組みであり、その運用次第では高齢者に対する不適正募集の防止にとって効果的なものとなり得る。もっとも、本契約問題の発覚時点の募集事前チェック機能における高齢者に関する抽出条件の設定は限定的であり、高齢者に対する不適正募集の発生又はそのおそれを適時に、かつ、きめ細やかに検知できる仕組みとなっておらず、高齢者に対する募集における事前チェック機能の運用としては不十分なものにと
どまっていた。
(2) 多数契約対策
多数契約における不適正募集防止のための対策の一環として実施された、顧客等に対する調査や意向確認は、多数契約募集の実態把握や個々の顧客の救済等のために有効なものであ
り、また、2019 年4 月に導入された郵便局における募集事前チェックは保険契約の成立前に顧客の不利益が発生することを抑止するという点で、多数契約における不適正募集の防止にとって効果的なものとなり得る。もっとも、本契約問題の発覚時点において、これらの調査や意向確認及び募集事前チェックの対象となる多数契約に関する抽出条件は限定的であり、不適正な多数契約の発生又はそのおそれを適時に、かつ、きめ細やかに検知できる仕組みとなっておらず、運用としては不十分なものにとどまっていた。
(3) 乗換契約対策
乗換契約における不適正募集防止のための対策として、乗換判定対象(期間、保険種類、契約形態)の逐次拡大、保有率を考慮した募集手当の算出等の施策は、乗換判定の潜脱防止のための対策として、また不適正な乗換契約を抑止するための対策として、有効なものとなり得る。
他方で、乗換対象の拡大のうち乗換判定期間の拡大は、乗換と判定されない期間がどうしても残る以上、保険募集人による意図的な乗換の潜脱を防止する効果は限定的と言わざるを得ない。また、募集品質カルテを基にした指導の制度は、個々の保険募集人の募集品質に応じて指導・監視等の対象とする点で運用次第で有効な施策となり得るものである。しかし、現行の制度及び運用においては、募集品質の悪い保険募集人による不適正な保険募集を牽制したり、そのような保険募集人による募集を停止させる仕組みが組み込まれておらず、不適正募集の防止にとって実効性のある施策にはなっていない。
また、本契約問題の発覚時点においては、乗換契約について、保険募集人以外の第三者(保険募集人の上席者等)が外形的な経済合理性を確認・検証する仕組みが存在しないこと、乗換契約を行う顧客が無保険の状態や、顧客が意図しない形で保険料の二重払いの状態に陥ることを回避するための仕組みが存在しないなど、保険契約者等の保護や顧客の不利益回避という観点から、不十分な点が見受けられた。
(4) 総合対策
総合対策は、それまでの特定の不適正募集の類型に対する個別の施策による単発的な対応ではなく、会社として総合的な柱立てをもって対応するという点で、不適正募集の各類型に共通する問題の解決に資する施策といえる。また、「募集品質」についての指標となる各評価項目は、いずれも数値で表現され、不適正募集の徴表となる各事象についての定量的な把握・分析、及び不適正募集の防止等に向けた定量的な目標設定が可能であった。
しかしながら、総合対策では、特定の指標にフォーカスして、以後、各指標について KPIを設定して管理することが、募集品質向上の施策の中心を占めてしまったため、それが自己目的化し、苦情等その他の不適正募集の疑いがある情報に接した際に、個別事案における徹底調査と原因分析、これに基づく再発防止策の策定と実行、これの検証というPDCA サイク
ル61を回すことが疎かになった。その結果,「重層的・網羅的な対策を講じており、全体的には指標上は募集品質が向上しているため、個別的な問題が発生したとしても、ごく一部の例外的事象であり、特に大きな問題ではない。」という考え方を生むこととなり、かんぽ生命及び日本郵便におけるリスク感度の低さにつながったという面もあると思われる。
さらに、募集品質管理を指標で定量的で管理することは、不適正募集の実態を見誤らせるリスクもはらんでいたと思われる。この点、募集品質指導専門役による指導は、募集品質実績表及び募集品質カルテに基づいて行われていたところ、これらの書面に記載されるのは、個々の保険募集人についての苦情件数、無効・合意解除件数、撤回件数、未入金解除・1P 失解の件数、乗換契約の件数、料済・減額の件数等であり、どのような内容の苦情であったのか、無効・合意解除、乗換契約等に至った事案において当該保険募集人がどのような募集態様により保険募集を行ったのかなどについては具体的に記載されていなかった。そのため、募集品質指導専門役が、これらの指標に照らして募集品質が低いと判断される保険募集人に対して指導する際に、個々の保険募集人の話法等を含む募集実態を踏まえた指導等ができず、実効的な指導となっていなかった。
また、KPI である数値目標の設定としても、例えば、不適正募集の根絶(ゼロ件)を目標とすること自体、これを実現するために、不適正募集に対するコンプライアンス調査の際に、不祥事件等の判定を積極的に行うことに対する阻害要因となり、不適正募集の調査、事実認定及び処分等の甘さにつながった背景となったと思われる。
第8 本契約問題が発覚した経緯
1 かんぽ生命が当委員会を設置するまでの経緯等
かんぽ生命及び日本郵便では、前述のとおり、2017 年1 月に「かんぽ募集品質改善緊急対策本部」を立ち上げ、同年12 月には、総合対策を策定して、これに取り組んでいたところ、 2018 年 4 月下旬、NHK により、「クローズアップ現代+(プラス)」(「以下「クロ現」という。」において、かんぽ生命保険商品の募集を行う郵便局員による不適正募集の問題を取り上げた「郵便局が保険を押し売り!? 高齢者に保険を 局員たちの衝撃の告白」という番組が放映された。
この際、かんぽ生命及び日本郵便は、上記番組は既に両社で把握済みの過去の個別的事象が取り上げられたものにすぎず、総合対策が不適正募集を抑止するための施策として重層的かつ網羅的な取組みであって、この中でも、高齢者募集対策としての家族等の同席率が向上し、高齢者苦情が減少するなど、着実に成果が上がっているため、総合対策を推進していくことが、実効的な不適正募集の防止策であると認識していた。かんぽ生命は、クロ現放映後の2018 年6 月下旬以降も、金融庁に対し、高齢者募集対策を含めた総合対策の施策の進捗状
61 PDCA サイクルとは、一般に、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の仮説、検証を繰り返すことにより、業務を改善していく方法のことをいう。
況等について、継続的に報告していたところ、同年11 月以降、金融庁の要請に応じて、乗換契約の発生状況等について分析等を行っていた。その中で、かんぽ生命は、外形的に経済合理性の認められない可能性のある乗換契約のサンプル調査を行い、顧客の意向確認を実施し、ほぼ全件で顧客の意向に沿っている旨の調査結果を報告するなどした。
その後も、かんぽ生命は、金融庁から、新契約の引受謝絶による無保険状態等の顧客保護に反する事象に早急に対応するよう指導を受け、これに対する改善策を検討している中で、 2019 年5 月28 日付けで金融庁から「募集品質に係る諸問題にかかる報告について」と題し、期限を同年6 月28 日とする報告の徴求(以下「本件報告徴求」という。)を受けた。なお、かんぽ生命では、それ以前にも、募集品質以外の事柄に関して、数年内に、金融庁から報告徴求を受けたことが数回あった。
さらに、日本郵便は、2019 年6 月 19 日付けで、総務省から、「募集品質に係る諸問題」と題し、同年7 月10 日を報告期限とする報告徴求を受けた。
その後、同年 6 月 24 日、朝日新聞が「かんぽ生命、不適切な販売 顧客不利な契約に乗り換え」という表題で、外形的に見て顧客にとって経済合理性に乏しい乗換契約が月に約 5,800 件あった旨を報道し、その後も同種の報道が続いた。
その後、かんぽ生命は、多数の報道がなされたことを踏まえ62、同年7 月10 日には、ウェブサイト上で「契約乗換に係る今後の取り組みについて」63において、顧客の契約の復元等を行うこと等を公表するとともに、かんぽ生命の植平社長及び日本郵便xx社長が記者会見をした上、過去の事例の調査を行うことや対策等について述べた。
かんぽ生命は、同月14 日には、「かんぽ商品に係る当面の業務運営について」64において、 当面の間、郵便局等から積極的なかんぽ生命保険商品の提案を行わないことなどを公表した。その後、同年 7 月 24 日、日本郵政、かんぽ生命及び日本郵便の 3 社は、本契約問題に関
して、当委員会を設置することを公表した。65それ以後、かんぽ生命による契約調査及び当委員会による本調査が実施されることとなった。
2 金融庁から報告徴求を受けた後の日本郵政グループの対応等
(1) かんぽ生命
かんぽ生命では、金融庁から本件報告徴求を受けた後、植平代表執行役社長(以下「植平社長」という。)以下、担当執行役が出席した2019 年5 月31 日の経営会議において、報告事項として、金融庁の本件報告徴求について説明がなされ、植平社長から、今回の報告徴求を契機とし、乗換契約や高齢者募集の問題を決着させるよう取り組んでいく旨、また、本件は募集管理統括部が中心となって対応することになるが、営業目標の適切性や顧客に対する権利回復への対応策等についても検討が必要であり、営業部門、事務部門はしっかり連携の
62 それ以前にも、本契約問題に関連する「東洋経済」(2018 年 11 月発刊)、西日本新聞(2019 年 3 月から5 月)の報道等があった。
63 xxxxx://xxx.xx-xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxx/xxxxx/0000/xxx_xxx_xx000000.xxxx
64 xxxxx://xxx.xx-xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxx/xxxx/0000/xxx_xxx_xx000000.xxxx
65 xxxxx://xxx.xx-xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxx/xxxxx/0000/xxx_xxx_xx000000.xxxx
上、全社を挙げて対応してほしい旨の発言があった。さらに、これまで募集品質の向上に向けた総合対策や、乗換対応等について日本郵便と連携して検討を進めてきており、今後も日本郵便と認識を合わせながら、引き続き取り組んでほしい旨発言がなされた。
同月 17 日に開催されたかんぽ生命の取締役会では、金融庁の本件報告徴求の概要及び今後の予定等について、報告事項として一応の報告がなされたものの、その対応に関して実質的な議論はされなかった。他方、同年6 月20 日の経営会議においては、金融庁の本件報告徴求への回答案の構成及び改善策等が示され、議論された。
その後、同年 6 月 24 日の朝日新聞等の報道を見て、社外取締役により構成されるかんぽ生命の監査委員会が同年7 月11 日に、本契約問題を重く見て、全員一致で、臨時取締役会の招集を要請した。これを受け、同年7 月18 日、かんぽ生命の臨時取締役会が開催され、本契約問題に関する実質的な議論がなされるようになった。
(2) 日本郵便
日本郵便では、2019 年6 月 10 日に開催された経営会議において、担当執行役員から、かんぽ生命に対して、金融庁から本件報告徴求がなされたことなどについて報告がなされたものの、特段の議論はなされなかった。
同月21 日に開催された日本郵便の取締役会において、同月19 日付けで総務省から受けた報告徴求「募集品質に係る諸問題」に対する報告内容が決議事項とされ、今後の対応策について説明がなされ、当該報告内容について議論がなされた。その後、同年7 月23 日に開催された取締役会において、本契約問題について実質的な議論がなされた。
(3) 日本郵政
日本郵政では、2019 年 5 月 27 日に開催された、グループコンプライアンス連絡会(日本郵政グループ各社のコンプライアンス統括部部長及び担当役員が出席する会議)において、かんぽ生命の専務執行役から、乗換契約について昨年度から実態確認など当局と連携しながら進め、追加対策等を検討しているところ、当局から、一連の対応について明日報告徴求を発出する予定と情報があった。これまでの確認内容と対応策について報告が求められる旨の簡潔な報告がなされたものの、特段の議論はなされなかった。
その後も、日本郵政では、2019 年6 月中に開催された取締役会及び経営会議において、かんぽ生命が金融庁から受けた本件報告徴求及び日本郵便が総務省から受けた上記各報告徴求について特段の報告等はなされなかった。
同年7 月23 日に開催された日本郵政の経営会議において、かんぽ生命の専務執行役から、初めて、金融庁の本件報告徴求についての詳細な報告がなされ、翌24 日に開催された取締役会では、「募集品質に係る諸問題への対応の件」とする報告事項として、本件報告徴求等について詳細な報告がなされた。日本郵政の取締役会では、これを機に、本契約問題について、実質的な議論がなされ、当委員会の設置が決議された。
第3 編 本調査の結果明らかとなった事実第1 契約調査の内容及び方法
1 概要
かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政は、2019 年7 月31 日付けで、「日本郵政グループにおけるご契約調査及び改善に向けた取組みについて」66を公表し、全てのかんぽ生命の保険契約(過去5 年間分の消滅契約を含む約3,000 万件、契約者数で約1,900 万人)について、顧客の意向に沿わず不利益を生じさせたものがないかを検証することとし、顧客の意向に沿っていないことにより生じさせた不利益については、可能な限り早期にこれを解消して、顧客からの信頼回復に全力で取り組む旨を表明し、下記の「全契約調査」及び「特定事案調査」(以下、これらを併せて「契約調査」という。)を実施している。
2 全契約調査
かんぽ生命では、過去5 年間分の消滅契約を含む、全てのかんぽ生命保険商品の契約者(特定事案を除く約 1,900 万人)について、顧客の意向に沿わず不利益を生じさせたものがないかを検証し、可能な限り早期に、当該不利益を解消するため、対象となる契約者に対し、2019年8 月下旬から、かんぽ生命及び日本郵便の連名で、返信用はがきを同封した書面の発送を開始し、2019 年10 月までに発送を完了した。
この調査に際し、かんぽ生命では、返信されたはがきや、コールセンターで受け付けた相談内容をもとに、顧客の意向に沿わず不利益が生じたことが疑われる場合、かんぽ生命が直接調査を実施し、顧客の疑問に応えるほか、郵便局に連絡をした顧客に対しては、郵便局の社員が訪問や電話により、疑問に応えている。
3 特定事案調査
かんぽ生命においては、全契約調査と並行し、顧客の意向に沿わず不利益が発生した可能性がある事案のうち、特定の類型に分類が可能な事案を「特定事案」として、過去の契約データから、乗換後の契約状況が特定事案に合致する2019 年3 月以前の過去5 年分で、約18.3万件の保険契約について、顧客に生じた不利益を解消するとともに、顧客の回答及び契約状況をもとに、乗換契約の際の保険募集に係る法令違反等の疑いがある事象を発見するための調査に連携させる対応を行った。
この特定事案調査の類型、調査対象事案と調査対象件数は、以下のとおりである。なお、調査対象件数は、かんぽ生命から報告を受けた数字である。
66 xxxxx://xxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxxx/xxx/0000/00000000000000.xxxx xxxxx://xxx.xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxxxxxxx/0000/0000_00.xxxx xxxxx://xxx.xx-xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxx/xxxxx/0000/xxx_xxx_xx000000.xxxx
類型 | 調査対象事案 | 調査対象件数 |
A | 乗換契約に際し、乗換前の契約は解約されたものの、乗換後の契約が引受謝絶となった事案 例:保険契約を解約して、新規に保険契約の申込みを受けたが、この新規保険契約が顧客の病歴等で成立しなかったた め、保険契約(保障)がない状態となった場合 | 約1.8 万件 |
B | 乗換契約後、告知義務違反により乗換後の契約が解除となり、保険金が支払謝絶等となった事案 例:保険契約を解約した後に、顧客が新規に加入した保険契約において、その加入時に正しく告知がなされていなかったとして、保険契約が解除となり、保険金の支払いがなされな かった場合 | 約0.3 万件 |
C | 特約切替や保険金額の減額により、より合理的な提案が可能であった事案 例:顧客の医療保障を充実したいとの意向に対し、当該顧客が保険契約の基本契約と特約の双方を解約し、新規に保険契約に加入したものの、基本契約を解約せずに、特約の見直し のみで当該顧客の意向に沿えた可能性がある場合 | 約2.6 万件 |
D | 乗換契約前後で予定利率が低下しており、保障の内容・保障期間の変動がない等の事案 例:顧客が保険契約を解約した後、予定利率が低下し、かつ、保障の内容及び保障期間が同じ新規の保険契約に加入して いる場合 | 約1.5 万件 |
E | 乗換契約の判定期間後(乗換後の契約の契約日の後7 か月から後9 か月)の解約により、保障の重複が生じた事案 例:顧客が新規に保険契約を契約した後に、乗換契約の判定 期間後(乗換後の契約の契約日の後7 か月から後9 か月)に解約したため、保障の重複が生じた場合 | 約7.5 万件 |
F | 乗換契約の判定期間外(乗換後の契約の契約日の前4 か月から前6 か月)の解約により、保障の空白が生じた事案 例:顧客が保険契約を解約した後に新規に保険契約に加入したもののうち、乗換契約の判定期間外(乗換後の契約の契約日の前4 か月から前6 か月)に解約を行っており、保障がな い期間が存在する場合 | 約4.6 万件 |
特定事案調査においては、対象となる顧客への書面の発送を2019 年8 月上旬から開始して同月下旬までにこれを完了した。また、書面発送後の顧客に対しては、かんぽ生命の専用コールセンターからの電話又はかんぽ生命社員による訪問等を通じて、以下のとおり、乗換契約時の意向その他の状況、乗換前の契約への復元等に関する説明の希望の有無、及び(当該説明を希望した顧客に対しては)契約復元等の意向を確認し、その意向に応じて契約の復元等を行う手続を進めてきた。
(1) 意向確認の方法
かんぽ生命は、顧客の意向確認をできる限り進めるため、①連絡のとれない顧客への繰返しの訪問、当該顧客の住所調査、②特定記録郵便により顧客の意向を確認するための質問を記載したアンケート用紙等を顧客に送付し回答を依頼すること、③日本郵便の配達員が顧客の都合の良い日時等を確認した上で、配達の際に顧客への意向確認を行うこと等の手段を講じてきた。
(2) 募集人調査
かんぽ生命は、(1)の顧客への意向確認の結果、「違反疑い事案」、すなわち法令違反又は社内規則違反の疑いが生じた事案については、募集態様に問題がなかったかを確認するため、保険募集人に対する調査を行っている。
この募集人調査の結果を踏まえて、かんぽ生命コンプライアンス統括部が、法令又は社内規則への違反の有無を判定している。
(3) 契約復元等
かんぽ生命は、(1)の顧客への意向確認の結果、契約復元等を希望した顧客に対しては、希望内容を把握し、顧客の要望に沿った形で再提案するなど、可能な限り顧客の意向・都合に合わせて契約復元等に向けた手続を進めている。
第2 契約調査の調査結果
1 全契約調査
全契約調査については、かんぽ生命において、特定事案調査の対象契約を除く全ての契約を対象とし、顧客に返信用はがきを同封した書面を送付し、その意向の確認を要請するとともに、意見や要望、不満等がある場合の返送を要請している。
かんぽ生命によれば、全契約調査の対象となる顧客約 1,900 万人のうち、基準日時点で約
100 万件の回答があったが、その内容の精査は未了とのことである。
当委員会は、今後も全契約調査の進捗状況について、報告を受け、必要に応じて対応する予定である。
2 特定事案調査
(1) 特定事案調査の進捗状況
2014 年度から2018 年度までの新規契約件数1,067 万1,058 件のうち、特定事案の件数は18万2,912 件であった。特定事案調査における意向確認の対象となる顧客15 万6,452 人のうち、 12 月13 日時点で、案内が終了している顧客 は15 万3,578 人(約98%)であり、そのうち意向確認が完了した顧客は12 万7,579 人(約82%)であった。
この意向確認を通じて、顧客の回答を分析したところ、2019 年 9 月 30 日の中間報告の時点では、6,327 件と公表された「違反疑い事案」は増加し、現在、1 万2,836 件が募集人調査の対象となっている。
(2) 募集人調査等の状況
かんぽ生命は、(1)の顧客への意向確認の結果、違反疑い事案については、保険募集人に対する調査を行っている。
この募集人調査に当たっては、①保険募集人が自ら違反行為を申告し、かつ、調査に協力した場合は、当該保険募集人に対する処分を本来よりも軽減又は免除すること、②保険募集人の供述に過度に依存することなく、客観的事実、物証、顧客又は第三者の信用性ある供述などを総合的に考慮して、事実認定・判定を行うこと、③日本郵便コンプライアンス室とかんぽ生命エリアコンプライアンス室との合同調査により調査することとしている。
この募集人調査の結果を踏まえて、かんぽ生命コンプライアンス統括部が、法令又は社内規則への違反の有無を判定している。67
2019 年12 月13 日時点で、募集人調査等の結果をかんぽ生命が法令違反(不祥事件)と判定した事案は48 件であり、社内規則違反(不祥事故)と判定した事案は622 件であった。
(3) 契約復元等の状況
当委員会が、2019 年12 月13 日時点でかんぽ生命から報告を受けたところによれば、契約復元等については、契約復元等に関する説明を希望した顧客が約4.5 万人であり、約2.6 万人の顧客に対して契約復元等の手続の案内が完了している。
そのうち、契約復元等に関する説明を希望した顧客全体の約75%を占めるE 類型(約3.4万人)については、約2.4 万人の顧客について契約復元等の手続の案内が完了し、約1.5 万人の顧客への振込措置等が完了(契約復元等に要した額は約4.2 億円)している。
第3 当委員会による検証
1 全契約調査
当委員会は、全契約調査に関し、かんぽ生命の担当部署から、その範囲及び方法等につい
67 当委員会においては、その判定基準について説明を受けて検証を行った。
て、報告を受け、意見を述べるなどした。当委員会は、基準日までに、全契約調査について、顧客からの回答をかんぽ生命において分析中である旨の報告を受けており、その詳細は把握できていない。
2 特定事案調査
当委員会は、特定事案調査に関し、かんぽ生命の担当部署から、その範囲及び方法等について、進捗に応じて、適時に報告を受け、意見を述べるなどして検証を行った。
例えば、当委員会では、特定事案の調査に関して、顧客からの回答の分類方法について、サンプルの提示を受け、法令違反の可能性のある事例の区分の見直しに関する指摘を行い、かんぽ生命においてこれを反映し、募集人調査においても、自認した保険募集人からその動機等について意識調査を行うこと等を提案し、これが実際の調査に取り入れられるなど、当委員会の意見が調査方法等に適切に反映された。
第4 当委員会による特定事案調査結果の分析
1 分析の対象等
当委員会では、まず、どのような募集人が「違反疑い事案」に関与したかを中心に分析・検討することを試みた。
分析の対象とした事案は、顧客の申告どおりであれば法令又は社内規則に違反する疑いのある「違反疑い事案」とした。これは単なる「疑い」の段階のもので、その後の募集人調査の結果、法令ないし社内規則違反と認定されるものは限られるが、顧客が当該契約に不満を抱き、その旨の申告をしたことに間違いはなく、不適正募集全体の原因や対策を検討するには、対象をある程度広めにした方がよいと考えたからである。
分析の対象にした件数は、特定事案調査の進捗等の事情から、中間報告時のものを対象としたが、数的には現段階で把握しているものの半数程度に達しており、また後述するその他の調査結果と照らし合わせても、整合性が認められることから、十分に価値があるものと判断した。
2019 年 9 月 30 日にかんぽ生命が公表した中間報告 68及びかんぽ生命から提供を受けたデ
ータによれば、分析対象となる「違反疑い事案」(2019 年 9 月 27 日時点)、新規契約件数、特定事案件数、意向確認済み件数等の年度別の推移は、以下の表1 のとおりである。
68 xxxxx://xxx.xx-xxxx.xxxxxxxxx.xx/xxxxxxxxxxx/00000000-xx-0-0.xxx
表1:新規契約件数、特定事案件数、意向確認済み件数等の年度別の推移
特定事案調査等件数 (2014年度から2018年度までの対象5年間) | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 合計※ |
新規契約件数 | 2,381,977件 | 2,397,286件 | 2,441,232件 | 1,739,153件 | 1,711,410件 | 10,671,058件 |
特定事案件数 | 30,283件 | 33,357件 | 41,780件 | 43,603件 | 33,889件 | 182,912件 |
意向確認済み件数 | 10,331件 | 12,175件 | 15,469件 | 16,931件 | 13,114件 | 68,020件 |
「違反疑い事案」の件数 | 789件 | 929件 | 1,208件 | 1,838件 | 1,563件 | 6,327件 |
「違反疑い事案」に関与した募集人数 | 1,007人 | 1,141人 | 1,489人 | 2,155人 | 1,860人 | 5,797人 |
※ 違反疑い事案の募集人数に関しては、重複を除く
かんぽ生命が2019 年9 月30 日に公表した特定事案調査の進捗状況によれば、2014 年4 月から2019 年3 月までの5 年間に受理した特定事案に該当する契約に関して、顧客からの聴き取りに基づき、契約時の状況や意向を確認できた6 万8,020 件のうち、約9%に相当する6,327件が「違反疑い事案」として把握された。その後の調査により、各契約の募集を行った保険募集人が特定され、その人数は5 年間の合計で5,797 人(5 年平均で約1,160 人)であることが判明した。
2 分析結果
(1) 「違反疑い事案」の数は、年平均1,265 件(年平均新規契約件数の約0.06%)であり、最終的にも、その2 倍程度であること
この5 年間の新規契約件数は合計約1,067 万件(年平均約213.4 万件)であるところ、特定事案の件数は合計約18.3 万件(年平均約3.7 万件)であり、そのうち顧客の意向確認が終了した件数は6 万8,020 件で、その結果、「違反疑い事案」とされたものは6,327 件(年平均1,265件)であった。
(2) 「違反疑い事案」の関与募集人は募集人全体の数%であること
「違反疑い事案」に関与した募集人の数は、各年度における重複を除いて算出すると5,797
人であり、表2 のとおり、かんぽ生命保険商品の募集実績のある全体人数(約8 万 9,000 人
から約9 万3,000 人)の約1.1%(1,007 人)から約2.4%(2,155 人)、5 年平均では約1.7%(1,530
人)である。
表2:関与募集人の人数と割合
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 5年平均 | |
疑い事案の募集人数 | 1,007人 | 1,141人 | 1,489人 | 2,155人 | 1,860人 | 1,530人 |
全体 募集人数(※) | 91,984人 | 92,414人 | 93,167人 | 90,753人 | 88,855人 | 91,435人 |
発生割合 | 1.1% | 1.2% | 1.6% | 2.4% | 2.1% | 1.7% |
※ 全体募集人数:当該年度に募集実績のあった募集人数
(3) 「違反疑い事案」を受理した郵便局数は、全体の約9%であること
募集人の受け付けたかんぽ生命保険商品は、募集人の在籍する各郵便局で受理した扱いとされるところ、「違反疑い事案」の5 年間の受理局数は1,841 局であり、郵便局総数(簡易郵便局を除く。)2 万0,156 局(2019 年9 月30 日時点)のうちの約9%に当たる。
(4) 「違反疑い事案」(6,327 件)のうち、渉外社員である募集人が関与した件数の割合は、
5 年間平均で約87%(5,507 件)であり、窓口社員の割合は同13%(820 件)であること
表3 のとおり、全募集人(5 年平均で9 万1,435 人)に占める渉外社員の割合は、5 年平均で約18%(1 万6,438 人)であり、窓口社員の割合は約82%(7 万4,996 人)である。つまり、全募集人の中の約18%である渉外社員が「違反疑い事案」の約87%に関与しているということである。
表3:関与募集人の割合(渉外社員・窓口社員別)
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 合計 | |
事案数 | 789件 | 929件 | 1,208件 | 1,838件 | 1,563件 | 6,327件 |
渉外社員募集件数 (割合) | 707件 (89.6%) | 836件 (90.0%) | 1,041件 (86.2%) | 1,573件 (85.6%) | 1,350件 (86.4%) | 5,507件 (87.0%) |
窓口社員募集件数 (割合) | 82件 (10.4%) | 93件 (10.0%) | 167件 (13.8%) | 265件 (14.4%) | 213件 (13.6%) | 820件 (13.0%) |
表4:関与募集人の全募集人に対して占める割合(渉外社員・窓口社員別)
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 5年平均 | |
全募集人数 | 91,984人 | 92,414人 | 93,167人 | 90,753人 | 88,855人 | 91,435人 |
渉外社員数 (割合) | 17,664人 (19.2%) | 17,089人 (18.5%) | 16,718人 (17.9%) | 15,810人 (17.4%) | 14,910人 (16.8%) | 16,438人 (18.0%) |
窓口社員数 (割合) | 74,320人 (80.8%) | 75,325人 (81.5%) | 76,449人 (82.1%) | 74,943人 (82.6%) | 73,945人 (83.2%) | 74,996人 (82.0%) |
(5) 「違反疑い事案」のうち、販売実績が「優秀」69とされる募集人が関与した件数の割合は、5 年間平均で約26%(1,641 件)であること
販売実績が「優秀」とされる募集人は、5 年平均で募集人全体の約 1.4%(1,287 人)であり、表7 のとおり、新規契約全体のうちの約8.9%に当たる合計約95 万件(年平均約19 万件)の募集に関与している。つまり、全募集人の中の1 割未満に過ぎない販売実績「優秀」者が、
「違反疑い事案」の4 分の1 以上に関与しているということである。
表5:関与募集人に占める販売実績が「優秀」とされる募集人の割合
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 合計 | |
①販売実績 「優秀」の合計事案数 | 221件 | 246件 | 359件 | 463件 | 352件 | 1,641件 |
②合計事案数 | 789件 | 929件 | 1,208件 | 1,838件 | 1,563件 | 6,327件 |
割合(①/②) | 28% | 26% | 30% | 25% | 23% | 26% |
69 年間販売実績500 万円以上の渉外社員と年間販売実績200 万円以上の窓口社員であり、この販売実績額以上の実績である保険募集人は、最高優績者を含む成績トップ層のものとして扱われている。
表6:全募集人のうち、販売実績が「優秀」とされる募集人の割合
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 5年平均 | |
①販売実績 「優秀」の関与募集人 | 1,191人 | 1,539人 | 1,592人 | 1,200人 | 827人 | 1,287人 |
②全体 募集人数(※) | 91,984人 | 92,414人 | 93,167人 | 90,753人 | 88,855人 | 91,435人 |
発生割合 | 1.29% | 1.6% | 1.70% | 1.32% | 0.93% | 1.39% |
※ 全体募集人数:当該年度に募集実績のあった募集人数
表7:新契約件数のうち、販売実績が「優秀」とされる募集人の割合
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 合計(※) | |
①販売実績 「優秀」の募集件数 | 186,145件 | 236,998件 | 245,711件 | 157,227件 | 126,578件 | 952,659件 |
②新契約件数 | 2,381,977件 | 2,397,286件 | 2,441,232件 | 1,739,153件 | 1,711,410件 | 10,671,058 件 |
割合(①/②) | 7.8% | 9.9% | 10.1% | 9.0% | 7.4% | 8.9% |
※ 割合は5 年平均
(6) 「違反疑い事案」に関与した同一募集人の関与件数は、少ない者は1 件(4,003 人)で、多い者が22 件(1 人)であるが、1 件から3 件までの人数が9 割以上を占め、4 件及び5 件までの人数を加えると全体の約 97.3%、2 件の顧客が約 2.3%であり、この合計で約 99.6%を占めていること
表8:関与募集人別の保有事案数
同一募集人が保有する事案数 | 募集人数 |
1件 | 4,003人(69.1%) |
2件 | 987人(17.0%) |
3件 | 357人(6.2%) |
4件 | 180人(3.1%) |
5件 | 101人(1.7%) |
6件 | 52人(0.9%) |
7件 | 34人(0.6%) |
8件 | 28人(0.5%) |
9件 | 16人(0.3%) |
10件 | 7人(0.1%) |
11件 | 8人(0.1%) |
12件 | 6人(0.1%) |
同一募集人が保有する事案数 | 募集人数 |
13件 | 4人(0.1%) |
14件 | 5人(0.1%) |
15件 | 1人(0.0%) |
16件 | 0人 |
17件 | 3人(0.0%) |
18件 | 0人 |
19件 | 3人(0.0%) |
20件 | 1人(0.0%) |
21件 | 0人 |
22件 | 1人(0.0%) |
合計 | 5,797人 |
(7) 「違反疑い事案」である契約に加入した顧客の 1 人当たりの加入件数は、1 件から 5件であったが、1 件の顧客が約97.3%、2 件の顧客が約2.3%であり、この合計で約99.6%を占めていること70
表9:「違反疑い事案」の契約者別の事案数
同一契約者が保有する疑い事案数 | 契約者数 | 疑い事案数 |
1件 | 5,952人(97.3%) | 5,952件 |
2件 | 142人(2.3%) | 284件 |
3件 | 17人(0.3%) | 51件 |
4件 | 5人(0.1%) | 20件 |
5件 | 4人(0.1%) | 20件 |
合計 | 6,120人(100.0%) | 6,327件 |
(8) 「違反疑い事案」である契約に加入した顧客の加入年代は、10 代から90 代にわたっているが、最も多いのが60 代(約32.3%)であり、60 代、70 代(約29.3%)、80 代(約10.2%)、 90 代(約0.1%)の合計が7 割以上を占めていること
70 「違反疑い事案」ではなく、特定事案調査の対象となった契約者が加入した契約数(合計約18.3 件)で見た場合でも、顧客の加入件数は1 件から11 件であるが、1 件(85.1%)、2 件(10.7%)、3 件(2.8%)であり、1 件から3 件までの顧客が98.6%を占め、「違反疑い事案」との間で傾向の有意な差は認められない。
表10:「違反疑い事案」の契約者別の事案数並びに契約者(※)の年代データ
契約者加入年代 | 契約者数 |
10代 | 3人(0.0%) |
20代 | 42人(0.7%) |
30代 | 174人(2.8%) |
40代 | 472人(7.7%) |
50代 | 1,023人(16.7%) |
60代 | 1,978人(32.3%) |
70代 | 1,793人(29.3%) |
80代 | 627人(10.2%) |
90代 | 8人(0.1%) |
合計 | 6,120人(100.0%) |
※契約者数:1人の契約者に対して複数の事案があり、その加入年代が異なる場合は最初に加入した年代を集計対象とする。
(9) 「違反疑い事案」である契約に加入した顧客の性別は、女性が約85%、男性が約15%
であること
3 「違反疑い事案」の契約者の声
「違反疑い事案」のうち、A からF までの各類型について、顧客の主な声を抽出したところ、以下のとおりであった。
① 「乗換契約は自身の意向ではなかった。自分の契約を変更する際、娘の契約も乗換えないかと提案されたので手続を行った。私は、娘は切迫流産で保険金を受け取っている経緯があるためその旨説明し、新しい保険に加入できないのであれば解約しないと言ったが、郵便局の担当者からは、大丈夫と言われた。」(A 類型)
② 「乗換契約は自身の意向ではなかった。解約するつもりはなかったが、郵便局の担当者から条件のいい保険があると勧められて、そのためには解約しないといけないと言われた。告知が必要な傷病歴がある場合に、新たな保険契約を引受けできないことがあるなどの不利益事項については説明を受けていない。」(A 類型)
③ 「乗換契約は自身の意向ではなかった。解約ではなく、以前の契約を減額させたかった。郵便局の担当者から新しい保険契約の申込みを前提として解約を勧められた。告知が必要な傷病歴がある場合に、新たな保険契約を引受けできないことがあるなどの不利益事項については説明を受けていない。」(A 類型)
④ 「郵便局の担当者から新しい保険契約を申し込むために解約等を勧められた。保険契約の申込時点で、保険契約の保障の開始日の前に発病していた場合に、保険金を支払えないなどの不利益事項について説明を受けていない。申込みの際、もうすぐ手術することを伝えた。」(B 類型)
⑤ 「郵便局の担当者から新しい保険契約を申し込むために解約等を勧められた。保険契約の申込時点で、保険契約の保障の開始日の前に発病していた場合に、保険金を支払えないなどの不利益事項について説明を受けていない。申込みの際、検査でひっかかったと伝えた。」(B 類型)
⑥ 「郵便局の担当者から新しい保険契約を申し込むために解約等を勧められた。保険契約の申込時点で、保険契約の保障の開始日の前に発病していた場合に、保険金を支払えないなどの不利益事項について説明を受けたかは覚えていない。申込みの際、胃がんであることを伝えた。」(B 類型)
⑦ 「郵便局の担当者から新しい保険契約を申し込むために解約等を勧められた。乗換は自身の意向ではなく、解約した方が有利だと言われたので手続した。保険金を減額することについて説明はなかった。」(C 類型)
⑧ 「郵便局の担当者から新しい保険契約を申し込むために解約等を勧められた。郵便局の担当者から半ば強引に勧誘されたので、内容などは把握していない。いつも近くの郵便局の担当者と話し合って契約しているのに、その当時は本局からxx来て乗換を勧められた。保険金を減額することについて説明はなかった。」(C 類型)
⑨ 「今般の乗換契約は、意向に沿ったものでない。特約の見直しのみしたかったのに、解約しないとできないと郵便局の担当者に言われた。特約の切替えや中途付加することについて、郵便局の担当者から提案がなかった。」(C 類型)
⑩ 「乗換は自身の意向で行った。今後保険が変わってくるから好条件の保険がある今のうちに新しいものに切り替えようと提案があり、それならばと加入した。郵便局の担当者から新契約の申込みを前提として解約を勧められた。新たな保険契約が元の保険契約と同じ保険種類や保険期間であることは理解していた。保険料が高くなる、予定利率が下がるなどの説明はなかった。」(D 類型)
⑪ 「乗換は自身の意向ではなく、解約するように言われたので解約した。郵便局の担当者から新契約の申込みを前提として解約を勧められた。新たな保険契約が元の保険契約と同じ保険種類や保険期間であることについて説明を受けていない。保障内容が良くなると言われた。保険料が高くなる、予定利率が下がるなどの説明はなかった。」(D 類型)
⑫ 「乗換は自身の意向ではなく、得になると言われたので解約した。郵便局の担当者から新契約の申込みを前提として解約を勧められた。新たな保険契約が元の保険契約と同じ保険種類や保険期間であることについて説明を受けていない。今の保険よりお得になると理解していた。保険料が高くなる、予定利率が下がるなどの説明はなかった。」(D 類型)
⑬ 「解約時期は自身の都合ではなかった。郵便局の担当者から新契約の申込みを前提として解約を勧められた。既契約は半年間は解約できないと言われた。」(E 類型)
⑭ 「解約時期は自身の都合ではなかった。郵便局の担当者から新契約の申込みを前提として解約を勧められた。契約して1 年経たないと特約の解約はできないとの説明はあった。自分としては二重に保険料を払いたくなかったが、解約できないと言われた。」(E 類型)
⑮ 「まとまったお金が必要になったため、自身の都合で解約した。期間は詳しく覚えていないが、解約はしばらく待ってほしいと言われた。」(E 類型)
⑯ 「解約時期は自身の都合ではなかった。担当者の言うとおりにしていた。郵便局の担当者から新契約の申込みを前提として解約を勧められた。解約時の返戻金等は、支払った保険料の合計金額より少なくなることが多いことについて、説明がなかった。新しい契約は今ではなく、時期があるのでその時に連絡しますと言われた。」(F 類型)
⑰ 「解約時期は自身の都合ではなかった。担当者に任せていた。現状の保険には満足している。郵便局の担当者から新契約の申込みを前提として解約を勧められた。保険を解約すると 6 か月くらい新しく加入できないと言われたような気もするが、正確には覚えていない。」(F 類型)
⑱ 「保険料の払込みが困難になったため、解約した。保険料の払込みが困難になったのは、保険契約に新たに加入したためではない。失効した契約の保障が残るので、しばらくは契約できないと言われた。」(F 類型)
第5 その他不適正募集に関連する当委員会による調査及び分析
当委員会は、第1 編第4 及び第5 で述べたように、募集人アンケート及び募集人ヒアリング等において、高齢者募集、多数契約募集及び乗換契約を含む不適正募集全般について調査を実施した結果、以下の事実が判明した。
当委員会としては、不適正募集を行う動機の分析と第4 編の原因分析が密接に関わっている上、動機の分析を行う前提として、不適正募集に関与した者の属性や傾向等を分析することが必要と考えたことから、まずは、募集人アンケートや募集人ヒアリング等の結果から、不適正募集に関与した者の属性や傾向を分析し、これに関連する事実を認定した上で、最後にこれらを踏まえ、不適正募集を行う動機を分析している。
なお、募集人アンケートでは、「不適正募集」という用語を用いることなく、「お客さまに不利益を生じさせる又はそのおそれのある募集」という用語を使用しているが、当委員会は、顧客に不利益を与える形態の保険募集は法令違反に該当しなくとも、「不適正募集」に該当するという考え方に立っているため、募集人アンケートの結果の分析においても、前記「お客さまに不利益を生じさせる又はそのおそれのある募集」を「不適正募集」と評価している。また、募集人アンケートでは、不適正募集を行ったことがあるか否か又は職場で見聞きしたことがあるかなどの質問に当たり、不適正募集を自ら行った、又は見聞きした時期や期間を限定していない。そして、募集人アンケートの回答者のうち約7 割は、10 年以上前からかんぽ生命保険商品の募集業務に従事してきた者であることから、5 年間を調査対象期間とする特定事案調査の結果と単純に比較することはできない。
1 不適正募集を自ら行ったことがあると回答した者の割合
募集人アンケートによると、不適正な募集(高齢者募集、多数契約募集又は乗換契約)を自ら行ったことがあると回答した者の割合等は、以下のとおりである。
ア 高齢者募集
不適正な高齢者募集を自ら行ったことがあると回答した者は、全体の約6%(2,133 人)であった。
イ 多数契約募集
募集人アンケートでは、多数契約募集を、不適正な多額契約募集71と「ヒホガエ」72に区分した上で、質問した。以下、同様である。
不適正な多額契約募集を自ら行ったことがあると回答した者は、全体の約 3%(1,237 人)であった。一方、不適正な「ヒホガエ」を自ら行ったことがあると回答した者は、全体の約 10%(3,969 人)であった73。
ウ 乗換契約
不適正な乗換契約を自ら行ったことがあると回答した者は、全体の約8%(3,064 人)であった。
2 不適正募集を職場で見聞きしたことがあると回答した者の割合
募集人アンケートの回答者の中で、不適正な募集(高齢者募集、多数契約募集又は乗換契約)を職場で見聞きしたことがあると回答した者の割合等は、以下のとおりである。
ア 高齢者募集
不適正な高齢者募集を職場で見聞きしたことがあると回答した者は、全体の約 43%(1 万
6,636 人)であった。
イ 多数契約募集
不適正な多額契約募集を職場で見聞きしたことがあると回答した者は、全体の約 47%(1万 8,325 人)であった。一方、不適正な「ヒホガエ」を職場で見聞きしたことがあると回答した者は、全体の約44%(1 万7,115 人)であった。
ウ 乗換契約
不適正な乗換契約を職場で見聞きしたことがあると回答した者は、全体の約55%(2 万1,276人)であった。
3 渉外社員と窓口社員の別
募集人アンケートにおいて、回答者全体の内訳は、渉外社員が約23%、窓口社員が約77%であるのに対し、不適正募集を自ら行ったことがあると回答した者に占める割合は、渉外社員が約53%、窓口社員が約47%であった。
71 例えば、保険料の総額が顧客の支払能力を超えるなどの多数の保険契約を締結させる形態の募集をいう。
72 契約者が同一で、被保険者を変更する多数の保険契約をいう。
73 不適正な高齢者募集、多額契約募集、乗換契約については、自由記載欄でお客さまのご意向である旨の説明を加えた者の人数は、それぞれ約50 人、約30 人、約10 人から約40 人であるが、「ヒホガエ」を自ら行ったことがあると回答した者(3,969 人)のうち約500 人が、自由記載欄でお客さまのご意向である旨説明を加えている。
このように、募集人アンケートによると、不適正募集を自ら行ったことがあると回答した保険募集人の割合は、窓口社員における割合よりも渉外社員における割合の方が高い、との傾向が見られた。
4 販売実績等との関連性
募集人アンケートでは、回答者をかんぽ生命保険商品の募集に関して会社から表彰を受けた回数に応じて、①4 回以上の者(以下「多数回受彰者」という。)、②1 回から 3 回の者、
③表彰を受けた経験がない者に分類した。
回答者全体に占める割合は、多数回受彰者、すなわち販売実績の比較的高い層の者が約 9%、それ以外の者が約91%であるのに対し、不適正募集を自ら行ったことがあると回答した者に占める割合は、多数回受彰者が約18%、多数回受彰者以外の者が約82%であった。
このように、募集人アンケートによると、不適正募集を自ら行ったことがあると回答した保険募集人の割合は、多数回受彰者以外の者における割合よりも、多数回受彰者すなわち販売実績の比較的高い層の者における割合の方が高い、との傾向が見られた。
募集人ヒアリング等においても、以下のような供述があった。
①「私は、2018 年度に、高齢者からの苦情を7 件受けた。ただし、この7 件は全て優績者と同行して2 人で募集し、販売実績を分けてもらった契約だった。私が同行してもらった優績
者は3 人いて、いずれも同じ郵便局の金融渉外部の渉外社員であった。1 人目は苦情を受けた7 件のうち3 件に同行してもらい、2 人目は2 件に同行してもらい、3 人目は2 件に同行してもらった。私は、同行募集の際、優績者がお客さまに保険商品の説明をするのをそばで聞いていたが、私が聞いても、お客さまに対する説明が十分とは言えないと感じる時があった。優績者は、重要事項の告知などルールで求められている事項を一応告知するのは怠らない。他方で、高齢者のお客さまに対し、例えば、その保険商品が掛け捨てであることについて説明を十分に行わず、保険と貯金を誤解させる可能性があるような説明をしていることがあった。」(保険募集人)
②「私は、募集人に募集品質の向上のための指導をする役職にあった。低実績者は、そもそも募集活動の件数が少なく、契約をとって来ようという意識も低いので、募集態様としてはクリーンな場合が多い。不適正募集を行っていた者のほとんどは優績者クラスの者だったと思う。」(募集品質指導専門役)
5 不適正募集の各類型に関する回答の傾向
(1) 高齢者募集
募集人アンケートによると、不適正な高齢者募集を自ら行ったことがある又は職場で見聞きしたことがあると回答した者(1 万8,769 人)の約63%(1 万1,837 人)が、上司・上長は、不適正な高齢者募集を黙認等していたと回答した。
また、不適正な高齢者募集を自ら行ったことがあると回答した者(2,133 人)のうち「お客さまのニーズが喚起できれば、お客さまに不利益を生じさせる場合であっても問題ない」旨