H30.9 建物等の設計や工事監理関係
「基本設計」と「実施設計」の違いと設計業務委託契約解除に伴う報酬支払の可否
相談内容 | 住宅兼店舗の設計業務を「基本設計」と「実施設計」行うこととして業務委託契約を締結したが、設計者が打合せを行うことなく一方的に実施設計に移行して、設計が完了に近い状態で工事費積算結果を含めて提示してきた。私としては、当初総工事費予算内での設計を委託し、基本設計段階では概算工事費が示されるものと思っていた。しかし、示された総工事費は大幅に予定額を超えてしまった。部分的な設計変更で対応できる内容ではないことから、現段階では建築をあきらめて設計業務委託を解除したいと申し出たが、これに対して設計者が実施設計まで行った業務に関する報酬額を請求してきた。 まず、建築物の設計に関して「基本設計」と「実施設計」の違いと明確な基準があるのか知りたい。そのうえで基本設計においてが示されていれば実施設計に移行することを断念できた訳であるから、実施設計に移行して業務を行ったからといって報酬を請求されることに納得がいかない。現在このことについて弁護士に相談している。 |
回答内容 | まず、「基本設計」と「実施設計」の違いについてですが、建築物を設計するに当っては、建築主が求める建築物の機能や仕様などを基に、建築場所における周辺環境や各種法令に基づく規制、水道、電気などの供給状況などをもとに、設計の条件を整理したうで、建築物が備えるべき機能や設備、デザイン等を概略的にまとめて図化或いは仕様書や説明書として作成します。この段階では、建築主から示される総工事費を考慮する場合と次の実施段階において積算する場合があります。このことは、契約の内容に明示することもあります。一般的には、これらを総称して「基本設計」といいますが、具体的にどのような図面をどのレベルまで作成するのかについては明確な決まりはなく、設計業務委託契約において具体的に示すことなどが必要となります。もっとも、設計業務委託を「基本設計」と「実施設計」とに分けて発注するケースは、公共建築物を中心に大規模な施設や施策的に重要な施設に多く、民間建築物や特に住宅においては、建築主の依頼があった場合など求めに応じて「基本設計」の業務委託が行なわれることが一般的といえます。 一般的な住宅の場合には、基本設計と実施設計が同時に行われるケースが多く、「設計業務委託」の中に全て含まれて行われる場合がほとんどといえます。だからといって「基本設計」が行なわれない訳ではなく、建築主が要求する諸条件を様々な制約を基に平面時や立面図等のプランとして示すことが一般的で、これらは基本設計の段階といえます。 一方、「実施設計」とは「基本設計」を基に工事施工者が実際に建築工事を行うことができるように、詳細な図面や仕様書を作成する業務となります。実施設計についても、どのような図面をどのレベルまで作成するのかについては明確な決まりはありませんが、基本設計を含めて、設計の委託者との間に締結する設計業務委託に基づき具体的に成果品を示しておくことが後のトラブル回避にも重要なことといえます。加えて、業務委託料の算出に当っても、こうした設計図書の作成枚数などが根拠となります。 特に、設計・施工を一体に契約する場合や工事請負契約書のなかに「設計・工事監理料」の項目を入れて一括契約するケースが多くありますが、こうした契約は後にトラブルの原因となったり、設計や工事監理業務の曖昧さがトラブルを発生させる要因なったりしています。 基本設計と実施設計について、示された法令(基準)では、国土交通省告示第 15 号が ありますので、これを基に委託料の算定を含めた設計業務委託契約内容を検討することをお勧めします。なお、住宅の場合は、前述したとおり「基本設計」は曖昧となりがち |
ですが、業務がない訳ではなく、むしろ建築物の設計に当っては重要な業務であることを認識しておく必要があります。 そこで、一方的に実施設計に移行した行為を含めた業務報酬額を支払う義務があるか否かについては、まず、業務委託契約書における契約解除の特約条項がどのように規定されているかを確認することが必要です。民法第 648 条においては、委任契約(設計業務委託契約が「委任契約」であるか「請負契約」であるかについては判断が分かれるところですが、「委任契約」とする判断が大勢といわれています。)の場合には、受任者は特約がなければ契約を解除することができないとされていますが、受任者の責めに帰することができない理由により履行が中途で終了したした場合は、既に行った業務の割合に応じて報酬が請求できるとされています。また、商法第 512 条においても同様の規定が設けられています。従いまして、契約の特約条項に明確に規定されているのであればその内容に従うこととなります。ただし、委託者の了解を得ないままに実施設計に移行したことについて、相互に主張が異なるのであれば、民法第 648 条の「受任者の責めに帰することができない理由」であるか否かについて、係争事項として互いの話し合いを行うこととなります。そして、合意に至らないのであれば、第 3 者によるあっせん、調停手続きや最終は裁判とならざるを得ないものと考えられます。相互の意識の違いと実態として実施設計への移行の指示が委託者からあったか等が判断要素となるものと思われますし、その判断過程において、基本設計と実施設計の違い争点になる場合もあるかと思われます。 【参考】 ○国土交通省告示第十五号(抜粋:基本設計と実施設計の標準業務) 1 設計に関する標準業務 一 基本設計に関する標準業務 建築主から提示された要求その他の諸条件を設計条件として整理した上で、建築物の配置計画、平面と空間の構成、各部の寸法や面積、建築物として備えるべき機能、性能、主な使用材料や設備機器の種別と品質、建築物の内外の意匠等を検討し、それらを総合して、別添二第一号から第十二号までに掲げる建築物並びに第十三号及び第十四号に掲げる建築物(木造のものを除く。)にあってはロ(1)に、別添二第十三号及び第十四号に掲げる建築物(木造のものに限る。)並びに第十五号に掲げる建築物にあってはロ(2)に掲げる成果図書を作成するために必要なイに掲げる業務をいう。 二 実施設計に関する標準業務 工事施工者が設計図書の内容を正確に読み取り、設計意図に合致した建築物の工事を的確に行うことができるように、また、工事費の適正な見積りができるように、基本設計に基づいて、設計意図をより詳細に具体化し、その結果として、別添二第一号から第十二号までに掲げる建築物並びに第十三号及び第十四号に掲げる建築物(木造のものを除く。)にあってはロ(1)に、別添二第十三号及び第十四号に掲げる建築物(木造のものに限る。)並びに第十五号に掲げる建築物にあってはロ(2)に掲げる成果図書を作成するために必要なイに掲げる業務をいう。 |
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