Contract
命 令 書
x x x トップ工業労働組合被申立人 トップ工業株式会社
主 文
1 被申立人は申立人に対し、昭和 60 年 12 月 26 日に申し入れた労働協約の改定を交渉事項とする団体交渉が、妥結し又は妥結しない旨の合意が成立するまでの間、チェック・オフ等の便宜供与に関し、昭和 61 年 2 月 28 日限り失効した労働協約の条項に従ったと同様の取扱いをしなければならない。
2 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。
理 由
第 1 認定した事実
1 当事者
(1) 申立人トップ工業労働組合(以下「組合」という。)は、被申立人トップ工業株式会社の従業員 203 人(申立時)をもって組織している労働組合であり、新潟県金属産業労働組合連合会及び三条地区労働組合協議会に加盟している。
(2) 被申立人トップ工業株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社及び工場を置き、主として作業工具の製造及び販売を業とする資本金 74,002,500円、従業員 235 人(申立時)の会社である。なお、東京、名古屋、大阪などに出先営業所を有している。
2 本件労働協約の沿革と内容
(1) 沿革
ア 昭和 22 年、29 年、34 年の協約
昭和 22 年 8 月、組合と会社は、争議と解雇に関して最初の労働協約を締
結した。ついで、昭和 29 年 12 月、上記項目に賃金、労働時間、退職金、労働災害補償、ユニオン・ショップ等の項目を加えた包括的労働協約を締結した。この協約の有効期間は 6 か月で、期間満了後は 6 か月ごとに更新した。
その後、昭和 34 年 3 月、完全なユニオン・ショップ制について個別的協約を締結した。
x xx 40 年、51 年、53 年の協約
昭和 40 年 1 月 1 日、組合と会社は、上記アの昭和 29 年の協約と昭和 34年の協約を包括した労働協約を締結した。
この協約は、11 か章、81 か条で構成され、第二章「組合及組合活動」においては、完全なユニオン・ショップ制(第 8 条)、非組合員の範囲(第 9 条)、
就業時間中の組合活動(第 11 条)、組合事務所、掲示板の貸与及び会社施設
の使用(第 13 条)、チェック・オフ(第 14 条)などを定めた。
その有効期間は、昭和 40 年 1 月 1 日から同年 12 月 31 日までの 1 か年で、
以後 6 か月ごとに更新した。
ほかに、昭和 51 年 4 月、争議期間中の組合役員の業務の扱いについて、
昭和 53 年 2 月、争議行為に参加した組合員の扱いについて、それぞれ個別的労働協約を締結した。
ウ 昭和 54 年 7 月 1 日締結の労働協約
昭和 54 年 7 月 1 日、組合と会社は、上記イの昭和 40 年の協約に昭和 51年、53 年の個別的協約を包括した労働協約(以下「本件協約」という。)を締結した。本件協約の有効期間は、昭和 54 年 7 月 1 日から昭和 55 年 6 月 30
日までの 1 か年で、その後 6 か月ごとに更新した。
本件協約は、締結後、後記申入れ時まで一度も改定されたことはなかった。
(2) 内容
本件協約は、11 か章、87 か条で構成されている。
第 1 章総則、第 2 章組合及び組合活動、第 3 章労働時間及び休暇、第 4 章賃
金、算 5 章災害補償、第 6 章人事、第 7 章労働協議会、第 8 章争議、第 9 章安
全衛生、第 10 章教育及び福利厚生、第 11 章附則とし、第 2 章においては、完
全なユニオン・ショップ制(第 8 条)、非組合員の範囲(第 9 条)、就業時間中の
組合活動(第 11 条)、組合事務所、掲示板の貸与及び会社施設の使用(第 13 条)、
チェック・オフ(第 14 条)などについて定めており、その内容は上記(1)のイの各労働協約の内容とほぼ同一である。
また、協約の更新については、「第 85 条 本協約の期限がきても双方より意志表示のないときは更に 6 ケ月づつ有効とする」と定め、協約の改定については、「第 86 条 改訂の意志表示のあったときでも新協約が締結されぬ場合は期限満了後 2 ケ月は有効とする」と定めている。
3 本件協約改定の申入れと団体交渉
(1) 昭和 60 年 12 月 26 日の改定申入れと昭和 61 年 1 月 20 日、24 日及び 2 月 22日の改定案の提示
ア 会社社長の協約改定の指示
会社代表取締役 Y1(以下「Y1 社長」という。)は、昭和 59 年頃から、本件協約の改定を具体的に考え始めた。
そして、昭和 60 年 11 月 10 日頃、会社総務部長 Y2(以下「Y2 部長」という。)以下関係部課長に対し、本件協約の改定を検討するよう指示し、Y2 部長には検討事項として、①労使協議会の設置 ②組合掲示物の取扱 ③非組合員の範囲 ④争議の際の企業財産の保全等 ⑤賃金諸規定の単純化 ⑥文章表現の簡素化 ⑦ショップ制の見直しを具体的に示した。
指示を受けた部課長らはプロジェクトチームの中で直ちに検討作業に入った。
イ 会社の改定申入れ
昭和 60 年 12 月 26 日、組合 X1 書記長(以下「X1 書記長」という。)と Y2部長との交渉(以下「窓口交渉」という。)が行われた。この席上、Y2 部長は X1 書記長に対し、「労働協約改訂申し入れ書」を手交した。
この申入れ書の内容は、「各章の各条項で実状にあわない部分があるので改訂を申し入れます。尚具体的に改訂案を昭和 61 年 1 月 20 日までに労働組合に提出致します」というものであった。
Y2 部長は、改定の内容に全く触れなかったので、X1 書記長がその具体的内容を尋ねたところ、「1 月 20 日に出すよう作業を進めているので、そのことについては申し上げられない」旨を回答した。
なお、同日現在における会社の改定作業は、考え方の骨子がほぼまとまり、各条項について具体的検討に入った段階であった。
ウ 改定案の提示
昭和 61 年 1 月 6 日、窓口交渉(定例)が行われたが、改定問題は話に出なかった。同月 13 日、窓口交渉(定例)が行われ、その席上、X1 書記長が Y2部長に改定内容を尋ねた。Y2 部長は、「労働協約の中で数字の部分、例えば企業内最低賃金、通勤諸手当などの部分は、変更の都度直さないとだめなので、そういうものを別表にするなども含まれている」などを説明した。しかし、ユニオン・ショップ制、非組合員の範囲、xxxx・xx等も検討項目に入っていること等は話さなかった。
1 月 20 日、窓口交渉(定例)が行われ、Y2 部長は X1 書記長に改定案(以下
「第一次改定案」という。)を手交した。その際、Y2 部長は、なお若干の追加、変更が有り得ることを付け加えた。
同月 24 日、Y2 部長は、現場で作業中の X1 書記長を訪れ、第一次改定案の
一部を追加、変更した改定案(以下「第二次改定案」という。)を手交した。 2 月 22 日、窓口交渉が行われ、Y2 部長は、現行の企業内最低賃金、諸手 当を整理して別表にした書面を X1 書記長に手交した。これにより、会社の改定案の全容が明らかにされた。なお、Y2 部長は、同時に改定案について各
条項別に改定理由を付した表を X1 書記長に手交した。
(2) 改定案の内容
会社の第一次改定案の内容は、①完全なユニオン・ショップ制からオープン・ショップ制への移行 ②非組合員の範囲の拡大 ③就業時間中の組合活動の制限 ④掲示板の掲示内容等の規制 ⑤労使協議会制度の創設等を骨子とし、労働協約のいわゆる債務的部分について、本件協約の重要部分を大幅に改定しようとするものであった。
また、第二次改定案の内容は、第一次改定案中 ①非組合員の追加(第 9 条)
②就業時間中の組合活動条項(第 11 条第 3 項)の削除 ③チェック・オフ条項
(第 14 条)の削除等で、追加、変更は 20 数条項に及んでいる。
(3) 団体交渉の経過と労使の対応ア 第 1 回団体交渉
昭和 61 年 1 月 30 日、午後 4 時から午後 5 時 15 分頃まで、本件協約改定問題に関する第 1 回の団体交渉が行われた。出席者は、組合側は 13 名の執行委員全員であり、会社側は、Y3 専務、Y4 常務、Y2 部長、Y5 部長らであった。
冒頭、改定の必要性、緊急性など改定の趣旨説明が先議であるとする組合と、改定案の逐条説明が先議であるとする会社とが対立したが、議論は、本件協約の有効期限に集中した。
会社は、昭和 60 年 12 月 26 日に改定申入れをしているので、有効期限は
第 86 条により昭和 61 年 2 月 28 日であると主張するのに対し、組合は、会社が行った改定申入れは具体的な改定案を伴わないので、改定の意思表示とは認められない。したがって、協約は昭和 61 年 1 月 1 日から同年 6 月 30 日 まで更新された。第一次改定案が提示された 1 月 20 日に改定の申入れがなされたもので、6 月 30 日までに新協約が締結されなくとも、第 86 条により同年 8 月 31 日まで協約は有効である旨主張した。
この主張に関連して、組合は、仮に本件協約の有効期限が 2 月 28 日とすれば、この時期は春闘準備のため多忙なので、団体交渉は就業時間中に行うことを申し入れ、併せて「3 月 1 日以降も本件協約を継続的に運用するよう」申し入れた。
会社は、組合のこれら申入れに対し、就業時間中の団体交渉は、企業間競争において企業を守るためとの理由に併せて、文書による意見質問方式によっても協議できるとしてこれを拒否した。また、本件協約の「継続的運用」については、今後の交渉の進め方で決まるとの考え方を示すとともに、本件協約の解釈としては、2 月中に新協約が締結されない場合は、3 月以降は無協約状態になるものであると重ねて言明した。
イ 第 2 回団体交渉
2 月 20 日、午後 6 時から午後 9 時頃まで、第 2 回の団体交渉が行われた。この交渉は、本件協約の有効期限に関連して、3 月以降、会社が「組合関係費」のチェック・オフを行うかどうかに議論が集中した。
会社は、本件協約の有効期限は 2 月 28 日まであり、それまでに新協約が締結されない限り、3 月以降会社は就業規則及び協約のxxxによって対応して行くとの基本姿勢を表明するとともに、労働金庫と契約している財形貯蓄以外の「組合関係費」についてはチェック・オフはできないと言明した。
なお、会社は、改定案の逐条説明の中で、本件協約のチェック・オフ条項 (第 14 条)を削除した理由として、第二次改定案の第 31 条に同一内容が具体
的に規定されていることを挙げ、この第 31 条により従来どおり「組合関係費」のチェック・オフを行うと表明した。
2 月 27 日、組合は会社に対し、書面で、本件協約の有効期限に関する組合の上記主張を述べると同時に「会社提案の改定案は、現行協約における組合活動を大幅に制限するものである。このような労働基本権を大幅に制限する改訂提案に不当労働行為に当たる。したがって会社は今回の提案を撤回するよう警告する。なお、組合は、会社が今回の提案を整理し直して、正当な内容と時期に協議を求めるのであればこれに応える考えである」旨述べた。
ウ 第 3 回団体交渉
3 月 7 日、午後 6 時から午後 8 時 30 分頃まで、第 3 回の団体交渉が行われた。
この交渉では、主に3 月以降xxxx・xxを行うかどうかが議論された。会社は、本件協約は 2 月 28 日限り失効したので、3 月度は「組合関係費」
のチェック・オフは行わない。ただし、財形貯蓄、ガソリン代等については事務上の混乱を避ける配慮からチェック・オフを行うと言明した。
会社は、この団体交渉をもって、改定案の逐条説明を一応終了した。
組合は、団体交渉の終了間際に、会社に対して改定案の白紙撤回の意思の有無を質し、会社に撤回の意思がないことを確認すると、本件協約改定問題
を不当労働行為事件として当地労委に救済申立てをする旨通告した。エ 組合の救済申立てと会社の対応
3 月 19 日、組合は、当地労委員に対し、「会社が行った昭和 61 年 1 月 20日の労働協約改訂提案を撤回し、従前の労働協約の各条項に従った取扱いをする」ことなどを請求する救済内容として、本件申立てをした。
会社は、3 月以降、本件協約の失効を理由に、従来行っていたチェック・オフのうち、財形貯蓄、ガソリン代等を除く「組合関係費」のチェック・オフを廃止した。このため、組合は、毎月の賃金支給日に会社食堂を使用して
「組合関係費」の自主徴収を行っている。
なお、会社は、組合事務所、組合掲示板の貸与等については、従来どおりの便宜供与を行っている。
4 協約改定申入れ前後の労使関係
(1) 昭和 60 年
ア 春の賃上げ要求と退職金規定の改定提案
4 月、会社は、組合の賃上げ要求に対して、退職金が会社の経営を圧迫しているとして、退職金規定の改定を申し入れ、賃上げと併行審議をしたいと主張したため、労使は鋭く対立した。
組合は、同月 15 日、会社が賃上げの団体交渉において退職金規定の改定
と同時決着に固執するのは労働組合法第 7 条第 2 号の不当労働行為に当たる
として、当地労委に救済申立てをした(新労委昭和 60 年(不)第 8 号事件)。イ 労働争議と会社の対応
組合は、4 月 3 日及び同月 11 日にストライキを行い、その後 5 月 18 日に 24 時間ストを実施し、さらに同月 20 日以降は指名スト、時限ストに入り、争議は泥沼化した。
この争議中、会社は組合に対し、労働協約違反があるとして、書面で以下のとおり警告した。
5 月 16 日 会社施設内に無断で赤旗を立てたことに抗議し、撤去を求めた。
5 月 18 日 会社施設内において指定した以外の場所(会社正面玄関前)での集会と外来者の参加は、協約違反であると指摘した。
5 月 21 日 会社施設内(従業員玄関)に掲示した壁新聞の撤去を求めた。これら会社の警告に対し、組合は、5 月 21 日、慣行の一方的破棄は正当な
組合活動を規制するものであり、不当労働行為に当たると書面で反論した。 5 月 20 日、会社は「皆さんは重大な過失を犯していることを知っています
か!!」と題する文書を会社掲示板に掲示し、組合の労働協約違反を指摘し、
従業員に反省を求めるとともに、退職金規定改定問題に関する公開団交開催を呼びかけた。
同日夜、Y1 社長は、組合員 X2 の自宅に電話をかけて、ストライキによる生産の遅れと倒産のおそれを指摘し、労使関係について意見を求めた。また、翌 21 日朝、Y1 社長は、組合員 X3 の自宅に電話をかけて、前夜と同様のことを言った。
組合は、6 月 6 日、上記社長の行為は労働組合法第 7 条第 3 号の支配介入
に当たるとして当地労委に救済申立てをした(新労委昭和 60 年(不)第 12 号事件)。
6 月 12 日、組合と会社は、「春闘賃上げと退職金規定改訂問題は切り離して協議する」ことで合意し、確認書が締結された。
7 月 4 日、賃上げは妥結したが、退職金規定の改定は、その後も労使の意見が対立したりしたため、交渉はさして進展せず、問題の解決は翌年に持ち越された。
なお、上記新労委昭和 60 年(不)第 8 号事件は 10 月 1 日取り下げられ、新
労委昭和 60 年(不)第 12 号事件について、当委員会は、昭和 61 年 3 月 25 日、支配介入に当たるとして救済命令を発した。
ウ 労使協議会新設の提案
6 月、会社は、賃上げの団体交渉で組合に対し、労使協議会の新設を提案した。しかし、労使協議会の趣旨をめぐって「企業間競争において他社より優位に立ち、高付加価値、高賃金を実現するため労使努力する」とする会社と、「健全な労使関係の確立と社業の興隆を図る」とする組合とで、意見の調整ができず、合意に至らなかった。
エ 査定配分率の変更提案
11 月、会社は組合に対し、年末一時金の査定配分を従来の 5 パーセントか
ら 15 パーセントに変更したいと提案したが、組合は反対し、12 月 16 日、結
局従来どおりの 5 パーセントで妥結した。
(2) 昭和 61 年
ア 春の賃上げと査定配分問題
4 月、会社は、組合の賃上げ要求に対し、有額回答をするとともに、査定
配分を従来の 5 パーセントから 15 パーセントに変更する旨、再度提案した。組合がこれに反対したため、賃上げ交渉は妥結に至らないままxxした。
イ 夏の一時金の団体交渉と仮払い
7 月、xx一時金の団体交渉において、会社は、退職金規定改定問題及び
査定配分問題が解決しなければ、一時金の算定はできないとして、有額回答をしなかった。
そして、8 月、交渉が妥結していないのに、会社は、非組合員従業員と出先営業所の組合員に対してのみ、xx一時金の仮払いをし、本社勤務の組合員に対しては、組合の再三の要求にもかかわらず、仮払いをしなかった。
このため、同月 29 日、組合は、会社の上記各行為は労働組合法第 7 条第 2、
3 号の不当労働行為に当たるとして当地労委に救済申立てをした(新労委昭和 61 年(不)第 10 号事件)。
当地労委は、12 月 19 日、上記事件について救済命令を発したが、問題は解決しないままxxした。
ウ 申立外組合の結成
昭和 62 年 1 月 12 日、会社東京営業所の組合員 5 名は、組合に対し、組合脱退の届出をし、申立外トップ労働者組合を結成したと通知した。
会社は、同月 23 日、上記組合の結成を会社本社掲示板に告示した。
エ 春の賃上げと夏の一時金の交渉は、昭和 62 年 2 月 9 日に退職金規定の改
定と査定配分問題が妥結した後、同月 25 日に至り漸く妥結した。
第 2 判断及び法律上の根拠
1 判断 (当事者の主張)
(1) 組合は、次のとおり主張する。
会社は、昭和 60 年 12 月 26 日本件協約の改定を申し入れながら、昭和 61 年
1 月 20 日までその内容を明らかにせず、同日提示(同月 24 日一部変更)した改定案は、本件協約の債務的部分を全面的に改定しようとするものであるのに、その後の団体交渉において十分協議を尽くさないまま、同年 3 月 1 日以降協約は失効したとして、「組合関係費」のチェック・オフを廃止するなどした。会社のこれら行為は実質的には本件協約の一方的全面破棄であり、無協約状態を利用して組合の弱体化を図ろうとしたもので、支配介入の不当労働行為に当たる。
(2) これに対する会社の主張は、次のとおりである。
会社は、本件労働協約に定めるところに従い、組合に改定を申し入れ、改定案を提示したもので、いかなる提案をするかは労使の自治に委ねられている。また、本件協約が失効したのは、第 86 条の定めにより昭和 61 年 2 月 28 日までに新協約が締結されなかったため、自動的に失効したものであり、会社が「組合関係費」のチェック・オフを廃止したのは、失効に伴う当然の措置である。会社が本件協約を一方的に破棄して組合の弱体化を図ったとする組合の主張は
失当であり、不当労働行為には当たらない。 (当委員会の判断)
(1) 第 1 の 3 の(1)、(3)で認定した事実によれば、①会社が本件協約の改定を組合に申し入れたのは、本件協約の有効期間満了直前の昭和 60 年 12 月 26 日であり、その際改定の内容は組合に示していないこと。②改定申入れに伴い本件協約の効力は自動延長されたが、その有効期限は昭和 61 年 2 月 28 日までであるのに、会社が組合に改定案の内容を明らかにしたのはその期間の半ば近い同年 1 月 20 日及び同月 24 日であったこと。③改定案提示後、上記自動延長期間内に、団体交渉が行われたのは 1 月 30 日(第 1 回)及び 2 月 20 日(第 2 回)に過ぎず、それ以外に協議が行われていないこと。などが明らかであり、これらを総合すれば、会社に、無協約状態を避けようとの配慮はなかったものと判断せざるを得ない。
ところで、有効期間の定めのある労働協約を改定するに際し、その期間内に新協約が締結されない場合の旧協約の効力の取扱いについては、有効期間の満了により失効させるか、新協約締結までその効力を維持させるか、一定の期間を限って効力を有するものとするか等は、協約当事者の合意によるものとするか等は、協約当事者の合意によるものである。
本件協約は労使の合意で有効期間満了後 2 か月に限り効力を自動延長することを定めているため、昭和 61 年 2 月 28 日までに新協約が締結されなかった結果、本件協約は自動的に効力を失ったものであり、会社に自助延長期間内に改定案について協議を尽くす配慮がなかったからといって、直ちに会社が本件協約を一方的に破棄したことと実質的に同一であるとまでは解されない。
(2) 第 1 の 2 の(2)及び同 3 の(2)で認定した事実によれば、会社が組合に提示した改定案の内容は、その債務的部分について本件協約と比較すると ①完全なユニオン・ショップ制からオープン・ショップ制への移行 ②非組合員の範囲の拡大 ③就業時間中の組合活動の制限 ④掲示板の掲示内容等の規制 ⑤チェック・オフ条項の削除 ⑥労使協議会制度の創設等を含むもので、組合がこれを既得権の侵害、組合活動の制限と受け止めたとしても無理からないものと思料される。
しかし、本来、経済状況、労働関係は流動的であり、労使の合意によって締結された労働協約が流動する実態に適合しなくなった場合、これを改廃することは当然許されることであり、労働協約の有効期間に関する労働組合法第 15条の規定もこの点を考慮して定められたと解される。そして、労働協約が現状に適合しなくなったかどうか、どのような改定が適当であるか等の判断は、協
約当事者たる労使の自主的判断に委ねられ、いかなる改定案を提案するかは労使の自治、協約締結の自由の範囲内のことであり、いかなる内容の協約を締結するかは当事者が協議して取り決めるべき事柄である。
したがって、会社が、本件協約の債務的部分等が経済状況、労働関係の実情に適合しなくなったと判断し、その改定を求め、改定案を提示することは会社の自由になし得ることである。組合がその提案内容を適切でないと判断したときは、団体交渉において誠意を尽くして協議し解決を図るべきであり、会社提案が組合の既得権を侵害し、その活動を制限する条項を含むと判断されるからといって、直ちにこの提案自体が本件協約の全面的破棄を図る不当労働行為とされるものではない。
(3) しかし、当委員会は、(1)、(2)にもかかわらず、本件協約の改定に関し会社に支配介入の不当労働行為があったと判断する。
以下にその理由を述べる。
ア 第 1 の 2 で認定した事実によれば、本件協約は、①その債務的部分におい
て昭和 40 年の協約とほぼその内容を同じくし、昭和 54 年締結以降一度も改
定されないまま更新されていること。②なお、昭和 40 年の協約は昭和 29 年の協約を踏襲したものであり、これまで無協約状態は全くなかったこと。などが明らかである。したがって、本件協約の債務的部分は、xxにわたって労使関係を規律して来たものであり、特に組合にとっては、その存立と活動の基盤となっていたものと言うことができる。
もとより、本件協約の改定にあたり、いかなる提案をするかは会社の自由であることは、先に述べたとおりであるが、上記の事実は、改定を求める会社において十分に配慮すべき事柄であり、慎重な提案と協議を尽くすことが要請される。
イ 第 1 の 3 の(1)で認定した事実によれば、会社は改定案の具体的検討作業に着手してから、組合に第二次改定案を提示し終えるまで約 75 か日を要し、さ
らに改定理由の逐条説明表を手交するまで 29 か日を費しているが、改定内容の質量に照らせば上記日時を費すのも当然と理解される。
他方、組合は、会社から第一次及び第二次改定案が提示されるまで、改定内容は全く知らされておらず、第 86 条による自動延長期限までに新協約を締結するには、35 か日の期間が残されているに過ぎず、その期間内に内部討議を終えて会社と協議を尽くすことは困難であり、これを組合に求めることは、労働協約改定過程における労使の実質的対等を保障したものとはいえず、労働組合法の趣旨に照らし相当ではない。
ウ 会社と組合が、本件協約において、その有効期間内に新協約が締結されない場合、協約の効力をなお 2 か月間自動延長する旨を第 86 条に定めたのは、協約改定の協議中に無協約状態に陥ることから生じる混乱を労使とも極力避けようとしたものに他ならないと解される。
ところで、第 1 の 3 の(3)で認定した事実によれば、会社は、組合が、第二次改定案を示された直後の第 1 回団体交渉において、2 月 28 日まで協議を尽くすのは困難であるとして、3 月以降も本件協約の「継続的運用」をするよう求めたのに対し、一応柔軟に対応する姿勢を示した。しかし、失効直前の第 2 回団体交渉において会社はこれに応じない旨表明し、失効直後開かれた第 3 回団体交渉においてもその態度を変えず、3 月度に「組合関係費」のチェック・オフをしない旨言明した。
会社が本件協約を 2 月 28 日限り失効させなければならない特段の必要性、
緊急性は全く認められないのに、上記第 86 条の趣旨にも反し、無協約状態の中で協約改定の団体交渉を行おうとする会社の意図を疑わざるを得ない。
エ 第 1 の 4 で認定した事実によれば、会社が、組合の本件協約の「継続的運
用」の要求を拒否した昭和 61 年 2 月 20 日前後の労使関係は、昭和 60 年中において会社の提案した退職金規定の改定、労使協議会の設置、年末一時金の査定配分率の変更等が何れも組合の抵抗に遭って実現せず、労働争議、組合活動の在り方をめぐっても、組合と会社がきびしい対立関係に在ったこと、その関係は、その後においても続いていることなどから、会社の組合に対する不信感が極めて強かったことが認められる。
以上アないしエを総合、考察すれば、会社は、本件協約が昭和 61 年 2 月
28 日限り失効し、以後無協約状態となることを承知しながら、これを避けるため本件協約の「継続的運用」を図る等の措置を講ぜず、組合が本件協約に基づいて受けていた各種便宜供与等を失わせて組合の団結と交渉力を弱め、会社の改定案の受諾を余儀なくさせることを企図して一連の行為に及んだと解するほかなく、会社のかかる行為は、もはや労使の自治、協約締結の自由の範囲を超え、労働協約改定過程における労使の実質的対等を侵害する支配介入に当たると判断せざるを得ないのである。
(救済内容)
(1) 組合は、本件申立書において、請求する救済内容の第一項として「昭和 61年1月 20 日付労働協約改訂提案(1 月 24 日一部変更)を撤回」することを求め、最後陳述書において、これを「昭和 60 年 12 月 26 日付け労働協約改訂の申入れを撤回」することと変更しているが、元来、申立書等における請求する救済内
容の記載は当委員会の裁量権の発動を促すものに過ぎないし、会社の答弁に照らし、この変更がその防禦権の行使に不利益を与えたとも判断されないので、以下、変更後の請求する救済内容について検討する。
(2) 会社が組合に提示した改定案は、その内容が、債務的部分において組合が本件協約で認められている諸権利や組合活動を制限するものであるとしても、提案に過ぎないものであり、労使の自治、協約締結の自由の範囲を出るものではなく、労使が誠意を尽くして協議し解決を図るべき事柄であることは、さきに詳述したとおりであり、その撤回を命ずるのは相当でない。
当委員会は、本件の具体的事実に即し、組合が本件協約等に基づいて 30 年以上も受けて来た組合事務所、掲示板の貸与、チェック・オフ等の便宜供与等を一挙に失わせる特段の必要性、緊急性が会社に認められないのに、本件協約の
「継続的運用」を拒否し無協約状態の中で団体交渉を進めようとする会社の行為が、会社の改定申入れの時期、方法及び改定案提示の時期等とあわせ、労働協約改定過程における労使の実質的対等を損なう支配介入に当たると判断したもので、その観点から、主文第一項のとおり命令することとした。
(3) また、組合は、xxxの掲示を求めるが、会社は、本件協約の失効を理由に、昭和 61 年 3 月以降「組合関係費」のチェック・オフを廃止したが、組合事務所、掲示板の貸与等の便宜供与は協約失効後も事実上継続していることなどの事情も考慮して、これを命じないこととした。
2 法律上の根拠
以上のとおり、本件は労働組合法第 7 条第 3 号に該当する不当労働行為である
から、同法第 27 条及び労働委員会規則第 43 条を適用して主文のとおり命令する。
昭和 63 年 4 月 7 日
新潟県地方労働委員会
会長 x x x x ㊞