ケベック民法典は、第 5 編「債権」で「有名契約(contrats nommés)」と題する章を設け
ケベック
1 総説
(1) 現行ケベック民法典における典型契約規定の概要
ケベック民法典は、第 5 編「債権」で「有名契約(contrats nommés)」と題する章を設け
(第 2 章)、典型契約に関して規定している。その目次は以下のとおりである。
第 1 節 売買第 2 節 贈与
第 3 節 信用供与賃貸借第 4 節 賃貸借
第 5 節 傭船第 6 節 運送
第 7 節 労働契約
第 8 節 請負契約ないし役務契約第 9 節 委任
第 10 節 会社契約及び非営利団体契約第 11 節 寄託
第 12 節 貸借 第 13 節 保証 第 14 節 定期金第 15 節 保険
第 16 節 競技及び賭事第 17 節 和解
第 18 節 仲裁の合意
ケベック民法典は、以上のような編成を採ることにより、民法典上、明確に典型契約を列挙するという方針を採用している。なお、フランス民法典では典型契約としての位置付けが与えられている信託(fiducie)は、ケベック民法典では、第 4 編「物」の中で規定されている1。
1 ケベック民法典における信託については、xxxx「ケベックの信託法」信託法研究 13号 35 ページか(1989 年)、xxxx「ケベックにおけるフランス民法典」xxxxx『フランス民法典の 200 年』90 頁以下(有斐閣、2006 年)等を参照。
(2) ケベック民法典およびその典型契約規定の沿革2
カナダの東部に位置するケベック州をめぐっては、16 世紀から 18 世紀にかけてイギリスとフランスが領有を競い合い、1763 年のイギリス割譲後もフランス系住民とイギリス系住民との間で適用法をめぐる対立が生じ、最終的には Lower Canada(現在のケベック州)と Upper Canada(現在のオンタリオ州)とに分割され(1791 年)、今日に至ったという歴史的・政治的背景がある。1865 年に制定(翌年に施行)された「ロワー・カナダ民法典(Code civil du Bas-Canada)」が長らく適用されていたが、1955 年に「民法典の改正に関する法律」が制定され、1965 年には民法典改正委員会が設けられ、民法改正への作業がなされるに至った。こうした作業は、1977 年の『ケベック民法典草案』の公表に結実したが3、急進的な改革内容を含むゆえ包括的な形での立法化は実現せず、最も改革が必要とされた家族法の部分の先行的な施行(1981 年)を経て、ようやく 1991 年に、ケベック新民法典が制定された(1994 年 1 月 1 日より施行)。
典型契約規定のみに着目すれば、1977 年の草案においては、売買、贈与、物の賃貸借、傭船、運送、労働契約、請負契約、役務契約、委任、会社(組合)、寄託、係争物寄託、貸借、保証、保険、定期金、競技及び賭事、和解、仲裁が典型契約として定められていた。それに対し、1991 年の新民法典においては、典型契約のリストに信用供与賃貸借が新たに加えられ、また、同種の契約の統合(請負契約と役務契約を一つの節にまとめて規定し、寄託と係争物寄託を寄託として統合した)や新たな下位類型の付加(会社契約に関する規定に非営利団体契約も加えた)も行われた(基本的に大きな変更はなされていないといってよいだろう)。なお、典型契約規定に関する限り、1991 年以後、新たな条文の追加や既存の条文の改正はほとんどなされていない。
(3) 日本の民法典との比較
現行ケベック民法典に規定されている典型契約は、売買(vente)、贈与(donation)、信用供与賃貸借(crédit-bail)、賃貸借(louage)、傭船(affrètement)、運送(transport)、労働契約 (contrat de travail)、請負契約ないし役務契約(contrat d’entreprise ou de service)、委任 (mandat)、会社契約(contrat de société)及び非営利団体契約(contrat d’association)、寄託 (dépôt)、貸借(prêt)、保証(cautionnement)、定期金(rente)、保険(assurances)、競技(jeu)及び賭事(pari)、和解(transaction)、仲裁の合意(convention d’arbitrage)の 18 種である。
2 ケベック民法典全般に関する邦語文献として、xxxx「ケベック民法xxx」神院 34巻 2 号 469 頁(2004 年)、xx・前掲注(1)90-93・99-104 頁、xxxx「民法典改正の動向(2)フランス・ケベック」xxxほか編『民法の争点』34 頁(有斐閣、2007 年)があり、本報告書の記述もこれらに多くを負う。なお、フランス語文献としては、P. -G. Jobin, Le nouveau code civil, RTD civ. 1993.911 ; J. -L. Xxxxxxxx et P. -G. Jobin, Le Code civil français et les codes civiles québécois, in Le Code civil. 1804-2004. Livre du Bicentenaire, Xxxxxx et Litec, 2004 がある。
3 同草案とその理由書として、Rapport sur le Code civil du Québec, Office de révision du Code civil, v.1(Projet de Code civil) et v.0(Xxxxxxxxxxxx), Xxxxxxx xxxxxxxx Xxxxxx, 0000.
日本の民法典では、第 3 編第 2 章第 2~14 節において、贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解の 13 種の典型契約が規定されているが、ケベック民法典と比較すると、次のように整理できる。
第一に、日本の民法典が規定する典型契約は、いずれもケベック民法典においても規定されていると一応はいえる。もっとも、いくつかの点に注意が必要である。
①日本の民法典で規定されている典型契約のうちいくつかのものは、ケベック民法典では、より大きな内容を有する契約の下位類型として位置付けられている。すなわち、日本の「消費貸借」「使用貸借」はケベックでは「貸借」の下位類型として4、日本の「寄託」はケベックでは「寄託」の下位類型として(日本の「寄託」はケベックの「寄託」の下位類型と一致するにすぎない)5、日本の「終身定期金」はケベックでは「定期金」の下位類型として6、それぞれ規定されている。なお、日本の「交換」は、ケベックでは「売買に類似する契約」のひとつとして規定されている(後述2(2)(iv)参照)。
②各契約の概念内容を細かく見るならば、日本とケベックでは一致しないことがある。
とりわけ、日本の「請負」「委任」とケベックの対応契約類型の異同が重要である(後述4
(3)参照)。
第二に、ケベック民法典には、日本の民法典には設けられていない典型契約が見られる。信用供与賃貸借、傭船、運送、(非終身的の)定期金、保険、競技及び賭事、仲裁の合意である(なお、保証は、日本の民法典では債権総則に規定されている(446 条以下))。各典型契約の下位類型にまで目を向ければ、こうした例はさらに増える。
(4) 検討方針
本報告書では、次のような方針で、ケベック民法典における典型契約規定を分析する。第一に、日本の民法典にも設けられている典型契約については、基本的には規定の特徴
について簡単に述べるにとどめるが、日本の民法典には規定されていない下位類型についてはその規定内容について若干詳しい紹介・検討を行う(2)。日本の民法典には設けられていない典型契約は、全てその規定内容につき紹介・検討する(3)。
第二に、日本の民法典における同種の契約との概念上の差異が特に問題となる役務提供型の契約については、以上とは別に検討する(4)。
ただ、ケベック法の契約各論に関する文献はほとんど入手できなかったため、以下での
4 ケベック民法典は、「貸借(prêt)」の種類として、「使用貸借(prêt à usage)」及び「単なる貸借(prêt simple)」を規定しており、前者が日本の民法典における「使用貸借」に、後者が
「消費貸借」にそれぞれ該当する。
5 ケベック民法典は、「一般の寄託(dépôt en général)」(日本の民法典における「寄託」に該当する)のみならず、「必要的寄託(dépôt nécessaire)」も含めて、「寄託」として規定する。また、「ホテル業者の寄託(dépôt hôtelier)」が別立てで規定されているほか、「係争物寄託(séquestre)」も、「寄託」と同じ章で規定されている。
6 ケベック民法典の「定期金」には、非終身の定期金契約も含まれる。
分析は条文のみを手がかりとしたものであることを断っておかなければならない。
2 日本の民法典にも設けられている典型契約
(1) 総説
ケベック民法典に規定されている典型契約のうち、売買、贈与、賃貸借、労働契約、請負契約ないし役務契約、委任、会社契約及び非営利団体契約、寄託、貸借、保証、和解は、日本の民法典にも対応する典型契約が規定されているものであると一応はいえる。このうち、保証に関しては、債権総論に属する事柄であるので、今回の検討対象からは除く。
(2) 売買(vente)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第1節は「売買」について規定する(1708~1805 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 売買一般
第 2 款 居住目的不動産の売買に特有の規律第 3 款 売買に類似する様々な契約
目次から明らかなように、ケベック民法典においては、通常の売買に関する規定(第 1
款)に加え、「居住目的不動産の売買」に関して特別の規定がおかれ(第 2 款)、さらに売
買に類似する契約も売買の節にあわせて規律されている(第 3 款)。また、通常の売買に関
しても、「特殊な態様による売買」に関する規定が設けられている(第 1 款§7)。
売買は、「ある者(売主)が他の者(買主)に対し、物の所有権を移転し、それと引換えに買主が代金を金銭で支払うことを約する契約」と定義される(1708 条)。定義規定等の一般規定(第 1 款§1)や売主及び買主の義務に関する規定(同§4・§5)のほか、予約に関する規定(同§2)や他人物売買に関する規定(同§3)が設けられている点が、日本の民法典における売買に関する規定と比較して特徴的であるといえようか。規定内容の詳細については検討を控えるが、有償・双務・諾成性等の基本的な点においては変わりがない。
(ii) 特殊な態様の売買
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 1 節第 1 款§7 においては、特殊な態様の売買に関する規定がおかれている。具体的には、試用売買、割賦売買、買戻権付売買、競売である。このうち、買戻権付売買に関しては、日本の民法典にも同様の規定がおかれている。そこで以下では、残りの三者を概観しよう。
ア 試用売買(vente à l’essai)
物の試用売買は停止条件付きで行われるものと推定される(1744 条 1 項)。試用期間が約定されていない場合は、買主が物の引渡しから 30 日以内に売主に拒絶を通知しないこと
によって、条件が成就する(同条 2 項)。
イ 割賦売買(vente à tempérament)
割賦売買とは、「売主が売買代金全額の支払いまで物の所有権を留保する期限付き売買」である(1745 条 1 項)。対象の物が登録方法の存在する動産である場合、割賦売買による所有権留保及びその譲渡を第三者に対抗するためには公示が必要であり、売買から 15 日以
内になされれば売買時に遡って公示の効力が生じる(同条 2 項)。所有権は売主に留保されているが、物の滅失の危険は、消費者契約等の場合を除き、買主に移転する(1746 条)。
買主は約定にしたがって代金債務を負うが、売買の対象物が司法機関により売却される場合や買主が売主の同意なくその物を第三者に譲渡する場合は、即時に請求可能となる
(1747 条)。代金不払いの場合には、売主は期限の到来した支払いの即時の弁済又は売却物の取戻しを請求することができるが、期限の利益喪失条項があるときには、未払代金すべての即時の弁済を請求することができる(1748 条)。
売主の取戻権については、それが原則として抵当権の行使に関する規律に基づいて行われる旨(1749 条 1 項)、及び、所有権の留保が公示されるべきであったのにされなかった場合や遅れて公示された場合にはその物の直接の買主(ただし遅れて公示された場合には公示後の譲受人も含む)からのみ取り戻しうる旨(同条 2 項・3 項)が規定されている。
ウ 競売(vente aux enchères)
① 総論
ケベック民法典 1757 条以下においては、競売における当事者(売主、競売人、競売参加者、競落人)の法的関係を規律するために、比較的詳細な規定がおかれている。
そもそも、競売とは、「物が第三者(競売人)の仲介でxxに売却に供され、最高入札者たる競落人に競り落とされた旨を宣言される売買」と定義されている(1757 条)。競売には任意競売と強制競売とがあり、任意競売には(以下で説明する)民法典上の競売に関する規定が適用されるが、強制競売の場合には、民事訴訟法典の規定が適用され、民法典上の競売に関する規定は、不適合でない限りにおいて適用されるにすぎない(1758 条)。
② 競売の方法
競売の方法に関しては、次のような規定が置かれている。
第一に、競売条件に関する規定。ⅰ売主は最低競売価格その他の売買条件を決定することができる。ただし、それを競落人に対抗するためには、競売人が事前に競売参加者にその内容を通知することが必要である(1759 条)。ⅱ競売に際して、売主は自己の身元を明らかにしないでおくことができるが、それが競落人に明らかにされない場合には、競売人が売主の義務を負うことになる(1760 条)。
第二に、入札に関する規定。入札者は入札額を撤回できない(1761 条)。
第三に、競売の完成に関する規定。ⅰ競売が完成するのは落札時点であり、台帳への記入等により売買が証明される(1762 条)。ⅱ不動産競売の場合、落札後、売主及び競落人は、当事者の一方による請求から 10 日以内に売買の証書を作成しなければならない(1763 条)。
③ 競売の効力
競売の効力に関しては、次のような規定が置かれている。
第一に、競落人が代金を支払わない場合(空競り)に関する規定。売買の条件に従って買主(競落人)が代金を支払わない場合、売主が代金支払請求できるほか、競売人は、慣習に従い、かつ十分な通知をしたうえで、再競売に付すことができる(1765 条 1 項)。この場合、空競り人(当初の競落人)は、改めて入札することができず、自己の競落代金と再売却の最低価格との差を支払わなければならない等の義務を負う(同条 2 項)。
第二に、担保責任に関する規定。競落した物が売主の債権者により差押えられた場合、買主たる競落人は、売主に対し、代金等の返還を求めることができる。また、売主の債権者に対しても、その者に交付された代金等を回復することができるが、その場合、債権者は検索の抗弁の利益を主張できる(1766 条 1 項)。さらに、競落人は、差押えや売却の不正による損害の賠償を請求することもできる(同条 2 項)。
(iii) 居住目的不動産の売買(vente d’immubles à usage d’habitation)
① 総論
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 1 節第 2 款においては、「居住目的不動産の売買に特有の規律」が規定され、居住目的不動産の売買において予備的契約(contrat préliminaire)の締結が強制されるとともに、その内容について詳細な規律がなされている。
② 予備的契約の強制
居住目的不動産の売買が、不動産建築者又は開発者を売主とし、それを自分で占有するために取得する自然人を買主とする場合には、当該売買の前に、後者が不動産の購入を予約する旨の予備的契約が締結されなければならない。当該不動産が建築予定のものであるかすでに建築されたものであるか、土地に関する権利をも移転する売買か否かは問わない
(1785 条 1 項)。
予備的契約がなされなかった場合、購入者は、そのことによって重大な損害を被ることを証明すれば、売買を取消すことができる(1793 条)。
③ 予備的契約の内容
予備的契約の内容に関しては、以下のような規定が設けられている。
第一に、予備的契約においては、予約者たる買主が証書の作成から 10 日以内においては予約を取消すことができる旨の約定を含んでいなければならない(1785 条 2 項)。
第二に、予備的契約には、売主及び買主の名及び住所、実現されるべき仕事、売買代金、引渡日、及び不動産に課せられている物権のほか、不動産の特質に関する有益な情報、代金が改定可能な場合には改定の態様が記載されなければならない(1786 条 1 項)。破約の権能を行使した場合の賠償を規定する場合、それは、売買代金の 0.5%を越えてはならない
(同条 2 項)。
第三に、居住目的不動産の分割共有権の一部分又は不分割持分を対象とする売買(のうち一定規模のもの)等においては、予備的契約の署名の際に、売主は買主に対し、情報文書を交付しなければならず(1787 条)、これによって初めて予備的契約は完全なものとなる。
情報文書には、建築士、技師、建築者及び開発者の名、不動産設計の全体計画、(必要に応じて)設計の実施の一般計画及び仕様書の概要が記載され、さらに、見積り予算(その作成方法は 1791 条に規定されている)、共同の設備、不動産の管理、(必要に応じて)当該不動産を目的とする永代不動産賃借権並びに地上権に関する情報、共有xxに関する合意の謄本又は概略が付される(1788 条)。
また、分割共有権の一部の売買においては、情報文書に、開発者又は建築者により不動産の専有部分又は共有部分に関して同意された賃貸借の状態、それらの者により住居目的に充てられた部分の最大限度を示すことが必要であり(1789 条)、開発者又は建築者がその最大限度を超えて賃貸借を同意した場合には、共有者の組合は、貸主及び借主に対して通知したうえで、賃貸借を解除できる(1790 条)。また、共有権の宣言が登記されえた日から 30 日以内に登記されなければ、売買は解除されうる(1792 条)。
④ 土地についての売買も同時になされる場合
請負人又は不動産開発者により、居住目的不動産の売買とともに、それらの者が有する土地について売買もなされる場合には、必要な調整をしたうえで、請負契約又は役務契約における担保責任に関する規律(4(1)(iv)②参照)が適用される(1794 条)。
(iv) 売買に類似する契約
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 1 節第 3 款においては、「売買に類似する契約」に関する規律が設けられている。具体的には、交換、代物弁済、不動産定期金契約である。このうち、交換は、日本の民法典にも同様の規定がおかれている。そこで、以下では、残りの二者を概観しよう。
ア 代物弁済(dation en paiement)
代物弁済とは、「債務者が物の所有権を債権者に移転し、債権者が、それを、債務者が債権者に対して支払うべき金銭又はその他の何らかの物の代わりにその弁済として受領する契約」である(1799 条)。代物弁済は売買契約の規律に服し、これにより物を移転する者は売主と同様の担保責任を負うが(1800 条 1 項)、物の引渡しによって初めて完全なものと
なる(要物契約。同条 2 項)。このように代物弁済が有効な契約である一方、債務者の債務の履行を担保するために、物の不可撤回的な所有者となる権利又は物を処分する権利を債権者が留保する旨の条項の効力は認められない(1801 条)。
イ 不動産定期金契約(bail à rente)
不動産定期金契約とは、「賃借人が定期金地代を支払うことを義務付けられるのと引換えに、賃貸人が不動産の所有権を移転する契約」である(1802 条 1 項)。定期金地代は通貨でも現物でもよく、設定時に定められた額・物が毎年末に支払われる(同条 2 項)。もっとも、賃借人が不動産を返還し既払いの定期金地代を放棄することで、定期金地代の役務から解放される(不動産定期金契約を解除する)ことができる(1803 条)。他方、不動産の放棄や不可抗力による破損によっては賃借人は義務を免れない(1804 条)。その他に関しては、売買・定期金に関する規律が適用される(1805 条)。
(3) 贈与(donation)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 2 節は「贈与」について規定する(1806~1841 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 贈与の性質及び範囲 第 2 款 贈与のいくつかの要件第 3 款 当事者の権利及び義務
第 4 款 忘恩行為を理由とする贈与の撤回
第 5 款 夫婦財産契約又は民事連帯契約による贈与
贈与は、「ある者(贈与者)が他の者(受贈者)に対して、無償で物の所有権を移転する契約」と定義される(1806 条 1 項)。生存者間の贈与と死因贈与とが存在する(同条 2 項)。
第 2 款には贈与の要件が詳細に規定されているが、わが国の民法典における贈与に関する規定との比較では、贈与は公証人証書によってなされなければ絶対的に無効であり(1824条 1 項)、唯一動産の現実贈与は書面がなくとも有効であるとされている点(同条 2 項)が
特徴的である。また、フランス民法典同様、忘恩行為を理由とする贈与の撤回(第 4 款)について規定されている点も重要である。なお、ケベック民法典の贈与に関する規定の中には、夫婦財産契約等による贈与について独立に項が設けられており(第 5 款)、贈与の特殊な類型といえるが、本報告書の検討対象からは除外する。
(4) 賃貸借(louage)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 4 節は「賃貸借」について規定する(1851~2000 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 賃貸借の性質
第 2 款 賃貸借から生じる権利及び義務
第 3 款 賃貸借の終了
第 4 款 住居の賃貸借に特有の規律
賃貸借は、「ある者(賃貸人)が他の者(賃借人)に対し、賃料と引換えに、一定期間の間、動産か不動産かに関わらず、物の使用を与える契約」と定義される(1851 条 1項)。« louage »という語が用いられているが、フランス民法典における « louage »とは異なり、「物の賃貸借(louage des choses)」のみを指す(それゆえ « bail »という語を用いる条文も見られる)。わが国の民法典における「賃貸借」と規律対象を同じくするといえる。当事者の権利・義務及び賃貸借の終了について詳細な規定がおかれているほか、ケベック民法典に特徴的なのが、「住居の賃貸借(bail d’un logement)」に関する特別の規律が設けられている点である(第 4 款)。わが国の借地借家法(のうちの借家の部分)に対応するものだが、借家法制に関わる大きな問題領域であるため、本報告書の検討対象からは除外する。
(5) 労働契約(contrat de travail)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 7 節は「労働契約」について規定する(2085~2097 条)。その内容については、他の役務提供型の契約とともに、4で検討する。
(6) 請負契約(contrat d’entreprise)ないし役務契約(contrat de service)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 8 節は「請負契約ないし役務契約」について規定する(2098
~2129 条)。目次は以下のとおりである。第 1 款 契約の性質及び範囲
第 2 款 当事者の権利及び義務第 3 款 契約の解除
ケベック民法典においては、「役務契約7」という契約類型が、請負契約と並び立つものとして規定されているのが注目される(1977 年の草案の段階から典型契約のリストに入っていた)。両契約の内容については、他の役務提供型の契約とともに、4で検討する。
(7) 委任(mandat)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 9 節は「委任」について規定する(2130~2185 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 委任の性質及び範囲
第 2 款 当事者間での当事者の義務 第 3 款 第三者に対する当事者の義務
7 「役務契約」の原語は« contrat de service »であり、「役務提供契約」という訳語がふさわしいようにも思われるが、後述の「役務提供型の契約」(4)との混同を避けるために、「役務契約」の訳語を充てた。
第 4 款 委任者の不適格に備えてなされる委任に特有の規律第 5 款 委任の終了
委任に関する規定の具体的な内容については、他の役務提供型の契約とともに、4で検討するが、ここでは、日本の民法典においては見られない委任契約の下位類型である、「委任者の不適格に備えてなされる委任」について見ることにする。
(ii) 委任者の不適格に備えてなされる委任(mandat donné en prévison de l’inaptitude du mandant)
① 総論
ケベック民法典 2131 条は、委任の一態様として「委任者の不適格に備えてなされる委任」を規定している。同条によれば、委任者の不適格に備えてなされる委任とは、「自分自身の世話又は自己の財産の管理についての委任者の不適格に備えて、その者の人格の保護、その者の財産の全部又は一部の管理、及び、一般的に、その者の精神的及び物理的満足を保障するための行為を目的とする」委任である。
2166 条以下の 10 か条において、具体的規律が規定されている。そこでは、主に、通常
の委任との関係での特殊性及び無能力者保護制度(régime de protection)との関係等が規定されている。なお、無能力者保護制度(わが国のxx後見制度に対応する)は、ケベック民法典第 1 編(人)第 4 章(人の能力)第 3 節(xx無能力者保護制度)256-297 条に規定されている。
② 委任者の不適格に備えてなされる委任の成立
委任者の不適格に備えてなされる委任の成立には、方式が要求される。すなわち、原本による公証人証書により、又は証人の面前でなされることが必要である(2166 条 1 項)。証人の面前でなされる委任も書面化されることが必要であり(2167 条 1 項)、その手続について規定が設けられている(同条 2 項)。
③ 委任者の不適格に備えてなされる委任の効力
(a) 発生
委任者の不適格に備えてなされる委任は、証書において指定された受任者の請求により、
「不適格の到来」及び「裁判所による承認」が満たされて初めて効力を生じ、履行される
(2166 条 2 項)。この点に関し、さらに二つの規律が定められている。
第一に、裁判所による承認の前においては委任(の証書)の取消しが認められる。また、当該委任(の証書)から生じる義務は、証書が締結された時において不適格が周知の事柄であったこと又は契約相手方に知られていたことの証明のみによって、減じられることができる(2170 条)。
第二に、裁判所による承認の前に委任者がすでに他の者に自己の財産の管理を負担させ
ていた場合には、こうした契約(についての証書)は、裁判所による承認手続にも関わらず効力を有し続ける。ただし、裁判所は、正当な理由がある場合には、当該契約(についての証書)を撤回することができる(2167.1 条 2 項)。
(b) 内容
委任の内容は、当事者間の合意内容によって定まるのが原則である。しかし、いくつかの例外がある。
第一に、契約内容に疑義がある場合には、受任者は、xx後見(tutelle au majeur)に関する規律を解釈指針とする(2168 条 1 項)8。その際、委任者の財産管理に関して、意見、同意又は許可が法律上必要とされる場合には、受任者は、公的保佐人(curateur public)又は裁判所からそれらを得ることができる(同条 2 項)。
第二に、裁判所は、委任の承認の手続において、又は承認の請求が切迫したものであり 委任者に重大な損害を回避させるために行為する理由がある場合には承認前においてでも、委任者の人格の保護、民事上の権利の行使におけるその者の代理又はその者の財産の管理 を保障するために必要と思量されるあらゆる命令を発することができる(2167.1 条 1 項)。
(c) 無能力者保護制度の併用
委任が委任者の世話又はその者の財産の管理の完全な保障を内容としていない場合には、それを補完するために無能力者保護制度を利用することができる。この場合、受任者は、 委任の履行を継続したうえで、後見人又は保佐人の請求により、少なくとも 1 年に 1 回、 それらの者に対して報告しなければならず、また、委任の終了時にもそれらの者に報告し なければならない(2169 条 1 項)。受任者は、当該の者の後見人又は保佐人に対してのみ、 報告義務を負い、自分自身で委任者の世話を保障する場合には、後見人又は保佐人(財産 管理権のみ有する)は、受任者に対して同様の義務を負う(同条 2 項)。
(d) 委任者・受任者の義務
委任者の不適格に備えてなされる委任も委任の一態様である以上、原則として、委任に
8 xx後見に関する規律とは、ケベック民法典第1 編第4 章第3 節第4 款(xx後見)285-290条を指す。ケベック民法典上、xx無能力者保護制度としては、xx保佐(curatelle au majeur)(同第 3 款)、xx後見、及びxx補助者(conseiller au majeur)(同第 5 款)が定められている。xx保佐は「自己の世話及び自己の財産の管理についてのxx者の不適格 性が完全かつxx的である場合」(281 条 1 項)、xx後見は「自己の世話及び自己の財産の管理についてのxx者の不適格性が部分的かつ一時的である場合」(285 条 1 項)、xx補助者は「xx者が一般的に又は通常は自己の世話及び自己の財産管理について適格であるが、一定の行為について又は一時的に、自己の財産の管理において補助又は助言を必要とする 場合」(291 条)に開始される。こうした違いに応じて、異なる具体的規律が定められている。xx後見人(tuteur)に関していえば、財産の管理行為(のみ)をなしうる旨(286 条)等が規定されている。
関する一般的規律(4(1)(v)③④参照)が適用される。
もっとも、このような委任においては、効力が生じた時点において委任者が不適格であるために、委任者の義務の履行には困難が伴う。このことから、通常の委任において委任者が負う、前払費用の支払義務(2150 条)、利息の支払義務(2151 条)、第三者との関係で受任者を解放させる義務(2152 条)、受任者の損害を賠償する義務(2154 条)は、反対の約定がない限り、受任者によって自己のために履行されることができる(2171 条)。
なお、無能力者保護制度と併用する場合の受任者の報告義務に関しては、前述(c)参照。
④ 委任者の不適格に備えてなされる委任の終了
委任者の不適格に備えてなされる委任の終了に関しても、委任の終了に関する一般的規律(4(1)(v)⑦参照)が適用されるが、それらに加えて(それらの中に)以下の規定が置かれている。
第一に、裁判所による承認の前であれば、取消しができる(前述③(a)参照)。
第二に、委任者が再び適格者になった場合は、裁判所の確認により委任は効力を停止し、委任者は委任を撤回できる(2172 条)。この場合の適格性の確認手続についても規定がおかれている(2173 条)。
第三に、受任者は、反対の約定があるとしても、代わりの者を立てたり無能力者保護制度の開始を請求したりすることなしには、委任を放棄することができない(2174 条)。
第四に、通常の委任は当事者の倒産により終了するが、ある者の不適格に備えて無償でなされる委任の場合には、終了しない(2175 条 2 項)。なお、同条項では、委任一般につき、「一定の場合においては、当事者の一人についての無能力者保護制度の開始により終了する」旨が規定されている。委任者の不適格に備えてなされる委任の場合、委任者についての無能力者保護制度の開始は、①当該委任に併用してなされる場合(前述(c)参照)と②受任者の放棄に先立ってなされる場合(上述の 2174 条)がありえ、いずれに該当するかで委任が終了するか否かが決まるものと思われる(①では継続、②では終了)。
第五に、受任者が死亡したときには委任は終了するが(2175 条 1 項)、委任者の不適格に備えてなされる委任の場合、受任者の清算人(liquidateur)(相続清算人)は、受任者の死亡を公的保佐人に対しても通知する義務を負う(2183 条 2 項)。
なお、委任者の不適格に備えてなされる委任に限ったことではないが、委任者が不適格である場合には、公的保佐人を含むあらゆる利害関係人は、委任がxxに履行されず、又は他の重大な理由により履行されないときには、裁判所に対し、委任を撤回し、受任者に会計報告の提出を命じ、かつ、委任者についての無能力者保護制度の開始することを請求できる(2177 条)。
⑤ 日本における任意後見契約との比較
ケベック民法典における「委任者の不適格に備えてなされる委任」は、わが国における
任意後見契約と類似する。わが国の任意後見契約法との比較では、以下の諸点を指摘できる。
第一に、契約によって達成される目的自体は、それほど変わりがない。また、契約の成立に方式(書面)が要求される点も同じである(ただし、ケベックでは必ずしも公証人の書面が必要とされているわけではない―証人の面前でなされる委任)。
第二に、わが国の任意後見契約においては、成立時における登記が予定されているが(公証人法 57 条の 3、後見登記法 5 条)、ケベックでは、少なくとも民法典上は、そうした仕組みは用意されていないようである。
第三に、わが国では任意後見監督人の選任が任意後見契約の効力発生要件となっているが(任意後見法 2 条 1 号)、ケベックでは受任者(任意後見人)に対するそのような監督の仕組みは用意されておらず、終了の場面における公的保佐人の最低限の関与が予定されているにすぎない。
第四に、わが国では法定後見の開始により任意後見契約は終了するが(任意後見法 10 条
1 項、3 項)、ケベックでは無能力者保護制度との併用も認められている。
総じて、ケベックにおいては、わが国の任意後見制度よりも簡便な仕組みが用意されているといえようか(このことの含意はさらなる考究を要する。なお、わが国では通常の委任契約により実現されうるとの理解もありえよう)。
(8) 会社契約(contrat de société)及び非営利団体契約(contrat d’association)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 10 節は「会社契約及び非営利団体契約」について規定する(2186~2279 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 一般規定 第 2 款 合名会社 第 3 款 合資会社 第 4 款 匿名組合 第 5 款 非営利団体
ケベック民法典における会社契約及び非営利団体契約は、わが国でいう(株式会社を除き組合をも含む)人的会社を広く包含し、それぞれについて詳細な規定がおかれている。団体法制と密接に関係するゆえ、本報告書の考察対象からは除外する。
(9) 寄託(dépôt)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 11 節は「寄託」について規定する(2280~2311 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 寄託一般 第 2 款 必要的寄託
第 3 款 ホテル業者の寄託第 4 款 係争物寄託
ケベック民法典においては、フランス民法典同様、通常の寄託のみならず、寄託の特殊な類型として、必要的寄託(第 2 款)及び係争物寄託(第 4 款)が規定されている。また、フランス民法典では必要的寄託の一種とされている「ホテル業者の寄託」も、独立の下位類型として規定されている(第 3 款)。通常の寄託に関しては、他の役務提供型の契約とともに、4で検討する。ここでは、日本の民法典には見られない下位類型である必要的寄託、ホテル業者の寄託、係争物寄託について見ることにしよう。
(ii) 必要的寄託(dépôt nécessaire)
必要的寄託とは、「ある者が、事故又は不可抗力から生じる予想されていなかった差し迫った必要性により、他人に対して物の保管を委ねる場合」に成立する寄託をいう(2295 条)。受寄者は相当な理由がない限り物の受領を拒絶できない点(2296 条 1 項)、物の滅失に ついて無償受寄者と同様の責任(xxxxによる責任)を負う点(同条 2 項)に、通常の寄託との関係での特殊性が認められる。この点で、証拠方法に(のみ)特殊性を認めるフ
ランス民法典とは異なるといえる。
なお、保健施設又は福祉サービス施設への寄託は、必要的寄託と推定される(2297 条)。
(iii) ホテル業者の寄託(dépôt hôtelier)
① 総論
ケベック民法典においても、フランス民法典同様、ホテル業者の寄託が定められている。ケベックにおいてはヨーロッパ・レベルでの要請は働かないが、ホテル業者に重い責任を負わせるという伝統的な規律が、現代的な変容を受けつつ、維持されているものと思われる。もっとも、ケベック民法典上、すでに通常の受寄者に重い責任(フォートによらない責任)が課さることがあるため(有償受寄者の場合である―4(1)(vi)②参照)、この点におけるホテル業者の寄託の特殊性は弱い(むしろ責任限度額の存在により責任が縮減されうる)。むしろ、ホテル業者の受託義務(下記③)や掲示義務(下記⑤)に特殊性があるといえようか。
② 責任の内容
ホテル業者(「公衆に対して宿泊の役務を提供する者」と定義される)は、宿泊客が持ち込む物件等の滅失につき、有償受寄者と同様の責任(フォートの有無によらない責任)を負う(2298 条)。
その責任は、掲示された 1 日分の宿泊料の 10 倍、又は、ホテル業者が受託に同意した物の場合にはその価値の 50 倍を限度とする(2298 条)。ただし、ホテル業者等の故意のフォート又は重大なフォートによる滅失の場合、ホテル業者が受領義務を負う物の寄託を拒絶
した場合、さらにはホテル業者が責任制限を顧客に知らせるための必要な手段を講じなかった場合には、責任は無制限となる(2301 条)。
③ 寄託の範囲
ホテル業者は、顧客が持ち込む文書、現金及びその他の価値物の受託に同意する義務を負い、拒絶できるのはその物が過大な価値を有する場合等に限られる(2299 条 1 項)。この場合、ホテル業者は、寄託された物を検査することができ、その物を施錠され又は封印された集積所に置くことを求めることができる(同条 2 項)。
部屋の金庫に預けられた物に関しては、ホテル業者が受託に同意したものとみなされる
(2300 条)。
④ ホテル業者の権利
ホテル業者は、宿泊料等の担保として、宿泊客の物件等を留置する権利を有し(2303 条)、支払いがなされない場合には留置物を処分することができる(2304 条)。
⑤ ホテル業者の掲示義務
ホテル業者は、以上の民法典の条文につき、自己の施設の窓口、広間及び部屋に、読みやすい文字で印刷して掲示しなければならない(2304 条)。
(iv) 係争物寄託(séquestre)
① 総論
係争物寄託とは、「複数の者が係争の対象としている物を、それらの者が選択する他人に預け、預かった者は、紛争が終結した場合に、その物について権利を有する者に対してのみその物を返還する義務を負うという寄託」である(2305 条)。
係争物寄託は、当事者間の合意のみならず、司法機関により設定されることもできるが、その場合は、民事訴訟法典の規定に服するほか、不適切でない限りにおいて民法典の規定が適用される(2311 条)。
② 対象及び当事者
係争物寄託の対象は、不動産でも動産でもよい(2306 条 1 項)。不動産の場合には、受寄者(寄託係争物保管者)に対する占有の委付によって行われる(同条 2 項)。
寄託係争物保管者は、当事者の共通の合意によって選択され、自分たちの中から指定してもよい(2307 条 1 項)。当事者の合意が成立しない場合には、裁判所に決定を求めることもできる(同条 2 項)。
③ 寄託係争物保管者の権利・義務
寄託係争物保管者は、反対の約定又は裁判所の許可がある場合を除いては、寄託物についての出費及びその単純な管理行為以外の行為を行うことができない(2308 条 1 項)。ただし、寄託係争物保管者は、当事者の合意又は裁判所の許可により、その価値に比して保管又は維持に不相当な費用がかかる物を譲渡することができる(同条 2 項)。
寄託係争物保管者は、管理終了時に報告義務を負うほか、当事者の請求又は裁判所の命令がある場合にも、報告義務を負う。(2310 条)。
④ 係争物寄託の終了
係争物寄託は、紛争が終結し、寄託係争物保管者が物について権利を有する者に寄託物を返還することにより終了する(2309 条 1 項)。全当事者の同意及び十分な理由に基づく裁判所の許可によって前もって終了することも可能である(同条 2 項)。
(10) 貸借(prêt)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 12 節は「貸借」について規定する(2312~2332 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 貸借の種類と性質第 2 款 使用貸借
第 3 款 単純貸借
ケベック民法典においては、使用貸借(prêt à usage)と単純貸借(simple prêt)が、「貸借」の下位類型として規定されている(2312 条)。使用貸借は、「ある者(貸主)が他の者(借主)に対して、その者が使用するために物を引き渡し、そのものは一定の期間の後にそれを返還する負担を負うという無償契約」と定義される(2313 条)。それに対し、単純貸借は、
「貸主が、使用により消費される一定量の金銭又はその他の物を借主に引き渡し、借主が一定期間の後に同種及び同質の同じ物を返還することを約する契約」と定義される(2314条)。ケベック民法典における「使用貸借」は日本の民法典における「使用貸借」に、ケベック民法典における「単純貸借」は日本の民法典における「消費貸借」に、それぞれ対応するものといえよう。単純貸借に関し、原則として無償であると推定されるものの、約定がある場合及び金銭の貸借である場合には有償であると推定されること(2315 条)、(要物契約であることを前提に)単純貸借の予約により予約者が損害賠償請求権を有することがありうる旨を規定していること(2316 条)が特徴的であるといえようか。
(11) 和解(transaction)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 17 節は「和解」について規定する(2631~2637 条)。和解は、「当事者が、相互の譲歩又は遠慮により、将来生ずべき紛争を未然に防ぎ、訴訟
を終了させ、又は判決の履行の際に生じる傷害を規律する契約」と定義される(2631 条 1
項)。和解の対象となりうる事柄(2632 条)及び和解の効力(2633 条以下)に関する規律が定められている。
3 日本の民法典には設けられていない典型契約
(1) 総説
ケベック民法典に規定されている典型契約のうち、信用供与賃貸借、傭船、運送、定期金、保険、競技及び賭事、仲裁の合意は、日本の民法典には対応する典型契約が規定されていないものであるといえる。
(2) 信用供与賃貸借(crédit-bail)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 3 節は「信用供与賃貸借」(ファイナンス・リース)について規定する(1842~1850 条)。これは、1977 年の草案段階では規定されていなかったが 1991 年の新民法典で導入された契約類型であり、おそらくは、金融実務における重要性を考慮して、民法典に典型契約として規定されるに至ったのではないかと思われる。
(ii) 規定の内容
① 定義等
信用供与賃貸借とは、「信用供与貸主が、定められた期間内において、対価を伴って、ある動産を他人(信用供与貸主)に使用させる契約」である(1842 条 1 項)。
信用供与賃貸借の目的物は、「信用供与借主の求めに従い、かつ、信用供与借主の指示に適合的に、信用供与貸主が第三者から取得する」(同条 2 項)。信用供与賃貸借は、事業用
目的でのみ締結することができる(同条 3 項)。
なお、信用供与貸主は、(第三者から信用供与賃貸借の目的物を取得する際の)購入証書の中に、信用供与賃貸借契約である旨を明示しなければならない(1844 条)。
② 効果
信用供与賃貸借の効果としては、以下の諸点が規定されている。
第一に、目的物の性質について。信用供与賃貸借の目的物は、契約が存続する限り、その物が不動産に連結又は結合した場合でも、個別性を失わない限り動産たる性質を失わない(1843 条)。
第二に、目的物の供給者(売主たる第三者)の地位について。信用供与借主との関係で、直接、売主としての担保責任を負う(1845 条)。
第三に、信用供与借主の地位について。信用供与賃貸借により目的物の所有権は移転しないが、滅失の危険は目的物の占有の移転後は信用供与借主が負担する(ただし不可抗力の場合は除く。1846 条 1 項)。また、信用供与借主は、維持費及び修繕費も負担する(同
条 2 項)。
第四に、目的物に関する公示について。信用供与貸主の所有権及びその譲渡は、公示されなければ第三者に対抗することができない(1847 条)。
③ 終了
信用供与賃貸借の終了に関しては、以下の諸点が規定されている。
第一に、信用供与賃貸借の目的物の引渡しがなされない場合の解除が規定されている
(1848 条)。
第二に、信用供与賃貸借の解除の際には、信用供与借主が契約から利益を得ていた場合には、信用供与貸主は、信用供与借主から受領した給付の返還の際に、この利益を考慮した合理的な金額を控除することができる(1849 条)。
第三に、信用供与賃貸借が終了した場合には、信用供与借主がその物を獲得する権利を有することが合意されていない限り、信用供与借主は、信用供与貸主に対し物を返還する義務を負う(1850 条)。
(3) 傭船(affrètement)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 5 節は「傭船」について規定する(2001~2029 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 一般規定
第 2 款 様々な傭船契約に特有の規律
1977 年の草案の段階から規定されていた。おそらくは、ケベックの地理的環境のもとでは交通・貿易等の手段として船舶が重要な役割を果たしているところ、船舶のチャーター
(傭船)については通常の賃貸借とは異なるより詳細な規律が必要であることから、傭船契約が民法典に規定されたものと思われる。
(ii) 規定の内容
① 定義等
傭船とは、「ある者(船舶賃貸人)が、代金(船舶賃料とも呼ばれる)と引き換えに、他の者(船舶賃借人)に対し、航海させる目的で、船舶の全部又は一部を使用させることを約する契約」である(2001 条 1 項)。
ケベック民法典上、傭船の種類として、裸船傭船・有期傭船・旅行傭船の三つが規定され、それぞれについて特有の規定(当事者の権利・義務及び終了時の規律)が設けられているほか、あらゆる傭船に適用される一般規定も設けられている。
② 一般規定
様々な傭船契約に共通する一般規定として、次のものが定められている。
第一に、契約の成立について。傭船の成立に書面は要求されないが、書面を作成する場合、それは「傭船契約書(chartepartie)」(両当事者の名、両当事者の約務、船舶を特定する諸要素が記載される)によることが想定されている(2001 条 2 項)。
第二に、代金支払いについて。船舶賃借人は代金(傭船料)の支払義務を負い(2002 条)、船舶の積荷の荷降ろしのときに代金が支払われていない場合には、船舶賃貸人は、輸送された物を留置することができる(2003 条)。
第三に、共通損害(avaries communes)(航行及び積荷における救助行為により発生した損害の当事者間での分担)について。契約締結場所・時点における海事協定の規律及び慣習により定められる(2004 条)。
第四に、船舶の転用について。船舶賃借人は船舶賃貸人の同意を得て船舶を転貸し、又は、船舶を船荷証券(connaissement)による運送に使用することができるが、いずれの場合も、船舶賃借人は船舶賃貸人に対し、傭船契約から生じる義務を依然として負う(2005 条 1 項)。転貸者の場合、船舶賃貸人は船舶転借人に対して船舶賃料の支払いを求めることが
できるが、両者の間に直接の法律関係が生じるわけではない(同条 2 項)。
第五に、時効起算点について。傭船契約から生じる訴権の時効は、裸船傭船又は有期傭船の場合は、契約期間の満了又はその履行の終局的中断の時から進行し、旅行傭船の場合は、運送される物の完全な荷降ろし又は旅行を終了させる出来事の時から進行する(2006条)。
③ 裸船傭船(affrètement coque-nue)
裸船傭船とは、「船舶賃貸人が、定められた期間、艤装及び設備のない船舶、又は、艤装されているが設備が不完全な船舶を、船舶賃借人に使用させ、航海事務及びその船の商業的事務を船舶賃借人に移転する契約」である(2007 条)。
裸船傭船における当事者の権利・義務につき、以下のように定められている。
第一に、船舶賃貸人について。合意された場所及び時点において、良い航行可能状態にあり、かつ、目的とされる役務に適する船舶を引渡す(2008 条)。
第二に、船舶賃借人について。船舶賃借人は、ⅰ契約上の制限がない限り、通常の用途に適合するすべての目的のために、船舶を使用することができ(2009 条)、船上の機材及び設備についての使用権も有する(2010 条 1 項)。他方、ⅱ船舶に保険をかけ、船舶の使用にかかる費用や乗組員を雇う費用を負担する(同条 2 項)。また、ⅲ船舶の使用の結果として生じうる第三者からの請求につき、船舶賃貸人を保証する責任を負う(2011 条)。さらに、
ⅳ船舶の維持を行い、必要な修繕及び交換を行う義務を負う(2012 条 1 項)。もっとも、船舶の固有の瑕疵の効果が船舶賃借人への船舶の引渡しの年に現れた場合には、船舶賃貸人がその瑕疵により必要となった修繕及び交換を行う義務を負う(同条 2 項)。
裸船傭船の終了時に関する規律として、以下のように定められている。船舶賃借人は、引渡しを受けた場所において、受領したときの状態で、船舶を返還する(2013 条 1 項)。このとき、船舶賃借人は、船舶並びに船上の機材及び設備の通常の損耗を賠償する義務を負わないが、船舶の引渡しを受けたときに受領したのと同量及び同質の機材、備蓄及び設備を返還する義務を負う(同条 1 項・2 項)。
④ 有期傭船(affrètement à temps)
有期傭船とは、「船舶賃貸人が、定められた期間、艤装及び設備が施された船舶を、船舶賃借人に使用させ、船舶賃貸人が航海事務を保持するが、その船の商業的事務を船舶賃借人に移転する契約」である(2014 条)。
有期傭船における当事者の権利・義務につき、以下のように定められている。
第一に、船舶賃貸人について。船舶賃貸人は、合意された場所及び時点において、良い航行可能状態にあり、かつ、目的とされる作業を達成するためにふさわしく艤装及び設備が施された船舶を引渡す(2015 条)。
第二に、船舶賃借人について。船舶賃借人は、ⅰ船舶の商業的利用に内在する費用(特に、埠頭権、操船費用、運河航行費用)を負担する(2016 条 1 項)。また、xx(引渡された時点において船上にあるもの、及び自身で取得するもの)につき、その代金を支払う
(同条 2 項)。なお、ⅱ具体的な船舶事務を船長が行うことが想定されるが、その場合、船長は、契約が定める制限内で、船舶の商業的事務と関係があるすべての事柄について、船舶賃借人が与える指示に従わなければならない(2017 条 1 項)。もっとも、これらの指示が、契約により船舶賃貸人が保持する権利と両立しない場合には、船長は、それに従うことを拒絶できる(同条 2 項)。船舶賃借人はさらに、ⅲ商業的利用から生じる船舶の損害(通常の損耗を除く)につき損害賠償義務を負う(2018 条)。ⅳ船舶賃借人が支払義務を負う船舶賃料は、船舶が引渡される日から起算され(2019 条 1 項)、不可抗力等により妨げられた期間を除いて、船舶の返還の日までについて支払われなければならない(同条 2 項)。
有期傭船の終了時に関する規律として、以下のように定められている。船舶賃借人は、合意された場所及び期限において船舶を返還するが、前もって、合理的な期間内にその旨を通知する(2020 条)。
⑤ 旅行傭船(affrètement au voyage)
旅行傭船とは、「船舶賃貸人が、積荷に関して一又は数回の定められた旅行を達成するために、艤装及び設備が施された船舶を、全部又は一部において、船舶賃借人に使用させ、船舶賃貸人が航海事務及び商業的事務を保持する契約」である(2021 条 1 項)。この契約においては、積荷の性質・量や積載及び荷降ろしの場所及び日時が定められる(同条 2 項)。
旅行傭船における当事者の権利・義務につき、以下のように定められている。
第一に、船舶賃貸人について。船舶賃貸人は、ⅰ合意された場所及び時点において、良
い航行可能状態において、予定された旅行を達成するためにふさわしく艤装及び設備が施された船舶を引渡す(2022 条 1 項)。のみならず、ⅱ船舶を良い航行可能状態に保ち、旅行を行うために彼に依存するあらゆる注意を行う義務を負う(同条 2 項)。また、ⅲ契約が定める制限内で、船上で受領された物の損失又は損害について責任を負う(2023 条)。
第二に、船舶賃借人について。船舶賃借人は、ⅰ合意された量及び質にしたがって、積荷を船上に置く義務を負う(2024 条 1 項)。積荷が始まる前に契約を解除することもできるが、船舶賃貸人に対し(船舶賃料の額を超えない範囲で)損害賠償義務を負う(同条 2項)。また、ⅱ契約等により定められる期間内に積荷の積載及び荷降しをしなければならず
(2025 条 1 項)、積荷のための期間と荷降ろしのための期間が別である場合には両者は可逆ではない(同条 2 項)。この期間の起算点は、船舶賃借人が港に到着した後において、船舶賃貸人が船舶賃借人に対し、船舶が積みに及び荷降ろしの準備ができたことを通知した時点である(2026 条)。船舶賃貸人に帰せしめられない理由により期間を超過した場合、船舶賃借人は、期間終了時から滞船料(契約や慣習により定められる)を支払わなければならない(2027 条)。ⅲ船舶賃借人が支払義務を負う船舶賃料は、旅行終了時に支払われなければならないが(2028 条 1 項)、あらゆる状況において支払われなければならないわけではなく、たとえば、旅行の完遂が不可能となった場合、船舶賃借人は、不可能となったのが船舶賃貸人に帰せしめられない理由によるときのみ、船舶賃料を支払う義務を負う(同条 2 項)。
旅行傭船の終了時に関する規律として、以下のように定められている。旅行傭船契約は、旅行の開始前に、不可抗力により旅行の遂行が不可能となった場合には、当然に解除されるが(2029 条 1 項)、しばらくの間に限って船舶の出発又は旅行の継続ができない場合には存続する(同条 2 項)。
(4) 運送(transport)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 6 節は「運送」について規定する(2030~2084 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 全ての運送方法に適用される規律第 2 款 海上貨物運送に特有の規律
1977 年の草案の段階から規定されていた。運送契約自体が重要な契約類型であること自体は疑いないが、商法典ではなく民法典において規定されている点が特徴的である(フランスでも日本でも商法典が規律する)。運送に関する規定の具体的な内容については、他の役務提供型の契約とともに、4で検討する
(5) 定期金(rente)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 14 節は「定期金」について規定する(2367~2388 条)。
目次は以下のとおりである。
第 1 款 契約の性質とそれが規律する規定の射程範囲第 2 款 契約の範囲
第 3 款 契約のいくつかの効果
1977 年の草案の段階から規定されていた。以下に見るように、非終身の定期金も認められている点が、フランス及び日本とは異なる点であるといえる。
(ii) 規定の内容
① 定義等
定期金契約とは、「ある者(定期金債務者)が、無償で、又は、自己のためになされる資本の譲渡と引換えに、定期に、かつ、一定期間の間、他の者(定期金債権者)に対して、定期金を給付することを約する契約」である(2367 条 1 項)。
譲渡対象の資本は不動産でも動産でも金銭でもよいが(同条 2 項)、定期金債務者が自己のためにする不動産所有権の移転と引換えに定期金給付を約する場合は前述の不動産定期金契約(2(2)(iv)イ参照)にあたり、売買契約の規定により規律される(2368 条)。
② 定期金の成立(設定)
定期金の成立(設定)に関しては、以下のような規定が設けられている。
第一に、当事者について。定期金は、定期金の資本を供する者以外の者のために設定されることができ(2369 条 1 項)、この場合、定期金債権者が定期金を無償で受領するとしても、贈与に必要とされる形式(前述2(3)参照)は満たす必要がない(同条 2 項)。
第二に、契約以外の形式による設定について。定期金は、遺言、判決、又は法律によっても設定されることができるが(2370 条 1 項)、契約以外の場合にも、必要な修正を経たうえで、定期金契約に関する規定が適用される(同条 2 項)。
③ 定期金契約の内容
定期金契約の内容としては、以下のような規定が設けられている。
第一に、定期金は終身(給付の期間が一人又は複数の者の生存の期間に制限されているもの)でも非終身(給付の期間が別様に定められているもの)でもよい(2371 条)。
第二に、終身定期金に関して、さらに、設定者・受領者・第三者いずれの生存期間についても定めることができ(2372 条 1 項)、その者の死亡後も他の者のために定期金が継続する旨を約定しうること(同条 2 項)、定期金の給付を開始すべき時点において死亡してい
る者、当該時点から 30 日以内に死亡した者、当該時点でまだ存在しない者(ただしその者がその時点で懐胎されており生産した場合は除く)の生存期間の間について定められた終身定期金は効力を有しないこと(2373 条)、複数人の生存の期間の間について連続的に定められた終身定期金の場合の規律(2374 条)、返済能力のない相手への貸借は貸主のための終
身定期金とみなされること(2375 条)が定められている。
第三に、終身・非終身を問わず、あらゆる定期金の期間は定期金の設定から 100 年に制限される(2376 条)。
④ 定期金契約の効果
定期金契約の効果としては、以下のような規定が設けられている。
第一に、定期金等の性質について。ⅰ定期金は、無償の場合のみ、扶養料として必要な限度で差押え不可能又は譲渡不可能である旨を約定しうる(2377 条)。ⅱ定期金給付のために蓄積された資本は、定期金の給付に割り当てられたままである限りにおいて、定期金債権者の不要料の必要性を満足させるのに必要な部分においてのみ、差押え不可能である
(2378 条)。
第二に、定期金債権者の指定・取消しについて。定期金は、定期金の資本を供する者以外の者のためにも設定されることができるが(前述②)、その場合、定期金債権者の指定・取消しは、第三者のためにする契約(や保険契約)に関する規定により規律される(2379条)。
第三に、定期金債権者が複数の場合の規律。同時に二人又は複数の定期金債権者のために設定される終身定期金は、それらの者のうち一人が死亡した場合には、生存している定期金債権者に譲渡される旨を約定されることができる(2380 条 1 項)。また、夫婦のために設定された終身定期金は、夫婦のうち一人が死亡した場合に、生存している者に譲渡されるものと推定される(同条 2 項)。
第四に、定期金の支払いに関する規律。ⅰ終身定期金は、原則として、その者との関連で定期金の給付期間が定められた者が生存した日数に応じてのみ、定期金債権者に対して支払われ、定期金債権者は、この者の生存を証明しなければならない(2381 条)。ⅱ定期金 (redevance)は、予定された各期間の終了時に支払われ、この期間は、1 年を超えることができない(2382 条)。ⅲ定期金債務者は、資本による定期金の価値の償還を申し出、支払われた定期金の返還を放棄することによっては、定期金給付から免れることはできない(2383条)。しかし、ⅳ定期金債務者は、支払うべき定期金の価値を保険者に支払うことによって、保険者に代位されることができ、この場合、定期金債権者は、定期金の購入が他の保険者との関係でなされることを請求し、又は、決定された資本の価値若しくはそこから生じる定期金の価値について異議を唱えることができる(2384 条)。定期金債務者は、代位により、必要な資本を支払ったときから、解放される(2385 条)。ⅵ定期金債権者は、定期金の支払いの欠如のみを理由としては、定期金を設定するために譲渡された資本の返還を請求できないが、定期金債務者が支払不能となった場合、破産を宣告された場合、又は自己の所為により定期金債権者の同意なしに、定期金給付を保証するために同意した担保を減じた場合には、資本の返還を請求できる(2386 条)。ⅶ定期金給付が強制売却の対象となるべき物についての抵当権によって担保されている場合には、定期金債権者は、定期金の負担付き
で売却が実現されることを求めることができないが、一定の場合には、定期金の給付が継続するのに十分な保証人の提供を債権者に求めることができる(2387 条)。
第五に、定期金の資本価値について。許可された保険者から同価値の定期金を取得するのに十分な金額に等しいものと推定される(2388 条)。
(6) 保険(assurances)
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 15 節は「保険」について規定する(2389~2628 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 款 一般規定第 2 款 人保険 第 3 款 損害保険第 4 款 海上保険
1977 年の草案の段階から規定されていた。運送契約同様、商法典ではなく民法典において規定されている点が興味深いが(フランスでも日本でも保険に関する特別な法典又は法律が規律する)、本報告書の検討対象からは外す。
(7) 競技(jeu)及び賭事(pari)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 16 節は「競技及び賭事」について規定する(2629~2630条)。1977 年の草案の段階から規定されていた。競技及び賭事に関する規定は、フランス民法典においてもみられるが、ケベック民法典でも同様の規定がおかれている。
(ii) 規定の内容
競技契約及び賭事契約が有効であるのは、法律により明示的に許可される場合、及び、当事者の技巧のみ又は当事者の身体の運動に係る適法な運動及び競技に関するものである場合に限られる(2629 条。ただし、後者は競技の金額が過大である場合には無効である)。
競技契約及び賭事契約が無効である場合には、勝者は債務の弁済を求めることができず、敗者は支払った金額を取り戻すことができない(2630 条 1 項)。ただし、詐欺若しくは欺瞞がなされた場合、又は、敗者が未xx者、保護されるxx者若しくは判断力を欠くxx者である場合には、返還がなされうる(同条 2 項)。
(8) 仲裁の合意(convention d’arbitrage)
(i) 総説
ケベック民法典第 5 編第 2 章第 18 節は「仲裁の合意」について規定する(2638~2643条)。1977 年の草案の段階から規定されていた。非常に簡素な規定ではあるが、フランス民法典同様、紛争に関する契約が典型契約として規定されている点で興味深い。
(ii) 規定の内容
仲裁の合意は、「当事者が、裁判所を排除して、一人又は複数の仲裁人の決定に、すでに生じた又はこれから生じうる紛争を委ねることを約束する契約」である(2638 条)。ケベック民法典においては、仲裁契約(compromis)も仲裁条項(clause compromissoire)も原則として有効であるとの建前が採られている。
仲裁の合意の方式としては、書面による確認が必要であるとされている(2640 条)。
仲裁の合意の対象に関しては、人の状況及び能力に関する紛争、家事に関する紛争、又は公序にかかわるその他の問題に関する紛争は、仲裁に委ねられることができない(2639条 1 項)。ただし、紛争を解決するために適用可能な規律が公序の性質を有するというとい
う理由によっては、仲裁の合意は妨げられない(同条 2 項)。
一方当事者に仲裁人の指定に関して特権的な地位を与える約定は、無効である(2641 条)。また、契約に含まれる仲裁の合意は、当該契約の他の条項とは区別される合意とみなされ、仲裁人による当該契約の無効の確認によって仲裁の合意は無効とされない(2641 条)。
仲裁の手続は、強行法規に反しない限り、契約によって、又は契約がない場合には民事訴訟法典によって、規律される(2642 条)。
4 役務提供型の契約について
(1) ケベック民法典における役務提供型の契約
(i) 総説
ケベック民法典における典型契約のうち、役務提供型の契約として分類できるのは、運送(第 5 編第 2 章第 6 節)、労働契約(同第 7 節)、請負契約又は役務提供契約(同第 8 節)、
委任(同第 9 節)、寄託(同第 11 節)である。以下では、それぞれの内容について概観する。
(ii) 運送(transport)
① 定義等
運送契約とは、「ある者(運送人)が、主に人又は物の移動を行う義務を負い、他の者(旅客、物の差出人又は受取人)がその者に対して、合意された時点において代金を支払う契約」である(2030 条)。連続的運送・結合的運送という態様の運送も想定される(2031 条)。ケベック民法典上の運送に関する規定は無償運送には適用されず(公衆に対して役務を 提供する運送人による運送の場合は除く)、無償運送の場合、運送の提供者は、通常の請負
契約(後述(iv)②参照)と同様、用心深さ及び注意の義務を負うにとどまる(2032 条)。
ケベック民法典上、運送はいくつかの種類に分けられる。まず、海上貨物運送に関しては、他の運送には適用されない特別な規定が用意されている。他方において、その他の運送も含め、全ての運送方法に適用される規定も設けられ、それらは、あらゆる運送についての一般規定、旅客運送に関する規定、貨物運送に関する規定に分けられている。
② 全ての運送方法に適用される規律―一般規定以下の規定が設けられている。
第一に、公衆に対して役務を提供する運送人は運送を拒絶できない(2033 条)。
第二に、運送人は、法律に規定された限度及び条件でのみ、責任を排除又は制限することができ(2034 条 1 項)、不可抗力を証明しない限り、遅滞から生じる損害を賠償しなければならない(同条 2 項)。
第三に、運送人が自己の義務の全部または一部を履行するために他の運送人に代わらせる場合には、その者は運送契約の当事者であるとみなされ(2035 条 1 項)、運送人の一人に対して差出人が行った支払いは、免責の効果を有する(同条 2 項)。
③ 全ての運送方法に適用される規律―旅客運送以下の規定が設けられている。
第一に、契約の対象。運送の作業に加えて、乗車及び下車も含まれる(2036 条)。
第二に、運送人の義務。運送人は、ⅰ旅客を目的地に無事に導く義務を負い(2037 条 1
項)、不可抗力等の場合を除き、旅客に生じた損害を賠償する義務を負う(同条 2 項)。また、ⅱ不可抗力等の場合を除き、旅客が運送人に対して預けた荷物及びその他の物品の滅失についても責任を負う(2038 条 1 項)。ただし、文書、現金、その他価値の高い物の滅失の場合には、旅客からの事前の申告とその運送に対する承諾がない限り責任を負わず、また、旅客の管理下におかれた物の滅失についても、旅客が運送人のフォートを証明しない限り責任を負わない(同条 2 項)。なお、ⅲ連続的運送又は結合的運送の場合は、損害が生じた時点における運送を行っていた者が責任を負う(2039 条)。
④ 全ての運送方法に適用される規律―貨物運送以下の規定が設けられている。
第一に、契約の対象。運送人による物の積み込みから、物の移動、引渡しまで及ぶ期間を対象とする(2040 条)。
第二に、貨物証券に関する規律。貨物証券は貨物運送を証する書面であり(2041 条 1 項)、そこには、差出人、受取人、運送人、(必要に応じて)運賃及び運送費用を支払わなければならない者の名、物の積み込みの場所及び日付、出発地及び目的地、運賃、物の性質、量、体積又は重量、外観状態、(必要に応じて)その危険な性質が記載される(同条 2 項)。貨
物証券は複数の写しが作成され(2042 条 1 項)、物の積み込み等を証明する(同条 2 項)。貨物証券は原則として譲渡可能ではないが(2043 条 1 項)、法律又は契約により認められる場合は、引渡し(及び裏書)により譲渡される(同条 2 項)。
第三に、当事者の義務等の規律。
まず、運送人は、ⅰ運送対象の物を、受取人又は貨物証券の保持者に対して引渡す義務を負う(2044 条 1 項)。貨物証券の保持者へ引渡された場合、貨物証券は運送人に引渡さ
れる(同条 2 項)。他方、受取人は、ⅱ物の受領又は契約に対する承諾により、権利を取得し、契約から生じる義務を負う(2045 条)。ⅲ運送人は、受取人に対し、物の到着及び運び出しのための期間を知らせなければならない(2046 条)。
ⅳ受取人が見つからない場合等、運送人のフォートなくして引渡しを行うことができない場合、運送人は、原則として、遅滞なく差出人に対してその旨を通知し、物の処分方法に関する指示を求めなければならず(2047 条 1 項)、通知から 15 日以内に指示がなされな
い場合、運送人は、差出人の費用で物を差出人に返送するか、物を処分できる(同条 2 項)。その際、運送人の義務は無償受寄者の義務となる一方、運送人は物の保存又は保管について合理的な報酬の権利を有する(2048 条)。
次に、運送人は、ⅴ物を目的地まで運送する義務を負い(2049 条 1 項)、運送から生じる損害について、不可抗力等の場合を除き責任を負う(同条 2 項)。この損害賠償訴権の行
使期間は一定期間内(場合に応じて、引渡しから 60 日以内又は発送から 9 ヶ月以内)に限定されている(2050 条)。連続的運送又は結合的運送の場合、直接契約した運送人又は最後の運送人に対して行使できる(2051 条)。物の滅失による運送人の責任は、差出人が申告した物の価値に制限される(2052 条)。運送人は、文書、現金、又は大きな価値を有する物を運送する義務を負わないが(2053 条 1 項)、運送を承諾した場合には、物の性質又は価値が申告された場合(虚偽の申告を除く)にのみ滅失について責任を負う(同条 2 項)。
他方、差出人は、ⅵ運送人に対して危険な物をその正確な性質を知らせることなく交付した場合、この運送により運送人に生じた損害を賠償し、保管費用等を支払わなければならない(2054 条)。また、差出人は、物の固有の瑕疵や申告の懈怠等により運送人が損害を被った場合にも賠償義務を負う(2055 条)。
さらに、ⅶ運賃等に関する規定もおかれている。運賃及び運送費用は、原則として引渡し前に支払われなければならない(2056 条 1 項)。運送人は物の価値が申告金額を上回る場合等には、さらなる金額を請求できる(同条 2 項)。運送対象の物の代金が引渡し時に支
払われなければならない場合、運送人は、支払いを受領した後に引渡せばよく(2057 条 1
項)、この場合の費用は差出人の負担となる(同条 2 項)。運送人は、運賃、運送費用、及び、必要に応じて、保管の合理的費用の支払いまでは、運送対象の物を留置する権利を有するが(2058 条 1 項)、これらの費用を受取人が負うという差出人の指示がある場合、その履行を請求しない運送人は、差出人に対して請求する権利を失う(同条 2 項)。
⑤ 海上貨物運送に特有の規律
海上貨物運送に特有の規律として、以下の規定が設けられている。
第一に、適用対象は、「出発港及び目的港がケベックにある場合」の「水路による物の運送」である(2059 条)。
第二に、契約の対象としては、通常の貨物運送と同様、物の積み込みから引渡しまで及ぶ期間が規律対象となる(2060 条)。
第三に、当事者(差出人・運送人・積載人・受取人)の義務に関して、詳細な規定がおかれている。具体的には、差出人・積載人・受取人の傭船料支払義務(2061 条)、積載人の物品提示義務(2062 条)、運送人の艤装等の義務(2063 条)、運送人の適切な方法による積荷等の義務(2064 条)、運送人の積載人に対する貨物証券の引渡義務(2065 条)、積載人の適切な申告義務(2066 条・2067 条)、受取人による物の引取りの効果(2068 条)、物が滅失した場合の確認方法(2069 条)、運送人を免責する旨の条項の効力(2070 条)、物の滅失に関する運送人の責任(2071 条・2072 条・2075 条・2076 条)、物の滅失に関する積載人の責任(2073 条)、危険な物の積載についての運送人の権利及び積載人の義務(2076 条・ 2077 条)、不可抗力による出航不能・遅延の場合における契約の解除(2078 条)、運送契約を根拠とする訴権の行使期間制限(2079 条)が規定されている。
第四に、貨物取扱場に関する規定がおかれ、貨物取扱場の事業者の責任等に関する規律がなされている。それによれば、貨物取扱場の事業者は、物の積載及び陸揚げに関する一切の作業(そのために必要な作業も含む)を行う責任を負う(2080 条)。貨物取扱場の事業者は、その役務を獲得した者の計算で行為し、自身に対する訴権のみについて責任を負う
(2081 条)。貨物取扱場の事業者は、場合により物の受領や積載等までの保管義務を負う
(2082 条)。貨物取扱場の事業者は、物の滅失についての責任から解放され、その他の責任に関しても限度額を超える義務を負わない(2083 条)。ただし、貨物取扱場の事業者の責任を免除したり、上記限度額よりも低い額に責任を制限したりする条項等は、積載人及び受取人に対して対抗できない(2084 条)。
(iii) 労働契約(contrat de travail)
① 定義等
労働契約とは、ある者(労働者)が、限られた期間、報酬と引換えに、他の者(雇用者)の指揮又は統御のもと労働を行うことを約する契約である(2085 条)。
労働契約は、特定の期間又は不特定の期間について、行われうる(2086 条)。
② 当事者の義務
労働契約の成立により、雇用者は、約定された労務の提供の履行を可能にする義務、定められた報酬を支払う義務のほか、労働者の健康、安全及び尊厳を保護するために、労務の性質に適した措置を講じる義務を負う(2087 条)。
他方、労働者は、用心深さ(prudence)及び注意(diligence)をもって労務を遂行する義務のほか、xxさをもって行為し、労務の遂行又は労務の際に獲得した秘密の情報を用いないようにする義務を負い(2088 条 1 項)、これらの義務は契約の終了後も(一定期間の間又はxx的に)存続する(同条 2 項)。また、当事者の合意により、雇用者の正当な利益を保護するために必要な限度で、労働者が契約終了後に競業避止義務を負うことを約定することができる(2089 条。この合意の存在の証明負担は雇用者が負う)。
③ 労働契約の終了
以下の規定がおかれている。
第一に、特定期間についての労働契約の場合、期限の到来後、雇用者の側からの異論なく、労働者が 5 日間労務の遂行を継続する場合には、不特定の期間について黙示に延長される(2090 条)。
第二に、不特定期間についての労働契約の場合は、終了のためには合理的な解約予告期間の通知が必要である(2091 条)。
第三に、労働者の死亡は労働契約の終了事由となり(2093 条 1 項)、雇用者の死亡も、状況によっては終了事由となりうる(同条 2 項)。事業譲渡や合併等は労働契約の終了をも
たらさず(2097 条 1 項)、雇用者の承継人は労働契約に拘束される(同条 2 項)。
第四に、正当な理由に基づく場合には、一方の当事者による一方的な予告のない解除も認められる(2094 条)。雇用者が正当な理由なく契約を解除した場合又は労働者にそのような解除の理由を通知した場合には、競業避止の約定を援用することができない(2095 条)。
第五に、不十分な解約予告期間や濫用的な解除についての労働者の損害賠償請求権の放棄は認められない(2092 条)。
第六に、労働契約の終了に際しては、雇用者は労働者の請求に応じて証明書を提供しなければならない(2096 条)。
(iv) 請負契約(contrat d’entreprise)ないし役務契約(contrat de service)
① 定義等
請負契約ないし役務契約とは、「ある者(場合に応じて、請負人又は役務提供者)が、他の者(顧客)に対し、物理的若しくは知的な仕事(ouvrage)を実現し、又は役務(service)を提供することを約し、それと引換えに、顧客がその者に対し代金を支払うことを約する契約」である(2098 条)。以上の定義のうち、物理的又は知的な仕事の実現を目的とするものが請負契約、単なる役務の提供を目的とするものが役務契約である。
ケベック民法典上、請負契約と役務契約の両者に共通の規律が定められる一方、請負契約のみに関する規律、さらに不動産に関する請負契約のみに関する特則が設けられている。
② 請負契約と役務契約に共通の規律以下の規定が設けられている。
第一に、契約の性質に関わる規律。請負人又は役務提供者は、契約の履行の方法につき自由な選択権を有し、その者と顧客との間に、その履行に関するいかなる従属関係も存在しない(2099 条)。
第二に、請負人及び役務提供者の義務(を中心とする当事者間の規律)。ⅰ請負人及び役務提供者は、用心深さ(prudence)及び注意(diligence)をもって、顧客の利益にとって最もよいように行為する義務を負い、仕事又は役務の性質にしたがって、慣習、技術規則、契約
への適合性を確認しなければならない(2100 条 1 項)。それらの者が結果債務を負う場合には、それらの者は、不可抗力を証明することによってしか自己の責任から免れることができない(同条 2 項)。
さらに詳細な規定がおかれている。まず、ⅰ契約がその者の個人的資格を考慮して締結された場合又はそのことが契約の性質自体と両立しない場合を除いて、請負人又は役務提供者は、第三者に契約の履行を補助させることができるが、その場合でも、請負人又は役務提供者は、履行の指揮及び責任を保持する(2101 条)。
ⅱ請負人又は役務提供者は、契約締結前に、その者が従事する任務(tâche)の性質並びに
その目的に必要な財及び時間に関するあらゆる有用な情報を、顧客に提供する義務を負う
(2102 条)。
ⅲ契約の履行に必要な財の提供に関しては、作業のみを提供することが約定されていない限り、請負人又は役務提供者が提供するものとされ、その財に関して請負人又は役務提供者は売主と同様の担保責任を負う(2103 条)。財が顧客により提供される場合には、請負人又は役務提供者は、注意してそれを使用し、その使用について報告する義務を負い、その財が目的とされる用途のために明らかに不適切である場合等には、そのことを直ちに顧客に知らせる義務を負う(2104 条)。なお、契約の履行に必要な財が不可抗力によって滅失した場合には、その損失は、それらを提供した当事者の負担に帰する(2105 条)。
ⅳ代金は、契約や慣習等により決定される(2106 条)。代金が見積りにより決定された場合には、一定の要件のもと、代金の増額が認められる(2107 条)。代金が、行われた作業、与えられた役務又は提供された財に応じて決定される場合には、請負人又は役務提供者は、顧客の請求にしたがって、作業の進捗状況等について、顧客に報告する義務を負う(2108条)。代金が一括で定められた場合には、顧客の側からも請負人又は役務提供者の側からも、合意がない限り、代金の増減を主張することができない(2109 条)。
第三に、請負契約ないし役務契約の終了に関しては、以下のような規定が設けられている。ⅰ顧客は、仕事の実現又は役務の提供がすでに開始された場合であっても、一方的に契約を解除できる(2125 条)。それに対し、請負人又は役務提供者は、正当な理由によってでなければ一方的に契約を解除することができず、正当な理由がある場合でも、不利な時期に解除することはできず、これに違反した場合には、その者は当該解除によって顧客に生じた損害を賠償する義務を負う(2126 条)。ⅱ顧客の死亡は、そのことにより契約の履行が不可能または無用なものとなる場合にのみ、契約を終了させる(2127 条)。それに対し、請負人又は役務提供者の死亡又は不適格は、契約がその者の個人的資格を考慮して締結された場合等を除いては、契約を終了させない(2128 条)。ⅲ契約が解除された場合、顧客は、約定代金に応じて、現実の費用及び支出、契約終了前又は解除通知前に行われた作業の価値、及び、必要に応じて、提供された財が返還可能であり顧客がそれらを使用することができる場合には、提供された財の価値を、請負人又は役務提供者に対して支払う義務を負うのに対し(2129 条 1 項)、請負人又は役務提供者は、自分が獲得したものを越えて受領
した前払金を返還する義務を負う(同条 2 項)。いずれにせよ各当事者は、他方当事者が被
りうるあらゆるその他の損害について義務を負う(同条 3 項)。
③ 請負契約のみに適用される規律
請負契約のみに適用される規律として、以下のものが規定されている。
第一に、顧客は、作業の終了時(仕事が履行され、目的の用途に適合的に使うことが可能な時)に、仕事を受領する義務を負う(2110 条)。
第二に、顧客は、仕事の受領前には、代金を支払う義務を負わず(2111 条 1 項)、仕事の受領後も、受領の際に明らかな瑕疵又は欠陥に関して留保を行った場合には、請負人が十分な担保を提供するときを除き、当該留保を満足するに十分な金額が支払われるまで、代金を支払わないでおくことができる(同条 2 項・3 項)。金額及び作業について両当事者に争いがある場合には、当事者又は裁判所が指定する鑑定人により評価がなされる(2112 条)。
第三に、顧客は、留保なしに承諾した場合でも、明らかでない瑕疵又は欠陥の場合には、請負人に対して権利を保持する(2113 条)。
第四に、仕事が継続的な段階を経て履行される場合には、仕事は部分ごとに受領されることができ、各段階に属する代金も当該部分の引渡及び受領の時点において支払われる
(2114 条)。
第五に、引渡前に仕事が滅失した場合には、顧客のフォートや受領遅滞のときを除き、請負人が危険を負担するが、財が顧客により提供される場合には、請負人のフォート等が存在するときを除き、顧客が負担する(2115 条)。
第六に、当事者間の権利義務についての消滅時効は、仕事の受領が留保付きでなされたとしても、作業の終了時から進行を開始する(2116 条)。
④ 不動産に関する請負契約の特則
不動産に関する請負契約については、さらに以下のような特則が設けられている。
第一に、顧客は、不動産の建築又は改修のいつの時点においても、作業の進行を阻害しない方法で、進捗状況、使用される材料の品質及び行われる作業の品質、並びに行われる支出の状況について検査することができる(2117 条)。
第二に、請負人、建築士、技師、下請人は、自己の責任を免れることができる場合を除いて、滅失が仕事の設計、建築若しくは実行の瑕疵、又は土地の瑕疵から生じたか否かに関わらず、作業の終了後 5 年の間に生じる仕事の滅失について連帯して責任を負う(2118条・2119 条)。また、それらの者は、共同で、受領時に存在する欠陥又は受領後 1 年の間に発見された欠陥に関し、1 年の間、仕事についての担保責任を負う(2120 条・2121 条)。第三に、請負人は、合意がある場合には、作業の期間の間、前もって計算書を提供した うえで、行われた作業及び仕事の実行に必要な材料の価値について、契約代金の内金を求
めることができる(2122 条)。
第四に、顧客は、支払いの際に、不動産の仕事に対する第三者の権利を消滅させるのに必要な金額が請負人により支払われるまで、契約代金を支払わないでおくことができる
(2123 条)。
なお、以上の規定は、請負人のみならず、自分が建築した又は建築させた仕事を完成後か否かに関わらず売却する不動産開発者にも適用される(2124 条)。
(v) 委任
① 定義等
委任とは、「ある者(委任者)が他の者(受任者)に対し、第三者と法律行為を行うことを代理する権限を与え、受任者は承諾により、それを遂行することを約する契約」である
(2130 条 1 項。 « procuration »とも呼ばれる―同条 2 項)。承諾は明示のものでも黙示のものでもよい(2132 条)。なお、前述したように(2(7)(ii)参照)、委任者の不適格に備えてなされる委任(2131 条)に関しては、特則が設けられている。
② 契約の内容
委任契約の内容については、以下の規定が設けられている。
第一に、報酬について。委任は有償でも無償でもよく、自然人の間での委任は無償と推定され、職業的な委任は有償と推定される(2133 条)。報酬は、契約や慣習等により定められる(2134 条)。
第二に、委任の対象について。受任者が行うべき事務は、特定の事務でも一般的な事務でもよいが(2135 条 1 項)、通常は管理行為の委任であり、単なる管理行為以外の行為を締結する権限を与える場合には明示になされなければならない(同条 2 項)。もっとも、職業的な委任に関しては、明示になされる必要がない場合もある(2137 条)。受任者の具体的権限は、委任に示されるもののみならず、そこから導きうるあらゆるものに及び、受任者は当該権限の行使のみならずそれに必要なあらゆる行為も行いうる(2136 条)。
③ 受任者の委任者に対する義務
受任者の委任者に対する義務として、以下のことが規定されている。
第一に、受任者は、委任(委任事務)を遂行する義務を負うが、その履行においては、用心深さ(prudence)と注意(diligence)をもって行為しなければならない(2138 条 1 項)。また、委任者の最良の利益において、誠実さとxxさをもって行為しなければならず、自己の個人的利益と委任者の利益が衝突する状況に身を置くことを避けなければならない(同条 2 項)。これに関連して、受任者は、委任の履行において獲得した情報や物を、自己のために使用することはできず(2146 条 1 項)、それを使用した場合には、委任者が被った損害のみならず、自分が獲得した利益や物の使用価値を賠償する義務を負う(同条 2 項)。
第二に、受任者は、履行状況及び委任を遂行した旨を通知する義務を負う(2139 条)。
第三に、受任者は、自己執行義務を負う(2140 条 1 項)。もっとも、委任者の許可がある場合又は予期せぬ状況がある場合には、他人に委任を遂行させることが認められることもある(同条 1 項・2 項)。委任者の許可のない復委任の場合には、受任者は復受任者の行為について責任を負い、委任者の許可がある場合には選任・指示における注意についてのみ責任を負うが(2141 条 1 項)、いずれにせよ、委任者は復受任者に対して直接訴権を有する(同条 2 項)。以上に対し、受任者が履行補助者を用いることは原則として可能であり
(2142 条 1 項)、この場合、受任者は委任者との関係では履行補助者の行為について依然として義務を負う(同条 2 項)。
第四に、双方委任(代理)について。受任者は、同一の行為につき利益が衝突する(可能性のある)当事者を代理する場合には、各委任者に対しその旨を通知しなければならず
(2143 条 1 項)、それがなされない場合には、損害を被った委任者は受任者の行為の無効を請求できる(同条 2 項)。
第五に、共同委任(代理)について。受任者が複数の場合には、委任は全員の承諾により成立し(2144 条 1 項)、すべての行為が共同で行われる必要がある(同条 2 項)。単独で権限を行使した受任者は権限を踰越したものとして扱われる(2145 条)。
第六に、自己契約について。受任者は委任対象の行為について当事者になることができず(2147 条 1 項)、これに違反した場合、委任者は無効を主張できる(同条 2 項)。
第七に、無償委任の場合について。無償委任の場合、裁判所は、受任者の義務違反につき、その損害賠償額を減じることができる(2148 条)。
④ 委任者の受任者に対する義務
委任者の受任者に対する義務として、以下のことが規定されている。
第一に、委任者は、委任の遂行につき、受任者に協力する義務を負う(2149 条)。
第二に、委任者は、受任者の請求に応じて、委任の履行に必要な金額の前払いをし、受任者が支出した合理的な費用を償還し、報酬を支払う義務を負う(2150 条)。費用に対する利息は費用が支払われた日から生じる(2151 条)。
第三に、委任者は、受任者が第三者と委任の限度内で締結した義務から、受任者を免れさせる義務を負う(2152 条 1 項)。委任の限度を超える行為については、委任者は受任者に対して義務を負わないが、追認する場合等は完全な義務を負う(同条 2 項)。委任の限度を超える行為が、委任者により示された方法よりも委任者に有利なように遂行された場合は、委任者はその行為を追認したものとみなされる(2153 条)。
第四に、委任者は、受任者が委任の履行に際してフォートなく被った損害について補償する義務を負う(2154 条)。
第五に、事務が成功しなかった場合でも、受任者にフォートがないときには、以上の規律により委任者が負うことのある金額は支払われなければならない(2155 条)。
第六に、委任者複数の場合、それらの者は受任者に対して連帯して義務を負う(2156 条)。
⑤ 第三者との法律関係―受任者の第三者に対する義務
受任者が委任事務を遂行することにより、第三者との法律関係も問題となってくる。まず、受任者の第三者に対する義務(どのような場合に受任者個人も義務を負うか)については、以下のような規定がおかれている。
第一に、委任の範囲内で、委任者の名及び利益において行為する受任者は、自身が締結する第三者に対して個人的に義務を負わない(2157 条 1 項)。それに対し、自己の名で行為する受任者は、第三者に対して義務を負う(同条 2 項)。
第二に、権限を踰越する受任者は、自身が締結する第三者に対して個人的に義務を負う。ただし、第三者が委任について十分認識していた場合、又は受任者が遂行した行為について委任者が追認する場合には、この限りでない(2158 条)。
第三に、受任者は、委任者の同一性を明らかにすることを第三者との間で合意したのにそれを怠った場合、委任者の名について沈黙する義務を負う場合、又は自身が申告する者
(委任者として表示する者)が支払不能であること、未xx者であること又は無能力者保護制度のもとにおかれていることを知っているのにそれに言及しなかった場合にも、個人的に義務を負う(2159 条)。
⑥ 第三者との法律関係―委任者の第三者に対する義務等
次に、委任者の第三者に対する義務については、以下のような規定がおかれている。
第一に、委任者は、委任の履行においてその範囲内で受任者が遂行した行為について、第三者に対し義務を負う(2160 条 1 項)。また、委任の範囲を超えかつ委任者が追認した行為についても、義務を負う(同条 2 項)。
第二に、委任者の許可なき復委任又は委任者の利益等の観点から正当化されない復委任の場合には、それにより損害を被る委任者は、復受任者の行為を放棄することができる
(2161 条)。
第三に、委任の終了後に、委任の履行においてその範囲内で受任者が遂行した行為についても、これらの行為がすでになされた行為の必然的帰結であった場合、これらの行為が損失の危険なく延期しえなかった場合、又は委任の終了について第三者が知らないままであった場合には、委任者又はその相続人は第三者に対し義務を負う(2162 条)。
第四に、ある者が自身の受任者であると信じさせた者は、適切な措置を講じていた場合を除き、あたかも委任があったかのように、受任者と善意で締結した第三者に対し、義務を負う(2163 条)。
第五に、委任者は、委任の履行における受任者のフォートにより引き起こされた損害について、責任を負う。ただし、受任者が委任者の被用者でない場合において、委任者が損害を防ぐことができなかったことを委任者が証明するときは、この限りでない(2164 条)。
第六に、委任者が第三者に対し委任を明らかにした後、第三者が自己の名で行為する受任者と義務を締結した場合に、委任者はその履行を直接に第三者に対して求めることがで
きる(2165 条)。
⑦ 委任の終了
委任の終了事由としては、債権債務の消滅原因一般のほか、委任者による撤回、受任者による放棄、受任者に与えられた権限の消滅、当事者の一人の死亡が挙げられている(2175条 1 項)。また、倒産(委任者の不適格に備えてなされる委任の場合を除く)、(状況によっ
て)当事者の一人についての無能力者保護制度の開始によっても終了する(同条 2 項)。一定の終了事由に関しては、さらに細則が定められている。
第一に、委任者による撤回について。ⅰ委任者による撤回にあたり、委任状に委任の終了を記載するための手続に関する規定が設けられている(2176 条)。また、ⅱ委任者が不適格である場合に、公的保佐人を含む利害関係人による撤回(及び無能力者保護制度の開始等)の請求の手続が規定されている(2177 条)。さらに、ⅲ新たな受任者の設定は、それが受任者に通知されれば撤回にあたるとされる(2180 条)。
さらに、ⅳ委任者は撤回しても、受任者に対して自身の義務(報酬支払義務等)を履行する義務を負い、また、正当な理由なく不利な時期になされた撤回により受任者が損害を被った場合には、損害賠償義務を負う(2181 条 1 項)。また、ⅴ撤回の通知が受任者に対してのみなされた場合には、このことについて善意の第三者は影響を受けない(同条 2 項)。第二に、受任者による放棄について。受任者は委任者に対する通知により放棄すること ができ、この場合でも有償委任の場合は報酬に対する権利を保持するが(2178 条 1 項)、正当な理由なく不利な時期になされた放棄により委任者が損害を被った場合には、損害賠
償義務を負う(同条 2 項)。
なお、委任者も受任者も撤回又は放棄の権利を行使しない旨を約することができるが
(2179 条 1 項・2 項)、その場合でも、撤回又は放棄が認められることがある(同条 3 項)。第三に、受任者の死亡又は受任者に対する無能力者保護制度の開始について。委任を知 っておりかつ権限を有する清算人、後見人又は保佐人は、委任者に対してそのことを通知し、開始された事務において、損失の危険なく延期されえないあらゆることを行う義務を
負う(2183 条 1 項)。
委任が終了する際の規律に関して、さらに、以下のことが規定されている。
第一に、受任者は、委任が終了しても、自身の行為の必然的帰結であること又は損失の危険なく延期されえないことを行う義務を負う(2182 条)。
第二に、受任者は、委任の終了時において、報告義務を負い、また、委任者に対し職務の履行において受領したあらゆるものを引渡す義務を負う(2184 条 1 項)。なお、金銭に関しては、遅滞の時からその利息の支払義務も負う(同条 2 項)。もっとも、受任者は、委任者に対して引渡さなければならない金額から、委任者が受任者に対して負う金額を控除できる(2185 条 1 項)。また、受任者は、自身に対して支払われるべき金額の支払いまで、委任の履行のために委任者が受任者に与えたものを留置することができる(同条 2 項)。
(vi) 寄託
① 定義等
寄託とは、「ある者(寄託者)が他の者(受寄者)に対し動産を引き渡し、受寄者が一定期間その物を保管し返還することを約する契約」である(2280 条 1 項)。
寄託は原則として無償契約であるが、合意等により有償となりうる(同条 2 項)。また、要物契約である(2281 条)。
なお、受寄者が未xx者又は無能力者である場合には、寄託者は、原物の返還を請求でき、それが不可能な場合には、受寄者が得た利得の返還を請求できる(2282 条)。
② 受寄者の義務
受寄者の義務に関しては、以下のように規定されている。
第一に、受寄者は、用心深さ(prudence)と注意(diligence)をもって物の保管を行う義務を負い、寄託者の許可なしに物を使用することはできない(2283 条)。なお、受寄者は寄託者又は返還の相手方に対し、寄託者が寄託された物の所有者であることの証明を求めることができない(2284 条)。
第二に、受寄者は、寄託者の求めに応じて直ちに、寄託された物を寄託者に返還する義務を負う(返還期限が設定されている場合も同様。2285 条 1 項)。返還の際、受寄者は受取証等の交付を求めることができる(同条 2 項)。返還の範囲には、受寄者が不可抗力により滅失した物の代わりに受領したものも含まれる(2286 条)。また、果実及び寄託された物から受取った収入も返還されなければならず(2287 条 1 項)、寄託物が金銭の場合は遅滞後の利息も支払わなければならない(同条 2 項)。
物の返還ができない場合に関して、以下のように規定されている。ⅰ寄託につき善意で物を売却した受寄者の相続人又はその他の法定代理人は、代金の返還又は代金債権の譲渡を行えばよい(2288 条)。ⅱ物を滅失させた受寄者は、無償寄託の場合にはフォートについての責任を負い、有償寄託(及び受寄者の求めによる寄託)の場合には、不可抗力を証明しない限り責任を負う(2289 条)。もっとも、無償寄託の場合や寄託者の申告なき価値物の寄託の場合には、裁判所により賠償額が減額されうる(2290 条)。
物の返還の態様については、ⅰ原則として引渡された場所においてなされ(2291 条)、ⅱ無償寄託の場合は原則として寄託者が、有償寄託の場合は受寄者が負担する(2292 条)。
③ 寄託者の義務
寄託者の義務に関しては、以下のように規定されている。
第一に、寄託者は、保存のための支出の償還義務、受寄者に生じた損失の補償義務、報酬の支払義務を負い(2293 条 1 項)、受寄者はこれらの支払いがなされるまで寄託物を留置する権利を有する(同条 2 項)。
第二に、返還期限が受寄者の利益のためにのみ約定された場合には、物の期限前の返還
により受寄者が被った損害について、寄託者は賠償義務を負う(2294 条)。
(2) ケベック民法典における役務提供型の契約の相互関係(棲み分け)
ケベック民法典における役務提供型の契約の相互関係(棲み分け)は、以下のように整理できる。
②
物の保管
人又は物の移動
事実行為 従属的
①
その他の役務
③
④
独立的
仕事の実現
その他役務の提供
法律行為
寄託契約
運送契約労働契約請負契約役務契約委任契約
①:提供される役務が、法律行為か事実行為か。法律行為であれば委任契約。
②:提供される役務が、物の保管か人又は物の移動かそれ以外か。物の保管であれば寄託契約、人又は物の移動であれば運送契約。
③:役務の遂行が、依頼者とは独立になされるか従属して(依頼者の指揮・統御に服して)なされるか。従属的であれば労働契約。
④:提供される役務が、仕事の実現かそれ以外か。仕事の実現であれば請負契約、その他の役務の提供であれば役務契約。
もっとも、具体的事案においては、当該契約がどの契約と性質決定されるかが困難なケースが存在することが容易に想定される。アクセス可能な文献が存在しないため予想にすぎないが、ケベック法における役務提供型の契約の分類及び内容は、請負契約とは別に役務契約が存在すること以外はフランス法と共通するゆえ、フランス法における議論は基本的にケベック法においても妥当するものと思われる。
(3) 日本の民法典における役務提供型の契約との異同
ケベック民法典における役務提供型の契約と日本の民法典におけるそれとを比較した場合、まず、運送契約が典型契約として規定されている点が、ケベック民法典の特徴であるといえる。それ以外についてみると、寄託・労働(雇用)・請負に関しては、日本とケベックとで契約の基本的な内容について大きな差異は見られない。最も注目すべきは、ケベック民法典においては「役務契約」という典型契約類型が規定されている点であろう。これは、「仕事の実現」以外の事実行為(寄託契約・運送契約・労働契約となるものは除く)を対象とする役務の提供を規律するものであり、日本の民法典における準委任契約(656 条)の領域と重なる。ケベックにおいては、日本と異なり、こうした役務の提供は、委任契約
とは異なる規律に服せしめられていることになる。また、請負契約に特有な規律も排除され、ミニマムな規律(前述(1)(iv)②参照)がなされる。多様な役務提供形態の受け皿として機能するものと推測されよう。
具体的な規律の次元では、役務提供者が結果債務を負う場合について民法典の条文で明示されている点(有償の運送契約における人・物の運送、有償の寄託契約における物の返還のほか、請負契約・役務契約においても結果債務が生じる場合がありうるとされている)は、ケベック民法典の特徴といえようか。
(xxxx)
ケベック民法典(1991, c.64)条文訳
<目次> 太字:<条文訳>で訳出した箇所(役務提供型の契約も訳出した)第 1 編 人
第 2 編 家族第 3 編 相続第 4 編 物 第 5 編 債権
第 1 章 債権一般第 2 章 有名契約
第 1 節 売買(1708~1805 条)第 1 款 売買一般
§1 一般規定
§2 予約
§3 他人物売買
§4 売主の債務
Ⅰ 引渡し Ⅱ 所有権の担保責任 Ⅲ 品質の担保責任
Ⅳ 合意による担保責任
§5 買主の債務
§6 当事者の権利行使に特有の規律
Ⅰ 買主の権利 Ⅱ 売主の権利
§7 売買の諸態様
Ⅰ 試用売買 Ⅱ 割賦売買 Ⅲ 買戻権付き売買 Ⅳ 競売
§8 (削除)
§9 一定の無体物の売買
Ⅰ 相続権の売買 Ⅱ 係争中の権利の売買第 2 款 居住目的不動産の売買に特有の規律
第 3 款 売買に類似する様々な契約
§1 交換 §2 代物弁済 §3 不動産定期金契約第 2 節 贈与(1806~1841 条)
第 1 款 贈与の性質及び範囲 第 2 款 贈与のいくつかの要件
§1 贈与能力及び受贈能力
§2 贈与の有効性に関するいくつかの規律
§3 贈与の形式及び公示
第 3 款 当事者の権利及び義務
§1 一般規定
§2 贈与者の債務
§3 第三者のために約定された負担
第 4 款 忘恩行為を理由とする贈与の撤回第 5 款 婚姻又は民事連帯契約による贈与 第 3 節 信用供与賃貸借(1842~1850 条)
第 4 節 (物の)賃貸借(1851~2000 条)第 1 款 (物の)賃貸借の性質
第 2 款 (物の)賃貸借から生じる権利及び義務
§1 一般規定 §2 修繕 §3 物の転貸借及び賃貸借の譲渡第 3 款 (物の)賃貸借の終了
第 4 款 住居の賃貸借に特有の規律
§1 適用範囲
§2 賃貸借契約書
§3 賃料
§4 住居の状態
§5 住居に対する一定の変更
§6 住居への入場及び訪問
§7 その場所へとどまる権利
Ⅰ 権利を享受する者 Ⅱ 賃貸借の更新及び変更 Ⅲ 賃貸借の条件の固定
§8 賃貸借の解除
§9 一定の賃貸借に特有の規律
Ⅰ 教育施設における賃貸借 Ⅱ 低賃料住居の賃貸借
Ⅲ 可動式家屋の設置を目的とする土地の賃貸借第 5 節 傭船(2001~2029 条)
第 1 款 一般規定
第 2 款 様々な傭船契約に特有の規律
§1 裸の船の傭船 §2 定期傭船 §3 旅行傭船第 6 節 運送(2030~2084 条)
第 1 款 全ての運送方法に適用される規律
§1 一般規定 §2 旅客運送 §3 貨物運送第 2 款 海上貨物運送に特有の規律
§1 一般規定 §2 当事者の義務 §3 貨物取扱場第 7 節 労働(2085~2097 条)
第 8 節 請負契約ないし役務契約(2098~2129 条)第 1 款 契約の性質及び範囲
第 2 款 当事者の権利及び義務
§1 役務にも仕事にも適用される一般規定
§2 仕事に特有の規定
Ⅰ 一般規定 Ⅱ 不動産に関する仕事第 3 款 契約の解除
第 9 節 委任(2130~2185 条)第 1 款 委任の性質及び範囲
第 2 款 当事者間での当事者の義務
§1 委任者に対する受任者の義務 §2 受任者に対する委任者の義務第 3 款 第三者に対する当事者の義務
§1 第三者に対する受任者の義務 §2 第三者に対する委任者の義務第 4 款 委任者の不適格に備えてなされる委任に特有の規律
第 5 款 委任の終了
第 10 節 会社契約及び非営利社団契約(2189~2279 条)第 1 款 一般規定
第 2 款 合名会社
§1 社員間での及び会社に対する社員の関係
§2 第三者に対する会社と社員の関係 §3 社員の資格の喪失
§4 会社の解散及び清算第 3 款 合資会社
第 4 款 匿名会社
§1 会社の定款 §2 社員間での社員の関係 §3 第三者に対する社員の関係
§4 会社契約の終了第 5 款 非営利社団
第 11 節 寄託(2280~2311 条)第 1 款 寄託一般
§1 一般規定 §2 受託者の義務 §3 寄託者の義務第 2 款 必要的寄託
第 3 款 ホテル業者の寄託第 4 款 係争物寄託
第 12 節 貸借(2312~2332 条)第 1 款 貸借の種類と性質
第 2 款 使用貸借第 3 款 単純貸借
第 13 節 保証(2333~2366 条)
第 1 款 保証の性質、目的及び範囲第 2 款 保証の効果
§1 債権者と保証人の間での効果 §2 債務者と保証人の間での効果
§3 保証人間での効果第 3 款 保証の終了
第 14 節 定期金(2367~2388 条)
第 1 款 契約の性質とその規律の射程範囲第 2 款 契約の範囲
第 3 款 契約のいくつかの効果第 15 節 保険(2389~2628 条)
第 1 款 一般規定
§1 契約の性質と保険の様々な種類
§2 契約の成立と内容
§3 地上保険の受取人の申告及び負担
§4 特別規定第 2 款 人保険
§1 保険証券の内容
§2 保険利益
§3 年齢及びリスクの申告
§4 保険の発効
§5 保険の保険料、前払い及び再発効
§6 保険契約の履行
§7 受益者及び代位名義人の指定
Ⅰ 指定の要件 Ⅱ 指定の効果
§8 保険契約から生じる権利の譲渡および抵当第 3 款 損害保険
§1 物保険及び責任保険に共通の規定
Ⅰ 保険の填補性 Ⅱ リスクの増大 Ⅲ 保険料の支払い
Ⅳ 災害の申告及び補償の支払い Ⅴ 保険の譲渡 Ⅵ 契約の解除
§2 物保険
Ⅰ 保険証券の内容 Ⅱ 保険利益 Ⅲ 補償の範囲 Ⅳ 保険額
Ⅴ 災害及び補償の支払い
§3 責任保険第 4 款 海上保険
§1 一般規定
§2 保険利益
Ⅰ 利益の必要性 Ⅱ 保険利益の諸ケース Ⅲ 保険利益の範囲
§3 物のxx可能価値の決定
§4 契約及び保険証券
Ⅰ 応募 Ⅱ 契約の種類 Ⅲ 保険証券の内容 Ⅳ 保険証券の譲渡
Ⅴ 契約の証拠及び承認
§5 保険料に関する当事者の権利及び義務
§6 申告
§7 負担
§8 航行
Ⅰ 出発 Ⅱ 航行の変更 Ⅲ 航路変更 Ⅳ 遅延
Ⅴ 許される遅延及び航路変更
§9 災害、損失及び損害の深刻
§10 遺棄
§11 損害の種類
§12 補償金の算定
§13 様々な規定
Ⅰ 代位 Ⅱ 契約の重畳 Ⅲ 一部保険 Ⅳ 相互保険 Ⅴ 直接訴権第 16 節 競技及び賭事(2629~2630 条)
第 17 節 和解(2631~2637 条)
第 18 節 仲裁の合意(2638~2643 条)第 6 編 優先権及び抵当権
第 7 編 証明第 8 編 時効
第 9 編 権利の公示第 10 編 国際私法
第 5 編 債権 第 2 章 有名契約第 1 節 売買
第 1 款 売買一般
§7 売買の諸態様
Ⅰ 試用売買
第 1744 条① 物の試用売買は、停止条件付きで行われるものと推定される。
② 試用期間が約定されていない場合は、買主が物の引渡しから 30 日以内に売主に拒絶を通知しないことによって、条件が成就する。
Ⅱ 割賦売買
第 1745 条① 割賦売買は、売主が売買代金全額の支払いまで物の所有権を留保する期限付き売買である。
② 道路用乗物若しくは規則で定められるその他の動産の所有権の留保、又は、事業上の役務若しくは事業経営のために取得されたあらゆる動産の所有権の留保は、それが公示される場合のみ、第三者に対抗できる。この対抗可能性は、留保が 15 日以内に公示されれば、売買時から獲得される。この留保の譲渡も、それが公示される場合のみ、第三者に対抗できる。
第 1746 条 割賦売買は、買主に、物の滅失の危険を移転させる。ただし、消費者契約の場合又は当事者が他の約定を行った場合は、この限りでない。
第 1747 条 買主が支払うべき未払金は、その物が司法機関により売却される場合、又は、買主が売主の同意なくその物について有する権利を第三者に譲渡する場合には、請求可能なものとなる。
第 1748 条 買主が契約で定めた態様に従って売買代金を支払わない場合、売主は期限の到来した支払いの即時の弁済を求め、又は、売却した物を取り戻すことができる。契約が期限の利益の喪失条項を含む場合には、売主は、これらの代わりに未払代金の弁済を求めることができる。
第 1749 条① 買主の不在(défaut)の場合に売却された物を取り戻すことを選択する売主又は譲受人は、「優先権及び抵当権」の編に規定される抵当権の行使に関する規律に従う。ただし、消費者契約の場合は、消費者保護に関する法律の規律のみが、売主又は譲受人の取
戻権の行使に適用される。
② 所有権の留保が公示されるべきであったのに公示されなかった場合、売主又は譲受人はその物の直接の買主からのみ、売却された物を取り戻すことができる。この場合、売主又は譲受人は、その物を、その現在の状態で、かつ買主が負荷することができた権利及び負担に服する状態で、取り戻す。
③ 所有権の留保が公示されるべきであったのに遅れて公示された場合、売主又は譲受人は、同様に、その物の直接の買主からのみ、売却された物を取り戻すことができる。ただし、買主による物の売却より前に公示されていた場合は、売主又は譲受人は、あらゆる後続買主からもその物を取り戻すことができる。すべての場合において、売主又は譲受人は、その物を、その現在の状態で取り戻すが、留保の公示の時点で買主が負荷することができ、かつ、そのときに公示されていた権利及び負担に服する状態で、取り戻す。
Ⅳ 競売
第 1757 条 競売は、物が第三者(競売人 encanteur)の仲介で副xxに売却に供され、最高入札者たる競落人 dernier enchérisseur に競り落とされた旨を宣言される売買である。
第 1758 条 競売は任意又は強制である。強制競売の場合、売買は、民事訴訟法典、及び、不適合でなければ、本セクションの規定に服する。
第 1759 条 売主は、最低競売価格、又は、他の売買の条件を決定することができる。ただし、それらの条件は、競売人が入札額enchère を受け入れる前に参加者personnes présentesに伝えた場合にのみ、競落人 adjudicataire に対抗できる。
第 1760 条 売主は、競売の際、自己の身元を明らかにすることを拒絶できるが、それが競落人に明らかにされない場合には、競売人は、個人的に、売主の全ての義務を負う。
第 1761 条 入札者 enchérisseur は、いかなる時点においても、入札額を撤回することができない。
第 1762 条 競売は、競売人により物が競落人に落札されることにより、完全である。競売人の台帳への競落人の名及びその入札額の記入により、売買は証明されるが、記入がない場合には、証人による証明が認められる。
第 1763 条 不動産の売主及び競落人は、当事者の一方による請求から 10 日以内に、売買の証書を作成しなければならない。
第 1764 条 削除
第 1765 条① 売買の条件に従って買主が代金を支払わない場合、売主が通常の求償をおこなうことができるほか、競売人は、慣習に従い、かつ十分な通知をしたうえで、物を再競売に付すことができる。
② この場合、空競り人 fol enchérisseur は、改めて入札することができず、万一の場合は、自己の競落代金と再売却の最低価格との差を支払わなければならず、超過分を請求することはできない。また、強制競売の場合、空競り人は、売主、被差押人 saisi、及び判決を得た債権者に対し、利息、費用、自己の支払い欠如により生じた損害賠償について責任を負う。
第1766 条① 売主の債権者が行使する差押えにより競売の際に獲得した物についての所有権を侵害された競落人は、売主から、自己が支払った代金を、利息及び費用とともに、回復することができる。また、そのような競落人は、売主の債権者から、その者に対して交付された代金を、利息とともに、回復することができる。ただし、この場合、検索の抗弁の利益を対抗される。
② そのような競落人は、差押債権者に対し、差押え又は売却の不正により生じる損害の賠償を請求できる。
第 2 款 居住目的不動産の売買に特有の規律
第 1785 条① すでに建築されたものであれこれから建築されるものであれ、居住目的不動産の売買が、不動産建築者又は開発者により、それを自分で占有するために取得する自然人に対してなされる場合、土地に対する売主の権利の取得者への移転を含むか否かに関わらず、当該売買の前に、ある者が不動産の購入を予約する予備的契約がなされなければならない。
② 予備的契約は、予約者たる買主が証書の作成から 10 日以内においては予約を取り消す
ことができる旨の約定を含んでいなければならない。
第1786 条① 予備的契約は、売主及び予約者たる買主の名及び住所、実現されるべき仕事、売買代金、引渡しの日、及び不動産に課せられている物権を示さなければならないほか、不動産の特質に関する有益な情報を含んでいなければならず、代金が改定可能な場合、改定の態様を記載しなければならない。
② 予備的契約が破約の権能を行使した場合の賠償を規定する場合、それは、合意された売買代金の 0.5%を越えてはならない。
第 1787 条① 売買が、居住目的不動産の分割共有権の一部分又は不分割持分に関するものであり、この不動産が少なくとも 10 単位の住居を含む全体からなる、又はその一部をなす場合には、売主は、予備的契約の署名の際に、予約者たる買主に対し、情報文書を交付しなければならない。また、売買が 10 以上の居所を含み、共同の設備を有する全体の一部をなす居所に関するものである場合にも、売主は情報文書を交付しなければならない。
② xxの者に対し共有権の同一の一部分が供され、それらの者がその一部分に関して利用権を獲得するような売買も、情報文書の交付に服する。
第 1788 条① 情報文書は、予備的契約を完全なものとする。情報文書は、建築士、技師、建築者及び開発者の名を明らかにし、不動産設計の全体計画、及び、必要であれば、設計の実施の一般計画、並びに、仕様書の概要を含む。情報文書は、見積り予算を報告し、共同の設備を示し、不動産の管理、及び、必要であれば、当該不動産を目的とする永代不動産賃借権並びに地上権に関する情報を提供する。
② 共有権又は不分割および不動産の規則に関する合意の謄本又は概略は、これらの文書が下書き段階であるとしても、情報文書に付属させられなければならない。
第 1789 条 売買が分割共有権の一部分に関するものである場合には、情報文書は、開発者 又は建築者により不動産の専有部分又は共有部分に関して同意された賃貸借の状態を含み、それらの者により住居目的に充てられた部分の最大限度を示す。
第 1790 条 開発者又は建築者が、情報文書に示された最大限度を超えて賃貸借を同意した場合には、共有者の組合 syndicat は、貸主及び借主に対して通知したうえで、賃貸借を解除できる。最大限度を超える賃貸借が複数ある場合には、最も新しい賃貸借が、最初に解除されなければならない。
第 1791 条① 見積り予算は、不動産の完全占有の年次ベースに従って作成されなければならない。分割共有権の場合には、見積り予算は、共有の宣言が登記される日を始める期間について作成される。
② 予算は、とりわけ、債務及び債権の状態、収入及び立替金、及び共通の負担を含む。また、予算は、それぞれの部分につき、支払われるべきと推測される土地税、その利率、及び、万一の場合には福利厚生基金への分担金を含む、支払われるべき年次負担を示す。
第 1792 条 共有権の一部分の売買は、共有権の宣言が、権利の公示に関する編に従って登記されえた日から 30 日以内に登記されなければ、形式を必要とされることなく、解除されうる。
第 1793 条 予備的契約がなされない居住目的不動産の売買は、購入者がそれによって重大な損害を被ることを証明する場合には、購入者の請求により、取り消されうる。
第 1794 条 請負人により、すでに建築された又はこれから建築される居住目的不動産とともに、請負人が有する土地について行われる売買は、必要な調整を考慮したうえで、請負契約又は役務提供契約における担保責任に関する規律に服する。同様の規律は、不動産開発者によりなされる売買にも適用される。
第 3 款 売買に類似する様々な契約
§2 代物弁済
第 1799 条 代物弁済は、債務者が物の所有権を債権者に移転し、債権者が、それを、債務者が債権者に対して支払うべき金銭又はその他の何らかの物の代わりにその弁済として受領する契約である。
第 1800 条① 代物弁済は、売買契約の規律に服し、これにより物を移転する者は売主と同様の担保責任を負う。
② ただし、代物弁済は、物の引渡しによって初めて完全なものとなる。
第 1801 条 債務者の債務の履行を担保するために、債権者が物の不可撤回的な所有者となる権利、又は、債権者が物を処分する権利を留保する旨のあらゆる条項は、書かれなかったものとみなされる。
§3 不動産定期金契約
第 1802 条① 不動産定期金契約(bail à rente)は、賃借人が定期金地代 rente foncière を支払うことを義務付けられるのと引換えに、賃貸人が不動産の所有権を移転する契約である。
② 定期金地代は通貨又は現物で支払われることができる。定期金地代の支払いは毎年末に行われなければならず、定期金地代は定期金の設定のときに計算される。
第1803 条 賃借人は、いつでも、資産によって定期金地代の価値を償還することを申し出、既払いの定期金地代の返還を放棄することによって、定期金地代の役務から解放されることができる。ただし、賃借人は、定期金地代の役務について、保険者に代わってもらうことができない。
第 1804 条 賃借人は賃貸人に対して個人的に定期金地代の義務を負う。不動産を放棄したこと、又は、不動産が不可抗力により破壊されたことによっては、賃借人の義務は免除されない。
第 1805 条 その他に関しては、売買契約及び定期金に関する規律が、不動産定期金契約に適用される。
第 3 節 信用供与賃貸借
第 1842 条① 信用供与賃貸借(crédit-bail)は、信用供与貸主が、定められた期間内において、対価を伴って、ある動産を他人(信用供与貸主)に使用させる契約である。
② 信用供与賃貸借の目的物は、信用供与借主の求めに従い、かつ、信用供与借主の指示に適合的に、信用供与貸主が第三者から取得する。
③ 信用供与賃貸借は、事業目的でのみ締結することができる。
第 1843 条 信用供与賃貸借の目的物は、契約が存続する限り、その物が不動産に連結又は結合した場合でも、動産たる性質を失わない。ただし、その物が個別性を失うときはこの限りでない。
第 1844 条 信用供与貸主は、購入証書(acte d’achat)の中に、信用供与賃貸借契約である旨を明示しなければならない。
第 1845 条 物の売主は、信用供与借主に対し、直接、売買契約に内在する法律及び合意に基づく担保責任を負う。
第 1846 条① 信用供与借主は、物の占有を取得した時点から、物の滅失についてすべての危険を負担する。このことは、物の滅失が不可抗力による場合も同様である。
② 同様に、信用供与借主は、維持費及び修繕費を負担する。
第1847 条① 信用供与貸主の所有権は、それが公示される場合のみ、第三者に対抗できる。この対抗可能性は、これらの所有権が 15 日以内に公示されれば、信用供与賃貸借の時点から獲得される。
② 信用供与貸主の所有権の譲渡についても、それが公示される場合のみ、第三者に対抗できる。
第 1848 条 信用供与借主は、契約締結後合理的な期間内に、又は付遅滞において定めた期
間内に引渡しがなされない場合には、信用供与貸主が遅滞に陥った後において、信用供与賃貸借契約が解除されたものとみなすことができる。
第1849 条 信用供与賃貸借が解除され、信用供与借主が契約から利益を得ていた場合には、信用供与貸主は、信用供与借主から受領した給付の返還の際に、この利益を考慮した合理的な金額を控除することができる。
第 1850 条 信用供与賃貸借契約が終了した場合、信用供与借主は、信用供与貸主に対し物を返還する義務を負う。ただし、その物を獲得する旨の契約を信用供与借主に留保する選択権が約定されていた場合は、この限りでない。
第 5 節 傭船
第 1 款 一般規定
第 2001 条① 傭船契約は、ある者(船舶賃貸人)が、代金(船舶賃料とも呼ばれる)と引き換えに、他の者(船舶賃借人)に対し、航海させる目的で、船舶の全部又は一部を使用させることを約する契約である。
② [傭船]契約は、それが書面による場合には、傭船契約書(chartepartie)により確認される。傭船契約書には、両当事者の名のほか、両当事者の約務及び船舶を特定する諸要素が記載される。
第 2002 条 船舶賃借人は、傭船の代金を支払う義務を負う。いかなる代金も約定されなかった場合には、船舶賃借人は、契約締結の場所及び時点における市場条件を考慮した金額を支払わなければならない。
第 2003 条 船舶賃貸人は、船舶の積荷の荷降ろしのときに代金が支払われていない場合には、輸送された物を留置することができる。船舶賃貸人は、代金の支払いまで留置することができ、そこには、この留置から生じる合理的な費用及び損害を含む。
第 2004 条 共通の損害 avaries communes に関する規定は、契約締結の場所及び時点における海事協定の規律及び慣習によって認められるものである。
第 2005 条① 船舶賃借人は、船舶賃貸人の同意を得て船舶を転貸し、又は、船舶を船荷証券(connaissement)による運送に使用することができる。いずれの場合においても、船舶賃借人は船舶賃貸人に対し、傭船契約から生じる義務を依然として負う。
② 船舶賃貸人は、船舶賃借人が船舶賃貸人に対して負う範囲において、船舶転借人が負
う船舶賃料の支払いを訴求することができる。ただし、船舶転貸借は、船舶賃貸人と船舶転借人の間のその他の直接の関係をもたらさない。
第 2006 条 傭船契約から生じる訴権の時効は、裸船傭船又は有期傭船の場合は、契約期間の満了又はその履行の終局的中断の時から進行し、旅行傭船の場合は、運送される物の完全な荷降ろし又は旅行(voyage)を終了させる出来事の時から進行する。
第 2 款 様々な傭船契約に特有の規定
§1 裸船傭船
第 2007 条 裸船傭船(affrètement coque-nue)は、船舶賃貸人が、定められた期間、艤装及び設備のない船舶、又は、艤装されているが設備が不完全な船舶を、船舶賃借人に使用させ、航海事務及びその船の商業的事務を船舶賃借人に移転する契約である。
第 2008 条 船舶賃貸人は、合意された場所及び時点において、良い航行可能状態にあり、かつ、目的とされる役務に適する船舶を、引渡す。
第 2009 条 船舶賃借人は、通常の用途に適合するすべての目的のために、船舶を使用することができる。ただし、船舶賃貸人は、契約において、その使用について制限を課すことができる。
第 2010 条① 船舶賃借人は、船上の機材及び設備について使用権を有する。
② 船舶賃借人は、船舶に保険をかけ、船舶の使用にかかる全ての費用を負担する。船舶賃借人は、乗組員を雇い、その維持に関するすべての費用を負担する。
第2011 条 船舶賃借人は、船舶の使用の結果として生じる第三者の請求(recours)について、船舶賃貸人を保証する責任を負う。
第 2012 条① 船舶賃借人は、船舶の維持を行い、必要な修繕及び交換を行う義務を負う。
② 船舶賃貸人は、船舶の固有の瑕疵の効果が船舶賃借人への船舶の引渡しの年に現れた場合には、その瑕疵により必要となった修繕及び交換を行う義務を負う。船舶がこのような瑕疵により動かなくなったときは、船舶賃借人は、動かない期間が 24 時間を超える場合には、動かない期間の間、いかなる船舶賃料も支払わなくてよい。
第 2013 条① 船舶賃借人は、契約が終了した場合には、引渡しを受けた場所において、受領したときの状態で、船舶を返還する。船舶賃借人は、船舶並びに船上の機材及び設備の
通常の損耗を賠償する義務を負わない。
② ただし、この場合、船舶賃借人は、船舶の引渡しを受けたときに受領したのと同量及び同質の機材、備蓄及び設備を返還する義務を負う。
§2 有期傭船
第 2014 条 有期傭船(affrètement à temps)は、船舶賃貸人が、定められた期間、艤装及び設備が施された船舶を、船舶賃借人に使用させ、船舶賃貸人が航海事務を保持するが、その船の商業的事務を船舶賃借人に移転する契約である。
第 2015 条 船舶賃貸人は、合意された場所及び時点において、良い航行可能状態にあり、かつ、目的とされる作業を達成するためにふさわしく艤装及び設備が施された船舶を、引渡す。
第 2016 条① 船舶賃借人は、船舶の商業的利用に内在する費用、特に、埠頭権、並びに、操船費用及び運河航行費用を負担する。
② 船舶賃借人は、船舶が引渡された時点において船上にあるxx、及び、自身が船舶に備え付けなければならず、かつ、船舶がきちんと作動することを確保するのに適した質のxxを取得し、その代金を支払う。
第 2017 条① 船長は、契約が定める制限内で、船舶の商業的事務と関係があるすべての事柄について、船舶賃借人が与える指示に従わなければならない。
② これらの指示が、契約により船舶賃貸人が保持する権利と両立しない場合には、船長は、それに従うことを拒絶できる。そうであるにもかかわらず船長がそれに従ったときでも、そのことにより船舶賃貸人の船舶賃借人に対する請求(recours)は妨げられない。
第 2018 条 船舶賃借人は、船舶に対して引き起こされ、かつ、その商業的利用から生じる損失及び損害(avarie)を、船舶賃貸人に対して賠償する義務を負う。ただし、通常の損耗についてはこの限りでない。
第 2019 条① 船舶賃料は、契約条件にしたがって船舶が船舶賃借人に対して引渡される日から起算される。
② 船舶賃料は、船舶賃貸人に対する船舶の返還の日までについて支払われなければならない。ただし、船舶の作動が、不可抗力、又は、第三者若しくは船舶賃貸人に帰せしめられる原因により妨げられた期間については、支払われなくてよい。
第 2020 条 船舶賃借人は、合意された場所及び期限において、船舶を返還する。船舶賃借人は、前もって、合理的な期間内に、その旨を通知する。返還についていかなる場所も合意されなかった場合には、返還は、船舶が引渡された場所においてなされる。
§3 旅行傭船
第 2021 条① 旅行傭船(affrètement au voyage)は、船舶賃貸人が、積荷に関して一又は数回の定められた旅行を達成するために、艤装及び設備が施された船舶を、全部又は一部において、船舶賃借人に使用させ、船舶賃貸人が航海事務及び商業的事務を保持する契約である。
② [旅行傭船]契約は、積荷の性質及び量を定める。契約は、積載及び荷降ろしの場所、並びに、これらの作業を行う予定日時も明示する。
第 2022 条① 船舶賃貸人は、合意された場所及び時点において、良い航行可能状態において、予定された旅行を達成するためにふさわしく艤装及び設備が施された船舶を、引渡す。
② さらに、船舶賃貸人は、船舶を良い航行可能状態に保ち、旅行を行うために彼に依存するあらゆる注意を行う義務を負う。
第 2023 条 船舶賃貸人は、契約が定める制限内で、船上で受領された物の損失又は損害 (avarie)について責任を負う。ただし、船舶賃貸人は、損害が船舶賃貸人の義務違反により生じるものでないことを証明することにより、この責任を免れることができる。
第 2024 条① 船舶賃借人は、合意された量及び質にしたがって、積荷を船上に置く義務を負う。船舶賃借人がこれをしない場合でも、船舶賃借人は予定された船舶賃料を支払う義務を負う。
② ただし、船舶賃借人は、積載が始まる前に契約を解除することができる。この場合、船舶賃借人は、船舶賃貸人に対し、船舶賃貸人が被った損害に対応する賠償を支払わなければならない。ただし、その額は、船舶賃料の額を超えてはならない。
第 2025 条① 船舶賃借人は、契約により認められた期間内に、又は、それを欠く場合には、合理的な期間内において、若しくは港の慣習に従って、積荷の積載及び荷降しをしなければならない。
② 契約が積荷のための期間と荷降ろしのための期間を別に定める場合には、これらの期間は、可逆でなく、別々に数えられなければならない。
第 2026 条 積荷及び荷降ろしのための期間は、船舶賃借人が港に到着した後において、船
舶賃貸人が船舶賃借人に対し、船舶が積みに及び荷降ろしの準備ができたことを通知した時点から開始する。
第2027 条① 船舶賃貸人に帰せしめられない理由により、与えられた期間を超過した場合、船舶賃借人は、積荷又は荷降ろしのために与えられた期間の終了時から、滞船料(surestarie)を負う。滞船料は、船舶賃料の追加とみなされ、積荷又は荷降ろしの作業のために現実に要する追加期間全体について支払われなければならない。
② 滞船料は、契約で定められない場合、作業がなされる港の慣習にしたがって、又は、それがない場合には海事慣習にしたがって、合理的な率で算定される。
第 2028 条① 船舶賃料は、旅行の終了時に支払われなければならない。ただし、あらゆる状況において支払われなければならないわけではない。
② たとえば、旅行の完遂が不可能となった場合、船舶賃借人は、不可能となったのが船舶賃貸人に帰せしめられない理由によるときのみ、船舶賃料を支払う義務を負う。ただし、この場合、支払われなければならない船舶賃料は、長距離船舶賃料(fret de distance)に制限される。
第 2029 条① 旅行の開始前に、不可抗力により旅行の遂行が不可能となった場合には、契約は当然に解除され、一方当事者から他方当事者に対する損害賠償は生じない。
② ただし、不可抗力によりしばらくの間に限って船舶の出発又は旅行の継続ができない場合には、契約は存続する。この場合、船舶賃料の減額、又は、遅延による損害賠償は生じない。
第 6 節 運送
第 1 款 全ての運送方法に適用される規律
§1 一般規定
第 2030 条 運送契約は、ある者(運送人)が、主に人又は物の移動を行う義務を負い、他の者(旅客 passager、物の差出人 expéditeur 又は受取人 destinataire)がその者に対して、合意された時点において代金を支払う契約である。
第 2031 条 連続的運送 transport successif は、複数の運送人が次々に後を継いで同じ運送方法を用いて行われる運送である。結合的運送 transport combiné は、複数の運送人が次々に後を継いで様々な運送態様を用いる運送である。
第2032 条 自己の営業活動の過程において公衆に対して役務を提供する運送人により行わ
れるものを除いて、無償での人又は物の運送は、本節の規定によって規律されず、このような場合、運送を提供する者は、慎重及び注意の義務 obligation de prudence et de diligenceのみを負う。
第 2033 条 公衆に対して役務を提供する運送人は、拒絶する正当な理由がある場合を除いては、運送を以来する全ての人及び運送を依頼された全ての物を運送しなければならない。しかし、旅客、物の差出人又は受取人は、法律にしたがって、運送人が与える指示に従う義務を負う。
第 2034 条① 運送人は、法律に規定された限度及び条件でのみ、責任を排除又は制限することができる。
② 運送人は、不可抗力を証明しない限り、遅滞から生じる損害を賠償しなければならない。
第2035 条① 運送人が自己の義務の全部又は一部を履行するために他の運送人に代わらせる場合には、その者は運送契約の当事者であるとみなされる。
② 運送人の一人に対して差出人が行った支払いは、免責の効果を有する。
§2 旅客運送
第 2036 条 人の運送は、運送の作業に加えて、乗車及び下車も対象とする。
第 2037 条① 運送人は、旅客を目的地に無事に導く義務を負う。
② 運送人は、旅客に生じた損害を賠償する義務を負う。ただし、運送人が、この損害が不可抗力、旅客の健康状態又は旅客のフォートによって生じたことを証明した場合には、この限りでない。運送人は、損害が、運送人の健康状態、運送人の被用者の健康状態、または乗り物の状態若しくは機能により生じた場合にも、賠償義務を負う。
第 2038 条① 運送人は、旅客が運送人に対して預けた荷物及びその他の物品の滅失について責任を負う。ただし、運送人が、不可抗力、物の固有の瑕疵又は旅客のフォートを証明した場合には、この限りでない。
② しかしながら、運送人は、文書、現金 espèces、その他価値の高い物の滅失については、責任を負わない。ただし、物の性質又は価値が運送人に対して申告されており、運送人がその運送を承諾した場合には、この限りでない。運送人は、手荷物その他旅客の管理下におかれた物の滅失についても責任を負わない。ただし、旅客が、運送人のフォートを証明した場合には、この限りでない。
第 2039 条 人の連続的運送又は結合的運送の場合、損害が生じた時点における運送を行っていた者が、それについて責任を負う。ただし、明示の約定により、運送人の一人が異同全体について責任を引き受けている場合には、この限りでない。
§3 貨物運送
第 2040 条 物の運送は、運送人による物の積み込みから、物の移動、引渡しまで及ぶ期間を対象とする。
第 2041 条① 貨物証券 connaissement は、物の運送契約を確認する書面である。
② 貨物証券には、とりわけ、差出人、受取人、運送人、及び、必要があれば、運賃 fret及び運送費用を支払わなければならない者の名が記載される。貨物証券には、物の積み込みの場所及び日付、出発地及び目的地、運賃、物の性質、量、体積又は重量、外観状態、及び、必要があれば、その危険な性質も、記載される。
第 2042 条① 貨物証券は、複数の写しを作成される。貨物証券を発行する運送人はそのうちのひとつを保存し、ひとつを差出人に交付し、もうひとつは目的地まで物に付属させられる。
②貨物証券は、反対の証明がない限り、物の積み込み、性質、量、及び外観状態を証明する。
第 2043 条① 貨物証券は譲渡可能ではない。ただし、法律又は契約が反対の旨を定める場合にはこの限りでない。
② 貨物証券が譲渡可能な場合、譲渡は、あるいは裏書および引渡しにより、あるいは、持参人払いの場合には、引渡しのみにより、行われる。
第 2044 条① 運送人は、運送対象の物を、受取人又は貨物証券の保持者に対して引渡す義務を負う。
② 貨物証券の保持者は、運送対象の物の引渡しを要求する場合、運送人に対して貨物証券を引渡す義務を負う。
第 2045 条 受取人は、物の受領又は契約に対する承諾により、権利を取得し、契約から生じる義務を負う。ただし、差出人の権利は害されない。
第 2046 条 運送人は、受取人に対し、物の到着及び運び出しのための期間を知らせなけれ
ばならない。ただし、物の引渡しが名宛人の居所又は事業所で行われる場合はこの限りでない。
第 2047 条① 受取人が見つからない場合、受取人が物の受取を拒絶又は無視する場合、又は、その他全ての理由により、運送人が、自己の側にフォートなくして引渡しを行うことができない場合、運送人は、遅滞なく、差出人に対してその旨を通知し、物の処分の方法に関する指示を求めなければならない。しかしながら、緊急であり物が保存の効かないものである場合には、運送人は通知なく物を処分できる。
② 必要な場合に通知から 15 日以内に指示がなされない場合、運送人は、差出人の費用で
物を差出人に返送し、又は、預けられ忘れられた物の保持者についての物に関する編に定められた規定に従って物を処分することができる。
第 2048 条 運び出しの期間の満了後、又は、差出人に対する通知後、運送人の義務は、無償の受寄者の義務となる。しかしながら、運送人は、物の保存又は保管について、合理的な報酬の権利を有し、それは、受取人、又は、それが存在しない場合には、差出人の負担となる。
第 2049 条① 運送人は、物を、目的地まで運送する義務を負う。
② 運送人は、運送から生じる損害について責任を負う。ただし、運送人が、滅失が不可抗力、物の固有の瑕疵又は通常の損耗によることを証明した場合には、この限りでない。
第 2050 条① 運送人に対する損害賠償訴権の時効期間は、物の引渡し時又は物が引渡されるべきであった日から進行する。
② 訴権は、請求の書面による通知が、運送人に対して前もって、物に対して生じた損害が明らかなものであるか否かを問わず、物の引渡しから 60 日以内に、又は、物が引渡され
ない場合には、発送の日から 9 ヶ月以内に、なされなければ受理されない。いかなる通知も、この期間内に訴権が行使される場合には、必要ない。
第 2051 条 連続的運送又は結合的運送の場合、責任訴権は、契約締結の相手方である運送人又は最後の運送人に対して、行使されうる。
第 2052 条① 運送人の責任は、滅失の場合には、差出人により申告された物の価値を越えることはできない。
② 申告がない場合には、物の価値は、発送の場所及び時点に応じて決定される。
第 2053 条① 運送人は、文書、現金、又は大きな価値を有する物を運送する義務を負わな
い。
② 運送人がこのような種類の物を運送することを承諾する場合、運送人は、物の性質又は価値が申告された場合にのみ滅失について責任を負う。物の性質を偽り、又は、物の価値を増大させる虚偽の申告は、運送人を、あらゆる責任から免れさせる。
第 2054 条① 差出人が、運送人に対し、危険な物を、その正確な性質を前もって知らせることなく交付する場合、差出人は、運送人に対し、この運送により運送人に生じた損害を賠償しなければならない。
② さらに、差出人は、万が一の場合、この物の保管費用を支払い、その危険を負担しなければならない。
第 2055 条① 差出人は、運送人の損害が、物の固有の瑕疵から生じた場合、又は運送対象の物に関する申告の懈怠、不十分さ、若しくは不正確さから生じた場合には、運送人に対し、損害を賠償する義務を負う。
② しかしながら、運送人は、これらの所為のひとつにより損害を被った第三者に対して、責任を負うままである。ただし、運送人の差出人に対する求償は妨げられない。
第 2056 条① 運賃及び運送費用は、貨物証券に反対の約定がない限り、引渡し前に支払われなければならない。
② いずれの場合においても、物が契約に書かれている物と同じ性質でない場合、又は、価値が申告金額を上回る場合、運送人は、この運送のために要求できるであろう金額を請求することができる。
第2057 条① 運送対象の物の代金が引渡し時に支払われなければならない場合、運送人は、支払いを受領した後に引渡せばよい。
② 差出人が貨物証券で反対の指示をしない限り、費用は差出人の負担である。
第 2058 条① 運送人は、運賃、運送費用、及び、必要に応じて、保管の合理的費用の支払いまでは、運送対象の物を留置する権利を有する。
② 差出人の指示によれば、これらの費用を受取人が負う場合、その履行を請求しない運送人は、差出人に対して請求する権利を失う。
第 2 款 海上貨物運送に特有の規律
§1 一般規定
第 2059 条 当事者が別様の合意をしない限り、xxは、出発港及び目的港がケベックにあ
る場合には、水路による物の運送に適用される。
第2060 条 物の運送は、運送人による物の積み込みから引渡しまで及ぶ期間を対象とする。
§2 当事者の義務
第 2061 条① 差出人又は積載人は、傭船料 fret を負う。
② 受取人は、傭船料が目的地で支払い可能であり、受取人が物の引渡しを承諾する場合には、同様に傭船料を負う。
第 2062 条 積載人は、当事者の合意又は積載港の慣習により定められた場所及び時点において、物を提示しなければならない。これがなされない場合には、積載人は、運送人に対し、運送人が被った損害に対応する賠償を支払わなければならない。ただし、合意された傭船料の額を超えることはできない。
第 2063 条 運送人は、運送の開始において、及び、その前においても、船舶を航海可能な状態にし、船をきちんと艤装、装備、調達し、また、運送の間物が積載され保存されなければならない船舶の全ての部分を調整し良好な状態に置くために、注意を払わなければならない。
第 2064 条① 運送人は、適切な方法により、運送対象の物の積荷、管理、積載、運送、保管、荷降しを行う義務を負う。
② 沿岸航海の場合を除き、積載人の同意又はそれを許可する規則若しくは慣習がないにもかかわらず、運送人が船舶の甲板に物を積載する場合には、運送人はフォートを犯している。この同意は、コンテナによる積載の場合、船舶がこの種の運送に適しているならば、推定される。
第 2065 条① 運送人は、積載人の請求に応じて、積載人の申告に従って運送人が作成した貨物証券を、積載人に対して引渡さなければならない。
② 貨物証券本来の記載の他、貨物証券は、主な刻印及び適切な情報を提示して、運送されるべきものを明確に特定できるような記載を含む。
③ 運送人は、その正確性を疑う正当な理由がある場合、又は、それを確かめる方法を有しない場合には、貨物証券への提示の記載を拒絶することができる。
第 2066 条① 積載人は、積載の時点において、自身が行った申告の正確性を保証し、その不正確さによって運送人に引き起こす損害について責任を負う。
② 運送人は、積載人に対してのみ、この権利を主張できる。
第 2067 条 積載人が、故意に、物の性質又は価値について不正確な申告をする場合には、運送人は、生じる滅失についていかなる責任も負わない。
第 2068 条① 物の引取り enlèvement は、貨物証券に提示された状態で、又は、提示がない場合には、積載のときに物があった状態で、受取人により受領されたことを推定させる。ただし、書面により、受取人が、運送人又はその荷降し港における代理人に対し、遅くとも物の引取りの時点までに、又は、滅失が明らかでない場合には、引取りから 3 日以内に、物の滅失を通知した場合には、この限りでない。
② 運送人及び受取人は、引取りの時点において、物の状態の確認を求めることができる。
第 2069 条 確実な又は推定される物の滅失の場合、運送人及び受取人は、相互に、物を検査し、荷物の数を確かめる方法を与える義務を負う。
第 2070 条① 運送人又は船舶の所有者が、運送対象の物の滅失から生じる損害を賠償する義務を免れる旨のあらゆる約定は、無効である。ただし、生きた動物の運送の場合、又は、積載されたコンテナの運送ではなく、船舶にこの種の運送に適した設備が備わっている場合の、甲板での商品の運送の場合は、この限りでない。
② 運送人に対して保険の利益を譲渡する条項、または、あらゆる類似の条項は、運送人を免除する約定とみなされる。
第 2071 条① 運送人は、積載から引渡しまでの間に運送対象の物に生じる滅失について、責任を負う。
② とりわけ、運送人は、船舶の航海不可能な状態から生じる滅失について、責任を負う。ただし、運送人が、船舶を良好な状態に置くために注意を払っていたことを証明する場合には、この限りでない。
第 2072 条 運送人は、[以下のこと]から生じる滅失については、責任を負わない。
1. 船長、乗組員、及び運送人の被用者の航海上のフォート。
2. 火災。ただし、運送人の所為又は運送人のフォートにより生じる場合はこの限りでない。
3. 不可抗力。
4. 特に物の荷造り、包装、又は刻印における、物の所有者又は積載人のフォート。
5. 物に固有の瑕疵又は損耗。
6. 運送の過程における生命又は財物の救助の行為又は試み、若しくは、そのための航路変更。
第 2073 条 積載人は、自身又は被用者のフォートがない限り、運送人に生じた損害や、船舶に生じた損害について責任を負わない。
第 2074 条① 運送人は、政府規則により定められる額を限度として、運送対象の物の滅失について責任を負う。しかしながら、運送人は、規則により定められる額よりも大きい限りにおいて、積載人と異なる額の賠償を合意することができる。
② 運送人は、運送人の側に詐欺があった場合、又は、物の性質及び価値が積載前に積載人により申告されており、この申告が貨物証券に付属させられた場合には、規則により定められる額を越えて、責任を負いうる。そのような申告は、運送人の側での反対の証明がない限り、運送人との関係で、証明の効力を有する。
第 2075 条 運送人は、海難、又は、運送人が船舶を航海可能な状態に置くのを懈怠したことによる物の滅失について、いかなる傭船料も負わない。
第 2076 条① 運送人は、その積載について性質及び特質を知っていたならば同意しなかったであろう危険な物を、降し、破壊し、又は無害な状態にすることができる。
② これらの物の積載人は、その積載により生じる損害、及び、これらの物を破棄するために、若しくは無害な状態にするために、運送人に要した費用について、責任を負う。
第 2077 条 危険な物が運送人の認識のもと運送人の同意を伴って積載され、航海又は積荷にとって危険となった場合でも、運送人はその物を卸、破壊し、又は無害な状態にすることができる。この場合、運送人は責任を負わず、必要であれば、共同海損 avaries communesとなる。
第 2078 条 不可抗力により、運送を行うべきであった船舶の出航が妨げられ、または遅延し、運送がもはや、積載人にとって有益なように、また、運送人に対して責任を負うリスクなく行うことができない場合には、契約は解除され、どちらの側からの損害賠償も生じない。
第 2079 条 運送契約を根拠とする、運送人、積載人、又は受取人に対するいかなる訴権も、物の引渡し時から、又は、全部滅失の場合には、物が引渡されるべきであった日から 1 年で、時効消滅する。
§3 貨物取扱場
第 2080 条① 貨物取扱場の事業者は、物の積載及び陸揚げに関する一切の作業を行う責任を負う。そのために必要な前提作業及び後続作業も含む。
② 貨物取扱場の事業者は、その活動において、寄託者により申告されたのと同様の物を受領したものとみなされる。
第 2081 条 貨物取扱場の事業者は、その役務を要請した者の計算で行為し、その責任は、事業者に対して自身で訴権を有する者との関係でのみ課される。
第 2082 条① 貨物取扱場の事業者は、場合によっては、運送人、積載人、又は受取人の計算で、積載されるべき物の受領及び陸上認識、及び、積載までのそれらの保管を行うよう求められうる。同様に、陸揚げされたものの受領及び陸上認識、及び、それらの保管及び引渡しを行うよう求められうる。
② これらの補充的役務は、合意された場合、又は、港の慣習に適合する場合に、負わされる。
第 2083 条① 貨物取扱場の事業者は、運送人と同様の理由により、物の滅失についての責任から解放されうる。しかしながら、原告は、これらの場合、滅失は事業者又はその被用者のフォートによることを証明することができる。
② 貨物取扱場の事業者は、いかなる場合においても、政府規則が定める額を超えて義務を負いえない。ただし、事業者に詐欺があった場合、又は、物の価値の申告が事業者に通知されていた場合には、この限りでない。
第 2084 条 貨物取扱場の事業者の責任を免除すること、事業者に課される証明負担を転換すること、規則が定める額よりも低い額に責任を制限すること、又は、物の保険の利益を事業者に譲渡することを目的又は効果とするあらゆる条項は、積載人及び受取人に対して対抗できない。
第 7 節 労働契約
第 2085 条 労働契約とは、ある者(労働者)が、限られた期間、報酬と引換えに、他の者
(雇用者)の指揮又は統御のもと労働を行うことを約する契約である。
第 2086 条 労働契約は、特定の期間又は不特定の期間について、行われる。
第 2087 条 雇用者は、約定された労務の提供の履行を可能にし、定められた報酬を支払う義務を負うほか、労働者の健康、安全及び尊厳を保護するために、労務の性質に適した措
置を講じなければならない。
第 2088 条① 労働者は、用心深さ(prudence)及び注意(diligence)をもって労務を遂行する義務を負うほか、xxさをもって行為し、労務の遂行又は労務の際に獲得した秘密の情報を用いないようにしなければならない。
② これらの義務は、契約の終了後合理的な期間の間存続し、情報が他人の評判及び私生活に関わる場合には常に存続する。
第 2089 条① 当事者は、書面又は明示の文言により、契約終了後においても、労働者は雇用者と競争できず、いかなる資格であれ雇用者と競争する企業に参加することもできないことを約定することができる。
② ただし、この約定は、労働の時間、場所及び種類に関し、雇用者の正当な利益を保護するために必要な範囲に限定されたものでなければならない。
③ この約定が有効であることの証明の負担は、雇用者に課せられる。
第 2090 条 労働契約は、期限の到来後、雇用者の側からの異論なく、労働者が 5 日間労務の遂行を継続する場合には、不特定の期間について黙示に延長される。
第 2091 条① 不特定の期間についての契約の各当事者は、他方に対し解約予告期間(délai de congé)を与えることにより、終了させることができる。
② 解約予告期間は、合理的なものでなければならず、特に雇用の性質、雇用が行われる特別な状況及び労務の提供期間を考慮しなければならない。
第 2092 条 労働者は、解約予告期間が不十分である場合、又は解除が濫用的になされる場合において、自己が被る損害の填補について、自己が有する賠償を得る権利を放棄することができない。
第 2093 条① 労働者の死亡は、労働契約を終了させる。
② 雇用者の死亡も、状況に応じて、労働契約を終了させうる。
第 2094 条 一方の当事者は、正当な理由に基づき、一方的にかつ予告なく、労働契約を解除することができる。
第 2095 条 雇用者は、正当な理由なく契約を解除した場合又は自身が労働者にそのような解除の理由を通知した場合には、競業避止の約定を援用することができない。
第 2096 条 契約が終了する場合、雇用者は、それを求める労働者に対し、もっぱら雇用の性質及び期間を記述し当事者の同一性を示す証明書を提供しなければならない。
第 2097 条① 事業の譲渡又は合併その他によるその法的構造の修正は、労働契約を終了させない。
② この契約は、雇用者の承継人を拘束する。
第 8 節 請負契約ないし役務契約第 1 款 契約の性質及び範囲
第 2098 条 請負契約ないし役務契約は、ある者(場合に応じて、請負人又は役務提供者)が、他の者(顧客)に対し、物理的若しくは知的な仕事(ouvrage)を実現し、又は役務(service)を提供することを約し、それと引換えに、顧客がその者に対し代金を支払うことを約する契約である。
第 2099 条 請負人又は役務提供者は、契約の履行の方法につき自由な選択権を有し、その者と顧客との間に、その履行に関するいかなる従属関係(lien de subordination)も存在しない。
第 2100 条① 請負人及び役務提供者は、用心深さ(prudence)及び注意(diligence)をもって、顧客の利益にとって最もよいように行為する義務を負う。また、それらの者は、実現すべき仕事又は提供すべき役務の性質にしたがって、慣習及び自己の技術規則(règles de l’art)に適合的に行為し、場合によって、実現された仕事又は提供された役務が契約に適合することを確認しなければならない。
② それらの者が結果債務を負う場合には、それらの者は、不可抗力を証明することによってしか自己の責任から免れることができない。
第 2 款 当事者の権利及び義務
§1 役務にも仕事にも適用される一般規定
第2101 条 契約がその者の個人的資格を考慮して締結された場合又はそのことが契約の性質自体と両立しない場合を除いて、請負人又は役務提供者は、契約を履行するために第三者を補佐につけることができる。その場合でも、請負人又は役務提供者は、履行の指揮及び責任を保持する。
第 2102 条 請負人又は役務提供者は、契約締結前に、状況が許す限りにおいて、その者が
従事する任務(tâche)の性質並びにその目的に必要な財及び時間に関するあらゆる有用な情報を、顧客に提供する義務を負う。
第 2103 条① 請負人又は役務提供者は、契約の履行に必要な財を提供する。ただし、その者が作業(travail)のみを提供することを両当事者が約定した場合には、この限りでない。
② 請負人又は役務提供者が提供する財は、よい性質のものでなければならない。請負人又は役務提供者は、それらの財に関して、売主と同様の担保責任を負う。
③ 仕事又は役務が、提供される財の価値に比して付随的なものにすぎない場合には、請負契約又は役務契約ではなく、売買契約が存在する。
第 2104 条 財が顧客により提供される場合には、請負人又は役務提供者は、注意してそれを使用し、その使用について報告する義務を負う。その財が目的とされる用途のために明らかに不適切である場合、又は請負人若しくは役務提供者が知るべき明白な瑕疵若しくは隠れた瑕疵を有する場合には、請負人又は役務提供者は、そのことを直ちに顧客に知らせる義務を負う。これを怠った場合には、請負人又は役務提供者は、財の使用により生じうる損害について責任を負う。
第 2105 条 契約の履行に必要な財が不可抗力によって滅失した場合には、その損失は、それらを提供した当事者の負担に帰する。
第 2106 条 仕事又は役務の代金は、契約、慣習若しくは法律により、又は行われた作業若しくは与えられた役務の価値にしたがって、定められる。
第 2107 条① 契約の締結の際に、作業又は役務の代金が見積もりの対象となる場合には、請負人又は役務提供者は、あらゆる代金の増加を正当化しなければならない。
② 顧客は、契約締結の時点において請負人又は役務提供者により予見できなかった作業、役務又は支出から生じたものである場合に限り、この増加について支払う義務を負う。
第 2108 条 代金が、行われた作業、与えられた役務又は提供された財に応じて決定される場合には、請負人又は役務提供者は、顧客の請求にしたがって、作業の進捗状況、すでに与えられた役務及びすでに行われた支出について、顧客に報告する義務を負う。
第 2109 条① 契約が一括取引(à forfait)である場合には、顧客は約定された代金を支払わなければならず、仕事又は役務が約定されたものよりも少ない仕事又は安価な費用で済んだことを援用して、代金の減額を主張することはできない。
② 同様に、請負人又は役務提供者は、反対の理由による代金の増加を主張することはで
きない。
③ 当初約定された履行条件に対して修正が加えられたとしても、一括代金は変わらない。ただし、当事者が別の旨を合意した場合には、この限りでない。
§2 仕事に特有の規定
Ⅰ 一般規定
第 2110 条① 顧客は、作業の終了時に、仕事を受領する義務を負う。作業は、仕事が履行され、目的の用途に適合的に使うことが可能な時に、終了する。
② 仕事の受領は、顧客が、留保付き又は留保なしにそれを承諾することを宣言する行為である。
第 2111 条① 顧客は、仕事の受領前には、代金を支払う義務を負わない。
② 顧客は、支払いの際に、修繕又は修正が仕事に対してなされるまで、仕事の受領の際に存在する明らかな瑕疵又は欠陥に関してなされた留保を満足するのに十分な金額が支払われるまで、代金を支払わないでおくことができる。
③ 請負人が自己の義務の履行を保証する十分な担保を提供する場合には、顧客はこの権利を行使することができない。
第2112 条 両当事者が引き止めるべき金額及び補完されるべき作業について一致しない場合には、当事者が指定する鑑定人、又はそれが存在しない場合には裁判所が指定する鑑定人により、評価がなされる。
第 2113 条 留保なしに承諾する顧客は、その場合でも、明らかでない瑕疵又は欠陥の場合には、請負人に対して求償を保持する。
第 2114 条 仕事が継続的な段階を経て履行される場合には、仕事は部分ごとに受領されうる。各段階に属する代金は、当該部分の引渡し及び受領の時点において支払われなければならず、支払いはそれがこのように受領されたことを推定させる。ただし、支払われる金額が代金の単なる内金とみなされるべき場合は、この限りでない。
第 2115 条① 請負人は、引渡し前に生じる仕事の滅失について義務を負う。ただし、それが顧客のフォートによる場合、または顧客が仕事の受領を遅滞している場合は、この限りでない。
② しかしながら、財が顧客により提供される場合には、請負人は、仕事の滅失について義務を負わない。ただし、滅失が請負人のフォート又は請負人の側のその他の違反による
場合には、この限りでない。請負人は、仕事の滅失が、提供された財の固有の瑕疵若しくは発見できなかった財の瑕疵から生じる場合、又は滅失が顧客のフォートによる場合に限り、作業の代金を請求することができる。
第 2116 条 当事者間の求償の時効は、仕事の受領の際に留保の対象となったものであっても、作業の終了時からのみ、進行を開始する。
Ⅱ 不動産に関する仕事
第 2117 条 顧客は、不動産の建築又は改修のいつの時点においても、作業の進行を阻害しない方法で、進捗状況、使用される材料の品質及び行われる作業の品質、並びに行われる支出の状況について検査することができる。
第 2118 条 請負人、場合によって作業を指揮又は監視した建築士及び技師、並びに請負人が行った作業についての下請人は、自己の責任を免れることができる場合を除いて、滅失が仕事の設計、建築若しくは実行の瑕疵、又は土地の瑕疵から生じたか否かに関わらず、作業の終了後 5 年の間に生じる仕事の滅失について連帯して責任を負う。
第 2119 条① 建築士又は技師は、仕事の瑕疵又は自分が行った部分の瑕疵が、自分が提供しえた鑑定又は計画における過誤又は欠陥から生じたものでも、作業の指揮又は監視における違反から生じたものでもないことを証明した場合に限り、責任を免れる。
② 請負人は、これらの瑕疵が、顧客により選任された建築士又は技師の鑑定又は計画における過誤又は欠陥から生じたことを証明した場合に限り、責任を免れる。下請人は、これらの瑕疵が、請負人の決定又は建築士若しくは技師の鑑定若しくは計画から生じたことを証明した場合に限り、責任を免れる。
③ また、それぞれの者は、これらの瑕疵が、土地若しくは材料の選択、又は下請人、専門家若しくは建築方法の選択において顧客が強制した決定から生じたことを証明した場合には、責任を免れる。
第 2120 条 請負人、場合によって作業を指揮又は監視した建築士及び技師、並びに請負人が行った作業についての下請人は、共同で、受領時に存在する欠陥又は受領後 1 年の間に発見された欠陥に関し、1 年の間、仕事についての担保責任を負う。
第 2121 条 作業を指揮又は監視しない建築士及び技師は、それらの者が提供した計画又は鑑定における欠陥又は過誤から生じる滅失についてのみ、責任を負う。
第 2122 条 請負人は、合意において約定されている場合には、作業の期間の間、行われた作業及び仕事の実行に必要な材料の価値について、契約代金の内金を求めることができる。請負人は、前もって、これらの材料を提供した下請人及びこれらの作業に参加したその他の物に対して支払われる金額、及び作業を終了させるために請負人がその者に対して負う金額の計算書を提供する義務を負う。
第 2123 条① 顧客は、支払いの際に、工員の債権、及び、不動産の仕事に対し法律上の抵当権を援用することができ、かつ取消後に行った作業又は提供した材料若しくは役務について請負人との間で契約を取消したその他の者の債権を満足させるのに必要な金額が支払われるまで、契約代金を支払わないでおくことができる。
② この保留は、請負人が顧客に対してこれらの債権の支払済証書を交付しなかった限りにおいて、有効である。
③ 顧客は、請負人がこれらの債権を補償する十分な担保を提供する場合には、この権利を行使することができない。
第 2124 条 本節の規定の適用にあたっては、自分が建築した又は建築させた仕事を完成後か否かに関わらず売却する不動産開発者は、請負人と同視される。
第 3 款 契約の解除
第 2125 条 顧客は、仕事の実現又は役務の提供がすでに開始された場合であっても、一方的に契約を解除できる。
第 2126 条① 請負人又は役務提供者は、正当な理由によってでなければ一方的に契約を解除することができず、正当な理由がある場合でも、不利な時期に(à contretemps)解除することはできない。これに違反した場合には、その者は当該解除によって顧客に生じた損害を賠償する義務を負う。
② 契約を解除した場合、その者は、損失を防止するために直ちに必要なすべての事柄を行う義務を負う。
第 2127 条 顧客の死亡は、そのことにより契約の履行が不可能または無用なものとなる場合にのみ、契約を終了させる。
第2128 条 請負人又は役務提供者の死亡又は不適格(inaptitude)は、契約を終了させない。ただし、契約がその者の個人的資格を考慮して締結された場合、又はその者を活動において引継ぐ者によっては契約が適切に継続されえない場合には、顧客は契約を解除できる。
第 2129 条① 顧客は、契約の解除の際、約定代金に応じて、現実の費用及び支出、契約終了前又は解除通知前に行われた作業の価値、及び、必要に応じて、提供された財が返還可能であり、顧客がそれらを使用することができる場合には、提供された財の価値を、請負人又は役務提供者に対して、支払う義務を負う。
② それに対し、請負人又は役務提供者は、自分が獲得したものを越えて受領した前払金を返還する義務を負う。
③ いずれの場合においても、各当事者は、他方当事者が被りうるあらゆるその他の損害について義務を負う
第 9 節 委任
第 1 款 委任の性質及び範囲
第 2130 条① 委任とは、ある者(委任者)が他の者(受任者)に対し、第三者と法律行為を行うことを代理する権限を与え、受任者は承諾によりそれを遂行することを約する契約である。
② この権限、及び、場合によってそれを確認する書面は、procuration とも呼ばれる。
第 2131 条 委任は、自分自身の世話(prendre soin de lui-même)又は自己の財産の管理についての委任者の不適格に備えて、その者の人格(personne)の保護、その者の財産の全部又は一部の管理、及び、一般的に、その者の精神的及び物理的満足を保障するための行為を目的とすることができる。
第 2132 条 委任の承諾は明示又は黙示のものとする。委任の承諾は、それが証書から導かれる場合には、黙示であり、受任者の沈黙から導かれる場合であってもよい。
第 2133 条 委任は無償又は有償でなされる。二人の自然人の間で締結される委任は無償であると推定されるが、職業的な委任は有償であると推定される。
第 2134 条 報酬は、その必要があれば、契約、慣習若しくは法律、又は与えられる役務の価値に従って決定される。
第 2135 条① 委任は、あるいは特定の事務についての特別なものであり、あるいは委任者の全ての事務についての一般的なものである。
② 一般的用語において理解される委任は、単なる管理行為を締結する権限のみを与える。委任は、単なる管理行為以外の行為を締結する権限を与える場合には、明示のものでなけ
ればならない。ただし、不適格に備えてなされる委任に関して、委任が完全な管理を与える場合は、この限りでない。
第 2136 条 受任者の権限は、委任において示されるもののみならず、そこから導きうるあらゆるものに及ぶ。受任者は、これらの権限から生じ、かつ委任の履行に必要なあらゆる行為を行うことができる。
第 2137 条 ある者に対し、その者が行使する職業又は職務と無関係ではないが、その性質から導かれる行為を行うことについて与える権限は、明示的に言及される必要がない。
第 2 款 当事者間での当事者の義務
§1 委任者に対する受任者の義務
第 2138 条① 受任者は、自己が承諾した委任を遂行する義務を負い、その委任の履行においては、用心深さ(prudence)と注意(diligence)をもって行為しなければならない。
② また、受任者は、委任者の最良の利益において、誠実さとxxさをもって行為しなければならず、自己の個人的利益と委任者の利益が衝突する状況に身を置くことを避けなければならない。
第 2139 条① 受任者は、委任の過程において、委任者の請求に応じて、又は状況がそれを正当化する場合には、委任の履行の状況を委任者に対して通知する義務を負う。
② 受任者は、遅滞なく、委任を遂行した旨を、委任者に対して知らせなければならない。
第 2140 条① 受任者は、自身で委任を遂行する義務を負う。ただし、委任者が受任者に対し、委任の全部又は一部を履行するために他の者に代わることを許可した場合には、この限りでない。
②しかしながら、受任者は、予期せぬ状況により委任の遂行が妨げられ、かつ適宜に委任者に対してそのことを知らせることができない場合において、委任者の利益がそれを要請するときは、第三者に代わらせることができる。
第 2141 条① 受任者は、それが許可されていない場合には、あたかも自分自身が遂行したかのように、代わられた者の行為について責任を負う。受任者が何らかの者に代わられることを許可された場合は、代わりの者を選任した際の注意及び代わりの者に指示した際の注意についてのみ、責任を負う。
② いずれの場合においても、委任者は、受任者が代わった者に対して直接訴権を有する。
第 2142 条① 受任者は、委任の履行において、他の者により補助されることができ、その目的のために、その者に権限を委譲することができる。ただし、委任者又は慣習によりそれが禁止される場合は、この限りでない。
② 受任者は、委任者との関係では、受任者を補助した者により遂行された行為について、依然として義務を負う。
第 2143 条① 同一の行為につき、利益が衝突する又はその可能性のある当事者を代理することを承諾する受任者は、各委任者に対し、そのことを通知しなければならない。ただし、慣習、又は二重の委任についてのそれらの者の認識により、それが免除される場合は、この限りでない。また、受任者は、各委任者との関係で、xxに行為しなければならない。
② 二重の委任を認識することができなかった委任者は、そのことにより損害を被った場合には、受任者の行為の無効を請求することができる。
第 2144 条① 複数の受任者が一緒に同一の事務について指名された場合には、委任は、全員により承諾された場合にのみ、効力を有する。
② それらの受任者は、委任が対象とするすべての行為について、共同で行為しなければならない。ただし、反対の約定がある場合、又はそれが委任から黙示に生じる場合には、この限りでない。それらの受任者は、自己の義務の履行について、連帯して責任を負う。
第 2145 条 他人とともに行使することを課せられた権限を単独で行使する受任者は、権限を踰越する。ただし、受任者が、委任者にとって約定されたよりも有利な方法で権限を行使した場合には、この限りでない。
第 2146 条① 受任者は、委任の履行において獲得した情報又は受領もしくは管理することが課せられた物を、自己のために使用することはできない。ただし、委任者がそれについて同意し、又は使用が法律又は委任から生じるものである場合には、この限りでない。
② 受任者は、被った損害について義務を負いうる補償のほか、許可なく物又は情報を使用した場合には、それが情報であるときには受任者が獲得する利得と同等の金額を、それが物であるときには適切な賃料又は使用した金額に対する利息を支払うことにより、委任者に対して賠償しなければならない。
第 2147 条① 受任者は、介在者によってであっても、委任者のために締結することを承諾した行為について当事者になることができない。ただし、委任者がそれを許可する場合、又は委任者が契約相手方の資格を知っている場合には、この限りでない。
② 委任者のみが、この規律の違反により生じる無効を援用できる。
第 2148 条 委任が無償でなされる場合には、裁判所は、受任者の責任の範囲を評価する際に、受任者が負う損害賠償額を減じることができる。
§2 受任者に対する委任者の義務
第 2149 条 委任者は、委任の遂行を容易にするように、受任者に協力する義務を負う。
第 2150 条 委任者は、求められた場合には、受任者に対し、委任の履行に必要な金額を前払いする。委任者は受任者に対し、受任者が支出した合理的な費用を償還し、受任者が権利を有するところの報酬を支払う。
第 2151 条 委任者は、費用が支払われた日から、委任の履行において受任者が支出した費用について利息を負う。
第 2152 条① 委任者は、受任者が第三者と委任の限度内で締結した義務から、受任者を免れさせる義務を負う。
② 委任者は、委任の限度を超える行為について、受任者に対して義務を負わない。しかし、委任者の義務は、委任者が行為を追認する場合、又は受任者が行為の時点で委任の目的を知らなかった場合には、完全である。
第 2153 条 委任者は、委任の限度を超える行為が、委任者により示された方法よりも委任者に有利なように遂行された場合は、その行為を追認したものとみなされる。
第 2154 条 委任者は、いかなるフォートも犯さなかった受任者に対し、受任者が委任の履行を理由として被った損害について、賠償する義務を負う。
第 2155 条 いかなるフォートも受任者に帰せしめられない場合には、受任者に対して支払われるべき金額は、事務が成功しなかった場合でも、支払われなければならない。
第 2156 条 委任が復xxによってなされた場合には、受任者に対するそれらの者の義務は連帯である。
第 3 款 第三者に対する当事者の義務
§1 第三者に対する受任者の義務
第 2157 条① 委任の範囲内で、委任者の名及び利益において義務を負う受任者は、自身が
締結する第三者に対して個人的に義務を負わない。
② 受任者は、自己の名で行為する場合には、第三者に対して義務を負う。ただし、場合によって、第三者の委任者に対する権利は妨げられない。
第2158 条 権限を踰越する受任者は、自身が締結する第三者に対して個人的に義務を負う。ただし、第三者が委任について十分認識していた場合、又は受任者が遂行した行為について委任者が追認する場合には、この限りでない。
第 2159 条① 受任者は、定められた期間内に委任者の同一性を明らかにすることを第三者との間で合意し、かつそれを怠る場合には、個人的に義務を負う。
② また、受任者は、委任者の名について沈黙する義務を負う場合、又は自身が申告する者が支払不能であること、未xx者であること又は無能力者保護制度のもとにおかれていることを知っており、かつそのことについての言及を怠る場合にも、個人的に義務を負う。
§2 第三者に対する委任者の義務
第 2160 条① 委任者は、合意又は慣習により受任者のみが義務を負う場合を除き、委任の履行においてその範囲内で受任者が遂行した行為について、第三者に対し義務を負う。
② また、委任者は、委任の範囲を超えかつ委任者が追認した行為について、義務を負う。
第 2161 条 委任者は、受任者が委任者の許可なく代わられた場合、又は委任者の利益や状況が交代を正当化しないのに代わられた場合において、それにより損害を被るときは、受任者に代わる者の行為を放棄することができる。
第 2162 条 委任者又は委任者が死亡した場合の相続人は、委任の終了後に委任の履行においてその範囲内で受任者が遂行した行為について、これらの行為がすでになされた行為の必然的帰結であった場合、これらの行為が損失の危険なく延期しえなかった場合、又は委任の終了について第三者が知らないままであった場合には、第三者に対し義務を負う。
第 2163 条 ある者が自身の受任者であると信じさせた者は、あたかも委任があったかのように、受任者と善意で締結した第三者に対し、義務を負う。ただし、その者が、そのことを予見できるような状況において過誤を予防するために適切な措置を講じていた場合は、この限りでない。
第 2164 条 委任者は、委任の履行における受任者のxxxxにより引き起こされた損害について、責任を負う。ただし、受任者が委任者の被用者でない場合において、委任者が損
害を防ぐことができなかったことを委任者が証明するときは、この限りでない。
第 2165 条① 委任者が、第三者に対して委任者が同意した委任を明らかにした後、自己の名で行為した受任者との関係で第三者が締結した義務の履行について、直接に第三者に求めることができる。ただし、第三者は委任者に対し、自身の契約の約定又は性質が委任と両立しないこと、並びに、委任者及び受任者に対してそれぞれ対抗できる抗弁を、委任者に対して対抗することができる。
② すでに受任者により第三者に対して訴権が行使されている場合には、委任者の権利は、訴訟手続への介入によってのみ行使されることができる。
第 4 款 委任者の不適格に備えてなされる委任に特有の規律
第2166 条① 自分自身の世話又は自己の財産の管理についての不適格に備えてxx者が与える委任は、原本による公証人証書により、又は証人の面前で、なされる。
② この委任の履行は、証書において指定された受任者の請求により、不適格の事後的到来及び裁判所による承認に服する。
第 2167 条① 証人の面前における委任は、委任者又は第三者により書面が作成される。
② 委任者は、証書について利害を有さず、かつ委任者の行為能力を確認することができる二人の証人の立会いのもと、証書の性質を宣言するが、その内容を明らかにする義務を負わない。委任者は、終了後に署名するか、すでに署名している場合には署名を承認する。また、委任者は、第三者の立会いのもと第三者の指示に従って、当該第三者に署名させることができる。証人は直ちに、委任者の立会いのもと委任に署名する。
第 2167.1 条(2002, c.19)① 裁判所は、委任の承認の手続において、又は承認の請求が切迫 したものであり委任者に重大な損害を回避させるために行為する理由がある場合にはその 前においてでも、委任者の人格の保護、民事上の権利の行使におけるその者の代理又はそ の者の財産の管理を保障するために必要と思量されるあらゆる命令を発することができる。
② 委任者がすでに他の者に自己の財産の管理を負担させた証書は、手続にもかかわらず、効力を有し続ける。ただし、正当な理由に基づき、この証書が裁判所により撤回される場合は、この限りでない。
第 2168 条① 委任の範囲に疑いがある場合には、受任者はxx後見に関する規律にしたがってそれを解釈する。
② このとき、他人の財産の管理に関する規律の適用に際して、意見、同意又は許可が必要な場合には、受任者は公的保佐人(curateur public)又は裁判所から、それらを得ることが
できる。
第2169 条① 委任が当該の者の世話又はその者の財産の管理を完全に保障することを認めない場合には、無能力者保護制度(régime de protection)がそれを補完するために設定されうる。この場合、受任者は、委任の履行を継続し、請求に応じて少なくとも 1 年に 1 回、後見人又は保佐人に対して報告し、委任の終了時にはそれらの者に報告する。
② 受任者は、当該の者の後見人又は保佐人に対してのみ、これらの義務を負う。受任者が自分自身で当該の者の世話を保障する場合には、財産についての後見人又は保佐人は、受任者に対して同様の義務を負う。
第 2170 条 委任の承認の前に作成される証書は取り消されることができる。又は、そこから生じる義務は、証書が締結された時において不適格が周知の事柄であったこと又は契約相手方に知られていたことの証明のみによって、減じられることができる。
第 2171 条 委任における反対の約定がない限り、受任者は、第 2150 条ないし第 2152 条
及び第 2154 条が規定する委任者の義務を自己のために履行することが許可される。
第 2172 条 委任者が再び適格者となったことを裁判所が確認した場合、委任は効力を停止する。この場合、委任者は、それが適当であると判断する場合には、委任を撤回することができる。
第2173 条① 委任者に対し世話を行い又は役務を提供した保健施設又は福祉サービスの局長は、委任者が再び適格者となったことを確認した場合、裁判所書記課に提出する報告書において適格性を証明しなければならない。
② 書記官はこの交付を、受任者、委任者及び無能力者保護制度の開始の請求を行う資格を有する者に通知する。30 日以内に異議がない場合には、裁判所による委任者の適格性の確認が推定され、書記官は、遅滞なく、委任者、受任者及び公的保佐人に対し、委任の効果の停止の通知を発しなければならない。
第 2174 条 受任者は、あらゆる反対の約定に関わらず、委任がそれを必要とする場合には前もって代わりの者を提供することなく、又は委任者に関する無能力者保護制度の開始を請求することなく、委任を放棄することができない。
第 5 款 委任の終了
第 2175 条① 債権債務の共通の消滅原因のほか、委任は、委任者による撤回、受任者によ
る放棄若しくは受任者に与えられた権限の消滅、又は当事者の一人の死亡により終了する。
② また、委任は、ある者の不適格に備えて無償でなされる委任の場合を除いて、倒産により終了する。同様に、委任は、一定の場合においては、当事者の一人についての無能力者保護制度の開始により終了する。
第 2176 条① 委任者は、委任を撤回でき、委任の終了を記載するために、委任状の引渡しを受任者に義務付けることができる。受任者は、委任者がこの記載を含む委任状の謄本を提供することを、委任者に対して求める権利を有する。
② 委任状がxxで公証人証書によって作成された場合には、委任者は、謄本に当該記載を行い、xxの受寄者に対し委任の終了を通知することができる。xxの受寄者は、xx及び委任者が引渡すあらゆる謄本に記載を行う義務を負う。
第 2177 条 公的保佐人(curateur public)を含むあらゆる利害関係人は、委任者が不適格である場合において、委任がxxに履行されず、又は他の重大な理由により履行されないときには、裁判所に対し、委任を撤回し、受任者の会計報告の提出を命じ、かつ委任者についての無能力者保護制度を開始することを請求できる。
第 2178 条① 受任者は、委任者に対し放棄を通知することにより、自己が承諾した委任を放棄することができる。この場合において、受任者は、委任が有償でなされたときには、放棄の日まで獲得した報酬に対する権利を有する。
② ただし、受任者は、正当な理由なく不利な時期になされた放棄により委任者が被った損害を賠償する義務を負う。
第 2179 条① 委任者は、一定の期間について又は特定の義務の履行を保障するために、委任を一方的に撤回する権利を放棄することができる。
② 同様に、受任者は、自身が有する放棄の権利を行使しないことを約することができる。
③ 場合に応じて、委任者又は受任者により約束したにもかかわらずなされた一方的撤回又は放棄により、委任は終了する。
第 2180 条 同一の事務について委任者が新たな受任者を設定することは、そのことが受任者に通知された日から、第一の受任者の撤回に値する。
第2181 条① 委任を撤回する委任者は、受任者に対して自身の義務を履行する義務を負う。また、委任者は、正当な理由なく不利な時期になされた撤回により受任者が被る損害を賠償する義務を負う。
② 通知が受任者に対してのみなされた場合には、撤回は、この撤回を知らずに受任者と
取引する第三者に影響を及ぼさない。ただし、委任者の受任者に対する求償は妨げられない。
第 2182 条 委任が終了する場合、受任者は、自身の行為の必然的帰結であること又は損失の危険なく延期されえないことを行う義務を負う。
第 2183 条① 受任者の死亡又は受任者に対する無能力者保護制度の開始の場合、委任を知っておりかつ権限を有する清算人、後見人又は保佐人は、委任者に対してそのことを通知し、開始された事務において、損失の危険なく延期されえないあらゆることを行う義務を負う。
② 委任が委任者の不適格に備えてなされた場合、受任者の清算人は、同様の状況のもと、受任者の死亡を公的保佐人に対して通知する義務を負う。
第 2184 条① 受任者は、委任の終了時において、報告を行い、受領したものが委任者に帰すべきでなかったとしても、委任者に対し自己の職務の履行において受領したあらゆるものを引渡す義務を負う。
② 受任者は、受領し、かつ会計の残金を構成する金額の利息を、遅滞の時から負う。
第 2185 条① 受任者は、引渡さなければならない金額から、委任により委任者が受任者に対して負うものを控除する権利を有する。
② また、受任者は、自身に対して支払われるべき金額の支払いまで、委任の履行のために委任者が受任者に与えたものを留置することができる。
第 11 節 寄託
第 1 款 寄託一般
§1 一般規定
第 2280 条① 寄託とは、ある者(寄託者)が他の者(受寄者)に対し動産を引き渡し、受寄者が一定期間その物を保管し返還することを約する契約である。
② 寄託は無償でなされる。ただし、慣習又は約定により定められる場合には、有償でなされうる。
第 2281 条① 物の引渡しは、寄託契約が完全になるために必要不可欠である。
② 受寄者がすでに他の資格により物を占有する場合には、見せかけの引渡し(remise fente)で足りる。
第 2282 条 寄託が未xx者又は無能力者保護制度(régime de protection)のもとにおかれている者に対してなされた場合には、寄託者は、物がこの者の手中に残っている限り、その物を取り戻すことができる。原物による返還が不可能な場合には、寄託者は、物を受領した者が引き出した利得の限度まで、物の価値を要求することができる。
§2 受寄者の義務
第 2283 条 受寄者は、物の保管において、用心深さ(prudence)と注意(diligence)をもって行為しなければならない。受寄者は、寄託者の許可なしには物を使用することができない。
第 2284 条 受寄者は寄託者に対し、寄託者が寄託された物の所有者であることの証明を求めることができない。また、受寄者は、物が返還されなければならない者に対しても、それを求めることができない。
第 2285 条① 受寄者は、返還のために期限が設定されていたとしても、寄託者が求めた場合には直ちに、寄託された物を寄託者に返還しなければならない。
② 受寄者は、寄託を確認し、又は物を占有する者に対し物を取り戻す権利を与える受取証又はその他の証書を発行した場合には、この証書の引渡しを求めることができる。
第 2286 条① 受寄者は、寄託として受領した場合でも、物を返還しなければならない。
② 受寄者は、不可抗力により滅失した物の代わりに何らかのものを受領した場合には、そのようにして受領したものを寄託者に対して返還しなければならない。
第2287 条① 受寄者は、果実及び寄託された物から受取った収入を、返還する義務を負う。
② 受寄者は、返還を遅滞している場合のみ、寄託された金額の利息を負う。
第2288 条 寄託されていたことを知らずに善意で物を売却した受寄者の相続人又はその他の法定代理人は、受領した代金を返還する義務、又は代金がいまだ支払われていなかった場合には買主に自己の権利を譲渡する義務のみを負う。
第 2289 条 寄託が無償の場合、受寄者は、自己のフォートにより生じた寄託された物の滅失について責任を負う。寄託が有償でなされる場合又は寄託が受寄者により求められた場合には、受寄者は、不可抗力を証明しない限り、物の滅失について義務を負う。
第 2290 条 裁判所は、寄託が無償でなされる場合、又は寄託者がその性質又は価値について申告することなく、受寄者が文書、現金又はその他の価値物を寄託として受領した場合
には、受寄者が負う損害賠償を減じることができる。
第 2291 条 物の返還は、物が寄託として引渡された場所においてなされる。ただし、当事者型の場所を約定していた場合には、この限りでない。
第 2292 条① 寄託が無償でなされる場合、返還費用は寄託者が負担する。ただし、受寄者が、寄託者に知らせることなく、返還のために約定した場所とは異なる場所にものを移転した場合には、それが物の保存を確保するためになされたのでない限り、返還費用は受寄者が負担する。
② 寄託が有償でなされる場合、返還費用は受寄者が負担する。
§3 寄託者の義務
第 2293 条① 寄託者は、物の保存のために行われた支出を受寄者に対して償還し、物が受寄者に引き起こしたあらゆる損失を補償し、約定された報酬を受寄者に対して支払う義務を負う。
② 受寄者は、支払いがなされるまで寄託された物を留置する権利を有する。
第 2294 条 寄託者は、期限が受寄者の利益のためにのみ約定された場合には、物の期限前の返還が受寄者に引き起こす損害について、受寄者に対して賠償する義務を負う。
第 2 款 必要的寄託
第 2295 条 ある者が、事故又は不可抗力から生じる予想されていなかった差し迫った必要性により、他人に対して物の保管を委ねる場合、必要的寄託が存在する。
第 2296 条① 受寄者は、物の受領を拒絶することができない。ただし、拒絶することに相当な理由がある場合はこの限りでない。
② 受寄者は、物の滅失について、無償受寄者と同様の責任を負う。
第 2297 条 保健施設又は福祉サービス施設への物の寄託は、必要的寄託と推定される。
第 3 款 ホテル業者の寄託
第 2298 条 公衆に対して宿泊の役務を提供する者(ホテル業者と呼ばれる)は、その者のもとに宿泊する者が持ち込んだ個人の物件及び荷物の滅失について、有償受寄者と同様の
責任を負う。その責任は、掲示された 1 日分の宿泊料の 10 倍、又は、ホテル業者が受託に
同意した物の場合には、その価値の 50 倍を限度とする。
第 2299 条① ホテル業者は、顧客が持ち込む文書、現金及びその他の価値物(bien de valeur)の受託に同意する義務を負う。ホテル業者は、数量又はホテルの経営条件を考慮して、その物が過大な価値を有し、若しくは場所を取ると思われる場合、又はその物が危険である場合にのみ、その物を拒絶することができる。
② ホテル業者は、寄託された物を検査することができ、その物を施錠され又は封印された集積所に置くことを求めることができる。
第 2300 条 ホテル業者が顧客に対し部屋そのものの中の金庫を使用させる場合、ホテル業者は、顧客によりそこに入れられた物の受託に同意したものとみなされる。
第 2301 条① 前条までの規定にかかわらず、ホテル業者の責任は、顧客が持ち込む物の滅失がホテル業者又はホテル業者が責任を負う者の故意のフォート又は重大なフォートにより生じる場合には、無制限である。
② ホテル業者の責任は、ホテル業者が受領義務を負う物の寄託を拒絶した場合、又は、ホテル業者が責任制限を顧客に知らせるための必要な手段を講じなかった場合にも、無制限である。
第 2302 条 ホテル業者は、宿泊料の支払いの担保、並びに、ホテル業者が実際に行った役務及び給付の担保として、顧客がホテルに持ち込む物件及び荷物を留置する権利を有する。ただし、商業的価値を有しない個人的な文書及び物件はこの限りでない。
第 2303 条 ホテル業者は、支払いがなされない場合には、委託されかつ忘れられた物の所持者に関して「物」の編に規定されている規律に従って、留置物を処分することができる。
第 2304 条 ホテル業者は、自己の施設の窓口、広間及び部屋に、読みやすい文字で印刷されたxxの条文を掲示する義務を負う。
第 4 款 係争物寄託
第 2305 条 係争物寄託は、複数の者が係争の対象としている物を、それらの者が選択する他人に預け、預かった者は、紛争が終結した場合に、その物について権利を有する者に対してのみその物を返還する義務を負うという寄託である。
第 2306 条① 係争物寄託は、不動産も動産も対象とすることができる。
② 不動産の寄託は、寄託係争物保管者として行為する任務を負う受寄者に対して、不動産の占有が委付されることによって行われる。
第 2307 条① 当事者は、共通の合意により寄託係争物保管者を選択する。当事者は、この資格で行為する者として自分たちの中の一人を指定することができる。
② 指定されるべき者の選択及びその者の負担の一定の条件について当事者が合意しない場合には、当事者は、裁判所に対して、それらを決定することを請求することができる。
第 2308 条① 寄託係争物保管者は、係争物寄託されている物に関しては、出費及び単純な管理行為以外の行為をすることができない。ただし、反対の約定又は裁判所の許可がある場合は、この限りでない。
② ただし、寄託係争物保管者は、当事者の合意、又は、それがない場合には裁判所の許可により、その価値に比して保管又は維持に不相当な費用がかかる物を、期間及び手続を要することなく、譲渡することができる。
第 2309 条① 寄託係争物保管者は、紛争が終結した場合、物について権利を有する者に対してその物を返還することにより、任務を終了する。
② 寄託係争物保管者は、全当事者が同意する場合、又は、同意がないときでも十分な理由がある場合にのみ、前もって任務を終了することができる。後者の場合、任務の終了は、裁判所によって許可される。
第 2310 条 寄託係争物保管者は、その管理の終了時に、管理について報告しなければならない。それ以前でも、当事者がそれを求め、又は、裁判所がそれを命令する場合には、同様である。
第 2311 条 係争物寄託は、司法機関により設定されることができる。この場合、係争物寄託は、民事訴訟法典の規定、及び、不適切でない限り、本節の規律に服する。
第 14 節 定期金
第 1 款 契約の性質及びそれを規律する規定の射程
第 2367 条① 定期金を設定する契約は、ある者(定期金債務者)が、無償で、又は、自己のためになされる資本(capital)の譲渡と引換えに、定期に、かつ、一定期間の間、他の者(定期金債権者)に対して、定期金(redevances)を給付することを約する契約である。
② 資本は不動産又は動産により構成されうる。それが金額である場合には、現金で、又
は、払い込みにより、支払われることができる。
第2368 条 定期金債務者が自己のためにする不動産所有権の移転と引換えに定期金給付を約する場合、当該契約は不動産定期金契約(bail à rente)と呼ばれ、これと類似する売買契約の規定により規律される。
第 2369 条① 定期金は、定期金の資本を供する者以外の者のために設定されることができる。
② この場合、当該契約は、そのように設定された定期金が定期金債権者により無償で受領されるとしても、贈与に要求される形式に全く服さない。
第 2370 条① 定期金は、契約により設定されることができるほか、遺言、判決、又は法律によっても設定されることができる。
② 本節の規定はこれらの定期金にも適用される。ただし、必要に応じて調整がなされる。
第 2 款 契約の範囲
第 2371 条① 定期金は、終身又は非終身でありうる。
② 定期金は、給付の期間が、一人又は複数の者の生存の期間に制限されている場合には、終身である。
③ 定期金は、給付の期間が別様に定められている場合には、非終身である。
第 2372 条① 終身定期金は、それを設定する者若しくはそれを受領する者の生存の期間の間、又は、この定期金を享受するいかなる権利も有しない第三者の生存の期間の間について、定められうる。
② しかしながら、その者との関連で給付期間が定められた者の死亡後も、場合に応じて、特定の者又は定期金債権者の相続人のために、定期金が継続する旨が約定されうる。
第 2373 条① 定期金債務者が定期金の給付を開始すべき時点において死亡している者、又は、当該時点から 30 日以内に死亡した者の生存の期間の間について定められた終身定期金は、効力を有しない。
② 同様に、定期金債務者が定期金の給付を開始しなければならない時点においてまだ存在しない者の生存の期間の間について定められた終身定期金は、効力を有しない。ただし、その者がその時点で懐胎されており、生きてかつ生育力をもって(vivant et viable)生まれた場合には、この限りでない。
第 2374 条① 複数人の生存の期間の間について連続的に定められた終身定期金は、定期金債務者が定期金の給付を開始しなければならない時点において第一の受給権者が存在する場合、又は、その時点で懐胎されており、生きてかつ生育力をもって生まれた場合のみ、効力を有する。
② このような終身定期金は、対象の者が死亡した場合、又は、その者が生きてかつ生育力をもって生まれなかった場合には、終了する。定期金の設定から 100 年を経過した場合も同様である。
第 2375 条 返済能力のない相手への貸借(prêt à fonds perdu)は、貸主のための、貸主の生存の期間についての終身定期金とみなされる。
第 2376 条 あらゆる定期金の期間は、終身であれ非終身であれ、あらゆる場合について、定期金の設定から 100 年に制限又は縮減される。契約がそれより長い期間を定めている場合又は連続的な定期金を設定する場合も、同様である。
第 3 款 契約のいくつかの効果
第 2377 条 定期金は、定期金債権者がそれを無償で受領する場合のみ、差押え不可能又は譲渡不可能である旨が約定されうる。その場合でも、定期金債権者にとって扶養料として必要な定期金の額の限度でのみ、その約定は効力を有する。
第 2378 条① 定期金給付のために蓄積された資本は、定期金が定期金債権者及び定期金債権者に代位する者に給付されるべき場合には、この資本が定期金の給付に割り当てられたままである限りにおいて、差押え不可能である。
② ただし、差押債権者、定期金債務者及び定期金債権者の評価に基づいて、又は、それらの者が一致しない場合には裁判所の評価に基づいて、契約に定められた期間の間、定期金債権者の扶養料の必要性を満足させる定期金を給付するのに必要であろう[と判断される]資本の部分についてのみ、資本は差押え不可能である。
第 2379 条① 定期金の資本を提供した者以外の定期金債権者の指定又は取消しは、第三者のためにする契約の規定により規律される。
② ただし、保険者により又は退職制度の枠組みにおいてなされる定期金の定期金債権者の指定又は取消しは、受益者及び代位権利者に関する保険契約の規定により規律される。ただし、必要に応じて調整がなされる。
第 2380 条① 同時に二人又は複数の定期金債権者のために設定される終身定期金は、それ
らの者のうち一人が死亡した場合には、生存している定期金債権者に譲渡される旨を約定することができる。
② 同様に、夫婦のために設定された終身定期金は、夫婦のうち一人が死亡した場合に、生存している者に譲渡されるものと推定される。
第 2381 条① 終身定期金は、その者との関連で定期金の給付期間が定められた者が生存した日数に応じてのみ、定期金債権者に対して支払われなければならず、定期金債権者は、この者の生存を証明した場合のみ定期金の支払いを請求することができる。
② ただし、定期金が前もって支払われる旨が約定されていた場合、支払われるべきであった定期金は、その支払いがなされるべきであった日より獲得される。
第 2382 条 定期金(redevance)は、予定された各期間の終了時に支払われる。この期間は、 1 年を超えることができない。定期金は、定期金債務者が定期金給付を開始すべき日から計算される。
第 2383 条 定期金債務者は、資本による定期金の価値の償還を申し出、支払われた定期金の返還を放棄することによっては、定期金給付から免れることはできない。定期金債務者は、契約で予定された全期間の間、定期金を給付する義務を負う。
第 2384 条① 定期金債務者は、支払うべき定期金の価値を保険者に支払うことによって、保険者に代位される権能を有する。
② 同様に、定期金給付を保証するために担保の負担をかけられた不動産の所有者は、この定期金に結び付けられた担保を、許可された保険者により提供された担保に代えることができる。
③ 定期金債権者は代位に異議を唱えることができない。ただし、定期金債権者は、定期金の購入が他の保険者との関係でなされることを請求し、又は、決定された資本の価値若しくはそこから生じる定期金の価値について異議を唱えることができる。
第2385 条 定期金債務者又は定期金給付を保証するために担保の負担をかけられた不動産の所有者は、代位により、必要な資本を支払ったときから、解放される。代位により、保険者は定期金債権者に対して義務付けられ、場合により、定期金給付を担保する抵当権の消滅がもたらされる。
第 2386 条① 定期金債権者は、定期金の支払いの欠如のみを理由としては、定期金を設定するために譲渡された資本の返還を請求することができない。定期金債権者は、定期金の支払いの欠如の場合には、支払われるべきものの支払いを求めることができるほかは、定
期金債務者の財産を差押え売却し、売却の産出物 produit から定期金給付に十分な金額を使用することを同意させ若しくは命じ、又は、定期金債務者が許可された保険者に交代されることを請求することができるのみである。
② ただし、定期金債務者が支払不能となった場合、破産を宣告された場合、又は自己の所為により定期金債権者の同意なしに、定期金給付を保証するために同意した担保を減じた場合には、定期金債権者は資本の返還を請求することができる。
第2387 条① 定期金給付が強制売却の対象となるべき物についての抵当権によって担保されている場合には、定期金債権者は、定期金の負担付きで売却が実現されることを求めることができない。ただし、定期金債権者は、その抵当権が第一順位である場合には、定期金の給付が継続するのに十分な保証人を債権者が提供することを求めることができる。
② 保証人が提供されない場合には、定期金債権者は、その順位に応じて、債権の弁済順序を定める手続(collocation) の日又は分配(distribution) の日から、定期金の資本価値 (valeur de la rente en capital)を受領する権利を獲得する。
第 2388 条 定期金の資本価値は、常に、許可された保険者から同価値の定期金を取得するのに十分な金額に等しいものと推定される。
第 16 節 競技及び賭事
第 2629 条① 競技契約及び賭事契約は、法律により明示的に許可される場合には有効である。
② 競技契約及び賭事契約は、当事者の技巧のみ又は当事者の身体の運動に係る適法な運動及び競技に関するものである場合にも、有効である。ただし、状況並びに当事者の状態及び能力を考慮して、競技の金額が過大である場合には、この限りでない。
第 2630 条① 競技及び賭事が明示的に許可されていない場合には、その勝者は債務の弁済を求めることができず、敗者は支払った金額を取り戻すことができない。
② ただし、詐欺若しくは欺瞞がなされた場合、又は、敗者が未xx者、保護されるxx者若しくは判断力を欠くxx者である場合には、返還がなされる。
第 18 節 仲裁の合意
第 2638 条 仲裁の合意は、当事者が、裁判所を排除して、一人又は複数の仲裁人の決定に、すでに生じた又はこれから生じうる紛争を委ねることを約束する契約である。
第 2639 条① 人の状況及び能力に関する紛争、家事に関する紛争、又は公序にかかわるその他の問題に関する紛争は、仲裁に委ねられることができない。
② ただし、紛争を解決するために適用可能な規律が公序の性質を有するというという理由によっては、仲裁の合意は妨げられない。
第 2640 条 仲裁の合意は、書面によって確認されなければならない。仲裁の合意の存在を証明する通知の交換において、又は、仲裁の合意の存在が一方当事者により主張され他方当事者がそれを争わないような訴訟手続文書の交換において、仲裁の合意が記録されている場合には、書面によって確認されたものとみなされる。
第2641 条 一方当事者に仲裁人の指定に関して特権的な地位を与える約定は、無効である。
第 2642 条 契約に含まれる仲裁の合意は、当該契約の他の条項とは区別される合意とみなされ、仲裁人による当該契約の無効の確認によって仲裁の合意は無効とされない。
第 2643 条 違反できない法律の規定を除いては、仲裁の手続は、契約によって、又は契約がない場合には民事訴訟法典によって、規律される。
(xxxx)