Contract
新連携規約・契約ガイドブック
平成18年3月
x x 企 業 庁
Ⅰ.新連携における規約・契約
1.はじめに
中小企業が中小企業等経営強化法(旧:中小企業新事業活動促進法)の「異分野連携新事業分野開拓計画(新連携計画)」の認定を受けるには、連携体を構築する当事者間で規約を策定し、連携体に参加する者の役割分担、対外的な取引関係における責任体制の在り方等を明確にし、市場から信用される体制を構築することが要件とされている。
本書は、中小企業が、連携体を構築し、事業を運営していくにあたり、必要となり得る規約・契約についての具体例を示すことで、実務の参考に資することを目的としたものである。
よって、実際に規約・契約を作成する場合には、本書に拘束されるものでないのは当然であって、弁護士等法律専門家と相談することも含め、個々の事業内容に即した適切な規約・契約を作成していただきたい。
2.ステージに応じた規約・契約等の締結
新連携においては、関係者間の意思疎通の深まり、協議の進展に応じて合意が形成され、それによって事業が進行することとなるので、事業を進めながら関係者間の合意が形成されていくに応じて、関係者間の権利義務関係を明確化する契約を締結する必要がある。
関係者間の協議は、情報交換をし、全体の枠組みの構想について合意し、具体的に事業を実施しながら進展していくことになると考えられる。
複数の法人が連携して新事業活動を開始するに際して、全体の事業の枠組みの構想について合意し、これを基本スキームとして、「連携体基本契約」として定めることが想定される。
そして、「連携体基本契約」の定める基本スキームに従い、必要により、新連携運営委員会等を設け、連携体メンバーが話し合って具体的な事業の運営や詳細について決めていくこととなろう。そのため、「運営委員会規則」等を定めておくことが望ましい。
また、「連携体基本契約」に基づき、関係者が連携して新事業活動を行っていくに際し、具体的な情報交換のために、「秘密保持契約」を締結することが想定される。同契約は、各法人がそれぞれ保有する技術、ノウハウ等の経営資源の情報を開示し合い、その開示し合った情報が他に漏出するのを防ぐことを前提として協議を進めるための必要最低限の取決めとなる。
次に、事業の内容に応じていろいろな形態の契約書類が想定されるが、新商品の開発等のために「共同開発契約」が必要となる。さらに事業化の決定を見る段階では「製造販売契約」等を締結しておくことが必要となる。
以上のような新連携の進展のステージに応じた規約・契約等の締結の関係を図示すると、下記のようなフローをイメージすることができる。
(※)ここにおける規約とは、新連携体の参加メンバー間を規律する自治規範一般をいい、規則、規程を含むものとして使用する。
《新連携における規約・契約体系イメージ》
3.各規約・契約等ごとの記載事項
(1)連携体基本契約
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「連携体基本契約」とは、連携体参加者の認識を共通化し、新連携の事業活動の進め方を取り決めた基本スキームである。
① 新事業活動についての各法人間の協議が行われるときに、包括的な新事業活動の進め方についての全体構想について、各法人間の認識が共通化し、これを新連携の事業活動の進め方についての基本スキームとして、「連携体基本契約」を締結することが想定される。
② そして、新事業活動の進め方についての基本スキームにおいては、連携体の構成員である各法人が、新事業活動を進めるために、それぞれどのような役割を果たすかという役割分担を明らかにすることが必要であろう。
③ また、新連携の事業活動体の法形式が問題となる。新連携を担う事業体については、事業のために投入する資金を確保し、事業として確固とした基盤を作るために、新たな事業体の形式として、1個の独立した会計を持つ事業体とすることが考えられる。しかしながら、1個の独立した会計を持つ事業体とするためには、必要な事業費に使用するための資金を、事業遂行前にあらかじめ出資金として、新連携の構成員に出資させることが必要となる。けれども、中小企業者の幅広い連携を促すためには、中小企業者に、当初から大きな資金を事業費として投資させることとなるスキームのみを用意することは適当とは言えない。このため、後掲する「連携体基本契約」の例示においては、出資金を基とする新たな事業体を作ることについて合意が成立した場合ではなく、構成員の合意に基づいて各構成員が支出した事業費を年度単位程度で精算し合うような、簡易な費用負担の配分と収入の配分をすることを前提とする仕組みをとることを、選択肢として示している。
④ 新連携を推進し、事業化できた後においては、更に事業のために投入する資金を確保し、事業として確固とした基盤を作るために、新たな事業体の形式として、出資金を基とする独立した会計を持つ事業体とすることが考えられる。そのための事業体の法形式として、会社、あるいは中小企業等協同組合などがありうる。
(2)運営委員会規則
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「運営委員会規則」とは、連携事業が適切に運営されるよう各法人間の協議のあり方について定めたものである。
① 新連携においては、新事業活動についての各法人間の協議を継続しながら、事業を進めていくこととなる。このような協議が適切に行われ、新事業推進のために新連携として適切に運営できるような協議機関が設けられることが必要である。
② このような協議は、事業推進に必要な事項について適時適切に行われることが必要であり、かつ、合議体における意思決定が各法人の意見を適切に反映して行われることが必要である。
③ そのような各法人間の協議のあり方として、運営委員会を組織して協議を行っていくことを想定し、その運営規則であるところの「運営委員会規則」の例示を後掲した。
(3)秘密保持契約
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「秘密保持契約」とは、連携参加者間で持ち寄った情報が他に漏出するのを防ぐための取り決めである。
① 複数の法人が連携して新事業活動を行うに際しては、各法人がそれぞれ保有する技術、ノウハウ等の経営資源の情報を開示し合い、協議を進めていくことが必要となる。この協議が相互の信頼関係に基づいて円滑に進められるために、開示し合った情報が他に漏出散逸するのを防ぐことを確保するため、また、協議における秘密を確保するために、「秘密保持契約」を締結することが想定される。
② 秘密保持契約では、新事業遂行のため、契約者が他の契約者から開示又は提供された資料情報、新事業遂行に関連して知り得た他の契約者の業務等に関する情報、新事業で行う業務により得られた資料情報などが、第三者に開示・漏洩したり、また新事業以外に流用されないこととすることが検討の対象とされよう。
(4)共同開発契約
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「共同開発契約書」とは、共同で開発する過程において連携参加者間の共通的な取り決めを定めた契約である。
① 新連携における事業計画は、新しい「もの」や「サービス」を開発し、事業化することが対象となるので、事業の過程において、共同開発計画が必要となる場合が多い。
② 共同開発の成果は、特許権のような工業所有権となる場合もあるし、ノウハウの場合もあるであろう。しかし共同でこれらを生み出すプロセスは共通して存在していると考えられ、これを「共同開発契約」として定めることが想定される。
③ 「共同開発契約」における重要事項は、共同開発における各法人の役割分担と費用の負担である。また、共同開発された成果は新連携の中で事業化されることを目的とするものであるが、成果が工業所有xxの権利性を持つものであれば、それが誰に帰属するのかを決めることも必要となる点であると考えられる。これらについて適切に決定されることが、各法人の力を結集して共同開発を円滑に遂行していくために必要となると考えられ、その合意であるところの「共同開発契約」の例示を後掲に示すこととする。
④ また、大企業が持っている特許につき、その利用許諾を得て、中小企業が利用することの有用性は大きいと考えられる。このような取組みを共同開発の中に盛り込むことも、検討すべき課題の一つであるといえよう。
(5)製造販売契約
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「製造販売契約」とは、新連携の事業化のプロセスにおいて行われる製造と販売について定めた契約である。
① 新連携における事業化は、共同で生み出された新しい「もの」、新しい市場を具体化するものであり、この新しい「もの」が事業化できるという構成員の合意を基に、実施するものである。従って、その内容は、①事業化の決定、②製造、③販売、である。これらのプロセスは共通して存在していると考えられ、これを「製造販売契約」として定めることが想定される。
② 製造販売の過程において製造と販売のどちらのサイドが主導的になるかはそれぞれの場合で決まってくるが、いずれの場合も市場の要望を的確に反映した製造、販売が実現される必要があり、製造と販売が有機的に連携して行動する必要がある。販売を担当する者が新連携の構成員であるときと、新連携外の小売業者が担当する場合がありうるだろうが、事業の内容に応じて、適切な製造販売体制を築き上げることが必要となる。後掲する「製造販売契約」の例示においては、製造と販売を一体的に定めることとする契約を示している。
③ 販路ができ、事業化が成功したときの収益の配分が、新連携の成果配分になる。この成果配分においては、新連携事業において人材を投入して汗をかき、事業費用を支出し、あるいは設備を提供した者それぞれが報われるように行われる必要がある。また、成果配分が適切に行われ、紛争を招かないことが、事業化後の事業の発展にとっても重要なことである。従って、新連携に関わる関係者の意見を適切に調整し、成果配分に関する規定を設けることに留意されたい。
④ 後掲に示す「製造販売契約例」では、事業の費用負担者が成果の配分も受けるべき場合が多いと想定されることから、その15条において、費用負担と同様の割合で収入配分する規定を例示しているが、実際の事業内容からみて、費用負担と異なる割合で収入配分する規定を設けることが適切な場合は、事業内容と整合した規定を設けるべきと考えられる。
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