JA
JA
H
MAY 19TH 2010
EXPERT VIEW:中国における所有権留保
所有権留保は、当事者の合意により、例えば「売買代金の支払が完了するまで目的物の所有権は売主に留保する。」と契約に定めることにより、売買代金の確保を図る有力な手段となります。実際に、中国の国内取引においても所有権留保規定が設けられることが多く、実務においても利用されています。中国における所有権留保合意をどのように考えるべきなのか?について、中国の法制上の留意点を検討したいと思います。
Q: 当社は、上海市に設立された日系の独資会社で、親会社製品の輸入、中国国内販売を主たる営業としています。中国でも、できる限り取引先の与信調査、管理を行っているものの、これが困難な場合も多く、代金前払等の条件で製品を販売できない場合には、代金の支払が完了するまで製品の所有権を留保する規定を設け、未払いのリスクに対応しています。当社の取扱製品は主として汎用製造機械であり、中古品マーケットも形成されています。代金の未払いが生じた場合には、取引先から販売製品を取り返し、これを中古マーケットで売却した上で、未払代金に充当することを想定しています。また、充当しても不足額がある場合には、残額の代金も請求するつもりです。上記の理解に従い、当社の売買契約には、①所有権留保、②代金未払いの場合の製品の取り戻し、③取り戻した製品の転売、④転売価格の未払代金への充当等を規定して対応しています。中国でも上記の規定に特に問題はないと考えているのですが、ご確認をお願いします。
A: 所有権留保とは、売買代金の完済前に売買目的物を買主に引き渡すケースにおいて、未払の売買代金債権等の売買契約から生ずる債権を担保する目的で、特約等により、売主が代金の完済まで売買目的物の所有権を留保することをいいます。一般に、債務者が代金を約定どおりに弁済しない場合には、売主は留保した所有権に基づき目的物を取り戻して(更にこれを換価するなどして)代金回収に充てると同時に、買主から既に受領した代金がある場合には、当該受領済代金(又は受領済代金から一定の費用を控除した残額)を清算のため買主に返還することを想定する、比較的柔軟な代金債権の担保方法です。
日本で特に割賦売買などにおいてこの所有権留保が広く行われていることはご存じのとおりですが、中国でも、売買契約においてしばしば用いられます。中国の「契約法」第133 条が「目的物の所有権は引渡時に移転する。ただし、法律に別段の定めがある場合又は当事者が別途約定した場合を除く」として、所有権の移転時期を引渡時としないことを当事者が約定することができるとしていることのほか、第 133 条の但書にいう約定
の一例として、第 134 条が「当事者は、買受人が代金支払その他の義務を履行しない場合には、目的物の所有権は売主に属することを売買契約において約定することができる」と定めていることが、中国における所有権留保の根拠規定といわれています。
ただし、「契約法」は、所有権留保という担保方法を任意に採用することが可能であることを示すごく簡単な規定しか設けておらず、所有権留保の法的構成、所有権留保を設定することができる目的物の範囲、担保としての実行方法、売主又は買主の処分権の有無、公示方法等、所有権留保にまつわる具体的問題の処理方針については何ら定めていません。現在のところ、中国において統一的な解釈又は判例傾向がみられるわけでもないようであることから、売買契約において所有権留保を行う場合には、一般的な売買契約の条項のほか、所有権留保に関して想定される各種事項についても一定の規定を設け、売買当事者間で一定の合意をしておくことが肝要です。
設例のケースでは、①所有権留保、②代金未払いの場合の製品の取り戻し、③取り戻した製品の転売、④転売価格の未払代金への充当等を定めるとのことであり大筋では問題がなさそうですが、以下、他に留意すべき点がないかどうかを中心に検討してみます。
(1) 目的物
中国において、所有権留保の目的物に特段の法的制限はありません(実務上は、動産・不動産ともに所有権留保の目的物とする例があります。)。ただし、所有権留保は、代金が回収しえない場合には目的物を取戻して換価するという担保目的を有することから、一般的には、ある程度耐久性があり、時間が経過しても一定の交換価値が見込めるものや、設置により取り外しがほぼ不可能になるようなものでないものが適していると思われます。
設例の設備は、中古マーケットも形成されている汎用製造機械とのことですので、所有権留保を設定するのに比較的適した商品と思われます。
(2) 法的構成 ・ 契約に定めておくべき事項の例
所有権留保を法的にどのように構成すべきかについては、日本を含め各国において様々な考え方があり、中国も例外ではありません。確立した解釈があるわけではなく、理論的には様々な構成方法があるのですが、実務的には、所有権留保により買主は所有権を留保するがその目的は担保であり、目的物の支配・処分について完全な所有権を持つわけではなく担保という目的に即した一定の制限を受けること、代金が完済されてはじめて所有権は完全に買主に移転すること(それまでは買主においても目的物の処分に制限を受けるこ と)を理解することが実務レベルでは肝要と思われます。
そのうえで、所有権留保の実効性を高めるため、売買契約中に所有権留保の実務的な操作方法に関する具体的条項を併せて定めておくことが実務的にはより重要です。設例のケースでは、設例記載の①~④の事項は定めているとのことですが、例えば次のような事項も、必要に応じて契約中に定めておくのが無難であると思います。
【設例記載の①~④のほか、規定すべき事項の例】
(a) 目的物の保管に関する買主の善管注意義務
単なる売買の条項では買主の義務としては通常設けられないものですが、売買にあたり所有権留保をする場合には、買主は、目的物を現実に占有しているとはいえまだ完全な所有権を確保したわけではなく、売主も、代金支払遅延などの債務不履行があった場合には目的物を回収・換価する必要があることから、(合理的な使用に基づく自然な価値の減少はやむを得ないとしても)できる限り目的物の滅失・毀損等を生じさせないような保管・使用を買主に義務付けるものです。善管注意義務違反により目的物の価値に減少が生じている場合には、当該価値減少分を損害として買主に賠償請求するための理論的基礎にもなります。
(b) 買主による代金完済前の譲渡、担保設定、賃貸などの制限
後述するように、所有権留保(特に動産の所有権留保)は、公示方法が不完全なため、買主が目的物を第三者に譲渡した場合には第三者が完全な所有権を善意取得してしまうおそれ(従って売主による取戻しが困難になるおそれ)があるほか、買主による目的物の供担保、賃貸等が生じた場合にも、第三者と売主の権利の優劣の判断が困難になり取戻しに実際上の困難が伴う可能性があります。そこで、予め売主にこれらの処分行為を無断で行わないよう制限する条項を設けておくことが考えられます。
(なお、ここでは買主による処分の制限について紹介していますが、売主の所有権留保はあくまでも担保目的のものであり代金完済の際には売主は買主に完全な所有権を帰属させなければならないことから、いくら法形式上所有権が売主に留保されているとはいえ、売主も、売買代金の弁済が行われている間(又は弁済期限が到来する前)は、目的物を処分することは制限されると考えておくべきです。)
(c)期限の利益喪失条項
分割払いで代金を支払うケースにおいて、一定の債務不履行事由が生じた場合に、期限が未到来の債務も含め残余の全ての債務の期限が前倒しで到来し、債権者は残債務の全てを直ちに一括して請求することができるようになるという条項です。分割払いで販売した場合に、このような期限の利益喪失条項を設けておくことで、一部の債権の実現のためにのみ所有権留保の実行を行うのではなく、残余の債権全体について弁済期限を到来させ、これら残余の債権全体について所有権留保を実行することが可能になります。
(d)実行に際しての清算方法
実行にあたり、設例では、代金未払の場合の取戻し、取戻した製品の転売、未払代金への充当は約定するとのことであり、これらの内容を合意することは適正な対応であるといえます。具体的には、製品の取戻方法、製品の取戻しにより買主の代金支払債務が消滅しないこと、転売時に買主が異議を述べないこと、転売方法に関する条件等を可能な範囲で約定しておくことが望まれます。また説例では想定されていないようですが、実際には、状況に応じて買主に対し清算金の支払が必要になる場合があると思われ、所有権留保合意が債権保全のための担保であるという当事者の意思を明確にしておくことも場合によっては有効な合意となりえます。
例えば、売主が留保した所有権に基づいて目的物を取戻したとしても、目的物の価値が残代金債権を上回る場合や既に代金の一部を受領している場合には、売主が目的物を換価して残代金債権に充当した残額や受領済みの代金を買主に返還する清算処理が必要になります(売主においていわゆる二重取りが生じてしまうおそれがあるため)。中国の裁判例では、このような清算義務を明示することなく目的物の取り戻しを認める例も散見されるのですが、目的物の価値がある程度高い場合には清算について議論が生ずる可能性は高いと思われ、現実に取り戻しをする場になって清算方法を議論する負担を避けるためには、契約作成段階という円満な交渉が期待できる時点で、どのようにこの清算処理を行うのか(転売方法、代金への充当方法、残代金に満たない場合の処理、清算金を支払うにあたって売主が控除できる違約金その他の費用の項目等)について予め一定のルールを協議し、契約中に明確にしておくことが無難であると思われます。
(3) 公示
所有権留保を売買当事者間で合意したとしても、それを公示しておかなければ、第三者には所有権留保の存在はわかりません。仮に買主が所有権留保の存在を知らない第三者に目的物を譲渡した場合には、当該第三者が所有権留保について善意のまま有償取得し、かつ、占有も取得すれば善意取得をしてしまう可能性もあることから(「物権法」第 106 条第 1 項)、所有権留保の存在を外部から認識しうるようにしておくことが肝要です。しかし、設例のような動産の一般的な公示方法は占有であるところ、所有権留保の場合には現実の占有は買主にあるため、単なる占有では売主に所有権が留保されていることを公示する機能は現実的にはほとんど期待できません。そこで、機械設備の価値、用途を妨げない範囲で機械設備に売主が所有権を留保していることを示す標示等をつけたり、所有権の帰属を推察させる証憑類(インボイスや検査合格証、保証書等)に所有権留保について付記する等の工夫をすることが考えられます。貼付した表示を剥がしたり、位置を変えたり、判読困難にするなどの措置を禁ずる規定を契約中に明記することも一案です。
xx・xx法律事務所弁護士 x x x x弁護士 x x xxx
【経済】
WEEKLY DIGEST
項 目 | 金 額 | 前年比(%) | ||
固定資産投資(都市部)* | (億元) | 46,743 | 26.1 | |
第一次産業 | (億元) | 679 | 16.5 | |
第二次産業 | (億元) | 19,461 | 21.7 | |
第三次産業 | (億元) | 26,603 | 29.7 | |
工業生産(付加価値ベース)** | - | - | 17.8 | |
社会消費財小売総額 | (億元) | 11,510 | 18.5 | |
消費者物価上昇率(CPI) | - | - | 2.8 | |
工業品出荷価格(PPI) | - | - | 6.8 | |
原材料・燃料・動力購入価格 | - | - | 12.0 | |
輸出 | (億ドル) | 1,199.2 | 30.5 | |
輸入 | (億ドル) | 1,182.4 | 49.7 | |
貿易収支 | (億ドル) | 16.8 | ▲ 87.0 | |
対内直接投資(実行ベース) | (億ドル) | 73.5 | 24.7 |
<4月の主要経済指標>
◆4 月の主要経済指標:国家統計局の発表によると、4 月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2.8%(前月比 0.4 ポイント上昇)、工業品出荷価格指数(PPI)は同+6.8%(前月比 0.9 ポイント上昇)と、共に昨年8 月以降9 ヶ月連続の上昇となった。食品価格と住居関連価格の上昇が CPI 上昇の主な要因。PPI は CPI の先行指数と言われるため、急な上昇に警戒感が強まりつつある。固定資産投資は前年同月比 26.1%増と引続き高水準で推移。中でも不動産投資が同 36.2%増と、活発な動きが見られた。輸出は、前年同月比+30.5%の 1,199.2 億米ドル、輸入は同+49.7%の 1,182.4 億米ドルで、貿易収支は再び黒字に転じ、16.8 億米ドルとなったが、前年比では▲87.0%と大幅に減少した。対内直接投資(実行ベース)は 73.5億米ドル、同+24.7%となった。
【産業】
*:1~4月の累計ベース。
**:独立会計の国有企業と年間販売額500xx以上の非国有企業を対象
(出所:国家統計局等の公表データ)
◆4 月のxx 70 都市不動産販売価格 前年同月比 12.8%上昇:国家統計局の発表によると、4 月のxx 70 都市不動産販売価格は前年同月比+12.8%と前月比1.1 ポイント上昇した。うち新築の商品住宅価格は同+17.3%と引き続き高い伸び率となり、中でも上昇幅が最も大きかった都市は、海口(+64.3%)、三亜(+58.2%)、温州(+26.1%)、金華(+23.8%)、北京
(+21.5%)となった。当局は、4 月も不動産価格が上昇したことについて、4 月17 日に国務院から不動産価格高騰抑制策が発表されて以来、取引量は減少したものの、価格下落には至らず、4 月前半の価格上昇の影響が反映されたものと分析している。但し、4 月の全国不動産開発景気指数が一年振りに前月比下落するなど一部では変化がみられ、今後、徐々に政策効果が現れるとみられている。
◆4 月の自動車生産・販売台数 引き続き高い伸び:中国自動車工業協会が10 日発表したデータによると、4 月の自動車生産台数は、前年同月比+34.6%の 156.35 万台、販売台数は同+34.4%の 155.52 万台と引き続き高い伸び率となった。但し、前月比ではそれぞれ 9.9%、10.4%下落し、同協会は徐々に急速な伸びから安定的な伸びへ落ち着くと予想している。車種別でみると、乗用車の生産・販売台数は前年比+39.2%、+33.2%と好調だったが、前月比ではいずれも約 12%下落し、中でも市場の 7 割近くを占める排気量 1.6ℓ以下の小型乗用車販売が前月比 15%下落するなど、年初来の減税幅縮小で景気刺激策の効果が薄れていると指摘している。また、商用車の生産・販売も、前年比では増加したものの、前月比では小幅なマイナスとなった。
【金融・為替】
◆「2010 年第1四半期貨幣政策執行報告」:人民銀行は 10 日、「2010 年第1四半期貨幣政策執行報告」を発表した。中国経済の回復傾向がより一層固まってきたものの、インフレ期待が高まり、財政・金融分野の潜在的なリスクも無視できないと指摘した上で、適度な金融緩和政策を引続き実施することを改めて強調し、流動性管理を強化し、貸出の適度な増加を維持する方針を表明した。人民元政策については、合理的な水準内の人民元為替レートの基本的安定を維持しながらも、市場の需給に基づき、管理変動相場制を更に改善すると言及した。また、人民元建て貿易決済の試行が開始した 2009 年 7 月から 2010 年 3 月末までの決済額は 219.4 億元に上り、うち、貨物輸出が 18.6 億元、貨物輸入が 181.3 億元、
サービス貿易とその他の経常取引が 19.5 億元となったことを明らかにした。
◆4 月の新規人民元貸出 増加傾向に転換:人民銀行の 11 日の発表によると、4 月の人民元新規貸出額は 7,740 億元となり、1 月の 1 兆 3,900 億元から、2 月の 7,001 億元、3 月の 5,107 億元と減少が続いていたが、再び増加に転じた。なお、4 月末の人民元預金残高は前年同月比+21.95%の64 兆9,900 億元、マネーサプライ(M2)は同+21.48%の65 兆6,600 億元となった。
人 民 元 の 動 き
RMB レビュー&アウトルック
先週の人民元相場は 6.8265 で寄付き後、欧州債務危機への先行き不透明感や発表された中国経済指標がインフレ圧力の
高まりを裏付けたことを受け、金融引き締めに対する懸念が市場を圧迫し、人民元は一時 6.8297 まで下落する局面もみられた。しかし同水準では押し目買いが入ると下値は限定され、週末にかけ小幅反発し6.8268 で越週した。先週発表された経済指標では、消費者物価指数上昇率が前年比プラス 2.8%と 1 年半ぶりの高い伸びを示した他、銀行の新規融資額も予想以上に増加、さらに不動産価格も過去最大の上昇幅となった。今後も不動産価格上昇と過剰流動性の抑制が課題であり、追加策が打ち出されると予想する。一方で、欧州債務問題が中国経済に与える影響を見極めるまで、当局は為替政策変更には慎重な姿勢を堅持するだろう。ただし米中経済・戦略対話を翌週に控えており(24 日~25 日)、市場の人民元上昇観測も台頭しそうだ。(5 月 17 日作成) (市場営業部 為替営業推進グループ グローバル営業ライン)
当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関しては、すべてお客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当行はその正確性を保証するものではありません。内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作xxにより保護されております。