3 直接協定(Direct Agreement)
金融(資金調達)・保険等に関する規定について
1.PFI標準契約(案)―施設整備型・サービス購入型を中心に―における関連規定
(権利義務の処分等)
第七条 選定事業者は、次に掲げる行為をしようとするときは、あらかじめ、管理者等の承諾を得なければならない。
一 この契約上の権利又は義務を第三者に対して譲渡し、担保に供し、又はその他の処分を行うこと。
二 株式、新株予約権又は新株予約権付社債を発行すること。
三 持株会社への組織変更又は合併、会社分割、株式交換若しくは株式移転を行うこと。
(資金調達)
第八条 選定事業者は、その責任及び費用負担において、この事業の実施に必要な資金調達を行うものとする。
2 管理者等は、選定事業者がこの事業の実施に必要な資金調達を行うことを目的として、金融機関等から融資を受け、又は選定事業者の株式若しくはサービス対価請求権その他のこの契約に基づき選定事業者が管理者等に対して有する債権に担保権を設定する場合においては、選定事業者に対して、当該融資契約書又は担保権設定契約書の写しの提出及び融資又は担保に係る事項についての報告を求めることができる。
(注1)補助金、地方債、税制等についても考慮し、個別の事業に応じた適切かつ明確な規定とする必要がある。
(注2)第二項はBTO方式の事業を前提としたものであり、BOT方式の事業の場合には、「選定事業者の株式」とあるのは「PFI施設、選定事業者の株式」とする。
(建設期間中の不可抗力による損害)
第三十条 第三十二条第五項に規定する完工確認書の交付前に、天災等(業務要求水準書で基準を定めたものにあっては、当該基準を超えるものに限る。)で管理者等及び選定事業者双方の責に帰すことができないもの(以下「不可抗力」という。)により、工事目的物、仮設物又は工事現場に搬入済みの工事材料若しくは建設機械器具に損害が生じたときは、選定事業者は、その事実の発生後直ちにその状況を管理者等に通知しなければならない。
2 管理者等は、前項の規定による通知を受けたときは、直ちに調査を行い、前項の損害の状況を確認し、その結果を選定事業者に通知しなければならな
い。
3 選定事業者は、前項の規定により損害の状況が確認されたときは、損害による費用(選定事業者が善良な管理者の注意義務を怠ったことに基づくもの及び第六十七条第一項の規定により付された保険等によりてん補された部分 を除く。)の負担を管理者等に請求することができる。
4 管理者等は、前項の規定により選定事業者から損害による費用の負担の請求があったときは、当該損害の額(工事目的物、仮設物又は工事現場に搬入済みの工事材料若しくは建設機械器具であって、選定事業者の工事に関する記録等により確認することができるものに係る額に限る。)及び当該損害の取片付けに要する費用の額の合計額(以下本条において「損害合計額」という。)のうち施設整備に係るサービス対価(施設整備に係る資金調達に伴う利息相当額を除く。)の100分の1を超える額を負担しなければならない。
5~6(略)
(注)第一項中「PFI施設の引渡し前に」とあるのはBTO方式の事業を前提とした表現であり、BOT方式の事業の場合には、「PFI施設の運営開始前に」とする。
(維持管理・運営期間中の不可抗力による損害)
第四十一条 管理者等は、選定事業者から前条第一項の通知を受けたときは、直ちに調査を行い、同項の損害(選定事業者が善良な管理者の注意義務を怠ったことに基づくもの及び第六十七条第二項の規定により付された保険等に よりてん補された部分を除く。)の状況を確認し、その結果を選定事業者に通知しなければならない。
2 選定事業者は、前項の規定により損害の状況が確認されたときは、損害による費用の負担を管理者等に請求することができる。
3 管理者等は、前項の規定により選定事業者から損害による費用の負担の請求があったときは、当該損害の額(維持管理・運営業務を実施するためPF I施設で使用していた機械器具その他の物件であって、維持管理・運営業務の計画書等により確認することができるものに係る額に限る。)及び当該損害の取片付けに要する費用の額の合計額のうち、維持管理・運営に係るサービス対価の1年分の100分の1を超える額を負担しなければならない。
4(略)
(注1)BOT方式の事業で維持管理・運営期間中について火災保険等を付した場合に は、第三十三条第三項の規定の例により保険金の取扱についての規定を設ける。
(注2)(略)
(注3)(略)
(第三者の責に帰すべき事由によるPFI施設の損害)
第四十二条 第三十二条第五項に規定する完工確認書の交付後に、第三者の責
に帰すべき事由によりPFI施設に損害が生じた場合においては、当該第三者に対する損害賠償の請求は、選定事業者の責任及び費用負担において行う。
2 前項に定める場合において、選定事業者が過失なくして前項の第三者を知ることができないときその他やむを得ない事由があるときは、選定事業者は、 PFI施設の損害の状況、当該損害の修復の方法及び当該第三者に損害の負担を求めることができない理由(以下この条において「PFI施設の損害の状況等」という。)を管理者等に通知しなければならない。
3 管理者等は、前項の規定による通知を受けたときは、直ちに調査を行い、前項のPFI施設の損害の状況等を確認し、その結果を選定事業者に通知しなければならない。
4 選定事業者は、前項の規定によりPFI施設の損害の状況等が確認されたときは、当該損害が生じたPFI施設を関係図書に適合させるために要する費用(第三者から損害賠償を受けた部分及び第六十七条第二項の規定により 付された保険等によりてん補された部分を除く。)の負担を管理者等に請求することができる。
5 管理者等は、前項の規定により選定事業者から費用の負担の請求があったときは、当該費用の額(当該費用のうち通常妥当と認められる費用に係る額に限る。)のうち、維持管理・運営に係るサービス対価の1年分の100分の
1を超える額を負担しなければならない。
(金利の変動に伴うサービス対価の変更)
第五十二条 入札時に使用する基準金利と平成○年○月○日(金融機関の営業日でない場合には、その前営業日)の基準金利に差が生じた場合においては、管理者等又は選定事業者は、施設整備に係る資金調達に伴う利息相当額のサービス対価の変更を請求することができる。
2 前項の改定後の基準金利は[ ]とする。この場合において、上乗せ金利
(スプレッド)については、入札時に提案された利率とし、改定の対象としないものとする。
3 管理者等又は選定事業者は、第一項の規定による請求があったときは、これに応じなければならない。
(注1)第五十二条第一項の「平成○年○月○日」は、金利スワップ市場における資金調達の状況を勘案して設定する。
(注2)第二項の基準金利については、具体的に記述する。
(注3)契約時から融資実行時までの金利変動リスクを管理者等が担うとする場合には、長期の融資期間を前提とする規定に加えて、第五十二条第一項の「平成○年○月○日」を融資金融機関等により貸出金利が確定される日にできる限り近接した日、例えば融資実行日の2営業日前とする条項を設けることも考えられる。
(建設工事保険等)
第六十七条 選定事業者は、工事目的物、工事材料等を、業務要求水準書の定めるところにより、建設工事保険その他の保険(これに準ずるものを含む。以下本条において同じ。)に付さなければならない。
2 選定事業者は、業務要求水準書の定めるところにより、第三者賠償責任保険その他の保険に加入しなければならない。
3 選定事業者は、第一項又は前項の規定により保険契約を締結したときは、直ちにその保険証券又はその写しを管理者等に提出しなければならない。
4 選定事業者は、選定事業を実施するため第一項又は第二項の規定による保険以外の保険に加入したときは、直ちにその旨を管理者等に通知しなければならない。
(注)BOT方式の事業の場合、維持管理・運営期間中の火災保険等の施設の物件保全に関する保険について、更に規定されることとなる。
(直接協定)
第七十二条 管理者等は、選定事業者に融資する融資金融機関等と協議を行い、次に掲げる事項を含む直接協定を締結するものとし、選定事業者は、当該直接協定を締結した融資金融機関等から融資を受けるものとする。
一 この契約に基づく選定事業者の権利又は選定事業者の発行する株式に対する融資金融機関等による担保権設定についての管理者等の承諾に関する事項
二 融資金融機関等が選定事業者の融資について期限の利益を喪失させ、又は担保権を実行するに際しての融資金融機関等から管理者等に対する通知及び融資金融機関等と管理者等との協議に関する事項
三 管理者等がこの契約に関して選定事業者に損害賠償を請求し、又はこの契約を解除するに際しての管理者等から融資金融機関等に対する通知及び管理者等と融資金融機関等との協議に関する事項
四 融資金融機関等による選定事業者の財務状況に関する管理者等に対する報告に関する事項
(注)「融資金融機関等」の内容については、PFI事業の内容、融資金融機関等の具体的な決定の状況等に応じ、適切に規定する。
2.契約に関するガイドラインにおける記述
まえがき(抜粋)
PFI事業には、多様な事業スキームがありえるが、この解説にあたっては、
①~⑥ (略)
⑦選定事業の主たる資金調達手法は融資金融機関等によるプロジェクトファイナンス方式によること
*プロジェクトファイナンスとは、特定のプロジェクト(事業)に対するファイナンスであって、そのファイナンスの利払い及び返済の原資を原則として当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフロー(収益)に限定し、そのファイナンスの担保を当該プロジェクトの資産に依存して行う金融手法。
(略)
などを仮定している。
(中略)
また、PFI事業をめぐる管理者等、選定事業者、コンソーシアム構成企業、受託・請負企業、及び融資金融機関等の選定事業関係者は以下のような契約関係にあることを想定している。
1 PFI事業契約(略)
2 基本協定(略)
3 直接協定(Direct Agreement)
・選定事業者による選定事業の実施が困難となった場合などに、管理者等によるPFI事業契約の解除権行使を融資金融機関等が一定期間留保することを求め、資金供給している融資金融機関等による選定事業に対する一定の介入
(Step-in)を可能とするための必要事項を規定した管理者等と融資金融機関等との間で直接結ばれる協定。要求水準の未達や期限の利益の喪失(*)等一定の事項が生じた場合の相互の通知義務や、選定事業者の発行する株式や有する資産への担保権の設定に対する管理者等の承諾などについて規定される。
*期限の利益とは、期限が到来するまでは債務の履行を請求されないというように、期限がまだ到来していないことによって当事者が受ける利益である。期限の利益が債務者に認められるのは、債権者が債務者を信用し履行の猶予を与えたのであるから、特約により、債務者に信頼関係を破壊するような行為があった場合には、債務者に期限の利益を喪失、債権者は期限の到来を主張し、ただちに履行を請求することができるものと定める場合がある。
4 事業関連契約(略)
5 融資契約
・融資金融機関等が選定事業者に対して融資するにあたり、融資金融機関等と選定事業者との間で締結される契約。主な規定内容としては、貸付合意、資金使途、貸付実行手続、貸付実行前提条件、元本弁済、支払金利、遅延損害金、弁済充当方法、表明及び保証、借入人誓約、期限の利益喪失事由等が想定される。
6 担保関連契約
・融資金融機関等が選定事業にかかる資産及び権利について担保権を取得することを目的とした契約。これらの担保設定は、担保権対象の売却を通じた融資回収を想定しているのではなく、選定事業の継続を図ることを通じた融資回収を想定し、事業修復を行うことを企図しているものであり、担保権者として金融機関等が他の債権者に対する優先権を保持して、他の債権者等が選定事業にかかる資産等を差し押さえる利益を失わせることにより、第三者の介入を排除し、円滑な事業継続により融資回収を確実にすることを目的としている。担保設定の対象としては、PFI事業契約上の選定事業者の権利、選定事業者の発行株式や事業用資産等が想定される。
7 債権者間契約(略)
8 出資者支援契約(略)
9 株主間協定(略)
1-7 選定事業者の資金調達(抜粋)
3.資金調達の考え方
(1)資金調達の手法
・選定事業を実施するために新設された株式会社が選定事業者である場合、コンソーシアム構成企業等の出資や劣後融資、加えて、金融機関等からの融資によって、選定事業に要する資金調達を行うことが通例である。ここで、管理者等は、選定事業者の自己資本比率が、選定事業者の事業に要する費用に影響を与え、ひいては契約価格にも影響を与える可能性がある点に留意が必要である。
・特に、コンソーシアム構成企業による出資額の多寡は、選定事業者の融資の元利返済の負担に影響を与えるとともに、選定事業への一定の関心又は関与を保証する役割を果たすことから、管理者等は留意する必要がある。
・選定事業者が金融機関等からプロジェクトファイナンスにより資金調達を行う場合は、金融機関等は、原則として、選定事業から生じるキャッシュフローを借入元本返済及び利払いの原資とする融資を行い、その担保を当該選定事業に関連する資産に依拠することとなる。しかしながら、選定事業に関連
する資産は、融資金融機関等が担保権を取得していても売却処分により融資を回収することが困難なものであることが多い。このため、金融機関等は、選定事業者のキャッシュフローが安定的であることを融資の重要な条件と考えて、PFI事業契約等の内容、なかでも、「サービス対価」の支払メカニズムに関する規定や選定事業が停滞した場合に管理者等が講じる措置に関する規定を一層重視する傾向がある。
・ここでキャッシュフローの安定性確保の観点から、金融機関等は、「サービス対価」の支払いとともに、PFI事業契約上発生する増加費用を管理者等が負担する場合の支払い時期及び方法についても重視する。選定事業者が余剰資金を保持しておらず、加えて、不足資金を補填する仕組みが不十分な場合、管理者等が負担する増加費用が適時に支払われない時に、選定事業者は資金不足に陥り、選定事業全体の運営に支障が生じるリスクがある。一方、管理者等による増加費用の支払い時期及び方法については、当然に、予算措置に応じたものである点に留意が必要である。
・なお、プロジェクトファイナンスの組成には相当の期間を要する。そこで、管理者等は、選定事業者の公募からプロジェクトファイナンス組成に関連する諸契約の締結に至るまで関係者間の調整に要する期間が確保されるよう努める必要がある。
(2)金利の固定
・管理者等は、財政支出の平準化を図るため、選定事業者に対して支払う借入金利相当の対価を一定期間固定する場合が多い。この場合、選定事業者は、事業期間中の借入金利水準の変動による自らの借入金利負担の変動を回避するため、固定金利による資金調達を行うことが通例である。
・管理者等が選定事業者に対して支払う対価のうちの金利相当額を取り決めるにあたっては、①融資金融機関等は、選定事業者に対する融資の可否及び融資条件(貸出金利の水準及び償還条件等)を決定するため、PFI事業契約の詳細について十分な審査を必要とすること、②選定事業者による固定金利での資金調達の期間には市場の制約がかかることに留意する必要がある。また、融資金融機関等による貸出金利が確定する日は融資実行日であり、貸出金利は金融市場の動向に従って(金利スワップによる金利固定化を行う場合には金利スワップ市場の動向も加味され)定まるものであることにも留意が必要である。
・管理者等が支払う選定事業者による借入金利相当の対価は、融資金融機関等 による貸出金利を前提として決定される。融資金融機関等により貸出金利が確定される日は、融資実行日であり、融資実行は施設の引渡し日など、PF I事業契約締結日からは相当の期間が経過していることが通例である。その間、市場の金利は日々変動するため、PFI事業契約締結日には、選定事業者は融資金融機関等により確定される貸出金利を正確に想定することが困難である。しかしながら、仮に、PFI事業契約締結日に、管理者等から選定
事業者に支払う借入金利相当の対価を固定することとした場合、選定事業者は、この時点において、融資金融機関等により確定される貸出金利について想定値をおかざるを得ない。このため、実際の融資金融機関による貸出金利 が、この選定事業者による想定値とは異なるものとなる。金利上昇局面においては、選定事業者がその金利差相当を負担することにより資金調達費用を高めるリスクが存在し、ひいては、こうしたリスクが契約金額に転嫁される結果ともなり得る。この間の金利変動リスクの管理は管理者等自らが担うこととし、管理者等が選定事業者に支払う借入金利相当の対価を確定する日を、 PFI事業契約締結日以降において別途定める日(基準日)とし、かつ、その基準日を融資金融機関等により貸出金利が確定される日に出来るだけ近接した日に設定する考え方もある。
5-1 公共施設等の管理者等の解除権(抜粋)
6.直接協定の意義
・直接協定は、選定事業者による選定事業の実施が困難となった場合、若しくは、困難と見込まれる場合、融資金融機関等が、管理者等によるPFI事業契約の解除権の行使を一定期間留保することを求め、選定事業に関して有する担保権を利用して選定事業に対し介入(Step-in)することを可能にするための必要事項を規定する、管理者等と融資金融機関等との間で締結される契約をいう。
・PFI事業契約は、契約の一方の当事者である選定事業者に加え、融資金融機関等も事業のリスクを資金面で負担している点が、従来型の公共事業の請負契約と異なっている。PFI事業にかかるリスクをそれぞれ分担している管理者等と融資金融機関等との間に契約関係がない場合、融資金融機関等が自らの債権の保全を図るために管理者等の承諾なくして、資金供給を停止し、担保権の実行や強制執行により事業資産等の処分を図るといった事態も生じ得る。事業の継続によって公共サービスの継続的かつ安定的な供給を図ろうとする管理者等は、こうした事態の発生は回避したい。そこで、管理者等が融資金融機関等との間で締結する直接協定は、融資金融機関等の資金供給停止や担保権実行等に際して事前調整を行えるようにするとともに、融資金融機関等による事業修復への介入(Step-in)の機会を与える観点から、管理者等にとっても意義あるものと成り得る。なお、直接協定の締結をもって、管理者等が直接に事業修復を行うことは妨げられるものではないこととし、また、融資金融機関等が事業修復のための介入を試みても、直接協定に定めた一定の期間以内に事業修復を管理者等及び融資金融機関等が見込めない場合には、管理者等はPFI事業契約を解除することができるものとする。
・現在のところ、我が国のPFI事業の直接契約において規定が置かれること が想定される主な内容は以下のとおりである。
1)PFI事業契約上の選定事業者の権利、選定事業者発行株式や事業用資 産に対する融資金融機関等による担保権設定についての管理者等の承諾
2)融資契約上の期限の利益喪失事由その他融資金融機関等の有する債権の 保全について選定事業者に懸念が生じている場合の融資金融機関等から管理者等に対する通知
3)PFI事業契約上、選定事業者の責に帰すべき解除事由などが生じた場合の管理者等から融資金融機関等に対する通知
4)2)又は3)の場合の協議
5)融資金融機関等が担保権を利用して介入する場合の管理者等の関与(担 保権実行等の前に行われる管理者等との協議等) 等
6-5 保険加入義務
1.概要
・選定事業者が、自らの費用負担において自らが加入する、若しくは、コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業等に加入させる義務を負う保険の種類及び内容について規定される。
2.趣旨
・近年、火災保険、地震保険に加え、天候保険等が商品化され、保険・金融技術の向上や市場の整備等に伴ってリスクを軽減することが可能な範囲が広がっていることから、適宜、当該時点でのリスク軽減措置について幅広く検討
(リスクガイドライン6(1)参考③)し、付保にかかる費用を勘案しても契約の両当事者が負うリスクを除去するために保険に加入することに合理性があると判断できる場合には、選定事業者に当該保険の加入を義務付ける必要がある。
3.加入すべき保険の種類及び内容
・選定事業者に加入を義務付ける保険は事業内容、事業場所等により異なるものの、通例、BTO方式及びBOT方式の双方の選定事業において、履行保 証保険、建設工事保険、第三者損害賠償責任保険等の付保を義務付け、加えて、完工後も選定事業者が施設を所有するBOT方式の選定事業については、火災保険等の施設の物件保全に関する付保を義務付けることが通例である。
・管理者等が、入札説明書等において選定事業者が付保すべき保険の内容等を提示し、これ以外の保険の付保を民間事業者から提案させる場合がある。この場合、管理者等は選定事業者が自ら提案した保険についても加入を義務付けなければならないことに留意が必要である。
・選定事業者が付保すべき保険の種類とそれぞれの保険内容(保険対象、被保険者名、保険期間、填補限度額等)について、PFI事業契約書に規定され
る。保険の種類は各民間保険会社により名称が様々であり、また、新たな保険商品の開発も想定されることから、特定の保険商品の名称を規定するのではなく、選定事業者が様々な保険商品のなかから付保目的に照らして最適な商品を選択できるよう規定を工夫することが望ましい。
・BTO方式の選定事業においては、施設が管理者等に引渡された後、その施設には火災保険が付保されないか、若しくは、管理者等を被保険者とした共済又は民間保険会社の火災保険等に加入する措置を講じられる。民間保険会社の火災保険普通保険約款や店舗総合保険普通保険約款等に従った火災保険契約には求償権不行使条項が用意されていることから、選定事業者(借家人)の帰責事由によって失火等が生じた場合にも、民間保険会社から選定事業者に対し求償権は行使されない。但し、選定事業者の故意又は重大な過失による場合はこの限りではない。
・BOT方式の選定事業において、維持・管理、運営期間中、施設について火災保険が付保され、実際に保険事故が発生した場合、その保険金の扱いについて留意を要する。この保険金請求権については、融資金融機関等が担保権を設定することが通例である。融資金融機関等は、火災により施設の重要な部分が損壊した場合、選定事業が終了したものとみなして、この保険金を融資の弁済に充当したいと要請し、他方、この保険金を施設の復旧に充て、公共サービス提供の継続を図ろうとする管理者等の要請と対立することが想定されることから、直接協定においてこの対応を明記することが望ましい。
4.付保の義務付けの可否
・選定事業者に付保を義務づける保険については、一般に民間保険会社による対応が可能とされている火災、暴風雨、洪水については、リスクを選定事業者に負わせることが適切な場合が多いと考えられる。しかし、対応が制約的とされている地震、噴火、津波、テロ行為及び対応が困難とされている戦争、内乱、放射能汚染については、リスクを選定事業者に負わせることは、選定事業者の倒産リスクを増加させ資金調達を困難にするおそれを高めることになる。なお、付保が可能である場合であっても、選定事業固有のリスク等によって保険料が著しく高くなる場合には、選定事業者への付保の義務付けは結果的に事業費用の増加を招き、ひいては契約金額に転嫁される結果ともなり得ることにも配慮する必要がある。
5.付保手続き
・選定事業者が保険加入義務を履行していることを確認するため、選定事業者 は保険契約の内容について管理者等の確認を受けてから保険に加入し、その保険証券の写しを管理者等に提出することとされる。
・また、維持・管理、運営業務の履行保証保険契約については、現在の我が国 の保険市場においては、契約期間が一年間とされることが通例である。保険契約期間が付保に必要な期間よりも短い場合、その保険契約期間を踏まえた
保険契約の更新と、その更新ごとに管理者等に保険証券の写しを提出させる ことを選定事業者に義務付ける規定を設ける必要がある。また、更新に際し保険料が値上げされた場合の増加費用の負担についての検討が必要である。
6.コンソーシアム構成企業、受託・請負企業等第三者の付保
・また、PFI事業ではコンソーシアム構成企業、受託・請負企業及び下請企業等選定事業者から業務を受託し又は請け負った第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うことから、原則として選定事業者が付保する旨規定することが望ましい。但し、選定事業者が設計・建設工事業務や維持・管理、運営業務を受託・請負企業等第三者に一括発注する場合等においては、この限りではなく、受託・請負企業等第三者が付保する旨規定される場合もある。
・選定事業者の受託・請負企業等第三者が付保する旨規定した場合、複数の受託・請負企業等第三者がそれぞれ付保することもあり、補償内容が十分ではないものとなるおそれや、損害発生時の調査を複数の保険会社が実施することによる処理の煩雑化等が生じることもありえる。このため、事業内容が複雑又は運営業務の比重の重い選定事業などにおいて、受託・請負企業等が複数になることがあらかじめ想定される選定事業については、選定事業者が付保する旨規定することが望ましい。
保険会社
融資金融機関等
下請企業
下請企業
下請企業
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
受託・請負企業
受託・請負企業
融資金融機関等
3.直接協定
1.PFI事業契約
5.融資契約
6.担保関連契約
保険契約
7.債権者間契約
4.事業関連契約
6.担保関連契約
8.出資者支援契約
4.事業関連契約
下請企業
下請企業
下請企業
コンソーシアム構成企業
受託・請負企業
受託・請負企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
融資金融機関等
保険会社
選定事業者
融資金融機関等
管理者等
16 - 65
契約関係の例(PFI事業契約を中心に)
「通常妥当」について
1.PFI標準契約(案)―施設整備型・サービス購入型を中心にーにおける関連規定
(建設期間中の不可抗力による損害)第三十条
1乃至4 (略)
5 損害の額は、次の各号に掲げる損害につき、それぞれ当該各号に定めるところにより算定する。
一 (略)
二 工事材料に関する損害
損害を受けた工事材料で通常妥当と認められるものに相応する額とし、残存価値がある場合にはその評価額を差し引いた額とする。
三 仮設物又は建設機械器具に関する損害
損害を受けた仮設物又は建設機械器具で通常妥当と認められるものについて、当該工事で償却することとしている償却費の額から損害を受けた時点における工事目的物に相応する償却費の額を差し引いた額とする。
(維持管理・運営期間中の不可抗力による損害)第四十一条
1乃至3 (略)
4 前項のPFI施設で使用していた機械器具その他の物件に関する損害の額は、損害を受けた物件で通常妥当と認められるものに相応する額とし、残存価値がある場合にはその評価額を差し引いた額とする。
(第三者の責に帰すべき事由によるPFI施設の損害)第四十二条
1乃至4(略)
5 管理者等は、前項の規定により選定事業者から費用の負担の請求があったときは、当該費用の額(当該費用のうち通常妥当と認められる費用に係る額に限る。)のうち、維持管理・運営に係るサービス対価の1年分の100分の1を超える額を負担しなければならない。
(法令変更等による増加費用)第四十五条
1 (略)
2 管理者等は、前項の規定による請求があったときは、当該増加費用の額のうち通 常妥当と認められるものについて、サービス対価を変更し、又は増加費用を負担しなければならない。
(選定事業者が第三者と締結する損害賠償額の予定等)
第六十五条 第二十二条第五項、第二十五条第五項、第二十七条第三項、第四十五条第二項、第五十七条第二項、第五十八条第二項及び第五十九条第二項の規定により管理者等が増加費用又は損害を負担し、又は賠償する場合において、当該増加費用又は損害が選定事業を行うため選定事業者が第三者と締結した契約により支払うべき損害賠償額の予定その他の契約終了又は変更時に支払うべき金銭債務に基づくものであるときは、管理者等が負担し、又は賠償する増加費用又は損害の額は、選定事業者と第三者との契約により支払うべき金銭債務の内容について管理者等があらかじめ承諾していたものに係る額に限る。ただし、当該第三者に生じた損害が現に生じた損害であって、通常妥当と認められるものであるときは、管理者等は当該損害の額を負担する。
2.公共工事標準請負契約約款における関連規定
(不可抗力による損害)第二十九条
1乃至4(略)
5 損害の額は、次の各号に掲げる損害につき、それぞれ当該各号に定めるところにより、(内訳書に基づき)算定する。
一 (略)
二 工事材料に関する損害
損害を受けた工事材料で通常妥当と認められるものに相応する請負代金額とし、残存価値がある場合にはその評価額を差し引いた額とする。
三 仮設物又は建設機械器具に関する損害
損害を受けた仮設物又は建設機械器具で通常妥当と認められるものについて、当該工事で償却することとしている償却費の額から損害を受けた時点における工事目的物に相応する償却費の額を差し引いた額とする。ただし、修繕によりその機能を回復することができ、かつ、修繕費の額が上記の額より少額であるものについては、その修繕費の額とする。
「公共工事標準請負契約約款の解説」では、この条項に関して以下のように解説されている。
10 発注者の負担範囲(2)発注者の負担範囲イ)通常妥当性(第5項第2号及び第3号)
発注者が負担する仮設物、工事材料、建設機械器具に関する損害は、「通常妥当と認められる」ものに係る損害に限られる。仮設物、建設機械器具については、第 1 条第3項により設計図書に指定のない限り自主施工の原則に則り請負人の裁量に委ねられており、また、工事材料についても、第13条第1項により設計図書に品質の規定がない場合には、中等の品質のものを使用すれば十分とされており、工事材料の選択は請負者に委ねられている(「通常妥当」とは、工事材料については、中等の品質という意味で ある。)。
3.土地収用法及び土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令における参考規定
(1)土地収用法の規定
(移転料の補償)
第七十七条 収用し、又は使用する土地に物件があるときは、その物件の移転料を補償して、これを移転させなければならない。この場合において、物件が分割されることとなり、その全部を移転しなければ従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、その所有者は、その物件の全部の移転料を請求することができる。
(2)土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令の規定
(移転料)
第十七条 法第七十七条(法第百三十八条第一項において準用する場合を含む。)の物件(立木を除く。次項において同じ。)の移転料は、当該物件を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用とする。
2 (略)
「逐条解説土地収用法(第二次改訂版(下))」(小澤道一著 株式会社ぎょうせい 平成15年)では、これらの条項に関して以下のように解説されている。
4 移転料の算定 (1)基本的な考え方
(略)すなわち、移転費は、撤去費用、運搬費用及び再現費用の合計額である。これらの費用を算定するには、一定の移転先地と移転方法を想定せざるをえないが、その想定 に当たっては、個別の被収用者の主観的事情を斟酌すべきではなく、社会通念に基づき、一般普通人がとるであろうもっとも合理的な行動を予想して、客観的に想定すべきである。(中略)この点につき、細目政令17条は、本条の移転料は、「通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用とする」と定め、一般補償基準要綱24条1項も同様の規定となっているところである。
違約金への充当について
1.PFI標準契約(案)-施設整備型・サービス購入型を中心に-における関連規定
(管理者等の解除権)第五十六条
1・2 (略)
3 前項の場合において、第六条の規定により契約保証金の納付若しくはこれに代わる担保の提供又は履行保証保険契約の締結が行われているときは、管理者等は、当該契約保証金若しくは担保又は履行保証保険契約の保険金をもって違約金に充当することができる。
2.公共工事標準請負契約約款における関連規定
(甲の解除権)第四十七条
1・2(略)
3 前項の場合において、第四条の規定により契約保証金の納付又はこれに代わる担保の提供が行われているときは、甲は、当該契約保証金又は担保をもって違約金に充当することができる。
「公共工事標準請負契約約款の解説」では、この条項に関して以下のように解説されている。
7 違約金と契約保証金等との調整
第3項は、契約保証金及びこれに代わる担保と違約金との調整規定である。(中略)また、「充当できる」としたのは、契約保証金に代わる担保については、発注者が有価 証券の換金や銀行等への保証請求を行う前に、違約金の支払いを請負者に請求する選択肢を残したからである。
PFI事業契約の条項例(案)に関する主要な論点(例)
【主に設計・建設段階(設計変更手続等)に係る論点】
1 | 業務要求水準書の位置付け(1条、13 条) | … 19 |
2 | 設計変更及び民間事業者の提案の変更(13 条、15 条) | … 19 |
3 選定事業者の作成した設計図書と業務要求水準書の不一致の場合の措置
(15 条) … 20
【主に設計・建設段階(損害・増加費用分担等)に係る論点】
4 | 土壌汚染、埋蔵文化財等(11 条、12 条) | … | 21 |
5 | 近隣説明(14 条) | … | 22 |
6 | 通常避けることのできない理由による第三者損害(25 条) | … | 23 |
7 | 不可抗力による損害に関する選定事業者負担分(27 条、38 条) | … | 24 |
8 | 瑕疵担保責任の建設企業による保証(32 条) 【主に維持管理・運営段階に係る論点】 | … | 25 |
9 | 業務別仕様書の変更(31 条) | … | 26 |
10 | 経営状況の報告(63 条) 【主に支払メカニズム等に係る論点】 | … | 27 |
11 アンケート調査の実施・報告(35 条) | … | 27 | |
12 技術の進歩によるサービス対価の変更(48 条) | … | 28 |
【契約終了・解除等に係る論点】
13 契約の解除権、一部解約を認めるべきか(51 条) … 29
14 解除時に管理者等が支払う損害賠償(51 条、52 条) … 29
15 解除の効力――施設整備費相当分の支払方法(55 条、57 条) … 30
【その他の論点】
16 紛争解決(62 条) … 30-2
17 直接協定(66 条) … 30-3
1 業務要求水準書の位置付け(1条、13 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
契約ガイドラインには、直接対応する記述はない。
(2) 論点の例
(a) 業務要求水準書等は、どのような場合に変更することがありうるか。例えば
「契約の基本的考え方」のサービス内容の変更のケースでは、いかなる場合に業務要求水準書等を変更すべきか。
⮚ もともと業務要求水準書等に明記されていた事項が変更された場合以外、業務要求水準書を変更する必要はない。
⮚ 管理者等が選定事業者に義務付ける内容については、全て業務要求水準書等の中に含めるべきであり、従って当初の業務要求水準書等の記載事項を変更する必要がなくても、追加事項があれば業務要求水準等を変更すべきである。
(注)業務要求水準書等とは、入札説明書、業務要求水準書及びこれらに対する質問回答書。
(b) 管理者等が選定事業者に対し意見を述べるには、必ず業務要求水準書等に基づく必要があるか。例えば、設計協議の際に意見を述べる場合はどうか。
⮚ 管理者等の意見は業務要求水準書等及び提案書を根拠とするものに限るべきである。
⮚ 業務要求水準書等又は提案書に基づくもの以外にも、意見を言うことができる。
2 設計変更及び民間事業者の提案の変更(13 条、15 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・管理者等は、必要があると認める場合、設計変更を選定事業者に求めることができる旨規定される。その際、設計変更の限界として、民間事業者の入札参加者提案を逸脱する設計変更、又は工期の変更を伴う変更を求めることはできない旨規定されることが通例である。場合によっては、工期の変更を伴う設計変更等に関し、管理者等が選定事業者に対し協議を求めることができる旨の規定が置かれる場合がある。
・具体的な手続きについては、管理者等が選定事業者に対し設計変更を求めた場合、選定事業者は当該変更の当否の検討を行ない、その結果を一定期間以内
に管理者等に通知し(ここで、選定事業者は当該変更の当否とともに、当該変 更により予想される増加費用等についても検討し、その内容を通知内容に含め ることが考えられる。)、管理者等はこれを踏まえて設計変更の要否を決定し、 選定事業者に通知することとされ、選定事業者はこれに従うものと規定される。
・管理者等の求めによる設計変更に起因する増加費用については、選定事業者との帰責の割合に応じて、管理者等と選定事業者がかかる費用を分担して負担する旨規定されることが通例である。設計変更に起因する増加費用としては、設計費用、建設費用、将来の維持・管理、運営にかかる費用及び金融費用(追加の資金調達に要する金利負担等の各種費用)などが想定される。(2-1-
2)
(2) 論点の例
民間事業者の提案は、事業の段階を踏んで詳細なものとなっていくが、管理者等はどの時点でどの程度まで変更を求めることができるか。
(a) 提案の変更を求める時点
⮚ 管理者等は、時期を問わず選定事業者の提案の変更を求めることはできない。
⮚ 管理者等は、事業者選定手続の中での対話により事業者の提案の変更を求めることはできるが、選定事業者の決定以降は、選定事業者の提案の変更を求めることはできない。
⮚ 管理者等は、契約時点までは、選定事業者の提案の変更を求めることはできる。
⮚ 管理者等は、必要な場合には、契約時点以降も選定事業者の提案の変更を求めることができる。
(b) 設計変更として事業者提案の変更を求めることができる内容
⮚ 設計変更の限界として、民間事業者の入札参加者提案を逸脱する設計変更、又は工期の変更を伴う変更を求めることはできない。
⮚ 入札時と大きく異なる設計変更を求めることはできない。
⮚ 費用を管理者等が負担することを前提に、一定の拒否事由に該当する場合を除き、管理者等は設計変更を求めることができる。
3 選定事業者の作成した設計図書と業務要求水準書の不一致の場合の措置
(15 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・選定事業者の提出した設計図書の内容とPFI事業契約、入札説明書等及び
入札参加者提案との間に不一致が判明した場合、選定事業者が不一致の内容についてその責任と費用負担により是正し、是正したものを管理者等に再度提出し、確認を受けることが規定される。選定事業における設計図書は、工程を経るなかで順次詳細化及び補完されていくことから、管理者等による内容の不一致の判断について当事者間で合意が得られない場合が想定される。このため、設計期間中に当事者が定期的に打ち合わせを行うこと等が規定されるととも に、管理者等が通知した不一致の内容に対し、選定事業者が意見を述べること、及び管理者等が選定事業者の意見が合理的と認めた場合には、選定事業者は是正を行う必要のないことなどの規定が置かれることが通例である。(2-1-
1)
(2) 論点の例
(a) 選定事業者が作成した設計図書が、業務要求水準の形式的な解釈からみれば要求書を満たさない部分があるが、同等あるいはそれ以上の質を期待できることなどを理由として、管理者等が特段の問題はないと判断した場合、管理者等はどのような対応をすべきか。
⮚ 設計図書と業務要求水準との間に矛盾が生じないよう、業務要求水準を変更すべきである。
⮚ 管理者等が承認する場合にはその旨を選定事業者に通知すれば十分であり、必ずしも業務要求水準を変更する必要はない。
4 土壌汚染、埋蔵文化財等(11 条、12 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・施設の建設工事のために必要な測量、地質調査等の調査が選定事業に含まれる場合、選定事業者は自らの責任と費用負担において、必要な調査を実施し、その不備及び誤謬等から生じる一切の責任及び増加費用を負う旨規定される。
・管理者等は、民間事業者に対し、入札説明書等において選定事業の履行条件として土地に関する資料を提示し、民間事業者は当該資料に基づき、設計費及び建設工事費等の積算を行う。その後、選定事業者は選定事業の業務の一部として施設の建設工事に必要な調査を自ら実施し、自ら実施した調査に従って施設の設計及び建設工事を施工することとなる。
このため、選定事業者が土地にかかる調査等を自ら実施した結果、管理者等が入札説明書等において提示した土地に関する資料から合理的に予測又は想定できない瑕疵があることが判明した場合、及び、管理者等の提示した土地にかかる資料と選定事業者の実施した調査等結果との間で著しい差異がある場合等については、管理者等が選定事業者に生じた合理的な増加費用を負担する
こと、必要に応じた事業日程の変更等の措置を講じることを規定することなどが考えられる。
・特に、施設の建設工事に必要となる土地にかかる調査のうち、埋蔵文化財及び土壌汚染の調査については、これらの調査により判明される土地の瑕疵が、事業費用及び事業の工程に対し特に大きな影響を与える可能性があり、瑕疵の内容によっては、PFI事業契約の解除に至るおそれがあることから、当事者間で具体的かつ明確なリスク分担を規定する必要性が高い。(2-2-3)
(2) 論点の例
(a) 事前に予想できない土壌汚染、埋蔵文化財等が発見されるリスクが顕在化する事例が多く聞かれるところ、リスク分担の考え方及び対応の方法はどうあるべきか。
⮚ 事前には合理的に予測又は想定できない事業用地の瑕疵が判明した場合のリスク負担は、管理者等の分担とすることが一般的と考えられる。
⮚ 上記の事業用地の瑕疵が判明した場合には、必要に応じ管理者等と選定事業者の間で協議を行った上で、増加費用を管理者等が負担する、又は事業日程の変更を含めた業務要求水準の変更を行うといった措置をとることが考えられる。
5 近隣説明(14 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・選定事業の実施にあたっては、選定事業のうち建設工事の施工による騒音、交通渋滞等近隣住民の生活環境に与える影響を調査し、近隣説明を実施する必要がある。この近隣説明等については、選定事業者の費用と責任において実施する旨規定される。併せて、管理者等は、必要と認める場合には、選定事業者等が近隣住民に行う説明に協力する義務を負うことが規定される。
・施設の建設工事が近隣住民の生活環境に与える影響としては、騒音、悪臭、光害、粉塵発生、交通渋滞、汚濁水発生、振動、地盤沈下、地下水の断絶等が考えられる。
・選定事業者の義務となる近隣対策の範囲については、合理的に要求される範囲等と限定する旨規定されることが通例である。(1-10)
(2) 論点の例
(a) 近隣説明は合理的な範囲で選定事業者の責任とすることが通例だが、選定事業者の責任の範囲はどこまでか。
⮚ 選定事業者はPFI事業に係る工事に関してのみ説明責任をもち、それを超えるPFI事業全体についての説明責任は管理者等にあるとの理解でよいか。
⮚ 隣接地所有者による隣接地使用の承諾が得られず予定の工事ができない等、予期せぬ費用増加要因が発生した場合のリスクはどちらが負担すべきか。
6 通常避けることのできない理由による第三者損害(25 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・建設工事に伴い通常避けることのできない騒音、振動、地盤沈下、地下水の 断絶等の理由により第三者に損害を与えた場合については、その損害賠償責任 が選定事業者にあるとする考え方と、管理者等にあるとする考え方がある。P FI事業契約の締結にあたり、当事者間で、いずれの考え方が当該選定事業に 相応しいかを検討し、PFI事業契約において適切に規定することが望ましい。
・標準約款第28条第2項においては、建設工事に伴い通常避けることのできない騒音、振動、地盤沈下等の理由により第三者に損害を与えた場合、発注者がその損害を負担すると定められている(但し、善管注意義務を怠った場合は請負者がその損害を負担するとされる。)。その理由として、請負者が損害の負担部分を契約額の中であらかじめ留保することなどから契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに加え、公共工事が仕様発注方式をとり、かつ、公共は工事請負契約の発注者の立場になることから、発注者たる公共が負担するとしているものと考えられる。一方、PFI事業においては、性能発注方式をとり、かつ、管理者等にとっては契約の相手方である選定事業者が発注者の立場になって、請負人である建設企業の間で施設の工事請負契約等が締結されるため、選定事業者が負担することも考えられる。但し、PFI事業を選定事業者に一括して委ねる者は管理者等であることを理由に、又はVE提案等の仕様発注に近い方法を採用する場合等において、管理者等が負担することも考えられる。(2-2-8)
(2) 論点の例
(a) 騒音、振動、地盤沈下、地下水の断絶等、工事の施工に伴い通常避けることができない理由により第三者に損害を及ぼしたとき、管理者等又は選定事業者のどちらが賠償を負担すべきか。
⮚ PFI事業においては、通常は性能発注方式となるため、選定事業者が負担すべき。
⮚ PFI事業においても、VE提案等の仕様発注に近い方法を採用する場
合等においては、管理者等が負担すべき。
⮚ PFI事業においては、選定事業者が発注者の立場になって、請負人である建設企業の間で施設の工事請負契約等が締結されるため、選定事業者が負担すべき。
⮚ PFIにおいても、選定事業者に一括して委ねる者は管理者等であるため、管理者等が負担すべき。
(注)選定事業の性質により判断すべきとする場合、判断の基準をどのように考えるべきか。
7 不可抗力による損害に関する選定事業者負担分(27 条、38 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・設計、建設段階に、不可抗力の発生により施設及び仮設物、工事現場に搬入済みの工事材料、その他建設機械器具等に対し損害が生じた場合、選定事業者に不可抗力等による損害を最小限にとどめる経済的動機付けを与えるため、生じた損害又は増加費用の一部を選定事業者が負担することとし、その余を管理者等が負担する規定を置くことが通例である。例えば、同期間中の累計で建設工事費に相当する金額に一定比率を乗じた額に至るまでの額、又は一定金額に至るまでの額を選定事業者の負担とし、これを超過する部分については、「合理的な範囲」で管理者等が負担すると規定されることが考えられる。
・ここでの損害の範囲について検討が必要である。具体的には、損害の範囲を積極損害(施設、仮設物等のみを対象とした損害)のみとするか、あるいはこれらに関連する選定事業者の損害と増加費用一般まで含むか、という点を明確にすることが望ましい。
・不可抗力に起因して損害が生じたことにより選定事業者が施設の保全に関する保険の保険金を受領した場合で、当該保険金の額が選定事業者の負担する損害等の額を超えるときには、当該超過額は管理者等が負担すべき損害等の金額から控除するものとする規定を置くことが通例である。(2-2-9)
・維持・管理、運営期間中に、不可抗力事由の発生による損害が生じた場合、選定事業者に対し不可抗力による損害を最小限にとどめる経済的動機付けを与える必要がある。そこで、不可抗力に起因する選定事業者の損害又は増加費用のうちの一部を選定事業者が負担し、それを超過する部分について、合理的な範囲で、管理者等が負担する規定を置くことが通例である。選定事業者の負担する損害等の額としては、
1)維持・管理、運営期間中の累計で、維持・管理、運営期間中の維持・管理費及び運営費の総額に相当する額に一定の比率を乗じた額に至るまでの損害等の額
2)一事業年度中に生じた不可抗力に起因する損害金の累計で、一事業年度
の維持・管理及び運営費に相当する金額に一定の比率を乗じた額に至るまでの損害等の額
3)定額
等が考えられる。(3-6)
(2) 論点の例
(a) 設計・建設期間中の不可抗力の発生による損害に関し、一部を選定事業者の負担とした上でその余を管理者等の負担とする場合、その損害の範囲をどこまでとすべきか。
⮚ 施設、仮設物等のみを対象とした積極損害に限るべき。
⮚ 関連する選定事業者の損害と増加費用一般まで含むべき。
(契約ガイドライン2-2-9)
(b) 維持・管理・運営期間中の不可抗力の発生による損害に関し、選定事業者に対し不可抗力による損害を最小限にとどめる経済的動機付けを与えるため損害の一部を選定事業者負担とする場合、どのような規定が望ましいか。
⮚ 維持・管理、運営期間中の累計で、維持・管理、運営期間中の維持・管理費及び運営費の総額に相当する額に一定の比率を乗じた額に至るまでの損害等の額。
⮚ 一事業年度中に生じた不可抗力に起因する損害金の累計で、一事業年度の維持・管理及び運営費に相当する金額に一定の比率を乗じた額に至るまでの損害等の額。
⮚ 定額。
(契約ガイドライン3-6)
(C) 不可抗力による損害に対して選定事業者が保険金を受領できる場合、保険金の扱いはどのようにすべきか。
⮚ 保険金は選定事業者の負担分に優先的に充当し、その余を管理者等の負担分に充当すべき。
⮚ 不可抗力による損害額から保険金の分を控除し、残りの分について管理者等と選定事業者が決められた負担割合に従って負担すべき。
⮚ 保険金は管理者等の負担分に優先的に充当し、その余を選定事業者の負担分に充当すべき。
8 瑕疵担保責任の建設企業による保証(32 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・選定事業者が、建設企業をして、本瑕疵担保債務を履行する旨を定めた保証書を管理者等に提出させる義務を負うことを規定することも考えられる。(契約ガイドライン2-4-3)
(2) 論点の例
(a) 保証の規定が意味があるのは、選定事業者が破綻した場合である。このような場合に備えて、建設企業に瑕疵担保責任を保証させる必要はあるか。
⮚ 保証させなくてもよい――管理者等としては、瑕疵があった場合にも選定事業者の破綻によって悪影響を受けないようにする必要があるが、例えば瑕疵担保責任により施設整備費の支払を減額できることを契約書に明示しておけば、施設整備費相当分の減額によって目的を達成できる。
⮚ 瑕疵担保責任による損害の額は、大規模な人身事故が生じた場合などを考慮すれば、施設整備費残額よりも低いとは限らない。一方、建設企業はもともと自らの問題により損害を発生させたのであるから、建設企業に保証をさせても何ら不当ではないと考えられる。したがって、建設企業に保証させるべきである。
9 業務別仕様書の変更(第 31 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・長期に亘るPFI事業契約については、維持・管理、運営企業受託・請負企業の変更等により業務別仕様書の見直しが必要となる場合が想定される。このような場合に備え、当事者のいずれか一方が業務要求水準を満たす業務を履行するために必要かつ適切と合理的に判断した場合、随時、協議により業務別仕様書を変更できる旨規定される。(3-3)
(2) 論点の例
(a) 業務別仕様書、業務計画書等を、選定事業者が変更をしたいと考える場合、管理者等の承諾、確認等を必要とすべきか。
⮚ 一旦確認を受けた業務別仕様書、業務計画書等を変更する場合には、管理者等の承諾が必要であるとする考え方。
⮚ 業務別仕様書、業務計画書等を変更する場合には、業務要求水準書に合致するかに関して、管理者等による確認が必要であるとする考え方
⮚ 選定事業者が、管理者等との協議の上、業務別仕様書、業務計画書等を変更できるとする考え方。
(b) 管理者等が、業務要求水準書に合致しないこと以外を理由して、業務別仕様書、業務計画書等の変更を希望する場合、どのような手続が考えられるか。
10 経営状況の報告(63 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・選定事業者の維持・管理業務及び運営業務が適正に実施されている場合においても、選定事業者の財務状況が悪化し、結果として選定事業者の債務不履行その他のPFI事業契約の解除事由が発生することも想定される。このため、選定事業者の財務状況のうち選定事業の実施に影響する可能性のある範囲に ついて定期的に(年に1回又は2回等)把握することを目的として、公認会計士による監査済みの財務書類を提出させるなど経営状況の報告を求める規定 が置かれる。例えば、各事業年度の最終日以前に翌事業年度の事業計画等の提出や、商法に基づく一連の財務書類の開示、及び株主総会の承認・報告のスケジュールと連動して、各事業年度の最終日より一定の期間以内に、公認会計士
の監査済みの財務書類の提出を、選定事業者に対し義務づける規定が置かれる。また、管理者等は、当該監査済み財務書類又はこれらの概要を公開することが できる旨規定される。(6-2-2)
・選定事業者による定期的な監査済み財務書類の提出に加え、選定事業の実施に悪影響を及ぼす事態の発生を早期にかつ確実に把握することを目的として、管理者等が自己の指名する公認会計士に選定事業者の財務状況を調査させる ことができることなどを規定することも考えられる。(6-2-3)
(2) 論点の例
(a) 選定事業者の財務状況が悪化するリスクについて、管理者等が適切に把握するための仕組みはどうあるべきか。
⮚ 選定事業者による年に1回又は2回の経営状況の報告は、リスクの把握に十分な頻度と考えられるか。
11 アンケート調査の実施・報告(第 35 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・維持・管理、運営業務の履行状況を確認する方法は、上記の選定事業者による業務報告書の提出・報告にとどまらず、管理者等による施設の現場での検査、施設利用者からアンケート調査の実施及び報告など他の手法も想定されるた
め、管理者等が対象となる施設の特性を考慮し、その方法を追加することが望ましい。なお、モニタリングに必要以上に費用(及び時間)をかけることは、事業全体の効率性の面から問題であることに留意を要する。(3-4)
(2) 論点の例
(a) 施設利用者に対するアンケート調査を実施した場合、その結果をどのように用いるか。
⮚ 満足度が一定の基準以下であった場合には、業務要求水準違反としてとらえて、減額の対象とすべきである。
⮚ アンケート調査は、回答者の主観が入ることから、減額の対象とするのは適切ではない。
12 技術の進歩によるサービス対価の変更(48 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・選定事業の実施上重要となる技術分野について、契約期間中に相当の程度の技術進歩が期待できるとき(又は、契約期間中に相当の程度の陳腐化が見込まれるとき)には、当該技術進歩により、選定事業者がより低い費用負担でもって当初に定めた業務要求水準の維持・管理業務又は運営業務を実施することが可能となった場合、管理者等又は選定事業者が、相手方当事者と協議の上、「サービス対価」を減じる改定を求めることが規定される場合がある。なお、減額改定の提案について選定事業者に対し経済的動機付けを与えるため、選定事業者から提案された費用削減額の全てを「サービス対価」から減らさずに、その一部を選定事業者の収益に反映させることも考えられる。
・また、技術進歩により生じる便益を「サービス対価」に反映させるのではなく、代わって、業務要求水準を向上させることによって、管理者等が享受する措置も考えられる。(4-3)
(2) 論点の例
(a) 技術進歩によるサービス対価変更の規定はどのような場合に必要か。
⮚ 相当の程度の技術進歩が期待できるときとはどのようなときか。
⮚ 調整の対象となるサービスの分野をあらかじめ特定すべきか。また、資本的支出を伴わず、資本的支出との関連性の低い、いわゆる「ソフトサービス」については、別途調整の規定を設けるべきか。
(b) サービス対価の改定方法として、以下の手段をどう考えるか。
⮚ ベンチマーキング。
⮚ マーケットテスティング。
⮚ 中立的な専門家の活用(技術アドバイザーによる参考価格作成や事業者見積額の精査等)。
⮚ 一部契約期間短縮又は一部解除権の行使という方法は、どのような場合に考慮することができるか。
13 契約の解除権、一部解除を認めるべきか(51 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・管理者等は選定事業者に対し一定の是正期間を設けて義務を履行するよう催告するも、選定事業者がその義務を履行しない場合、管理者等がPFI事業契約の全部又は一部を解除できる旨規定する。(5-1-4)
・選定事業者は、管理者等が「サービス対価」の支払いを遅延し、選定事業者 から催告を受けてから一定期間を経過しても当該支払義務を履行しないとき、及び、管理者等による重要な義務違反により選定事業者の選定事業の実施が困 難となり選定事業者が是正期間を設けて催告しても選定事業の実施が困難な 状況が解消されないときなどには、PFI事業契約を解除できる旨規定される。
(5-2)
(2) 論点の例
(a) 一部解除の規定の必要性はあるか。
⮚ 一部解除を認める場合、違約金をどのように算定するか。支払スケジュールをどのように変更するか。
⮚ 管理者等に一部解除権を認めるときに、選定事業者に一部解除権を認める必要はないのか。
14 解除時に管理者等が支払う損害賠償(51 条、52 条)
(1) 契約ガイドライン・「契約の基本的考え方」における記述
(a) 管理者等の帰責事由による解除
・損害賠償の範囲に、選定事業者が既に支出した費用に加え、解除されなければ選定事業者が得たであろう利益を含むものと解されるものの、これに含める具体的範囲については(例えば、得べかりし利益のうち、解除時以降に管理者等が支払う予定であった「サービス対価」の数ヶ月分とするなど)当事者間で
の検討が必要な点である。(契約ガイドライン5-4)
(b) 任意解除
・任意解除時の選定事業者に対する損失補償額は、実際に生じた損失については原則すべて補償する。一方、逸失利益についても補償の対象とするが、範囲は限定される。(「契約の基本的考え方」第2章3(3))
(c) 法令変更、不可抗力
・(設計建設段階の不可抗力による損害について)具体的には、損害の範囲を積極損害(施設、仮設物等のみを対象とした損害)のみとするか、あるいはこれらに関連する選定事業者の損害と増加費用一般まで含むか、という点を明確にすることが望ましい。(契約ガイドライン5-4)
(2) 論点の例
(a) それぞれの場合について、逸失利益をどのように扱うか。
⮚ 逸失利益の内容の明確化――具体的にどのような項目が考えられるのか、それぞれの項目について補償すべきかを議論すべきではないか。それを 逸失利益と呼ぶかどうかは、その後に考えればよいのではないか。
(b) 各項目についての損害の範囲の確定
⮚ ガイドラインでは「解除時以降に管理者等が支払う予定であった『サービス対価』の数ヶ月分とする」などといった、一定の明確な歯止めをかけることを提案している。このように、補償対象とされた項目についても、何らかの歯止め(上限)を設定する必要はないか。
15 解除の効力――施設整備費相当分の支払方法(55 条、57 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・管理者等による施設の出来形部分の買受手続きについては、管理者等が施設について検査を実施し、検査に合格した部分の引渡しを受けることとし、かかる対価の支払い方法については、PFI事業契約上、管理者等が一括払い又は割賦払いとするかを選択できることとし、割賦払いを選択する場合は、最長、当初定められたスケジュールに従って支払う旨規定を置くことが通例である。支払い方法の選択に際しては、一方で、選定事業者と融資金融機関等との間で締結されている融資契約上は、PFI事業契約解除により、選定事業者は期限の利益を喪失し、融資金融機関等は選定事業者に対して一括弁済を求める権利を取得することとなっている。このため、実際の施設の買受対価の支払方法の
決定にあたっては、直接協定等に基づく協議が行われることなども想定される。この協議の結果、割賦払いとされた場合、管理者等は財政支出を平準化できる。
・直接協定等による融資金融機関等と管理者等の協議の上で、選定事業者を介さずに直接、管理者等から融資金融機関等への買受対価の支払いが行われることとなった場合には、もはや、事業リスクの要素がなくなり管理者等の信用リスクと同視し得る場合も考えられる。前述の通り、管理者等と融資金融機関等の交渉の結果、割賦払いとされた場合、融資金融機関等による新たな与信判断に基づき、支払金利に相当する額を含めた対価の支払条件を変更すること(国の場合であれば、支払期間に対応した国債の利回り水準を反映した支払金利水準に見直すなど)も考えられる。(5-4)
(2) 論点の例
(a) 施設の出来形部分を買い取る際に管理者等が支払方法を一括か分割か選択できる規定は、事業者帰責による契約解除の場合に限るべきか、不可抗力などの場合にも適用すべきか。
⮚ 事業者帰責の場合に限定すべき。
⮚ 事業者帰責の場合に限らず、不可抗力による契約解除の場合にも適用すべき。
⮚ 事業者帰責、不可抗力の場合に限らず、発注者帰責による契約解除の場合にも適用すべき。
(b) 管理者等が施設の出来形部分を買受けるのにあたり、直接協定等による融資金融機関等と管理者等の協議の上で、選定事業者を介さずに直接、管理者等から融資金融機関等への買受対価の支払が行われることとなった場合、支払条件の変更を行うべきか。
⮚ もはや、事業リスクの要素がなくなり管理者等の信用リスクと同視し得る場合も考えられるため、割賦払いの場合においては、支払条件を変更すること(国の場合であれば、支払期間に対応した国債の利回り水準を反映した支払金利水準に見直すなど)も考えられる。
⮚ 直接協定等に基づいて融資金融機関等との協議を行う場合、低い金利水 準を反映した支払額への変更に応じることに融資金融機関等のメリット がなく、同意する可能性は極めて低い。このため、解除後の支払方法及 び金利についてもあらかじめ記載しておくことが望ましいのではないか。
16 紛争解決(62 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・協議を行うための機関として、当事者その他関係者で構成する関係者協議会を設置することがあり、その構成員、開催手続き等についてPFI事業契約においてあらかじめ定める場合がある。さらに、当事者のリスク分担に及ぼす影響度など重要度に応じて協議事項を分類し、重要事項に関する協議を目的とした協議会と日常的な業務の実施に関する詳細協議を目的とした協議会とを併設させることをあらかじめ規定することもあり得る。また、PF I事業契約に関する紛争の処理方法として、専門家等の第三者を加えて意見を求めるといった手続きを規定することも考えられる。(契約ガイドライン
6-7)
(2) 論点の例
(a) 当事者間の協議が整わない場合に備えて、中立的第三者が関与する紛争処理手続きを規定する場合、その手続をどう考えるか。
⮚ 中立的専門家(裁定人)は紛争が生じた際に選定するのか、あらかじめ選定しておくのか。
⮚ 中立的第三者が関与する紛争処理手続になじまない紛争もあると考えられるところ、あらかじめ手続の対象となる事項を特定しておくべきか。
(b) 業務要求水準書の変更の際の対価の額等重要な事項について紛争が生じ、調停によっても合意できなかった場合、いずれか、あるいは双方の当事者に、契約の一部解除権などを与えるべきか。
17 直接協定(66 条)
(1) 契約ガイドラインにおける記述
・直接協定は、選定事業者による選定事業の実施が困難となった場合、若しくは、困難と見込まれる場合、融資金融機関等が、管理者等によるPFI事業契約の解除権の行使を一定期間留保することを求め、選定事業に関して有する担保権を利用して選定事業に対し介入(Step-in)することを可能にするための必要事項を規定する、管理者等と融資金融機関等との間で締結される契約をいう。
・現在のところ、我が国のPFI事業の直接契約において規定が置かれることが想定される主な内容は以下のとおりである。
1)PFI事業契約上の選定事業者の権利、選定事業者発行株式や事業用資産に対する融資金融機関等による担保権設定についての管理者等の承諾
2)融資契約上の期限の利益喪失事由その他融資金融機関等の有する債権の保全について選定事業者に懸念が生じている場合の融資金融機関等から管理
者等に対する通知
3)PFI事業契約上、選定事業者の責に帰すべき解除事由などが生じた場合の管理者等から融資金融機関等に対する通知
4)2)又は3)の場合の協議
5)融資金融機関等が担保権を利用して介入する場合の管理者等の関与(担保権実行等の前に行われる管理者等との協議等) 等(5-1-6)
(2) 論点の例
(a) 直接協定締結の目的として、事業の安定的な継続に対する融資金融機関等の 役割への期待があるが、その役割発揮のためには直接協定はどうあるべきか。
⮚ 直接協定に盛り込まれるべき規定として、上記1)~5)の各項目で必要十分か。
⮚ 選定事業者の財務状況に関して、融資金融機関等と管理者等との間の情報共有についてどのような規定を置くことが望ましいか。
⮚ 事業の継続が困難になる場合の融資金融機関等による介入を期待するために、直接協定に関して更に検討すべき点はあるか。