Contract
2009
15
第1編 民法総則
第1章 民法序説
一.民法の指導原理
【1】個人の尊厳と両性の本質的平等(2)
【2】権利能力平等の原則
【3】所有権絶対の原則
【4】私的自治の原則
1.契約自由の原則
2.過失責任の原則
二.指導原理の修正
【1】民法の商化(資本主義の発展)
1.表示主義の尊重(取引の安全)
2.財産に関する動的安全の保護(xxの原則)
【2】民法の社会化(実質平等による弱者の保護)
1.抽象的人間像から具体的・実質的人間像へ
2.所有権絶対の原則の修正
3.私的自治の原則の修正 a.契約自由の原則の修正 b.過失責任の原則の修正
三.私権
【1】私権の公共性(1)
1.公共の福祉
2.xxxxの原則
a.禁反言(エストッペル)の原則 b.クリーンハンズの原則 c.事情変更の原則
d.権利失効の原則
3 権利濫用の禁止
【2】私権の実現
1.自力救済の禁止
2.民事訴訟法
3.民事xxx
4.民事保全法
第2章 私権の主体
Ⅰ.自然人
一.権利能力
【1】意義
私法上の権利・義務の帰属主体となる地位・資格(自然人・法人)。
∵ 権利能力平等の原則にもとづく。
【2】権利能力の始期
「私権の享有は出生に始まる」(3Ⅰ)
a.すべて自然人(人間)は出生と同時に権利能力を取得する。
⇒ 出生は事実上の問題であり,出生届,戸籍の記載,医師・xxxの証明は証拠でしかない。
b.出生の時期は,生きて(独立呼吸をして)母体から完全に分離した時(全部露出説:通説)。
cf. 刑法:一部露出説
【3】胎児
1.原則 胎児に権利能力はない。
2.例外 次の3つの場合,個別的に胎児を既に生まれたものとみなす。
∵ 出生の時間の先後という偶然による不xxの是正。
① 不法行為による損害賠償請求(721) |
② 相続(886) |
③ 遺贈(965) |
* 胎児を認知できる旨の規定(783)は,父の側から胎児を認知することを認めたもの(母の承諾が必要)で,胎児の側から(母が胎児のために)父に対する認知請求を認めたものではない(例外にはあたらない)。
◇判例学説◇
「既に生まれたものとみなす」の意味は?
A:解除条件説(有力説・登記実務)
死産を解除条件として,胎児中でも制限的な権利能力をを認め,死産の場合に遡及して権利能力を消滅させる。
B:停止条件説(判例:阪神電鉄事件・大判昭 7.10.6)
生きて生まれることを停止条件として,胎児中は権利能力を認めず,無事に生まれたら不法行為や相続開始の時に遡及して権利能力を取得させる。
★ポイント
判例も登記実務も,胎児の保護の観点から,角度を変えて使い分けているにすぎない。
懐胎
父死亡
出産
権利能力なし
出生
停止条件説
遡及して権利能力あり
権利能力あり
死産
解除条件説
遡及して権利能力なし
◇胎児の登記◇
xxxx
亡xxxx妻xxxx胎児
xxxx
持分4分の2
大阪市○○町○番地
4分の1
大阪市○○町○番地
4分の1
相続人(被相続人 xxxx)
大阪市○○町○番地
母の住所
【4】外国人の権利能力
外国人は,法令または条約に禁止または制限が規定されている場合を除き,わが国においても権利能力を有する(平等主義の原則,国際協調主義・3Ⅱ)。
* 法令による制限:鉱業権,日本船舶・日本航空機の所有,信託法の受益者。
【5】権利能力の終期
1.消滅
自然人の権利能力が消滅するのは,死亡した時である。
* 失踪宣告により死亡が擬制(31)されるが,従来の住所・居所での権利関係の確定のためであり,その者が生存していればその人の権利能力がこれにより消滅するものではない。
* 法人の権利能力の終期は,清算結了(73)の時である。
2.同時死亡の推定
a.同一または各別の原因で死亡した場合,死亡したxxのうち1人が他の者の死亡後もなお生存したことが明らかでないときは,これらの者は,「同時に死亡したものと推定」される(32 の 2)。
⇒ 死亡時の前後が証明できない場合も含まれる。
b.効果
被相続人と相続人の関係に立つ者同士の間でも相続は起こらず,遺言者と受遺者の間でも遺贈は効力を生じない。
* 代襲相続は認められる(887)。
(死亡)夫 A = 妻 B
長男X (死亡)xxD = 妻X
子Z
⇒ Xについて,死亡順が,
①A・②DならばDの相続人として A の財産(8 分の 1)を相続し,
同時または①D・②A ならばZが代襲相続人となり A の財産を相続しない。
二.意思能力
【1】意義
自己の行為の結果を弁識するに足りるだけの精神能力。
∵ 個人の自由意思の尊重と私的自治の原則より当然に導かれる。
⇒ 自己の行為によって自己の権利義務にどのような変動が生じるかが理解できる能力(5歳から6歳の程度の精神能力)を示す。
【2】効果
意思無能力者の法律行為は無効とされる(通説・判例,xx規定はない)。
(ex.) 高度の精神病者,就学前の幼児(大判明 38.5.11),酔っぱらい。
三.行為能力
【1】意義
自らの行為により,法律行為の効果を確定的に自己に帰属させることができる能力。
【2】制限能力者制度
意思能力のない者その他判断能力が不十分な者を定型化し,それらの者を保護するとともに,取引の相手方に警戒を与えるための制度である。
∵ 法律行為時に,意思無能力であったことを証明するのは困難で,たとえ証明できたとしても取引の相手方に不測の損害を与える。
⇒ それらの者に一定の保護監督者をつけ,能力不足を補充させ,単独で行った法律行為は後から取り消すことができるものとした(4,9,12Ⅳ,16Ⅳ)。
【3】未xx者(年齢に基づく制限能力者制度)
1.意義
原則 | 満 20 年に満たない者(4) |
例外 | 婚姻によるxx擬制(753) ⇒ xxに達したものとみなす |
2.行為能力の範囲
原則 | 未xx者が,契約等の法律行為をするには,その法定代理人の同意を要し,同 意を得ないでなした法律行為は取り消すことができる(5) |
例外 | ① 単に権利を得,または義務を免れる行為(5) ⇒ 貸金の領収,負担付遺贈の受領・放棄,相続の承認・放棄は該当しない ② 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産(5Ⅲ) ⇒ その目的の範囲内で処分しなければ原則に戻る ③ 目的を定めないで処分を許した財産を処分する行為(5Ⅲ) ⇒ 小遣いを貯めてバイクを買うのは同意不要 ④ 法定代理人から「一種または数種」の「営業」を許された未xx者の,営業に関する行為(6Ⅰ) ⇒ 営業とは,広く営利を目的とする独立の継続的事業 ⇒ 1個の営業の一部に限定して許可することは不可 ⇒ 法定代理人には許可の撤回が認められている(6Ⅱ) * 商行為にあたり商業登記による公示をしている場合,撤回の旨の登記を欠くと善意の第三者に対抗できない! |
◇判例学説◇
xx擬制を受けた者が 20 歳に達する前に離婚等により婚姻が消滅した場合,制限能力者に戻るか,それともxx擬制の効果は継続するか?
A:制限能力者に戻るとする見解
B:xx擬制の効果は継続するとする見解(通説・戸籍実務)
* 不適齢により婚姻が取り消された場合(744,731)において,取消の時点においてもなお不適齢である当事者については,xx擬制の効果が消滅する(昭 30.5.28 民二 201 号)。
3.法定代理人
a.第一次的 親権者(818,819)
第二次的 未xx後見人(838)
⇒ 1 人に限られる。
⇒ 親権を行うものがいない場合,または親権を行うものがこの財産を管理する権限を有しない場合。
b.権限
同意権(4Ⅰ),代理権(824,859)を有する。
⇒ 同意は黙示でもよい(大決昭 5.7.21)。
⇒ 未xx者でも,取引の相手方に対してなされてもよい。
⇒ 同意は事前(または同時)になされることを要し,事後になされたときは追認となる。
【4】xx被後見人
1.意義
精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にあって,家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者(7,8)。
2.審判の要件
家庭裁判所は,審判の要件を備えるときは,必ず審判しなければならない。
実質的要件 | 精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にあること |
形式的要件 | 本人・配偶者・四親等内の親族・未xx後見人・未xx後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人・検察官から, 家庭裁判所への請求があること |
3.審判の効果
a.後見開始
xx被後見人には,xx後見人が付けられる(家庭裁判所が職権で選任・8,
838②)。
資格 | 制限なし ⇒ 欠格事由(未xx者,破産者等,847)に注意 ⇒ 法人も可能(843Ⅳかっこ書) ⇒ 配偶者法定後見制度(旧 840)は廃止 |
員数 | 制限なし ⇒ 未xx後見人は1人に限られる(842) |
職務 | xx被後見人の療養・看護に務め(858),その財産の管理および財産に関する法律行為の代理をなす(859) ⇒ xx後見人がxx被後見人の居住用不動産を,売却,賃貸,賃貸借の解除,抵当権の設定などの処分をする場合,家庭裁判所の 許可が必要(859 の 3) |
b.xx被後見人の行為能力
原則 | xx被後見人の行為は,取り消すことができる(9) ⇒ xx後見人の同意を得て行った行為でも取り消せる(xx後見人には同意権はない) ∵ 精神状態の絶えず変化するxx被後見人に,あらかじめ同意を与えたとしても,期待どおりに本人が行為をすると は限らない |
例外 | ① 日用品の購入その他日常生活に関するものを除く ② 一定の身分上の行為(婚姻・協議離婚等)は,それが事理弁識能力を回復している間になされたものであれば単独で有効になしうる |
c.登記による公示
後見開始の審判が確定したときは,裁判所書記官が登記所に対して後見登記の嘱託をする(後見登記 2,4)。
4.後見開始の審判の取消
事理弁識能力を欠く常況でなくなり,保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人を除く7条に掲げられた者からの請求があれば,家庭裁判所は後開始の審判を取り消さなければならない(10)。
⇒ 後見開始の審判は,将来に向かって解消する。
【5】被保佐人
1.意義
精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分であって,家庭裁判所の保佐開始の審判を受けた者(11,12)。
⇒ 後見開始の審判の申立をした者が,鑑定の結果,保佐開始の審判の申立に変更 することも許される。
2.審判の要件(11)
実質的要件 | 精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分であること |
形式的要件 | 一定の請求権者による家庭裁判所への請求があること |
3.審判の効果
a.保佐人
保佐開始の審判があると,保佐人が必ず付けられる(12)。
b.保佐人の地位・権能
代理権 | x x:認められない 例 外:家庭裁判所の審判(876 の 4) ⇒ 特定の法律行為について代理権を付与できる。 ⇒ 本人以外からの請求の場合は,本人の同意が必要(同Ⅱ) ⇒ 付与の対象は,13 条1項列挙のものに限定され ない ⇒ 被保佐人の居住用不動産の処分は家庭裁判所 の許可が必要(876 の 5Ⅱ,859 の 3) |
同意権 | 13 条1項および2項の行為について,同意権を有する |
取消権(120Ⅰ) | 認められる |
追認(122) | 認められる |
c.被保佐人の能力の範囲(13)
原則 | 日用品の購入等の日常生活に関するものやその他の財産行為は,保佐人の同 意を要せず単独でなしうる |
例外 | 重要な財産行為は,単独ではできない ⇒ 保佐人の同意が必要 ⇒ 同意を得ないで 13 条に列挙の行為を単独で行ったときは,これを取 り消すことができる * 保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわら ず同意をしないときは,家庭裁判所は,被保佐人の請求により,保佐人の同意に代わる許可を与えることができる(12Ⅲ) |
◇13条の同意事項(重要な財産)◇
① 元本の領収・利用
② 借財,保証
③ 不動産など重要財産の権利の得喪
④ 訴訟行為
⑤ 贈与(負担のない贈与をうけることは含まれない),和解,仲裁契約
⑥ 相続の承認・放棄,遺産分割
⑦ 贈与・遺贈の拒絶または負担付贈与・受贈の受諾
⑧ 新築・改装・大修繕
⑨ 602 条の短期賃貸借を超える賃貸借
⑩ 家庭裁判所の指定行為
がん しゃく ふ
そ ぞう
そう ぞう しん たん か
呪文 「 元・借 ・不・訴・贈・相・贈・新・短・家 」
d.登記による公示
保佐開始の裁判が確定したときは,裁判所書記官が登記所に対して保佐の登記の嘱託をする(後見登記 2,4)。
【6】被補助人
1.意義
精神上の障害により事理弁識能力が不十分であって,家庭裁判所の補助開始の審判を受けた者(15)。
2.審判の要件(15)
実質的要件 | 精神上の障害により事理弁識能力が不十分であること |
形式的要件 | ① 一定の請求権者からの請求があること ② 本人以外の者の請求によるときは,本人の同意を得ること |
3.審判の効果
被補助人には必ず補助人が付される(16)。
⇒ 家庭裁判所は,補助人に同意権または代理権の一方または双方を付与する旨の審判をしなければならない(15)。
同意権 | 13 条1項に定められている行為の一部について,補助人に同意権を付与する旨の審判をすることができる(17) ⇒ 本人以外の者の請求によってこの審判をするには,本人の同意を得ることを要する(17) ⇒ 日用品の購入その他日常生活に関する行為は除外される |
取消権 | 補助人が同意権を有するときは,その同意なくしてなされた特定の法律 行為について,補助人に取消権が認められる(120Ⅰ) |
代理権 | 家庭裁判所は,特定の法律行為について,補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる(876 の 9Ⅰ) ⇒ 本人以外の者の請求によってこの審判をするには,本人の同意を得ることを要する(876 の 9Ⅱ,876 の 4Ⅱ) ⇒ 対象は,13 条1項所定のものに限定されない ⇒ 被補助人の居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要である(876 の 10Ⅰ,859 の 3) |
4.被補助人の能力の範囲
補助人が同意権を有する行為を除き,原則,被補助人は単独で行うことができる。
⇒ 例外:代理権,同意権が付与された場合
⇒ 補助人の同意を要する行為について,補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは,家庭裁判所は,補助人の同意に代わる許可を与えることができる(17)。
5.登記による公示
補助開始の審判が確定したときは,裁判所書記官が登記所に対して補助の登記の嘱託をする(後見登記 2,4)。
【7】任意後見
本人が事理弁識能力を有している間に,将来精神上の障害によってその能力が不十分となる場合に備え,任意後見人に後見事務に関する代理権を付与する「任意後見契約」を締結し,家庭裁判所選任の任意後見監督人の監督のもとで,任意後見人の保護を受けることができる制度。
1.契約の要件
a.任意後見監督人が選任された時から,効力が生ずる旨の停止条件特約を付す(任意後見 2①).
b.xx証書による(任意後見 3)。
2.任意後見契約の登記
任意後見契約が成立したときは,xx証書を作成した公証人が登記所に任意後見契約の登記を嘱託する(公証 57 の 3)。
3.精神上の障害の程度
家庭裁判所に任意後見監督人の選任を請求するには,本人に少なくとも法定後見の補助類型に相当する精神上の障害が発生したことを要する。
4.任意後見監督人の登記
任意後見監督人が選任されたときは,裁判所書記官が登記所に任意後見監督人の登記を嘱託する(家審 15 の 2)。
5.任意後見制度の流れ
任意後見契約(xx証書) → 登記 → 法律判断が不十分(医師の診断) →家庭裁判所へ任意後見監督人の選任請求 → 選任(任意後見の効力発生) → 受任者が任意後見人となる → 登記
【8】制限能力者と取引する相手方保護の制度
制限能力者と取引をした相手方が,すみやかに有効または無効を確定できるよう,四つの制度を設けた。
∵ 制制限能力者側が取消権を行使すると,遡及的に無効となり(121),善意者の保護もなされない(静的安全の強調)。
1.相手方の催告権(20)
a.制度趣旨
制限能力者の相手方は,取り消されるかどうかわからない不安定な状態にあるため,相手方に催告を与え,法律関係をすみやかに確定する。
b.要件
① 催告の受領する能力(98 の 2)があり |
② 取消または追認をなしうる者(120,122)に対し |
③ 1 ヵ月以上の期間を定め確答を促すこと ⇒ 催告期間が1ヵ月未満の場合,期間を定めないで催告した場合は無効であり,仮に 1 ヵ月を経過しても催告は有効とならない |
c.確答のない場合の効果
制限能力者側が確答を発しなかったときは,催告を受けた者が単独で追認しうる場合なら追認,そうでない場合なら取消とみなされる
2.詐術を用いた場合の取消権の排除(21)
a.制度趣旨
制限能力者が,自分が能力者であると相手方に誤信させるために「詐術」を用いた場合,もはや保護する必要はない(xxx,取引の安全)。
b.要件
① 「能力者であることを信じさせるため」詐術を用いたこと ⇒ 同意権者(親権者・未xx後見人・保佐人・補助人)の同意があったと誤信させようとした場合も含む |
② 「詐術」を用いたこと ⇒ 単なる「黙秘」は「詐術」にあたらない ⇒ しかし,それが制限能力者の他の言動などとあいまって,相手方を誤信さ せ,または誤信を強めたと認められるときは「詐術」にあたる(最判昭 44.2.13) |
③ 相手方が,能力者であること,または同意権者の同意を得たと「信じた」こと ⇒ 詐術があっても,相手方が制限能力の事実を知っていた場合には,取消権は排除されない |
c.効果
制限能力者(法定代理人も含む)は,その行為を取り消すことができない(21)。
⇒ 相手方は,詐欺を理由とする取消(96)はできない。
3.法定追認(125) ⇒ 第 5 章「無効と取消」を参照
4.取消権の短期消滅時効(126) ⇒ 第 5 章「無効と取消」を参照