は既に存在しているいわゆる D&O 保険について新たな規律を設けるというものです。
日本取引所グループ金融商品取引法研究会
令和元年会社法改正(4)-補償契約・役員等賠償責任保険契約-
2020 年 11 月 27 日(金)15:00~17:01
オンライン開催
出席者(五十xx)
xx | xx | 東京大学大学院法学政治学研究科准教授 |
xx | xx | 関西学院大学法学部教授 |
xx | xx | 同志社大学法学部教授 |
xx | xx | 甲南大学共通教育センター教授 |
xx | xx | 広島大学大学院人間社会科学研究科実務法学専攻教授 |
xx | xx | 京都大学大学院法学研究科教授 |
xx | xx | 大阪大学大学院高等司法研究科教授 |
xx | xx | 早稲田大学大学院法務研究科教授 |
xx | x | 学習院大学法学部教授 |
xx | xx | 京都大学大学院法学研究科教授 |
xx | xx | 京都大学大学院法学研究科教授 |
xx | xx | 京都大学大学院法学研究科教授 |
xx | xx | 京都大学大学院法学研究科准教授 |
xx | xx | 同志社大学法学部教授 |
xx | xx | 京都大学大学院法学研究科教授 |
xx | xx | 立教大学法学部教授 |
xx | xx | 大阪大学大学院高等司法研究科教授 |
xx | xx | 京都大学大学院法学研究科准教授 |
【報 告】
令和元年会社法改正(4)-補償契約・役員等賠償責任保険契約-
京都大学大学院法学研究科教授
x x x x
目 次
Ⅰ. 改正の背景
Ⅱ. 改正法の概要
1.補償契約(430 条の2)
2.役員等賠償責任保険契約(430 条の3)
Ⅲ. 改正法の検討
1.補償契約
(1-1-1)規律対象
(1-1-2)必要な手続
(1-1-3)必要な手続を欠いた場合の効果
(1-2-1)補償することができない費用等
2.役員等賠償責任保険契約
(2-1-1)規律対象
(2-1-2)必要な手続
(2-1-3)必要な手続を欠いた場合の効果
(2-2)役員等の職務の執行に関する責任保険契約・費用保険契約の締結への利益相反取引規制の適用除外
(2-3)役員等の職務の執行に関する責任保険契約・費用保険契約の締結への民法 108 条の適用除外
(2-4)事業報告における開示討論
○xx xxになりましたので、日本取引所グループ金融商品取引法研究会を始めさせていただきます。
本日は、「令和元年会社法改正」の第4回目と しまして、「補償契約・役員等賠償責任保険契約」について、京都大学のxxxx先生にご報告をい ただくことになっております。
それでは、xx先生、よろしくお願いします。
○xx xxでございます。それでは、報告を始めさせていただきます。
私に与えられたテーマは「補償契約・役員等賠償責任保険契約」です。レジュメがxxになってしまいましたが、1時間程度で報告を済ませるこ
とができるよう適宜省略しながら報告させていただきたいと思います。
Ⅰ.改正の背景
最初に、補償契約・役員等賠償責任保険契約に関する今回の改正に至るまでの動き等について、簡単に振り返っておきたいと思います。
補償契約・役員等賠償責任保険契約とも、今般の会社法改正に当たっては、当初より、「取締役の報酬等」という項目とあわせて、「取締役等への適切なインセンティブの付与」の枠組みの中で検討されてきたものです。いずれの契約にも、会社が優秀な人材を確保するとともに、損害賠償責任へのおそれから職務の執行が萎縮することがな
いようにする仕組みとしての意義が認められます。しかし、両契約とも会社が契約当事者となるも
のであるにもかかわらず、これまで会社法には規定がなく、どのような手続で契約を締結できるのかについての解釈も確立されていなかったことから、新たに規律を設けることとされました。
補償契約から見ていきます。
補償とは、一般には、役員等にその職務の執行に関して発生した費用や損失の全部又は一部を会社が事前又は事後に負担することをいう、とされています(xx・別冊①190 頁、xx・34 頁)。今回の改正前においても、実務上問題なく、具体的には会社法 330 条、民法 650 条に基づいて補償が運用されてきたという指摘も経済界からはあったようですが、本当にそのようなことが言えるのかどうかはよく分からないところもあり、法的安定性を高めるという見地からも明文化することが必要だとされて、今回の立法に至ったものです。補償契約は、会社が役員等に対して補償するこ とを約する契約であって、改正法は、同契約を締結するための手続、同契約と利益相反取引規制の
関係、補償契約の開示などについて定めています。次に、役員等賠償責任保険契約ですが、こちら
は既に存在しているいわゆる D&O 保険について新たな規律を設けるというものです。
D&O 保険は、我が国では平成2年に「会社役員 賠償責任保険」という商品名で販売が開始されま した。本報告では、我が国で現に販売されている ものを指して「D&O 保険契約」あるい「D&O 保険」と呼ぶことといたします。
その後、平成5年の商法改正、これは株主代表訴訟の手数料を引き下げるという実務的には大きなインパクトを持つ改正であったわけですが、この改正の際に、今後株主代表訴訟が増加することが見込まれたことから、D&O 保険にも注目が集まることになり、この保険の保険料を会社が負担するのは、我が会社法制の下で問題があるのではないか、具体的には適法な手続を経ない責任免除になるのではないか、あるいは報酬規制の潜脱にな
るのではないかということが議論になりました。そして、この問題を解決するためのというか、 この問題が生じないようにするための実務的工夫として、平成5年に、取締役が株主代表訴訟で敗訴して会社に対して損害賠償責任を負担するリスクは、D&O 保険の主契約ではカバーせずに、株主代表訴訟担保特約条項という特約でカバーすることにしたうえで、特約部分の保険料は取締役個人が負担するという形に改められました。そして、このような実務が 20 年以上続いてきたところで
す。
ところが、平成 27 年に経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が公表した報告書の別紙3「法的論点に関する解釈指針」において、取締役会の承認に加えて、社外取締役が構成員の過半数を占める任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意がある場合には、株主代表訴訟担保特約部分の保険料を会社が負担することができるという旨の解釈が示されました。
経産省の研究会がこのような解釈指針を示した 背景には、比較法的に見ても、我が国のようなあ る意味面倒な工夫をして会社法規制との抵触を避 けているような国はなくて、我が国のxxでも、 株主代表訴訟敗訴部分も含めて会社が保険料を負 担することが可能であるという見解が徐々に増え てきていたということがあったと思われます。そ して損保業界も、この解釈指針の公表に応ずる形 で、役員が株主代表訴訟に敗訴して会社に対して 損害賠償責任を負担するリスクも主契約でカバー して、その保険料を会社が負担する新型の D&O 保険契約の販売を始めたことから、D&O 保険市場 でも新型商品が一気に増えたようです。ただ、完 全に旧型に取って代わったというわけではなくて、旧型商品を選択している会社もなおあるというこ とを聞いています。
しかしながら、経産省の研究会がお墨付きを与えたからといって、それで責任免除規制との抵触の問題、利益相反の問題が完全に解決されたとい
うわけでもなく、法的安定性のためにもxxの規律が望ましいとして、法制審において検討すべきテーマとして取り上げられたということであったかと思います。
法制審では、経済界は立法すること自体に対して一貫して反対していましたし、今回改めて議事録を読み返してみましたが、その反対姿勢は見事なまでに一貫していたように思います。しかし、経済界の意見が容れられることはなく、D&O 保険契約は会社法の規律の対象とされることになりました。
改正法は、D&O 保険に当たるものを役員等賠償責任保険契約としたうえで、これを締結するためにとるべき手続、さらには同契約と利益相反取引規制の関係、契約内容の開示などについて定めています。
Ⅱ.改正法の概要
レジュメのⅡでは、補償契約と役員等賠償責任保険契約に分けて、今般の改正の項目だけをまとめています。時間の関係で、この部分の説明は割愛させていただきます(レジュメ 2 頁)。
Ⅲ.改正法の検討
1.補償契約
(1-1-1)規律対象
430 条の2第1項が規律対象としているのは、補償契約の締結です。したがって、補償契約によらずに補償を行うことは今般の改正法の規律対象外となりますが、補償契約の締結について規定が設けられた改正法の下で、補償契約によらずに補償することができるのかどうかについては、議論があります。これについては後ほど見たいと思います。
430 条の2第1項柱書きによれば、補償契約とは、1号が定める①いわゆる防御費用、又は2号が定める②第三者に対する賠償金(イ)若しくは和解金(ロ)の全部又は一部を役員等に対して補償することを約する契約である、と定義されてい
ます。
改正法は、2号のイとロを合わせて「損失」、そして、1号の「防御費用」と2号の「損失」を合わせたものを「費用等」と呼んでいます。
①「当該役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用 」(430 条の2第1項第1号)
②役員等がその職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における イ「当該損害を当該役員等が賠償することにより生ずる損失」(同第2号イ)
ロ「当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成立したときは、当該役員等が当該和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる損失」(同第2号ロ)
まず、1項1号の防御費用としては、役員等が責任追及の請求を受けたときに支出する費用、たとえば弁護士に対して支払うべき弁護士報酬が念頭に置かれていますが、防御費用については役員等に悪意・重過失があったときでも補償することができることになっています(xxほか・別冊② 36 頁)。
このことは、損失については、役員等に悪意・重過失がある場合には補償の対象とならないことを定めている2項3号の反対解釈からも明らかですが、立案担当者によれば、悪意・重過失がある場合でも、適切な防御活動を行い得るようにしてやることが会社の損害拡大の抑止等にもつながり得ること、防御費用の補償に限るのであれば、職務の執行の適正性が損なわれるおそれが高いとまではいえないということが、このような規律を採用した理由だとされています( xx編著・112頁)。
また、対第三者責任に限らず、対会社責任の追及を受ける場合の防御費用も含まれます。これも
1項2号の損失が対第三者責任に限っているのと
は異なっていることから明らかとなります。
1項2号の損失の例としては、1項2号だけを 見れば、役員等が民法 709 条や会社法 429 条1項 に基づいて第三者に対して責任を負う場合が想定 されます。ただ、会社が補償するということは会 社に補償するだけの資金があることを意味します ので、小規模閉鎖会社で会社法 429 条1項が問題 となるようなケース、すなわち会社に支払能力が ないがゆえに取締役等の責任が追及される直接損 害事例や間接損害事例は補償の文脈ではそもそも 想定しなくてよいのだろうと思います。その結果、
1項2号の損失としては、取締役が職務の執行に関して第三者の生命・身体、財産、人格xxを侵害したことによって、民法 709 条や会社法 429 条
1項に基づいて対第三者責任を負うような場合が想定されることになります。
ただし、これは後で取り上げることですが、取締役が対第三者責任を負う場合は、会社も賠償責任を負わされることが多く、この場合にはそもそも2項2号の規定によって補償ができなくなる可能性が高くなります。また、これも後で取り上げますが、2項3号の解釈によっては、役員等が 429 条1項の責任を負うことになる場合も補償ができなくなると考えられますので、会社が補償契約に基づいて損失を補償することができる、つまり賠償金や和解金を補償することができるというケースは、実際には非常に限定されることになるのではないかとも考えられるところです。
なお、1項1号・2号の規定によると、役員等が会社に対して負う責任に係る賠償金・和解金については補償することはできないということになりますが、これは、もしこれらを補償の対象にできるとすると、会社法 424 条以下の責任免除手続によることなく損害賠償責任を免除することになってしまうためです(xx編著・115 頁)。これを避けるため、損失の補償は、対第三者責任に限って認めることとされています。
○「職務の執行に関し」の意義
続いて、1項1号・2号にいう役員等の「職務の執行に関し」という問題についてです。
補償の対象とすることができる防御費用も損失も、役員等の職務の執行に関して生じたものであることが必要です。立案担当者は、役員等としての職務の執行に関連性を有することを指すのだと説明しています(xx編著・108 頁)。この立場では、職務執行に関連していれば、補償対象となり得ることになります。
一方、ここでいう「職務の執行に関し」とは、役員等の地位と関係なく請求を受けた場合には補償の対象にならないことを示しているのだとする立場もあります(xx・36 頁)。こちらの立場をとりますと、例えば役員等が、通勤を含む職務のための移動時に自動車──自転車でもよいのかもしれませんが──の運転を誤って損害賠償責任を負うことになるような場合は、あくまでも運転者として請求を受けるのであって、役員等の地位と関係なく請求を受けるといえますから、おそらくは補償はできないことになるのではないかと思われます。
しかし、本条1項1号・2号の「職務の執行に関し」と同じ文言が用いられている 430 条の3、これは役員等賠償責任保険契約に関する条文で、その第1項、第2項でも「職務の執行に関し」という文言が用いられているのですが、そちらに関しては、少なくとも立案担当者は、自動車損害賠償責任保険や海外旅行保険の賠償責任保険部分で保険保護が与えられ得るような行為も「職務の執行に関し」に当たり得るのだと解しているように思われます。
というのは、430 条の3第1項と会社法施行規則 115 条の2第2号では、職務の執行に関して責任を負うという概念と職務上の義務違反や任務懈怠によって責任を負うという概念を明確に使い分けており、それは自動車事故による責任は職務の執行に関して負う責任には当たり得るが、職務上の義務違反や任務懈怠によって負う責任には当たらないという考え方に立っていることを示すもの
といえるからです。仮に、自動車の運転による損 害賠償責任はもともと職務の執行に関連しないの だとすると、自動車賠償責任保険を改正法の規律 対象から除外するための規定を法務省令に置く必 要はなかったはずですが、法務省令でそのための 規定を置いたということは、「職務の執行に関し」という概念は、職務のために移動する際の自動車 運転による責任のようなものも含んでいると解す るのが自然であるといえます。
自動車の運転による損害賠償責任や海外出張中 の財物毀損による責任は、通例、そのための保険 によってカバーされますので、わざわざ補償の対 象にするニーズは余りないようにも思われますが、常に保険によるカバーがあるとは限らず、それか ら漏れてしまうということもあります。そのよう なケースで会社が補償を行うことができるならば、それなりの意義があると思われますので、補償の 対象を広くとるという考え方は支持できると思い ます。とりわけ、後で見るように、役員等として の狭い意味での職務執行に係る対第三者責任を補 償することは、非常に限定的な範囲でしか認めら れていませんので、職務執行そのものではなく、 職務執行に関連して負担し得る責任を補償の対象 とすることは、せっかく作った法律規定を死文化 させないためにも肯定されてよいのかなと思って います。
レジュメではこのほか補償の対象、補償契約の相手方等々についても書いていますが、時間の関係で、省略させていただきます。
○補償契約に基づいて補償を実行した場合の効果もし仮に、補償契約によらずに、役員等が第三 者に対して支払うべき賠償金や和解金を会社が肩代わりして支払ったとすると、会社は民法 499 条の弁済者代位によって役員等に対して賠償請求権
(求償権)を取得することになりますし、それを 放棄することは債務免除に当たるので利益相反取 引になり、それを放棄しなければ、代表訴訟で株 主が行使できることになると解されます。しかし、
補償契約に基づく補償として会社が賠償金・和解金を支払う場合には、会社は役員等に対する賠償請求権を取得することはないと考えられます。これが所定の手続を経て補償契約を締結することの実質的な意義だと見ることもできます(座談会・ソフトロー研究 29 号 85 頁〔xx〕)。
○補償契約を締結することなく補償を行うことの可否
改正法が規律するのは「補償契約の締結」であ って、契約締結なしに補償を行うことができるか どうかについて、改正法は沈黙しています。商事 法務誌上での座談会でも、これが主要論点の一つ とされているのですが、どうも結論がはっきりし ないようです(座談会・別冊②99~100 頁参照)。
民法 650 条に基づいて補償を行うことは補償契約がなくても可能であることについては、どうやら異論がなさそうですが、役員等が過失により対第三者賠償責任を負った場合やそれに関して費用を負担する場合は、民法 650 条3項という規定があるために、民法の規定に基づく補償はできないと考えられます。そこで、この場合の補償は、いちいち改正法 430 条の2第1項の手続に従った補償契約を締結してからでなければすることができないのか、それとも補償契約の締結なしに補償してもよいのかということが問題となります。
補償契約に基づいて補償を行う場合には、前述 のとおり、賠償金・和解金を会社が肩代わりして も会社は役員等に対する賠償請求権(求償権)を 取得しないという効果が生じると考えられますが、補償契約に基づかない補償として会社が肩代わり する場合には、会社が代位取得する役員等に対す る賠償請求権は消滅しないと思われます。賠償x x者が取締役・執行役である場合、この代位取得 した賠償請求権を消滅させるには利益相反取引規 制に従わなければならないと解されますし、その 請求権を放棄することに賛成した取締役は任務懈 怠の推定が働くと解されます。
このように利益相反規制に従わなければならな
いのだと解するのであれば、賠償金・和解金に関して補償契約に基づかない補償を認めても大きな支障はなさそうにも思えます。ただ、後で見ますように、第三者への加害行為によって役員等のみならず会社も第三者に対して損害賠償責任を負わされることになり、そのことについて役員等が会社に対して任務懈怠責任を負う場合には、本条2項2号によって損失の補償を行うことはできないことになっていますが、その根拠は、会社法 424条以下の責任免除規制の潜脱防止にあるとされています。そうすると、補償契約によらずに補償する場合も、利益相反取引規制がかかってくるからそれでオーケーだということにはならず、責任免除規制の潜脱にならないかどうかということを考える必要があります。
その結果、補償契約によらずに損失を補償する場合も、やはり本条2項2号の制約が同じようにかかってくるのだというふうに考えますと、実際に補償契約に基づかずに損失を補償することができる場合は非常に限定されることになると思われます。
一方、防御費用については、これを補償するこ とで会社が当然に求償権を取得するということに はなりません。また、補償契約を締結して防御費 用を補償する場合には、契約の定め方によっては、所定の要件を満たせば会社が多額の補償を行うx xを負ってしまう可能性がありますが、契約に基 づくのではなく個別的に補償の要否や補償額を会 社が判断し得るようなケースでは、過大負担のリ スクは大きくないから、個々的な経営判断に基づ いて補償を行うこととしても大きな支障は生じな いという見方もあり得るだろうと思います。そし て、取締役・執行役に過失がある場合に防御費用 を補償するには利益相反取引規制に服しなければ ならないと解するのであれば、利益相反規制を潜 脱することにもなりませんから、補償契約を締結 することなく補償することを否定しなければなら ない理由はないようにも思われます。
とはいえ、1項の手続に従って補償契約を締結
してから防御費用を補償する場合には利益相反取引規制がかからないのに対して、補償契約なしに補償する場合には利益相反取引規制がかかってきて、賛成取締役は任務懈怠の推定が働くということになるのであれば、補償契約なしに防御費用を補償することの実益はほとんどないようにも思われます。実際に費用が発生した後で補償契約を締結することも可能ですから、本条1項の手続に従って補償契約を締結したうえで補償する方が多分面倒はないのかなという感じがします。
(1-1-2)必要な手続〔430 条の2第1項柱書き〕
○複数の役員等と補償契約を締結する場合
複数の役員等と補償契約を締結する場合(補償契約が複数ある場合)に、補償契約ごとに取締役会の承認が必要となるか。例えば、補償契約を締結する取締役が 15 人いれば、15 回決議することが必要になるかという問題があります。
理論上は、多分そういうことになるのだろうと思います。補償契約の相手方となる取締役は、特別利害関係人になると解される(xx・別冊② 148 頁、xx・別冊②243 頁)ことから、自己が当事者となる補償契約については議決に加わることができず、したがって、14 人の取締役が議決に加わるという決議を 15 回行うことになるのかなと思います。全く同じ内容の補償契約を取締役の全員と締結するような場合には、承認の仕方について簡便法が認められてもよさそうにも思えますが、法形式上はやはり一個一個の契約について承認をすることになるのかなと思います。
(1-1-3)必要な手続を欠いた場合の効果
必要な取締役会決議を欠く場合、これには決議に瑕疵があって決議が無効になる場合を含みますが、この場合の効果については余り議論されていません。しかし、適正な手続を経て補償契約を締結させるという今般改正の趣旨に鑑みますと、決議を欠く場合は補償契約は無効になると解されま
す。利益相反取引における相対的無効説の議論と同様に考えるならば、役員等は補償契約の直接の相手方であって第三者ではありませんから、当該役員等が有効な取締役会決議があったと信じていた場合でも、補償契約は無効ということになるのではないかと思われます。
( 1- 2-1)補償することができない費用等
〔430 条の2第2項1~3号〕
430 条の2第2項では、1号から3号までの3つの類型について補償することができないと定めています。
この規定からして、この3つの類型は、補償契約において「補償する」と契約の中で定めることができないのみならず、仮に定めてもその部分は無効になり、補償の実行の際に現にその部分の補償をしたならば、当該補償部分は法令に違反して無効になると解されます。この場合、補償に係る費用等の支払先が取締役であっても、第三者であっても、例えば弁護士事務所のような防御費用の請求権者、あるいは損害を被った損害賠償請求権者であっても、無効部分は不当利得として返還請求できることになると思われます(xx編著・ 110 頁)。
○2項1号
2項1号によれば、防御費用のうち「通常要する費用の額を超える部分」は補償することができないとなっています。
○2項2号
2項2号によれば、会社が1項2号の第三者損 害を賠償するとすれば、当該役員等が会社に対し て 423 条1項の責任を負う場合の当該責任に係る 部分、これを補償の対象とすることができません。
この部分は、xxxxの段階では、「当該株式会社が当該第三者に対して当該損害を賠償する責任を負う場合において、当該株式会社が当該損害を賠償するとすれば、当該役員等が会社に対して
423 条1項の責任を負うときは、当該責任に係る 部分」となっておりまして、会社も賠償義務者に なる場合の規定であることが明記されていました。
xxxxの補足説明でも「株式会社に対して損 害を賠償する責任を負う場合については、対象と していない」と述べられており、その理由につい て「これは、当該損害を当該役員等が賠償するこ とにより生ずる損失を株式会社が補償することは、株式会社に対する責任を免除することと実質的に 同じことであるから、株式会社に対する責任の免 除の手続によらずに、このような損失を株式会社 が補償することを認めるべきでないと考えられる からである」と説明されていました(補足説明 34
頁〔別冊① 285 頁〕)。
要綱からは「当該株式会社が当該第三者に対して当該損害を賠償する責任を負う場合において」という要件が消え、改正法でも要綱と同様になっていますが、この文言の修正は、xxxx段階からの実質的な変更を意図したものではないように思われます(xxほか・別冊② 36 頁(注 42)参照、xx編著・104 頁)。
実際には、次のようなケースが想定されているのだろうと思います。役員等がその職務の執行に関して第三者に加害行為を行い、役員等と会社が連帯して損害賠償責任を負うような場合、すなわち、役員等は民法 709 条・会社法 429 条1項で責
任を負い、会社は民法 709 条で責任を負うという
ケースのほか、会社は会社法 350 条で責任を負う ケースも考えられますが、この場合に、会社が自 らの賠償責任を果たせば、会社は役員等に対して、役員等の任務懈怠によって会社は賠償責任を負担 させられた、そのような損害を被ったのだとして、会社法 423 条1項に基づいて責任追及ができるは ずですし、この責任を免除・減額するには会社法 424 条以下の手続が必要になるはずです。
ところが、補償により役員等の対第三者責任を会社が肩代わりするという形で第三者損害を賠償すると、補償ということの性質上、会社は役員等に求償することができなくなるために、結果とし
て、役員等の 423 条1項責任を免除したのと同じことになってしまう。そこで2項2号でこのような補償を禁じることとした、というものです(xxほか・別冊② 同頁、xx編著・117 頁)。
2項2号がこのような趣旨だとして、そうすると、1項2号の対第三者責任に係る損失について補償することができるのは一体どういうケースなのかということを考えてみたのですが、とりあえず思いついたのが次のようなケースです。
(a)役員等のみが対第三者責任を負い、会社は対第三者責任を負わない場合。(b)役員等の行為によって役員等も会社も対第三者責任を負うが、会社が責任を負わされたことについて役員等には負担部分がない、つまり、会社が役員等に求償することができないと見られる場合。(c)役員等も会社も対第三者責任を負うが、役員等は責任限定契約等により会社に対して損害賠償責任を負わなくて済む部分がある場合。
まず、(a)のケースですが、もし仮に、補償契約によらずに会社が取締役の対第三者責任を肩代わりすると、前述のとおり、会社は弁済者代位
(民 499)によって第三者に代位して取締役に対する賠償請求権を取得することになります(その賠償債務を免除するには利益相反取引規制に従う必要あり)が、1項の手続を経た補償契約を締結して補償すれば、会社は賠償請求権を取得せず、取締役を賠償義務から実質的に解放してやることが可能になります。
しかしながら、会社法 350 条という規定の存在 を考えますと、職務の執行に関する行為によって 第三者を害した取締役だけが対第三者責任を負い、会社はその取締役の行為について対第三者責任を 負わないというようなケースは、現実にはほとん ど考えられないのではないかとも思われます。例 えば、取締役が海外出張中に、業務上移動する必 要から自動車を運転して事故を起こしたようなケ ースについて、海外旅行保険では自動車事故は約 款上免責とされているので、海外旅行保険ではこ の責任はカバーされないのですけれども、そのよ
うなケースだと、取締役のみが対第三者責任を負い、会社は責任を負わないということになりそうです。しかし、これと同じようなケースがほかにあるのか考えてみましたが、ちょっと思いつくごとができませんでした。
ケース(b)も、実際には起こりにくいのではないかと思います。例えば、取締役Aの行為によって第三者に損害が生じ、会社も当該損害額につき損害賠償義務を負ったとして、行為取締役のAはその全額について会社に対して 423 条1項責任を負うとします。そして、損害を被った第三者から監視義務違反による責任を問われた取締役Bについては、423 条1項責任の額が、寄与度等を考慮した結果、対第三者賠償責任額の一部にとどまるようなケースがもし実際に生ずるならば、ケース (b)に当たると言えそうです。
しかし、たとえ監視義務違反の責任を問われる平取締役であっても、会社との関係において会社の責任額の一部しか責任を負わないということが果たしてあるのだろうか。会社との関係では、負担部分は常に会社ゼロ、取締役B100 になって、会社の損害の全額について責任を負わされるのではないかと思われます。行為した取締役Aとの関係では、負担部分がA100、Bゼロになることはあるとしても、会社との関係では、たとえ監視義務違反による責任であろうと、損害の全額について責任を負わされることになるのが原則ではないかと思われます。そうすると、ケース(b)も実際にはなかなか起こりにくそうです。
一方、ケース(c)は、2項2号の規定によってもなお会社が補償できる例として立案担当者が挙げているものです(xx編著・117 頁)。このケースでは、確かに会社に対する関係では賠償責任を負わない部分が出てきますので、その部分については、会社が補償しても2項2号に違反しないことになります。
○2項3号
2項3号によれば、役員等がその職務を行うに
つき悪意・重過失があった場合の1項2号の損失は補償することができません。職務を行うにつき悪意・重過失がある場合にも損失の補償を行うことを認めると、職務の適正性を害するおそれが高く、逆にこの補償を認めなくても、職務を萎縮させることはないというのが、この立法趣旨と考えられます。
1項2号の損失とは、対第三者責任を負う場合の賠償金・和解金を指し、会社法 429 条1項の対第三者責任は、そもそも役員等がその職務を行うにつき悪意・重過失があった場合に生ずるものですから、この両規定を普通に読むと、429 条1項によって役員等が対第三者責任を負った場合にその責任について補償することはできないということになりそうです。この点に関して、2項3号にいう「重過失」と 429 条1項の「重過失」の意味は必ずしも同じではないとして、429 条1項責任が認められる場合であっても補償が許されることもあるとする見解もありますが(xx・別冊② 150 頁)、この両規定の「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があった」という文言が完全に一致していることからしますと、これら2つの規定にいう「重過失」の意味内容が異なるとみるのは、解釈としてかなり苦しいのではないかと思われます。
そこで、両規定にいう「重過失」が同じだとしますと、2項3号によっても補償が禁じられないのは、第三者に対して民法 709 条の責任を認められるにとどまり、会社に対する任務懈怠については悪意・重過失はないので、会社法 429 条1項の責任は負わないと言える場合ということになります。
立案担当者は、そのような例として、会社の従業員が労災に遭うケースを挙げています。すなわち、取締役が適正な労働条件を確保する注意義務に違反し、軽過失はあったとされるため、労災被害を受けた従業員に対して取締役は損害賠償責任を負うけれども、会社法 429 条1項にいう職務を行うについての悪意・重過失があったとまでは言
えないケースです(xx編著・118 頁)。
しかしながら、このような労災のケースでは、会社も当然に従業員に対して責任を負うでしょうし、その場合、会社に賠償責任を負担させてしまったことについて、取締役は 423 条1項の任務懈怠責任を会社に対して負う可能性が高く、そうすると、前述のとおり、2項2号によって補償ができなくなるのではないかと思われます。結局、取締役の職務の執行に関して不法行為責任は認められるけれども、429 条1項の任務懈怠責任は負わず、かつ会社は損害賠償責任を負わないケース、あるいは、会社は損害賠償責任を負うけれども、その責任を負わせたことについて取締役の 423 条
1項責任が限定されるようなケース、要するに2項2号にも、2項3号にも引っかからないケースというのは相当に限られるのではないかと思われます。職務のために移動する際の自動車の運転が職務の執行に関するものだと言えるのであれば、こういう稀なケースに該当することになるのかなと思います。
○2項各号に当たるかどうかの判断
2項各号の制限には抵触しないと判断して補償したけれども、結果的に制限額を超えて補償してしまったという場合、補償の実行に関与した取締役は当該超過額について会社に対して任務懈怠責任を負うと解されます(xx編著・110 頁)。ところが、これは法令違反による責任であるため、xx證券事件最高裁判決を前提としますと、補償の実行に関与した取締役は法令違反にはならないと判断したことについて無過失であることを立証しないと、任務懈怠責任を免れ得ないのではないかと思われます。
1号については、通常要する費用の額とは幾らなのか、2号・3号については、会社が損害賠償責任を負うのか、役員等が会社に対して求償義務を負うのか、役員等に悪意・重過失が認められるのかといった微妙な判断を要することになりますので、法令違反リスクは決して小さくないのだろ
うと思います。ただし、この責任を役員等賠償責任保険契約によってカバーすることは可能でしょう。
○まとめ
以上をまとめますと、2項2号・3号の規定からすると、対第三者責任に係る損失(1項2号イ・ロの損失)について補償を行うことができる範囲は相当に限定されると思われます。また、1項1号の防御費用も含めて法律上許容される範囲内の補償かどうかの判断も法令違反リスクを伴ったものとなりますので、D&O 保険による保険保護なしに純粋に会社の資金でもって補償を実行するというのは現実には相当難しくなるのではないかと思われます。せっかく苦労してつくった法律の規定ですから、何とかうまく機能できればよいと思いますが、現実には、補償を行うハードルはかなり高いのではないかと思われます。
(1-3-1)以降については時間の関係で省略させていただきます。
2.役員等賠償責任保険契約
(2-1-1)規律対象〔430 条の3第1項・規則
115 条の2第1号・2号〕
「役員等賠償責任保険契約」として規律対象になるのは、①「会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関して責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることにより生ずることのある損害を保険者が填補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの」から、②「役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるもの」を除いたものということになります。この①②は、私が便宜的に付けたものです。
①の基準だけですと、現に販売されている D&O保険契約以外の責任保険契約をも大量に取り込むこととなってしまって、D&O 保険契約を適正な規律に服せしめるという本来の立法目的から外れる
ことになることから、②で限定することとされたものです。
○実際の D&O 保険約款では、保険事故に関しては
「被保険者が会社の役員としての業務につき行った行為(…)に起因して保険期間中に被保険者に対して損害賠償請求がなされたことにより、被保険者が被る損害(…)に対して」保険金を支払うというように広く定めたうえで、つまり、第三者に生じた損害については、民法 709 条や会社法
429 条1項等に基づいて賠償請求を受ける場合も 当然に含まれることになりますが、このように保 険金を支払う場合をとりあえず広く定めたうえで、填補対象とならない損害項目、例えば環境汚染損 害、財物の滅失・破損等に係る損害、人身損害等 ほかの保険でカバーされることが予定されている ようなものを、填補対象にならない損害項目とし て細かく列挙するという形がとられています。し かしながら、普遍的・汎用的であるべき法律の規 定において、D&O 保険約款をなぞるような形で
「役員等賠償責任保険契約」の範囲を画するというのは、おそらく適切とは言えません。
そこで、改正法は、①については D&O 保険約款と同様に広く抽象的に定めたうえで、②によって D&O 保険には該当しない保険を除くことにしたのだのと思われます。ただ、後で見ますように、
①の「役員等がその職務の執行に関し…」という部分の意味は、D&O 保険約款の「会社の役員としての業務につき行った行為」よりも広いのだろうと思われます。
②によって除外される保険の例として、生産物賠償責任保険(PL 保険)、企業総合賠償責任保険
(CGL 保険)、自動車損害賠償責任保険、海外旅 行保険のうちの責任保険部分があるということは、会社法部会の早い段階から指摘されていたところ ですけれども、最終的に会社法施行規則 115 条の
2において②による除外部分が具体的に示されたことになります。
○規則の1号・2号は、まさに対第三者責任に係る役員等の損害をカバーする保険契約のうち一定のものを 430 条の3第1項の規律から外すためのものです。
1号では、生産物賠償責任保険、企業総合賠償責任保険、使用者賠償責任保険のように、会社がその業務を行うに当たり、会社に生ずることのある損害を填補することを主たる目的として締結されるけれども、役員等も会社とともに被告とされることが多いため、付随的に被保険者に追加されているというタイプの保険が想定されています。このタイプの保険も、役員等を被保険者とする 部分は抽象的には①に該当しますけれども、第一次的には会社自身の責任をカバーしようとするも
のであって、利益相反性は低いと見られることや、これらに該当する保険の種類や数が膨大であって、第1項の規律を適用すると、実務上甚大な影響が 想定されるということを考慮して、これを適用除 外にしたのだと説明されています。
一方、規則の2号は、括弧書きによって、その職務上の義務違反・任務懈怠により対第三者責任を負う(又はその責任追及を受ける)ことにつき役員等が被る損害、これを③としますが、この③の損害を②から除外することを通じて、職務の執行に関して生ずる責任リスクをカバーする保険のうち、その職務上の義務違反・任務懈怠によるとは言えない対第三者責任に関して役員等が被る損害をカバーする保険契約を役員等賠償責任保険契約から除こうとするものです。
要するに、③以外の②が①から除外されるので、結局、対第三者責任に関して①に該当するのは、
③の損害に係るものだけになるというわけです。一読しただけでは非常に分かりにくい規定ぶりですが、実質的には、自動車損害賠償責任保険や海外旅行保険中の責任保険部分のように、役員等の職務上の義務違反・任務懈怠によって生ずるとは言えない対第三者責任をカバーする保険契約を1項の規律から除外しようとするものといえます。このような規律の背景には、自動車損害賠償責
任保険や海外旅行保険中の責任保険部分は、役員等の職務の執行に関して責任を負うことによる損害を填補することがあるので、特別な規定を設けて除外しないと①に含まれてしまうという前提理解があるのだろうと思います。
なお、役員等は、自動車の運転によって他人を 死傷させた場合も、事故対応や事故の報道次第で は会社の社会的評判を低下させることになるから、道交法違反も間接的には職務上の任務懈怠になる というような解釈をもしとるとすれば、規則2号 によっても、自動車損害賠償責任保険を役員等賠 償責任保険契約から除外できないことになります けれども、そのような解釈は立法趣旨には合致せ ず、とられるべきではないのだろうと思います。
(2-1-2)必要な手続〔430 条の3第1項〕
○「内容を決定する」ことが求められるのはどういう場合か。
D&O 保険契約の保険期間は通例1年とされて毎年更新されていきますが、更新時にも「内容を決定する」ための取締役会決議を要するか、という問題が商事法務誌上の座談会でも議論になっています。これに関連する問題を見ていきたいと思います。(座談会・別冊② 102 頁)。
○既に D&O 保険契約を締結している会社が改正法施行後に保険契約を更新する場合、又は改正法施行後に新規に D&O 保険契約を締結する場合は、改正法施行後に役員等賠償責任保険契約を締結することになりますから、本条1項に基づいて内容の決定をすることが当然に必要となります(座談会・別冊②102 頁〔xx〕)。
既に契約の内容を決定している会社において契約更新時に役員等賠償責任保険契約の内容が実質的に変わると言える場合、例えば保険契約の担保範囲の増減、被保険者の範囲の変更、保険金額の変更、特約の追加・撤廃といったものは実質的変更に当たると言えると思いますけれども、こういった場合にも、やはり「内容を決定する」ことが
必要になる、つまり、もう一度取締役会決議をす る必要があると考えられます。保険料額の変更も、前年度の契約とはリスク状況が変わったことを意 味しますので、やはり取締役会決議が必要になる と解したいと思います。
○今挙げたようなケースとは異なり、内容が変更されることなく役員等賠償責任保険契約が更新される場合、これには約款文言のごく形式的な修正にとどまる場合も含めて考えたいと思いますが、そのような内容の変更なしに更新される場合に、取締役が前年度の契約内容にアクセスできる状況で、「前年度と同内容で更新する」ことを取締役会に附議して承認を得るならば、取締役会の場で契約内容をいちいち説明しなくても、「内容」の
「決定」があった、すなわち、必要な取締役会決議があったと見ていいと思います。
○実務界が一番関心を持っているのは、おそらくは、同じ内容で更新される場合に、いちいち「内容を決定すること」自体が不要になる、取締役会決議自体が不要になるとまで解することができるか、あるいは、ある年度にその年度に締結する契約の「内容を決定する」とともに、「翌年以降も保険契約の内容に変わりがなければそのまま更新する」ということを決議しておけば、翌年以降の決議は不要になると解することができるかということかと思います。
この点に関して、参事官のxxxxは座談会の場で、「自動継続であったとしても、その契約のままでよいかどうかという判断はあり得ると思うのです。その際に、従前のままの契約の内容でよいか、今の状況に照らして適切な内容の保険かということを取締役に判断してもらいたいということですので、そういった実質的に判断すべき事象が起きたときには取締役会で検討いただきたい、という趣旨の規定と考えています」と述べられています(座談会・別冊②103 頁〔xx〕)。契約内容は同じでも、会社を取り巻く状況が変わり、
従前の契約内容のままだと過大又は過小な保険カバーになるおそれがあるようなケースでは、取締役会決議を要するという趣旨でおっしゃっているのかなとも思います。
しかしながら、後で見ますが、法定の決議を欠くと保険契約の効力が否定され得るということを考えますと、再検討を要することになるような実質的状況変化があったかどうかという必ずしも明確とはいえない基準で取締役会決議の要否を判断してよいのかというと、それはかなり疑問があるように思います。
内容に変わりがなくても更新のたびに毎年附議 するという手続が実務界にとって大変煩雑である ということはよく理解できますが、こういう法律 を作った以上は、少なくとも「前年度と同内容で 保険契約を更新する」ということの決定は毎年し なければならないというふうに解すべきではない かと思っています(同旨、xx・別冊②249 頁)。
○役員等賠償責任保険契約の締結についても、補償契約の場合と同様に、各取締役が特別利害関係人になるのかという問題があります。役員等賠償責任保険契約は保険者との契約であるため、法形式上は契約としては1本ですが、観念的には被保険者ごとに分割できるとして、取締役は自己を被保険者とする部分については議決に加わらない形でxx決議する。だから、取締役が 15 人いる会社では 14 人で議決する決議を 15 回行うことになる。そういう方法も立案担当者の解説では示唆されていますが(xx編著・144 頁)、当該解説では同時に、取締役の全員が共通の利害関係を持つ決議事項については会社法 369 条2項は適用されないというxxxxxの見解も紹介されています
(xxxx編『会社法コンメンタール8』158 頁
〔xxx〕(商事法務、2009 年))。
15 回決議をして、議事録にそれを残すというのは、形式主義的過ぎるのではないかとも思われますので、個人的には、xx説を支持したいと思っているところです。
(2-1-3)必要な手続を欠いた場合の効果
○改正法は、2項の保険契約には民法 108 条の適用はないとしつつ(3項本文)、役員等賠償責任保険契約については1項の決議で内容を定めた場合に限ると3項ただし書きで定めていますので、役員等賠償責任保険契約について1項の決議を欠く場合には民法 108 条の適用があって、実質的に
は 108 条2項の適用が問題になり、無権代理と同様に扱われることになります。
もっとも、430 条の3第1項の規定は、356 条
1項や 362 条4項と同様に会社保護のための規定と解されますから、決議を欠き契約が無効になるとしても、保険会社が無効主張をすることは認められず、効果不帰属の主張ができるのは会社に限られると思います。しかし、利益相反取引と状況が類似することに鑑みると、会社が無効主張し得るのは、356 条1項に関する解釈論をこの場合にも及ぼして、必要な決議を欠いていたことについて保険者が悪意・重過失であった場合に限られることになるのかなと思います。
(2-2)役員等の職務の執行に関する責任保険契約・費用保険契約の締結への利益相反取引規制の適用除外〔430 条の3第2項〕
○本項の適用対象となる保険契約
430 条の3第2項は「役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、取締役又は執行役を被保険者とするもの」には、利益相反取引規制を適用しないとしています。この結果、法務省令によって役員等賠償責任保険契約から除かれることになる保険契約(施行規則 115 条の2第1号・2号の保険契約)も 430 条の
3第2項の保険契約には含まれますので、利益相反取引規制は適用されないこととなります。
○ただし、施行規則 115 条の2第2号によって法
430 条の3第1項の規制から外され、利益相反取 引規制からも外されることになる保険というのは、責任保険及び責任追及に係る費用保険に限られて います。この文脈で用いられている「役員等のた めに締結される保険契約」という表現、これは要 綱段階からずっと用いられてきていますし(要綱 第二部第一3)、改正法の第 12 節の節見出しや
430 条の3の条文見出しでも用いられているのですが、xxすると、役員等を被保険者とするあらゆる保険契約を指しているかのごとくですが、そうではなく、430 条の3第1項・第2項の内容からして、役員等の職務の執行に関する責任保険契約及び責任追及に係る費用保険契約のみを指す概念であるということは明らかだと思います。したがって、取締役・執行役が被保険者となる保険契約も、その全てが利益相反取引規制の適用を免れるわけではなくて、取締役・執行役の職務の執行に関する責任保険契約及び責任追及に係る費用保険契約に限って適用除外となります。
海外旅行保険は、通例、被保険者自らの生命・身体障害のリスクをカバーするという人保険の部分を含んでいますし、むしろ契約の主たる目的はそちらであるとも言えます。また、自動車保険でも、任意保険では損害賠償責任保険の部分のほかに、被保険自動車所有者の財産損害や被保険者の生命・身体障害のリスクをカバーする保険(車両保険は財産損害、搭乗者傷害保険や人身傷害補償保険は生命・身体障害のリスクをカバーする保険ということになると思いますが)の部分を含んでいるのが通例です。ですから、会社が保険契約者となって、取締役・執行役を被保険者とするこれらの保険契約を締結する場合には、取締役等の個人の財産・生命身体のリスクカバーのために会社が保険料を負担することになりますから、法形式上は 356 条1項3号の間接取引に該当することになると考えられます(xx編著・134 頁)。
これら責任保険契約でない保険契約は、430 条の3第2項で利益相反取引規制の適用から除外されるわけではありませんので、こういった保険契
約の締結には、取締役会決議が必要になるはずです。
この点について従来の会社実務がどうであった かはよく分からないのですが、例えば取締役を被 保険者とする包括的な海外旅行保険契約──包括 的なというのは、取締役・従業員の全員、つまり その会社の人間全員を被保険者として、出張ごと に保険契約を締結するのではなく、1年間の保険 期間中に行われる海外出張全てを対象にするよう な契約のことを念頭に置いているのですが──、 こういう包括的な海外旅行保険契約を会社が保険 契約者となって締結するような場合、さらには取 締役の海外出張のたびに締結される個別的な海外 旅行保険契約についても、いちいち取締役会の決 議を経てこなかった可能性もあるように思います。
しかし、新設される 430 条の3第2項やこれに関する立案担当者の解説を見る限り、責任保険及び責任追及に係る費用保険以外の保険契約については適用除外の対象にはならないこと、すなわち取締役会決議を経なければならないことが、いわば裏側から明らかになってしまったのではないかとも思われます。つまり、責任保険については適用除外されますよという規定が新設されたがゆえに、責任保険でない保険については適用があるということがはっきりしてしまったのではないかということです。
もっとも、海外旅行保険契約の締結に取締役会 の承認が必要だということになるとしても、契約 締結のたびに決議が必要だということにはならず、恐らくは、今後締結が見込まれる保険契約の内容 を説明して包括的な承認決議をすることも認めら れるだろうと思いますので、今回の改正が実務上 耐え難い煩雑さをもたらすことになるとまではい えないのだろうと思います。
一方、社用車について会社が任意自動車保険契約を締結した場合、乗車中だった取締役が事故に遭って傷害保険金の支払を受けるということがあり得ます。しかし、これは取締役だから保険給付を受けたというわけではなくて、会社外の全くの
第三者と同じく、搭乗者として保険給付を受けるにすぎないとも言えますので、社用車について自動車保険契約を締結することが利益相反取引に当たるとまで解する必要はないのかなというように思っています。
○以上見てきましたように、430 条の3第2項によれば、取締役・執行役の職務の執行に関して被り得る損害をカバーする保険契約のうち、賠償責任に係る責任保険契約・費用保険契約についてのみ利益相反取引規制の適用が排除され、職務の執行に関して財産・身体に生ずる損害をカバーする保険契約については適用除外がないということになります。このような差異が設けられた理由は何なのかということを考えてみました。
海外出張中に被る損害賠償責任について会社が保険カバーを提供してくれることで海外出張リスクを恐れずに済み、会社が優秀な人材を得やすくなるというのであれば、海外出張中の死亡・身体障害リスクについて会社が保険カバーを提供してくれることでも同様の効果は得られるはずです。また、会社が保険料を支出することで取締役・執行役に利益が生ずるという構造も同じです。海外旅行保険契約のうち賠償責任リスクに係る部分は取締役会の承認が不要となり、死亡・身体障害リスクに係る部分は承認が必要となる理由、つまり両者で扱いを異にする理由について、合理的説明をすることは難しいのではないかと思います。この点に関して、立案担当者からも特段の説明はなく、なぜこのような立法になったのかはよく分かりません。
それでは、こういうある意味アンバランスな立法を避けることはできなかったのかというと、できなくはなかったように思います。改正法は、職務の執行に関して負うことがある責任についての責任保険契約、費用保険契約を広く規律対象として捉えたうえで施行規則案 115 条の2で一定の保険契約を除外したわけですが、最初から職務上の義務違反・任務懈怠により負うことがある責任に
ついての責任保険契約、費用保険契約だけを規律対象にするという規律手法もあり得たのではないかと思います。
現に販売されている D&O 保険も、会社の役員と しての業務につき行った行為に起因する責任追及 だけを対象にしていますので、職務上の義務違 反・任務懈怠だけを対象にして法律をつくっても、現行の D&O 保険を捕捉しきれないということには ならなかったのではないかという気がしています。
(2-3)は省略。
(2-4)事業報告における開示〔会社法施行規則案 119 ②の2、121 の2①~③〕
最後に、事業報告における開示について触れておきたいと思います。
本年9月1日に公表された会社法施行規則改正案では、保険者の氏名又は名称が役員等賠償責任保険契約に関する開示事項として挙げられていました。これは会社法部会での議論でも、要綱でも開示事項として挙げられておらず、今回の施行規則案において唐突に出てきたものです。
契約の内容の概要を開示すべきである以上は、契約の相手方を開示するのは当然だという考え方からこれが開示事項に含められたのかもしれません。しかし、これを開示することで役員等の職務の適正性の確保に資するかというと、そういった効用は全くないと思いますし、むしろ上場会社における D&O 保険商品の保険会社別シェアを明らかにする効果しか持たないのではないかというふうに思っていました。
また、詳細は省略しますが、保険者名が開示されることの副次的効果として、会社が倒産した場合に会社に対する債権を、取締役の責任を問うという形でその背後にいる保険会社から回収することも可能になってしまうのではないかという問題も生じうるのではないかと考えていました。
しかし、レジュメに書きましたとおり、3日前 の今月 24 日に公表されたパブコメ結果において、
保険者名は開示事項とはしないことが示されました。どうやら実務界からかなり強い反対があったようですけれども、いずれにせよ、結論として保険者名の開示を求めなかったのは適切な判断であったと思います。
最後に、施行規則では開示事項とはされなかったものの、立法過程において開示対象とすべきかどうかが議論されていた項目、具体的には保険金額(填補限度額)、保険料額、それに支払われた保険給付の金額がそれに当たりますけれども、これについて一言だけコメントしておきたいと思います。
ご案内のように法制審では、これらの項目の開 示に対して経済界は大反対をしていました。ただ、法制審の議事録を読み返したところでは、学者側 でも、これらの事項の開示を強く求めていた人は それほどはおられなかったようにも思います。し かし、学説の中には、これらの項目を開示すべき だとするものもあって、本研究会のメンバーであ るxxxxxも、米国との違いに留意する必要は あるとしながらも、結論的にはこれらの項目の開 示が望ましいという立場に立っておられるように お見受けしました。しかし、この点に関する私見 を申し上げますと、保険金額や保険料額を開示さ せても、それで D&O 保険のカバーの水準が適正か どうかを的確に判断することはできないのではな いかと思っています。
というのは、我が国の会社において、ある年度に D&O 保険の保険金額や保険料額が一気に引き上げられるケースとして一番ありそうなのは、それまではドメスティックな事業展開しかしてこなかった会社が、北米地域で新たに事業を開始することを計画しているとか、北米地域で子会社を取得する計画を持っているというケースだと思われます。
もちろん、株主代表訴訟を提起されるおそれが高まったので、それに備えて保険金額を引き上げて保険料も高くなるというケースもあるでしょうが、保険金額や保険料額だけ開示させても、その
理由が何であるのかまでは分かりません。しかし ながら、事業報告の中でこれを開示させられると なりますと、ああ、この会社は北米地域で事業展 開する計画でも持っているのかといった詮索がな されることもあるでしょうし、会社がその計画を まだ秘密にしておきたいと思うような場合には、 保険カバーの拡大を断念せざるを得ないこともあ るかもしれません。保険カバーを拡大すると、事 業報告で開示させられていろいろ詮索されるので、保険カバーも拡げないでおこうという判断をする こともあり得ると思われるからです。
このように、保険金額や保険料額の開示には実質的なデメリットもあると考えられますので、最終的に保険金額等が開示項目とされなかったのは適切であったのではないかというのが私見です。時間配分がうまくいかずに、報告時間を 10 分 間ほど超過してしまいました。先生方のご教示を賜れば幸いです。どうぞよろしくお願いいたしま
す。
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【討 論】
○xx xx先生、どうもありがとうございました。
それでは、ただいまのご報告につきましてご質問、ご意見をよろしくお願いいたします。
ご報告は、大きくは補償契約と役員等賠償責任保険契約の部分に分かれていますので、まずは補償契約についてのご質問、ご意見からお願いできればと思います。
【事後に補償契約を締結して行う補償】
○xx ご報告いただき、ありがとうございます。
xx先生が報告で省略されたところに関連するので恐縮ですけれども、レジュメ5ページの一番上、既に発生した費用等も補償契約の対象とすることができると書かれているところについて質問
させていただきます。この「既に発生した費用等」の意味は、例えば、既に責任原因となる事実は発 生しているけれども、まだ責任追及に係る請求は されていない場合に、契約によって、今後それを 請求されたら補償することを約することをイメー ジしているのか。あるいは、既に訴訟も行われて いて、取締役が費用も払った場合に、会社がそれ について事後的に補償契約を結んでカバーすると いうこともできるのか。どちらなのでしょうか。
というのは、補償契約の制度は、xx先生が最初におっしゃったように、取締役に対して適切なインセンティブを付与するという目的、つまり、優秀な人材を得て、その人に安心して大胆な経営を行ってもらおうという趣旨です。だから、これから責任追及を受けることがあっても会社が補償してあげるよということなら分かるのですが、既に起こったことを補償してあげるよという契約を後で結ぶのは趣旨に適合しないのではないかと思いました。
事後的に補償契約を結んで補償するのであれば、xx先生がレジュメの6ページで指摘された、補 償契約なしに事後的に補償するのとどこが違って いるのかとも感じましたので、これについてお伺 いしたいと思います。
○xx まず、既に起こったものに責任が生じたもの、あるいは賠償金を支払ったものについて補償契約を締結して補償するのは、有能な人材を得ることに役に立たないのではないかということについては、そのような状況にある会社の態度を見ている取締役マーケットにいる取締役の候補者たちが、ああ、あの会社は役員等に対して手厚く補償してくれるのだなというのを見ることで、その会社に役員として来てくれるかもしれません。その意味では、もう既に責任を負ってしまった取締役等についてはあまり効果はないかもしれませんが、優秀な人材を得るという点での効果が全くないわけではないというふうに思います。
それから、補償契約を締結してやる場合と補償契約なしにやる場合の違いというのは、補償契約
を締結してやる場合には、賠償に関しては会社が求償権を取得することはないのに対して、補償契約を締結せずに賠償金を会社が肩代わりしてしまうと、第三者が取締役に対して有する損害賠償請求権を会社が代位取得して取締役に対する権利を有してしまうことになるので、これを有しなくするためには、利益相反取引規制に従って放棄しなければいけない。そうすると賛成取締役は任務懈怠責任を負う可能性があるので、補償契約を締結して補償するのと補償契約を締結せずに補償するのは、やはりいが出てくるのではないかと思っています。
○xx 責任の額については、xx先生が指摘 しておられるように補償制度の対象にはなりにく いので、私が想定していたのは費用の方です。費 用がもう既に発生しているのに、事後に補償契約 を締結して、過去にさかのぼって費用を補償する のと、補償契約なしに、費用を会社が肩代わりす るのと、違いがどこにあるのでしょうか。しかも、補償契約がなければ利益相反取引規制がかかり、 補償契約があればかからないという、この違いに それほど大きな意味があるのかということが疑問 になりました。
○xx 利益相反取引規制がかかると、それを実行することに関して取締役は任務懈怠責任を負う可能性がありますが、補償契約を締結してやればそうはならないので、費用の場合でもそこはやはり違うかなと思います。もちろん、補償契約を締結して補償する場合でも善管注意義務違反の責任を問われることがないわけではありませんが、任務懈怠の推定があるかないかというのは、そこそこ意味があるのかなあという気はします。
○xx 意味の違いはあるのですが、事後的に補償契約を結べば利益相反取引規制の適用がなくなるということがアンバランスではないかと感じました。
○xx こういう立法をしたことで、今までは利益相反取引規制を回避することはできなかったものが回避できるようになったということですよ
ね。でも、それをできるようにした方がいいというところから今回の立法は出発したのかなと思います。
ただ、補償契約に基づいて費用を補填する場合でも、通常要する費用を超えてしまうと違法な補償になってしまいますし、善管注意義務違反の中でも法令違反の責任になるので、そのハードルをクリアすることはそんな簡単ではないかなという気がします。そういう意味では、補償契約という制度が設けられましたけれども、費用についてもやはり難しいところはあると。現に補償が期待されるのは、弁護士事務所からかなり高い費用を請求されているような場合かなと思いますが、そのような場合は通常要する費用を超えている可能性もあると思います。全体として見た場合には、補償の方はなかなか使いづらい制度なのかもしれないなという気はしています。
○xx xxxxxxxxxxた。
【補償契約・役員等賠償責任保険契約と特別利害関係】
○髙橋 7ページの2つ目の○のところ、複数 の役員等と補償契約を締結する場合の手続に関連 して、2点質問させていただきます。レジュメで は、法形式上は個々の契約、複数の契約があるの で、369 条2項を適用して、自己が当事者となる 補償契約については議決に加わることができない と説明をされていて、ただ、その承認の仕方につ いては簡便法を認められてもよさそうに思われる と書かれています。この簡便法というのは、D&O 保険のところの 16 ページの上の方に出てきた、 一回の決議で済ませることもできるということを 意味しているのかなとも思われるのですが、私も 実際に 15 回の決議をやることにそんなに意味は ないと思っていて、仮に、ほかの取締役の決議に ついて反対した場合に恨みを買って、自分のとき に反対される可能性もあるので、お互いさまの全 員共通の利害関係にあると言えると思いますので、 D&O 保険のところのxxx先生の見解のように、
一括でやっても実質的にはそんなに問題はないのかなあという気はしています。
ただ、法律論的にちょっと難しいところもあるので、ここは悩ましいところだと私も思っているのですが、簡便法としてどのような方法を想定しておられるのかというのが1点目の質問です。
D&O 保険と補償契約とで少し違いがあり得るとすると、D&O 保険の方は1年ごとに更新となっているので、煩雑さが非常に高いのに対して、補償契約の方では、最初の1回だけ補償契約を承認しさえすれば、仮に役員の任期が終わって次の任期になったとしても、前の補償契約の効力がずっと有効であり続けるような、期間の定めのないような補償契約が有効に定められるとすると、補償契約の方では、面倒くさい手続を仮に経なければならないとしても、最初の1回だけで済むのかなと思うのですが、そのような期間の定めのない補償契約は有効なのかというのが2点目の質問です。
以上、よろしくお願いいたします。
○xx まず1点目、簡便法ですが、私が考え ていたのは、次のようなものです。同じ内容の契 約を 15 人の取締役と締結するので、法形式上は 契約当事者となる取締役を除いた決議が 15 回必 要となるが、異論がなければ、自分が当事者とな る契約については決議には参加せず、それ以外の 14 個の契約については 14 回賛成したものとして 扱いたいと思うが、それでよいかという形で賛否 を問い、全員が賛成なら、議事録には 15 回決議 があった旨記載するというものです。法形式的に は 15 回の決議があったものとして扱うが、実際 に賛否を問うのは一回で済ませるというものです。レジュメで「法形式上は上記のように扱うべきこ とになろう」と書いたのは、法形式上は決議は 15 回必要になるのではないかと考えていたというこ とです。
2点目、補償契約を承認した場合の有効期間については、取締役の任期と連動すると考えています。取締役との契約なので、取締役の任期が満了して再任されたら、そこで新しく補償契約を締結
し直さなければならないのではないかと考えてい ました。D&O 保険でも、更新のときには一回一回、内容をいちいち説明する必要はないと思いますが、同じ内容で更新しますという決議は必要になりま すので、補償契約も同じようになると考えていま した。
したがって、一度承認したら再任された取締役にもその承認は有効ですよということにはならないのではないかと思っています。
○髙x xxxxxxxxます。
○xx x、xx先生が質問された1点目ですが、特別利害関係を持つ取締役の扱いについて、 16 ページの役員等賠償責任保険の方では、全員が同じ利害関係を持っているならば、議決権排除なしでいいとxx先生は言われながら、なぜ7ページの方はそれと異なる構成をとられるのかが、よく分からなかったのですが。
○xx D&O 保険は、契約としては1本なので、
1本であるものについて 15 分の1ずつに分けて決議するというのはおかしいのではないかと思ったのです。承認の対象は保険会社と保険契約を締結するかどうかなので。補償契約の方は、取締役との補償契約が 15 本存在するのではないか。私の頭の中ではそういう整理なのですね。
○xx xxxました。
○xx ただ、補償契約の内容が同じなのであれば、補償契約の取締役側は 15 人の取締役が契約の一方当事者になっていて、もう一方の当事者が会社になっている、つまり、契約としては1本だという構成もありうるのかもしれません。この構成なら契約としては1本だから、D&O 保険と同じだと考えられるのかもしれませんが、私の頭の中では、補償契約は取締役との契約なので、15 個契約があるのかなと思っていたということでございます。
自分でもちょっとここのところは気になっていて、D&O 保険契約の話と矛盾しているような気がしないでもなかったところなので、やはりそこを突かれてしまったなという感じです。(笑)
○xx xxxxxxxxxxた。
【通常要する費用の額】
○xx xx先生のレジュメの7~8ページの
「通常要する費用の額を超える部分」について質問させていただければと思います。
全体を通して、補償契約というものの意義について、私もxx先生と同じ理解でおりまして、恐らく賠償金等の補償が認められる範囲というのはかなり限定されていて、その使い勝手には限界があるのだろうと感じています。
そうしますと、重要になってくるのは防御費用 の補償の方になると思うのですけれども、この防 御費用に関する補償については、430 条の2第2 項1号で「通常要する費用の額」という金額面で の限界が存在するわけです。その点に関しまして、先生のレジュメでも整理されていますが、「相当 と認められる額」というのが「通常要する費用の 額」という形に変わって、これによって明確性が 高まったのだということが指摘されているのです けれども、個人的には、これでどこまで明確性が 確保できるようになるのかよく分からないなと感 じています。
その上で、あわせて 852 条1項の「相当と認められる額」が参考になるという指摘もあるのですが、あくまで 852 条 1 項というのは、株主代表訴訟の原告、すなわち株主の代理人弁護士の報酬の話ですので、そのことが被告取締役の防御費用を考える上でどこまで参考として使えるのかは疑問の余地があるとも感じているところです。
つまり、株主代表訴訟に関する原告代理人弁護士の報酬につきましては、場合によっては着手金と成功報酬のような仕組みをとっているものも少なくないのではないかと思います。少なくとも海外ではそういった形態のものが多いと感じているのですけれども、こうした報酬形態と比べて、被告取締役の防御に要する弁護士費用というのは、タイムチャージの形態をとることが多いのではないかと思われます。そうすると、補償契約におい
て恐らく重要な意味を持つであろう防御費用の補償に関し、金額面での限界である「通常要する費用」について、852 条1項の「相当と認められる額」が参考になると考えることで必ずしも解決するわけではなく、この額をどのように考えたらよいのかが課題として残されているように個人的には感じていたのですが、この点、先生のレジュメで正面から議論されているところではないので恐縮ですけれども、もし可能であれば、先生のお考えをお聞かせいただけましたら幸いです。
○xx この論点を正面から議論しなかったの は、よく分からなかったので避けちゃったという ところがあります。確かにタイムチャージでいく となると、その訴訟が厄介で準備に大変な時間が かかるというような場合だと、1時間当たり幾ら というその基準は適正で、大手の弁護士事務所だ ったらどこに頼んでも同じようなものであっても、事案が複雑で時間がかかったがために全体として すごい金額になるということはよくあることだと 思うのですね。
その場合に、「通常要する費用」をどう考える か。取締役が「通常要する」との判断をするとき に善管注意義務違反の責任を問われないようにす る、法令違反にならないと信じたことに無過失で あるためにはどうであればいいのかというと、請 求されたからそれをそのまま支払うというのだと、それは法令違反になるリスクが結構あると思うの ですね。例えば別の弁護士事務所に、この金額は 相当で「通常要する費用」であるという意見書を 書いてもらうとか、そこまでしないと怖くて支払 えないのではないかなという気もするのです。
そうすると、補償についても D&O 保険の特約で、保険会社にカバーしてもらうことが必要になるの かもしれません。
立法にあたり、最初は「相当と認められる額」を超える部分となっていたのが「通常要する費用の額」になって、客観性を高めるためにこう変えたのだと言われていますけれども、実際に補償を実行する判断をする取締役としては、どこの事務
所に頼んでも同じだというのであればそれほど心配せずに補償できるかもしれませんが、事案によっては非常に高額になることがあるというのが、現在の企業法務の弁護士費用の世界だと思いますので、そういう意味では、文言が「通常要する費用の額」に変わったからといって問題の解決にはなっていないのかなという気もしまして、そこはxx先生と同じ印象を持っております。あまり答になっておらず、申し訳ありません。
○xx いえ、ありがとうございました。
【役員等に悪意・重過失ある場合の防御費用】
○xx xxxxの3ページの一番下の○のと ころで、防御費用の場合、役員等に悪意・重過失 があったときでも、それから対会社責任の場合で も補償ができるとされていますが、これはxx先 生の要綱案の解説などを見ましても、パブリック コメントなどでいろいろ議論があったとされてい るところですね。立案担当者の説明などでは、x x先生も紹介されているとおり、まず、対第三者 責任の場合にこういうルールになった理由として、その方が会社の損害拡大の抑止等につながり得る とされています。これは具体的にどういうことな のかが私はよく分かりませんので、何か先生のお 考えがありましたら、伺いたいと思います。
それからもう一つ、対会社責任の場合に、このルールで補償をしてもよい理由として、その場合に職務の執行の適正性が損なわれるおそれが高いとは言えないという説明がされています。ただ、私、このような対会社責任の場合に、防御費用の補償を認めるべき、積極的な根拠として何かないのだろうかということが気になります。
例えば、悪意・重過失がある場合であっても、訴訟の進行中に防御費用の補償をすることが、職務の執行が萎縮しないようにするために必要だと考えられたのかなとも思うのですね。
ただ、そうしますと、3項のルールの方を、不当な目的があったときだけではなくて、悪意・重過失があった場合に、後で会社からの返還請求を
認めるというルールにするということでよかったように思うのです。つまり、悪意・重過失がある場合に防御費用の補償をしてもよい理由を先ほど述べたように考えますと、3項によって悪意・重過失よりももっと狭い場合にだけ会社の返還請求を認めることにしたことの説明がつきにくくなるのかなとも思いまして、そのあたりを教えていただければと思います。
○xx まず、防御費用について悪意・重過失がある場合でも補償することが認められている点についてですが、立案担当者は会社の損害の拡大の抑止等につながり得るという説明をしておられるのですが、私もここは気になったところです。防御費用が十分でないと、役員が捨て鉢になっ てしまい、その結果、会社のレピュテーションが悪化するということもあるのではないか。取締役が第三者に迷惑をかけたということで会社のレピュテーションは既に低下している可能性がありますが、防御をきちんとしないことでそれが一層悪化することもあるのではないかと。この場合の会社の損害というのはそういうことなのかなと想像しておりましたが、それで正しいのかどうかはよ
く分かりません。
もう一つのご質問は、悪意・重過失があった場合に、最終的に防御費用についても返還を認めてはどうかということでしたかね。
○xx xxxxね。
○xx 損失については、悪意・重過失があれ ばそもそも補償することができないので、会社が 支払ったら、返還請求できるわけですけれども…。
○xx 防御費用の方です。職務の執行の適正性が損なわれるおそれが高いとは言えないという説明がされていますので、その説明だけから考えると、事後的な返還も、悪意・重過失があった場合には認めてもよいように思ったのです。
○xx 悪意・重過失がある場合にも防御費用について支払っていいのは、実際に防御費用が必要になる時点、つまり第三者と取締役が訴訟で争っている時点では悪意・重過失があったかどうか
分からないからである、と説明されていることからすると、確かにxx先生が言われるように、最終的に悪意・重過失があったことが判明した場合には取り返せるというルールも、立法論としてはあり得たのかもしれないなという気はしますね。ただ、実際に訴訟の当事者になった取締役にと ってみると、あるいはその会社の取締役に就任しようかとまさにマーケットにいる人たちにとっては、そんなことをされるのは嫌やなというか、そんなケチな会社やったらやめとこうかということにもなりかねませんし、そういうことも含めて、有能な人材を確保するためには、悪意・重過失があったとされた場合でも支払をして、防御費用の問題はそれで終わりにするというやり方の方が合
理的だと考えられたのかもしれません。
ただ、xx先生が言われたような立法論もあり得たのかなとも思いました。
○xx xxxxxxxxます。
○xx xx先生のご質問前半、取締役が適切な防御活動を行うことがなぜ会社の損害拡大の抑止等につながるのかについては、xx先生がおっしゃったような、会社のレピュテーション低下を防ぐという意味もあるとは思うのですけれども、それとともに、もし取締役がいいかげんな訴訟活動をすると、350 条を介して、会社の方も大きな責任を負わされるおそれがありうるということではないでしょうか。
xx先生のご質問後半の立法論は、審議の過程で検討はなされていたと思います。
○xx 先ほど、防御費用につきまして、特に悪意等があったような場合についてまで認められるのはどうなのかという点でございますが、確かに実体法的な観点からは、そのようなお考えも誠にもっともなところもあるように思うのですけれども、実際の訴訟の場面では、適切な防御活動ができたために、責任は認定されたけれども小さい範囲におさまったということもあり得ますので、結果として責任が認められたかどうかというところだけで補償の可否が分かれるというようなこと
は望ましくないのかなというように思います。
○xx どうもありがとうございます。
【役員等賠償責任保険契約にかかる利益相反取引規制の適用除外】
○xx 時間の関係で一旦補償契約から離れまして、役員等賠償責任保険についてのご質問、ご意見をお願いできればと思います。
レジュメの 17 ページの下3分の1ぐらいのところで、利益相反取引規制の適用除外が責任保険だけに認められていて、死亡・身体障害リスクにかかる保険契約には利益相反取引規制の適用除外が認められないのはなぜか、合理的に説明できないのではないかという問題をご指摘になられました。
ただ、先ほどの補償契約もそうですけれども、役員等賠償責任保険もそもそも検討の発端は、およそリスクなしに取締役が職務を執行できるようにしようというよりも、むしろ責任を追及されることを恐れて取締役が積極果敢な経営判断ができなくなることのないようにしようと、こういう考え方ではなかったかと思うのですね。ですので、責任保険以外の保険は、萎縮なく経営判断ができるようにしようという立法の目的には合致しないと、一応こういう説明ができるのではないかと思ったのですけれども、いかがでしょうか。
○xx ご指摘ありがとうございます。
確かに、今回の立法の発端というのはまさにそこだったと思うのです。ただ、そうだとすると、海外旅行保険や自動車保険については経営判断を萎縮させるという問題ではないので、最初から除外してしまってもよかったと思うのです。職務の執行に関してではなくて、職務上の義務に違反した、あるいは任務懈怠があった場合の責任をカバーする保険に限る形で──現在の D&O 保険は役員としての行為に基づいて責任を負った場合ということになっていますので、それに合わせて──最初から規律の範囲を狭くしておいてもよかったのではないか、と思うのです。
そうすると、自動車保険や海外旅行保険をわざわざ除外する必要はなかっただろうし、同じ海外旅行保険の中でも責任保険分は適用除外なのに、生命・身体リスク分は利益相反取引規制の適用があるというような問題も生じなかったのではないかと思います。
ですから、発端はよかったけれども、その発端の問題に取りかかるのにちょっと間口を広げ過ぎたのかなという気はするのですね。
特に海外旅行保険は、1つの保険契約にいろいろな保険カバーが含まれているので、責任保険部分だけが適用除外とされることで、余計にその問題が目立ってしまったのかなという気がします。ただ、法制審の議論を見ていても、「職務の執行に関し」というように広く捉えるやり方がおかしいという議論はあまりなかったと思います。経済界は規律そのものに反対するし、xxの方は、いや規律が必要だといい、途中まではそういう議論がずっと続いてきたので、具体的にどこまで規律をするか、定義をどうするかというところの議論があまり進まなかったのかなという印象がないでもなく立法技術的にやや問題があったのかなという感じを受けています。
○xx xxxxxxxxxxた。
【職務の適正性を害しうる役員等賠償責任保険契約の締結】
○片木 19 ページで、事業報告の中で役員等の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置の例として、「被保険者の犯罪行為に起因する損害賠償請求」や「法令に違反することを被保険者が認識しながら行った行為に起因する損害賠償請求」というのが免責事由になる、こういうのも一応該当するのではないかというふうにお書きになっています。
会社法それ自体で見たときには、補償と違って、役員の責任として保険の対象とするものに対する 制約は特にないようですけれども、そういう意味 で、非常に広く大きく、ここに書いてあるいわば
行為の責任みたいなものについても保険で賠償しようとした場合には、手続を踏んできちっと契約した以上は、保険契約としては有効なのだけれども、場合によっては、そういう契約を締結したこと自体が不当に職務の執行の適正性を損なったということで責任を問われる可能性もあるという理解でよろしいのでしょうか。
○xx 職務の適正性を害するような保険契約を締結すると、そのような保険契約に保険料を支払うということ自体が任務懈怠になるということでしょうか……。
○片木 可能性としては、ということですけれどね。
○xx 可能性としては確かにそうなのでしょうね。D&O 保険契約を締結するに当たっては、職務の適正性を害しないような契約を選択しなければいけない。一般論としては多分それは言えるのではないかと思います。
保険会社の方も、一応商売ですから損をするような契約は基本的には売らないだろうとは思いますが、確かにおかしな保険契約が売られたときには、片木先生が言われたようなことは、一般論としてはやはり言えるのだろうなとは思います。
○片木 一般には、故意の行為についてまで保険契約を締結するというのは普通はしないだろうと思うのですけれども、手続上の違法だから無効だという議論以外に、保険の一般的な理論から無効になるということはないのでしょうか。
【役員等賠償責任保険契約にかかる利益相反取引規制の適用除外・再論】
○xx 故意行為については保険者が免責されるということは保険法でも定められていて、その部分は絶対的強行規定だと解されていると思いますので、そういう意味では、保険契約の効力がその部分については否定されるということになる可能性は十分にあると思います。
○xx xx先生とxx先生がさきほど議論されたこととの関係ですけれども、430 条の3は1
項で役員等賠償責任保険を含むそれよりも広い責 任保険を規定し、2項について、その広い方につ いて利益相反取引規制の適用がないとしているわ けですね。xx先生の問題意識からすると、むし ろ2項では、1項で定義した役員等賠償責任保険 についてだけ利益相反取引規制の適用がないとし た方がよかったのではないかという主張になるの かなと思ったのですが、そういうことでしょうか。
○xx xxやり方は十分にありえたと思っています。1項の方はとりあえず広くして自動車保険や海外旅行保険も含めるけれども、2項では、それらを除いたものについてのみ利益相反取引規制の適用を除外するというやり方のほうがすっきりしたのかもしれないですね。自動車保険契約、海外旅行保険契約の中で利益相反取引規制の適用がある部分とない部分に分けるよりは、商品として別にしてしまうという方が、簡便だったかもしれません。
○xx xxxxxxxxます。
【補償契約・役員等賠償責任保険契約の会社による承認のあり方】
○xx それでは、補償契約、役員等賠償責任保険契約の全体を通じて、ご質問、ご意見があれば、よろしくお願いいたします。
○xx 全体を通してということになるかと思 うのですけれども、xx先生のお話を聞いており ますと、結局のところ、補償契約にしろ、D&O 保 険にしろ、何となく利益相反の細かな部分につい て、今までぼやけていたところがかなりあぶり出 されるようになったということで、例えば 15 人 いたら 15 人の役員について契約を一本一本承認 しなければいけないとかいう話になって、かなり 形式的な承認が増えてきていると。増えるような 解釈にせざるを得ないのではないかというような お話があったかと思うのですが、そもそもの立法 技術として、確かに利益相反性からアプローチし ていくと、そういう形で個別に承認していくとい う結論が出てしまうのだとは思うのですけれども、
本当にそれでいいのかというのを、ちょっとお考えをお聞かせいただきたいと思いました。
取締役会で 15 本の契約を承認した、あるいは
承認したことにするとかということ、あるいは 15人それぞれが利益相反関係なのだから、全員が利益相反なのだったら、もう1本の承認で良いのではないかみたいな話とかをせざるを得ないような立法にするのではなくて、今回の趣旨が適切なインセンティブを与えるということであるのであれば、それこそ、例えば、1本の方針を例えばどこかで決めて、それに従っている限りは承認をとらないとかいうような形の方が、取締役会の機能とか、攻めのガバナンスとか、そういうことを考えた場合には、そちらの方がよほどプラスのような気がするのですが、立法技術としてはやはり難しいと考えられたのかどうか。それから、xx先生としてはどのようにお考えかということをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。
○xx 大変難しい質問をありがとうございます。(笑)
D&O 保険契約が1年に1回更新されるたびに形 式的には決議が必要なのかというと、確かに本当 に形式なのですね。どこかで1本定めて、その範 囲内であれば、その後ずっとそれでやっていいで すということができれば、無駄を避けることがで きると思います。実際、取締役の報酬については、株主総会で一回上限を定めて、その範囲内ならい ちいち総会で決議することは求められていません。
また、前回の研究会で取り上げられた報酬として募集株式を交付する場合も、株主総会で一度定めたら、毎年定めなくてもよくなるかという議論があったと思いますが、確かに補償契約や D&O 保険契約についても、そのような仕組みができれば便利なのだろうなという気はします。日本の従来の実務を考えてみても、濫用的な使われ方はされていないと思います。これがアメリカだと、代表訴訟のおそれが生じた途端に保険金額を一挙に引き上げて保険料も当然高くなり、それで和解をす
るというようなことがあって、まさに D&O 保険が 濫用されているということもあると思うのですが、日本の場合は、少なくともこれまではそのような ことは起こっていないし、だからこそ、経済界、 保険業界は、規制自体必要ないとずっと言い続け てきたわけです。
ですから、一度基本方針を定めたらその範囲内でできるというようなことができればいいのですが、契約の場合には、報酬のように金額や株数で上限を定めるというようなxx的に大枠を定めることができないため、具体的に何かいい方法があるのかと問われると、全く思いつきません。大変有意義な質問をいただいたにもかかわらず、申し訳ございません。
○xx xxxxないです。ありがとうございました。
○xx まだご質問、ご意見があると思いますが、時間になりましたので、今月の研究会はこれで閉会とさせていただきます。
xx先生、ご報告、どうもありがとうございました。