本事案と同様の融資申込先をめぐるトラブルとしては、ローン特約に「都市銀行他」とあいまいな記載をした案件において、これにはノンバンクは含まれず買主がノンバンクへ の融資申込みを撤回してもローン特約上の義務違反とならないと判断された事案(平成16年7月20日 東京地裁 RETIO62)があるので留意されたい。
-ローン特約-
特定の銀行をローン特約の対象とすることが売買契約の内容になっていたとは認められないこと等により、仲介会社の説明義務違反があったと認められない等判断し、買主の損害請求等を棄却した事例
(東京地裁 平22・9・9 ウエストロー・ジャパン) xx xx
ローン特約について、買主が売主に対する錯誤無効による手付金の返還と仲介会社に対する説明義務違反による損害賠償を求めた事案において、売買契約及び重要事項説明書からは、特定の銀行をローン特約の対象とすることが売買契約の内容になっていたとは認められず錯誤に当たらないと認定し、仲介会社に説明義務違反があったとも認められない等判断し、買主の請求を棄却した事例(東京地裁 平成22年9月9日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
原告X1(夫:外国人)及び原告X2(妻)は、被告Y1(売主)との間で不動産売買契約を締結して手付金600万円を支払い、同契約に際し、被告Y2(不動産仲介会社)との間で一般媒介契約を締結して仲介手数料97万 6500円を支払った。
ところが、原告は、英語での電話対応ができる等の理由で融資を希望していたB銀行からの融資が断られたとして、融資特約に基づき、①主位的請求として、被告Y1に対し、不動産売買契約の錯誤無効による不当利得に基づく返還請求として、手付金600万円の支払いを求めるとともに、Y2に対し、住宅ローンに関する説明義務違反があったとして、
債務府不履行に基づく損害賠償請求として仲介手数料に相当する97万6500円の支払いを求め、②予備的に、不動産売買契約が有効であったとして、債務不履行に基づく損害賠償請求として手付金に相当する600万円の支払いを求めた。
2 判決の要旨
裁判所は以下のように述べ、原告の請求をいずれも棄却した。
本件契約の錯誤無効の有無について
本件契約書及び重要事項説明書には、融資利用特約の対象金融機関としてA銀行が記載されており、融資利用特約の対象をB銀行とすることはなんら記載されていない。そうすると、B銀行を融資利用特約の対象金融機関とすることが本件売買契約の内容になっていたとは認められず、このことがY1に対して表示していたとは認められない。また、B銀行では正式な事前審査を行っていないというのであるから、住宅ローン申請がB銀行によって許可されるか否かは、本件契約締結後でなければ確定的にはわからない事項であったものと認められ、この点が本件契約締結の意思表示の重要な内容になっていたとは認められない。
以上によれば、原告らの本件契約締結の意
思表示が要素の錯誤に当たるとの主張は理由がない。
Ж 被告仲介会社の説明義務違反の有無について
本件契約書及び重要事項説明書には、融資利用特約の対象金融機関としてA銀行が記載されており、対象金融機関をB銀行とすることは何ら表示されていないこと、仲介会社Cの従業員Dは、原告らに対し、最終的に、本件契約書に署名押印する際には、事前承認を得られたA銀行を融資利用特約における金融機関として売買契約を締結する必要があること、希望するB銀行から融資を受けられないからといって、A銀行から融資を受けることができるのであれば、特約に基づく解約はできないことなどを説明したことが認められる。 X2においても、B銀行には融資の事前審
査(承認)制度がなく、Y2のポリシーでは、書面による事前承認がない限りは、本件契約書にB銀行を融資利用特約における金融機関として書くことができないことをDから伝えられていた旨認めている。
また、原告らがA銀行に事前審査申込書を提出したこと、A銀行の住宅融資相談会への参加を予約したことからすると、原告らには、 B銀行から融資を受けることができない場合には、A銀行から融資を受ける意思があったものと認めることができる。
この点、X2は、B銀行のコールセンターに問合せをしたところ、「仮換地物件については、重要事項説明書に区画整理事業後敷地権化されるということが明記されていれば問題ない」という回答を得た旨、Dに対し伝えたところ、Dから「上記回答であればB銀行から融資は問題なく実施されるであろう。」と言われたなどと供述する。しかしながら、 X2は、コールセンターに対して仮換地物件一般について抽象的に確認したもので、その
回答結果も簡易なものにとどまることからすると、住宅ローン申請についてB銀行による許可が得られることが確実であるなどとこれを保証するような発言をしたものとは認められず、X2に誤解を生じさせたものとは認められない。
以上によれば、本件契約の仲介業務を担当したC社のDにおいて、説明義務違反があったとは認められず、C社とともに本件契約の仲介業務に当たったY2においても説明義務違反があったとは認められない。
3 まとめ
本事案は、売買代金の融資に関し、ローン特約の対象金融機関として買主が希望していたB銀行については事前承認が得られないため、事前承認が得られたA銀行を書く必要があること等を説明し、契約書及び重要事項説明書には、買主の希望するB銀行は何ら表示されていないこと等から仲介会社の説明義務違反はないと認定された事例であるが、仲介会社が特約の内容を説明したことが認められものであり、妥当な判断だといえよう。
しかしながら、ローン特約の成否をめぐるトラブルは依然として多く、トラブル防止のためにはいうまでもなく具体的金融機関名、融資額等を特定し、その内容と融資が成立しなかったときの措置を重要事項として説明しておく必要がある。
本事案と同様の融資申込先をめぐるトラブルとしては、ローン特約に「都市銀行他」とあいまいな記載をした案件において、これにはノンバンクは含まれず買主がノンバンクへの融資申込みを撤回してもローン特約上の義務違反とならないと判断された事案(平成16年7月20日 東京地裁 RETIO62)があるので留意されたい。
(研究理事・調査研究部長)
Ж -媒介報酬請求権-
解除条件(買替特約)により売買契約が解除された場合の媒介報酬請求権が否認された事例
(東京地裁 平22・7・20 ウエストロー・ジャパン) xx xx
不動産の売主と買主が、売買契約を合意解約して仲介業者の報酬債権を侵害したなどと仲介業者が主張して、不法行為に基づく損害賠償等を請求した事案において、売買契約を合意解約したとしても、債権侵害の不法行為に当たらないとし、不動産売買契約は、特約の定める解除条件の成就により失効したから、報酬の支払いを求めることはできない等として請求を棄却した事例(東京地裁 平22年7月20日判決 請求棄却 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
不動産仲介業等を営むX社は、平成19年11月20日、合資会社Y1,株式会社Y2とおのおの仲介契約を結んだ上、Y1に対し、Y2所有の土地建物(収益ビル)の斡旋を行った。
売買代金:1億5000万円手付金:800万円
違約金:3000万円
所有権移転、引渡、登記手続き日:平成19年12月20日
特約:「買主は、本物件の購入については別途契約済みの土地売却代金をもって充当するため、万一、その売却が不可能となった場合は本物件の契約は白紙解約とします。但し、本項の有効期日は,平成19年12月10日迄とします。」
Y1とY2は、平成19年12月27日、本件売買が本件特約により同月10日迄に失効したこ
とを確認した上で、Y1において、Y2が本件売買の失効により被った損失を補償するため、Y2に対し、手付金800万円の返還請求権を放棄し、かつ和解金700万円を平成20年
1月31日までに支払う旨合意した(以下、これを「本件合意」という)。
XはY1とY2に媒介報酬を請求したが、拒否されたので東京地裁に提訴した。
争点は以下の通りである。
主位的請求(報酬債権侵害に係る不法行為に基づく損害賠償請求):Y1とY2が本件合意により本件売買を実現しなかったことが XのY1,Y2に対する仲介報酬債権を共同で侵害したことになるとして不法行為を構成するか否か(争点①)
第1次予備的請求(仲介契約又は商法512条に基づく報酬請求):
ア XのY1,Y2に対する報酬請求権は、本件特約により本件売買が失効したことに伴い、消滅するか否か(争点②)
イ Xにxx業者としての義務違反(仲介行為の瑕疵)があるとしてY1,Y2に報酬を求めることができないことになるか否か、又はY1,Y2において、かかる義務違反を理由とする損害賠償請求債権を持ってXの報酬債権と相殺することができるか否か(争点
③)
第2次予備的請求(情報提供義務違反に係る債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求):Y1において本件売買に当たりXへ
の必要な情報提供を怠ったとして、Y1に債務不履行責任又は不法行為責任及びY1の代表者に不法行為責任が成立するか否か(争点
④)
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Xの訴えを棄却した。
争点①:Xは、Y1,Y2においてXに対する報酬の支払いを免れるため、本件合意により本件売買を合意解約したことが報酬債権の侵害に当たり不法行為を構成すると主張する。しかし、仮に、Xの主張を前提としても、Y1,Y2のこうした対応は、そもそもXの報酬債権の帰属や給付を侵害する性質のものではないから、債権侵害の不法行為を構成する余地はなく、主張自体失当というべきである。しかも、本件売買は、本件特約の適用により失効したものであって、Y1,Y2の合意解約により失効したものではないから、Xの主張は,その前提を欠くものである。
争点②:Y1が本件売買代金の原資たる別件売買の代金の支払いを受けられなかったのは、別件買主からの一方的な解除の申入れという、Y1にとって客観的な障害によるものであって、Xが疑うような、Y1の恣意によるものでないことは明らかであるから、これにより、解除条件は成就したことになる。仮に、本件特約が解除条件を定めたものでなく,解除権を留保したものであると解したとしても、Y1の担当者において、本件特約の有効期限前に、別件買主から解除の申入れを受けた際に、それに伴い本件売買が本件特約により白紙解約されるとの認識のもとで、速やかに、別件売買の解除の申し入れを受けた事実をXの担当者に伝えていたのであるから、これをもって
解除権を行使したと見るのが相当である。以上によれば、本件売買は、本件特約の定める解除条件の成就により、失効したものというべきである。そして、売買を仲介したxx業者の報酬請求権は,売買が有効に成立することを条件とするものであり、解除条件付売買において、解除条件の成就により売買が効力を失った場合には,報酬を請求することはできないと解すべきであり,このことは、商法512条に基づく報酬請求の場合も同様というべきである。
争点③:仮に、一般的に、解除条件付売買の仲介について、同条件の成就により売買が失効した場合でもxx業者が仲介契約又は商法512条の規定に基づき相当の報酬を求めることができるときがあるとしても、本件においては、Xの仲介行為には瑕疵があったというべきであるから、Y1,Y2に報酬を求めることができないというべきである。
争点④:Y1に、Xに対する情報提供を怠る責任があるということはできない。
よって、Xの主位的請求・予備的請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。
3 まとめ
本判決は以下の点を確認したもので実務上参考となるものである。
・不動産売買契約の合意解約は、仲介業者の報酬請求権を侵害するものではない。
・解除条件付売買において解除条件の成就によって、解約となった場合は、仲介業者は報酬を求めることができない。
・仲介行為に瑕疵があった場合には報酬を求めることができない。
(調査研究部調査役)
Ж -法令上の制限-
土地の一部に都市計画道路が存在することの説明がなかったことについて売買契約の解除は否定し、土地の減価額等を損害として認定した事例
(東京地裁 平22・1・26 ウエストロー・ジャパン) xx x
新築戸建住宅を購入した買主が、都市計画道路がかかっていることの説明を怠った売主および販売代理業者に対し、主位的に契約解除と違約金や損害金等の支払いを、予備的に従業員の不法行為を原因として損害金等の支払いを求めた事案において、土地の一部に都市計画道路が存在することの説明がなかったことが、売買契約の目的達成に重大な影響を与えるまでとは認定し難いとして、売買契約の解除はできないとしたが、土地の減価額等を損害と認定する等、予備的請求を一部認容した事例(東京地裁 平成22年1月26日 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主Xは、売主Y1の販売代理人Y2との間で新築戸建住宅を、平成19年1月28日、代金4,450万円で買うと合意し、Y1に対し同代金を支払った。
平成19年8月上旬頃、Y2の営業所店長らは、本件売買契約に先立つ、重要事項説明書に本件都市計画道路の説明をXに怠ったことに気付き、平成19年8月26日、Xを訪問し、本件都市計画道路の重要事項説明書への記載漏れについて、説明した。その後、XとY2の店長らとの間で、本件売買契約の事後処理を巡っての交渉が行われるようになった。平成19年10月6日、XはY2の店長に対し、本契約を解消する場合には売買代金の返還と違
約金の支払いを、同契約を維持する場合には、示談金を支払うよう求めたが、Y1らはこの提案に応じなかった。その後も双方が代理人を交えるなどして交渉は続けられたが、合意には至らず、平成20年5月29日、本件訴訟が提起されるに至った。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示した。
宅地建物取引業者は、xx業法35条1項により、重要事項の説明義務を負っているところ、都市計画道路の存在は、同条項2号、同条施行令3条1号の重要事項に該当するものであるから、重要事項説明書への記載を怠り、Xに対し説明しなかったY1には、説明義務違反としての債務不履行責任が生じるというべきである。
Ж 上記説明義務は、本件売買契約の付随的義務というべきところ、付随的義務の不履行であっても、その不履行が契約の目的の達成に重大な影響を与える場合には、その不履行を理由として当該契約を解除することができると解するのが相当である。しかしながら、本件都市計画道路の存在による本件土地の減価率は5%であることなどに照らすと、本件売買契約の目的達成に重大な影響を与えるとまでは認定し難い。
€ Y2店長は、本件都市計画道路の存在を示す資料を所持しながら、その確認を怠り、
同道路の存在を見過ごしたというのであるから、同店長には、Xに同道路の存在を説明しなかったことにつき過失があるというべきである。したがって、Y1らは、Y2店長の上記過失(本件不法行為)について、民法715条に基づき損害賠償責任を負う。
①X依頼の不動産鑑定士が、本件都市計画道路の存在による本件土地の減価率を、後退線が約1mとなることを前提に、減価率が 10%とする報告書を作成している。しかし、同後退線については、配置図線と0.5m線の二つの線が図面上存在し、いずれが正しいか明らかでないことは認定のとおりであるから、これを約1mとする前提は採用できない。そうすると、本件土地の減価率は、5%と認めるのが相当であって、減価額は222万5000円となる。Y1らは、市役所の担当者が事業決定に消極的である旨発言しているとするが、本件道路が実施される可能性が0%であるとまで認められない。また、Y1らは、本件土地が買収される場合は、適正な価格で買い取られる等必要な費用も補償されるからXに損害は生じないと主張するが、Y1ら主張の補償の事実は、上記減価についての認定を左右するものではないというべきである。
②Xは、住宅ローンの繰上げ返済の手数料
(2万6250円)や、金融機関に余分に支払わざるを得なかった利息(19万192円)を損害として主張するが、これらを本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。また、仮に余分に支払った利息を損害として評価することが可能であるとしても、借入額が1500万円となった場合の月々の弁済額がXの主張する額になることを認めるに足りる証拠はないから、損害額についての立証はなく、上記主張には理由がない。
③不動産鑑定費用(21万円)について、本件不法行為と相当因果関係のある損害は、その
半額と認めるのが相当である。慰謝料については、本件不法行為の内容その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、50万円が相当である。弁護士費用30万円を損害と認定する。
以上によれば、本件売買契約が債務不履行により解除されたことを前提とするXの主意的請求は、理由がないからこれを棄却する。 Xの予備的請求については、Y1らに対し、本件不法行為による民法715条の損害賠償請求に基づき、連帯して、損害金313万円及び遅延損害金の支払を認める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却する。
3 まとめ
本件では、売主業者及び販売代理業者は、売買対象戸建土地に都市計画道路がかかっている資料を保有していたにもかかわらず、それを見落としていたために、xx業法35条1項の説明義務を怠ったとして、損害賠償責任を負うとされたものである。資料の丁寧な読み込みはもちろん、調査の徹底がなされれば、本事案は未然に防げたものと思われる。新築物件の場合、建築図書等の資料が充実している一方、その読み込みについては、xx業者の確認だけだと、重要な法規制の見落とし等もあるので、疑問点は設計士等へ照会することや、重要事項説明書のチェックを設計士等に依頼すること等が、望ましいと思われるので励行していただきたい。
参考判例として、都市計画道路がかかっている土地の説明義務を怠った媒介業者の報酬請求債権は成立しないとされた事例(東京地判 昭48.3.23)がある。
(調査研究部調査役)
-違反建築物-
中古マンションの建ぺい率超過等の瑕疵に関する説明義務違反に基づく契約解除及び損害賠償請求が否認された事例
(東京地判 平21・2・20 ウエストロー・ジャパン) xx xx
売主業者から、媒介業者を介して、中古マンションを購入した買主が、当該マンションには建ぺい率超過の瑕疵が存在し、建替えの際に制限を受けることについての説明義務違反があったとして、売買代金の返還及び損害賠償を求めた事案において、建物建築当時において建築基準法に違反していたものと認めるに足る証拠はなく、また、業者側は、重要事項説明書等を全て読み上げて説明したことから説明義務違反はないとして、買主の請求が棄却された事例(東京地裁 平成21年2月 20日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主X(以下「X」という。)は、媒介業者Y2(以下「Y2」という。)の仲介により、売主業者Y1(以下「Y1」という。)から、中古マンション(以下「本件マンション」という。)を2,680万円で購入し、平成19年8月8日に引渡しを受けた。XはY2に対して仲介手数料60万円を支払った。本件マンションは、東側建物と一体の建物として、昭和53年5月に建築され、1個の建物として登記された(以下、本件マンションと東側建物を合わせた建物全体を「全体の建物」という。)。全体の建物建築時の建築面積は、登記簿上399.68㎡であるが、建築確認を受けた建築面積は404.82㎡であり、その後平成4年8月、東側建物が増築され、増築後の全体の建物の建築面積は436.30㎡となり、全体の建物
は建ぺい率を超える建物となった。
そこで、Xは本件マンションには隠れた瑕疵が存在し、Y1及びY2に説明義務違反があったので、売買契約を解除したとして、Y
1に対し、解除による原状回復として、支払済みの売買代金2,680万円の返還を求め、Y
2に対し、仲介業者として、瑕疵についての説明を怠ったことによる債務不履行による損害賠償として、仲介手数料相当額60万円の支払を求め、さらに、Y1及びY2に対し、説明義務違反の債務不履行に基づく損害賠償として、慰謝料100万円の連帯支払を求めたものである。
2 判決の要旨
裁判所は以下のように判示して、Xの請求を棄却した。
争点①:本件マンションの隠れた瑕疵、並びにY1及びY2の説明義務違反について
本件マンションは、東側建物と一体となった全体の建物として、昭和53年5月10日建築され、一個の建物として、建築面積399.68㎡で登記されたが、平成4年8月、東側建物が増築され、増築後の全体の建物の建築面積は 436.30㎡となり、東側建物の増築により、全体の建物は、現在の建ぺい率を超える建物となった。そのため、本件マンションのみを東側建物と切り離して建て替えようとすると、現在と同規模又は同規模以上の建物が建築で
きない可能性があることになった。
本件売買契約の契約書の「売買物件の表示」の「特記事項」欄及び重要事項説明書の4項
「法令に基づく制限の概要」のЖ「建築基準法」の「備考」欄には、本件マンションの建替え制限について、「本物件は、東側土地
(…)の建物と一緒に建築されており、将来において建替え等の際に同規模、又は、同規模以上の建物が建築出来ない場合があります。」と明記されていた。
また、重要事項説明書の18項「その他の事項」の2には、「耐震強度の診断調査の結果
…管理会社に確認しました所、調査は行っておりません。」との記載が、同3には、「本物件の付帯設備は経年変化に伴うキズ・汚れ等があります。」との記載が、同6には、「平成 17年度の総会にて管理費・修繕費の改定案が、管理会社より提案されましたが組合員の方が却下された為、今後、大規模修繕が発生しました時は個別負担金で、対応することで組合員は認識しております。」との記載があった。Xは、かかる記載のある売買契約書及び重説書に署名押印あるいは署名をした。
上記認定事実によれば、全体の建物は、現在の建ぺい率を超える建物となっており、本件マンションのみを東側建物と切り離して建て替えようとすると、現在と同規模又は同規模以上の建物が建築できない可能性があることが認められるが、全体の建物ないし本件マンションが建築当時において建築基準法に違反していたものと認めるに足りる証拠はなく、建築基準法違反の建物であるということはできない。さらに、本件マンションに上記のとおりの建替え制限があることについて、説明義務違反があったということもできない。
従って、Xが各瑕疵の存在及びY1及びY
2の説明義務違反の債務不履行を理由に、本
件売買契約を解除することはできないというべきであり、Xの請求はいずれも理由がない。 Ж 争点②:Y2がXへ仲介手数料返還の約
束をしたか否かについて
認定事実によれば、本件の紛争が解決できるなら、Y2として、仲介手数料を返還したい旨を申し出、これに対し、Xの代理人弁護士が「要請書」を送付して、仲介手数料を同年12月5日までに振り込むよう要請する旨を伝えたことは認められるが、Y2としては、 X代理人弁護士からの「要請書」に応じて仲介手数料を返還するのみでは、本件の紛争の解決にならないと考え、仲介手数料の返還をしなかったものと認められるから、XとY2との間で、仲介手数料返還の確定的合意が成立したものと認めることは困難である。
従って、XがY2に対し仲介手数料の返還を求めることはできないというべきである。以上によれば、Xの請求は、いずれも理由
がないから棄却する。
3 まとめ
本判決は、買主の契約解除及び損害賠償請求に対して、建ぺい率超過については、当該マンションの建築当時において建築基準法に違反していたと認めるに足りる証拠はないこと、業者側には建替え制限があることについて説明義務違反があったとは言えないとして、買主の契約解除、損害賠償請求を却下した。
本事案では、xx業者の主張は認められたものの、建ぺい率の制限等に係る紛争は依然として多く、xx業者は買主が十分理解できるように説明することが肝要であることを改めて認識させられる事例である。
(調査研究部xx調整役)
9 -瑕疵担保責任-
賃料収入がないことは建物の価値に関して隠れた瑕疵があるとして、売主③者に対する損害賠償請求が認められた事例
(東京地判 平21・12・28 ウエストロー・ジャパン) xx xx
収益物件の売買において、買主が賃貸の可能性が全くないという隠れた瑕疵があるとして売主業者に対し損害賠償を求めた事案において、売買の前提となった賃料収入は全く得られていないことから、建物の価値に関して隠れた瑕疵があったとした事例(東京地裁平成21年12月28日判決 一部認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主Xは、平成20年3月頃、売主業者Yの中国人向けの広告を見て、本件建物の賃貸による利回りが年36%以上、20%のサブリースが可能であるなどと記載されていたことから、本件建物を購入しようと考え、Yと連絡をとり、本件建物を見分し、Yの従業員から本件建物の利回り等の説明を受けた。
Ж Xは、本件建物を購入すべきかどうか迷い、平成20年3月18日、本件建物を再度見分したところ、周辺の賃料相場が低いとの情報も得て、広告に記載されたような賃料収入が確保できるか心配になり、本件建物の購入を断念し、翌19日、Yに電話し、購入を断った。
€ その後、Yの会社の実質的な経営者であるAらはXに電話を架けて購入を勧誘するだけでなく、二回にわたってX宅の近くまで出向いて行き、Xと会い、本件建物の購入を強く勧誘し、契約交渉の過程で、Yは、Xの求めに応じて、サブリース契約を締結することにより、賃料を保証することを承諾した。
その結果、平成20年3月29日、Yとの間で、本件建物を代金5,000万円で買い受ける売買契約と同時に本件建物を期間5年、賃料月額 103万3276円の約定でYに賃貸する契約(サブリース1)が締結された。
Xは、その後も賃料収入が確実に得られるか心配になり、本件売買の履行を躊躇していたところ、Aからサブリース契約の対象から4階部分を除外し、同部分の賃料を直接Xが得られるようにすると説得されて、改めて本件サブリース2を締結し直し、本件売買を履行した。
平成20年8月末日、Yは、本件サブリース2に基づく賃料を支払わなかった。Xは、 Yに賃料の支払いを求めたが、Yは、全く申し込みがなく、サブリースができないので、本件サブリース2を解除すると述べて、支払をしなかった。
このため、Xは、損害を被るとともに、約定した賃料が支払われていないと主張して、民法570条又は債務不履行に基づく損害賠償及び賃貸借契約に基づく賃料等の支払いを求めた事案である。
2 判決の要旨
裁判所は、下記のように述べ、Xの請求を一部認容した。
本件建物は、いわゆる飲食店等を対象とした営業用の賃貸ビルであって、賃貸収入によって収益を得ることを目的としている
から、売買に当たっては、本件不動産の収益価値が最も重要な要素となると解される。Xは、本件売買に当たって、Yがサブリース契約を締結することにより賃料を保証することを請け負ったことから本件売買を締結したと認められ、本件建物のサブリース契約を締結することが前提となっていたと認めるのが相当である。
Ж しかるに、本件建物には、本件売買後も新たに賃借人が入居することがなく、その後、本件サブリース2に基づく賃料も全く支払われないまま契約は解除され、現状では、本件売買において前提となった賃料収入は全く得られていないことが認められる。
€ そうすると、猶予期間の経過後に本件建物に新たな賃借人が入居して、月額100万円程度の賃料収入が確保できる状態でないことは、本件売買当時に既に存在していたと認められ、本件不動産に瑕疵があったと認めるのが相当である。
Xは、本件不動産周辺の情報を入手して、本件不動産の収益性に疑問を持ちながらも、収益力が十分に見込めるというAらの言葉巧みな勧誘に乗せられて本件売買を決意したのであって、不動産業者であるYから執拗な勧誘を受けたことが本件売買の決定的な要因となっているから、Xが本件不動産の収益見込みについて否定的な情報を得ていたからといって、Xに過失があると解することはできない。したがって、本件売買は、目的物の価値に関して隠れた瑕疵があったと認めるのが相当である。
本件売買には、目的物に隠れた瑕疵があったと認められるが、Xが主張するように、 Yにおいて、本件建物の収益をXに得させ、利回りを保証する物件を提供する債務があったとまで認めることはできない。したが
って、債務不履行に基づく損害賠償の請求は理由がない。
本件不動産の売買代金額について、Xの希望価格として一旦4,000万円と記載され、それが訂正された跡があることからすると、本件売買当時、本件不動産の価値は、少なくとも4,000万円には満たなかったと認めるのが相当である。そうすると,本件不動産の賃料収入が得られないことにより生じた損害は、1,000万円と認めるのが相当である。
なお、Xは、サブリース契約を継続するによって得られたであろう賃料収入の減収分をもって損害であるとも主張するが、瑕疵担保責任における損害は、信頼利益に限定され、履行利益にまでは及ばないから、賃料収入の減収は損害の対象とならないと解するのが相当である。
そうすると、本件サブリース2に基づく未払い賃料額を含め、1170万7419円で、本件請求は、理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。
3 まとめ
建物の瑕疵担保責任が争われた事例として、物理的欠陥、権利瑕疵、心理的瑕疵によるものが多く見受けられるが、今回、売買の前提となった賃料収入は全く得られてないとして建物の価値に関して隠れた瑕疵があったとされたのはめずらしい事例であり、実務上参考となろう。
また、投資用マンション等の販売をめぐるトラブルについては、詐欺や不法行為等により争われる場合が多いが、本件のように目的物には賃貸の可能性が全くない等隠れた瑕疵があるとして争われた事例としても注目される。
(調査研究部xx調整役)
-土地の瑕疵担保責任-
基礎杭の残置、埋戻し部分の地盤支持力の瑕疵を否定し、代理③者の説明義務違反も否定した事例
(東京地判 平22・8・30 ウエストロー・ジャパン) xx xx
xxに放置された基礎は説明と異なる、埋戻し部分は転圧が十分でなく軟弱地盤であるなどとして、売主に瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求するとともに、代理業者に説明義務違反に基づく損害賠償の請求を求めた事案において、基礎杭の残置は明らかにされており、埋戻し部分の支持力にも問題ないとして瑕疵の存在を否定し、代理業者の説明義務違反も否定した事例(東京地裁 平成22年8月30日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成18年9月、買主X(法人)は売主Y1
(法人:xx業者)の代理人であるxx業者 Y2を介し、宅地8万3400㎡余を売買代金7億6000万円で購入する契約を締結した(以下
「本契約」という)。 Y2の交付した重要事項説明書には次のよ
うな記載がある。
① 本物件は、現況のまま引き渡すものとします。
② 本物件塀等構築物等については、経年に伴う破損、劣化があり、通常の品質・性能を有しておりません。点検、修繕、改修、撤去等及び地盤調査、改良工事、地中障害物の撤去等は買主の負担となりますので、予めご承知ください。
③ 本物件上の建物は売主により解体されていますが、基礎杭が残置されていま
す。種類・本数等については別紙「全体杭配置図」等を参照ください。また、その残存構築物等については、「敷地内雨水排水計画図・残存構築物配置図」を参照ください。
平成18年12月、Y1はXに対し、本件土地を引き渡した。
Xは、基礎杭は「深い所で折ってある」と説明を受けたが、①地表30cm程度のところまで放置されている②地下ピット撤去後、ブルドーザーで土を万遍なく埋め立てた程度で、十分な転圧を行っていないため、地下8 mまでN値が10に満たない軟弱になった③解体後の鉄筋やコンクリートのガラ等の産業廃棄物を本件土地から搬出せず、大半を埋め戻して放置したとして、Y1に対し、瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求するともに、Y2は解体工事内容について調査すべき立場にありながらその内容に関する説明義務を怠り、
①、②の瑕疵を説明せず、①の瑕疵に関し
「深い所で折ってある」など虚偽の説明をしたと主張して提訴した。Y1は③についての瑕疵を認めて、鉄筋やコンクリートガラ等の撤去工事を行ったが、その他については瑕疵を否定して争った。
2 判決の要旨
裁判所は以下のとおり判示して、売主の瑕疵責任及び媒介業者の説明義務違反を否定した。
(基礎杭)の瑕疵について Y2の担当者Xは現地説明においてXの不
動産事業担当顧問Fに対し、本件土地に杭が残してあることを説明したところ、Fから杭の位置がわかる図面を要求され、Fに対し、全体杭配置図をファクシミリで送信したこと、Xに交付された重要事項説明書には、基礎杭が残置されており、その種類、本数等については全体杭配置図を参照されたい旨の記載がある。そうすると、本契約の締結は、本件土地に基礎杭が残置されていることが明らかにされた上で入札を通じて行われたのだから、本件土地に基礎杭が残置されていること自体は、隠れた瑕疵にあたるということはできない。この点について、Xは、基礎杭は深い所で折ってあると説明を受けたと主張するが、Xにとって杭の深さがそれほど重要であれば、その具体的な深さを確認して然るべきであるのにこれを行うことなく、入札に応じ契約している。基礎杭が深い所で折ってあると説明を受けたことを認めるに足りる証拠はない。
Ж ②(地盤の軟弱化)の瑕疵について Xの入札にあたっての申込書には利用計画
として「住居、商業地等市街化の形成」等が記載されているものの、これはX側の本件土地購入後の予定にすぎず、本件契約が一定以上のN値を当然に予定していたことを認めるに足りる証拠はない。また、証拠によれば、有限会社AコンサルタントのIは、地下ピットの掘削埋戻し部分の地盤の許容応力度は 42.3kN/㎡であり、建築物の基礎底面作用荷重として想定した35kN/㎡に対して支持力面からは満足する結果が得られる。埋戻し箇所での発生沈下は未施工箇所に比べ低減しており、埋戻し自体の問題を挙げるのではなく、未施工部分と埋戻し部分の沈下発生の度合いが異なるため、新築された建物に悪影響
を与えるような不同沈下が発生する可能性があるという意見を表明していることが認められる。そうすると、本件土地の地下ピット埋戻し部分には、地表面下10mまでの地盤にN値が10以下の層があるものの、同部分の支持力には問題がないというべきである。本件土地の地下ピットの埋戻し部分に瑕疵があるということはできない。
€ 代理業者の説明義務違反について
及び②の瑕疵に関しては、前記のとおり隠れた瑕疵があるということはできないから、説明義務違反をいうXの主張は前提を欠く。③の瑕疵に関しては、全証拠によっても、 Y2がこれを認識していたことを認めるに足りず、Y2にこれを調査して説明すべき義務があることを具体的に根拠付ける事実に関する主張、立証もない。したがって、Y2の説明義務違反をいうXの主張は採用することができない。
瑕疵による損害金について
廃棄物撤去工事による工事期間遅延、短縮に伴う諸費用として179万円余のみを瑕疵による損害として認めた。
3 まとめ
本件のように、瑕疵があることを告知(本件では基礎杭の残置)していても、想定していた状況と違うとして瑕疵責任を追及されることは少なくない。代理・媒介業者が「知りえた瑕疵」を重要事項説明において説明するときは、事実のみを正確に説明することが重要である。推測を交えた説明と事実が異なった場合、不実告知として説明義務違反を問われることになりかねないので注意する。
(調査研究部上席xx研究員)
最近の判例から
-心理的瑕疵-
賃貸アパートの売買において、決済前に貸室内で自殺があったことは、危険負担条項の毀損に当たるとされた事例
(東京高判 平22・7・20 判例集未登載) xx xx
契約後決済前に売買した賃貸アパートの一室で自殺があったことは、売買契約の危険負担条項における毀損にあたるとして、買主が売主に対し不当利得の返還を求めた事案において、当該約定は物理的滅失や毀損に限定されるものではなく、その発生時期は発見時点でなく原因事実が発生した時点であるとして、その請求を一部容認した事例(東京高裁平22年7月20日 判決 確定 なお、原審の横浜地裁平成22年1月28日判決は判例タイムズ 1336-183に掲載)
1 事案の概要
買主Xは、xx業者である売主Yより、仲介業者Aの媒介にて、JR横浜線xx駅より徒歩約15分の位置に所在する、築後約1年の賃貸アパート(2階建・ワンルーム10室)を 8,680万円で購入した。
本件売買の決済を行い、本件土地建物が引き渡された同日に、本件建物の一室で賃借人 Bがその5日前に自殺し縊死していたのが発見された。
Xは、Bの敷金を没収するとともにBの保証人Cより、本件自殺に伴う損害賠償金として50万円を受領した。
なお、本件自殺のあった貸室は半年間は空室、その後1年間は家賃4万2千円(従前は
7万2千円)で賃貸されていたが、新借主退去後は家賃6万円での募集に対し空室の状態が続いている。
Xは、「売買契約締結後、本物件引渡前の時点での、本件建物における本件自殺は、売買契約の危険負担条項における毀損にあたる。」として、不当利得返還請求権に基づき 381万円余及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
これに対しYは、「本件危険負担条項における毀損は物理的毀損を意味しており、本件自殺は含まれない。仮に、本件自殺が毀損に当たるとしても、その発生時点は自殺により死亡した時点ではなく発見された時点である。」等と主張しこれを争った。
原審は、本件危険負担の毀損には本件自殺のような土地建物の交換価値を減少させる場合を含み、その発生時点は本件自殺の発生時点であるとして、鑑定による毀損額の評価額 381万円余より、XがBの保証人等より収受した57万円を差し引いた324万円余が、Yが Xに返還すべき不当利得であると認めた。
Yはこれを不満として控訴した。
2 判決の要旨
裁判所は以下のとおり判示し、Yの請求を一部容認した。
本件自殺は売主が負担すべき毀損か
本件危険負担条項は、本件土地建物の引渡しに至るまでは、民法534条1項の債権者主義を修正し債務者主義による旨の規定であり、「火災、地震等」とあるのも例示的な列挙であって物理的滅失や毀損に限定する趣旨
ではなく、また、本件売買契約書の特約事項で「当該物件は、これまでに事件・事故がないことを売主は買主に告知しておきます。」と謳っていることに照らしても、本件自殺のような本件土地建物の交換価値を減少させる場合を含むと解される。
そして、その発生時期は、評価の対象となる原因事実が発生した時点であり、当該事実の発覚を待たずして毀損は生じるものであるから、Yは本件自殺によって生じた本件土地建物の毀損について負担すべきこととなる。 Ж 本件自殺による損失額の評価
本件建物は木造の共同住宅であるが、比較的独立性を高めた各居室の配置を採用している構造であること、10世帯が入居する賃貸用共同住宅の2階の1室での事故という事情等を考えると、原審鑑定における試算につき、有効需要の減少の算定における建物の減価率を50%から40%に、土地の減価率を50%から
0%に、収益性の算定における賃料減少期間を24年から10年に修正して試算するのが妥当と考えられる。
すると、有効需要の減少の算定では、1.72%
(売買代金に占める建物の割合×本件建物中に占める本件事故のあった貸室の効用割合×減価率40%)、収益性の算定では、2 . 83%
(賃料差額10年間分の現在価値÷売買代金)と試算されたので、本件建物が収益物件であることより収益性の点を重視し、有効需要からの減価率と収益性からの減価率の数値を
1:2の割合で按分した2.46%をもって最終的な減価率とするのが相当と判断される。
よって、本件自殺による価値減少額は213万円余(売買金額×2.46%)となるが、敷金
7万円については後始末費用に当てられたものと推認されることから、XがCより受領した損害賠償金50万円を控除した163万円余が YがXに返還すべき不当利得となる。
€ 結論
以上により、原判決を変更し、163万円余がYがXに対して返還すべき不当利得であると認める。
3 まとめ
心理的瑕疵が瑕疵担保責任により追及された裁判例はすくなくないが、危険負担の毀損に当たるかどうかについて争われた事例は、めずらしい。「心理的要因による土地建物の交換価値の減少が危険負担条項における毀損に該当し、その発生時期は発見時点ではなく、原因事実が発生した時点である。」とした本判決の判断は、実務上参考となる。
本件で容認された毀損額は、本件売買金額に占める本件自殺のあった貸室の効用割合の約23%相当額にあたるが、売買決済直前の事件であったこと、売主がxx業者であり、本件土地建物において事件・事故はないと買主に告知していたこと等も考慮・評価されたものであろうと思われる。
しかし、本判決の毀損額評価における収益性の算定において、本件自殺による賃料の減額期間を10年として試算しているが、貸主が本件貸室を賃貸するに当たり本件事故を借主に告知すべき期間については、平成22年9月 22日東京地裁(判例時報 2093-87)、平成19年8月10日東京地裁(RETIO 73-196)、平成13年11月29日東京地裁(RETIO 55-72)、平成5年11月30日東京地裁(RETIO 28-27)の裁判例、本件土地建物の周辺環境・個別性等との比較からすれば、最大4~5年というところが妥当ではないだろうか。
(調査研究部調査役)