Contract
第 3 編「債権」
第 2 部「各種の契約」
民法(債権法)改正委員会
第 19 回 全体会議
2009.2.14
第6章 消費貸借
I. 消費貸借の意義と成立
1. 消費貸借の意義と成立
Ⅳ-3-1 消費貸借の意義と成立
消費貸借とは,当事者の一方(貸主)が,相手方(借主)に,金銭その他の物を引き渡す義務を負い,借主がそれを消費利用し,引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還する義務を負う契約である。
関連条文 民法 587 条(消費貸借)
【提案要旨】
本提案は,消費貸借における当事者の義務とともに,その成立要件を示すものである。 まず,契約の成立については,現行法と異なり,消費貸借の目的物を引き渡すことを要求
せず(要物契約の不採用),また,契約の成立についての特別の方式も採用せず,契約の成立に関する一般原則に従い,諾成的合意によって消費貸借が成立することが示される。
また,xx的合意によって消費貸借が成立することから,現行法とは異なり,貸主の義務に,金銭その他の物を引き渡す義務が含まれることになる。引渡後の当事者間の関係は,基本的に現行法と同様の法律関係となる。
なお,本提案は,利息付消費貸借,無利息消費貸借の両方に共通する規定として置かれるものである。そのうえで,利息に関する規定を,【Ⅳ-3-2】として置くとともに,無利息消費貸借について,xx的合意による契約の拘束力を緩和するためのしくみ(引渡前解除権)を,【Ⅳ-3-3】で提案している。
Ⅳ-3-2 利息に関する合意
利息を支払うべきことについての合意がある場合には,借主は,引渡しを受けた元本について,その利息を支払わなければならない。ただし,収益事業を行う事業者が,その事業の範囲内で消費貸借をしたときは,特段の合意がない限り,法定の利率による利息を支払わなければならない。
【提案要旨】
本提案は,消費貸借における利息についての規定を置くことを提案するものである。現行法は,貸主の担保責任を規定する中で(現民法 590 条),利息付消費貸借について言及する
にすぎないが,利息付消費貸借は,消費貸借の基本的な類型の 1 つであり,利息をめぐる法
律関係を明確にしておくことが望ましいと考えられることから,このような規定を提案するものである。
ここでは,利息についての合意がある場合に,その引渡しを受けた元本についての利息債務が生ずるということを明らかにするとともに,現行の商法 513 条に相当する規律をあわせて規定し,収益事業を行う事業者が,その事業の範囲内で消費貸借をした場合については,特段の合意がない場合でも,法定の利率による利息を支払うべき債務が生ずることを示している。なお,この場合に支払うべき利息の利率については,法定利率における提案を受けて
決まることになる。
2. 無利息消費貸借の拘束力の緩和
Ⅳ-3-3 無利息消費貸借の引渡前解除権
貸主が消費貸借の目的物を借主に引き渡すまでは,各当事者は消費貸借を解除することができる。ただし,消費貸借の成立が書面による場合には,この限りではない。
【提案要旨】
本提案は,無償契約である無利息消費貸借において,xx的合意のみによって契約に確定的な拘束力を与えることは,特に,貸主にとって酷となることがあり得ることを考慮して,その拘束力の緩和を図ったものである。
具体的な処理としては,目的物の引渡しまでは,各自当事者が自由に消費貸借契約を解除することができること(引渡後の解除と区別するために,ここでの解除権をさしあたり「引渡前解除権」と呼ぶ)を認めることによって,その消費貸借に関する合意の拘束力を緩和するものである。
そのうえで,消費貸借の成立が書面によってなされた場合には,この引渡前解除権が排除されることを提案するものである。
3. 消費貸借の予約
Ⅳ-3-4 消費貸借の予約
(A案)消費貸借の予約については,特に規定を置かない。
(B案)無利息消費貸借の予約が書面によってなされたときは,予約完結権の行使によって成立した消費貸借について,それが書面によらないことを理由として解除することはできない。
【提案要旨】
消費貸借の予約については,いくつかの方向が考えられる。
まず,消費貸借の予約という形式があること自体については,【Ⅳ-3-4】の中で消費貸借の予約について言及しており,それによって示されている(ただし,【Ⅳ-3-4】における消費貸借の予約の扱いについては,なお検討の余地が残されている)。
そのうえで,両案を提示しているが,実質的に異なるものではない。
A案は,消費貸借の予約については,特に規定を置かないことを提案するものである。 そのうえで,有償契約である利息付消費貸借の予約については,売買の予約の規定が準用
され,無償契約である利息付消費貸借の予約については,贈与の規定が準用されるということになる。
したがって,無利息消費貸借については,【Ⅱ-11-2】の規定が準用され,そこで贈与とされている規律が,使用貸借に読み替えられることになる。
B案は,上記と同じことを直接,書き下すことを提案するものである。無利息消費貸借における引渡前解除権の規定が,贈与の規定の準用によっていないために,その点の疑義を避けるためのものである。
Ⅳ-3-5 準消費貸借
現行 588 条の規定を維持する。
関連条文 現民法 588 条(準消費貸借)
【提案要旨】
準消費貸借に関する現行 588 条を維持することを提案するものである。
4. 融資枠契約
Ⅳ-3-6 融資枠契約
① 融資枠契約自体については,特別の規定は用意しない。
② 諾成的消費貸借が認められることに対応して,特定融資枠契約に関する法律について,その修正が必要となるかを検討する。
関連条文 特定融資枠契約に関する法律 1 条ないし 3 条
【提案要旨】
融資枠契約については特定融資枠契約に関する法律が存在し,特別の手当ては必要ないとしたうえで,特定融資枠契約に関する法律については,諾成的消費貸借が基本となることを前提として,特定融資枠契約について,修正の必要性が生ずるかを検討することを提案するものである。
II. 目的物の引渡し前の法律関係
1. 目的物の引渡し前の借主の信用危殆
Ⅳ-3-7 融資実行前の当事者の一方の破産手続の開始
(1) 目的物を貸主から借主に引き渡す前に,当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,消費貸借はその効力を失う。
(2) 消費貸借の予約は,その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う。
関連条文 現民法 589 条(消費貸借の予約と破産手続の開始)
【提案要旨】
諾成的消費貸借が導入されることを前提として,消費貸借の予約に関する現民法 589 条の規定の実質的内容が,諾成的消費貸借成立後,その引渡前についても,適用されることを提案するものである。
あわせて,消費貸借の予約については,現民法 589 条の規定をそのまま維持することを提案するものである。
III. 消費貸借の効力
1. 諾成的消費貸借における貸す債務の不履行
Ⅳ-3-8 融資に関する債務不履行
特段の規定を置かない。
【提案理由】
本提案は,諾成的消費貸借において,融資約束が実行されない場合についての貸主の債務不履行責任の内容について,現民法 419 条が改正され,特別損害の賠償の可能性が排除されないことが明文化されることを前提に,特別の規定を置かないとするものである。
2. 貸主の担保責任
Ⅳ-3-9 目的物に瑕疵があった場合の法律関係
(1)消費貸借において,引き渡された物に瑕疵があったときは,借主は,瑕疵がある物の価額を返還することができる。
(2)利息付消費貸借において,引き渡された物に瑕疵(権利の瑕疵を含む)があったときは,【Ⅱ-8-23】以下の規定を準用する。ただし,【Ⅱ-8-34】の期間制限については,瑕疵についての通知が,合理的期間経過後になされた場合であっても,それ以後の解除及び代金減額に相当する利息の減額を行使することは妨げないものとする。
(3)無利息消費貸借において,引き渡された物に瑕疵があった場合に,貸主が,その瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは,前項の規定を準用する。
関連条文 現民法 590 条(貸主の担保責任)
【提案要旨】
現民法 690 条は,利息の有無(有償か無償かの区別)に応じて,貸主の瑕疵担保責任を規定している。このような枠組みは,基本的に維持されるべきものであると考えられるが,そのうえで,今回の改正提案全体の方向をふまえて,以下の提案を行うものである。
提案(1)は,現民法 590 条 2 項において,無利息消費貸借の規定として用意されているものであるが,消費貸借の目的物に瑕疵があった場合の規律としては,利息の有無にかかわらず認められるものであると考えられるため,そのことが明確になるように,瑕疵があった場合の法律関係の冒頭において示すものである。
提案(2)は,現民法 590 条1が,利息付消費貸借について規定している内容を,売買における瑕疵担保責任の規定を準用するという形で処理することを示すものである。
有償契約である利息付消費貸借について,有償契約である利息付消費貸借に売買の規定が準用されるということは当然であるともいえるが,この点についての疑義を避けるためとともに,提案(2)を規定するうえで,その点を明示することが適切であると考えられるからである。
なお,売買の規定は,基本的に,期間制限を含めて,利息付消費貸借に準用されるものと考えられるが,消費貸借の継続的契約としての性格に結びつく,利息に関する救済(代金減額に相当する利息減額)と解除については,その期間制限がそのままでは適用されないことを確認するものである。
提案(3)は,無利息消費貸借に関する現民法 590 条2項の規定に相当するものである。
無利息消費貸借が無償契約であることに照らせば,提案(1)との関係では,贈与の規定を準用するというのがひとつの方向として考えられるが,元来,目的物を消費して,同種同量の物を返還すればよいという消費貸借においては,瑕疵があったものの価額を返還するというのは,最も簡便な法律関係と考えられ,このようなしくみで問題を解決する現行法を実質的
に維持するものである。また,貸主が悪意の場合の責任については,現行法と規定の仕方は同じであるが,提案(1)における修正にともなって,この点についても,実質的な変更があったことになる。
3. 抗弁の接続
Ⅳ-14-1 抗弁の接続に関する基本方針
第三者型与信契約における抗弁の接続に関して,
(A案)消費貸借の中に規定を置く。
(B案)規定を置かない。
【提案要旨】
第三者型与信契約については,包括的に規定を置くことは困難であるが,抗弁の接続に限って規定を置く方向が具体的に検討された。
A案は,このような抗弁の接続に関する規定を用意するものとし,それを消費貸借の中に規定することが適切であるとするものである。
B案は,抗弁の接続についても,xxの規定を置くことを見送るものである。
Ⅳ-14-2 抗弁の接続の要件
消費者が,事業者(以下,「供給者」という。)との間でなした物品もしくは権利を購入する契約または有償で役務の提供を受ける契約(以下,「供給契約」という。)を締結し,供給者とは異なる事業者たる第三者(貸主)と消費貸借契約を締結する場合において,供給契約と消費貸借契約が〔経済的に〕一体のものとしてなされ,かつ,あらかじめ供給者と貸主との間に,供給契約と消費貸借契約を一体としてなすことについての合意が存在した場合には,購入者等は,供給者に対する抗弁をもって,貸主に対抗することができる。
【提案要旨】
抗弁の接続についての規定を民法典の中に用意するという立場を選択した場合に,そうした抗弁の接続を認める要件として,以下の要件を挙げるものである。
① 消費者と事業者間の契約であるということ
② 供給契約と消費貸借契約の〔経済的〕一体性
③ 両者を一体としてなすことについての供給者と貸主との合意を要件として挙げることを提案するものである。
IV. 消費貸借契約の終了
1. 消費貸借の終了
Ⅳ-3-10 消費貸借の終了
(1)当事者が返還の時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返還を求めることができ,その期間の経過によって,消費貸借は終了する。
(2)借主は,いつでも返還をすることができ,それによって消費貸借は終了する。
関連条文 現民法 591 条(返還の時期)
【提案要旨】
本提案は,現民法 591 条の規定を,実質的に維持することを提案するものである。
そのうえで,現行法が,目的物の返還時期として規定している内容を,契約の終了に関する規定として再構成したものである。
2. 目的物の返還
Ⅳ-3-11 目的物の返還
現民法 592 条の規定を維持する。
関連条文 現民法 592 条(価額の償還)
【提案要旨】
目的物の返還が不可能となった場合についての現民法 592 条の規定を維持することを提案するものである。
V. その他
Ⅳ-3-12 利率等に関する規律
利率に関する規定は置かないものとする。
【提案要旨】
本提案は,現行法と同様に,利率に関する規定は置かないことを確認するものである。