Contract
■ 平成 26 年度 第4回「xxx財塾」
次第
1. 開会あいさつ、コーディネータによる話題提供(xxxxx先生)
2. ゲスト講義「知的財産活用に関連する契約の注意事項」
特許業務法人 xx国際特許事務所 顧問 xxxx先生
— 休憩(10 分) —
3. グループディスカッション「契約関連の悩みや課題を解決する糸口を探る」
4.その他連絡事項など
当日の様子
xxxxx先生 xxxx先生
コーディネータによる話題提供
「知財契約と交渉」 xxxxx先生 大阪工業大学大学院知的財産研究科教授
1.契約とは
契約とは、対立する複数の意思表示の合致によって成立する法律行為である。契約自由の原則とはいえ、法令違反の条項は契約無効になる。
契約は口頭でも成立する。しかし、合意の証拠を残すため、契約履行のためにも文書を作成する。特に、知財の契約は契約履行が大事になるので、文書作成は必須となる。また、契約書の文書名として、「契約書」や「覚書」「合意書」などと色々あるが、文書名に関わらず法的効果は同じである。
また、部品を納入したり購入したりといった売買の契約書は、知財部門に回ってこなくても、知財情報が入っていることもあるので、知財担当者は気をつけなければならない。
例えば、ある企業の営業所長名の契約書に、すべての特許責任を無制限に自社が負うと記載されていたら、営業所長名の契約であっても会社全体が損害賠償の責任を負うことになる。そのため、知財の情報が入っていたら必ず知財担当者に回すよう、社内体制を整えておくべきである。
2.知的財産に関する契約書
知財に関する主な契約書としては、秘密保持契約書、共同開発(共同研究)契約書、開発委託契約書、共同出願契約書、実施許諾契約書の5点があげられる。
また、事前に秘密保持契約を結ばなくても、他の契約書に混ざっていることがある。例えば、共同開発契約書や開発委託契約書の中に「守秘義務事項」として存在したり、購買の契約書に知財責任の情報が潜んでいたりすることがある。
3. 社内における知財交渉の準備
契約書に至る前の知財交渉の準備は重要である。
まず、他社との交渉に先立つ準備として自社の強み、知財だけではなく技術や開発人材、営業力など、アピールできるもの、交換条件として使えるものを把握しておくことが大事になってくる。
次に、決裁者、契約履行の責任者を決定する。現場の研究所長であっても、サインをすると会社の責任になる。意外と決めていないようだが、会社の信用に関わってくるので、決めておくべきである。社内の協力体制の確立も重要だ。開発、製造、営業、法務、事業企画、会社によって様々な部署が
あるので意思統一が必要だが、これもあまりできていない企業が多いものと思われる。
意思統一の内容としては、契約条件の「落としどころ」と「最低獲得ライン」の決定がまず重要だ。それを割り込んだらその会社とは契約しない。
そして、交渉責任者や、サポートチームのメンバーも決めておく。誰が交渉の責任者なのか。この際、社長を責任者にしてはいけない。社長が出ていき、その場でOKしたら即決となってしまう。それよりも、社外と交渉することのオーソライズを受けることができ、社内の合議が必要なレベルの人
(自分で決裁できない人)が適している。また、法的ないし技術的なサポートを行うチーム決めも大事だ。ここまで実施できれば、8割方、やるべきことは済んだものと考えられる。
4.他社との知財交渉のポイント
自社の事業戦略に役立つ知財契約であるかどうか。将来は何をしたいのか。相手企業と長くお付き合いをしたいのか。1回きりなのか。事業戦略に役立つ契約かどうかを判断して、自分たちの目標、目指すところの障害となる条件には合意してはならない。
契約はxxであっても、平等ではない。ただし、不平等は、ある程度は軽減することができる。自社の事業戦略に合致し、許容できる範囲であれば、不平等でも合意する場合もある。それを社内に周知しておかないと、知らない人ほど社内で揉めてしまうかもしれない。また、違法な条項は契約無効なので、民法、特許法、独占禁止法、著作xx、不正競争防止法などとの照合は必要だ。
条件交渉はパッケージで行うこと。条項ごとに交渉して結論を出してはならない。金額だけ、期間だけで行わずに、交渉すべき複数の条項を一括しパッケージ化して交渉を行う。
そして、契約書案(Draft)は先に提示すること。これは鉄則である。自社に有利な提案ができる。逆に、相手が例えば大企業ならば、出してきた契約書案を変更させることは、相手内部の決裁が必要な場合があり、時間と労力を要する。また、交渉の直後に、合意や対案を含む修正案を送付するのが望ましい。どちらが先に提示するかで、その後の交渉のアドバンテージが決まる。
交渉者は、知財の専門知識が必要なので知財担当者が適任である。契約に応じて、技術や事業の人と同席して交渉する。共同開発であれば、技術のプロジェクトリーダーを同席させて交渉する。
また、専門家の活用も重要だ。自社の事業戦略と知財の活かし方を理解し、技術力と交渉力に優れた専門家を探す。知的財産の場合は、交渉の事前段階から弁護士と相談しておくのが望ましい。
弁護士は、交渉の事前段階から交渉戦術や契約書案の作成にも活用するのが良い。ただし、事業戦略が活かせるかどうかが交渉のポイントになるので、弁護士に社長の思いをきちんと伝えておかなければならない。そのためにも、優秀な弁護士と信頼関係を作っておくのが望ましい。
講演
「知的財産活用に関連する契約の注意事項」 xxxxx xx国際特許事務所 顧問
0.塾生からの事前質問への回答
最初に、塾生からの事前質問として、契約に関する総括的な内容のものが2点あったので、これについてお答えする。
まず、「契約後に相手と意向や意識がすれ違ってくる。契約を取り決める場合にどこに注意をすればよいか」との質問があった。
合意事項であり、両者の意見が一致すれば、契約は成立する。契約当初は信頼関係に基づいて内容を検討して条項を作成するが、時間の経過とともに事情や背景が変わり、中身について修正したいという場合に、それでは約束が違うとなって相手と揉めることは、よくあることである。
ここでのポイントは、継続的な取引の場合、事情や背景が変わるのは当然なので、条件が変わることを前提に、協議事項を入れることである。協議事項、すなわち当初は取り決めていないことで、新たな解釈もしくは変化が生じた場合は改めて協議を行うという項目を入れておく。
長期にわたる取引では、条件が変わってくるのは当然である。契約内容は全く変えることができないのではなく、協議事項がある限り、交渉の場に臨むことができるし、条件が変わった際には協議事項を前提として両者で協議ができる。これを認識しておいていただきたい。
また、継続的な契約の場合、契約発行日から一定期間の契約が終了した後に、契約を自動延長することもあるが、単なる自動延長ではなく、「契約を延長する際に契約条件を別途協議する」という事項を入れておくのも一策である。
もう1つ、「契約を途中で更新する場合の注意点はありますか」とのご質問があった。
事情や背景が変わったので条件変更したいというケースは多々ある。例えば、売買契約の中で特許 を実施しなければならない。共同研究で新たな費用が発生したので契約額を増額しなければならない。こういった場合を想定して、契約更新の前に変更箇所についての覚書を締結するのが定石である。こ の際、条件変更によって元の契約に大きな影響を及ぼすことはないかどうか、確認する必要がある。
また、契約変更したのはいつの時点からなのか。法律の専門用語になるが、「遡及させる」という言葉を使って、覚書を締結する場合もある。
例えば、契約変更の日時を2年前に遡及させるのであれば、2年前から契約変更しているものとして、費用や権利・義務において元の契約のまま実施された結果も伴っているケースもあり、この場合、
2年間の実施分をどう対処するかという問題が生じる。そのため、契約更新の場合には、いつ変更させるのか、変更により他の条項に影響を及ぼすかどうかを検討した上で変更の覚書を締結するのが望ましい。
さらに、契約条件を発展させることがある。
例えば、企業同士、若しくは企業と大学と共同研究契約を締結し、後ほど、共同研究契約には記載していなかった「共同研究の成果として発明が生じた場合」はどうするのか。
発明が生まれると、共同出願契約やライセンス契約に移行していくのが一般的であるが、発展が想定される主要な契約条件については、移行する前段階の契約において、予約的に取り決めておくのが望ましい。出てきてから協議をしていたのでは時間もかかり、利害関係も変化する。また、元の契約内容をないがしろにして、新たに条件をつけることはできないので、移行する場合は注意が必要だ。
1.秘密保持契約
秘密保持契約は、企業間の取り決めや交渉の出発点となる重要な契約として認識し、また、契約レベルにより内容や位置付けが違うことを認識することが重要である。
秘密保持契約のレベルは大きく3つに分類できる。
まず、レベル1は、単なる情報交換における取り決めであり、展示会で興味を示した他の企業と情 報交換する際の秘密保持契約がこれに相当する。この場合、自社の重要情報は開示してはならない。次に、レベル2は、自社製品や技術を売り込む場合で、例えば、関係先に売り込みをかけようとプ
レゼンテーションを行う場合の秘密保持契約がこれに相当する。この場合、相手方の購入意思がイエ スかノーかわからない段階で重要な情報は開示してはならない。他社と比べてこの点に優位性がある、この製品は特許出願中で特許になる可能性が高く権利保護されているから安全だ、といったアピール は良いが、具体的な技術の内容にまで踏み込むのは避けていただきたい。
最後に、レベル3は、自社製品及び技術を評価してもらうために取り決めをする場合で、例えば中間製品について、相手が自社製品に組み入れられるかどうかを評価したいという際の秘密保持契約がこれに相当する。この場合、レベル1や2とは違い、技術情報や製品サンプルなど、ある程度の情報は開示せざるを得ないが、逆に、「評価した結果を知らせてください。評価した結果、次のステップに進むかどうかの意思表示をしてください」と、相手に対して、検討結果についての意思表示を要求するのが望ましい。
また、担当の研究者や技術者に、相手からの質問に対して重要技術については、口頭であっても、詳細な回答は避けるよう、徹底することも重要である。
特に、会合の席に研究者や技術者が出席する場合は要注意である。突っ込んだ質問が出た際に、契約担当者が同席していれば、口止めをするなり、研究者や技術者が答えようとした際にはストップをかけるものと思われるが、契約担当者が不在で事業部の担当者と技術者又は研究者のみ出席する場合は、質問されると答えてしまう可能性が高い。相手会社の技術者又は研究者が同席していて、その分野に精通しているのであれば、口頭でのひと言がヒントになる場合もある。
そのため、研究者や技術者が会合に出るときは、出席者を選択すると同時に、出席前に詳細な説明は避けるよう徹底しておく。どうしても説明が必要な場合に資料を配ることもあるが、必ず回収するよう徹底する。資料を見せると頭の中に入ってしまうが、書面で渡してしまうよりリスクは低いと思われるので、回収して相手に渡さないことが重要である。
2.共同研究(開発)契約
共同研究(開発)契約は、企業同士の場合と、企業と大学の場合とで注意する事項が分かれる。企業同士の場合は、その中でも3種類がある。
まずは、競合する企業同士の連携の場合。昨今は、グローバル化により、日本進出を図っている海外企業に対し、企業間で日本の技術を守ろうという意識が高い。例えば、自動車や電機関係は、一つの発明や特許技術ではなく、多くの技術が組み合わさって1台の自動車になり、機械になっているので、パテントプールやクロスライセンスが盛んに行われており、成果の取り扱いや開発製品の取り扱いが注意するべき事項になってくる。
2番目は連携する企業間の場合。材料などの中間製品メーカーと最終製品のメーカーは、一連の流れの中で固定化されているケースがある。
「大企業と中小企業では、大企業の力が強いのでものが言えない」という、塾生からの事前質問があったが、自社の技術は必ず守らなければならない。大企業と中小企業が部品の共同開発を行い、部品を実際に開発したのが中小企業であれば、出てくる発明についても中小企業の貢献度が強いので、自社の製品を守るよう、働きかけるべきである。例えば、部品を大手メーカーに一手に納品するのか、若しくは他のメーカーに納品してもよいのかという条件の交渉は、やっていただく価値がある。相手が大手企業であってもひるまず、強硬な態度で交渉するべきである。
3番目は得意技術の相互利用を目的とする連携の場合。注意する事項は、成果の実施領域の棲み分けや、他社への対応、自社にとって不利になる条件拒否があげられる。
例えば、ある中小の電子メーカーが、体にメスを入れることなく、外側から光を当てるだけでがんなどの部位にスポットを当てて色が変わるという特許技術により、大手の医療機器メーカーと医療機器の共同開発を行う場合、電子メーカーのスポットを当てる特許技術は多様な用途で使えるので、自社の技術に関連することは必ず権利主張をするべきである。たとえ相手が大企業であったとしても、共同開発に基づき派生する技術については特許技術を有する電子メーカーに権利があり、新しい技術は他社でも活用できるので、権利主張をするのが望ましい。
さらに、企業と大学との共同研究(開発)契約では、成果の実施に対する優先権利の主張や、大学の研究者における秘密管理の徹底が、注意するべき事項である。
3.共同出願契約
持分はなぜ決めるのか
共同出願契約では、まず、持分を取り決める。
持分は、まず、費用負担の割合に影響する。例えば、共同出願や権利取得の費用の合計が 1000 万円で、持分が 70:30 であれば、70%の企業が 700 万円を負担し、30%の企業は 300 万円を負担する。また、第三者への実施許諾により得られる実施料の分配にも影響する。第三者へのライセンス料と
して 1000 万円の収入がある場合、70:30 の持ち分であれば 700 万円と 300 万円となる。
さらに、両者が共同で訴訟に応じる場合に発生する費用等は、70:30 の比率で分担することがある。こういった費用負担や収益の配分に持分が影響するのであって、自らが実施する場合は、持分比率 は関係なく、共有者として対等に実施でき、なおかつ、相手の同意を得られれば、第三者への実施許
諾も可能である。
持分比率の決め方
持分比率の決め方としては、まず、共同開発する場合の主たる開発課題が、どちらの技術がベースになって開発を行うのかを開発の出発点で確認し、取り決める方法がある。
また、開発に要した費用として、どちらの貢献度が高いのかで取り決める方法がある。
さらに、開発作業にかかわる研究者・技術者を特定することで、取り決める方法がある。甲の開発担当者は7名、乙の開発担当者は3名であれば、おのずと開発費用や人件費を含めて7名が関与している側の比重が大きくなるので、その割合で出てきた成果の持分を決めることもある。
そして、両者が協力・融合した形での共同開発であれば、50:50 で行うというケースもある。
持分比率は、これらの項目に基づき契約者間で協議を行う。一方的な要求をされた場合は、これは交渉テクニックの1つではあるが、xx取引委員会の窓口に訴えると宣言するのも可能である。
交渉時は相手が大企業だからといって萎縮する必要はない。堂々と交渉の場に臨んでいただきたい。
外国企業との共同出願
「外国企業と共同出願する場合において注意する事項はあるのか」「外国企業との場合、職務発明はどのように取り決めればよいか」という事前質問があった。
外国企業との共同出願では、まず、現地の法制度、特許法について、契約締結前に調べておくことをお勧めする。自社で調べられない場合は、特許事務所に聞けば情報を提供してもらえるだろう。
また、外国企業と共同出願をする場合、職務発明における発明者の取り扱いについては、「自社の規定に基づいて処理をする」という条項を必ず入れておくべきである。これを入れておかないと、両者間で取り決めがない場合は現地の特許法に基づいて処理されてしまう。
また、国と地域によって注意するべき点は異なる。
特に、中国の場合は、両者間で取り決めがないと、発明者に対して何千元以上支払うなど、細かい取り決めが特許法の実施細則に決められており、それに基づいて処理をすることになる。
アメリカでは、いまだに現地第一国主義をとっている。中国は2年前に法改定され、それまでは現地第一国主義を採用し、共有特許については必ず現地で出願せよと厳しく取り決められていたが、その規制がなくなった。
さらに、中国や韓国、台湾、インド、ASEANなどでの共同出願では、それぞれの国・地域において特殊な制度が残っているので注意していただきたい。現地の代理人に確認しても情報が少なく、明確な規定を設けていないところもある。
大学と企業との共同出願
大学と企業の共同開発の場合の注意事項として、自社実施の優先権利の主張、不実施補償がある。大学では、自校の契約書の様式があり、その様式を変えようとしないことが多い。そういう場合、
どちらでもいい条項はそのままにしておき、自社にとって不利になる条項については、ポイントだけに集中して意見を主張していただきたい。
4.ライセンス契約
特許を保有する権利者側の立場
ライセンス契約では、立場によって注意する事項が異なる。
まず、特許を保有し第三者に実施許諾ができる権利者側の立場の場合では、特に、他者侵害が起きた場合の対応は注意していただきたい。海外では頻繁に日本製品の模倣品が確認されているので、調査には費用がかかるが、侵害の有無を確認しておくべきだろう。
海外進出は特許が武器になる。模倣品があったとしても、武器がなければ現地の裁判所に訴えても勝ち目はない。権利を有していることが一つの武器になると考えていただきたい。
実施許諾を受ける側の立場
次に、権利者から実施許諾を受ける側の立場の場合。例えば、自社で開発した新製品が特許を取得できず、調べると第三者にピッタリの特許があったというケースでは、他者権利を迂回できる技術の改良が可能かどうかを検討し、迂回できればその技術で特許を取得することもある。
また、他者権利を迂回できないが、他社特許が成立する前からすでに自社で開発を進めていて、実施の前段階まで進んでいる場合は、先使用権を主張するべく、すでに保有していた技術であることを立証できる資料や開発過程など、諸々の資料をまとめて公証人役場でxx証書を作成することが考えられる。
さらに、相手から権利を受けられなければ、自社が生き抜くために他者権利消滅のための方策を検討することも一策である。他者権利を無効にするために、他者特許の中に瑕疵がないか、欠点がないか、徹底的に調べて、あれば突っ込んでいくという手も考えられる。
どうしても迂回できない場合は、実施許諾の必要性の検討と交渉することも一策である。
大学が権利者の場合に実施許諾を受ける側の立場
最後に、大学が権利者である場合に実施許諾を受ける側の立場であれば、大学が保有している特許が、自社にとって重要な技術なのかどうか。先進的な技術なのか、すぐさま実用化に結びつく技術なのかをどうかを考えて、ライセンスを受けていただきたい。
また、大学の研究フィールドにより、実用化の可能性は異なる。例えば、化学系や医学部系は先端 技術が多いので製品化は難しいが、機械系など装置を開発している場合は、実用化に結びつけやすい。そして、大学からライセンスを受けたい場合は、対象特許の使い方について、事前に大学の担当部
門と十分に相談しておくのが良いだろう。
5.契約締結後のフォローの重要性
契約締結後のフォローが重要である。
まず、契約内容のxxxxが重要である。契約書を作成して契約を締結し、契約書の写しを各事業部門の担当者に渡せば契約担当部門の仕事は終わり、契約を締結したので全てOKという認識をしている人が中にはいるかもしれない。しかし、関係者全員が契約書の写しを見ている訳ではなく、現場に伝わっていなければ、担当部門の技術者や研究者が契約違反をしてしまう可能性もある。
そのためには、契約を締結した後に確認書を発行するのが良い。重要な契約の情報を記載して、確認書に現場責任者が押印して返してもらうようにする。現場の人たちは、確認書で認識したことになるので、違反があれば現場の責任となる。
また、契約締結部門と実施部門との連携が必要になる。契約の交渉時に何が重要なのかを契約担当者は理解できていないことが多いので、事前の準備段階で、現場の技術者が重要な項目や要求項目を交渉時に伝えておくべきである。
さらに、知財部門と法務部門に分かれている会社は、法務部門が担当する契約と知財部門が担当す る契約を決めておくべきである。私が以前在籍していた会社では、法務部門と知財部門があったが、特許権に関連するライセンスや共同出願は知財部門が担当し、それ以外は法務部門の担当としていた。こういった、明確な基準があるかどうかが重要である。
グループディスカッション「契約関連の悩みや課題を解決する糸口を探る」
【第1グループ】
塾生によるまとめ
◎ まず、契約文書について、各事業の担当部署で管理しており知財担当者がチェックできていない、全体を把握している部署がないなど、知財関連のチェックが不十分であるという意見が多く見られた。
◎ また、秘密保持契約を締結したうえで共同開発している企業で、研究が進むうちに重要な相手の情報が分かってくるようになるなど、情報の開示・秘匿が曖昧であり、秘密保持契約をどのように守るべきなのかが悩ましいという意見があった。この意見については、担当者が変わる時などは状況が変わってしまうこともあるため、交渉した内容は紙に残しておくことが重要だと知財総合支援窓口の方よりアドバイスいただいた。
◎ さらに、大学との共同研究において、契約書において大学側に融通を利かせてもらえないため、どうすればよいかと悩んでおられる企業もあった。
意見例
○ 現在、xxの取引先とライセンス契約について交渉を進めつつある。当方が先方の技術やライセンスを活用するか、若しくは先方からの提案でクロスライセンスを実施するかを検討中である。
○ 知財に関する契約は法務部門が担当しているが、開発の中で秘密保持契約の必要がある場合は、各担当者が部門長の承認を得て実施しているため、全体は把握できていないように思われる。また、社内に出願の審査会はあるが、契約ではチェック体制を設けていない。
○ 共同開発をする中では、企業は自社の情報を隠したいという意識があり、中小企業同士の場合はそれがより顕著になる。取引先が当初は主なスペックだけ伝えてくるだけで、研究が進むうちに色んな情報が分かってくる、ということが多く、どのように秘密保持契約を守るべきなのかが悩ましく思う。
○ 当社では、共同研究において、当社からはあまり情報を開示しないようにしている。また、共同研究における成果の取り扱いについて、これまでは共願の場合は通常 5:5 としていたが、実際には当方が多く貢献し、相手は少ししか貢献していないこともあって、今日の講演を聞いて、ひょっとすると相手方が当方でなく他社に作らせていることもありえるのではないかと思った。
○ 当社では、ある大学との共同研究の契約書の中で、出願前に、特許の取り扱い方を、企業が買い取るか、独占的通常実施権とするか、通常実施権とするかを判断するよう要求されている。これはおかしいのではないかと感じている。
○ 当社の場合、商標権の使用許諾契約を更新する際に知財契約が出てくる。一方、大学との共同研究については、総務では契約内容を把握できていない。売買契約や秘密保持、OEM 契約などについても、担当する部署がそれぞれ管理しており、知財についてのチェックができていないのが現状だ。
○ 当社では、秘密保持契約や共同出願の際、xxxxxは開示するが、ノウハウは図面を出さないように気をつけている。また、交渉時には、契約の雛形を用意しているため、こちらから契約書を出すようにしている。しかし、契約交渉の場に契約担当が出るところまでは実践できていない。
[知財総合支援窓口]担当者が変わると話が当初と変わってしまうことがあるので、担当者とのやりとりは整理しておくのが望ましい。契約書には細かなことまでは書けないので、日常的な打合せ等も議事録にまとめ、当方の担当者と先方にも押印してもらい、保管しておくというのも一策である。
○ 契約については、顧問弁護士にチェックしてもらえればそれで安心だと思っている節がある。ただ、弁護士は民事の得意な方なので、知財については万全ではないように感じている。
[xx先生]共同開発等の契約には、必ず知財担当者が絡むべきだ。貢献度に応じた持分や成果の取り扱い等をきちんとしておかないと、契約を締結した後で、会社に損害を与える恐れもあるということを、開発等の担当者にきちんと分かってもらわなければならない。
また、契約書は顧問弁護士にチェックしてもらえれば安心、という訳では決してない。弁護士と弁理士のそれぞれの強みに応じて、チェックしてもらう項目を変えるのが望ましい。例えば、権利化は弁理士が強いだろうし、不正競争防止法なら弁護士が得意だ、と考えられる。
【第2グループ】
塾生によるまとめ
◎ まず、知財以外の各担当部署がNDA(秘密保持契約)を締結し、販売条項や特許条項などND Aとは関係ない内容が入ってしまっているという意見があった。これについて、事業担当者が何をしたいのかを確認して契約をするのが一番だというアドバイスを、xx先生からしていただいた。
◎ また、NDAを締結しているにも関わらず、営業担当者が商品を売りたいがためについ秘密を漏らしてしまったなど、信用関係に結びつくトラブルがあったという企業もあった。これに関しては、知xxや法務部だけではなく、実施する担当部門も契約に対して何をしなければいけないかを意識できるよう、フォローする体制を整備するのが重要だというアドバイスをxx先生からいただいた。さらに、契約に対する意識の向上という意味で社内教育が必要であり、何が秘密なのかが理解できていないので、営業秘密の管理マニュアルを作成してはどうかというアドバイスもいただいた。
◎ そして、契約相手が契約に対してまともに取らない、社内でも難しい立場にあるなど、契約で困っている方もおられた。契約には泥臭いところがあるなぁという印象を受けた。
意見例
○ 当社は大学との契約が多く、契約時に「このひな型から修正が利かない」と言われて、言うがままやっているのが現状であり、どうやって対応するかが課題である。
[xx先生]大学との共同研究は、現場の担当者の取組意向を確認した上で契約するべきである。例えば、先生のお付き合いで取り組むのであれば、あまり注力する必要はない。しかし、事業の根幹となる共同研究であれば、担当部門が修正を希望している点に集中して交渉する必要がある。
○ 私は、担当として契約書を取り扱っている。現場の担当者は、「契約担当に出せば、もう終わり」と多くは思っているようで、契約書をちゃんと読んでいるとは思えない印象を受ける。
[xx先生]契約するにあたっては、契約担当者は、この契約で何をしてほしいのかを現場の担当者に確認しておくべきであり、現場担当者の対応に対して言い返すだけの根拠を契約担当者が準備しておかなければならない。そのためには、社内のルール作りを行う、若しくはルールがなくてもそういった習慣づけを契約担当者が行うべきである。
○ 契約について、実際に困り果てた経験がある。海外で製品を輸入した際に侵害警告を受けた。私は、中途入社であるが、問題が発生した後、対応している途中から1人で担当することになった。
[xx先生]確かに、すでに対応を進めている途中から、担当者が変わって対処していくのは難しい。
○ おそらく、相手方が出してきた契約書のまま対応しているからだと思われるが、知財が発生した場合の取り扱いや、販売の独占権など、何もかもを秘密保持契約に入れ込んでいる傾向がある。
[xx先生]秘密保持契約の本来の目的は、交渉する双方が話し合う際に、外部に出されては困る諸々の情報を秘密にすることである。秘密保持の目的と趣旨が異なる内容は、別途契約を結ぶのが良い。
○ 営業担当が言ってはいけないことをセールストークで話してしまうというトラブルがある。言ってしまう人は決まっていて、個別指導しているが、すぐには改善できていないのが現状である。
[xx先生]営業担当は、販促材料として秘密事項を話してしまうことは多い。情報管理については、大企業ではマル秘情報のランク付けや、誰が情報管理の責任を持つかなどの社内管理マニュアルを作成するところが増えている。マル秘のランク付けを取り決めることが最優先だろう。
[知財総合支援窓口]経済産業省には、営業秘密に関するマニュアルをリスト化したHPがある。
○ 最近、ある特許を持っている会社が、独占的に当社だけは試験販売しても良いという売買契約を、 A部署で進めている。一方、同じような商品について、A部署が進めているのとは別に、B部署が別企業と話をしている。内部でちゃんと方向付けを行っていかなければならない状況にある。
[xx先生]契約書には、実際に実施しなければならないことを表現している。それを理解できていないと、実際のビジネスに影響を及ぼすことが多いので、社内で連携しておくことも重要だ。どの部署が契約の責任をとるべきかを最初に決めることと、事業部門の交渉事が本当に契約書に反映されているかのチェックを行う連携体制を行うことは、必ず実践しなければならない。
【第3グループ】
塾生によるまとめ
◎ このグループでは、「こんなことに困っている」という意見が多かった。具体的には、交渉している営業や開発の担当者は困ったことが生じてからしか法務に相談しない、契約担当者の変更のタイミングでトラブルがある、秘密保持契約を結んでいる古くからの取引先が秘密を漏えいしてしまった、契約を結んだ後のフォローができていないといった意見があった。
◎ 参考になったことは、まず、秘密保持契約は結んだ後に守り続けるのが大変で、契約期間に注意すること、見られる人を限定しておくことなどのアドバイスがあった。
◎ また、大学との契約で、契約書のフォーマットでは「ロイヤルティ支払は売上に応じて計算する」となっていて、利益率が低い製品なので困っているという話に対し、才川先生から「工場出荷額で計算するように交渉してはどうか」というアドバイスがあり、こちらも大変参考になった。
◎ さらに、「契約書、覚書の扱いの違いは何か」という質問に対し、xx先生から、「ある大企業では、文書名に関わらず、知財関係の契約は知財部門の長が判断して押印している」とお話しいただき、名前ではなく内容で判断するのが大事だということが分かった。
意見例
○ 当社の場合、法務部内で知財担当と契約担当が分かれている。私は知財の担当であり、いざ実際の契約の段階になると契約担当者に一任している。また、共同開発における大学との交渉は、現場の担当者が主導しているが、交渉が難航した場合に法務へ助けを求めに来ることが多い。
○ 当社には法務部がないが、契約担当の部署があり、一括して契約を管理している。しかし、交渉等を特段行わずに書類だけのやり取りで終わる契約があったり、契約時の担当者が変わった時でも曖昧な対応をしていたりするなど、当社では、契約関係は不十分な点が多いように感じている。
○ 当社では、契約は 1 人の担当者が全て対応している。製造を全て外注している関係上、秘密保持契約が多くなっている。秘密保持契約を締結しているにもかかわらず情報を漏らされているが、古くからの付き合いの取引先であるために警告を出す訳にもいかず、困っているケースも中にはある。
[才x先生]それは、秘密保持契約を履行する段階での問題。契約時に色々と条件を出しておく必要があるだろう。秘密保持に関しては、社内でその情報に接する人が誰なのか、契約期間がいつまでなのかを、具体的な範囲まで決める必要がある。そうしておかないと、秘密を提供する側も不安が大きい。できれば、秘密事項に接する人の範囲まで契約書に明記しておくのが望ましい。
○ 産学の共同研究で発生した特許を実施するのは専ら企業側であり、大学はほとんど実施しない。売上がある場合、大学にはどの程度計上すれば良いのかが悩ましい。契約上、売上に対する何パーセントとされているが、利益率の低い製品が多いので、売上から計上されると厳しい。
[才川先生]ロイヤルティ支払について、工場出荷額に対して決めるものである。但し、赤字が出るケースはあるだろう。
○ 契約後のフォローについて疑問がある。当社の場合、契約締結後は営業部門や開発部門の担当者が管理するようになる。他の会社はどうなっているのか。
○ 当社の場合、契約後は原本を法務で保管し、現場の担当者にはコピーを渡している。しかし、現場から契約内容について問い合わせがよく来る。現場の管理状況を把握できていないのが現状だ。
[才川先生]契約履行の徹底は重要であり、契約書を取り交わした現場の担当者の役割は非常に重いと認識しなければならない。そのためにも、契約履行の責任者を決めるべきだ。
[知財総合支援窓口]契約書と覚書の扱いの違いは何か。どのように使い分ければいいのか。
[才川先生]会社によって扱い方は異なるものと思われる。例えば、発明者の追加があった場合は、契約書ではなく、覚書で対応することが多い。ある大企業では、知財関係では、契約書でも覚書でも、役員が最終確認し、知財関係の契約は知財部門の長が判断し押印している。契約書、覚書といった呼び方よりも、内容で判断して取り扱うのが望ましい。
【コーディネータ・講師からのご意見】
<xx先生>
◎ 私が受け持った第3グループは、直接契約交渉まで担当している方はいないとはいえ、周りから知財に関する相談を受けたり、開発の一員として秘密保持の関係に関与したりという方が見られた。
◎ 今後、そういう場面に遭遇して、自分で責任を持たなければいけないようになると思われる。グループディスカッションでは、そういったお話をさせていただいた。
<xx先生>
◎ 「結婚をするときに契約を結ぶ夫婦が増えている」という趣旨の記事が、最近の新聞に載っていた。今日の講義でxx先生がお話をされたが、契約と結婚契約は非常に近いものであり、結婚を考えると契約の実態がより身近になるのではないかと感じた。
<xx先生>
◎ 私が受け持った第2グループでは、契約を担当している方もおられたが、他部門との連携ができていない、任されていながら社内での立場がよくわからないと言った話があった。その際、「契約担当者が契約を作成するのではなく、なぜこの契約が必要なのかは、事業部門の方、担当部門の方が一番分かっているので、その部門との連携がなければ実のある契約はできない。後でトラブルが起きる」という意見を申し上げた。
◎ 専門家なので言えることかもしれないが、契約を担当している方でも実際にはよく分かっていないのではないかという印象を受けた。
◎ 契約とはもっと奥深いものである。文言を羅列して、様式を確立し、押印するだけが契約ではなく、それに基づき実行することに伴って、権利・義務が発生する。その点をご理解いただかないと、契約交渉で相手から異論が出された場合にどうすればよいか、契約担当者は分からないのではないか。その戸惑いを持っておられるような印象を強く受けた。
◎ これを機会に、もう少し突っ込んで取り組むこと、決して私自身が責任を持つ訳ではないが、クビになってもよいという覚悟で臨むことが、契約では重要なことではないかと思った。
以上